特許第6773033号(P6773033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6773033光学材料用組成物及びそれを用いた光学材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773033
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】光学材料用組成物及びそれを用いた光学材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/08 20060101AFI20201012BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20201012BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20201012BHJP
【FI】
   C08G75/08
   G02B1/04
   B32B7/023
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-525196(P2017-525196)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(86)【国際出願番号】JP2016067317
(87)【国際公開番号】WO2016204080
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2019年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-122036(P2015-122036)
(32)【優先日】2015年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-241479(P2015-241479)
(32)【優先日】2015年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】今川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 明伸
(72)【発明者】
【氏名】山本 良亮
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−090502(JP,A)
【文献】 特開2004−175726(JP,A)
【文献】 特開2002−040201(JP,A)
【文献】 特開2004−043526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環状化合物(a)、分子内に2個のエピスルフィド基を有するエピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)を含有する光学材料用組成物であって、当該光学材料用組成物中の環状化合物(a)の割合が10〜40質量%、エピスルフィド化合物(b)の割合が30〜70質量%、及び硫黄(c)の割合が15〜30質量%の範囲にある光学材料用組成物(ただし、環状化合物(a)は1,3,5−トリチアン、トリセレシクロヘキサン、またはトリテルロシクロヘキサンではない)
【化1】
(式中、XはS、Se又はTeを表し、a〜fはそれぞれ独立して0〜3の整数であり、8≧(a+c+e)≧1、8≧(b+d+f)≧2、及び(b+d+f)≧(a+c+e)である。)
【請求項2】
光学材料用組成物中、環状化合物(a)及びエピスルフィド化合物(b)の含有量の合計が60〜99質量%の範囲にある請求項1に記載の光学材料用組成物。
【請求項3】
環状化合物(a)とエピスルフィド化合物(b)の質量比が、(a)/(b)=10/90〜70/30の範囲にある請求項1又は2に記載の光学材料用組成物。
【請求項4】
更に前記環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)の合計100質量部に対してチオール化合物(d)を0.1〜15質量部含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項5】
式(1)中、XがSである請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項6】
前記環状化合物(a)が、ジチイラン、1,2−ジチエタン、1,3−ジチエタン、トリチエタン、1,2,3−トリチオラン、1,2,4−トリチオラン、テトラチオラン、1,2,3−トリチアン、1,2,4−トリチアン、1,2,3,4−テトラチアン、1,2,4,5−テトラチアン、1,2,3,4−テトラチエパン、1,2,3,5−テトラチエパン、1,2,4,5−テトラチエパン、1,2,4,6−テトラチエパン、1,2,3,4,5−ペンタチエパン、1,2,3,4,6−ペンタチエパン、1,2,3,5,6−ペンタチエパン、ヘキサチエパン、ジセレシクロブタン、トリセレシクロブタン、トリセレシクロペンタン、テトラセレシクロペンタン、テトラセレシクロヘキサン、ペンタセレシクロヘキサン、テトラセレシクロヘプタン、ペンタセレシクロヘプタン、ヘキサセレシクロヘプタン、ジテルロシクロブタン、トリテルロシクロブタン、トリテルロシクロペンタン、テトラテルロシクロペンタン、テトラテルロシクロヘキサン、ペンタテルロシクロヘキサン、テトラテルロシクロヘプタン、ペンタテルロシクロヘプタン、及びヘキサテルロシクロヘプタンからなる群より選択される1種以上である請求項1〜のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項7】
前記環状化合物(a)が1,2−ジチエタン、トリチエタン、1,2,3−トリチオラン、1,2,4−トリチオラン、テトラチオラン、1,2,3−トリチアン、1,2,4−トリチアン、1,2,3,4−テトラチアン、1,2,4,5−テトラチアン、ペンタチアン、1,2,3,4−テトラチエパン、1,2,3,5−テトラチエパン、1,2,4,5−テトラチエパン、1,2,4,6−テトラチエパン、1,2,3,4,5−ペンタチエパン、1,2,3,4,6−ペンタチエパン、1,2,3,5,6−ペンタチエパン、ヘキサチエパンからなる群より選択される1種以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【請求項8】
エピスルフィド化合物(b)が、下記式(2)で表される請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学材料用組成物。
【化2】
(式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【請求項9】
チオール化合物(d)が、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、48−ジメルカプトメチル−111−ジメルカプト−39−トリチアウンデカン、47−ジメルカプトメチル−111−ジメルカプト−39−トリチアウンデカン、57−ジメルカプトメチル−111−ジメルカプト−39−トリチアウンデカン、1,2,6,7―テトラメルカプト─4−チアへプタン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、チイランメタンチオールからなる群より選択される1種以上である請求項4に記載の光学材料用組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学材料用組成物と、前記光学材料用組成物の総量に対して0.0001質量%〜10質量%の重合触媒を含む重合硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学材料用組成物または請求項10に記載の重合硬化性組成物を硬化した樹脂。
【請求項12】
請求項11に記載の樹脂を用いた光学材料。
【請求項13】
更に屈折率1.67以上ハードコート層を有する請求項12に記載の光学材料。
【請求項14】
更に反射防止膜を有する請求項13に記載の光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用組成物等に関し、特に、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター等の光学材料、中でもプラスチックレンズに好適である光学材料用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは軽量かつ靭性に富み、染色も容易である。プラスチックレンズに特に要求される性能は、低比重、高透明性及び低黄色度、光学性能として高屈折率と高アッベ数、高耐熱性、高強度等である。高屈折率はレンズの薄肉化を可能とし、高アッベ数はレンズの色収差を低減する。
近年、高屈折率および高アッベ数を目的として、硫黄原子を有する有機化合物を用いた光学材料が数多く報告されている。
中でも硫黄原子を有するポリエピスルフィド化合物は屈折率とアッベ数とのバランスが良いことが知られている(特許文献1)。これらのポリエピスルフィド化合物から得られる光学材料により、屈折率が1.7以上の高屈折率は達成された。しかし、更に高屈折率を有する材料が求められており、硫黄、セレン又はテルル原子を含む環状骨格の有機化合物を含有する光学材料用組成物を用いた光学材料が提案された。これらの環状化合物は、屈折率1.73以上を達している(特許文献2)。
しかしながら、これらの高屈折率を有する光学材料用組成物を用いた光学材料は、耐熱性が十分ではない場合や、離型性が不十分な場合や、脱型時にレンズが破損しやすい場合があり、これらが課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−110979号公報
【特許文献2】特開2002−040201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高屈折率を有する光学材料用組成物を用いた光学材料において、十分な耐熱性を確保し、離型性も良好である光学材料用組成物、及びそれからなる光学材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等はこの課題を解決すべく研究を行った結果、環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)を含有する特定組成の光学材料用組成物を重合硬化させることで光学材料の耐熱性及び離型性が向上しうることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0006】
[1] 下記式(1)で表される環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)を含有する光学材料用組成物であって、当該光学材料用組成物中の環状化合物(a)の割合が5〜70質量%、エピスルフィド化合物(b)の割合が20〜90質量%、及び硫黄(c)の割合が1〜39質量%の範囲にある光学材料用組成物。
【化1】
(式中、XはS、Se又はTeを表し、a〜fはそれぞれ独立して0〜3の整数であり、8≧(a+c+e)≧1、8≧(b+d+f)≧2、及び(b+d+f)≧(a+c+e)である。)
【0007】
[2] 光学材料用組成物中、環状化合物(a)及びエピスルフィド化合物(b)の含有量の合計が60〜99質量%の範囲にある[1]に記載の光学材料用組成物。
【0008】
[3] 環状化合物(a)とエピスルフィド化合物(b)の質量比が、(a)/(b)=10/90〜70/30の範囲にある[1]又は[2]に記載の光学材料用組成物。
【0009】
[4] 更に前記環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)の合計100質量部に対してチオール化合物(d)を0.1〜15質量部含む[1]〜[3]のいずれかの一に記載の光学材料用組成物。
【0010】
[5] 式(1)中、XがSである[1]〜[4]のいずれかの一に記載の光学材料用組成物。
【0011】
[6] 前記環状化合物(a)が1,2−ジチエタン、トリチエタン、1,2−ジチオラン、1,2,3−トリチオラン、1,2,4−トリチオラン、テトラチオラン、1,2−ジチアン、1,2,3−トリチアン、1,2,4−トリチアン、1,3,5−トリチアン、1,2,3,4−テトラチアン、1,2,4,5−テトラチアン、ペンタチアン、1,2,3−トリチエパン、1,2,4−トリチエパン、1,2,5−トリチエパン、1,2,3,4−テトラチエパン、1,2,3,5−テトラチエパン、1,2,4,5−テトラチエパン、1,2,4,6−テトラチエパン、1,2,3,4,5−ペンタチエパン、1,2,3,4,6−ペンタチエパン、1,2,3,5,6−ペンタチエパン、ヘキサチエパンからなる群より選択される1種以上である[1]〜[5]のいずれかの一に記載の光学材料用組成物。
【0012】
[7] エピスルフィド化合物(b)が、下記式(2)で表される[1]〜[6]のいずれかの一に記載の光学材料用組成物。
【化2】
(式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【0013】
[8] チオール化合物(d)が、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、4、8−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、4、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、5、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、1,2,6,7―テトラメルカプト─4−チアへプタン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、チイランメタンチオールからなる群より選択される1種以上である[4]に記載の光学材料用組成物。
[9] 光学材料用組成物中、0.0001質量%〜10質量%の重合触媒を含む[1]〜[8]のいずれかの一に記載の光学材料用組成物。
[10] [1]〜[9]のいずれかの一に記載の光学材料用組成物を硬化した樹脂。
【0014】
[11] [10]に記載の樹脂を用いた光学材料。
【0015】
[12] 更に屈折率1.67以上ハードコート層を有する[11]に記載の光学材料。
【0016】
[13] 更に反射防止膜を有する[12]に記載の光学材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光学材料用組成物を用いた光学材料は、十分な耐熱性及び離型性を有し、高性能な光学材料を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2015-122036号(2015年6月17日出願)および特願2015-241479号(2015年12月10日出願)の特許請求の範囲、明細書の開示内容を包含する。
本発明の光学材料用組成物は、環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)を含有する。本発明の光学材料用組成物の必須成分は、これら環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)であるが、必要に応じてチオール化合物(d)、硬化触媒、および各種添加剤の少なくとも1種を加えることが好ましい。
以下、本発明に用いる原料である環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)、硫黄(c)及び光学材料用組成物として添加することができる化合物について詳細に説明する。
【0019】
本発明で使用する環状化合物(a)は、下記式(1)で表される構造を有する。
【化3】
(式中、XはS、Se又はTeを表す。a〜fはそれぞれ独立して0〜3の整数であり、8≧(a+c+e)≧1、8≧(b+d+f)≧2、及び(b+d+f)≧(a+c+e)である。)
【0020】
前記(a)化合物の、式(1)中のXは、S、Se又はTeであり、入手性、毒性の観点から好ましくはS又はSeであり、より好ましくはSである。
a〜fはそれぞれ独立して0〜3の整数であり、8≧(a+c+e)≧1、8≧(b+d+f)≧2である。入手が容易であり、高屈折率となる組成物であることから好ましくは、8≧(a+c+e)≧1、7≧(b+d+f)≧2であり、より好ましくは5≧(a+c+e)≧1、7≧(b+d+f)≧2である。更に好ましいものは、(b+d+f)≧(a+c+e)の関係も満たす化合物である。
また、高屈折率を得るために、環状化合物(a)中のS、Se及びTeの合計が、50質量%以上であることが好ましい。
【0021】
環状化合物(a)の具体例としては以下に限定されるものではないが、例えば、ジチイラン、1,2−ジチエタン、1,3−ジチエタン、トリチエタン、1,2−ジチオラン、1,3−ジチオラン、1,2,3−トリチオラン、1,2,4−トリチオラン、テトラチオラン、1,2−ジチアン、1,3−ジチアン、1,4−ジチアン、1,2,3−トリチアン、1,2,4−トリチアン、1,3,5−トリチアン、1,2,3,4−テトラチアン、1,2,4,5−テトラチアン、1,2−ジチエパン、1,3−ジチエパン、1,4−ジチエパン、1,2,3−トリチエパン、1,2,4−トリチエパン、1,2,5−トリチエパン、1,3,5−トリチエパン、1,2,3,4−テトラチエパン、1,2,3,5−テトラチエパン、1,2,4,5−テトラチエパン、1,2,4,6−テトラチエパン、1,2,3,4,5−ペンタチエパン、1,2,3,4,6−ペンタチエパン、1,2,3,5,6−ペンタチエパン、ヘキサチエパン、ジセレシクロブタン、トリセレシクロブタン、ジセレシクロペンタン、トリセレシクロペンタン、テトラセレシクロペンタン、ジセレシクロヘキサン、トリセレシクロヘキサン、テトラセレシクロヘキサン、ペンタセレシクロヘキサン、ジセレシクロヘプタン、トリセレシクロヘプタン、テトラセレシクロヘプタン、ペンタセレシクロヘプタン、ヘキサセレシクロヘプタン、ジテルロシクロブタン、トリテルロシクロブタン、ジテルロシクロペンタン、トリテルロシクロペンタン、テトラテルロシクロペンタン、ジテルロシクロヘキサン、トリテルロシクロヘキサン、テトラテルロシクロヘキサン、ペンタテルロシクロヘキサン、ジテルロシクロヘプタン、トリテルロシクロヘプタン、テトラテルロシクロヘプタン、ペンタテルロシクロヘプタン、ヘキサテルロシクロヘプタン及びこれらの環状骨格構造を有する誘導体(水素原子のかわりに種々の置換基に変換された化合物)が挙げられる。
【0022】
好ましいものの具体例は、入手や合成が容易であり、高屈折率な組成物が得られることから、1,2−ジチエタン、トリチエタン、1,2−ジチオラン、1,2,3−トリチオラン、1,2,4−トリチオラン、テトラチオラン、1,2−ジチアン、1,2,3−トリチアン、1,2,4−トリチアン、1,3,5−トリチアン、1,2,3,4−テトラチアン、1,2,4,5−テトラチアン、ペンタチアン、1,2,3−トリチエパン、1,2,4−トリチエパン、1,2,5−トリチエパン、1,2,3,4−テトラチエパン、1,2,3,5−テトラチエパン、1,2,4,5−テトラチエパン、1,2,4,6−テトラチエパン、1,2,3,4,5−ペンタチエパン、1,2,3,4,6−ペンタチエパン、1,2,3,5,6−ペンタチエパン、ヘキサチエパン及びこれらの環状骨格構造を有する誘導体(水素原子のかわりに種々の置換基がついた)であり、特に好ましくは1,2,4,5−テトラチアン、1,2,3,5,6−ペンタチエパンである。
環状化合物(a)は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
【0023】
環状化合物(a)の入手方法は特に制限されない。市販品を用いてもよく、原油や動植物等の天然物から採取抽出しても、又公知の方法で合成してもかまわない。
合成法の一例としては、N.Takeda等,Bull.Chem.Soc.Jpn.,68,2757(1995)、F.Feherら,Angew.Chem.Int.Ed.,7,301(1968)、G.W.Kutneyら,Can.J.Chem,58,1233(1980)が挙げられる。
【0024】
光学材料用組成物(100質量%)中の環状化合物(a)の割合は、5〜70質量%であり、好ましくは5〜50質量%であり、更に好ましくは10〜40質量%である。
環状化合物(a)の割合が5質量%未満の場合は屈折率向上の効果が十分に得られない場合があり、一方70質量%を超える場合は得られる光学材料の透明性が悪化する場合がある。
【0025】
本発明で使用するエピスルフィド化合物(b)は、すべてのエピスルフィド化合物を包する。好ましくは、耐熱性の点で分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物である。
以下エピスルフィド化合物(b)の具体例として鎖状脂肪族骨格、脂肪族環状骨格、芳香族骨格を有する化合物に分けて列挙するがこれらに限定されるものではない。
【0026】
鎖状脂肪族骨格を有する化合物としては、例えば下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
(ただし、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を表す。)
【0027】
具体例としては、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(上記(2)式でn=0)、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(上記(2)式でm=0、n=1)、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン(上記(2)式でm=1、n=1)、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン(上記(2)式でm=2、n=1)、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン(上記(2)式でm=3、n=1)、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン(上記(2)式でm=4、n=1)、ビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィド(上記(2)式でm=2、n=2)を挙げることができる。
【0028】
脂肪族環状骨格を有する化合物としては、例えば下記式(3)式又は(4)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(式中、pおよびqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。)
【0029】
具体例としては、1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン(上記(3)式でp=0、q=0)、1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン(上記(3)式でp=1、q=1)を挙げることができる。
【化6】
(式中、pおよびqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。)
【0030】
具体例としては、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−1,4−ジチアン(上記(4)式でp=0、q=0)、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチルチオメチル)−1,4−ジチアン(上記(4)式でp=1、q=1)、を挙げることができる。
【0031】
芳香族骨格を有する化合物としては、例えば下記式(5)、(6)又は(7)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
(式中、pおよびqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。)
【0032】
具体例としては、1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ベンゼン(上記(5)でp=0、q=0)、1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン(上記(5)式でp=1、q=1)を挙げることができる。
【化8】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立してH、Me(メチル)、Et(エチル)、Ph(フェニル)を表す。)
【0033】
具体例としては、R、RがともにHであるビスフェノールF型エピスルフィド化合物、ともにMeであるビスフェノールA型エピスルフィド化合物を挙げることができる。
【化9】
(式中、pおよびqはそれぞれ独立して0又は1の整数を表す。)
【0034】
具体例としては、上記(7)でp=0、q=0の化合物、上記(7)式でp=1、q=1の化合物を挙げることができる。
【0035】
エピスルフィド化合物(b)は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
入手性の観点から好ましい化合物は、鎖状脂肪族骨格を有する上記(2)式で表される化合物であり、特に好ましい化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(上記(1)式でn=0)、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(上記(1)式でm=0、n=1)である。
【0036】
エピスルフィド化合物(b)の入手方法は特に制限されない。市販品を用いてもよく、又公知の方法で合成してもかまわない。例えばビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(上記(1)式でn=0)は公知技術(特許公報3491660号)に従い、合成することが可能である。
【0037】
光学材料用組成物100質量%中のエピスルフィド化合物(b)の割合は、20〜90質量%であり、好ましくは20〜70質量%、更に好ましくは30〜70質量%である。
エピスルフィド化合物(b)が20質量%以下であると、環状化合物(a)との反応が不十分となり、90質量%を超えると、屈折率が低下するためである。
【0038】
本発明で使用する硫黄(c)は、S8硫黄を単位構造とする硫黄の単体を意味し、市販品を容易に入手することが出来る。
本発明で用いる硫黄の形状はいかなる形状でもかまわない。具体的には、硫黄は、微粉硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、結晶硫黄、昇華硫黄等であるが、好ましくは、粒子の細かい微粉硫黄である。
光学材料用組成物中の硫黄(c)の割合は、1〜39質量%であり、耐熱性、離型性の観点より、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは15〜30質量%である。更に好ましくは耐熱性の一層の向上の観点から20〜30質量%である。
なお、硫黄(c)が1質量%より少ない場合は、本発明の効果である耐熱性、離型性の向上が見出せず、39質量%を超える場合は硫黄が反応しきらず固体が析出する。
【0039】
硫黄(c)は光学材料用組成物として、そのまま混合してもよいが効率的に光学材料を得るためにあらかじめエピスルフィド化合物(b)と硫黄(c)を予備的に反応させておくことが好ましい。
予備的な反応を行う場合、その条件は、−10℃〜120℃で0.1〜240時間、好ましくは0〜100℃で0.1〜120時間、特に好ましくは20〜80℃で0.1〜60時間である。
【0040】
また、予備的な反応を進行させる際は予備反応用の触媒を用いることができ、効果的である。
予備反応用の触媒の例としては、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、3,5−ジメチルピラゾール、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフィンアミド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、1,2,3−トリフェニルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1,1,3,3−テトラメチレングアニジン、アミノグアニジン尿素、トリメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、ジメチルエチルチオ尿素、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリウムが挙げられる。
【0041】
硫黄の固体析出を抑制するためにもこの予備的な重合反応により硫黄を10%以上(反応前の全硫黄を100%とする)消費させておくことが好ましく、20%以上消費させておくことがより好ましい。
予備的な反応は、大気、窒素等の不活性ガス下、常圧もしくは加減圧による密閉下等、任意の雰囲気下で行ってよい。なお、予備的な反応の進行度を検知するために液体クロマトグラフィーや屈折率計を用いることも可能である。
【0042】
本発明における光学材料用組成物は環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)及び、必要に応じて添加される化合物を混合することにより調製される。
【0043】
まず、光学材料用組成物中の環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)の割合について説明する。
当該光学材料用組成物(100質量%)中の環状化合物(a)の割合は、5〜70質量%、好ましくは5〜50質量%、更に好ましくは10〜40質量%、エピスルフィド化合物(b)の割合は20〜90質量%、好ましくは20〜70質量%、更に好ましくは30〜70質量%、硫黄(c)の割合は1〜39質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは15〜30質量%、更に好ましくは20〜30質量%である。
また、光学材料用組成物(100質量%)中の環状化合物(a)とエピスルフィド化合物(b)との合計が、色調の点から、好ましくは60〜99質量%、より好ましくは65〜90質量%であり、更に好ましくは70〜86質量%である。
環状化合物(a)とエピスルフィド化合物(b)の好ましい割合としては環状化合物(a)とエピスルフィド化合物(b)との質量比が(a)/(b)=10/90〜70/30である。光学材料用組成物が上述した範囲にあることにより、耐熱性、屈折率、透明性の観点からバランスがよい好適な物性となるためである。さらに耐熱性を向上させる点から、より好ましくは20/80〜60/40、更に好ましくは20/80〜40/60である。
【0044】
また、本発明において光学材料の色相を良好にすることを目的として光学材料用組成物にチオール化合物(d)を添加することができる。チオール化合物は、分子中に1個以上のチオール基を含む重合性化合物である。チオール化合物は1個以上のチオール基に加えて、1個以上のエピスルフィド基を有していてもよい。なお、上記「エピスルフィド化合物(b)」はチオール基を含む化合物を包含しない。
本発明で用いられるチオール化合物(d)は、すべてのチオール化合物を包する。好ましくは、分子中に2個以上のチオール基を含む重合性化合物(ポリチオール化合物)および分子中に1個以上のチオール基および1個以上のエピスルフィド基を含む重合性化合物である。
【0045】
入手性の観点から好ましい化合物の具体例として、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、4、8−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、4、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、5、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、1、1、3、3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,6,7―テトラメルカプト─4−チアへプタン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、チイランメタンチオールであり、より好ましい化合物はメタンジチオール、1,2−エタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、4、8−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、4、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、5、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、1,2,6,7―テトラメルカプト─4−チアへプタン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、チイランメタンチオールが挙げられる。
チオール化合物は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
【0046】
本発明においてチオール化合物(d)の添加量は環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)の合計100質量部に対し、好ましくは0.1〜15質量部である。0.1質量部未満の場合は色調が悪化する場合があり、10質量部を超える場合はレンズ表面が荒れる場合があるためである。チオール化合物(d)の添加量はより好ましくは耐光性の点から0.5〜12質量部であり、特に好ましくは1〜10質量部である。このような好ましい一態様によれば、十分な耐熱性及び離型性に加えて良好な耐光性を有する光学材料用組成物が得られ、より一層高性能な光学材料を提供することが可能となる。本実施形態に係る耐光性にも優れる光学材料は、メガネレンズ等のように使用環境が常に光に曝されるような場合に特に好適に使用され得る。
【0047】
更に本発明の光学材料を製造するために、必要に応じて硬化触媒、改良剤(各種性能改良剤)、酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、離型剤などの各種添加剤等を添加することができる。
【0048】
硬化触媒としては、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類、第3級スルホニウム塩類、第2級ヨードニウム塩類、鉱酸類、ルイス酸類、有機酸類、ケイ酸類、四フッ化ホウ酸類、過酸化物、アゾ系化合物、アルデヒドとアンモニア系化合物の縮合物、グアニジン類、チオ尿素類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類、酸性リン酸エステル類等を挙げることができる。好ましくはアミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類であり、好ましくは、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類である。より好ましい硬化触媒の具体例は、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい重合触媒は、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、およびテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドである。
【0049】
本発明で使用する硬化触媒の添加量は、光学材料用組成物(硬化触媒を除く組成物の合計)100質量部に対して、好ましくは0.0001〜10.0質量部である。すなわち、本発明の一実施形態は、上記光学材料用組成物の総量に対して0.0001質量%〜10質量%の重合触媒を含む重合硬化性組成物である。硬化触媒の量は、より好ましくは0.0005〜5.0質量部である。重合触媒の添加量が5質量部より多いと硬化物の屈折率、耐熱性が低下し、着色する場合がある。また、0.001質量部より少ないと十分に硬化せず耐熱性が不十分となる場合がある。
【0050】
改良剤としては、組成物(光学材料用組成物または重合硬化性組成物)の耐酸化性、耐候性、染色性、強度、屈折率等の各種性能改良を目的として、エポキシ化合物類、イソシアネート類などを添加することが出来る。本発明で使用する改良剤の添加量は、光学物性や、機械的物性を損なわない範囲で決められ、化学的な構造等により一義的には決められないが、光学材料用組成物100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。
また、酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤などの添加量も特に制限されず、光学物性や、機械的物性を損なわない範囲で決定される。一例をあげると、これらの添加量は光学材料用組成物100質量部に対して10質量部以下である。
【0051】
本発明において光学材料の製造方法の具体例を以下に示す。
環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)、硫黄(c)及び、必要に応じてチオール化合物(d)、硬化触媒、酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、改良剤(各種性能改良剤)等の添加剤を混合して均一に調整して組成物(光学材料用組成物または重合硬化性組成物)とする。その後、これをガラスや金属製の型に注入し、加熱によって重合硬化反応を進めた後、型から外すことにより、光学材料用組成物または重合硬化性組成物を硬化した樹脂が製造される。得られる熱硬化樹脂の成形体は光学材料として好適に使用することができる。
【0052】
本発明の組成物(光学材料用組成物または重合硬化性組成物)の加熱による重合(硬化)は通常、以下のようにして行われる。即ち、硬化時間は通常1〜100時間であり、硬化温度は通常−10℃〜140℃である。重合は所定の重合温度で所定時間保持する工程、0.1℃〜100℃/hの昇温を行う工程、0.1℃〜100℃/hの降温を行う工程によって、又はこれらの工程を組み合わせて行う。なお、硬化時間とは昇温過程等を含めた重合硬化時間をいい、所定の重合(硬化)温度で保持する工程に加えて、所定の重合(硬化)温度へと昇温・冷却工程を含む。
なお、組成物(光学材料用組成物または重合硬化性組成物)の成分の一部又は全部を注型前に予備反応用の触媒の存在下又は非存在下、撹拌下又は非撹拌下で−100〜160℃で、0.1〜480時間かけて予備的に重合せしめた後、組成物(光学材料用組成物または重合硬化性組成物)を調製して注型を行う事も可能である。
特に、組成物(光学材料用組成物または重合硬化性組成物)中の化合物に固体成分が含まれ、ハンドリングが容易でない場合はこの予備的な重合が効果的である。この予備的な重合条件は、好ましくは−10〜120℃で0.1〜240時間、より好ましくは0〜100℃で0.1〜120時間で実施する。
【0053】
更に本発明で得られた光学材料は、硬化終了後、必要に応じて染色、ハードコート、耐衝撃性コート、反射防止、防曇性付与等の表面処理を行ってもよい。
染色方法は特に限定されず例えば、特開平4−93310号公報に記載された方法が挙げられる。通常、染色浴中で、室温程度の温度から200℃程度で実施し、浴成分によっては通常の熱では所望の温度が得られない場合があるがこの時は加圧下あるいは、沸点上昇を可能とする成分を添加し、いわゆる沸点上昇法により所望の染色温度を実現する。
【0054】
加圧により沸点を上昇させる場合は、圧力釜あるいはオートクレーブ等を使用して通常1.1〜20気圧下で染色を実施する。沸点上昇成分としては、浴成分を水とした場合はモル沸点上昇効果を発現するような通常無機塩および水溶性有機化合物の添加をすることができる。無機塩としては、塩化カルシウムやヨウ化カリウム等に代表される一般的な水溶性無機物であれば使用に制限はない。水溶性有機化合物としては、尿素や酢酸ナトリウム等に代表される一般的な水溶性有機物であれば使用に制限はない。
【0055】
本発明で得られた光学材料(すなわち上記で得た硬化樹脂の成形体)には、成形体の少なくとも一面にハードコート層を設けることも可能である。本発明で使用するハードコートは従来公知のプラスチックレンズ用のハードコート層が使用可能である。ハードコート層は、プラスチック基材上に、活性エネルギー線に感応する樹脂又は光硬化性樹脂を、溶解又は分散させたハードコート液を塗布し、加熱および/または活性エネルギー線を照射し硬化させて形成させる。活性エネルギー線として、紫外線、赤外線、可視光線、X線、放射線が使用されるが、一般には紫外線がよく用いられる。紫外線硬化樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂ホスファゼン樹脂、メラミン樹脂、アクリルシラン樹脂が挙げられる。
【0056】
ハードコート形成成分としては、公知の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などが使用可能である。
熱硬化性樹脂の具体例としては、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等をもちいたハードコート層が挙げられるが、シリコーン系樹脂を用いたハードコートが耐光性・耐熱性の観点から最も好ましい。具体例としては金属酸化物微粒子、シラン化合物からなるコーティング組成物を塗布し硬化させてハードコート層を設ける。このコーティング組成物にはコロイダルシリカ、および多官能性エポキシ化合物等の成分を含んでいてもよい。
【0057】
光硬化性樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ホスファゼン樹脂、メラミン樹脂、アクリルシラン系樹脂が挙げられる。ハードコート形成成分の硬化を促進するために、必要に応じて、公知の熱および/または活性エネルギー線重合開始剤を添加することができる。使用量は、通常用いるハードコート形成成分100質量部に対して0.001〜10質量部を添加するが、好ましくは0.01〜5質量部を添加することが好ましい。ハードコート液に、干渉縞の抑制のための屈折率の調整や表面硬度の向上を目的として、微粒子を添加することも可能である。微粒子としては、主に金属酸化物微粒子が好適に用いられ、具体的には、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、ニ酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化ゲルマニウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムなどが使用可能である。これらの金属酸化物微粒子は単独あるいは2種類以上の混合状態で使用可能であり、2種類以上の場合は複合状態や固溶体状態のものも使用可能である。
さらに本発明に使用するハードコート層は従来公知の各種添加剤を含むことが可能である。塗布性の向上を目的とした各種レベリング剤、耐侯性の向上を目的とした紫外線吸収剤や酸化防止剤、さらに染料や顔料等の添加剤を含むことが可能である。
【0058】
ハードコート液の塗布は、ディッピングや必要に応じて、ハンドコーター、バーコーター、ロールコーター、スピンコーター、噴霧機などの塗布装置を用いて行ってもよい。ハードコート液の取り扱いは、ゴミや異物など混入を避けるためにクリーンルームなどの清浄な環境で行うのが好ましく、あらかじめPTFEやPETなどのフィルターを通過させてろ過処理を行うことは、得られるハードコートされた光学材料の高度な透明性を達成する面から好ましい。また、硬化は、雰囲気を窒素やヘリウムなどの不活性ガス気流下、適宜フィルムなどで覆って行っても構わない。ハードコート液の硬化温度は、熱硬化あるいは活性エネルギー線硬化に加熱を併用する場合、通常室温以上200℃以下が好ましく、さらに好ましくは室温以上150℃以下である。上記範囲であると、十分な効果が得られ、コートクラックやプラスチック基材およびハードコートの黄変などをさけることができ、好ましい。
【0059】
ハードコートの屈折率は、好ましくは1.67以上である。基材とハードコート層との屈折率差が大きくなると、干渉縞の発生原因となるからである。
【0060】
本発明で得られた光学材料は、必要に応じてハードコート層の上に反射防止膜を形成することが可能である。反射防止膜は単層、多層が知られている。高屈折率材料としてTiO,ZrO,Ta等が主に用いられ、低屈折率材料としてはSiO等が用いられている。もっとも一般的な構成は上記高屈折率材料と低屈折率材料を交互に積み重ねることによって構成されている。これらの材料を真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法などにより交互積層させることで反射防止膜が形成される。
【0061】
反射防止膜の上には更に、必要に応じて防曇層、撥水層を形成することが可能である。防曇層の形成は、例えば親水性の膜を形成して吸水性をよくする方法、撥水性のコートをする方法が知られている。また撥水層の形成は、フッ素含有シラン化合物を塗布する方法、フッ素含有シラン化合物を蒸着やスパッタ等で膜を形成する方法が知られている。
【0062】
本発明の光学材料用組成物は、上述のようにして高い屈折率、耐熱性及び離型性に優れた光学材料を与えることができる。このように、上記組成物(光学材料用組成物または重合硬化性組成物)を硬化して得られる光学・BR>゛料(成形体;硬化物;硬化樹脂)もまた、本発明の1つである。
屈折率は1.5以上であることが好ましく、1.70以上であることがより好ましく、1.75以上であることがより好ましい。屈折率は屈折率計により測定することができ、25℃、波長546.1nm(e線)で測定した値である。
光学材料の耐熱性としては、光学材料を昇温した際の軟化点が、50℃以上であることが好ましく、70℃以上がより好ましい。
本発明の光学材料は、例えば、光学部材、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に有用である。中でも、光学材料、例えば、眼鏡レンズ、(デジタル)カメラ用撮像レンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ等のレンズ、LED用封止材、光学用接着剤、光伝送用接合材料、光ファイバー、プリズム、フィルター、回折格子、ウォッチガラス、表示装置用のカバーガラス等の透明ガラスやカバーガラス等の光学用途;LCDや有機ELやPDP等の表示素子用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、情報記録基板、ディスプレイバックライト、導光板、ディスプレイ保護膜、反射防止フィルム、防曇フィルム等のコーティング剤(コーティング膜)などの表示デバイス用途等が好適である。上記光学材料としては、特に、光学レンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター等の光学材料、中でも光学レンズが好適である。
本発明の光学材料用組成物を用いて製造される光学レンズは、安定性、色相、透明性などに優れるため、望遠鏡、双眼鏡、テレビプロジェクター等、従来、高価な高屈折率ガラスレンズが用いられていた分野に用いることができ、極めて有用である。必要に応じて、非球面レンズの形で用いることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限りにおいて適宜実施形態を変更することが出来る。
なお、得られたレンズの評価は以下の方法で行った。
【0064】
[光学材料の屈折率]
光学材料の屈折率はデジタル精密屈折率計(株式会社島津製作所製、KPR−200)を用い、25℃でのe線(波長546.1nm)での屈折率を測定した。
【0065】
[光学材料の耐熱性(Tg)測定]
サンプルを厚さ3mmに切り出し、0.5mmφのピンに10gの重を与え、30℃から10℃/分で昇温してTMA測定(セイコーインスツルメンツ製、TMA/SS6100)を行い、軟化点を測定した。70℃以上をA、50℃以上70℃未満をB、50℃未満をCとした。B以上が合格レベルである。
【0066】
[離型性]
直径70mm、中心厚1.0mmの−4Dレンズを10枚作製し、離型性を評価した。10枚とも離型出来たものをA、9枚離型出来たものをB、8枚離型出来たものをC、7枚以下をDとした。C以上が合格レベルである。
【0067】
[耐光性]
2.5mm厚のレンズをウエザオメータCi4000(アトラス製)でランプ内側フィルターにTypeS、外側フィルターにTypeSを用い、放射照度60W/m、ブラックパネル温度65℃、相対湿度50%の条件下で24時間照射した後のYI値を測定し、照射前からのYI値増加量をδYI値とした。δYI値が6未満のものをA、6以上8未満のものをB、8以上のものをCとした。
【0068】
[合成例1]
1,2,3,5,6−ペンタチエパンを文献(H.C.Hansenら,Tetrahedron,41,5145(1985))記載の方法に準じて、以下の手順で合成した。
窒素気流下、攪拌機、滴下ロート及び温度計を装着した反応フラスコ中で、ナトリウムジスルフィド1.33mol(146.6g)とエタノール1000mlとを混合した。そこへ、二硫化炭素1.35mol(102.8g)のエタノール1000ml溶液を氷浴を用いて35〜40℃に保ちながら20分かけて滴下し、この温度で2時間攪拌した。
反応液が赤橙色の懸濁液となったことを確認した後、ジヨードメタン1.50mol(409.5g)を20分かけて滴下し、更に2時間攪拌して反応液が淡黄色の懸濁液となったことを確認し、反応を終了した。
反応後、ジエチルエーテルで抽出を行い、水洗し、溶媒を留去して黄色液状の生成物を得た。この生成物をヘキサンを溶離溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、10.6gの固体生成物を得た。
生成物は、融点(61〜62℃)、質量分析、NMR分析及びIR分析結果から1,2,3,5,6−ペンタチエパンであることを確認した。
【0069】
[合成例2]
1,2,4,5−テトラチアンを文献(Mahabir Parshad Kaushik等,Chemistry Letters,35,1048(2006))記載の方法に準じて、以下の手順で合成した。
酸素雰囲気下、0℃の条件で、撹拌機を装着した反応フラスコで、メタンジチオール1.00mol(80.16g)と塩化メチレン1000ml及びシリカクロリド0.05mol(5.45g)を10分間撹拌した。反応後、ジエチルエーテルで抽出を行い、水洗し、溶媒を留去して黄色液状の生成物を得た。この生成物をヘキサンを溶離溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、70.3gの固体生成物を得た。
生成物は、融点(67〜68℃)、質量分析、NMR分析及びIR分析結果から1,2,4,5−テトラチアンであることを確認した。
【0070】
[実施例1]
環状化合物(a)として、合成例1で得た1,2,3,5,6−ペンタチエパン14質量部(以下a−1化合物)、エピスルフィド化合物(b)としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド56質量部(以下b−1化合物)、及び硫黄(微粉硫黄)(c)30質量部と、これらの合計100質量部に対し、硬化触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド0.2質量部を加えて60℃で撹拌し混合後均一液とした。次にこれを0.5μmのPTFEフィルターで濾過し、直径70mm、中心厚1.0mmの−4Dレンズ用モールドに注入し、オーブン中で10℃から22時間かけて120℃に昇温し重合硬化させてレンズを製造した。得られたレンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0071】
[実施例2〜4]
表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0072】
[実施例5]
チオール化合物(d)として1,2−ジメルカプトエタン(以下d−1化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0073】
[実施例6]
チオール化合物(d)として1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン(以下d−2化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0074】
[実施例7]
チオール化合物(d)として1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン(以下d−3化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0075】
[実施例8]
表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0076】
[実施例9]
表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0077】
[実施例10]
チオール化合物(d)としてメタンジチオール(以下d−4化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0078】
[実施例11]
チオール化合物(d)として(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール(以下d−5化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0079】
[実施例12]
チオール化合物(d)としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド(以下d−6化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0080】
[実施例13]
チオール化合物(d)として1,2,6,7―テトラメルカプト─4−チアへプタン(以下d−7化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0081】
[実施例14]
チオール化合物(d)としてテトラメルカプトペンタエリスリトール(以下d−8化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0082】
[実施例15]
チオール化合物(d)としてチイランメタンチオール(以下d−9化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0083】
[実施例16]
環状化合物(a)として合成例2で得た1,2,4,5─テトラチアン(以下a−2化合物)を使用し、表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0084】
[実施例17〜19]
表1に示す組成である以外は実施例13と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果、離型性を表1に示した。
【0085】
[比較例1,3]
表1に示す組成である以外は実施例1と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果を表1に示した。
【0086】
[比較例2]
表1に示す組成である以外は実施例16と同様に行った。レンズの屈折率、耐熱性、耐光性の測定結果を表1に示した。
【0087】
[比較例4]
表1に示す組成で60℃で撹拌して混合後均一液とした後、室温まで冷却すると硫黄の固体が析出した。
【0088】
【表1-1】
【0089】
【表1-2】
【0090】
上記表1から、所定量の環状化合物(a)、エピスルフィド化合物(b)及び硫黄(c)を含む光学材料用組成物を用いた場合には、高い屈折率を維持しつつ、耐熱性と離型性とに優れた光学材料が得られることが確認される。
一方、硫黄(c)を含まない比較例1および2や硫黄(c)の含有量の少ない比較例3では耐熱性および離形性に劣ることが確認される。
また、硫黄(c)の含有量の多い比較例4は硫黄が析出してしまい、光学材料として使用が困難である。
【0091】
さらに、上記表1から、所定量のチオール化合物(d)をさらに含む光学材料用組成物を用いた場合(実施例5〜15、17〜19)には、耐熱性および離型性に加え、さらに耐光性にも優れた光学材料が得られることが確認される。このような耐光性にも優れる光学材料は、メガネレンズ等の使用環境が常に光に曝されるような場合に特に好適に使用され得る。