特許第6773152号(P6773152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773152
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   F04C18/02 311U
   F04C18/02 311W
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-35882(P2019-35882)
(22)【出願日】2019年2月28日
(65)【公開番号】特開2020-139460(P2020-139460A)
(43)【公開日】2020年9月3日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高尾 英伸
(72)【発明者】
【氏名】横山 知巳
(72)【発明者】
【氏名】和田 遼介
(72)【発明者】
【氏名】黒原 英文
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−031920(JP,A)
【文献】 特開2013−087678(JP,A)
【文献】 特開昭64−003285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C2/00−2/077
F04C18/00−18/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(20)と、該ケーシング(20)に収容された第1スクロール(60)と、該第1スクロール(60)との間で圧縮室(S)を形成する第2スクロール(70)とを備えたスクロール圧縮機であって、
前記第1スクロール(60)における前記第2スクロール(70)に対する対向面で且つ軸方向から見てオルダム継手(46)のスクロール側のガイド溝に重なり合わない位置に形成された排油部(81,82)と、
前記排油部(81,82)と前記圧縮室(S)の吸入ポート(64)とを連通する油回収路(90)とを備えたスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記排油部(81,82)の一部は、前記第1スクロール(60)の対向面における前記第2スクロール(70)の相対的な摺動範囲よりも径方向の外側に開口しているスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記第1スクロール(60)の対向面における前記排油部(81,82)よりも径方向の内側に形成された給油部(80)と、
前記給油部(80)と前記排油部(81,82)とを間欠的に連通させる間欠連通機構(87)とを備えたスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
前記間欠連通機構(87)は、前記第2スクロール(70)における前記第1スクロール(60)に対する対向面に形成された油搬送部(85,86)で構成されているスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項4において、
前記油搬送部(85,86)は、周方向に間隔をあけて複数形成されているスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1乃至5のうち何れか1つにおいて、
前記ケーシング(20)の内部には、該ケーシング(20)とハウジング(50)とで仕切られ且つ前記排油部(81,82)に連通する仕切空間(23)が設けられ、
前記吸入ポート(64)の上流側には、該吸入ポート(64)との間に所定の隙間を存して吸入管(12)が配置されることで、前記仕切空間(23)に連通する開口(67)が設けられ、
前記油回収路(90)は、前記仕切空間(23)と前記開口(67)とで構成されているスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項1乃至6のうち何れか1つにおいて、
前記排油部(81,82)は、前記第1スクロール(60)の対向面に複数形成されているスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項7において、
前記複数の排油部(81,82)は、前記第1スクロール(60)の軸心を挟んで対向する位置に形成されているスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項1乃至8のうち何れか1つにおいて、
前記第1スクロール(60)は、固定スクロール(60)であり、
前記第2スクロール(70)は、可動スクロール(70)であるスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、固定側油溝、可動側油溝、及び圧縮室(流体室)のうち固定側油溝と可動側油溝だけが連通する第1動作と、第1動作後に可動側油溝が固定側油溝と圧縮室との双方と同時に連通する第2動作とを行うように構成されたスクロール型圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−160816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明では、圧縮室における可動スクロールよりも径方向外側の空間に可動側油溝を連通させているため、圧縮室における可動スクロールよりも径方向内側の空間には油が供給され難くなっている。
【0005】
本開示の目的は、圧縮室における可動側のスクロールよりも径方向の内側及び外側の空間に油を供給できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、ケーシング(20)と、該ケーシング(20)に収容された第1スクロール(60)と、該第1スクロール(60)との間で圧縮室(S)を形成する第2スクロール(70)とを備えたスクロール圧縮機を対象とし、前記第1スクロール(60)における前記第2スクロール(70)に対する対向面で且つ軸方向から見てオルダム継手(46)のスクロール側のガイド溝に重なり合わない位置に形成された排油部(81,82)と、前記排油部(81,82)と前記圧縮室(S)の吸入ポート(64)とを連通する油回収路(90)とを備えている。
【0007】
第1の態様では、第1スクロール(60)の対向面には、排油部(81,82)が形成される。排油部(81,82)と圧縮室(S)の吸入ポート(64)とは、油回収路(90)によって連通している。
【0008】
これにより、圧縮室(S)における可動側のスクロールよりも径方向の内側及び外側の空間に油を供給することができる。
【0009】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、前記排油部(81,82)の一部は、前記第1スクロール(60)の対向面における前記第2スクロール(70)の相対的な摺動範囲よりも径方向の外側に開口している。
【0010】
第2の態様では、排油部(81,82)の一部が、第2スクロール(70)の相対的な摺動範囲よりも径方向の外側に開口しているので、排油部(81,82)全体が第2スクロール(70)によって塞がれてしまうことがない。
【0011】
本開示の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記第1スクロール(60)の対向面における前記排油部(81,82)よりも径方向の内側に形成された給油部(80)と、前記給油部(80)と前記排油部(81,82)とを間欠的に連通させる間欠連通機構(87)とを備えている。
【0012】
第3の態様では、間欠連通機構(87)によって、給油部(80)と排油部(81,82)とが間欠的に連通するので、給油部(80)から排油部(81,82)への油の排出が間欠的に中止される。これにより、過剰の油が排油部(81,82)へ排出されるのを抑えることができる。
【0013】
本開示の第4の態様は、第3の態様において、前記間欠連通機構(87)は、前記第2スクロール(70)における前記第1スクロール(60)に対する対向面に形成された油搬送部(85,86)で構成されている。
【0014】
第4の態様では、第2スクロール(70)の対向面に形成された油搬送部(85,86)で間欠連通機構(87)を構成している。これにより、第2スクロール(70)の対向面に溝状の油搬送部(85,86)を形成するだけで、第1スクロール(60)に対して第2スクロール(70)が相対的に回転することで、給油部(80)と排油部(81,82)とを間欠的に連通させることができる。
【0015】
本開示の第5の態様は、第4の態様において、前記油搬送部(85,86)は、周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0016】
第5の態様では、周方向に間隔をあけて複数の油搬送部(85,86)を形成している。このように、複数の油搬送部(85,86)を形成して、1つの油搬送部(85,86)が途中で分断された形状とすれば、給油部(80)と排油部(81,82)とが油搬送部(85,86)によって連続的に繋がることがない。これにより、過剰な油が排油部(81,82)へ排出されるのを抑えることができる。
【0017】
本開示の第6の態様は、第1乃至第5の態様のうち何れか1つにおいて、前記ケーシング(20)の内部には、該ケーシング(20)とハウジング(50)とで仕切られ且つ前記排油部(81,82)に連通する仕切空間(23)が設けられ、前記吸入ポート(64)の上流側には、該吸入ポート(64)との間に所定の隙間を存して吸入管(12)が配置されることで、前記仕切空間(23)に連通する開口(67)が設けられ、前記油回収路(90)は、前記仕切空間(23)と前記開口(67)とで構成されている。
【0018】
第6の態様では、ケーシング(20)の内部には、排油部(81,82)に連通する仕切空間(23)が設けられる。吸入ポート(64)と吸入管(12)との間には、仕切空間(23)に連通する開口(67)が設けられる。油回収路(90)は、仕切空間(23)と開口(67)とで構成される。
【0019】
これにより、排油部(81,82)に回収された高温の油は、仕切空間(23)を通過する間に放熱されて冷却されるので、油が高温のままで吸入ポート(64)に供給されるのを抑えることができる。
【0020】
本開示の第7の態様は、第1乃至第6の態様のうち何れか1つにおいて、前記排油部(81,82)は、前記第1スクロール(60)の対向面に複数形成されている。
【0021】
第7の態様では、第1スクロール(60)の対向面に複数の排油部(81,82)を形成することで、第1スクロール(60)の周方向における複数の位置から油を回収することができる。
【0022】
本開示の第8の態様は、第7の態様において、前記複数の排油部(81,82)は、前記第1スクロール(60)の軸心を挟んで対向する位置に形成されている。
【0023】
第8の態様では、第1スクロール(60)の軸心を挟んで対向する位置に複数の排油部(81,82)を形成することで、第1スクロール(60)の周方向における互いに離れた位置から油を回収することができる。
【0024】
本開示の第9の態様は、第1乃至第8の態様のうち何れか1つにおいて、前記第1スクロール(60)は、固定スクロール(60)であり、前記第2スクロール(70)は、可動スクロール(70)である。
【0025】
第9の態様では、第1スクロール(60)を固定スクロール(60)で構成している。また、第2スクロール(70)を可動スクロール(70)で構成している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本実施形態に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
図2図2は、固定スクロールの構成を示す底面図である。
図3図3は、可動スクロールの構成を示す平面図である。
図4図4は、スクロール圧縮機の要部を拡大して示す縦断面図である。
図5図5は、第1動作時の給油溝、排油溝及び油搬送溝の位置関係を示す図である。
図6図6は、第2動作時の給油溝、排油溝及び油搬送溝の位置関係を示す図である。
図7図7は、第3動作時の給油溝、排油溝及び油搬送溝の位置関係を示す図である。
図8図8は、第4動作時の給油溝、排油溝及び油搬送溝の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
《実施形態》
実施形態について説明する。
【0028】
図1に示すように、スクロール圧縮機(10)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルの冷媒回路に設けられている。冷媒回路では、スクロール圧縮機(10)で圧縮した冷媒が、凝縮器で凝縮し、減圧機構で減圧され、蒸発器で蒸発し、スクロール圧縮機(10)に吸入される。
【0029】
スクロール圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、ケーシング(20)に収納された電動機(30)及び圧縮機構(40)とを備えている。ケーシング(20)は、縦長の円筒状に形成され、密閉ドーム式に構成されている。
【0030】
電動機(30)は、ケーシング(20)に固定された固定子(31)と、固定子(31)の内側に配置された回転子(32)とを備えている。回転子(32)は、駆動軸(11)に固定されている。
【0031】
ケーシング(20)の底部には、油が貯留される油溜部(21)が形成されている。ケーシング(20)の上部には、吸入管(12)が接続されている。ケーシング(20)の中央部には、吐出管(13)が接続されている。
【0032】
ケーシング(20)には、ハウジング(50)が固定されている。ハウジング(50)は、電動機(30)の上方に配置されている。ハウジング(50)の上方には、圧縮機構(40)が配置されている。吐出管(13)の流入端は、電動機(30)とハウジング(50)との間に位置している。
【0033】
駆動軸(11)は、ケーシング(20)の中心軸に沿って上下方向に延びている。駆動軸(11)は、主軸部(14)と、主軸部(14)の上端に連結される偏心部(15)とを有している。
【0034】
主軸部(14)の下部は、ケーシング(20)に下部軸受(22)に回転可能に支持されている。下部軸受(22)は、ケーシング(20)の内周面に固定されている。主軸部(14)の上部は、ハウジング(50)を貫通して延び、ハウジング(50)の上部軸受(51)に回転可能に支持されている。
【0035】
圧縮機構(40)は、固定スクロール(60)(第1スクロール)と、可動スクロール(70)(第2スクロール)とを備えている。固定スクロール(60)は、ハウジング(50)の上面に固定されている。可動スクロール(70)は、固定スクロール(60)とハウジング(50)との間に配置されている。
【0036】
ハウジング(50)には、環状部(52)と、凹部(53)とが形成されている。環状部(52)は、ハウジング(50)の外周部に設けられている。凹部(53)は、ハウジング(50)の中央上部に形成され、その中央が凹んだ皿状に形成されている。凹部(53)の下側には、上部軸受(51)が設けられている。
【0037】
ハウジング(50)は、ケーシング(20)の内部に圧入によって固定されている。ケーシング(20)の内周面とハウジング(50)の環状部(52)の外周面とは、全周に亘って気密状に密着されている。ハウジング(50)は、ケーシング(20)の内部を、圧縮機構(40)が収納される上部空間(23)(仕切空間)と、電動機(30)が収納される下部空間(24)とに仕切っている。
【0038】
固定スクロール(60)は、固定側鏡板(61)と、固定側鏡板(61)の下面の外縁に立設する略筒状の外周壁(63)と、固定側鏡板(61)における外周壁(63)の内部に立設する渦巻き状の固定側ラップ(62)とを備えている(図2参照)。
【0039】
固定側鏡板(61)は、外周側に位置して固定側ラップ(62)と連続的に形成されている。固定側ラップ(62)の先端面と外周壁(63)の先端面とは、略面一に形成されている。また、固定スクロール(60)は、ハウジング(50)に固定されている。
【0040】
可動スクロール(70)は、可動側鏡板(71)と、可動側鏡板(71)の上面に形成された渦巻き状の可動側ラップ(72)と、可動側鏡板(71)の下面中心部に形成されたボス部(73)とを備えている(図3参照)。
【0041】
ボス部(73)には、駆動軸(11)の偏心部(15)が挿入されることで、駆動軸(11)と連結されている。ハウジング(50)の上部には、オルダム継手(46)が設けられている。オルダム継手(46)は、可動スクロール(70)が自転するのを阻止している。
【0042】
圧縮機構(40)では、固定スクロール(60)と可動スクロール(70)との間に冷媒が流入する圧縮室(S)が形成される。可動スクロール(70)は、可動側ラップ(72)が固定スクロール(60)の固定側ラップ(62)に噛合するように配設されている。ここで、固定スクロール(60)の外周壁(63)の下面が、可動スクロール(70)に対する対向面となる。また、可動スクロール(70)の可動側鏡板(71)の上面が、固定スクロール(60)に対する対向面となる。
【0043】
固定スクロール(60)の外周壁(63)には、圧縮室(S)に連通する吸入ポート(64)が形成されている。吸入ポート(64)の上流側には、吸入ポート(64)との間に所定の隙間を存して吸入管(12)が配置されている。これにより、吸入ポート(64)の上流側には、上部空間(23)に連通する開口(67)が設けられている。
【0044】
圧縮室(S)は、可動スクロール(70)よりも径方向外側の外側室(S1)と、可動スクロール(70)よりも径方向内側の内側室(S2)とに区画される。具体的に、固定スクロール(60)の外周壁(63)の内周面と、可動スクロール(70)の可動側ラップ(72)の外周面とが実質的に接触すると、接触部分を挟んで外側室(S1)と内側室(S2)とが区画される(例えば図5を参照)。
【0045】
固定スクロール(60)の固定側鏡板(61)の中央には、吐出口(65)が形成されている。固定スクロール(60)の固定側鏡板(61)の上面には、吐出口(65)が開口する高圧チャンバ(66)が形成されている。高圧チャンバ(66)は、固定スクロール(60)の固定側鏡板(61)及びハウジング(50)に形成された通路(図示省略)を介して下部空間(24)に連通している。圧縮機構(40)で圧縮された高圧冷媒は、下部空間(24)に流出する。
【0046】
駆動軸(11)の内部には、駆動軸(11)の下端から上端に亘って上下方向に延びる給油孔(16)が形成される。駆動軸(11)の下端部は、油溜部(21)に浸漬されている。給油孔(16)は、油溜部(21)の油を下部軸受(22)及び上部軸受(51)に供給するとともに、ボス部(73)と駆動軸(11)との隙間に供給する。給油孔(16)は、駆動軸(11)の上端面に開口し、油を駆動軸(11)の上方に供給する。
【0047】
ハウジング(50)の凹部(53)は、可動スクロール(70)のボス部(73)の内部を介して駆動軸(11)の給油孔(16)に連通している。凹部(53)には、高圧の油が供給されることで、圧縮機構(40)の吐出圧力に相当する高圧圧力が作用する。可動スクロール(70)は、凹部(53)の高圧圧力により、固定スクロール(60)に押し付けられる。
【0048】
ハウジング(50)及び固定スクロール(60)の内部には、油通路(55)が形成されている。油通路(55)の流入端は、ハウジング(50)の凹部(53)に連通している。油通路(55)の流出端は、固定スクロール(60)の対向面に開口している。油通路(55)は、凹部(53)内の高圧の油を、可動スクロール(70)の可動側鏡板(71)と固定スクロール(60)の外周壁(63)との対向面に供給する。
【0049】
〈給油溝、排油溝、及び油搬送溝の構成〉
図2に示すように、固定スクロール(60)の外周壁(63)の対向面には、給油溝(80)(給油部)と、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)(排油部)とが形成されている。
【0050】
給油溝(80)は、固定スクロール(60)の外周壁(63)のうち可動スクロール(70)の可動側鏡板(71)に対する対向面に形成されている。給油溝(80)は、固定スクロール(60)の外周壁(63)の内周面に沿うように略円弧状に延びている。給油溝(80)には、油通路(55)が連通しており、油通路(55)から給油溝(80)に油が供給されるようになっている。
【0051】
第1排油溝(81)は、給油溝(80)よりも径方向の外側に形成されている。第1排油溝(81)は、図2で上側に位置している。第1排油溝(81)は、周方向に延びる第1溝部(81a)と、第1溝部(81a)の周方向の中心部から径方向の外側に延びる第2溝部(81b)とを有する。第2溝部(81b)は、可動スクロール(70)の摺動範囲よりも径方向の外側に開口している。これにより、第1排油溝(81)の第2溝部(81b)が、可動スクロール(70)によって塞がれてしまうことがない。
【0052】
第2排油溝(82)は、給油溝(80)よりも径方向の外側に形成されている。第2排油溝(82)は、固定スクロール(60)の軸心を挟んで第1排油溝(81)に対向する位置(図2で下側)に形成されている。
【0053】
第2排油溝(82)は、周方向に延びる湾曲状の溝で形成されている。第2排油溝(82)の一部は、可動スクロール(70)の摺動範囲よりも径方向の外側に開口している。
【0054】
図3に示すように、可動スクロール(70)の可動側鏡板(71)の対向面には、第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)(油搬送部)が形成されている。
【0055】
第1油搬送溝(85)は、可動スクロール(70)の対向面における第1排油溝(81)寄りの位置に形成されている。第1油搬送溝(85)は、周方向に間隔をあけて2つ設けられている。
【0056】
第2油搬送溝(86)は、固定スクロール(60)の軸心を挟んで第1油搬送溝(85)に対向して、第2排油溝(82)寄りの位置に形成されている。第2油搬送溝(86)は、周方向に間隔をあけて2つ設けられている。
【0057】
第1油搬送溝(85)は、可動スクロール(70)の偏心回転に伴い、給油溝(80)と第1排油溝(81)との連通状態が切り換わる。第2油搬送溝(86)は、可動スクロール(70)の偏心回転に伴い、給油溝(80)と第2排油溝(82)との連通状態が切り換わる。このように、第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)は、給油溝(80)と、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)を間欠的に連通させる間欠連通機構(87)を構成している。
【0058】
第1排油溝(81)は、固定スクロール(60)の切欠部(68)(図2で上側)を介して上部空間(23)に連通している。第2排油溝(82)は、固定スクロール(60)の切欠部(68)(図2で下側)を介して上部空間(23)に連通している。また、圧縮室(S)の吸入ポート(64)は、開口(67)を介して上部空間(23)に連通している。
【0059】
そのため、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)に回収された油は、図4に矢印線で示すように、上部空間(23)及び開口(67)を通って、吸入ポート(64)に供給される。このように、上部空間(23)及び開口(67)は、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)と、圧縮室(S)の吸入ポート(64)とを連通する油回収路(90)を構成している。
【0060】
そして、圧縮機構(40)では、給油溝(80)の高圧の油を所定の部位に供給する4つの動作が行われる。すなわち、圧縮機構(40)では、可動スクロール(70)が偏心回転する間において、第1動作、第2動作、第3動作、第4動作、第1動作、第2動作・・・というように、各動作が順に繰り返し行われる。
【0061】
−運転動作−
スクロール圧縮機(10)の基本的な動作について説明する。電動機(30)を作動させると、圧縮機構(40)の可動スクロール(70)が回転駆動する。可動スクロール(70)は、オルダム継手(46)によって自転が阻止されているので、駆動軸(11)の軸心を中心に偏心回転のみを行う。
【0062】
図5図8に示すように、可動スクロール(70)の偏心回転が回転すると、圧縮室(S)が外側室(S1)と内側室(S2)とに区画される。固定スクロール(60)の固定側ラップ(62)と可動スクロール(70)の可動側ラップ(72)との間には、複数の内側室(S2)が形成される。可動スクロール(70)が偏心回転すると、これらの内側室(S2)が中心(吐出口(65))に徐々に近づいていくとともに、これらの内側室(S2)の容積が小さくなっていく。これにより、内側室(S2)では、冷媒が圧縮されていく。
【0063】
最小の容積となった内側室(S2)が吐出口(65)に連通すると、内側室(S2)の高圧のガス冷媒が吐出口(65)を介して高圧チャンバ(66)に吐出される。高圧チャンバ(66)の高圧の冷媒ガスは、固定スクロール(60)及びハウジング(50)に形成された各通路を経由して下部空間(24)に流出する。下部空間(24)の高圧のガス冷媒は、吐出管(13)を介して、ケーシング(20)の外部へ吐出される。
【0064】
−給油動作−
次に、スクロール圧縮機(10)における油の給油動作について図4図8を参照しながら詳細に説明する。
【0065】
スクロール圧縮機(10)の下部空間(24)に高圧のガス冷媒が流出すると、下部空間(24)は高圧雰囲気となり、油溜部(21)の油も高圧状態となる。油溜部(21)の高圧の油は、駆動軸(11)の給油孔(16)を上方へ流れ、駆動軸(11)の偏心部(15)の上端の開口から可動スクロール(70)のボス部(73)の内部へ流出する。
【0066】
ボス部(73)に供給された油は、駆動軸(11)の偏心部(15)とボス部(73)との隙間に供給される。これにより、ハウジング(50)の凹部(53)は、圧縮機構(40)の吐出圧力に相当する高圧雰囲気となる。凹部(53)の高圧圧力によって可動スクロール(70)が固定スクロール(60)に押し付けられる。
【0067】
凹部(53)に溜まった高圧の油は、油通路(55)を流れて給油溝(80)へ流出する。これにより、給油溝(80)には、圧縮機構(40)の吐出圧力に相当する高圧の油が供給される。このような状態において、可動スクロール(70)が偏心回転すると、第1動作、第2動作、第3動作、及び第4動作が順に行われる。これらの全ての動作では、給油溝(80)の油が、その周囲の対向面の潤滑に利用される。
【0068】
〈第1動作〉
可動スクロール(70)が、例えば図5の偏心角度位置になると、第1動作が行われる。第1動作では、給油溝(80)と第1油搬送溝(85)とが連通して、第1油搬送溝(85)に高圧の油が満たされる。また、第2排油溝(82)と第2油搬送溝(86)とが連通して、第2油搬送溝(86)に収容されていた油が第2排油溝(82)に受け渡される。第2排油溝(82)に受け渡された油は、油回収路(90)を通って吸入ポート(64)に供給される。吸入ポート(64)に供給された油は、可動スクロール(70)の可動側ラップ(72)よりも径方向外側の外側室(S1)と、径方向内側の内側室(S2)とにそれぞれ分配される。これにより、外側室(S1)及び内側室(S2)の油シール性を高めることができる。
【0069】
〈第2動作〉
図5の偏心角度位置にある可動スクロール(70)がさらに偏心回転し、例えば図6の偏心角度位置になると、第2動作が行われる。第2動作では、給油溝(80)から第1油搬送溝(85)が離れ、第1排油溝(81)に向かって移動する。また、第2排油溝(82)から第2油搬送溝(86)が離れ、給油溝(80)に向かって移動する。
【0070】
このとき、第1油搬送溝(85)は、周方向に2つ設けられることで、途中で分断させた形状となっている。そのため、例えば、可動スクロール(70)がずれ動いて、第1油搬送溝(85)が給油溝(80)と第1排油溝(81)とに跨がって連通した場合でも、給油溝(80)の油が第1油搬送溝(85)に漏れ出すのを抑えることができる。また、第2油搬送溝(86)についても、周方向に2つ設けられているので、同様の効果を得ることができる。
【0071】
〈第3動作〉
図6の偏心角度位置にある可動スクロール(70)がさらに偏心回転し、例えば図7の偏心角度位置になると、第3動作が行われる。第3動作では、給油溝(80)と第2油搬送溝(86)とが連通して、第2油搬送溝(86)に高圧の油が満たされる。
【0072】
また、第1排油溝(81)と第1油搬送溝(85)とが連通して、第1油搬送溝(85)に収容されていた油が第1排油溝(81)に受け渡される。第1排油溝(81)に受け渡された油は、油回収路(90)を通って吸入ポート(64)に供給される。吸入ポート(64)に供給された油は、可動スクロール(70)の可動側ラップ(72)よりも径方向外側の外側室(S1)と、径方向内側の内側室(S2)とにそれぞれ分配される。
【0073】
〈第4動作〉
図7の偏心角度位置にある可動スクロール(70)がさらに偏心回転し、例えば図8の偏心角度位置になると、第4動作が行われる。第4動作では、第1排油溝(81)から第1油搬送溝(85)が離れ、給油溝(80)に向かって移動する。また、給油溝(80)から第2油搬送溝(86)が離れ、第2排油溝(82)に向かって移動する。
【0074】
第4動作の後には、再び第1動作が行われ、その後、第2動作、第3動作、及び第4動作が順に繰り返し行われる。
【0075】
−実施形態の効果−
本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、ケーシング(20)に収容された固定スクロール(60)(第1スクロール)と、固定スクロール(60)との間で圧縮室(S)を形成する可動スクロール(70)(第2スクロール)とを備えたものである。そして、固定スクロール(60)における可動スクロール(70)に対する対向面に形成された第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)(排油部)と、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)と圧縮室(S)の吸入ポート(64)とを連通する油回収路(90)とを備えている。
【0076】
本実施形態では、固定スクロール(60)の対向面には、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)が形成される。第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)と圧縮室(S)の吸入ポート(64)とは、油回収路(90)によって連通している。
【0077】
これにより、圧縮室(S)における可動スクロール(70)よりも径方向の内側及び外側の空間に油を供給することができる。
【0078】
具体的に、固定スクロール(60)の対向面に供給された油は、固定スクロール(60)に対して可動スクロール(70)が相対的に回転することで径方向外側に流れていき、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)に回収される。第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)に回収された油は、油回収路(90)を通って吸入ポート(64)に供給されるので、圧縮室(S)における可動スクロール(70)よりも径方向の内側及び外側の空間に油がそれぞれ分配される。これにより、内側及び外側の空間の油シール性を高めることができる。
【0079】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)の一部は、固定スクロール(60)の対向面における可動スクロール(70)の相対的な摺動範囲よりも径方向の外側に開口している。
【0080】
本実施形態では、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)の一部が、可動スクロール(70)の相対的な摺動範囲よりも径方向の外側に開口しているので、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)全体が可動スクロール(70)によって塞がれてしまうことがない。これにより、吸入ポート(64)への油の供給が停止するのを抑えることができる。
【0081】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、固定スクロール(60)の対向面における第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)よりも径方向の内側に形成された給油溝(80)(給油部)と、給油溝(80)と第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)とを間欠的に連通させる間欠連通機構(87)とを備えている。
【0082】
本実施形態では、間欠連通機構(87)によって、給油部(80)と第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)とが間欠的に連通するので、給油部(80)から第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)への油の排出が間欠的に中止される。これにより、過剰の油が第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)へ排出されるのを抑えることができる。
【0083】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、間欠連通機構(87)は、可動スクロール(70)における固定スクロール(60)に対する対向面に形成された第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)(油搬送部)で構成されている。
【0084】
本実施形態では、可動スクロール(70)の対向面に形成された第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)で間欠連通機構(87)を構成している。これにより、可動スクロール(70)の対向面に溝状の第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)を形成するだけで、固定スクロール(60)に対して可動スクロール(70)が相対的に回転することで、給油部(80)と第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)とを間欠的に連通させることができる。
【0085】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)は、周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0086】
本実施形態では、周方向に間隔をあけて複数の第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)を形成している。このように、複数の第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)を形成して、1つの第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)が途中で分断された形状とすれば、給油部(80)と第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)とが第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)によって連続的に繋がることがない。これにより、過剰な油が第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)へ排出されるのを抑えることができる。
【0087】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、ケーシング(20)の内部には、ケーシング(20)とハウジング(50)とで仕切られ且つ第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)に連通する上部空間(23)(仕切空間)が設けられ、吸入ポート(64)の上流側には、吸入ポート(64)との間に所定の隙間を存して吸入管(12)が配置されることで、上部空間(23)に連通する開口(67)が設けられ、油回収路(90)は、上部空間(23)と開口(67)とで構成されている。
【0088】
本実施形態では、ケーシング(20)の内部には、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)に連通する上部空間(23)が設けられる。吸入ポート(64)と吸入管(12)との間には、上部空間(23)に連通する開口(67)が設けられる。油回収路(90)は、上部空間(23)と開口(67)とで構成される。
【0089】
これにより、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)に回収された高温の油は、上部空間(23)を通過する間に放熱されて冷却されるので、油が高温のままで吸入ポート(64)に供給されるのを抑えることができる。
【0090】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、排油溝(81,82)は、固定スクロール(60)の対向面に複数形成されている。
【0091】
本実施形態では、固定スクロール(60)の対向面に複数の排油溝(81,82)を形成することで、固定スクロール(60)の周方向における複数の位置から油を回収することができる。
【0092】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、複数の排油溝(81,82)は、固定スクロール(60)の軸心を挟んで対向する位置に形成されている。
【0093】
本実施形態では、固定スクロール(60)の軸心を挟んで対向する位置に複数の排油溝(81,82)を形成することで、固定スクロール(60)の周方向における互いに離れた位置から油を回収することができる。
【0094】
また、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、第1スクロール(60)は、固定スクロール(60)であり、第2スクロール(70)は、可動スクロール(70)である。
【0095】
本実施形態では、第1スクロール(60)を固定スクロール(60)で構成している。また、第2スクロール(70)を可動スクロール(70)で構成している。
【0096】
《その他の実施形態》
前記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0097】
本実施形態では、固定スクロール(60)の対向面に給油溝(80)、第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)を形成し、可動スクロール(70)の対向面に第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)を形成した構成について説明したが、この形態に限定するものではない。例えば、可動スクロール(70)の対向面に給油溝(80)及び第1排油溝(81)及び第2排油溝(82)を形成し、固定スクロール(60)の対向面に第1油搬送溝(85)及び第2油搬送溝(86)を形成した構成としてもよい。
【0098】
以上、実施形態及び変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態及び変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本開示は、スクロール圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0100】
10 スクロール圧縮機
12 吸入管
20 ケーシング
23 上部空間(仕切空間)
50 ハウジング
60 固定スクロール(第1スクロール)
64 吸入ポート
67 開口
70 可動スクロール(第2スクロール)
80 給油溝(給油部)
81 第1排油溝(排油部)
82 第2排油溝(排油部)
85 第1油搬送溝(油搬送部)
86 第2油搬送溝(油搬送部)
87 間欠連通機構
90 油回収路
S 圧縮室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8