特許第6773141号(P6773141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6773141絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773141
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20201012BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20201012BHJP
【FI】
   H02M1/08 A
   H02M7/48 Z
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-568024(P2018-568024)
(86)(22)【出願日】2017年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2017046341
(87)【国際公開番号】WO2018150737
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2017-27657(P2017-27657)
(32)【優先日】2017年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(72)【発明者】
【氏名】森 貴浩
【審査官】 東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/009582(WO,A1)
【文献】 特開平8−340245(JP,A)
【文献】 特開2007−252098(JP,A)
【文献】 特開2005−27429(JP,A)
【文献】 特開2014−93836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00− 7/98
H03K 17/00−17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁ゲート型半導体デバイスをそれぞれ駆動する複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を集積してなる、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路であって、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各々は、
対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに駆動電流を注入する定電流生成部と、
前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路と、
を備え、
前記定電流生成部は、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通の電源ラインにソースが接続され、カレントミラー回路を構成する第1トランジスタおよび第2トランジスタと、
前記カレントミラー回路の入力部となる前記第1トランジスタのドレインと、前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通のグランドラインとの間に接続され、参照値調整抵抗に基準電圧を印加することで定電流を生成する定電流回路と、
前記参照値調整抵抗の抵抗値を調整する抵抗値補正回路と、
を有し、
前記カレントミラー回路の出力部となる前記第2トランジスタのドレインは、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに接続され、
前記放電回路は、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートと、前記共通のグランドラインとの間に接続された第3トランジスタを有し、駆動信号を前記第3トランジスタのゲートに入力することで、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷が前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに引き抜かれ、
前記放電回路は、前記第3トランジスタのMOSサイズを補正して、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートから前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに流れる電流量を調整するMOSサイズ補正回路を更に有し、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各出力電流が均一に所定の設計値に近づくように、前記抵抗値補正回路が前記参照値調整抵抗の抵抗値を調整し、且つ、前記MOSサイズ補正回路が前記第3トランジスタのMOSサイズを補正し、
前記抵抗値補正回路は、MOSトランジスタと調整抵抗との並列回路が複数直列接続された直列回路と、シフトレジスタを用いて複数の前記並列回路の前記MOSトランジスタのそれぞれのオン/オフを試験的に選択して、前記絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が前記所定の設計値に一番近い時の前記シフトレジスタの内容を記憶したPROMとを有し、該PROMの記憶内容に従って複数の前記並列回路の前記MOSトランジスタのそれぞれを選択的にオン/オフさせた前記直列回路の合成抵抗を前記参照値調整抵抗とする、
ことを特徴とする絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【請求項2】
複数の絶縁ゲート型半導体デバイスをそれぞれ駆動する複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を集積してなる、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路であって、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各々は、
対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに駆動電流を注入する定電流生成部と、
前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路と、
を備え、
前記定電流生成部は、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通の電源ラインにソースが接続され、カレントミラー回路を構成する第1トランジスタおよび第2トランジスタと、
前記カレントミラー回路の入力部となる前記第1トランジスタのドレインと、前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通のグランドラインとの間に接続され、参照値調整抵抗に基準電圧を印加することで定電流を生成する定電流回路と、
前記参照値調整抵抗の抵抗値を調整する抵抗値補正回路と、
を有し、
前記カレントミラー回路の出力部となる前記第2トランジスタのドレインは、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに接続され、
前記放電回路は、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートと、前記共通のグランドラインとの間に接続された第3トランジスタを有し、駆動信号を前記第3トランジスタのゲートに入力することで、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷が前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに引き抜かれ、
前記放電回路は、前記第3トランジスタのMOSサイズを補正して、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートから前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに流れる電流量を調整するMOSサイズ補正回路を更に有し、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各出力電流が均一に所定の設計値に近づくように、前記抵抗値補正回路が前記参照値調整抵抗の抵抗値を調整し、且つ、前記MOSサイズ補正回路が前記第3トランジスタのMOSサイズを補正し、
前記抵抗値補正回路は、MOSトランジスタと調整抵抗との直列回路が複数並列接続された並列回路と、シフトレジスタを用いて複数の前記直列回路の前記MOSトランジスタのそれぞれのオン/オフを試験的に選択して、前記絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が前記所定の設計値に一番近い時の前記シフトレジスタの内容を記憶したPROMとを有し、該PROMの記憶内容に従って複数の前記直列回路の前記MOSトランジスタのそれぞれ選択的にオン/オフさせた前記並列回路の合成抵抗を前記参照値調整抵抗とする、
ことを特徴とする絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【請求項3】
複数の絶縁ゲート型半導体デバイスをそれぞれ駆動する複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を集積してなる、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路であって、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各々は、
対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに駆動電流を注入する定電流生成部と、
前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路と、
を備え、
前記定電流生成部は、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通の電源ラインにソースが接続され、カレントミラー回路を構成する第1トランジスタおよび第2トランジスタと、
前記カレントミラー回路の入力部となる前記第1トランジスタのドレインと、前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通のグランドラインとの間に接続され、参照抵抗に基準電圧を印加することで定電流を生成する定電流回路と、
前記基準電圧を調整する基準電圧調整回路と、
を有し、
前記カレントミラー回路の出力部となる前記第2トランジスタのドレインは、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに接続され、
前記放電回路は、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートと、前記共通のグランドラインとの間に接続された第3トランジスタを有し、駆動信号を前記第3トランジスタのゲートに入力することで、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷が前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに引き抜かれ、
記放電回路は、前記第3トランジスタのMOSサイズを補正して、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートから前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに流れる電流量を調整するMOSサイズ補正回路を更に有し、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が均一に所定の設計値に近づくように、前記基準電圧調整回路が前記基準電圧を調整し、且つ、前記MOSサイズ補正回路が前記第3トランジスタのMOSサイズを補正
前記基準電圧調整回路は、入力されたデータをアナログ値に変換し前記基準電圧として出力するD/Aコンバータと、シフトレジスタを用いて前記D/Aコンバータにそれぞれ異なる試験データを入力して、前記絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が前記所定の設計値に一番近い時の前記試験データを記憶したPROMとを有し、該PROMに記憶された試験データを前記D/Aコンバータに入力する、
ことを特徴とする絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【請求項4】
複数の絶縁ゲート型半導体デバイスをそれぞれ駆動する複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を集積してなる、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路であって、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各々は、
対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに駆動電流を注入する定電流生成部と、
前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路と、
を備え、
前記定電流生成部は、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通の電源ラインにソースが接続され、カレントミラー回路を構成する第1トランジスタおよび第2トランジスタと、
前記カレントミラー回路の入力部となる前記第1トランジスタのドレインと、前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通のグランドラインとの間に接続され、参照抵抗に基準電圧を印加することで定電流を生成する定電流回路と、
前記基準電圧を調整する基準電圧調整回路と、
を有し、
前記カレントミラー回路の出力部となる前記第2トランジスタのドレインは、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに接続され、
前記放電回路は、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートと、前記共通のグランドラインとの間に接続された第3トランジスタを有し、駆動信号を前記第3トランジスタのゲートに入力することで、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷が前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに引き抜かれ、
前記放電回路は、前記第3トランジスタのMOSサイズを補正して、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートから前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに流れる電流量を調整するMOSサイズ補正回路を更に有し、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が均一に所定の設計値に近づくように、前記基準電圧調整回路が前記基準電圧を調整し、且つ、前記MOSサイズ補正回路が前記第3トランジスタのMOSサイズを補正し、
前記第3トランジスタが、並列接続された複数のMOSトランジスタからなり、
前記MOSサイズ補正回路は、前記複数のMOSトランジスタのそれぞれのオン/オフを選択する選択回路と、シフトレジスタを用いて前記複数のMOSトランジスタのそれぞれのオン/オフを試験的に選択して、前記絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が前記所定の設計値に一番近い時の前記シフトレジスタの内容を記憶したEPROMとを有し、
前記選択回路は、前記EPROMの記憶内容に従って前記複数のMOSトランジスタのそれぞれ選択的にオン/オフさせる、
ことを特徴とする絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【請求項5】
記第2トランジスタに、前記共通の電源ラインから前記第2トランジスタのソース−ドレインを経て流れる電流量を調整する第2MOSサイズ補正回路を設ける、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【請求項6】
前記第2トランジスタは、並列接続された複数の第2MOSトランジスタからなり、
前記第2MOSサイズ補正回路は、前記複数の第2MOSトランジスタのそれぞれのオン/オフを選択する第2選択回路と、第2シフトレジスタを用いて前記複数の第2MOSトランジスタのそれぞれのオン/オフを試験的に選択して、前記絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が前記所定の設計値に一番近い時の前記第2シフトレジスタの内容を記憶した第2EPROMとを有し、
前記第2選択回路は、前記第2EPROMの記憶内容に従って前記複数の第2MOSトランジスタのそれぞれを選択的にオン/オフさせる、
ことを特徴とする請求項5に記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【請求項7】
前記カレントミラー回路を構成する前記第1トランジスタおよび前記第2トランジスタのそれぞれのゲートと前記共通の電源ラインとの間に接続された第4トランジスタを具備し、レベルシフト回路を介して前記駆動信号を前記第4トランジスタのゲートに入力する切替回路を有する、
ことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【請求項8】
前記絶縁ゲート型半導体デバイスは、IGBTであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ゲート型半導体デバイスを駆動する絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に関し、特に複数の絶縁ゲート型半導体デバイスに出力する出力電流のバラツキを調整可能とする絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、X相,Y相,Z相の各相に対応する絶縁ゲート型半導体デバイス(例.IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))を駆動する絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を集積した従来のIC(集積回路)のチップレイアウトを示す図である。図7においては、出力パッドとして、X相,Y相,Z相の各出力パッドが下段に示され、入力パッドとして、PGND(パワーグランド)のパッド、VCC(電源電圧)のパッドが上段に示されている。
【0003】
図7は、ICのパッドサイズを縮小できないことと、チップ面積を増大させられないことから、入力となる、VCC(電源電圧)およびPGND(パワーグランド)のパッドが各一つだけに限られる構成になっている。
【0004】
そのため、チップレイアウト構成として、例えばX相,Y相,Z相の3相の各相からPGND(パワーグランド)パッドに対するグランドラインの配線距離が相毎に互いに異なることとなり、したがって、各相おける入力及び出力の配線抵抗(例.IC内の配線には一般にアルミや銅が使用されるため)が主要因と考えられる出力電流の差(バラツキ)が生じてしまうという問題がある。
【0005】
また図7に示されるチップレイアウトについて更に補足すれば、3相個々の駆動部のレイアウト構成が同一になっていない。そのため、3相個々の駆動部のレイアウト構成におけるPGND(パワーグランド)パッドに接続されたグランドラインと電源ラインの長さは、それぞれで異なるものになっている。
【0006】
図7に示す3相個々の駆動部のレイアウト構成について1つのPGNDを基点にして3相の各出力パッド(OUTX、OUTY、OUTZ)に対するグランドラインの長さをイメージとして表すと図8に示すようになる。
【0007】
その結果、図8に示される1つのPGNDパッドからの共通配線(例.配線B)を経て3相の駆動部の各ローサイドNMOSトランジスタ(Nタイプ電界効果型トランジスタ)のソース、更に各ローサイドNMOSトランジスタのドレインから出力パッドへの配線(例.配線A)を経て1つのPGNDパッドから3相の各出力パッド(OUTX、OUTY、OUTZ)に至るグランドラインの長さが相毎に異なることから各配線長に基づく抵抗(配線抵抗)も異なるものとなる。
【0008】
図8に示される例について、PGNDからの各相の各出力パッドまでの配線抵抗を大雑把に捉えてみると、X相配線抵抗<Y相配線抵抗<Z相配線抵抗となり、Z相配線抵抗が一番大きくなる。ついでY相配線抵抗となり、X相配線抵抗が一番小さくなる。
【0009】
このため、3相の駆動部を同じように設計したとしても、図10に示されるように、結果的に3相個々の出力電流の特性を揃える(同一化する)ことができないという問題があった。
【0010】
図9Aは、3相の各相(一例としてX相)における従来の駆動部が、ハイサイドのPMOSトランジスタ(PチャネルのMOS電界効果型トランジスタ)により絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートを充電する様子を示す図である。また図9Bは、図9Aに示した駆動部がローサイドのNMOSトランジスタ(NチャネルのMOS電界効果型トランジスタ)により絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートの電荷を放電する様子を示す図である。
【0011】
図9A及び図9Bを用いて従来の駆動回路の駆動部(出力ドライバ)の構成を説明する。従来の駆動部は、図9A及び図9Bに示すように、X相IGBT回路60を定電流駆動するために、2つPMOSトランジスタ54,55をカレントミラー構成にし、カレントミラーの出力部を構成するPMOSトランジスタ55のドレインからIGBT57のゲートに定電流を注入してIGBT57を駆動する定電流回路58を有している。
【0012】
定電流回路58内の2つのPMOSトランジスタ(MP1、MP2)54,55はカレントミラーを形成している。カレントミラーを形成するMP1(54)、MP2(55)のソースは不図示の電源電圧Vccに接続された電源ラインに接続され、カレントミラーの入力部を構成するMP1(54)のドレインは、NMOSトランジスタ(MN1)52のドレインに接続されている。
【0013】
またMP1(54)とMP2(55)のゲートはMP1(54)のドレインに接続されている。
【0014】
NMOSトランジスタのMN1(52)のゲートはオペアンプ(AMP1)51の出力に接続されている。AMP1(51)の非反転入力には所定の基準電圧V1が入力される。またAMP1(52)の反転入力はMN1(52)のソースに接続されている。
【0015】
そしてMN1(52)のソースは抵抗R1(53)の一端に接続され、抵抗R1(53)の他端はPGNDパッドに接続されたグランドライン(GND)に接続されている。
【0016】
上記構成において、放電回路59に設けられているNMOSトランジスタ(MN2)56のゲートへの入力電圧がローレベルLであるときに、カレントミラーの入力部に所定の定電流が流れると、カレントミラー作用により2次側のMP2(55)のドレインからX相IGBT57のゲートに入力部に流れる電流に比例した大きさの電流(IOUTH)が注入されて、X相IGBT57のゲートが充電され、ゲート電圧が閾値を超えることでX相IGBT57がオンする。なお、カレントミラーの入力部に流れる電流値の調整は、MN1(52)のソースに接続されている、抵抗R1(53)の値を適切に選定することにより成されている。
【0017】
一方、図9Bにおいて、ローサイドに設けたNチャネル電界効果型トランジスタのMN2(56)のゲートへの入力電圧がハイレベルHになると、放電回路59内のMN2(56)が導通し、図9Aに示したIGBTを駆動するための充電電流とは反対方向に放電電流(IOUTL)が流れ、この放電電流が充電電流より大きいため、IGBT57のゲートの電荷がグランド(GND)に引き抜かれる。
【0018】
上記ではもっぱらX相IGBT回路60の動作について説明したが、他の相、すなわちY相IGBT回路及びZ相IGBT回路についても同様であるためその説明を省く。その場合、図9A及び図9Bに示す、電源ラインおよびグランドラインの配線によって生じる寄生抵抗Rx1〜Rx3が各相で相異することになるため、設計上同じMOSサイズ(例.ゲート幅)になるようにしていても各相の出力電流は、図10に示すように差(バラツキ)が生じる。
【0019】
図9A及び図9Bに示すカレントミラー方式では、オペアンプ(AMP1)が接続される1次側のPMOSトランジスタ54(MN1)のドレインに流れる電流に比例する量の電流を、ミラー効果として2次側のPMOSトランジスタ55(MP2)のドレインからX相IGBT57のゲートに対して駆動電流を流すようにしている。
【0020】
またカレントミラーの電流調整は、オペアンプ出力に接続されているNMOSトランジスタ(MN1)のソース-PGND間に接続されている抵抗(R1)の値によって決定されている。
【0021】
ここで図9A及び図9Bについての説明を補足すれば、図9A及び図9Bの左部に示されるオペアンプ(AMP1)51に入力される電圧V1は、3相の各回路で共通にされているものの、図7のチップ内に含まれる駆動電圧V1を生成する回路(不図示)から3相の各回路レイアウトへの配線距離が異なるので、駆動電圧V1を生成する回路(不図示)からのPGND(パワーグランド)のラインと電源ラインのドロップが、3相の各回路レイアウトでそれぞれ異なったものになってしまう。すなわち、異なる配線抵抗が介在することとなるため、3相の各回路における出力電流の大きさにバラツキ(差)が生じるものとなる。
【0022】
図10は、従来の3相単一のIC出力ドライバの各相(X,Y,Z)の出力電流波形を示す図であり、図7に示した各相(X,Y,Z)の駆動部の出力を受けるMOSの、MOSサイズ(例.ゲート幅)と出力電流の大きさの関係を示す図である。図10から分かるように、所定のMOSサイズに対する各相(X,Y,Z)の出力電流の大きさは、X相>Y相>Z相となり、X相,Y相およびZ相間で一致していない(異なるものとなっている)。
【0023】
また下記に示す特許文献1には、並列接続された二つのトランジスタQ1,Q2の電流駆動能力が揃うゲート電圧を試験で求め、それに基づく試験結果のデータをメモリに格納し、駆動回路がメモリから読み出した前記試験結果のデータに基づく電圧をトランジスタQ1,Q2のゲートに印加し、印加された各ゲート電圧で上記トランジスタQ1,Q2を交互に駆動する半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2013−098243号公報(図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
図9A及び図9Bに示された上記従来の回路構成例では、仮に各相の駆動部の回路構成が同性能に作成されても、図8に示されるように、3相の各相のPGNDまでに異なる配線抵抗が内包されてしまうため、出力電流の大きさにバラツキ(差)が生じてしまうという問題があった。
【0026】
また上記特許文献1に記載された半導体装置は、メモリに格納された試験結果のデータを駆動回路がメモリから読み出し、そのデータに基づく電圧を駆動回路がゲート電圧としてそのままトランジスタQ1,Q2のゲートに印加してしまう(駆動回路から出力される電圧が直ちにゲート電圧となる)構成となっているので、トランジスタQ1,Q2が大電流を扱うような場合には、スイッチング時のノイズが問題となる。
【0027】
ノイズが問題となるケースでは、大容量のトランジスタのゲートを定電流で充放電する回路にする必要があるため、ゲート電圧ではなく、充電電流および放電電流を揃えないとノイズの問題を解消することができない。
【0028】
そこで本発明の目的は、複数の絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに出力する出力電流のバラツキをPROM補正で調整可能とする絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様は、複数の絶縁ゲート型半導体デバイスをそれぞれ駆動する複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を集積してなる、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路であって、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各々は、
対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに駆動電流を注入する定電流生成部と、
前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路と、
を備え、
前記定電流生成部は、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通の電源ラインにソースが接続され、カレントミラー回路を構成する第1トランジスタおよび第2トランジスタと、
前記カレントミラー回路の入力部となる前記第1トランジスタのドレインと、前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通のグランドラインとの間に接続され、参照値調整抵抗に基準電圧を印加することで定電流を生成する定電流回路と、
前記参照値調整抵抗の抵抗値を調整する抵抗値補正回路と、
を有し、
前記カレントミラー回路の出力部となる前記第2トランジスタのドレインは、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに接続され
前記放電回路は、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートと、前記共通のグランドラインとの間に接続された第3トランジスタを有し、駆動信号を前記第3トランジスタのゲートに入力することで前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷が前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに引き抜かれ、
前記放電回路は、前記第3トランジスタのMOSサイズを補正して、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートから前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに流れる電流量を調整するMOSサイズ補正回路を更に有し
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が均一になるように、前記抵抗値補正回路が前記参照値調整抵抗の抵抗値を調整し、且つ、前記MOSサイズ補正回路が前記第3トランジスタのMOSサイズを補正する、ことを特徴とする。
【0030】
上記記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路において、
前記抵抗値補正回路は、MOSトランジスタと調整抵抗の並列回路が複数直列接続された直列回路を有し、複数の前記並列回路のMOSトランジスタのそれぞれのゲートにPROMから出力される信号を入力することにより前記MOSトランジスタをオン/オフさせた前記直列回路の合成抵抗を前記参照値調整抵抗とする、ことを特徴とする。
【0031】
また上記記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路において、
前記抵抗値補正回路は、MOSトランジスタと調整抵抗の直列回路が複数並列接続された並列回路を有し、複数の前記直列回路の前記MOSトランジスタのそれぞれのゲートにPROMから出力される信号を入力することにより前記MOSトランジスタをオン/オフさせた前記並列回路の合成抵抗を前記参照値調整抵抗とする、ことを特徴とする。
【0032】
また上記課題を解決するために本発明の第2の態様は、複数の絶縁ゲート型半導体デバイスをそれぞれ駆動する複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路を集積してなる、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路であって、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の各々は、
対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに駆動電流を注入する定電流生成部と、
前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路と、
を備え、
前記定電流生成部は、
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通の電源ラインにソース接続され、カレントミラー回路を構成する第1トランジスタおよび第2トランジスタと、
前記カレントミラー回路の入力部となる前記第1トランジスタのドレインと、前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に共通のグランドラインとの間に接続され、参照抵抗に基準電圧を印加することで定電流を生成する定電流回路と、
前記基準電圧を調整する基準電圧調整回路と
を有し、
前記カレントミラー回路の出力部となる前記第2トランジスタのドレインは、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに接続され
前記放電回路は、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートと、前記共通のグランドラインとの間に接続された第3トランジスタを有し、駆動信号を前記第3トランジスタのゲートに入力することで前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートに注入された電荷が前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに引き抜かれ、
前記基準電圧調整回路は、PROMから出力される信号が入力されるD/Aコンバータを備え、該D/Aコンバータの出力を前記基準電圧とし、
前記放電回路は、前記第3トランジスタのMOSサイズを補正して、前記対応する絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートから前記第3トランジスタのドレイン−ソースを経て前記共通のグランドラインに流れる電流量を調整するMOSサイズ補正回路を更に有し
前記複数の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流が均一になるように、前記基準電圧調整回路が前記基準電圧を調整し、且つ、前記MOSサイズ補正回路が前記第3トランジスタのMOSサイズを補正する、ことを特徴とする。
【0033】
上記第1又は第2の態様の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路において、
前記第3トランジスタが並列接続された複数のMOSトランジスタからなり、
前記MOSサイズ補正回路は、前記複数のMOSトランジスタのゲートにそれぞれ接続された選択回路を有し、
前記選択回路はEPROMから出力された信号に応じて前記駆動信号と前記MOSトランジスタをオフさせる信号のいずれかを選択してMOSトランジスタのゲートに入力する、ことを特徴とする。
【0034】
また上記第1又は第2の態様の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路において、
前記第2トランジスタに、前記共通の電源ラインから前記第2トランジスタのソース−ドレインを経て流れる電流量を調整する第2MOSサイズ補正回路を設ける、ことを特徴とする。
【0035】
さらに上記記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路において、
前記第2MOSサイズ補正回路は、PROMから出力される信号に応じて選択した複数のMOSトランジスタを並列接続させて前記第2トランジスタとする、ことを特徴とする。
【0037】
さらに上記いずれかに記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路において、
前記カレントミラー回路を構成する前記第1トランジスタおよび前記第2トランジスタのそれぞれのゲートと前記共通の電源ラインとの間に接続された第4トランジスタを具備し、レベルシフト回路を介して前記駆動信号を前記第4トランジスタのゲートに入力する切替回路を有することを特徴とする。
【0038】
また上記いずれかに記載の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の集積回路において、
前記絶縁ゲート型半導体デバイスは、IGBTであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、複数の出力電流にバラツキが発生しても、その量に応じてPROM補正することにより、パワーモジュール製品の複数の出力電流の駆動特性を均一化させて、安定したスイッチング特性を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の実施形態1に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の駆動部の構成を示す図である。
図2図1に示した参照抵抗補正回路の構成例1を示す図である。
図3図1に示した参照抵抗補正回路の構成例2を示す図である。
図4】本発明の実施形態2に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の駆動部の構成を示す図である。
図5】本発明の実施形態1及び2に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路に設けるMOSサイズ補正回路の構成例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流特性を示す図である。
図7】従来の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の3相単一のIC出力ドライバのチップレイアウトを示す図である。
図8】従来の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の3相単一のICドライバに内包される配線抵抗イメージを示す図である。
図9A】従来の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の駆動部のハイサイドPMOSトランジスタによる駆動の様子を示す図である。
図9B図9Aに示した駆動部のローサイドNMOSトランジスタによる駆動の様子を示す図である。
図10】従来の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の出力電流特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
[実施形態1]
【0042】
図1は、本発明の実施形態1に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の駆動部の構成を示す図である。
【0043】
本実施形態の絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路は、3相の各相の絶縁ゲート型半導体デバイス(例.IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))のゲートを駆動するための充放電電流を供給するものである。図1は、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路のうちの1相分(一例としてX相)の構成を示すものであり、IGBT1を駆動するためにカレントミラー方式を採用した定電流生成部11と、駆動信号に応じてIGBT1のゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路13と、バッファ6を介して駆動信号を放電回路13に供給するとともに、レベルシフト回路7を介して駆動信号をPMOSトランジスタ3のゲートに入力して絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートの充電/放電を切り替える切替回路12と、を備えて構成されている。
【0044】
図1において絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路は、例として、X相の絶縁ゲート型半導体デバイスであるIGBT1のゲートを定電流駆動(充電)するためにカレントミラー方式を採用した定電流生成部11を設けている。
【0045】
定電流生成部11は、カレントミラーを形成する2つのPチャネル電界効果型トランジスタ(PMOS)2,4を有している。
【0046】
PMOSトランジスタ2、PMOSトランジスタ4のソースは電源電圧Vccに接続された電源ラインに接続され、PMOSトランジスタ4のドレインは、NMOSトランジスタ8のドレインに接続されている。
【0047】
またPMOSトランジスタ4とPMOSトランジスタ2のゲートはPMOSトランジスタ4のドレインに接続されている。
【0048】
またPMOSトランジスタ3のソースは、電源電圧Vccに接続された電源ラインに接続され、ドレインは、PMOSトランジスタ2,4のゲートに接続され、ゲートは、レベルシフト回路7の出力に接続されている。レベルシフト回路7の入力およびバッファ6には、駆動信号が入力される。
【0049】
レベルシフト回路7は、PMOSトランジスタ3のゲートに入力される電圧の調整に使用される。バッファ6の出力は、放電回路13内のNMOSトランジスタ5のゲートに入力され、NMOSトランジスタ5がオンすることで、IGBT1のゲートがPGND(パワーグランド)のパッドに接続されたグランドライン(GND)に接続される。
【0050】
PMOSトランジスタ4のドレインとNMOSトランジスタ8のドレインが接続され、NMOSトランジスタ8のゲートはオペアンプ9の出力に接続されている。オペアンプ9の非反転入力には駆動回路の内部で定められた基準電圧VREFが入力される。またオペアンプ9の反転入力はNMOSトランジスタ8のソースに接続されている。
【0051】
そしてNMOSトランジスタ8のソースは参照値調整抵抗Rref(10)の一端に接続され、参照値調整抵抗Rref(10)の他端はグランドライン(GND)に接続されている。
【0052】
オペアンプ9の2つの入力の仮想短絡により、参照値調整抵抗Rref(10)の一端の電位は基準電圧VREFとなっているため、参照値調整抵抗Rref(10)には基準電圧VREFとグランドラインとの電位差に応じた電流が流れ、この電流がカレントミラーの入力部であるPMOSトランジスタのドレインに流れる。
【0053】
上記における参照値調整抵抗Rref(10)は、例えば図2又は図3のいずれかに示す参照抵抗補正回路によって実現される。これについては後述する。
【0054】
上記構成において、放電回路13に設けられているNMOSトランジスタ5のゲートへの入力電圧がローレベルLであるときにカレントミラーの入力部であるPMOSトランジスタのドレインに所定の定電流Iが流れると、PMOSトランジスタ3がオフとなるため、カレントミラーの出力部であるPMOSトランジスタ2のドレインからX相IGBT1のゲートに定電流Ioに比例する大きさの電流(OUT)が流れ、その電流がX相IGBT1のゲートに注入され、充電されたIGBT1のゲート電圧が閾値を超えることでX相IGBT1がオンする。
【0055】
一方、放電回路13に設けられているNMOSトランジスタ5のゲートへの入力電圧がハイレベルHになると、放電回路13内のNMOSトランジスタ5が導通し、上記したIGBT1を駆動するためにゲートに注入されていた電流が反対方向の電流となって、IGBT1のゲートからグランドライン(GND)に引き抜かれる。このときPMOSトランジスタ3が導通してPMOSトランジスタ2,4のゲート・ソース間電圧がゼロになるため、カレントミラーから電流が出力されなくなっている。
【0056】
この動作を所定のタイミングで繰り返すことでX相IGBT1がオン/オフされることになる。
【0057】
図2は、図1に示した参照抵抗補正回路100の構成例1を示す図である。図2において、参照値調整抵抗Rref(10)は、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory(以下同じ))20から得られる出力をMOSトランジスタT〜Tのゲートに入力することによりMOSトランジスタT〜Tをオン/オフすることでMOSトランジスタT〜Tのドレイン−ソース間に接続されている調整用抵抗R〜Rの不活性/活性を調整することで参照抵抗の理想値になるよう補正する。すなわち、トランジスタTi(i=1〜m)をオンにするとそれに対応した調整用抵抗Riの両端が短絡されて調整用抵抗Riが不活性となり、トランジスタTiをオフにすると調整用抵抗Riの両端が短絡されず、調整用抵抗Riが活性となる。
【0058】
図3は、図1に示した参照抵抗補正回路100の構成例2を示す図である。図2において、参照値調整抵抗Rref(10)は、EPROM20から得られる出力をMOSトランジスタT〜Tのゲートに入力することによりMOSトランジスタT〜Tをオン/オフする。それによりMOSトランジスタT〜Tのソース−グランドライン(GND)間に接続されている調整用抵抗R〜Rの活性/不活性を調整することで参照抵抗の理想値になるよう補正する。すなわち、トランジスタTi(i=1〜m)をオフにするとそれに対応した調整用抵抗Riが切り離されて調整用抵抗Riが不活性となり、トランジスタTiをオンにすると調整用抵抗Riが接続されて調整用抵抗Riが活性となる。
【0059】
EPROMに格納するデータは、素子測定(ウェハ測定)における電流測定により決定している。例えば、EPROMへの書込みの前に、試験時にEPROMの代わりにトランジスタTi(i=1〜m)のオン/オフを決めるシフトレジスタ(不図示)を使用してトランジスタTiを取捨選択しながら電流値を確認し、電流値が設計値に一番近いときシフトレジスタの内容をEPROMへ書込むようにしている。
【0060】
上記において定電流生成部11の1次側の電流が理想値になった場合には、図1のカレントミラーの1次側の電流は定電流となり、いま定電流をIo、EPROM補正により理想値にされた参照値調整抵抗をRrefとした時、定電流Ioは次式(1)によって求めることができる。
Io=VREF/Rref ・・・(1)
【0061】
次に、放電回路13に設けられているNMOSトランジスタ5のドレイン−ソースを経て引き抜かれるゲートに注入された電流の電流値補正は、図5のMOSサイズ補正回路300によって実施される。これについては、本発明の実施形態2を説明した後に説明することとする。
【0062】
以上のように、本発明の実施形態1に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路は、複数相においてハイサイドに設けたPMOSトランジスタによるカレントミラーに入力される定電流Ioを決めるために、NMOSトランジスタソースに接続された参照抵抗10をEPROM補正する。さらにローサイドNMOSトランジスタのMOSサイズ(例.ゲート幅)をEPROM補正して、パワーモジュール製品の構成上の制約から配線抵抗を内包しつつも複数相における出力電流の特性を同一化することが可能となる。

【0063】
図4は、本発明の実施形態2に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の駆動部の構成を示す図である。
【0064】
本発明の実施形態2に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の駆動部は、図1に示した本発明の実施形態1に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路の駆動部と同様に、3相の各相の絶縁ゲート型半導体デバイス(例.IGBT)のゲートを駆動するための充放電電流を供給するものである。図4は、絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路のうちの1相分(一例としてX相)の駆動部の構成を示すものであり、IGBT1を駆動するために、カレントミラー方式を採用した定電流生成部18と、駆動信号に応じてIGBT1のゲートに注入された電荷を引き抜く放電回路13と、バッファ6を介して駆動信号を放電回路13に供給するとともに、レベルシフト回路7を介して駆動信号をPMOSトランジスタ3のゲートに入力して絶縁ゲート型半導体デバイスのゲートの充電/放電を切り替える切替回路12と、を備えて構成されている。
【0065】
図4においては、PMOSトランジスタ4のドレインとNMOSトランジスタ8のドレインが接続され、NMOSトランジスタ8のゲートはオペアンプ9の出力に接続されている。オペアンプ9の非反転入力には、図1の構成と異なり、EPROMにより基準電圧VREFが理想的な基準電圧となるよう調整される基準電圧調整回路200が設けられており、該調整回路200により調整された基準電圧VREFが入力される。これについては後述する。またオペアンプ9の反転入力はNMOSトランジスタ8のソースに接続されている。
【0066】
そしてNMOSトランジスタ8のソースは、図1の構成と異なり、予め設定された値を有する参照抵抗Rref(15)の一端に接続され、参照抵抗Rref(15)の他端はグランドライン(GND)に接続されている。
【0067】
上記した基準電圧調整回路200の構成は、EPROM補正技術を用いて実現される。すなわち、基準電圧調整回路200はD/Aコンバータ201およびEPROM202を有し、D/Aコンバータ201はEPROM202から出力される値をアナログの電圧値に変換して、これを基準電圧としてオペアンプ9の非反転入力に入力する。EPROMに格納するデータは、例えば試験時にEPROMの代わりとなるシフトレジスタなどを用いて、外部からD/Aコンバータ201に試験データを入力して対応する参照抵抗Rref(15)に流れる電流の値を確認しながら求めた、電流値が設計値に一番近いときの試験データである。
【0068】
また、放電回路13に設けられているNMOSトランジスタ5のドレイン−ソースを経てIGBT1のゲートに注入された充電電流を引き抜く電流の電流値補正は、NMOSトランジスタ5のMOSサイズを調整することにより行う。MOSサイズの調整については、上記実施形態1においても使用されているので、以下まとめて図5のMOSサイズ補正回路300を説明する。
【0069】
MOSサイズ補正回路300は、選択回路301i(i=0〜n)とNMOSトランジスタ5iからなるMOS選択回路300iが(n+1)個並列接続された構成となっている。図5はMOS選択回路300iの構成を示すものである。
【0070】
図5において、選択回路301iは、NMOSトランジスタ5iのゲートに与える信号としてバッファ6を介して得られる駆動信号およびNMOSトランジスタ5iをオフするグランド電位のどちらにするかを、EPROM20から入力される値によって選択するものである。すなわち、EPROM20から得られた入力信号がハイレベルHならば、インバータ(INV)31の出力がローレベルLとなり、NMOSトランジスタ32は遮断されると共にNMOSトランジスタ33は導通して、NMOSトランジスタ5iのゲートはグランドライン(GND)となるためNMOSトランジスタ5iはオフとなり、NMOSトランジスタ5iのドレイン−グランドライン(GND)に流れるはずの引き抜き電流は遮断される。
【0071】
一方、EPROM20から得られた入力信号が、ローレベルLならば、インバータ(INV)31の出力がハイレベルHとなって、バッファ6の出力がNMOSトランジスタ32を通過すると共にNMOSトランジスタ33はオフとなるため、バッファ6の出力がNMOSトランジスタ5iのゲートに入力され、NMOSトランジスタ5iは駆動信号によりオン/オフされる。
【0072】
このようにして、EPROM20に格納されたデータにより(n+1)個のNMOSトランジスタ5iを取捨選択することにより、トータルでのMOSサイズ(例.ゲート幅)の補正を行って引き抜く電流の電流値が理想値に近くなるようにする。
【0073】
EPROM20に格納されるデータは、試験時にIGBT1のゲートに注入された充電電流を引き抜く電流を測定しながら行う。すなわち、図5のNMOSトランジスタ5iにおいて、ウェハ試験による電流測定において、例えばEPROMへの書込みの前にEPROMの代わりとなるシフトレジスタ(不図示)を使用して(n+1)個設けられるNMOSトランジスタを取捨選択しながら電流値の確認を行い、電流値が設計値に一番近いときのトータルのシフトレジスタの内容をEPROMへの書込みデータとする。
【0074】
MOSサイズ補正回路300によるトータルのゲート幅の一例を数式で示しておく。まず、トランジスタ5iのゲート幅をW、トランジスタ5(i=0)のゲート幅をWとしたとき、NMOSトランジスタ5iのゲート幅が、
=W×2 (i=1〜n)・・・・・・・・・・・・・(2)
で表されるものとする。
【0075】
そしてNMOSトランジスタ5iに対するEPROM20からの信号をPi、その反転信号をPiとすると、n+1個並列接続された上での合成されたゲート幅Wtotalは、
total=((P)+(P)×2+(P)×22+・・・・+(P)×2)W・・・(3)
として求めることが可能となる。
【0076】
なお、図4においては、定電流生成部18の構成要素である、カレントミラーを形成する2つのPチャネル電界効果型トランジスタ(PMOS)2,4のうち、PMOSトランジスタ2が出力するカレントミラー電流のコピー精度が下がることが考えられる。
【0077】
その場合には、図5に示したと同様のMOSサイズ補正回路300’(MOS選択回路300i’)をPMOSトランジスタ2に付加するようにする。
【0078】
この場合、PMOSトランジスタ2に設けるMOSサイズ補正回路300’は、図5に示したMOS選択回路300iにおける各トランジスタがPMOSトランジスタに変更されることに伴い、EPROM20からの信号の論理レベルが図5とは逆なるのを除けば、図5に示す構成と同じとなるためその説明を省略することにする。
【0079】
MOSサイズ補正回路300’で補正すべき電流は、ミラー効果電流の精度を設計値に近づけるためであり、図5の構成と同様に複数並列接続されるMOS選択回路300i’とEPROMを設けることになる。
【0080】
EPROMに格納するデータについては、EPROMへの書込みの前に、例えば試験時にEPROMの代わりとなる素子内に設けられているシフトレジスタ(不図示)を使用して並列接続されるPMOSトランジスタを取捨選択しながらその都度電流値の確認を行い、電流値が設計値に一番近いときのシフトレジスタの内容をEPROMへの書込みデータとする。
【0081】
以上のように、本発明の実施形態2に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路は、複数相でハイサイドに設けたオペアンプの基準電圧をEPROM補正し、さらにローサイドNMOSトランジスタおよび又はハイサイドのPMOSトランジスタについてMOSサイズ(例.ゲート幅)をEPROM補正して、パワーモジュール製品の構成上の制約から配線抵抗を内包しつつも複数相における出力電流の特性を同一化することが可能となる。
【0082】
図6は、本発明の実施形態1および2に係る絶縁ゲート型半導体デバイス駆動回路におけるEPROM補正を実施したことによって、従来のX相,Y相およびZ相間における出力電流値の特性が図10に示されるようにバラバラであったものが、本実施形態によってX相,Y相およびZ相間における出力電流値の特性が図6に示されるように同一化される。
【0083】
このようにX相,Y相およびZ相間における出力電流値の特性が同一化されることで、パワーモジュール製品の構成上の制約から配線抵抗を内包しつつも複数相(例.3相)の出力電流を均一化して、安定したスイッチング特性を実現することができる。
【0084】
なお、本発明の精神を逸脱しない限りにおいて、各実施の形態を適宜、変形したり、削除したり、或いは、任意に組み合わせたりすることが可能である。
【0085】
例えば、EPROMとして記載したメモリは必ずしもErasableである必要はなく、単なるPROM(Programmable Read Only Memory)であってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10