(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
転炉と、前記転炉に、粉体脱りん剤、及び酸素ガスを吹き込む上吹きランスと、前記上吹きランスに前記酸素ガスを供給する酸素供給装置と、前記上吹きランスに前記粉体脱りん剤を供給する粉体供給装置とを備え、前記上吹きランスの下端面には、前記粉体脱りん剤及び前記酸素ガスを噴出するノズルが複数配置され、前記転炉の炉底には、前記ノズルと同数の底吹き羽口が配置された脱りん処理装置を用いた脱りん処理方法であって、
前記転炉に溶銑を保持し、前記ノズルから噴出される上吹きジェットの中心軸と前記溶銑の浴面との交点の位置Uと前記底吹き羽口の位置から鉛直上方に引いた直線と前記溶銑の浴面との交点の位置Sとの距離(線分SUの長さ)が最小となるノズル及び底吹き羽口の各組のすべてにおいて、以下の式(1)の条件を満たすように前記上吹きランスの高さを調整し、
前記底吹き羽口から前記溶銑中へ吹き込まれた底吹きガスが片側12°で広がりながら浮上することによって生成されるプルーム領域に、前記酸素ガスと共に前記上吹きランスから前記粉体脱りん剤を吹き付けることを特徴とする脱りん処理方法。
線分SUの長さ≦L0・tan6° ・・・(1)
ここで、L0は前記溶銑の浴深(mm)を表す。
前記複数のノズルが前記上吹きランスの中心軸に対して同心円状に配置され、前記上吹きランスの中心軸と前記ノズルの中心軸との間の傾斜角θがすべてのノズルにおいて同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱りん処理方法。
前記上吹きランスの中心軸と溶銑との交点の位置をOとした場合に、線分OSの長さが300mm以上であり、且つ前記上吹きランスの中心軸と前記ノズルの中心軸との間の傾斜角θが25°以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱りん処理方法。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材に対する要求が高度化し、低りん鋼に対する需要が増加している。現在、溶銑の脱りん処理は、熱力学的に有利な溶銑段階の低温条件において処理する方法によって、広く一般に行われている。溶銑脱りん装置としては上底吹き転炉が適している。それは、脱りんに必要な酸化剤として、固体酸化剤に比べて熱ロスの少ない気体酸素を、上吹きランスから高速で溶銑に吹き付けることが可能なためである。
【0003】
溶銑の脱りんは、溶銑段階の低温条件において行われるため、脱りん剤として使用されるCaOの滓化を促進させることが重要である。融点が2300℃以上と非常に高いCaOを滓化するには蛍石(CaF
2)の使用が効果的であるが、蛍石を使用した場合にはCaOの滓化により発生したスラグがフッ素(F)を含有するため、スラグの再利用先が大幅に制限されるなどの弊害が大きい。そのため、蛍石を用いないCaO滓化促進方法が開発されてきた。
【0004】
その方法として、例えば、蛍石やカルシウムフェライトを使用せずにCaOを効率よく滓化して低りん鋼を溶製する方法として、上吹きランスよりCaO粉、Al
2O
3粉およびFe
2O
3粉を含有する混合粉を酸素ガスジェットと共に溶銑の浴面へ吹き付ける方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法では、Al
2O
3やFe
2O
3がCaOと反応して低融点のCaO−Al
2O
3−FeO融体を容易に形成し、脱りん反応が極めて効率的に進行する。
【0005】
しかしながら、この方法では上吹き混合粉を溶銑浴深く侵入させて、CaO−Al
2O
3−FeO融体の脱りん利用効率を高めて溶銑中[P]を極低濃度まで低減するために上吹きジェット動圧を高めるとスピッティングが増加し、炉内への地金付着量が増加してしまうという問題が生じてしまう。
【0006】
また、吹錬前半にCaO含有カバースラグを形成し、そのカバースラグの塩基度(重量比:CaO/SiO
2)が0.4〜1.5で、その後、CaO粉とAl
2O
3粉およびFe
2O
3粉の混合粉を上吹きする溶銑脱りん方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法では脱りん吹錬前半に低融点のカバースラグを形成させることで、スピッティング量を低減できるとしている。
【0007】
しかしながら、溶銑脱りん吹錬前半は低温で推移するため、装入塩基度が特に1.3〜1.5となるように塊CaOを添加すると、吹錬前半に塊CaOは溶解しきれず脱りん利用効率が低くなってしまう。また、溶銑脱りん処理後もスラグ中に未溶解CaOが残留してしまい、脱りんスラグを路盤材等へ有効活用する際に問題となる。それを回避するために、低融点のカルシウムフェライトを用いてカバースラグを形成させる場合は、コストがかかるという問題が生じる。
【0008】
以上のようにスピッティングを抑制しながら極低りん溶銑を溶製する場合には、低コストにかつ高効率に脱りん処理を行うことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前述の問題点を鑑み、スピッティングを抑制しながら低コストかつ高効率に極低りん溶銑を溶製できる
脱りん処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、底吹き羽口から底吹きガスが吹き込まれることによって溶面に形成されるプルーム領域では、底吹きガスのバブルによって混合粉が溶銑内部まで浸透するため、ジェットの動圧を上げずに効率良く脱りん処理を行うことができることに着目した。そこで、本発明を完成させるにあたって、上底吹きを有する転炉へ溶銑を装入し、4〜6個のノズルを有する上吹きランスから、酸素ガスと共にCaO粉、CaCO
3粉のどちらか一方もしくは両方とAl
2O
3粉の混合粉を溶銑浴面へ吹き付け、上吹きノズルと同数の底吹き羽口からガスを吹き込んで、スピッティングによる炉内地金付着挙動および脱りん挙動を調査した。その結果、上吹きジェットとプルーム領域との幾何学的な位置関係を適正に制御することで、スピッティングによる炉内地金付着を回避し且つ高効率に、すなわちCaOの脱りん利用効率を向上して極低りん溶銑([C]≧3.2質量%、[P]≦0.015質量%)を溶製できる脱りん処理装置およびその装置を用いた溶製方法を見出した。
【0012】
本発明は以下の通りである。
(1)転炉と、前記転炉に、粉体脱りん剤、及び酸素ガスを吹き込む上吹きランスと、前記上吹きランスに前記酸素ガスを供給する酸素供給装置と、前記上吹きランスに前記粉体脱りん剤を供給する粉体供給装置とを備え、前記上吹きランスの下端面には、前記粉体脱りん剤及び前記酸素ガスを噴出するノズルが複数配置され、前記転炉の炉底には、前記ノズルと同数の底吹き羽口が配置された脱りん処理装置を用いた脱りん処理方法であって、
前記転炉に溶銑を保持し、前記ノズルから噴出される上吹きジェットの中心軸と前記溶銑の浴面との交点の位置Uと前記底吹き羽口の位置から鉛直上方に引いた直線と前記溶銑の浴面との交点の位置Sとの距離(線分SUの長さ)が最小となるノズル及び底吹き羽口の各組のすべてにおいて、以下の式(1)の条件を満たすように前記上吹きランスの高さを調整し、
前記底吹き羽口から前記溶銑中へ吹き込まれた底吹きガス
が片側12°で広がりながら浮上することによって生成されるプルーム領域に、前記酸素ガスと共に前記上吹きランスから前記粉体脱りん剤を吹き付けることを特徴とする脱りん処理方法。
線分SUの長さ≦L
0・tan6° ・・・(1)
ここで、L
0は前記溶銑の浴深(mm)を表す。
(2)前記粉体脱りん剤は、CaO源を主体とする粉体とAl
2O
3源を主体とする粉体との混合粉であって、CaO、CaCO
3及びAl
2O
3の3成分の合計質量濃度が90%以上、かつ、(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)が0.05〜0.20である混合粉であることを特徴とする上記(1)に記載の脱りん処理方法。
(3)前記複数のノズルが前記上吹きランスの中心軸に対して同心円状に配置され、前記上吹きランスの中心軸と前記ノズルの中心軸との間の傾斜角θがすべてのノズルにおいて同一であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の脱りん処理方法。
(4)前記上吹きランスの中心軸と溶銑との交点の位置をOとした場合に、線分OSの長さが300mm以上であり、且つ前記上吹きランスの中心軸と前記ノズルの中心軸との間の傾斜角θが25°以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の脱りん処理方法。
(5)前記底吹き羽口から前記底吹きガスとしてN
2ガスを溶銑中へ流量0.1〜0.6Nm
3/min/tで吹き込んで攪拌し、前記上吹きランスから前記粉体脱りん剤を前記酸素ガス1.0〜2.5Nm
3/min/tと共に前記溶銑へ吹き付け、処理末期の装入塩基度を1.5〜2.5とすることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の脱りん処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スピッティングを抑制しながら低コストかつ高効率に極低りん溶銑を溶製できる
脱りん処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1A及び
図1Bは、本実施形態において、底吹き羽口の位置を説明するための図である。また、
図2は、上吹きランスの軸方向から見た、複数の火点の位置及び複数の底吹き羽口の位置を示す図である。本実施形態に係る脱りん処理装置は、転炉と、上吹きランスと、酸素供給装置と、粉体供給装置とを備えており、転炉の底部には、N
2ガスやArガスなどの不活性ガスを溶銑中に吹き込むための底吹き羽口が複数設けられている。
【0016】
上吹きランスの下端には、酸素と共に粉体脱りん剤を噴出するノズルが4〜6個設置されている。その結果、転炉に溶銑が装入され、ランス高さがH
0となるように上吹きランスの高さを調整して、上吹きランスからジェットを噴射すると、上吹きした酸素ガスが溶銑浴面と衝突して2000℃以上の高温部からなる火点が溶銑浴面に形成される。
図2に示す例は、望ましい形態として、ノズルが同心円状に4個設置され、これらのノズルの中心軸と上吹きランスの中心軸とのなす角度(傾斜角)θがすべて同一である場合の例を示しており、
図2に示すように、ジェットを噴射すると、火点の中心U
1〜U
4が同心円状に形成される。これらの火点の中心U
1〜U
4は、上吹きランスの高さを調整することによって、上吹きランスの中心軸と溶銑との交点Oからの距離が等しくなるようにx軸またはy軸上を移動する。
【0017】
本実施形態では、転炉の底部にノズルの数と同じ数の底吹き羽口が設けられており、上吹きランスの高さを調整する際には、火点の中心U
1〜U
4と、底吹き羽口の位置T
1〜T
4の真上の浴面の位置S
1〜S
4とが全て所定の距離以下になるようにランス高さH
0を調整する。つまり、脱りん処理では、火点の中心U
1〜U
4が狙いの位置となるように、上吹きランスを上下に動かしてランス高さH
0の値を調整するようにする。
【0018】
次に、底吹き羽口の位置と火点の中心との条件について説明する。ここで、
図1A及び
図1Bに示す例では、線分SUの長さが最小となるノズルと底吹き羽口との組み合わせとして説明する。つまり、
図2において、線分S
1U
1、線分S
2U
2、線分S
3U
3、線分S
4U
4にとなる組み合わせである。底吹き羽口から溶銑中へ吹き込まれた底吹きガスは、片側12°で広がりながら浮上していく。その、底吹きガスと溶銑とが混合された領域をプルーム領域と称する。このプルーム領域内は密度が低く、周囲の溶銑浴に比べて激しく攪拌混合されている。
図1Bに示すように、酸素と共に上吹きランスから吹き込まれた粉体脱りん剤がこのプルーム領域へ吹き込まれると、粉体脱りん剤が溶銑内で深く侵入でき且つ激しく攪拌混合されるため、粉体脱りん剤中のCaOの脱りん利用効率が非常に向上して、処理後の溶銑中[P]が極低濃度まで低下する。
【0019】
本実施形態に係る脱りん処理装置では、上吹きランスから酸素と共に粉体脱りん剤を吹き付けるが、粉体脱りん剤は、CaO源を主体とする粉体とAl
2O
3源を主体とする粉体との混合粉を用いる。CaO源を主体とする粉体はCaOとCaCO
3の合計質量濃度が90%以上のものが好ましく、生石灰(CaO)または石灰石(CaCO
3)のどちらかもしくは混合粉とすることがより好ましい。CaOとCaCO
3の合計質量濃度が90%以上が好ましい理由は、90%未満とするとCaOやCaCO
3以外の成分が多く混じることになり、脱りん処理中にスラグフォーミングが過大になってスラグが炉口からあふれ出たり、或いは脱燐不良になったりする危険が高まるからである。また、Al
2O
3源を主体とする粉体はAl
2O
3質量濃度が50%以上であるものが好ましく、バン土頁岩またはボーキサイトのほか、Al
2O
3質量濃度が高いスラグや耐火物の廃材などが例示される。また、これらの粉体を混合した混合粉においては、CaO、CaCO
3及びAl
2O
3の3成分の合計質量濃度が90%以上であることが好ましい。この理由は、CaOとCaCO
3の合計質量濃度が90%以上が好ましいとする理由に同じである。さらに、これらの粉体の最大粒径は、粉体を気体で搬送するための容易性や、溶銑中での反応界面積確保の観点から0.5mm以下が好ましく、0.15mm以下がさらに好ましい。なお、CaO源を主体とする粉体とAl
2O
3源を主体とする粉体との混合比については後述する。
【0020】
混合粉は、粉体供給装置のディスペンサーに保持されており、脱りん処理の吹錬が開始されると、ディスペンサーから上吹きランスに直接、または酸素ガスラインを経由して混合粉が上吹きランスに供給される。このとき、酸素供給装置から酸素も上吹きランスに供給され、上吹きランスから酸素と共に混合粉が溶銑に吹き付けられる。
【0021】
次に、脱りん処理の実験により、線分SUの長さの範囲など脱りん処理装置及び溶製方法の条件を確認した。
まず、上底吹き転炉へ溶銑290t([C]=4.4〜4.5質量%、[Si]=0.3〜0.5質量%、[P]=0.100〜0.120質量%、浴深L
0=約2000mm)を装入し、底吹き羽口4本からN
2ガスを溶銑中へ流量0.08〜0.70Nm
3/min/tで吹き込んで攪拌し、粉体脱りん剤として、CaO源を主体とする粉体およびAl
2O
3源を主体とする粉体を混合した粉体(CaO、CaCO
3及びAl
2O
3の3成分の合計質量濃度が90%以上、かつ、(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)が0.03〜0.25である混合粉)を、底吹き羽口数と同数のノズルを有する上吹きランスから、ランス高さH
0を2500〜3500mmとして酸素ガス0.8〜2.7Nm
3/min/tと共に溶銑浴へ吹き付けて、溶銑脱りん処理を行った。用いた粉体の最大粒径は0.15mmで、処理後の溶銑[C]=3.3〜3.6質量%、[P]=0.004〜0.023質量%で、装入塩基度(CaO/SiO
2質量比)は1.3〜2.7、吹錬時間は6〜10分であった。なお、装入塩基度は、(CaO装入質量)/(SiO
2装入質量+溶銑中の[Si]の酸化によるSiO
2生成質量)により計算される値である。
【0022】
その際、上吹き酸素+混合粉のジェットの中心軸と溶銑浴面との交点の位置(火点の中心)Uと底吹き羽口位置Tから鉛直上方へ引いた線と溶銑浴面との交点の位置Sとの距離(線分SUの長さ)が最小となる上吹きノズルと底吹き羽口との組み合わせについて、スピッティングによる炉口付近への地金付着や処理後の溶銑中[P]へ及ぼす影響について検討した。
【0023】
本発明で規定する条件を表1に基づいて説明する。表1に記載した諸要件に関しては、本発明の検討経過において把握した経験に基づいて、線分TSと線分TUとのなす角度α:0°、処理末期の装入塩基度:1.8、上吹き酸素流量:2.0Nm
3/min/t、底吹きガス流量:0.25Nm
3/min/t、上吹き混合粉の(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56):0.10を基本条件として、この基本条件を中心に、諸要件の変化が及ぼす処理後の溶銑中P濃度とスピッティングによる炉口付近への地金付着量への影響を調査した。なお、表1に記載された処理後溶銑中[P]、スピッティングによる炉口付近の地金付着は、各条件で連続10Ch試験した結果の平均値である。本発明に係る効果を確認するためのベース条件としては、表1のNo.29に示した「底吹き羽口4個がそれぞれα=5°、18°、23°、36°である場合」を採用した。このベース条件は、線分TSと線分TUとのなす角(α)を特に気にしていない従来条件である。また、各条件で炉口地金付着量がベース条件と同程度であった場合は、総合評価を「△」とした。処理後溶銑中[P]が0.015質量%以下で、且つ炉口地金付着量がベース条件に比べて明らかに少なく70〜90%の場合は、総合評価を「○」とし、同じく顕著に少なく60%以下の場合は、総合評価を「◎」とした。
【0024】
また、表1において、線分TSと線分TUとのなす角度αは、
図1Aに示す角度αを表しており、線分SUの長さが最小となる上吹きノズルと底吹き羽口との各組み合わせ(4組)でのそれぞれの角度のうち、最大となる角度を表している。但し、本実験では、全ノズルが上吹きランスの中心軸に対して同心円状に配置され、傾斜角は各ランス毎に同じ角度として、12°〜18°の範囲から適宜選択した。また、底吹き羽口も、No.1〜No.28の実験において上吹きランスの中心軸に対して同心円状に配置されており、上吹きランスの高さを調整することにより、火点の中心U
1〜U
4と底吹き羽口の位置T
1〜T
4の真上の浴面の位置S
1〜S
4とを一致させることが可能とした。したがって、本実験においては、線分TSと線分TUとのなす角度αは、No.1〜No.28のすべての実験において、同じ実験No.内の全ての組み合わせで同じとした。一方、ベース条件の実験(No.29)では、炉底の4個の底吹き羽口に関して、αはバラバラである。
【0026】
(1)表1のNo.1〜7
火点の中心Uを調整することにより、
図1Aに示す線分TSと線分TUとのなす角度α(deg)を変更した以外は上述した基本条件として、αの変化が及ぼす影響を調査した結果、0°≦α≦6°の場合に、処理後溶銑中[P]が0.015質量%以下となり、且つスピッティングによる炉口付近の地金付着量も少なかった。
【0027】
上述したごとく、底吹きガスによって生成されるプルーム領域は、片側12°で広がるため、角度αが6°以下である場合は、プルーム領域の中央付近に上吹きジェットが衝突していることを意味している。この条件下では、密度が低く、周囲の溶銑浴に比べて激しく攪拌混合されているプルーム領域内へ吹き込まれた上吹き混合粉体は、深く侵入でき且つ激しく攪拌混合されるため、混合粉中のCaOの脱りん利用効率が非常に向上して、処理後の溶銑中[P]が極低濃度まで低下したと考えられる。また、上吹きジェットの運動エネルギーがプルーム領域内で効率よく消費されるため、スピッティングが減少したと考えられる。以上のように0°≦α≦6°の場合は以下の式(1)を満たすことになる。すなわち、式(1)を満たす場合は、本発明の効果が得られることが確認できた。
線分SUの長さ≦L
0tan6°(L
0:浴深) ・・・(1)
【0028】
一方、αが6を超える、すなわち、線分SUの長さ>L
0tan6°であると、処理後溶銑中[P]が、0.015質量%を超えてしまった。これは、上吹きした混合粉が溶銑浴中へ深く侵入できず、プルーム領域内での強力な攪拌、混合効果を享受できなかったためと考えられる。
【0029】
ここで、線分SUの長さ>L
0tan6°である場合において、火点の位置が不適切な位置であり、上吹きランスを上下方向に調整すれば、線分SUの長さが最小となるノズルと底吹き羽口との各組み合わせのすべてが線分SUの長さ≦L
0tan6°とすることが可能な場合と、ランス高さH
0を変更しても、線分SUの長さが最小となるノズルと底吹き羽口との各組み合わせのすべてが線分SUの長さ≦L
0tan6°とすることが不可能な場合との2通りが考えられる。
【0030】
本実施形態に係る脱りん処理装置では、火点の中心Uを狙いの位置に調整した場合に、狙いの位置では、線分SUの長さが最小となるノズルと底吹き羽口との各組み合わせのすべてが、式(1)の条件を満たす。したがって、本実施形態に係る脱りん処理装置を用いて脱りん処理を行う際に、ランス高さH
0が不適切であり、火点の中心Uが狙いの位置でない場合には、前者に該当する可能性がある。一方、後者に該当する場合とは、例えば、火点の中心Uが同心円状に形成されるが、底吹き羽口の位置が不規則であるような場合である。このような場合は、ランス高さH
0を調整しても、線分SUの長さが最小となるノズルと底吹き羽口との各組み合わせのうち、少なくともいずれか1組は、式(1)の条件を満たさなくなるため、操業条件をどのように変更しても本発明の効果が得られない。
【0031】
また、線分SUの長さ>L
0tan6°である場合には、火点の中心Uの位置によってスピッティングによる炉口付近への地金付着量がばらついた。上吹きジェットの溶銑浴面への衝突位置(火点の中心U)が、上吹きランス中心軸と溶銑との交点の位置Oに近いほど鉛直上方へ飛散するスピッティング量が増え、逆に、火点の中心Uが位置Oから遠ざかるほど鉛直上方へ飛散するスピッティング量が減少した。
【0032】
このように、火点の中心Uが位置Oに近づくほど、鉛直上方へ飛散するスピッティング量が増える可能性があるため、線分OSの長さはいずれも300mm以上であることが望ましい。線分OSの長さが300mm未満となる底吹き羽口が存在すると、上吹きジェットの傾斜角θが小さくなって、鉛直上方へのスピッティング量が多くなってしまうためである。また、上吹きランスのノズルの傾斜角θはいずれも25°以下が望ましい。傾斜角θが大きすぎるノズルが存在すると、上吹き酸素ジェットによる二次燃焼が増加して、転炉炉壁の耐火物損傷が激しくなってしまうためである。
【0033】
(2)表1のNo.8〜12
これらの実験では、処理末期の装入塩基度を1.3〜2.7とし、それ以外は基本条件とした。なお、処理前に細粒CaOは添加しなかった。
実験の結果、処理末期の装入塩基度を1.5未満にすると、スラグの脱りん能が低くなり過ぎて、処理後溶銑中[P]を目標値である0.015質量%以下まで低減できなかった。
一方、処理末期の装入塩基度が2.5を超えると、処理後溶銑中[P]は0.015質量%以下にまで低下しなかった。処理末期において装入塩基度を過度に高めると、火点周囲のバルクスラグの流動性が急激に低下して、バルクスラグによる脱りん反応が進行し難くなってしまうため、処理後溶銑中[P]が高くなってしまったと考えられる。
以上から、処理末期の装入塩基度の適正な範囲は1.5〜2.5であることが確認できた。
【0034】
(3)表1のNo.13〜17
これらの実験では、上吹き酸素流量を0.8〜2.7Nm
3/min/tとし、それ以外は基本条件とした。上吹き酸素流量を1.0Nm
3/min/t未満にすると、処理後溶銑中[P]が0.015質量%以下にまで低下しなかった。吹錬時間を6〜10分とした場合、処理後溶銑中[P]を極低濃度である0.015質量%以下にするのに必要な酸素が足りなかったためと考えられる。
一方、上吹き酸素流量を2.5Nm
3/min/t超にまで高めた場合も、処理後溶銑中[P]が0.015質量%以下にまで低下しなかった。この場合、脱りんに必要な酸素量を吹き終えるまでの時間、すなわち吹錬時間が過度に短くなって、処理後溶銑中[P]が目標値である0.015質量%以下まで低下しなかったと考えられる。
以上から、上吹き酸素流量の適正な範囲は1.0〜2.5Nm
3/min/tであることが確認できた。
【0035】
(4)表1のNo.18〜23
これらの実験では、底吹きN
2流量を0.08〜0.7Nm
3/min/tとし、それ以外は基本条件とした。底吹きN
2流量を0.1Nm
3/min/t未満にすると、処理後溶銑中[P]が0.015質量%以下にまで低下しなかった。この場合、溶銑中のPの物質移動速度が顕著に低下したため、6〜10分という短時間吹錬では、処理後溶銑中[P]を極低濃度である0.015質量%以下まで低減できなかったと考えられる。
一方、底吹きN
2流量を0.6Nm
3/min/t超にまで高めた場合も、処理後溶銑中[P]が0.015質量%以下にまで低下しなかった。この場合、溶銑とスラグとが過度に攪拌混合され、スラグ中FeO濃度が過度に低下してしまったため、処理後溶銑中[P]を目標値である0.015質量%以下にまで低減できなかったと考えられる。
以上から、底吹きN
2流量の適正な範囲は0.1〜0.6Nm
3/min/tであることが確認できた。
【0036】
(5)表1のNo.24〜28
これらの実験では、上吹きしたCaO+Al
2O
3混合粉の組成を、CaO、CaCO
3及びAl
2O
3の3成分の合計質量濃度が95%、かつ、(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)が0.03〜0.25とAl
2O
3濃度を変化させ、それ以外は基本条件とした。混合粉中の(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)が0.05未満だと、処理後溶銑中[P]が目標値である0.015質量%まで低下しなかった。これは、混合粉中のCaO分が火点で溶融して十分に脱りん反応に消費されなくなってしまったことによるものと考えられる。
【0037】
火点では上吹き酸素によって溶銑中のFeが酸化されてFeOが生成し、上吹きされた粉体を溶融してFeO−CaO系融体を形成する。しかしながら、FeOは溶銑中[C]によって還元されるため、上記融体中のFeO濃度は低下し易い。するとFeO−CaO融体の融点が上昇し、流動状態を保てなくなるため、融体の脱りん利用効率が低下してしまう。それに対し、上記融体にAl
2O
3が少量含まれれば、融体の融点が顕著に低下するため、溶融状態を維持して脱りん利用効率を高く維持できるようになるはずだが、混合粉中の(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)が0.05未満では融体の融点低下効果が小さく、融体の脱りん効率を向上しきれなかったと考えられる。
【0038】
一方、混合粉中の(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)を0.20超にまで高めた場合も、処理後溶銑中[P]が目標値である0.015質量%まで低下しなかった。この場合、火点で生成した上記融体中CaOの活量が低下して、融体の脱りん能力が低下してしまったため、処理後溶銑中[P]が目標値である0.015質量%まで低下しなかったと考えられる。
上述の結果から、混合粉中の(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)の適正範囲は0.05〜0.20であることが確認できた。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例に基づいて更に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0040】
(実施例1)
上底吹き転炉へ[C]=4.4質量%、[Si]=0.4質量%、[P]=0.10質量%の溶銑を290t装入した。このときの静止浴の深さL
0は2000mmだった。次に、4本の底吹き羽口からN
2ガスを溶銑中へ流量0.25Nm
3/min/tで吹き込んで攪拌し、傾斜角17°のノズルを4個配置した上吹きランスから、ランス高さH
0を2800mmとして、酸素ガス2.0Nm
3/min/tと共にCaO、CaCO
3及びAl
2O
3の3成分の合計質量濃度が95%、かつ、(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)が0.10で最大粒径が0.15mmの混合粉を吹き付け、処理末期の装入塩基度を1.8とした。
【0041】
上吹きランスの中心軸と溶銑浴面との交点Oと底吹き羽口の位置Tから鉛直上方へ引いた線と溶銑浴面との交点の位置Sとの距離(線分OSの長さ)は、いずれの底吹き羽口で共通の860mmとした。この場合、上吹き酸素+混合粉のジェットの中心軸と溶銑浴面との交点の位置(火点の中心)Uと底吹き羽口の位置Tから鉛直上方へ引いた線と溶銑浴面との交点の位置Sは、いずれの火点でもほぼ一致していた。すなわち、線分TSと線分TUのなす角度αはいずれもほぼ0°だった。
吹錬時間は7分で脱りんを行った結果、吹錬末期温度は1342℃、処理後溶銑中[C]は3.4質量%、[P]は0.006質量%だった。炉口付近への地金付着はほとんど無かった。
【0042】
(比較例1)
上底吹き転炉へ[C]=4.4質量%、[Si]=0.4質量%、[P]=0.10質量%の溶銑を290t装入した。このときの静止浴の深さL
0は2000mmだった。4本の底吹き羽口からN
2ガスを溶銑中へ流量0.25Nm
3/min/tで吹き込んで攪拌し、傾斜角12°のノズルを4個配置した上吹きランスから、ランス高さH
0を2700mmとして、酸素ガス2.0Nm
3/min/tと共にCaO、CaCO
3及びAl
2O
3の3成分の合計質量濃度が95%、かつ、(Al
2O
3質量)/(CaO質量+CaCO
3質量×0.56)が0.10で最大粒径が0.15mmの混合粉を吹き付け、処理末期の装入塩基度を1.8とした。
【0043】
上吹きランスの中心軸と溶銑浴面との交点Oと底吹き羽口の位置Tから鉛直上方へ引いた線と溶銑浴面との交点の位置Sとの距離(線分OSの長さ)は、いずれの底吹き羽口で共通の860mmとした。この場合、上吹き酸素+混合粉のジェットの中心軸と溶銑浴面との交点の位置(火点の中心)Uと底吹き羽口の位置Tから鉛直上方へ引いた線と溶銑浴面との交点の位置Sとがいずれも一致しておらず、線分TSと線分TUとのなす角度αは最大で約8°で、線分SUの長さがL
0tan6°よりも大きかった。
吹錬時間は7分で脱りんを行った結果、吹錬末期温度は1345℃、処理後溶銑中[C]は3.4質量%、[P]は0.017質量%だった。さらに炉口付近への地金付着はかなり多かった。