(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一対の領域を除去する工程では、前記反応性イオンエッチングの深さを前記電子供給層の表面から少なくとも80nmとする、請求項4に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
前記高濃度n型半導体領域を成長させた後、前記電子供給層上の前記高濃度n型半導体領域を除去する前に、前記高濃度n型半導体領域の熱処理を行う、請求項4〜6のいずれか一項に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る高電子移動度トランジスタ、及び高電子移動度トランジスタの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る高電子移動度トランジスタ(HEMT)1Aの構成を示す断面図である。HEMT1Aは、基板11、窒化物半導体層12、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33を備える。窒化物半導体層12は、バッファ層13、GaNチャネル層14、及び電子供給層(バリア層)15がこの順に積層されて成り、更に一対のn型半導体領域16a,16bを有する。このHEMT1Aは絶縁性の表面保護膜41によって覆われており、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33は、表面保護膜41に形成された開口を介して、対応する各金属配線にそれぞれ接続される。
【0015】
基板11は、結晶成長用の基板である。基板11の構成材料としては、例えばSiCやサファイア、Si等が挙げられる。バッファ層13は、基板11上にエピタキシャル成長した層である。バッファ層13の厚さは、例えば10nm以上300nm以下である。バッファ層13は、例えばAlN又はAlGaNといった、Alを含むIII族窒化物半導体からなる。GaNチャネル層14は、バッファ層13上にエピタキシャル成長した層である。GaNチャネル層14の厚さは、例えば400nm以上1200nm以下である。
【0016】
電子供給層15は、GaNチャネル層14上にエピタキシャル成長した層であって、GaNチャネル層14よりも大きなバンドギャップを有するIII族窒化物半導体からなる。このようなIII族窒化物半導体としては、例えばAlGaNまたはInAlNが挙げられる。電子供給層15の厚さは、例えば5nm以上20nm以下であり、一例では8nmである。GaNチャネル層14と電子供給層15との界面に2次元電子ガス(2DEG)が生じることにより、GaNチャネル層14における電子供給層15側の表面近傍に、チャネル領域が形成される。電子供給層15がInAlNからなる場合、好適なIn組成は例えば15%以上19%以下であり、GaNチャネル層14との格子整合を考慮して定められる。一例では、電子供給層15のIn組成は17%である。
【0017】
一対のn型半導体領域16a,16bは、少なくとも電子供給層15(例えば、電子供給層15及びGaNチャネル層14)がエッチングされることにより形成された凹部(リセス)にエピタキシャル成長した領域である。n型半導体領域16a,16bは、n型のZnO系化合物半導体からなり、一例ではn型ZnO若しくはn型ZnMgOからなる。また、n型半導体領域16a,16bには、n型不純物としてのAl及びGaの少なくとも一方が高濃度でドープされている。n型半導体領域16a,16bの電子濃度及びn型不純物濃度は、例えば1×10
20cm
3以上である。
【0018】
n型半導体領域16a,16bの厚さは、電子供給層15の厚さ以上であり、電子供給層15とGaNチャネル層14とを合わせた厚さよりも薄い。従って、n型半導体領域16a,16bの側面は、チャネル領域と接する。n型半導体領域16a,16bの厚さは例えば40nm以上200nm以下であり、一例では120nmである。n型半導体領域16bは、n型半導体領域16aに対し、バッファ層13、GaNチャネル層14、及び電子供給層15の積層方向と交差する方向に並んでいる。そして、前述したGaNチャネル層14の一部および電子供給層15は、高濃度n型半導体領域16a,16bの間に設けられ、上記積層方向に順に積層されている。
【0019】
ソース電極31、ゲート電極33、及びドレイン電極32は、窒化物半導体層12上においてこの順に並んで形成されている。ソース電極31はn型半導体領域16a上に設けられてn型半導体領域16aとオーミック接触を成し、ドレイン電極32はn型半導体領域16b上に設けられてn型半導体領域16bとオーミック接触を成す。なお、ソース電極31及びドレイン電極32それぞれは、n型半導体領域16a及び16bそれぞれの一部がエッチングされて形成された凹部上に設けられてもよい。ゲート電極33は、電子供給層15上であってn型半導体領域16aとn型半導体領域16bとの間の領域上に設けられ、電子供給層15と接している。
【0020】
表面保護膜41は、窒化物半導体層12を覆う絶縁性の無機膜である。表面保護膜41は、例えばSiN、SiO
2、或いはSiONといったシリコン化合物からなる。
【0021】
以上の構成を備える本実施形態のHEMT1Aの製造方法について、
図2〜
図4を参照しながら説明する。まず、
図2(a)に示されるように、基板11上においてバッファ層13、GaNチャネル層14、及び電子供給層15を順に成長する。具体的には、基板11をMOCVD装置内に配置して、トリメチルアルミニウム(TMA)及びNH
3を供給することにより、基板11上にAlNバッファ層13をエピタキシャル成長する。このときの成長温度は例えば1000℃〜1200℃であり、一例では1080℃である。次に、トリメチルガリウム(TMG)及びNH
3を供給することにより、AlNバッファ層13上にGaNチャネル層14をエピタキシャル成長する。このときの成長温度は例えば1000℃〜1100℃であり、一例では1080℃である。圧力は例えば13.3kPaである。
【0022】
続いて、GaNチャネル層14上に電子供給層15をエピタキシャル成長する。電子供給層15がInAlNからなる場合、トリメチルインジウム(TMI)、TMA及びNH
3を供給する。成長温度は例えば650℃〜850℃であり、一例では800℃である。圧力は例えば15.0kPaである。また、電子供給層15がAlGaNからなる場合、TMA、TMG及びNH
3を供給する。成長温度は例えば1000℃〜1200℃であり、一例では1080℃である。圧力は例えば13.3kPaである。こうして、バッファ層13、GaNチャネル層14、及び電子供給層15を基板11上に有する基板生産物51を作製する。
【0023】
続いて、基板生産物51をMOCVD装置から取り出し、反応性イオンエッチング(RIE:ReactiveIon Etching)装置内に配置する。そして、例えば塩素系ガスを反応ガスとするRIEによって、前述の積層方向と交差する方向に並ぶ一対の領域A1,A2を除去する。一対の領域A1,A2は、GaNチャネル層14に含まれるか、若しくはGaNチャネル層14及び電子供給層15に亘って含まれる。こうして、
図2(b)に示されるように、一対のリセス61が形成される。一対のリセス61は、電子供給層15を貫通してGaNチャネル層14に達し、GaNチャネル層14の露出面61aをそれぞれ含む。一対のリセス61の深さ(エッチング深さ)は、電子供給層15の表面から少なくとも80nmである。
【0024】
続いて、基板生産物51をRIE装置から取り出し、基板生産物51の表面を洗浄する。具体的には、基板生産物51の表面、すなわち電子供給層15の表面および一対のリセス61の露出面61aに対し、HFまたはHClを用いて洗浄を行う。
【0025】
続いて、
図3(a)に示されるように、基板生産物51の全面(すなわち一対の露出面61a上及び一対の露出面61aの間の電子供給層15上)に、n型のZnO系化合物半導体からなるn型半導体層26を成長させる。このとき、n型不純物としてのAl及びGaの少なくとも一方を高濃度(例えば1×10
20cm
3以上)でドープする。成長温度は、電子供給層15の表面からの窒素原子(N)の抜けを抑えるために、700°以下であることが好ましい。n型半導体層26がn型ZnOからなる場合、例えば亜鉛(Zn)の固体原料を用い、O
2プラズマ雰囲気中でn型半導体層26を気相成長させる。このときの成長温度は、例えば600℃である。
【0026】
続いて、n型半導体層26の熱処理を行う。設定温度は例えば600℃以上800℃以下である。一例では、O
2雰囲気で800℃30分の熱処理を行う。これにより、n型半導体層26の界面状態および結晶状態の質が改善される。
【0027】
続いて、通常のリソグラフィー技術を用いてn型半導体層26上にレジストパタ−ンを形成し、電子供給層15上に位置する部分を除く(言い換えれば、リセス61上に位置する)n型半導体層26を保護する。そして、レジストパタ−ンから露出した、電子供給層15上のn型半導体層26を完全に除去する。除去の方法としては、電子供給層15等のGaN系化合物半導体材料に対して低いダメ−ジ及び高選択性を実現するために、炭化水素系ガス(例えばCH
4、C
2H
6、C
3H
8など)をエッチングガスとするドライエッチングが用いられる。また、プラズマの放電の安定性を保つため、或いは反応を加速させるために、エッチングガスが微量の添加ガス(Ar、H
2、O
2など)を含んでもよい。この工程では、電子供給層15上の部分に限らず、n型半導体層26の不要な部分が除去される。この工程によって、
図3(b)に示されるように、一対のn型半導体領域16a,16bが形成される。
【0028】
レジストパターンの除去後、
図4に示されるように、n型半導体領域16a上にソース電極31、n型半導体領域16b上にドレイン電極32をそれぞれ形成し、電子供給層15上にゲート電極33を形成する。以上の各工程を経て、本実施形態のHEMT1Aが完成する。
【0029】
以上に説明した本実施形態によるHEMT1A及びその製造方法によって得られる効果について説明する。前述したように、本実施形態のn型半導体領域16a,16bに相当する領域を高濃度n型GaNによって構成した場合、当該n型GaNに用いられるn型ドーパントであるSiの原料(SiH
4)の活性化原理の制約のため、当該n型GaNのキャリア濃度及び電子移動度を十分に高くすることができない。
【0030】
ここで、n型半導体領域16a,16bに要求される特性としては、(1)電子濃度が高く且つ電子移動度が高い半導体であること、(2)GaNチャネル層14との親和性が高いこと(具体的には、GaNチャネル層14との界面に変質層が生じにくく該界面での電流経路を阻害しないこと、及びGaNチャネル層14との物性定数が近く物理的に形状の安定性が高いこと)、及び(3)電子親和力がGaNチャネル層14に近く、バンドの不連続(ΔEc)に起因した電気抵抗の増大が生じにくいこと、が挙げられる。
【0031】
本発明者は、これらの特性を満たす半導体がGaNに限られないことに着目し、n型半導体領域16a,16bに好適な半導体材料について研究を重ねた。その結果、n型のZnO系化合物半導体(例えばn型ZnO)が、上記(1)〜(3)をすべて満たす理想的な半導体材料であることを突き止めた。すなわち、(1)に関しては、ZnO系化合物半導体にAl、Ga等のn型不純物をドープすることによりn型GaNを大きく上回る電子濃度(例えば1×10
20cm
3以上)を得ることが可能である。また、(2)に関しては、例えばZnOの格子定数は3.25ÅでありGaNの格子定数(3.19Å)にほぼ等しいので、GaNチャネル層14上に良質な結晶を成長することが可能である。また、(3)に関しては、例えばZnOの電子親和力は4.1eVであり、GaNの電子親和力(4.2eV)と極めて近い。従って、バンド不連続は生ぜず良好な導通性を得ることができる。
【0032】
以上のことから、本実施形態のHEMT1Aのように、n型半導体領域16a,16bがn型ZnO系化合物半導体(例えばn型ZnO)からなることによって、n型GaNを用いる場合よりも低いアクセス抵抗及びコンタクト抵抗を実現することができる。その結果、相互コンダクタンスgm及び遮断周波数ftを飛躍的に高めることができるので、ソース電極のコンタクト抵抗を格段に低減することができる。
【0033】
また、本実施形態のn型半導体領域16a,16bを高濃度n型GaN領域と同様の方法により製造しようとしても、次のような困難を伴う。一般的に、高濃度n型GaN領域の形成は、SiN、SiO
2等の絶縁膜をマスクとした選択成長技術、もしくは非選択成長後に絶縁膜マスクを酸により除去するリフトオフ技術によって行われる。これにより、ゲート電極下の窒化物半導体層へのダメ−ジを抑えつつ、高濃度n型GaN領域を形成することが可能となる。しかしながらこのような手法は、n型ZnO系化合物半導体からなる本実施形態のn型半導体領域16a,16bの形成に適用し難い。それは、ZnO系化合物半導体の選択成長が不可能であること、及び、ZnO系化合物半導体がGaNと異なり酸に可溶である為にリフトオフが不可能であることに因る。
【0034】
上記の問題点に対し、本発明者は、ZnO系化合物半導体がエッチングされ易いこと、及び低温成長が可能であることに着目した。そして、n型ZnO系化合物半導体を基板上の全面に成長した後に、不要な部分をエッチングにより除去する方法に想い到った。
【0035】
ここで、n型ZnO系化合物半導体のエッチング方式について検討する。HEMT1Aが高周波デバイス等のように微細な寸法を有する場合、通常のウェットエッチングはその寸法制御性が問題となる場合がある。また、通常のドライエッチングによれば寸法制御性は改善するが、ZnO系化合物半導体とGaN系化合物半導体との選択性を保つことが難しい。従って、GaN系化合物半導体(例えばAlGaN、InAlNなど)からなる電子供給層15までエッチングしてしまい、HEMT1Aの構造制御が困難となる。
【0036】
これに対して本発明者は、様々なエッチングガスを用いて実験した結果、炭化水素系ガスを用いたドライエッチングにより、GaN系化合物半導体をエッチングすることなくZnO系化合物半導体を選択的に除去でき、且つ除去後のGaN系化合物半導体の表面のダメージが抑えられることを見出した。
【0037】
すなわち本実施形態では、n型半導体領域16a,16bを形成する際に、まず、基板生産物51上の全面(すなわちGaNチャネル層14の一対の露出面61a上、及び一対の露出面61aの間の電子供給層15上)に、n型ZnO系化合物半導体からなるn型半導体層26を成長させる。そして、炭化水素系ガスを反応ガスとするドライエッチングにより、電子供給層15上のn型半導体層26を除去する。これにより、n型ZnO系化合物半導体からなるn型半導体領域16a,16bを備えるHEMT1Aの構造を実用的に作製することができる。
【0038】
また、本実施形態のように、一対のn型半導体領域16a,16bの電子濃度は1×10
20cm
3以上にすることも可能である。本実施形態のHEMT1Aによれば、n型半導体領域16a,16bがn型ZnO系化合物半導体からなるので、このように極めて高い電子濃度が可能となる。
【0039】
また、本実施形態のように、一対の領域A1,A2を除去する工程では、RIEによるエッチングの深さを電子供給層15の表面から少なくとも80nmとすることができる。
【0040】
また、本実施形態のように、n型半導体層26を成長させる工程では、亜鉛(Zn)の固体原料を用い、O
2プラズマ雰囲気中で成長温度700℃以下にてn型半導体層26を気相成長することができる。これにより、電子供給層15の表面の結晶性を良好に保ちつつ、ZnO系化合物半導体からなるn型半導体層26を好適に成長させることができる。
【0041】
また、本実施形態のように、n型半導体層26を成長させた後、電子供給層15上のn型半導体層26を除去する前に、n型半導体層26の熱処理を行うことができる。これにより、n型半導体層26の界面状態および結晶状態の質を改善することができる。
【0042】
なお、n型半導体領域16a,16bを構成するn型ZnO系化合物半導体としては、代表的なものとしてZnOが挙げられるが、高濃度のGaまたはAlをド−プした際の格子定数の変化を抑制するために、3元混晶であるZnMgOを用いることもできる。
【0043】
続いて、上記実施形態によるHEMT1Aの実施例、及び2つの比較例について説明する。第1の比較例は、GaNチャネル層14及び電子供給層15の一対の領域A1,A2を除去することなく電子供給層15上にソース電極31及びドレイン電極32を形成した例である。第2の比較例は、リセス61の露出面61a上に高濃度n型GaNを成長させた例である。
【0044】
(第1の実施例)
まず、半絶縁性のSiC基板上に、MOCVD法においてTMA及びNH
3を原料とし、成長温度1080℃、圧力13.3kPaにて、バッファ層13としてのAlN層を成長させた。成長後のAlN層の厚さは、30nmであった。次に、TMG及びNH
3を原料とし、成長温度1080℃、圧力13.3kPaにて、バッファ層13の上にGaNチャネル層14を成長させた。
【0045】
続いて、TMA、TMI及びNH
3を原料として、成長温度800℃、圧力15.0kPaにて、GaNチャネル層14の上にInAlN電子供給層15を成長させた。成長後の電子供給層15の厚さは8nmであり、In組成はGaNに格子整合可能な17%である。
【0046】
続いて、Cl系ガスを用いたRIEによって、GaNチャネル層14及び電子供給層15の一対の領域A1,A2をエッチングすることにより深さ80nmのリセスを形成した。エッチングされた半導体表面を清浄化した後に、基板上の全面にn型ZnOからなる厚さ120nmの高濃度n型半導体層26を成長させた。このとき、n型半導体層26の不純物濃度を2.0×10
20cm
-3とし、成長温度を600℃とした。また、亜鉛(Zn)の固体原料を用い、Alをn型ド−パントとして、O
2プラズマ雰囲気中でn型半導体層26を気相成長させた。その後、O
2雰囲気で800℃30分の熱処理を行った。
【0047】
続いて、n型半導体領域16a,16bとなるべきn型半導体層26の表面をレジストで保護し、CH
4を用いたドライエッチングにより、電子供給層15上に位置するn型半導体層26を完全に除去した。その後、レジストを除去した。
【0048】
続いて、n型半導体領域16a,16bの上に、通常のフォトリソグラフィ技術及びリフトオフ技術を用いて、ソース電極31及びドレイン電極32としてそれぞれTi/Alからなるオーミック電極を形成した。また、n型半導体領域16a,16b間の電子供給層15上に、Ni/Auからなるゲート電極33を形成した。その後、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33に接続される金属配線を形成したのち、SiNからなる表面保護膜41を成膜することにより、本実施例のHEMTを完成させた。なお、本実施例のHEMTでは、良好な高周波特性を実現する為にゲート長(Lg)を0.2μmとし、ソース−ドレイン電極間隔を3.0μmとした。
【0049】
(第1の比較例)
上記実施例と同様にして、半絶縁性のSiC基板上に、バッファ層13、GaNチャネル層14、及び電子供給層15をMOCVD法により成長させた。そして、電子供給層15の上にソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33を形成した。その後、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33に接続される金属配線を形成したのち、SiNからなる表面保護膜41を成膜することにより、本比較例のHEMTを完成させた。なお、本比較例のHEMTにおいても、ゲート長(Lg)を0.2μmとし、ソース−ドレイン電極間隔を3.0μmとした。
【0050】
(第2の比較例)
第1実施例と同様にして、半絶縁性のSiC基板上に、バッファ層13、GaNチャネル層14、及び電子供給層15をMOCVD法により成長させた。続いて、Cl系ガスを用いたRIEによって、GaNチャネル層14及び電子供給層15の一対の領域A1,A2をエッチングすることにより深さ80nmのリセスを形成した。そして、このリセス部分にのみ高濃度n型GaN領域を形成する為、先ず基板上の全面にSiO
2膜をCVDにより形成した。その後、高濃度n型GaN領域を形成する部分のSiO
2膜をフッ素系ガス(例えばSF
6、CF
4など)を用いたRIEにより除去した。
【0051】
続いて、MOCVD法を用い、TMG及びNH
3を原料として、成長温度1000℃、圧力20.0kPaにて、SiH
4をドープしながらこのリセス部分に厚さ120nmの高濃度n型GaN領域を成長させた。成長後のn型GaN領域におけるn型不純物Siの濃度は5.0×10
18cm
-3であった。そして、成長マスクであるSiO
2膜上の不要なn型GaN領域を除去する為に、HF溶液へ10分浸漬させることにより、SiO
2膜を除去した。
【0052】
続いて、実施例と同様にしてn型GaN層の上にソース電極31及びドレイン電極32を形成し、電子供給層15の上にゲート電極33を形成した。その後、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33に接続される金属配線を形成したのち、SiNからなる表面保護膜41を成膜することにより、本比較例のHEMTを完成させた。なお、本比較例のHEMTにおいても、ゲート長(Lg)を0.2μmとし、ソース−ドレイン電極間隔を3.0μmとした。
【0053】
(実施例及び比較例の検証)
上記のようにして作製された第1実施例、第1比較例、および第2比較例の各HEMTに対し、ドレイン電極32とソース電極31との間に10Vの電圧を印加し、ゲート電極33とソース電極31との間への印加電圧を調整することにより、ドレイン電流を200mA/mmに設定した。そして、DC特性及びSパラメータの測定(高周波測定)を行った。
【0054】
その結果、第1実施例のHEMTでは、遮断周波数ft=240GHzならびに相互コンダクタンスgm=1200mS/mmを得た。これに対し、第1比較例のHEMTでは、遮断周波数ft=80GHzならびに相互コンダクタンスgm=400mS/mmであった。また、第2比較例のHEMTでは、遮断周波数ft=102GHzならびに相互コンダクタンスgm=510mS/mmであった。
【0055】
図5(a)〜
図5(c)は、上述した実施例および各比較例のHEMTにおける各部位のシート抵抗(Ω/□)及び実抵抗(Ωmm)の値、及び高周波特性(gm)に関与するオン抵抗の値を示す。
図5(a)は第1比較例、
図5(b)は第2比較例、
図5(c)は実施例をそれぞれ示す。なお、これらの図表において、各項目は以下のように定義される(実施例及び第2比較例は
図6(a)を参照。第1比較例は
図6(b)を参照)。
Rcs:ソース電極31と半導体とのコンタクト(接触)抵抗
Rs1:ソース電極31直下からチャネル領域との境界までのn型半導体領域16aのアクセス抵抗
Rs2:n型半導体領域16aとの境界からゲート電極33直下までのチャネル領域のアクセス抵抗
Rd1:ゲート電極33直下からn型半導体領域16bとの境界までのチャネル領域のアクセス抵抗
Rd2:チャネル領域との境界からドレイン電極32直下までのn型半導体領域16bのアクセス抵抗
Rcd:ドレイン電極32と半導体とのコンタクト(接触)抵抗
Ron:ソース電極31からドレイン電極32までのオン抵抗(上記のRcs〜Rcdの総和)
なお、ソース−ゲート間のアクセス抵抗は、上記のRcs、Rs1及びRs2の和とみなすことができる。
【0056】
まず
図5(a)を参照すると、第1比較例では、InAlNからなる電子供給層15に因って比較的低い各アクセス抵抗値が得られていることがわかる。しかしながら、n型半導体領域16a,16bに相当する領域が設けられておらず電子供給層15とソース電極31及びドレイン電極32とが直接接触しているので、コンタクト抵抗が比較的高くなっている。その結果、オン抵抗Ronが1.80(Ωmm)と大きくなってしまう。このことが、前述した低い遮断周波数ft及び相互コンダクタンスgmの原因となる。
【0057】
次に、
図5(b)を参照すると、第2比較例では、高濃度n型半導体領域としてのn型GaN領域が設けられたことにより、Rcs、Rs1、Rd2、及びRcdの各アクセス抵抗値が
図5(a)の値よりも低下していることがわかる。しかし、チャネル領域の抵抗(Rs2及びRd1)は、n型GaN領域を成長させる際の高温によるInAlN電子供給層の劣化に伴い、
図5(a)の値よりも顕著に上昇してしまう。結果的に、HEMT全体でのオン抵抗Ronは1.40(Ωmm)となり、その改善幅は小さく、HEMT特性の改善も限定的となる。
【0058】
これらに対し、
図5(c)を参照すると、実施例では、高濃度n型半導体領域16a,16bをn型ZnOによって形成したことにより、電子濃度を高くでき(例えば1×10
20cm
-3以上)、コンタクト抵抗(Rcs,Rcd)及びアクセス抵抗(Rs1,Rd2)の双方が上記比較例から大きく低減されていることがわかる。また、ZnOの成長温度がGaNよりも低いことから、ゲ−ト電極直下のチャネル領域の抵抗(Rs2,Rd1)の上昇も第1比較例に対して抑制されている。これらのように、アクセス抵抗及びコンタクト抵抗が大幅に改善した結果、オン抵抗Ronが0.60(Ωmm)と格段に小さくなり、遮断周波数ft及び相互コンダクタンスgmが大きく改善することとなる。
【0059】
(第2の実施例)
まず、半絶縁性のSiC基板上に、MOCVD法を用いてバッファ層13としてのAlN層を成長させた。次に、TMG及びNH
3を原料とし、成長温度1080°C、圧力13.3kPaにて、GaNチャネル層14を成長させた。続いて、TMA、TMI及びNH
3を原料として、成長温度800°C、圧力15.0kPaにて、GaNチャネル層14の上にInAlN電子供給層15を成長させた。成長後の電子供給層15の厚さは8nmであり、In組成はGaNに格子整合可能な17%である。
【0060】
続いて、Cl系ガスを用いたRIEによって、GaNチャネル層14及び電子供給層15の一対の領域A1,A2(
図2(a)参照)をエッチングすることにより深さ80nmのリセスを形成した。エッチングされた半導体表面を清浄化した後に、基板上の全面にn型ZnOからなる厚さ120nmの高濃度n型半導体層26(
図3(a)参照)を成長させた。このとき、n型半導体層26の不純物濃度を1.0×10
19cm
-3とし、成長温度を500℃とした。また、亜鉛(Zn)の固体原料を用い、Alをn型ド−パントとして、O
2プラズマ雰囲気中でPLD(pulse laser deposition)を行うことによりn型半導体層26を気相成長させた。その後、O
2雰囲気で600℃30分の熱処理を行った。
【0061】
続いて、n型半導体領域16a,16bとなるべきn型半導体層26の表面をレジストで保護し、CH
4を用いたドライエッチングにより、電子供給層15上に位置するn型半導体層26を完全に除去した(
図3(b)参照)。その後、レジストを除去した。
【0062】
続いて、n型半導体領域16a,16bの上に、通常のフォトリソグラフィ技術及びリフトオフ技術を用いて、ソース電極31及びドレイン電極32としてそれぞれIn/Auからなるオーミック電極を形成し、350°Cの熱処理により合金化させた(
図4参照)。また、n型半導体領域16a,16b間の電子供給層15上に、EB露光技術を用いてNi/AuからなるT字型のゲート電極33を形成した。その後、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33に接続される金属配線を形成したのち、ALD法を用いてAl
2O
3からなる表面保護膜41を成膜することにより、本実施例のHEMTを完成させた。なお、本実施例のHEMTでは、良好な高周波特性を実現する為にゲート長(Lg)を0.15μmとし、ソース−ドレイン電極間隔を3.0μmとした。また、n型半導体領域16a,16bのゲート電極33型の端を、それぞれ1.0μmずつソース電極31及びドレイン電極32の端から離し、ゲート電極33に近づけた。
【0063】
第1実施例と同様の測定方法により本実施例のHEMTの高周波特性を評価した結果、遮断周波数(ft)は31GHzであった。また、DC特性の解析の結果、ソース側アクセス抵抗は2.0Ωmmとなり、大幅に改善された。
【0064】
なお、本実施例において、電子供給層をInAlNからAlGaNに変更した場合に関しても、遮断周波数(ft)は32GHzであり、ソース側アクセス抵抗は1.9Ωmmであり、大幅に改善された。また、n型半導体領域16a,16bの成膜方法をPLDからALDに変更した場合でも、遮断周波数(ft)は39GHzであり、ソース側アクセス抵抗は1.6Ωmmであり、大幅に改善された。
【0065】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の別の実施形態に係るHEMT1Bの構成を示す断面図である。HEMT1Bは、第1実施形態と同様に、基板11、窒化物半導体層12、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33を備える。窒化物半導体層12は、バッファ層13、GaNチャネル層14、及び電子供給層(バリア層)15がこの順に積層されて成る。そして、HEMT1Bは、一対のn型半導体領域16a,16bを更に備える。なお、これらの構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0066】
本実施形態のHEMT1Bは、犠牲層(中間層)17を更に備える。犠牲層17は、窒化物半導体層12と一対のn型半導体領域16a,16bとの間、より具体的にはGaNチャネル層14及び電子供給層15と一対のn型半導体領域16a,16bとの間に設けられている(介在している)。犠牲層17は、In、Sn、及びZnのうち少なくとも一つを含む金属層である。また、犠牲層17は、これらの金属が酸化してなるIn
2O
3、SnO
2、ZnO
2のうち少なくとも一つを含んでもよい。或いは、犠牲層17は、これらの半導体の混晶(例えばITO;In−Sn−O)を含んでもよい。
【0067】
犠牲層17は、例えば、
図2(b)に示されたリセス61の表面に、上述した金属材料を蒸着或いはスパッタ等により堆積させることにより形成される。また、導電性に影響がない範囲で、上述した金属材料に加え、主原料とならない割合(例えば50%以下)で窒素や炭素などの不純物が含まれていてもよい。例えば、ALD(atomic layer deposition)法によりInN、ZnOなどの金属酸化物を成膜し、これを犠牲層17としてもよい。
【0068】
本発明者の知見によれば、窒化物半導体では熱やプラズマなどの外部エネルギーによって窒素抜けが起こりやすく、他の半導体層との界面においては、III族原子がV族原子よりも多くなる方向に組成が変化する。従って、窒素が不足した窒化物半導体表面にZnOなどの酸化物半導体を直接形成する場合、酸化物半導体の形成に必要な酸化源と表面の余剰III族原子との反応が生じ、AlO、GaOなどの意図しない酸化物が界面に生じるおそれがある。
【0069】
そこで本変形例では、窒化物半導体の界面すなわち窒化物半導体層12と一対のn型半導体領域16a,16bとの間に、酸化物でも窒化物でもない犠牲層17が設けられている。犠牲層17は、窒化物半導体層12の表面から窒素抜けを抑制する役割と、n型半導体領域16a,16bの形成時に酸素原子が窒化物半導体層12と直接反応することを抑制する役割とを担う。その一方で、犠牲層17ではn型半導体領域16a,16bの形成時に酸化反応が進行するが、そのような酸化に影響されることなく高い導電性が犠牲層17に求められる。
【0070】
このような条件に適合する材料を種々検討した結果、本発明者は、犠牲層17としてIn、Sn、及びZnといった金属材料が適していることを見出した。これらの金属が酸化するとIn
2O
3、SnO
2、若しくはZnO
2、或いはこれらの混晶(例えばITO)を形成するが、これらは高い導電性を示す。従って、n型半導体領域16a,16bの形成時に犠牲層17において酸化反応が進んだとしても、犠牲層17とn型半導体領域16a,16bとの界面に伝導障壁層は形成されない。以上のことから、本変形例のHEMT1Bによれば、ソース・ゲート間のアクセス抵抗をより一層低下させることができる。
【0071】
(第3の実施例)
まず、半絶縁性のSiC基板上に、MOCVD法を用いてバッファ層13としてのAlN層を成長させた。次に、TMG及びNH
3を原料とし、成長温度1080°C、圧力13.3kPaにて、GaNチャネル層14を成長させた。続いて、TMA、TMI及びNH
3を原料として、成長温度800°C、圧力15.0kPaにて、GaNチャネル層14の上にInAlN電子供給層15を成長させた。成長後の電子供給層15の厚さは8nmであり、In組成はGaNに格子整合可能な17%である。
【0072】
続いて、Cl系ガスを用いたRIEによって、GaNチャネル層14及び電子供給層15の一対の領域A1,A2(
図2(a)参照)をエッチングすることにより深さ80nmのリセスを形成した。エッチングされた半導体表面を清浄化した後に、PLD法を用いて犠牲層17としてのIn金属層を3nm形成した。このとき、Inの固体原料を用い、成長温度(基板温度)500°C、N
2ガス雰囲気にてIn金属層を成膜した。引き続き、n型ZnOからなる厚さ120nmの高濃度n型半導体層26を成長させた。このとき、n型半導体層26の不純物濃度を1.0×10
19cm
-3とし、成長温度を500℃とした。また、亜鉛(Zn)の固体原料を用い、Alをn型ド−パントとして、O
2プラズマ雰囲気中でPLD(pulse laser deposition)を行うことによりn型半導体層26を気相成長させた。その後、O
2雰囲気で600℃30分の熱処理を行うことにより、界面及び結晶の品質改善を行った。
【0073】
続いて、n型半導体領域16a,16bとなるべきn型半導体層26の表面をレジストで保護し、CH
4を用いたドライエッチングにより、電子供給層15上に位置するn型半導体層26を完全に除去した。その後、レジストを除去した。
【0074】
続いて、n型半導体領域16a,16bの上に、通常のフォトリソグラフィ技術及びリフトオフ技術を用いて、ソース電極31及びドレイン電極32としてそれぞれIn/Auからなるオーミック電極を形成し、350°Cの熱処理により合金化させた。また、n型半導体領域16a,16b間の電子供給層15上に、EB露光技術を用いてNi/AuからなるT字型のゲート電極33を形成した。その後、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33に接続される金属配線を形成したのち、ALD法を用いてAl
2O
3からなる表面保護膜41を成膜することにより、本実施例のHEMTを完成させた。なお、本実施例のHEMTでは、良好な高周波特性を実現する為にゲート長(Lg)を0.15μmとし、ソース−ドレイン電極間隔を3.0μmとした。また、n型半導体領域16a,16bのゲート電極33型の端を、それぞれ1.0μmずつソース電極31及びドレイン電極32の端から離し、ゲート電極33に近づけた。
【0075】
第1実施例と同様の測定方法により本実施例のHEMTの高周波特性を評価した結果、遮断周波数(ft)は130GHzであった。また、DC特性の解析の結果、ソース側アクセス抵抗は0.46Ωmmとなり、大幅に改善された。
【0076】
なお、本実施例においては、電子供給層をInAlNからAlGaNに変更した場合に関しても、遮断周波数(ft)は133GHzであり、ソース側アクセス抵抗は0.45Ωmmであり、大幅に改善された。また、n型半導体領域16a,16bの成膜方法をPLDからALDに変更した場合でも、遮断周波数(ft)は135GHzであり、ソース側アクセス抵抗は0.44Ωmmであり、大幅に改善された。
【0077】
(第4の実施例)
まず、半絶縁性のSiC基板上に、MOCVD法を用いてバッファ層13としてのAlN層を成長させた。次に、TMG及びNH
3を原料とし、成長温度1080°C、圧力13.3kPaにて、GaNチャネル層14を成長させた。続いて、TMA、TMI及びNH
3を原料として、成長温度800°C、圧力15.0kPaにて、GaNチャネル層14の上にInAlN電子供給層15を成長させた。成長後の電子供給層15の厚さは8nmであり、In組成はGaNに格子整合可能な17%である。
【0078】
続いて、Cl系ガスを用いたRIEによって、GaNチャネル層14及び電子供給層15の一対の領域A1,A2(
図2(a)参照)をエッチングすることにより深さ80nmのリセスを形成した。エッチングされた半導体表面を清浄化した後に、ALD法を用いて犠牲層17としてのInN層を3nm形成した。このとき、TMI及びNH
3プラズマを交互に供給し、成膜温度を300°Cとした。引き続き、n型ZnOからなる厚さ120nmの高濃度n型半導体層26を成長させた。このとき、n型半導体層26の不純物濃度を1.0×10
19cm
-3とし、成長温度を300℃とした。また、ジエチル亜鉛を原料とし、Alをn型ド−パントとして、オゾン若しくはO
2のプラズマ雰囲気中でPLD(pulse laser deposition)を行うことによりn型半導体層26を気相成長させた。その後、O
2雰囲気で500℃30分の熱処理を行うことにより、InN及びZnOの界面と、InN結晶及びZnO結晶との各品質の改善を行った。
【0079】
続いて、n型半導体領域16a,16bとなるべきn型半導体層26の表面をレジストで保護し、CH
4を用いたドライエッチングにより、電子供給層15上に位置するn型半導体層26を完全に除去した。その後、レジストを除去した。
【0080】
続いて、n型半導体領域16a,16bの上に、通常のフォトリソグラフィ技術及びリフトオフ技術を用いて、ソース電極31及びドレイン電極32としてそれぞれIn/Auからなるオーミック電極を形成し、350°Cの熱処理により合金化させた。また、n型半導体領域16a,16b間の電子供給層15上に、EB露光技術を用いてNi/AuからなるT字型のゲート電極33を形成した。その後、ソース電極31、ドレイン電極32、及びゲート電極33に接続される金属配線を形成したのち、ALD法を用いてAl
2O
3からなる表面保護膜41を成膜することにより、本実施例のHEMTを完成させた。なお、本実施例のHEMTでは、良好な高周波特性を実現する為にゲート長(Lg)を0.15μmとし、ソース−ドレイン電極間隔を3.0μmとした。また、n型半導体領域16a,16bのゲート電極33型の端を、それぞれ1.0μmずつソース電極31及びドレイン電極32の端から離し、ゲート電極33に近づけた。
【0081】
第1実施例と同様の測定方法により本実施例のHEMTの高周波特性を評価した結果、遮断周波数(ft)は146GHzであった。また、DC特性の解析の結果、ソース側アクセス抵抗は0.41Ωmmとなり、大幅に改善された。
【0082】
図8は、上述した第3実施例及び第4実施例により作製された各HEMTのRc、Rn+、Rsh、理論上のアクセス抵抗値、改善後のアクセス抵抗値、及び遮断周波数(ft)を示す図表である。Rcはソース電極31(またはドレイン電極32)と半導体とのコンタクト抵抗値(前述したRcs、Rcdに相当)であり、Rn+はソース電極31(またはドレイン電極32)直下からチャネル領域との境界までのn型半導体領域16a(または16b)のアクセス抵抗(前述したRs1、Rd1に相当)であり、Rshはn型半導体領域16a(または16b)との境界からゲート電極33直下までのチャネル領域のアクセス抵抗(前述したRs2、Rd2に相当)である。なお、ソース−ゲート間のアクセス抵抗は、上記のRc、Rn+及びRshの和とみなすことができる。
【0083】
また、
図8には、左から、第3実施例において電子供給層をInAlNとしn型半導体領域16a,16bの成膜方法をPLDとした場合、第3実施例において電子供給層をAlGaNとしn型半導体領域16a,16bの成膜方法をPLDとした場合、第3実施例において電子供給層をInAlNとしn型半導体領域16a,16bの成膜方法をALDとした場合、並びに、第4実施例において電子供給層をInAlNとしn型半導体領域16a,16bの成膜方法をALDとした場合の各数値が示されている。
【0084】
図8に示されるように、第3実施例及び第4実施例のいずれの構成においても、コンタクト抵抗値Rc、アクセス抵抗Rn+、及びアクセス抵抗Rshが低く抑えられ、ソース−ゲート間のアクセス抵抗値が低減されている。そして、犠牲層17の作用によって、実際のアクセス抵抗値が理論値に近づき、遮断周波数(ft)も改善されている。なお、このような結果は、前述したように、n型半導体領域16a,16bと窒化物半導体層12との界面における窒化物半導体層12の酸化が抑制されたことに因る。
【0085】
図9は、犠牲層17が設けられない場合のn型半導体領域16a,16bと窒化物半導体層12との界面における各原子(Zn、Al、O、N)の組成比の変化(オージェ電子分光法(AES)による分析結果)を示すグラフである。
図9において、深さ0〜8nmの領域はn型半導体領域16a,16b(ZnO)であり、深さ8〜25nmの領域はInAlN電子供給層15である。
図9に示されるように、InAlN電子供給層15の界面付近の領域(深さ8〜16nm)において、O(酸素原子)が有意に存在しており、InAlNが酸化していることがわかる。この場合、酸化によって生じたAlOによって導電性が劣化してしまう。
【0086】
これに対し、
図10は、犠牲層17が設けられた場合のn型半導体領域16a,16bと窒化物半導体層12との界面における各原子(Zn、Al、O、N)の組成比の変化(AES分析結果)を示すグラフである。
図10において、深さ0〜8nmの領域はn型半導体領域16a,16b(ZnO)であり、深さ8〜16nmの領域は犠牲層17であり、深さ16〜25nmの領域はInAlN電子供給層15である。
図10に示されるように、犠牲層17の作用によって、n型半導体領域16a,16bからのO(酸素原子)の拡散が効果的に抑制されていることがわかる。
【0087】
本発明によるHEMT、及びHEMTの製造方法は、上述した実施形態及び実施例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではZnO系化合物半導体からなるn型半導体層26を部分的に除去する方法としてドライエッチングが用いられているが、寸法安定性に優れるウェット技術を用いてもよい。また、本発明のHEMTは、電子供給層15(InAlN層及びAlGaN層のいずれでもよい)の上に、ゲートリークを低減する為の厚さ数nmのGaNキャップ層を更に備えてもよい。