(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、補助燃料の噴射後の自己着火前に前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔への不活性ガスの供給を開始し、主燃料の燃焼中において不活性ガスの供給を継続するように、前記補助燃料噴射弁を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、気体燃料を主燃料とする二元燃料ディーゼルエンジンでは、液体燃料を主燃料とする通常のディーゼルエンジンと比較して燃焼温度が高く、また、ピストンが上死点に到達する時点よりもかなり前のタイミングで少量の液体燃料を燃焼室内に噴射するため、主燃料の燃焼時には、燃焼室に配置された液体燃料の燃料噴射弁は無噴射状態で高温の燃焼ガスにさらされることとなる。このため、二元燃料ディーゼルエンジンでは、通常のディーゼルエンジンに比較して、燃料噴射弁の燃料噴射孔及びその周囲にデポジットが堆積しやすいという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、燃料噴射弁の燃料噴射孔及びその周囲におけるデポジットの堆積を抑制する二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、気体燃料を主燃料とするとともに液体燃料を補助燃料とする二元燃料ディーゼルエンジンの燃焼室に設置され、補助燃料を噴射可能な補助燃料噴射弁と、前記補助燃料噴射弁を制御する制御部と、を備える、二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置であって、前記補助燃料噴射弁は、ノズルボディと、前記ノズルボディ内に形成され、補助燃料が供給される燃料供給部と、前記ノズルボディの先端に設けられ、前記燃料供給部から流出する補助燃料を貯留するサック部と、前記サック部に連通し、前記サック部に貯留された補助燃料を前記燃焼室に噴射する複数の燃料噴射孔と、前記ノズルボディ内において軸方向に移動可能に設けられ、前記燃料供給部と前記サック部との間の弁孔を開閉するノズルニードルと、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と
、前記不活性ガス供給機構と接続された不活性ガスボンベと、を有し、前記制御部は、主燃料の燃焼中において、前記弁孔を閉じるように前記ノズルニードルを制御するとともに、
主燃料の燃焼中において、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に
前記不活性ガスボンベから不活性ガスが供給されるように前記不活性ガス供給機構を制御する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明では、制御部は、主燃料の燃焼中において、弁孔を閉じるようにノズルニードルを制御するとともに、サック部又は複数の燃料噴射孔に不活性ガスが供給されるように不活性ガス供給機構を制御する。不活性ガスが不活性ガス供給機構によりサック部又は複数の燃料噴射孔に供給されるため、燃焼中の高温の燃焼ガスの燃料噴射孔およびサック部への進入が妨げられる。このため、燃料噴射孔への燃焼ガスの進入による燃料噴射孔の内部の温度上昇が抑制され、燃焼噴射孔およびサック部におけるデポジットの堆積を抑制することができる。
【0008】
また、上記の二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置において、前記不活性ガス供給機構は、前記ノズルボディ内に形成され、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に供給される不活性ガスを流通させる不活性ガス通路を有し、前記不活性ガス通路における、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔との接続部近傍には、前記補助燃料の前記不活性ガス通路への進入を抑制する逆流抑制機構を備える構成としてもよい。
この場合、不活性ガス通路は逆流抑制機構を備えるので、補助燃料の噴射時に燃料噴射孔を流れる補助燃料の不活性ガス通路への流入を抑制することができる。
【0009】
また、上記の二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置において、前記制御部は、補助燃料の噴射後の自己着火前に前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔への不活性ガスの供給を開始し、主燃料の燃焼中において不活性ガスの供給を継続するように、前記補助燃料噴射弁を制御する構成としてもよい。
この場合、主燃料の燃焼中において不活性ガスをサック部又は複数の燃料噴射孔へ供給するので、主燃料の燃焼中には燃料噴射孔から不活性ガスが噴射されることとなり、高温の燃焼ガスが燃料噴射孔へ進入することを効果的に抑制することができる。
【0010】
また、
本発明は、
気体燃料を主燃料とするとともに液体燃料を補助燃料とする二元燃料ディーゼルエンジンの燃焼室に設置され、補助燃料を噴射可能な補助燃料噴射弁と、前記補助燃料噴射弁を制御する制御部と、を備える、二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置であって、前記補助燃料噴射弁は、ノズルボディと、前記ノズルボディ内に形成され、補助燃料が供給される燃料供給部と、前記ノズルボディの先端に設けられ、前記燃料供給部から流出する補助燃料を貯留するサック部と、前記サック部に連通し、前記サック部に貯留された補助燃料を前記燃焼室に噴射する複数の燃料噴射孔と、前記ノズルボディ内において軸方向に移動可能に設けられ、前記燃料供給部と前記サック部との間の弁孔を開閉するノズルニードルと、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、を有し、前記不活性ガス供給機構は、前記ノズルボディ内に形成され、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に供給される不活性ガスを流通させる不活性ガス通路を有し、前記不活性ガス通路における、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔との接続部近傍には、前記補助燃料の前記不活性ガス通路への進入を抑制する逆流抑制機構を備え、前記補助燃料噴射弁における前記複数の燃料噴射孔には、それぞれ、独立した前記不活性ガス通路が接続されており、前記制御部は、
主燃料の燃焼中において、前記弁孔を閉じるように前記ノズルニードルを制御するとともに、主燃料の燃焼中において、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に不活性ガスが供給されるように前記不活性ガス供給機構を制御し、前記燃料噴射孔毎に不活性ガスの供給タイミングが異なるように前記不活性ガス供給機構を制御する
ことを特徴とする。
この場合、燃料噴射孔毎に不活性ガスの供給のタイミングが異なるため、サック部に残存する極微量な補助燃料を、不活性ガスが供給されていない別の燃料噴射孔を介して燃焼室内に排出することができる。よって、燃料噴射孔内におけるデポジット生成の要因となるサック部に残存する補助燃料の量が減少し、燃料噴射孔及びその周囲におけるデポジットの堆積を効果的に抑制することができる。
【0011】
また、
本発明は、
気体燃料を主燃料とするとともに液体燃料を補助燃料とする二元燃料ディーゼルエンジンの燃焼室に設置され、補助燃料を噴射可能な補助燃料噴射弁と、前記補助燃料噴射弁を制御する制御部と、を備える、二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置であって、前記補助燃料噴射弁は、ノズルボディと、前記ノズルボディ内に形成され、補助燃料が供給される燃料供給部と、前記ノズルボディの先端に設けられ、前記燃料供給部から流出する補助燃料を貯留するサック部と、前記サック部に連通し、前記サック部に貯留された補助燃料を前記燃焼室に噴射する複数の燃料噴射孔と、前記ノズルボディ内において軸方向に移動可能に設けられ、前記燃料供給部と前記サック部との間の弁孔を開閉するノズルニードルと、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、を有し、前記燃焼室の圧力を検出する筒内圧センサを備え、前記不活性ガス供給機構は、不活性ガス供給源と、前記不活性ガス供給源に接続されるとともに前記不活性ガス供給源から供給される不活性ガスを圧縮して前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔へ供給するガス圧縮機構と、を備え、前記制御部は、
補助燃料の噴射後の自己着火前に前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔への不活性ガスの供給を開始し、主燃料の燃焼中において不活性ガスの供給を継続するように、前記補助燃料噴射弁を制御し、主燃料の燃焼中において、前記弁孔を閉じるように前記ノズルニードルを制御するとともに、主燃料の燃焼中において、前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔に不活性ガスが供給されるように前記不活性ガス供給機構を制御し、前記不活性ガス供給源の不活性ガスの圧力が前記筒内圧センサにより検出された前記燃焼室の圧力の最大値以上であるときに、前記不活性ガス供給源から供給される不活性ガスを前記ガス圧縮機構で圧縮することなく前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔へ供給するように前記不活性ガス供給機構を制御し、前記不活性ガス供給源の不活性ガスの圧力が前記筒内圧センサにより検出された前記燃焼室の圧力の最大値未満であるときに、前記不活性ガス供給源から供給される不活性ガスを前記ガス圧縮機構により圧縮して前記サック部又は前記複数の燃料噴射孔へ供給される不活性ガスの圧力を前記燃焼室の圧力の最大値まで上昇させるように前記不活性ガス供給機構を制御する
ことを特徴とする。
この場合、不活性ガスの圧力が、燃焼室の圧力の最大値以上であるときに、不活性ガスをサック部又は複数の燃料噴射孔へ供給するため、燃焼ガスの燃料噴射孔およびサック部への進入を確実に防止することができる。また、不活性ガスの圧力が、燃焼室の圧力の最大値未満であるとき、圧縮機が不活性ガスを圧縮して不活性ガスの圧力を燃焼室の圧力の最大値まで上昇させる。そして、圧縮されて高圧となった不活性ガスをサック部又は複数の燃料噴射孔へ供給する。このため、不活性ガスの圧力が燃焼室の圧力の最大値未満であっても、燃焼ガスの燃料噴射孔およびサック部への進入を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃料噴射弁の燃料噴射孔及びその周囲におけるデポジットの堆積を抑制する二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置について図面を参照して説明する。本実施形態の二元燃料ディーゼルエンジンは、車両に搭載される二元燃料ディーゼルエンジンである。二元燃料ディーゼルエンジンでは、主燃料としての気体燃料(圧縮天然ガス)および着火補助のための補助燃料としての液体燃料(軽油)が用いられる。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の二元燃料ディーゼルエンジンの燃料噴射装置(以下、「燃料噴射装置」と表記する)10は、動力源である二元燃料ディーゼルエンジン(以下「エンジン」と表記する)11に設置されている。
【0016】
エンジン11は、シリンダブロック12に形成された複数の気筒13を有する。各気筒13内にはピストン14が備えられている。気筒13内においてピストン14とシリンダヘッド15により燃焼室16が形成されている。ピストン14は、エンジン11の気筒13内において摺動可能であり、コネクティングロッド(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に連結されている。
【0017】
シリンダヘッド15には吸気ポート17および排気ポート18が形成されている。シリンダヘッド15には、吸気ポート17を開閉する吸気弁19と、排気ポート18を開閉する排気弁20が設けられている。吸気ポート17には主燃料である気体燃料を噴射する主燃料噴射弁21が設けられている。従って、吸気ポート17を通る吸入空気には、主燃料噴射弁21から噴射された気体燃料が混合され、空気と混合された気体燃料は燃焼室16へ流入する。
【0018】
シリンダヘッド15には、補助燃料である液体燃料を噴射可能な補助燃料噴射弁22がピストン14と対向するように設けられている。また、シリンダヘッド15には、気筒13内に形成される燃焼室16の圧力を常時検出する筒内圧センサ23が備えられている。補助燃料噴射弁22の詳細については後述する。
図2に示すように、本実施形態の燃料噴射装置10は、補助燃料噴射弁22、筒内圧センサ23、エンジンECU(Electronic Control Unit)24、不活性ガスボンベ46、不活性ガス配管47、電磁弁48および圧縮機49を備えている。
【0019】
補助燃料噴射弁22は、エンジンECU24により制御される。エンジンECU24は、図示しないが演算処理を行う演算処理部と、各種プログラムおよびデータ等を記憶する記憶部と、を備える。エンジンECU24は、エンジン11の各部に指令を出してエンジン11の運転を制御する。エンジンECU24は、吸入空気量、クランク角に基づくピストン14の位置等の各種情報に基づき、主燃料噴射弁21および補助燃料噴射弁22の燃料噴射量および噴射タイミングを決定し、主燃料噴射弁21および補助燃料噴射弁22に信号を送る。主燃料噴射弁21および補助燃料噴射弁22は、エンジンECU24の信号に基づき、指示された噴射量および噴射タイミングで燃料を噴射する。
【0020】
次に、補助燃料噴射弁22について説明する。
図2に示すように、補助燃料噴射弁22のノズルボディ31の内部には、ノズルニードル33が軸方向に移動可能に収容されるニードル収容部32が形成されている。ノズルボディ31にはノズルニードル33の先端部が着座する弁座31Aが形成されている。
図3に示すように、ノズルボディ31の先端部には複数の燃料噴射孔35が放射状に形成されている。
図2に示すように、ノズルボディ31の内部には、ニードル収容部32と燃料噴射孔35を連通する中空のサック部36が形成されている。本実施形態では、
図3に示すように、燃料噴射孔35は、ノズルボディ31の先端部において円周方向に60°間隔で設けられている。各燃料噴射孔35は、ノズルボディ31の外部とサック部36とを連通させている。
【0021】
ニードル収容部32の先端側には、ノズルボディ31とノズルニードル33により補助燃料が供給される燃料供給部37が区画形成されている。燃料供給部37とサック部36との間には弁座31Aにより弁孔34が形成されている。サック部36および燃料噴射孔35は弁孔34の下流側空間部に相当する。燃料供給部37は、ノズルボディ31の内部に形成された燃料通路38と連通する。燃料通路38は、コモンレール39からの燃料配管40に連通する。コモンレール39からの燃料配管40を通じて燃料通路38に供給された高圧の補助燃料は、ノズルボディ31に内部に貯留され、ノズルニードル33の移動により、サック部36および燃料噴射孔35を通じて燃焼室16に噴射される。ノズルニードル33が弁座31Aに着座するとき、ノズルニードル33は弁孔34を閉じ、燃料供給部37と弁孔34の下流側となるサック部36および燃料噴射孔35とはノズルニードル33により遮断される。サック部36は燃料供給部37から流出する補助燃料を貯留する。
【0022】
ニードル収容部32の基端側には、ノズルボディ31とノズルニードル33により制御室41が区画形成されている。制御室41には、ノズルニードル33を弁座31Aに着座する方向へ付勢するコイルスプリング42が収容されている。ノズルボディ31には、制御室41と連通するリリーフ通路43が形成されている。ノズルボディ31には、制御室41とリリーフ通路43との連通を制御するソレノイド弁44が備えられている。制御室41は燃料通路38と連通する。
【0023】
ソレノイド弁44はリリーフ通路43の途中に設けられた電磁弁であり、エンジンECU24に制御される。リリーフ通路43はソレノイド弁44の開閉により連通または遮断される。ソレノイド弁44がリリーフ通路43を閉鎖すると、燃料通路38から供給される補助燃料によって制御室41内の圧力が上昇する。そして、制御室41内の補助燃料の圧力と燃料供給部37の補助燃料の圧力との差分がコイルスプリング42の付勢力未満になると、ノズルニードル33が弁座31Aに着座する閉弁方向に移動する。
【0024】
ソレノイド弁44がリリーフ通路43を連通させると、制御室41内の補助燃料がリリーフ通路43からリリーフ通路43に接続されているリリーフ配管(図示せず)を通じて燃料タンク(図示せず)へ戻る。このため、制御室41内の圧力が低下する。そして、制御室41内の圧力と燃料供給部37の圧力との差分がコイルスプリング42の付勢力を超えると、ノズルニードル33が弁座31Aから離間する開弁方向に移動する。エンジンECU24は、ソレノイド弁44への電流制御値を変化させることで、ソレノイド弁44の開閉および開閉速度を調整する。ソレノイド弁44の開閉および開閉速度の調整により、ノズルニードル33の開閉や開閉速度が制御される。
【0025】
ところで、本実施形態の補助燃料噴射弁22は、弁孔34の下流側空間部である燃料噴射孔35から燃焼室16へ不活性ガスを噴射するように、各燃料噴射孔35に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構を備えている。不活性ガス供給機構は、後述する不活性ガス通路45、不活性ガス配管47、電磁弁48および圧縮機49を有している。ノズルボディ31には、燃料噴射孔35に不活性ガスを供給可能な不活性ガス通路45が形成されている。不活性ガス通路45の一端は、サック部36の下流の接続部において燃料噴射孔35に連通し、不活性ガス通路45の他端は、不活性ガスボンベ46に接続された不活性ガス配管47に連通している。不活性ガス供給源である不活性ガスボンベ46から流出する不活性ガスは、不活性ガス配管47および不活性ガス通路45を流れ、サック部36の下流の接続部から燃料噴射孔35に流入する。不活性ガスは、エンジン11の燃焼に影響しないガスであり、本実施形態では窒素を用いている。
【0026】
図3に示すように、不活性ガス通路45および不活性ガス配管47は、燃料噴射孔35毎にそれぞれ設けられている。つまり、複数の燃料噴射孔35には、それぞれ独立した不活性ガス通路45が接続されている。不活性ガス配管47には、不活性ガス通路45へ不活性ガスの供給と遮断を切り換える電磁弁48が設けられている。電磁弁48はエンジンECU24により制御される。不活性ガス配管47において不活性ガスボンベ46と電磁弁48との間には、不活性ガスを圧縮するガス圧縮機構としての圧縮機49が設けられている。なお、
図3では、各不活性ガス配管47の配管長さは、説明の便宜上、異なって示されているが、互いに同じ配管長さに設定されている。
【0027】
本実施形態では、電磁弁48は、不活性ガス通路45へ不活性ガスを順番に供給・遮断するように制御される。つまり、電磁弁48は、複数の燃料噴射孔35に不活性ガスを同一のタイミングで供給するのではなく、複数の燃料噴射孔35に対してタイミングをずれしながら順番(例えば、
図3において時計回り方向の順番)に不活性ガスを供給する。つまり、燃料噴射孔35毎に不活性ガスの供給のタイミングが異なる。このようにタイミングをずらして複数の燃料噴射孔35に順番に不活性ガスを供給することにより、サック部36に残存する補助燃料を補助燃料噴射弁22の外部へ排出することができる。なお、複数の燃料噴射孔35に対する不活性ガスの供給タイミングを異ならせる方法としては、電磁弁48による供給・遮断のタイミングをずらす方法のほか、各燃料噴射孔35に接続する不活性ガス配管47の配管長さを異ならせる方法がある。
【0028】
不活性ガス通路45には、不活性ガス通路45への補助燃料の逆流を抑制するための逆流抑制機構としてリデューサ管51が設けられている。リデューサ管51は不活性ガス通路45における燃料噴射孔35との接続部近傍に配置されている。リデューサ管51は、円筒部52と円筒部52の内部に設けられたテーパ状のテーパ管部53と、を備えている。テーパ管部53は大径の開口部54と、小径の開口部55とを有しており、燃料噴射孔35側に小径の開口部55が位置するように設けられている。テーパ管部53の小径の開口部55が燃料噴射孔35側に配置されているので、補助燃料の噴射時において、燃料噴射孔35から不活性ガス通路45への補助燃料の流入が抑制される。また、テーパ管部53の大径の開口部54が燃料噴射孔35に近い側と反対側に配置されているので、不活性ガスボンベ46から供給される不活性ガスを燃料噴射孔35に勢いよく流すことができる。電磁弁48の開弁により不活性ガスボンベ46から不活性ガス通路45に不活性ガスが供給される。不活性ガス通路45に供給された不活性ガスは、接続部より燃料噴射孔35に流入し、燃料噴射孔35から燃焼室16へ噴射される。
【0029】
次に、不活性ガスの噴射タイミングについて説明する。
図4のクランク角と熱発生率との関係を示すグラフからわかるように、上死点TDC近傍で燃焼するので上死点TDC近傍での熱発生率が高くなっている。一方で、
図4に示すように、補助燃料の噴射開始タイミングは、ピストン14が上死点TDCに到達する手前(例えば、−30°CA)であり、また、補助燃料の噴射終了タイミングも上死点TDCよりもかなり手前になっている。エンジンECU24は、ピストン14が上死点TDCに到達する時点よりもかなり手前のタイミングで補助燃料噴射弁22を制御して補助燃料を燃焼室16へ噴射する。
【0030】
不活性ガスの供給開始タイミングは、補助燃料の噴射終了後であり、また、不活性ガスの供給終了タイミングは、上死点TDCを過ぎた特定のクランク角となっている。上死点TDCを過ぎた特定のクランク角は、例えば、燃焼室16にて燃料(主燃料および補助燃料)の90%が燃焼した90%燃焼時期を示すクランク角である。従って、エンジンECU24は、補助燃料の噴射後から燃焼室16にて燃料の大部分が燃焼するまでの間、不活性ガスが供給されるように、電磁弁48を制御する。
【0031】
このように、本実施形態では、エンジンECU24は、クランク角に基づくピストン14の位置情報に基づき、補助燃料噴射弁22の補助燃料の噴射量および噴射タイミングと、不活性ガスの供給量および供給タイミングとを決定し、補助燃料噴射弁22に信号を送る。補助燃料噴射弁22は、エンジンECU24の信号に基づき、指示された噴射量および噴射タイミングで補助燃料を噴射し、指示された供給量および供給タイミングで不活性ガスを供給する。
【0032】
本実施形態では、不活性ガスの供給の手順は、
図5に示すフロー図に従う。まず、エンジンECU24は、燃焼室16内の圧力および不活性ガスの圧力を検出する(ステップS1を参照)。燃焼室16の圧力最大値は、筒内圧センサ23により検出した燃焼室16の圧力の中で最も高い圧力を指す。なお、不活性ガスの圧力は、不活性ガスボンベ46に接続された圧力センサ(図示せず)によって検出される。
【0033】
次に、エンジンECU24は、不活性ガスボンベ46の不活性ガスの圧力が、筒内圧センサ23により検出された燃焼室16の圧力最大値以上であるか否かを判別する(ステップS2を参照)。不活性ガスボンベ46の不活性ガスの圧力が筒内圧センサ23により検出された燃焼室16の圧力最大値以上であるとエンジンECU24が判別すると、不活性ガスの供給期間を算出する(ステップS3を参照)。エンジンECU24は、不活性ガスの供給期間の算出後に不活性ガスを圧縮機49で圧縮することなく不活性ガスを供給する(ステップS4を参照)。ステップS2にて、不活性ガスボンベ46の不活性ガスの圧力が筒内圧センサ23により検出された燃焼室16の圧力最大値以上でないとエンジンECU24が判別すると、不活性ガスボンベ46から供給される不活性ガスを圧縮機49により筒内圧センサ23により検出された燃焼室圧力最大値まで圧縮する(ステップS5を参照)。つまり、エンジンECU24は、不活性ガスボンベ46から供給される不活性ガスを圧縮機49により圧縮して複数の燃料噴射孔35へ供給される不活性ガスの圧力を燃焼室16の圧力の最大値まで上昇させるように不活性ガス供給機構を制御する。不活性ガスボンベ46の不活性ガスが圧縮機49により筒内圧センサ23により検出された燃焼室圧力最大値まで圧縮されると、ステップS3へ進む。
【0034】
次に、本実施形態の燃料噴射装置10の作動について説明する。エンジン11の運転時には、吸気ポート17を通る吸入空気は、主燃料噴射弁21から噴射された気体燃料を混合され、ピストン14の下降により燃焼室16へ流入する。ピストン14の上昇により燃焼室内の空気と予混合された主燃料は圧縮される。ピストン14が上死点TDCに達するかなり手前にて、補助燃料噴射弁22から補助燃料が噴射される。補助燃料がピストン14の圧縮によって高圧となり自己着火すると、主燃料は補助燃料とともに燃焼する。燃焼室16における主燃料および補助燃料の燃焼による膨張によりピストン14は下降する。ピストン14の下降運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換され、エンジン11の駆動力が得られる。
【0035】
補助燃料噴射弁22による補助燃料の噴射後に、不活性ガスが燃料噴射孔35に供給され、燃焼室16にて燃料の大部分が燃焼するまでの間、不活性ガスの供給が継続される。不活性ガスの燃料噴射孔35への供給により、燃焼室16における高温の燃焼ガスの燃料噴射孔35への進入が妨げられるほか、燃料噴射孔35の内部の温度上昇が抑制される。エンジンECU24は、燃料噴射孔35毎に不活性ガスの供給タイミングが異なるように電磁弁48を制御するので、不活性ガスは、複数の燃料噴射孔35に対してタイミングをずらしながら順番(例えば、
図3において時計回りの順番)に供給される。このため、燃料噴射孔35およびサック部36に残存している極微量な補助燃料を、不活性ガスが供給されていない別の燃料噴射孔35を介して燃焼室16内に排出することができる。よって、燃料噴射孔35内におけるデポジット生成の要因となるサック部36に残存する補助燃料の量が減少し、燃料噴射孔35及びその周囲におけるデポジットの堆積を効果的に抑制することができる。なお、不活性ガスの圧力が燃焼室16の圧力最大値以上である場合、不活性ガスを圧縮することなく供給するが、不活性ガスの圧力が燃焼室16の圧力最大値以上でない場合、不活性ガスを圧縮機49により燃焼室圧力最大値まで圧縮してから、不活性ガスを供給する。つまり、不活性ガスの圧力調整後に不活性ガスが燃料噴射孔35へ供給される。
【0036】
本実施形態の燃料噴射装置10は、以下の作用効果を奏する。
(1)制御部としてのエンジンECU24は、主燃料の燃焼中において、弁孔34を閉じるようにノズルニードル33を制御するとともに、複数の燃料噴射孔35に不活性ガスが供給されるように不活性ガス供給機構を制御する。不活性ガスが不活性ガス通路45を通じて燃料噴射孔35に供給されるため、高温の燃焼ガスの燃料噴射孔35およびサック部36への進入が妨げられる。このため、燃料噴射孔35への燃焼ガスの進入による燃料噴射孔35の内部の温度上昇が抑制され、燃料噴射孔35およびサック部36におけるデポジットの堆積を抑制することができる。
【0037】
(2)不活性ガス通路45における燃料噴射孔35との接続部近傍にはリデューサ管51が備えられている。このため、リデューサ管51により補助燃料の噴射時に燃料噴射孔35を流れる補助燃料の不活性ガス通路45への流入を抑制することができ、不活性ガス通路45におけるデポジット堆積を防止することができる。
【0038】
(3)制御部としてのエンジンECU24が燃焼室16における主燃料の燃焼中において不活性ガスを燃料噴射孔35へ供給するので、主燃料の燃焼中には燃料噴射孔35から不活性ガスが噴射されることとなり、高温の燃焼ガスが燃料噴射孔35へ進入することを効果的に抑制することができる。
【0039】
(4)燃料噴射孔35毎に不活性ガスの供給のタイミングが異なるため、サック部36に残存する極微量な補助燃料、を不活性ガスが供給されていない別の燃料噴射孔35を介して燃焼室16内に排出することができる。よって、燃料噴射孔35内におけるデポジット生成の要因となるサック部36に残存する補助燃料の量が減少し、燃料噴射孔35及びその周囲におけるデポジットの堆積を効果的に抑制することができる。
【0040】
(5)エンジンECU24は、不活性ガスの圧力が、筒内圧センサ23に検出された燃焼室16の圧力の最大値以上であるときに、不活性ガスを燃料噴射孔35へ供給する。燃焼ガスの圧力以上の圧力の不活性ガスが燃料噴射孔35およびサック部36に供給されているため、燃焼ガスの燃料噴射孔35およびサック部36への進入を確実に防止することができる。また、エンジンECU24は、不活性ガスの圧力が、筒内圧センサ23に検出された燃焼室16の圧力の最大値未満であるときに、圧縮機49により不活性ガスを圧縮して不活性ガスの圧力を燃焼室16の圧力の最大値まで上昇させる。そして、圧縮された不活性ガスが燃料噴射孔35へ供給される。燃焼室16の圧力の最大値以上に圧縮された不活性ガスを燃料噴射孔35へ供給するため、燃焼ガスの燃料噴射孔35およびサック部36への進入を抑制することができる。
【0041】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく考案の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0042】
○ 上記の実施形態では、不活性ガス通路における複数の燃料噴射孔との接続部近傍に逆流抑制機構を設けたが、逆流抑制機構は必須ではない。例えば、不活性ガス通路に逆流抑制機構を設けないようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、燃料噴射孔に連通する不活性ガス通路を設けたが、この限りではない。例えば、不活性ガス通路をサック部に連通させるようにしてもよく、この場合、不活性ガス通路を1本とすることができるほか、サック部に残存する補助燃料をより排出し易くなる。
○ 上記の実施形態では、補助燃料の噴射後のタイミングから90%燃焼時期のタイミングの期間に、不活性ガスを供給するとしたが、これに限らない。不活性ガスの供給開始のタイミングは、例えば、補助燃料の噴射後から補助燃料の自己着火前であればよく、また、供給終了のタイミングは、燃焼時期の後半(例えば、70%以降の燃焼時期)のタイミングであればよい。さらに、高温の燃焼ガスが燃焼室に残存する排気行程において不活性ガスまたは空気を燃料噴射孔に供給してもよい。
○ 上記の実施形態では、不活性ガスを用いるとしたが、不活性ガスと空気を切り換えて用いるようにしてもよい。この場合、不活性ガスを消尽した場合に、空気を不活性ガスの代替としてサック部又は複数の燃料噴射孔に供給してもよく、空気を噴射することにより、デポジットの堆積を防止することができる。
○ 上記の実施形態では、不活性ガスの圧力が、筒内圧センサに検出された燃焼室の圧力の最大値未満のときに、圧縮機により不活性ガスを圧縮して不活性ガスの圧力を燃焼室の圧力の最大値まで上昇させたが、この限りではない。例えば、燃焼室の圧力の最大値未満の不活性ガスを圧縮せずにサック部又は複数の燃料噴射孔に供給してもよく、この場合、不活性ガスをサック部又は複数の燃料噴射孔に供給しない場合と比較すると、燃焼ガスの燃料噴射孔への進入を妨げる効果が期待できる。
○ 上記の実施形態では、不活性ガスとして窒素を用いたが、希ガスであるヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンを用いてもよい。