(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773138
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】分析システム、分析方法及び分析制御プログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20201012BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12Q1/06
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-565213(P2018-565213)
(86)(22)【出願日】2017年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2017004123
(87)【国際公開番号】WO2018142600
(87)【国際公開日】20180809
【審査請求日】2019年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩平
【審査官】
坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/108034(WO,A1)
【文献】
特開2015−6134(JP,A)
【文献】
特開2013−255445(JP,A)
【文献】
HOUSEL, Lisa M. et al.,GC-MS characterization of cell culture media: Optimizing sample preparation using automation and des,Abstracts of Papaers, 249th ACS National Meeting & Exposition,2015年 3月22日,CHED-322,CAPLUS [retrieved on 17.04.2017], Retrieved from STN
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12Q 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養装置から搬出される複数の培地試料を分析するための分析システムであって、
複数の培地試料に対して前処理を順次行う前処理装置と、
前記前処理装置により前処理が行われた各培地試料を順次分析する質量分析装置と、
前記前処理装置及び前記質量分析装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記質量分析装置を安定化させるための安定化処理を実行する安定化処理部と、
前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する標準試料測定処理部と、
前記安定化処理部及び前記標準試料測定処理部による処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる前処理実行部と、
前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる送液処理部とを含み、
前記前処理実行部及び前記送液処理部による処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行った後、分析後の前記質量分析装置において前記安定化処理及び前記標準試料測定処理を実行し、
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の数が所定の試料数未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記安定化処理及び前記標準試料測定処理が省略されることを特徴とする分析システム。
【請求項2】
培養装置から搬出される複数の培地試料を分析するための分析システムであって、
複数の培地試料に対して前処理を順次行う前処理装置と、
前記前処理装置により前処理が行われた各培地試料を順次分析する質量分析装置と、
前記前処理装置及び前記質量分析装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記質量分析装置を安定化させるための安定化処理を実行する安定化処理部と、
前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する標準試料測定処理部と、
前記安定化処理部及び前記標準試料測定処理部による処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる前処理実行部と、
前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる送液処理部とを含み、
前記前処理実行部及び前記送液処理部による処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行った後、分析後の前記質量分析装置において前記安定化処理及び前記標準試料測定処理を実行し、
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の保存期間が所定の期間未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記安定化処理及び前記標準試料測定処理が省略されることを特徴とする分析システム。
【請求項3】
培地試料が導入されるカラムを有し、当該カラムを通過する過程で培地試料中の各成分を分離する液体クロマトグラフをさらに備え、
前記質量分析装置は、前記液体クロマトグラフにおいて分離された各成分に対して質量分析を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の分析システム。
【請求項4】
培養装置から搬出される複数の培地試料に対して前処理装置で前処理を順次行い、前処理が行われた各培地試料を質量分析装置で順次分析するための分析方法であって、
前記質量分析装置を安定化させるための安定化処理を実行する安定化処理ステップと、
前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する標準試料測定処理ステップと、
前記安定化処理ステップ及び前記標準試料測定処理ステップによる処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる前処理実行ステップと、
前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる送液処理ステップとを含み、
前記前処理実行ステップ及び前記送液処理ステップによる処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行った後、分析後の前記質量分析装置において前記安定化処理及び前記標準試料測定処理を実行し、
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の数が所定の試料数未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記安定化処理及び前記標準試料測定処理が省略されることを特徴とする分析方法。
【請求項5】
培養装置から搬出される複数の培地試料に対して前処理装置で前処理を順次行い、前処理が行われた各培地試料を質量分析装置で順次分析するための分析方法であって、
前記質量分析装置を安定化させるための安定化処理を実行する安定化処理ステップと、
前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する標準試料測定処理ステップと、
前記安定化処理ステップ及び前記標準試料測定処理ステップによる処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる前処理実行ステップと、
前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる送液処理ステップとを含み、
前記前処理実行ステップ及び前記送液処理ステップによる処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行った後、分析後の前記質量分析装置において前記安定化処理及び前記標準試料測定処理を実行し、
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の保存期間が所定の期間未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記安定化処理及び前記標準試料測定処理が省略されることを特徴とする分析方法。
【請求項6】
培養装置から搬出される複数の培地試料に対して前処理装置で前処理を順次行い、前処理が行われた各培地試料を質量分析装置で順次分析するための分析制御プログラムであって、
前記質量分析装置を安定化させるための安定化処理を実行する安定化処理ステップと、
前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する標準試料測定処理ステップと、
前記安定化処理ステップ及び前記標準試料測定処理ステップによる処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる前処理実行ステップと、
前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる送液処理ステップとをコンピュータに実行させ、
前記前処理実行ステップ及び前記送液処理ステップによる処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行わせた後、分析後の前記質量分析装置において前記安定化処理及び前記標準試料測定処理を実行させ、
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の数が所定の試料数未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記安定化処理及び前記標準試料測定処理が省略されることを特徴とする分析制御プログラム。
【請求項7】
培養装置から搬出される複数の培地試料に対して前処理装置で前処理を順次行い、前処理が行われた各培地試料を質量分析装置で順次分析するための分析制御プログラムであって、
前記質量分析装置を安定化させるための安定化処理を実行する安定化処理ステップと、
前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する標準試料測定処理ステップと、
前記安定化処理ステップ及び前記標準試料測定処理ステップによる処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる前処理実行ステップと、
前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる送液処理ステップとをコンピュータに実行させ、
前記前処理実行ステップ及び前記送液処理ステップによる処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行わせた後、分析後の前記質量分析装置において前記安定化処理及び前記標準試料測定処理を実行させ、
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の保存期間が所定の期間未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記安定化処理及び前記標準試料測定処理が省略されることを特徴とする分析制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置から搬出される複数の培地試料を分析するための分析システム、分析方法及び分析制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の分化状態を評価するためには、免疫染色を利用した方法(例えば特許文献1を参照)やマーカー遺伝子の発現レベルを定量する方法(例えば特許文献2を参照)が広く用いられている。
【0003】
免疫染色を利用した方法では、まず評価対象とする細胞、例えば多能性幹細胞をパラホルムアルデヒド等で固定化した上で抗原−抗体反応を行う。ここで、多能性幹細胞が未分化状態であるか否かを判定するための抗体としては、SSEA−4やTRA1−60が広く用いられている(例えば特許文献1を参照)。続いて、前記抗体に結合する二次抗体を細胞に添加し、その後、予め前記二次抗体に付与しておいた蛍光標識等を検出する。これにより、細胞上に前記抗体に対する抗原が存在するか否か、すなわち該細胞が未分化状態であるか否かを評価することができる。
【0004】
また、マーカー遺伝子の発現レベルの定量による方法では、例えば多能性幹細胞からmRNAを抽出し、これを逆転写酵素によってcDNAに変換した後、PCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)によってマーカー遺伝子を増幅する。このとき、多能性幹細胞の未分化性を評価するためのマーカー遺伝子としては、NANOGやPOU5F1(OCT3/4)が広く用いられる(例えば非特許文献1を参照)。このPCR産物を電気泳動やリアルタイムPCR装置で検出することにより前記細胞におけるマーカー遺伝子の発現量を確認し、その結果から該細胞が未分化状態であるか否かを評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-313184号公報
【特許文献2】特開2006-042663号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology), 2007, 第25巻, pp.803-816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞の分化状態を評価する際には、被検細胞が培地において培養された後、その培養された試料(培地試料)が培養装置から液体クロマトグラフ質量分析装置(LCMS)に導入される場合がある。培地試料は、例えば前処理装置において除蛋白などの前処理が行われた後、LCMSに導入される。
【0008】
従来、培養装置から前処理装置に培地試料を導入する作業や、前処理後の培地試料を前処理装置からLCMSに導入する作業は、作業者が手作業で行っているため、多数の培地試料を分析する場合には作業が煩雑であった。特に、LCMSにおいては、分析結果の安定性維持を目的として、LCMSを安定化させるための安定化処理や、検量線を作成するために標準試料を測定する標準試料測定処理などを行う必要がある。そのため、これらの処理を行った上で培地試料の前処理を行い、前処理後の培地試料をLCMSに導入するという手順が必要であり、作業者の作業がさらに煩雑となっていた。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、作業者が煩雑な作業を行う必要がなく、効率的に精度よく分析を行うことができる分析システム、分析方法及び分析制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る細胞分化状態の分析システムは、培養装置から搬出される複数の培地試料を分析するための分析システムであって、前処理装置と、質量分析装置と、制御部とを備える。前記前処理装置は、複数の培地試料に対して前処理を順次行う。前記質量分析装置は、前記前処理装置により前処理が行われた各培地試料を順次分析する。前記制御部は、前記前処理装置及び前記質量分析装置を制御する。
【0011】
前記制御部は、標準試料測定処理部と、前処理実行部と、送液処理部とを含む。前記標準試料測定処理部は、前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する。前記前処理実行部は、前記標準試料測定処理部による処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる。前記送液処理部は、前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる。前記制御部は、前記前処理実行部及び前記送液処理部による処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行った後、分析後の前記質量分析装置において前記標準試料測定処理を実行する。
【0012】
このような構成によれば、質量分析装置における標準試料測定処理、培養装置から前処理装置への培地試料の搬入、及び、前処理装置から質量分析装置への前処理後の培地試料の送液が自動的に行われる。さらに、複数の培地試料に対する前処理及び分析が繰り返し自動的に行われた後、質量分析装置における標準試料測定処理が自動的に再度行われる。これにより、複数の培地試料に対する前処理及び分析の前後で標準試料測定処理を自動的に行い、経時変化により分析結果の精度が低下するのを防止することができる。したがって、作業者が煩雑な作業を行う必要がなく、効率的に精度よく分析を行うことができる。
【0013】
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の数が所定の試料数未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記標準試料測定処理が省略されてもよい。
【0014】
このような構成によれば、培地試料の数が比較的少ない場合には、分析後の質量分析装置における標準試料測定処理が省略されるため、分析時間を短縮することができるとともに、分析に伴う消耗品の消費量を削減することができる。培地試料の数が比較的少ない場合、経時変化による分析結果の精度の低下が生じにくいため、分析後の質量分析装置における標準試料測定処理が省略されても精度よく分析を行うことができる。
【0015】
前記培養装置から搬出される複数の培地試料の保存期間が所定の期間未満である場合には、分析後の前記質量分析装置における前記標準試料測定処理が省略されてもよい。
【0016】
このような構成によれば、培地試料の保存期間が比較的短い場合には、分析後の質量分析装置における標準試料測定処理が省略されるため、分析時間を短縮することができるとともに、分析に伴う消耗品の消費量を削減することができる。培地試料の保存期間が比較的短い場合、送液後に短時間で培地試料を評価する必要があるため、分析後の質量分析装置における標準試料測定処理を省略することにより精度よく分析を行うことができる。
【0017】
前記制御部は、前記質量分析装置を安定化させるための安定化処理を実行する安定化処理部をさらに備えていてもよい。この場合、前記前処理実行部は、前記安定化処理部及び前記標準試料測定処理部による処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせてもよい。
【0018】
前記分析システムは、培地試料が導入されるカラムを有し、当該カラムを通過する過程で培地試料中の各成分を分離する液体クロマトグラフをさらに備えていてもよい。この場合、前記質量分析装置は、前記液体クロマトグラフにおいて分離された各成分に対して質量分析を行ってもよい。
【0019】
本発明に係る分析方法は、培養装置から搬出される複数の培地試料に対して前処理装置で前処理を順次行い、前処理が行われた各培地試料を質量分析装置で順次分析するための分析方法であって、標準試料測定処理ステップと、前処理実行ステップと、送液処理ステップとを含む。前記標準試料測定処理ステップでは、前記質量分析装置において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する。前記前処理実行ステップでは、前記標準試料測定処理ステップによる処理後に、前記培養装置から前記前処理装置に培地試料を自動的に搬入させ、当該前処理装置に前処理を行わせる。前記送液処理ステップでは、前処理後の培地試料を前記質量分析装置に対して自動的に送液し、当該質量分析装置に分析を行わせる。前記前処理実行ステップ及び前記送液処理ステップによる処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行った後、分析後の前記質量分析装置において前記標準試料測定処理を実行する。
【0020】
本発明に係る分析制御プログラムは、培養装置から搬出される複数の培地試料に対して前処理装置で前処理を順次行い、前処理が行われた各培地試料を質量分析装置で順次分析するための分析制御プログラムであって、前記標準試料測定処理ステップと、前記前処理実行ステップと、前記送液処理ステップとをコンピュータに実行させ、前記前処理実行ステップ及び前記送液処理ステップによる処理を複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行わせた後、分析後の前記質量分析装置において前記標準試料測定処理を実行させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の培地試料に対する前処理及び分析の前後で標準試料測定処理を自動的に行い、経時変化により分析結果の精度が低下するのを防止することができるため、作業者が煩雑な作業を行う必要がなく、効率的に精度よく分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分析システムの構成例を示したブロック図である。
【
図2】
図1の分析システムを用いて分析を行う際の流れを示したフローチャートである。
【
図3】分析時の処理の第1変形例を示したフローチャートである。
【
図4】分析時の処理の第2変形例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る分析システムの構成例を示したブロック図である。この分析システムには、培養装置1、前処理装置2、LCMS(液体クロマトグラフ質量分析装置)3及び制御部4などが備えられている。培養装置1は、複数の培地試料を順次搬出し、これらの複数の培地試料に対して前処理装置2で前処理が順次行われる。そして、前処理装置2により前処理が行われた各培地試料が、LCMS3により順次分析される。
【0024】
培養装置1は、被検細胞を培養するための装置である。被検細胞としては幹細胞、典型的にはES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いることができる。また、前記幹細胞より分化誘導を行った細胞も被検細胞として用いることができる。このような被検細胞の培養に用いる培地としては、幹細胞の培養に一般的に使用される培地、例えばDMEM/F12や、DMEM/F12を主成分とする培地(mTeSR1など)を用いることができる。
【0025】
本実施形態では、培養上清におけるバイオマーカーの存在量に基づいて被検細胞の分化状態を評価するために、培養装置1から前処理装置2を介してLCMS3に培養上清(培地試料)が導入される。バイオマーカーとしては、例えばプトレシン、キヌレニン、シスタチオニン、アスコルビン酸、リボフラビン、ピルビン酸、セリン、システイン、トレオン酸、クエン酸及びオロト酸からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物が用いられる。
【0026】
前処理装置2は、培養装置1から自動的に順次搬入される培地試料に対して、例えば除蛋白などの前処理を行う。具体的には、培地試料に内部標準試料としてのイソプロピルリンゴ酸が添加され、抽出溶液で処理される。抽出溶液としては、例えばメタノール、クロロホルム及び水を2.5:1:1の割合で混合した溶液が用いられる。ただし、前処理は除蛋白に限られるものではなく、培地試料に対して他の前処理が行われてもよい。
【0027】
LCMS3は、前処理装置2から自動的に順次送液される前処理後の培地試料に対して、超純水を加えて希釈した後、希釈された培地試料の分析を行う。LCMS3は、LC部及びMS部(いずれも図示せず)を備えており、LC部(液体クロマトグラフ)のカラムに培地試料が導入されることにより、当該カラムを通過する過程で培地試料中の各成分が分離され、それらの分離された各成分に対してMS部(質量分析装置)における質量分析が行われる。
【0028】
制御部4は、例えば前処理制御部41及びLCMS制御部42により構成されている。前処理制御部41は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、培養装置1及び前処理装置2を制御するためのプログラムを実行する。LCMS制御部42は、同じくCPUを含む構成であり、LCMS3の動作を制御するとともに、LCMS3から分析データが入力される。
【0029】
前処理制御部41は、CPUがプログラムを実行することにより、前処理実行部411、送液処理部412及び洗浄処理部413などとして機能する。前処理実行部411は、培養装置1及び前処理装置2の動作を制御することにより、培養装置1から前処理装置2に培地試料を自動的に搬入させるとともに、前処理装置2において培地試料に前処理を実行する。培養装置1から前処理装置2に培地試料を搬入する際には、まず、培養装置1から前処理装置2への流路に培地が送液されることにより共洗いが行われ、その後に当該流路を介して培地試料が送液される。
【0030】
送液処理部412は、例えばポンプ(図示せず)の動作を制御することにより、前処理装置2からLCMS3に前処理後の培地試料を自動的に送液する。これにより、前処理後の培地試料がLCMS3において自動的に分析される。
【0031】
洗浄処理部413は、培養装置1から前処理装置2に培地試料が送液された後、次の培地試料を送液するまでの間に、培養装置1から前処理装置2への流路に洗浄液を供給することにより、当該流路を洗浄(ライン洗浄)する。また、洗浄処理部413は、前処理装置2で前処理が行われた培地試料がLCMS3に送液された後、次の培地試料が前処理装置2に送液されるまでの間に、前処理装置2内における培地試料の流路を洗浄液で洗浄する。
【0032】
LCMS制御部42は、CPUがプログラムを実行することにより、安定化処理部421、標準試料測定処理部422及び分析処理部423などとして機能する。安定化処理部421は、LCMS3を安定化させるための安定化処理を実行する。安定化処理には、例えばLCMS3における培地試料の流路に水を流す処理(水打ち)、及び、LCMS3に培地試料を送液することなく測定を行うことによりバックグラウンドを測定する処理(空打ち)の少なくとも一方の処理が含まれる。
【0033】
標準試料測定処理部422は、LCMS3において標準試料を測定させるための標準試料測定処理を実行する。具体的には、濃度が既知の標準試料をLCMS3に送液して測定させることにより、濃度と検出強度との関係を表す検量線を作成する処理が行われる。分析処理部423は、LCMS3において培地試料を分析するための分析処理を実行する。標準試料測定処理部422により作成された検量線は、分析処理部423における分析処理に用いられる。
【0034】
図2は、
図1の分析システムを用いて分析を行う際の流れを示したフローチャートである。分析を行う際には、まず、LCMS制御部42の安定化処理部421及び標準試料測定処理部422により、LCMS3において安定化処理が実行されるとともに(ステップS101:安定化処理ステップ)、標準試料測定処理が実行される(ステップS102:標準試料測定処理ステップ)。
【0035】
安定化処理及び標準試料測定処理が行われた後、前処理制御部41の前処理実行部411により、培養装置1から前処理装置2に培地試料が自動的に搬入され、前処理装置2において前処理が行われる(ステップS103,S104:前処理実行ステップ)。なお、培養装置1から前処理装置2に培地試料が搬入される前には、培養装置1から前処理装置2への流路に培地が送液されることにより共洗いが行われる。
【0036】
培地試料に対する前処理が完了すると、送液処理部412により、前処理後の培地試料が前処理装置2からLCMS3に自動的に送液され(送液処理ステップ)、分析処理部423により、LCMS3における分析処理が実行される(ステップS105:分析処理ステップ)。このとき、前処理後の培地試料は自動的に希釈された上で、LCMS3により分析される。
【0037】
LCMS3における分析が開始された後、培養装置1及び前処理装置2では、洗浄処理部413による洗浄が行われる(洗浄処理ステップ)。すなわち、培養装置1から前処理装置2への流路に洗浄液が供給されることによりライン洗浄が行われるとともに(ステップS106)、前処理装置2内における培地試料の流路が洗浄液で洗浄される(ステップS107)。
【0038】
ステップS103〜S107の処理は、培養装置1から順次搬出される複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行われる。そして、全ての培地試料に対する処理が終了すると(ステップS108でYes)、LCMS制御部42の安定化処理部421及び標準試料測定処理部422により、分析後のLCMS3において安定化処理が実行されるとともに(ステップS109)、標準試料測定処理が実行される(ステップS110)。ただし、分析終了時の安定化処理(ステップS109)は省略されてもよい。
【0039】
その後、ステップS102,S110でそれぞれ行われた標準試料測定処理の結果を用いて検量線が作成される。具体的には、それぞれの標準試料測定処理の結果の平均値を用いて検量線が作成される。以上のような処理が行われた後、LCMS3では、移動相やガスの供給が停止されることによりクールダウンが行われる(ステップS111)。
【0040】
図2に示したように、本実施形態では、LCMS3における安定化処理及び標準試料測定処理、培養装置1から前処理装置2への培地試料の搬入、及び、前処理装置2からLCMS3への前処理後の培地試料の送液が自動的に行われる(ステップS101〜S105)。さらに、複数の培地試料に対する前処理及び分析が繰り返し自動的に行われた後(ステップS108でYes)、LCMS3における安定化処理及び標準試料測定処理が自動的に再度行われる(ステップS109,110)。
【0041】
これにより、複数の培地試料に対する前処理及び分析の前後で標準試料測定処理を自動的に行い、検量線を作成することができる。このようにして作成された検量線を用いてLCMS3における分析を行えば、経時変化により分析結果の精度が低下するのを防止することができる。したがって、作業者が煩雑な作業を行う必要がなく、効率的に精度よく分析を行うことができる。
【0042】
図3は、分析時の処理の第1変形例を示したフローチャートである。
図3におけるステップS201〜S208の処理は、
図2におけるステップS101〜S108の処理と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0043】
この例では、ステップS203〜S207の処理が、培養装置1から順次搬出される複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行われ、全ての培地試料に対する処理が終了したときに(ステップS208でYes)、培養装置1から搬出された複数の培地試料の数が所定の閾値(試料数)と比較される(ステップS209)。上記閾値は、一定の値であってもよいし、作業者により任意の値に設定されてもよい。
【0044】
試料数が閾値以上である場合には(ステップS209でYes)、LCMS制御部42の安定化処理部421及び標準試料測定処理部422により、分析後のLCMS3において安定化処理が実行されるとともに(ステップS210)、標準試料測定処理が実行される(ステップS211)。そして、ステップS202,S211でそれぞれ行われた標準試料測定処理の結果を用いて検量線が作成された後、LCMS3のクールダウンが行われる(ステップS212)。
【0045】
一方、試料数が閾値未満である場合には(ステップS209でNo)、分析後のLCMS3における安定化処理(ステップS210)及び標準試料測定処理(ステップS211)が省略される。この場合には、ステップS202で行われた標準試料測定処理の結果のみを用いて検量線が作成され、LCMS3のクールダウンが行われる(ステップS212)。
【0046】
このように、本実施形態では、培地試料の数が比較的少ない場合に(ステップS209でNo)、分析後のLCMS3における安定化処理及び標準試料測定処理が省略されるため、分析時間を短縮することができるとともに、分析に伴う消耗品(移動相など)の消費量を削減することができる。培地試料の数が比較的少ない場合、経時変化による分析結果の精度の低下が生じにくいため、分析後のLCMS3における安定化処理及び標準試料測定処理が省略されても精度よく分析を行うことができる。
【0047】
図4は、分析時の処理の第2変形例を示したフローチャートである。
図4におけるステップS301〜S308の処理は、
図2におけるステップS101〜S108の処理と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0048】
この例では、ステップS303〜S307の処理が、培養装置1から順次搬出される複数の培地試料に対して繰り返し自動的に行われ、全ての培地試料に対する処理が終了したときに(ステップS308でYes)、培養装置1から搬出された複数の培地試料の保存期間が所定の閾値(期間)と比較される(ステップS309)。上記保存期間は、培地試料を保存できる期間の上限値であり、生体由来の培地試料の場合は保存期間が短い。上記閾値は、一定の値であってもよいし、作業者により任意の値に設定されてもよい。
【0049】
培地試料の保存期間が閾値以上である場合には(ステップS309でYes)、LCMS制御部42の安定化処理部421及び標準試料測定処理部422により、分析後のLCMS3において安定化処理が実行されるとともに(ステップS310)、標準試料測定処理が実行される(ステップS311)。そして、ステップS302,S311でそれぞれ行われた標準試料測定処理の結果を用いて検量線が作成された後、LCMS3のクールダウンが行われる(ステップS312)。
【0050】
一方、培地試料の保存期間が閾値未満である場合には(ステップS309でNo)、分析後のLCMS3における安定化処理(ステップS310)及び標準試料測定処理(ステップS311)が省略される。この場合には、ステップS302で行われた標準試料測定処理の結果のみを用いて検量線が作成され、LCMS3のクールダウンが行われる(ステップS312)。
【0051】
このように、本実施形態では、培地試料の保存期間が比較的短い場合に(ステップS309でNo)、分析後のLCMS3における安定化処理及び標準試料測定処理が省略されるため、分析時間を短縮することができるとともに、分析に伴う消耗品(移動相など)の消費量を削減することができる。培地試料の保存期間が比較的短い場合、送液後に短時間で培地試料を評価する必要があるため、分析後のLCMS3における安定化処理及び標準試料測定処理を省略することにより精度よく分析を行うことができる。
【0052】
以上の実施形態では、制御部4が安定化処理部421として機能する場合について説明したが、安定化処理部421(安定化処理ステップ)が省略された構成であってもよい。また、本発明が適用される分析システムは、質量分析装置(MS部)を備えた構成であればよく、液体クロマトグラフ(LC部)を備えていない構成であってもよい。すなわち、質量分析装置と液体クロマトグラフが組み合わせられたLCMS3ではなく、質量分析装置のみが設けられた構成であってもよい。
【0053】
以上の実施形態では、分析システムの構成について説明したが、分析システムの制御部としてコンピュータを機能させるためのプログラム(分析制御プログラム)を提供することも可能である。この場合、上記プログラムは、記憶媒体に記憶された状態で提供されるような構成であってもよいし、プログラム自体が提供されるような構成であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 培養装置
2 前処理装置
3 LCMS
4 制御部
41 前処理制御部
42 LCMS制御部
411 前処理実行部
412 送液処理部
413 洗浄処理部
421 安定化処理部
422 標準試料測定処理部
423 分析処理部