(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
金属と樹脂の接合に関して、特許文献1に開示の技術は、樹脂の加熱場所及び加熱温度の制御を容易かつ効率的に行うことができ、強度が高く、均一な金属樹脂接合箇所を形成できるため、金属と樹脂の接合において、有効な技術であるが、実施例において、接合速度は0.3m/minであり、実用化する上では、接合速度の向上において改善の余地があった。
特許文献2に開示の技術は、金属の光吸収率に左右されず、高強度かつ均一に樹脂と金属とをレーザ接合できるため、有効な技術であるが、接合速度について記載も示唆もない。
特許文献3に開示の技術は、接合速度が5mm/sであり、生産効率が十分に高いとはいえない。特許文献4では、接合速度について記載も示唆もない。
【0015】
樹脂部材とCFRP部材との接合に関して、接着剤溶着、振動溶着、超音波溶着、摩擦溶着、熱板溶着技術等が使用されている。(特許文献5、6参照)
しかしながら、接着剤技術では、乾燥・硬化時間が必要であり、また、有機溶剤の気散等の環境負荷の問題が指摘されており、振動溶着、超音波溶着、摩擦溶着技術では、振動による製品の損傷の問題が指摘されている。また、熱板溶着技術では、接着時間が短く量産に適しており、振動による損傷も少ないが、熱板を直接被接合部材に接触させるため、熱板を取り去る際に、溶融した樹脂が熱板に付着して糸引き現象が発生する問題がある。
【0016】
一方、特許文献5、6では開示されていなかったが、樹脂どうしをレーザ光で接合するレーザ光溶着技術が、非接触で摩耗粉やバリの発生が無く、振動等による製品の損傷も少ないことから、最近注目されている。
【0017】
例えば、非特許文献2及び3には、接合する樹脂部材の一方をレーザ光が透過する透過部材として、他方をレーザ光を吸収する吸収部材(例えば、カーボンブラック等を混練した樹脂部材)として、両部材を重ね合わせ、透過部材側からレーザ光を照射して、吸収部材を溶融し、接合することが開示されている。
【0018】
そこで、本発明者らは、樹脂部材とCFRP部材との接合において、レーザ光溶着技術を用いること試みた。具体的には、レーザ光を透過する樹脂部材と、レーザ光を吸収するCFRP部材とを重ね合わせ、接合に要する時間を短くするために、レーザの出力を高めて、樹脂部材側からレーザ光を照射したところ、樹脂部材が揮発し、揮発した樹脂成分がレーザ光と干渉することで、レーザパワーが損失して、狙いの強度を有する接合部材を得ることができなかった。
【0019】
金属とCFRP部材との接合に関して、接着剤等を用いて接着する方法、ボルト等を用いて機械接合する方法、金属側の接合面に微小な凹凸を形成してアンカー効果で接合する方法等が開示されている(特許文献7、8)。しかしながら、上述のとおり、接着剤による接着剤を用いる方法では、乾燥・硬化時間が必要であり、また、有機溶剤の気散等の環境負荷の問題が指摘されている。また、機械接合する方法では、固定部材が必要であり、経済性やリサイクル性の向上等から、金属とCFRP部材とを直接接合する方法が好ましい。また、アンカー効果で接合する方法では、接合工程の他に、接合面に凹凸を形成する工程が必要となり、生産性の向上において改善の余地がある。
【0020】
非特許文献1に開示の技術は、金属とCFRP部材との接合において有効な技術であるが、接合速度は5mm/s(0.3m/min)であり、実用化する上では、接合速度の向上において改善の余地があった。そこで、接合速度を向上させるために、レーザの出力を高めて接合を行ったところ、十分な接合強度が得られないことがあった。
【0021】
本発明は、このような実情に鑑み、金属と樹脂部材とを接合する方法、CFRP部材と樹脂部材とを接合する方法、樹脂部材を介した金属とCFRP部材とを接合する方法、特に、接合速度を速くしてこれらを接合でき、且つ優れた接合強度を有する接合部材を得ることができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討した。金属と樹脂部材、CFRP部材と樹脂部材、樹脂部材を介して金属とCFRP部材とを高速で接合するために、レーザの出力を高くして、接合することを試みた。しかし、高出力化により樹脂の揮発量が増加し、揮発した樹脂成分とレーザ光の干渉によりレーザパワーが損失したため、接合が不十分となり、狙いの強度を有さないものとなった。
【0023】
そこで、本発明者らは、樹脂部材と金属、または樹脂部材とCFRP部材と樹脂部材との接合に際して、樹脂部材のレーザ光の照射面側にガラスを重ねて配置して、樹脂側からガラスを通してレーザ光を照射したところ、揮発した樹脂成分がレーザ光の光路外に排出され、レーザパワーが失われることなく、接合できることを見出した。そして、高速で狙いの強度を有する接合箇所材が得られることを知見した。
【0024】
また、金属とCFRP部材との接合に際しては、金属とCFRP部材との間に接着層として樹脂よりなる中間部材(以下、単に「中間部材」というこもある)を介在させることに着想した。
【0025】
まず、CFRP部材と中間部材との接合において、中間部材のレーザ光の照射面側にガラスを重ねて配置して、中間部材側からガラスを通してレーザ光を照射した。その結果、レーザ光の照射により、揮発した樹脂成分がレーザ光の光路外に排出され、レーザ光の出力を高めた場合(高速接合した場合)であっても、十分接合できることを知見した。
【0026】
そして、この中間部材が接合されたCFRP部材に金属を重ね、レーザの出力を高めて、金属側からレーザ光を照射して接合を行ったところ、十分な接合強度を有する金属とCFRP部材との接合部材が得られることを見出した。
【0027】
さらに、金属とCFRP部材との接合に際して、CFRP部材に、樹脂よりなる中間部材と前記金属を、この順で重ね合わせて配置して、金属側からレーザ光を照射した。その結果、ワンパスのみのレーザ光照射により、金属を加熱し、その発生した熱の伝播による中間部材の溶融により、金属とCRPF部材が中間部材を介して接合されることを見出した。
【0028】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)金属と樹脂部材とを重ね合わせて樹脂部材側からレーザ光を照射して接合する接合方法において、前記金属に、レーザ光が透過する前記樹脂部材とガラスを、この順で重ね合わせ、前記樹脂部材側から前記ガラスを介して前記レーザ光を前記金属と前記樹脂部材の重ね合わされた接合箇所に照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minで接合することを特徴とする金属と樹脂部材の接合方法。
(2)炭素繊維強化樹脂部材と樹脂部材とを重ね合わせて樹脂部材側からレーザ光を照射して接合する接合方法において、
前記炭素繊維強化樹脂部材に、レーザ光が透過する前記樹脂部材とガラスを、この順で重ね合わせ、前記樹脂部材側から前記ガラスを介して前記レーザ光を前記炭素繊維強化樹脂部材と前記樹脂部材の重ね合わされた接合箇所に照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minで接合することを特徴とする炭素繊維強化樹脂部材と樹脂部材の接合方法。
(3)樹脂よりなる中間部材を介して金属と炭素繊維強化樹脂部材とをレーザ光を照射して接合する方法において、
前記炭素繊維強化樹脂部材とレーザ光が透過する樹脂よりなる前記中間部材とを接合し、次いで、当該中間部材と前記金属とを接合するものであり、
前記炭素繊維強化樹脂部材と前記中間部材との接合の際、前記炭素繊維強化樹脂部材に、前記中間部材とガラスを、この順で重ね合わせ、当該中間部材側から当該ガラスを介してレーザ光を当該炭素繊維強化樹脂部材と当該中間部材の重ね合わされた接合箇所に照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minで接合し、
前記中間部材と前記金属の接合の際、前記中間部材の表面に、前記金属を重ね合わせ、接合箇所の金属表面にレーザ光を照射して当該金属を加熱して、接合速度0.5m〜5.0m/minで接合する
ことを特徴とする中間部材を介して金属と炭素繊維強化樹脂部材の接合方法。
(4)
樹脂よりなる中間部材を介して金属と炭素繊維強化樹脂部材とをワンパスのみのレーザ光照射により接合する方法において、
前記炭素繊維強化樹脂部材に、前記中間部材と前記金属を、この順で重ね合わせ、当該金属側からレーザ光を当該金属と当該炭素繊維強化樹脂部材と当該中間部材の重ね合わされた接合箇所に照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minでワンパス接合する
ことを特徴とする中間部材を介した金属と炭素繊維強化樹脂部材との接合方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の態様によれば、金属に、樹脂部材とガラスとを重ね合わせ、樹脂部材側からレーザ光を照射して接合したので、揮発した樹脂成分とレーザ光との干渉が抑制でき、高出力のレーザを用いて高速で金属と樹脂部材との接合が可能となる。また、樹脂部材側からレーザ光を照射しているので、金属が過度に高温になり、金属の特性が変化してしまう懸念も抑制される。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、CFRP部材に、樹脂部材とガラスとを重ね合わせ、樹脂部材側からレーザ光を照射して接合したので、揮発した樹脂成分とレーザ光との干渉が抑制でき、優れた接合強度の接合部材が得られるとともに、高出力のレーザを用いて高速でCFRP部材と樹脂部材との接合が可能となる。
【0031】
本発明の第3の態様によれば、金属とCFRP部材の間に、樹脂よりなる中間部材を介在させて、レーザ接合したので、優れた接合強度の接合部材が得られるとともに、高出力のレーザを用いて高速で金属とCFRP部材との接合が可能となる。
【0032】
本発明の第4の態様によれば、金属とCFRP部材の間に、樹脂よりなる中間部材を介在させて、ワンパスでレーザ接合したので、優れた接合強度の接合部材が得られるとともに、高出力のレーザを用いて高速で金属とCFRP部材との接合が可能となることに加えて、溶接工程が1回で済むため、作業負荷やコストを低減できるという効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の態様である、金属と樹脂部材の接合方法(以下、「本発明の第1の態様の接合法」ということもある)は、金属に、樹脂部材とガラスをこの順で重ね合わせ、ガラスと接した当該樹脂部材面にガラスを通してレーザを照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minで金属と樹脂部材とを接合するものである。
次に、本発明の第1の態様の接合法に至った検討の経緯について説明するとともに、本発明の第1の態様の接合法について説明する。
【0035】
金属と樹脂部材とのレーザ接合において、金属と樹脂部材とを高速で接合することが望まれていた。そこで、本発明者らは、高速の接合速度で接合するために、レーザの出力を高くして、樹脂部材側からレーザ光を照射して、金属と樹脂部材とを接合する試験を実施した。
【0036】
図1に、接合試験に用いた被接合体を示す。
図1(a)は、被接合体の平面図を示し、
図1(b)は、被接合体の側面図を示す。
図1に示すように、鋼板1の一部に、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)を樹脂部材2として、その一部を重ね合わせて被接合体とし、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプ3にて鋼板1と樹脂部材2とを密着固定した。
【0037】
図2は、レーザの出力を高めて金属と樹脂部材とを接合している状況を示す図である。
図2は、
図1(b)と同様に被接合体を側面から見た図であり、重ね合わせて密着固定された鋼板1と樹脂部材2の被接合体に、樹脂部材2側からレーザ光4を照射して接合している状態を示している。レーザ光4の照射では、半導体レーザを用いて、レーザ出力3kWとした。そして、接合速度1.5m/minで、
図1に示す接合進行方向の幅aの方向(
図2の紙面奥行方向)に接合し、試験片を得た。また、レーザ光4の照射において、ディフォーカス量を+50mm、つまり、レーザを集光するレンズの焦点位置から50mm下側の位置を金属1の鋼板表面位置に一致させた。
【0038】
そして、30mm幅で重ね合わせた接合後の試験片について、そのまません断引張試験を実施した。
図3に、接合後の引張試験前後の試験片の図を示す。
図3(a)に、接合後の引張試験前の図を示し、
図3(b)に、引張試験後の図を示す。
図3は、試験片をレーザ光の照射側から見た図、つまり、
図1(a)と同様に試験片を平面視した図であり、
図3(a)は、紙面奥行方向において、紙面手前側を上側としたとき、鋼板1の一部の上側に樹脂部材2の一部が重ね合わされている。
【0039】
そして、接合後の試験片は、
図3(a)に示すように、レーザ照射によって、樹脂部材2の表面が溶融した黒色又は灰色で表示される溶融部5を有しており、鋼板1と樹脂部材2が重ね合わされた箇所の接合部6(気泡を含む白色で表示される部分及びその周辺部分)は、ほとんど形成されていなかった。そして、せん断引張試験を実施した後の試験片は、重ね合わされた箇所が剥がれるように破断し、
図3(b)に示すように、鋼板1と樹脂部材2に分かれた。
【0040】
これは、高出力のレーザ光の照射により樹脂成分が揮発し、該樹脂成分がレーザ光の光路に排出され、レーザ光との干渉によりレーザパワーが失われたため接合が不完全となり、狙いの強度を有さないものとなったと考えられる。そのため、得られた接合材は、せん断引張試験において、界面で破断した。そこで、本発明者らは、樹脂部材から揮発する成分がレーザ光と干渉することを抑制する手段について、調査した。
【0041】
樹脂部材から揮発する成分がレーザ光に干渉しないようにするために、揮発成分がレーザ光の光路の方に排出されないようすればよい。本発明者らは、レーザ光の光路に揮発した樹脂成分が排出されないように、樹脂部材のレーザ光の照射面側の上にレーザ光を透過するガラスを配置することを着想した。そこで、金属と樹脂部材とを重ね合わせた被接合体に、更に、ガラスを重ね合わせて、上記した接合試験と同様の試験を実施した。
【0042】
図4に、接合試験に用いたガラス板を重ねた被接合体を示す図である。
図4(a)は、被接合体の平面図を示し、
図4(b)は、被接合体の側面図を示す。
図4(a)に示すように、紙面奥行方向において、紙面手前側を上側としたとき、鋼板1の一部の上側に、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)を樹脂部材2として、その一部を重ね合わせて、被接合体とした。そして、
図4(b)に示すように、被接合体の樹脂部材2の鋼板1と接触しない側の表面上に板状のガラス7を接合予定箇所の全てを覆うように重ね合わせた。そして、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプ3にて鋼板1、樹脂部材2及びガラス7を密着固定した。
【0043】
図5に、金属、樹脂部材、ガラスを重ね合わせて、レーザの出力を高めて金属と樹脂部材とを接合している状況を示す。
図5は、
図4(b)と同様に被接合体を側面から見た図であり、重ね合わせて密着固定された鋼板1、樹脂部材2及びガラス7に、ガラス7側からレーザ光4を接合箇所に照射して接合している状況を示している。そして、被接合体に、
図4に示す接合進行方向の幅aの方向(
図5の紙面奥行方向)に、上記接合試験と同様の条件でレーザ接合を実施し、試験片を得た。
【0044】
そして、接合後の試験片にせん断引張試験を実施した。
図6に、接合後の引張試験前後の試験片の図を示す。
図6(a)に、接合後の引張試験前の図を示し、
図6(b)に、引張試験後の図を示す。
図6は、試験片をレーザ光の照射側から見た図、つまり、
図4(a)と同様に試験片を平面視した図であり、
図6(a)は、紙面奥行方向において、紙面手前側を上側としたとき、鋼板1の一部の上側に樹脂部材2の一部が重ね合わされている。
【0045】
接合後の試験片には、
図6(a)に示すように、健全な接合部6(気泡を含む白色で表示される部分及びその周辺部分)が、ガラス7を用いずに鋼板1と樹脂部材2を接合した場合より、2倍以上広い接合面積で形成されていた。そして、せん断引張試験を実施した後の試験片は、
図6(b)に示すように、最高荷重を示した後、樹脂部材2の母材部分が伸ばされ、接合部は接合状態を維持した状態であった。これより、接合部6は強固に接合されていることが分かる。
【0046】
これは、樹脂部材2のレーザ光4の照射側にガラス7を設置することで、ガラス7の周囲から揮発した樹脂成分が排出されるため、樹脂部材側からレーザ光を照射しても、揮発した樹脂成分がレーザ光と干渉しなくなったためである。これにより、金属に、樹脂部材とガラスをこの順で重ね合わせることで、樹脂部材側からレーザを照射できるとともに、レーザの出力を上げても、接合速度を高速で接合することができることを見出した。また、レーザ照射による加熱を金属側から実施しないので、金属が高温になり、金属の特性が変化してしまう懸念も抑えられる。
【0047】
本発明の第1の態様は、以上のような検討過程を経て上記(1)に記載の発明に至ったものであり、そのような本発明について、必要な要件や好ましい要件について後段で説明する。
【0048】
本発明の第2の態様である、炭素繊維強化樹脂(CFRP)部材と樹脂部材の接合方法(以下、「本発明の第2の態様の接合法」という)は、CFRP部材に、樹脂部材とガラスをこの順で重ね合わせ、ガラスと接した当該樹脂部材面にガラスを通してレーザ光を照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minでCFRP部材と樹脂部材とを接合するものである。
次に、本発明の第2の態様の接合法に至った検討の経緯について説明するとともに、本発明の第2の態様の接合法について説明する。
【0049】
CFRP部材と樹脂部材との接合において、接合時間を短くするとともに、振動等による製品の損傷が少なく、優れた接合強度を有する接合部材を得る方法が望まれていた。そこで、本発明者らは、樹脂部材とCFRP部材との接合において、レーザ光溶着技術を用いること試みた。具体的には、次のような接合試験を実施した。
【0050】
図1に、接合試験に用いた被接合部材を示す。
図1(a)は、被接合部材の平面図を示し、
図1(b)は、被接合部材の側面図を示す。
図1に示すように、CFRP部材1’の一部に、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)を樹脂部材2として、その一部を重ね合わせて被接合部材とし、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプ3にてCFRP部材1’と樹脂部材2とを密着固定した。
【0051】
図2は、CFRP部材と樹脂部材とを接合している状況を示す図である。
図2は、
図1(b)と同様に被接合部材を側面から見た図であり、重ね合わせて密着固定されたCFRP部材1’と樹脂部材2の被接合部材に、樹脂部材2側からレーザ光4を照射して接合している状態を示している。ここで、CFRP部材1’は、炭素繊維を含んでおり、レーザ光を吸収し、樹脂部材2は、レーザ光を透過するため、レーザ光の照射側から、樹脂部材2、CFRP部材1’の順で重ね合わせている。
【0052】
レーザ光4の照射では、半導体レーザを用いて、レーザ出力3kWとした。そして、接合速度1.5m/minで、
図1に示す接合進行方向の幅aの方向(
図2の紙面垂直方向)に接合し、試験片を得た。また、レーザ光4の照射において、ディフォーカス量を+50mm、つまり、レーザを集光するレンズの焦点位置から50mm下側の位置をCFRP部材1’の鋼板表面位置に一致させた。
【0053】
そして、30mm幅で重ね合わせた接合後の試験片について、そのまません断引張試験を実施したが、ほぼ強度は得られず、剥離した。せん断引張試験後の試験片を確認したところ、CFRP部材1’に含まれる炭素繊維がレーザ光を吸収して発熱することによる、その母材の樹脂の溶融と、その発生した熱の伝播による樹脂部材2表面の一部の溶融とが生じた痕跡は確認されたが、CFRP部材1’と樹脂部材2との界面での接合は、ほとんど確認されず、狙いの強度の接合部材が得られなかった。
【0054】
これは、高出力のレーザ光の照射により樹脂成分が揮発し、該樹脂成分がレーザ光の光路に排出され、レーザ光との干渉によりレーザパワーが失われたため接合が不完全となり、狙いの強度を有さないものとなったと考えられる。そのため、得られた接合部材は、せん断引張試験において剥離した。そこで、本発明者らは、樹脂部材から揮発する成分がレーザ光と干渉することを抑制する手段について検討した。
【0055】
樹脂部材から揮発する成分がレーザ光に干渉しないようにするために、揮発成分がレーザ光の光路の方に排出されないようすればよい。本発明者らは、レーザ光の光路に揮発した樹脂成分が排出されないように、樹脂部材のレーザ光の照射面側にレーザ光を透過するガラスを配置することを着想した。そこで、CFRP部材と樹脂部材とを重ね合わせた被接合部材に、更に、ガラスを重ね合わせて、上記した接合試験と同様の試験を実施した。
【0056】
図4に、接合試験に用いたガラス板を重ねた被接合部材を示す図である。
図4(a)は、被接合部材の平面図を示し、
図4(b)は、被接合部材の側面図を示す。
図4(a)に示すように、紙面垂直方向において、紙面手前側を上側としたとき、CFRP部材1’の一部の上側に、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)を樹脂部材2として、その一部を重ね合わせて、被接合部材とした。そして、
図4(b)に示すように、被接合部材の樹脂部材2のCFRP部材1’と接触しない側の表面上に板状のガラス7を接合予定箇所の全てを覆うように重ね合わせた。そして、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプ3にてCFRP部材1’、樹脂部材2及びガラス7を密着固定した。CFRP部材1’は、PAN(ポリアクリルニトリル)系炭素繊維を130℃硬化型エポキシ樹脂に含浸させて作成された1方向プリプレグシートを、繊維の長さ方向に対して0°、90°、0°、90°、0°に配向するようにして合計5枚積層したものとしてもよい。
【0057】
図5に、CFRP部材、樹脂部材、ガラスを重ね合わせて、CFRP部材と樹脂部材とを接合している状況を示す。
図5は、
図4(b)と同様に被接合部材を側面から見た図であり、重ね合わせて密着固定されたCFRP部材1’、樹脂部材2及びガラス7に、ガラス7側からレーザ光4を接合箇所に照射して接合している状況を示している。そして、被接合部材に、
図4に示す接合進行方向の幅aの方向(
図5の紙面垂直方向)に、上記接合試験と同様の条件でレーザ接合を実施し、試験片を得た。
【0058】
そして、接合後の試験片にせん断引張試験を実施した。
図7に、接合後の引張試験前後の試験片の図を示す。
図7(a)に、接合後の引張試験前の図を示し、
図7(b)に、引張試験後の図を示す。
図7は、試験片をレーザ光の照射側から見た図、つまり、
図4(a)と同様に試験片を平面視した図であり、
図7(a)は、紙面垂直方向において、紙面手前側を上側としたとき、CFRP部材1’の一部の上側に樹脂部材2の一部が重ね合わされている。
【0059】
接合後の試験片には、
図7(a)に示すように、健全な接合部6(白色で表示される部分)が形成されていた。せん断引張試験を実施した後の試験片は、
図7(b)に示すように、CFRP部材1’と樹脂部材2の接合面で剥離したものの、CFRP部材1’に含まれる炭素繊維17が樹脂部材2に接着されたままとなっており、接合部6は強固に接合されていた。
【0060】
これは、樹脂部材2のレーザ光4の照射側にガラス7を設置することで、ガラス7の周囲から揮発した樹脂成分が排出されるため、樹脂部材側からレーザ光を照射しても、揮発した樹脂成分がレーザ光と干渉しなくなったためである。これにより、CFRP部材に、樹脂部材とガラスをこの順で重ね合わせることで、樹脂部材側からレーザを照射できるとともに、レーザの出力を上げて、高速で接合することができることを見出した。
【0061】
本発明の第2の態様は、以上のような検討過程を経て上記(2)に記載の発明に至ったものであり、そのような本発明について、必要な要件や好ましい要件について後段で説明する。
【0062】
本発明の第3の態様の金属と炭素繊維強化樹脂(CFRP)部材との接合方法(以下、「本発明の第3の態様の接合法」という)は、
(a)まず、レーザ光を照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minで、CFRP部材と樹脂よりなる中間部材とを接合し、
(b)次いで、レーザ光を照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minで、金属と、中間部材とを接合する
方法である。
【0063】
そして、(a)において、CFRP部材に中間部材とガラスをこの順で重ね合わせ、ガラスと接した当該中間部材面にガラスを通してレーザ光を照射してCFRP部材と中間部材とを接合し、
(b)において、金属と、中間部材とを重ね合わせ、当該金属側からレーザ光を照射して金属を加熱し、金属と中間部材とを接合する。
【0064】
次に、本発明の第3の態様の接合法の基本形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0065】
<(a)CFRP部材と樹脂よりなる中間部材との接合>
まず、CFRP部材に樹脂よりなる中間部材とガラスをこの順で重ね合わせ、ガラスと接した中間部材面にガラスを通してレーザ光を照射してCFRP部材と中間部材とを接合する。
【0066】
図8に、CFRP部材と樹脂よりなる中間部材とで構成される被接合部材を示す。
図8(a)は、被接合部材の平面図を示し、
図8(b)は、被接合部材の側面図を示す。
図8(a)に示すように、紙面垂直方向において、紙面手前側を上側としたとき、CFRP部材1’の少なくとも接合予定箇所の上側に、中間部材2を重ね合わせて、被接合部材とする。
【0067】
例えば、CFRP部材1’は、PAN(ポリアクリルニトリル)系炭素繊維を130℃硬化型エポキシ樹脂に含浸させて作成された1方向プリプレグシートを、繊維の長さ方向に対して0°、90°、0°、90°、0°に配向するようにして合計5枚積層したものとすることができ、中間部材2は、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)とすることができる。
【0068】
そして、
図8(b)に示すように、被接合部材の中間部材2のCFRP部材1’と接触しない側の表面上に板状のガラス7を接合予定箇所の全てを覆うように重ね合わせる。また、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプ3にてCFRP部材1’、中間部材2及びガラス7を密着固定するとよい。
【0069】
図9に、CFRP部材、中間部材、ガラスを重ね合わせて、CFRP部材と中間部材とを接合している状況を示す。
図9は、
図8(b)と同様に被接合部材を側面から見た図であり、重ね合わせて密着固定されたCFRP部材1’、中間部材2及びガラス7に、ガラス7側からレーザ光4を接合箇所に照射して接合している状況を示している。そして、被接合部材に、例えば、
図8に示す接合進行方向の幅aの方向(
図9の紙面垂直方向)に、レーザを照射して、溶接箇所のCFRP部材1’に含まれる炭素繊維を発熱させ、それによるCFRP部材1’の樹脂の溶融と、その発生した熱の伝播による中間部材2の溶融により、両者を接合する。
【0070】
レーザ光4の照射では、例えば、半導体レーザを用いて、レーザ出力3kWとし、接合速度1.5m/minで接合する。また、レーザ光4の照射において、ディフォーカス量を+50mm、つまり、レーザを集光するレンズの焦点位置から50mm下側の位置をCFRP部材1’の表面位置に一致させる。
【0071】
図10に、中間部材が接合されたCFRP部材を示す。
図10は、中間部材が接合されたCFRP部材をレーザ光の照射側から見た図、つまり、
図1(a)と同様に試験片を平面視した図であり、紙面垂直方向において、紙面手前側を上側としたとき、CFRP部材1’の一部の上側に中間部材2が重ね合わされている。
図10に示すように、健全な接合部6(白色で表示される部分)を形成することができる。
【0072】
中間部材2のレーザ光4の照射側にガラス7を設置しない場合、高出力のレーザ光の照射により樹脂成分が揮発し、該樹脂成分がレーザ光の光路に排出され、レーザ光との干渉によりレーザパワーが失われ、接合が不完全となる。それに対して、本発明の溶接法のように、中間部材2のレーザ光4の照射側にガラス7を設置することで、ガラス7の周囲から揮発した樹脂成分が排出されるため、揮発した樹脂成分がレーザ光4と干渉しなくなり、レーザの出力を上げて、高速で接合することができる。
【0073】
<(b)金属と中間部材との接合>
次に、金属と、中間部材が接合されたCFRP部材とを重ね合わせ、金属側からレーザ光を照射して金属と中間部材とを接合する。
【0074】
図11に、金属と、中間部材が接合されたCFRP部材とで構成される被接合部材を示す。
図11(a)は、被接合部材の平面図を示し、
図11(b)は、被接合部材の側面図を示す。
図11(a)に示すように、CFRP部材1’と金属板1の少なくとも接合予定箇所を重ねて、被接合部材とする。そして、
図11(b)に示すように、中間部材2のCFRP部材1’と接触しない側の表面上に金属板1を重ね合わせる。また、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプ3にてCFRP部材1’、中間部材2及び金属板1を密着固定するとよい。
【0075】
図12に、CFRP部材、中間部材、金属板を重ね合わせて、CFRP部材と金属板とを接合している状況を示す。
図12は、
図11(b)と同様に被接合部材を側面から見た図であり、重ね合わせて密着固定されたCFRP部材1’、中間部材2及び金属板1に、金属板1側からレーザ光4を金属板1の表面に照射して接合している状況を示している。そして、被接合部材に、
図11に示す接合進行方向の幅aの方向(
図12の紙面垂直方向)に、CFRP部材と樹脂部材との接合試験と同様の条件でレーザを照射して、金属を加熱して、その熱伝導により中間部材2を溶融して、両者を接合する。
【0076】
レーザ光4の照射では、上記(a)のCFRP部材と樹脂部材との接合と同等の条件を採用することができる。例えば、半導体レーザを用いて、レーザ出力3kWとし、ディフォーカス量を+50mmで、接合速度1.5m/minとする。なお、レーザを集光するレンズの焦点位置から50mm下側の位置を金属板1の表面位置に一致させる。
【0077】
次に、接合したCFRP部材と金属板との接合部材にせん断引張試験を実施した。引張試験後の金属板1には、中間部材2が接合されたままとなっていた。そして、破断は、CFRP部材1’で起こり、金属板1に接合されたままとなっている中間部材2にCFRP部材の一部が付着していた。これより、接合部材の引張強さは、CFRP部材の引張強さに影響し、接合部は、強固に接合されていた。
【0078】
このように、金属とCFRP部材との間に接着層として樹脂よりなる中間部材を介在させることで、レーザの出力を上げて、高速で接合することができるとともに、十分な接合強度を有する金属とCFRP部材との接合部材が得られる。
【0079】
また、金属とCFRP部材との接合部材では、接合面から電食反応が起き、それによる金属の局所的腐食を生じるという問題があるが、本発明の第3の態様の溶接法により得られた接合部材は、金属とCFRP部材の間に樹脂よりなる中間部材が挿入されているので、金属の局所的腐食が抑制される。
【0080】
本発明の第3の態様は、以上のような検討過程を経て上記(3)に記載の発明に至ったものであり、そのような本発明について、必要な要件や好ましい要件について後段で説明する。
【0081】
本発明の第4の態様の金属と炭素繊維強化樹脂(CFRP)部材との接合方法(以下、「本発明の第4の態様の接合法」という)は、
CFRP部材に、樹脂よりなる中間部材と金属を、この順で重ね合わせ、金属側からレーザ光を接合箇所に照射して、接合速度0.5m〜5.0m/minで、各部材をワンパス接合するものである。
【0082】
次に、本発明の第4の態様の接合法の基本形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0083】
まず、CFRP部材に樹脂よりなる中間部材と金属をこの順で重ね合わせ、金属側からワンパスのみのレーザ光照射により、中間部材を介してCFRP部材と金属とを接合する。
【0084】
図11に、CFRP部材、中間部材、および金属で構成される被接合部材を示す。
図11(a)は、被接合部材の平面図を示し、
図11(b)は、被接合部材の側面図を示す。
図11(a)に示すように、中間部材2を介してCFRP部材1’と金属板1の少なくとも接合予定箇所を重ねて、被接合部材とする。そして、
図11(b)に示すように、中間部材2のCFRP部材1’と接触しない側の表面上に金属板1を重ね合わせる。また、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプ3にてCFRP部材1’、中間部材2及び金属板1を密着固定するとよい。
【0085】
図12に、CFRP部材、中間部材、金属板を重ね合わせて、CFRP部材と金属板とを接合している状況を示す。
図12は、
図11(b)と同様に被接合部材を側面から見た図であり、重ね合わせて密着固定されたCFRP部材1’、中間部材2及び金属板1に、金属板1側からレーザ光4を金属板1の表面に照射して接合している状況を示している。そして、被接合部材に、
図11に示す接合進行方向の幅aの方向(
図12の紙面垂直方向)に、ワンパスのみのレーザ照射により、金属を加熱して、その熱伝導により中間部材2を溶融して、CFRP部材と金属を接合する。
【0086】
レーザ光4の照射では、例えば、半導体レーザを用いて、レーザ出力3kWとし、接合速度1.5m/minで接合する。また、レーザ光4の照射において、ディフォーカス量を+50mm、つまり、レーザを集光するレンズの焦点位置から50mm下側の位置を金属板1の表面位置に一致させる。
【0087】
本発明の第4の態様では、金属にレーザ照射しているため、中間部材2に直接レーザ照射されない。そのため、高出力のレーザ光の照射により樹脂成分が揮発するおそれは少ない。また、万一、樹脂成分が揮発したとしても、中間部材2のレーザ光4の照射側に金属1を設置することで、金属1の周囲から揮発した樹脂成分が排出されるため、揮発した樹脂成分がレーザ光4と干渉しなくなり、レーザの出力を上げて、高速で接合することができる。したがって、効率的に、レーザを照射して、金属を加熱して、その熱伝導により中間部材2を溶融して、CFRP部材と金属を接合することができる。
【0088】
次に、接合したCFRP部材と金属板との接合部材にせん断引張試験を実施した。引張試験後の金属板1には、中間部材2が接合されたままとなっていた。そして、破断は、CFRP部材1’で起こり、金属板1に接合されたままとなっている中間部材2にCFRP部材の一部が付着していた。これより、接合部材の引張強さは、CFRP部材の引張強さに影響し、接合部は、強固に接合されていた。
【0089】
このように、金属とCFRP部材との間に接着層として樹脂よりなる中間部材を介在させることで、レーザの出力を上げて、高速でワンパス接合することができるとともに、十分な接合強度を有する金属とCFRP部材との接合部材が得られる。ワンパス接合であるので、溶接工程を1回とすることができるので、作業負荷やコストの低減につながる。
【0090】
また、金属とCFRP部材との接合部材では、接合面から電食反応が起き、それによる金属の局所的腐食を生じるという問題があるが、本発明の第4の態様の溶接法により得られた接合部材は、金属とCFRP部材の間に樹脂よりなる中間部材が挿入されているので、金属の局所的腐食が抑制される。
【0091】
本発明の第4の態様は、以上のような検討過程を経て上記(4)に記載の発明に至ったものであり、そのような本発明について、必要な要件や好ましい要件について以下で説明する。
【0092】
まず、本発明で用いられる、金属、CFRP部材、樹脂部材(樹脂よりなる中間部材)及びガラスについて説明する。
【0093】
(接合される金属)
接合される金属は、自動車等で使用される金属であり、成分組成も含め、特に限定されるものでない。また、樹脂部材側からレーザ光を照射する場合(第1の態様)、金属の表面を加熱するため、金属の厚さも、特に限定されるものでない。金属側からレーザ光を照射する場合(第3の態様、第4の態様)、中間部材との非接触面側からレーザ光を照射して、熱伝導により中間部材との接触面を加熱し、中間部材を溶融させるため、金属の厚さは3.5mm以下とすることが好ましい。このような金属として、鋼材が例示される。また、金属の表面にめっきなどの処理層を有さないものが好ましい。
【0094】
(接合されるCFRP部材)
接合されるCFRP部材は、特に限定されるものでなく、使用態様によって公知のCFRP部材から選択することができる。また、CFRP部材を構成する炭素繊維としては、PAN(ポリアクリルニトリル)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が例示される。特に、PAN系炭素繊維は、強度、弾性率、伸度のバランスが良い。また、CFRP部材を構成する樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、ポチブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート等の樹脂等の熱可塑性樹脂が例示される。
【0095】
(接合される樹脂部材、または樹脂よりなる中間部材)
接合される樹脂部材(または樹脂よりなる中間部材)の原料となる樹脂は、使用するレーザ光を透過するものであれば、特に限定されるものでなく、ナイロン6(PA6)等のポリアミド樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ABS等のスチレン系樹脂、アクリル系樹脂(PMMA等)等の熱可塑性樹脂が例示される。なお、樹脂は、繊維状充填剤等の特性を向上させる充填剤を添加しているものでもよい。
【0096】
樹脂部材(または中間部材)の使用するレーザ光に対する透過率は、接合速度を速くするために、60%以上が好ましく、80%以上が更に好ましい。樹脂部材(または中間部材)の厚さは、0.2mm以上5.0mm以下とするとよい。0.2mm未満では、熱容量が小さく溶けてしまい、接合できないことがあり、十分な接合強度が得られないことがある。また、5.0mmを超えると、レーザ光の減衰が大きく、鋼板に十分なレーザパワーが供給されず、接合できないことがある。
また、第4の態様では、ワンパス接合で、金属を加熱して、その熱伝導により中間部材を溶融するため、1.0mm以下の厚みとすることが好ましい。1.0mmを超えるとワンパスのみのレーザ照射で十分に樹脂を溶融できないおそれがある。
【0097】
(樹脂部材または中間部材に重ね合わせるガラス)
ガラスは、樹脂部材(または中間部材)の金属またはCFRP部材と接触する面と反対側のレーザ光が照射される側の面に重ね合わされる。このガラスは、揮発する樹脂成分がレーザ光と干渉しないように、揮発成分をガラス板の外周から排出させるものである。ガラスは、使用するレーザ光を透過し、揮発した樹脂成分と反応しないものであれば、特に限定されるものでなく、石英ガラスが例示される。
【0098】
使用するレーザ光に対するガラスの透過率は、接合速度を速くするために、60%以上が好ましく、90%以上が更に好ましい。透過率を高めるために、ガラスの表裏面を平行研磨することが望ましい。また、ガラスの厚さは、1.0mm以上5.0mm以下とするとよい。1mm以下では、クランプで把持する場合、その加圧力に耐えきれないことがある。なお、クランプで把持することは必須ではないので、1.0mmよりも薄いガラスを用いることも可能である。また、5.0mmを超えると、レーザ光が透過し難くなり、接合の作業性が低下する。また、ガラスの幅は、揮発する樹脂成分がレーザ光と干渉しないように排出されるように、接合予定部の幅よりも広いことが好ましい。
【0099】
ガラスは、接合予定箇所に重ねる部分のガラスの表面に、レーザ光の反射を防止する反射防止膜が設けられていることが好ましい。レーザ光は、その波長に応じてガラスにより20%程度反射されることがあり、ガラスの表面に反射防止膜を設けることで数%程度の反射に押さえられ、レーザのエネルギーを効率よく利用することができ、高速での溶接が可能となる。反射防止膜は、特に限定されるものでなく、レーザ光の波長に応じて、公知の反射防止膜を形成することができる。
【0100】
揮発する樹脂成分は、ガラスによって、ガラスの外周から排出させられ、レーザ光と干渉しないようにされる。ガラスの外周から排出された揮発成分に、送風を行って、拡散させてもよい。これにより、揮発成分のレーザ光への干渉をさらに確実に抑制できる。送風の手段として、ブロワー、ファン、ガスジェット等を用いることができる。
【0101】
(金属、CFRP部材、樹脂部材または樹脂よりなる中間部材、ガラスの形状)
接合される金属、CFRP部材及び樹脂部材(または中間部材)の形状は、少なくとも接合箇所が板状であればよく、レーザ照射面側からみたとき、矩形状、円形状、楕円形状などいかなる形状でもよく、また、全体が板でなくともよい。例えば、曲げ加工、プレス加工、穴あけ加工等が施されていてもよく、断面ハット形の特定の形状にプレス成型等された部材のフランジ部等を含むものである。
【0102】
なお、中間部材は、金属とCFRP部材の接合予定箇所に接着層として設けられるものであるが、部品の軽量化のための金属の一部と置き換える部材として、又は、部品に諸特性を備えさせるための部材として設けるものとしてもよい。その際は、少なくとも金属とCFRP部材の接合予定箇所を覆うことができる形状として、使用態様に応じた形状とすればよく、金属及びCFRP部材の形状と同様に、少なくとも接合箇所が板状であれば、いかなる形状でもよく、また、全体が板状でなくともよい。
【0103】
また、ガラスは、接合予定箇所を覆うことができればよく、金属、CFRP部材及び樹脂部材(または中間部材)の形状に応じて調整される。この接合予定箇所を覆うとは、接合予定箇所の幅の1倍以上、又は、金属またはCFRP部材と樹脂部材(または中間部材)との接合界面におけるレーザ光の集光面積の1倍以上を覆うことである。
【0104】
次に、レーザ接合装置及びレーザ接合方法について説明する。
本発明の接合方法で用いるレーザ接合装置は、特に限定されるものでなく、従来のレーザ接合装置を採用することができる。また、レーザ接合装置に、リモートレーザヘッドを用いることもできる。
【0105】
レーザ接合装置は、レーザ発振器、光路、集光光学系、駆動系、シールドガス系などで構成されている。レーザ発振器としては、CO
2レーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザ、DISKレーザなどのレーザを用いることができる。レーザ発振器で発振されたレーザは、光路を通じて集光光学系へ導かれる。集光光学系は、放物線面鏡や集光レンズなどで構成されており、伝送されてきたレーザを集光する。レーザの焦点位置は可変であり、たとえば、レーザがガラスを透過して照射される場合(第1〜3の態様)、金属と樹脂部材、または、CFRP部材と樹脂部材(中間部材)との接合界面において、レーザ光の集光面積が40.85mm
2となるように、所定のディフォーカス量を設定し、調整してもよい。レーザが金属に照射される場合(第3の態様、第4の態様)、金属を加熱し、その熱伝導により中間部材を溶融するので、金属の表面位置で所望の集光面積が得られるように、ディフォーカス量を設定し、調整してもよい。集光形状は矩形や楕円形等とすることができる。そして、レーザ光を被接合部材に照射し、駆動系を移動させて接合を進行させる。移動させるのは集光光学系であっても、被接合部材であってもよい。またガルバノミラーでレーザ光を走査してもよい。また、光路を用いず発振器から出た光が直接集光光学系へ導かれる半導体レーザを用いることもできる。シールドガスは、必要によって使用してもよい。
【0106】
(レーザ接合方法)
レーザ接合方法では、レーザがガラスを透過して照射される場合(第1〜3の態様)、金属と樹脂部材、CFRP部材と樹脂部材(中間部材)とを重ね合わせ、樹脂部材(中間部材)のレーザ照射面側にガラスを配置して、レーザ出力を高くし、接合速度を速くして接合する。この際、レーザ出力2〜4kW、集光面積20〜60mm
2、接合速度0.5〜5.0m/minの接合条件で行うことができ、従来に比べて非常に高速での接合が実現される。レーザが金属に照射される場合(第3の態様、第4の態様)も、レーザがガラスを透過して上記部材の接合をする場合と同等の条件を採用することができる。集光形状は矩形や楕円形等、特に限定されるものではない。また、接合速度が0.5m/min未満であれば、出力が低く樹脂の揮発量が少ないため、揮発した樹脂によるレーザ光への干渉は発生せず、金属またはCFRP部材と樹脂部材(中間部材)との接合ができる。接合速度が5m/minを超えると高出力なレーザが必要となり、そのような高出力のレーザを用いると樹脂部材または金属が熱による影響を受け、その特性が変化してしまうおそれがある。
【0107】
また、金属、CFRP部材、樹脂部材(中間部材)、及び、ガラスを加圧固定すると、より接合強度が向上するため好ましい。金属、CRFP部材、樹脂部材(中間部材)、及び、ガラスの加圧固定方法は、特に限定されず、クランプなどにより、挟んで加圧固定する方法が例示される。
【実施例】
【0108】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0109】
(発明例1:金属と樹脂部材との接合)
まず、接合される金属は、板厚1.4mmの鋼板であり、接合される樹脂部材は、板厚2.0mmのPET樹脂であり、両者とも、
図4における接合進行方向の幅aが30mm、接合進行方向に垂直方向の長さb1及びb2が150mmのものを用いた。ガラスは、直径φ54.6mm、板厚1.5mmの円形板状であり、反射防止膜を有する石英ガラスを用いた。そして、
図4に示すように、鋼板の一部と樹脂部材の一部とを重ね、重なり部分の接合進行方向の幅aを30mmとし、重なり部分の接合進行方向と垂直方向の長さb3を45〜50mmとした。そして、重なり部分全体を覆うようにガラス板を樹脂部材上に載せ、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプにて鋼板、樹脂部材及びガラスを密着固定した。
【0110】
レーザは、波長940nmの半導体レーザを用いた。樹脂部材のレーザ光に対する透過率は86%であり、ガラスのレーザ光に対する透過率は、93%であった。そして、レーザ出力3kWとして、ガラスと接した当該樹脂部材面にガラスを通してレーザを照射して、接合速度1.5m/minでa方向にレーザ光の照射位置を移動させて、金属と樹脂部材とを接合し、発明例1の試験片1−1を得た。また、レーザ光の照射では、接合箇所に対して、レーザ光の光軸方向にディフォーカス量+50mmに設定した。集光サイズは推定で4.3mm×9.5mm、集光面積が40.85mm
2の矩形である。
【0111】
また、比較例1−2として、ガラスを用いない点を除いて、発明例1と同じ材料及び接合条件で金属と樹脂部材とをレーザ接合し、試験片1−2を得た。また、比較例1−3として、ガラス板を用いずに、接合速度0.3m/minとした点を除いて、発明例と同じ材料及び接合条件で、金属と樹脂部材とをレーザ接合し、試験片1−3を得た。
【0112】
30mm幅で重ね合わせた接合後の試験片について、そのまません断引張試験を実施した。
図13に、試験片のせん断引張強度を示す。ガラスを用いて1.5m/minの接合速度で接合した試験片1−1は、ガラス板を用いずに1.5m/minの接合速度で接合した試験片1−2と比較して、せん断引張強度が高い。また、試験片1−1は、ガラス無で0.3m/minの接合速度で接合した試験片1−3と比較して、せん断引張強度が同程度であった。これより、ガラス板を樹脂部材の上に重ねてレーザ接合することで、接合速度を速くしても、接合強度の高い接合部が得られることが分かった。
【0113】
(発明例2:CFRP部材と樹脂部材との接合)
まず、接合されるCFRP部材は、板厚1.4mmの板であり、接合される樹脂部材は、板厚2.0mmのPET樹脂であり、両者とも、
図4における接合進行方向の幅aが30mm、接合進行方向に垂直方向の長さb1及びb2が150mmのものを用いた。ガラスは、直径φ54.6mm、板厚1.5mmの円形板状であり、反射防止膜を有する石英ガラスを用いた。
【0114】
そして、
図4に示すように、CFRP部材の一部と樹脂部材の一部とを重ね、重なり部分の接合進行方向の幅aを30mmとし、重なり部分の接合進行方向と垂直方向の長さb3を45〜50mmとした。そして、重なり部分全体を覆うようにガラス板を樹脂部材上に載せ、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプにてCFRP部材、樹脂部材及びガラスを密着固定した。
【0115】
レーザは、波長940nmの半導体レーザを用いた。樹脂部材のレーザ光に対する透過率は86%であり、ガラスのレーザ光に対する透過率は、93%であった。そして、レーザ出力3kWとして、ガラスと接した当該樹脂部材面にガラスを通してレーザを照射して、接合速度1.5m/minでa方向にレーザ光の照射位置を移動させて、CFRP部材と樹脂部材とを接合し、発明例2の試験片2−1を得た。また、レーザ光の照射では、接合箇所に対して、レーザ光の光軸方向にディフォーカス量+50mmに設定した。集光サイズは推定で4.3mm×9.5mm、集光面積が40.85mm
2の矩形である。
【0116】
また、比較例2−2として、ガラスを用いない点を除いて、発明例と同じ材料及び接合条件でCFRP部材と樹脂部材とをレーザ接合し、試験片2−2を得た。
【0117】
30mm幅で重ね合わせた接合後の試験片について、そのまません断引張試験を実施した。
図14に、試験片のせん断引張強度を示す。ガラスを用いて接合した試験片2−1は、ガラス板を用いずに接合した試験片2−2と比較して、せん断引張強度が非常に高くなった。これより、ガラスを樹脂部材の上に重ねてレーザ接合することで、接合速度を速くしても、接合強度の高い接合部が得られることが分かった。
【0118】
(発明例3:中間材を介した金属とCFRP部材との接合)
まず、接合される金属は、板厚1.4mmの鋼板であり、接合されるCFRP部材は、板厚1.0mmの板であり、接合される樹脂よりなる中間部材は、板厚2.0mmのPET樹脂であり、
図11における接合進行方向の幅aが30mm、接合進行方向に垂直方向の長さb1が45〜50mm、b2及びb3が150mmのものを用いた。
【0119】
そして、
図8に示すように、CFRP部材の一部と中間部材とを重ね、重なり部分の接合進行方向の幅aを30mmとし、重なり部分の接合進行方向と垂直方向の長さを45〜50mmとした。そして、重なり部分全体を覆うようにガラス板を中間部材上に載せ、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプにてCFRP部材、中間部材及びガラスを密着固定した。ガラスは、直径φ54.6mm、板厚1.5mmの円形板状であり、反射防止膜を有する石英ガラスを用いた。
【0120】
レーザは、波長940nmの半導体レーザを用いた。中間部材のレーザ光に対する透過率は86%であり、ガラスのレーザ光に対する透過率は、93%であった。そして、レーザ出力3kWとして、ガラスと接した当該樹脂部材面にガラスを通してレーザを照射して、接合速度1.5m/minでa方向にレーザ光の照射位置を移動させて、CFRP部材と中間部材とを接合した。また、レーザ光の照射では、接合箇所に対して、レーザ光の光軸方向にディフォーカス量+50mmに設定した。集光サイズは推定で4.3mm×9.5mm、集光面積が40.85mm
2の矩形である。
【0121】
次に、
図11に示すように、中間部材が接合されたCFRP部材に金属を重ね、重なり部分の接合進行方向の幅aを30mmとし、重なり部分の接合進行方向と垂直方向の長さを45〜50mmとした。そして、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプにて金属、CFRP部材及び中間部材を密着固定した。
【0122】
レーザは、波長940nmの半導体レーザを用い、レーザ出力3kWとして、金属面にレーザ光を照射して、接合速度1.5m/minで、a方向にレーザ光の照射位置を移動させて、金属と、中間部材が接合されたCFRP部材とを接合して、発明例3の試験片3−1を得た。また、レーザ光の照射では、金属表面に対して、レーザ光の光軸方向にディフォーカス量+50mmに設定した。集光サイズは推定で4.3mm×9.5mm、集光面積が40.85mm
2の矩形である。
【0123】
また、比較例3−2として、中間部材を用いずに、試験片3−1と同じ材料及び接合条件で、金属とCFRP部材とを直接重ね合わせ、金属側からレーザ光を照射して接合し、試験片3−2を得た。
【0124】
試験片について、せん断引張試験を実施した。試験片3−1は、引張強度が600Nであったのに対して、試験片3−2は、引張試験機にクランプしただけで金属とCFRP部材が剥がれてしまった。
【0125】
(発明例4:中間材を介した金属とCFRP部材とのワンパス接合)
まず、接合される金属は、板厚1.4mmの鋼板であり、接合されるCFRP部材は、板厚1.0mmの板であり、接合される樹脂よりなる中間部材は、板厚1.0mmのPET樹脂であり、
図11における接合進行方向の幅aが30mm、接合進行方向に垂直方向の長さb1が45〜50mm、b2及びb3が150mmのものを用いた。
【0126】
そして、
図11に示すように、CFRP部材の一部と中間部材と金属とを重ね、重なり部分の接合進行方向の幅aを30mmとし、重なり部分の接合進行方向と垂直方向の長さを45〜50mmとした。そして、レーザ光を照射できる間隔をあけて2つのクランプにてCFRP部材、中間部材及び金属を密着固定した。
【0127】
レーザは、波長940nmの半導体レーザを用い、レーザ出力3kWとして、金属面にレーザ光を照射して、接合速度1.5m/minで、a方向にレーザ光の照射位置をワンパスのみ移動させた。これにより、金属を加熱して、その熱伝導により中間部材を溶融して、CFRP部材と金属を接合して、発明例4の試験片4−1を得た。また、レーザ光の照射では、金属表面に対して、レーザ光の光軸方向にディフォーカス量+50mmに設定した。集光サイズは推定で4.3mm×9.5mm、集光面積が40.85mm
2の矩形である。
【0128】
また、比較例4−2として、中間部材を用いずに、試験片4−1と同じ材料及び接合条件で、金属とCFRP部材とを直接重ね合わせ、金属側からレーザ光を照射して接合し、試験片4−2を得た。
【0129】
試験片について、せん断引張試験を実施した。試験片4−1は、引張強度が600Nであったのに対して、試験片4−2は、引張試験機にクランプしただけで金属とCFRP部材が剥がれてしまった。