(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記横引き判定部によって前記吊り荷の横引きが発生すると判定された場合、前記ブーム角度決定部は、前記横引き判定部から前記修正指示信号を受けて前記ブームの前記開始角度を小さくなるように補正し、
前記横引き判定部は、前記ブームの起伏角度が前記補正された前記開始角度に設定された状態から前記吊り荷の吊り上げが開始されたとした場合に、前記吊り荷の地切りが完了するまでの間における、前記吊り荷の横引きの発生の有無を、実際の吊り上げに先立って再判定する、請求項1に記載のクレーンの制御装置。
前記横引き判定部は、前記ロープによって前記吊り荷に付与される引っ張り力の水平方向成分と、前記吊り荷と地上との間で発生する静止摩擦力との大小関係を比較することで、前記吊り荷の横引きの発生の有無を判定する、請求項1乃至3の何れか1項に記載のクレーンの制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、吊り荷の総荷重がブームにかかった場合のブームの撓み量を想定して、吊り上げ開始時のブームの起伏角度が調整される。このため、吊り上げ開始時には、ブームの先端が吊り荷に対して水平方向にずれた位置に配置される。この結果、吊り上げ動作が開始されると、吊り荷に対して水平方向の力が付与され、吊り荷の横引きが発生するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、吊り荷の横引きを抑止しながら、吊り上げ作業を効率的に実現することが可能な、クレーンの制御装置およびこれを備えたクレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面に係るクレーンの制御装置は、クレーン本体と、前記クレーン本体に起伏可能に支持されるブームと、前記ブームを起伏させる起伏動作を行う起伏装置と、前記ブームの先端部から垂下される吊り荷用のロープと、前記ロープの巻き上げおよび巻き下げを行うウインチと、を備えたクレーンの吊り上げ作業を制御する制御装置であって、前記ウインチの巻き上げおよび巻き下げ動作を制御するウインチ制御部と、前記起伏装置を制御して前記ブームの起伏角度を調整するブーム角度制御部と、前記ブームの起伏角度を検出する角度検出部と、前記ロープによって吊り上げられる吊り荷の荷重情報を前記吊り上げ作業に先だって取得する荷重情報取得部と、前記ブームの起伏角度が所定の初期角度に設定された状態から前記ロープを介して前記ブームの先端部に所定の荷重が掛けられた場合の、当該荷重の大きさと、当該荷重に応じて撓んだ前記ブームの先端位置との関係を示すブーム撓み情報を、複数の前記荷重の大きさおよび複数の前記初期角度に応じて予め記憶し、前記ブーム撓み情報を出力可能な記憶部と、前記吊り荷の総荷重が前記ブームに掛かることによって前記ブームが撓んだ場合の前記ブームの先端部が前記吊り荷の鉛直上方に位置するように、前記吊り荷の吊り上げ開始時における前記ブームの起伏角度である開始角度を決定する決定部であって、前記荷重情報取得部によって取得された前記荷重情報と、前記記憶部から出力された前記ブーム撓み情報とに基づいて前記開始角度を決定するブーム角度決定部と、前記ブームの起伏角度が前記ブーム角度決定部によって決定された前記開始角度に設定された状態から前記ウインチの巻き上げ動作によって前記吊り荷の吊り上げが開始され
たとした場合に、前記吊り荷の地切りが完了するまでの間における、前記吊り荷の横引きの発生の有無を
、実際の吊り上げに先立って判定する判定部であって、前記ブーム角度決定部によって決定された前記開始角度と前記記憶部から出力された前記ブーム撓み情報とに基づいて前記横引きの発生を判定する横引き判定部と、を有し、前記横引き判定部は、前記吊り荷の横引きが発生すると判定した場合、前記ブームの開始角度を修正する修正指示信号を出力し、前記横引きが発生しないと判定された場合、前記ブーム角度制御部が前記起伏装置を制御して前記ブームの起伏角度を前記開始角度に設定し、前記ウインチ制御部が前記ウインチを制御して前記吊り荷の吊り上げおよび地切りを実行させる。
【0009】
本構成によれば、ブーム角度決定部は、地切り時にブームの先端部が吊り荷の鉛直上方に位置するように開始角度を決定する。このため、吊り荷の地切り後の荷振れが抑止される。また、吊り荷の吊り上げ開始前に、横引き判定部によって吊り上げ中の横引きの発生の有無が判定される。この結果、吊り上げ作業中に常にブームの先端位置を制御する制御装置と比較して、ブームの起伏角度を常に調整する必要がなく、ブームの角度調整のためにロープの巻き上げ速度を減速することが低減される。この結果、吊り荷の横引きを抑止しながら、吊り上げ作業を効率的に実現することが可能とされる。
【0010】
上記の構成において、前記横引き判定部によって前記吊り荷の横引きが発生すると判定された場合、前記ブーム角度決定部は、前記横引き判定部から前記修正指示信号を受けて前記ブームの前記開始角度を小さくなるように補正し、前記横引き判定部は、前記ブームの起伏角度が前記補正された前記開始角度に設定された状態から前記吊り荷の吊り上げが開始され
たとした場合に、前記吊り荷の地切りが完了するまでの間における、前記吊り荷の横引きの発生の有無を
、実際の吊り上げに先立って再判定することが望ましい。
【0011】
本構成によれば、ブーム角度決定部が決定した開始角度から吊り上げを開始することで横引きの発生が予測される場合には、開始角度が小さな値に補正された後、再度横引きの発生有無が判定される。このため、横引きの発生を安定して抑止しながら、吊り荷の吊り上げを行うことができる。
【0012】
上記の構成において、前記起伏装置と前記ウインチとを制御可能な補助制御部を更に有し、前記横引きの再判定において前記横引きが発生しないと判定された場合、前記ブーム角度制御部が前記起伏装置を制御して前記ブームの起伏角度を前記補正された開始角度に設定し、前記ウインチ制御部が前記ウインチを制御して前記吊り荷の吊り上げを実行させ、前記補助制御部は、前記吊り荷の吊り上げ開始後であって前記ブームの撓みに応じて前記ブームの先端部が前記吊り荷の鉛直上方に至った後、前記吊り荷の地切りが完了するまでの間、前記ブームの先端部が前記吊り荷の鉛直上方に配置されるように、前記起伏装置を制御して前記ブームの起伏角度を調整しながら、前記ウインチに巻き上げ動作を実行させることが望ましい。
【0013】
本構成によれば、補正された開始角度から吊り上げが開始され、吊り上げ中にブームの先端部が吊り荷の鉛直上方を通過することが予測される場合には、ブームの起伏角度が調整されながら吊り荷の吊り上げが行われる。このため、地切り時にブームの先端部を吊り荷の鉛直上方に配置し、吊り荷の荷振れを抑止することができる。
【0014】
上記の構成において、前記横引き判定部は、前記ロープによって前記吊り荷に付与される引っ張り力の水平方向成分と、前記吊り荷と地上との間で発生する静止摩擦力との大小関係を比較することで、前記吊り荷の横引きの発生の有無を判定することが望ましい。
【0015】
本構成によれば、吊り荷の横引きの発生を容易に判定することができる。
【0016】
上記の構成において、前記地上の表面情報の入力を受け付ける入力部(を更に備え、前記記憶部は、前記表面情報に応じて予め設定された静止摩擦係数を更に記憶し、前記入力された前記表面情報に応じて、前記記憶部から前記静止摩擦係数を取得し、前記静止摩擦力を演算する演算部を更に有し、前記横引き判定部は、前記演算部によって演算された前記静止摩擦力と前記吊り荷に付与される引っ張り力の水平方向成分とを比較することが望ましい。
【0017】
本構成によれば、地上の表面状態に応じて静止摩擦力を精度良く演算し、横引きの発生を安定して判定することができる。
【0018】
上記の構成において、前記記憶部は、過去に吊り上げられた吊り荷の荷重の分布を示す荷重分布情報を更に記憶し、前記荷重情報取得部は、前記記憶部に記憶された前記荷重分布情報に基づいて、次に吊り上げられる前記吊り荷の前記荷重情報を推定および取得することが望ましい。
【0019】
本構成によれば、過去の作業実績に基づいて吊り荷の荷重情報を推定、取得することができる。このため、作業者が荷重値を入力する作業が省かれるとともに、誤入力による吊り上げ不良の発生が防止される。
【0020】
上記の構成において、前記ロープにかかる張力を検出する張力検出部と、前記吊り荷の地切り後に前記張力検出部によって検出された前記張力に基づいて吊り上げられた吊り荷の荷重情報を取得し、当該荷重情報によって前記記憶部に記憶された前記荷重分布情報を更新する荷重情報管理部と、を更に有することが望ましい。
【0021】
本構成によれば、吊り上げ実績が増えるに連れて、荷重情報の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、吊り荷の横引きを抑止しながら、吊り上げ作業を効率的に実現することが可能な、クレーンの制御装置およびこれを備えたクレーンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るクレーン10の側面図である。なお、以後、各図には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、本発明に係るクレーン1の構造および組立方法を説明するために便宜上示すものであり、クレーン1の移動方向や使用態様などを限定するものではない。
【0025】
クレーン10は、クレーン本体に相当する上部旋回体12と、この上部旋回体12を旋回可能に支持し、地面上で走行可能な下部走行体11と、起伏部材としてのブーム13と、起伏装置14と、キャブ15と、巻き上げウインチ16と、ワイヤ17と、シーブ18と、主巻シーブ19と、主巻フック20と、を備える。
【0026】
ブーム13は、上部旋回体12に起伏可能に支持されている。本実施形態では、ブーム13は、公知のテレスコープ式の構造を備えている。すなわち、複数の筒状のブーム部材が順次スライド移動されることで、ブーム13が伸縮される。当該ブーム13の伸縮は、上部旋回体12に備えられた伸縮装置13S(
図2)によって行われる。伸縮装置13Sは、ブーム13の内部に備えられた複数のシーブと、当該シーブに架け渡された伸縮用ロープと、伸縮用ロープの巻き上げ、繰り出しを行う伸縮用ウインチと、を含む。また、ブーム13の下端部に備えられたブームフット13Aは、上部旋回体12のブーム支点部12Aに回動可能に軸支されている。
【0027】
起伏装置14は、ブーム13を起伏させる起伏動作を行う。起伏装置14は、ブーム13の下端部と上部旋回体12との間に配置された油圧シリンダを含む。起伏装置14の油圧シリンダの伸縮動作に応じて、ブーム13がブームフット13A回りに回動し、起伏する。
【0028】
キャブ15は、上部旋回体12の前端部に備えられている。キャブ15は、クレーン10の運転席に相当する。キャブ15には、後記の操作部151(
図2)などが備えられている。
【0029】
吊り上げウインチ16は、上部旋回体12の後端側に配置されたウインチである。吊り上げウインチ16には吊り荷用のワイヤ17(ロープ)の基端部が接続されている。シーブ18は、ブーム13の先端部に備えられている。また、主巻シーブ19は、ブーム13の先端にシーブ18に隣接して配置されている。吊り上げウインチ16から引き伸ばされたワイヤ17は、シーブ18および主巻シーブ19に掛けられた後、ブーム13の先端部から垂下されている。ワイヤ17の先端側には、主巻フック20が固定されている。吊り上げウインチ16がワイヤ17の巻き上げおよび繰り出しを行うと、主巻シーブ19と主巻フック20のシーブとの間の距離が変わり、主巻フック20に接続された吊り荷Lの吊り上げ作業が可能となる。
【0030】
図2は、本実施形態に係るクレーン1の電気的なブロック図である。クレーン1は、更に、制御部50と、ブーム長さ検知部61と、ブーム角度検知部62と、張力検出部63と、操作部151と、入力部152と、表示部153と、を備える。
【0031】
制御部50は、クレーン1の動作を統括的に制御するもので、制御信号の送受先として、ブーム長さ検知部61、ブーム角度検知部62、張力検出部63、操作部151、入力部152、表示部153に加え、前述の伸縮装置13S、起伏装置14、吊り上げウインチ16などに電気的に接続されている。なお、制御部50は、クレーン1に備えられたその他のユニットにも電気的に接続されている。
【0032】
ブーム長さ検知部61は、ブーム13の伸縮動作に応じてブーム13の長さを検出する。なお、ブーム長さ検知部61は、ブーム13の長さを直接検出するものでもよいが、ブーム13の伸縮動作に応じて、予め制御部50の記憶部58に格納されたブーム長さを参照し、出力する態様でもよい。
【0033】
ブーム角度検知部62は、ブーム13の下端部(ブームフット13A)の近傍に配置されている。ブーム角度検知部62は、ブーム13の対地角θ(起伏角度、ブーム13の長手方向に延びる中心線と水平線とがなす角度)を検出する。なお、ブーム角度検知部62は、起伏装置14の油圧シリンダの伸縮に応じて、予め記憶部58に格納されたブーム13の対地角を参照し、出力するものでもよい。
【0034】
張力検出部63は、ブーム13の先端側においてシーブ18の近傍に配置されている。張力検出部63は、ワイヤ17にかかる張力Tを検出する。
【0035】
操作部151は、キャブ15(
図1)の内部に配置され、クレーン10の作業者によって操作される。本実施形態では、操作部151は、ブーム13の起伏および伸縮のために起伏装置14および伸縮装置13Sを操作する不図示の操作レバーや、吊り上げウインチ16の操作に用いられる操作レバーなどを含む。
【0036】
同様に、入力部152は、キャブ15の内部に配置され、クレーン10の作業者によって操作される。本実施形態では、後記のように、入力部152は、クレーン10が使用される地上の表面情報の入力を受け付ける。表示部153は、キャブ15の内部に配置され、作業者が視認可能なさまざまな操作情報を表示する。
【0037】
制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成され、CPUが前記制御プログラムを実行することにより、ウインチ制御部51、ブーム制御部52、吊り荷荷重推定部53、ブーム角度決定部54、横引き判定部55、演算部56、出力部57、記憶部58、補助制御部59、荷重情報管理部60を機能的に有するよう動作する。
【0038】
ウインチ制御部51は、キャブ15に搭乗した作業者の操作に基づいて、吊り上げウインチ16の巻き上げおよび巻き下げ動作を制御する。
【0039】
ブーム制御部52は、起伏装置14を制御してブーム13の起伏角度(対地角θ、
図6参照)を調整する。ブーム制御部52は、ブーム角度検知部62が検出するブーム13の対地角θをフィードバックしながら、ブーム13の起伏角度を所望の値に調整する。
【0040】
吊り荷荷重推定部53(荷重情報取得部)は、吊り荷L(
図1)の吊り上げ作業に先だって、ワイヤ17によって吊り上げられる吊り荷Lの荷重情報を取得する。なお、吊り荷荷重推定部53による荷重情報の取得プロセスについては、後記で詳述する。
【0041】
ブーム角度決定部54は、吊り荷Lの吊り上げ開始時におけるブーム13の起伏角度である開始角度θsを決定する。なお、ブーム角度決定部54は、吊り荷荷重推定部53によって取得された吊り荷Lの荷重情報と、記憶部58から出力された後述のブーム撓み情報とに基づいて、吊り荷Lの総荷重がブーム13に掛かることによってブーム13が撓んだ場合のブーム13の先端部が吊り荷Lの鉛直上方に位置するように、開始角度θsを決定する。
【0042】
横引き判定部55は、吊り上げ作業中に吊り荷Lに横引きが発生するか否かを判定する。なお、横引きとは、吊り上げ作業中に吊り荷Lが地上を水平方向に移動する現象である。本実施形態では、横引き判定部55は、ブーム13の起伏角度がブーム角度決定部54によって決定された開始角度θsに設定された状態から吊り上げウインチ16の巻き上げ動作によって吊り荷Lの吊り上げが開始され、吊り荷Lの地切りが完了するまでの間における、吊り荷Lの横引きの発生の有無を判定する。この際、横引き判定部55は、ブーム角度決定部54によって決定された開始角度θsと、記憶部58から出力されたブーム撓み情報とに基づいて横引きの発生を判定する。
【0043】
演算部56は、ブーム角度決定部54による開始角度θsの決定作業や横引き判定部55による横引き判定作業において、種々の演算を実行する。
【0044】
出力部57は、ブーム角度決定部54による開始角度θsの決定作業や横引き判定部55による横引き判定作業において、記憶部58から各種の変数、定数、閾値などを出力する。
【0045】
記憶部58は、ブーム角度決定部54および横引き判定部55によって参照されるブーム撓み情報を予め記憶しており、当該ブーム撓み情報を出力可能とされている。ブーム撓み情報は、ブーム13の起伏角度が所定の初期角度に設定された状態からワイヤ17を介してブーム13の先端部に所定の荷重が掛けられた場合の、当該荷重の大きさと、当該荷重に応じて撓んだブーム13の先端位置との関係を示す情報である。
【0046】
図3は、本実施形態に係るクレーン10のブーム13の先端位置の座標を説明するための模式図である。
図4は、クレーン10において、ブーム13が吊り上げ作業に応じて撓む際のブーム13の先端のX座標の変化を示すグラフである。また、
図5は、クレーン10において、ブーム13が吊り上げ作業に応じて撓む際のブーム13の先端のY座標の変化を示すグラフである。
図4および
図5に示される情報が、ブーム撓み情報に相当する。
【0047】
図3に示すように、本実施形態では、ブーム13のブームフット13Aの中心が座標系の原点とされ、水平方向(
図1の前後方向)がX方向、鉛直方向(
図1の上下方向)がY方向とされている。そして、ブーム13の先端部の座標が(xb、yb)と定義される。
【0048】
図4では、ブーム角度が55度から68度までの6水準において、それぞれブーム13に掛けられる荷重がW=0(t)からn(t)に至るまで所定の間隔で増大された際のブーム13の先端位置を示している。W=0(t)は主巻フック20のみの重量に相当し、W=n(t)は、主巻フック20の重量+クレーン10の定格荷重に相当する。
図4に示すように、ブーム13の撓みに応じて、ブーム13の先端のX座標が徐々に増大する。なお、
図4に示される破線は、各水準において同じ荷重が掛けられた条件を示す等荷重線である。
図4の3つの等荷重線のうち最も右に位置する線は、重さ4トンの荷重に対応している。
図5のグラフの示し方も、
図4と同様である。
【0049】
今、
図4のブーム起伏角度55度において、X座標18(m)に位置する4トンの吊り荷を吊り上げ、地切りする作業を行うことを想定する。ブーム13の起伏角度が55度に維持されたまま、吊り上げウインチ16がワイヤ17を巻き上げると、吊り荷Lの地切り直前には、ブーム13の先端が18.7mに位置する(
図4のA点)。この結果、吊り荷Lとブーム13の先端との間には、水平方向において0.7mの間隔があるため、吊り荷Lの地切り時に荷振れが発生する。
【0050】
このため、
図4のブーム撓み情報を参照して、4トンの荷重がブーム13の先端に掛かった場合に、ブーム13の先端が吊り荷Lの鉛直上方に位置するようなブーム13の開始角度が決定されればよい。
図4では、ブーム13の開始角度が63度に予め設定されれば、地切り時のブーム13の先端が吊り荷Lの鉛直上方に位置することとなる(
図4のB点)。
【0051】
図5では、ブーム13の先端のY座標を示しているため、ブーム13の先端に荷重がかかると、W=0(t)からW=n(t)に至るまで、Y座標は徐々に小さくなる。このように、ブーム撓み情報は、複数の荷重の大きさおよび複数の初期角度に応じて、撓み後のブーム13の先端位置の分布を示している。なお、記憶部58には、
図4および
図5に対応するデータが、ブーム13のブーム長さに応じて複数格納されている。
【0052】
また、記憶部58は、後記のように、地上Gと吊り荷Lとの間で発生する静止摩擦力を算出するための静止摩擦係数μを記憶している。本実施形態では、複数の地上Gの表面情報に応じて、複数の静止摩擦係数μが記憶部58に格納されている。
【0053】
更に、記憶部58は、過去に吊り上げられた吊り荷Lの荷重の分布を示す荷重分布情報を記憶している。
図6は、本実施形態に係るクレーン10の記憶部58が記憶する吊り荷重分布情報を示すグラフである。また、
図7は、クレーン10の出荷時に、記憶部58が記憶する吊り荷重分布情報の初期値を示すグラフである。
図6では、横軸が吊り荷Lの荷重(t)であり、縦軸が過去の吊り上げ実績(回数)に対する各荷重の比率を示している。
図6では、吊荷重3(t)の吊り上げ実績が44%を占めている。なお、記憶部58には、
図6に示すような荷重分布情報がブーム13の長さおよび起伏角度毎にそれぞれ格納されている。
【0054】
補助制御部59は、伸縮装置13S、起伏装置14および吊り上げウインチ16の動作をそれぞれ制御可能な補助的な制御部である。補助制御部59は、後記のように、ブーム13の先端部が吊り荷Lの鉛直上方に位置するように、起伏装置14および吊り上げウインチ16を制御する。
【0055】
荷重情報管理部60は、吊り荷Lの地切り後に張力検出部63によって検出された張力に基づいて、吊り上げられた吊り荷Lの荷重情報を取得する。そして、荷重情報管理部60は、当該荷重情報によって記憶部58に記憶された荷重分布情報を更新する機能を備えている。
【0056】
なお、
図2に示す、制御部50および入力部152によって、クレーン10の吊り上げ動作を制御する制御装置5(
図2)が構成される。
【0057】
図8の(A)〜(E)は、クレーン10において吊り荷Lの横引きが発生せずに、吊り荷Lが地切りされる様子を示す模式図である。
図9の(A)〜(C)は、クレーン10において吊り荷Lの横引きが発生する様子を示す模式図である。また、
図10は、クレーン10が吊り上げる吊り荷Lにかかる外力を示した模式図である。
【0058】
図8を参照して、吊り荷Lが地上Gから浮き上がる地切り時(
図8の(E)参照)に、ブーム13の先端部が吊り荷Lに対して水平方向にずれた位置に配置されていると、吊り荷Lが空中で水平方向に揺れる現象(荷振れ)が発生する。荷振れは周囲の作業者や静止物に吊り荷Lが衝突する可能性があるため、回避される必要がある。このため、吊り荷Lの地切り時には、ブーム13の先端が吊り荷Lの鉛直上方に位置することが望ましい。
図8(A)〜(C)に示すように吊り荷Lの吊り上げが開始されると、徐々に吊り荷Lの荷重がブーム13に付与されるため、ブーム13が撓み、ブーム13の先端が前方に移動する。このため、地切り時にブーム13の先端を吊り荷Lの鉛直上方に配置するためには、吊り上げ作業開始時にブーム13の先端が吊り荷Lよりも後方に配置される必要がある(
図8(A))。
【0059】
図8(A)の状態からワイヤ17が巻き上げられると(
図8(B)の矢印DL)、吊り荷Lの荷重がブーム13に掛かるためブーム13が撓み、ブーム13の先端が前方に移動する(矢印DT)。
図10を参照して、ブーム13の先端Bはワイヤ17を介して吊り荷Lを引っ張り力Fで引き上げている。なお、ブーム13の先端Bの座標は(xb,yb)、吊り荷Lの座標が(xl,0)と定義される。このとき、吊り荷Lにかかる引っ張り力Fの水平方向成分Fxは、式1および式2で算出される。
Fx=F×cosθ ・・・ (式1)
θ=tan(yb/(xb−xl))
−1 ・・・ (式2)
一方、吊り荷Lの荷重をWとすると、吊り荷Lにかかる静止摩擦力Ffは、式3で算出される。ここで、μは静止摩擦係数である。
Ff=μ×(W−Fsinθ) ・・・ (式3)
したがって、吊り荷Lの吊り上げ工程において、Ff>Fxの関係が満たされれば、吊り荷Lの横引き(水平移動)は発生しない(
図8(B)、(C))。やがて、ブーム13の先端が吊り荷Lの鉛直上方に到達し(
図8(D))、吊り荷Lが地上Gから浮き上がると(
図8(E))、吊り荷Lの横引きおよび荷振れが発生することなく、吊り荷Lの地切りが完了する。
【0060】
一方、ブーム13の起伏角度が大きすぎる場合などにおいて(
図9(A))、吊り荷Lの吊り上げ工程中にFf≦Fxの関係が満たされると(
図9(B))、吊り荷Lの横引きが発生する(
図9(C)の矢印H)。
【0061】
本実施形態では、
図9で示すような吊り荷Lの横引きの発生を抑止し、
図8に示すように吊り荷Lの吊り上げ、地切りを安定して実現することを目的として、制御装置5(
図2)が吊り荷Lの吊り上げ作業を制御する。
図11は、本実施形態に係るクレーン10において実行される地切り制御を示すフローチャートである。
【0062】
図11を参照して、吊り荷Lの吊り上げ作業を開始するにあたって、作業者によって吊り荷Lの玉掛け作業が行われる。この際、ブーム13の先端は吊り荷Lの鉛直上方に位置する。そして、作業者がキャブ15内に備えられた所定の地切り制御スイッチを押すと(ステップS1)、制御部50の演算部56が吊り荷Lの座標(xl、0)を算出する(ステップS2)。この際、演算部56は、ブーム長さ検知部61からブーム13の長さLを取得し、ブーム角度検知部62からブーム13の起伏角度(対地角θ)を取得する。この結果、式(4)から、吊り荷LのX座標xlが算出される。
xl=L×cosθ ・・・ (式4)
なお、吊り荷Lの玉掛け作業の終了時に、吊り上げウインチ16がワイヤ17を巻き上げると、張力検出部63が検出する張力Tが一定値を超えて最大となる。したがって、本発明の他の実施形態において、
図11のステップS1、S2に代えて、ワイヤ17の張力Tが一定値を超えた時点で、地切り制御モードの開始と、吊り荷Lの座標算出動作が行われてもよい。
【0063】
図11のステップS2において、吊り荷Lの座標が算出されると、吊り荷荷重推定部53(
図2)が吊り荷Lの荷重の推定を行う(ステップS3)。前述のように、記憶部58は、
図6に示す荷重分布情報を記憶している。吊り荷荷重推定部53による荷重の推定は、以下のような流れで行われる。まず、吊り荷荷重推定部53は、
図6の荷重分布情報から最大荷重値Wp(ピーク値)を検出する。
図6では、Wp=3.0(t)である。次に、吊り荷荷重推定部53は、荷重分布の標準偏差σを算出する。標準偏差σは(式5)、(式6)から算出される(過去の作業回数i=1〜m)。
σ
2(分散)=Σ((i回目の作業の吊り上げ荷重(t)−全作業の平均吊り上げ荷重(t))
2)/作業回数m ・・・ (式5)
σ(標準偏差)=√(σ
2) ・・・ (式6)
更に、吊り荷荷重推定部53は、(式7)から推定荷重Weを算出する。
We=Wp−α×σ ・・・ (式7)
ここで、αはクレーン10の機種、作業現場、作業内容に応じて予め設定された定数である。一例として、分散値σ
2=0.72、標準偏差σ=0.85、α=1とすると、推定荷重We=2.15(t)が算出される(
図6参照)。このように、本実施形態では、吊り荷荷重推定部53は、記憶部58に記憶された荷重分布情報に基づいて、次に吊り上げられる吊り荷Lの荷重情報を推定および取得する。すなわち、過去の作業実績に基づいて吊り荷Lの荷重情報を取得することができる。このため、作業者が荷重値を入力する作業が省かれるとともに、誤入力による吊り上げ不良の発生が防止される。なお、本実施形態では、吊り荷荷重推定部53および記憶部58が、本発明の荷重情報取得部を構成する。
【0064】
なお、クレーン10の製造、出荷後には、吊り荷Lの吊り上げ実績が少ない。このため、誤って吊り荷Lの荷重が大きく推定されることを抑止するために、
図7に示すような初期情報が記憶部58に格納されている。この場合、吊り荷Lの推定荷重値は1〜2トンの範囲に設定されるため、吊り荷Lの横引きの発生が抑止される。
【0065】
吊り荷荷重推定部53によって吊り荷Lの荷重が推定、取得されると、次にブーム角度決定部54がブーム13の開始角度θsを決定する(ステップS4)。ステップS2において吊り荷Lの座標が算出され、ステップS3において吊り荷Lの推定荷重Weが算出されている。このため、ブーム角度決定部54は、
図4および
図5に示されるブーム撓み情報を参照して、吊り荷Lの総荷重がブーム13に掛かることによってブーム13が撓んだ場合のブーム13の先端部が吊り荷Lの鉛直上方に位置するように、吊り荷Lの吊り上げ開始時におけるブーム13の起伏角度である開始角度θsを決定する。
【0066】
次に、横引き判定部55が、開始角度θsにおいて吊り上げが開始されてから吊り荷Lの地切りが完了するまでの間に、吊り荷Lに横引きが発生するかを判定する(ステップS5)。この際、前述のように、横引き判定部55は、ワイヤ17によって吊り荷Lに付与される引っ張り力Fの水平方向成分Fxと、吊り荷Lと地上Gとの間で発生する静止摩擦力Ffとの大小関係を比較することで、吊り荷Lの横引きの発生の有無を判定する。そして、横引き判定部55が吊り荷Lの横引きが発生しないと判定した場合(ステップS6でNO)、ブーム制御部52が起伏装置14を制御してブーム13の起伏角度を開始角度θsに設定し、ウインチ制御部51が吊り上げウインチ16を制御して吊り荷Lの吊り上げおよび地切りを実行させる(ステップS11)。
【0067】
一方、横引き判定部55が吊り荷Lの横引きが発生すると判定した場合(ステップS6でYES)、横引き判定部55はブーム13の開始角度θsを修正する修正指示信号を出力する。ブーム角度決定部54は、この修正指示信号を受けて開始角度θsが小さくなるように当該開始角度θsを補正する(ステップS7)。なお、ステップS5〜S7の詳細については、後記で更に詳述する。
【0068】
ステップS7において開始角度θsが補正される(θs’)と、ブーム制御部52が起伏装置14を制御してブーム13の起伏角度を補正された開始角度θs’に設定し、ウインチ制御部51が吊り上げウインチ16を制御して吊り荷Lの吊り上げを実行させる(ステップS8)。ここで、ステップS7において開始角度θsが補正開始角度θs’に補正されている。吊り荷Lの横引きを防止するためには、θs’<θsの関係が満たされている。このため、補正開始角度θs’から吊り荷Lの吊り上げが開始されると、やがてブーム13の先端部が吊り荷Lの鉛直上方よりも前方(
図1参照)に移動し、地切り時の荷振れが発生してしまう。このため、開始角度θsが補正された場合、補助制御部59(
図2)による吊り上げ補助制御が実行される。
【0069】
補助制御部59は、補正開始角度θs’から吊り荷Lの吊り上げが開始された後、ブーム13の先端が撓みによって吊り荷Lの鉛直上方に至ったか否かを判定する(ステップS9)。ここで、ブーム13の先端が吊り荷Lの鉛直上方に至っていない場合(ステップS9でNO)、補助制御部59は、吊り上げウインチ16を制御して吊り荷Lの吊り上げを継続させる。一方、ブーム13の先端が吊り荷Lの鉛直上方に至った場合(ステップS9でYES)、補助制御部59は吊り荷Lの地切りが完了するまでブーム先端位置制御を実行する(ステップS10)。ブーム先端位置制御では、補助制御部59は、吊り荷Lの地切りが完了するまでの間、ブーム13の先端部が吊り荷Lの鉛直上方に配置されるように、起伏装置14を制御してブーム13の起伏角度を調整しながら、吊り上げウインチ16に巻き上げ動作を実行させる。この際、補助制御部59は、起伏装置14によるブーム13の起伏角度の調整のために、吊り上げウインチ16の巻き上げ速度を減速してもよい。このようなブーム先端位置制御によって、地切り時に吊り荷Lの鉛直上方にブーム13の先端部を配置させ、荷振れが発生することを抑止することができる。
【0070】
ステップS10およびステップS11において、吊り荷Lの地切りが完了すると、作業実績情報の格納が行われる(ステップS12)。ここでは、制御部50の荷重情報管理部60(
図2)が、吊り荷Lの地切り後に張力検出部63(
図2)が検出した張力Tに基づいて吊り上げられた吊り荷Lの荷重情報を取得する。そして、荷重情報管理部60は、当該荷重情報によって記憶部58に記憶された荷重分布情報(
図6)を更新する。したがって、吊り上げ実績が増えるに連れて、荷重情報の精度を高めることができる。
【0071】
次に、
図11のステップS5〜S7で示される横引きの判定および開始角度θsの補正について、更に詳述する。
図12は、
図11のフローチャートの一部を詳細に示したフローチャートである。
図11のステップS5において、横引き発生の判定が開始されると、横引き判定部55は、開始角度θsの補正履歴を示す変数flag_bmを0とする(
図12のステップS51)。次に、横引き判定部55は記憶部58に格納された複数の地面情報(地上の表面情報)から一の地面情報を選択する。複数の地上の表面情報の一例として、地面が土面の場合(モード1)、地面が砂利の場合(モード2)、地面がコンクリートの場合(モード3)および地面が鉄板の場合(モード4)が記憶部58に格納されている。更に、記憶部58は、各地面の特性(モード1〜4)に応じて異なる静止摩擦係数μ1〜μ4を予め記憶している。なお、本実施形態では、上記の複数の表面情報(モード)の中から、モード1がデフォルトモードとして予め設定されている。ここで、演算部56(
図2)は、モード1に対応する静止摩擦係数μ(=μ1)を記憶部58から取得する(ステップS53)。
【0072】
なお、他の実施形態において、作業者が表示部153(
図2)に表示された地上の表面情報を上記の4つの中から選択し、当該選択された情報(モード)に応じて、横引き判定部55が記憶部58から摩擦係数μを取得する態様でもよい。この場合、地上の表面状態に応じて静止摩擦力Ffを精度良く演算し、横引きの発生を安定して判定することができる。
【0073】
ステップS53において静止摩擦係数μが決定すると、横引き判定部55は吊り荷Lの荷重が0(t)とされた場合(ステップS54)のブーム13の先端の座標を記憶部58に記憶されたブーム撓み情報に基づいて取得する(ステップS55)。次に、演算部56が前述の式1〜式3に基づいて、引っ張り力Fの水平方向成分Fxおよび吊り荷Lと地面Gとの間の静止摩擦力Ffを算出する(ステップS56)。このとき、
図11のステップS4においてブーム角度決定部54が決定した開始角度θsに基づいて、式2のxbおよびybが決定される。そして、横引き判定部55が、演算部56によって演算された静止摩擦力Ffと吊り荷Lに付与される引っ張り力Fの水平方向成分Fxとを比較することで、横引きの発生有無を判定する(ステップS57)。このように、本実施形態では、吊り荷Lに付与される2つの力を比較することで、吊り荷Lの横引きの発生を容易に判定することができる。
【0074】
ステップS57においてFx<Ffの場合、横引き判定部55は横引きが発生しないと判定する。この場合、横引き判定部55は、横引き判定フローにおける吊り荷の荷重Wが、
図11のステップS3で決定された荷重Weと一致するか否かを判定する。ここでは、ステップS54においてW=0(t)と仮定されているため、1回目の横引き判定では、ステップS58においてNOと判定される。この結果、横引き判定部55はステップS61において、荷重Wに刻み荷重Wstepを加え、新たな荷重Wとする。そして、横引き判定部55は、再びステップS56〜S58を繰り返す。上記について換言すれば、横引き判定部55は、ステップS56〜ステップS58までを、W=0(t)からW=We(t)まで、荷重Wを刻み荷重Wstepずつ増大させながら繰り返す。
【0075】
荷重Wが荷重Weまで増大されながらステップS57において横引きが発生しないと判定され続けた場合、横引き判定部55はステップS59において開始角度θsを確定する。この場合、ステップS51においてflag_bm=0とされたままであるため、横引き判定部55は
図11のステップS11に移行し、開始角度θsにおいて吊り荷Lの吊り上げ、地切りを実行する。
【0076】
一方、
図12のステップS57においてFx≧Ffの場合、横引き判定部55は吊り荷Lに横引きが発生すると判定する(ステップS57でNO)。この場合、
図11のステップS4においてブーム角度決定部54が決定した開始角度θsでは吊り荷Lの吊り上げが実行できないため、ブーム角度決定部54が開始角度θsの補正を実行する(ステップS62)。詳しくは、ブーム角度決定部54は、これまでの開始角度θsから予め設定された刻み角度θs_stepを引いた値(θs‘)を新たな開始角度に設定する。また、このとき、ブーム角度決定部54は、ステップS51において0に設定されたflag_bmを1に上書きする。補正されたブーム13の開始角度θs’に基づいて、横引き判定部55はステップS55〜S57を繰り返す。なお、ステップS62において1度でも開始角度θsが補正され、かつ、当該開始角度θsで吊り荷Lの吊り上げが開始されても横引きが発生しないと判定された場合(ステップS57でYES)、後のステップS60においてflag_bm≠0のため、横引き判定部55は
図11のステップS8に移行する。
【0077】
このように、
図12に示される横引きの発生判定および開始角度θsの補正フローでは、吊り荷Lの吊り上げ動作に伴って吊り荷Lに係る荷重が、W=0(t)からW=We(t)まで、刻み荷重Wstepずつ増大されながら、横引きの判定が繰り返される。このとき、1度でも横引きが発生すると判定されると、ブーム角度決定部54は開始角度θsを小さくなるように補正する。そして、横引き判定部55は、ブーム13の起伏角度が前記補正された開始角度θs’に設定された状態から、吊り荷Lの吊り上げが開始され地切りが完了するまでの間における、吊り荷Lの横引きの発生の有無を再判定する。そして、横引き判定部55による横引きの再判定において、吊り荷Lの横引きが発生しないと判定された場合、
図11のステップS8〜S10が繰り返される。すなわち、補正された開始角度θs’から吊り上げが開始され、吊り上げ中にブーム13の先端部が吊り荷Lの鉛直上方を通過する場合には、ブーム13の起伏角度が調整されながら吊り荷Lの吊り上げが行われる。このため、地切り時にブーム13の先端部を吊り荷Lの鉛直上方に配置させ、吊り荷Lの荷振れを抑止することができる。このため、吊り荷Lの荷振れおよび横引きの発生を安定して抑止しながら、吊り荷Lの吊り上げを行うことができる。
【0078】
以上のように、本実施形態によれば、ブーム角度決定部54は、地切り時にブーム13の先端部が吊り荷Lの鉛直上方に位置するように開始角度θsを決定する。このため、吊り荷Lの地切り後の荷振れが抑止される。また、吊り荷Lの吊り上げ開始前に、横引き判定部55によって吊り上げ中の横引きの発生の有無が判定される。この結果、吊り上げ作業中に常にブーム13の先端位置を制御する他の制御装置と比較して、ブーム13の起伏角度を常に調整する必要がなく、ブーム13の角度調整のためにロープの巻き上げ速度を減速することが低減される。この結果、吊り荷Lの横引きを抑止しながら、吊り上げ作業を効率的に実現することが可能とされる。
【0079】
以上、本発明の各実施形態に係るクレーン1の制御装置5について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明に係る制御装置5が制御するクレーンは、所定のクレーン本体と起伏可能なブームとを備えるものであればよい。更に、本発明では、以下のような変形実施形態が可能である。
【0080】
(1)上記の実施形態では、吊り荷荷重推定部53(
図2)が、過去の作業実績に基づいて吊り荷Lの荷重情報を取得する態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。他の変形実施形態において、作業者が入力部152(
図2)から吊り荷Lの荷重を直接入力することで、荷重情報が取得される態様でもよい。
【0081】
(2)また、上記の実施形態では、
図1に示すようにテレスコープ式のブーム13を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明に係るクレーンは、他のブーム長さ変更機構を備えるものでもよく、また、ラチスブームを備えたクローラクレーンやホイールクレーンのように、ブームの長さが変化しない態様でもよい。また、公知のタワークレーンのように、ブームが垂直に延びた状態で、当該ブームの先端に装着されたジブだけが起伏する態様でもよい。ジブの先端部からロープが垂下され、当該ロープによって吊り荷が吊り上げられる。この場合、ブーム部分に対して起伏するジブのジブ角度が本発明のブーム角度に相当し、ジブの先端部が本発明のブームの先端部に相当し、ジブの撓みが本発明のブームの撓みに相当する。更に、ブームの先端部にジブが回動可能に支持され、ブームおよびジブの両方が起伏する態様でもよい。この場合、ジブに備えられたジブ角度計が、ブームに対するジブの相対的な角度を測定する。また、ブームに備えられたブーム角度計は、クレーン本体に対するブームの角度(対地角)を測定する。そして、ブームおよびジブの長さは既知であるため、ジブ角度計およびブーム角度計の測定結果から、ジブの先端部の位置が検出される。そして、ブーム角度が調整されることで、吊り荷に対するジブの先端部の位置が制御される。その他の横引き判定、地切り制御については、先の実施形態と同様である。
【0082】
(3)また、上記の実施形態では、
図11において、横引き判定部55は、吊り荷Lの横引きが発生すると判定した場合(ステップS6でYES)、ブーム13の開始角度θsを修正する修正指示信号を出力し、ブーム角度決定部54は、この修正指示信号を受けて開始角度θsが小さくなるように当該開始角度θsを補正する態様にて説明した(ステップS7)。本発明は、これに限定されるものではない。横引き判定部55が出力した修正指示信号に基づいて、表示部153(
図2)に修正指示メッセージが表示され、作業者によって開始角度θsが補正される態様でもよい。