特許第6773217号(P6773217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773217
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】受信装置及び信号伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/02 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   H04L25/02 V
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-515060(P2019-515060)
(86)(22)【出願日】2017年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2017017061
(87)【国際公開番号】WO2018198361
(87)【国際公開日】20181101
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】北野 幹夫
【審査官】 阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−201187(JP,A)
【文献】 特表2001−513620(JP,A)
【文献】 特開2002−204272(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/114672(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
H04B 3/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音または映像信号を伝送すると共にデータ信号の論理レベルに応じて流れる直流電流が変化する伝送路の受信側に接続され、前記音または映像信号が出力される容量素子と、
前記伝送路と前記容量素子との間に位置する受信側ノードと電源電位が供給される電源ノードとの間に流れる電流を増幅するトランジスタと、
前記トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記データ信号を生成するデータ信号生成部と、
を備える受信装置。
【請求項2】
前記受信側ノードと前記トランジスタの制御端子との間に設けられた第1抵抗素子と、
前記トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第2抵抗素子と、
を備える請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記音または映像信号は正相信号であり、前記伝送路は第1伝送路であり、前記容量素子は第1容量素子であり、
前記正相信号を反転した逆相信号を伝送する第2伝送路の受信側に接続され、前記逆相信号が出力される第2容量素子と、
前記第1容量素子から出力される前記正相信号と前記第2容量素子から出力される前記逆相信号とに基づいて、シングルエンド形式の信号を出力する差動信号入力部と、
を備える請求項2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記第2伝送路は、前記データ信号の論理レベルに応じて流れる直流電流が変化し、 前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、
前記第2伝送路と前記第2容量素子との間に位置する第2受信側ノードと、前記トランジスタの制御端子との間に設けられた第3抵抗素子と、
を備える請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、前記データ信号は第1データ信号であり、前記データ信号生成部は第1データ信号生成部であり、前記トランジスタは第1トランジスタであり、
前記第2伝送路と前記第2容量素子との間に位置する第2受信側ノードと前記電源ノードとの間に流れる電流を増幅する第2トランジスタと、
前記第2受信側ノードと前記第2トランジスタの制御端子との間に設けられた第4抵抗素子と、
前記第2トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第5抵抗素子と、
前記第2トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記第2データ信号を生成する第2データ信号生成部と、
を備える請求項3に記載の受信装置。
【請求項6】
送信側容量素子を介して音または映像信号を伝送路に出力する出力部と、
データ信号の論理レベルに応じて前記伝送路に流れる直流電流を制御する送信側トランジスタと、を有する送信装置と、
前記伝送路の受信側に接続され、前記音または映像信号が出力される受信側容量素子と、
前記伝送路と前記受信側容量素子との間に位置する受信側ノードと電源電位が供給される電源ノードとの間に流れる電流を増幅する受信側トランジスタと、
前記受信側トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記データ信号を生成するデータ信号生成部と、を有する受信装置と、
を備えた信号伝送システム。
【請求項7】
前記送信装置において、
前記送信側トランジスタは、前記データ信号の論理レベルに応じて、オン状態又はオフ状態に制御され、
前記送信側容量素子と前記伝送路との間に位置する送信側ノードと、前記送信側トランジスタとの間に設けられた送信側抵抗素子を備え、
前記受信装置において、
前記受信側ノードと前記受信側トランジスタの制御端子との間に設けられた第1受信側抵抗素子と、
前記受信側トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第2受信側抵抗素子と、
を備える請求項6に記載の信号伝送システム。
【請求項8】
前記音または映像信号は正相信号であり、前記伝送路は第1伝送路であり、前記送信側容量素子は第1送信側容量素子であり、前記受信側容量素子は第1受信側容量素子であり、
前記送信装置において、
前記出力部は、前記第1送信側容量素子を介して前記正相信号を前記第1伝送路に出力すると共に、第2送信側容量素子を介して前記正相信号を反転した逆相信号を第2伝送路に出力する差動信号出力部であり、
前記受信装置において、
前記第2伝送路の受信側に接続され、前記逆相信号が出力される第2受信側容量素子と、
前記第1受信側容量素子から出力される前記正相信号と前記第2受信側容量素子から出力される前記逆相信号とに基づいて、シングルエンド形式の信号を出力する差動信号入力部と、
を備える請求項7に記載の信号伝送システム。
【請求項9】
前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、前記送信側抵抗素子は第1送信側抵抗素子であり、
前記送信装置において、
前記第2送信側容量素子と前記第2伝送路との間に位置する第2送信側ノードと前記送信側トランジスタとの間に設けられた第2送信側抵抗素子を備え、
前記受信装置において、
前記第2伝送路と前記第2受信側容量素子との間に位置する第2受信側ノードと、前記受信側トランジスタの制御端子との間に設けられた第3受信側抵抗素子と、
を備える請求項8に記載の信号伝送システム。
【請求項10】
前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、前記データ信号は第1データ信号であり、前記データ信号生成部は第1データ信号生成部であり、前記送信側トランジスタは第1送信側トランジスタであり、前記受信側トランジスタは第1受信側トランジスタであり、
前記送信装置において、
第2データ信号の論理レベルに応じて、オン状態又はオフ状態に制御される第2送信側トランジスタと、
前記第2送信側容量素子と前記第2伝送路との間に位置する第2送信側ノードと前記第2送信側トランジスタとの間に設けられた第2送信側抵抗素子とを備え、
前記受信装置において、
前記第2伝送路と前記第2受信側容量素子との間に位置する第2受信側ノードと、前記電源ノードとの間を流れる電流を増幅する第2受信側トランジスタと、
前記第2受信側ノードと前記第2受信側トランジスタの制御端子との間に設けられた第4受信側抵抗素子と、
前記第2受信側トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第5受信側抵抗素子と、
前記第2受信側トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記第2データ信号を生成する第2データ信号生成部と、
を備える請求項8に記載の信号伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送信号にデータ信号が重畳した信号を受信する受信装置及び信号伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
送信装置から伝送路を介して受信装置にデジタル信号を伝送する場合に、デジタル信号に情報を重畳して伝送する方法が知られている。特許文献1には、一対の差動伝送路のうち少なくとも一方の差動伝送路の直流バイアス電位を変化させて、情報を伝送する方法が開示されている。具体的には、抵抗で分圧して得た直流バイアス電位を一方の差動伝送路にコイルを介して印加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−200324号公報(請求項8参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車載用の音声通信システムでは、送信装置から伝送路を介して音信号を受信装置に送信する。このシステムでは、送信装置のグランドと受信装置のグランドとの間に交流電位差が生じることがある。グランド間に交流電位差があっても、音信号のみを交流カップリングで伝送する場合は、音信号のSN比は低下しない。
しかしながら、従来の方法を車載用の音声通信システムに適用して音信号とデータ信号とを伝送路を介して伝送すると、グランド間の交流電位差によって直流バイアス電位が変動する。このため、音信号のSN比が低下してしまうといった問題があった。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、送信装置のグランドと受信装置のグランドとの間の交流電位差(ノイズ電圧)が伝送路に与える影響を低減することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る受信装置の一態様は、伝送信号を伝送すると共にデータ信号の論理レベルに応じて流れる直流電流が変化する伝送路の受信側に接続され、前記伝送信号が出力される容量素子と、前記伝送路と前記容量素子との間に位置する受信側ノードと電源電位が供給される電源ノードとの間に流れる電流を増幅するトランジスタと、前記トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記データ信号を生成するデータ信号生成部と、を備える。
【0007】
本発明に係る信号伝送システムの一態様は、送信側容量素子を介して伝送信号を伝送路に出力する出力部と、データ信号の論理レベルに応じて前記伝送路に流れる直流電流を制御する送信側トランジスタと、を有する送信装置と、前記伝送路の受信側に接続され、前記伝送信号が出力される受信側容量素子と、前記伝送路と前記受信側容量素子との間に位置する受信側ノードと電源電位が供給される電源ノードとの間に流れる電流を増幅する受信側トランジスタと、前記受信側トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記データ信号を生成するデータ信号生成部と、を有する受信装置と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る信号伝送システム1Aの主要な電気的構成を示すブロック図。
図2】同実施形態の信号伝送システム1Aの回路図。
図3】比較例の信号伝送システム1Zの回路図。
図4】CMRRのシミュレーションの結果を示すグラフ。
図5】第2実施形態に係る信号伝送システム1Bの構成を示す回路図。
図6】第3実施形態の信号伝送システム1Cの構成を示す回路図。
図7】同実施形態の信号伝送システム1Cの構成を示す回路図。
図8】変形例に係る信号伝送システム1D構成を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜異なる。また、以下に記載する実施の形態は、本発明の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかしながら、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0010】
<1.第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る信号伝送システム1Aの主要な電気的構成を示すブロック図である。
信号伝送システム1Aは、送信装置100、受信装置200、第1伝送路L1、及び第2伝送路L2を備える。
送信装置100は、電源部10と、差動信号出力部20と、データ信号送信部30Aとを備える。電源部10は、電源電位Vdd及び送信側グランド電位GND_Sを出力する。差動信号出力部20は、入力音信号Vinに基づいて正相信号Vpと正相信号Vpを反転した逆相信号Vnを生成する。正相信号Vp及び逆相信号Vnは交流信号である。正相信号Vpは抵抗素子Rsp及び第1送信側容量素子Cspを介して第1伝送路L1に出力され、逆相信号Vnは抵抗素子Rsn及び第2送信側容量素子Csnを介して第2伝送路L2に出力される。入力音信号Vinは平衡接続された第1伝送路L1及び第2伝送路L2を介して、差動の電圧の形式で伝送される。
【0011】
データ信号送信部30Aは、第1伝送路L1と第1送信側容量素子Cspとの間に位置する第1送信側ノードNspと接続される。データ信号送信部30Aは、データ信号Dの論理レベルに応じて、受信装置200から第1伝送路L1を介して送信装置100へ流れる直流電流を制御する。即ち、データ信号Dは直流電流の形式で伝送される。
【0012】
受信装置200は、データ信号受信部40Aと、差動信号入力部50と、デジタル信号処理回路60と、アンプ70とを備える。差動信号入力部50は、第1受信側容量素子Crp(第1容量素子)を介して入力される正相信号Vpと第2受信側容量素子Crn(第2容量素子)を介して入力される逆相信号Vnに基づいて、シングルエンド形式の音信号Vを生成する。デジタル処理回路60は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)で構成される。デジタル処理回路60は、音信号VをAD変換したデジタル音信号に各種のデジタル処理を施す。デジタル処理回路60は、デジタル処理済みの信号をDA変換してアンプ70に出力する。アンプ70はデジタル処理回路60から供給される信号を増幅して出力音信号Voutを生成し、出力音信号Voutをスピーカ3に出力する。
【0013】
データ信号受信部40Aは、電源電位Vddが供給される電源ノードNdと、第1伝送路L1と第1受信側容量素子Crpとの間に位置する第1受信側ノードNrp(受信側ノード)との間に流れる直流電流に基づいて、データ信号Dを生成する。
【0014】
このような構成において、電源ラインLdには電流Iが送信装置100から受信装置200に向けて流れる。また、受信装置200から送信装置100に向けて、データ信号受信部40A→第1伝送路L1→データ信号送信部30Aの経路で電流I1が流れる。また、差動信号入力部50を流れる電流I2に、デジタル信号処理回路60を流れる電流I3及びアンプ70を流れる電流I4が加算され、合計の電流がグランドラインLgに流れる。ここで、電流I1は直流であり、電流I2及び電流I4は、直流に交流が重畳したものである。但し、第1伝送路L1及び第2伝送路L2を介して正相信号Vp及び逆相信号Vnが伝送されない場合は直流のみとなる。一方、電流I3は正相信号Vp及び逆相信号Vnの伝送とは無関係に直流に交流が重畳したものとなる。
【0015】
第1実施形態の信号伝送システム1Aでは、グランドラインLgの等価抵抗Rgを戻りの電流I2+I3+I4が流れる。ここで、電流I2、I3、及びI4の交流成分をi2、i3、及びi4とすれば、受信側グランド電位GND_Rと送信側グランド電位GND_Sとの交流電位差Vgは、Rg*(i2+i3+i4)となる。この交流電位差Vgがノイズ電圧となる。なお、図1に示す信号伝送システム1Aは、送信装置100と受信装置200とがグランドラインLgで接続されているが、信号伝送システム1Aを車載用の音声通信システムに用いる場合、送信装置100のグランドを車のフレームに接続するとともに、受信装置200のグランドを車のフレームに接続することがある。この場合には、等価抵抗Rgに流れる電流は、戻り電流に限られず、他の機器からの電流が加わることがある。そのような電流は、交流電位差Vgに反映される。他の機器から流れる電流としては、例えば、イグニッションノイズ電流が該当する。
【0016】
ここで、交流電位差Vgは正相信号Vp及び逆相信号Vnに対して同相ノイズとして作用する。差動伝送では第1伝送L1の伝達特性と第2伝送路L2の伝達特性のバンランスが取れていれば同相信号除去比CMRR(Common-Mode Rejection Ratio)が高いので、仮に、データ信号送信部30Aとデータ信号受信部40Aとが第1伝送路L1と接続されていない場合には、交流電位差Vgが音信号VのSN比に与える影響は小さい。
【0017】
しかしながら、本実施形態ではデータ信号送信部30Aとデータ信号受信部40Aとを用いて、第1伝送路L1を介してデータ信号Dの伝送が行われる。このため、第1伝送路L1の伝達特性と第2伝送路L2の伝達特性とのバランスが崩れる。また、交流電位差Vgがノイズとしてデータ信号送信部30Aを介して第1伝送路L1に混入するといった問題がある。詳細には後述するが、本実施形態では、データ信号受信部40Aにおいて、トランジスタを用いて電流を増幅することによって、第1伝送路L1に与える影響を低減している。
【0018】
図2に、信号伝送システム1Aの回路図を示す。なお、同図において符号「Rwp」は第1伝送路L1の等価的な抵抗を示している。また、同図において符号「Rwn」は第2伝送路L2の等価的な抵抗を示している。さらに、同図においてデジタル処理回路60及びアンプ70は省略している。
送信装置100において、差動信号出力部20は、バッファ21とバッファ22とを備える。バッファ21は正相信号Vpを出力する出力部として機能する一方、バッファ22は逆相信号Vnを出力する出力部として機能する。バッファ21及びバッファ22の駆動能力には一定の限界があるため、バッファ21及びバッファ22の負荷は大きいことが望ましい。
【0019】
データ信号送信部30Aは、抵抗素子R31、R33、及びR34、並びに送信側トランジスタQsを備える。抵抗素子R31は、第1送信側ノードNspと送信側トランジスタQsのコレクタとの間に設けられる。送信側トランジスタQsは、NPN型である。抵抗素子R33は、一方の端子が送信側トランジスタQsのベースと接続され、他方の端子にデータ信号Dが供給される。抵抗素子R34は、送信側トランジスタQsのベースとエミッタとの間に設けられる。送信側トランジスタQsは、データ信号Dの論理レベルがハイレベルの場合にオン状態となる一方、データ信号Dの論理レベルがローレベルの場合にオフ状態になる。送信側トランジスタQsがオン状態になると、第1伝送路L1の電位は抵抗素子R31を介して送信側グランド電位GND_Sにプルダウンされる。送信側トランジスタQsの状態に無関係に、第1伝送路L1の電位は抵抗素子R41(第1抵抗素子)及び抵抗素子R42(第2抵抗素子)を介して電源電位Vddにプルアップされる。
【0020】
受信装置200において、データ信号受信部40Aは、第1受信側ノードNrp(受信側ノード)と受信側トランジスタQrのベースとの間に設けられた抵抗素子R41と、受信側トランジスタQrのベースと電源電位Vddが供給される電源ノードNdとの間に設けられた抵抗素子R42とを備える。送信側トランジスタQsのコレクタは、データ信号Dがハイレベルの場合に送信側グランド電位GND_Rとなり、データ信号Dの論理レベルがローレベルの場合に電源電位Vddとなる。よって、受信側トランジスタQrは、データ信号Dの論理レベルがハイレベルの場合にオン状態となる一方、データ信号Dの論理レベルがローレベルの場合にオフ状態となる。
【0021】
受信側トランジスタQrのエミッタは電源ノードNdと接続され、そのコレクタは抵抗素子R43を介してデータ信号生成部41と接続されている。データ信号生成部41は受信側トランジスタQrに流れる電流に基づいて、データ信号Dを生成する。より具体的には、データ信号生成部41は電流検出部を備える。受信側トランジスタQrがオン状態となって受信側トランジスタQrのエミッタとコレクタとの間に電流が流れる場合、電流検出部は論理レベルがハイレベルとなるデータ信号Dを生成する。一方、受信側トランジスタQrがオフ状態となって受信側トランジスタQrのエミッタとコレクタの間に電流が流れない場合、電流検出部は論理レベルがローレベルとなるデータ信号Dを生成する。なお、受信側トランジスタQrのコレクタ電圧をデータ信号Dとして用いてもよい。
【0022】
差動信号入力部50には、第1受信側容量素子Crpを介して正相信号Vpが入力され、第2受信側容量素子Crnを介して逆相信号Vnが入力される。差動信号入力部50は、抵抗素子R51p、R52p、R51n及びR52n、オペアンプ53、並びにバイアス電圧生成回路54を備える。バイアス電圧生成回路54は、電源電位Vddを分圧して中間電位(Vdd−GND_R)/2をローインピーダンスで出力する。
【0023】
抵抗素子R51pは、一方の端子が第1受信側容量素子Crpに接続され、他方の端子がオペアンプ53の正入力端子に接続される。抵抗素子R52pは一方の端子がオペアンプ53の正入力端子に接続され、他方の端子にバイアス電圧生成回路54から中間電位が供給される。抵抗素子51nは、一方の端子が第2受信側容量素子Crnに接続され、他方の端子がオペアンプ53の負入力端子に接続される。抵抗素子R52nは一方の端子がオペアンプ53の負入力端子に接続され、他方の端子がオペアンプ53の出力端子に接続される。ここで、抵抗素子R51p、R52p、R51n及びR52nの各抵抗値が等しい場合、オペアンプ53から出力される音信号Vは、V=Vp−Vnとなる。
【0024】
次に、比較例を参照しながら、信号伝送システム1AにおけるCMRRについて説明する。図3に示す比較例の信号伝送システム1Zは、データ信号受信部40Aの替わりに、一方の端子が電源ノードNdに接続され他方の端子が第1受信側ノードNrpに接続された抵抗素子Rxを備える点を除いて、図2に示す信号伝送システム1Aと同様に構成されている。なお、信号伝送システム1Zは、受信装置200において、抵抗素子Rxを流れる電流の大きさを検出してデータ信号Dを生成している。また、同図においてデジタル処理回路60及びアンプ70は省略している。
【0025】
比較例の信号伝送システム1Zにおいて、送信側トランジスタQsがオン状態になった場合に、データ信号Dの論理レベルを判別するために約1mA以上の電流が抵抗素子Rxを流れることが好ましい。ここで、電源電位Vddを5V、抵抗素子Rxの抵抗値を2.4kΩ、抵抗素子R31の抵抗値を2.4kΩにすると、抵抗素子Rxに約1mAの電流を流すことができる。なお、第1伝送路L1の等価抵抗Rwpの値は0.3Ω程度であり、抵抗素子Rspの抵抗値は、47Ωである。
【0026】
このような構成では、バッファ21から第1伝送路L1を見たときの負荷は、抵抗素子R31と抵抗素子Rxとが並列に接続された合成抵抗の抵抗値が支配的となる。負荷を大きくするためには、抵抗素子R31と抵抗素子Rxとの抵抗値を大きくすればよいが、データ信号Dを電流により伝送するためには、1mA程度を抵抗素子Rx及び抵抗素子Rに流す必要があり、抵抗値を大きくすることができない。
【0027】
一方、第1実施形態に係る信号伝送システム1Aにおいて、抵抗素子R42の抵抗値は10kΩであり。抵抗素子R41の抵抗値は10kΩ、抵抗素子R31の抵抗値は13.3kΩである。送信側トランジスタQsがオン状態である場合、受信側トランジスタQrのベース電位は、4.3V(=5V−0.7V)となるので、第1伝送路L1を流れる電流値は約0.18mA(=4.3V/23.3kΩ)となる。
【0028】
第1伝送路L1を流れる電流値は、比較例と比べて第1実施形態の方が小さくなるが、第1実施形態では受信側トランジスタQrにおいて電流を増幅する。このため、送信側トランジスタQs及び受信側トランジスタQrがオン状態の場合に、第1伝送路L1を流れる電流値は約0.18mAであるにも拘わらず、データ信号生成部41に約1mAの電流を流し込むことが可能となる。従って、データ信号Dを生成しつつ、バッファ21の負荷を大きくすることができる。
【0029】
また、比較例では、第1送信側容量素子Csp、抵抗素子R31及び抵抗素子Rxでハイパスフィルターが構成される一方、第1実施形態では第1送信側容量素子Csp、抵抗素子R31及び抵抗素子R41でハイパスフィルターが構成される。比較例と比べて、第1実施形態は、抵抗素子R31及び抵抗素子R41の抵抗値を大きくできるので、ハイパスフィルターのカットオフ周波数が下がる。この結果、本実施形態は比較例と比較して、低周波数帯域において正相信号Vpの減衰を低減することができる。
【0030】
また、図1を参照して説明したように、受信装置200の送信側グランド電位GND_Sには、交流電位差Vgが重畳している。第1実施形態では、受信側トランジスタQrを用いて電流を増幅したので、比較例と比較して第1実施形態は、抵抗素子R31及び抵抗素子R41の抵抗値を大きくできる。従って、第1伝送路L1に混入する交流電位差Vgを小さくすることができるので、CMRRを大きくすることが可能となる。
【0031】
図4にCMMRのシミュレーションの結果を示す。比較例のCMRRの周波数特性Fxと比較して、第1実施形態のCMRRの周波数特性F1は、約12dB改善していることが分かる。信号伝送システム1Aでは抵抗素子R41の抵抗値は10kΩ、抵抗素子R31の抵抗値は13.3kΩである。一方、信号伝送システム1Zでは抵抗素子Rxの抵抗値は2.4kΩ、抵抗素子R31の抵抗値は2.4kΩである。従って、信号伝送システム1Aの抵抗値が信号伝送システム1Zに比べて約4倍(12dB)大きいからである。
【0032】
<2.第2実施形態>
第2実施形態の信号伝送システム1Bは、第1伝送路L1のみならず第2伝送路L2を用いてデータ信号Dを伝送する点で、第1実施形態の信号伝送システム1Aと相違する。
図5に第2実施形態に係る信号伝送システム1Bの回路図を示す。信号伝送システム1Bは、データ信号送信部30Aの替わりにデータ信号送信部30Bを用いる点、及びデータ信号受信部40Aの替わりにデータ信号受信部40Bを用いる点を除いて、第1実施形態の信号伝送システム1Aと同様に構成されている。同図においてデジタル処理回路60及びアンプ70は省略している。
【0033】
データ信号送信部30Bは、第1送信側ノードNsp及び第2送信側ノードNsnと接続される。データ信号送信部30Bは、データ信号Dの論理レベルに応じて、受信装置200から第1伝送路L1及び第2伝送路L2を介して送信装置100へ流れる直流電流を制御する。
【0034】
データ信号送信部30Bは、抵抗素子R31p、R31n、R32、R33、及びR34、並びに送信側トランジスタQsを備える。抵抗素子R31p(第1送信側抵抗素子)は、一方の端子が第1送信側ノードNspと接続され、他方の端子が抵抗素子R32の一方の端子と接続される。抵抗素子R31n(第2送信側抵抗素子)は、一方の端子が第2送信側ノードNsnと接続され、他方の端子が抵抗素子R32の一方の端子と接続される。抵抗素子R32は他方の端子が送信側トランジスタQsのコレクタに接続される。抵抗素子R33、及びR34、並びに送信側トランジスタQsの接続関係は、データ信号送信部30Aと同じである。なお、抵抗素子R32を除去し、抵抗素子R31p及び抵抗素子R31nを送信側トランジスタQsのコレクタに接続してもよい。この場合、抵抗素子R32の抵抗値を、抵抗素子R31pの抵抗値と抵抗素子R31nの抵抗値に割り当てればよい。
【0035】
データ信号Dの論理レベルがハイレベルとなり、送信側トランジスタQsがオン状態になると、第1伝送路L1の電位は抵抗素子R31p及び抵抗素子R32を介して送信側グランド電位GND_Sにプルダウンされる。また、送信側トランジスタQsがオン状態になると、第2伝送路L2の電位は抵抗素子R31n及び抵抗素子R32を介して送信側グランド電位GND_Sにプルダウンされる。一方、送信側トランジスタQsがオフ状態になると、第1伝送路L1の電位は抵抗素子R41p及び抵抗素子R42を介して電源電位Vddにプルアップされる。同様に、送信側トランジスタQsがオフ状態になると、第1伝送路L2の電位は抵抗素子R41n(第3抵抗素子)及び抵抗素子R42(第2抵抗素子、第2受信側抵抗素子)を介して電源電位Vddにプルアップされる。
【0036】
データ信号受信部40Bは、第2受信側ノードNrnと受信側トランジスタQrのベースとの間に抵抗素子R41n(第3受信側抵抗素子)を設けた点、抵抗素子R41の替わりに抵抗素子R41p(第1受信側抵抗素子)を用いる点を除いて、データ信号受信部40Aと同様に構成されている。
【0037】
第2実施形態では、第1伝送路L1だけでなく、第2伝送路L2を用いてデータ信号Dを伝送する。このため、第1伝送路L1に接続される複数の抵抗素子と、第2伝送路L2に接続される複数の抵抗素子とを同じにできる。この結果、第1伝送路L1の伝達特性と第2伝送路L2の伝達特性とを近づけることができ、CMRRが大幅に改善される。
【0038】
また、第2実施形態では、データ信号受信部40Bにおいて、第1伝送路L1に接続される抵抗素子R41p(第1抵抗素子)と第2伝送路L2に接続される抵抗素子R41n(第3抵抗素子)とは、共に受信側トランジスタQrのベースに接続されるので、第1伝送路L1と第2伝送路L2で個別のトランジスタを設ける必要がない。また、個別にトランジスタを設けた場合には、各トランジスタにおけるベースとエミッタとの間の電圧Vbeが素子のバラツキによって異なると、CMRRを低下してしまう。第2実施形態では、1個の受信側トランジスタQrが電流を増幅するので、構成を簡素化すると共にCMRRを改善することができる。
【0039】
また、第1実施形態では、抵抗素子R31の抵抗値が13.3kΩであった。一方、第2実施形態では、抵抗素子R31p及び抵抗素子R31nの抵抗値を各々20kΩ、抵抗素子R32の抵抗値を3.3kΩに設定できる。また、第1実施形態では、抵抗素子R41の抵抗値が10kΩであった。一方、第2実施形態では、抵抗素子R41p及び抵抗素子R41nの抵抗値を各々20kΩに設定することができる。
【0040】
第1実施形態では、第1伝送路L1のみを用いてデータ信号Dを伝送させたので、第1伝送路L1の伝達特性と、第2伝送路L2の伝達特性の差が大きくなっていた。これに対して第2実施形態では、データ信号Dを第1伝送路L1及び第2伝送路L2を用いて伝送したので、第1伝送路L1の伝達特性と第2伝送路L2の伝達特性とをバランスさせることができる。よって、第2実施形態の信号伝送システム1Bは第1実施形態の信号伝送システム1Aと比較して全周波数帯域でCMRRを改善することができる。
【0041】
また、第1実施形態では、第1伝送路L1を用いて、データ信号Dを伝送した。このように、第1伝送路L1と第2伝送路L2のいずれか一方を用いてデータ信号Dを伝送する場合、入力音信号Vinによって、データ信号Dの論理レベルに応じた直流電流が変調されてしまう。このため、受信装置200においてデータ信号Dを正確に生成する場合には、データ信号生成部40Aにおいて平滑化処理を行う必要がある。これに対して、第2実施形態に係る信号伝送システム1Bでは、抵抗素子R41nに流れる電流の電流値と抵抗素子R41pに流れる電流の電流値の合計は、入力音信号Vinとは無関係に、一定である。従って、平滑化処理が不要となる。
【0042】
また、図1を参照して説明したように、受信装置200の送信側グランド電位GND_Sには、交流電位差Vgが重畳している。第2実施形態では、第1実施形態と比較して、上述したように抵抗素子の抵抗値を大きくしたので、第1伝送路L1及び第2伝送路L2に混入する交流電位差Vgを小さくすることができる。また、第1伝送路L1及び第2伝送路L2に混入する交流電位差Vgは同相ノイズである。従って、高いCMRRによって同相ノイズを効果的に除去することができる。
【0043】
図4に示すように、第2実施形態のCMRRの周波数特性F2は、第1実施形態のCMRRの周波数特性F1と比較して200Hz以下の低域において約13dB、1kHz以上の高域において約20dBの改善がある。
【0044】
<3.第3実施形態>
第2実施形態の信号伝送システム1Bは、1つのデータ信号Dを第1伝送路L1及び第2伝送路L2を用いて伝送した。これに対して第3実施形態の信号伝送システム1Cは、第1伝送路L1を用いて第1データ信号D1を伝送し、第2伝送路L2を用いて第2データ信号D2を伝送する。従って、第3実施形態の信号伝送システム1Cは、第1実施形態の信号伝送システム1A及び第2実施形態の信号伝送システム1Bと比較して、データの伝送量を2倍にすることができる。
【0045】
図6及び図7に、第3実施形態の信号伝送システム1Cの回路図を示す。図6において、第1データ信号送信部30Ap及び第2データ信号送信部30Anは、第1実施形態のデータ信号送信部30Aと同様に構成されている。
但し、第1データ信号送信部30Apを構成する各素子の符号に添字「p」を付し、第2データ信号送信部30Anを構成する各素子の符号に添字「n」を付して、第1データ信号送信部30Apを構成する各素子と、第2データ信号送信部30Anを構成する各素子とを区別できるようにした。なお、第2データ信号送信部30Anでは、抵抗素子R31nは、一方の端子が第2送信側ノードNsnと接続され、他方の端子が第2送信側トランジスタQsnのコレクタと接続される。第1データ信号送信部30Apには、第1データ信号D1が供給される。第1データ信号D1の論理レベルに応じて第1送信側トランジスタQspが、オン状態又はオフ状態となる。このため、第1伝送路L1に流れる電流を第1データ信号D1の論理レベルに応じて制御できる。
【0046】
第2データ信号送信部30Anにおいて、第2送信側ノードNsnと第2送信側トランジスタQsnとの間には、抵抗素子R31n(第2送信側抵抗素子)が設けられている。第2データ信号送信部30Anには、第2データ信号D2が供給される。第2データ信号D2の論理レベルがハイレベルの場合、第2送信側トランジスタQsnはオン状態となり、受信装置200から第2伝送路L2、第2受信側ノードNsn、及び抵抗素子R31nを介して電流が、第2送信側トランジスタQsnに流れ込む。一方、第2データ信号D2の論理レベルがローレベルの場合、第2送信側トランジスタQsnはオフ状態となり、受信装置200から第2データ信号送信部30Anに向けて電流は流れない。
【0047】
図7において、受信装置200の第1データ信号受信部40Ap及び第2データ信号受信部40Anは、第1実施形態のデータ信号受信部40Aと同様に構成されている。なお、同図において、デジタル処理回路60及びアンプ70は省略している。また、第1データ信号受信部40Apを構成する各素子の符号に添字「p」を付し、第2データ信号受信部40Anを構成する各素子の符号に添字「n」を付して、第1データ信号受信部40Apを構成する各素子と第2データ信号受信部40Anを構成する各素子とを区別できるようにした。また、第2データ信号受信部40Anにおいて、抵抗素子R41n’(第3抵抗素子、第3受信側抵抗素子)は、第2受信側ノードNrnと第2受信側トランジスタQrnのベースとの間に設けられている。また、第2受信側トランジスタQrnのベースと電源ノードNdとの間に抵抗素子R42n’(第4抵抗素子、第4受信側抵抗素子)が設けられている。
第1データ信号受信部40Apでは、第1受信側トランジスタQrp(第1トランジスタ)が第1伝送路L1を流れる電流を増幅し、増幅された電流に基づいて第1データ信号生成部41pが第1データ信号D1を生成する。
一方、第2データ信号受信部40Anでは、第2受信側トランジスタQrn(第2トランジスタ)が第2伝送路L2を流れる電流を増幅し、増幅された電流に基づいて第2データ信号生成部41nが第2データ信号D2を生成する。
【0048】
信号伝送システム1Cは、第1データ信号D1の論理レベルと第2データ信号D2の論理レベルが不一致の場合、第1伝送路L1の伝達特性と第2伝送路L2の伝達特性との差が大きくなり、第2実施形態の信号伝送システム1Bと比較して、CMRRが減少する。
しかしながら、信号伝送システム1Cは、第1実施形態の信号伝送システム1Aと比較して、第1伝送L1の伝達特性と第2伝送路L2の伝達特性を近づけることができる。よって、信号伝送システム1AのCMRRと比較して、信号伝送システム1CのCMRRを改善することができる。また、信号伝送システム1Cは、データ信号を2系統で伝送できるといった利点がある。
【0049】
図4に示すように、第3実施形態のCMRRの周波数特性F3は、第2実施形態のCMRRの周波数特性F2より低下するが、第1実施形態のCMRRの周波数特性F1と比較して200Hz以下の低域において約9dB、1kHz以上の高域において約18dBの改善がある。
【0050】
<4.変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる各種の変形が可能である。また、各変形例と実施形態とは適宜相互に組み合わされてもよい。
(1)上述した第1実施形態では、データ信号送信部30Aとデータ信号受信部40Aとが第1伝送路L1に接続されたが、第1伝送路L1の替わりに第2伝送路L2に接続されてもよい。即ち、データ信号は、第1伝送路L1と第2伝送路L2のいずれか一方を介して伝送されればよい。
【0051】
(2)上述した各実施形態では、送信装置100のトランジスタとしてNPN型を用い、受信装置200のトランジスタとしてPNP型を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、送信装置100のトランジスタとしてPNP型を用い、受信装置200のトランジスタとしてNPN型を用いてもよい。
【0052】
(3)上述した各実施形態では、バイポーラ型のトランジスタを例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ユニポーラ型のトランジスタを用いてもよい。例えば、NPN型のバイポーラトランジスタの替わりに、Nチャネルの電界効果トランジスタを用いてもよい。また、PNP型のバイポーラトランジスタの替わりに、Pチャネルの電界効果トランジスタを用いてもよい。
【0053】
(4)上述した各実施形態では、第1伝送路L1及び第2伝送路L2を用いて伝送する伝送信号の一例として、アナログの音信号を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。伝送信号は、例えば、デジタル信号であってもよいし、アナログの映像信号であってもよいし、デジタルの音信号であってもよい。
【0054】
(5)上述した各実施形態では、第1伝送路L1と第2伝送路L2を用いて、差動信号出力部20が入力音信号Vinを差動伝送する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。図8に変形例に係る信号伝送システム1Dを示す。同図において、図2を参照して説明した第1実施形態の信号伝送システム1Aと同一の構成には同一の符号を付す。
【0055】
信号伝送システム1Dの送信装置100には、伝送信号Sが供給される。バッファ21は、第1送信側容量素子Cspを介して第1伝送路L1に伝送信号Sを出力する。データ信号送信部30Aは、第1送信側ノードNspに接続されており、第1伝送路L1を流れる電流をデータ信号Dの論理レベルに応じて制御する。換言すれば、第1伝送路L1では、伝送信号Sが伝送される共にデータ信号Dの論理レベルに応じて流れる電流が変化する。受信装置200において、受信側容量素子Crpは、第1伝送路L1に接続され、伝送信号Soutを出力する。データ信号受信部40Aにおいて、受信側トランジスタQrは、電源ノードNdと受信側ノードNrpとの間に流れる電流を増幅する。データ信号生成部41は、受信側トランジスタQrで増幅された電流に基づいてデータ信号Dを生成する。
【0056】
信号伝送システム1Dでは、第1伝送路L1を流れる電流を受信側トランジスタQrで増幅するので、抵抗素子R31、R41、及びR42の抵抗値を大きくすることができる。この結果、バッファ21の負荷を大きくすることができる。また、第1送信側容量素子Csp、抵抗素子R31(送信側抵抗素子、第1送信側抵抗素子)及び抵抗素子R41でハイパスフィルターが構成されるが、カットオフ周波数を下げることができる。受信装置200の送信側グランド電位GND_Sには、交流電位差Vgが重畳しているが、送信側トランジスタQs及び抵抗素子R31を介して第1伝送路L1に混入する交流電位差Vgを低減することができる。
【0057】
(6)上述した各実施形態では、データ信号D、第1データ信号D1、及び第2データ信号D2は、2値の論理レベルを表すものであったが、データ信号送信部30A,30B、第1データ信号送信部30Ap及び第2データ信号送信部30An(以下、送信部と称する)は、3値以上の直流電流を制御してもよい。この場合、送信部は、定電流源を組み合わせて、伝送すべきデータ信号に応じた直流電流を出力するように構成してもよい。また、送信部は、R-2R型のラダー抵抗を用いたDA変換器で構成してもよい。このDA変換器はで電圧を入力し、3値以上の直流電流を出力する。
一方、受信装置200において、データ信号を受信する受信部は、電源ノードNdと共通ノードとの間に設けられた共通抵抗素子と、共通ノードと第1受信側ノードNrpとの間に設けられた第1抵抗素子と、共通ノードと第2受信側ノードNrnとの間に設けられた第2抵抗素子と、共通ノードを流れる直流電流を検出する電流検出部とを備える。電流検出部は、共通ノードを流れる直流電流の大きさを複数の閾値と比較して、3値以上のデータを生成すればよい。この場合には、データ信号Dを第1伝送路L1と第2伝送路L2の双方を用いて伝送するので、第1伝送路L1と第2伝送路L2とのうちいずれか一方のみを用いてデータ信号Dを伝送する場合と比較して、CMMRが低下させずに多値のデータを伝送することが可能となる。
【0058】
(7)上述した各実施形態の信号伝送システム1A、1B及び1C、並びに変形例の信号伝送システム1Dは、車両における緊急通報システムに適用することができる。緊急通報システムは、車両で緊急事態が発生した場合に車両と管理センタとの間で通信するシステムである。緊急通報システムは、音声を示す音信号及びデータを管理センタとの間で送受信する通信装置と、マイク及びスピーカに接続される音声処理装置とを備える。
通信装置から音声処理装置への音信号の伝送に、第1伝送路L1及び第2伝送路L2を使用して通信装置(上述した送信装置)から音声処理装置(上述した受信装置)へ音信号を伝送することにより、管理センタからの音声をスピーカから放音することができる。
また、通信装置が何らかの故障を検出した場合、データ信号の送信を利用して故障の有無を音声処理装置へ伝送することができる。さらに、データ信号の送信部を音声処理装置に設け、データ信号の受信部を通信装置に設ければ、音声処理装置が検出した故障を通信装置へ伝えることができる。
【0059】
<5.各実施形態及び各変形例の少なくとも1つから把握される態様>
上述した各実施形態及び各変形例の少なくとも1つから以下の態様が把握される。
受信装置の一態様は、伝送信号を伝送すると共にデータ信号の論理レベルに応じて流れる直流電流が変化する伝送路の受信側に接続され、前記伝送信号が出力される容量素子と、前記伝送路と前記容量素子との間に位置する受信側ノードと電源電位が供給される電源ノードとの間に流れる電流を増幅するトランジスタと、前記トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記データ信号を生成するデータ信号生成部と、を備える。
送信装置において、伝送路に流れる直流電流をデータ信号の論理レベルに応じて変化させる場合、伝送路と送信装置のグランドとの間に直流電流を流す必要がある。このため、送信装置のグランドと伝送路との間には直流電流が流れる電流経路が存在する。送信装置のグランドと受信装置のグランドとの間に交流電位差がある場合、ノイズとなる交流電位差が電流経路を介して伝送信号に重畳する。この結果、伝送信号のSN比が低下する。伝送信号に重畳する交流電位差の大きさは、受信側ノードと電源ノードとの間の抵抗と送信装置における電流経路の抵抗とを並列に接続した合成抵抗の抵抗値が大きくなるほど、小さくなる。
この態様によれば、トランジスタを用いて受信側ノードと電源ノードとの間に流れる電流を増幅して得た電流に基づいてデータ信号を生成するので、データ信号を伝送するために伝送路を流れる電流を小さくすることができる。受信側ノードと電源ノードとの間の抵抗値及び送信装置における電流経路の抵抗値は、トランジスタを用いて電流を増幅しない場合と比較して大きくすることができる。よって、交流電位差が伝送路に与える影響を低減することができる。
【0060】
上述した受信装置の一態様において、前記受信側ノードと前記トランジスタの制御端子との間に設けられた第1抵抗素子と、前記トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第2抵抗素子と、を備えることが好ましい。
この態様によれば、第1抵抗素子と第2抵抗素子の抵抗値を大きくしてもトランジスタで電流を増幅してデータ信号を生成することができる。また、送信装置と受信装置との距離が大きい場合、伝送信号と異なる別の伝送信号の戻り電流やデジタル回路からの戻り電流によって、送信装置のグランド電位と受信装置のグランド電位に交流電位差が生じることがある。交流電位差はノイズ電圧となるが、第1抵抗素子と第2抵抗素子の抵抗値を大きくすることによって、ノイズ電圧が伝送信号に混入することを低減することができる。
【0061】
上述した受信装置の一態様において、前記伝送信号は正相信号であり、前記伝送路は第1伝送路であり、前記容量素子は第1容量素子であり、前記正相信号を反転した逆相信号を伝送する第2伝送路の受信側に接続され、前記逆相信号が出力される第2容量素子と、前記第1容量素子から出力される前記正相信号と前記第2容量素子から出力される前記逆相信号とに基づいて、シングルエンド形式の信号を出力する差動信号入力部と、を備える。
この態様によれば、差動伝送された正相信号と逆相信号に基づいて信号を生成するので、同相ノイズを除去して信号のSN比を向上させることができる。
【0062】
上述した受信装置の一態様において、前記第2伝送路は、前記データ信号の論理レベルに応じて流れる直流電流が変化し、前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、前記第2伝送路と前記第2容量素子との間に位置する第2受信側ノードと、前記トランジスタの制御端子との間に設けられた第3抵抗素子と、を備えることが好ましい。
この態様によれば、データ信号は第1伝送路と第2伝送路とを用いて伝送されることになるので、第1抵抗素子と第3抵抗素子の抵抗値を大きくすることができる。また、第1伝送路と第2伝送路とのバランスを取ることができ、第1伝送路の伝達特性と第2伝送路の伝達特性を近づけることができる。この結果、CMRRを向上させることできる。
【0063】
上述した受信装置の一態様において、前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、前記データ信号は第1データ信号であり、前記データ信号生成部は第1データ信号生成部であり、前記トランジスタは第1トランジスタであり、前記第2伝送路と前記第2容量素子との間に位置する第2受信側ノードと前記電源ノードとの間に流れる電流を増幅する第2トランジスタと、前記第2受信側ノードと前記第2トランジスタの制御端子との間に設けられた第3抵抗素子と、前記第2トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第4抵抗素子と、前記第2トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記第2データ信号を生成する第2データ信号生成部と、を備えることが好ましい。
この態様によれば、第1伝送路を介して第1データ信号を受信し、第2伝送路を介して第2データ信号を受信するので、伝送信号を差動形式で受信しつつ、2系統のデータ信号を受信することができる。
【0064】
次に、信号伝送システムの一態様は、送信側容量素子を介して伝送信号を伝送路に出力する出力部と、データ信号の論理レベルに応じて前記伝送路に流れる直流電流を制御する送信側トランジスタと、を有する送信装置と、前記伝送路の受信側に接続され、前記伝送信号が出力される受信側容量素子と、前記伝送路と前記受信側容量素子との間に位置する受信側ノードと電源電位が供給される電源ノードとの間に流れる電流を増幅する受信側トランジスタと、前記受信側トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記データ信号を生成するデータ信号生成部と、を有する受信装置とを備える。
この態様によれば、送信側トランジスタを用いて伝送路に流れる直流電流を制御し、受信側では、受信側ノードと電源ノードとの間に流れる電流を増幅して得た電流に基づいてデータ信号を生成するので、データ信号を伝送するために伝送路を流れる電流を小さくすることができる。このため、受信側ノードと電源ノードとの間の抵抗値及び送信装置における電流経路の抵抗値は、トランジスタを用いて電流を増幅しない場合と比較して大きくすることができる。よって、送信装置のグランドと受信装置のグランドとの間に交流電位差が伝送路に与える影響を低減することができる。
【0065】
上述した信号伝送システムの一態様は、前記送信装置において、前記送信側トランジスタは、前記データ信号の論理レベルに応じて、オン状態又はオフ状態に制御され、前記送信側容量素子と前記伝送路との間に位置する送信側ノードと、前記送信側トランジスタとの間に設けられた送信側抵抗素子を備え、前記受信装置において、前記受信側ノードと前記受信側トランジスタの制御端子との間に設けられた第1受信側抵抗素子と、前記受信側トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第2受信側抵抗素子と、 を備えることが好ましい。
この態様によれば、送信側抵抗素子、第1受信側抵抗素子、第2受信側抵抗素子、及び伝送路を電流が流れるが、受信側トランジスタを用いて電流を増幅するので、送信側抵抗素子、第1受信側抵抗素子、及び第2受信側抵抗素子の抵抗値を大きくすることができる。この結果、送信側容量素子、送信側抵抗素子、及び第1受信側抵抗素子で構成されるハイパスフィルターのカットオフ周波数を下げることができる。また、ノイズ電圧が伝送路へ混入するのを低減することができる。
【0066】
上述した信号伝送システムの一態様は、前記伝送信号は正相信号であり、前記伝送路は第1伝送路であり、前記送信側容量素子は第1送信側容量素子であり、前記受信側容量素子は第1受信側容量素子であり、前記送信装置において、前記出力部は、前記第1送信側容量素子を介して前記正相信号を前記第1伝送路に出力すると共に、第2送信側容量素子を介して前記正相信号を反転した逆相信号を第2伝送路に出力する差動信号出力部であり、前記受信装置において、前記第2伝送路の受信側に接続され、前記逆相信号が出力される第2受信側容量素子と、前記第1受信側容量素子から出力される前記正相信号と前記第2受信側容量素子から出力される前記逆相信号とに基づいて、シングルエンド形式の信号を出力する差動信号入力部と、を備えることが好ましい。
この態様によれば、差動形式で信号を伝送することができるので、差動伝送された正相信号と逆相信号に基づいて信号を生成するので、同相ノイズを除去して信号のSN比を向上させることができる。
【0067】
上述した信号伝送システムの一態様は、前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、前記送信側抵抗素子は第1送信側抵抗素子であり、前記送信装置において、前記第2送信側容量素子と前記第2伝送路との間に位置する第2送信側ノードと前記送信側トランジスタとの間に設けられた第2送信側抵抗素子を備え、前記受信装置において、前記第2伝送路と前記第2受信側容量素子との間に位置する第2受信側ノードと、前記受信側トランジスタの制御端子との間に設けられた第3受信側抵抗素子と、を備えることが好ましい。
この態様によれば、第1伝送路と第2伝送路を用いてデータ信号を伝送することができる。また、送信側トランジスタは、第1伝送路及び第2伝送路に流れる電流を同時に制御する。このため、構成を簡略化できる。この点は、受信側トランジスタについても同様である。第1伝送路と第2伝送路ごとに受信側トランジスタを用いる場合、ベース・エミッタ間の電圧VbeにバラツキがあるとCMRRが低下する原因になり得るが、第1伝送と第2伝送路に共通の受信側トランジスタを用いるので、そのような不都合も無い。
【0068】
上述した信号伝送システムの一態様は、前記受信側ノードは第1受信側ノードであり、前記データ信号は第1データ信号であり、前記データ信号生成部は第1データ信号生成部であり、前記送信側トランジスタは第1送信側トランジスタであり、前記受信側トランジスタは第1受信側トランジスタであり、前記送信装置において、第2データ信号の論理レベルに応じて、オン状態又はオフ状態に制御される第2送信側トランジスタと、前記第2送信側容量素子と前記第2伝送路との間に位置する第2送信側ノードと前記第2送信側トランジスタとの間に設けられた第2送信側抵抗素子とを備え、前記受信装置において、前記第2伝送路と前記第2受信側容量素子との間に位置する第2受信側ノードと、前記電源ノードとの間を流れる電流を増幅する第2受信側トランジスタと、前記第2受信側ノードと前記第2受信側トランジスタの制御端子との間に設けられた第4受信側抵抗素子と、前記第2受信側トランジスタの制御端子と前記電源ノードとの間に設けられた第5受信側抵抗素子と、前記第2受信側トランジスタで増幅された電流に基づいて、前記第2データ信号を生成する第2データ信号生成部と、を備えることが好ましい。
この態様によれば、第1伝送路を用いて第1データ信号を伝送し、第2伝送路を介して第2データ信号を伝送するので、伝送信号を差動形式で受信しつつ、2系統のデータ信号を伝送することができる。
【符号の説明】
【0069】
1A,1B,1C,1D…信号伝送システム、3…スピーカ、10…電源部、20…差動信号出力部、30A,30B…データ信号送信部、30Ap…第1データ信号送信部、30An…第2データ信号送信部、40A,40B…データ信号受信部、40Ap…第1データ信号受信部、40An…第2データ信号受信部、50…差動信号入力部、100…送信装置、200…受信装置、Crp…第1受信側容量素子、Crn…第2受信側容量素子、Csp…第1送信側容量素子、Csn…第2送信側容量素子。
図1
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図7
図8