(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
《実施形態》
実施形態として、室内の冷房及び暖房を行う空気調和装置の例を説明する。
図1は、空気調和装置(1)の配管系統図である。
図1に示すように、空気調和装置(1)は、電力変換装置(10)、制御部(40)、及び冷媒回路(110)を備えている。
【0020】
〈冷媒回路〉
冷媒回路(110)は、冷媒が充填された閉回路である。冷媒回路(110)には、圧縮機(120)、四方切換弁(130)、室外熱交換器(140)、膨張弁(150)、及び室内熱交換器(160)が設けられている。
【0021】
圧縮機(120)には、種々の圧縮機を採用できる。圧縮機(120)の一例としては、スクロール型圧縮機やロータリ型圧縮機などが挙げられる。圧縮機(120)は、モータ(30)を備えている。モータ(30)は、例えば、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)である。モータ(30)には、電力変換装置(10)から三相の交流電力が供給される。
【0022】
室外熱交換器(140)は、室外空気と冷媒とを熱交換させる熱交換器である。室内熱交換器(160)は、室内空気と冷媒とを熱交換させる熱交換器である。膨張弁(150)は、いわゆる電子膨張弁である。
【0023】
四方切換弁(130)は、第1〜第4のポートを有した弁である。四方切換弁(130)は、第1状態(
図1に実線で示す状態)と第2状態(
図1に破線で示す状態)とに切り換えることができる。第1状態では、第1のポートが第3のポートと連通し且つ第2のポートが第4のポートと連通する。第2状態では、第1のポートが第4のポートと連通し且つ第2のポートが第3のポートと連通する。
【0024】
冷媒回路(110)では、圧縮機(120)の吐出ポートが四方切換弁(130)の第1のポートに接続され、吸入ポートが四方切換弁(130)の第2のポートに接続されている。冷媒回路(110)では、四方切換弁(130)の第3のポートから第4のポートへ向かって順に、室外熱交換器(140)、膨張弁(150)、及び室内熱交換器(160)が配置されている。空気調和装置(1)では、冷房運転と暖房運転とを切り換える場合には、四方切換弁(130)を切り換える。
【0025】
〈電力変換装置〉
図2は、電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。電力変換装置(10)は、
図2に示すように、コンバータ回路(11)、直流リンク部(12)、及びインバータ回路(13)を備えている。電力変換装置(10)は、単相の交流電源(20)から供給された電圧(以下、電源電圧(v
in))を所定の交流電圧に変換する。電力変換装置(10)は、前記変換によって得た交流電圧をモータ(30)に供給する。
【0026】
コンバータ回路(11)は、ブリッジ状に結線された4個のダイオード(D1,D2,D3,D4)を備えている。コンバータ回路(11)は、リアクトル(L)を介して交流電源(20)に接続されている。コンバータ回路(11)は、電源電圧(v
in)を全波整流する。
【0027】
直流リンク部(12)は、コンデンサ(C)を有している。コンデンサ(C)は、コンバータ回路(11)の出力ノードに接続されている。コンデンサ(C)の容量値は、コンバータ回路(11)の出力をほとんど平滑化することができない大きさである。その一方で、コンデンサ(C)の容量値は、インバータ回路(13)におけるスイッチング動作(後述)に起因するリプル電圧(スイッチング周波数に応じた電圧変動)を抑制できるように設定されている。
【0028】
具体的には、コンデンサ(C)は、一般的な電力変換装置においてコンバータ回路の出力の平滑化に用いられる平滑コンデンサ(例えば、電解コンデンサ)の容量値の約0.01倍の容量値を有する小容量コンデンサである。コンデンサ(C)の容量値は、例えば、数十μF程度である。この例では、コンデンサ(C)には、フィルムコンデンサが採用されている。
【0029】
以上のように、直流リンク部(12)では、コンバータ回路(11)の出力がほとんど平滑化されない。その結果、コンデンサ(C)の端子間電圧(以下、直流電圧(v
dc))には、電源電圧(v
in)の周波数に応じた脈動成分が残留する。換言すると、直流リンク部(12)は、交流電圧(電源電圧(v
in))の周波数に応じて脈動する直流電圧(v
dc)を生成する。
【0030】
図3に、電源電圧(v
in)及び直流電圧(v
dc)の波形の一例を示す。この例では、脈動成分は、電源電圧(v
in)の周波数の2倍の周波数を有している。直流電圧(v
dc)は、その最大値がその最小値の2倍以上になるように脈動している。
【0031】
インバータ回路(13)は、6つのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)と、6つの還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)とを有している。スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、互いにブリッジ結線されている。詳しは、インバータ回路(13)は、3つのスイッチングレグを備えている。
【0032】
それぞれのスイッチングレグは、2つのスイッチング素子が直列に接続されて形成されている。3つのスイッチングレグの各々は、上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、モータ(30)の各相(u相,v相,w相)のコイル(図示を省略)にそれぞれ接続されている。それぞれのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)がひとつずつ逆並列に接続されている。
【0033】
インバータ回路(13)は、入力ノードが直流リンク部(12)のコンデンサ(C)の両端に接続されている。インバータ回路(13)では、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がスイッチング動作(オンオフ動作)を行うことによって、直流電圧(v
dc)を所定の交流電圧(三相)に変換する。インバータ回路(13)は、前記変換によって得た交流電圧(三相)をモータ(30)に供給する。
【0034】
〈制御部〉
制御部(40)は、モータ(30)の回転数(ω)が、与えられた指令値(以下、回転数指令値(ω
*)という)に収束するように、インバータ回路(13)におけるスイッチング動作を制御する。換言すると、制御部(40)は、インバータ回路(13)の出力電圧を制御する。
【0035】
制御部(40)は、マイクロコンピュータと、それを動作させるソフトウエアが格納されたメモリディバイスを備えている。制御部(40)は、前記マイクロコンピュータが前記ソフトウエアを実行することで、速度制御部(41)、電流指令演算部(42)、座標変換部(43)、dq軸電流制御部(44)、PWM演算部(45)、補償量算出部(47)、dq軸電流パラメータ選定部(48)、dq軸電流指令演算部(49)、高調波パラメータ選定部(50)、及び加算器(51)として機能する(
図2を参照)。
【0036】
速度制御部(41)は、平均モータトルク(Tm)の指令値(以下、平均トルク指令値(Tm*))を生成する。具体的に、速度制御部(41)は、モータ(30)の回転数(ω)と回転数指令値(ω
*)との偏差に基づいて、例えばPID演算(比例、積分、微分)を行って、平均トルク指令値(Tm*)を生成する。速度制御部(41)は、平均トルク指令値(Tm*)をdq軸電流指令演算部(49)に出力する。
【0037】
dq軸電流パラメータ選定部(48)は、d軸電流指令値(i
d*)を生成するためのパラメータ(以下、d軸電流パラメータ(Pd)という)と、q軸電流指令値(i
q*)を生成するためのパラメータ(以下、q軸電流パラメータ(Pq)という)とを生成する。d軸電流指令値(i
d*)は、モータ(30)のd軸電流(i
d)を指示する指令値である。q軸電流指令値(i
q*)は、モータ(30)のq軸電流(i
q)を指示する指令値である。
【0038】
以下では、d軸電流パラメータ(Pd)とq軸電流パラメータ(Pq)とを総称してdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)という。dq軸電流パラメータ選定部(48)は、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)をdq軸電流指令演算部(49)に出力する。
【0039】
dq軸電流パラメータ選定部(48)は、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)の生成に用いるテーブルを2つ備えている。それぞれのテーブルには、電源位相(θin)の値と、その電源位相(θin)におけるdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)の値とがペアで格納されている。それぞれのテーブルは、電源位相(θin)を引数として、その電源位相(θin)に対応するdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)を出力するように構成されている。
【0040】
dq軸電流パラメータ選定部(48)は、これらのテーブル(Tb1,Tb2)の何れか一方から読み取った値、あるいは両テーブル(Tb1,Tb2)の値から算出した値を出力する。これらのテーブル(Tb1,Tb2)の内容、及びテーブル(Tb1,Tb2)を用いたdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)の生成については後述する。
【0041】
dq軸電流指令演算部(49)は、平均トルク指令値(Tm*)をdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)によって変調した値を、d軸電流指令値(i
d*)としてdq軸電流制御部(44)に出力する。dq軸電流指令演算部(49)は、平均トルク指令値(Tm*)をq軸電流パラメータ(Pq)で変調した値(以下、指令値基礎データ(i
q**)という)を加算器(51)に出力する。
【0042】
電力変換装置(10)には、電源電流(i
s)が非導通となる期間が設けられている。以下では、電源電圧(v
in)の周波数を基準とした位相角によってパラメータ(α1,α2)を表す。
【0043】
高調波パラメータ選定部(50)は、非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)を電流指令演算部(42)に出力する。非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)は、交流電源(20)から電力変換装置(10)へ入力される電流(以下、入力電流、乃至は電源電流(i
s)という)に含まれる高調波の大きさ(振幅)を決定するパラメータである。ここでの高調波は、後に詳述する理由から、電源電圧(v
in)の基本波に対する5次調波である。
【0044】
高調波パラメータ選定部(50)は、交流電源(20)から電力変換装置(10)への入力電力(以下、電源電力(Pin)という)の大きさに基づいて、非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)の大きさを設定する。電源電力(Pin)に基づく非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)の大きさ設定については後述する。
【0045】
電流指令演算部(42)は、以下のようにして、電源電流(i
s)の指令値(以下、電源電流指令値(|i
s*|)という)を生成する。
【0046】
電流指令演算部(42)は、
図4に示す実線で示す波形(以下、第1波形という)を生成する。具体的には、電流指令演算部(42)は、電源電圧(v
in)と同じ周波数(θ)で、かつ最大振幅が1である正弦波(sinθ)を、時間軸方向に圧縮して第1波形を生成する。
図4に破線で示す曲線は、電源電圧(v
in)と同じ周波数(θ)で、かつ最大振幅が1である正弦波である。
【0047】
電流指令演算部(42)は、第1波形において、電源半周期の始点直後と終点直前に非導通期間ができるように、圧縮を行っている(
図4参照)。「電源半周期」は、
図3に示すように、交流電源(20)の電圧の周期の半分の期間である(以下、同様)。ここでは、電源半周期の始点における非導通期間の長さはα1である。電源半周期の終点における非導通期間の長さはα2である。α1及びα2は、高調波パラメータ選定部(50)が出力したパラメータである。
図4には、α1=α2=20°の場合における第1波形を例示している。このとき非導通期間を有することで、第1波形は基本波成分以外にも3次調波や5次調波を含む。
【0048】
非導通期間では、直流電圧(v
dc)を所定の値に保つことができる。詳しくは、電源電圧(v
in)におけるゼロクロスのタイミング付近において、直流電圧(v
dc)を所定の値に保つことができる(
図3を参照)。直流電圧(v
dc)を所定の値に保てると、ゼロクロスのタイミング付近において、モータ(30)の弱め磁束制御に必要なd軸電流を低減できる。換言すると、空気調和装置(1)では、モータ電流の実効値の低減が可能になる。
【0049】
電流指令演算部(42)は、
図5に実線で示す波形(以下、第2波形という)を生成する。具体的には、電流指令演算部(42)は、電源電圧(v
in)の3倍の周波数(3θ)で、かつ最大振幅が高調波パラメータ(i3)に等しい正弦波を、時間軸方向に圧縮して第2波形を生成する。
図5に破線で示す曲線は、電源電圧(v
in)の3倍の周波数(3θ)で、かつ最大振幅が、高調波パラメータ(i3)に等しい正弦波である。
【0050】
電流指令演算部(42)は、第2波形において、電源半周期の始点直後と終点直前に非導通期間ができるように、圧縮を行っている(
図5参照)。ここでは、電源半周期の始点における非導通期間の長さはα1である。電源半周期の終点における非導通期間の長さはα2である。
図5には、α1=α2=20°、高調波パラメータ(i3)=0.3の場合における第2波形を例示している。このとき非導通期間を有することで、第2波形は3次調波以外にも5次調波を含む。
【0051】
電流指令演算部(42)は、第1波形と第2波形とを足し合わせて、合成波形を生成する。
図6に合成波形を例示する。電流指令演算部(42)は、合成波形の実効値と電源電流(i
s)の実効値(i
s_avg)との偏差に基づいて、例えばPI演算(比例、積分)を行って、倍率を求め、合成波形に対して前述の倍率を乗算した波形(以下、第3波形という)を生成する。第1波形と第2波形には5次調波を含むため、第3波形にも5次調波を含む。電流指令演算部(42)は、電源電圧(v
in)の位相(電源位相(θin))に対応する第3波形の振幅値を補償量算出部(47)に出力する。
【0052】
補償量算出部(47)は、電源電流指令値(|i
s*|)と、電源電流(i
s)の絶対値の偏差が小さくなるように、指令値基礎データ(i
q**)に対する補償量(以下、補償量(i
comp*))を算出する。補償量算出部(47)は、電源電流指令値(|i
s*|)と電源電流(i
s)の絶対値との偏差に基づいて、例えばPI演算(比例、積分)を行って、補償量(i
comp*)を求める。補償量算出部(47)は、補償量(i
comp*)を加算器(51)に出力する。
【0053】
加算器(51)は、指令値基礎データ(i
q**)と補償量(i
comp*)とを加算する。加算器(51)は、加算結果をq軸電流指令値(i
q*)として、dq軸電流制御部(44)に出力する。
【0054】
座標変換部(43)は、いわゆるdq変換を行ってモータ(30)のd軸電流(i
d)及びq軸電流(i
q)を導出する。座標変換部(43)は、dq変換を行う際に、u相電流(iu)、w相電流(iw)、及びモータ(30)の回転子(図示を省略)の電気角(モータ位相(θm))を用いる。u相電流(iu)及びw相電流(iw)は、例えば、電流センサを設けることで、その値を検出することができる。
【0055】
dq軸電流制御部(44)は、d軸電流指令値(i
d*)、q軸電流指令値(i
q*)、d軸電流(i
d)、及びq軸電流(i
q)に基づいて、d軸電圧指令値(v
d*)及びq軸電圧指令値(v
q*)を導出する。具体的には、dq軸電流制御部(44)は、d軸電流指令値(i
d*)とd軸電流(i
d)との偏差、及びq軸電流指令値とq軸電流(i
q)との偏差がそれぞれ小さくなるように、d軸電圧指令値(v
d*)及びq軸電圧指令値(v
q*)を導出する。
【0056】
PWM演算部(45)は、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンとオフの切り替えを制御する信号(以下、制御信号(G))を生成する。この例では、PWM演算部(45)は、モータ位相(θm)、直流電圧(v
dc)、d軸電圧指令値(v
d*)、q軸電圧指令値(v
q*)、d軸電圧(v
d)、及びq軸電圧(v
q)に基づいて、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の各々に供給される制御信号(G)のデューティー比を設定する。
【0057】
制御信号(G)が出力されると、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、設定されたデューティー比でスイッチング動作(オンオフ動作)を行う。PWM演算部(45)は、制御信号(G)を周期的に更新する。
【0058】
〈テーブルの内容〉
直流リンク部(12)に小容量コンデンサを用いると、直流電圧(v
dc)の脈動を吸収できない。直流電圧(v
dc)の脈動を吸収できないと、電源電流(i
s)がインバータ回路(13)の出力に影響する。換言すると、電源電流(i
s)に高調波を含ませると、モータ電流の実効値が変わる。電力変換装置(10)では、電源電流(i
s)に高調波を含めて、モータ電流の実効値を低減する。
【0059】
本願発明者は、電源電流(i
s)に5次調波を含ませると、効果的にモータ電流の実効値を低減できることを見出した。
図7、及び
図8は、電源電流(i
s)に含ませる高調波として5次調波を採用した理由を説明する図である。
図7は、縦軸は、モータ電流の実効値である。
図7の横軸は、以下の式(1)で定義されるTHDである。
【0061】
式(1)において、h1は、電源電流(i
s)に含まれる基本波成分である。hn(n=2,3,…)は、電源電流(i
s)に含まれるn次調波である。
図7に示すように、THDの増加に伴って、モータ電流の実効値が減少している。
【0062】
図8の横軸は、THDである。
図8の縦軸は、(電源電流(i
s)が含むn次調波の振幅)/(電源電流(i
s)が含む基本波成分の振幅)の値である。
図8には、n=3及びn=5について、THDと、(電源電流(i
s)が含むn次調波の振幅)/(電源電流(i
s)が含む基本波成分の振幅)の値をプロットしてある。
図8に示すように、電源電流(i
s)が含む5次調波(n=5の曲線)の振幅は、THDの増加に応じて単調増加している。換言すると、電源電流(i
s)が含む5次調波の振幅が増えるにつれて、モータ電流の実効値は低減する。
【0063】
以上から、dq軸電流パラメータ選定部(48)が備える2つのテーブルの一方(以下、第1テーブル(Tb1)という)には、5次調波を含む電源電流(i
s)が得られるように、電源位相(θin)の値とq軸電流パラメータ(Pq)のペアが格納されている。
図9に、第1テーブル(Tb1)によって生成されるdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)の値を波形で示す。
図9において、横軸は電源位相(θin)である。
図9における縦軸は、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)の値である。
図9に示すように、第1テーブル(Tb1)によって生成されたq軸電流パラメータ(Pq)を波形で示すと、正弦波のピーク値が抑制された波形(大まかに言えば台形状の波形)となる。
【0064】
モータ電流の実効値の低減には、電源電流(i
s)に含まれる5次調波の位相の設定も重要である。電源電流(i
s)に含まれる基本波の位相をθ1、5次調波の位相をθ5としたとき、電源電流(i
s)に含まれる基本波の位相を基準とした5次調波の位相をθ5−5θ1とする。
図10に、電源電流(i
s)に含まれる基本波の位相を基準とした5次調波の位相θ5−5θ1とモータ電流の実効値との関係を示す。
図10に示すように、位相が90°以上、かつ270°以下の範囲であれば、電源電流(i
s)に5次調波を含まない場合よりも、モータ電流の実効値を低減できる。本実施形態の第1テーブル(Tb1)は、電源電流(i
s)に含まれる基本波の位相を基準とした5次調波の位相が、90°以上、かつ270°以下の範囲となるように構成されている。
【0065】
本実施形態では、第1テーブル(Tb1)のq軸電流パラメータ(Pq)は、予め、5次調波を含む電源電流(i
s)が得られるように作成した。第1テーブル(Tb1)のd軸電流パラメータ(Pd)は、電源位相(θin)の値に関わらず、一定値である(
図9参照)。第1テーブル(Tb1)は、例えば空気調和装置(1)の製造時に制御部(40)のメモリディバイスに書き込まれる。
【0066】
以上の通り、第1テーブル(Tb1)は、モータ電流の実効値の低減を重視したテーブルである。換言すると、第1テーブル(Tb1)は、空気調和装置(1)の効率を重視したテーブルである。空気調和装置(1)では、第1テーブル(Tb1)を制御に用いると、電源電流(i
s)の波形から基本波、基本波に対する3次調波、及び5次調波を電源半周期において抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせた波形(以下、説明の便宜のため電流絶対値波形という)には極大点が2つ以上含まれる(
図11参照)。空気調和装置(1)では、第1テーブル(Tb1)を制御に用いると、モータ電流の実効値を抑制できる。
【0067】
図12に、他方のテーブル(以下、第2テーブル(Tb2)という)によって生成されるdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)を波形で示す。
図12でも、横軸は電源位相(θin)である。
図12における縦軸は、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)の値である。第2テーブル(Tb2)も、例えば空気調和装置(1)の製造時に制御部(40)のメモリディバイスに書き込まれる。
【0068】
第2テーブル(Tb2)のd軸電流パラメータ(Pd)も、電源位相(θin)の値に関わらず一定値である。第2テーブル(Tb2)のq軸電流パラメータ(Pq)も、予め5次調波を含む電源電流(i
s)が得られるように作成した。第2テーブル(Tb2)も、電源電流(i
s)に含まれる基本波の位相を基準とした5次調波の位相θ5−5θ1が、90°以上かつ270°以下の範囲となるように形成されている。
【0069】
電源電力(Pin)がP2(後述)における、(前記5次調波の振幅)/(前記基本波成分の振幅)の値である振幅比は、電源電力(Pin)がP1(P1<P2、詳細は後述)における(前記5次調波の振幅)/(前記基本波成分の振幅)の値である振幅比よりも小さい。電源電力(Pin)がP2における、電源電流(i
s)の波形は、電源電力(Pin)がP1における、電源電流(i
s)の波形よりも、正弦波により近い。空気調和装置(1)では、第2テーブル(Tb2)を用いると、電流絶対値波形には、極大点が1つ含まれる(
図13参照)。
【0070】
空気調和装置(1)では、第2テーブル(Tb2)のみによってd軸電流指令値(i
d*)やq軸電流指令値(i
q*)を生成する場合は、第1テーブル(Tb1)のみによってq軸電流指令値(i
q*)やd軸電流指令値(i
d*)を生成する場合よりも、電源電流(i
s)の高調波を抑制できる。第2テーブル(Tb2)は、電源電流(i
s)に含まれる高調波の抑制を重視したテーブルである。
【0071】
〈dq軸電流パラメータの生成〉
dq軸電流パラメータ選定部(48)は、電源電力(Pin)に応じて、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)を生成する。具体的にdq軸電流パラメータ選定部(48)は、電源電力(Pin)がP1(後述)よりも小さい場合には、第1テーブル(Tb1)から値を読み取って、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)としてdq軸電流指令演算部(49)に出力する。dq軸電流パラメータ選定部(48)は、電源電力(Pin)が、P2(ただしP2>P1、詳細は後述)よりも大きい場合には、第2テーブル(Tb2)から値を読み取って、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)としてdq軸電流指令演算部(49)に出力する。
【0072】
電源電力(Pin)がP1以上かつP2以下の場合には、dq軸電流パラメータ選定部(48)は、2つのテーブル(Tb1,Tb2)から読み取ったそれぞれの値の加重平均を求めて、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)を生成する。dq軸電流パラメータ選定部(48)は、算出した加重平均値をdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)としてdq軸電流指令演算部(49)に出力する。
【0073】
dq軸電流パラメータ選定部(48)は、加重平均を求める際の重みを、現在の電源電力(Pin)と電力(P1)との差(aとする)と、電力(P2)と電力(P1)の差(bとする)との比(w=a/b)に基づいて算出する。第1テーブル(Tb1)の値に対する重みは、(1−w)である。第2テーブル(Tb2)の値に対する重みは、wである。
【0074】
第1テーブル(Tb1)の値に対する重みは、現在の電源電力(Pin)が電力(P1)により近いほど、より大きくなる。現在の電源電力(Pin)が、電力(P1)と電力(P2)との平均値の場合には、dq軸電流パラメータ(Pq,Pd)として、2つのテーブル(Tb1,Tb2)から読み取ったそれぞれの値の相加平均値がdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)となる。
図14に、相加平均値を用いた場合のdq軸電流パラメータ(Pq,Pd)を例示する。
図15に、相加平均値を用いた場合の電流絶対値波形を例示する。
【0075】
本実施形態の電力(P1)は、空気調和装置(1)の運転状態が定格運転となる条件(以下、定格条件という)の下における電源電力(Pin)である。「定格条件」は、冷房や暖房の能力試験の条件として、ISO規格に定められている。具体的に冷房運転の定格条件に関しては、規格「ISO 5151 “Non-ducted air conditioners and heat pumps-Testing and rating for performance”」の冷房能力試験の標準定格条件(T1条件)が規定されている。暖房運転の定格条件に関しては、規格「ISO 5151 “Non-ducted air conditioners and heat pumps-Testing and rating for performance”」の暖房能力試験の標準定格条件が規定されている。
【0076】
冷房及び暖房の両方を行う機能を有する空気調和装置(1)の場合には、前記冷房能力試験に規定された標準定格条件、又は前記暖房能力試験に規定された標準定格条件を空気調和装置(1)の「定格条件」と定義する。冷房能力試験に規定された標準定格条件を「定格条件」として採用しても、前記暖房能力試験に規定された標準定格条件を「定格条件」として採用しても差し支えはない。何れの試験条件における「定格条件」でも、試験条件下の電源電力(Pin)は概ね同じだからである。一方、空気調和装置(1)が冷房の専用機である場合には、前記冷房能力試験の標準定格条件を空気調和装置(1)の「定格条件」と定義する。
【0077】
本実施形態の電力(P2)は、空気調和装置(1)の能力の最大条件の下における電源電力(Pin)である。ISO規格に規定されている冷房過負荷条件および暖房低温条件を「最大条件」と定義する。冷房過負荷条件は規格「ISO 5151 “Non-ducted air conditioners and heat pumps-Testing and rating for performance”」の冷房過負荷試験のT1条件が規定されている。暖房低温条件は規格「ISO 5151 “Non-ducted air conditioners and heat pumps-Testing and rating for performance”」の暖房能力試験のH2条件が規定されている。
【0078】
冷房及び暖房の両方を行う機能を有する空気調和装置(1)の場合には、前記暖房能力試験の低温条件に規定された条件を空気調和装置(1)の「最大条件」と定義する。例えば、空気調和装置(1)が冷房の専用機である場合には、前記冷房過負荷試験の条件を「最大条件」と定義する。何れの試験条件における「最大条件」を採用しても、試験条件下の電源電力(Pin)は概ね同じである。換言すると、何れの試験条件における「最大条件」を採用しても制御部(40)における制御には何ら差し支えはない。
【0079】
〈高調波パラメータの生成〉
ここで、(電源電流(i
s)が含む5次調波の振幅)/(電源電流(i
s)が含む基本波成分の振幅)の値を振幅比と定義する。高調波パラメータ選定部(50)は、電源電力(Pin)の大きさに応じて、振幅比を調整している。以下、振幅比の標記には、%標記を採用する。例えば、振幅比=0.09は、9%と標記する。
【0080】
図16は、定格条件下における、モータ電流の実効値と振幅比との関係を示す図である。
図17は、最大条件下における、モータ電流の実効値と振幅比との関係を示す図である。
図16、及び
図17では、横軸は振幅比である。
図16、及び
図17では、縦軸はモータ電流の実効値である。
【0081】
既述の通り、電源電流(i
s)に5次調波を重畳すれば、モータ電流の実効値が減少する。
図16及び
図17に示したグラフでは、ある振幅比を境界として傾きが大きく変化している。振幅比が前記境界を超えると、振幅比を増やしてもモータ電流の実効値はあまり低減しない。
【0082】
図16のグラフにおける「定格条件」には、前記冷房能力試験に規定された定格条件(以下、冷房定格条件という)を採用しても、前記暖房能力試験に規定された定格条件(以下、暖房定格条件という)を採用しても、傾きが変化するポイントは概ね同じである。これらの定格条件下において、前記傾きが変化するポイントは、振幅比=8.3%(切り上げて9%)である。空気調和装置(1)では、定格条件(冷房定格条件及び暖房定格条件の何れか)の下において、8.3%以上の振幅比で5次調波が電源電流(i
s)に重畳されていれば、モータ電流実効値が確実に低減する。
【0083】
図17のグラフにおける「最大条件」には、前記冷房過負荷試験の条件(以下、冷房最大条件という)を採用しても、前記暖房能力試験の低温条件に規定された条件を空気調和装置(1)の条件(以下、暖房最大条件という)を採用しても、傾きが変化するポイントは概ね同じである。これらの最大条件下において傾きが変化するポイントは、振幅比=3.2%(切り上げて4%)である。空気調和装置(1)では、最大条件(冷房最大条件及び暖房最大条件の何れか)の下において、3.2%以上の振幅比で5次調波が電源電流(i
s)に重畳されていれば、モータ電流実効値が確実に低減する。
【0084】
以上から、制御部(40)では、定格条件(冷房定格条件及び暖房定格条件の何れでもよい。以下同様)の下では振幅比を9%以上とし、最大条件(冷房最大条件、及び暖房最大条件の何れでもよい。以下同様)の下では振幅比を4%以上としている。振幅比の大きさは、非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)の大きさによって調整できる。高調波パラメータ選定部(50)が出力すべき非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)の大きさを、例えば、実験やシミュレーションによって予め決定すればよい。
【0085】
電力変換装置(10)では、任意の電源半周期において、最大条件下の振幅比は、定格条件下の振幅比よりも小さく制御される。換言すると、制御部(40)は、電源電力(Pin)の大きさに応じて、振幅比が減少するようにスイッチング動作を制御する。
【0086】
空気調和装置(1)では、所定の高調波規格を満たすことが前提となる。高調波規格としては、国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission:略称IEC)における高調波規格(以下、IEC規格)を例示できる。
【0087】
電源電流(i
s)に含まれる高調波の大きさの、高調波規格の規格値に対する割合を、本実施形態では、割合上限値と命名する。例えば、定格条件下と最大条件下とで割合上限値を異ならせた場合は、定格条件下及び最大条件下の何れかにおいて、モータ電流の実効値低減の効果が小さくなる。一方、定格条件下における割合上限値と最大条件下における割合上限値とを揃え、かつ、割合上限値により近くなる振幅比とすることで、定格条件下および最大条件下において高調波規格を満たしつつ、モータ電流の実効値の低減効果が大きくなる。
【0088】
図18に、割合上限値と振幅比との関係を示す。
図18の横軸は、割合上限値である。
図18の縦軸は、最大条件下における振幅比を、定格条件下における振幅比に対する割合で示した値である。
図18に示すように、割合上限値が40%から100%の範囲では、最大条件下の振幅比が、定格条件下における振幅比の50%以上になる。設定した割合上限値で、最大条件及び定格条件でモータ電流実効値を十分に低減するためには、最大条件下の振幅比が、定格条件における振幅比の50%以上である必要がある。「定格条件」に対して、冷房定格条件を採用しても暖房定格条件を採用しても同じ結果である。同様に、「最大条件」には、冷房最大条件を採用しても、暖房最大条件を採用してもよい。
【0089】
以上から、本実施形態では、制御部(40)は、最大条件下における振幅比が、定格条件下における振幅比の50%以上となるように、スイッチング動作を制御する。振幅比の大きさは、非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)の大きさによって調整できる。高調波パラメータ選定部(50)が出力すべき非導通期間の長さα1、α2および高調波パラメータ(i3)の大きさを、例えば、実験やシミュレーションによって予め決定すればよい。空気調和装置(1)では、高調波規格を満たしつつ、モータ電流の実効値を低減することができる。
【0090】
以上をまとめると、本実施形態は、空気調和装置(1)において、モータ(30)と、前記モータ(30)に電力を供給する電力変換装置(10)と、前記電力変換装置(10)を制御する制御部(40)とを備え、
前記電力変換装置(10)は、
単相の交流電源(20)の交流電圧を整流するコンバータ回路(11)と、
コンデンサ(C)を有し、前記コンバータ回路(11)の出力を入力として前記交流電圧の周波数に応じて脈動する直流電圧(v
dc)を生成する直流リンク部(12)と、
複数のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を有したインバータ回路(13)とを備え、
前記コンデンサ(C)は、前記空気調和装置(1)の最大条件下において、前記直流電圧(v
dc)の最大値が前記直流電圧(v
dc)の最小値の2倍以上になるように容量値が設定され、
前記インバータ回路(13)は、前記直流電圧(v
dc)を前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のスイッチング動作により所定の周波数の交流電圧に変換して前記モータ(30)に出力し、
前記制御部(40)は、
前記電力変換装置(10)への入力電流(i
s)が非導通期間を有するように前記スイッチング動作を制御し、
かつ
前記空気調和装置(1)の最大条件下では、前記入力電流(i
s)に含まれる基本波に対する5次調波の位相が90°以上かつ270°以下の範囲で、かつ、(前記5次調波の振幅)/(基本波成分の振幅)の値である振幅比が、前記空気調和装置(1)の定格条件下における前記振幅比よりも小さくなるように前記スイッチング動作を制御することを特徴とする空気調和装置(1)である。
【0091】
〈本実施形態における効果〉
以上の通り、本実施形態では、電源電力(Pin)に応じて振幅比を制御している。この構成によって、本実施形態では、モータ電流の実効値の抑制と電源電流に含まれる高調波電流の抑制とをバランスよく実現できる。
【0092】
《その他の実施形態》
dq軸電流パラメータ選定部(48)では、テーブルに代えて、プログラム内に実装した関数を用いてもよい。第1テーブル(Tb1)および第2テーブル(Tb2)のd軸電流パラメータ(Pd)は電源位相(θin)によって値を変化させてもよい。
【0093】
電流指令演算部(42)では、前記プログラム内に実装された関数や、予め求めておいたテーブルといった形で第3波形生成の基になる情報を保持しておいてもよい。
【0094】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
)に含まれる基本波に対する5次調波の位相が90°以上かつ270°以下の範囲で、かつ、(5次調波の振幅)/(基本波成分の振幅)の値である振幅比が、空気調和装置の定格条件下における振幅比よりも小さくなるようにスイッチング動作を制御する。