【文献】
Gennady Y. Gor,Swelling and softening of lithium-ion battery separators in electrolyte solvents [online],Journal of Power Sources,NL,Elsevier,2015年10月30日,Volume 294,p.167-p.172,[2020年6月11日検索],インターネット,,URL,https://spikelab.mycpanel.princeton.edu/papers/118.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
MD方向に垂直方向に配列しているフィブリル径が50nm以上、500nm以下であり、細孔径が50nm以上、200nm以下であり、かつ、表面開口率が5%以上、40%以下である微多孔膜を有し、
前記微多孔膜の膜厚方向の圧縮弾性率が95MPa以上、150MPa以下であることを特徴とする多孔膜。
前記有機系バインダーが、アクリル系樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸からなる群から選ばれる1種または複数種の混合物であることを特徴とする請求項4に記載の多孔膜。
前記高空孔率層が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群から選ばれる1種または複数種の混合物からなり、球状もしくは楕円状、扁平形状の形状を有し、最頻粒子径が0.1μm以上、5.0μm以下である有機粒子を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の多孔膜。
前記高空孔率層が、アルミナ、アルミナ水和物、ジルコニア、マグネシア、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ベーマイト、シリカからなる群から選ばれる1種または複数種の混合物からなる無機粒子を含むことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の多孔膜。
前記セパレータが、微多孔膜からなる多孔膜である第1多孔膜と、微多孔膜の片面に高空孔率層を有する多孔膜である第2多孔膜とからなり、前記第1多孔膜に接して前記第2多孔膜の前記高空孔率層が配置されていることを特徴とする請求項8に記載の蓄電デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0022】
自動車用途向け蓄電デバイスでは、高安全性、高容量化、高レート化が進められている。このような蓄電デバイス用のセパレータは、特定の特性だけが優れているだけでは、電池特性として市場の要求に答える事はできない。したがって、このような蓄電デバイス用のセパレータには、充放電の特性に寄与する構造的なパラメータを適切に調整し、かつ、セパレータとしての物性バランスが良い事が求められていた。
【0023】
本発明者らは、試行錯誤した結果、蓄電デバイス用のセパレータとして用いられる多孔膜において、充放電の特性に寄与する最適な構造的なパラメータが、MD方向に垂直方向に配列しているフィブリル径、細孔径、表面開口率の範囲であることを見出した。さらに、安全性も維持でき、セパレータとして用いた場合の特性のバランスに優れた、多孔膜を見出すに至った。
【0024】
本実施形態の多孔膜は、蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合の充放電の特性に寄与する構造的なパラメータが所定の範囲に調整され、安全性も維持でき、セパレータとしての特性のバランスに優れる。本実施形態の多孔膜を蓄電デバイスのセパレータとして用いることで、蓄電デバイスの抵抗を低下させることができる。
【0025】
以下に一例として本発明を説明するが、本発明の内容は以下の内容に限定されるものではない。
本実施形態の多孔膜は、MD方向に垂直方向に配列しているフィブリル径が50nm以上、500nm以下であり、細孔径が50nm以上、200nm以下であり、かつ、表面開口率が5%以上、40%以下である微多孔膜を有する。
【0026】
本実施形態の多孔膜の有する微多孔膜は、MD方向に垂直方向に配列しているフィブリル径が50nm以上、より好ましくは、80nm以上、最も好ましくは100nm以上である。その上限値は500nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、最も好ましいのは400nm以下である。
【0027】
微多孔膜のフィブリルの径が細すぎるとセパレータとしての強度が担保できない為に好ましく無い。また、フィブリルの径が太すぎると、多孔膜を蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合、微多孔膜のフィブリル自体が蓄電デバイス内においてイオン電導を阻害し、蓄電デバイスの抵抗を向上させるために好ましくない。
【0028】
さらに、微多孔膜の細孔径は50nm以上であり、より好ましくは60nm以上、最も好ましいのは80nm以上である。上限値は200nm以下であり、より好ましくは180nm以下であり、最も好ましいのは150nm以下である。
多孔膜を蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合、微多孔膜にあいている細孔径が小さすぎると、イオン電導を妨げ、蓄電デバイスの抵抗が向上するために好ましく無い。一方、細孔径が大きすぎると細孔径分布が広がり、孔径が大きい箇所と小さい箇所でイオン電導性にムラが生じ、蓄電デバイスの劣化の要因となったり、良好な耐デンドライト性が得られなくなったりする為に好ましくない。
【0029】
さらに、微多孔膜の表面開口率は5%以上であり、より好ましいのは8%以上であり、最も好ましいのは9%以上である。上限値は40%以下であり、より好ましいのは35%以下、最も好ましいのは31%以下である。
また、微多孔膜の表面開口率が小さすぎると、蓄電デバイスの抵抗となるために好ましく無い。また、表面開口率が高すぎると、セパレータの強度が損なわれるだけでなく、表面粗さが増し、蓄電デバイスのサイクル特性や入出力特性が損なわれるために好ましくない。また、表面開孔率が高すぎると、異物などを通してしまう危険性が増すと考えられる。
【0030】
微多孔膜を構成する樹脂材料として、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、もしくはこれらを主成分とする樹脂材料を単独、もしくは複数種用いることができる。微多孔膜は、ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂の両方、もしくはいずれか一方からなることが好ましい。
ポリエチレン樹脂および/またはポリプロピレン樹脂からなる微多孔膜は、蓄電デバイス用セパレータとしての実績があり、これらの樹脂材料からなる微多孔膜をセパレータとして用いることで、適正なシャットダウン温度を有し、低コストかつ安定性に優れる蓄電デバイスが得られる。
【0031】
微多孔膜の膜厚方向の圧縮弾性率は95MPa以上であることが好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは103MPa以上であり、最も好ましくは105MPa以上である。上限は、150MPa以下であることが好ましく、より好ましくは148MPa以下であり、さらに好ましくは145MPa以下であり、最も好ましくは140MPa以下である。
【0032】
膜厚方向の圧縮弾性率が低いと、車載向けの蓄電デバイスのセパレータとして用いた場合に、蓄電デバイスを高い圧力で押し固める工程により、セパレータが潰されてしまい、所望の特性が得られない為に好ましくない。潰れにくいセパレータが得られるため、微多孔膜の圧縮弾性率は高ければ高い程好ましい。一方、圧縮弾性率が150Mpaを超えると蓄電デバイス用セパレータとして不適であるため、圧縮弾性率は150Mpa以下であることが好ましい。
【0033】
本実施形態の多孔膜を蓄電デバイスのセパレータとして使用することにより、蓄電デバイスにおける両極間の短絡を防止でき、蓄電デバイスの電圧の維持等を図ることができる。また、本実施形態の多孔膜をセパレータとして用いた蓄電デバイスでは、異常電流等で内部温度が所定温度以上に上昇すると、多孔膜を形成している微多孔膜の孔が塞がれて無孔化される。その結果、両極間にイオンが流れにくくなり、電気抵抗が増大する。これにより蓄電デバイスの機能が停止されて、過度の温度上昇による発火等の危険が防止され、安全性が確保される。蓄電デバイスにおける過度の温度上昇による発火等の危険を防止する機能は、セパレータにとって極めて重要であり、一般に無孔化或いはシャットダウン(以下、SD)と呼ばれる。
【0034】
セパレータとして用いる多孔膜を形成している微多孔膜の無孔化開始温度が低すぎると、蓄電デバイスの僅かな温度上昇でイオンの流れが阻止されるため実用面で問題がある。一方、無孔化開始温度が高すぎると、蓄電デバイスの発火等を引き起こすまでイオンの流れが阻害されない危険性があり、安全面で問題がある。
多孔膜を形成している微多孔膜の無孔化開始温度は110〜160℃であることが好ましく、より好ましくは120〜150℃である。
【0035】
蓄電デバイス内の温度が、セパレータとして用いた多孔膜を形成している微多孔膜の無孔化維持上限温度を越えて上昇した場合、セパレータが溶断して破れる。この場合、再び蓄電デバイスにおけるイオンの移動が可能となり、更なる温度上昇が引き起こされる。このような理由から、蓄電デバイス用セパレータとしては、適切な無孔化開始温度を有し、無孔化を維持できる無孔化維持上限温度が高く、無孔化を維持できる温度領域が広いことが好ましい。
【0036】
微多孔膜は膜厚7μm以上であることが好ましく、より好ましくは8μm以上、最も好ましくは9μm以上である。上限値は40μm以下であることが好ましく、35μm以下がより好ましく、最も好ましくは30μm以下である。
膜厚が薄すぎると、破膜が生じやすくなる傾向が見られ、機械的強度および性能が不十分となり、蓄電デバイスの組み立て工程において、搬送不良、巻回不良などを起す為に好ましく無い。膜厚が厚すぎると、イオン伝導性が低下する傾向が見られ、蓄電デバイスの高容量化、小型化の設計に合致しない為好ましくない。
なお、微多孔膜の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)により、微多孔膜の断面を撮影した画像を画像解析すること、もしくは、打点式の厚み測定装置等により求めることができる。
【0037】
微多孔膜の透気度(ガス透過速度)は80秒/100cc以上であることが好ましく、より好ましくは90秒/100cc以上であり、最も好ましくは100秒/100cc以上である。上限は800秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは700秒/100cc以下、最も好ましくは600秒/100cc以下である。
【0038】
透気度が高すぎると、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合に、蓄電デバイス中のイオンの流れが抑制されるため、好ましくない。透気度は、低ければ低い程、蓄電デバイスの抵抗を低下させるために好ましい。一方、透気度が低すぎると、イオンの流れが速すぎて故障時の温度上昇を高めることになるので適当ではない。また透気度が低すぎると、空孔率や強度などの特性のバランスを損なう為に適切な範囲が存在する。
【0039】
蓄電デバイス用セパレータとして用いられる微多孔膜の極大孔径は0.05μm以上、2μm以下が好ましく、より好ましくは0.08μm以上、0.5μm以下である。極大孔径が小さ過ぎると、蓄電デバイス用セパレータとして使用したときイオンの移動性が悪く、抵抗が大きくなるので適当でない。また極大孔径が大きすぎると、蓄電デバイス用セパレータとして使用したときのイオン移動が大きすぎて適当でない。
【0040】
微多孔膜の剥離強度は、3g/15mm以上、90g/15mm以下の範囲が好適であり、3g/15mm以上、80g/15mm以下の範囲がより好ましい。微多孔膜の層間剥離強度が低いと、例えば蓄電デバイス用セパレ−タの製造工程でフィルムの剥がれ、カール、伸び等が生じ易く製品の品質面で問題がある。
【0041】
本実施形態の多孔膜は、微多孔膜の片面もしくは両面に、有機系バインダーを含む高空孔率層を有するものであってもよい。具体的には、水もしくは有機溶媒、もしくはその混合物からなる溶媒に、有機系バインダーもしくは、有機系バインダーと無機粒子、もしくは、有機系バインダーと有機粒子が分散してなるインク成分を、微多孔膜の片面もしくは両面に塗工後に乾燥処理にて形成させて、空孔率が微多孔膜より高い高空孔率層を形成してもよい。高空孔率層は、微多孔膜よりも空孔率が高いため、高空孔率層が多孔膜のセパレータとしての機能に支障を来すことがない。また、上記インク成分は、必要に応じて、キタンサンガムなどの増粘剤、水系ポリカルボン酸アンモニウム塩などの分散剤などを含んでいてもよい。
【0042】
高空孔率層を形成する有機系バインダーとしては、アクリル系樹脂(エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリオレフィン系樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの))、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、変性ポリブチルアクリレートからなる群から選ばれた1種または、複数種の混合物を用いることが好ましい。
これらの中でも特に、有機系バインダーは、アクリル系樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸からなる群から選ばれた1種または複数種の混合物であることが好ましい。
特に、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性の有機系バインダーが好ましく用いられる。
【0043】
高空孔率層に含まれる有機粒子は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレンなどからなるポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂から選ばれる1種または複数種の混合物であることが好ましい。
また、有機粒子の形状は、球状もしくは楕円状、略球状、砂漠のバラ形状、扁平形状のいずれかであることが好ましい。
有機粒子の最頻粒子径は0.1μ以上であることが好ましく、より好ましくは、0.3以上、最も好ましくは0.5μm以上である。上限値は5.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは3.0μm以下、最も好ましくは2.0μm以下である。有機粒子の最頻粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により高空孔率層を撮影して、複数の有機粒子の粒径を測定し、その結果から最頻値を算出することにより求めることができる。
【0044】
高空孔率層に含まれる無機粒子としては、蓄電デバイスの電解液に対して安定であり、更に蓄電デバイスの作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであることが望ましい。無機粒子(無機フィラー)は、アルミナ、アルミナ水和物、ジルコニア、マグネシア、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ベーマイト、シリカからなる群から選ばれる1種または複数種の混合物であることが好ましい。これらの無機粒子を用いた高空孔率層は、透気抵抗を上昇させることなく耐熱性を高めることができるため、好ましい。これらの無機粒子の中でも、ベーマイト、アルミナ、シリカ(SiO
2)が特に好ましい。
【0045】
無機粒子の形状は特に制限がなく、板状、粒状、繊維状などが好適に用いられる。特に前記無機粒子として、板状の無機粒子を用いる場合、高空孔率層における正極負極間の経路、すなわち所謂曲路率が大きくなる。そのため、セパレータとして用いた多孔膜にデンドライトが生成した場合でも、該デンドライトが負極から正極に到達し難くなり、デンドライトショートに対する信頼性を高めることができる為好ましい。
【0046】
無機粒子の粒径は、平均粒子径で、例えば、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。上限としては、好ましくは10μm以下、より好ましくは2μm以下である。
なお、本明細書でいう平均粒子径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA−920」)を用い、無機粒子を溶解しない媒体に、これら無機粒子を分散させて測定したD50%(体積基準の積算分率50%における粒子直径)である。
【0047】
本実施形態の蓄電デバイスは、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、セパレータに含浸される非水電解液と、を少なくとも備えた蓄電デバイスである。本実施形態の蓄電デバイスは、セパレータが、上記のいずれかに記載の多孔膜からなる。セパレータとして用いる多孔膜は1枚であってもよいし複数枚であってもよい。
【0048】
本実施形態の蓄電デバイスは、セパレータが上記の多孔膜のうち高空孔率層を有するものであり、前記負極面に接するように前記多孔膜の高空孔率層を配置されているものであってもよい。
セパレータとして用いる一枚または複数枚の多孔膜を形成している微多孔膜と高空孔率層との配置は、具体的には、負極面に対向する面から順に、高空孔率層、微多孔膜、もしくは、高空孔率層、微多孔膜、高空孔率層、もしくは高空孔率層、微多孔膜、高空孔率層、微多孔膜、もしくは高空孔率層、微多孔膜、高空孔率層、微多孔膜、高空孔率層という構成が好ましい。
特に、負極に接する高空孔率層として、無機粒子を分散した高空孔率層を配置すると、蓄電デバイスの抵抗が低下するために好ましい。
【0049】
セパレータは、微多孔膜からなる多孔膜である第1多孔膜と、微多孔膜の片面に高空孔率層を有する多孔膜である第2多孔膜とからなり、第1多孔膜に接して第2多孔膜の前記高空孔率層が配置されているものであってもよい。この場合、微多孔膜に挟まれている高空孔率層として、有機粒子を含む層を配置すると、蓄電デバイスの抵抗が低下する為に、より好ましい。
【0050】
セパレータとして用いる一枚または複数枚の多孔膜を形成している微多孔膜と高空孔率層との配置は、多孔膜を形成している微多孔膜が、負極に接して配置される場合、具体的には、負極面に対向する面から順に、微多孔膜、高空孔率層、微多孔膜、もしくは、微多孔膜、高空孔率層、微多孔膜、高空孔率層という構成が好ましい。
【0051】
本実施形態の蓄電デバイスは、DC−R(直流抵抗)測定による抵抗値が低いものである。具体的には、蓄電デバイスの抵抗値は、0.70オーム以下であることが好ましく、より好ましくは、0.65オーム以下であり、最も好ましくは0.62オーム以下である。
蓄電デバイスの抵抗値が高すぎると、蓄電デバイスの出力特性が劣り好ましく無い。抵抗値の下限については特に制限は設けられず、抵抗が低ければ低い程、蓄電デバイスの出力特性上好ましい。本実施形態の蓄電デバイスは、実際の実施上は0.50オーム以上である場合が多く、より多い事例は0.53オーム以上である。
【0052】
本実施形態の多孔膜をセパレータとして備えた蓄電デバイスは、良好な耐デンドライト性を有する。具体的には、蓄電デバイスの負極にリチウム金属を用いた際の充放電試験において、充放電が実施できる事が好ましい。
【0053】
以下、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスに用いられるセパレータとして、本実施形態の多孔膜を用いた例について説明する。セパレータ(多孔膜)の形状は、例えばリチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの形状等に応じて適宜調整するとよい。同様に、正極および負極の形状もリチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの形状に応じて適宜調整するとよい。
【0054】
セパレータは、本実施形態の多孔膜からなる。セパレータは、単層構造もしくは多層構造を有する。セパレータは、微多孔膜のみで構成してもよいが、微多孔膜と、この微多孔膜の表面上に形成された多孔質の高空孔率層からなる耐熱層および/または機能層を備えてもよく、さらに接着層を備えてもよい。耐熱層および/機能層は微多孔膜より高空孔率である事が好ましいが、接着層はこの限りでは無い。
【0055】
高空孔率層として、少なくとも有機系バインダーと有機粒子とを分散してなるインク成分を塗工して形成した機能層を配置してもよい。
多孔膜が、微多孔膜の片面もしくは両面に高空孔率層からなる耐熱層を有する場合、微多孔膜の熱収縮を抑え、微多孔膜の破膜に起因する蓄電デバイスの内部短絡を防止する機能が高められることが期待できる。
【0056】
なお、耐熱層や接着層、機能層等は、微多孔膜の一方の面にのみに設けてもよいし、両方の面に設けてもよい。また、耐熱層や接着層、機能層等はそれぞれの層を単独で設けても良いし、複数層を積層させても良い。
蓄電デバイス内では、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極、…の様に、セパレータは負極と正極の間に配置される。セパレータとして用いる多孔膜が、微多孔膜に前記高空孔率層を片面に設置したものである場合、高空孔率層を正極に向けて設置してもよいし、負極に向けて設置してもよい。
【0057】
具体的には、正極に向けて高空孔率層として耐熱層を配置した場合、安全性が向上する為好ましい。また負極に向けて高空孔率層として耐熱層を配置した場合、蓄電デバイスの寿命が向上する為好ましい。また、負極に向けて高空孔率層として耐熱層を配置した場合、抵抗が低下する為好ましい。
【0058】
正極に向けて高空孔率層として有機系の機能層を配置した場合、デバイスの抵抗を低下させる為好ましい。負極に向けて高空孔率層として有機系の機能層を設置した場合、蓄電デバイスの寿命が向上する為好ましい。
【0059】
微多孔膜に前記高空孔率層を両面に配置した場合、かつ、片面に高空孔率層として耐熱層を、もう片面に高空孔率層として有機系の機能層を配置した場合、負極に向けて耐熱層を配置すると、蓄電デバイスの寿命が向上する為好ましい。また、抵抗が低下する為好ましい。また、正極に向けて、耐熱層を配置すると蓄電デバイスの寿命が向上する為好ましい。
【0060】
微多孔膜の両面に高空孔率層として耐熱層を配置した場合と、両面に高空孔率層として有機系の機能層を配置した場合では、蓄電デバイスの寿命や抵抗低下の観点から、耐熱層を配置した場合が好ましい。なお、蓄電デバイスに求められる機能との兼ね合いで、両面に高空孔率層として有機系の機能層を配置した場合が好ましい場合もある。
【0061】
微多孔膜と微多孔膜との間に、高空孔率層を配置した場合、蓄電デバイスの抵抗が低下する為に好ましい。さらに、蓄電デバイスの寿命が向上する為好ましい。高空孔率層として、耐熱層を配置した場合は、耐熱性も向上する為に好ましい。高空孔率層として、機能層を設けた場合は、蓄電デバイスの抵抗低下と寿命向上だけでなく、機能層の機能が付与できるため、好ましい。
【0062】
微多孔膜の樹脂材料としては、例えば、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系の樹脂を用いることができる。微多孔膜の構造は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造としては、PP層と、PP層上に積層されたPE層と、このPE層上に積層されたPP層とから構成される三層構造があげられる。なお、多層構造の層数は三層に限らず、二層であっても四層以上であってもよい。
ポリプロピレンの重量平均分子量は460,000〜540,000が好ましい。中でも下限は465,000以上が好ましく、470,000以上がより好ましく、475,000以上が特に好ましく、最も好ましくは490,000以上である。エチレンの重量平均分子量は200,000〜420,000が好ましく、この範囲から適宜選択すればよい。ポリプロピレンの分子量を高めることにより、セパレータの強度等を高めることが期待できるが、他方で製造が困難になることが予想される。
【0063】
微多孔膜としては、例えば、一軸延伸または二軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜を好適に用いることができる。中でも、長手方向(MD方向)に一軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜は、適度な強度を備えつつ幅方向の熱収縮が少ないため、特に好ましい。一軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜を有するセパレータは、長尺シート状の正極および負極とともに巻回された場合、長手方向の熱収縮も抑制することが可能となる。このため、長手方向に一軸延伸されたポリオレフィン微多孔膜を有する多孔膜は、巻回された電極体を構成するセパレータとして特に好適である。
【0064】
以下に上述のセパレータの有する微多孔膜を作製する工程について説明する。
微多孔膜は、例えば、原反の製造工程、ラミネート工程、延伸工程の3つの工程を経ることで製造することができる。微多孔膜は、2種3層の多層原反製膜装置を用い3層積層された原反を製造した後に、延伸工程を経ることで製造することもできる。
【0065】
また、PEやPPの単層の微多孔膜を製造する場合、および多層原反製膜装置で製膜した積層された原反を用いて微多孔膜を製造する場合は、ラミネート工程を省略しても良い。
【0066】
多層のポリオレフィン層からなる微多孔膜を製造する場合、各層を構成するポリプロピレン及びポリエチレンはそれぞれ分子量が等しくても、異なっていてもよい。ポリプロピレンは立体規則性の高いものが好ましい。またポリエチレンは密度が0.960以上の高密度ポリエチレンがより好ましいが、中密度ポリエチレンでもよい。これらポリプロピレンおよび/またはポリエチレンには界面活性剤、老化防止剤、可塑剤、難燃剤、着色剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0067】
[原反工程]
微多孔膜を作製するための原反は、厚みが均一で複数枚積層させた後に延伸により多孔化する性質を備えていればよい。原反の成形方法は、Tダイによる溶融成形が好適であるが、インフレーション法や湿式溶液法等を採用することもできる。
複数のフィルムを作製するために別々にTダイによる溶融成形する場合、一般にそれぞれの樹脂の溶融温度より20℃以上60℃以下温度で、ドラフト比10以上、1000以下、好ましくは50以上500以下で行なわれる。
【0068】
引取速度は特に限定はされないが普通10m/min.以上、200m/min.以下で成形される。引取速度は、最終的に得られる微多孔膜の特性(複屈折及び弾性回復率、延伸後の微多孔膜の孔径、空孔率、層間剥離強度、機械的強度等)に影響するので重要である。
また、微多孔膜の表面粗さを一定の値以下に抑える為に、原反の厚みの均一性が重要である。原反の厚みに対する変動係数(C.V.)は、0.001以上、0.030以下の範囲に調整することが望ましい。
【0069】
[ラミネート工程]
本実施形態では、ラミネート工程の例として、原反工程により製造されたポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムを積層する工程について記載する。
ポリプロピレンフィルムとポリエチレンフィルムは、熱圧着によって積層されて積層フィルムとされる。複数枚のフィルムの積層においては、これを加熱されたロール間を通し熱圧着される。詳細には、フィルムが複数組の原反ロールスタンドから巻きだされ、加熱されたロール間でニップされ圧着されて積層される。積層は、各フィルムの複屈折及び弾性回復率が実質的に低下しないように熱圧着することが必要である。
【0070】
積層フィルムの層構成としては、例えば、層構成が3層の場合は、三層の表と裏がポリプロピレンで中央がポリエチレンになるように、即ち外層がポリプロピレンで内層がポリエチレンになるように積層する場合(PP/PE/PP)や、外層にポリエチレン、内層がポリプロピレンになるように積層する場合(PE/PP/PP)がある。また、層構成が2層の場合は、ポリエチレンを二層張り合わせた場合(PE/PE)等がある。積層フィルムの層構成は、いずれかに特定されるものではないが、カールがなく、外傷を受け難く、ポリオレフィン微多孔膜の耐熱性、機械的強度等がよく、また蓄電デバイス用セパレータとしての安全性、信頼性等々の特性を満たす上から、外層がポリプロピレンで内層がポリエチレンになるように3層積層する場合(PP/PE/PP)が最も好適である。
【0071】
複数層を熱圧着させる加熱されたロ−ルの温度(熱圧着温度)は、120℃以上、160℃以下が好ましく、更に好ましくは125℃以上、150℃以下である。熱圧着温度が低すぎると、フィルム間の剥離強度が弱くなり、その後の延伸工程で剥がれが生じる。また逆に熱圧着温度が高すぎると、ポリエチレンフィルムを熱圧着する場合にポリエチレンが溶融する。その結果、ポリエチレンフィルムの複屈折及び弾性回復率が大きく低下し、所期の課題を満たすポリオレフィン微多孔膜を有する蓄電デバイス用セパレ−タは得られない。
積層フィルムの厚みは、特に制限されないが一般には9μm以上、60μm以下が適当である。
【0072】
PE単層やPP単層、多層原反製膜装置により作成したフィルム等、ラミネート工程により積層させる必要ない場合は、ラミネート工程を省略しても良い。
【0073】
[延伸工程]
積層フィルム、PE単層フィルムまたはPP単層フィルムは、延伸工程にて多孔質化される。積層フィルムの場合は、延伸工程にてPP、PE各層同時に多孔質化される。
延伸工程は、熱処理ゾーン(オーブン1)、冷延伸ゾーン、熱延伸ゾーン(オーブン2)、熱固定ゾーン(オーブン3)の4つのゾーンにより行われる。
【0074】
積層フィルムを多孔質化する場合、延伸前に積層フィルムを熱処理ゾーンにて熱処理する。熱処理は加熱空気循環オ−ブンもしくは加熱ロ−ルにより定長もしくは〜10%の緊張下で行われる。熱処理温度は、110℃以上、150℃以下が好ましく、115℃以上、140℃以下の範囲がより好適である。熱処理温度が低いと十分に多孔化しない。また、熱処理温度が高すぎると、ポリエチレンを含む微多孔膜を製造する場合にポリエチレンの溶融が生じて不都合である。熱処理時間は3秒以上、3分間以下でよい。
【0075】
熱処理された積層フィルムは、冷延伸ゾーンにて低温延伸され、次いで熱延伸ゾーンでの高温延伸を経て、多孔化し、積層多孔質フィルムとなる。低温延伸と高温延伸のいずれか一方の延伸だけでは、ポリプロピレンとポリエチレンが十分に多孔化されず、蓄電デバイス用セパレータとしての特性が悪くなる。
【0076】
冷延伸ゾーンにおける低温延伸温度はマイナス20℃以上、プラス50℃以下が好ましく、特に20℃以上、40℃以下が好ましい。この低温延伸温度が低すぎると作業中にフィルムの破断が生じ易く、好ましくない。一方、低温延伸温度が高すぎると多孔化が不十分になるので好ましくない。低温延伸の倍率は3%以上、200%以下が好ましく、より好ましくは5%以上、100%以下の範囲である。低温延伸の倍率が低すぎると、空孔率が小さい微多孔膜しか得られず、また高すぎると、所定の空孔率と孔径の微多孔膜が得られなくなるので上記範囲が適切である。
【0077】
低温延伸した積層フィルムは、次いで熱延伸ゾーンで高温延伸される。高温延伸の温度は70℃以上、150℃以下が好ましく、特に80℃以上、145℃以下が好ましい。この範囲を外れると十分な多孔化がされないので適当でない。高温延伸の倍率(最大延伸倍率)は100%以上、400%以下の範囲であることが好ましい。最大延伸倍率が低すぎると、ガス透過率が低く、また高すぎると、ガス透過率が高すぎるので上記範囲が好適である。
【0078】
低温延伸と高温延伸をした後、オーブンで熱緩和を行う。熱緩和は延伸時に作用した応力残留によるフィルムの延伸方向への収縮を防ぐために行う。熱間和では、予め延伸後のフィルム長さが10%以上、300%以下の範囲で減少する程度に熱収縮させる。熱緩和時の温度は、70℃以上、145℃以下が好ましく、特に80℃以上、140℃以下が好ましい。温度が高すぎると、ポリエチレンを含む微多孔膜を製造する場合にPE層が融解してしまいセパレータとしては不都合である。温度が低すぎると熱緩和が十分でなく、セパレータの熱収縮率が高く好ましく無い。また、熱緩和工程を行わないと微多孔膜の熱収縮率が大きくなり、蓄電デバイス用セパレータとして好ましくない。
【0079】
熱延伸ゾーンを経た熱処理フィルムは、次いで熱固定ゾーンにて熱延伸方向の寸法が変化しないように規制して加熱処理し、熱固定する。熱固定は、加熱空気循環オーブンもしくは加熱ロールにより、定長(0%)以上、もしくは10%以下の緊張下で行われる。熱固定温度は、110℃以上、150℃以下が好ましく、115℃以上、140℃以下の範囲がより好適である。温度が低いと十分な熱固定効果が得られず、熱収縮率が高くなる。また高すぎると、ポリエチレンを含む微多孔膜を製造する場合にポリエチレンの溶融が生じて不都合である。
【0080】
本実施形態において、厚み精度に優れた原反を積層し、かつ、延伸、熱収縮後に熱固定を行うことで、圧縮特性に優れ、寸法安定性がよく、所期の課題を満たし、層間剥離強度の高い微多孔膜が得られる。
【0081】
本実施形態では、原反を複数枚別々に製膜して、多層に張り合わせる上記の工程により積層フィルムを製造してもよいし、個別の押出機より押し出された樹脂を、ダイの中で合流させ、共に押し出す方法(共押し出し法)を用いて積層フィルムを製造することも可能である。共押し出し法を用いて得られた多層構造の原反フィルム(積層フィルム)は、上述と同等の延伸工程に処することで、圧縮特性に優れ、寸法安定性がよく、所期の課題を満し、層間剥離強度の高い微多孔膜となる。
【0082】
また、微多孔膜の片面もしくは両面に、無機粒子と有機系バインダーとを混合し、塗工する工程を経る等の手法にて、耐熱層を付与してもよい。さらに、微多孔膜の片面もしくは両面に、フッ素系樹脂等を塗工して接着層を付与しても良い。さらに、微多孔膜の片面もしくは両面に、有機粒子等と有機径バインダーとを混合して、塗工する工程を経る手法にて、機能層を付与しても良い。
【0083】
これらの耐熱層、接着層、機能層は、各々単層で配置されても良く、複数層積層されても良い。また、加工方法として、複数回の塗工で複数層積層しても良いし、耐熱層、接着層、機能層から選ばれる2種以上の層の材料を混合して塗工する等の方法により複数の機能を持たせた層を配置しても良い。
特に、耐熱層を付与しても圧縮の特性が大きく劣化しない事が好ましく、例えば、特許文献3に記載の公知の手法を用いる事ができる。
【0084】
[非水電解液]
本実施形態の蓄電デバイスに用いられる非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステルが好適に挙げられる。広い温度範囲、特に高温での電気化学特性が相乗的に向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることがもっとも好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0085】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、ECとVCの組み合わせ、PCとVCの組み合わせが特に好ましい。
【0086】
また、非水溶媒がエチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートを含むと電極上に形成される被膜の安定性が増し、高温、高電圧サイクル特性が向上するので好ましい。エチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対し、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは7体積%以上である。また、その上限としては、好ましくは45体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
【0087】
鎖状エステルとしては、非対称鎖状カーボネートとして、メチルエチルカーボネート(MEC)、対称鎖状カーボネートとして、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、鎖状カルボン酸エステルとして酢酸エチル(以下、EA)が好適に挙げられる。前記鎖状エステルの中でも、MECとEAのような非対称かつエトキシ基を含有する鎖状エステルの組み合わせが可能である。
【0088】
鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して広い温度範囲、特に高温での電気化学特性が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0089】
鎖状エステルの中でもEAが占める体積の割合は、非水溶媒中に1体積%以上が好ましく、2体積%以上がより好ましい。その上限としては、10体積%以下がより好ましく、7体積%以下であると更に好ましい。非対称鎖状カーボネートはエチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、広い温度範囲、特に高温での電気化学特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90〜45:55が好ましく、15:85〜40:60がより好ましく、20:80〜35:65が特に好ましい。
【0090】
[電解質塩]
本実施形態の蓄電デバイスに用いられる電解質塩としては、リチウム塩が好適に挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiN(SO
2F)
2、LiN(SO
2CF
3)
2からなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、LiPF
6、LiBF
4及びLiN(SO
2F)
2から選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、LiPF
6を用いることが最も好ましい。
【0091】
[非水電解液の製造]
本実施形態の蓄電デバイスに用いられる非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩及び該非水電解液に対して溶解助剤などを特定の混合比率で混合させた組成物を添加する方法により得ることができる。この際、用いる非水溶媒及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0092】
本実施形態の多孔膜は、下記の第1、第2の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用するリチウムイオン電池(第1の蓄電デバイス)用やリチウムイオンキャパシタ(第2の蓄電デバイス)用のセパレータとして用いることが好ましく、リチウムイオン電池用に用いることがより好ましく、リチウムイオン二次電池用に用いることが更に好ましい。
【0093】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態の蓄電デバイスとしてのリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータとしての本実施形態の多孔膜、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液を有する。正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
【0094】
例えば、リチウムイオン二次電池用正極活物質としては、鉄、コバルト、マンガン、及びニッケルからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるか又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiFePO
4、LiCoO
2、LiCo
1−xM
xO
2(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、及びCuから選ばれる1種又は2種以上の元素)、LiMn
2O
4、LiNiO
2、LiCo
1−xNi
xO
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
0.8Mn
0.1Co
0.1O
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、Li
2MnO
3とLiMO
2(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体、及びLiNi
1/2Mn
3/2O
4から選ばれる1種以上が好適に挙げられる。
【0096】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラックなどから選ばれる1種又は2種以上のカーボンブラック等が挙げられる。
【0097】
正極は、例えば、以下に示す方法により作製できる。前記の正極活物質を、導電剤、及び結着剤と混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤を加えて混練して正極合剤とする。この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製板等に塗布して、乾燥、加圧成型する。その後、所定条件のもとに加熱処理することにより作製することができる。
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0098】
リチウムイオン二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、又はLi
4Ti
5O
12等のチタン酸リチウム化合物等を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することがより好ましい。
特に複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合又は結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、鱗片状天然黒鉛を球形化処理した粒子、を用いることが好ましい。
【0100】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、1−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、所定条件のもとに加熱処理することにより作製することができる。
【0101】
[リチウムイオン二次電池]
本発明の蓄電デバイスの1つとして、リチウムイオン二次電池の構造に特に限定はなく、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、又はラミネート電池等を適用できる。
【0102】
巻回型のリチウムイオン二次電池は、例えば、電極体が非水電解液と共に電池ケースに収容された構成を有する。電極体は、正極と負極とセパレータとによって構成されている。非水電解液の少なくとも一部は、電極体に含浸されている。
【0103】
巻回型のリチウムイオン二次電池では、正極として、長尺シート状の正極集電体と、正極活物質を含み且つ正極集電体上に設けられた正極合材層とを含む。負極として、長尺シート状の負極集電体と、負極活物質を含み且つ負極集電体上に設けられた負極合材層とを含む。
セパレータは、正極および負極と同様に、長尺シート状に形成されている。正極および負極は、それらの間にセパレータを介在させ筒状に巻回される。
【0104】
電池ケースは、有底円筒状のケース本体と、ケース本体の開口部を塞ぐ蓋とを備える。蓋およびケース本体は例えば金属製であり互いに絶縁されている。蓋は正極集電体に電気的に接続され、ケース本体は負極集電体に電気的に接続されている。なお、蓋が正極端子、ケース本体が負極端子をそれぞれ兼ねるようにしてもよい。
【0105】
リチウムイオン二次電池は、−40〜100℃、好ましくは−10〜80℃で充放電することができる。また、巻回型リチウムイオン二次電池の内圧上昇の対策として、電池の蓋に安全弁を設ける方法、電池のケース本体やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を蓋に設けることもできる。
【0106】
[巻回型リチウムイオン二次電池の製造]
一例として、リチウムイオン二次電池の製造手順について以下に説明する。
まず、正極、負極、およびセパレータをそれぞれ作製する。次に、それらを重ね合わせて円筒状に巻回することにより、電極体を組み立てる。次いで電極体をケース本体に挿入し、ケース本体内に非水電解液を注入する。これにより、電極体に非水電解液が含浸する。ケース本体内に非水電解液を注入した後、ケース本体に蓋を被せ、蓋およびケース本体を密封する。なお、巻回後の電極体の形状は円筒状に限られない。例えば、正極とセパレータと負極とを巻回した後、側方から圧力を加えることにより、偏平形状に形成してもよい。
【0107】
上記のリチウムイオン二次電池は、各種用途向けの二次電池として利用可能である。例えば、自動車等の車両に搭載され、車両を駆動するモータ等の駆動源用の電源として好適に利用することができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等があげられる。かかるリチウムイオン二次電池は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数の電池を接続して使用してもよい。
【0108】
[リチウムイオンキャパシタ]
本発明の他の蓄電デバイスとしてリチウムイオンキャパシタがあげられる。本実施形態のリチウムイオンキャパシタは、セパレータとしての本実施形態の多孔膜、非水電解液、正極、負極を有する。リチウムイオンキャパシタは、負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵することができる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気二重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPF
6等のリチウム塩が含まれる。
【0109】
なお、上記では巻回型リチウムイオン二次電池について記載したが、本発明はこれに限らず、ラミネート型リチウムイオン二次電池に適用してもよい。
例えば、正極または負極の電極を一対のセパレータによってサンドイッチして包装する。本実施形態にあっては、正極を袋詰電極にしている。セパレータは、電極よりもやや大きいサイズを有している。電極の本体を一対のセパレータで挟み込みつつ、電極端部から出っ張ったタブをセパレータから外部に突出させる。重ねられた一対のセパレータの側縁同士を接合して袋詰めにし、このセパレータで袋詰めされた一方の電極と他方の電極とを交互に積層し電解液を含浸させることでラミネート型電池を作製することができる。このとき、厚みを薄型化するために、これらセパレータおよび電極を厚み方向に圧縮してもよい。
【実施例】
【0110】
次に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら一実施例に限定されるものではない。
以下に示す方法により製造した微多孔膜、および微多孔膜を用いて製造した電池について、以下に示す項目を以下に示す方法により評価した。
また、実施例の微多孔膜を製造する際に製造した原反について、以下に示す方法により厚みの変動係数を求めた。また、原反の材料として使用したポリプロピレンおよびポリエチレンの重量平均分子量および分子量分布は、以下に示す方法により測定した。
【0111】
[厚みの変動係数(C.V.)]
原反の厚みの変動係数(C.V.)は、幅方向25点の厚み測定結果の標準偏差
【0112】
【数1】
を、算術平均
【0113】
【数2】
で除することで求めた。変動係数(C.V.)は、フィルム幅方向の厚みのバラツキの指標として評価した。
【0114】
[重量平均分子量および分子量分布]
PE原料樹脂およびPP原料樹脂の重量平均分子量および分子量分布は、Waters社製V200型ゲル浸透クロマトグラフを用いて、標準ポリスチレン換算によって求めた。カラムにはShodexAT−G(昭和電工(株)製)とAT806MS(昭和電工(株)製)の2本を使用し、0.3wt/vol%に調製したオルトジクロロベンゼン中、145℃で測定を行った。検出器には、示差屈折計(RI)を用いた。
【0115】
[膜厚測定]
製造した微多孔膜よりMD50mm、全幅にわたるテープ状の試験片を5枚用意する。5枚の試験片を重ね、測定点が25点になるように幅方向に等間隔に、ファインプリューフ社製電気マイクロメーター(ミリトロン1240触針5mmφ(フラット面、針圧0.75N))を用い厚みを測定した。測定値の1/5の値を各点の一枚あたりの厚さとし、その平均値を算出し、膜厚とした。
【0116】
[表面粗さ]
微多孔膜の表面粗さは、菱化システムズ社製の白色干渉計(Vertscan3.0)を用い、対物レンズを×5倍の条件下で、MD方向(長手方向)1270μm×TD方向(幅方向)960μmの範囲の画像を採取した。採取した画像のMD方向に任意の2箇所について線分析を行い、表面粗さ(Ra)を計測した。また、微多孔膜の表裏について同様の測定を行い、その平均値をRa(ave)として評価した。なお、後述の実施例1〜4で開示されている微多孔膜の表面粗さは全て0.11μm〜0.28μmの範囲内であった。
【0117】
[透気度(ガーレ値)の測定]
製造した微多孔膜からMD方向に80mm、全幅の試験片を採取し、中央部と左右の端部(端面から50mm内側)の3点について、B型ガーレ式デンソメーター(株式会社東洋精機社製)を用い、JIS P8117に準じて、測定を行った。3点の平均値をガーレ値として評価した。
【0118】
[圧縮弾性率]
製造した微多孔膜から、50mm角のセパレータサンプルを複数採取して積層し、厚み5mmの積層サンプルを作製した。積層サンプルに直径10mmの金属円柱を押し当て、ORIENTEC.RTC−1250Aにて、500Nのロードセルを用い、チャックロスヘッドスピード0.5mm/min.の条件にて圧縮方向の応力-ひずみ曲線を作製した。応力−ひずみ曲線の傾きが一定になった部分の傾きから、圧縮弾性率を算出した。
【0119】
ここで、応力とは単位面積(mm
2)当たりの圧縮荷重(N)=圧縮の応力(N/mm
2)であり、単位はMPaである。例えば、直径10mmの金属円柱で100Nの荷重を加えた場合の応力は、100N/(5mm×5mm×π)≒1.27MPaである。ひずみとは圧縮の応力を加えた際に変形した変位量を、初期厚み(5mm)で除した値であり、単位は無い。例えば、試験により初期の厚みである5mmから4.8mmに変形した場合、変位量は、0.2mm、ひずみ量は、0.2mm/5mm=0.04となる。
【0120】
[シャットダウン温度]
自製の電気抵抗測定用セルを用いて、製造した微多孔膜のシャットダウン温度を測定した。体積比でジメトキシエタンとプロピレンカーボネートとを1:1(vol/vol)の割合で混合した。得られた混合液に過塩素酸リチウムを溶解して1M/Lに調製した非水電解液に製造した微多孔膜を浸して脱気し、該非水電解液を多孔中に含ませ、試料とした。
この試料をニッケル製電極間に挟み込み、測定用セル内にセットして、10℃/minの速度で昇温を行った。電極間の電気抵抗は日置電気(株)製3520 LCR HiTESTERを用いて測定した。測定は室温から行い、抵抗値が初期の抵抗値の1000倍になった温度をシャットダウン温度とした。
【0121】
[フィブリル径]
製造した微多孔膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、その観察像から以下に示す方法により求めたフィブリルの太さをフィブリル径とした。
観察倍率は、観察する対象物のフィブリル径が適切に算出できる倍率であれば、任意の倍率で観察する事が出来るが、おおよそ5、000倍、10,000倍、20,000倍の倍率にて観察した。観察したSEM像からMD方向に略垂直方向に配列している任意のフィブリル部分の径を、10点画像解析的に見積もり、その平均値をMD方向に垂直方向に配列しているフィブリル径とした。
【0122】
[細孔径、表面開口率]
フィブリル径を求めたSEM像について、2値化処理を行い、画像解析的に、細孔径と表面開口率を算出した。細孔径は楕円近似を行い、楕円の長軸の長さを細孔径として、その平均値を評価した。表面開口率は、2値化により細孔部分の総面積を算出し、画像解析を実施した面積で除して、百分率で評価した。
【0123】
[DC−R(直流抵抗)試験]
リン酸鉄リチウムLiFePO
4;90質量%、アセチレンブラック(導電剤);6質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);4質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。
この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、正極シートを作製した。
【0124】
チタン酸リチウムLi
4Ti
5O
12;80質量%、アセチレンブラック(導電剤);15質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。
この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、負極シートを作製した。
【0125】
正極シート、セパレータ、負極シートの順に積層し、非水電解液を加えて、ラミネート型のリチウムイオン二次電池を作製した。
非水電解液としては、1.0MのLiPF
6、プロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DMC)とをPC/DMC=1/2(体積比)の割合で配合した電解液を用いた。
【0126】
作製したラミネート型電池(電池容量:60mAh)を用いて、0℃の温度条件のもと、SOC(State Of Charge)50%の状態から600mAを10秒間放電することによって、電圧降下量からオームの法則(R=ΔV/0.6)より電池内抵抗(直流抵抗)を算出した。
【0127】
[耐デンドライト試験]
正極シート、セパレータ、負極シートの順に積層し、非水電解液を加えて、コイン(CR2032)型電池を作製した。
非水電解液としては、1.0MのLiPF
6、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とをEC/MEC=3/7(体積比)の割合で配合した電解液を用いた。
正極として、LiCoO
2、負極にリチウム金属を用い、25℃、カットオフ2.5〜4.2Vの範囲にて、0.2Cで初期充電挙動を観察した。
正常に充電が完了した場合は、耐デンドライト性良好(○)とし、正常に充電が完了できなかった場合は、耐デンドライト性不良(×)として評価した。
【0128】
[実施例1]
以下に本発明の多孔膜の製造方法の一例について示すが、製造方法は以下に限らず他の方法を用いてもよい。例えば、以下の方法の他にも、Tダイを用いた共押し出し法を用い、ラミネート工程を行うことなく延伸工程を行ってポリオレフィン微多孔膜を作製してもよい。
【0129】
[PP原反の製膜]
吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用し、重量平均分子量が520,000、分子量分布が9.4、融点が161℃のポリプロピレン樹脂を、Tダイ温度200℃で溶融押出した。吐出フィルムは90℃の冷却ロ−ルに導かれ、37.2℃の冷風が吹きつけられて冷却された後、40m/min.で引き取った。得られた未延伸ポリプロピレンフィルム(PP原反)の膜厚は5.2μm、複屈折は16.9×10
−3、弾性回復率は150℃、30分熱処理後で90%であった。また、得られたPP原反の原反の厚みに対する変動係数(C.V.)は、0.016であった。
【0130】
[PE原反の製膜]
吐出幅1000mm、吐出リップ開度2mmのTダイを使用し、重量平均分子量が320,000、分子量分布が7.8、密度が0.961g/cm
3、融点が133℃、メルトインデックス0.31の高密度ポリエチレンを、173℃で溶融押出した。吐出フィルムは115℃の冷却ロ−ルに導かれ、39℃の冷風を吹きつけて冷却した後、20m/min.で引き取った。得られた未延伸ポリエチレンフィルム(PE原反)の膜厚は9.4μm、複屈折は36.7×10
−3、50%伸長時の弾性回復率は39%であった。また、得られたPE原反の原反の厚みに対する変動係数(C.V.)は、0.016であった。
【0131】
[ラミネート工程]
この未延伸PP原反(PP原反)と未延伸PE原反(PE原反)とを使用し、両外層がPPで内層がPEのサンドイッチ構成の三層の積層フィルムを以下のようにして製造した。
三組の原反ロ−ルサンドから、PP原反とPE原反をそれぞれ巻きだし速度6.5m/min.で巻きだし、加熱ロ−ルに導き、ロール温度147℃のロールにて熱圧着し、その後同速度で30℃の冷却ロ−ルに導いた後に巻き取った。巻出し張力はPP原反が5.0kg、PE原反が3.0kgであった。得られた積層フィルムは膜厚19.6μmで、剥離強度は54.7g/15mmであった。
【0132】
[延伸工程]
この三層の積層フィルムは125℃に加熱された熱風循環オ−ブン(熱処理ゾーン:オーブン1)中に導かれ加熱処理を行った。次いで熱処理した積層フィルムは、冷延伸ゾーンにて、35℃に保持されたニップロ−ル間で18%(初期延伸倍率)に低温延伸された。供給側のロ−ル速度は2.8m/min.であった。引き続き130℃に加熱された熱延伸ゾーン(オーブン2)にて、ロ−ル周速差を利用してロ−ラ間で190%(最大延伸倍率)になるまで熱延伸された後、引きつづき125%(最終延伸倍率)まで熱緩和させ、次いで熱固定ゾーン(オーブン3)にて、133℃にて熱固定され、連続的にPP/PE/PP、3層構造のポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0133】
得られたポリオレフィン微多孔膜の物性(膜厚、透気度(ガーレ値)、細孔径、圧縮弾性率、フィブリル径、表面開孔率、シャットダウン温度)を上記の方法により測定した結果を表1に示す。
また、製造した微多孔膜をセパレータとして用い、上記の方法により製造した電池の特性(DC−R、耐デンドライト性)の測定結果を表1に示す。またポリオレフィン微多孔膜にはカ−ルはなく、ピンホ−ルは認められなかった。
【0134】
[実施例2]
実施例1のPP原反の膜厚を19.0μmとし、ラミネート工程を省略し、以降、同様の条件にて連続的にPP単層の微多孔膜を得た。
【0135】
[実施例3]
PP原反の膜厚を変更した以外は、実施例2と同様にして膜厚20μmの微多孔膜を得た。
[実施例4]
PP原反の膜厚を変更した以外は、実施例2と同様にして膜厚9μmの微多孔膜を得た。
【0136】
[比較例1]
公知の手法にて、ポリプロピレン、および、ポリエチレン製の繊維からなる不織布を作製した。
[比較例2]
公知の手法にて、セルロース繊維からなる不織布を作製した。
【0137】
実施例2〜実施例4の微多孔膜、比較例1および比較例2の不織布について、それぞれ物性と、これを用いて実施例1と同様にして製造した電池の特性とを測定した結果を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
表1に示すように、実施例1〜4の微多孔膜は、シャットダウン温度が適正であり、MD方向に垂直方向に配列しているフィブリル径と、細孔径と、表面開口率とが本発明の範囲内であった。また、表1に示すように、実施例1〜4の微多孔膜をセパレータとして用いた電池は、抵抗が低く、耐デンドライト性が良好であった。
【0140】
これに対し、比較例1の不織布は、シャットダウンしなかった。また、比較例1の不織布は、フィブリル径および細孔径が本発明の範囲外であった。また比較例1の不織布をセパレータとして用いた電池は、抵抗が高く、耐デンドライト性が不良であった。
比較例2の不織布は、シャットダウンしなかった。また、比較例2の不織布は、フィブリル径および細孔径が本発明の範囲外であった。また比較例2の不織布をセパレータとして用いた電池は、耐デンドライト性が不良であった。
【0141】
[実施例5]
二次凝集体ベーマイト5kgにイオン交換水5kgと分散剤(水系ポリカルボン酸アンモニウム塩、固形分濃度40%)0.5kgとを加え、内容積20L、転回数40回/分のボールミルで8時間解砕処理をし、分散液を調製した。調製した分散液を120℃で真空乾燥し、SEM観察をしたところ、ベーマイトの形状はほぼ板状であった。また、レーザー散乱粒度分布計(堀場製作所製「LA−920」)を用い、屈折率1.65としてベーマイトの平均粒子径(D50%)を測定したところ、1.0μmであった。
【0142】
前記分散液500gに、増粘剤としてキサンタンガムを0.5g、バインダーとして樹脂バインダーディスパージョン(変性ポリブチルアクリレート、固形分含量45質量%)を17g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリーA(固形分比率50質量%)を調製した。
【0143】
低分子量PEディスパージョン(PEの融点110℃、粒径0.6μm、固形分含量40%)500gに、前記樹脂バインダーディスパージョンを13g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリーB(固形分比率40質量%)を調製した。
【0144】
実施例1の微多孔膜を基材として用い、その表面にコロナ放電処理(放電量40W・min/m
2)を施し、スラリーAをマイクログラビアコーターによって塗布することで、高空孔率層Aを形成した。乾燥後の高空孔率層Aの厚みは4μm、空孔率は55%であった。続いて、基材の高空孔率層Aと逆の面にスラリーBを塗工することで高空孔率層Bを形成した。乾燥後の高空孔率層Bの厚みは2μm、空孔率は55%であった。
それにより、実施例1の微多孔膜の一方の面に、高空孔率層A(無機粒子層)、もう一方の面に高空孔率層B(有機粒子層)を有する実施例5のセパレータフィルム(多孔膜)を得た。
【0145】
[実施例6]
基材として実施例2の微多孔膜を用いた以外、実施例5と同様にして、実施例2の微多孔膜の一方の面に、高空孔率層A(無機粒子層)を形成した。その後、実施例2の微多孔膜のもう一方の面に、高空孔率層B(有機粒子層)を形成し、実施例6のセパレータフィルム(多孔膜)を得た。高空孔率層Aの厚みは4μm、空孔率は55%、高空孔率層Bの厚みは2μm、空孔率は55%であった。
【0146】
[実施例7]
PP原反の膜厚を変更した以外は、実施例2と同様にして製造したPP単層5μm厚の微多孔膜を基材として用い、実施例5と同様にして、微多孔膜の一方の面のみに高空孔率層A(無機粒子層)を形成し、実施例7のセパレータフィルム(多孔膜)を得た。高空孔率層Aの厚みは4μm、空孔率は55%であった。
【0147】
[実施例8]
PP原反の膜厚を変更した以外は、実施例2と同様にして製造したPP単層5μm厚の微多孔膜を基材として用い、実施例5と同様にして、微多孔膜の一方の面のみに高空孔率層B(有機粒子層)を形成し、実施例8のセパレータフィルム(多孔膜)を得た。高空孔率層Bの厚みは2μm、空孔率は55%であった。
実施例5〜8にて作成したセパレータフィルム(多孔膜)の構成を表2にまとめた。
【0148】
【表2】
【0149】
[実施例9]
セパレータとして、実施例5のセパレータフィルムを用い、負極面に、高空孔率層B(有機粒子層)が接するように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0150】
[実施例10]
セパレータとして、実施例5のセパレータフィルムを用い、負極面に、高空孔率層A(無機粒子層)が接するように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0151】
[実施例11]
セパレータとして、実施例6のセパレータフィルムを用い、負極面に、高空孔率層B(有機粒子層)が接するように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0152】
[実施例12]
セパレータとして、実施例6のセパレータフィルムを用い、負極面に、高空孔率層A(無機粒子層)が接するように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0153】
[実施例13]
セパレータとして、実施例7と実施例8のセパレータフィルムを各1枚ずつ積層させて用い、負極面から、実施例8の基材(微多孔膜)、実施例8の高空孔率層B(有機粒子層)、実施例7の基材(微多孔膜)、実施例7の空孔率層A(無機粒子層)となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0154】
[実施例14]
セパレータとして、実施例7と実施例8のセパレータフィルムを各1枚ずつ積層させて用い、負極面から、実施例8の高空孔率層B(有機粒子層)、実施例8の基材(微多孔膜)、実施例7の空孔率層A(無機粒子層)、実施例7の基材(微多孔膜)となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0155】
[実施例15]
セパレータとして、実施例4と実施例7のセパレータフィルムを各1枚ずつ積層させて用い、負極面から、実施例4の基材(微多孔膜)、実施例7の高空孔率層A(無機粒子層)、実施例7の基材(微多孔膜)となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0156】
[実施例16]
セパレータとして、実施例4と実施例8のセパレータフィルムを各1枚ずつ積層させて用い、負極面から、実施例4の基材(微多孔膜)、実施例8の高空孔率層B(有機粒子層)、実施例8の基材(微多孔膜)となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0157】
[実施例17]
セパレータとして、実施例7のセパレータフィルムを2枚積層させて用い、負極面から、実施例7の基材(微多孔膜)、高空孔率層A(無機粒子層)、実施例7の基材(微多孔膜)、実施例7の高空孔率層A(無機粒子層)、となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0158】
[実施例18]
セパレータとして、実施例7と実施例8のセパレータフィルムを各1枚ずつ積層させて用い、負極面から、実施例7の基材(微多孔膜)、高空孔率層A(無機粒子層)、実施例8の基材(微多孔膜)、実施例8の高空孔率層B(有機粒子層)、となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にしてラミネート型電池を作製し、DC−R試験を実施した。結果と、デバイス内の正極と負極との間の層構成とを表3に示す。
【0159】
表3には、実施例1および実施例2の微多孔膜をセパレータとして用いたラミネート型電池のCD−R試験の結果も併せて示す。
【0160】
【表3】
【0161】
表3に示すように、実施例9〜18のセパレータを用いたラミネート型電池は、抵抗が充分に低いものであった。