特許第6772736号(P6772736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772736
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】Ni基耐熱合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20201012BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20201012BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20201012BHJP
【FI】
   C22C19/05 F
   !C22F1/10 H
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-196150(P2016-196150)
(22)【出願日】2016年10月4日
(65)【公開番号】特開2018-59142(P2018-59142A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】米村 光治
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−056436(JP,A)
【文献】 特開2013−216939(JP,A)
【文献】 特開2008−297579(JP,A)
【文献】 特開2016−132824(JP,A)
【文献】 特開2011−084812(JP,A)
【文献】 特開2013−177668(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103898371(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00−19/07
C22C 30/00−30/06
C22F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.01%未満、
Si:1.0%以下、
Mn:1.0%以下、
Cr:15.0%以上28.0%未満、
Al:0.5%を超えて2.5%以下、
Ti:0.1〜2.0%、
Nb:0.1〜2.0%、
B:0.0005〜0.01%、
Mo:0%を超えて7.0%未満、
W:0%を超えて14.0%未満、
Fe:0.1%未満、
Co:0〜25.0%、
Zr:0〜0.2%、
V:0〜1.5%、
Hf:0〜1.0%、
Mg:0〜0.05%、
Ca:0〜0.05%、
Nd:0〜0.5%、
Y:0〜0.5%、
La:0〜0.5%、
Ce:0〜0.5%、
Ta:0〜8.0%、
Re:0〜8.0%、
残部:50.0%以上のNiおよび不純物であり、
下記式(i)〜(iv)を満足する、
Ni基耐熱合金。
6.0≦Mo+0.5W≦7.0 ・・・(i)
0.3≦Al/(Al+Ti+Nb)≦0.6 ・・・(ii)
0.2≦Ti/(Al+Ti+Nb)≦0.5 ・・・(iii)
0<Nb/(Al+Ti+Nb)≦0.5 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Co:5.0%を超えて25.0%以下、
Zr:0.005〜0.2%、
V:0.02〜1.5%、
Hf:0.005〜1.0%、
Mg:0.0008〜0.05%、
Ca:0.0008〜0.05%、
Nd:0.001〜0.5%、
Y:0.001〜0.5%、
La:0.001〜0.5%、
Ce:0.001〜0.5%、
Ta:0.01〜8.0%、および、
Re:0.01〜8.0%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1に記載のNi基耐熱合金。
【請求項3】
母相のγ´相の体積分率が25.0%以下であり、
粒界被覆率が70.0%以上である、
請求項1または請求項2に記載のNi基耐熱合金。
【請求項4】
粒界のσ相の体積分率が10.0%以下であり
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のNi基耐熱合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基耐熱合金に関する。
【0002】
近年、省エネルギー、資源の有効活用、および環境保全のためのCOガス排出量削減がエネルギー問題の解決課題の一つとなっており、重要な産業政策となっている。化石燃料を燃焼させる発電用ボイラ、化学工業用の反応炉等の場合には、効率の高い、超々臨界圧ボイラまたは反応炉が有利である。それに伴い、高効率化のために蒸気の温度と圧力とを高めた超々臨界圧ボイラの新設が世界中で進められている。具体的には、今までは600℃前後であった蒸気温度を650℃以上、さらには700℃以上にまで高めることが計画されている。
【0003】
蒸気の高温高圧化により、ボイラの過熱器管および化学工業用の反応炉管、ならびに、耐熱耐圧部材としての厚板および鍛造品等は、実稼働時において700℃以上の温度まで上昇されることとなる。したがって、このような過酷な環境において長時間使用される材料には、高温強度および高温耐食性のみならず、長期にわたる金属組織の安定性、ならびに、良好なクリープ破断延性および耐クリープ疲労特性が要求される。
【0004】
さらに、長時間使用後の補修等メンテナンスにおいては、長期経年変化した材料に対して切断、加工、溶接等の作業を行う必要が生じる。したがって、耐熱材料には、新材としての特性だけでなく、経年材としての健全性が強く求められる。
【0005】
特許文献1〜8には、上述のような過酷な高温環境下で使用されるNi基合金が開示されている。これらの文献では、Moおよび/またはWを含有させて固溶強化を図るとともに、AlおよびTiを含有させて金属間化合物であるγ´相、具体的には、Ni(Al,Ti)の析出強化を活用している。このうち、特許文献4〜6に開示されたNi基合金は、28%以上のCrを含有しているため、bcc構造を有するα―Cr相も多量に析出する。
【0006】
特許文献9には、Ni基単結晶超合金の整合ひずみの調整によってクリープ強度を向上することが開示されている。
【0007】
特許文献10には、MnおよびCrといった添加元素を多く含有させることにより、高温強度を高めたオーステナイト鋼が開示されている。
【0008】
特許文献11には、MoおよびWを所定量含有し、さらに、NdおよびBを所定量含有するNi基合金が開示されている。この文献にはさらに、Sb、Zn、およびAsの総含有量を制限することにより、高温での熱間加工性およびクリープ破断強度を向上させることが記載されている。
【0009】
特許文献12には、粒内を強化するγ´相を構成するAl、Ti、およびNbの含有量のバランスを規定するとともに、粒界を炭化物または硼化物で強化したNi基耐熱合金が開示されている。
【0010】
特許文献13には、母相のガンマプライム(γ´)相の体積分率、ならびに、NbおよびMoの含有量のバランスを規定したNi基耐熱合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭51−84726号公報
【特許文献2】特開昭51−84727号公報
【特許文献3】特開平7−150277号公報
【特許文献4】特開平7−216511号公報
【特許文献5】特開平8−127848号公報
【特許文献6】特開平8−218140号公報
【特許文献7】特開平9−157779号公報
【特許文献8】特表2002−518599号公報
【特許文献9】特開2003−49231号公報
【特許文献10】特開昭61−179834号公報
【特許文献11】国際公開第2010/038826号
【特許文献12】特開2013−216939号公報
【特許文献13】特開2016−56436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1〜8に開示されたNi基合金では、γ´相およびα−Cr相が析出する。そのため、高温下でのクリープ破断延性が従来のオーステナイト鋼等に比べて低く、特に、長期間使用した場合には、経年変化を生じて延性が新材と比較して大きく低下する。
【0013】
特許文献9に開示されたNi基合金は、単結晶合金であり、鋼管材料のような構造物において延性・加工性が求められる用途に用いることができない。特許文献10に開示されたオーステナイト鋼は、Ni含有量が50%以上になると高い破断強度が得られない。特許文献11に開示されたNi基合金は、高温で長時間使用後のクリープ強度およびクリープ破断延性が低い場合がある。
【0014】
また、特許文献12に開示されたNi基耐熱合金は、粒界を炭化物または硼化物で強化しているため、800℃以上の高温環境下では強度が低下する場合がある。特許文献13に開示されたNi基耐熱合金は、優れたクリープ強度とクリープ破断延性とを有するものの、長期にわたる金属組織の安定性の面でさらなる改善の余地が残されている。
【0015】
本発明は上記の問題を解決し、優れたクリープ強度とクリープ破断延性とを有するNi基耐熱合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のNi基耐熱合金を要旨とする。
【0017】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.01%未満、
Si:1.0%以下、
Mn:1.0%以下、
Cr:15.0%以上28.0%未満、
Al:0.5%を超えて2.5%以下、
Ti:0.1〜2.0%、
Nb:0.1〜2.0%、
B:0.0005〜0.01%、
Mo:0%を超えて7.0%未満、
W:0%を超えて14.0%未満、
Fe:0.1%未満、
Co:0〜25.0%、
Zr:0〜0.2%、
V:0〜1.5%、
Hf:0〜1.0%、
Mg:0〜0.05%、
Ca:0〜0.05%、
Nd:0〜0.5%、
Y:0〜0.5%、
La:0〜0.5%、
Ce:0〜0.5%、
Ta:0〜8.0%、
Re:0〜8.0%、
残部:Niおよび不純物であり、
下記式(i)〜(iv)を満足する、
Ni基耐熱合金。
6.0≦Mo+0.5W≦7.0 ・・・(i)
0.3≦Al/(Al+Ti+Nb)≦0.6 ・・・(ii)
0.2≦Ti/(Al+Ti+Nb)≦0.5 ・・・(iii)
0<Nb/(Al+Ti+Nb)≦0.5 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0018】
(2)前記化学組成が、質量%で、
Co:5.0%を超えて25.0%以下、
Zr:0.005〜0.2%、
V:0.02〜1.5%、
Hf:0.005〜1.0%、
Mg:0.0008〜0.05%、
Ca:0.0008〜0.05%、
Nd:0.001〜0.5%、
Y:0.001〜0.5%、
La:0.001〜0.5%、
Ce:0.001〜0.5%、
Ta:0.01〜8.0%、および、
Re:0.01〜8.0%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のNi基耐熱合金。
【0019】
(3)母相のγ´相の体積分率が25.0%以下であり、
粒界被覆率が70.0%以上である、
上記(1)または(2)に記載のNi基耐熱合金。
【0020】
(4)粒界のσ相の体積分率が10.0%以下であり、
母相のLaves相の体積分率が5.0%以下である、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載のNi基耐熱合金。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れたクリープ強度とクリープ破断延性とを有するNi基耐熱合金が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】粒界被覆率を説明するための図である。
図2】本発明合金および従来合金の初期組織と破断組織とを比較するための顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、特許文献13に開示されるNi基耐熱合金に基づき、クリープ強度およびクリープ破断延性をさらに改善する方法について鋭意検討を重ね、以下の知見を得た。
【0024】
従来の合金を用いてクリープ破断試験を実施し、破断後の鋼組織を観察したところ、粒界においてLaves相がσ相に変化するとともに、粒内に針状のLaves相が析出していた。
【0025】
このことから発明者らは、クリープ強度およびクリープ破断延性をさらに向上させるためには、組織安定性を高めることが必要であると着想するに至った。
【0026】
そこで種々の化学組成を有する合金についてクリープ破断試験を実施し、破断組織を観察したところ、Fe含有量を極力低減するとともに、Mo当量(=Mo+0.5W)を最適化することによって、準安定相であるLaves相を安定化させσ相の形成を抑制し、結果的にクリープ強度およびクリープ破断延性を大幅に向上できることを見出した。
【0027】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0028】
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0029】
C:0.01%未満
炭素(C)は、炭化物を形成してクリープ強度を向上するのに有効な元素とされている。しかし本発明においては、高温長時間において炭化物よりも安定な金属間化合物によって高温クリープ強度を実現する。そのため、C含有量が多くなると、粒界に炭化物が析出するため、粒界の金属間化合物の析出量が減少して高温長時間側での粒界安定性が保たれない。また、C含有量が多くなると、炭化物が過剰に析出して靱性等の機械的性質が劣化する。さらに、溶接性も低下する。したがって、C含有量は、0.01%未満とする。
【0030】
Si:1.0%以下
シリコン(Si)は、合金を脱酸する。しかしながら、Si含有量が過剰になると、溶接性および熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は1.0%以下とする。Si含有量は、1.0%未満であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。他の元素によって脱酸作用が十分確保されている場合には、Si含有量には下限を設けなくても良い。脱酸作用、耐酸化性および耐水蒸気酸化性等の効果を安定して得たい場合には、Si含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがより好ましく、0.04%以上であるのがさらに好ましい。
【0031】
Mn:1.0%以下
マンガン(Mn)は、合金を脱酸する。Mnはさらに、不純物であるSを硫化物として固着して、合金の熱間加工性を高める。一方、Mn含有量が過剰になると、スピネル型酸化被膜の形成が促進され、高温での耐酸化性が低下する。したがって、Mn含有量は1.0%以下である。Mn含有量は1.0%未満であることが好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。熱間加工性改善の作用を安定して得たい場合には、Mn含有量は0.01%以上であることが好ましく、0.02%以上であることがさらに好ましく、0.04%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
Cr:15.0%以上28.0%未満
クロム(Cr)は、合金の耐酸化性、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性等の耐食性を高める。Crはさらに、Nbと結合して金属間化合物を形成して粒界に析出し、合金のクリープ強度を向上する。一方、Cr含有量が過剰になると、α‐Cr相やσ相が過剰に析出し、粗大化して、長時間使用時に析出物界面にクリープボイドが形成されやすくなる。これによって、クリープ強度およびクリープ破断延性が低下し、また、熱間加工性も低下する。したがって、Cr含有量は、15.0%以上28.0%未満である。Cr含有量は、下限の観点では、15.0%よりも高いことが好ましく、16.0%以上であることがさらに好ましく、18.0%以上であることがさらに好ましい。Cr含有量は、上限の観点では、27.0%以下であることが好ましく、26.0%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
Al:0.5%を超えて2.5%以下
アルミニウム(Al)は、γ´相(NiAl)を形成し、クリープ強度を高める。一方、Al含有量が過剰になると、γ´相の析出温度が上昇して高温におけるγ´相の体積分率が増大し、熱間加工性が低下する。したがって、Al含有量は、0.5%よりも高く2.5%以下である。Al含有量は、上限の観点では、2.5%未満であることが好ましく、2.3%以下であることがさらに好ましく、2.2%以下であることがさらに好ましい。Al含有量は、下限の観点では、0.6%以上であることが好ましく、0.7%以上であることがさらに好ましい。なお本明細書において、Al含有量は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
【0034】
Ti:0.1〜2.0%
チタン(Ti)は、Alとともにγ´相を形成して、合金のクリープ強度を高める元素である。一方、Ti含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。したがって、Ti含有量は、0.1〜2.0%とする。Ti含有量は0.5%以上であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましい。Ti含有量は、2.0%未満であることが好ましく、1.8%以下であることがより好ましく、1.7%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
Nb:0.1〜2.0%
ニオブ(Nb)はγ´相に固溶し、γ´相を強化する。Nbはさらに、母相を固溶強化する。そのため、Nbは、合金の高温強度を高める。しかしながら、Nb含有量が高すぎると、γ´相が増加し、かつ、Nbの母相(粒内)への固溶量も増加する。そのため、粒内が極度に強化される。さらに、粗大なNb炭化物が形成され、組織が弱くなる。そのため、クリープ強度および延性が低下し、熱間加工性も低下する。したがって、Nb含有量は0.1〜2.0%とする。Nb含有量は0.1%よりも高くことが好ましく、0.2%以上であるのがより好ましく、0.5%以上であるのがさらに好ましい。Nb含有量は2.0%未満であるのが好ましく、1.8%以下であるのがより好ましく、1.7%以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
B:0.0005〜0.01%
ボロン(B)は、粒界を強化し、Ni基耐熱合金のクリープ強度とクリープ破断延性とを高める。一方、B含有量が過剰になると、溶接性が低下し、クリープ強度およびクリープ破断延性も低下する。したがって、B含有量は0.0005〜0.01%である。B含有量は、上限の観点では、0.01%未満であることが好ましく、0.009%以下であることがさらに好ましく、0.008%以下であることがさらに好ましい。B含有量は、下限の観点では、0.0005%よりも高いことが好ましく、0.001%以上であることがさらに好ましく、0.002%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
Mo:0%を超えて7.0%未満
モリブデン(Mo)は、母相に固溶して、固溶強化によって合金のクリープ強度を向上させる。後述するように、本発明においてはMo当量を所定の範囲とする必要があるが、Mo含有量が0%であると、加工性が悪くなりさらに延性も低下する。一方、Mo含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。また、炭化物または窒化物を形成し、800℃以上での高温長時間強度を低下させる。したがって、Mo含有量は0%を超えて7.0%未満とする。Mo含有量は、0.2%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましい。また、Mo含有量は、6.5%以下であることが好ましく、6.0%以下であることがより好ましく、5.5%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
W:0%を超えて14.0%未満
タングステン(W)は、母相に固溶して、固溶強化によって合金のクリープ強度を向上させる。また、粒界にラーベス相を析出し、粒界強度を向上させる。後述するように、本発明においてはMo当量を所定の範囲とする必要があるが、W含有量が0%であると、Laves相が熱平衡的に不安定となり、粒界析出量が低下する。一方、W含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。したがって、W含有量は0%を超えて14.0%未満とする。W含有量は、1.0%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがより好ましい。また、W含有量は、12.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましい。
【0039】
Fe:0.1%未満
鉄(Fe)は、本来、Ni基耐熱合金の熱間加工性を高める元素である。しかしながら、本発明においては、合金中のFe含有量を低減することによって、準安定相であるLaves相を安定化させ、σ相の形成を抑制する。したがって、Fe含有量は0.1%未満とする。
【0040】
本発明のNi基耐熱合金の化学組成において、残部はNiおよび不純物である。ここで「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0042】
本発明のNi基耐熱合金には、さらに、Co、Zr、V、Hf、Mg、Ca、Nd、Y、La、Ce、TaおよびReから選択される1種以上の元素を含有させても良い。
【0043】
Co:0〜25.0%
コバルト(Co)は、γ相およびγ´相に分配され、主に固溶強化元素として作用する。Coはさらに、γ´に固溶することにより格子定数を大きく低下させ、整合格子ひずみを低下させる。そのため、Coはクリープ強度およびクリープ破断延性を向上させる。破断伸びの増加量は、Co含有による整合格子ひずみの低下量に対応する。Coはさらに、脆化相であるσ相の析出温度を低下し、粒内の強度および延性バランスに優れたγ+γ´の二相領域を拡げる。そのため、必要に応じてCoを含有させても良い。
【0044】
しかしながら、Co含有量が過剰になると、延性の向上効果は飽和する。さらに、Coの過剰な固溶により母相が著しく強化し、熱間加工性が低下する。したがって、Co含有量は25.0%以下とする。Co含有量は、25.0%未満であることが好ましく、22.0%以下であることがより好ましく、20.0%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Co含有量は5.0%を超えることが好ましく、7.0%以上であることがより好ましく、10.0%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
Zr:0〜0.2%
ジルコニウム(Zr)は、粒内γ´相と粒界とに分配され、粒内では、Tiと同様に粒内γ´相を安定化する。粒界では、Bと同様に粒界固溶元素として作用し、Ni基耐熱合金のクリープ強度およびクリープ破断延性を高める。そのため必要に応じてZrを含有させても良い。しかしながら、Zr含有量が過剰になると、粒内に分配されるZrにより粒内が過剰に強化され、熱間加工性が低下する。さらに、Zrの一部が介在物として粗大な(Zr,Nb)炭化物を形成し、合金のクリープ強度が低下する。したがって、Zr含有量は0.2%以下とする。Zr含有量は、0.2%未満であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Zr含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、0.02%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
V:0〜1.5%
バナジウム(V)は、炭窒化物または金属間化合物を形成してクリープ強度を高める元素であるため必要に応じて含有させても良い。しかしながら、V含有量が過剰になると、高温腐食の発生と脆化相の析出に起因して、延性および靱性が低下する。したがって、V含有量は、1.5%以下とする。V含有量は、1.5%未満であることが好ましく、1.2%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、V含有量は、0.02%以上であることが好ましく、0.04%以上であることがより好ましく、0.06%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
Hf:0〜1.0%
ハフニウム(Hf)は、主として粒界強化に寄与してクリープ強度を高める元素であるため必要に応じて含有させても良い。しかしながら、Hf含有量が過剰になると、熱間加工性および溶接性が低下する。したがって、Hf含有量は1.0%以下とする。Hf含有量は、1.0%未満であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Hf含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.008%以上であることがより好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
上記のVおよびHfは、1種のみ、または2種を複合して含有しても良い。VおよびHfを含有する場合、これらの元素の好ましい合計含有量は2.8%以下である。
【0049】
Mg:0〜0.05%
Ca:0〜0.05%
マグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)はいずれも、不純物であるSを硫化物として固着して熱間加工性を高める元素であるため必要に応じて含有させても良い。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、清浄性が低下し、かえって熱間加工性および延性が低下する。したがって、Mg含有量およびCa含有量はいずれも、0.05%以下とする。Mg含有量およびCa含有量は、0.05%未満であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、MgおよびCaの含有量の少なくとも一方が0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましく、0.001%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
Nd:0〜0.5%
Y:0〜0.5%
La:0〜0.5%
Ce:0〜0.5%
ネオジム(Nd)、イットリウム(Y)、ランタン(La)およびセリウム(Ce)はいずれも、Sを硫化物として固着して熱間加工性を高める。これらの元素はさらに、合金表面のCr保護皮膜の密着性を高め、特に、繰り返し酸化時の耐酸化性を高める。これらの元素はさらに、粒界を強化して、クリープ強度および破断ひずみを高める。そのため、必要に応じてこれらの元素を含有させても良い。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、酸化物等の介在物が多くなり熱間加工性および溶接性が低下する。したがって、Nd、Y、LaおよびCeの含有量はいずれも0.5%以下とする。これらの元素の含有量はいずれも、0.5%未満とすることが好ましく、0.3%以下とすることがより好ましく、0.15%以下とすることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、これらの元素の含有量のいずれかを0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがより好ましく、0.003%以上とすることがさらに好ましい。
【0051】
上記のMg、Ca、Nd、Y、LaおよびCeは、いずれか1種のみ、または2種以上を複合して含有することができる。これらの元素の好ましい合計含有量は0.94%以下である。
【0052】
Ta:0〜8.0%
Re:0〜8.0%
タンタル(Ta)およびレニウム(Re)はいずれも、炭窒化物を形成するとともに母相に固溶して、クリープ強度を高める。これらの元素はさらに、γ´相に固溶し高温強度を高める。そのため、必要に応じてこれらの元素を含有させても良い。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、加工性および機械的性質が低下する。したがって、Ta含有量およびRe含有量はそれぞれ、8.0%以下である。Ta含有量およびRe含有量はそれぞれ、8.0%未満であることが好ましく、7.0%以下であることがより好ましく、6.0%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、TaおよびReの含有量の少なくとも一方が0.01%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましく、0.5%以上であることがさらに好ましい。
【0053】
上記のTaおよびReは、1種のみ、または2種を複合して含有することができる。これらの元素の好ましい合計含有量は14.0%以下である。
【0054】
6.0≦Mo+0.5W≦7.0 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
上述の成分系において、Mo当量を上記の範囲内にすることによって、優れたクリープ強度およびクリープ破断延性が得られる。具体的には、Larson-Millerパラメータ法を用いて求められる800℃、100MPaでのクリープ破断時間が10時間以上となり、800℃、100MPaでのクリープ破断延性が20%以上となる。
【0055】
0.3≦Al/(Al+Ti+Nb)≦0.6 ・・・(ii)
0.2≦Ti/(Al+Ti+Nb)≦0.5 ・・・(iii)
0<Nb/(Al+Ti+Nb)≦0.5 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
上記式(ii)〜(iv)は、Al、TiおよびNb含有量の総量に対する、Al含有量、Ti含有量およびNb含有量の比をそれぞれ示す。
【0056】
本発明に係るNi基耐熱合金は、化学組成が上述の範囲内であるのに加えて、上記式(ii)〜(iv)を満足する。上記式(ii)〜(iv)を満足する場合、TiおよびNbの個別の固溶効果とγ´相の析出強化とのバランスが良好となる。つまりこの場合、析出強化に因る著しい強度増加と、固溶強化に因る延性と強度の増加によって、優れたクリープ強度とクリープ破断延性とが得られる。
【0057】
2.組織
本発明に係るNi基耐熱合金の金属組織については、特に制限は設けないが、組織を安定化させ優れたクリープ強度およびクリープ破断延性を確保ためには、下記の条件を満足することが好ましい。
【0058】
母相のγ´相の体積分率:25.0%以下
母相のγ´相の体積分率(vol.%)とは、母相(γ相)中のNi粒内におけるγ´相の体積分率を意味する。プロセスによっては粒界にもγ´相が析出する場合があるが、本発明においては、粒内に析出したγ´相のみを対象とする。
【0059】
γ´相の体積分率が高すぎると、整合格子ひずみが増大し、粒内延性が低下するおそれがある。さらに、γ´相の析出温度が上昇するため、熱間加工性が低下する場合がある。そのため、γ´相の体積分率は、25.0%以下とすることが好ましい。γ´相の体積分率を上記の範囲内とすることによって、強度と延性とのバランスが保たれ、優れた高温強度(クリープ強度)、延性および熱間加工性(破断伸び)が得られる。母相のγ´相の体積分率の下限については特に設けないが、γ´相の体積分率が低すぎると、必要なクリープ強度が得られない場合がある。そのため、γ´相の体積分率は10.0%以上とするのが好ましい。
【0060】
母相のγ´相の体積分率は、次の方法によって測定する。Ni基耐熱合金に対してX線回折測定を実施し、母相(γ相)およびγ´相の二相モデルでX線Rietveld法による構造最適化によって体積分率解析する。ここで、粒界に析出したγ´相は薄いフィルム状で、かつ疎であるため、X線回折測定では検出されない。つまり、X線回折測定において検出されるγ´相は、γ粒内に析出したγ´相である。したがって、上述のX線回折法により体積分率を解析することにより、γ´相の体積分率を求めることができる。
【0061】
なお、γ´相の体積分率は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた画像解析でも測定が可能である。この場合、画像解析により、γ粒内に析出したγ´相の面積率を求め、求めた面積率をもって、γ´相の体積分率と定義する。
【0062】
粒界被覆率:70.0%以上
粒界被覆率とは、結晶粒(γ相)の粒界の全長さに対する、析出物によって覆われた粒界の長さの比(%)である。本発明においては、Ni基耐熱合金が使用に供される前の状態、すなわち、新材の時に測定した粒界被覆率を採用する。
【0063】
合金が変形する際、粒界に応力が集中する。粒界が析出物で覆われていれば、この応力を分散させることができる。そのため、粒界被覆率が高いほど、合金の強度を高くすることができる。粒界被覆率が70.0%以上であれば、優れたクリープ強度が得られる。粒界被覆率は、80.0%以上であることが好ましい。一方、粒界被覆率が高すぎると変形のためのサイトがなくなり、粒内γ´相の体積分率にもよるが延性が低下する場合がある。そのため、粒界被覆率は90.0%以下であることが好ましい。
【0064】
粒界被覆率は、以下の方法によって算出する。Ni基耐熱合金の任意の場所からサンプルを採取する。採取されたサンプルから、60×50μm程度の領域を5視野観察する。観察には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる。図1は、観察された領域の模式図である。領域中の結晶粒界の全長Lを測定する。そして、析出物に覆われた各粒界部分(総計n個)の長さA1〜Anを測定する。得られたLおよびA1〜Anに基づいて、各領域(合計5つ)における粒界被覆率(%)を、以下の式(A)に基づいて求める。得られた5つの粒界被覆率の平均を、粒界被覆率(%)と定義する。
粒界被覆率=(A1+A2+A3+・・・+An)/L・・・(A)
【0065】
本実施形態において粒界に析出する析出物は、主として金属間化合物である。ただし、粒界被覆率を算出するにあたっては、金属間化合物に加え、炭化物、硼化物等、何等かの析出物によって覆われていれば、上記の式(A)において、析出物によって覆われた粒界部分として計算する。
【0066】
粒界のσ相の体積分率:10.0%以下
粒界のσ相の体積分率が、10.0%を超えると、高温環境下でLaves相からσ相への変化が早急に進み、粒界に存在するLaves相のほとんどがσ相へ変化する。その結果、粒界σ相が早期に粗大化し、σ相周囲にボイドが発生するとともに粒界近傍に無析出帯を形成し組織が弱化し、早期破断に至るおそれがある。そのため、粒界のσ相の体積分率は、10.0%以下とすることが好ましい。
【0067】
なお、粒界のσ相の体積分率は、SEMに付属のエネルギー選択後方散乱(EsB)を用いた画像解析によって測定することが可能である。この場合、画像解析により、粒界のσ相の面積率を求め、求めた面積率をもって、体積分率と定義する。
【0068】
3.製造方法
本発明に係るNi基耐熱合金の製造条件について特に制限はないが、以下に示す製造方法を用いることにより、製造することができる。以下に示す例では、Ni基耐熱合金管の製造方法を説明する。
【0069】
初めに、上記化学組成を有する素材を準備する。素材は中空ビレットである。中空ビレットは例えば、機械加工または竪型穿孔により製造される。中空ビレットに対して熱間押出加工を実施する。
【0070】
熱間押出加工の一例として、ユジーン・セジュルネ法による熱間押出加工について説明する。初めに、中空ビレットを加熱する。加熱された中空ビレットを熱間押出装置のコンテナ内に収容する。コンテナに収容された中空ビレットの心孔にマンドレルを挿入し、中空ビレットをステムにより前方に押し出す。コンテナの前方にはダイが配置される。ステムにより前方に押し出された中空ビレットは、ダイとマンドレルとの間から管状に押し出される。以上の熱間押出加工により、Ni基耐熱合金管が製造される。熱間押出加工後のNi基耐熱合金管に対してさらに、冷間圧延および/または冷間抽伸といった冷間加工を実施しても良い。
【0071】
製造した合金管を、溶体化熱処理する。溶体化熱処理は、具体的には、合金管を1000〜1200℃に均熱することによって実施する。保持時間は特に限定されないが、例えば、1〜2時間である。
【0072】
溶体化処理された合金管に対し、第1時効熱処理を実施する。第1時効熱処理は、具体的には、合金管を750〜950℃で均熱することによって実施する。保持時間は、合金管の化学組成および均熱温度に依存するが、例えば2〜400時間である。Ni基合金の各元素の含有量が上述の範囲であれば、第1時効熱処理によって粒界に主として金属間化合物が析出する。このとき、粒界被覆率が70%以上となるように、均熱温度および保持時間を調整する。
【0073】
第1時効熱処理によって、γ´相も同時に形成される。ただし、第1時効熱処理の条件、およびNi基合金の化学組成によっては、γ´相が析出しなかったり、析出量が不十分であったりする場合がある。その場合、上記の第1時効熱処理を実施した後、γ´相を析出させるために第2時効熱処理を実施しても良い。第2時効熱処理は、任意の工程である。すなわち、第1時効熱処理によって粒内にγ´相が十分に析出している場合には、第2時効熱処理を実施しなくても良い。
【0074】
第2時効熱処理は、具体的には、第1時効熱処理された合金管を、650〜850℃で均熱することによって実施する。第2時効熱処理は、γ´相の体積分率が25.0%以下となるように、均熱温度および保持時間を調整する。
【0075】
上記ではNi基耐熱合金として、合金管の製造方法を説明した。しかしながら、Ni基耐熱合金は、管以外の形状に製造されても良く、例えば、Ni基耐熱合金は、板であっても良い。
【0076】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
表1に示す化学組成を有する合金を製造した。上記の化学組成を有する各合金を高周波真空溶解炉で溶解し、25kgのインゴットを製造した。各インゴットを1160℃に加熱した。加熱されたインゴットを熱間鍛造して、厚さ25mmの板材を製造した。熱間鍛造終了後、板材を空冷した。空冷した板材をさらに熱間鍛造して、厚さ15mmの板材を製造した。そして、厚さ15mmの各板材に対して、表2に示す条件で、溶体化処理および時効熱処理(第1時効熱処理、または、第1および第2時効熱処理)を実施した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
次に、各合金の鋼組織の測定を以下の手順により行った。
【0081】
<母相のγ´相の体積分率の測定>
各合金に対して、X線回折を実施した。X線の出力電圧・電流は40kV、40mA、ターゲットはCuを使用した。得られたX線回折パターンから、Rietveld法によって構造を最適化し、γ´相の体積分率を求めた。
【0082】
<粒界被覆率の測定>
各合金について、60×50μm程度の領域をSEMにより5視野観察した。そして、図1に示すように、領域中の結晶粒界の全長Lを測定した後、析出物に覆われた各粒界部分(総計n個)の長さA1〜Anを測定した。得られたLおよびA1〜Anに基づいて、各領域(合計5つ)における粒界被覆率(%)を、以下の式(A)に基づいて求めた。得られた5つの粒界被覆率の平均を、粒界被覆率(%)とした。
粒界被覆率=(A1+A2+A3+・・・+An)/L・・・(A)
【0083】
<粒界のσ相および母相のLaves相の体積分率の測定>
粒界のσ相および母材のLaves相の体積分率は、EsBを用いた画像解析によって測定した。具体的には、画像解析により、粒界のσ相および母材のLaves相の面積率をそれぞれ求め、求めた面積率をもって、各相の体積分率とした。
【0084】
続いて、以下の手順に従い、クリープ破断試験を行った。時効熱処理(第1時効熱処理、または、第1および第2時効熱処理)を実施した各板材の厚さ方向中心部から、長手方向に平行に、直径が6mmで標点距離が30mmの丸棒引張試験片を機械加工により作製した。作製された丸棒引張試験片を用いて、クリープ破断試験を実施した。
【0085】
クリープ破断試験により、各合金のクリープ強度およびクリープ破断延性を次のとおり評価した。具体的には、クリープ破断試験を、750℃または850℃の大気中において、130MPaの荷重で実施し、破断時間および破断伸びを求めた。さらに、得られた破断時間をLarson−Millerパラメータ(LMP)法で回帰し、得られた値をクリープ強度の指標とした。また、破断伸びをクリープ破断延性の指標とした。
【0086】
それらの結果を表2に併せて示す。
【0087】
表2から分かるように、本発明の化学組成の規定を全て満足する試験No.1〜18では、破断伸びが20%以上であるとともに、LMPの値が26000以上となり、クリープ強度およびクリープ破断延性の双方に優れる結果となった。一方、比較例である試験No.19〜34では、クリープ強度およびクリープ破断延性の少なくとも一方が劣る結果となった。
【0088】
図2に、本発明合金および従来合金の初期組織と破断組織との顕微鏡写真を示す。Feを含有する合金19を用いた比較例の試験No.19では、破断試験後に粒内に針状のLaves相が多量に析出していることが分かる。これに対して、本発明で規定される化学組成を有する合金3を用いた試験No.3では、破断試験前後で組織変化が少なく、その結果、クリープ強度およびクリープ破断延性が向上したと考えられる。

図1
図2