(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0022】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0023】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のウィング8、一対のクリンチ10、一対のビード12、カーカス14、ベルト16、バンド18、インナーライナー20、一対のチェーファー22、及び一対のフィラー24を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
【0024】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面26を形成する。トレッド4には、溝28が刻まれている。この溝28により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は、ベース層30とキャップ層32とを有している。キャップ層32は、ベース層30の半径方向外側に位置している。キャップ層32は、ベース層30に積層されている。ベース層30は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層30の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。キャップ層32は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。
【0025】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6の半径方向外側部分は、トレッド4と接合されている。このサイドウォール6の半径方向内側部分は、クリンチ10と接合されている。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。このサイドウォール6は、カーカス14の損傷を防止する。
【0026】
それぞれのウィング8は、トレッド4とサイドウォール6との間に位置している。ウィング8は、トレッド4及びサイドウォール6のそれぞれと接合している。ウィング8は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。
【0027】
それぞれのクリンチ10は、サイドウォール6の半径方向略内側に位置している。クリンチ10は、軸方向において、ビード12及びカーカス14よりも外側に位置している。クリンチ10は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。クリンチ10はリムのフランジと当接する。
【0028】
それぞれのビード12は、クリンチ10の軸方向内側に位置している。このビード12は、サイドウォール6よりも半径方向内側に位置している。ビード12は、コア34と、このコア34から半径方向外向きに延びるエイペックス36とを備えている。コア34はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス36は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス36は、高硬度な架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、エイペックス36には、従来のタイヤのエイペックスで用いられている架橋ゴムと同等の架橋ゴムが用いられている。このタイヤ2では、エイペックス36の損失正接は0.2以上0.4以下である。このエイペックス36の損失正接は、低い発熱性を有する架橋ゴムのそれよりも高い。
【0029】
本発明においては、損失正接(tanδ)は、「JIS K 6394」の規定に準拠して測定される。この測定のための条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0030】
カーカス14は、カーカスプライ38を備えている。このタイヤ2のカーカス14は、1枚のカーカスプライ38からなる。このカーカス14が2枚以上のカーカスプライ38で構成されてもよい。
【0031】
このタイヤ2では、カーカスプライ38は、両側のビード12の間に架け渡されており、トレッド4、サイドウォール6及びクリンチ10に沿っている。カーカスプライ38は、それぞれのコア34の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ38には、主部40と一対の折り返し部42とが形成されている。カーカスプライ38は、主部40と一対の折り返し部42とを備えている。主部40は、一方のコア34と他方のコア34との間を架け渡している。それぞれの折り返し部42は、ビード12の軸方向外側において、コア34から半径方向略外向きに延在している。
図1に示されているように、このタイヤ2では、折り返し部42の端44は、半径方向において、エイペックス36の外端46よりも内側に位置している。このタイヤ2の折り返し部42は短い。短い折り返し部42は、タイヤ2の軽量化に寄与する。
【0032】
カーカスプライ38は、並列された多数のカーカスコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのカーカスコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス14はラジアル構造を有する。カーカスコードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0033】
ベルト16は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト16は、カーカス14と積層されている。ベルト16は、カーカス14を補強する。ベルト16は、内側層48及び外側層50からなる。
図1から明らかなように、軸方向において、内側層48の幅は外側層50の幅よりも若干大きい。ベルト16の軸方向幅は、タイヤ2の断面幅(JATMA参照)の0.65倍以上が好ましく、0.95倍以下が好ましい。ベルト16が、3以上の層を備えてもよい。
【0034】
図示されていないが、内側層48及び外側層50のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の一般的な絶対値は、10°以上35°以下である。内側層48のコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層50のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。この場合、この有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0035】
バンド18は、ベルト16の半径方向外側に位置している。軸方向において、バンド18の幅はベルト16の幅よりも大きい。
【0036】
図示されていないが、このバンド18は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド18は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。このコードによりベルト16が拘束されるので、ベルト16のリフティングが抑制される。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0037】
インナーライナー20は、カーカス14の内側に位置している。インナーライナー20は、カーカス14の内面に接合されている。インナーライナー20は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー20の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0038】
それぞれのチェーファー22は、ビード12の近傍に位置している。タイヤ2がリムに組み込まれると、このチェーファー22がリムと当接する。この当接により、ビード12の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー22は、布とこの布に含浸したゴムとからなる。このチェーファー22がクリンチ10と一体とされてもよい。この場合、チェーファー22の材質はクリンチ10の材質と同じとされる。
【0039】
図2には、このタイヤ2のビード12の部分がリム52とともに示されている。
図2において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
【0040】
このタイヤ2では、それぞれのフィラー24は、ビード12からカーカス14に沿って半径方向外向きに延在している。
図2に示されているように、折り返し部42の端44は、半径方向においてフィラー24の内端54とその外端56との間に位置している。フィラー24の内端54の部分は、軸方向において、ビード12と折り返し部42との間に位置している。このタイヤ2では、フィラー24の一部は、エイペックス36の軸方向外側からこのエイペックス36と接している。このフィラー24は、半径方向において、折り返し部42の端44からさらに外向きに延在している。
【0041】
図2において、タイヤ2はリム52に組み込まれている。このリム52は、正規リムである。このタイヤ2には、正規内圧となるように空気が充填されている。この
図2には、タイヤ2がリム52に組み込まれた状態が示されている。
【0042】
本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0043】
本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0044】
図2において、実線BBLはビードベースラインを表している。このビードベースラインは、タイヤ2が装着されるリム52のリム径(JATMA参照)を規定する線である。このビードベースラインは、軸方向に延びる。
【0045】
符号PSは、リム52の半径方向外側端である。本発明において、この外側端PSはリム52の外縁と称される。両矢印HRは、ビードベースラインからリム52の外縁PSまでの半径方向距離である。この距離HRは、リム高さ(又は、フランジ高さ)とも称される。この距離HRは、JATMAのR章「リムの輪郭(自動車用リムの輪郭)」、ETRTOの「R RIMS」及びTRAの「SECTION8 Rims」において、符号Gで示された寸法に対応している。
【0046】
図2に示されているように、このタイヤ2では、フィラー24の外端56は、半径方向において、リム52の外縁PSよりも外側に位置している。このフィラー24の内端54は、半径方向において、リム52の外縁PSよりも内側に位置している。
【0047】
図3には、フィラー24の一部がカーカス14の一部とともに模式的に示されている。この
図3は、
図2(又は
図1)の右側からこのタイヤ2の側面を見た状態に相当する。この
図3において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の周方向であり、紙面の垂直方向がタイヤ2の軸方向である。この
図3には、フィラー24の外端56の部分が示されている。
【0048】
このタイヤ2では、フィラー24は並列された多数のフィラーコード58を含んでいる。詳細には、このフィラー24は、多数のフィラーコード58とトッピングゴム60とからなる。この紙面では、説明の便宜のために、それぞれのフィラーコード58は太実線で表されている。しかしこのフィラー24においては、フィラーコード58はトッピングゴム60で覆われている。前述したように、カーカスプライ38は並列された多数のカーカスコード62とトッピングゴム64とからなる。この紙面では、説明の便宜のために、これらのカーカスコード62も太実線で表されているが、このカーカスプライ38においても、カーカスコード62はトッピングゴム64で覆われている。
【0049】
図3に示されているように、このタイヤ2では、フィラーコード58は周方向(又は半径方向)に対して傾斜している。前述したように、このタイヤ2のカーカス14はラジアル構造を有している。このカーカス14に含まれるカーカスコード62は、略半径方向に延在している。このタイヤ2では、フィラーコード58はカーカスコード62に対して傾斜している。言い換えれば、フィラーコード58はカーカスコード62と交差している。
【0050】
タイヤ2が路面と接触した時、このタイヤ2のビード12の部分には、周方向のせん断による大きな力が作用する。タイヤ2が路面から離れる時も、このタイヤ2のビード12の部分には、周方向のせん断による大きな力が作用する。
【0051】
このタイヤ2では、ビード12の部分に並列された多数のフィラーコード58を含むフィラー24が設けられている。
【0052】
このタイヤ2では、前述したように、フィラー24の内端54はリム52の外縁PSよりも半径方向内側に位置しており、フィラー24の一部はエイペックス36の軸方向外側からこのエイペックス36と接している。タイヤ2がリム52に組み込まれている状態において、このフィラー24の内端54の部分はビード12とリム52との間で十分に拘束される。しかも前述したように、フィラー24に含まれるフィラーコード58は周方向に対して傾斜している。このフィラー24は周方向のせん断による変形を効果的に抑制する。なお、このタイヤ2では、フィラー24の一部がエイペックス36だけでなくコア34とも接するように、このフィラー24が配置されてもよい。これによりフィラー24の内端54の部分がビード12とリム52との間でより十分に拘束されるので、このフィラー24が周方向のせん断による変形の抑制により効果的に寄与する。さらに十分な拘束が必要な場合には、フィラー24がコア34の周りで軸方向外側から内側に向かって折り返されてもよい。この場合、折り返されたフィラー24の端ではなく、コア34の半径方向内側に位置するフィラー24の位置が、フィラー24の内端54の位置とされる。
【0053】
図2において、両矢印βは、リム52の外縁PSからフィラー24の外端56までの半径方向距離を表している。この距離βは、リム52の外縁PSから突出するフィラー24の長さでもある。
【0054】
このタイヤ2では、前述したように、フィラー24の外端56はリム52の外縁PSよりも半径方向外側に位置している。特に、このタイヤ2では、リム52の外縁PSからフィラー24の外端56までの半径方向距離βは10mm以上である。このタイヤ2では、フィラー24が周方向のせん断による変形を効果的に抑制する。この観点から、この距離βは15mm以上が好ましい。このタイヤ2では、この距離βは30mm以下である。このタイヤ2では、タイヤ2におけるフィラー24のボリュームが適切に維持される。このタイヤ2では、フィラー24自体の発熱による転がり抵抗への影響が効果的に抑制される。この観点から、この距離βは25mm以下が好ましい。
【0055】
前述したように、このタイヤ2では、フィラー24は半径方向において折り返し部42の端44からさらに外向きに延在している。フィラー24は折り返し部42で覆われているのではなく、このフィラー24はこの折り返し部42から半径方向外向きに突出している。これにより、このタイヤ2では、ビード12からサイドウォール6に至る部分(以下、サイド部)が、折り返し部42の位置している部分から半径方向外向きに、その剛性が徐々に小さくなるように構成されている。このタイヤ2では、サイド部はしなやかに撓む。このフィラー24を含むサイド部は、操縦安定性にも寄与する。
【0056】
図2に示されているように、タイヤ2はリム52と接触している。この
図2において、符号PCは、このタイヤ2とリム52との接触面の半径方向外側端である。このタイヤ2がリム52に組み込まれた状態では、この外側端PCよりも半径方向内側部分はリム52に固定されているが、この外側端PCよりも半径方向外側の部分はリム52から解放されている。このため、タイヤ2に荷重が作用すると、この外側端PCよりも半径方向外側の部分は軸方向外向きに倒れるように変形する。
【0057】
ラジアル構造を有するカーカス14では、折り返し部42に含まれるカーカスコード62は略半径方向に延在している。このため、外側端PCよりも半径方向外側の部分が軸方向外向きに倒れるように変形すると、折り返し部42においてはカーカスコード62の間隔が拡がってしまう。このため、長い折り返し部42を採用しても、十分な補強効果は得られない。
【0058】
前述したように、このタイヤ2では、フィラー24に含まれているフィラーコード58は周方向に対して傾斜している。このタイヤ2では、外側端PCよりも半径方向外側の部分が軸方向外向きに倒れるように変形しても、フィラーコード58の間隔は拡がりにくい。このため、折り返し部42から突出するフィラー24が十分な補強効果を発揮する。このタイヤ2では、長い折り返し部42は不要である。
【0059】
図2に示されているように、このタイヤ2では、折り返し部42の端44は半径方向においてリム52の外縁PSよりも内側に位置している。このカーカスプライ38の折り返し部42は短い。前述したように、短い折り返し部42はタイヤ2の軽量化に寄与するので、転がり抵抗のさらなる低減を図ることができる。この観点から、このタイヤ2では、折り返し部42の端44は半径方向においてリム52の外縁PSよりも内側に位置しているのが好ましい。
【0060】
このタイヤ2では、フィラー24が周方向のせん断による変形を効果的に抑制する。小さな変形は発熱によるエネルギーロスを低減するので、このタイヤ2では、小さな転がり抵抗が達成される。しかもフィラー24がタイヤ2の剛性に効果的に寄与するので、このタイヤ2では、短い折り返し部42を採用しても、周方向のせん断による変形が効果的に抑制される。前述したように、短い折り返し部42は、転がり抵抗のさらなる低減に寄与する。このタイヤ2では、小さなエイペックス36を採用せずとも、小さな転がり抵抗が達成できる。本発明によれば、ビード12の部分の剛性を損なうことなく、小さな転がり抵抗が達成された空気入りタイヤ2が得られる。
【0061】
このタイヤ2では、フィラー24が剛性に効果的に寄与する。このため、小さなエイペックス36を採用しても、ビード12の部分は十分な剛性を有する。小さなエイペックス36は、転がり抵抗のさらなる低減を招来する。つまり、本発明では、小さなエイペックス36を採用することにより、転がり抵抗のさらなる低減を図ることも可能である。
【0062】
図2において、両矢印HAはビードベースラインからエイペックス36の外端46までの半径方向距離である。本発明においては、この距離HAによってエイペックス36の高さが把握される。
【0063】
このタイヤ2では、エイペックス36の高さに、特に、制限はないが、小さな転がり抵抗の観点から、このエイペックス36は小さな高さを有しているのが好ましい。具体的には、エイペックス36の外端46の位置は、半径方向において、リム52の外縁PSの位置と一致しているか、このエイペックス36の外端46がリム52の外縁PSよりも半径方向内側に位置しているのが好ましい。詳細には、リム高さHRに対する距離HAの比は1以下が好ましく、0.9以下がより好ましい。過小なエイペックス36は、剛性に影響する。ビード12の部分の剛性が適切に維持されるとの観点から、この比は0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
【0064】
図2において、両矢印HFはビードベースラインから折り返し部42の端44までの半径方向距離である。本発明においては、この距離HFは折り返し部42の半径方向高さである。
【0065】
前述したように、短い折り返し部42は転がり抵抗の低減に寄与する。この観点から、この折り返し部42の端44は、半径方向において、エイペックス36の外端46よりも内側に位置しているのが好ましい。具体的には、距離HAに対する折り返し部42の半径方向高さHFの比は、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。折り返し部42が短すぎると、十分なテンションが主部40に作用しなくなる恐れがある。この観点から、この比は0.3以上が好ましく、0.4以上がより好ましい。
【0066】
図3において、角度θは、フィラーコード58が周方向に対してなす角度である。この角度θは、フィラーコード58の傾斜角である。
【0067】
前述したように、このタイヤ2では、フィラーコード58は周方向に対して傾斜している。このフィラーコード58を含むフィラー24は、このタイヤ2の半径方向及び周方向それぞれの剛性に寄与する。タイヤ2が路面と接触した時、そして、タイヤ2が路面から離れる時に、このタイヤ2のビード12の部分に生じる、周方向のせん断による大きな力に抗するように、このフィラー24は作用する。このタイヤ2では、周方向のせん断による変形が効果的に抑制される。このタイヤ2では、操縦安定性及び乗り心地をバランスよく整えつつ、小さな転がり抵抗が達成される。この観点から、フィラーコード58の傾斜角θは、17°以上が好ましく、60°以下が好ましい。タイヤ2において、外側端PCよりも半径方向外側の部分が軸方向外向きに倒れるように変形した場合に、フィラーコード58の間隔がより拡がりにくくなり、このフィラー24がより十分な補強効果を発揮するとの観点から、この傾斜角θは、21°以上がより好ましく、55°以下がより好ましい。特に好ましくは、この傾斜角θは35°である。
【0068】
前述したように、フィラー24は多数のフィラーコード58を含んでいる。このタイヤ2では、フィラー24におけるフィラーコード58の密度は、44エンズ/5cm以上が好ましい。これにより、このタイヤ2では、フィラー24に含まれるトッピングゴム60のボリュームが適切に維持される。このタイヤ2では、フィラー24のトッピングゴム60による転がり抵抗への影響が効果的に抑制される。このタイヤ2では、フィラーコード58の密度は65エンズ/5cm以下が好ましい。これにより、フィラーコード58間の距離が十分に確保され、このフィラー24による耐久性への影響が抑えられる。
【0069】
本発明においては、フィラーコード58の密度は、フィラー24の、フィラーコード58の長さ方向に垂直な断面において、このフィラー24の5cm幅あたりに存在するフィラーコード58の断面の数(エンズ)を計測することにより得られる。
【0070】
このタイヤ2では、フィラーコード58の材質に特に制限はない。フィラーコード58にスチールコードが用いられてもよいし、このフィラーコード58に有機繊維からなるコードが用いられてもよい。フィラーコード58に有機繊維からなるコードが用いられる場合、この有機繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。周方向のせん断による変形が効果的に抑制されるとの観点から、このフィラーコード58としては、スチールコード又はアラミド繊維からなるコードが好ましい。特に好ましいフィラコードは、スチールコードである。
【0071】
図4には、フィラーコード58の断面が示されている。この
図4に示されているように、フィラーコード58は撚り線である。このフィラーコード58は、複数のフィラメント66からなる。
【0072】
図4から明らかなように、このタイヤ2では、フィラーコード58は2本のフィラメント66からなる。このフィラーコード58は、2本のフィラメント66が撚り合わされた撚り線である。このフィラーコード58の構成は、「1×2」で表される。このフィラーコード58は、単撚り構造を有している。
【0073】
このタイヤ2では、フィラー24に用いられるフィラーコード58は、
図4に示された撚り線に限られない。3本のフィラメント66からなる撚り線がフィラーコード58として用いられてもよいし、4本のフィラメント66からなる撚り線がフィラーコード58として用いられてもよい。しかしフィラメント66の本数が3本以上とされた撚り線には、その断面中心に隙間が形成されてしまう。この隙間は水分等の通り道となり、フィラーコード58にスチールコードを採用した場合、錆等が発生する恐れがある。この観点から、断面中心にこの隙間の形成のない、2本のフィラメント66が撚り合わされた撚り線、すなわち、「1×2」で構成が表されるコードが、フィラーコード58としては好ましい。
【0074】
図4において、両矢印DFはフィラメント66の外径である。両矢印DCは、フィラーコード58の外径である。本発明においては、この外径DCはフィラーコード58をなす複数のフィラメント66の外接円の直径で表される。
【0075】
このタイヤ2では、フィラー24が周方向のせん断による変形を効果的に抑制できるとの観点から、フィラーコード58をなすフィラメント66の外径DFは0.15mm以上が好ましい。フィラー24におけるトッピングゴム60のボリュームを低減し、小さな転がり抵抗が維持できるとの観点から、この外径DFは0.30mm以下が好ましい。
【0076】
このタイヤ2では、フィラー24が周方向のせん断による変形を効果的に抑制できるとの観点から、フィラーコード58の外径DCは0.3mm以上が好ましい。フィラー24におけるトッピングゴム60のボリュームを低減し、小さな転がり抵抗が維持できるとの観点から、この外径DCは0.5mm以下が好ましい。
【0077】
このタイヤ2では、フィラー24の長さは、20mm以上が好ましく、40mm以下が好ましい。この長さが20mm以上に設定されることにより、リム52の外縁PSから突出するフィラー24の長さβを十分に確保でき、周方向のせん断による変形が効果的に抑制される。この長さが40mm以下に設定されることにより、フィラー24のボリュームによる転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる。なお、このフィラー24の長さは、
図1(又は
図2)に示された断面において、フィラー24の内端54からその外端56までの長さをこのフィラー24に沿って計測することにより得られる。
【0078】
タイヤ2の偏平率は、タイヤ2を構成する各部材の、転がり抵抗への貢献の程度に影響する。つまり、同じ特性を有する部品を同じように配置しても、偏平率の相違によって、作用の発揮の程度に相違が生じることがある。転がり抵抗への貢献の程度に関しては、偏平率が小さくなると、サイド部よりもトレッド4の部分が支配的である。このため、小さな偏平率を有するタイヤ2では、周方向のせん断による変形を抑制するために設けたフィラー24による作用は、高い偏平率を有するタイヤ2に比べて、幾分弱められる傾向にある。フィラー24による作用が十分に発揮できるとの観点から、このタイヤ2では、偏平率は60%以上が好ましい。なお、このタイヤ2の偏平率は、このタイヤ2の断面幅に対するこのタイヤ2の断面高さの比率で表される。
【0079】
本発明では、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、特に言及のない限り、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。タイヤ2が乗用車用である場合は、特に言及のない限り、内圧が180kPaの状態で、寸法及び角度が測定される。
【0080】
本明細書において正規荷重とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0082】
[実施例1]
図1に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、195/65R15である。この実施例1では、フィラーには、
図4に示された構成のスチールコードがフィラーコードとして用いられた。このフィラーコードの外径(コード径)DCは、0.5mmであった。フィラーにおけるフィラーコードの密度は、44エンズ/5cmであった。フィラーコードが周方向に対してなす角度θは、35°であった。
【0083】
この実施例1では、リムの外縁からフィラーの外端までの半径方向距離βは、20mmであった。なお、フィラーの長さは30mmであった。
【0084】
この実施例1では、
図2に示されているように、フィラーの一部はビードのエイペックスとは接していたが、コアとは接してはいなかった。このことが、表1の「APEX」の欄には「Y」で、この表1の「CORE」の欄には「N」で表されている。
【0085】
[比較例1]
フィラーを設けなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。この比較例1は、従来のタイヤである。
【0086】
[実施例2及び比較例2−4]
フィラーの長さを変えて距離βを下記の表1に示された通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例2−4のタイヤを得た。実施例2及び比較例2では、フィラーの一部は、エイペックスだけでなく、コアとも接していた。このことが、表1の「APEX」及び「CORE」の欄に「Y」で表されている。比較例3では、フィラーは、コアだけでなく、エイペックスとも接していなかった。このことが、表1の「APEX」及び「CORE」の欄に「N」で表されている。
【0087】
[実施例3]
フィラーコードにアラミド繊維からなるコードを採用した他は実施例1と同様にして、実施例3のタイヤを得た。このアラミド繊維からなるコードの構成は、1670dtex/2であった。
【0088】
[実施例4−7]
フィラーの長さを変えて距離βを下記の表2に示された通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4−7のタイヤを得た。この実施例4−7では、リムの外縁からフィラーの内端までの半径方向距離は、実施例1のそれと同じである。
【0089】
[実施例8−10]
コード径を下記の表3に示された通りとした他は実施例2と同様にして、実施例8−10のタイヤを得た。
【0090】
[実施例11−13]
フィラーコードの密度を下記の表3に示された通りとした他は実施例2と同様にして、実施例11−13のタイヤを得た。
【0091】
[実施例14−17]
フィラーコードが周方向に対してなす角度θ(傾斜角θ)を下記の表4に示された通りとした他は実施例1と同様にして、実施例14−17のタイヤを得た。
【0092】
[転がり抵抗係数(RRC)]
転がり抵抗試験機を用い、下記の測定条件で転がり抵抗係数を測定した。
使用リム:15×6JJ(アルミニウム合金製)
内圧:230kPa
荷重:4.24kN
速度:80km/h
この結果が、指数で、下記の表1−3に示されている。数値が小さいほど転がり抵抗は小さく好ましい。
【0093】
[操縦安定性及び乗り心地]
タイヤをリム(15×6JJ)に組み込み、このタイヤに内圧が230kPaとなるように空気を充填した。このタイヤを、排気量が2000ccである乗用車に装着した。ドライバーに、この乗用車をレーシングサーキットで運転させて、操縦安定性及び乗り心地を評価させた。この結果が、実施例1を100とした指数で下記の表4に示されている。数値が大きいほど好ましい。操縦安定性及び乗り心地の合計値に関しても、数値が大きいほど好ましい。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
表1−4に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。