(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772868
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】燃焼装置及びガスタービン
(51)【国際特許分類】
F23R 3/28 20060101AFI20201012BHJP
F02C 3/30 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
F23R3/28 F
F02C3/30 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-16232(P2017-16232)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-123755(P2018-123755A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年9月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 正宏
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
(72)【発明者】
【氏名】水谷 琢
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 司
(72)【発明者】
【氏名】藤森 俊郎
【審査官】
北村 一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−341610(JP,A)
【文献】
特開平10−073254(JP,A)
【文献】
米国特許第05199255(US,A)
【文献】
特開昭57−047108(JP,A)
【文献】
米国特許第05809910(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 3/30
F02D 19/12
F23R 3/00− 3/60
F02M 25/00
F23C 99/00
F23G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼用空気を用いて燃焼室内で燃焼させる燃焼装置であって、
前記燃焼室内の火炎に向けて所定の還元剤を噴射する還元剤噴射手段を備え、
前記燃焼用空気が前記燃焼室内で旋回流を形成する場合、
前記還元剤噴射手段は、前記燃焼室内の主流方向に垂直な面内において前記旋回流に沿う方向に前記還元剤を噴射することを特徴とする燃焼装置。
【請求項2】
前記還元剤噴射手段は、前記火炎のうち酸素濃度が低い領域に前記還元剤を噴射することを特徴とする請求項1に記載の燃焼装置。
【請求項3】
前記還元剤噴射手段は、前記燃焼室内における主流方向における前記火炎の中心部に向けて前記還元剤を噴射することを特徴とする請求項1に記載の燃焼装置。
【請求項4】
前記還元剤噴射手段は、前記火炎の周りに設けられた単一あるいは複数の噴射孔を備え、当該噴射孔から前記火炎に向けて前記還元剤を噴射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃焼装置。
【請求項5】
前記還元剤はアンモニアであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃焼装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃焼装置を備えることを特徴とするガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼装置及びガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、アンモニアを燃料として燃焼させる燃焼装置及びガスタービンが開示されている。すなわち、この燃焼装置及びガスタービンは、天然ガスにアンモニア(燃料用アンモニア)を予混合させて燃焼器に供給することによりタービンを駆動する燃焼排ガスを得ると共に、窒素酸化物(NOx)を低減することを目的として、燃焼器内の下流側に燃焼領域で発生した窒素酸化物(NOx)をアンモニアを用いて還元する還元領域を形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−191507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記背景技術では、燃焼器内の上流側で発生した窒素酸化物(NOx)に下流側でアンモニアを混合させることで窒素(N
2)に還元させるが、アンモニアが還元剤として必ずしも十分に機能せず、アンモニアによる窒素酸化物(NOx)の低減効率が良好ではないという問題点がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、還元剤による窒素酸化物(NOx)の低減効率を従来よりも向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、燃焼装置に係る第1の解決手段として、燃料用アンモニアを燃焼用空気を用いて燃焼室内で燃焼させる燃焼装置であって、前記燃焼室内の火炎に向けて所定の還元剤を噴射する還元剤噴射手段を備える
、という手段を採用する。
【0007】
本発明では、燃焼装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記還元剤噴射手段は、前記火炎のうち酸素濃度が低い領域に前記還元剤を噴射する、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、燃焼装置に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記還元剤噴射手段は、前記燃焼室内における主流方向における前記火炎の中心部に向けて前記還元剤を噴射する、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、燃焼装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、前記還元剤噴射手段は、前記火炎の周りに設けられた単一あるいは複数の噴射孔を備え、当該噴射孔から火炎に向けて前記還元剤を噴射する、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、燃焼装置に係る第5の解決手段として、上記第1〜第4のいずれかの解決手段において、前記燃焼用空気が前記燃焼室内で旋回流を形成する場合、前記還元剤噴射手段は、前記燃焼室内の主流方向に垂直な面内において前記旋回流に沿う方向に前記還元剤を噴射する、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、燃焼装置に係る第6の解決手段として、上記第1〜第5のいずれかの解決手段において、前記還元剤はアンモニアである、という手段を採用する。
【0012】
また、本発明では、ガスタービンに係る解決手段として、上記第1〜第6のいずれかの解決手段に係る燃焼装置を備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃焼室中で酸素濃度が比較的低い火炎に向けて還元剤を噴射するので、アンモニアによる窒素酸化物(NOx)の低減効率を従来よりも向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃焼装置及びガスタービンの全体構成示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態における燃焼器の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るガスタービンAは、
図1に示すように圧縮機1、燃焼器2、タービン3、還元触媒チャンバ4、タンク5、ポンプ6、気化器7及び燃料供給部8を備えている。また、これら複数の構成要素のうち、燃焼器2、タンク5、ポンプ6、気化器7及び燃料供給部8は、本実施形態における燃焼装置Cを構成している。このようなガスタービンAは、発電機Gの駆動源であり、所定の燃料を燃焼させることにより回転動力を発生させる。
【0016】
圧縮機1は、外気から取り込んだ空気を所定圧まで圧縮して圧縮空気を生成する。この圧縮機1は、上記圧縮空気を主に燃焼用空気として燃焼器に供給する。燃焼器2は、上記圧縮空気を酸化剤として燃料を燃焼させることにより燃焼ガスを発生させ、当該燃焼ガスをタービン3に供給する。
【0017】
タービン3は、上記燃焼ガスを駆動ガスとして用いることにより回転動力を発生する。このタービン3は、図示するように圧縮機1及び発電機Gと軸結合しており、自らの回転動力によって圧縮機1及び発電機Gを回転駆動する。このようなタービン3は、動力回収した後の燃焼ガスを還元触媒チャンバ4に向けて排気する。還元触媒チャンバ4は、内部に還元触媒が充填されており、燃焼ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を窒素(N
2)に還元する。
【0018】
タンク5は、所定量の液体アンモニアを貯留する燃料タンクであり、液体アンモニアをポンプ6に供給する。ポンプ6は、タンク5から供給された液体アンモニアを所定圧に加圧して気化器7に供給する燃料ポンプである。気化器7は、ポンプ6から供給された液体アンモニアを気化させることにより気体アンモニアを生成する。
【0019】
この気化器7は、気体アンモニアを還元剤として燃焼器2及び還元触媒チャンバ4の直前に供給する。なお、上述した還元触媒チャンバ4は、内部に収容した還元触媒と還元剤との協働によって窒素酸化物(NOx)を還元処理する。
【0020】
ここで、このような複数の構成要素のうち、本実施形態に係るガスタービンA及び燃焼装置Cにおいて最も特徴的な構成要素である燃焼器2について、
図2を参照して詳細を説明する。
【0021】
燃焼器2は、
図2(a)に示すようにケーシング2a、ライナ2b、燃料ノズル2c、整流器2d及び複数の噴射孔2eを備えている。なお、上述したタンク5、ポンプ6及び気化器7並びに複数の噴射孔2eは、本発明の還元剤噴射手段を構成している。
【0022】
ケーシング2aは、ライナ2bを収容する略円筒状の容器である。このケーシング2aは、一端に燃料ノズル2c及び整流器2dが取り付けられており、他端に排気口Eが形成されている。ライナ2bは、このようなケーシング2aに対して略同軸状に設けられた筒状体であり、内部空間が燃焼室Nである。なお、
図2に示すライナ2bの中心軸Lの方向は、燃焼室N内における主流の流れ方向(主流方向)である。
【0023】
燃料ノズル2cは、ケーシング2aの一端においてライナ2bの中心軸L上に設けられており、燃料を燃焼室N内に噴射する燃料噴射ノズルである。整流器2dは、ケーシング2aの一端において上記燃料ノズル2cの外周に円環状に設けられており、燃焼室Nの一端から排気口Eの方向に向けて燃焼用空気を供給すると共に、
図2(b)に示すようにライナ2bの中心軸Lの周りに燃焼用空気の旋回流Sを形成する。
【0024】
複数の噴射孔2eは、ケーシング2aからライナ2bに亘って形成された円形貫通孔であり、中心軸Lの周りつまり火炎Kの周りに所定角度毎に設けられている。すなわち、これら噴射孔2eは、ライナ2b内面から気体アンモニアを火炎Kに向けて噴射するアンモニア噴射孔である。
【0025】
火炎Kは、燃焼室N中で酸素濃度が比較的低い領域であるが、その中心部Kcは、火炎Kにおいて酸素濃度が最も低い領域である。複数の噴射孔2eは、
図2(a)に示すように、主流方向における火炎Kの中心部Kcつまり酸素濃度が最も低い領域に向けて気体アンモニアを噴射する。なお、火炎Kの中心部Kcは、
図2(a)に示すように、1点ではなく所定の広がりを持った領域である。
【0026】
ここで、気体アンモニアの最大貫通距離Ymaxは、下式(1)によって与えられる。すなわち、最大貫通距離Y
maxは、噴射孔2eの内径d
j、気体アンモニアの噴射速度U
j、気体アンモニアの密度ρ
j、燃焼室N内における主流の流れ速度U
g(主流速度)及び主流の密度ρ
g、また
図2(a)に示すように中心軸Lの方向(主流方向)に直交する方向に対する噴射方向の傾斜角θ(単位:°)の関係式(1)として与えられる。
【0028】
上記内径d
j及び流れ速度U
g(主流速度)は、このような最大貫通距離Y
maxが噴射孔2eの先端位置Pから火炎Kの中心までの距離よりも大きくなるように設定される。なお、
図2(b)の破線矢印で示すように、火炎K(中心軸L)の周りにおける噴射方向を火炎Kの中心とするのではなく、旋回流Sに沿う方向、つまり旋回流Sの旋回方向に直交する方向に対して旋回方向の下流側に角度φだけ傾斜させた噴射方向に気体アンモニアを噴射しても良い。
【0029】
次に、本実施形態に係るガスタービンA及び燃焼装置Cの時系列的な動作(定常動作)について詳しく説明する。
【0030】
このガスタービンA及び燃焼装置Cでは、ポンプ6が作動することによって液体アンモニアがタンク5から気化器7に供給され、気化器7で液体アンモニアが気化することによって気体アンモニアが生成される。そして、この気体アンモニアは、燃焼器2の各噴射孔2e及び還元触媒チャンバ4の直前に供給される。一方、燃料は、燃料供給部8から気化器7に供給され、燃料ノズル2cから燃焼室N内に噴射される。
【0031】
一方、圧縮機1が作動することによって圧縮空気が燃焼用空気として燃焼器2の整流器2dに供給される。この燃焼用空気は、燃焼器2によってライナ2bの中心軸L周りに旋回する旋回流Sとしてライナ2bの中心軸Lの方向に噴射される。
【0032】
上記燃焼用空気は、初期的には燃焼器2からライナ2bの中心軸Lの方向に向けて噴射されるが、旋回に起因する遠心力によって中心軸Lの直交方向つまり側方に位置するライナ2bの方に徐々に広がる。また、このような燃焼用空気の流れに引き連れることにより、燃料ノズル2cから噴射された燃料は、燃焼用空気と同様に中心軸Lの直交方向に徐々に広がる。そして、このように燃焼室N内で流れる燃料と燃焼用空気とが混合して火炎Kが燃焼室N内に形成される。
【0033】
この火炎Kは、ライナ2bの中心軸Lを中心として形成されるが、上述した燃料及び燃焼用空気の流れの影響で、
図2に示すように中心軸Lの方向における先端が中心軸Lから離れるに従って排気口E寄り(前方寄り)となる。
各噴射孔2eは、このような火炎Kに対して気体アンモニアを中心軸Lに直交する方向(側方)から噴射する。
【0034】
すなわち、本実施形態では、燃焼器N内で最も酸素濃度が低い火炎Kの中心に向けて複数の各噴射孔2eから気体アンモニアを噴射するので、火炎K内に生成される窒素酸化物(NOx)に気体アンモニアを効率良く作用させることが可能であり、よって気体アンモニアによる窒素酸化物(NOx)の低減効率を従来よりも向上させることが可能である。
【0035】
また、各噴射孔2eにおける気体アンモニアの噴射速度は、気体アンモニアが火炎Kの中心に到達するように設定されるので、これによって気体アンモニアが未反応のまま還元に適した火炎Kの内部に供給され、この結果として窒素酸化物(NOx)の低減効率を向上させることができる。
【0036】
さらには、火炎K(中心軸L)の周りにおける噴射方向を旋回方向の下流側に角度φだけ傾斜させた場合には、噴射方向を旋回方向に直交する方向あるいは旋回方向の上流側に傾斜させた場合よりも窒素酸化物(NOx)の低減効率を向上させることができる。
【0037】
この原因は、気体アンモニアの噴射方向を旋回方向の下流側に傾斜させた方が、例えば燃焼用空気あるいは燃焼ガスと気体アンモニアとの相対速度が噴射方向を旋回方向に直交する方向あるいは旋回方向の上流側に傾斜させた場合よりも小さくなるので、火炎Kの内部に到達せずに燃焼用空気あるいは燃焼ガスとの混合が抑制され、火炎Kの内部に気体アンモニアが到達し易くなり、この結果として気体アンモニアによる窒素酸化物(NOx)の低減効率を向上させることができるためであると推測される。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態は、本発明をガスタービンAの燃焼装置Cに適用した場合に関するものであるが、本発明はこれに限定されない。本願発明に係る燃焼装置は、ガスタービンA以外の種々の装置、例えばライナが中心軸Lに対して傾斜したり、あるいはボイラのように主流が曲がっている場合にも適用可能である。
【0039】
(2)上記実施形態では、還元剤として気体アンモニアを用いたが、本発明はこれに限定されない。気体アンモニア以外の還元剤を用いても良い。
【0040】
(3)上記実施形態では、噴射孔2eを複数設けたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、噴射孔2eの個数は単一(1個)でもよい。
【0041】
(4)ライナ2bの中心軸Lの方向における気体アンモニアの噴射位置を1か所に設定したが、本発明はこれに限定されない。窒素酸化物(NOx)の低減効率を向上させるために、ライナ2bの中心軸Lの方向における複数箇所から気体アンモニアを噴射しても良い。この場合、中心軸Lの方向(主流方向)における火炎Kのより広い領域に気体アンモニアを作用させることができるので、窒素酸化物(NOx)の低減効率のさらなる向上が期待される。
【0042】
(5)上記実施形態では、複数の噴射孔2eを円形貫通孔とした。すなわち、噴射孔2eの断面形状を円形としたが、本発明はこれに限定されない。噴射孔2eの断面形状を円形以外の形状、例えば長軸方向が中心軸Lの方向(主流方向)に沿う長円形あるいは楕円形としても良い。このような長円形あるいは楕円形を採用した場合、旋回流に対する投影面積が低減され、火炎Kの内部に到達せずに旋回流と混合し、排気口Eに排出される気体アンモニアの量を低減することができるので、窒素酸化物(NOx)の低減効率のさらなる向上が期待される。
【符号の説明】
【0043】
A ガスタービン
C 燃焼装置
E 排気口
K 火炎
N 燃焼室
S 旋回流
1 圧縮機
2 燃焼器
2a ケーシング
2b ライナ
2c 燃料ノズル
2d 整流器
2e 噴射孔
3 タービン
4 還元触媒チャンバ
5 タンク
6 ポンプ
7 気化器
8 燃料供給部