【実施例】
【0104】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0105】
本技術の実施例について以下の順序で説明する。
i X線解析スペクトルの評価(1)
ii 電池特性の評価
iii TMA曲線およびDTA曲線の評価
iv X線解析スペクトルの評価(2)
v 異種金属添加の評価
vi ラマンスペクトルのピーク面積強度比X/Yの評価
vii ラマンスペクトルのメインピーク幅の評価
viii NMRの評価
ix 加圧焼成した固体電解質の評価
x 加圧焼成した電極の評価
【0106】
<i X線解析スペクトルの評価(1)>
(実施例1−1)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=70.8mol%:16.7mol%:12.5mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、厚さ約0.5mmの板(カレット)状の固体電解質前駆体を得た。次に、この固体電解質前駆体を380℃で2時間アニール処理することにより、板状の固体電解質を得た。
【0107】
(実施例1−2)
前駆体のアニール処理の条件を440℃、2時間としたこと以外は実施例1−1と同様にして固体電解質を得た。
【0108】
(比較例1−1)
前駆体のアニール処理の条件を470℃、2時間としたこと以外は実施例1−1と同様にして固体電解質を得た。
【0109】
(比較例1−2)
アニール処理の前工程までを実施例1−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0110】
(実施例2−1)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:11mol%:35mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、厚さ約0.5mmの板(カレット)状の固体電解質前駆体を得た。次に、この固体電解質前駆体を450℃で2時間アニール処理することにより、板状の固体電解質を得た。
【0111】
(比較例2−1)
前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間としたこと以外は実施例2−1と同様にして固体電解質を得た。
【0112】
(比較例2−2)
アニール処理の前工程までを実施例2−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0113】
(評価)
上述のようにして得られた固体電解質および固体電解質前駆体を評価サンプルとして、以下の評価を行った。なお、X線回折の測定では、板状の両サンプルにボールミル、もしくはメノウ乳鉢などで粉砕を行ってから測定を行った。また、イオン導電率の測定では、粉砕していない、板状のままの両サンプル用いて測定を行った。
【0114】
(X線回折)
CuKαを線源とするX線回折を評価サンプルに行い、X線回折スペクトルを測定した。その測定結果に基づき、サンプルの構造を特定した。その結果を表1に示す。なお、測定には株式会社リガク製のSmartLab(3kw)を用いた。
【0115】
図5は、実施例1−1、比較例1−1の固体電解質、比較例1−2の固体電解質前駆体のX線回折スペクトルを示す。以下、
図5を参照して、X線回折スペクトルに基づく、評価サンプルの構造の特定方法について説明する。
アニール処理なしの固体電解質前駆体(比較例1−2)では、ハローピークが検出されている。これにより、アニール処理なしの固体電解質前駆体は、ガラスであると特定される。
380℃のアニール処理を施した固体電解質(実施例1−1)では、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出されている。また、ハローピークも検出されている。これにより、380℃のアニール処理を施した固体電解質は、結晶とアモルファスとの混合体、すなわちガラスセラミックスであると特定される。
470℃のアニール処理を施した固体電解質(比較例1−1)では、380℃のアニール処理を施した固体電解質よりもピークが急峻となっている。また、ハローピークは検出されない。これにより、470℃のアニール処理を施した固体電解質は、結晶であると特定される。
【0116】
表1は、評価サンプルの評価結果を示す。
【表1】
【0117】
表1から、アニール温度を特定の温度範囲にすることで、固体電解質としてガラスセラミックスが得られることがわかる。
【0118】
(イオン導電率)
評価サンプルの両面に電極として金(Au)を蒸着したのち、交流インピーダンス測定(25℃)を行い、コール−コールプロットを作成した。次に、このコール−コールプロットからイオン導電率を求めた。その結果を
図6A、
図6Bに示す。なお、
図6A、
図6B中における近似直線は、最小二乗法(指数近似)により算出したものである。測定装置としてはソーラトロン社製のSolartron 1260/1287を用い、測定周波数を1MHz〜1Hzとした。
図7Aに、実施例1−1の固体電解質のコール−コールプロットを示す。また、
図7Bに、
図7Aのコール−コールプロットのうち領域Rを拡大して表す。
【0119】
図6Aから以下のことがわかる。
380℃、440℃のアニール処理を施した固体電解質(ガラスセラミックス)では、アニール処理を施していない固体電解質前駆体(ガラス)に比してイオン導電率が向上している。
470℃のアニール処理を施した固体電解質(結晶)では、アニール処理を施していない固体電解質前駆体(ガラス)に比してイオン導電率が低下している。
【0120】
図6Bから以下のことがわかる。
450℃のアニール処理を施した固体電解質(ガラスセラミックス)では、アニール処理を施していない固体電解質前駆体(ガラス)に比してイオン導電率が向上している。
500℃のアニール処理を施した固体電解質(結晶)では、アニール処理を施していない固体電解質前駆体(ガラス)に比してイオン導電率が低下している。
【0121】
<ii 電池特性の評価>
(実施例3−1)
[固体電解質ペレット作製の工程]
まず、Li
6BaLa
2Ta
2O
12の粉末を直径13mmφにペレット成型し、1000℃8時間焼成を行って結着させた。その後、ペレットの両面を研磨して厚みを0.3mmにした。これにより、固体電解質基板が形成された。
【0122】
[正極スラリー調製および正極形成の工程]
まず、以下の材料を秤量し、撹拌して、正極活物質と固体電解質前駆体の重量比(正極活物質:固体電解質前駆体)が50:50である正極スラリーを調製した。
正極活物質:LiCoO
2 3g
固体電解質前駆体:実施例2−1の固体電解質前駆体の粉末 3g
増粘剤:アクリル系結着剤 1.07g
溶媒:テルピネオール 6.25g
【0123】
次に、調製した正極スラリーをスクリーン印刷にて上記固体電解質基板に6mmφの大きさに塗布し、100℃で乾燥させた後、420℃で10分アニール処理を行うことにより、膜厚3μmの正極を形成した。
【0124】
[全固体電池組み立ての工程]
まず、スパッタリングにより正極上に集電体層としてPt薄膜を形成した後、Pt薄膜上にAl箔を貼りつけた。次に、正極との反対面に金属Li/Cu箔を貼り、冷間等方圧プレスにより圧力200MPaの条件にて加圧することにより、負極を形成した。以上により、目的とする電池(全固体リチウムイオン二次電池)が得られた。
【0125】
(評価)
上述のようにして得られた電池を評価サンプルとして、以下の評価を行った。
【0126】
(充放電曲線)
以下の測定条件により評価サンプルに対して充放電を行い、充放電曲線を求めた。その結果を
図8に示す。
測定条件:カットオフ電圧4.2V/3V、電流0.1μA(c.c)
【0127】
図8から、実施例3−1の電池では、良好な充放電特性が得られていることがわかる。
【0128】
(サイクル特性)
以下の測定条件により評価サンプルに対して充放電を行い、サイクル特性(初期容量に対する容量維持率)を求めた。その結果を
図9に示す。
測定条件:環境温度25℃、レート0.3C、電圧範囲2.5V〜4.2V
【0129】
図9から、700サイクル後にも大きなサイクル特性の低下はなく、80%程度の容量維持率が得られていることがわかる。
【0130】
<iii TMA曲線およびDTA曲線の評価>
(参考例1−1)
アニール処理の前工程までを実施例1−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0131】
(参考例2−1)
アニール処理の前工程までを実施例2−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0132】
(TMA曲線およびDTA曲線の測定)
上述のようにして得られた参考例1−1、2−1の前駆体のTMA曲線およびDTA曲線を測定した。その結果を
図10A、および
図10Bに示す。なお、TMA測定には株式会社リガク製のThermo EVO TMA8310を用い、DTA測定には株式会社リガク製のThermo EVO TG8120を用いた。
【0133】
図10Aから以下のことがわかる。
参考例1−1のTMA曲線には、300℃付近から軟化による収縮が見られる。
参考例1−1のDTA曲線には、発熱ピークPa、Pbが見られる。ピークPaは、固体電解質前駆体がガラスからガラスセラミックスになったことを示している。一方、ピークPbは、ピークPaにて生成したガラスセラックから結晶に相転移したことを示している。
【0134】
この結果から、上述の実施例1−1の固体電解質におけるイオン導電率の改善は、380℃のアニール処理により前駆体がガラスセラミックスに変化したためと考えられる。また、上述の比較例1−1の固体電解質におけるイオン導電率の低下は、470℃のアニール処理により、生成したガラスセラミックスが結晶に相転移したためと考えられる。
【0135】
図10Bから以下のことがわかる。
参考例2−1のTMA曲線には、400℃付近から軟化による収縮が見られる。
参考例2−1のDTA曲線には、装置感度の問題により、ピークが明確に現れていないが、実際には領域Raの位置に発熱ピークPaが現れる。したがって、領域Raで示す付近において、参考例1−1と同様に固体電解質前駆体がガラスからガラスセラミックスになっていると考えられる。
【0136】
<iv X線解析スペクトルの評価(2)>
(実施例4−1)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=70.8mol%:16.7mol%:12.5mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、厚さ約0.5mmの板(カレット)状の固体電解質前駆体を得た。次に、この固体電解質前駆体を380℃で、2時間アニール処理することにより、板状の固体電解質を得た。
【0137】
(実施例4−2)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=68mol%:12mol%:20mol%となるように混合した。また、固体電解質前駆体のアニール処理の条件を380℃、2時間とした。これ以外のことは実施例4−1と同様にして固体電解質を得た。
【0138】
(実施例4−3)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=65mol%:10mol%:25mol%となるように混合した。また、固体電解質前駆体のアニール処理の条件を380℃、2時間とした。これ以外のことは実施例4−1と同様にして固体電解質を得た。
【0139】
(実施例4−4)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:11mol%:35mol%となるように混合した。また、固体電解質前駆体のアニール処理の条件を440℃、2時間とした。これ以外のことは実施例4−1と同様にして固体電解質を得た。
【0140】
(実施例4−5)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:13mol%:33mol%となるように混合した。また、固体電解質前駆体のアニール処理の条件を440℃、2時間とした。これ以外のことは実施例4−1と同様にして固体電解質を得た。
【0141】
(実施例4−6)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:15mol%:31mol%となるように混合した。また、固体電解質前駆体のアニール処理の条件を440℃、2時間とした。これ以外のことは実施例4−1と同様にして固体電解質を得た。
【0142】
(実施例4−7)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=50mol%:11mol%:39mol%となるように混合した。また、固体電解質前駆体のアニール処理の条件を460℃、2時間とした。これ以外のことは実施例4−1と同様にして固体電解質を得た。
【0143】
(実施例4−8)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=47mol%:8mol%:45mol%となるように混合した。また、固体電解質前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間とした。これ以外のことは実施例4−1と同様にして固体電解質を得た。
【0144】
(評価)
上述のようにして得られた固体電解質を評価サンプルとして、以下の評価を行った。なお、X線回折の測定では、板状のサンプルをボールミルまたはメノウ乳鉢などで粉砕したものを用いて測定を行った。
【0145】
(X線回折)
CuKαを線源とする評価サンプルのX線回折パターンを測定した。その結果を
図11A〜
図13Bに示す。また、
図11A〜
図13Bの一部をそれぞれ拡大して
図14A〜
図16Bに示す。次に、その測定結果に基づき、評価サンプルの構造を特定した。その結果を表2に示す。なお、測定には株式会社リガク製のSmartLab(3kw)を用いた。
【0146】
表2は、評価サンプルの評価結果を示す。
【表2】
【0147】
図11A〜
図13B、
図14A〜
図16B、表2から以下のことがわかる。
実施例4−1〜4−8の固体電解質では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出されている。
図11A〜
図13B、
図14A〜
図16Bに示したX線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に現れるピーク位置にサンプル間で僅かなずれが生じているが、これらの回折角2θの範囲にピークが2本以上検出される固体電解質であれば、ピーク位置のずれに依らず良好なイオン導電性を得ることができる。なお、上述のピーク位置ずれの発生の原因は明らかではないが、測定サンプルの結晶構造の相違、または格子定数のずれによるものと考えられる。
【0148】
したがって、Li
2Oの配合量を40mol%以上73mol%以下とし、SiO
2の配合量を8mol%以上40mol%以下とし、B
2O
3の配合量を10mol%以上50mol%以下として固体電解質前駆体を作製し、所定の条件でアニール処理することで、上記ピークを有する固体電解質を得ることができる。なお、各非晶質系材料(Li
2O、SiO
2、B
2O
3)の配合量は、Li
2O、SiO
2およびB
2O
3の総量を100mol%とした値である。
【0149】
<v 異種金属添加の評価>
(実施例5−1)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:11mol%:35mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、厚さ約0.5mmの板(カレット)状の固体電解質前駆体を得た。次に、この固体電解質前駆体を440〜450℃の温度範囲で、2時間アニール処理することにより、板状の固体電解質を得た。
【0150】
(実施例5−2〜5−8)
Li
2O、SiO
2およびB
2O
3(Li
2O:SiO
2:B
2O
3=51.4mol%:10.5mol%:33.3mol%)に、サンプル毎に異なる添加材(MxOy)を更に混合したこと以外は実施例5−1と同様にして固体電解質を得た。なお、添加材としては、ZnO、Y
2O
3、La
2O
3、TiO
2、ZrO
2、GeO
2、TaO
2を用いた。
なお、各添加剤の添加量は、4.8mol%とした。
【0151】
(実施例5−9)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=55mol%:11mol%:33mol%となるように混合した。また、添加材(MxOy)として1CaOを用いた。これ以外のことは実施例5−2〜5−9と同様にして固体電解質を得た。
【0152】
(比較例5−1〜5−9)
アニール処理の前工程までを実施例5−1〜5−9と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0153】
(評価)
上述のようにして得られた固体電解質および固体電解質前駆体を評価サンプルとして、以下の評価を行った。なお、X線回折の測定では、板状のサンプルをボールミルまたはメノウ乳鉢などで粉砕したものを用いて測定を行った。また、イオン導電率の測定では、粉砕していない、板状のままのサンプル用いて測定を行った。
【0154】
(X線回折)
CuKαを線源とするX線回折を評価サンプルに行い、X線回折スペクトルを測定した。その測定結果に基づき、サンプルの構造を特定した。その結果を表3に示す。なお、測定には株式会社リガク製のSmartLab(3kw)を用いた。
【0155】
(イオン導電率)
固体電解質のイオン導電率を実施例1−1と同様にして測定した。その結果を表3に示す。
【0156】
表3は、評価サンプルの評価結果を示す。
【表3】
【0157】
なお、実施例5−1、5−2、・・・、5−9の固体電解質(ガラスセラミックス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出された。一方、比較例5−1、5−2、・・・、5−9の固体電解質前駆体(ガラス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出されなかった。
【0158】
表3から、固体電解質がLi、SiおよびBに加えて、Zn、Y、La、Ti、Zr、Ge、TaまたはCaをさらに含んでいる場合にも、所定の条件で固体電解質前駆体をアニール処理することで、イオン導電率を向上できることがわかる。
【0159】
<vi ラマンスペクトルのピーク面積強度比X/Yの評価>
(実施例6−1〜6−3、比較例6−1〜6−5)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=70.8mol%:16.7mol%:12.5mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、厚さ約0.5mmの板(カレット)状の固体電解質前駆体を得た。次に、この固体電解質前駆体を25〜550℃の温度範囲で、5分アニール処理することにより、板状の固体電解質を得た。
【0160】
(比較例7−1〜7−8)
ツインローラ法に代えてプレス法を用いたこと以外は、実施例6−1〜6−3、比較例6−1〜6−5と同様にして、固体電解質を得た。
【0161】
(評価)
上述のようにして得られた固体電解質を評価サンプルとして、以下の評価を行った。なお、X線回折の測定では、板状のサンプルをボールミルまたはメノウ乳鉢などで粉砕したものを用いて測定を行った。また、ラマンスペクトルおよびイオン導電率の測定では、粉砕していない、板状のままのサンプル用いて測定を行った。
【0162】
(ラマン分光)
評価サンプルのラマンスペクトルを測定した。次に、測定したラマンスペクトルのXピーク(BO
33-構造に帰属するピーク)と、Yピーク(B
2O
54-構造に帰属するピーク)の強度を求め、ピーク面積強度比X/Yを算出するとともに、評価サンプルの構造を特定した。その結果を表4および
図17に示す。また、アニール処理前における実施例6−1の固体電解質(固体電解質前駆体)のラマンスペクトルを
図18Aに示し、実施例6−1、6−3のラマンスペクトルをそれぞれ
図18B、
図18Cに示す。
【0163】
(イオン導電率)
評価サンプルのイオン導電率を実施例1−1と同様にして測定した。その結果を表3に示す。
【0164】
(X線回折)
CuKαを線源とする評価サンプルのX線回折スペクトルを測定し、この測定結果に基づき評価サンプルの構造を特定した。その結果を表4に示す。なお、測定には株式会社リガク製のSmartLab(3kw)を用いた。
【0165】
表4は、評価サンプルの評価結果を示す。
【表4】
【0166】
実施例6−1〜6−3の固体電解質(ガラスセラミックス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出された。また、比較例6−5、7−8の固体電解質(結晶)でも、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出された。一方、比較例6−1〜6−4、7−1〜7−7の固体電解質(ガラス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出されなかった。
【0167】
なお、プレス法を用いた比較例7−1〜7−8のサンプルでは、アニール条件を調整して固体電解質をガラスセラミックスの状態としても、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出されることはなかった。プレス法を用いて作製した固体電解質では、ガラスセラミック状態としても上記ピークが検出されなかった理由は明らかではないが、ツインローラ法とプレス法で作製した固体電解質では、ガラスセラミックス中のガラス、または結晶の構造に違いが生じているためと推測される。また、この構造の違いが、イオン導電率の特性を変える要因となっていると考えられる。
【0168】
図18から以下のことがわかる。
イオン伝導率が改善した低温(380℃)加熱後の固体電解質では、イオン伝導率が低下した高温(470℃)加熱後の固体電解質に比べてピーク面積強度比X/Yが大きい。
図17および表4から以下のことがわかる。
固体電解質の原料が同一であっても、その製法によってピーク面積強度比X/Yの値に違いが生じる。具体的には、ツインローラ法により作製した固体電解質にはピーク面積強度比X/Yの上昇が見られるのに対して、プレス法により作製した固体電解質にはピーク面積強度比X/Yの上昇は見られなない。また、380〜460℃領域の低温加熱によってイオン導電性が改善するのは、ツインローラ法により作製した固体電解質のみである。
【0169】
<vii ラマンスペクトルのメインピーク幅の評価>
(実施例8−1)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=68mol%:12mol%:20mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、厚さ約0.5mmの板(カレット)状の固体電解質前駆体を得た。次に、この固体電解質前駆体を380℃の温度範囲で、2時間アニール処理することにより、板状の固体電解質を得た。
【0170】
(比較例8−1)
前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間としたこと以外は実施例8−1と同様にして固体電解質を得た。
【0171】
(比較例8−2)
アニール処理の前工程までを実施例8−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0172】
(実施例9−1)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=65mol%:10mol%:25mol%となるように混合した。また、前駆体のアニール処理の条件を380℃、2時間とした。これ以外のことは実施例8−1と同様にして固体電解質を得た。
【0173】
(比較例9−2)
前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間としたこと以外は実施例9−1と同様にして固体電解質を得た。
【0174】
(比較例9−2)
アニール処理の前工程までを実施例9−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0175】
(実施例10−1)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:15mol%:31mol%となるように混合した。また、前駆体のアニール処理の条件を440℃、2時間とした。これ以外のことは実施例8−1と同様にして固体電解質を得た。
【0176】
(比較例10−1)
前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間としたこと以外は実施例10−1と同様にして固体電解質を得た。
【0177】
(比較例10−2)
アニール処理の前工程までを実施例10−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0178】
(実施例11−1)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:13mol%:33mol%となるように混合した。また、前駆体のアニール処理の条件を440℃、2時間とした。これ以外のことは実施例8−1と同様にして固体電解質を得た。
【0179】
(比較例11−1)
前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間としたこと以外は実施例11−1と同様にして固体電解質を得た。
【0180】
(比較例11−2)
アニール処理の前工程までを実施例11−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0181】
(実施例12−1)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:11mol%:35mol%となるように混合した。また、前駆体のアニール処理の条件を440℃、2時間とした。これ以外のことは実施例8−1と同様にして固体電解質を得た。
【0182】
(比較例12−1)
前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間としたこと以外は実施例12−1と同様にして固体電解質を得た。
【0183】
(比較例12−2)
アニール処理の前工程までを実施例12−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0184】
(実施例13−1)
Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=50mol%:11mol%:39mol%となるように混合した。また、前駆体のアニール処理の条件を460℃、2時間とした。これ以外のことは実施例8−1と同様にして固体電解質を得た。
【0185】
(比較例13−1)
前駆体のアニール処理の条件を520℃、2時間としたこと以外は実施例13−1と同様にして固体電解質を得た。
【0186】
(比較例13−2)
アニール処理の前工程までを実施例13−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0187】
(評価)
上述のようにして得られた固体電解質および固体電解質前駆体を評価サンプルとして、以下の評価を行った。なお、X線回折の測定では、板状のサンプルをボールミルまたはメノウ乳鉢などで粉砕したものを用いて測定を行った。また、ラマンスペクトルおよびイオン導電率の測定では、粉砕していない、板状のままのサンプル用いて測定を行った。
【0188】
(ラマン分光)
まず、評価サンプルのラマンスペクトルを測定した。その測定結果を
図19、
図20に示す。次に、ラマンシフトが500〜1000cm
-1の領域に現れるピークのうちメインピークの半値幅(full width at half maximum:FWHM)を求めた。その結果を表5および
図21に示す。なお、半値幅はGaussian fittingにより算出した。
【0189】
(X線回折)
CuKαを線源とする評価サンプルのX線回折スペクトルを測定し、この測定結果に基づき評価サンプルの構造を特定した。その結果を表5に示す。なお、測定には株式会社リガク製のSmartLab(3kw)を用いた。
【0190】
(イオン導電率)
評価サンプルのイオン導電率を実施例1−1と同様にして測定した。その結果を表5に示す。
【0191】
表5は、評価サンプルの評価結果を示す。
【表5】
【0192】
なお、実施例8−1、9−1、・・・、13−1の固体電解質(ガラスセラミックス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出された。また、比較例8−1、9−1、・・・、13−1の固体電解質(結晶)でも、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出された。一方、比較例8−2、9−2、・・・、13−2の固体電解質(ガラス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出されなかった。
【0193】
図19〜
図21および表5から以下のことがわかる。
低温アニール(380℃〜460℃)を施した固体電解質では、半値幅が20以上であるのに対して、高温アニール(500℃〜520℃)を施した固体電解質では、半値幅が20未満である。
半値幅が20以上の固体電解質は、アニール処理によりイオン導電率が向上するのに対して、半値幅が20未満の固体電解質は、アニール処理によりイオン導電率が低下する。
【0194】
<viii NMRの評価>
(実施例14−1)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:11mol%:35mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、固体電解質前駆体を得た。次に、この固体電解質前駆体を440℃の温度範囲で、2時間アニール処理することにより、固体電解質を得た。
【0195】
(比較例14−1)
固体電解質前駆体のアニール処理の条件を500℃、2時間に変更した以外のことは、実施例14−1と同様にして固体電解質を得た。
【0196】
(比較例14−2)
アニール処理の前工程までを実施例14−1と同様に行うことで、固体電解質前駆体を得た。
【0197】
(評価)
上述のようにして得られた固体電解質および固体電解質前駆体を評価サンプルとして、以下の評価を行った。なお、X線回折、及びNMRの測定では、板状のサンプルをボールミル、もしくはメノウ乳鉢などで粉砕を行ってから測定を行った。また、イオン導電率の測定では、粉砕していない、板状のままのサンプルを用いて測定を行った。
【0198】
(X線回折)
CuKαを線源とするX線回折を評価サンプルに行い、X線回折スペクトルを測定した。その測定結果に基づき、評価サンプルの構造を特定した。その結果を表7に示す。なお、測定には株式会社リガク製のSmartLab(3kw)を用いた。
【0199】
(イオン導電率)
評価サンプルのイオン導電率を実施例1−1と同様にして測定した。その結果を表7に示す。
【0200】
(
7Li−NMR)
固体電解質について、固体高分解能核磁気共鳴法(NMR法)によって
7Li核のスピン−格子緩和時間T1および化学シフトを求めた。その結果を表7に示す。また、
7Li核のスピン−格子緩和時間T1とイオン導電率との関係を
図22に示す。測定には、(独)理化学研究所横浜キャンパス内の(株)JEOL Resonance社製 ECA700 Delta2 NMRとDoty社製 4mmφMASプローブを組み合わせた装置を利用し、シングルパルス法で、表6に示した条件にて測定した。サンプルロータは、窒化ケイ素の素材のものを用いた。
【0201】
表6は、
7Li固体NMRの測定条件を示す。
【表6】
【0202】
表7は、評価サンプルの評価結果を示す。
【表7】
【0203】
なお、実施例14−1の固体電解質(ガラスセラミックス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出された。また、比較例14−1の固体電解質(結晶)でも、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出された。一方、比較例14−2の固体電解質(ガラス)では、X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°および25°<2θ≦30°それぞれの範囲に、結晶構造に由来するピークが2本以上検出されなかった。
【0204】
上記評価結果から以下のことがわかった。
7Li−NMRスペクトルについては、どのサンプルでも半値幅が1kHz程度のブロードなシグナルが観測された。これらのシグナルの化学シフト値に大きな変化はなく、0.1〜0.5ppmの幅に収まっていた。一方で、このシグナルのT1値には顕著な傾向が確認できた。T1値(縦緩和、スピン−格子緩和時間)は、その原子、イオンの運動状態(ある格子位置における運動(格子振動)を指す。並進運動とは異なるが、両者に相関関係はある。)に関する情報が含まれる。本系のようなLi核の磁気環境が類似していると考えられる一連のサンプルにおいては、T1値が小さい(緩和の効率が良い)場合は運動性が高く、T1値が大きい場合には運動性が低いと考えられる。表7において、低温アニールによってT1値は小さくなる。即ち、Liイオンの運動性が高くなる。一方、高温アニールによってT1値は大きくなることから、Liイオンの運動性は低下していると考えられる。
【0205】
7Li−NMRのT1測定より、実施例14−1、比較例14−1、14−2のサンプルにて、低温アニール後でLiイオンの運動性が向上し、高温アニール後ではその低下が観測された。これは低温アニール後の導電率の向上と高温アニール後の導電率の低下の傾向と一致している。
【0206】
図22から、
7Li−NMRのT1値と導電率の間には直線関係の成立が示唆される。このことは、導電率という材料のマクロな性質が、Liイオンの運動性というミクロな視点でのパラメータに反映されていることを示唆する。従って、T1値は本材料系を規定するパラメータとして有効であると考えられる。具体的には、T1値が、好ましくは6秒以下、より好ましくは5秒以下、さらに好ましくは3秒以下であると考えられる。
【0207】
<ix 加圧焼成した固体電解質の評価>
(実施例15−1〜15−4)
まず、Li
2OとSiO
2とB
2O
3とをモル分率でLi
2O:SiO
2:B
2O
3=54mol%:11mol%:35mol%となるように混合し、大気中にて加熱溶融した。次に、この溶融物をツインローラで急冷して、固体電解質前駆体を得た(実施例2−1と同様の手法)。次に、この固定電解質前駆体をボールミルにより粉砕することにより、固体電解質前駆体の粉末を得た。次に、この固体電解質前駆体の粉末をホットプレスにて表8に示す温度および圧力で、10分間加圧焼成することにより、加圧焼成体としてのペレット状の固体電解質を得た。
【0208】
(参考例15−1、15−2)
まず、実施例15−1、15−2と同様にして、固体電解質の粉末を得た。次に、この固体電解質の粉末を表8に示す温度で120分間焼成することにより、焼成体としてのペレット状の固体電解質を得た。
【0209】
(評価)
上述のようにして得られた固体電解質を評価サンプルとして、以下の評価を行った。なお、X線回折の測定では、ペレット状のサンプルをボールミルまたはメノウ乳鉢などで粉砕したものを用いて測定を行った。また、イオン導電率の測定では、粉砕していない、ペレット状のままのサンプル用いて測定を行った。
【0210】
(X線回折)
まず、CuKαを線源とするX線回折を評価サンプルに行い、X線回折スペクトルを測定した。その結果を
図23に示す。なお、測定にはBruker Corporation製のD8 DISCOVERを用いた。次に、測定したX線回折スペクトルから、ピークAとピークBのピーク強度比A/Bを求めた。その結果を表8に示す。
【0211】
(イオン導電率)
固体電解質のイオン導電率を実施例1−1と同様にして測定した。その結果を表8に示す。
【0212】
表8は、サンプルの評価結果を示す。
【表8】
【0213】
図23から以下のことがわかる。
加圧焼成(ホットプレス)した固体電解質と、加圧せずに焼成のみした固体電解質とでは、X線回折パターンが異なっている。具体的には、加圧焼成した固体電解質は、X線回折スペクトルにおいて、25°≦2θ≦26°の範囲に現れるピークAと、41°≦2θ≦42°の範囲に現れるピークBとの両方を有する。一方、焼成のみした固体電解質は、上記ピークAを有してはおらず、また上記ピークBとほぼ同様の位置にピークを有してはいるものの、その強度は極めて小さい。したがって、加圧焼成した固体電解質と、焼成のみした固体電解質とでは結晶構造が異なっている。
【0214】
表8から以下のことがわかる。
加圧焼成した固体電解質は、ピークAとピークBのピーク強度比A/Bが、0.5以上2以下の範囲内である。
実施例15−1〜15−4、参考例15−1、15−2の固体電解質はいずれも、途中まで実施例5−1の固体電解質と同じ組成・条件で合成している。しかし、実施例5−1の固体電解質では得られた板状の状態のままでイオン導電率を測定しているのに対し、実施例15−1〜15−4、参考例15−1、15−2の固体電解質はいずれも加圧焼成の効果を検討するために、一度固体電解質前駆体(ガラス)を粉砕した後、圧粉成型したものを用いてイオン導電率を測定している。このため、実施例15−1〜15−4、参考例15−1、15−2のいずれの固体電解質のイオン導電率も、比較例5−1の固体電解質のイオン導電率と比較して低くなってしまっている。
しかしながらその中でも、加圧焼成した実施例15−1〜15−4の固体電解質のイオン導電率は、焼成のみした参考例15−1、15−2の固体電解質のイオン導電率に比して高くなっている。具体的には、加圧焼成した実施例15−1〜15−4の固体電解質のイオン導電率は、焼成のみした参考例15−1、15−2の固体電解質のイオン導電率に比して10倍以上高くなっている。このイオン導電性の違いは、加圧焼成した固体電解質と、焼成のみした固体電解質との結晶構造の違いによるものと考えられる。
【0215】
<x 加圧焼成した電極の評価>
(実施例16−1)
[固体電解質ペレット作製]
まず、Li
6BaLa
2Ta
2O
12の粉末を直径13mmφにペレット成型し、1000℃8時間焼成を行って結着させた。その後、ペレットの両面を研磨して厚みを1mmにした。これにより、固体電解質基板が形成された。
【0216】
[正極スラリー調製および正極形成の工程]
まず、正極活物質としてLCO(Aldrich製)1.5g、ガラス結着剤としての役割も担う固体電解質3g、増粘剤としてのアクリルバインダー1.07g、テルピネオール6.25gを秤量し、撹拌してスラリーを得た。なお、固体電解質に対する正極活物質の比率は、50質量%に調整した。固体電解質としては、ホットプレス前における実施例15−1の固体電解質(Li
2O−SiO
2−B
2O
3)の粉末を用いた。次に、スラリーをスクリーン印刷にて上記固体電解質基板に6mmφの大きさに塗布し、100℃で乾燥させて、正極前駆体を形成した。次に、正極前駆体上に集電体Ni箔を貼りつけて、ホットプレスにて430℃、70N/mm
2、10分間の加圧焼成を行うことにより、正極を得た。
【0217】
[全固体電池の組み立て]
正極との反対面に負極として金属Li/Cu箔を貼り、冷間等方圧プレスにより圧力200MPaの条件にて加圧することにより、負極を形成した。以上により、目的とする電池(全固体リチウムイオン二次電池)が得られた。
【0218】
(参考例16−1)
正極スラリー調製および正極形成の工程において、正極前駆体上に集電体Ni箔を貼りつけた後、430℃、10分間の焼成を行うこと以外は実施例16−1と同様にして電池を得た。
【0219】
(評価)
上述のようにして得られた電池を評価サンプルとして、以下の評価を行った。
【0220】
(電極断面の観察)
SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて、評価サンプルの正極断面を撮影した。その結果を
図24A(実施例16−1)および
図24B(参考例16−1)に示す。
【0221】
(充放電測定)
以下の条件により電池の充放電を行い、初回充放電曲線、初回充放電容量、初回充放電効率およびサイクル特性を求めた。その結果を表9、
図25Aおよび
図25Bに示す。
測定環境条件:ドライエアー雰囲気、25℃
充放電条件:0.1μAの定電流モード、カットオフ電圧4.2V/3V
【0222】
(抵抗値測定)
ソーラトロン社製の評価装置を用いて、10
6−1Hzの周波数領域(振幅10mV)における電池の抵抗値を求めた。その結果を
図26Aに示す。
【0223】
(電流特性)
ドライエアー雰囲気、25℃の測定環境条件において、放電電流値を1μA〜10μAの範囲で変更して、電流特性を評価した。その結果を
図26Bに示す。
【0224】
表9は、サンプルの評価結果を示す。
【表9】
【0225】
図25Aから、実施例16−1の電池では、抵抗値が下がり(すなわちIRドロップ抑制され)、放電電圧が向上していることがわかる。
図25Bから、実施例16−1の電池では、サイクル特性が大幅に向上していることがわかる。
図26Aから、実施例16−1の電池では、円弧の大きさが小さいことがわかる。したがって、実施例16−1の電池では、活物質と電解質との界面抵抗が大幅に低減していることがわかる。
図26Bから、実施例16−1の電池では、電流特性が大幅に向上していることがわかる。これは、界面抵抗の低減および電解質のイオン導電率向上が要因と推測される。
【0226】
以上、本技術の実施形態およびその変形例、ならびに実施例について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0227】
例えば、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0228】
また、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0229】
また、本技術は以下の構成を採用することもできる。
(1)
リチウム(Li)、ケイ素(Si)およびホウ素(B)を含む酸化物を含み、
X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°の範囲に現れる2本以上のピークと、25°<2θ≦30°の範囲に現れる2本以上のピークとを有するガラスセラミックス。
(2)
上記酸化物は、上記リチウム(Li)の酸化物を69mol%以上含み、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが920cm
-1以上940cm
-1以下の領域に現れるピークXと、ラマンシフトが820cm
-1以上850cm
-1以下の領域に現れるピークYとを有し、
上記ピークXと上記ピークYとのピーク面積強度比X/Yが、2.0以上である(1)に記載のガラスセラミックス。
(3)
上記酸化物は、上記リチウム(Li)の酸化物を50mol%以上69mol%未満含み、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが500cm
-1以上1000cm
-1以下の領域に現れるピークのうちメインピークの半値幅が20以上である(1)に記載のガラスセラミックス。
(4)
核磁気共鳴法によって観測される
7Li核のスピン−格子緩和時間が、6秒以下である(1)から(3)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(5)
上記酸化物は、上記リチウム(Li)の酸化物、上記ケイ素(Si)の酸化物および上記ホウ素(B)の酸化物を含み、
上記リチウム(Li)の酸化物、上記ケイ素(Si)の酸化物および上記ホウ素(B)の酸化物の総量に対する上記リチウム(Li)の酸化物の含有量は、40mol%以上73mol%以下であり、
上記リチウム(Li)の酸化物、上記ケイ素(Si)の酸化物および上記ホウ素(B)の酸化物の総量に対する上記ケイ素(Si)の酸化物の含有量は、8mol%以上40mol%以下であり、
上記リチウム(Li)の酸化物、上記ケイ素(Si)の酸化物および上記ホウ素(B)の酸化物の総量に対する上記ホウ素(B)の酸化物の含有量は、10mol%以上50mol%以下である(1)から(4)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(6)
上記酸化物は、Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、P(リン)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、Se(セレン)、Rb(ルビジウム)、S(硫黄)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ag(銀)、In(インジウム)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Cs(セシウム)、Ba(バナジウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、Au(金)、La(ランタン)、Nd(ネオジム)およびEu(ユーロピウム)からなる群より選ばれる1種以上をさらに含んでいる(1)から(5)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(7)
正極と、負極と、電解質層とを含み、
上記正極、上記負極および上記電解質層のうちの少なくとも1つが、(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含んでいる電池。
(8)
正極と、負極と、電解質層とを含む電池を備え、
上記正極、上記負極および上記電解質層のうちの少なくとも1つが、(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含み、
上記電池から電力の供給を受ける電子機器。
(9)
(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含んでいる電極。
(10)
(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含んでいる固体電解質。
(11)
リチウム(Li)、ケイ素(Si)およびホウ素(B)を含む酸化物を含み、
X線回折スペクトルにおいて、20°≦2θ≦25°の範囲に現れる2本以上のピークと、25°<2θ≦30°の範囲に現れる2本以上のピークとを有するリチウムイオン導電体。
(12)
リチウム(Li)、ケイ素(Si)およびホウ素(B)を含む酸化物を含み、
X線回折スペクトルにおいて、25°≦2θ≦26°の範囲に現れるピークAと、41°≦2θ≦42°の範囲に現れるピークBとを有するリチウムイオン導電体。
(13)
上記ピークAと上記ピークBのピーク強度比A/Bが、0.5以上2以下である請求項10に記載のリチウムイオン導電体。
(14)
正極と、負極と、電解質層とを含み、
上記正極、上記負極および上記電解質層のうちの少なくとも1つが、(11)から(13)のいずれかに記載のリチウムイオン導電体を含んでいる電池。
(15)
正極と、負極と、電解質とを含む電池を備え、
上記正極、上記負極および上記電解質層のうちの少なくとも1つが、(11)から(13)のいずれかに記載のリチウムイオン導電体を含み、
上記電池から電力の供給を受ける電子機器。
(16)
(11)から(13)のいずれかに記載のリチウムイオン導電体を含んでいる電極。
(17)
(11)から(13)のいずれかに記載のリチウムイオン導電体を含んでいる固体電解質。
(18)
活物質とリチウムイオン導電体とを含む電極を加圧しながら焼成すること
を含み、
上記リチウムイオン導電体は、リチウム(Li)、ケイ素(Si)およびホウ素(B)を含む酸化物を含む電極の製造方法。