(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
希釈剤とポリオレフィンポリマーとを押出機にて混練し、前記希釈剤が混練されたポリマーを口金からシート状に吐出し、前記口金から吐出されたシートをドラム上で冷却固化した後、前記固化したシートを再び加熱して、複数のローラーによりシートの搬送方向に延伸し、前記シートの搬送方向に延伸した前記シートを冷却した後に前記シート両端をクリップにて把持してテンターに導入し、その後希釈剤を洗浄する1軸または2軸延伸微多孔プラスチックフィルムの製造方法において、
前記複数のローラーのうちの搬送方向最下流のローラー(B)と、前記ローラー(B)の一つ搬送方向上流側でモーターにより駆動されるローラー(A)との間で、前記シートの搬送方向の延伸のうちの最も大きな倍率で延伸を行い、前記ローラー(B)の周速度に対する、前記テンターの搬送方向最上流側の前記クリップの走行速度の比を−3%以上0%未満の範囲内とする、微多孔プラスチックフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の微多孔プラスチックフィルムの好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態である微多孔プラスチックフィルムの製造工程の概略側面図である。
【0015】
微多孔プラスチックフィルム11の製造方法の好ましい例では、まず、ポリオレフィン樹脂を、希釈剤と混合し加熱溶融させたポリオレフィン溶液を調製する。希釈剤は微多孔プラスチックフィルムの微多孔形成のための構造を決めるものであり、またフィルムを延伸する際の延伸性(例えば強度発現のための延伸倍率での斑の低減などを指す)改善に寄与する。
【0016】
希釈剤としては、ポリオレフィン樹脂に混合または溶解できる物質であれば特に限定されない。溶融混練状態では、ポリオレフィンと混和するが室温では固体の溶剤を希釈剤に混合してもよい。このような固体希釈剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。延伸での斑などを防止するのに、また、後に塗布することを考慮して、希釈剤は室温で液体であるものが好ましい。液体希釈剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族;環式脂肪族又は芳香族の炭化水素;および沸点がこれらの化合物の沸点の間にある鉱油留分;並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体希釈剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、より好ましくは流動パラフィンのような不揮発性の希釈剤である。例えば、液体希釈剤の粘度は40℃において20〜200cStであることが好ましい。
【0017】
ポリオレフィン樹脂と希釈剤との配合割合は、ポリオレフィン樹脂と希釈剤との合計を100質量%として、押出物の成形性を良好にする観点から、ポリオレフィン樹脂10〜50質量%が好ましい。ポリオレフィン樹脂溶液を均一に溶融混練する工程では特に限定されないが、カレンダー、各種ミキサーの他、
図1のようにスクリューを伴う押出機21などを使用することができる。
【0018】
押出機内のポリオレフィン樹脂溶液の温度の好ましい範囲は樹脂によって異なり、例えば、ポリエチレン組成物は140〜250℃、ポリプロピレンを含む場合は190〜270℃である。温度については押出機内部もしくはシリンダ部に温度計を設置することで間接的に把握し、目標温度となるようシリンダ部のヒーター温度や回転数、吐出量を適宜調整する。
【0019】
押出機21で溶融混練したポリオレフィン樹脂溶液を、必要に応じギアポンプ22で計量しながら、口金23のスリット部からシート状に吐出する。吐出されたゲル状シート12は冷却ドラム31に接触し固化する。このとき、ゲル状シート12はポリオレフィン部分が結晶構造を形成し、この構造が後の微多孔プラスチックフィルム11の孔を支える柱の部分となる。ゲル状シート12は押出機21内で混練された希釈剤を内包しておりゲル状態となる。一部希釈剤はゲル状シート12の冷却により、シート表面からブリードアウトすることで表面が希釈剤により湿潤な状態で冷却ドラム31上を搬送される。
ゲル状シート12の厚みは、吐出量に応じた口金スリット部からの流速に対し、冷却ドラムの速度を調整することで調整するのが好ましい。
【0020】
ここで、冷却ドラム31の温度は、ゲル状シート12の結晶構造に影響を与え、好ましくは15〜40℃である。これはゲル状シート12の最終冷却温度を結晶化終了温度以下とするのが好ましいためで、高次構造が細かいために、その後の延伸において分子配向が進みやすい。適宜冷却ドラム31の径を大きくしたり、冷却ドラム31の他にもう一つの冷却ドラム32を追加したり、更に複数本の冷却ドラムを追加することなどで冷却時間を補うこともできる。このとき、ゲル状シート12内の結晶構造を緻密化し均一化するのに、冷却速度も考慮しながら搬送速度とドラム温度、ドラムサイズ、ドラム本数を決めるのが好ましい。また、例えば目標シート温度が30℃の場合でも、速度が速い場合には熱伝導時間が足りないため
冷却ドラム31の温度を20℃など低く設定してもよい。但し、25℃を下回る場合は結露しやすいため、湿度を下げるよう空調を行うことが好ましい。冷却ドラム31の形状はローラー状でもよいし、ベルト状でもよい。また、冷却ドラム31の表面の材質はローラー速度が一定となるよう形状安定性が優れ加工精度が出しやすいものが好ましい。このような材質としては、例えば金属やセラミック、繊維複合材料などが挙げられるが、特に表面についてはフィルムへの熱伝導に優れる金属がより好ましい。また、熱伝導を阻害しない程度に非粘着コーティングやゴム被覆を行ってもよい。シートおよびローラーの表面は希釈剤のブリードアウトで湿潤状態であるから、これにより膨潤しない上、耐スクラッチ性や上記熱伝導に優れる金属または金属メッキが好ましい。
【0021】
冷却ドラム31、32のローラー内部構造は表面の温度を制御するために内部に冷媒を通流するよう流路を設ける他、従来から用いられているヒートポンプや各種冷却装置を内蔵するよう構成するのが好ましい。また、ローラーはモーターなどの回転駆動手段により設定した速度で回転駆動され、シートの膨張や収縮に応じドロー張力やリラックスがかけられるよう各ローラー間に変速機構を適宜設ける。またはモーターを各ローラーに個別に配置し、インバーターやサーボにより精度よく速度を調整して変速機構と同様の機能を付与しても良い。
【0022】
図1においては、ゲル状シート12は、上面側が口金23から吐出されて最初に接触する冷却ドラムである第1冷却ドラム31と接し、上記温度で冷媒により急冷される。一方、上記1本目の冷却ドラム31と接触した面と反対の面は、
図1では空気により徐冷されることとなる。好ましくは、前記第1冷却ドラム31と接触した面と反対の面を、図には無いものの、空気ノズルや空気チャンバによる強制対流で冷却することで、反対面についても冷却速度を上昇させることができる。これは搬送速度が速い場合や、ゲル状シートの厚みが大きい場合に、冷却ドラム31への熱伝導が十分でない場合に特に好適である。また、冷却ドラム31とは反対側に冷媒を内部に通水する通冷媒ニップローラーを配置することでも反対面の冷却能力の向上を図ることができる。
【0023】
また、湿潤したゲル状シート12が潤滑により冷却効率が落ちたり、蛇行したりしないよう、適宜ニップローラーや噴流ノズル、吸引チャンバ、静電印加などの密着手段を使って冷却ドラム31に押し付けてもよい。これら密着手段は走行性改善の他、ゲル状シート12の冷却効率を上昇させ、上記冷却速度や最終冷却温度設定を容易にするので好ましい。
【0024】
適宜、冷却ドラム31以外にも、第2冷却ドラム32やその他の搬送ローラーとの間でニップローラーを使ってゲル状シート12を押圧することで、鏡面で低下した摩擦力を増大させることも好ましい。この場合、ニップローラー表面は、ゲル状シート12の厚み斑やローラーのたわみ、表面のわずかな凹凸に対しても均一にゲル状シート12を押圧できるように、柔軟なゴム状弾性体であることが好ましい。柔軟なゴム状弾性体としては、特に限定されないが、一般的な加硫ゴム、例えばニトリルブチルゴム(NBR)やクロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ハイパロンゴム(CSM)などが好適である。また、ゲル状シート12や搬送ローラー温度が高い場合、具体的には80℃以上あるような場合には前記EPDMやCSMが特に好ましい。より高い温度では前記加硫ゴム以外に、シリコーンゴムやフッ素ゴムが好適である。この場合、希釈剤による膨潤が少ないゴムを選定すると、時間と共にローラー形状がいびつになることを防止できる。
【0025】
続いて、ゲル状シート12を縦延伸工程4に導入し、複数のローラー群でシートの搬送方向に延伸した後、適宜連続して一軸延伸シート13の両端部を従来から使われているクリップで把持し、オーブ
ンの中で加熱・保温しながら、シートを進行方向に搬送しながらシートの幅方向(搬送方向と直角な方向)に延伸を行う。
【0026】
例えば2本の延伸ローラーで延伸する場合には、このローラー間で速度差を設けて縦方向にゲル状シート12を延伸すれば良いが、
図1の例では縦延伸工程42には3本の延伸ローラーが配置されており、延伸ローラー421と延伸ローラー422との間、もしくは延伸ローラー422と延伸ローラー423との間、またはその双方で延伸を行ってもよい。いずれかで延伸を行う場合は1段延伸となるが、双方で延伸を行う場合は2段延伸を行うこととなる。このように延伸処理を行うことによって、強度や微多孔フィルムとしての透気性などの性質と、高い生産性を実現できる。この場合、シート搬送方向延伸(以下縦延伸)工程は上記冷却ドラムと同様、金属などの表面と従来からある内部にヒーターなどの温度制御機構を有するローラーから構成され、駆動についても同様である。また、ローラーパスの自由度を確保するために、
図1には図示しないが駆動しないアイドラーローラーを適宜配置してもよい。ただし、この場合湿潤したフィルムとローラー間の摩擦係数が小さいため、アイドラーローラーはベアリングを設けたり慣性ロスを小さくしたりして回転力が小さくてすむようにすることが好ましく、必要以上に設けないことも好ましい。
【0027】
あるいは、これら昇温ローラー群41や延伸ローラー群42の内部構造もまた、冷却ドラム31と同様ローラー内部に蒸気や加圧温水などの熱媒の流路を設け加熱することも好ましい。このとき、ローラーは軸受で回転できるように支持される他、内部に熱媒を供給するために、ローラーの回転を邪魔しない熱媒供給のための回転自在継ぎ手(一般にロータリージョイントと呼ぶ)を軸端に接続し、熱媒供給配管と接続されていてもよい。
【0028】
延伸倍率は、ゲル状シートの厚さによって異なるが、シート搬送方向の延伸は5〜12倍で行うことが好ましい。強度向上や生産性向上を図るために、シート搬送方向延伸と共にシート幅方向延伸を行う場合は、面積倍率で30倍以上が好ましく、より好ましくは40倍以上、さらに好ましくは60倍以上である。
【0029】
延伸温度はポリオレフィン樹脂の融点以下にするのが好ましく、より好ましくは、(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度Tcd)〜(ポリオレフィン樹脂の融点)の範囲である。例えば、ポリエチレン樹脂の場合は80〜130℃であり、より好ましくは100〜125℃である。延伸後はこれら温度以下まで冷却を行う。
【0030】
以上のような延伸により、ゲル状シートに形成された高次構造に開裂が起こり、結晶相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。延伸により機械的強度が向上するとともに、細孔が拡大するので、例えば電池用セパレーターに好適である。
【0031】
このようにして得られた一軸延伸シート13または二軸延伸シート14を従来技術、例えば国際公開第2008−016174パンフレットに記載されている方法などで希釈剤を洗浄・除去し、乾燥することで微多孔プラスチックフィルム11が得られる。微多孔プラスチックフィルム11を得るに際し、洗浄工程6の後に乾式延伸工程7を設けて再加熱し、再延伸してもよい。再延伸工程7はローラー式またはテンター式のいずれでもよい。また、同工程で熱処理を行うことで物性の調整や残留歪の除去を行うことができる。さらに、用途に応じて、微多孔プラスチックフィルム11表面にコロナ放電などの表面処理や耐熱粒子などの機能性コーティングを施してもよい。
【0032】
図1において、ゲル状シート12からは、冷却ドラム31、32にて冷却されることで内包する希釈剤がブリードアウトする。また、ここでの搬送張力による圧力でも希釈剤はブリードアウトする。同様の理由から、口金23より吐出した後、洗浄工程6にて希釈剤の除去・洗浄を行うまでゲル状シート12、延伸フィルム13、14の表面は希釈剤により湿潤状態にある。特にゲル状シート12は、縦延伸工程4の昇温ローラー群41などにより上記延伸温度まで昇温されるが、昇温により希釈剤のブリードアウトが加速する。特に、冷却ドラム31から縦延伸工程4の上流、すなわち昇温ローラー群41にかけてはブリードアウトが多くなる。
図1ではブリードアウトした希釈剤がローラー表面をつたって滴り落ちるため、これを回収して廃棄もしくは再利用するためにパン(図示しない)を設置すると良い。
【0033】
ここで、昇温ローラー群41も延伸ローラー群42もゲル状シート12を昇温、加熱保持する機能と、ローラー回転速度を可変にできる点では共通しているが、延伸ローラー群42はゲル状シート12を実質的に延伸するためのローラーであるから、ゲル状シート12を進行方向に永久変形をさせるための周速差
をつけるためのローラーである。更に詳しくは、上流のローラーに対して、3%以上の周速差をつけるローラーを実質的に延伸するローラー、すなわち延伸ローラー群42と定義する。
【0034】
ゲル状シート12を進行方向に蛇行なく搬送させるためには、ローラーと前記ゲル状シート12の間には把持力(摩擦力)が必要であるし、特に延伸ローラー群42では延伸により高い張力が発生するため、必要な延伸倍率を得ようとすると、延伸張力と釣り合うだけの高い把持力が必要となる。上記のようにブリードアウトした希釈剤は、ローラーとゲル状シート12の間に介在し潤滑状態となり、搬送や延伸に必要な把持力を低下させる要因となる。
【0035】
ここで、縦延伸工程
4において、第1延伸ローラー421と第2延伸ローラー422との間で、または第2延伸ローラー422と第3延伸ローラー423との間で、あるいはその双方で延伸を行う場合に、下流側の延伸張力は、主に横延伸工程5で一軸延伸シート13の端部を把持する前記クリップが負担し釣り合わせる。例えば第1延伸ローラー421と第2延伸ローラー422の間でのみ延伸を行う場合には、第2延伸ローラー422が延伸を行うための搬送方向最下流のローラーとなるため延伸ローラー(B)と考え、その一つ搬送方向側上流の第1延伸ローラー421が延伸ローラー(A)となる。このとき、延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との間でのみ縦延伸を行っているため、シートの搬送方向で最も大きな倍率で延伸を行っていることとなる。このとき、延伸ローラー(B)、すなわち第2延伸ローラー422の周速度に対する、横延伸工程5の搬送方向最上流のクリップの走行速度の比((クリップの走行速度−延伸ローラー(B)の周速度)/延伸ローラー(B)の周速度)を−3%〜+3%の範囲とすることで、下流側の延伸張力が横延伸工程のクリップと釣りあい、ゲル状シート12の縦延伸工程での滑りを防止することができる。延伸ローラー423の周速度に対する搬送方向最上流のテンタークリップ速度の比は小さいほど好ましい。
【0036】
さらに好ましくは、
図1の通りに縦延伸工程4における第1延伸ローラー421と第2延伸ローラー422との間と、第2延伸ローラー422と第3延伸ローラー423との間双方で2段延伸を行う。これにより、延伸張力を分散し滑りを防止しやすくなる。このときに延伸ローラーの最下流のローラー、すなわち第3延伸ローラー423を延伸ローラー(B)と考え、その搬送方向一つ上流の第2延伸ローラー422を延伸ローラー(A)として、延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との間で最も大きな倍率で延伸を行う必要がある。こうすることで、第2延伸ローラー422と第3延伸ローラー423との間で工程中の主な延伸張力が発生し、延伸張力の下流側をテンタークリップと釣りあわせることができる。一方、第1延伸ローラー421と第2延伸ローラー422との間でも延伸を行うことで、前記した上流側の主な延伸張力の釣りあいとして、1段目の延伸張力により発生する第1延伸ローラー421や第2延伸ローラー422とゲル状シート12との摩擦力が大きくなり、滑りを防止しやすくなる。さらに好ましくは
図1のように第2延伸ローラー422より上流のローラーにニップローラー44を配置することで、上流側の延伸張力を釣りあわせることができ、滑りを防止することができる。
【0037】
冷却ローラー群43は延伸張力を一部負担しても良いが、滑りを防止するのに必要な把持力が足りないため、好ましくは横延伸工程5および第2延伸ローラー422および一軸延伸シート13と同速とするのが良い。
図1において、第1延伸ローラー421と第2延伸ローラー422でのみ延伸を行う場合は、第3延伸ローラー423から冷却ローラー群43は全て第2延伸ローラー422及び搬送方向最上流のテンタークリップと同速とするのが良い。冷却ローラー群43は、延伸したシートを横延伸工程5に送る前に一度冷却して、テンターオーブ
ンに搬送することで、一軸延伸シート13の工程通紙作業が容易になることと、横延伸する場合には縦延伸で形成した結晶構造を固化した効果でより高配向で高強度な微多孔プラスチックフィルムを得ることができる。このとき、第2延伸ローラー422より以降を冷却ローラー群とすることで延伸完了と同時に冷却することで、不要な寸法変形や張力の変化などを防止できる。
【0038】
更に好ましくは、
図1の通りに縦延伸工程4における第1延伸ローラー421と第2延伸ローラー422との間と、第2延伸ローラー422と第3延伸ローラー423との間双方で2段延伸を行うので、延伸ローラー423、すなわち延伸ローラー(B)から冷却ローラー群43を全て搬送方向最上流のテンタークリップと同速とし、好ましくはこれらを冷却すればよい。更に好ましくは、延伸部は3段、4段とすることで、主な延伸張力を分散させて低減し、上流側の把持力を向上することができる。但しこの場合も、搬送方向最下流の延伸ローラー(B)と、その一つ上流側の延伸ローラー(A)との間で最も大きな倍率で延伸を行わなくてはならない。
【0039】
こうすることで、延伸ローラー(B)以降の横延伸工程5
を走行する一軸延伸シート13は、延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との間で発生する延伸張力とほぼ同じ張力となる。
図1においては、第3延伸ローラー423が延伸ローラー(B)であるから、第2延伸ローラー422と第3延伸ローラー423との間で発生した延伸張力は、速度を同速とした第3延伸ローラー423からテンタークリップまでで維持され、滑りのないテンタークリップが負担する。
【0040】
ここで、延伸ローラー(B)の周速度に対する搬送方向最上流のクリップの走行速度の比を−3〜+3%の範囲とするのは、この程度の範囲であれば延伸張力が大きくは違わないことと、特にゲル状シート12を冷却した場合にシートが搬送方向に収縮するのに併せて、好ましくは0〜−3%の間で速度比をマイナスとすることでシートとローラーの速度が一致し、延伸張力と縦延伸工程より下流側の張力が同じとなり釣りあいがとりやすくなる。延伸ローラー423の周速度に対する搬送方向最上流のテンタークリップ速度の比は、小さいほど好ましい。
好ましくは、延伸ローラー群42〜横延伸工程5に張力計を設置して実測することで、より高い精度で速度比を調整し、張力の釣りあいをとることができる。
【0041】
縦延伸倍率は、好ましくは総延伸倍率が4〜12倍とする。前述の通り、多段延伸を行う場合、最も倍率の大きい延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との速度比が2〜6倍とし、延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との倍率を総延伸倍率で除した値が0.3以上とする。総延伸倍率4倍以上であれば、十分にゲル状シート12の厚み斑を分散させることができ、かつ延伸により得られるシートの強度や弾性率などの機械的性質として十分な物性が得られる。また12倍以下であれば、延伸工程での破れが発生し難くなる他、延伸張力が大きくなりすぎず、滑りが発生し難くなる。
【0042】
例えば、総延伸倍率を10倍とする場合、延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)の間の倍率は10×0.3以上なので3倍以上となる。ここで2段延伸の場合には、延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との間で最も大きな倍率をとるため、例えば1段延伸目を2.85倍、2段延伸目(すなわち延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との間)を3.5倍とすれば良い。1段目と2段目の比率は上記条件を満たしていれば調整してもよく、例えば1段目を2.5倍としたい場合、2段目を4倍とすれば良いこととなる。いずれも延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との間の倍率は2〜6倍の範囲とする。この倍率を6倍以上とすると、一つの延伸区間でスリップを防止することが難しくなり、下流側はクリップにより把持できるが上流側で滑りが生じる。逆に延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)との間で総延伸倍率の下限値4倍の0.3以上は1.2倍以上であるが、同区間で最も大きい延伸倍率を得ようとすると2倍以上が必須となる。
【0043】
同じく縦延伸倍率を10倍とする場合、
図1には図示しないが2段よりも更に多段にすることも好ましい。例えば延伸区間を3段で延伸を行う場合を考える。3段目の延伸倍率は延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)の区間であり、倍率として好ましくは2〜6倍であり、10×0.3以上なので3倍以上とする。例えば、3段目を3倍とした場合、上流1段目と2段目の倍率の積は、倍率は10/3=3.33であり、それぞれ3.33^0.5=1.83となる。すなわち1.83×1.83×3=10倍となる。他に好ましくは、下流ほど倍率が大きくなるようにしても良く、1.67×2×3=10としても良い。
【0044】
上流側張力を釣り合わせるために、昇温ローラー群から延伸ローラー(A)にかけてニップローラー44を使用することが好ましく、ニップ圧力は、本来駆動ローラーごとに調整・変更してもよいが、従来のように一組のローラーで押しすぎて蛇行などしないために、ニップ圧力は単位幅あたり300〜2000[N/m]程度が好ましい。
図1のように冷却ローラー群43にニップローラーを用いても良い。
【0045】
ニップローラー表面には、ゲル状シート12の厚み斑やローラーのたわみ、表面のわずかな凹凸に対しても均一にゲル状シート12を押圧できるように表面は柔軟なゴム状弾性体を用い、特に縦延伸工程では熱拡散温度以上での搬送を伴うことから、EPDMやハイパロンゴムなど耐熱性の高いゴムが好ましく、更に好ましくはシリコーンゴムやフッ素ゴムである。この場合もまた、希釈剤による膨潤が少ないゴムを選定すると、時間と共にローラー形状がいびつになることを防止でき好適である。
【0046】
更に、
図1のようにニップローラーにより、昇温ローラーや延伸ローラーにゲル状シート12を導入する際、空気バンクを防止するために実質的に接線状にニップすることで、より縦延伸での厚み斑品位や外観品位を向上させ、滑りや蛇行を防止することができる。
【0047】
ローラー表面の粗さは最大高さで0.2〜40μm程度が好ましく、鏡面としたい場合には0.2〜0.8μm程度、十分に粗れた面としたい場合には20〜40μmとなる。本ローラー上は希釈剤で湿潤状態であることから、鏡面の場合には潤滑により摩擦係数が小さい状態となる。粗面はこの希釈剤を凹凸から排出することで潤滑量を減らす、または防止する効果があり、摩擦係数を増大させる。必要に応じ鏡面と粗面を組み合わせてもよいが、基本的には鏡面とすることで清掃などのメンテナンス性や速度制御精度が向上し、かつ鏡面で希釈剤の潤滑量がある一定量あった方がシートの外観斑を防止するため好ましい。
【0048】
特に本願発明のように、ニップローラーによる把持力の確保を行う場合、ニップによるシート12の表面の荒れを防ぐために、前記駆動ローラーの表面は鏡面が良く、最大高さで1S以下、つまり1μm以下とし、より好ましくは0.2〜0.8μmとする。この鏡面を実現するためには、前述のように金属やセラミックとする。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
[実施例1]
【0050】
質量平均分子量(Mw)が2.5×10
6の超高分子量ポリエチレンを40質量%、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン(HDPE)60質量%とからなるポリエチレン(PE)組成物100質量部に、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.375質量部をドライブレンドし、混合物を得た。
【0051】
得られた混合物を
図1のような製膜方法を用いて、97kg/hrの流量で二軸押出機21に投入し、さらに希釈剤として流動パラフィンを291kg/hrの流量で二軸押出機21内に投入し、210℃の二軸押出機21内で混合した。
【0052】
得られたポリエチレン溶液を、ギアポンプで計量しながら口金23に供給し、210℃の温度のポリエチレン溶液を35℃に通水温調した冷却ドラム31上に吐出してゲル状シート12を形成した。冷却ドラム31は速度10m/分で回転駆動した。
【0053】
得られたゲル状シート12の厚みは、縦延伸工程4に導入する前に100mm角のサンプリングを実施し、接触式厚さ計で測定した結果、10回平均で1.5mmであった。表面にはブリードアウトした希釈剤が付着しており、上記厚み測定は最大で±0.1mmのばらつきを伴う。
【0054】
得られたゲル状シート12を、シート表面の温度が110℃になるように、昇温ローラー群41と、第1延伸ローラー421の金属通水ローラーで昇温した。このとき、昇温ローラー群41と第1延伸ローラー421までの間では、シートの熱膨張に応じて1%の速度差で下流ほど速くなるようローラーに直結したモーター回転数を制御した。延伸ローラー群42は
図1の通り3本のローラーからなり、各ローラーには表面にゴムを被覆したニップローラー44を配置してローラー間の速度差により縦延伸を行った。第1冷却ドラム31の速度を10m/分、昇温ローラー群41および第1延伸ローラー421までの速度比を各1%として、第1延伸ローラー421の速度を10.4m/分、第2延伸ローラー422の速度を10.4×1.23倍の12.8m/分とした。ここで最大の延伸倍率は延伸ローラー(A)である第2延伸ローラー422と、延伸ローラー(B)である第3延伸ローラー423との間で行い、第3延伸ローラー423の速度を12.8×7倍=90m/分とし、縦延伸工程4の通過により一軸延伸シート13の総延伸倍率は9倍となるよう速度を制御した。
【0055】
延伸したフィルム13は延伸ローラー群42の最後のローラーである第3延伸ローラー423を含む冷却ローラー群43の4本のローラーで冷却し、シート温度が50℃となるよう通水ローラー温度を調整した。ここで最後の延伸ローラーである第3延伸ローラー423(延伸ローラー(B))と冷却ローラー群43は、収縮する一軸延伸シート13と同じ速度となるよう、横延伸工程5の搬送方向最上流のクリップの速度を−2%として88.2m/分とした。
【0056】
第1冷却ドラム31から、縦延伸工程4の全ローラーとしては、鋼製ローラーの表面に硬質クロムメッキを皮膜し、表面粗さが最大高さで0.4μm(0.4S)のものを使用した。
【0057】
図1の通り、上流側のニップローラー44の本数は、昇温ローラー群41から第2延伸ローラー422に対向する本数として6本、下流側ニップローラー44の本数は第3延伸ローラー423を含む冷却ローラー群4本に対向して4本とした。
【0058】
得られた延伸フィルム13の両端部をクリップで把持し、オーブ
ン内で倍率6倍、温度115℃で横延伸し、30℃まで冷却した2軸延伸フィルム14を25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽内にて洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を60℃に調整された乾燥炉で乾燥し、再延伸工程7にて縦方向×横方向に面積倍率1.2倍となるよう再延伸し、速度88.2m/分で125℃、20秒間熱処理し、厚さ16μm、幅2000mmの微多孔プラスチックフィルム11を得た。
【0059】
図1のような構成で、第1冷却ドラム31の速度を10m/分、昇温ローラー群41および第1延伸ローラー421までの速度比を各1%として、第1延伸ローラー421の速度を10.4m/分、第2延伸ローラー422の速度を10.4×2.163倍の22.5m/分とした。ここで最大の延伸倍率は延伸ローラー(A)である第2延伸ローラー422と、延伸ローラー(B)である第3延伸ローラー423の間で行い、第3延伸ローラー423の速度を22.5×4倍=90m/分として、2〜6倍の間とし縦延伸工程4の通過により一軸延伸シート13の総延伸倍率は9倍となるよう速度を制御したので、総縦延伸倍率に対する延伸ローラー(A)と延伸ローラー(B)の間の倍率の比は0.44で0.3以上となった。その他の条件は実施例1と同様とした。
[実施例3
(参考例)]
【0060】
図1のような構成で、第3延伸ローラー423に対する横延伸工程の搬送方向最上流のクリップの走行速度の比を+3%として、横延伸工程5以降の速度を92.7m/分とした。その他の条件は実施例2と同様とした。
[実施例4]
【0061】
図1のような構成で、第3延伸ローラー423に対する横延伸工程の搬送方向最上流のクリップの走行速度の比を−3%として、横延伸工程5以降の速度を87.3m/分とした。その他の条件は実施例2と同様とした。
[比較例1]
【0062】
図1のような構成で、第3延伸ローラー423に対する横延伸工程の搬送方向最上流のクリップの走行速度の比を+5%として、横延伸工程5以降の速度を94.5m/分とした。その他の条件は実施例1と同様とした。
[比較例2]
【0063】
図1のような構成で、第1冷却ドラム31の速度を10m/分、昇温ローラー群41および第1延伸ローラー421までの速度比を各1%として、第1延伸ローラー421の速度を10.4m/分、第2延伸ローラー422の速度を10.4×4倍=41.6m/分、第3延伸ローラー423の速度を41.6×2.163倍=90m/分とし、縦延伸工程4の通過によりシート13の総延伸倍率は9倍となるよう速度を制御した。その他の条件は実施例1と同様とした。
[延伸ローラー上での滑り]
【0064】
シートおよびローラーの速度は、非接触式ドップラー速度計(アクト電子株式会社製、モデル1522)を用いて、設置精度込みで1%の精度で計測した。すべての実施例および比較例について、延伸前のフィルム11の外観品位を以下の基準で評価した。
×(不可):ローラーとシートの速度差が、ローラー回転速度に対して10%以上
△(可):ローラーとシートの速度差が、ローラー回転速度に対して5%以上10%未満
○(良好):ローラーとシートの速度差が、ローラー回転速度に対して5%未満。
[縦延伸工程の蛇行量]
縦延伸工程4における蛇行量を以下の基準で評価した。
×(不可):蛇行量が10mm以上。
△(可):蛇行量が5mm以上10mm未満。
○(良好):蛇行量が5mm未満。
[微多孔プラスチックフィルム物性および機械的性質]
ガーレ透気抵抗度は、王研式透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO−1T)を使用して、JIS P8117に準拠して測定した。
【0065】
突刺強度は、先端が球面(曲率半径R:0.5mm)の直径1mmの針で、膜厚T1(μm)の微多孔膜を2mm/秒の速度で突刺したときの最大荷重を測定した。最大荷重の測定値Laを、式:Lb=(La×16)/T1により、膜厚を16μmとしたときの最大荷重Lbに換算し、突刺強度(N/16μm)とした。
○(良好):ガーレ透気抵抗度が250sec±20sec及び突刺強度6N以上
×(不可):上記範囲外
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
全ての実施例と比較例とを対比すると、実施例では第2延伸ローラー422と第3延伸ローラー423の間に最も大きな延伸倍率を付与した。こうすることにより、同区間で主な延伸張力が発生し、かつ第2延伸ローラー422および第3延伸ローラー423の速度がテンタークリップの速度と実質的に同速に制御された。この結果、下流側延伸張力をテンタークリップが負担し、滑りおよび蛇行が発生せず連続的に安定して微多孔プラスチックフィルム11を製造できた。特に実施例2〜4では、上記延伸区間における速度比を2〜6倍の間に調整したので、上流側延伸張力による滑りを安定して防止することができた。
【0069】
これに対して、比較例1では第3延伸ローラー423に対するテンタークリップ速度比が大きいため、延伸張力よりも大きな張力が縦延伸工程4と横延伸工程5の間で生じてしまった。結果として、滑りと蛇行を防止できず、所望の物性や機械的性質を持つ微多孔プラスチックフィルムを得るに至らなかった。
【0070】
また、比較例2においても、延伸ローラーの内最下流の区間で最も大きな速度比、倍率で延伸を行わなかった。このため、延伸張力をクリップが負担する前に第2延伸ローラー422近傍で滑りが発生し、滑りおよび蛇行共に防止できなかった。結果として、特に大きな蛇行により製膜を続行することができず、微多孔プラスチックフィルムを採取することができなかった。これにより強度や透気度の測定に至らなかった。
【0071】
このように本発明によれば、微多孔フィルムの諸特性を得るのに必要な延伸を行うにあたり、必要とする延伸条件で走行安定性を維持しつつ、強度、物性に優れた微多孔プラスチックフィルムを得ることができる。