特許第6772674号(P6772674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6772674超電導バルク接合体および超電導バルク接合体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772674
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】超電導バルク接合体および超電導バルク接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20201012BHJP
   H01B 12/00 20060101ALI20201012BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C04B37/00 AZAA
   H01B12/00
   H01B13/00 565D
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-167364(P2016-167364)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-35015(P2018-35015A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 英一
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/002483(WO,A1)
【文献】 特開平05−279028(JP,A)
【文献】 特開平06−040775(JP,A)
【文献】 特開平07−082049(JP,A)
【文献】 特開平07−025672(JP,A)
【文献】 特開2009−280424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00−37/04
H01B 12/00−13/34
C04B 35/00−35/84
H01L 39/00−39/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶方位の揃った第1の酸化物超電導体からなる複数の接合本体と、
隣り合う前記接合本体同士の間に設けられ、第2の酸化物超電導体からなる接合層と、
を備え、
前記接合層を挟んで隣り合う前記接合本体の互いの結晶方位のずれが15°以内であり、
前記接合層の結晶方位と、隣り合う前記接合本体との結晶方位のずれがいずれも15°以内であり、
前記接合層は、前記接合本体よりも溶融温度が低く、
前記接合本体および前記接合層は、それぞれ金属銀換算で10質量%以上30質量%以下の銀を含有することを特徴とする超電導バルク接合体。
【請求項2】
前記接合本体および前記接合層は、金属銀換算で同じ量の銀を含有することを特徴とする請求項1に記載の超電導バルク接合体。
【請求項3】
前記第1の酸化物超電導体および前記第2の酸化物超電導体は、REBaCu(REはY及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、yは酸素量で、6.8≦y≦7.1)中にREBaCuOが分散した酸化物超電導体であることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導バルク接合体。
【請求項4】
結晶方位の揃った第1の酸化物超電導体からなる複数の接合本体を、隣り合う前記接合本体の互いの結晶方位のずれが15°以内になるように配置し、
隣り合う前記接合本体同士の間に第2の酸化物超電導体からなる接合層を前記接合本体同士に接触させて配置し、
前記接合本体の溶融温度よりは低く、かつ、前記接合層の溶融温度よりは高い温度に前記接合本体および前記接合層を加熱して前記接合層を溶融し、その後、少なくとも前記接合層が結晶化する温度まで徐冷し、前記接合層を介して隣り合う前記接合本体同士を接合する、超電導バルク接合体の製造方法であって、
前記接合本体および前記接合層は、それぞれ金属銀換算で10質量%以上30質量%以下の銀を含有することを特徴とする超電導バルク接合体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の酸化物超電導体および前記第2の酸化物超電導体は、REBaCu(REはY及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、yは酸素量で、6.8≦y≦7.1)中にREBaCuOが分散した酸化物超電導体であることを特徴とする請求項4に記載の超電導バルク接合体の製造方法。
【請求項6】
前記接合本体および前記接合層に含有される前記銀の含有量が、金属銀換算で同じ量の銀を含有することを特徴とする請求項4または5に記載の超電導バルク接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導バルク接合体および超電導バルク接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塊状(バルク状)の超電導体は超電導バルク体と呼ばれ、従来の永久磁石を凌駕する非常に強力な磁場発生源(超電導バルク磁石)や、複雑なフィードバック制御システムなしでも安定浮上を実現できる非接触な軸受(超電導軸受)、磁場中でも大電流を通電できる電流リードなどの通電素子、強い磁場を遮蔽できる磁気シールドなど、様々な応用が期待されている。
【0003】
このような応用に用いられる超電導バルク体には、臨界温度(T)が高く、磁場中での臨界電流密度(J)が高い超電導バルク体が望ましい。RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素)の臨界温度Tは90K程度と高いが、酸化物の一般的な製法である焼結法で作製されるバルク体は多数の結晶粒からなる多結晶状の超電導バルク体である。超電導バルク体が多結晶である場合には、内部に存在する多数の結晶粒界が超電導電流を阻害するため、臨界電流密度Jは77Kで1.0×10A/cm以下であり、低い値である。
【0004】
臨界電流密度Jを改善するために、例えば、特許文献1で開示されているような溶融結晶成長プロセスが開発されている。このような溶融結晶成長プロセスを適用することにより、結晶方位の揃ったREBaCu(yは酸素量で、6.8≦y≦7.1)中にREBaCuOが微細分散した組織を有する超電導バルク体を得ることができる。かかる超電導バルク体は、77K、1Tにおいて臨界電流密度Jが1.0×10A/cm以上という磁場中でも高い特性を示す。なお、ここで、結晶方位の揃ったとは、内部に大傾角粒界を含まない単結晶状であることと同義である。
【0005】
このような結晶方位の揃った超電導バルク体は、溶融結晶成長プロセスで製造されるため、すなわち、種結晶を用いて、徐冷させながら結晶成長させることにより製造される。そのため、超電導バルク体のサイズが大型化すると、製造時間が極端に長くなることに加え、種結晶以外からの余分な核生成が生じて多結晶化しやすくなるので、製造が非常に困難になる。そのため、製造可能なサイズには実質的に限界がある。
【0006】
このような超電導バルク体の大型化、長尺化の問題を解決するために、ある程度の大きさや長さを有する超電導バルク体同士を接合することが考えられる。しかし、超電導バルク体同士を単に接合しただけでは、接合層において互いの結晶方位がずれてしまうため、あるいは超電導バルク体同士をつなぐ接合層部分が多結晶化することにより生じ得る超電導電流を阻害する結晶粒界が存在するため、接合体の超電導特性は単体の超電導バルク体と比較して低いものであった。
【0007】
このような超電導接合体の問題を解決するための方法が、例えば特許文献2や3で開示されている。具体的には、結晶方位の揃った複数の超電導体からなる接合本体が、その接合面で接合本体よりも溶融温度(包晶温度)が低く、かつ接合本体と同じ結晶方位を有する超電導体からなる接合層を介して接合されていることを特徴とする超電導バルク接合体が開示されている。また、接合本体となる超電導バルク体同士をお互いの結晶方位を揃えて配置し、接合層を挟んだ状態で、接合本体の溶融温度よりは低く、かつ、接合層の溶融温度よりは高い温度まで加熱し、その後、接合層の溶融温度前後の温度領域にて徐冷することによって、溶融状態にある接合層部が両端の接合本体を種結晶として結晶成長することになり、最終的に両端の接合本体と接合層の全ての結晶方位が揃った状態で接合できることが開示されている。
【0008】
なお、この方法では、接合層の溶融温度を接合本体の溶融温度より低くする必要がある。そこで、RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体は、REサイトの元素によって溶融温度が異なる性質を有しているので、接合本体として溶融温度の高い元素を選択し、接合層として溶融温度の低い元素を選択することが提案されている。
【0009】
また、別の方法として、RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体は銀を含有すると溶融温度が低下する性質を有しているので、接合層に銀または銀化合物を含有することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平4−40289号公報
【特許文献2】特開平6−40775号
【特許文献3】特開平5−279028号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、結晶方位の揃った複数の超電導体からなる接合本体が、その接合面で接合本体よりも溶融温度が低い超電導体からなる接合層を介して接合する構造にすることは、両側の接合本体と接合層の全ての結晶方位を揃えることを可能にする有効な手段である。
【0012】
しかしながら、従来の接合方法では接合部分の機械的強度が必ずしも十分ではなかった。そのため、接合した試料を取り扱っている際に接合部分である接合層付近で当該試料が破損するという問題があった。
【0013】
そこで、本発明では、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、超電導特性に優れ、機械的強度が強い超電導バルク接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の超電導バルク体を利用した超電導バルク接合体およびその製造方法は、以下の
とおりである。
(1)結晶方位の揃った第1の酸化物超電導体からなる複数の接合本体と、隣り合う前記接合本体同士の間に設けられ、第2の酸化物超電導体からなる接合層と、を備え、前記接合層を挟んで隣り合う前記接合本体の互いの結晶方位のずれが15°以内であり、前記接合層の結晶方位と、隣り合う前記接合本体との結晶方位のずれがいずれも15°以内であり、前記接合層は、前記接合本体よりも溶融温度が低く、前記接合本体および前記接合層は、それぞれ金属銀換算で10質量%以上30質量%以下の銀を含有することを特徴とする超電導バルク接合体。
(2)前記接合本体および前記接合層は、金属銀換算で同じ量の銀を含有することを特徴とする(1)に記載の超電導バルク接合体。
(3)前記第1の酸化物超電導体および前記第2の酸化物超電導体は、REBaCu(REはY及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、yは酸素量で、6.8≦y≦7.1)中にREBaCuOが分散した酸化物超電導体であることを特徴とする(1)または(2)に記載の超電導バルク接合体。
(4)結晶方位の揃った第1の酸化物超電導体からなる複数の接合本体を、隣り合う前記接合本体の互いの結晶方位のずれが15°以内になるように配置し、隣り合う前記接合本体同士の間に第2の酸化物超電導体からなる接合層を前記接合本体同士に接触させて配置し、前記接合本体の溶融温度よりは低く、かつ、前記接合層の溶融温度よりは高い温度に前記接合本体および前記接合層を加熱して前記接合層を溶融し、その後、少なくとも前記接合層が結晶化する温度まで徐冷し、前記接合層を介して隣り合う前記接合本体同士を接合する、超電導バルク接合体の製造方法であって、前記接合本体および前記接合層は、それぞれ金属銀換算で10質量%以上30質量%以下の銀を含有することを特徴とする超電導バルク接合体の製造方法。
(5)前記第1の酸化物超電導体および前記第2の酸化物超電導体は、REBaCu(REはY及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、yは酸素量で、6.8≦y≦7.1)中にREBaCuOが分散した酸化物超電導体であることを特徴とする(4)に記載の超電導バルク接合体の製造方法。
(6)前記接合本体および前記接合層に含有される前記銀の含有量が、金属銀換算で同じ量の銀を含有することを特徴とする(4)または(5)に記載の超電導バルク接合体の製造方法。
【0015】
なお、ここで「超電導バルク接合体」とは、いくつかの超電導バルク体(接合本体)を接合することによって1つの大きな超電導バルク体、あるいは1つの長い超電導バルク体にしたものである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、超電導特性に優れ、機械的強度が強い超電導バルク接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明の実施形態に係る超電導バルク接合体の一例を示す概念図である。
図1B】同実施形態に係る超電導バルク接合体の他の一例を示す概念図である。
図2】同実施形態に係る超電導バルク接合体中の銀粒子分布を示す概念図である。
図3A】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図3B】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図3C】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図3D】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図4A】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図4B】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図4C】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図4D】同実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様の一例を示す概念図である。
図5A】本発明の実施例に係る超電導バルク接合体の一例を示す。
図5B】同実施例に係る超電導バルク接合体から試験片を切り出す際の例を示す。
図5C】切り出された試験片の一例を示す。
図6】同実施例に係る四点曲げ試験の様子を示す概念図である。
図7】同実施例に係る四点曲げ試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
本実施形態で用いる結晶方位の揃った酸化物超電導バルク体は、単結晶状のREBaCu7−x相(123相)中に直径20μm以下のREBaCuO相(211相)等に代表される非超電導相が分散した組織を有するものであればよく、特に、非超電導相が微細分散した組織を有するもの(以下、「QMG材料」ともいう。)が望ましい。ここで、単結晶状というのは、完璧な単結晶でなく、小傾角粒界等の実用に差し支えない欠陥を有するものも包含する。123相及び211相におけるREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる希土類元素及びそれらの組み合わせである。La、Nd、Sm、Eu、Gdを含む123相は1:2:3の化学量論組成から外れ、REのサイトにBaが一部置換した状態になることもある。また、非超電導相である211相においても、La、Ndは、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luとは幾分異なり、金属元素の比が非化学量論的組成であったり、結晶構造が異なったりすることが知られている。このような単結晶状の酸化物超電導バルク体は、セラミックスの一般的な製法である焼結法ではなく、焼結温度よりも高い溶融温度以上に成形体を昇温して半溶融状態にした後、徐冷中に結晶成長させるという溶融結晶成長法で製造される。
【0020】
QMG材料中の211相の微細分散は、臨界電流密度(J)向上の観点から極めて重要である。Pt、Rh又はCeの少なくとも一つを微量添加することで、半溶融状態(211相と液相からなる状態)での211相の粒成長を抑制し、結果的に材料中の211相を約1μm程度に微細化する。添加量は、微細化効果が現れる量及び材料コストの観点から、Pt:0.2〜2.0質量%、Rh:0.01〜0.5質量%、Ce:0.5〜2.0質量%であることが望ましい。添加されたPt、Rh、Ceは123相中に一部固溶する。また、固溶できなかった元素は、BaやCuとの複合酸化物を形成し、材料中に点在することになる。123相中の211相の割合は、臨界電流密度Jの特性及び機械強度の観点から、5〜35体積%であることが望ましい。また、材料中には、50〜500μm程度のボイド(気泡)を5〜20体積%含むことが一般的であり、さらにAg添加した場合、添加量によって1〜500μm程度のAg又はAg化合物を0体積%超25体積%以下含む。
【0021】
また、結晶成長後の超電導バルク体の酸素欠損量(x)は、0.5〜0.8程度で半導体的あるいは絶縁材料的な抵抗率の温度変化を示す。これを各RE系により350℃〜600℃で100時間程度、酸素雰囲気中においてアニールすることにより酸素が超電導バルク体中に取り込まれ、酸素欠損量(x)は0.2以下となり、良好な超電導特性を示す。このとき、超電導相中には双晶構造ができる。しかしながら、この点を含めここでは単結晶状と呼ぶことにする。酸化物超電導バルク体を例えば超電導軸受として利用するには、結晶成長後の酸化物超電導バルク体を円板形状、四角形状、扇形状、瓦形状等の所定の形状に加工し、加工後に酸化物超電導バルク体の酸素アニールを行うことが求められる。
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、図1A図4Dに沿って説明する。
【0023】
図1Aは、本実施形態における超電導バルク接合体1の一例を示す概念図である。超電導バルク接合体1Aは、2つの接合本体2、および接合層3を有する。
【0024】
接合本体2は、結晶方位の揃った酸化物超電導体により形成される。なお、接合本体2を構成する酸化物超電導体は、第1の酸化物超電導体に相当する。図1Aでは、2つの接合本体2が接合層3を介して接合されている。なお、接合本体の数は特に限定されるものではなく、必要に応じて3個以上の接合本体が接合層を介して接合されてもよい。例えば、図1Bに示すように、超電導バルク接合体1Bは、4つの接合本体2を3つの接合層3を介して接合した構成であってもよい。また、後述するように、接合本体2は、さらに銀を含有する。
【0025】
接合層3は酸化物超電導体により形成され、接合本体2と同様の結晶構造を有する。さらに、接合層3は、隣り合う接合本体2よりも溶融温度が低く、かつ隣り合う接合本体の各々と同じ結晶方位を有し得る。なお、接合層3を構成する酸化物超電導体は、第2の酸化物超電導体に相当する。仮に、隣り合う接合本体2同士の結晶方位のずれが15°である場合、挟まれた接合層3は、後述するように、隣り合う接合本体2の各々を種結晶として結晶成長するので、接合層3のほぼ中央部を境に2つの結晶方位を有する部分が形成され、接合層3の内部の結晶方位のずれがその境を挟んで15°になる。また、後述するように、接合層3は、さらに銀を含有する。
【0026】
酸化物超電導体の結晶構造は積層構造を有する。なお、結晶構造の積層方向を結晶のc軸方向といい、c軸方向に垂直な方向をそれぞれa軸方向、b軸方向という。酸化物超電導体はa軸とb軸で作る平面内で双晶構造を有するため、超電導バルク体全体で見るとa軸方向とb軸方向の区別はつかない。そのため、本明細書ではa軸とb軸をab軸と称する。
【0027】
本発明の実施形態では、ab軸方向およびc軸方向の両方において、隣り合う接合本体2同士の結晶方位のずれが15度以内であることが好ましい。また、隣り合う接合本体2同士の結晶方位のずれが小さいほど超電導電流の低下が小さいので、隣り合う接合本体2同士の結晶方位のずれが5度以内であることがより好ましい。挟まれた接合層3は、後述するように隣り合う接合本体2を種結晶として結晶成長するので、接合層3のほぼ中央部を境に2つの結晶方位を有する部分が形成される。すなわち、接合層3の中央部の境界における結晶方位のずれは、隣り合う接合本体2同士の結晶方位のずれとほぼ同じ結晶方位のずれになる。したがって、隣り合う接合本体2同士に挟まれた接合層3の結晶方位と、隣り合う接合本体2の結晶方位とのずれは、いずれも15度以内となり得る。
【0028】
酸化物超電導体では、大傾角の結晶粒界は超電導電流を阻害する弱結合となるが、本実施形態のように、接合層および隣り合う接合本体の結晶方位のずれが小さいため、接合部分において超電導電流が大きく阻害されることはない。そのため、かかる超電導バルク接合体は、良好な超電導特性を発現する。
【0029】
本実施形態における超電導バルク接合体1は、接合本体2と接合層3で溶融温度が異なる。それぞれの溶融温度については、それぞれの一部を切り出した小試験片を昇温し、当該小試験片が溶融する温度を測定することで調べることができる。
【0030】
このような超電導バルク接合体1は、次のようなプロセスで製造することができる。まず、接合本体2となる超電導バルク体同士を互いの結晶方位のずれが小さくなるように(15°以内となるように)配置し、接合層3を挟んだ状態で、接合本体2の溶融温度よりは低く、接合層3の溶融温度よりは高い温度まで加熱する。その後、接合層3の溶融温度前後の温度領域にて徐冷することによって、溶融状態にある接合層3が隣り合う接合本体2を種結晶として結晶成長する。これにより、最終的に隣り合う接合本体2と接合層3の結晶方位のずれが小さくなった状態で接合できる。また、隣り合う接合本体2となる超電導バルク体同士を互いの結晶方位が同一となるように配置することで、形成される超電導バルク接合体1の結晶方位を全体的に同一とすることができる。
【0031】
また、超電導バルク接合体1の徐冷速度が速すぎると接合層3の結晶成長が乱れ、接合層3の超電導特性が著しく低下する。そのため、徐冷速度としては3K/時間以下が好ましく、1K/時間以下であればより好ましい。また、徐冷は溶融した接合層3が結晶化する温度に到達するまで少なくとも行う必要がある。溶融した接合層3が結晶化する温度は、希土類元素の種類や銀の含有量によって変化するが、1233K〜1213Kの温度までは徐冷することが好ましい。また、必要に応じて、接合層3の部分に圧力が作用するような状態で超電導バルク接合体1を製造することもある。
【0032】
接合層3の作製方法としては、粉末を敷き詰める方法、粉末を成形、焼結あるいは溶融・固化したものを接合本体2で挟む方法、有機バインダーと混合したものを接合本体2の接合面に塗布する方法、またはスパッタリング等で接合本体2の接合面に成膜する方法等が用いられる。
【0033】
接合層3の部分は、加熱処理の際に、一旦半溶融状態になる。そのため、接合層3の厚さ、言い換えると隣り合う接合本体2の間隔が長いと、接合層3が半溶融状態の時に接合本体2の間から流出してしまうおそれがある。接合層3を成膜や塗布で形成するのであれば、その厚さは数μmから数十μm、数百μm程度であり特に問題はない。一方で、粉末を敷き詰める方法や粉末を成形、焼結あるいは溶融・固化したものを接合本体2で挟む方法で接合層3を作製する際には、その厚さは3mm以下が好ましく、1mm以下であればより好ましい。
【0034】
本発明の実施形態では、接合本体2と接合層3の両方が銀を含有する。酸化物超電導体は、銀を含有すると、溶融・分解温度が低くなる性質を有している。超電導バルク接合体1の製造過程において、接合本体2の溶融温度よりは低く、接合層3の溶融温度よりは高い温度までこれらが加熱されるが、その際に、接合本体2側が溶融しないようにする必要がある。そのため、接合本体2は溶融温度を低下させる銀を含有しない方が望ましいと考えられていた。
【0035】
しかしながら、接合本体2と接合層3の両方に銀を含有させることによって、超電導バルク接合体1の接合部分の機械的強度を改善する効果があることが、本発明者の鋭意研究によって明らかにされた。
【0036】
結晶方位の揃った単結晶状の酸化物超電導バルク体は、溶融結晶成長プロセスで製造されるが、溶融結晶成長プロセスや結晶構造を反映して、結晶内部にマイクロボイドやマイクロクラックが生じやすい。添加物として含有された銀は、超電導バルク体内では数μm程度から百μm程度の銀粒子として均一に分布し、最終的にマイクロボイドやマイクロクラックの一部を埋めて、酸化物超電導バルク体の機械的強度を改善する働きを有する。
【0037】
しかし、接合本体2あるいは接合層3のいずれか一方にしか銀が含有されていない場合には、溶融した接合層3の部分が接合本体2を種結晶として結晶成長する際に、機械的強度を改善する働きを有する銀粒子の分布が均一にならずに、逆に機械的強度を低下させる。例えば、接合本体2のみが銀を含有している場合には、接合本体2中の銀が溶融した接合層3の部分に溶け出し、接合本体2の接合層3近傍において銀粒子が少なくなる箇所が生じる。また、接合層3のみが銀を含有している場合には、溶融した接合層3中の銀粒子が接合本体2に吸われて、接合層3中の接合本体2近傍において銀粒子が少なくなる箇所が生じる。
【0038】
本発明の実施形態のように、接合本体2と接合層3の両方が銀を含有していると、図2に示すように、機械的強度を改善する働きを有する銀粒子4の分布が接合本体2と接合層3の境界5付近でも均一になる。さらに、一部の銀粒子4が接合本体2と接合層3の境界5に存在することで、接合本体2と接合層3の結合をより強固なものとする。従って、接合本体2と接合層3の両方が銀を含有することにより、超電導バルク接合体1の機械的強度を改善することができる。
【0039】
接合本体2および接合層3に銀を含有させる方法としては、例えば、接合本体2および接合層3の粉体を製造する過程において、酸化銀等の銀化合物の粉末または金属銀の粉末を、原料粉末や混合粉末、あるいは仮焼粉末等に添加する方法がある。この場合、酸化銀粉末を添加しても、あるいは金属銀粉末を添加しても、銀は、最終的には超電導バルク接合体1中において主に銀粒子の形で存在する。
【0040】
接合本体2および接合層3中の銀の含有量は、2質量%以上、30質量%以下であることが好ましい。銀の含有量が30質量%より大きいと、機械的強度を改善する効果が小さく、また、溶融した接合層3の部分が接合本体2を種結晶として結晶成長することを阻害する作用が大きくなる。また、銀の含有量が2質量%以上であれば、機械的強度を改善する効果がより十分に発揮される。
【0041】
接合本体2および接合層3中の銀の含有量は必ずしも同じである必要はないが、超電導バルク接合体1内部の銀粒子の分布を均一にするためには、接合本体2および接合層3中の銀の含有量は同程度が好ましい。
【0042】
また、RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の溶融温度は、銀の含有量が7質量%程度までは含有量に比例して低下するが、それ以上の含有量ではほぼ一定になる。そのため、接合本体2での銀の含有量が5質量%程度以下であれば、接合層3を、接合本体2と同じREサイト元素を含む酸化物超電導体により形成し、かつ接合層3中の銀の含有量を7質量%以上にすることで、同一のREサイト元素を含む超電導バルク接合体1を製造することは可能である。すなわち、第1の酸化物超電導体と第2の酸化物超電導体が同一であってもよい。
【0043】
しかし、接合本体2と接合層3が同じREサイト元素を有し、接合本体2と接合層3の銀の含有量の差が小さい場合には、加熱時に接合本体を溶融させないためには非常に精密な温度制御が必要であり、製造が難しくなる。従って、接合本体2と接合層3の両方が銀を含有している本実施形態の場合には、製造を容易とする観点から、接合層3として、接合本体2よりも溶融温度を低くし得るREサイト元素を選択することが好ましい。
【0044】
超電導バルク接合体1の銀の含有量の測定方法について説明する。まず、超電導バルク接合体1の断面を観察し、観察視野に対する銀粒子の面積率を求める。面積率は、一般的な画像処理ソフトウェア等を用いて観察写真を二値化する等の方法によって求めることができる。次に、銀粒子が均一に分布していると想定される場合には面積率と体積率は等しいとみなすことができるので、体積率と比重から超電導バルク接合体1中の銀の質量比(質量%)を算出することができる。
【0045】
(超電導バルク接合体の態様の例)
本発明の実施形態に係る超電導バルク接合体1は、図1Aおよび図1Bに示した態様に限られない。以下、本発明の実施形態に係る超電導バルク接合体1の他の態様について説明する。
【0046】
図3A〜Dは、本発明の実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様を示す概念図である。図3Aに示す超電導バルク接合体10Aは、図1Aに示したような、矩形状の接合本体2を、接合層3を介して直列に接合したものであるが、接合方法には様々な組み合わせ方が考えられる。
【0047】
図3Bに示す超電導バルク接合体10Bは、並列する2つの矩形状の接合本体2を、長手方向に互いにずれるように配置させて接合させた例である。図3Cに示す超電導バルク接合体10Cは、3つの矩形状の接合本体2を、短辺方向と長辺方向に組み合わせて接合した例である。短辺方向と長辺方向の両方で接合することによって、超電導電流の通電経路が増えることになるため、接合部分の超電導特性を改善する効果を有する。図3Dに示す超電導バルク接合体10Dは、図3Cにおいて長辺方向に配列して接合された2つの接合本体2を離した例である。接合本体2を離すことによって、図3Cに比べて、同一の接合本体2の量で、より長尺の超電導バルク接合体1が製造できる。図3A〜Dに示したような矩形状の接合本体2を長手方向に接合して長尺化した超電導バルク接合体10は、主に超電導バルク体の導体としての応用に用いられ得る。
【0048】
図4A〜Dは、本発明の実施形態に係る超電導バルク接合体の別の態様を示す概念図である。図3A〜Dでは、矩形状の接合本体2の例を示したが、接合本体2の形状は矩形状に限定するものではなく、様々な形状が考えられる。図4Aに示す超電導バルク接合体11Aは、2つの半円形状の接合本体2を接合して、円板形状の超電導バルク接合体とした例である。図4Bに示す超電導バルク接合体11Bは、複数の扇形状の接合本体2をそれぞれ接合して、中空の円板形状あるいはリング形状の超電導バルク接合体とした例である。図4Cに示す超電導バルク接合体11Cは、複数の四角形状の接合本体2をそれぞれ接合して、より大きな四角形状の超電導接合体とした例である。図4Dに示す超電導バルク接合体11Dは、複数の柱状の接合本体2を接合して、閉じた空間を形成する四角形状の超電導バルク接合体とした例である。
【0049】
なお、図4Aに示すような円板形状の超電導バルク接合体11Aは、主に超電導バルク体の磁石としての応用に用いられる。図4Bに示すような中空の円板形状の超電導バルク接合体11Bは、主に超電導バルク体の軸受としての応用に用いられる。図4Cに示すような四角形状の超電導バルク接合体11Cは、主に超電導バルク体の磁気シールドとしての応用に用いられる。図4Dに示すような閉じた四角形状の超電導バルク接合体11Dは、主に超電導バルク体の導体としての応用に用いられる。
【0050】
以上、本発明の実施形態に係る超電導バルク接合体の種々の態様について説明した。なお、本実施形態に係る超電導バルク接合体の態様は、図1A図1B図3A〜Dおよび図4A〜Dに示した例に限定されない。すなわち、接合本体2および接合層3中に銀粒子が分散され、複数の接合本体2間における結晶方位のずれを上述した許容範囲となるように接合本体2を配置し、接合層3を介して接合本体2を接合して得られる超電導バルク接合体1であれば、超電導バルク接合体1の態様は特に限定されない。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
本実施例では、図5A〜Cに示す超電導バルク接合体の例について説明する。図5Aは接合本体2と接合層3とに相当する試料を接合させて得られる超電導バルク接合体9の一例を示し、図5Bは超電導バルク接合体9から試験片1を切り出す際の例を示し、図5Cは切り出された試験片1の一例を示す。市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それに酸化セリウムを1質量%及び酸化銀を銀換算で10質量%加えた。この秤量粉を2時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
【0052】
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K〜1252Kの温度領域を100時間かけて徐冷して結晶成長させ、直径30mm、高さ15mmの単結晶状バルク体を得た。そして、この直径30mmの単結晶状バルク体から接合本体として、15mm(W)×12mm(L)×5mm(T)の矩形状試料を2個、結晶のc軸が5mm長の辺と平行になるように切り出した。当該試料は、接合本体2に相当する試料である。
【0053】
次に、市販されている純度99.9質量%のイットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Y:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それに酸化セリウムを1質量%及び酸化銀を銀換算で10質量%加えた。この秤量粉を2時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
【0054】
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形し、この成形体を1173Kで8時間焼結させ、直径30mm、高さ10mmの焼結体を得た。この直径30mmの焼結体から接合層として、15mm(W)×1mm(L)×5mm(T)の矩形状試料を1個切り出した。当該試料は、接合層3に相当する試料である。
【0055】
これらの接合本体2および接合層3となる酸化物は、REBaCu(REはY及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、yは酸素量で、6.8≦y≦7.1)中にREBaCuOが分散した酸化物超電導体からなるものである。また、接合本体2となる酸化物、および接合層3となる酸化物のそれぞれの溶融温度を測定したところ(切り出し後に残った部位で測定)、それぞれ、1277Kおよび1247Kであった。
【0056】
上記のように切り出した2つの接合本体2と1つの接合層3を図5Aのように隣り合わせて積層させたのちに電気炉内に配置し、接合本体と接合層の積層方向(長さ方向L)の上側に100gのアルミナ板を載せて加圧した状態で、1263Kまで加熱し、1時間保持した後、1223Kまで40時間かけて徐冷した。このようにして得られた超電導バルク接合体9を酸素気流中において723Kで100時間熱処理した。その後、図5Bおよび図5Cに示すように、接合層3が中央部になるように、25mm(L)×2.8mm(W)×2.1mm(T)の試験片1を4本切り出した。
【0057】
また、比較例1として、接合本体2が銀を含有していない超電導バルク接合体を製作し、接合層が中央部になるように25mm×2.8mm×2.1mmの試験片を4本製作した。なお、本比較例1に係る超電導バルク接合体は、接合本体2に銀が含まれていないこと以外は、本実施例に係る超電導バルク接合体と同様である。
【0058】
また、比較例2として、接合本体2および接合層3の両方が銀を含有していない超電導バルク接合体を製作しようとしたが、これらは十分に接合しなかった。そこで、超電導バルク接合体の製造時の徐冷開始温度を1263Kから1288Kに上げて超電導バルク接合体を製作し、接合層を中央部になるように25mm×2.8mm×2.1mmの試験片を4本製作した。なお、本比較例2に係る超電導バルク接合体は、接合本体2および接合層3に銀が含まれていないこと以外は、本実施例に係る超電導バルク接合体と同様である。
【0059】
さらに、比較例3として、接合層3が銀を含有していない超電導バルク接合体を製作しようとしたが、これらは十分に接合しなかった。そこで、超電導バルク接合体製造時の徐冷開始温度を1263Kから1288Kに上げて超電導バルク接合体を製作し、接合層を中央部になるように25mm×2.8mm×2.1mmの試験片を4本製作した。なお、本比較例3に係る超電導バルク接合体は、接合層3に銀が含まれていないこと以外は、本実施例に係る超電導バルク接合体と同様である。
【0060】
それぞれ4本の試験片のうち1本については、液体窒素中において四端子法を用いて通電試験を行った。その結果、本実施例、比較例1および比較例2の試験片についてはどれも600A以上通電できたが、比較例3の試験片については3A通電した時点で電気抵抗が発生し、それ以上の通電ができなかった。このことから、本実施例、比較例1および比較例2に係る超電導バルク接合体の77Kでの臨界電流密度が100A/mm以上あることが示され、これらの超電導バルク接合体の超電導特性が良好であることが確認できた。
【0061】
次に、本実施例、比較例1および比較例2のそれぞれの残りの3本の試験片について、図6に示すような四点曲げ試験を実施した。図6に示すように、かかる四点曲げ試験においては、試験片の長さ方向Lに沿って並設される二点の支点により試験片を支持したのち、結晶のc軸方向(厚み方向T)に平行な方向に左右両支点から等距離の位置に同じ大きさの二つの荷重を試験片1に対して負荷した。その結果、まず、本実施例の試験片についての曲げ試験強度の平均値は80MPaであった。一方、比較例1および比較例2の試験片についての曲げ試験強度の平均値はそれぞれ58MPaと62MPaであった。すなわち、本実施例に係る超電導バルク接合体の機械的強度が、各比較例に係る超電導バルク接合体よりも約3割改善することを確認できた。従って、本結果から、接合本体2および接合層3の両方が銀を含有することにより、超電導特性に優れ、機械的強度が強い超電導バルク接合体を提供することができることが示された。
【0062】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同様に図5A〜Cに示す超電導バルク接合体の例について説明する。ただし、実施例1とは異なり、本実施例では、接合本体2と接合層3の両方共に添加される酸化銀の添加量を変化させた複数の試験片を用意した。具体的には、本実施例では、酸化銀の添加量が銀換算で2質量%、5質量%、20質量%、30質量%、35質量%の場合について、実施例1と同様にして、図5Cに示すような、接合層を中央部になるように25mm×2.8mm×2.1mmの試験片を4本製作した。
【0063】
接合本体2のそれぞれの溶融温度は、2質量%で1295K、5質量%で1285K、20質量%で1277K、30質量%で1277K、35質量%で1277Kであった。また、接合層3のそれぞれの溶融温度は、2質量%で1266K、5質量%で1254K、20質量%で1247K、30質量%で1247K、35質量%で1247Kであった。
【0064】
それぞれ4本の試験片のうち1本については、液体窒素中において四端子法を用いて通電試験を行った。その結果、銀添加量が35質量%の場合には、超電導バルク接合体の77Kでの臨界電流密度は100A/mm以下であったが、それ以外の場合には、100A/mm以上あった。このことから、酸化銀の添加量が銀換算で2〜30質量%である超電導バルク接合体の超電導特性が良好であることが確認できた。
【0065】
次に、それぞれの残りの3本の試験片について四点曲げ試験を行い、その曲げ試験の結果(曲げ試験強度)を図7に示す。銀添加なしの場合に比べて銀添加量が2質量%の場合でも機械的特性が改善しており、10質量%までは機械的特性は銀添加量と共に増大し、30質量%まではほぼ一定の値を示した。一方、銀添加量が35質量%の場合には、超電導バルク接合体の機械的強度は低下した。すなわち、本実施例によって、銀添加量が2〜30質量%である超電導バルク接合体の機械的強度が改善することを確認できた。従って、本結果から、接合本体2および接合層3の両方が、銀添加量が2〜30質量%の範囲で銀を含有することにより、超電導特性に優れ、機械的強度が強い超電導バルク接合体を提供することができることが示された。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0067】
1、9、10、11 超電導バルク接合体
2 接合本体
3 接合層
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6
図7