(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ショルダー陸部には、前記ショルダーラグ溝におけるタイヤ幅方向内側の端部と、前記ショルダー陸部のタイヤ幅方向内側端部を画成する前記主溝とを連通する連通サイプが形成される請求項4に記載の空気入りタイヤ。
前記ショルダーラグ溝は、タイヤ幅方向内側の端部からタイヤ幅方向外側に向かった所定の領域が、開口部が面取りされた面取りサイプにより構成される請求項5に記載の空気入りタイヤ。
前記トレッド面は、トレッドパターンがタイヤ幅方向において非対称なパターンで構成されており、タイヤ赤道面を挟んだタイヤ幅方向両側の溝面積比率の差が2%以内である請求項1〜11のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0022】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0023】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤの要部を示す子午断面図である。ここで、
図1に示す空気入りタイヤ1は、車両に対する装着方向、つまり車両装着時の方向が規定されている。即ち、
図1に示す空気入りタイヤ1は、車両装着時に車両の内側に向く側が車両装着方向内側となり、車両装着時に車両の外側に向く側が車両装着方向外側となる。なお、車両装着方向内側及び車両装着方向外側の指定は、車両に装着した場合に限らない。例えば、リム組みした場合に、タイヤ幅方向において、車両の内側及び外側に対するリムの向きが決まっているため、空気入りタイヤ1は、リム組みした場合、タイヤ幅方向において、車両装着方向内側及び車両装着方向外側に対する向きが指定される。また、空気入りタイヤ1は、車両に対する装着方向を示す装着方向表示部(図示省略)を有する。装着方向表示部は、例えば、タイヤのサイドウォール部4に付されたマークや凹凸によって構成される。例えば、ECER30(欧州経済委員会規則第30条)が、車両装着状態にて車両装着方向外側となるサイドウォール部4に装着方向表示部を設けることを義務付けている。また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、主に乗用車に用いられる空気入りタイヤ1になっている。
【0024】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4及びビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7と、ベルト補強層8とを備えている。
【0025】
トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その外周表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面は、主に走行時に路面と接触し得る面であって、トレッド面21として構成されている。
【0026】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置されるゴム材である。
【0027】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、且つ、タイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向にある角度を持って複数並設されたカーカスコード(図示省略)が、コートゴムで被覆されたものである。カーカスコードは、例えば、ポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維からなる。このカーカス層6は、少なくとも1層で設けられている。
【0028】
ベルト層7は、少なくとも2層のベルト71,72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20°〜30°)で複数並設されたコード(図示省略)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、例えば、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維からなる。また、重なり合うベルト71,72は、互いのコードが交差するように配置されている。
【0029】
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示省略)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、例えば、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維からなり、コードの角度はタイヤ周方向に対して±5°の範囲内になっている。
図1で示すベルト補強層8は、ベルト層7のタイヤ幅方向端部を覆うように配置されている。ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、ベルト層7全体を覆うように配置された構成、または、例えば2層の補強層を有し、タイヤ径方向内側の補強層がベルト層7よりもタイヤ幅方向で大きく形成されてベルト層7全体を覆うように配置され、タイヤ径方向外側の補強層がベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成、或いは、例えば2層の補強層を有し、各補強層がベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成であってもよい。即ち、ベルト補強層8は、ベルト層7の少なくともタイヤ幅方向端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、例えば幅が10mm程度の帯状のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。
【0030】
図2は、
図1に示す空気入りタイヤのトレッド部の平面図である。トレッド部2のトレッド面21は、タイヤ周方向に沿って延在する4本の主溝22がタイヤ幅方向に並んで形成されている。主溝22は、タイヤ赤道面CLを挟むようにタイヤ幅方向の中央に隣接して設けられた2本のセンター主溝22Aと、各センター主溝22Aのタイヤ幅方向外側にそれぞれ設けられたショルダー主溝22Bと、を有している。
【0031】
また、トレッド面21は、4本の主溝22により、1つのセンター陸部23Aと、2つのミドル陸部23Bと、2つのショルダー陸部23Cと、の5つの陸部23が画成されている。このうち、センター陸部23Aは、2本のセンター主溝22Aの間に設けられると共にタイヤ幅方向における両側が2本のセンター主溝22Aによって画成され、タイヤ赤道面CL上に配置される。また、ミドル陸部23Bは、センター主溝22Aと、当該センター主溝22Aのタイヤ幅方向外側で当該センター主溝22Aに対して隣り合うショルダー主溝22Bとによって画成され、センター陸部23Aのタイヤ幅方向における両側に配置される。また、ショルダー陸部23Cは、ショルダー主溝22Bを介してミドル陸部23Bのタイヤ幅方向外側に位置してミドル陸部23Bに隣り合い、トレッド部2のタイヤ幅方向最外側に配置される。
【0032】
4本の主溝22は、一定の溝幅でタイヤ周方向に延びつつ、タイヤ幅方向に振幅する波状に形成されている。
図3は、
図2に示す主溝の拡大断面図である。各主溝22の波形状は、溝底22aがタイヤ周方向に沿って直線状で、溝壁22bがタイヤ周方向で溝幅W1を一定とするように周期的に振幅を有することで得ることができる。なお、各主溝22の波形状は、溝底22a及び溝壁22bがタイヤ周方向で溝幅W1を一定とするように周期的に振幅を有することで得てもよい。また、本実施形態において、各主溝22は、開口縁に面取22cが形成されている。また、主溝22の溝幅W1は、トレッド面21に開口する幅であり、面取22cが形成された主溝22では、面取22cの外側縁間が溝幅W1となる。また、主溝22の振幅は、4本の主溝22でタイヤ周方向上における振幅の位置がほぼ同じ位置になっており、振幅の大きさがほぼ同じ大きさになっている。このため、タイヤ幅方向における両側が主溝22によって画成される陸部23であるセンター陸部23Aとミドル陸部23Bは、タイヤ幅方向における幅が一定の幅で、タイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に波状に振幅している。
【0033】
なお、センター主溝22Aは、溝幅W1が5mm以上12mm以下の範囲内となり、溝深さD1が4mm以上8mm以下の範囲内となっている。また、ショルダー主溝22Bは、溝幅W1が3mm以上6mm以下となり、溝深さD1が4mm以上8mm以下の範囲内となっている。また、溝幅W1は、センター主溝22Aがショルダー主溝22Bよりも大きく、例えば、センター主溝22Aの溝幅W1に対してショルダー主溝22Bが10%以上50%以下の範囲であることが、センター主溝22Aにおける排水性を維持し、ショルダー主溝22B周辺の陸部23の剛性を確保するうえで好ましい。
【0034】
また、主溝22は、
図2に示すように、センター主溝22Aについて振幅の中央線22dの位置が、タイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向外側に接地幅TWの20%以上30%以下の範囲の距離L1に配置され、ショルダー主溝22Bについて振幅の中央線22dの位置が、タイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向外側に接地幅TWの60%以上70%以下の範囲の距離L2に配置されていることが、センター主溝22Aにおける排水性を維持し、ショルダー主溝22B周辺の陸部23の剛性を確保するうえで好ましい。そして、各陸部23のタイヤ幅方向の縁形状や、タイヤ幅方向寸法は、上記主溝22の振幅やタイヤ幅方向の位置に伴って決定される。
【0035】
ここで、接地幅TWとは、接地領域のタイヤ幅方向の幅をいう。また、接地領域のタイヤ幅方向の両最外端を接地端Tという。
図2では、接地端Tをタイヤ周方向に連続して示している。接地領域は、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、且つ、正規内圧を充填すると共に正規荷重の70%をかけたとき、この空気入りタイヤ1のトレッド部2のトレッド面21が乾燥した平坦な路面と接地する領域である。正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、或いは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0036】
2箇所のミドル陸部23Bのうち、車両装着方向内側に位置する内側ミドル陸部23Biには、タイヤ周方向に延びる周方向補助溝24が形成されている。周方向補助溝24は、最も溝幅W1の小さい主溝22よりも溝幅が狭く、タイヤ周方向に沿って直線状に延在している。この周方向補助溝24は、内側ミドル陸部23Biを画成するセンター主溝22Aとショルダー主溝22Bとの間の中央に設けられ、内側ミドル陸部23Biを、タイヤ幅方向に並ぶリブ陸部に分割する。また、周方向補助溝24は、溝幅が1mm以上3mm未満の範囲内となり、溝深さが4mm以上8mm以下の範囲内となっている。
【0037】
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、各陸部23に、タイヤ周方向に傾斜或いは湾曲しつつタイヤ幅方向に延びるラグ溝25及びサイプ26がそれぞれ複数設けられている。ここで、センター陸部23Aに設けられるラグ溝25をセンターラグ溝25Aとし、ミドル陸部23Bに設けられるラグ溝25をミドルラグ溝25Bとし、ショルダー陸部23Cに設けられるラグ溝25をショルダーラグ溝25Cとする。また、センター陸部23Aに設けられるサイプ26をセンターサイプ26Aとし、各ミドル陸部23Bに設けられるサイプ26をミドルサイプ26Bとし、ショルダー陸部23Cに設けられるサイプ26をショルダーサイプ26Cとする。また、ラグ溝25の終端に連通して主溝22や周方向補助溝24に連なるサイプ26を連通サイプ26Eとする。
【0038】
ここでいうサイプ26は、トレッド面21に細溝状に形成されるものであり、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、正規内圧の内圧条件で、無負荷時には細溝を構成する壁面同士が接触しないが、平板上で垂直方向に負荷させたときの平板上に形成される接地面の部分に細溝が位置する際、または細溝が形成される陸部の倒れ込み時には、当該細溝を構成する壁面同士、或いは壁面に設けられる部位の少なくとも一部が、陸部の変形によって互いに接触するものをいう。本実施形態では、サイプ26は幅が0.4mm以上0.8mm以下の範囲内で形成される。
【0039】
陸部23に設けられるラグ溝25のうち、センターラグ溝25Aは、センター陸部23Aに形成されると共にタイヤ幅方向に延び、センター陸部23Aを画成する2本のセンター主溝22Aに両端が接続されており、タイヤ周方向に複数設けられることにより、センター陸部23Aをタイヤ周方向に複数並ぶブロック陸部に分割する。
【0040】
図4は、
図2のA部詳細図である。
図5は、
図4のJ−J断面図である。
図6は、
図4のK−K断面図である。センターラグ溝25Aは、センターラグ溝25Aの長さ方向における中央領域に、開口部が面取りされたサイプからなるサイプ部25Sを有しており、センターラグ溝25Aの長さ方向におけるサイプ部25Sの両側は、溝部25Gになっている。このうち、溝部25Gは、センターラグ溝25Aが形成される付近のトレッド面21の接地状態に関わらず、溝壁25Gw同士が離間する溝になっている。一方、サイプ部25Sは、開口部側に面取25Scを有するサイプである面取りサイプ25Snによって構成されている。このサイプ部25Sは、サイプ壁25Sw同士の間隔が、センターラグ溝25Aが形成される付近のトレッド面21が接地することによってトレッド部2が変形した際に、この変形に伴ってサイプ壁25Sw同士の少なくとも一部が接触する程度の間隔で形成されている。
【0041】
また、センターラグ溝25Aは、溝部25Gの溝幅Wgとサイプ部25Sの幅Wsとが、ほぼ同じ幅になっている。この場合における溝部25Gの溝幅Wgは、溝部25Gの開口部の幅になっており、サイプ部25Sの幅Wsは、面取25Scとトレッド面21との交点同士の間隔になっている。また、センターラグ溝25Aは、溝部25Gの深さDgとサイプ部25Sの深さDsとが、ほぼ同じ深さになっている。この場合における溝部25Gの深さDgとサイプ部25Sの深さDsとは、共にトレッド面21から、溝部25Gの底部やサイプ部25Sの底部までの深さになっている。なお、溝部25Gの溝幅Wg及びサイプ部25Sの幅Wsは、2mm以上4mm以下の範囲内とっており、溝部25Gの深さDgとサイプ部25Sの深さDsは、2mm以上6mm以下の範囲内となっている。
【0042】
また、サイプ部25Sの面取25Scは、深さ方向に対する角度が約45°になっており、トレッド面21からサイプ部25Sの深さDsの(1/3)以上(1/2)以下の範囲内で形成されている。また、面取25Scは、角度が全てのラグ溝25で同じ角度になっていなくてもよく、製造時の加工のし易さ等に応じてラグ溝25ごとに角度が異なっていてもよい。
【0043】
また、サイプ部25Sは、センターラグ溝25Aの長さ方向における両側の端部25Seが、共に平面視において湾曲して形成されている。詳しくは、サイプ部25Sの端部25Seは、センターラグ溝25Aの幅方向における両端側から幅方向における中央側に向かうに従って、他方の端部25Se側に近付く方向に凸となって湾曲している。これらのように形成されるサイプ部25Sは、センターラグ溝25Aの長さ方向における長さLsが、センターラグ溝25Aの長さLtの5%以上30%以下の範囲内となって形成されており、センターラグ溝25Aのほぼ中央に配置されている。つまり、サイプ部25Sの両側に位置する溝部25Gの長さは、2箇所の溝部25Gの長さがほぼ同じ長さになっている。
【0044】
また、2箇所のミドル陸部23Bのうち車両装着方向外側に位置する外側ミドル陸部23Boに形成されるミドルラグ溝25Bである外側ミドルラグ溝25Boは、外側ミドル陸部23Boに隣接する2本の主溝22に両端が接続される。つまり、外側ミドルラグ溝25Boは、外側ミドル陸部23Boを画成するセンター主溝22Aとショルダー主溝22Bとに各端部が連通しており、タイヤ周方向に複数設けられることにより、外側ミドル陸部23Boをタイヤ周方向に複数並ぶブロック陸部に分割する。
【0045】
図7は、
図2のB部詳細図である。外側ミドルラグ溝25Boは、センターラグ溝25Aと同様に、外側ミドルラグ溝25Boの長さ方向における中央領域に、開口部が面取りされたサイプからなるサイプ部25Sを有しており、外側ミドルラグ溝25Boの長さ方向におけるサイプ部25Sの両側は、溝部25Gになっている。外側ミドルラグ溝25Boのサイプ部25Sと溝部25Gも、センターラグ溝25Aのサイプ部25Sと溝部25Gと同様に、溝部25Gの溝幅Wgとサイプ部25Sの幅Wsとが、ほぼ同じ幅になっており、溝部25Gの深さDgとサイプ部25Sの深さDsとが、ほぼ同じ深さになっている(
図5、
図6参照)。また、外側ミドルラグ溝25Boのサイプ部25Sも、端部25Seが平面視において湾曲しており、外側ミドルラグ溝25Boの長さ方向におけるサイプ部25Sの長さLsは、外側ミドルラグ溝25Boの長さLtの5%以上30%以下の範囲内になっている。
【0046】
図8は、
図2のC部詳細図である。また、内側ミドル陸部23Biに形成されるミドルラグ溝25Bである内側ミドルラグ溝25Biは、内側ミドル陸部23Biを画成する2本の主溝22のうちタイヤ幅方向内側に位置する主溝22に一端が接続され、他端が内側ミドル陸部23Bi内で終端する。つまり、内側ミドルラグ溝25Biは、タイヤ幅方向内側の端部がセンター主溝22Aに接続され、タイヤ幅方向外側の端部が内側ミドル陸部23Bi内で終端し、複数がタイヤ周方向に設けられている。また、内側ミドルラグ溝25Biは、内側ミドル陸部23Biに形成される周方向補助溝24には接続されておらず、周方向補助溝24よりもタイヤ幅方向内側に配置されている。換言すると、周方向補助溝24は、内側ミドルラグ溝25Biよりも車両装着方向内側に配置されている。このため、内側ミドル陸部23Biは、ラグ溝25によってブロック状には分割されておらず、リブ状陸部として構成されている。
【0047】
また、内側ミドルラグ溝25Biは、内側ミドル陸部23Bi内で終端する側の端部から、他方の端部に向かった所定の位置までの領域が、サイプ部25Sとして形成されており、残りの領域が溝部25Gとして形成されている。この内側ミドルラグ溝25Biのサイプ部25S及び溝部25Gは、センターラグ溝25Aのサイプ部25S(
図6参照)及び溝部25G(
図5参照)と同様の形態になっており、サイプ部25Sは面取25Scを有する面取りサイプ25Snになっている。つまり、内側ミドルラグ溝25Biもセンターラグ溝25Aと同様に、サイプ部25Sの幅Wsと溝部25Gの溝幅Wgがほぼ同じ幅になっており、サイプ部25Sの深さDsと溝部25Gの深さDgもほぼ同じ深さになっており、サイプ部25Sの端部25Seが平面視において湾曲している。
【0048】
また、内側ミドル陸部23Biには、内側ミドルラグ溝25Biにおける内側ミドル陸部23Bi内で終端する側の端部と周方向補助溝24との間に、内側ミドルラグ溝25Biと周方向補助溝24とを連通する連通サイプ26Eが形成されている。この連通サイプ26Eは、内側ミドルラグ溝25Biが有するサイプ部25Sの面取りサイプ25Snと連通している。
【0049】
ここで、外側ミドル陸部23Boに設けられた外側ミドルラグ溝25Boと、センター陸部23Aに設けられたセンターラグ溝25Aとは、外側ミドル陸部23Boとセンター陸部23Aとの間のセンター主溝22Aにおいて相互の端が対向しており、平面視において互いに一体となって当該センター主溝22Aを貫通するように設けられている。また、センター陸部23Aに設けられたセンターラグ溝25Aと、内側ミドル陸部23Biに設けられた内側ミドルラグ溝25Biとは、センター陸部23Aと内側ミドル陸部23Biとの間のセンター主溝22Aにおいて相互の端が対向しており、平面視において互いに一体となって当該センター主溝22Aを貫通するように設けられている。
【0050】
従って、外側ミドル陸部23Boに設けられた外側ミドルラグ溝25Boと、センター陸部23Aに設けられたセンターラグ溝25Aと、内側ミドル陸部23Biに設けられた内側ミドルラグ溝25Biとは、一体となって各センター主溝22Aを貫通する貫通ラグ溝25Eとして構成されている。換言すると、外側ミドルラグ溝25Boとセンターラグ溝25Aと内側ミドルラグ溝25Biとは、連通して配置される。即ち、貫通ラグ溝25Eは、タイヤ幅方向に延びてセンター陸部23A及び外側ミドル陸部23Boを連続して貫通しタイヤ周方向に複数設けられ、外側ミドル陸部23Boにおける車両装着方向外側のショルダー主溝22Bに一端が開口し、センター陸部23Aの車両装着方向内側のセンター主溝22Aを貫通して内側ミドル陸部23Bi内で他端が周方向補助溝24に至らず終端して設けられている。
【0051】
また、貫通ラグ溝25Eは、外側ミドル陸部23Boにおける車両装着方向外側のショルダー主溝22Bに開口する側の端部から、内側ミドル陸部23Bi内で終端する側の端部にかけて、タイヤ幅方向に延びつつ、タイヤ周方向に緩やかに湾曲している。つまり、貫通ラグ溝25Eを構成する外側ミドルラグ溝25Boとセンターラグ溝25Aと内側ミドルラグ溝25Biとは、貫通ラグ溝25Eが全体として湾曲するように、それぞれのラグ溝25がタイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に緩やかに湾曲している。
【0052】
各ショルダー陸部23Cに設けられた各ショルダーラグ溝25Cは、タイヤ周方向に湾曲しつつタイヤ幅方向に延びて形成され、複数がタイヤ周方向に並ぶ。
図9は、
図2のD部詳細図である。
図10は、
図2のF部詳細図である。ショルダーラグ溝25Cは、一端がトレッド部2のトレッド面21のタイヤ幅方向外側端であるデザインエンドEで開口し、他端が各ショルダー陸部23Cのタイヤ幅方向内側のショルダー主溝22Bまで至らずショルダー陸部23C内で終端して設けられている。即ち、各ショルダーラグ溝25Cは、タイヤ幅方向内側の端部がショルダー陸部23C内で終端する。従って、各ショルダー陸部23Cは、リブ状陸部として構成されている。
【0053】
また、ショルダーラグ溝25Cは、ショルダー陸部23C内で終端する側の端部から、他方の端部に向かった所定の位置までの領域が、サイプ部25Sとして形成されており、残りの領域が溝部25Gとして形成されている。このショルダーラグ溝25Cのサイプ部25S及び溝部25Gは、センターラグ溝25Aのサイプ部25S(
図6参照)及び溝部25G(
図5参照)と同様の形態になっており、サイプ部25Sは面取25Scを有する面取りサイプ25Snになっている。つまり、ショルダーラグ溝25Cは、タイヤ幅方向内側の端部からタイヤ幅方向外側に向かった所定の領域が、開口部が面取りされた面取りサイプ25Snにより構成され、ショルダー陸部23Cに形成される複数のショルダーラグ溝25Cは、全て面取りサイプ25Snを備える。また、ショルダーラグ溝25Cもセンターラグ溝25Aと同様に、サイプ部25Sの幅Wsと溝部25Gの溝幅Wgがほぼ同じ幅になっており、サイプ部25Sの深さDsと溝部25Gの深さDgもほぼ同じ深さになっており、サイプ部25Sの端部25Seが平面視において湾曲している。
【0054】
また、ショルダー陸部23Cには、ショルダーラグ溝25Cにおけるショルダー陸部23C内で終端する側の端部とショルダー主溝22Bとの間に、ショルダーラグ溝25Cとショルダー主溝22Bとを連通する連通サイプ26Eが形成されている。即ち、ショルダー陸部23Cには、ショルダーラグ溝25Cにおけるタイヤ幅方向内側の端部と、ショルダー陸部23Cのタイヤ幅方向内側端部を画成するショルダー主溝22Bとを連通する連通サイプ26Eが形成されている。この連通サイプ26Eは、ショルダーラグ溝25Cが有するサイプ部25Sの面取りサイプ25Snと連通している。
【0055】
なお、車両装着方向外側に位置するショルダーラグ溝25Cと車両装着方向内側に位置するショルダーラグ溝25Cとは、車両装着方向内側に位置するショルダーラグ溝25Cよりも車両装着方向外側に位置するショルダーラグ溝25Cの方が、ショルダー陸部23C内で終端する端部の位置が、タイヤ幅方向外側に位置している。詳しくは、車両装着方向外側のショルダー陸部23Cと車両装着方向内側のショルダー陸部23Cとでは、ショルダーラグ溝25Cのサイプ部25Sと連通サイプ26Eとを合わせた長さがほぼ同じ長さになっているが、連通するサイプ部25Sと連通サイプ26Eとにおけるサイプ部25Sと連通サイプ26Eとの比率が、車両装着方向外側と車両装着方向内側とで異なっている。即ち、車両装着方向内側よりも車両装着方向外側の方が、連通するサイプ部25Sと連通サイプ26Eとを合わせた長さに対するサイプ部25Sの長さの割合が小さくなっている。
【0056】
ここで、デザインエンドEは、接地端Tのタイヤ幅方向外側であってトレッド部2のタイヤ幅方向最外側端をいい、トレッド部2において溝が形成されるタイヤ幅方向最外側端であり、
図2では、デザインエンドEをタイヤ周方向に連続して示している。即ち、トレッド部2は、乾燥した平坦な路面において、接地端TよりもデザインエンドE側の領域は、通常路面に接地しない領域となる。
【0057】
なお、各ショルダー陸部23Cに設けられた各ショルダーラグ溝25Cは、ショルダー陸部23C内で終端して設けられ、上述した貫通ラグ溝25Eとは分かれて設けられている。しかし、車両装着方向外側のショルダー陸部23Cに設けられたショルダーラグ溝25Cは、ショルダー陸部23C内で終端した端部を延長した位置が、貫通ラグ溝25Eの一端である、外側ミドルラグ溝25Boにおけるショルダー主溝22Bに連通する側の端部の近傍に位置する形態で形成されている。また、車両装着方向内側のショルダー陸部23Cに設けられたショルダーラグ溝25Cは、ショルダー陸部23C内で終端した端部を延長した位置が、貫通ラグ溝25Eの他端である、内側ミドルラグ溝25Biにおける内側ミドル陸部23Bi内で終端する側の端部の近傍に位置する形態で形成されている。即ち、各ショルダー陸部23Cに設けられた各ショルダーラグ溝25Cと、貫通ラグ溝25E(外側ミドルラグ溝25Bo、センターラグ溝25A、内側ミドルラグ溝25Bi)とを含む各ラグ溝25は、トレッド部2のタイヤ幅方向の両外側端(デザインエンドE)間で各陸部23A,23B,23Cを跨いで滑らかに連なる曲線上に配置されている。
【0058】
また、サイプ26のうちセンターサイプ26Aは、センターラグ溝25Aの湾曲方向と同じ方向に湾曲しつつタイヤ幅方向に延びてセンター陸部23Aに形成され、一端がセンター陸部23Aの車両装着方向内側端部を画成するセンター主溝22Aに連通し、他端はセンター陸部23Aの車両装着方向外側端部を画成するセンター主溝22Aに至らずにセンター陸部23A内で終端する。また、センターサイプ26Aは、センター陸部23Aに複数形成されるセンターラグ溝25A同士の間に配置されており、センターラグ溝25Aとセンターサイプ26Aとは、それぞれ複数がタイヤ周方向に交互に配置されている。
【0059】
また、ミドルサイプ26Bは、ミドル陸部23Bにタイヤ幅方向に延びて形成され、一端がミドル陸部23Bの車両装着方向内側端部を画成する主溝22に連通し、他端がミドル陸部23Bの車両装着方向外側端部を画成する主溝22に至らずに形成されている。特に、外側ミドル陸部23Boに設けられたミドルサイプ26Bは、外側ミドルラグ溝25Boの湾曲方向と同じ方向に湾曲しつつタイヤ幅方向に延びて形成され、車両装着方向外側の端部が、他のいずれの溝にも連通せずにミドル陸部23B内で終端する。この外側ミドル陸部23Boに設けられたミドルサイプ26Bは、外側ミドル陸部23Boに複数形成される外側ミドルラグ溝25Bo同士の間に配置されており、外側ミドルラグ溝25Boとミドルサイプ26Bとは、それぞれ複数がタイヤ周方向に交互に配置されている。
【0060】
また、内側ミドル陸部23Biに設けられたミドルサイプ26Bは、内側ミドルラグ溝25Biのタイヤ周方向への傾斜方向と同じ方向に傾斜或いは湾曲して形成され、タイヤ周方向で隣接する内側ミドルラグ溝25Biの延長上同士の間に配置されている。内側ミドル陸部23Biのミドルサイプ26Bは、内側ミドル陸部23Biにおけるショルダー主溝22B及び周方向補助溝24に各端が連通して設けられている。従って、内側ミドル陸部23Biに設けられたミドルサイプ26Bは、ショルダー主溝22Bと周方向補助溝24との間のミドル陸部23Bの一部をタイヤ周方向に複数並ぶブロック陸部に分割する。
【0061】
ショルダーサイプ26Cは、複数がショルダー陸部23Cに設けられており、ショルダーラグ溝25Cの湾曲方向と同じ方向に湾曲しつつタイヤ幅方向に延びて形成されている。各ショルダー陸部23Cに設けられたショルダーサイプ26Cは、タイヤ周方向で隣り合うショルダーラグ溝25C同士の間に配置され、ショルダーラグ溝25Cとショルダーサイプ26Cとは、タイヤ周方向に交互に配置されている。ショルダーサイプ26Cは、ショルダー陸部23Cのタイヤ幅方向内側端部を画成するショルダー主溝22Bに一端が連通し、接地端Tを超えて延在してトレッド部2のタイヤ幅方向の両外側端(デザインエンドE)の付近においてショルダー陸部23C内で終端して設けられている。
【0062】
なお、各ショルダー陸部23Cは、トレッド部2のタイヤ幅方向の両外側端(デザインエンドE)の付近に凹部28が設けられている。凹部28は、直径が0.5mm以上2.0mm以下の範囲内で、深さが0.2mm以上1.0mm以下の範囲内の円形状のディンプル形状に形成されている。この凹部28は、タイヤ周方向で隣り合うショルダーラグ溝25Cの間において、タイヤ幅方向に2列で、タイヤ幅方向内側列28aがタイヤ周方向に2個、タイヤ幅方向外側列28bがタイヤ周方向に3個形成されている。また、凹部28は、タイヤ幅方向外側列28bがタイヤ幅方向内側列28aよりも大径に形成されている。そして、各ショルダー陸部23Cに設けられた各ショルダーサイプ26Cは、タイヤ幅方向外側の端部が凹部28にて終端して設けられている。本実施形態では、ショルダーサイプ26Cは、タイヤ幅方向外側列28bのタイヤ周方向の中央の凹部28にて終端して設けられている。
【0063】
これらのように複数の溝やサイプが形成されるトレッド面21は、トレッドパターンがタイヤ幅方向において非対称なパターンで構成されており、タイヤ赤道面CLを挟んだタイヤ幅方向両側の溝面積比率の差が2%以内になっている。ここで、溝面積比率は、溝面積/(溝面積+接地面積)の百分率により定義される。溝面積は、接地面(接地領域)における全ての溝の開口面積の合計とする。また、溝面積、及び接地面積は、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、且つ、正規内圧を充填すると共に正規荷重の70%をかけたときに測定するものとする。
【0064】
これらのように構成される空気入りタイヤ1を車両に装着して走行すると、トレッド面21のうち下方に位置するトレッド面21が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。空気入りタイヤ1を装着した車両で乾燥した路面を走行する場合には、主にトレッド面21と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。また、濡れた路面を走行する際には、トレッド面21と路面との間の水が主溝22やラグ溝25に入り込み、これらの溝でトレッド面21と路面との間の水を排水しながら走行する。これにより、トレッド面21は路面に接地し易くなり、トレッド面21と路面との間の摩擦力により、車両は走行することが可能になる。
【0065】
しかし、排水性を重視して溝を多くした場合、陸部23の剛性の低下につながるため、耐摩耗性が低下する可能性がある。このため、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、センター陸部23Aを画成する2本の主溝22に両端が接続されるセンターラグ溝25Aと、外側ミドル陸部23Boに隣接する2本の主溝22に両端が接続される外側ミドルラグ溝25Boとは、それぞれ長さ方向における中央領域に、開口部が面取りされたサイプからなるサイプ部25Sを有している。
【0066】
これにより、センターラグ溝25Aや外側ミドルラグ溝25Boによって排水性を確保できると共に、トレッド面21におけるセンターラグ溝25Aや外側ミドルラグ溝25Boが形成されている領域が設置した場合には、サイプ部25Sのサイプ壁25Sw同士が接触することにより、センター陸部23Aや外側ミドル陸部23Boの剛性を確保することができる。これにより、車両走行時に大きな荷重が作用し易いセンター陸部23Aや外側ミドル陸部23Boの耐摩耗性を確保することができる。さらに、外側ミドルラグ溝25Boとセンターラグ溝25Aと内側ミドルラグ溝25Biとは、連通して配置されるため、各ラグ溝25同士の間で水を流すことができるため、排水性を高めることができる。これらの結果、ウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。
【0067】
また、車両が通常の走行条件で直進走行をする場合には、トレッド面21における車両装着方向内側寄りの領域に、比較的荷重が作用し易くなるが、内側ミドル陸部23Biには、内側ミドルラグ溝25Biよりも車両装着方向内側に、周方向補助溝24が形成されているため、周方向補助溝24によって、荷重が作用し易くなる領域の排水性を確保することができる。これらの結果、耐摩耗性能とウェット性能とを向上させることができる。
【0068】
また、主溝22は、4本がタイヤ幅方向に並んで設けられ、4本の主溝22は、一定の溝幅でタイヤ幅方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅するため、主溝22は、ストレート形状で形成される場合と比較して、広い領域の水を取り込むことができる。さらに、主溝22は、溝幅が狭い部分を有さないため、溝幅が狭まることに起因して水の流れが阻害されることを抑制することができ、これらにより、より排水性を向上することができる。また、主溝22は、溝幅が変化することなく振幅するため、陸部23における主溝22が形成されている領域周辺に剛性差が発生することを抑制することができ、剛性差に起因する偏摩耗を抑制することができる。これらの結果、より確実に耐摩耗性能とウェット性能とを向上させることができる。
【0069】
また、ショルダー陸部23Cには、タイヤ幅方向内側の端部がショルダー陸部23C内で終端するショルダーラグ溝25Cが形成されているため、タイヤ幅方向における外側領域の排水性を確保しつつ、ショルダー陸部23Cの剛性を確保することができる。この結果、より確実にウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。
【0070】
また、ショルダー陸部23Cには、ショルダーラグ溝25Cにおけるタイヤ幅方向内側の端部とショルダー主溝22Bとを連通する連通サイプ26Eが形成されるため、ショルダーラグ溝25Cとショルダー主溝22Bとの水の流れを連通サイプ26Eによって確保しつつ、ショルダーラグ溝25Cの周囲に荷重が作用した際には連通サイプ26Eの壁面同士が接触することにより、ショルダー陸部23Cの剛性を確保することができる。この結果、より確実にウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。
【0071】
また、ショルダーラグ溝25Cは、タイヤ幅方向内側の端部からタイヤ幅方向外側に向かった所定の領域が面取りサイプ25Snにより構成されるため、ショルダーラグ溝25Cとショルダー主溝22Bと連通サイプ26Eによって連通した場合でも、剛性差が急激に変化することを抑制することができる。つまり、ショルダーラグ溝25Cは、連通サイプ26Eが連通される側の端部寄りの位置に面取りサイプ25Snを設けることにより、ショルダーラグ溝25Cを溝部25Gのみで構成する場合と比較して、連通サイプ26Eが連通される側の端部寄りの位置の剛性を高くすることができる。即ち、ショルダーラグ溝25Cに面取りサイプ25Snを設けることにより、ショルダーラグ溝25Cにおける溝部25Gの部分から連通サイプ26Eが形成される部分にかけて、ショルダー陸部23Cの剛性を徐々に変化させることができ、急激な剛性差に起因する偏摩耗を抑制することができる。この結果、より確実にウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。
【0072】
また、ショルダー陸部23Cに設けられる複数のショルダーラグ溝25Cは、全て面取りサイプ25Snを備えるため、ショルダー陸部23C全体の偏摩耗を、より確実に抑制することができる。この結果、より確実にウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。
【0073】
また、ショルダー陸部23Cには、ショルダーラグ溝25Cとショルダーサイプ26Cとがタイヤ周方向に交互に配置されるため、排水性向上を目的としてショルダー陸部23Cに多くのラグ溝25を設ける場合と比較して、多数のラグ溝25を配置することに起因するショルダー陸部23Cの剛性が低下を抑制することができる。この結果、より確実にウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。
【0074】
また、ショルダー陸部23Cには、タイヤ幅方向外側端に凹部28が形成されるため、トレッド面21の表面積を大きくすることができると共に、凹部28の部分でトレッド面21の表面をベルト層7等の内部構造物に近付けることができ、タイヤ転動時に発生する熱の放熱性を高めることができる。また、ショルダーサイプ26Cは、タイヤ幅方向外側の端部が凹部28にて終端するため、ショルダーサイプ26Cの端部付近での急激な剛性の変化を抑制することができ、偏摩耗を抑制することができる。この結果、より確実に耐摩耗性能を向上させることができると共に、空気入りタイヤ1の耐久性を向上させることができる。
【0075】
また、凹部28は、タイヤ幅方向に2列で、タイヤ幅方向内側列28aがタイヤ周方向に2個、タイヤ幅方向外側列28bがタイヤ周方向に3個形成されており、タイヤ幅方向外側列28bがタイヤ幅方向内側列28aよりも大径に形成されているため、トレッド部2のタイヤ幅方向外側端の見栄えを向上させることができる。この結果、空気入りタイヤ1の外観を向上させることができる。なお、凹部28が形成される部分は、接地端Tよりもタイヤ幅方向外側で、乾燥路面では通常接地しない部分であり、車両の走行に影響を与えない部分である。
【0076】
また、ミドルサイプ26Bは、一端がミドル陸部23Bにおける車両装着方向内側の主溝22に連通し、他端がミドル陸部23B内で終端し、センターサイプ26Aは、一端がセンター陸部23Aにおける車両装着方向内側の主溝22に連通し、他端がセンター陸部23A内で終端するため、センター陸部23Aとミドル陸部23Bとでは、車両装着方向内側寄りの位置では溝面積を大きくすることができ、車両装着方向外側寄りの位置では陸部23の剛性を確保することができる。これにより、車両の直進時における排水性と、車両の旋回時における、車両装着方向外側寄りの領域での陸部23の剛性とを確保することができる。この結果、濡れた路面と乾燥した路面とのいずれの状態においても、車両の操縦安定性を確保することができる。
【0077】
また、トレッド面21は、タイヤ赤道面CLを挟んだタイヤ幅方向両側の溝面積比率の差が2%以内であるため、トレッドパターンを、耐摩耗性能とウェット性能とを両立するパターンにする際における、トレッド面21上での排水性と陸部23の剛性の偏りを抑制することができる。この結果、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側での性能の偏りを発生させることなく、より確実にウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。
【0078】
また、主溝22は、ショルダー主溝22Bよりも、タイヤ幅方向における中央寄りに位置するセンター主溝22Aの方が溝幅W1が大きいため、車両の直進走行時における接地長さが長くなるタイヤ赤道面CL付近の領域の排水性を高めることができる。この結果、効果的にウェット性能を向上させることができる。
【0079】
また、タイヤ幅方向における両側に位置するショルダーラグ溝25Cは、車両装着方向外側のショルダーラグ溝25Cよりも車両装着方向内側のショルダーラグ溝25Cの方が、連通するサイプ部25Sと連通サイプ26Eとを合わせた長さに対するサイプ部25Sの長さの割合が大きくなっているため、車両装着方向外側のショルダー陸部23Cよりも車両装着方向内側のショルダー陸部23Cの方が排水性を高めることができる。これにより、排水に対する車両の操縦安定性の寄与率が高い、車両装着方向内側寄りの領域の排水性を高めることができる。この結果、効果的にウェット性能を向上させることができる。
【0080】
また、サイプ部25Sと溝部25Gとを有する各ラグ溝25は、サイプ部25Sの端部25Seが湾曲して形成されているため、サイプ部25Sと溝部25Gとの境界部分での剛性の変化を、なだらかに変化させることができる。この結果、剛性が急激に変化することに起因する偏摩耗を抑制することができ、より確実に耐摩耗性能を向上させることができる。
【0081】
なお、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、1つのラグ溝25を構成する溝部25Gとサイプ部25Sとで、幅Wg,Wsや、深さDg,Dsがそれぞれほぼ同じ大きさになっているが、溝部25Gの幅Wgとサイプ部25Sの幅Wsや、溝部25Gの深さDgとサイプ部25Sの深さDsは、互いに異なっていてもよい。溝部25Gとサイプ部25Sの幅Wg,Wsや深さDg,Dsは、排水性や陸部23の剛性を考慮して適宜設定するのが好ましい。
【0082】
〔実施例〕
図11A〜
図11Dは、空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する比較例の空気入りタイヤとについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、トレッド面21の摩耗のし難さについての性能である耐摩耗性能と、濡れた路面での制動性能であるウェット制動についての試験を行った。
【0083】
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが205/55R16サイズの空気入りタイヤ1を16×6.5JサイズのJATMA標準リムのリムホイールにリム組みして、空気圧を200kPaに調整し、排気量が1600ccで前輪駆動の試験車両に装着してテスト走行をすることにより行った。各試験項目の評価方法は、耐摩耗性能については、試験車両にて乾燥路面のテストコースを走行し、トレッド面21が全摩耗するまで走行した距離、即ち、主溝22に設けられるウェアインジケータが露出するまで走行した距離を測定し、測定した走行距離を指数化することによって評価した。耐摩耗性能は、後述する従来例を100とする指数で表し、数値が大きいほど耐摩耗性能が優れていることを示している。また、ウェット制動については、水深1mmのウェット路面において、初速100km/hから制動を行って停止するまでの距離を測定し、測定値の逆数を指数化することによって評価した。ウェット制動は、後述する従来例を100とする指数で表し、数値が大きいほどウェット制動が優れていることを示している。
【0084】
評価試験は、従来の空気入りタイヤ1の一例である従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1〜13と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する空気入りタイヤである比較例1、2の16種類の空気入りタイヤについて行った。これらの空気入りタイヤ1のうち、従来例の空気入りタイヤは、センター陸部のラグ溝と外側ミドル陸部のラグ溝にサイプ部が設けられておらず、溝部のみによって構成されている。また、比較例1、2の空気入りタイヤは、センター陸部のラグ溝と外側ミドル陸部のラグ溝がサイプ部のみで構成されている、或いはセンター陸部のラグ溝と外側ミドル陸部のラグ溝が、両端が主溝に連通されておらず、それぞれ一方の端部が陸部内で終端している。
【0085】
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1〜13は、全てセンター陸部のラグ溝と外側ミドル陸部のラグ溝とが、両端が主溝22に連通し、サイプ部25Sと溝部25Gとにより構成されている。また、実施例1〜13に係る空気入りタイヤ1は、主溝22の形状や、周方向補助溝24、連通サイプ26E、ショルダーサイプ26C、凹部28の有無、内側ミドルラグ溝25Bi、ショルダーラグ溝25C、センターサイプ26A、ミドルサイプ26Bの形態、タイヤ幅方向両側の溝面積比率の差が、それぞれ異なっている。
【0086】
これらの空気入りタイヤ1を用いて評価試験を行った結果、
図11A〜
図11Dに示すように、実施例1〜13の空気入りタイヤ1は、従来例や比較例1、2に対して、ウェット制動についての性能を低下させることなく、耐摩耗性能を向上させることができることが分かった。つまり、実施例1〜13に係る空気入りタイヤ1は、ウェット性能を維持しつつ耐摩耗性能を向上させることができる。