(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
溶銑を転炉で酸素吹錬して溶鋼とする際、転炉での吹錬負荷を低減するとともに、溶鋼を所望の成分組成に調整し易くするため、転炉に装入する溶銑から、予め、珪素、燐、硫黄等を除去する「溶銑予備処理」が、通常行われている。
【0003】
例えば、高炉から出銑された溶銑が、まだ、出銑樋、傾注樋、又は、混銑車内に存在する間に、溶銑に、精錬剤として、石灰系フラックス、酸化剤、及び/又は、ソーダ灰系フラックス等を、キャリアガス(例えば、窒素、酸素)で吹き込むか、又は、上方から、直接添加し、珪素、燐、硫黄等をスラグへ移行させて除去する。
【0004】
他方、溶銑予備処理に転炉を用いるプロセス(転炉型溶銑予備処理)も発展を遂げている。転炉型溶銑予備処理は、脱燐用転炉と脱炭用転炉を用いる2炉方式で行うのが一般的であるが、特許文献1には、脱燐処理後に転炉を傾動して脱燐スラグを排滓(中間排滓)し、続いて、脱炭処理を行い、排滓した脱炭スラグを、次の脱燐処理において脱燐剤として再使用する一連の処理工程を1炉で行う方法が提案されている。
【0005】
特許文献1の方法は、1炉方式であることと、脱炭スラグのホットリサイクルによる熱裕度の高さが大きなメリットである。しかし、脱珪・脱燐→中間排滓→脱炭というプロセスにおいて脱珪し過ぎると、主たるスラグ源である珪素(Si)の溶銑中の濃度が乏しくなると、中間排滓を行うことが困難になる。このように、脱珪の程度によっては中間排滓が困難になり、中間排滓するために、脱珪が進んだ溶銑にSiを添加するか、或いはSiO
2を新たにスラグ源として投入して、溶銑の珪素濃度を再び増加させる等の非経済的な工程が必要になる場合がある。
【0006】
極低燐鋼を溶製するには、溶銑予備処理により、溶銑のP濃度を十分に低減するか、又は、転炉で脱燐処理を施した溶鋼を一旦出鋼し、脱燐スラグの全量を系外へ排出し、同一の転炉で、再度、脱炭及び脱燐吹錬を行うという処理が必要になる。尚、極低燐鋼とは、鋼中の燐含有量が0.01%以下の鋼である。
【0007】
転炉にて脱燐処理を施した溶鋼を一旦出鋼し、脱燐スラグの全量を系外へ排出し、同一の転炉で、再度、脱炭及び脱燐吹錬を行う一連の処理は、工程が煩雑で、処理時間が大幅に延長してしまう。このように、特許文献1の方法で超低燐鋼を溶製する場合、工程上の課題が多い。
【0008】
熱力学的に、脱燐反応は、脱珪反応の終了後に進行する。そのため、前述したように溶銑予備処理により溶銑のP濃度を十分に低減する場合には、溶銑予備処理において溶銑のSi濃度を略ゼロまで低減する必要がある。
【0009】
それ故、従来技術では、極低燐鋼を溶製するため、溶銑予備処理の段階において、溶銑のP濃度を規格濃度(P含有量:0.01%以下)付近まで低減する必要があった。しかし、極低燐鋼レベルまで脱燐するには、大量のスラグが発生する。トーピードカーにてそのような脱燐を行う場合、トーピードカーのフリーボード(溶銑上に形成される空間の炉口までの高さ)が少ないので、溶銑のP濃度を規格濃度付近まで低減することは困難である。
【0010】
また、従来技術では、混銑車における溶銑予備処理において、脱燐を行う際、形成されるスラグの塩基度が3.0以上となるように石灰系フラックスを吹き込み、かつ、CaOの滓化を促進してフラックス量を減らすため、蛍石(CaF
2)を添加する技術が多用されていた。この技術によれば、CaOの融点が低下し、その滓化が容易になる。
【0011】
例えば、特許文献2は、以下の条件で、CaOを主に含むフラックスと酸素源を同時に同位置に吹き込むことによって、溶銑からの脱珪と脱燐を同時に進行させる方法を開示する。特許文献2に開示された方法は、蛍石を含有するフラックスを用いて実施されている。
総酸素供給速度V
O2(Nm
3/min.T)≧2.25[%Si]
0−0.03
但し、[%Si]
0=初期[Si]濃度
【0012】
しかし、蛍石(CaF
2)の添加は、形成されるスラグの弗素(F)濃度を高めることになる。近年、スラグを原料とする土木、建設用資材等から環境への弗素の溶出が問題視されるに及び、環境庁は、スラグ中の弗素についても規制を設けている。また、スラグ中の弗素は、予備処理に使用する容器の耐火物に悪影響を及ぼすので、ない方が好ましい。
【0013】
特許文献3には、蛍石を用いず、かつ、脱珪・脱燐を行う溶銑の予備処理方法として、精錬容器内の溶銑に、石灰系フラックス及び酸化剤を吹き込み、脱珪率が90%になるまでの間に、フラックスの主たる量を溶銑に添加し、スラグの最終塩基度を1.2〜2.5にする方法が提案されている。
【0014】
しかし、特許文献3の方法では、酸化鉄の添加方法がインジェクション方式であるため、トップスラグのT.Fe(Total Fe)濃度が上昇し難く、脱珪と脱燐が同時に進まず、処理後の溶銑のSi濃度が略ゼロとなるうえ、スラグ量も膨大になってしまう。
【0015】
また、特許文献4は、溶銑保持容器内に保持された溶銑に、その浴面上方から酸化鉄源を添加するとともに、浴面下にCaOを主体とする媒溶剤を吹き込むことで溶銑を脱燐処理し、低燐溶銑を製造する方法を開示する。特許文献4に開示された前記方法は、前記酸化鉄源の浴面における投入領域が、面積率で前記媒溶剤の浴面での吹き出し領域の40%以上とラップするように、前記酸化鉄源を添加することを特徴としている。特許文献4に開示された前記方法は、蛍石等のフッ素源を含む媒溶剤を省略できる。
【0016】
特許文献4は、特許文献1の方法と同様に1炉方式であり、中間排滓工程を伴う。特許文献4は、溶銑鍋での脱珪処理により溶銑の珪素濃度を所定のレベルまで低下させた後、生成スラグを排滓することを教示するが、前述した中間排滓工程上の技術的課題を解決する手段を具体的に教示しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
溶銑予備処理を行い、次いで中間排滓を行う場合、特に、特許文献1に開示された1炉方式による脱燐方法を行う場合、脱珪し過ぎると、溶銑中の珪素濃度が乏しくなって中間排滓が困難になるという技術的課題がある。
【0019】
また、中間排滓工程を含む溶銑処理方法の場合、脱燐吹錬によって生じた燐濃度の高いスラグを中間排滓工程によって除去しきれずに、前記スラグが中間排滓工程後に残留する。そのため、前述した1炉方式による脱燐方法では、極低燐鋼を溶製することが困難である。
【0020】
そこで、本発明は、従来技術の現状を踏まえ、溶銑の予備処理において、転炉による溶銑処理前に、転炉における中間排滓工程を実施できる程度の珪素濃度を溶銑中に残しつつ、溶銑中のP濃度を減らすことによって、製錬工程の脱燐処理及び脱珪処理の効率を向上する予備処理方法と極低燐鋼の溶製方法を提供することを目的とする。
【0021】
また、本発明は、溶銑の予備処理において、CaF
2を用いること無く、溶銑のP濃度及びSi濃度を効率良く低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、溶銑の予備処理において、脱珪処理及び脱燐処理を同時に進めて溶銑のSi濃度及びP濃度を適度に低減できれば、その後の転炉精錬において極低燐鋼の溶製の効率が向上し、精錬工程全体の効率が向上するとの発想のもとで、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。
【0023】
その結果、Si含有量が0.05〜0.30質量%であり、且つP含有量が0.040〜0.085質量%になるように溶銑を予備処理することによって、更に転炉等における中間排滓工程と組み合わせることによって、精錬工程全体の効率が向上することが見出された。
【0024】
また、本発明者らは、溶銑の予備処理において、石灰及び酸化鉄系フラックスによって溶銑の脱珪処理と脱燐処理を同時に行なう際の条件について鋭意研究した。
【0025】
その結果、予備処理後の溶銑のSi含有量及びP含有量を上記範囲にするために、予備処理前後の溶銑のSi含有量及びP含有量の変化(ΔP/ΔSi)を0.1超とすることが好ましいことを見出した。
【0026】
このように、精錬容器内の溶銑の予備処理において、酸化鉄の投入量、及び、酸化鉄の投入方法を適正化すれば、予備処理後の溶銑のSi濃度及びP濃度を、転炉による精錬工程等の次の精錬工程に好適な成分組成に調整できることを見いだした。
【0027】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、次のとおりである。
【0028】
(1)精錬容器内の溶銑に、酸化鉄、気体酸素、及び、石灰系フラックスを投入して、脱珪処理と脱燐処理を施す溶銑の予備処理方法において、
酸化鉄換算の酸化剤原単位で酸化鉄を25kg/t以上投入するとともに、
上記投入の際、投入する酸化鉄の60%以上を精錬容器の上方から投入して、
前記溶銑のSi含有量を0.05〜0.30質量%とし、且つP含有量を0.040〜0.085質量%に調整することを特徴とする溶銑の予備処理方法。
(2)精錬容器内に投入される酸化鉄の全量のうち80〜100%を精錬容器の上方から投入することを特徴とする(1)に記載の溶銑の予備処理方法。
(3)予備処理前後のP濃度及び予備処理前後のSi濃度が、下記式1を満たすことを特徴とする(1)又は(2)に記載の溶銑の予備処理方法。
ΔP/ΔSi>0.1・・・(式1)
但し、ΔP:予備処理前P濃度と予備処理後P濃度との差、ΔSi:予備処理前Si濃度と予備処理後Si濃度との差
(4)石灰系フラックスは、CaF
2を含有しないことを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれかに記載の溶銑の予備処理方法。
(5)前記精錬容器が混銑車であることを特徴とする(1)〜(4)のうちいずれかに記載の溶銑の予備処理方法。
(6)(1)〜(5)のうちいずれかに記載の予備処理方法後に、転炉での中間排滓を行うことを特徴とする極低燐鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、転炉での中間排滓工程を妨げないように予備処理を行うことができるので、本発明の予備処理方法を利用することによって、転炉による精錬工程において極低燐鋼を効率良く溶製できる。
【0030】
また、本発明によれば、溶銑の予備処理において、CaF
2を用いること無く、溶銑のP濃度及びSi濃度を効率良く低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の溶銑の予備処理方法(以下「本発明方法」ということがある。)は、精錬容器内の溶銑に、酸化鉄、気体酸素、及び、石灰系フラックスを投入して、脱珪処理と脱燐処理を施す溶銑の予備処理方法において、
(i)酸化鉄を、酸化鉄換算の酸化剤原単位で25kg/t以上を投入するとともに、
(ii)上記投入の際、投入する酸化鉄の60%以上を精錬容器の上方から投入し、
(iii)溶銑のSi含有量を0.05〜0.30質量%とし、且つP含有量を0.040〜0.085質量%に調整する
ことを特徴とする。
【0034】
本発明の予備処理方法の対象とする溶銑は、Si:0.80質量%以下、P:1.200質量%以下であれば、特定の成分組成に限定されず、通常の成分組成の溶銑である具体的には、例えば、高炉から出銑した溶銑や、電気炉で溶解した溶銑が挙げられる。
【0035】
溶銑の予備処理は、溶銑を精錬工程へ搬送するのに主として使用する混銑車を精錬容器として使用して行うので、混銑車を精錬容器として使用する溶銑の予備処理について説明するが、精錬容器は、混銑車に限らず、溶銑を、次の精錬工程へ搬送するための容器(例えば、溶銑鍋等)であって、予備精錬を行うことが可能な容器であればよい。
【0036】
図1に、混銑車を精錬容器として使用する溶銑の予備処理の一態様を模式的に示す。
図1に示すように、混銑車1の開口部2からランス3を溶銑4中に浸漬し、石灰系フラックス5及び/又は酸化剤6(酸化鉄)を、キャリアガス7(気体酸素)で搬送し、所要の時間、ランス3から溶銑4中に吹き込む。
【0037】
溶銑4中のSi及びPは、酸化されてスラグ8に移行し、溶銑4の予備処理(脱珪処理と脱燐処理)が進行する。例えば、溶銑のSi濃度が、0.05〜0.30質量%に達した時、予備処理を中断して混銑車1を傾転し、生成したスラグ8を混銑車1外へ排出する。次いで、石灰系フラックス5と酸化剤6で予備処理を再開する。
【0038】
本発明方法は、溶銑の予備処理(脱珪処理と脱燐処理)において、酸化剤として酸化鉄を溶銑に投入する際、投入する酸化鉄の60%以上の酸化鉄6aを、混銑車の上方から、即ち、開口部2に配置したシュート9から溶銑4に投入する。
【0039】
酸化鉄源は、例えば、ミルスケール、焼結鉱、鉄鉱石、焼結ダスト等である。石灰系フラックスは、CaO単独でもよく、主成分をCaOとする、炭酸カルシウム(CaCO
3)や、転炉滓等の混合物でもよい。但し、前述したように、外部環境及び予備処理に使用する容器の耐火物への悪影響を考慮して、蛍石を用いないことが好ましい。
【0040】
本発明方法において、酸化鉄を、酸化鉄換算の酸化剤原単位で25kg/t以上を、溶銑に投入するが、この点については後述する。なお、酸化鉄の投入量は、混銑車に装入した溶銑に投入した酸化鉄の合計質量である。また、「酸化鉄換算の酸化剤原単位」とは、溶銑予備処理工程において、溶銑1tを予備処理するために投入した酸素の全質量を、FeOに換算した質量である。
【0041】
脱珪反応と同時に脱燐反応を進めるためには、溶銑のSi活量を下げつつ、溶銑とスラグの反応界面における酸素ポテンシャルを高める必要がある。酸化鉄を、上方から投入することで、スラグのFe濃度を高く保つことができると考えられるが、上方添加は、溶銑への直接吹込みに比べて反応効率が低いので、単に、酸化鉄の全量を上方添加しても、反応効率が低下するばかりで、脱珪処理も脱燐処理も不十分になってしまう。
【0042】
したがって、溶銑の予備処理において、脱珪効率と脱燐効率をともに最大化するためには、酸化鉄を、酸化剤原単位でどの程度投入し、また、どの程度の割合で上方添加すべきかを明らかにする必要があるが、従来、溶銑への酸化鉄の投入に関する定量的な検討、考察はなされておらず、当然に、定量的な指針は示されていない。
【0043】
本発明者らは、溶銑への酸化鉄の投入に関し、定量的な検討を鋭意行い、溶銑に投入する酸化鉄の酸化鉄換算の酸化剤原単位、及び、溶銑の上方から投入すべき酸化鉄の割合(%)を明らかにした。
【0044】
図2に、混銑車の上方から投入する酸化鉄の割合:R
FeO(%)と、予備処理前後でのP濃度の変化量(質量%)ΔPとSi濃度の変化量(質量%)ΔSiの比:ΔP/ΔSiの関係を示す。
図2には、溶銑に酸化鉄を、酸化鉄換算の酸化剤原単位で35kg/tを投入した場合のΔP/ΔSiの変化と、酸化鉄換算の酸化剤原単位で25kg/tを投入した場合のΔP/ΔSiの変化を示す。
【0045】
脱珪と同時に脱燐が進行するほど、ΔP/ΔSiは大きくなる。転炉工程にて極低燐鋼を溶製するには、Siをある程度残しつつ、Pをできるだけ除去することが望ましいため、ΔP/ΔSiが大きい方が好ましい。
【0046】
前述した溶銑のうち、C:4.50〜4.70質量%、Si:0.50〜0.60質量%、P:0.100〜0.120を含有する溶銑が、特に、本発明の予備処理方法の対象になると想定される。このような溶銑を予備処理して当該溶銑のSi含有量を0.2質量%まで低減した後、転炉工程にて極低燐鋼を溶製するには、ΔP/ΔSi>0.1が好ましい。そこで、本発明方法では、ΔP/ΔSi>0.1を評価基準とした。
【0047】
R
FeO(%)の増加に伴い、ΔP/ΔSiも増加し、酸化剤原単位が35kg/tの場合、R
FeO=60%で、ΔP/ΔSi>0.1となり、R
FeO≧70%では、R
FeOが増加し、ΔP/ΔSiは0.14〜0.18である。
【0048】
このことから、脱珪処理と脱燐処理を同時に進めるのに必要な条件は、R
FeO≧60%であり、好ましくはR
FeO≧70%である。R
FeOの上限は100%であるが、85%を超えると、所要のΔP/ΔSiの確保の点で好ましいが、下記式で定義する投入酸素の反応効率η
0が低下するので、この点を考慮して、R
FeOを適宜設定する。
【0049】
η
0={(ΔP×80/62+ΔSi×32/28)×1/100}/(酸化鉄投入量原単位×1/1000×C
0)
ここで、酸化鉄投入量原単位:酸化鉄投入量(kg)/溶銑量(t);
ΔP:予備処理前P濃度−予備処理後P濃度;
ΔSi:予備処理前Si濃度−予備処理後Si濃度;
C
0:酸化鉄中の酸素の割合(酸化鉄中の酸素質量/酸化鉄総質量)
【0050】
前記反応効率η
0は、投入酸素のうちSi及びPと反応した酸素量を反映する。転炉スラグ中のSi成分及びP成分は、殆どが、五酸化二燐(P
2O
5)及びシリカ(SiO
2)である。投入酸素のうちSi及びPと反応した酸素量は、予備処理前後のP濃度及びSi濃度の変化と、予備処理に使用された酸化鉄量から算出することができる。従って、前記反応効率η
0は、ΔP、ΔS及び酸化鉄投入量原単位から定義することができる。
【0051】
酸化剤原単位が25kg/tの場合、ΔP/ΔSiは低下し、R
FeO≧60%でも、ΔP/ΔSi<0.1となる場合がある。これは、溶銑のSi濃度に対して酸化剤原単位が不足し、余剰酸素源のスラグ中のT.Feの濃度が低位となり、脱珪処理と同時に脱燐処理が進行しなかったと考えられる。
【0052】
本発明方法では、
図2に示す結果を踏まえ、溶銑に投入する酸化鉄は、酸化鉄換算の酸化剤原単位で30kg/t以上とすることが好ましい。更に好ましくは35kg/t以上である。尚、溶銑に投入する酸化鉄の上限は、本発明の予備処理方法を実施するための設備の規模に制限されない限り、特に限定されない。一般的なトーピードカーであれば、溶銑に投入する酸化鉄の上限を80kg/tとしても良い。
【0053】
このように、溶銑の予備処理において、脱珪処理と脱燐処理を同時に効率良く進めるための条件は、溶銑に投入する酸化鉄が、酸化鉄換算の酸化剤原単位で25kg/t以上、好ましくは30kg/t以上、更に好ましくは35kg/t以上で、かつ、溶銑の上方から投入する酸化鉄の割合R
FeOが60%以上、好ましくは70%以上である。
【0054】
特に、溶銑の上方から投入する酸化鉄の割合R
FeOは、80〜100%であることが好ましい。ランス3から溶銑4中に吹き込むための設備を省力化する観点からも、前記R
FeOを80〜100%とすることが好ましい。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。尚、以下の実施例では、高炉から出銑した溶銑を予備処理工程にて脱珪及び脱燐し、次いで、転炉を用いて予備処理工程の溶銑を精錬して更に脱燐を行っている。
【0056】
[溶銑の予備処理工程]
高炉から出銑した溶銑(Si:0.54質量%、P:0.118質量%、C:4.6質量%)を混銑車に装入し、石灰系フラックスと酸化剤の吹込み装置を備える予備処理場へ搬送し、種々の条件の下で、溶銑の予備処理(脱珪処理と脱燐処理)を実施した。
【0057】
それぞれの条件で5チャージ実施し、平均値を算出した。1チャージで、混銑車に装入した溶銑は260〜280トンである。予備処理(脱珪処理と脱燐処理)の手順は以下のとおりである。
【0058】
まず、溶銑中へ、ランスから、酸化剤としての酸化鉄と石灰系フラックスとしての生石灰をキャリアガス(酸素)で吹き込む(
図1、参照)。その流量は600〜800Nm
3/時間である。吹込みと同時に、混銑車の上方から、溶銑上に、所要量の酸化鉄を投入する(
図1、参照)。混銑車の上方から酸化鉄を投入した後、酸化鉄及び生石灰の吹込み、及び、酸素(キャリアガス)の吹込みを継続して、溶銑を撹拌し、20〜30分経過後に予備処理を終了する。
【0059】
表1に、溶銑の予備処理(脱珪処理と脱燐処理)の結果を示す。表1中、脱珪処理と脱燐処理に寄与した酸素の反応効率ηo(上記定義式、参照)は、溶銑の予備処理の効率を評価する一つの指標である。
【0060】
【表1】
【0061】
発明例1〜6は、本発明の条件で、溶銑の予備処理(脱珪処理と脱燐処理)を実施した例である。発明例1〜5は、酸化鉄を、酸化鉄換算の酸化剤原単位で35kg/t、生石灰を、生石灰原単位で10〜20kg/t投入した例である。発明例1〜5において、混銑車の上方から投入した酸化鉄の割合:R
FeOは70〜95%である。
【0062】
発明例1〜3は、ΔP/ΔSi>0.1を満足していて、予備処理の結果は良好である。発明例3のΔP/ΔSiは、発明例1及び2のΔP/ΔSiより高位であるが、脱珪処理と脱燐処理に寄与した酸素の効率:ηoがやや低位である。これは、発明例3のR
FeOが95%と高位であるため、溶銑中に吹き込まれる酸化剤が不足したためと考えられる。このことから、R
FeOは、60〜85%が好ましいことが分かる。
【0063】
発明例4は、生石灰原単位を20kg/tに変更した例であり、発明例5は、生石灰原単位を10kg/tに変更した例である。発明例4は、スラグの塩基度が発明例1〜3より高く、発明例5は、スラグの塩基度が発明例1〜3より低いが、発明例4及び発明例5において、ΔP/ΔSiに大きな変化はみられない。尚、発明例及び比較例の塩基度は、溶銑の処理(表1の場合、予備処理)のために使用した珪素量及び処理対象の溶銑に含有される珪素量の合計のSiO
2換算の質量(total(SiO
2))に対する、溶銑の処理のために使用したCaO量(total(CaO))の割合(すなわち、「total(CaO)/total(SiO
2)」である。
【0064】
発明例6は、酸化鉄換算の酸化剤原単位は31kg/t、生石灰原単位は15kg/t、上方から投入した酸化鉄の割合:R
FeOは65%の例である。ΔP/ΔSi=0.13で、ΔP/ΔSi>0.1を満足しており、予備処理の結果は良好である。
【0065】
比較例1は、R
FeO=30%、酸化剤原単位43kg/t、生石灰原単位15kg/tの条件で予備処理を実施した例である。ΔP/Siが0.05と低く、望ましい溶銑の成分組成が得られていない。これは、R
FeOが本発明の範囲より低くて、スラグのFe濃度が低く、脱珪反応は進行したが、脱燐反応は殆ど進行しなかったためである。
【0066】
比較例2は、R
FeO=65%、酸化剤原単位25kg/t、生石灰原単位15kg/tの例である。ΔP/ΔSiは0.09で、比較例1より高位であるが、発明例に比べ低位である。これは、溶銑のSi濃度に対して酸化剤原単位が不足し、余剰酸素源のスラグ中のT.Fe(全鉄)の濃度が低位で、脱珪処理と同時に脱燐処理が進行しなかったと考えられる。
【0067】
以上、溶銑の予備処理において、溶銑中のSi濃度及びP濃度を適切にする脱珪処理と脱燐処理を、同時に、効率良く進めるための条件は、酸化鉄換算の酸化剤原単位が25kg/t以上、かつ、上方から投入する酸化鉄の割合:R
FeOが60%以上であることを確認できた。また、R
FeOは、80〜100%が好ましいことを確認できた。
【0068】
[転炉を用いた精錬工程]
前述の予備処理後、発明例1〜9及び比較例1〜3の溶銑のそれぞれの溶銑を表2の条件にて精錬して、極低燐鋼の製造を試みた。
【0069】
まず、発明例1〜9及び比較例1〜3の各溶銑に、表2の条件にて石灰系フラックスとして生石灰をキャリアガス(窒素ガス)とともに転炉の底吹きノズルから転炉内の溶銑中に吹き込み、気体酸素を溶銑の液面に吹き付けた。
【0070】
前記石灰系フラックスを転炉内に投入後、中間排滓を行ってスラグを廃棄した。中間排滓前の脱燐吹錬時のスラグの塩基度は、1.5〜2.0であった。その後、更に、気体酸素を溶銑中に吹き込み、溶銑を撹拌し、15〜20分経過後に転炉を用いた精錬工程を終了した。中間排滓後の脱炭素吹錬時のスラグの塩基度は、3.0〜3.5であった。
【0071】
転炉を用いた精錬工程において、脱燐後のP濃度を表2に示す。尚、気体酸素の投入量は、気体酸素原単位で40〜60Nm
3/tであった。
【0072】
【表2】
【0073】
極低燐鋼を製造できた例を合格の実施例とした(表2の項目「評価」において“○”又は“△”が示された例)。特に、前記合格の実施例のうち、Si添加が不要な例を“○”で示した。発明例1〜9において、P含有量が0.01%未満の溶銑を製造できた。
【0074】
但し、発明例8において、予備処理後の溶銑のSi濃度及びP濃度が高かったため、発明例1〜7に比較して、転炉処理後P濃度が高くなった。また、発明例9において、予備処理後の溶銑のSi濃度は、転炉を用いた精錬工程において中間排滓をするには不十分であった。そのため、発明例9において、スラグを生成するために、転炉を用いた精錬工程においてSiが添加された。しかし、中間排滓をするに最低限のスラグ生成量であるため、発明例1〜7に比較して、転炉処理後P濃度が高くなった。
【0075】
比較例1〜3は、P含有量が0.01%未満の溶銑を製造できなかった例である(表2の項目「評価」において “×”が示された例)。比較例1〜3において、予備処理後の溶銑のΔP/ΔSiは、0.1未満であった。
【0076】
また、比較例1、3において、予備処理後の溶銑のP濃度は0.090質量%超であったが、予備処理後の溶銑のSi濃度は、転炉を用いた精錬工程においてP濃度を低減するには不十分であった。そのため、比較例1、3において、溶銑中のPを含有させるスラグを生成するために、転炉を用いた精錬工程においてSiが添加された。しかし、比較例1、3において、予備処理後の溶銑のP濃度が高過ぎたため、転炉による精錬処理によってP含有量が0.01%未満の溶銑を製造できなかった。
【0077】
比較例2において、予備処理後の溶銑のSi濃度が十分に高かったので、転炉を用いた精錬工程においてSiを添加する必要はなかった。しかし、予備処理後の溶銑のSi濃度及びP濃度が高かったため、転炉を用いた精錬工程におけるスラグ形成によるP濃度の低減処理が不十分になった。