(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
図1は、本実施の形態におけるエンジン1の概略構成を示す図である。本実施の形態において、エンジン1は、たとえば、コモンレール式のディーゼルエンジンを一例として説明する。しかしながら、エンジン1としては、その他の形式のエンジン(たとえば、ガソリンエンジン等)であってもよい。
【0023】
エンジン1は、エンジン本体10と、エアクリーナ20と、インタークーラ26と、吸気マニホールド28と、過給機30と、排気マニホールド50と、排気処理装置56と、第1排気再循環装置(以下、第1EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置と記載する)60と、第2排気再循環装置(以下、第2EGR装置と記載する)70と、制御装置200と、エンジン回転数センサ202と、エアフローメータ208と、燃料ポンプ210と、燃料フィルタ212と、燃料タンク214とを備える。
【0024】
エンジン本体10は、複数の気筒12と、コモンレール14と、複数のインジェクタ16とを含む。本実施の形態においては、エンジン1は、直列4気筒エンジンを一例として説明するが、その他の気筒レイアウト(たとえば、V型あるいは水平型)のエンジンであってもよい。
【0025】
複数のインジェクタ16は、複数の気筒12の各々に設けられ、その各々がコモンレール14に接続されている燃料噴射装置である。燃料タンク214に貯留された燃料は、燃料フィルタ212を経由して燃料ポンプ210によって所定圧まで加圧されてコモンレール14へ供給される。コモンレール14に供給された燃料は複数のインジェクタ16の各々から所定のタイミングで噴射される。複数のインジェクタ16は、制御装置200からの制御信号IJ1〜IJ4に基づいて動作する。
【0026】
エアクリーナ20は、エンジン1の外部から吸入される空気から異物を除去する。エアクリーナ20には、第1吸気管22の一方端が接続される。
【0027】
第1吸気管22の他方端には、過給機30のコンプレッサ32の入口に接続される。コンプレッサ32の出口には、第2吸気管24の一方端が接続される。コンプレッサ32は、第1吸気管22から流通する空気を過給して第2吸気管24に供給する。コンプレッサ32の詳細な動作については後述する。
【0028】
第2吸気管24の他方端には、インタークーラ26の一方端が接続される。インタークーラ26は、第2吸気管24を流通する空気を冷却する空冷式あるいは水冷式の熱交換器である。
【0029】
インタークーラ26の他方端には、第3吸気管27の一方端が接続される。第3吸気管27の他方端には、吸気マニホールド28が接続される。吸気マニホールド28は、エンジン本体10の複数の気筒12の各々の吸気ポートに連結される。なお、吸気マニホールド28の上流には、たとえば、排気マニホールド50から第1EGR装置60を経由して還流する排気(以下、吸気通路に還流される排気をEGRガスとも記載する)を吸気マニホールドに流通させるための吸気絞り弁が設けられていてもよい。
【0030】
排気マニホールド50は、エンジン本体10の複数の気筒12の各々の排気ポートに連結される。排気マニホールド50には、第1排気管52の一方端が接続される。第1排気管52の他方端は、過給機30のタービン36に接続される。そのため、各気筒の排気ポートから排出される排気は、排気マニホールド50に集められた後、第1排気管52を経由してタービン36に供給される。
【0031】
タービン36には、第2排気管54の一方端が接続される。第2排気管54の他方端は、排気処理装置56の入口部分に接続される。排気処理装置56は、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)56aと、PM除去フィルタ56bと、燃料添加装置56cと、排気温度センサ56dとを含む。
【0032】
PM除去フィルタ56bは、酸化触媒56aよりも排気の流路(排気通路)における下流側に設けられる。燃料添加装置56cは、酸化触媒56aよりも排気の流路における上流側に設けられる。排気温度センサ56dは、酸化触媒56aとPM除去フィルタ56bとの間の排気の流路に設けられる。
【0033】
PM除去フィルタ56bは、流通する排気に含まれる粒子状物質(以下、PM(Particulate Matter)と記載する。)を捕集する。PM除去フィルタ56bは、たとえば、セラミックやステンレス等によって形成される。捕集されたPMは、PM除去フィルタ56b内に堆積する。
【0034】
酸化触媒56aと燃料添加装置56cとは、PM除去フィルタ56bに堆積したPMを燃焼させ、除去する(再生する)再生機構として機能する。酸化触媒56aは、排気が流通する場合に、流通する排気中の窒素酸化物(NOx)および炭素酸化物(COx)などを酸化するとともに、排気中に燃料添加装置56cから添加された燃料が含まれる場合には燃料を酸化する。燃料の酸化によって生じる反応熱により酸化触媒56aを通過する排気の温度が上昇する。高温の排気がPM除去フィルタ56bを通過することによってPM除去フィルタ56bの温度が上昇し、PM除去フィルタ56b内に堆積したPMが酸化除去される(燃焼させられる)。これにより、PM除去フィルタ56bが再生される。
【0035】
排気処理装置56の出口部分には、第3排気管58の一方端が接続される。第3排気管58の他方端には、触媒などの排気から特定の成分を除去する追加の排気処理装置やマフラー等が接続される。そのため、タービン36から排出された排気は、第2排気管54、排気処理装置56、第3排気管58、各種触媒およびマフラー等を経由して車外に排出される。
【0036】
第3吸気管27と排気マニホールド50とは、エンジン本体10を経由せずに第1EGR装置60によって接続される。第1EGR装置60は、第1EGRバルブ62と、第1EGRクーラ64と、第1EGR通路66とを含む。第1EGR通路66は、第3吸気管27と排気マニホールド50とを接続する。第1EGRバルブ62と、第1EGRクーラ64とは、第1EGR通路66の途中に設けられる。
【0037】
第1EGRバルブ62は、制御装置200からの制御信号に応じて、第1EGR通路66を流通するEGRガスの流量を調整する。第1EGRクーラ64は、たとえば、第1EGR通路66を流通するEGRガスを冷却する水冷式あるいは空冷式の熱交換器である。排気マニホールド50内の排気が第1EGR装置60を経由してEGRガスとして吸気側に戻されることによって気筒内の燃焼温度が低下され、NOxの生成量が低減される。
【0038】
第1吸気管22と第3排気管58とは、エンジン本体10を経由せずに第2EGR装置70によって接続される。第2EGR装置70は、第2EGRバルブ72と、第2EGRクーラ74と、第2EGR通路76とを含む。第2EGR通路76は、第1吸気管22と第3排気管58とを接続する。第2EGRバルブ72と、第2EGRクーラ74とは、第2EGR通路76の途中に設けられる。
【0039】
第2EGRバルブ72は、制御装置200からの制御信号に応じて、第2EGR通路76を流通するEGRガスの流量を調整する。第2EGRクーラ74は、たとえば、第2EGR通路76を流通するEGRガスを冷却する水冷式または空冷式の熱交換器である。第3排気管58内の排気が第2EGR装置70を経由してEGRガスとして吸気側に戻されることによって気筒内の燃焼温度が低下され、NOxの生成量が低減される。
【0040】
過給機30は、コンプレッサ32と、タービン36とを含む。コンプレッサ32のハウジング内にはコンプレッサホイール34が収納され、タービン36のハウジング内にはタービンホイール38が収納される。コンプレッサホイール34とタービンホイール38とは、連結軸42によって連結され、一体的に回転する。そのため、コンプレッサホイール34は、タービンホイール38に供給される排気の排気エネルギーによって回転駆動される。
【0041】
エンジン1の動作は、制御装置200によって制御される。制御装置200は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリと、外部との情報のやり取りを行なうための入・出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。入力ポートには、上述したセンサ類(たとえば、排気温度センサ56d、エンジン回転数センサ202、エアフローメータ208等)接続される。出力ポートには、制御対象となる機器(たとえば、複数のインジェクタ16、燃料添加装置56cおよび燃料ポンプ210等)が接続される。
【0042】
制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン1が所望の運転状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。また、制御装置200には、時間の計測を行うためのタイマー回路(図示せず)が内蔵されている。
【0043】
排気温度センサ56dは、酸化触媒56aから流出する排気の温度、すなわち、PM除去フィルタ56bに流入する排気の温度(以下、排気温度と記載する)Texを検出する。排気温度センサ56dは、検出した排気温度Texを示す信号を制御装置200に送信する。なお、排気温度Texは、PM除去フィルタ56b近傍に設置した温度センサで直接検出する以外に、エンジン1の運転状態や別の場所に設けられた温度センサから推定によって求めてもよい。
【0044】
エンジン回転数センサ202は、エンジン1のクランクシャフトの回転数をエンジン回転数NEとして検出する。エンジン回転数センサ202は、検出したエンジン回転数NEを示す信号を制御装置200に送信する。
【0045】
エアフローメータ208は、第1吸気管22に導入される新気の流量(吸入空気量)Qinを検出する。エアフローメータ208は、検出した吸入空気量Qinを示す信号を制御装置200に送信する。
【0046】
燃料タンク214は、複数のインジェクタ16および燃料添加装置56cに供給するための燃料を貯留する。燃料ポンプ210は、制御装置200からの制御信号に応じて動作し、燃料タンク214に貯留される燃料をコモンレール14に圧送したり、燃料添加装置56cに供給したりする。燃料ポンプ210と燃料タンク214との間の燃料が流通する通路には燃料フィルタ212が設けられる。燃料フィルタ212は、流通する燃料に含まれる異物を捕集する。
【0047】
以上のような構成を有するエンジン1においては、PM除去フィルタ56bにおけるPMの堆積量が多くなると、PM除去フィルタ56bのフィルタ部分が目詰まりを起こして機能が低下する場合がある。そのため、制御装置200は、PM除去フィルタ56bを再生するための再生制御を実行する。
【0048】
より具体的には、制御装置200は、PM除去フィルタ56b内のPMの堆積量を取得する。制御装置200は、たとえば、エンジン1の運転条件(たとえば、エンジン回転数NEや燃料噴射量の指令値や吸入空気量Qin等)から複数の気筒12からのPMの排出量の推定値を算出する。制御装置200は、算出された推定値を積算することによって堆積量を取得してもよい。なお、PMの排出量の具体的な算出方法については周知の技術を用いればよくその詳細な説明は行なわない。制御装置200は、取得したPMの堆積量が再生判定値を超えると再生制御を実行する。
【0049】
制御装置200は、再生制御が実行されると、燃料添加装置56cから燃料添加を開始する。制御装置200は、たとえば、排気温度Texを、目標温度に昇温するための指令添加量を設定し、設定された指令添加量に従って燃料添加装置56cを制御する。ここで、排気の目標温度は、PM除去フィルタ56bの温度をPM除去フィルタ56bの再生が可能な温度まで昇温することができる排気温度として設定される。
【0050】
上述のような再生制御により、排気処理装置56では、燃料添加装置56cから排気に燃料が添加され、添加された燃料が酸化触媒56aで反応し、その反応熱によって排気が昇温する。そして、高温となった排気がPM除去フィルタ56bに流れることによって、PM除去フィルタ56bの温度が、PM除去フィルタ56bの再生が可能な温度範囲内の温度まで昇温し、PM除去フィルタ56内のPMが燃焼される。制御装置200は、PM除去フィルタ56bの温度がPM除去フィルタ56bの再生が可能な温度範囲内の温度になった状態の経過時間をカウントし、カウントした経過時間の合計が所定の再生終了時間を超えた場合に、PM除去フィルタ56bの再生が完了したと判定する。
【0051】
ところで、エンジン1の稼働時間が長くなると、燃料タンク214から燃料添加装置56cの制御弁までの間に設けられるいずれかの構成部品が経年劣化したり、燃料フィルタ212において捕集された異物によるフィルタ目詰まりが生じたりすることによって、PM除去フィルタ56bの再生制御の実行時に、排気に添加すべき燃料の指令添加量と、実際に燃料添加装置56cから排気に添加される燃料の実添加量との間にずれが生じる場合がある。
【0052】
そのため、制御装置200は、予め定められた学習条件が成立する場合に、実添加量を指令添加量に近づけるように、指令添加量を補正するための学習値(たとえば、補正係数)を算出する。制御装置200は、たとえば、燃料添加後の排気温度Texと目標温度との比に基づいて学習値を算出する。
【0053】
図2は、指令添加量の補正方法を説明するための図である。燃料添加前の排気温度が300℃で目標温度が650℃である場合には、燃料の添加により排気の温度を350℃昇温させる必要がある。制御装置200は排気の温度を350℃昇温させるために必要な燃料の添加量である指令添加量を、事前の実験によりメモリに格納された換算係数や排気の流量などを用いて算出する。そして、制御装置200は、算出された指令添加量(初期値)に基づいて、燃料添加装置56cを制御する。
図2の左側の棒グラフに示すように、たとえば、指令添加量(初期値)に基づいて燃料添加装置56cを制御し、燃料の添加によって上昇した排気温度Texが、目標温度の650℃よりも50℃低い600℃であると、制御装置200は、燃料添加装置56cから実際に添加された燃料の実添加量が指令添加量(初期値)よりも少ないと判断し、実添加量を指令添加量(初期値)に近づけるように学習値を算出する。この場合、たとえば、制御装置200は、650/600=1.08を学習値として算出する。制御装置200は、算出された学習値をメモリに記憶する。なお、学習値の初期値は、たとえば、1.0である。制御装置200は、最初の学習値が算出された以降においては、予め定められた学習条件が成立するたびに、直前の学習値を用いて補正した最終的な指令添加量によって上昇する排気温度Texと目標温度との比から新たな学習値を算出する。
【0054】
制御装置200は、学習値がメモリに記憶されると、以降の再生制御においては、排気温度と目標温度と排気の流量などから算出される指令添加量(初期値)に対して、メモリに記憶された学習値を乗算する添加量補正を実行して最終的な指令添加量(補正値)を算出する。そして、制御装置200は、この補正された指令添加量(補正値)に基づいて燃料添加装置56cを制御する。その結果、燃料添加装置56cから排気に添加される燃料の実添加量が増加して、指令添加量(初期値)に近づくこととなり、酸化触媒56aにおいて燃料が酸化する際の反応熱が増加する。これにより、排気温度Texが上昇する。そのため、
図2の右側の棒グラフに示すように補正によって排気温度Texを目標温度である650℃まで上昇させることができる。
【0055】
なお、上述の予め定められた学習条件としては、たとえば、排気温度Texが一定の状態となる時間が予め定められた時間以上であるという条件を含む。なお、予め定められた学習条件としては、上述の条件に加えて、PM除去フィルタ56bの温度が一定の状態となる時間が予め定められた時間以上であるという条件と、タービン36からの排気のエネルギー(たとえば、タービン36の出口温度×ガス流量)の変動がしきい値未満であるという条件と、排気温度が目標温度に到達しているとした場合にPM除去フィルタ56bを流通する排気のエネルギーの変動がしきい値未満であるという条件と、排気温度Texがしきい値以上であるという条件とのうちの少なくともいずれかの条件を含むようにしてもよい。
【0056】
なお、制御装置200は、再生制御の実行中において、排気温度Texが停止判定値Taを超える場合には、PM除去フィルタ56bが故障する虞があるので、燃料の添加が停止されるように燃料添加装置56cを制御する。また、制御装置200は、再生制御の実行中において、排気温度Texが停止判定値Taを超えることによって燃料の添加が停止された後においては、排気温度Texが再開判定値よりも低下した場合に、PM除去フィルタ56bの再生が行なわれるように、燃料の添加を許可し、学習値に基づく添加量補正により算出した最終的な指令添加量に基づいて燃料添加装置56cを制御する。
【0057】
このような構成を有するエンジン1において、燃料フィルタ212や燃料添加装置56cの制御弁などの燃料タンク214から燃料添加装置56cの制御弁までの間の燃料系統に設けられるいずれかの部品が交換される場合には、部品の交換前後において劣化や異物の堆積に起因した燃料の流通の制限の度合いが変化する場合がある。その結果、部品交換前までの学習値を用いた指令添加量の補正をしたとしても、燃料添加装置56cから実際に添加される実添加量を所望の値に近づけることができない場合が考えられる。そのため、所定のメンテナンスタイミングで部品を交換した際には、制御装置200のメモリに記憶された学習値を初期値にリセットすることが行なわれている。
【0058】
しかしながら、所定のメンテナンスタイミング以外で、ユーザが、独自に部品を交換するような場合等においては、部品の交換後に学習値が初期値にリセット(更新)されない場合が考えられる。この場合には、再生制御の実行時には、部品交換前の学習値に基づいて指令添加量が補正されることとなる。従って、部品交換前の学習値が大きい値であると、実添加量が多くなりすぎて排気温度Texが目標温度よりも高い温度に上昇してしまうといった問題が発生する。
【0059】
図3は、部品交換前に学習した学習値が大きく、かつ、部品交換後に学習値が初期値にリセットされない場合の、再生制御における排気の温度の変化を示すタイミングチャートである。
図3の上段のグラフの縦軸は、排気の温度を示し、
図3の上段のグラフの横軸は、時間を示す。
図3の上段のグラフの実線は、PM除去フィルタ56bに流入する排気の温度である排気温度Texの変化を示す。
図3の上段のグラフの破線は、PM除去フィルタ56bから流出する排気の温度の変化を示す。
図3の上段のグラフの一点鎖線は、酸化触媒56aに流入する排気の温度を示す。さらに、
図3の下段のグラフの縦軸は、学習値を示し、
図3の下段のグラフの横軸は、時間を示す。
【0060】
たとえば、PMの堆積量が再生判定値よりも小さい場合(すなわち、再生制御が未実行の場合)であって、かつ、学習値がCa(>1.0)である場合に燃料フィルタ212がユーザによって交換され、学習値が初期値にリセットされなかった場合を想定する。
【0061】
PMの堆積量が再生判定値よりも小さい場合は、再生制御が実行されないので、酸化触媒56aに流入する排気の温度、PM除去フィルタ56bに流入する排気の温度Tex、および、PM除去フィルタ56bから流出する排気の温度は、略同じ温度(300℃前後)で推移することになる。このとき、学習値は、Caで維持される。
【0062】
時間t(0)にて、PM除去フィルタ56bにおけるPMの堆積量が再生判定値よりも多くなると、再生制御が実行される。再生制御では、燃料添加装置56cから排気への燃料の添加が行なわれる。
【0063】
この場合、
図3の一点鎖線に示すように、酸化触媒56aに流入する排気の温度は、300℃前後での推移が続くのに対して、酸化触媒56aにおいて燃料が酸化し、その反応熱が生じるため、
図3の実線に示すように、排気温度Texは目標温度である650℃前後まで上昇することになる。PM除去フィルタ56bに流入した排気からPM除去フィルタ56bの構成部材に熱が伝達されるため、
図3の破線に示すようにPM除去フィルタ56bから流出する排気の温度は、排気温度Texに追従するように上昇する。
【0064】
燃料フィルタ212が新品のものに交換されると、交換前に生じていたフィルタ目詰まりが解消される。部品交換前の学習値が大きい値であると、部品交換後において指令添加量を部品交換前の学習値によって補正して燃料添加装置56cを制御すると、実際に排気に添加される燃料である実添加量が、排気温度Texを目標温度に上昇させるために必要な量よりも多くなりすぎてしまう。これにより、排気温度Texが目標温度を超えて上昇することになる。
【0065】
時間t(1)にて、
図3の実線に示すように排気温度Texが停止判定値Taを超える場合には、燃料添加装置56cからの燃料の添加が停止される。そのため、酸化触媒56aにおいて反応熱の発生が抑制されるため、排気温度Texは低下していく。その後に、時間t(2)にて、排気温度Texが再開判定値よりも低下し、かつ、その他の再開条件が成立する場合に、燃料添加装置56cから燃料の添加が再開される。燃料の添加が再開されると、上記のように、実添加量は、排気温度Texを目標温度に上昇させるために必要な量よりも多くなりすぎているので、排気温度Texが目標温度を超えて上昇してしまう。そして、排気温度Texが停止判定値Taを超える場合には、燃料添加装置56cからの燃料の添加が停止される。このように、再生制御が終了するまで、燃料添加の再開と停止が繰り返されることとなる。
【0066】
燃料添加の再開と停止が繰り返されると、
図3に示すように排気温度Texは一定の状態にならないため、学習条件が成立せず、学習値が更新されない。その結果、時間t(1)〜t(2)のような排気の温度の変化が繰り返されることになる。その結果、PM除去フィルタ56bの再生制御の実行時において、PM除去フィルタ56bに流入する排気の温度を精度高く制御できないといった問題が発生する。また、PM除去フィルタ56bに対して高温の排気の流通が繰り返されると、PM除去フィルタ56bの劣化が促進される。
【0067】
そこで、本実施の形態においては、制御装置200は、予め定められた学習条件が成立する場合に、排気温度Texが目標温度に近づくように指令添加量を補正するための学習値を算出する。制御装置は、排気温度Texが目標温度よりも高い温度判定値を超える場合には、学習条件が成立するか否かにかかわらず学習値を減少させるものとする。
【0068】
このようにすると、燃料系統に設けられる部品は新品に交換されたが学習値は初期値にリセットされなかったことに起因して、排気温度Texが温度判定値を超えるような場合には、学習条件が成立するか否かにかかわらず学習値を減少させるので、燃料添加装置に対する最終的な指令添加量を減少させることができる。その結果、再生制御において排気温度Texが所望の値になるように制御することができる。なお、温度判定値は、目標温度よりも高い温度であって、かつ、PM除去フィルタ56bに流入する排気が過熱状態であることを判定するための値である。本実施の形態において、温度判定値は、たとえば、上述の停止判定値と同一の値であるものとする。
【0069】
以下に、
図4を参照して、本実施の形態おける制御装置200で実行される制御処理について説明する。
図4は、制御装置200で実行される制御処理を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、所定の制御周期毎にメインルーチン(図示せず)から呼び出されて実行される。
【0070】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、制御装置200は、学習条件が成立するか否かを判定する。学習条件は、上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。学習条件が成立すると判定される場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。
【0071】
S102にて、制御装置200は、学習処理を実行する。制御装置200は、学習処理によって学習値を算出する。学習値の算出方法については上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0072】
S104にて、制御装置200は、排気温度Texが温度判定値よりも大きいか否かを判定する。排気温度Texが温度判定値よりも大きいと判定される場合(S104にてYES)、処理はS106に移される。
【0073】
S106にて、制御装置200は、学習値減少処理を実行する。具体的には、制御装置200は、直前の学習値から予め定められた値だけ減算した値を新たな学習値として設定する。
【0074】
なお、学習条件が成立しないと判定される場合(S100にてNO)、処理はS104に移される。また、排気温度Texが温度判定値以下であると判定される場合(S104にてNO)、この処理は終了される。
【0075】
以上のような構造およびフローチャートに基づく制御装置200の動作について
図5を参照しつつ説明する。
図5は、制御装置200の動作を説明するための図である。
図5の上段のグラフは、排気の温度の変化を示すタイミングチャートである。
【0076】
図5の上段のグラフの縦軸は、排気の温度を示し、
図5の上段のグラフの横軸は、時間を示す。
図5の上段のグラフの実線は、PM除去フィルタ56bに流入する排気の温度である排気温度Texの変化を示す。
図5の上段のグラフの破線は、PM除去フィルタ56bから流出する排気の温度の変化を示す。
図5の上段のグラフの一点鎖線は、酸化触媒56aに流入する排気の温度を示す。さらに、
図5の下段のグラフは、学習値の変化を示すタイミングチャートである。
図5の下段のグラフの縦軸は、学習値を示し、
図5の下段のグラフの横軸は、時間を示す。
【0077】
たとえば、PMの堆積量が再生判定値よりも小さい場合(すなわち、再生制御が未実行の場合)であって、かつ、学習値がCa(>1.0)である場合に燃料フィルタ212がユーザによって交換された場合を想定する。
【0078】
なお、この場合における時間t(4)までの排気の温度の変化は、
図3における時間t(1)までの排気の温度の変化と同様である。そのため、その詳細な説明は、繰り返さない。
【0079】
時間t(4)にて、
図5の実線に示すように排気温度Texが停止判定値Taを超える場合には、燃料添加装置56cからの燃料の添加が停止される。そのため、酸化触媒56aにおいて反応熱の発生が抑制されるため、排気温度Texは低下していく。その後に、時間t(5)にて、排気温度Texが再開判定値よりも低下し、かつ、その他の再開条件が成立する場合に、燃料添加装置56cから燃料の添加が再開される。燃料の添加が再開されると、実添加量が、排気温度Texを目標温度に上昇させるために必要な量よりも多くなりすぎて、排気温度Texが目標温度を超えて上昇する。排気温度Texが停止判定値Taを超える場合には、燃料添加装置56cからの燃料の添加が停止される。このように、燃料添加の再開と停止が数回繰り返されることとなる。
【0080】
燃料添加の再開と停止が繰り返される状態では、
図5に示すように排気温度Texは一定の状態にならないため、学習条件が成立しない(S100にてNO)。しかしながら、時間t(4)にて、排気温度Texが温度判定値(=停止判定値Ta)を超える場合に(S104にてYES)、学習値減少処理が実行されるため(S106)、
図5の下段のグラフの実線に示すように、学習値が直前の学習値Caから予め定められた値だけ低い値が新たな学習値として設定される。その後、排気温度Texが温度判定値を超えると判定される毎に学習値減少処理が実行されることによって学習値が段階的に減少させられる。
【0081】
時間t(6)にて、学習値がCbまで減少させられたときに排気温度Texは、温度判定値よりも低い温度で推移することになる。排気温度Texが一定の状態が継続することによって、時間t(7)に学習条件が成立する場合には(S100にてYES)、学習処理が実行される(S102)。
【0082】
学習処理によって算出された学習値Ccが新たな学習値として設定され、設定された学習値にしたがって指令添加量が補正されることになる。その結果、排気温度が目標温度に到達することになる。
【0083】
以上のようにして、本実施の形態に係る排気処理装置によると、燃料系統に設けられる部品は新品に交換されたが学習値は初期値にリセットされなかったことに起因して、排気温度Texが温度判定値を超えるような場合には、学習条件が成立するか否かにかかわらず学習値を減少させるので、燃料添加装置56cに対する最終的な指令添加量を減少させることができる。その結果、再生制御において排気温度Texが所望の値になるように制御することができる。排気温度Texを低下させた後に、少なくとも排気温度Texが一定となる状態が予め定められた時間が継続した結果、学習条件が成立する場合に学習値が算出される。そのため、排気温度Texを目標温度に到達させるための適切な学習値を算出することができる。したがって、燃料系統の部品が交換された時に学習値がリセットされない場合であっても、部品交換後におけるPM除去フィルタの再生制御の実行時において、PM除去フィルタに流入する排気の温度を精度高く制御することができる排気処理装置を提供することができる。
【0084】
さらに、学習値減少処理により、直前の学習値から予め定められた値だけ減算した値を新たな学習値として設定することによって、指令添加量を段階的に減少させることができる。そのため、燃料添加による排気温度の上昇量が不必要に低下することを抑制することができる。
【0085】
以下、変形例について説明する。
上述の実施の形態では、学習値減少処理において、直前の学習値から予め定められた値だけ減算した値を新たな学習値として設定するものとして説明したが、たとえば、学習値の初期値(=1.0)を新たな学習値として設定してもよい。
【0086】
さらに上述の実施の形態では、排気温度Texが温度判定値を超える場合に、学習値減少処理を実行するものとして説明したが、たとえば、排気温度Texが温度判定値を複数回超える場合に学習値減少処理を実行してもよい。
【0087】
以下、
図6を参照して、これらの変形例を適用した制御処理について説明する。
図6は、変形例において制御装置200で実行される制御処理を示すフローチャートである。なお、
図6のフローチャートのS100およびS102の処理は、
図4のフローチャートのS100およびS102の処理と同じ処理である。そのため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0088】
S200にて、制御装置200は、温度ハンチングが発生しているか否かを判定する。すなわち、制御装置200は、たとえば、排気温度Texが温度判定値を超える毎にカウンタのカウント値を1つずつ増加させ、最初に温度判定値を超えた時点から予め定められた時間が経過するまでにカウント値(温度判定値を超える回数)がしきい値以上となる場合に温度ハンチングが発生していると判定する。制御装置200は、予め定められた時間が経過した後にカウント値を初期値(=0)にリセットする。温度ハンチングが発生していると判定される場合(S200にてYES)、処理はS202に移される。
【0089】
S202にて、制御装置200は、学習値(補正係数)を初期値(=1.0)にリセットする。
【0090】
このようにすると、学習値を初期値にリセットすることによって排気温度Texを速やかに低下させることができる。さらに、温度ハンチングが発生しているときに学習値を初期値にリセットするため、排気温度Texが突発的に変化した場合などにおいて学習値が不必要に減少されることを抑制することができる。
【0091】
さらに上述の実施の形態では、補正係数としての学習値を指令添加量に乗算することによって指令添加量を補正するものとして説明したが、たとえば、指令添加量に学習値を加算することによって指令添加量を補正してもよい。
【0092】
さらに上述の実施の形態では、停止判定値と温度判定値とが同一の値であるものとして説明したが、異なる値であってもよい。たとえば、温度判定値は、停止判定値よりも低い値であってもよい。このようにすると、排気温度Texが停止判定値になる前に学習値を減少させることができるため、早期に排気温度Texを低下させることができる。
【0093】
さらに上述の実施の形態では、排気温度Texが温度判定値を超える場合に学習値を減少させるものとして説明したが、排気温度Texに代えてPM除去フィルタ56bの温度が温度判定値を超える場合に学習値を減少させてもよい。PM除去フィルタ56bの温度は、たとえば、排気温度TexとPM除去フィルタ56bの下流に設けられる温度センサにより検出される温度とに基づいて推定されてもよいし、あるいは、PM除去フィルタ56bの周囲の温度に基づいて推定されてもよいし、温度センサを用いて直接的に検出されてもよい。
【0094】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。