(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成分(B)が、連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線において、単一のピークを持ち、かつピークの低温側にピーク高さの40%以上の高さのショルダーを持つことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の容器蓋用ポリエチレン組成物。
前記連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線のピークが85〜100℃の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の容器蓋用ポリエチレン組成物。
前記連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線のピークの低温側に存在するショルダーの頂点の温度がピークの温度−10℃以内の範囲にあることを特徴とする請求項5又は6に記載の容器蓋用ポリエチレン組成物。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは、射出成形品を製造するために広範に使用されている。この目的に使用されるポリエチレンは、高流動性であるだけでなく、高度な機械的強度及び剛性が求められ、また、優れた耐久性も求められる。
さらに、射出成形品においては、上記の特性のみならず、繰返しの折曲げに耐え得る特性及び薄肉部が引裂き易い特性の両者を具備する製品も求められることもある。
例えば、食品容器等の容器蓋において、容器口部に固定される本体と開閉自在に設けられた上蓋とを結合するヒンジ部を有し、かつ開口部を形成するために引裂くための薄肉部(スコア部)を有する形態(ヒンジ部とスコア部とが一体化された所謂ワンピース構造の製品)が存在する。具体的には、醤油、タレなどの食品調味料容器等の蓋にこの形態が見られる。
このような蓋において、ヒンジ部には繰返しの折曲げ性に耐え得るポリプロピレン(PP)が適し、一方、スコア部には引裂き性の良い低密度ポリエチレン(LDPE)が一般に適している。
【0003】
しかしながら、このような複数種類の樹脂を用いて一体的な成形品とすることは、成形効率やコストの面から好ましくなく、ヒンジ部とスコア部の両者を具備する製品を効率よく一体的に成形することは非常に難しく、従来から更に好ましい材料が必要とされている。
しかも、容器の内容物の衛生性を確保するべく、その内容物と容器の殺菌目的のため、高温状態で充填することが多く、充填する際の温度が高くなる傾向にあり、材料がその温度によって変形せず、冷却しても内容物が漏れないようにすることが望まれる場合もある。
【0004】
このような中で、高流動性、成形性、剛性、及び耐衝撃性のバランスが良好で、かつ食品衛生性に優れ、高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性、耐久性にも優れた射出成形用ポリエチレン材料であって、しかも、繰返しの折曲げに耐え得る構造及び薄肉部を引裂いて開口部を形成し易い構造の両者を具備する製品、特に内容物が比較的高温で充填される容器の蓋に適した射出成形用ポリエチレン材料が求められている。
【0005】
射出成形用樹脂材料として、例えば、特許文献1には、特定の要件を満足する容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物が提案され、引き裂き性と耐折り曲げ性とがともに優れる上に、スキン層剥離が発生し難い材料が開示されている。この材料は、良好な物性を達成しているものの、ポリエチレン樹脂としての密度が必ずしも十分ではなく、容器蓋としての剛性や高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性が不足する場合がある。
【0006】
特許文献2には、密度、MFR、Mw/Mnが特定の範囲にあり、デカン可溶分と密度、Tmと密度、MTとMFR、活性化エネルギーと共重合体中のα−オレフィンの炭素原子数とα−オレフィンの含有率がそれぞれ特定の関係を満たすエチレンと炭素数6〜8のα−オレフィンとの共重合体と、密度、MFRが特定の範囲にあり、デカン可溶分と密度、Tmと密度、MTとMFRそれぞれが特定の関係を満たすエチレンと炭素数6〜8のα−オレフィンとの共重合体と、MFRが特定の範囲にあり、Mw/MnとMFRが特定の関係を満たす高圧ラジカル法低密度ポリエチレンとの組成物であって、透明性、機械的強度、成形性に優れたエチレン系共重合体組成物が提案されている。
しかし、この材料は、シクロペンタジエニル系の配位子を有する触媒を用いて得られる2種類の重合体及び高圧ラジカル法低密度ポリエチレンとからなる広範な用途向けの組成物であり、薄肉部の易引裂性、係合力長期維持性、高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性等、いずれも兼ね備えたバランスの良い材料に到達しているとは必ずしも言えない。
【0007】
特許文献3には、多峰性分子量分布を有し、低分子量エチレンホモポリマーA、高分子量エチレンコポリマーB及び超高分子量エチレンコポリマーCを含むポリエチレン成形組成物であって、23℃における密度が0.940〜0.957g/cm
3の範囲にあり、MFR(190℃/2.16kg)が0.5〜4dg/minの範囲にあり、ISO/R 1191に準拠してデカリン中135℃で測定したエチレンホモポリマーA、コポリマーB及びエチレンコポリマーCの混合物の粘度数VN3が150〜300cm
3/gの範囲にある、射出成形品を製造するための組成物が提案されている。
しかし、この材料は、密度が高く、MFRが小さいため、高流動性、成形性、薄肉部の易引裂性等においてバランスの良い材料に到達しているとは必ずしも言えない。
【0008】
特許文献4には、密度が0.922〜0.935g/cm
3、温度190℃、荷重2.16Kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が10〜20g/10分であるエチレン・α−オレフィン共重合体(A)60〜90質量%と、密度が0.910〜0.929g/cm
3、温度190℃、荷重2.16Kgにて測定されるMFRが30〜60g/10分である高圧法低密度ポリエチレン(B)40〜10質量%とからなり、密度が0.920〜0.930g/cm
3、温度190℃、荷重2.16KgにおけるMFRが10〜20g/10分、70℃、ひずみ1%の引張において30秒後と400秒後に測定した緩和弾性率E(30)とE(400)が特定の関係を満足することを特徴とする、高流動性、成形性、剛性、耐衝撃性、繰返しの耐折曲げ性、薄肉部の易引裂性、係合力長期維持性のバランスが良好で、かつ食品衛生性に優れ、耐熱性、耐久性にも優れ、特に繰返しの折曲げに耐え得る構造及び薄肉部を引裂いて開口部を形成し易い構造の両者を具備する製品に適する射出成形用ポリエチレン組成物が提案されている。
しかし、ポリエチレン樹脂としての密度が必ずしも十分ではなく、高温状態での充填適性に関わる緩和弾性率の測定温度が実際の高温充填条件に対して必ずしも十分ではなく、容器蓋としての剛性や高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性が不足する場合がある。
【0009】
このように、高流動性、成形性、剛性、耐衝撃性、耐熱性、耐久性、繰返しの耐折曲げ性、薄肉部の易引裂性、係合力長期維持性、高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性等、いずれも兼ね備えたバランスの良い材料に到達することは容易ではなく、更に一層優れたヒンジ部とスコア部の両者を具備する容器蓋に好適に用いることができるポリエチレン材料が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、かかる従来技術の状況に鑑み、高流動性、成形性、剛性、耐衝撃性、繰返しの耐折曲げ性、薄肉部の易引裂性、係合力長期維持性のバランスが良好で、かつ食品衛生性に優れ、高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性、耐久性にも優れ、繰返しの折曲げに耐え得る構造及び薄肉部を引裂いて開口部を形成し易い構造の両者を具備する製品、特に内容物が比較的高温で充填される容器の蓋に適する容器蓋用ポリエチレン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記のような従来技術の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の物性を有するポリエチレン組成物が高流動性、成形性、剛性、耐衝撃性、繰返しの耐折曲げ性、薄肉部の易引裂性、係合力長期維持性のバランスが良好で、かつ食品衛生性に優れ、高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性、耐久性にも優れ、繰返しの折曲げに耐え得る構造及び薄肉部を引裂いて開口部を形成し易い構造の両者を具備する製品、特に内容物が比較的高温で充填される容器の蓋に好適に用いることが出来るという知見に達し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の第1の発明によれば、下記の成分(A)を5〜95重量%及び成分(B)を95〜5重量%含有し、以下の(a)〜(d)の性状を有することを特徴とする容器蓋用ポリエチレン組成物が提供される。
成分(A):温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0〜100g/10分、密度が0.865〜0.929g/cm
3のエチレン系重合体
成分(B):温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0〜100g/10分、密度が0.929超〜0.970g/cm
3のエチレン系重合体
(a)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が10〜100g/10分
(b)密度が0.925〜0.950g/cm
3
(c)JIS K7139:2009 タイプ1A試験片を90℃で引張呼びひずみ5%まで50mm/minで引張後、ひずみ5%のまま3分保持した後の応力(90℃緩和後応力)が0.7MPa以上
(d)JIS K6922−2:2010により測定される引張衝撃強さが100〜170kJ/m
2
【0014】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、さらに成分(A)のビカット軟化点が88℃以上であることを特徴とする容器用ポリエチレン組成物が提供される。
【0015】
本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、さらに成分(A)の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が5〜90g/10分、密度が0.900〜0.929g/cm
3であることを特徴とする容器蓋用ポリエチレン組成物が提供される。
【0016】
本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、さらに成分(B)の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が3〜50g/10分、密度が0.935超〜0.965g/cm
3であることを特徴とする容器蓋用ポリエチレン組成物が提供される。
【0017】
本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、さらに成分(B)が、連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線において、単一のピークを持ち、かつピークの低温側にピーク高さの40%以上の高さのショルダーを持つことを特徴とする容器蓋用ポリエチレン組成物が提供される。
【0018】
本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、さらに前記連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線のピークが85〜100℃の範囲にあることを特徴とする容器蓋用ポリエチレン組成物が提供される。
【0019】
本発明の第7の発明によれば、第5又は6の発明において、さらに前記連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線のピークの低温側に存在するショルダーの頂点の温度がピークの温度−10℃以内の範囲にあることを特徴とする容器蓋用ポリエチレン組成物が提供される。
【0020】
本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、組成物のビカット軟化点が90℃以上であり、組成物の密度(D、単位:g/cm
3)と組成物のビカット軟化点(T、単位:℃)の関係が以下の式(1)を満たすことを特徴とする容器蓋用ポリエチレン組成物が提供される。
T≧1000×D−836 式(1)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高流動性、成形性、剛性、耐衝撃性、繰返しの耐折曲げ性、薄肉部の易引裂性、係合力長期維持性のバランスが良好で、かつ食品衛生性に優れ、高温充填時の形状保持性や嵌合力の維持性、耐久性にも優れ、繰返しの折曲げに耐え得る構造及び薄肉部を引裂いて開口部を形成し易い構造の両者を具備する製品、特に内容物が比較的高温で充填される容器の蓋に好適に用いることが出来るポリエチレン組成物を製造することが出来る。
即ち、本発明によれば、高流動性、成形性、剛性、耐衝撃性、繰返しの耐折曲げ性、薄肉部の易引裂性、係合力長期維持性のバランスが良好であり、かつ食品衛生性に優れた組成物及び成形品を提供することができる。また、かかるポリエチレン組成物を用いた容器蓋は、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性、開栓時のスコア切れ性やヒンジキャップの繰り返し開閉における耐久性に優れ、内容物が比較的高温で充填される容器のヒンジ付蓋として好適な容器蓋である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の容器蓋用ポリエチレン組成物は、下記の成分(A)及び成分(B)を含有する。
成分(A):温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0〜100g/10分、密度が0.865〜0.929g/cm
3のエチレン系重合体
成分(B):温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0〜100g/10分、密度が0.929超〜0.970g/cm
3のエチレン系重合体
【0025】
本発明の容器蓋用ポリエチレン組成物は、成分(A)を5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは20〜80重量%、成分(B)を95〜5重量%、好ましくは90〜10重量%、さらに好ましくは80〜20重量%含有する。成分(A)の含有割合が5重量%未満では(成分(B)の含有割合が95重量%を超えると)、開栓時のスコア切れ性が悪化する傾向がある。また、成分(A)の含有割合が95重量%を超えると(成分(B)の含有割合が5重量%未満では)、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性が低下する傾向がある。
【0026】
本発明の組成物を構成する成分(A)のエチレン系重合体は、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0〜100g/10分、密度が0.865〜0.929g/cm
3のエチレン系重合体である。
【0027】
成分(A)のエチレン系重合体は、エチレンの単独重合、又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等との共重合により得ることができる。また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、重合の際のコモノマー含有率は、本発明に規定の密度範囲を外れない範囲で任意に選択することができる。
重合触媒としては、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒が挙げられる。
【0028】
成分(A)のエチレン系重合体のMFRは、1.0〜100g/10分、好ましくは5〜90g/10分、さらに好ましくは10〜70g/10分の範囲である。MFRが1.0g/10分未満では、ポリエチレン組成物の成形加工性が不良となり、100g/10分を超えるとポリエチレン組成物の耐衝撃性、引張強度等の機械強度が低下する。ここで、MFRは、JIS K6922−2:2010に準拠して測定する値である。
成分(A)のエチレン系重合体のMFRは、エチレン重合温度や連鎖移動剤の使用等により調整することができ、所望のものを得ることができる。即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより、分子量を下げた結果として、MFRを大きくすることができ、重合温度を下げることにより、分子量を上げた結果として、MFRを小さくすることができる。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより、分子量を下げた結果として、MFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより、分子量を上げた結果として、MFRを小さくすることができる。
【0029】
成分(A)のエチレン系重合体の密度は、0.865〜0.929g/cm
3、好ましくは0.900〜0.929g/cm
3 、さらに好ましくは0.905〜0.925g/cm
3 の範囲である。密度が0.865を下回る場合、ポリエチレン組成物の剛性や、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性等が低下する。一方、密度が0.929g/cm
3を超える場合、ポリエチレン組成物の開栓時のスコア切れ性やヒンジ付蓋の繰り返し開閉におけるヒンジ部耐久性等が悪化する傾向がある。ここで、密度は、JIS K6922−2:2010に準拠して測定する値である。
成分(A)のエチレン系重合体の密度は、エチレンと共重合させるコモノマーの種類や量を変化させることにより、所望のものを得ることができる。
【0030】
成分(A)のエチレン系重合体は、ビカット軟化点が88℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。成分(A)のエチレン系重合体は、本発明の容器蓋用ポリエチレン組成物における低密度低融点の成分であり、容器蓋用ポリエチレン組成物としての耐熱性に大きく影響する。ビカット軟化点が88℃を下回る場合、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性が低下する傾向がある。成分(A)のビカット軟化点の上限は特に規定されるものではないが、通常120℃未満である。
成分(A)のエチレン系重合体のビカット軟化点は、成分(A)のMFRや密度、コモノマーの種類、重合触媒等を変化させることにより、所望のものを得ることができる。
【0031】
本発明の組成物を構成する成分(B)のエチレン系重合体は、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0〜100g/10分、密度が0.929超〜0.970g/cm
3エチレン系重合体である。
【0032】
成分(B)のエチレン系重合体は、エチレンの単独重合、又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等との共重合により得ることができる。また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、重合の際のコモノマー含有率は、本発明に規定の密度範囲を外れない範囲で任意に選択することができる。
重合触媒としては、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒が挙げられ、メタロセン触媒としては、例えば特許第3686725号公報に好ましい触媒として例示された触媒が挙げられる。
【0033】
成分(B)のエチレン系重合体のMFRは、1.0〜100g/10分、好ましくは3〜50g/10分の範囲である。MFRが1.0g/10分未満では、ポリエチレン組成物の成形加工性が不良となり、100g/10分を超えるとポリエチレン組成物の耐衝撃性、引張強度等の機械強度が低下する。ここで、MFRは、JIS K6922−2:2010に準拠して測定する値である。
成分(B)のエチレン系重合体のMFRは、エチレン重合温度や連鎖移動剤の使用等により調整することができ、所望のものを得ることができる。即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより、分子量を下げた結果として、MFRを大きくすることができ、重合温度を下げることにより、分子量を上げた結果として、MFRを小さくすることができる。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより、分子量を下げた結果として、MFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより、分子量を上げた結果として、MFRを小さくすることができる。
【0034】
成分(B)のエチレン系重合体の密度は、0.929超〜0.970g/cm
3、好ましくは0.935超〜0.965g/cm
3 、さらに好ましくは0.937〜0.963g/cm
3 の範囲である。密度が0.929g/cm
3以下である場合、ポリエチレン組成物の剛性や、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性等が低下する。成分(B)の上限は通常は0.970g/cm
3以下が一般的である。ここで、密度は、JIS K6922−2:2010に準拠して測定する値である。
成分(B)のエチレン系重合体の密度は、エチレンと共重合させるコモノマーの種類や量を変化させることにより、所望のものを得ることができる。
【0035】
成分(B)のエチレン系重合体は、連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線において、単一のピークを持ち、かつピークの低温側にピーク高さの40%以上の高さのショルダーを持つことが好ましく、かつピークが85〜100℃の範囲にあることがより好ましい。また、ピークの低温側に存在するショルダーの頂点の温度がピークの温度−10℃以内の範囲にあることもより好ましい。
ここでいうショルダーとは、溶出温度−溶出量曲線において、上に凸の変曲点を示す部分を言う。
これらのピークとショルダーが共に存在することにより、融点が高くなりまた結晶化度が上昇し成形体の耐熱性および剛性が向上する。
図1に本発明の成分(B)の溶出温度−溶出量曲線の一例を示す。
【0036】
TREFの測定方法は下記のとおりである。即ち、試料に耐熱安定剤を加え、ODCBに試料濃度0.05重量%となるように135℃で加熱溶解する。この加熱溶液5mlを、ガラスビーズを充填したカラムに注入した後、0.1℃/minの冷却速度で25℃まで冷却し、試料をガラスビーズ表面に沈着する。次に、このカラムにODCBを一定流量で流しながら、カラム温度を50℃/hrの一定速度で昇温し、各温度において溶液に溶解可能な試料を順次溶出させる。この際、溶剤中の試料濃度はメチレンの非対称伸縮振動の波数2925cm−1に対する吸収を赤外検出器で連続的に検出される。この濃度から、溶出温度−溶出量曲線を得ることができる。
【0037】
TREF分析は極少量の試料で、温度変化に対する溶出速度の変化を連続的に分析出来るため、分別法では検出出来ない比較的細かいピークの検出が可能である。
【0038】
本発明の容器蓋用ポリエチレン組成物は、以下の(a)〜(d)の性状を有することを特徴とする。
(a)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が10〜100g/10分
(b)密度が0.925〜0.950g/cm
3
(c)JIS K7139:2009 タイプ1A試験片を90℃で引張呼びひずみ5%まで50mm/分で引張後、ひずみ5%のまま3分保持した後の応力(90℃緩和後応力)が0.7MPa以上
(d)JIS K6922−2:2010により測定される引張衝撃強さが100〜170kJ/m
2
【0039】
本発明のポリエチレン組成物は、(a)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が10〜100g/10分、好ましくは12〜80g/10分、さらに好ましくは12〜50g/10分である。
MFRが10g/10分未満の場合、成形時に十分な流動性を得ることが困難であり、一方、MFRが100g/10分を超える場合、耐衝撃性が低下する傾向がある。ここで、MFRは、JIS K6922−2:2010に準拠して測定する値である。
MFRは、成分(A)、(B)の個々のMFRを変化させたり、或いは成分(A)、(B)2成分の配合割合を変化させることにより、調整することができる。
【0040】
本発明のポリエチレン組成物は、(b)密度が0.925〜0.950g/cm
3、好ましくは0.926〜0.948g/cm
3、さらに好ましくは0.927〜0.946g/cm
3、より好適には0.927〜0.932g/cm
3である。
密度が0.925g/cm
3未満の場合、剛性や、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性等が低下し、一方、密度が0.950g/cm
3を超える場合、開栓時のスコア切れ性やヒンジ付蓋の繰り返し開閉におけるヒンジ部耐久性等が悪化する傾向がある。ここで、密度は、JIS K6922−2:2010に準拠して測定する値である。
密度は、成分(A)、(B)の個々の密度を変化させたり、(A)、(B)2成分の配合割合を変化させることで、調整することができる。
【0041】
本発明のポリエチレン組成物は、(c)JIS K7139:2009 タイプ1A試験片を90℃で引張呼びひずみ5%まで50mm/分で引張後、ひずみ5%のまま3分保持した後の応力(90℃緩和後応力)が0.7MPa以上、好ましくは0.75MPa以上5MPa未満、より好ましくは0.8MPa以上3MPa未満、さらに好ましくは0.85MPa以上2MPa未満である。
90℃緩和後応力が0.7MPaを下回る場合、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性等が低下する傾向がある。90℃緩和後応力が5MPa以上の場合、キャップの開封性が低下する傾向がある。
90℃緩和後応力は、成分(B)の密度を高くする、成分(B)の配合割合を増やす等の方法で、高くすることができる。
【0042】
本発明のポリエチレン組成物は、(d)JIS K6922−2:2010により測定される引張衝撃強さが100〜170kJ/m
2である。
引張衝撃強さが100kJ/m
2未満の場合、容器蓋の耐衝撃性やヒンジ付蓋の繰り返し開閉におけるヒンジ部耐久性等が悪化する傾向がある。引張衝撃強さが170kJ/m
2を超える場合、開栓時のスコア切れ性が悪化する傾向がある。
引張衝撃強さは、成分(A)、(B)の個々のMFRや密度を変化させたり、(A)、(B)2成分の配合割合を変化させることで、調整することができる。
【0043】
本発明のポリエチレン組成物は、ビカット軟化点が90℃以上、かつ組成物の密度(D、単位:g/cm
3)と組成物のビカット軟化点(T、単位:℃)の関係が下記の式(1)を満たすことが好ましく、下記の式(2)を満たすことがより好ましく、下記の式(3)を満たすことがさらに好ましい。
T≧1000×D−836 式(1)
T≧1000×D−833 式(2)
T≧1000×D−832 式(3)
また、本発明のポリエチレン組成物は、ビカット軟化点が93℃以上、かつ組成物の密度(D、単位:g/cm
3)と組成物のビカット軟化点(T、単位:℃)の関係が下記の式(4)を満たすことが好ましい。
T≧2000×D−1759 式(4)
【0044】
組成物の密度とビカット軟化点が上記条件を満たすことにより、ヒンジ部耐久性やスコア部切れ性、キャップ剛性などの食用油や調味料等の容器の蓋として必要な性能を維持したまま耐熱性を向上させることができ、キャップ性能と高温充填適性を高度にバランスさせることが容易となる。
ポリエチレン組成物のビカット軟化点の上限は特に規定されるものではないが、通常130℃未満であり、好ましくは下記の式(5)を満たすことが好ましく、下記の式(6)を満たすことがより好ましい。
T≦1000×D−805 式(5)
T≦1000×D−820 式(6)
ポリエチレン組成物の密度とビカット軟化点は、成分(A)、(B)の個々のMFRや密度、コモノマーの種類、重合触媒等を変化させたり、(A)、(B)2成分の配合割合を変化させることで、調整することができる。
【0045】
本発明のポリエチレン組成物は、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形品とすることができる。
また、上記の方法により得られる容器蓋用ポリエチレン組成物には、性能を損なわない範囲で、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0046】
添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上、適宜併用することができる。また、充填材(剤)としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能であり、なかでも炭酸カルシウム、タルク及びマイカ等を用いるのが好ましい。いずれの場合でも、本発明のポリエチレン組成物に、必要に応じ、各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。ただし、食品容器向けに使用する場合は、添加剤の使用は、極力少なくする方が容器自体の味・臭い、及び内容物の味・臭いに対し影響が少なくなるため、好ましい。
【0047】
本発明のポリエチレン組成物は、主に射出成形法や圧縮成形法などにより成形され、好適には射出成形法により、容器蓋などの各種成形品が得られる。
本発明のポリエチレン組成物は、各種特性を満足するものであるので、高温充填時の形状保持、嵌合力の維持性、耐衝撃性に優れる。従って、このような特性を必要とする容器などの用途に好適である。
特に、本発明のポリエチレン組成物は、内容物が比較的高温で充填される容器の蓋として好適である。
【実施例】
【0048】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれらの実施例によって制約を受けるものではない。なお、ポリエチレン組成物の物性は、以下の方法で測定した。
(1)MFR:JIS−K6922−2:2010に準拠して測定した。
(2)密度:JIS−K6922−1:1997、JIS−K6922−2:2010に準拠して測定した。
(3)引張衝撃強さ:JIS−K6922−1:1997、JIS−K6922−2:2010に準拠して測定した。
(4)90℃緩和後応力:JIS−K6922に準拠してJIS K7139:2009 タイプ1A試験片を作成後、得られた試験片を東洋精機製作所社製のストログラフT−Dを用いて90℃雰囲気下で50mm/分の速度で引張り、引張呼びひずみ5%で引張を停止してひずみを保持した。引張停止時点を0秒として、3分保持を続け、その間荷重を記録した。3分後の荷重とあらかじめ室温で測定した試験片中央部の厚みと幅から、応力値を計算し、90℃緩和後応力とした。
(5)曲げ弾性率:射出成形にてJIS−K7152−1:1999のタイプA金型にて210℃で成形し10×80×4mmの試験片を作製し、JIS−K6922−2:2010に準拠して測定した。
(6)引張降伏応力:JIS−K6922−2:2010に準拠して測定した。
(7)引張破壊呼びひずみ:JIS−K6922−2:2010に準拠して測定した。
(8)ビカット軟化点:射出成形にてJIS−K7152−1:1999のタイプA金型にて210℃で成形し10×80×4mmの試験片を作製し、JIS−K7206:1999に準拠して測定した。
(9)キャップ引裂き強度:ファナック社製ROBOSHOT S−2000i 100B射出成形機を用い、設定温度170℃、金型温度20℃、射出速度50mm/秒、冷却時間20秒、保圧切替え位置3.2mmの条件で、繰返しの折曲げに耐え得る構造(ヒンジ)及び薄肉部を引裂いて開口部を形成し易い構造(スコア)、スコアを引張により引裂くためのプルリングを具備する、直径約36mm、高さ約19mmの容器蓋を成形した。成形したヒンジ付容器蓋を、TOYOBALDWIN CO.,LTD製TENSILON/UTM−III−100にて、クロスヘッドスピード200mm/分でプルリングを引張り、得られた変位荷重曲線の1つめのピーク(最大ピーク)の荷重を一次強度、2つめのピーク(スコア部が完全に破断する際のピーク)の荷重を二次強度とした。
(10)繰り返しヒンジ強度:ファナック社製ROBOSHOT S−2000i 100B射出成形機を用い、設定温度170℃、金型温度20℃、射出速度50mm/秒、冷却時間20秒、保圧切替え位置3.2mmの条件で、繰返しの折曲げに耐え得る構造(ヒンジ)及び薄肉部を引裂いて開口部を形成し易い構造(スコア)、スコアを引張により引裂くためのプルリングを具備する、直径約36mm、高さ約19mmの容器蓋を成形した。成形した容器蓋を、テスター産業社製ヒンジテスターにてヒンジ部の繰り返し耐折試験を行い、ヒンジ部が破断するまでの回数を繰り返しヒンジ強度とした。
(11)高温充填適性判定:JIS K7139:2009 タイプ1A試験片を90℃で引張呼びひずみ5%まで50mm/分で引張後、ひずみ5%のまま3分保持した後の応力の測定値が0.7MPa以上であるものを○、0.7MPa未満であるものを×とした。
(12)易引裂き性判定:キャップ引裂き強度の一次強度の測定値が50N未満であるものを○、50N以上であるものを×とした。
(13)ヒンジ耐久性判定:繰り返しヒンジ強度の測定値が25回以上であるものを○、25回未満であるものを×とした。
(14)総合評価判定:高温充填適性判定、易引裂き性判定、ヒンジ耐久性判定のすべての評価結果が○であるものを○、いずれかの評価結果に×があるものを×とした。
【0049】
成分(A)として、以下のポリエチレンを使用した。
A−1:チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが30g/10分、密度が0.923g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体
A−2:高圧法により重合された、MFRが60g/10分、密度が0.923g/cm
3のエチレン系重合体
A−3:メタロセン触媒を用いて重合された、MFRが12g/10分、密度が0.910g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体
【0050】
成分(B)として、以下のポリエチレンを使用した。
B−1:メタロセン触媒を用いて重合された、MFRが4.5g/10分、密度が0.937g/cm
3のエチレン・1−ヘキセン共重合体
B−2:チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが35g/10分、密度が0.937g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体
B−3:チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが11g/10分、密度が0.960g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体
B−4:チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが20g/10分、密度が0.955g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体
B−5:チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが40g/10分、密度が0.960g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体
【0051】
(実施例1〜9)
表1に示す成分(A)、成分(B)を、ユニオン・プラスチック社製V.USV50−28型押出機を使用してブレンドし、ペレタイザーで造粒した後、その物性を評価した。得られたポリエチレン組成物は、表1に示されるように、キャップ引裂き強度、繰り返しヒンジ強度に優れ、かつ高温充填適性に優れる材料であった。
【0052】
(比較例1)
比較例1として、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが20g/10分、密度が0.925g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体を用いた。
表1に示されるようにキャップ引裂き強度、繰り返しヒンジ強度は十分であるが、90℃緩和後応力が低く、高温充填適性に劣る材料であった。
【0053】
(比較例2)
比較例2として、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが50g/10分、密度が0.928g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体を用いた。
表1に示されるようにキャップ引裂き強度は十分であるが、繰り返しヒンジ強度が低く、ヒンジ適性に劣る材料であった。
【0054】
(比較例3)
比較例3として、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが48g/10分、密度が0.925g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体を用いた。
表1に示されるように、繰り返しヒンジ強度が低く、さらに90℃緩和後応力も低く、ヒンジ適性と高温充填適性に劣る材料であった。
【0055】
(比較例4)
比較例4として、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された、MFRが50g/10分、密度が0.930g/cm
3のエチレン・1−ブテン共重合体を用いた。
表1に示されるように、繰り返しヒンジ強度が低く、ヒンジ適性に劣る材料であった。
【0056】
【表1】