特許第6772590号(P6772590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6772590ポリエステル系フィルム、積層体及び包装袋
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  • 特許6772590-ポリエステル系フィルム、積層体及び包装袋 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772590
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】ポリエステル系フィルム、積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20201012BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B32B27/36
   B65D65/40 D
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-129859(P2016-129859)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-1533(P2018-1533A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−160375(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/002488(WO,A1)
【文献】 特開2015−165004(JP,A)
【文献】 特開2012−206755(JP,A)
【文献】 特開2009−012481(JP,A)
【文献】 特開2004−174970(JP,A)
【文献】 特開平10−226030(JP,A)
【文献】 国際公開第99/038685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00−43/00
B65D65/00−65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とするポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋
(1)少なくとも1層の折り畳み保持層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該折り畳み保持層を有する。
(2)前記折り畳み保持層は全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、折り畳み保持層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。
(3)折畳み保持角度が20度以上70度以下である。
(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。
【請求項2】
ヘイズが1%以上12%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋
【請求項3】
長手方向と幅方向の厚みムラがいずれも18%以下であることを特徴とする、請求項1、又は2のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋
【請求項4】
一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを少なくとも1層として有していることを特徴とする積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包装材、手提げ袋、折り紙等として使用可能な折畳み保持性に優れたポリエステルフィルムに関するものであり、耐水性、高温環境下での低収縮性、保香性、透明性に優れたポリエステルフィルム、並びにそれを用いた積層体、包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は優れた折畳み保持性を有することにより、各種包装紙、手提げ袋、折り紙等、幅広く使用されている。しかし、紙は耐水性に劣り、雨等で濡れた場合に破れが生じたり印刷が変色したりすることがある。また、紙には透明性がないため、袋等の包装用に供した場合には中身が見えないという問題もあった。そのため、紙の代替としてプラスチックフィルムが過去より検討されてきた。
折畳み保持性の優れたフィルムとして、過去には透明性のあるセロハンが使用されてきた。しかしながら、セロハンは吸湿性を有するため特性が季節により変動し、製品の品質を一定に維持しながら供給することが困難であり、かつ厚みの不均一性に起因する加工性の悪さが欠点とされてきた。
【0003】
一方、ポリエチレンテレフタレートフィルムは強靱性、耐水性、透明性等の優れた特性の良さがある反面、折畳み保持性が劣るという欠点があった。
かかる欠点を解消する方法として、フィルムの密度を低下させることで折畳み保持性を良好に保つことの出来るポリエチレンテレフタレートフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1のポリエチレンテレフタレートフィルムでは、熱収縮性が大きいことが課題として挙げられる。このようなフィルムを用いた袋等を真夏の車中や温調管理の無い倉庫内等に放置しておくと、フィルムが収縮・変形して使用できなくなる点が指摘される。また、フィルムへの印刷工程等の高温を要する加工工程においては、フィルムの収縮によって加工できなくなる問題もあった。
また、折り畳み保持性に優れたフィルムを袋状に加工して使用する場合、袋の口部をひねるだけで閉じることができるため、口部をしばる等の労力が必要でなくなる利点がある。ポリエチレンフィルムは折り畳み保持性に優れたフィルムとして知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、特許文献2のポリエチレンフィルムは保香性が十分ではない欠点がある。袋の内容物に匂いがある場合、例え口部を閉じたとしても匂いがポリエチレンフィルムを通過してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4308662号公報
【特許文献2】特公平7−5762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち、優れた折畳み保持性を有し、熱収縮性が小さく、保香性、透明性に優れたポリエステルフィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とするポリエステル系フィルム。
(1)少なくとも1層の折り畳み保持層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該折り畳み保持層を有する。
(2)前記折り畳み保持層は全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、折り畳み保持層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。
(3)折畳み保持角度が20度以上70度以下である。
(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。
2.ヘイズが1%以上12%以下であることを特徴とする、1に記載のポリエステル系フィルム。
3.長手方向と幅方向の厚みムラがいずれも18%以下であることを特徴とする、1、又は2のいずれかに記載のポリエステル系フィルム。
4.一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムであることを特徴とする1〜3のいずれかに記載のポリエステル系フィルム。
5.前記1〜4のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
6.前記1〜4のいずれかに記載のポリエステル系フィルムを少なくとも1層として有していることを特徴とする積層体。
7.前記6に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル系フィルムは、優れた折畳み保持性を有し、熱収縮率が小さく、透明性に優れている。加えて、本発明のポリエステル系フィルムは保香性に優れているため、本発明のポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体と、それを用いた包装袋としたときの保香性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】折畳み保持角度の測定方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で形成され、下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とするポリエステル系フィルムである。
(1)少なくとも1層の折り畳み保持層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層に該折り畳み保持層を有する。
(2)前記折り畳み保持層は全モノマー成分中、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、折り畳み保持層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。
(3)折畳み保持角度が20度以上70度以下である。
(4)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。
【0011】
前記の要件を満たす、本発明のポリエステル系フィルムは、折り畳み保持性に優れたポリエステル系フィルムである。また、フィルムが良好な保香性を有するので、包装袋とした際の保香性に優れている。さらに、フィルムを加熱したときの収縮が少ないため、高温環境下でもその形状を保つことができる。加えて、本発明のポリエステル系フィルムは厚み精度が良いため印刷加工性が良好であると共に、高い透明性を有する。
特に、前記の折り畳み保持性と低収縮性及び、良好な厚み精度はそれぞれ2律背反の特性であり、これらの特性を全て満足できるポリエステル系フィルムは従来にはなかった。以下、本発明のポリエステル系フィルムについて説明する。
【0012】
1.ポリエステル系フィルムの層構成
本発明のポリエステル系フィルムは、低収縮性と折り畳み保持性を両立させるためにフィルムの層数を2つ以上とし、少なくとも表層のどちらか1つの層は折り畳み保持層としなければならない。折り畳み保持層とそれ以外の層に関する構成要件は後述する。好ましい層構成は、両表層のどちらも折り畳み保持層とし、中心層をそれ以外の層とした2種3層構成である。
折り畳み保持層の層比率は、20%以上〜80%以下であることが好ましい。折り畳み保持層比率が20%より少ない場合、フィルムの折り畳み保持性が低下してしまうため好ましくない。折り畳み保持層の層比率が80%よりも高くなると、フィルムの折り畳み保持性は向上して好ましくなるが、収縮率が15%よりも高くなってしまうため好ましくない。折り畳み保持層の層比率は、30%以上〜70%以下がより好ましい。
また、折り畳み保持層とそれ以外の層は、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることも可能であり、本発明の要件を逸しない範囲で任意に設けることができる。
【0013】
2.ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル原料
2.1.ポリエステル原料の種類
本発明に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。
また、本発明に用いるポリエステルにエチレンテレフタレートユニット以外の成分として、非晶成分となりうる1種以上のモノマー成分(以下、単に非晶成分と記載する)を含むことが好ましい。これは、非晶成分が存在することによってフィルムの折り畳み保持性が向上するためである。各成分の含有量は折り畳み保持層とそれ以外の層で異なるため、後述する。非晶成分となりうるカルボン酸成分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
また、非晶成分となりうるジオール成分のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジエチル1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。
これらのなかでも、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのいずれか1種以上を用いることでフィルムの非晶性を高めて折り畳み保持角度を70度以下としやすくなる。ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのいずれか1種以上を用いることがより好ましく、ネオペンチルグリコールを用いることが特に好ましい。
【0014】
本発明においては、エチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分を含んでいてもよい。ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。
また、ポリエステルを構成するエチレングリコール以外のジオール成分としては、ジエチレングリコールや1,4−ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)を含有させないことが好ましい。
さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε−カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。ポリエステルエラストマーは、フィルムの柔軟性を上げて折り畳み保持角度を低下させる効果があるため、特に折り畳み保持層に好適に使用することができる。
【0015】
本発明のポリエステル系フィルムの中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムのすべり性を良好にする滑剤としての微粒子を、少なくともフィルムの表層に添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどをあげることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定したときに0.05〜3.0μmの範囲内で必要に応じて適宜選択することができる。
本発明のポリエステル系フィルムの中に粒子を配合する方法として、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とを混練押出し機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
以下に折り畳み保持層で好ましい非晶成分について説明する。
【0016】
2.2.折り畳み保持層に含まれるポリエステル原料の非晶成分
本発明における折り畳み保持層とは、本発明のフィルムを構成する各層のうち、下記の非晶成分量が最も多い層をさすものである。該非晶成分量が最も多い層を2層以上有する場合は、そのいずれの層も折り畳み保持層と称する。本発明の折り畳み保持層に用いるポリエステルは、非晶成分量が12モル%以上であることが好ましく、13モル%以上がより好ましく、14モル%以上が特に好ましい。また、非晶成分量の上限は30モル%である。ここでの非晶成分量とは、非晶成分となりうるカルボン酸、もしくはジオールモノマー成分量の総和を指す。これは、エステル成分1ユニット(カルボン酸モノマーとジオールモノマーがエステル結合によってつながれた1単位)につき、酸成分またはジオール成分のいずれか片方が非晶成分となりうるモノマーであれば、そのエステルユニットは非晶質であるとみなせるためである。
折り畳み保持層の非晶成分量が12モル%より低い場合、溶融樹脂をダイから押し出した後に例え急冷固化したとしても、後の延伸および熱固定工程で結晶化してしまうため、折り畳み保持角度を70度以下とすることが困難となってしまい、好ましくない。
一方、折り畳み保持層の非晶成分量の合計が30モル%以上である場合、フィルムの折り畳み保持角度を低くすることができるものの、フィルムの厚みムラが悪化するため、印刷性が悪くなってしまう。さらに、折り畳み保持層の非晶成分量が30モル%以上であると、フィルムの収縮率が15%を超えてしまうため好ましくない。
また、折り畳み保持層に含まれるエチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上85モル%以下であることが好ましい。エチレンテレフタレートユニットが50モル%より少ないと、フィルムの機械強度や耐熱性などが不充分となる恐れを生じる。一方、エチレンテレフタレートユニットが85モルより多いと、相対的に非晶成分量が少なくなってしまうため、折り畳み保持角度を70度以下とすることが困難となる。
【0017】
さらに、本発明の折り畳み保持層に含まれる非晶成分量は、折り畳み保持層以外の層に含まれる非晶成分量よりも4モル%以上30モル%以下(折り畳み保持層に含まれる非晶成分量から折り畳み保持層以外の層に含まれる非晶成分量を引いたときの差が4モル%から30モル%の範囲)であることが好ましい。非晶成分量の差が4モル%より少ない場合、各層の原料組成が単一に近づいてしまう。仮に、各層の原料組成が同じ、すなわち単層構成のフィルムを想定し、折り畳み保持角度を70度以下とするためにフィルムの非晶成分量を12モル%以上30モル%以下にすると、上述の通りフィルムの収縮率が15%を超え、厚みムラが悪化してしまう。反対に、収縮率を15%以下、厚みムラを所定の範囲に収めるために非晶成分量を12モル%以下とすると、フィルムの折り畳み保持角度が70度を超えてしまう。このように、フィルムの層構成が単一に近づくと、フィルムの物性をすべて満足することができなくなってしまう。折り畳み保持層とそれ以外の層との非晶成分量の差は4.5モル%以上であるとさらに好ましい。また、折り畳み保持層に含まれる非晶成分量の上限は30モル%なので、非晶成分量の差の上限は30モル%である。
【0018】
3.本発明のポリエステル系フィルムの特性
次に、本発明のポリエステル系フィルムに必要な特性を説明する。
3.1.折り畳み保持角度
本発明のポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される折り畳み保持角度が20度以上70度以下であることが必要である。折り畳み保持角度が70度以下であると、折り紙や包装等で折った際に折り目が開き、きれいな美観を得られる。より好ましい折畳み保持角度の上限は65度であり、上限が60度であれば更に好ましい。また、折畳み保持角度は小さければ小さいほど好ましいが、本発明のカバーできる範囲は20度が下限であり、折り畳み保持角度が25度以上であっても、実用上は好ましいものと言える。
3.2.収縮率
本発明のポリエステル系フィルムは、80℃の温湯中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向、長手方向の温湯熱収縮率がいずれも0%以上15%以下でなくてはならない。
収縮率が15%を超えると、例えばフィルムを他素材とラミネートする等して高温にさらされると、フィルムの収縮が大きくなるため元の形状を維持することができなくなってしまう。温湯熱収縮率の上限は14%であると好ましく、上限が13%であるとより好ましい。一方、温湯熱収縮率がゼロを下回る場合、フィルムが伸びることを意味しており、収縮率が高い場合と同様にフィルムが元の形状を維持できにくくなるため好ましくない。
【0019】
3.3.長手方向の厚みムラ
本発明のポリエステル系フィルムは、長手方向で測定長を10mとした場合の厚みムラが18%以下であることが好ましい。長手方向の厚みムラが18%を超える値であると、フィルムを印刷するときに印刷不良が発生しやすくなるので好ましくない。なお、長手方向の厚みムラは、16%以下であるとより好ましく、14%以下であると特に好ましい。また、長手方向の厚みムラは小さいほど好ましいが、この下限は製膜装置の性能から1%程度が限界であると考えている。
3.4.幅方向の厚みムラ
また、幅方向においては、測定長を1mとした場合の厚みムラが18%以下であることが好ましい。幅方向の厚み斑が18%を超える値であると、フィルムを印刷するときに印刷不良が発生しやすくなるので好ましくない。なお、幅方向の厚み斑ムラは、16%以下であるとより好ましく、14%以下であると特に好ましい。なお、幅方向の厚みムラは0%に近いほど好ましいが、下限は製膜装置の性能と生産のしやすさから1%が妥当と考えている。
【0020】
3.5.ヘイズ
本発明のポリエステル系フィルムは、ヘイズが1%以上15%以下であることが好ましい。ヘイズが15%を超えるとフィルムの透明性が悪くなるため、袋等の包装材とした場合に中身の視認性が劣ることになる。ヘイズの上限は13%以下であるとより好ましく、11%以下であると特に好ましい。ヘイズは低くければ低いほど透明性が高くなって好ましいが、現状の技術水準では1%が下限であり、2%以上であっても実用上十分といえる。
3.6.厚み
本発明のポリエステル系フィルムの厚みは、3μm以上200μm以下であることが好ましい。フィルムの厚みが3μmより薄いと、印刷等の加工が困難になる(ハンドリング性が悪くなる)好ましくない。一方、フィルム厚みが200μmより厚くなると、フィルムの折り畳み性が低下するだけでなく、フィルムの使用重量が増えてケミカルコストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは5μm以上160μm以下であると好ましく、7μm以上120μm以下であるとより好ましい。
【0021】
4.ポリエステル系フィルムの製膜条件
4.1.溶融押し出し
本発明のポリエステル系フィルムは、上記2.「ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル原料」で記載したポリエステル原料を、折り畳み保持層とそれ以外の層で別々の押出機により溶融させ、共押出することで未延伸の積層フィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって得ることができる。二軸延伸により得られたフィルム(二軸延伸フィルム)がより好ましい。なお、ポリエステルは、前記したように、非晶質成分となり得るモノマーを適量含有するように、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用することもできる。
原料樹脂を溶融押し出しするとき、各層のポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのように各層のポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200〜300℃の温度で溶融して積層フィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
その後、押し出しで溶融された積層フィルムを急冷することにより、未延伸の積層フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。フィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか、少なくとも一方向に延伸されていればよい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を行う逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする横延伸−縦延伸であっても主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。
【0022】
4.2.縦延伸
縦方向の延伸は、無延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃〜90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また、90℃より高いと、フィルムがロールに粘着しやすくなり、ロールへフィルムが巻き付いたり、ロール汚れが発生しやすくなったりするため好ましくない。
フィルム温度が65℃〜90℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので5倍以下であることが好ましい。
また、縦延伸後にフィルムを長手方向へ弛緩すること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。さらに、長手方向へのリラックスにより、テンター内で起こるボーイング現象(歪み)を低減することができる。本発明のポリエステル系フィルムは非晶原料を使用しているため、縦延伸によって生じた長手方向への収縮性がボーイング歪みに対して支配的であると考えられる。後工程の横延伸や最終熱処理ではフィルム幅方向の両端が把持された状態で加熱されるため、フィルムの中央部だけが長手方向へ収縮するためである。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)であることが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は使用する原料や縦延伸条件よって決まり、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムのおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃〜100℃以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、例えば横延伸(予熱ゾーン含む)や最終熱処理でも長手方向のクリップ間隔を狭めることで実施することもでき(この場合はフィルム幅方向の両端も長手方向へリラックスされるため、ボーイング歪みは減少する)、任意のタイミングで実施できる。
長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20〜40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
【0023】
4.3.横延伸
縦延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃〜110℃で3.5〜5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃〜120℃になるまで行うとよい。
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み精度が悪化するだけでなく、ヒートシール強度や収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒〜5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0024】
4.4.最終熱処理
中間ゾーンの通過後は最終熱処理ゾーンにて、横延伸温度以上 180℃以下で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は横延伸温度以上でなければ熱処理としての効果を発揮しない。この場合、フィルムの80℃温湯収縮率が15%よりも高くなってしまうため好ましくない。熱処理温度が高くなるほどフィルムの収縮率は低下するが、180℃よりも高くなるとフィルムのヘイズが15%よりも高くなって透明性を保てなくなってしまうため好ましくない。
最終熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うことが好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まり、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系フィルムにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。
また、最終熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系フィルムロールが得られる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
フィルムの評価方法は以下の通りである。なお、フィルムの面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向が直ちに特定できない場合は、仮に長手方向と幅方向を定めて測定すればよく、仮に定めた長手方向と幅方向が真の方向に対して90度違っているからといって、とくに問題を生ずることはない。
【0026】
<フィルムの評価方法>
[折り畳み保持角度]
28℃50%RH環境の恒温室でフィルムを24時間放置した。その後直ちに、各々のフィルムを20℃65%RH環境で10cm×10cmの正方形に裁断し、2つ折りを2回行って4つ折にした(2.5cm×2.5cmの正方形)。フィルムを折りたたむ際は、最初の2つ折りで出来た長方形の短辺が縦方向になるようにした。その後、底面の大きさが3cm×3cmである5kgのおもりを20秒間、4つ折りのフィルムに乗せた。おもりを外した後、折られたフィルムが開いた角度を測定して求めた。なお、フィルムが完全に折畳まれた状態は0度、フィルムが完全に開いた角度は180度である。
【0027】
[温湯熱収縮率]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、80±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から出した。その後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式1にしたがって各方向の収縮率を求めた。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。

収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
【0028】
[ヘイズ]
JIS−K−7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0029】
[長手方向の厚みムラ]
フィルムを長手方向11m×幅方向40mmのロール状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて測定速度5m/min.でフィルムの長手方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは10m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、下式2からフィルムの長手方向の厚みムラを算出した。

厚みムラ={(Tmax.−Tmin.)/Tave.}×100 (%) ・・式2
【0030】
[幅方向の厚みムラ]
フィルムを長さ40mm×幅1.2mの幅広な帯状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、測定速度5m/min.でフィルム試料の幅方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは1m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、上式2からフィルムの長手方向の厚みムラを算出した。
【0031】
[保香性]
フィルムを用いて、袋の内寸が50mm×50mmとなるようにフィルム内層面同士を熱シール(三方シール)して袋を作製した。その袋の中に、下記に示す試験用各香料0.2ccを含浸させた脱脂綿を挿入し密閉包装した。次いでこの袋を、100mlガラス瓶に入れ、蓋をして密閉した。このガラス瓶を25℃の常温条件下に放置し、1時間後に蓋を開けてガラス瓶中の臭気官能試験を行った。臭気官能試験は、同一のパネラー5人により香料の香り感知有無について以下の3段階の官能評価を行った。

○:香りの感知無し
△:わずかに香りを感知
×:香りを感知

香料としては、小林香料社製のストロベリーエッセンス、オレンジエッセンス、アップ
ルエッセンス、及びバニラエッセンス、ナカライテスク社製のメントール、リモネンの計6種類の匂い成分を用い、それぞれについて保香効果を評価した。
【0032】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。
[合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)〜(E)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、BDは1,4−ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(E)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。ポリエステル(B)〜(E)の組成を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
[実施例1]
折り畳み保持層(A層)の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルDとポリエステルEを質量比5:60:30:5で混合し、それ以外の層(B層)の原料としてポリエステルAとポリエステルEを質量比95:5で混合した。
A層及びB層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270℃で溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムの両表層はA層、中心層はB層(A層/A層/A層の2種3層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、A層とB層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで100℃に設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が95℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、115℃で5秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ20μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得たフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
【0035】
[実施例2〜8]
原料の配合比率、樹脂の押出条件、横延伸、中間熱処理、縦延伸、最終熱処理条件を種々変更したポリエステル系フィルムを製膜し、評価した。実施例2〜8のフィルム製造条件と特性を表2、3に示す。
【0036】
[比較例1]
A層、B層ともに原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルDとポリエステルEを質量比5:60:30:5で混合し、実施例1と同様の条件で未延伸の積層フィルムを得た。その後、実施例1と同様の条件でフィルムの縦延伸を行い、縦延伸後のフィルムは加熱炉通さずに冷却した(すなわち、長手方向へのリラックス率は0%である)。縦延伸後のフィルムをテンターへ導き、最終熱処理温度を96℃、幅方向へのリラックス率を0%とした以外は実施例1と同様の条件で横延伸と最終熱処理を行い、幅500mm、厚さ20μmの二軸延伸フィルムを得た。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
【0037】
[比較例2]
A層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルEを質量比65:30:5で混合し、B層の原料は実施例8と同じポリエステル原料を混合した。その後、最終熱処理温度を180℃とした以外は、実施例8と同じ条件でフィルムを製膜し、幅500mm、厚さ20μmの二軸延伸フィルムを得た。製造条件を表2に、評価結果を表3に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
[フィルムの評価結果]
表3より、実施例1から8までのフィルムはいずれも折りたたみ角度、収縮率、ヘイズ、厚みムラ、保香性に優れており、良好な評価結果が得られた。
一方、比較例1のフィルムは折りたたみ角度、ヘイズ、保香性には優れるものの、収縮率が高く、厚みムラが悪い点では使用に耐えられるフィルムではなかった。
また、比較例2のフィルムは収縮率、厚みムラ、保香性には優れるが、ヘイズが13.2%と高く、折りたたみ角度が82度であった。このフィルムは透明性が悪いだけでなく、折りたたみ用途には不適である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のポリエステル系フィルムは、優れた折畳み保持性を有し、高温環境下での熱収縮性が極めて小さく、透明性に優れている。加えて、本発明のポリエステル系フィルムは保香性に優れているため、本発明のポリエステル系フィルムを少なくとも一層として含む積層体と、それを用いた包装袋としたときの保香性に優れている。
図1