特許第6772721号(P6772721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772721
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20201012BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   F04D19/04 A
   F16C19/06
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-185649(P2016-185649)
(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公開番号】特開2017-82767(P2017-82767A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-209290(P2015-209290)
(32)【優先日】2015年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100202854
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 卓行
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】清水 幸一
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−104370(JP,A)
【文献】 特開2011−021639(JP,A)
【文献】 特開2016−056750(JP,A)
【文献】 特開2011−163541(JP,A)
【文献】 特開2012−205375(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/001243(WO,A1)
【文献】 特表2014−506981(JP,A)
【文献】 特開2007−040527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F16C 19/00 − 19/56
F16C 33/30 − 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有するポンプロータと、
前記回転軸を支持するボールベアリングと、
前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、
前記外輪と前記ベアリングハウジングの隙間をシールして閉鎖空間を形成する一対のシール部品と、
前記一対のシール部品、前記外輪および前記ベアリングハウジングとで囲まれた前記閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、
前記流動性熱伝導材が封入された前記閉鎖空間に配置され、前記外輪を弾性的に支持する弾性支持体と、を備え、
前記シール部品は、外乱の衝撃または共振により生じる前記外輪の最大変位時に、シール部に隙間が生じないように設けられている、真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記弾性支持体は、前記外輪の半径方向の変位を規制する第1の弾性支持体と、前記外輪のポンプロータ側とは反対方向の変位を規制する第2の弾性支持体とを含み、
前記一対のシール部品の内、第1のシール部品は、前記第1の弾性支持体よりもポンプロータ側で前記閉鎖空間をシールし、第2のシール部品は、前記第2の弾性支持体よりも内径側に配置されて、または前記第2の弾性支持体と前記第1の弾性支持体との間の前記外輪の外周に配置されて前記閉鎖空間をシールする、真空ポンプ。
【請求項3】
回転軸を有するポンプロータと、
前記回転軸を支持するボールベアリングと、
前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、
前記外輪と前記ベアリングハウジングの隙間をシールして閉鎖空間を形成する一対のシール部品と、
前記一対のシール部品、前記外輪および前記ベアリングハウジングとで囲まれた前記閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、
前記流動性熱伝導材が封入された前記閉鎖空間に配置され、前記外輪を弾性的に支持する弾性支持体と、を備え、
前記弾性支持体は、前記外輪の半径方向の変位を規制する第1の弾性支持体と、前記外輪のポンプロータ側とは反対方向の変位を規制する第2の弾性支持体とを含み、
前記一対のシール部品の内、第1のシール部品は、前記第1の弾性支持体よりもポンプロータ側で前記閉鎖空間をシールし、第2のシール部品は、前記第2の弾性支持体よりも内径側配置されて、または前記第2の弾性支持体と前記第1の弾性支持体との間の前記外輪の外周に配置されて前記閉鎖空間をシールする、真空ポンプ。
【請求項4】
回転軸を有するポンプロータと、
前記回転軸を支持するボールベアリングと、
前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、
前記外輪と前記ベアリングハウジングの隙間をシールして閉鎖空間を形成する一対のシール部品と、
前記一対のシール部品、前記外輪および前記ベアリングハウジングとで囲まれた前記閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、
前記流動性熱伝導材が封入された前記閉鎖空間に配置され、前記外輪を弾性的に支持する弾性支持体と、を備え、
前記弾性支持体は、前記外輪のポンプロータ側方向の変位を規制する第3の弾性支持体を有する、真空ポンプ。
【請求項5】
回転軸を有するポンプロータと、
前記回転軸を支持するボールベアリングと、
前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、
前記ベアリングハウジングに収納された前記ボールベアリングの外輪を軸方向から押さえる押さえ部材と、
前記外輪の前記ポンプロータ側の一方の端面と前記ベアリングハウジングとの間に配置され、前記押さえ部材の締め付け力により前記外輪の前記一方の端面に接触する面圧が調整される第1の弾性支持体と、
前記外輪の他方の端面と前記押さえ部材との間に配置され、前記押さえ部材の締め付け力により前記外輪の前記他方の端面に接触する面圧が調整される第2の弾性支持体と、
前記第1および第2の弾性支持体、前記外輪、前記ベアリングハウジングおよび前記押さえ部材とで囲まれた閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、を備え、
前記第1の弾性支持体と前記外輪との間および前記第1の弾性支持体と前記ベアリングハウジングとの間には、撥油性を有するコート剤の層が設けられ、
前記第2の弾性支持体と前記外輪との間および前記第2の弾性支持体と前記押さえ部材との間には、撥油性を有するコート剤の層が設けられた真空ポンプ。
【請求項6】
請求項5に記載の真空ポンプにおいて、
前記コート剤は、常温で硬化するフッ素コーティング剤である、真空ポンプ。
【請求項7】
請求項5または6に記載の真空ポンプにおいて、
前記外輪の前記他方の端面と前記ベアリングハウジングとの間に配置される環状部材をさらに備え、
前記第2の弾性支持体は、前記環状部材と前記押さえ部材との間に配置され、
前記第2の弾性支持体と前記環状部材との間および前記第2の弾性支持体と前記押さえ部材との間には、撥油性を有するコート剤の層が設けられた真空ポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載の真空ポンプにおいて、
前記環状部材の内周と前記外輪の外周との間には、前記環状部材の内周面と前記外輪の外周面との隙間をシールするシール部品が設けられた真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータを高速回転して排気を行う真空ポンプとして、例えば、特許文献1に記載の真空ポンプのように、軸受にボールベアリングを使用するものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の真空ポンプでは、ロータ軸の一端を永久磁石で磁気支持し、他端をボールベアリングで支持している。また、回転体によって引き起こされた振動が、軸受を通してポンプケーシングに伝わるのを低減するために、ボールベアリングの外輪とそれを保持するベアリングハウジングとの隙間にゴム等の弾性部材を介在させると共に、隙間空間にオイルを封入するようにしている。また、封入されたオイルは、ベアリングに生じた熱をベアリングハウジング側へ伝える伝熱材としても機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−104370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、振動を低減するために設けられた弾性部材の場合、ポンプケーシングへの振動伝達を低減するために、ベアリングハウジングに対してベアリング外輪が変位しやすい構成としている。そのため、真空ポンプの取り付け姿勢や運転時の振動の影響により、弾性部材とハウジングとの間や、弾性部材とボールベアリングの外輪との間に僅かな隙間が生じ、封入されたオイルが封入領域から漏れてベアリングに流入するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、回転軸を有するポンプロータと、前記回転軸を支持するボールベアリングと、前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、前記外輪と前記ベアリングハウジングの隙間をシールして閉鎖空間を形成する一対のシール部品と、前記一対のシール部品、前記外輪および前記ベアリングハウジングとで囲まれた前記閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、前記流動性熱伝導材が封入された前記閉鎖空間に配置され、前記外輪を弾性的に支持する弾性支持体と、を備え、前記シール部品は、外乱の衝撃または共振により生じる前記外輪の最大変位時に、シール部に隙間が生じないように設けられている。
さらに好ましい実施形態では、前記弾性支持体は、前記外輪の半径方向の変位を規制する第1の弾性支持体と、前記外輪のポンプロータ側とは反対方向の変位を規制する第2の弾性支持体とを含み、前記一対のシール部品の内、第1のシール部品は、前記第1の弾性支持体よりもポンプロータ側で前記閉鎖空間をシールし、第2のシール部品は、前記第2の弾性支持体よりも内径側に配置されて、または前記第2の弾性支持体と前記第1の弾性支持体との間の前記外輪の外周に配置されて前記閉鎖空間をシールする。
また、本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、 回転軸を有するポンプロータと、前記回転軸を支持するボールベアリングと、前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、前記外輪と前記ベアリングハウジングの隙間をシールして閉鎖空間を形成する一対のシール部品と、前記一対のシール部品、前記外輪および前記ベアリングハウジングとで囲まれた前記閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、前記流動性熱伝導材が封入された前記閉鎖空間に配置され、前記外輪を弾性的に支持する弾性支持体と、を備え、前記弾性支持体は、前記外輪の半径方向の変位を規制する第1の弾性支持体と、前記外輪のポンプロータ側とは反対方向の変位を規制する第2の弾性支持体とを含み、前記一対のシール部品の内、第1のシール部品は、前記第1の弾性支持体よりもポンプロータ側で前記閉鎖空間をシールし、第2のシール部品は、前記第2の弾性支持体よりも内径側配置されて、または前記第2の弾性支持体と前記第1の弾性支持体との間の前記外輪の外周に配置されて前記閉鎖空間をシールする。
また、本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、回転軸を有するポンプロータと、前記回転軸を支持するボールベアリングと、前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、前記外輪と前記ベアリングハウジングの隙間をシールして閉鎖空間を形成する一対のシール部品と、前記一対のシール部品、前記外輪および前記ベアリングハウジングとで囲まれた前記閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、前記流動性熱伝導材が封入された前記閉鎖空間に配置され、前記外輪を弾性的に支持する弾性支持体と、を備え、前記弾性支持体は、前記外輪のポンプロータ側方向の変位を規制する第3の弾性支持体を有する。
また、本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、回転軸を有するポンプロータと、前記回転軸を支持するボールベアリングと、前記ボールベアリングの外輪が収納されるベアリングハウジングと、前記ベアリングハウジングに収納された前記ボールベアリングの外輪を軸方向から押さえる押さえ部材と、前記外輪の前記ポンプロータ側の一方の端面と前記ベアリングハウジングとの間に配置され、前記押さえ部材の締め付け力により前記外輪の前記一方の端面に接触する面圧が調整される第1の弾性支持体と、前記外輪の他方の端面と前記押さえ部材との間に配置され、前記押さえ部材の締め付け力により前記外輪の前記他方の端面に接触する面圧が調整される第2の弾性支持体と、前記第1および第2の弾性支持体、前記外輪、前記ベアリングハウジングおよび前記押さえ部材とで囲まれた閉鎖空間に封入される流動性熱伝導材と、を備え、前記第1の弾性支持体と前記外輪との間および前記第1の弾性支持体と前記ベアリングハウジングとの間には、撥油性を有するコート剤の層が設けられ、前記第2の弾性支持体と前記外輪との間および前記第2の弾性支持体と前記押さえ部材との間には、撥油性を有するコート剤の層が設けられている。
さらに好ましい実施形態では、前記コート剤は、常温で硬化するフッ素コーティング剤である。
さらに好ましい実施形態では、前記外輪の前記他方の端面と前記ベアリングハウジングとの間に配置される環状部材をさらに備え、前記第2の弾性支持体は、前記環状部材と前記押さえ部材との間に配置され、前記第2の弾性支持体と前記環状部材との間および前記第2の弾性支持体と前記押さえ部材との間には、撥油性を有するコート剤の層が設けられている。
さらに好ましい実施形態では、前記環状部材の内周と前記外輪の外周との間には、前記環状部材の内周面と前記外輪の外周面との隙間をシールするシール部品が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、封入された流動性熱伝導材の漏れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明に係る真空ポンプの第1の実施の形態を示す図である。
図2図2は、ボールベアリングの部分の構成を詳細に示す図である。
図3図3は、実施形態の他の例を示す図である。
図4図4は、比較例を示す図である。
図5図5は、弾性支持体とOリングシールの配置を説明する模式図である。
図6図6は、Oリングシールの潰し代を説明する図である。
図7図7は、第2の実施の形態におけるボールベアリングの部分の構成を詳細に示す図である。
図8図8は、第2の実施形態の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−−−第1の実施の形態−−−
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明に係る真空ポンプの第1の実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプ1の断面図である。なお、ターボ分子ポンプ1には電力を供給する電源ユニットが接続されるが、図1では図示を省略した。
【0010】
図1に示すターボ分子ポンプ1は、排気機能部として、タービン翼を備えたターボポンプ部P1と、螺旋型の溝を備えたHolweckポンプ部P2とを備えている。もちろん、本発明は、排気機能部にターボポンプ部P1およびHolweckポンプ部P2を備えた真空ポンプに限らず、タービン翼のみを備えた真空ポンプや、ジーグバーンポンプやHolweckポンプなどのドラッグポンプのみを備えた真空ポンプや、それらを組み合わせた真空ポンプにも適用することができる。
【0011】
ターボポンプ部P1は、ポンプロータ3に形成された複数段の回転翼30とベース2およびポンプケーシング12側に配置された複数段の固定翼20とで構成される。一方、ターボポンプ部P1の排気下流側に設けられたHolweckポンプ部P2は、ポンプロータ3に形成された円筒部31とベース2側に配置されたステータ21とで構成されている。円筒状のステータ21の内周面には螺旋溝が形成されている。複数段の回転翼30と円筒部31とが回転側排気機能部を構成し、複数段の固定翼20とステータ21とが固定側排気機能部を構成する。
【0012】
ポンプロータ3は回転軸であるシャフト10に締結されており、そのシャフト10はモータ4により回転駆動される。モータ4には例えばDCブラシレスモータが用いられ、ベース2にモータステータ4aが設けられ、シャフト10側にはモータロータ4bが設けられている。シャフト10とポンプロータ3とから成る回転体ユニットRは、永久磁石6a,6bを用いた永久磁石磁気軸受6と転がり軸受であるボールベアリング8とにより回転自在に支持されている。
【0013】
永久磁石6a,6bは、軸方向に磁化されたリング状の永久磁石である。ポンプロータ3に設けられた複数の永久磁石6aは、同極同士が対向するように軸方向に複数配置されている。一方、固定側の複数の永久磁石6bは、ポンプケーシング12に固定された磁石ホルダ11に装着されている。これらの永久磁石6bも、同極同士が対向するように軸方向に複数配置されている。ポンプロータ3に設けられた永久磁石6aの軸方向位置は、その内周側に配置された永久磁石6bの位置よりも若干上側となるように設定されている。すなわち、回転側の永久磁石の磁極は、固定側の永久磁石の磁極に対して軸方向に所定量だけずれている。この所定量の大きさによって、永久磁石磁気軸受6の支持力が異なる。図1に示す例では、永久磁石6aの方が図示上側に配置されているため、永久磁石6aと永久磁石6bとの反発力により、ラジアル方向の支持力と軸方向上向き(ポンプ排気口側方向)の力とが回転体ユニットRに働いている。
【0014】
磁石ホルダ11の中央には、ボールベアリング9を保持するベアリングホルダ13が固定されている。図1では、ボールベアリング8,9に深溝玉軸受を用いているが、これに限らず、例えばアンギュラコンタクトの軸受を用いても良い。ボールベアリング9は、シャフト上部のラジアル方向の振れを制限するタッチダウンベアリングとして機能するものである。定常回転状態ではシャフト10とボールベアリング9とが接触することはなく、大外乱が加わった場合や、回転の加速時または減速時にシャフト10の振れ回りが大きくなった場合に、シャフト10がボールベアリング9に接触する。
【0015】
図2は、ボールベアリング8の部分の構成を詳細に示す図である。ボールベアリング8はシャフト10の下端に装着され、ナット17によってボールベアリング8の内輪80がシャフト10に固定されている。一方、ボールベアリング8の外輪81は、ベアリングハウジング部2aに螺合するベアリング押さえ18によってベース2のベアリングハウジング部2aに固定されている。ベアリングハウジング部2aとベアリング押さえ18とはOリングシール100によってシールされている。
【0016】
図2に示すように、ボールベアリング8の外輪81は、ベアリングハウジング部2aとベアリング押さえ18とで形成されるハウジング内に収納されている。外輪81とベアリングハウジング部2aとの隙間にはOリングシール102が配置されている。また、外輪81の下端面に設けられたプレート114とベアリング押さえ18との隙間には、Oリングシール104が配置されている。その結果、外輪81とベアリングハウジング部2aとの間には、Oリングシール102,104により密閉された閉鎖空間が形成される。
【0017】
Oリングシール102,104により密閉された閉鎖空間には、流動性熱伝導材120が封入される。さらに、流動性熱伝導材120が封入された閉鎖空間には、リング状の弾性支持体110,112が配置されている。弾性支持体110は、外輪81の外周に設けられて、外輪81の半径方向の変位を規制する。弾性支持体112は、外輪81に設けられたプレート114の下面に配置されて、外輪81のポンプロータ側とは反対方向の変位を規制する。なお、プレート114を使用せずに、外輪81とベアリング押さえ18とで直接挟持されるように弾性支持体112を配置しても良い。弾性支持体110,112は、弾性材料(例えばゴム等のエラストマー)により形成される。また、外輪81の外周に設けられる弾性支持体110として、金属製波板をリング状に形成した部材を用いても良い。
【0018】
外乱や共振等によりシャフト10が振動すると、弾性支持体110,112により弾性支持された外輪81も振動することになる。その際に、振動のエネルギーの一部が弾性支持体110の変形に消費されることにより、振動が抑制される。また、閉鎖空間に封入された流動性熱伝導材120の粘性によっても、振動が抑制される。
【0019】
また、弾性支持体110の内周側または外周側に隙間が形成されていても良い。弾性支持体112の場合、外輪81と一体にプレート114が図示左右方向に振動すると、ベアリング押さえ18に対して移動することになるので、剪断方向の変形は非常に小さい。そのため、弾性支持体112の場合には、主に摩擦によって振動のエネルギーが消費されることになる。なお、外輪81が振動しやすいように、ベアリングハウジング部2aの外輪81の上端面が接する面に摩擦係数を小さくするための処理を施しても良い。
【0020】
図3は、上述した実施形態の他の例を示す図である。図2に示した例では、ボールベアリング8に対して2つの弾性支持体110,112を備えていたが、図3に示す例では、外輪81の上端面にも弾性支持体113を設けるようにした。外輪81は、3つの弾性支持体110,112,113によって弾性支持されることになる。なお、弾性支持体113と外輪81との間に摩擦係数の小さなプレートを配置しても良い。それにより、外輪81が径方向に移動しやすくなる。
【0021】
図4は、比較例としてOリングシールを用いない構成の一例を示したものである。図4に示す比較例では、図3に示す構成からOリングシール102,104を削除したものである。この場合、弾性支持体112,113の間に形成される閉鎖空間に、流動性熱伝導材120が封入される。
【0022】
上述したように、回転体ユニットRの振動がポンプハウジング側へ伝わらないようにするためには、回転体ユニットRの振動に対してボールベアリング8の外輪81を動きやすくする必要がある。そのため、外輪81とスラスト方向の弾性支持体112,113との摩擦力が小さくなるように、すなわち、弾性支持体112,113の面圧が小さくなるようにベアリング押さえ18の締め付け力が調整される。
【0023】
そのため、回転体ユニットRの振動によって外輪81が移動した際に、弾性支持体112,113の接触面にわずかな隙間が発生しやすく、矢印で示すように弾性支持体112,113の接触面の隙間を通して流動性熱伝導材120が漏れるおそれがあった。ボールベアリング8に封入されているグリースと流動性熱伝導材120が異なる場合、漏れ出た流動性熱伝導材120がボールベアリング8に流入すると、ボールベアリング8に用いられているグリースの変質を招いて、本来の潤滑性能を発揮できなくなる。また、流動性熱伝導材120にボールベアリング8のグリースと同一のグリースを用いた場合であっても、漏れ出たグリースがボールベアリング8に流入すると、過度の潤滑状態となって、摺動抵抗の増加による発熱増大が問題になる。
【0024】
一方、本実施の形態では、図3に示すように、流動性熱伝導材120が封入される領域をOリングシール102,104でシールするようにしたので、流動性熱伝導材120の漏洩を防止することができる。
【0025】
ところで、ボールベアリング8が高速回転すると発熱が問題となるが、本実施の形態では、Oリングシール102,104により密閉された閉鎖空間に流動性熱伝導材120が封入されているので、流動性熱伝導材120を介してベアリングハウジング部2aへ放熱される。また、上述のようにボールベアリング8の外輪81が振動しても、流動性を有する流動性熱伝導材120は外輪81の動きに追従して変形するので、外輪81と流動性熱伝導材120との熱接触を良好に保つことができる。
【0026】
流動性熱伝導材120には、オイルやグリース等の流動性のある熱伝導材が使用される。グリースはゾル状態とゲル状態とが可逆的に変化するチキソトロピー性を有している。すなわち、グリースは、静止状態では半固体のゲル状態であるが、外部から力が加わるとゾル状態となって流動する。そのため、シャフト10が回転して外輪81が振動すると、Oリングシール102,104による密閉領域に封入されたグリースは、流動状態となる。もちろん、上記密閉領域に封入する熱伝導材としてゲル状のものを用いても構わないが、外輪81の表面およびベアリングハウジング部2aの内周面との接触面積の拡大という点では、流動性を有する熱伝導材の方が優れている。
【0027】
弾性支持体とOリングシールの配置に関しては、図2,3に示したものに限らず種々の配置が可能である。図5は、それらの配置を説明する模式図である。破線矢印R10は、外輪81の外周および上下端面に対向するベアリングハウジング部2aの内周面200の範囲を示している。この破線矢印R10で表す範囲に、弾性支持体110,112,113およびOリングシール102,104が配置される。
【0028】
図5(a)に示す配置例では、Oリングシール102,104はいずれも外輪81の外周に配置される。Oリングシール102,104で密封された閉鎖空間に流動性熱伝導材120は封入され、さらに、その封入領域に弾性支持体110が配置されている。一方、弾性支持体112,113は、封入領域の外側に配置されることになる。
【0029】
図5(b)に示す配置例では、Oリングシール102は、外輪81の上端面であって弾性支持体113よりも内径側に配置される。Oリングシール104は外輪81の外周に配置される。外輪81の外周に配置される弾性支持体110、および外輪81の上端面に配置される弾性支持体113は、Oリングシール102とOリングシール104との間の流動性熱伝導材120が封入される領域に配置されている。弾性支持体112は、外輪81の下端面に配置される。
【0030】
図5(c)に示す配置例では、Oリングシール102は、外輪81の上端面であって弾性支持体113よりも内径側に配置される。Oリングシール104は、外輪81の下端面であって弾性支持体112よりも内径側に配置される。弾性支持体112,113および外輪81の外周に配置される弾性支持体110は、Oリングシール102,104で密封された流動性熱伝導材120の封入領域に配置される。
【0031】
図5では、3つの弾性支持体110,112および113を備える場合について示したが、図2に示す例のように2つの弾性支持体110,112を使用する場合も、図5において弾性支持体113を削除した構成が適用される。
【0032】
上述した実施の形態では、流動性熱伝導材120の封入領域の密封にOリングシール102,104を用いたが、密封用のシール部品としてはこれに限らず、X形状の断面を有するXリングシールなど、種々のものを使用することができる。なお、外輪81は上述したように振動するので、ベアリングハウジング部2aとの隙間寸法が変化する。そのため、Oリングシール102は、シール部品の潰し代については、少なくとも外輪81の最大変位時に隙間が生じない潰し代に設定するのが好ましい。また、軸方向の端面に配置されるOリングシール104に関しても、外輪81の軸方向の変位に対して、その最大変位時に隙間が生じないように設けられている。
【0033】
図6は、Oリングシール102の潰し代を説明する図である。図6はボールベアリング8が径方向に振動した場合を示しており、静止状態では実線で示す位置にあり、最も右側に変位したときを破線で示した。Δrが、ボールベアリング8の径方向最大変位である。そのため、最も右側に変位した最大変位時に、Oリングシール102と外輪81との間に隙間が生じないように潰し代を設定すれば、流動性熱伝導材120の漏れを防止することができる。
【0034】
ただし、潰し代が大き過ぎると外輪81に対する支持剛性が高くなり、ポンプハウジングへの振動伝達が問題となる。そのため、弾性支持体とシール部品とを合計した剛性が、振動伝達が許容量以下となる所定値(例えば、200ニュートン/mm程度)となるように潰し代を設定するのが好ましい。
【0035】
−−−第2の実施の形態−−−
図7,8を参照して、本発明に係る真空ポンプの第2の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、弾性支持体に撥油性を有するコート剤を塗布することで流動性熱伝導材120の流出を防止する点で、第1の実施の形態と異なる。
【0036】
図7は、本実施の形態におけるターボ分子ポンプのボールベアリング8の部分の構成を詳細に示す図である。本実施の形態のターボ分子ポンプ1Aでは、外輪81は、上述した3つの弾性支持体110,112,113によって弾性支持されている。なお、本実施の形態のターボ分子ポンプ1Aでは、図2,3に示すようなプレート114が設けられておらず、弾性支持体112は外輪81とベアリング押さえ18とで直接挟持されている。また、本実施の形態のターボ分子ポンプ1Aでは、図2に示すようなOリングシール102,104は設けられていない。外輪81とベアリングハウジング部2aとの間には、弾性支持体112,113により密閉された閉鎖空間が形成されており、この密閉空間に流動性熱伝導材120が封入される。
【0037】
弾性支持体112の上面および下面には、撥油性を有するコート剤の膜131が形成されており、弾性支持体113の上面および下面には、撥油性を有するコート剤の膜132が形成されている。説明の便宜上、図7では膜131,132を太線で表している。
コート剤には、流動性熱伝導材120に用いられるオイルやグリースの基油等に対する撥油性を有する成分が含まれている。たとえば、常温で硬化するフッ素コーティング剤で薄膜(0.1μm程度)を形成することで、フッ素オイルやエステル系オイルに対して撥油能力を発揮する。
膜131,132は、たとえばコート剤の噴霧や塗布などによって弾性支持体112,113の上面および下面に形成される。
【0038】
本実施の形態のターボ分子ポンプ1Aにおいても、上述したように、外輪81とスラスト方向の弾性支持体112,113との摩擦力が小さくなるように、すなわち、弾性支持体112,113の面圧が小さくなるようにベアリング押さえ18の締め付け力が調整される。そのため、回転体ユニットRの振動によって外輪81が移動した際に、弾性支持体112,113の接触面にわずかな隙間が発生しやすい。
【0039】
流動性熱伝導材120にグリースが用いられている場合、グリースは、ゲル状態を保っていれば弾性支持体112,113によって密閉空間からの漏洩が防止される。しかし、グリースがゾル状態となった場合には、上述した隙間からゾル状のグリースが漏洩するおそれがある。一般的にグリースは、熱などの影響によってグリースを構成する基油が増ちょう剤と分離するおそれがある。そのため、分離した基油が上述した隙間から漏洩するおそれがある。また、流動性熱伝導材120にオイルが用いられている場合、上述した隙間からオイルが漏洩するおそれがある。
【0040】
しかし、本実施の形態のターボ分子ポンプ1Aでは、弾性支持体112の下面とベアリング押さえ18の上面との間や、弾性支持体112の上面と外輪81の下端面との間に僅かな隙間が発生しても、膜131がオイルや増ちょう剤から分離した基油の漏洩を防止する。同様に、弾性支持体113の下面と外輪81の上端面との間や、弾性支持体113の上面とベアリングハウジング部2aとの間に僅かな隙間が発生しても、膜132がオイルや増ちょう剤から分離した基油の漏洩を防止する。
【0041】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態で用いられているOリングシール102,104を潰す必要がなく、弾性支持体112,113についての所定の面圧を確保できればよいので、外輪81に対する支持剛性を抑制できる。これにより、ポンプハウジングへの振動伝達を抑制できる。
【0042】
なお、上述の説明では、弾性支持体112の上面および下面に膜131を形成し、弾性支持体113の上面および下面に膜132を形成した。しかし、たとえば、弾性支持体112の上面に膜131を形成する代わりに、外輪81の下端面に膜131を形成してもよく、弾性支持体112の上面と外輪81の下端面の両方に膜131を形成してもよい。同様に、弾性支持体112の下面に膜131を形成する代わりに、ベアリング押さえ18の上面に膜131を形成してもよく、弾性支持体112の下面とベアリング押さえ18の上面の両方に膜131を形成してもよい。すなわち、弾性支持体112の上面と外輪81の下端面との接触部分や弾性支持体112の下面とベアリング押さえ18の上面との接触部分に撥油性を付与できればよい。
【0043】
また、弾性支持体113の上面に膜132を形成する代わりに、ベアリングハウジング部2aにおける弾性支持体113の上面との対向部分に膜132を形成してもよく、弾性支持体112の上面と上記対向部分の両方に膜132を形成してもよい。同様に、弾性支持体113の下面に膜132を形成する代わりに、外輪81の上端面に膜132を形成してもよく、弾性支持体113の下面と外輪81の上端面の両方に膜132を形成してもよい。すなわち、弾性支持体112の上面と上記対向部分との接触部分や弾性支持体113の下面と外輪81の上端面との接触部分に撥油性を付与できればよい。
【0044】
図8は、上述した第2の実施形態の他の例を示す図である。図7に示した例では、弾性支持体112が外輪81とベアリング押さえ18とで直接挟持されていた。これに対して図8に示す例では、外輪81の下端にはプレート114Aが設けられ、弾性支持体112は、プレート114Aとベアリング押さえ18とで挟持される。なお、プレート114Aは、第1の実施の形態におけるプレート114と同様の環状部材である。外輪81の外周とプレート114Aの内周との間には、Oリングシール106が設けられている。Oリングシール106は、外輪81の外周面とプレート114Aの内周面との隙間をシールする。
【0045】
このように、外輪81の下端にプレート114Aを設けた場合であっても、プレート114Aとベアリング押さえ18との間からの流動性熱伝導材120の漏洩を膜131が防止する。
なお、外輪81の外周面とプレート114Aの内周面との間からの流動性熱伝導材120の漏洩は、上述したようにOリングシール106によって防止される。外乱や共振等によりシャフト10が振動すると、弾性支持体110,112,113により弾性支持された外輪81も振動することになる。このとき、外輪81とプレート114Aとは一体となって振動するので、外輪81とプレート114Aとの相対位置は不変であり、Oリングシール106の潰し代も不変である。したがって、外乱や共振等によりシャフト10が振動しても、Oリングシール106によるシールが保たれる。
【0046】
なお、上述の説明では、膜131,132は、弾性支持体112,113の上面の全面および下面の全面に設けられていてもよく、弾性支持体112,113の上面の一部に閉じた環状に設けられていてもよく、弾性支持体112,113の下面の一部に閉じた環状に設けられていてもよい。
【0047】
また、上述した第1の実施の形態におけるOリングシール102,104や第2の実施の形態におけるOリングシール106に撥油性を有するコート剤の膜を形成してもよい。また、上述した第1の実施の形態において、外輪81およびベアリングハウジング部2aにおけるOリングシール102との接触面に撥油性を有するコート剤の膜を形成してもよい。同様に、上述した第1の実施の形態において、プレート114およびベアリング押さえ18におけるOリングシール104との接触面に撥油性を有するコート剤の膜を形成してもよい。
第2の実施の形態において、Oリングシール106を設けず、プレート114Aと外輪81との接触部分に撥油性を有するコート剤の膜を形成してもよい。また、撥油性を有する材料を用いてOリングシール102,104,106を形成してもよい。
【0048】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態ではターボ分子ポンプを例に説明したが、ターボ分子ポンプに限らず種々の真空ポンプにも適用することができる。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1…ターボ分子ポンプ、2…ベース、2a…ベアリングハウジング部、3…ポンプロータ、8,9…ボールベアリング、10…シャフト、81…外輪、100,102,104,106…Oリングシール、110,112,113…弾性支持体、120…流動性熱伝導材、131,132…膜、R…回転体ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8