(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発振器から出力した電力により、超音波振動子に、上下方向の超音波振動を発振させ、その振動を、下端側に行くに従って細くなる柱体状のホーンによって増幅して、試験対象の柱体状の試験片に与え、試験片の疲労強度を評価する疲労試験方法であって、
前記ホーンの下端部に、上端部の外径が該ホーンの下端部の外径と同等以下で、かつ、下端部の外径が上端部よりも小径な柱体状に形成され、ホーンの振動と共振する補助ホーンを装着し、前記補助ホーンにより、前記ホーンで増幅した振動を、疲労試験に必要な応力を試験片に発生させる振幅以上に増幅するとともに、
試験片の上端部に突設した試験片取付用の雄ねじ部を、前記補助ホーンの下端部に設けた、該雄ねじ部に適合する試験片取付用の雌ねじ孔に螺挿して、試験片を補助ホーンに取付けて、試験片を補助ホーンの振動と共振させ、
前記試験片における軸方向の中間部に、該試験片の上端部側及び下端部側よりも小径で、かつ、疲労強度を評価するのに必要な体積を有する評価対象部位としての括れ部を形成して、該括れ部の軸方向中央部に最大応力を発生させ、かつ、前記評価対象部位の全長に亘って、疲労試験に必要な応力を発生させることを特徴とする疲労試験方法。
超音波の発生に必要な電力を供給する超音波発振器と、該超音波発振器の出力を受けて超音波振動を上下方向に発振する超音波振動子と、下端側に行くに従って次第に細くなる柱体状に形成されて、前記超音波振動子が発振した振動を増幅するホーンとを有し、柱体状の試験片に振動を与え、該試験片の疲労強度を評価する疲労試験装置において、
前記ホーンの下端部に、上端部の外径が該ホーンの下端部の外径と同等以下で、かつ、下端部が上端部よりも小径な柱体状に形成され、該ホーンの振動と共振して、該ホーンで増幅された振動を、前記試験片の疲労強度を評価する評価対象部位に最大応力を発生させるとともに、該評価対象部位の全長に亘って疲労試験に必要な応力を発生させる振幅以上に増幅する補助ホーンが装着され、
前記補助ホーンの下端部に、前記試験片の上端部に突設した試験片取付用の雄ねじ部を螺挿して、該試験片を取付けることができる試験片取付用の雌ねじ孔が形成され、
前記評価対象部位が、上端部側及び下端部側よりも小径で、かつ、疲労強度を評価するのに必要な体積を有し、前記評価対象部位の軸方向中央部に最大応力を発生させる括れ部を備えることを特徴とする疲労試験装置。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材料の疲労強度を評価する疲労試験として、超音波を用いた疲労試験が広く用いられている。この疲労試験は、例えば、特許文献1に記載されているように、超音波の発生に必要な電力を供給する発振機と、発振機の出力を受けて超音波振動を発振する超音波振動子と、超音波振動子が発振する振動と共振して振動を増幅し、増幅した振動を略柱体状の試験片に与えるホーンとを備えた疲労試験装置を用いて、試験片をホーンの振動と共振させ、試験片の軸方向に、引張と圧縮の繰返し応力を発生させて疲労破壊を生じさせて疲労強度を評価する試験である。
【0003】
通常、試験片として用いる標準試験片は、
図6に示すように、試験片10の軸方向の中間部に、疲労強度を評価する評価対象部位としての括れ部10aを設けた、いわゆる、サーキュラテーパ型(砂時計型)に形成されていて、括れ部10aに、最大応力を発生させる構造となっている。
【0004】
試験片10は、上端側に突設した雄ねじ部10bを、ホーンの下端側に設けた雌ねじ孔に螺挿させることで、ホーンの下端側に連結されるが、標準試験片(外径D1:10mm、括れ部の外径D2:3mm)は、雄ねじ部10bが直径6mmに設定されていて、現在、広く知られている一般的な疲労試験機においては、ホーンの雌ねじ孔が、雄ねじ部の径に適合する大きさの径に形成されている。
【0005】
試験対象が、特定の金属材料又は金属製品等である場合、例えば、特定径の棒鋼や線材、又は、金属製品の一部分である場合、その金属材料等に切削等の加工を加えて試験片を成形するが、このとき、疲労試験を行いたい金属材料が、外径6mm未満の比較的小径の棒鋼や線材等である場合、又は、各種金属製品等において、疲労試験を行いたい部分が小さくて、6mmの外径を取ることができない場合、直径6mmの雄ねじ部を形成できないため、ホーンに取付けることができず、疲労試験を行なうことができない。
【0006】
また、疲労試験を行う際、試験片において、疲労破壊を生じさせる括れ部の体積、即ち、評価体積が小さいと、括れ部の内部に存在して、内部破壊の起点となる介在物の量が小量となって、疲労破壊が生じ難くなるので、評価体積となる括れ部の体積を、十分に確保する必要がある。
【0007】
そうすると、小径の試験片においては、括れ部の径が、他の部分の外径よりも細くなり、括れ部の体積、即ち、評価体積が小さくなってしまうので、何らかの方法でホーンに取付けることができたとしても、疲労によって破壊する確率が著しく低下してしまい、正確、かつ、迅速な疲労試験を行うことができない。
【0008】
この問題を解消するため、
図7(a)に示すように、括れ部の外径を可能な範囲で太くしたり、軸方向長さを長くしたりして、試験片の評価体積を大きくすることが考えられるが、そのように評価体積を増やした場合には、
図7(b)に示すように、評価体積部分に発生する最大応力が低下するので、疲労強度の正確な評価を行う疲労試験に必要な応力が得られない。したがって、小径の試験片については、単純に評価体積を大きくするだけでは、疲労強度を正確に評価することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来、超音波疲労試験装置で疲労試験を行うことができなかった比較的小径の試験片の疲労強度を正確に評価することを課題とし、該課題を解決する疲労試験方法及び疲労試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決する手法につて鋭意検討した。その結果、ホーンの下端部に、ホーンの振動と共振しホーンで増幅した振動を、疲労試験に必要な応力を試験片に発生させる振幅以上に増幅する補助ホーンを取り付け、補助ホーンに試験片を取り付けて、試験片を補助ホーンの振動と共振させると、比較的小径の試験片の疲労強度を正確に評価できることを見いだした。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は次のとおりである。
【0013】
(1)発振器から出力した電力により、超音波振動子に、上下方向の超音波振動を発振させ、その振動を、下端側に行くに従って細くなる柱体状のホーンによって増幅して、試験対象の柱体状の試験片に与え、試験片の疲労強度を評価する疲労試験方法であって、
上記ホーンの下端部に、上端部の外径が該ホーンの下端部の外径と同等以下で、かつ、下端部の外径が上端部よりも小径な柱体状に形成され、ホーンの振動と共振する補助ホーンを装着し、上記補助ホーンにより、ホーンで増幅した振動を、疲労試験に必要な応力を試験片に発生させる振幅以上に増幅するとともに、
試験片の上端部に突設した試験片取付用の雄ねじ部を、上記補助ホーンの下端部に設けた、該雄ねじ部に適合する試験片取付用の雌ねじ孔に螺挿して、試験片を補助ホーンに取付けて、試験片を補助ホーンの振動と共振させることにより、
試験片において、疲労強度の評価を行う評価対象部位に最大応力を発生させ、かつ、評価対象部位の全長に亘って、疲労試験に必要な応力を発生させる
ことを特徴とする疲労試験方法。
【0014】
(2)前記試験片における軸方向の中間部に、上端部側及び下端部側よりも小径で、かつ、疲労強度を評価するのに必要な体積を有する評価対象部位としての括れ部を形成して、該括れ部の軸方向中央部に、最大応力を発生させることを特徴とする前記(1)に記載の疲労試験方法。
【0015】
(3)前記補助ホーンの形状を、下端部側に行くに従って指数関数曲線をなすように湾曲する外周面の先細り形状とすることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の疲労試験方法。
【0016】
(4)前記補助ホーンの形状を、下端部側に行くに従って次第に小径となる円錐台状、又は、下端側が段状に細くなる形状とすることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の疲労試験方法。
【0017】
(5)超音波の発生に必要な電力を供給する超音波発振器と、該超音波発振器の出力を受けて超音波振動を上下方向に発振する超音波振動子と、下端側に行くに従って次第に細くなる柱体状に形成されて、上記超音波振動子が発振した振動を増幅するホーンとを有し、柱体状の試験片に振動を与え、該試験片の疲労強度を評価する疲労試験装置において、
上記ホーンの下端部に、上端部の外径が該ホーンの下端部の外径と同等以下で、かつ、下端部が上端部よりも小径な柱体状に形成され、ホーンの振動と共振して、該ホーンで増幅された振動を、上記試験片の疲労強度を評価する評価対象部位に最大応力を発生させるとともに、該評価対象部位の全長に亘って疲労試験に必要な応力を発生させる振幅以上に増幅する補助ホーンが装着され、
上記補助ホーンの下端部に、上記試験片の上端部に突設した試験片取付用の雄ねじ部を螺挿して、該試験片を取付けることができる試験片取付用の雌ねじ孔が形成されている
ことを特徴とする疲労試験装置。
【0018】
(6)前記評価対象部位が、上端部側及び下端部側よりも小径で、かつ、疲労強度を評価するのに必要な体積を有し、前記評価対象部位の軸方向中央部に最大応力を発生させる括れ部を備えることを特徴とする前記(5)に記載の疲労試験装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、超音波疲労試験装置のホーンに、試験片取付用の雌ねじ孔を有する補助ホーンを取り付け、従来、直接、ホーンに取り付けることが難しかった小径の試験片の上端部に試験片取付用の雄ねじ部を突設して、該雄ねじ部を、補助ホーンの試験片取付用の雌ねじ孔に螺挿することにより、試験片を、補助ホーンを介してホーンに取り付けることができるので、小径の試験片でも、確実に疲労試験を行うことができる。
【0020】
さらに、本発明によれば、補助ホーンは、上端部の外径が、ホーンの下端部の外径と同等以下で、かつ、下端部の外径が、上端部よりも小径の柱体状に形成されているので、ホーンによって増幅した超音波振動を、さらに、補助ホーンで増幅することができ、最終的に、超音波振動の振幅を、試験片の評価対象部位に疲労試験に必要な応力を発生させる振幅以上に増幅することができるので、試験片の評価対象部位の外径を太くしたり、又は、軸方向長さを長くしたりして、疲労強度の評価に必要な評価体積を増大しなくても、疲労破壊に必要な応力を発生させることが可能となり、従来、困難であった小径の試験片の疲労試験を確実に行うことができ、疲労強度を正確に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の疲労試験方法(以下「本発明方法」ということがある。)は、
発振器から出力した電力により、超音波振動子に、上下方向の超音波振動を発振させ、その振動を、下端側に行くに従って細くなる柱体状のホーンによって増幅して、試験対象の柱体状の試験片に与え、試験片の疲労強度を評価する疲労試験方法であって、
上記ホーンの下端部に、上端部の外径が該ホーンの下端部の外径と同等以下で、かつ、下端部の外径が上端部よりも小径な柱体状に形成され、ホーンの振動と共振する補助ホーンを装着し、上記補助ホーンにより、ホーンで増幅した振動を、疲労試験に必要な応力を試験片に発生させる振幅以上に増幅するとともに、
試験片の上端部に突設した試験片取付用の雄ねじ部を、上記補助ホーンの下端部に設けた、該雄ねじ部に適合する試験片取付用の雌ねじ孔に螺挿して、試験片を補助ホーンに取付けて、試験片を補助ホーンの振動と共振させることにより、
試験片において、疲労強度の評価を行う評価対象部位に最大応力を発生させ、かつ、評価対象部位の全長に亘って、疲労試験に必要な応力を発生させる
ことを特徴とする。
【0023】
本発明の疲労試験装置(以下「本発明装置」ということがある。)は、
超音波の発生に必要な電力を供給する超音波発振器と、該超音波発振器の出力を受けて超音波振動を上下方向に発振する超音波振動子と、下端側に行くに従って次第に細くなる柱体状に形成されて、上記超音波振動子が発振した振動を増幅するホーンとを有し、柱体状の試験片に振動を与え、該試験片の疲労強度を評価する疲労試験装置において、
上記ホーンの下端部に、上端部の外径が該ホーンの下端部の外径と同等以下で、かつ、下端部が上端部よりも小径な柱体状に形成され、ホーンの振動と共振して、該ホーンで増幅された振動を、上記試験片の疲労強度を評価する評価対象部位に最大応力を発生させるとともに、該評価対象部位の全長に亘って疲労試験に必要な応力を発生させる振幅以上に増幅する補助ホーンが装着され、
上記補助ホーンの下端部に、上記試験片の上端部に突設した試験片取付用の雄ねじ部を螺挿して、該試験片を取付けることができる試験片取付用の雌ねじ孔が形成されている
ことを特徴とする。
【0024】
以下、本発明方法及び本発明装置について図面に基づいて説明する。
【0025】
図1に、本発明の疲労試験装置の態様(左図)、及び、疲労試験装置の各位置での振幅及び応力(右図)を示す。
図1に示す疲労試験装置は、外径が6mm未満、具体的には2.5〜5mm程度の試験片、即ち、標準的な試験片に比べ、比較的小径の試験片の疲労試験に適したものとなっている。
【0026】
図1の左図に示す本発明装置は、超音波の発生に必要な電力を供給する超音波発振器1と、超音波発振器1の出力を受けて超音波振動を上下方向に発振する超音波振動子2と、超音波振動子2が発振した振動を増幅するホーン3とを有している。
【0027】
ホーン3の下端部には、ホーン3によって増幅された振幅を、さらに増幅する補助ホーン4が装着され、補助ホーン4の下端部には、疲労試験の対象の試験片5が取り付けられている。ホーン3及び補助ホーン4を通じて試験片5に振動を加えることにより、試験片5に、軸方向の引張及び圧縮の繰り返し応力を発生させて、試験片5の疲労強度を評価する。
【0028】
試験片5の下方には、試験片5の振幅を測定する変位計(図示なし)が設置されている。
図1の右図(疲労試験装置の各位置での振幅及び応力を示す)において、実線及び一点鎖線は応力を、破線及び二点鎖線は振幅(変位)を表していて、
図1の右図は、破線で表す振幅が生じている時には、実線で表す応力が発生し、一点鎖線で表す振幅が生じている時には、二点鎖線で表す応力が発生していることを示している。
【0029】
超音波振動子2は、ランジュバン式のピエゾ素子を備えていて、超音波発振器1からの出力によって、上下方向に振動する超音波振動を発生させ、超音波振動は、超音波振動を増幅させるブースター2aを介してホーン3に伝達される。例えば、超音波振動子2は、20kHzの超音波振動を発振するように設定されている。
【0030】
ホーン3は、超音波振動子2の下端部(実際には、ブースター2aの下端部)に取付けられていて、断面が略円形状で、かつ、下端側に行くに従って次第に細くなる柱体状に形成されていて、超音波振動子2から発振された超音波振動に共振して、超音波振動を増幅する。例えば、ホーンは20kHzで共振するように設定されている。
【0031】
なお、超音波発振器1、超音波振動子2、及び、ホーン3は、周知の超音波疲労試験装置(例えば、特許文献1に記載、参照)の構成と略同じであるから、詳細な説明は省略する。
【0032】
補助ホーン4は、上端部の外径がホーン3の下端部の外径と同等以下(
図1は、同等の場合を示している。)で、かつ、下端部が上端部よりも小径な柱体状に形成されていて、ホーン3と同じ周波数特性に設定されているので、ホーン3の振動に共振する。
【0033】
補助ホーン4がホーン3の振動と共振すると、ホーン3で増幅された振動がさらに増幅されるので、補助ホーン4は、最終的には、超音波振動を、試験片5の括れ部6(後述する)に疲労試験に必要な応力を発生させる振幅以上に増幅する。
【0034】
疲労試験に必要な応力は、疲労試験の対象となる金属材料の用途等による要求特性(耐疲労性)に基づき、所定の負荷回数で破損しない(又は、疲労破壊する)応力を求める場合等、疲労試験の目的により適宜決定するものであるが、その必要な応力に基づいて補助ホーン4の振幅をどの程度の大きさにすればよいか、又は、ホーン3からの振動の振幅を補助ホーン4でどの程度増幅する必要があるか等が判断され、その結果に基づいて、補助ホーン4の最終的な形状が設定される。なお、補助ホーン4が振動を増幅する原理は、基本的に、ホーン3と同じである。
【0035】
図2に、本発明の補助ホーンの一態様(上段部が左側、下端部が右側)を示す。補助ホーン4は、
図2に示すように、下端部(右側)に行くに従って指数関数曲線をなすように湾曲する外周面を備える先細り状に形成され、断面が略円形状である(以下、「指数型」ということがある。)。指数型の補助ホーン4は、外周面がなだらかに細くなるので、補助ホーン内での最大応力を低く抑制できるという利点を有している。
【0036】
指数型の補助ホーン4は、振動方程式が次式で表され、ホーン3と20kHzで共振するように設定されている。
【0038】
上記(1)式において、lは、補助ホーンの軸方向長さ、S1は、下端側(小径側)の断面積、S2は、上端側(大径側)の断面積、ωは、角振動数(rad/s)、cは、超音波振動の速度(m/s)である。
【0039】
指数型の補助ホーン4においては、S1及びS2を設定し、ホーン3の振動の周波数と共振する長さlを上記(1)式で決定すれば、指数関数の曲線に倣って外周面の軸方向の曲がり具合を算出することができる。
【0040】
図2に示す補助ホーンの場合、下端側の直径が6mm、上端側の直径が19mm、軸方向長さ1が30.71mmに設定されており、外周面は、補助ホーンの径方向をy軸、軸方向をx軸とした場合、外周面は、y=3exp(8.872x)で表される指数関数の曲線状をなすように形成されている。
【0041】
指数型の補助ホーン4の増幅率Tは、下記(2)式で表される。下記(2)式において、S1は、下端側(小径側)の断面積、S2は、上端側(大径側)の断面積である。
【0043】
上記(2)式により増幅率Tを決定すれば、試験片5の疲労試験に最低限必要とされる応力を発生させる振幅を得るために、超音波振動子2及びホーン3の振幅、さらに、超音波発振器1の出力を設定することができる。
図2に示す補助ホーン4の場合、増幅率は約3.17倍程度である。
【0044】
図3に、疲労試験の対象となる試験片(上段部が左側、下端部が右側)の態様を示す。試験片5は、
図3に示すように、軸方向の中間部に、上端部側及び下端部側の外径よりも小径の括れ部6が形成された、サーキュラテーパ型(砂時計型)の形状の試験片である。括れ部6の中央を中心に上下対称であり、上端部には、補助ホーン4への取付けに供する試験片取付用の雄ねじ部5a(後述する)が突設されている。
【0045】
試験片5は、ホーン3及び補助ホーン4と同じ周波数特性を有していて、ホーン3及び補助ホーン4の振動と同じ周波数で共振する。
【0046】
括れ部6は、疲労強度の評価を行う評価対象部位となる部分を含んでいる。補助ホーン4の振動と共振すると(
図1、参照)、括れ部のほぼ中央に、補助ホーン4によって増幅された振動の節が位置し、この部分に、最大応力が発生する。試験片5は、下記(3)式の振動方程式に従って、補助ホーン4と20kHzで共振するように設計されている。
【0048】
上記(3)式において、D1は、外径(mm)、D2は、括れ部の外径(mm)、Lは、括れ部の軸方向長さ(mm)、lは、試験片の端部から括れ部の一番近い端部までの軸方向長さ(mm)、ρは、密度(kg/m
3)、Eは、ヤング率(N/m
2)、ωは、角振動数(rad/s)、cは、超音波振動の速度(m/s)である。
【0049】
試験片5は、外径、括れ部の径、及び、括れ部の軸方向長さを設定することにより、上記(3)式から、試験片の端部から括れ部の端までの軸方向長さlを決定することができれば、試験片全体の形状を決定することができる。
【0050】
試験片5の括れ部6は、疲労強度を評価するために必要な体積(評価対象部位の体積)、即ち、評価体積Vを有しており、評価体積Vは下記(4)式で算出される。
【0052】
上記(4)式において、D1は、外径(mm)、D2は、括れ部の外径(mm)、Lは、括れ部の軸方向長さ(mm)である。
【0053】
サーキュラテーパ型の試験片の疲労破壊は、多くの場合、発生する最大応力の約90%以上の大きさの応力が発生する範囲で生じることが既に知られている。したがって、評価体積を決定する際には、最大応力の約90%以上の大きさの応力が発生する範囲(評価対象部位)が括れ部内に位置するように、括れ部の外径や、軸方向長さを設定する必要がある。
【0054】
小径の試験片の場合、括れ部の外径は変更する余地が少ないことから、多くの場合、括れ部の軸方向長さを長くすることで、評価体積を大きくすることになる。
【0055】
評価体積の大きさは、できるだけ大きい方が望ましいが、実際は、括れ部に発生させることができる最大応力の大きさ、即ち、ホーン3や補助ホーン4によって増幅できる超音波振動の振幅との関係で決定され、括れ部6に最大応力の約90%以上の大きさの応力が発生する範囲内で設定される。
【0056】
試験片5の括れ部6に発生する最大応力(最大公称応力)Sは、下記(5)式で表される。
【0058】
上記(5)式において、aは、試験片の下端部での振幅(変位:m)、Eは、ヤング率(N/m
2)であり、β及びbは、上記(3)式におけるβ及びbである。
【0059】
最大応力は、変位計で測定した、試験片5の下端部の変位量を、上記(5)式に代入して算出することができる。上記(5)式から解るように、最大応力は振幅に比例するから、上記(5)式で算出する最大応力が、括れ部6を疲労試験するのに必要な応力以上となるよう、試験片5に与える振動の振幅を、補助ホーンで増幅する。
【0060】
図3に示す試験片5は、外径が5mm、括れ部の外径が3mm、括れ部の軸方向長さが60mmに設定されている。評価体積は128mm
3で、標準試験片の評価体積の約4倍程度の体積であり、補助ホーン4の使用により、約1674MPa程度の最大応力が発生する。
【0061】
補助ホーン4は、補助ホーン4の上端部に突設した補助ホーン取付用の雄ねじ部4aが、ホーン3の下端部に設けた補助ホーン取付用の雌ねじ孔(図示なし)に螺挿されることにより、ホーン3に連結、装着されている。
【0062】
ホーン3には、通常、上端部に直径6mmの雄ねじ部を突設し標準試験片が取付けられるので、標準試験片の雄ねじ部を螺挿する直径6mmの雌ねじ孔が下端部に形成されている。それ故、ホーン3へ補助ホーン4を装着する際には、補助ホーン4の雄ねじ部4aの直径は6mmとし、ホーン3の雌ねじ孔を、補助ホーン取付用として、そのまま利用するのが好ましい。
【0063】
試験片5は、試験片5の上端部に突設した試験片取付用の雄ねじ部5aが、補助ホーン4の下端部に設けた試験片取付用の雌ねじ孔4bに螺挿して、補助ホーン4に連結されて、補助ホーン4に取付けられる。
【0064】
補助ホーン4の試験片取付用の雌ねじ孔4bは、試験片5の雄ねじ部5aと適合する大きさに形成されている。疲労試験の対象が、外径2.5〜5mmの試験片の場合、試験片取付用の雄ねじ部5aの外径は2mmに設定され、試験片取付用の雌ねじ孔4bも直径2mmに設定されている。
【0065】
試験片5の雄ねじ部5aの外径が6mm未満で、ホーン3の雌ねじ孔に螺挿できず、試験片5を、直接、ホーン3に取付けられない場合、補助ホーン4がアタッチメントとして機能して、試験片5を、間接的にホーン3に装着することができ、標準試験片よりも小径の試験片でも、疲労試験を行うことが可能となる。
【0066】
なお、
図1に示すように、補助ホーン4とホーン3の連結部分、及び、補助ホーン4と試験片5の連結部分は、いずれも、振動の振幅の腹に当たり、振幅自体は大きいものの、発生する応力は略0となるので、これらの連結部分において、疲労破壊は生じ難い。
【0067】
図1に示す疲労試験装置で疲労試験を行う際には、ホーン3の下端部に共振する補助ホーン4を装着するとともに、試験片5の試験片取付用の雄ねじ部5aを、補助ホーン4の下端部に設けた、該雄ねじ部5aに適合する試験片取付用の雌ねじ孔4bに螺挿して、試験片5を補助ホーン4に取り付け、その後、超音波振動子2を振動させて、20kHzの超音波振動を発振し、ホーン3、補助ホーン4、及び、試験片5を、20kHzで共振させる。
【0068】
このとき、超音波振動子2からの振動をホーン3によって増幅し、さらに、ホーン3の振動を、補助ホーン4によって、ホーン3で増幅された振動の振幅よりも増幅する。最終的に、超音波振動の振幅を、補助ホーン4によって、疲労試験に必要な応力を発生させる振幅以上に増幅し、補助ホーン4の振動と共振させた試験片5の括れ部6に、疲労試験に必要な応力を発生させる。この発生した応力により、試験片5の疲労強度を評価することができる。
【0069】
このように、試験片5を、試験片5の試験片取付用の雄ねじ部5aに適合する試験片取付用の雌ねじ孔4bを有する補助ホーン4に取付けることにより、試験片5は、補助ホーン4を介してホーン3に取付けられるので、従来、超音波疲労試験装置のホーンに、直接取付けることが難しかった小径の試験片でも、確実に疲労試験を行うことができる。
【0070】
さらに、補助ホーン4により、超音波振動の振幅が疲労試験に必要な応力を発生させる振幅以上に増幅することができるので、評価対象部位の括れ部6の評価体積を増大しても、括れ部6に、疲労試験に必要な応力を発生させることが可能となる。したがって、従来きわめて困難であった、小径の試験片の疲労試験を確実に行うことができ、小径の試験片の疲労強度を正確に評価することができる。
【0071】
補助ホーンは、指数型の形状以外の形状の補助ホーンでもよい。
図4に、円錐台状の補助ホーンの態様(上段部が左側、下端部が右側)を示す。
図5に、下端側が段状に細くなる形状の補助ホーンの態様(上段部が左側、下端部が右側)を示す。
【0072】
図4に示す円錐台状の補助ホーン7は、下記(6)式の振動方程式に従って、指数型の補助ホーンと同様に、ホーン3と、20kHzで共振するように設計されており、指数型の補助ホーンに比べ成形し易いという利点を有している。
【0074】
上記(6)式において、lは、補助ホーンの軸方向長さ、S1は、下端側(小径側)の断面積、S2は、上端側(大径側)の断面積、ωは、角振動数(rad/s)、cは、超音波振動の速度(m/s)である。
【0075】
図4に示す補助ホーン7は、下端側の直径が6mm、上端側の直径が19mm、軸方向長さが127.37mmに設定されており、上端部には、直径6mmの補助ホーン取付用の雄ねじ部7aが、下端部には、直径2mmの試験片取付用の雌ねじ孔7bが設けられている。
【0076】
円錐台状型の補助ホーン7の増幅率Tは、下記(7)式で表される。下記(7)式において、lは、補助ホーンの軸方向長さ、S1は、下端側(小径側)の断面積、S2、は上端側(大径側)の断面積、ωは、角振動数(rad/s)、cは、超音波振動の速度(m/s)である。
【0078】
上記(7)式により増幅率Tを決定すれば、試験片5の疲労試験に最低限必要な応力を発生させる振幅を得るために、超音波振動子2及びホーン3の振幅、さらに、超音波発振器1の出力を設定することができる。補助ホーン7の場合、増幅率は約3.20倍程度である。
【0079】
図5に示す補助ホーン8は、軸方向の略中間部に段部8aが形成されていて、上端部側が下端部側より細く、全体として、外径の異なる円柱が結合したような段状型の補助ホーンである。
【0080】
下記(8)が振動方程式であり、ホーン3と20kHzで共振するように設定されている。補助ホーン8は、成形が比較的簡単で、増幅率が指数型に比べて高いという利点を有するが、段状に細くなる部分で、補助ホーン内での最大応力が指数型と比較して大きくなる。
【0082】
上記(8)式において、lは、補助ホーンの軸方向長さ、fは、振動数(Hz)、cは、超音波振動の速度(m/s)である。
【0083】
図5に示す補助ホーン8は、下端側(細径側)の直径が10mm、上端側(太径側)の直径が18mm、太径側の軸方向長さが61mm、全体の軸方向長さが122mmに設定されている。
【0084】
指数型の補助ホーン、及び、円錐台状型の補助ホーンと同様に、補助ホーン8の上端部には、直径6mmの補助ホーン取付用の雄ねじ部8bが設けられ、下端部には、直径3mmの試験片取付用の雌ねじ孔8cが設けられている。
【0085】
段状型の補助ホーン8の増幅率Tは、下記(9)式で表される。下記(9)式において、S1は、下端側(小径側)の断面積、S2は、上端側(大径側)の断面積である。
【0087】
上記(9)式により増幅率Tを決定すれば、試験片5の疲労試験に最低限必要な応力を発生させる振幅を得るために、超音波振動子2及びホーン3の振幅、さらに、超音波発振器1の出力を設定することができる。補助ホーン8の増幅率は約3.24倍程度である。
【0088】
これまで、該径が6mm未満の、標準試験片の外径より小径の試験片の疲労試験について説明したが、本発明方法及び本発明装置は、基本的に、試験片の試験片取付用の雄ねじ部を、補助ホーンの試験片取付用の雌ねじ孔に螺挿できる試験片に適用することができる。また、試験片に、通常よりも大きな応力を発生させたい場合にも、本発明方法及び本発明装置を適用することができる。