特許第6772917号(P6772917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772917
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/08 20060101AFI20201012BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20201012BHJP
   B64C 13/20 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B64C27/08
   B64C39/02
   B64C13/20 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-54917(P2017-54917)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-154307(P2018-154307A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100116920
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 光
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−135659(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0023755(US,A1)
【文献】 韓国登録特許第10−1565979(KR,B1)
【文献】 国際公開第2016/170766(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/022209(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/121072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/08
B64C 13/20
B64C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体を通る鉛直線の周囲に配置された六つのロータと、
前記六つのロータの回転数をそれぞれ独立して制御可能な制御部と、
前記六つのロータの回転軸の傾斜角度を変更可能な傾斜変更部と、
飛行の安定度を算出する飛行安定度算出部を備え、
前記傾斜変更部は、前記飛行安定度算出部により算出された前記安定度に応じて前記回転軸を傾斜させる、
飛行体。
【請求項2】
前記傾斜変更部は、前記飛行安定度算出部により算出された前記安定度が予め設定される基準安定度以上でない場合に、前記安定度に応じて前記回転軸を傾斜させる、
請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記傾斜変更部は、前記六つのロータの回転軸を全て鉛直線の方向へ向ける通常飛行モードと前記六つのロータの回転軸を鉛直線に対し交互に反対側へ傾斜させる安定飛行モードとを切り替えて前記回転軸の傾斜角度を変更可能とする、
請求項1に記載の飛行体。
【請求項4】
前記傾斜変更部は、前記飛行安定度算出により算出される安定度が予め設定される基準安定度以上である場合に前記通常飛行モードとして前記回転軸を全て鉛直線の方向へ向け、前記飛行安定度算出により算出される安定度が前記基準安定度以上でない場合に前記安定飛行モードとして前記回転軸を鉛直線に対し傾斜させる、
請求項3に記載の飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のロータを備えた飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のロータを備えた飛行体として、例えば、特開平2016−135659号公報に記載されるように、6つのロータを備えたマルチロータ機であって、ロータを非平面型に配置したものが知られている。このマルチロータ機は、ロータの回転面が非平面となるようにロータを設けることにより、飛行安定性を向上させようとするものである。すなわち、ロータの回転軸を鉛直方向に対し傾斜させて設けることにより、水平方向の移動の制御をしやすくして、飛行安定性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2016−135659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したマルチロータ機にあっては、飛行安定性が向上するものの、ロータ回転軸を鉛直に向けたマルチロータ機と比べると飛行時におけるエネルギ効率が低下する。ロータ回転軸を傾斜させて飛行安定性を向上させる場合、飛行安定性を向上させると飛行エネルギ効率が低下する。つまり、飛行安定性と飛行エネルギ効率はトレードオフの関係にあり、マルチロータ機においてその両立を図るのは難しい。
【0005】
そこで、マルチロータ機のような飛行体において、飛行安定性を向上しつつ飛行エネルギ効率の向上が図れる飛行体の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の一態様に係る飛行体は、本体を通る鉛直線の周囲に配置された六つのロータと、六つのロータの回転数をそれぞれ独立して制御可能な制御部と、六つのロータの回転軸の傾斜角度を変更可能な傾斜変更部とを備えて構成される。この飛行体によれば、6つのロータの回転軸の傾斜角度を変更可能な傾斜変更部を備えることにより、飛行時に飛行体を安定させる飛行と飛行エネルギ効率を向上させる飛行を飛行環境に応じて変更することが可能となる。このため、飛行体の飛行安定性と飛行エネルギ効率の向上が図れる。 また、この飛行体は、飛行の安定度を算出する飛行安定度算出部をさらに備え、飛行安定度算出部により算出された安定度に応じて回転軸を傾斜させる。このため、必要に応じて飛行の安定度を向上させることができる。
【0007】
また、この飛行体において傾斜変更部は、飛行安定度算出部により算出された安定度が予め設定される基準安定度以上でない場合に、安定度に応じて回転軸を傾斜させてもよい。これらの場合、飛行体の飛行の安定度に応じてロータの回転軸を傾斜させるため、必要に応じて飛行の安定度を向上させることができる。
【0008】
また、この飛行体において、傾斜変更部は、六つのロータの回転軸を全て鉛直線の方向へ向ける通常飛行モードと六つのロータの回転軸を鉛直線に対し交互に反対側へ傾斜させる安定飛行モードとを切り替えて回転軸の傾斜角度を変更可能としてもよい。この場合、ロータの回転軸を通常飛行モードと安定飛行モードに切り替えてロータの回転軸の傾斜角度を変更可能とすることにより、飛行環境に応じてロータの回転軸を傾斜させることができる。このため、飛行環境に応じた飛行が可能となり、飛行体の飛行安定性と飛行エネルギ効率の向上が図れる。
【0009】
また、上述の飛行体において、飛行の安定度を算出する飛行安定度算出部をさらに備え、傾斜変更部は、飛行安定度算出により算出される安定度が予め設定される基準安定度以上である場合に通常飛行モードとして回転軸を全て鉛直線の方向へ向け、飛行安定度算出により算出される安定度が前記基準安定度以上でない場合に安定飛行モードとして回転軸を鉛直線に対し傾斜させてもよい。この場合、飛行体の飛行安定度が低くなった場合に飛行体の飛行安定度を高めるようにロータの傾斜角度が自動的に設定される。従って、飛行体の飛行安定性が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、飛行安定性を向上しつつ飛行エネルギ効率の向上が図れる飛行体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る飛行体の概略構成を示す斜視図である。
図2図2は、図1の飛行体における傾斜変更部の一例を示す図である。
図3図3は、図1の飛行体の電気的構成を示す図である。
図4図4は、図1の飛行体における飛行制御系のブロック線図である。
図5図5は、図1の飛行体の飛行動作を示す図である。
図6図6は、図1の飛行体の飛行動作を示す図である。
図7】(a)〜(c)は、飛行体による狭隘部での飛行状態の一例を示す図である。
図8】(a)および(b)は、従来の飛行体による接触作業時の飛行状態の一例を示す図である。
図9図9は、本発明の第二実施形態に係る飛行体の飛行制御系のブロック線図である。
図10図10は、本発明の第三実施形態に係る飛行体の概略構成を示す斜視図である。
図11図11は、図10の飛行体における傾斜変更部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。以下の説明では、本発明が、無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle、以下、UAVという)に適用される場合について説明する。
(第一実施形態)
【0013】
図1は本発明の第一実施形態に係る飛行体1の斜視図を示し、図2は飛行体1における傾斜変更部4の説明図である。
【0014】
図1に示されるように、飛行体1は、中央に配置されたペイロード部2、ペイロード部2に対して固定されて外方に延びる六本のフレーム3、フレーム3に取り付けられた傾斜変更部4、および、傾斜変更部4を介してフレーム3に取り付けられた六つのロータ10を備えている。飛行体1は、六枚のロータ10を備えるマルチロータ機(回転翼機)である。UAVである飛行体1は、回転および並進方向の運動を合わせた六自由度での運動成分を独立に発生可能になっている。したがって、飛行体1では、狭隘部での飛行や接触作業を伴う飛行が可能になっている。
【0015】
ペイロード部2は、飛行体1の本体であって、飛行体1の制御部品等を収容可能に構成されている。フレーム3は、ペイロード部2から外方へ延びる棒状の部材である。六つのフレーム3がペイロード部2を中心にそれぞれ放射状に延びるように取り付けられている。フレーム3はロータ10を配置するための枠体として機能し、一つのフレーム3に対し一つのロータ10が設置される。なお、このフレーム3は、ペイロード部2と共通する部材によりペイロード部2と一体に構成されていてもよい。
【0016】
ロータ10は、複数の羽根を有するプロペラである。図1では、三枚の羽根を有するロータ10が図示されているが、二枚又は四枚以上の羽根を有するロータを用いてもよい。ロータ10は、ペイロード部2を通る鉛直線Nの周囲にそれぞれ配置されており、傾斜変更部4を介してフレーム3に取り付けられている。ロータ10は、回転軸Aを上下方向に向けて設置され、傾斜変更部4の作動により回転軸Aを鉛直方向に対し傾斜可能に設けられている。
【0017】
六つのロータ10は、例えば、同一平面上の位置であって、飛行体1を上方から見て正六角形の角位置にそれぞれ配置される。なお、六つのロータ10は、必ずしも正六角形の角位置に配置される必要性はなく、対向する一対の辺(平行な二辺)のみが長い六角形の角位置に配置されてもよい。また、六つのロータ10は、必ずしも同一平面上に配置されなくてもよく、上下方向にオフセットされていてもよい。六つのロータ10が所定の水平方向線に関して対称性を有するように配置されると、制御系がシンプルになり、設計および実装が容易である。
【0018】
ロータ10は、例えば、ロータ支持部11に収容されたモータ12の回転軸に取り付けられ、モータ12の回転駆動によって回転制御できるように設けられている。ロータ支持部11は、筒状部材により構成され、その基端はフレーム3に対し回動可能に軸着されている。
【0019】
図2に示されるように、傾斜変更部4は、ロータ10の回転軸Aの傾斜角度を変更する機構であって、回転機構41を備えて構成される。回転機構41としては、例えば、歯車列が用いられる。回転機構41は、モータ42の回転力をロータ支持部11の基端に伝達し、ロータ支持部11と共にロータ10の回転軸Aを傾斜させる。回転軸Aは、ロータ10の回転中心の軸線である。傾斜変更部4は、鉛直線Nに対し垂直な方向であって、かつ、フレーム3の長手方向に対し垂直な方向となる軸線Bを中心に、ロータ10の回転軸Aを回転させて傾斜させる。なお、図2では傾斜変更部4として歯車列を用いたものを示しているが、ロータ10の回転軸Aを傾斜可能であれば、傾斜変更部4はその他の回転機構を用いたものであってもよい。
【0020】
図3は、飛行体1の電気的構成の概要を示す図である。
【0021】
図3に示されるように、飛行体1は、飛行体1の各部を制御するための制御部20、飛行体1の各部を駆動するための電源であるバッテリ21、各部に電源を供給するための電源基板22、センサ類23、モータ12を駆動するためのモータアンプ28、受信部29、および、モータ42を備えている。
【0022】
制御部20は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとにより構成されたコンピュータである。制御部20は、飛行制御器201(フライトコントローラ:図4参照)として機能し、受信部29で受信した指令を受け、飛行体1の現在の位置および姿勢に基づいて、所定(目標)の位置、姿勢または動作にて飛行体1を飛行させるよう、モータアンプ28を介してモータ12に駆動信号を出力する。制御部20は、各ロータ10の回転数をそれぞれ独立して制御可能となっている。また、制御部20は、ロータ傾斜制御器202(図4参照)として機能し、受信部29で受信した安定指令を受け、ロータ10の回転軸Aを傾斜させるように、モータ42に駆動信号を出力する。なお、図3において、実線は電源系統を示し、破線は通信系統(制御系統)を示している。
【0023】
制御部20は、受信部29と接続されており、送信機(図示なし)から送信された飛行指令及び安定指令に基づいてモータ12及びモータ42の駆動制御を行う。受信部29は、たとえば地上で操作される送信機と無線で通信可能になっている。モータアンプ28は、制御部20からの制御信号を受けてモータ12に電流を供給し、モータ12を制御信号に応じた回転数及び回転方向で回転させる。
【0024】
センサ類23は、飛行体1の位置および姿勢などを推定するための機器であり、たとえば、ジャイロセンサ24、GPS(Global Positioning System)25および気圧センサ26を備えている。これらのセンサ類23は、測定結果を示すデータを制御部20に出力する。制御部20は、センサ類23から出力されたセンサデータに基づき、たとえば適当な推定アルゴリズム等を用いて、飛行体1の現在の位置および姿勢を推定する。
【0025】
制御部20には、モータ42が接続されている。モータ42は、ロータ10の回転軸Aを傾斜させるアクチュエータであり、ロータ10の設置数に合わせて六つ設けられている。モータ42は、受信部29で受信した指令に応じて制御部20から出力される制御信号に基づいて駆動制御される。モータ42の駆動によりロータ10の回転軸Aが傾斜する。
【0026】
上記した機器の他にも、ペイロード部2には、たとえばカメラやロボットアーム等の追加機器が搭載され得る。ペイロード部2に搭載される機器は、飛行体1に求められる飛行や作業に応じて、適宜変更され得る。ペイロード部2に搭載される機器の位置および重量によって、ペイロード部2の重量および重心の位置は変化し得る。飛行体1では、ペイロード部2の重量および重心の位置を考慮して、ロータ10が回転制御される。
【0027】
次に、本実施形態に係る飛行体1の飛行動作について説明する。
【0028】
図4は飛行体1における飛行制御系のブロック線図であり、図5、6は飛行体1を上方から見た際のロータ10の傾斜状態を示す図である。図7、8は飛行体1の安定飛行モードにおける飛行安定度の説明図である。
【0029】
図4に示すように、受信部29で受信した飛行指令信号は、飛行制御器201に入力される。飛行制御器201は、飛行指令信号に応じてモータ12に対し駆動信号を出力する。飛行指令信号は、飛行体1のホバリング、上昇、下降、前後移動、横移動、旋回など飛行に関する指令信号である。この飛行指令信号に応じてモータ12が駆動されロータ10が回転制御されることにより、飛行体1が飛行指令信号に応じて飛行する。
【0030】
受信部29で受信した安定指令信号は、ロータ傾斜制御器202に入力される。ロータ傾斜制御器202は、安定指令信号に応じてモータ42に対し駆動信号を出力すると共に、飛行制御器201に駆動信号を出力する。安定指令信号は、飛行体1を安定して飛行させる指令信号である。この安定指令信号に応じてモータ42が駆動されてロータ10の回転軸Aが傾斜することにより、飛行体1の飛行安定度が向上する。また、安定指令信号が飛行制御器201に入力されることにより、モータ12の回転制御に補正が加えられ、ロータ10の回転軸Aの傾斜した際のロータ10の回転数が調整され、飛行指令信号に応じた飛行体1の飛行が行われる。
【0031】
ロータ傾斜制御器202に安定指令信号が入力されない場合には、図5に示すように、六つのロータ10の回転軸Aが全て鉛直線Nの方向に向けられており、飛行体1は通常飛行モードで飛行する。通常飛行モードでは、ロータ10の回転力のほとんどが飛行体1の浮上に費やされるため、エネルギ効率のよい飛行が可能となる。ロータ10は、例えば、上方から見て時計回りと反時計回りが交互となるように回転制御される。通常飛行モードにおいて、ロータ10の回転軸Aの向きは、鉛直線Nとほぼ同じ方向としてもよい。
【0032】
ロータ傾斜制御器202に安定指令信号が入力された場合には、図6に示すように、六つのロータ10の回転軸Aが鉛直線Nに対し交互に反対側へ傾斜させられ、飛行体1は安定飛行モードで飛行する。つまり、ロータ10の回転軸Aは、内向きと外向きが交互となるように傾斜される。ロータ10の回転軸Aの傾斜角度は、鋭角とされる。安定飛行モードでは、ロータ10の回転軸Aの傾斜により飛行体1に水平方向の移動力が生ずるため、飛行体1の姿勢をほとんど変えることなくホバリングの状態で水平方向へ(前後方向又は横方向へ)の移動が可能となり、飛行体1における運動の自由度が向上する。
【0033】
飛行体1を通常飛行モードで飛行させる場合には、飛行体1の運動は4自由度(鉛直方向の加速度と、ロール、ピッチおよびヨー方向の角加速度)であり、運動の自由度が少なく、所望の位置および姿勢を実現するのが困難な場合がある。例えば、狭隘部において水平状態で飛行している際、突風によって飛行体が流されそうになった場合、姿勢を維持するために姿勢を変化させる必要がある。姿勢変化の結果、飛行体が構造物に衝突するおそれがある。また、飛行体1を飛行させて接触作業を行う際、ツールを対象に接触させるために飛行体1を対象に近づけると、接触に伴って生じる反力により飛行体1の姿勢運動が拘束されるおそれがあり、その結果、飛行体1の制御が困難になる場合がある。
【0034】
これに対し、安定飛行モードでは、狭隘部において水平状態で飛行している際(図7(a)参照)、突風によって飛行体1が流されそうになった場合でも(図7(b)参照)、姿勢を維持するために姿勢を変化させる必要はない。姿勢を維持できるため、飛行体1が構造物に衝突することが防止される(図7(c)参照)。さらには、飛行体1を飛行させて接触作業を行う際、ツール40を対象に接触させるために飛行体1を対象に近づけた場合でも(図8(a)参照)、接触に伴って生じる反力に応じて、飛行体1の姿勢が維持されるように調整することができる(図8(b)参照)。特に、ツール40として超音波センサなどを用い、橋梁、トンネルなどの構造物の点検を行う場合に有効である。なお、図7図8において、図の上から下の方向が重力方向となっている。
【0035】
以上説明したように、本実施形態に係る飛行体1によれば、六つのロータ10の回転軸Aの傾斜角度を変更可能な傾斜変更部4を備えることにより、飛行時に飛行体1を安定させる飛行と飛行エネルギ効率を向上させる飛行を飛行環境に応じて変更することが可能となる。このため、飛行体1の飛行安定性と飛行エネルギ効率の向上が図れる。
【0036】
また、ロータ10の回転軸Aを通常飛行モードと安定飛行モードに切り替えてロータ10の回転軸Aの傾斜角度を変更可能とすることにより、飛行環境に応じてロータ10の回転軸Aを傾斜させることができる。このため、飛行環境に応じた飛行が可能となり、必要に応じて安定飛行モードとすることよって飛行エネルギの損失を抑制しつつ、飛行体1の飛行安定性を実現できる。従って、飛行体1の飛行安定性の向上と飛行エネルギ効率の向上の両立が図れる。
【0037】
また、飛行体1において、飛行のモードを変更するだけで通常飛行モードと安定飛行モードに切り替えることができ、ロータ10の回転軸Aの傾斜角度を適宜操作する必要がない。このため、飛行体1の操作が容易となる。
(第二実施形態)
【0038】
次に、本発明の第二実施形態に係る飛行体1aついて説明する。
【0039】
上述した第一実施形態に係る飛行体1では飛行体1が安定指令を受けて安定飛行モードで飛行するものであったが、本実施形態に係る飛行体1aは、飛行体1aの飛行安定度に応じて自動的に通常飛行モードから安定飛行モードに切り替える点で、第一実施形態に係る飛行体1と異なっている。本実施形態に係る飛行体1aのハードウェア構成及び電気的構成は、図1〜3に示す第一実施形態に係る飛行体1とほぼ同様なものが用いられる。
【0040】
図9は、飛行体1aにおける飛行制御系のブロック線図である。
【0041】
図9に示すように、受信部29で受信した飛行指令信号は、飛行制御器201に入力される。飛行制御器201は、飛行指令信号に応じてモータ12に対し駆動信号を出力する。飛行指令信号は、飛行体1の上昇、下降、前後移動、横移動、旋回など飛行に関する指令信号である。この飛行指令信号に応じてモータ12が駆動されてロータ10が回転制御されることにより、飛行体1が飛行指令信号に応じて飛行する。
【0042】
ジャイロセンサ24で検出された検出信号は、飛行安定度算出部203に入力される。飛行安定度算出部203は、制御部20に設けられ、検出信号に基づいて飛行体1aの飛行安定度を算出すると共に、算出される飛行安定度が予め設定される基準安定度以上であるか否かを判定する。
【0043】
飛行安定度算出部203は、飛行体1aの飛行安定度が基準安定度以上であると判定した場合にはロータ傾斜制御器202に通常飛行指令信号を出力する。ロータ傾斜制御器202は、通常飛行指令信号を受けた場合、ロータ10の回転軸Aを全て鉛直線Nの方向へ向けるようにモータ42に駆動信号を出力する。これにより、六つのロータ10の回転軸Aが全て鉛直線Nの方向に向けられ、飛行体1は通常飛行モードで飛行する(図5参照)。通常飛行モードでは、ロータ10の回転力のほとんどが飛行体1aの浮上に費やされるため、飛行エネルギ効率のよい飛行が可能となる。
【0044】
飛行安定度算出部203は、飛行体1aの飛行安定度が基準安定度以上でないと判定した場合にはロータ傾斜制御器202に安定飛行指令信号を出力する。ロータ傾斜制御器202は、安定飛行指令信号を受けた場合、六つのロータ10の回転軸Aが鉛直線Nに対し交互に反対側へ傾斜させるようにモータ42に駆動信号を出力する。これにより、飛行体1は安定飛行モードで飛行する(図6参照)。安定飛行モードでは、ロータ10の回転軸Aの傾斜により飛行体1aに水平方向の移動力が生ずるため、飛行体1aの姿勢をほとんど変えることなく前後方向及び横方向への移動が可能となり、飛行体1aにおける運動の自由度が向上する。
【0045】
このように本実施形態に係る飛行体1aによれば、飛行体1aの飛行安定度が基準安定度以上である場合に通常飛行モードとしてロータ10の回転軸Aを全て鉛直線Nの方向へ向け、飛行体1aの飛行安定度が基準安定度以上でない場合に安定飛行モードとしてロータ10の回転軸Aを鉛直線Nに対し傾斜させる。これにより、飛行体1aの飛行安定度が低くなった場合に飛行体1aの飛行安定度を高めるようにロータ10の傾斜角度が設定される。従って、飛行体1aの飛行安定性が低下することが自動的に抑制され、飛行体1aを安定して飛行させることができる。
(第三実施形態)
【0046】
次に、本発明の第三実施形態に係る飛行体1bついて説明する。
【0047】
上述した第一実施形態に係る飛行体1及び第二実施形態に係る飛行体1aではロータ10の回転軸Aを飛行体1の中心位置に対し内向き又は外向きに傾斜させるものであったが、本実施形態に係る飛行体1bは、ロータ10の回転軸Aを周方向へ傾斜させる点で、第一実施形態に係る飛行体1及び第二実施形態に係る飛行体1aと異なっている。すなわち、本実施形態に係る飛行体1bは、図10に示すように、飛行体1bの中心位置からロータ10の回転軸Aへ向かう軸線Cを中心に回転軸Aを傾斜させるものである。
【0048】
ロータ10の回転軸Aを傾斜させる傾斜変更部4としては、例えば、ペイロード部2内に設けられ、軸線Cを中心にフレーム3を回転させることにより、フレーム3に固定されたロータ10を傾斜させるものが用いられる。
【0049】
例えば、図11に示すように、傾斜変更部4として傘歯車44が用いられ、各フレーム3に取り付けられた歯車44aを回転させることにより、フレーム3と共にロータ10の回転軸Aが軸線Cを中心に回転し傾斜することとなる。その際、隣り合う歯車44aを噛み合わせることにより、隣り合う歯車44a、44aが互いに逆方向に回転する。なお、図11では、説明の便宜上、六つのフレーム3のうち二つのみを示している。各歯車44aを回転させるアクチュエータとしては、いずれかの歯車44aに回転力を与えるモータを用いればよい。この場合、一つのモータを駆動することにより、六つのロータ10の回転軸Aを傾斜させることが可能となる。このため、飛行体1の軽量化が図れ、コスト削減が可能となる。また、本実施形態に係る飛行体1bによれば、上述した第一実施形態に係る飛行体1及び第二実施形態に係る飛行体1aと同様な作用効果を得ることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限られるものではない。例えば、安定飛行モードにおいて、ロータ10の傾斜角度は、それぞれ異なっていてもよい。また、六つのロータ10の他に、1枚または複数枚の補助的なロータまたは予備のロータが更に設けられてもよい。本発明は、UAVに適用される場合に限られず、有人航空機に適用されてもよい。
また、本発明に係る飛行体は、第一実施形態に係る飛行体1のようにロータ10の回転軸Aを内向き及び外向きに傾斜可能としつつ、第三実施形態に係る飛行体1bのようにロータ10の回転軸Aを周方向へ傾斜可能とするものであってもよい。
【0051】
また,本発明に係る飛行体は,第二実施形態に係る飛行体1aのように通常飛行モードと安定飛行モード間の切替ではなく、安定飛行モードの中で、いくつかの傾斜角度のパターンを設定しておき、その中で安定度に応じて傾斜角度の切替を行うということも可能である。さらに,安定度が足りなければ,その分だけフィードバック的にロータを無段階で傾斜させることも可能である。すなわち,本発明に係る飛行体は、飛行の安定度を算出する飛行安定度算出部を備え、傾斜変更部は飛行安定度算出部により算出された安定度に応じて回転軸を傾斜させるものであってもよい。また、本発明に係る飛行体は、飛行安定度算出部により算出された安定度が予め設定される基準安定度以上でない場合に、安定度に応じて回転軸を傾斜させる傾斜変更部を備えていてもよい。これらの場合、飛行体の飛行の安定度に応じてロータの回転軸を傾斜させるため、必要に応じて飛行の安定度を向上させつつ、飛行エネルギ効率の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 飛行体
2 ペイロード部(本体)
3 フレーム
4 傾斜変更部
10 ロータ
20 制御部
A 回転軸
N 鉛直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11