【文献】
WANG, Yaoguang 外6名,Ultrasensitive electrochemical aptasensor for the detection of thrombin based on dual signal amplification strategy of Au@GS and DNA-CoPd NPs conjugates,Biosensors and Bioelectronics,ELSEVIER,2016年 2月16日,Vol.80,p.640-646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
標識として金属粒子を用い、その金属粒子の量を、電気化学的手法を用いて定量する方法は、感度や精度の観点では有用な方法である。しかしながら、特許文献1に記載されているコロイド金属粒子の定量方法では、コロイド金属粒子を一旦化学的に溶解させる工程が必要となるなど、操作が煩雑で、分析結果が得られるまでに時間がかかるため、医療現場での臨床検査においてはその導入は困難である。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、操作が簡便で、被検物質を高い選択性で、かつ高感度で分析することができる分析キットおよび分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、一次抗体が固定された特定の作用電極を有するセンサと、二次抗体が固定された磁性金属ナノ粒子を用い、抗原(被検物質)を一次抗体と結合させて作用電極に固定した後、抗原と二次抗原を結合させ、その抗原と結合した二次抗体が固定された磁性金属ナノ粒子を、磁場を利用して作用電極に密着させ、その作用電極に密着した磁性金属ナノ粒子を電気化学的手法によりイオン化(酸化)させることにより、磁性金属ナノ粒子を化学的に溶解させずに定量することが可能となることを見出した。そして、その磁性金属ナノ粒子を電気化学的手法によりイオン化させたときに発生する電流量と、抗原の量とが高い相関性を有し、その電流量から抗原の量を求めることが可能となることを確認して、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかる分析キットは、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に一次抗体が固定されているセンサ、及び、溶媒と、前記溶媒に分散された磁性金属ナノ粒子とを含み、前記磁性金属ナノ粒子は、表面に二次抗体が固定されている磁性金属ナノ粒子の分散液を備えることを特徴とする。
【0011】
(2)上記態様にかかる分析キットにおいて、前記作用電極がカーボン電極、金属電極、導電性ダイヤモンド電極または導電性ダイヤモンド様炭素電極であってもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかる分析キットにおいて、前記磁性金属ナノ粒子が、鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の磁性金属を含むものであってもよい。
【0013】
(4)上記態様にかかる分析キットにおいて、前記磁性金属ナノ粒子が、硫黄を含有していてもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかる分析キットにおいて、前記参照電極が、銀−塩化銀電極であってもよい。
【0015】
(6)上記態様にかかる分析キットにおいて、前記対極が、カーボン電極、貴金属電極、導電性ダイヤモンド電極または導電性ダイヤモンド様炭素電極であってもよい。
【0016】
(7)第2の態様にかかる分析方法は、被検物質溶液に含まれる被検物質を分析するための分析方法であって、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に前記被検物質と結合する一次抗体が固定されているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、前記作用電極を洗浄して前記作用電極に付着している前記被検物質溶液を除去する第1洗浄工程と、前記作用電極と、表面に前記被検物質と結合する二次抗体が固定された磁性金属ナノ粒子が分散されている磁性金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と磁性金属ナノ粒子とを接続させる第2結合工程と、前記作用電極を洗浄して前記磁性金属ナノ粒子の分散液を除去する第2洗浄工程と、前記被検物質と結合した前記磁性金属ナノ粒子に溶媒の存在下で磁場を印加して、前記磁性金属ナノ粒子を作用電極に接触させる磁場印加工程と、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、前記磁性金属ナノ粒子を導電性溶媒の存在下でイオン化させ、前記磁性金属ナノ粒子の全量がイオン化するまでの電流量を計測する電流量計測工程と、前記電流量から磁性金属ナノ粒子量を求め、前記磁性金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
(8)第3の態様にかかる分析方法は、被検物質溶液に含まれる被検物質を分析するための分析方法であって、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に前記被検物質と結合する一次抗体が固定されているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、前記作用電極を洗浄して前記作用電極に付着している前記被検物質溶液を除去する洗浄工程と、前記作用電極と、表面に前記被検物質と結合する二次抗体が固定された磁性金属ナノ粒子が分散されている磁性金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と磁性金属ナノ粒子とを接続させる第2結合工程と、外部磁場により、前記被検物質と接続していない前記磁性金属ナノ粒子を、作用電極の表面もしくはその近傍から除去する未接続磁性金属ナノ粒子除去工程と、前記被検物質と接続した前記磁性金属ナノ粒子に溶媒の存在下で磁場を印加して、前記磁性金属ナノ粒子を作用電極に接触させる磁場印加工程と、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、前記磁性金属ナノ粒子を導電性溶媒の存在下でイオン化させ、前記磁性金属ナノ粒子の全量がイオン化するまでの電流量を計測する電流量計測工程と、前記電流量から磁性金属ナノ粒子量を求め、前記磁性金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、操作が簡便で、被検物質を高い選択性で、かつ高感度で分析することができる分析キットおよび分析方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について、図面を用いてその構成を説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0021】
「第1実施形態」
[分析キット]
本実施形態の分析キットは、被検物質溶液に含まれる被検物質を、抗原抗体反応を利用して分析するための分析キットである。被検物質は、例えば、生体材料であり、特にタンパク質やメタポロームである。
本実施形態の分析キットは、センサと磁性金属ナノ粒子の分散液を備える。センサは、被検物質溶液に含まれる被検物質を補足する機能を有し、磁性金属ナノ粒子は、補足した被検物質を定量するための標識として機能する。
【0022】
(センサ)
本発明の第1実施形態にかかる分析キットで用いるセンサを
図1と
図2を参照して説明する。
図1は、センサの一実施形態を示す平面図である。
図2は、
図1のII−II線断面図である。
図1に示すセンサ10は、第1基板11と、第1基板11の表面(
図2において上面)において一方の端部近傍に設けられた作用電極12、対極13及び参照電極14と、作用電極12、対極13及び参照電極14にそれぞれ接続されるとともに第1基板11の他方の端部まで延在するように第1基板11上に形成されたリード線12a、13a及び14aと、第1基板11に接着された、作用電極12、対極13及び参照電極14が露出するような窓15が形成されている第2基板16とから構成される。第2基板16は、リード線12a、13a及び14aのうち第1基板11の他方の端部近傍以外の部分を覆っている。
【0023】
作用電極12は、金属電極、カーボン電極、導電性ダイヤモンド電極または導電性ダイヤモンド様炭素電極(DLC電極)であることが好ましい。金属電極としては銅電極、金電極、白金電極、パラジウム電極等を用いることができる。金属電極は、耐食性の観点から貴金属電極が好ましい。カーボン電極は、グラファイト等の導電性をもつ炭素の電極であり、例えば黒鉛を主体としたペーストで印刷したカーボン印刷電極を用いることができる。導電性ダイヤモンド電極としては、ホウ素をドープしたホウ素ドープダイヤモンド電極を用いることができる。導電性ダイヤモンド電極は、sp
3結合を有するダイヤモンド構造を有する結晶質炭素電極である。導電性DLC電極は、主として炭素及び水素から構成され、sp
3結合およびsp
2結合が混在する非晶質炭素電極である。導電性DLC電極としては、窒素、リン、ヒ素、アンチモン及びビスマスからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素をドープしたn型半導体のDLC電極と、ホウ素、ガリウム及びインジウムからなる群から選ばれる元素をドープしたp型半導体のDLC電極のいずれも用いることができる。
【0024】
sp
3結合の炭素を主体とする導電性ダイヤモンド電極およびDLC電極は、電気化学反応によって酸化または還元される化学物質が吸着する過程が極めて少ない。このため、例えば水に起因する水素や水酸化物やそれらのイオンによる電極への吸着を経る内圏酸化還元反応が極めて起こりにくい。その結果、残余電流と言われるノイズ電流が極端に小さくなるので、検出対象である被検物質の電気化学的反応を高SN比で検出することが可能である。
【0025】
作用電極12は、表面(
図2において上側の面)に、一次抗体が固定されている。一次抗体は、測定対象の被検物質(抗原)に合せて適宜、選択して使用する。一次抗体としては、測定対象の被検物質に対して高い親和性を有し、被検物質(抗原)と結合するものであれば特に制限なく使用することができる。
【0026】
対極13は、電気化学計測用のセンサにおいて通常用いられる電極用の導電性材料から構成される。対極13としては、例えば、カーボン電極、白金電極及び金電極などの貴金属電極、導電性ダイヤモンド電極、導電性DLC電極を用いることができる。
【0027】
参照電極14としては、例えば、銀−塩化銀電極または水銀−塩化水銀電極を用いることができる。参照電極14は、好ましくは銀−塩化銀電極である。
【0028】
第1基板11は、作用電極12、対極13及び参照電極14を支持する支持体である。第1基板11は、電気化学センサとしての使用に耐え得る物理的強度を有していればよい。
作用電極12がn型半導体のDLC電極であるときは、第1基板11はn型結晶性シリコン基板であることが好ましい。また、作用電極12がp型半導体のDLC電極であるときは、第1基板11はp型結晶性シリコン基板であることが好ましい。これにより、第1基板11と作用電極12との間に、ショットキー障壁などの界面抵抗が生じにくくなる。
【0029】
第2基板16は、第1基板11と同様の基板が用いられる。第1基板11と第2基板16は接着剤17によって接着されている。
【0030】
(磁性金属ナノ粒子の分散液)
磁性金属ナノ粒子の分散液は、溶媒と溶媒に分散された磁性金属ナノ粒子とからなる。
溶媒としては、水系溶媒、有機系溶媒およびこれらの混合液を用いることができる。水系溶媒の例としては、水、緩衝液を挙げることができる。緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることができる。有機系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの1価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトンを挙げることができる。
【0031】
磁性金属ナノ粒子は、常磁性もしくは超常磁性であることが好ましい。
磁性金属ナノ粒子は、平均粒子径が1nm以上50nm以下の範囲にあることが好ましく、5nm以上30nm以下の範囲にあることがさらに好ましい。
【0032】
磁性金属ナノ粒子は鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の磁性金属を含むことが好ましい。磁性金属は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せた合金として使用してもよい。磁性金属ナノ粒子は、鉄ナノ粒子、コバルトナノ粒子およびニッケルナノ粒子であることが好ましい。これらの磁性金属ナノ粒子は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0033】
磁性金属ナノ粒子は、表面に二次抗体が固定されている。二次抗体は、測定対象の被検物質(抗原)に合せて適宜、選択して使用する。二次抗体としては、測定対象の被検物質に対して高い親和性を有し、被検物質(抗原)と結合するものであれば特に制限なく使用することができる。
【0034】
磁性金属ナノ粒子は、硫黄を含有していてもよい。硫黄は金属粒子ナノ粒子の表面に付着してもよいし、金属原子間に挿入されていてもよい。硫黄は、金属ナノ粒子の酸化を抑制する効果ある。磁性金属ナノ粒子の硫黄の含有量は、0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲にあることが好ましい。
【0035】
磁性金属ナノ粒子の分散液は、さらに、増粘剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤などを含有していてもよい。
【0036】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態の分析方法を、
図3と
図4を参照して説明する。
図3は、本発明の第2実施形態にかかる分析方法を説明するフロー図である。
図4は、本発明の第2実施形態にかかる分析方法を説明する概念図である。
本実施形態の分析方法は、
図3に示すように、第1結合工程S01、第1洗浄工程S02、第2結合工程S03、第2洗浄工程S04、磁場印加工程S05、電流量計測工程S06、算出工程S07を含む。
【0037】
(第1結合工程S01)
第1結合工程S01では、上述のセンサ10の作用電極12と、被検物質溶液とを接触させる。
図4(a)に示すように、作用電極12の表面には、測定対象物である被検物質と選択的に結合可能な一次抗体31が固定されている。このため、第1結合工程S01では、
図4(b)に示すように、測定対象となる被検物質32のみが一次抗体31に補足される。
【0038】
(第1洗浄工程S02)
第1洗浄工程S02では、作用電極12を洗浄して作用電極12に付着している被検物質溶液を除去する。洗浄液としては、水系溶媒、有機系溶媒を用いることができる。
【0039】
(第2結合工程S03)
第2結合工程S03では、作用電極12と、前述の磁性金属ナノ粒子の分散液とを接触させる。
図4(c)に示すように、磁性金属ナノ粒子33の表面には、測定対象物である被検物質32と選択的に結合可能な二次抗体34が固定されている。このため、第2結合工程S03により、
図4(c)に示すように、被検物質32と二次抗体34が結合し、被検物質32に標識となる磁性金属ナノ粒子33が接続される。
【0040】
(第2洗浄工程S04)
第2洗浄工程S04では、作用電極12を洗浄して作用電極12に付着している磁性金属ナノ粒子の分散液を除去する。この第2洗浄工程S04により、被検物質32に接続されていない磁性金属ナノ粒子33が除去される。洗浄液としては、水系溶媒、有機系溶媒を用いることができる。
【0041】
(磁場印加工程S05)
磁場印加工程S05では、被検物質32と接続された磁性金属ナノ粒子33に溶媒の存在下で磁場を印加する。磁場は、作用電極12の背面側から磁性金属ナノ粒子33を引き付ける方向に印加することが好ましい。磁場は、例えば、
図4(d)に示すように、作用電極12の背面(
図4(d)において下面)の側に磁石35を配置することによって印加することができる。磁石35としては、ネオジム磁石などの永久磁石、またはコイルで磁界を与える電磁石を用いることができる。この磁場印加工程S05により、被検物質32と接続された磁性金属ナノ粒子33が作用電極12に接触する。
【0042】
溶媒は、印加された磁場によって、磁性金属ナノ粒子33を作用電極12に接触するように移動させることができるものであれば、特に制限はないが、次の電流量計測工程S06で使用できる導電性溶媒を用いることが好ましい。
【0043】
(電流量計測工程S06)
電流量計測工程S06では、作用電極12と対極13との間に電圧を印加して、磁性金属ナノ粒子33を導電性溶媒の存在下でイオン化(酸化)させ、磁性金属ナノ粒子33の全量がイオン化するまでの電流量を計測する。例えば、磁性金属ナノ粒子33がコバルトナノ粒子である場合、
図4(d)に示すように、作用電極12と対極13との間に電圧を印加することによって、コバルトナノ粒子が2価のイオンとして溶解するときの電流量を計測する。具体的には、センサ10のリード線12a、13a、14aをポテンシオスタットに接続し、ボルタンメトリー法を用いて、作用電極12と対極13との間に電圧を印加しながら、作用電極12と対極13との間に流れる電流量を測定する。
【0044】
導電性溶媒としては、電解質溶液を用いることが好ましい。電解質溶液の電解質としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウムなどの塩化物を用いることができる。塩化物は、磁性金属ナノ粒子33をイオン化させる際に、磁性金属ナノ粒子33の表面に形成されている酸化物被膜(不働態被膜)を破壊し、磁性金属を溶液に露呈させ、イオン化を進行し易くする効果がある。電解質溶液の溶媒としては、水系溶媒を用いることができる。水系溶媒の例としては、水、緩衝液を挙げることができる。電解質溶液の塩化物イオン濃度は、0.05モル/L以上1.0モル/L以下の範囲にあることが好ましい。
【0045】
(算出工程S07)
算出工程S07では、電流量から磁性金属ナノ粒子33の量を求め、磁性金属ナノ粒子33の量から被検物質量を算出する。電流量計測工程S06で得られる電流量は、磁性金属ナノ粒子33の量(すなわち、被検物質量)と相関する。従って、既知量の被検物質を含む試料を用いて検量線を作成することによって、被検物質溶液に含まれる被検物質を正確に定量することが可能となる。
【0046】
「第3実施形態」
次に、本発明の第2実施形態の分析方法を、
図5と
図6を参照して説明する。
図5は、本発明の第2実施形態にかかる分析方法を説明するフロー図である。
図6は、本発明の第2実施形態にかかる分析方法の未接続磁性金属ナノ粒子除去工程を説明する概念図である。
本実施形態の分析方法は、
図5に示すように、第1結合工程S11、洗浄工程S12、第2結合工程S13、未接続磁性金属ナノ粒子除去工程S14、磁場印加工程S15、電流量計測工程S16、算出工程S17を含む。洗浄工程S12は、上述した第1実施形態の第1洗浄工程S02と同じである。第2実施形態の分析方法は、第1実施形態の第2洗浄工程S04の代わりに未接続磁性金属ナノ粒子除去工程S14を行う点を除いて、第1実施形態の分析方法と同様に構成されている。
【0047】
(未接続磁性金属ナノ粒子除去工程S14)
未接続磁性金属ナノ粒子除去工程S14では、外部磁場により被検物質32と接続していない磁性金属ナノ粒子33を作用電極12の表面もしくはその近傍から除去する。例えば、
図6に示すように、磁石35を作用電極12の表面もしくはその近傍に配置して、被検物質32と接続していない磁性金属ナノ粒子33を、磁石35に付着させて、磁石35を移動することによって除去する。磁石35と磁性金属ナノ粒子33とが直接接触しないように、磁石35の表面をプラスチック製フィルムで覆ってもよい。磁石35は、永久磁石であってもよいし、電磁石であってもよい。また、外部から磁場をかける方法は、特に制限はなく、磁石以外のものを用いてもよい。
【0048】
以上説明したように、第1実施形態の分析キットによれば、センサ10の作用電極12は、一次抗体が固定されているので、被検物質溶液に含まれる被検物質を高い選択性で補足することができる。また、センサ10の作用電極12として、導電性ダイヤモンド電極または導電性ダイヤモンド様炭素電極(DLC電極)を用いることによって、磁性金属ナノ粒子の電気化学反応を高SN比で検出することが可能となる。
【0049】
また、第1実施形態の分析キットによれば、二次抗体が固定されている磁性金属ナノ粒子の分散液を備えるので、標識として磁性金属ナノ粒子を用い、その磁性金属ナノ粒子の量を、電気化学的手法を用いて定量することによって、一次抗体で補足された被検物質を高い感度で分析することができる。
【0050】
また、第2実施形態および第3実施形態の分析方法によれば、被検物質と接続した磁性金属ナノ粒子に溶媒の存在下で磁場を印加して、磁性金属ナノ粒子を作用電極に接触させるので、従来行われていた金属を化学的に溶解させる工程を実施せずに、電気化学的手法を用いて、被検物質を定量することができる。従って、本発明の分析キットおよび分析方法によれば、操作が簡便で、被検物質を高い選択性で、かつ高感度で分析することが可能となる。
【実施例】
【0051】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0052】
[実施例1]
(1)一次抗体付きセンサの作製
作用電極に導電性DLC膜、対極とリード線にカーボンペーストのスクリーン印刷により作成したカーボン膜、参照電極にペースト化したAg/AgClのスクリーン印刷により作成したAg/AgCl膜を用いたセンサチップを用意した。このセンサチップの作用電極(電極面積S=0.0962cm2)に、一次抗体として未標識の抗ヤギIgGを固定して、作用電極の表面に一次抗体が固定されている一次抗体付きセンサを作製した。
【0053】
(2)二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液
4.60mM硫酸コバルト(II)四水和物、および0.460mMクエン酸三ナトリウム二水和物を、2Lの脱イオン水に溶解させた。8.80mM水素化ホウ素ナトリウムを混合物に添加し、10分間反応させた。ネオジム磁石を用いて生成したコバルトナノ粒子を分離し、エタノールで数回洗浄した。洗浄後、コバルトナノ粒子を室温にて真空オーブンで一晩乾燥させた。乾燥したコバルトナノ粒子を450℃で水素と窒素の混合ガスの下で1時間熱処理を行った。得られたコバルトナノ粒子の平均粒子径は18nmであった。
【0054】
上記のコバルトナノ粒子と、オボアルブミン(OA、グレードIII)と、抗ヤギIgGと、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)と、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウラート(Tween20、非イオン系界面活性剤)を混合し、コバルトナノ粒子の表面に、抗ヤギIgG(二次抗体)を固定した二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液を作製した。二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液のコバルトナノ粒子の濃度は0.007質量%とした。抗ヤギIgGとしては、Jackson Immunoresearch Laboratories社から市販されているポリクローナル抗体を使用した。
【0055】
(3)抗原分析用試料
抗原分析用試料として、下記に示すように抗原濃度がそれぞれ異なるNo.1〜No.6を用意した。下記のNo.1〜No.6は、0.1%のTween20を含むPBS緩衝液と、ヤギIgG(抗原)とを抗原濃度が下記の濃度となるように混合することによって調製した。
No.1:抗原濃度=0.001ng/mL
No.2:抗原濃度=0.01ng/mL
No.3:抗原濃度=0.1ng/mL
No.4:抗原濃度=1ng/mL
No.5:抗原濃度=10ng/mL
No.6:抗原濃度=100ng/mL
【0056】
(4)抗原の分析
(3)で用意したNo.1〜No.6の各抗原分析用試料について、35μLを正確に量り取り、これを上記(1)で作製した一次抗体付きセンサの作用電極の上に滴下した後、40分間インキュベートした(第1結合工程)。
【0057】
次に、一次抗体付きセンサの作用電極を、洗浄液を用いて洗浄して、抗原分析用試料を洗い流した(第1洗浄工程)。洗浄液には、PBSを用いた。
【0058】
次に、上記(2)で調製した二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液を1μL正確に量り取り、これを、一次抗体付きセンサの作用電極の上に滴下した後、3時間インキュベートした(第2結合工程)。
【0059】
次に、一次抗体付きセンサの作用電極を、洗浄液を用いて洗浄して、二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液を洗い流した(第2洗浄工程)。洗浄液には、PBSを用いた。
【0060】
次に、一次抗体付きセンサのリード線をポテンシオスタットに接続し、一次抗体付きセンサを、プラスチック製角型容器に、その一次抗体付きセンサの背面(作用電極側とは反対側の面)がプラスチック製角型容器の底面に接触するように収容した。次いで、プラスチック製角型容器に、PBSに0.1モル/L塩化カリウムを溶解させた電解質溶液を注入し、一次抗体付きセンサを電解質溶液に浸漬させた。そしてプラスチック製角型容器の底部外側にネオジム磁石を密着配置して、一次抗体付きセンサの作用電極に、センサ背面側からコバルトナノ粒子を引き付ける方向に磁場を印加した(磁場印加工程)。
【0061】
次に、ポテンシオスタットを用いて、作用電極と対極との間に電圧を印加して、作用電極と対極との間に流れる電流量を計測した(電流量計測工程)。
【0062】
図7に、No.1〜No.6の各抗原分析用試料の抗原濃度と、作用電極と対極との間に流れた電流量(すなわちコバルトナノ粒子をイオン化させるために要した電流量)とをプロットしたグラフを示す。
図7のグラフから電流値と、抗原分析用試料の抗原濃度との間には相関関係があることが確認された。従って、既知量の抗原(被検物質)を含む試料を用いて検量線(電流値−抗原濃度曲線)を作成することによって、被検物質溶液に含まれる抗原(被検物質)を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0063】
[実施例2]
(1)一次抗体付きセンサの作製
ポリエチレンテレフタレート基板に対極とリード線をマスクでパターニングした金蒸着膜、作用電極にSiウエハに成膜した導電性DLC膜、参照電極にペースト化したAg/AgClのスクリーン印刷により作成したAg/AgCl膜を用いたセンサチップを用意した。このセンサチップの作用電極(電極面積S=0.0962cm2)に、一次抗体として未標識の抗8−ヒドロキシデオキシグアノシン(抗8−OHdG)抗体を固定して、作用電極の表面に一次抗体が固定されている一次抗体付きセンサを作製した。
【0064】
(2)二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液
4.60mM硫酸コバルト(II)四水和物、および0.460mMクエン酸三ナトリウム二水和物を、2Lの脱イオン水に溶解させた。8.80mM水素化ホウ素ナトリウムを混合物に添加し、10分間反応させた。ネオジム磁石を用いて生成したコバルトナノ粒子を分離し、エタノールで数回洗浄した。洗浄後、コバルトナノ粒子を室温にて真空オーブンで一晩乾燥させた。乾燥したコバルトナノ粒子を450℃で水素と窒素の混合ガスの下で1時間熱処理を行った。得られたコバルトナノ粒子の平均粒子径は40nmであった。
【0065】
上記のコバルトナノ粒子と、抗8−ヒドロキシデオキシグアノシン(抗8−OHdG)抗体と、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)と、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウラート(Tween20、非イオン系界面活性剤)を混合し、コバルトナノ粒子の表面に、抗8−OHdG抗体(二次抗体)を固定した二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液を作製した。二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液のコバルトナノ粒子の濃度は0.007質量%とした。抗8−OHdG抗体としては、IMMUNDIAGNOSTIK GMBH社から市販されているモノクローナル抗体AA1005.1を使用した。
【0066】
抗原分析用試料として、下記に示すように抗原濃度がそれぞれ異なるNo.1〜No.6を用意した。下記のNo.1〜No.6は、0.1%のTween20を含むPBS緩衝液と、8−OHdG(抗原)とを抗原濃度が下記の濃度となるように混合することによって調製した。
No.1:抗原濃度=0.01ng/mL
No.2:抗原濃度=0.1ng/mL
No.3:抗原濃度=1ng/mL
No.4:抗原濃度=10ng/mL
No.5:抗原濃度=100ng/mL
No.6:抗原濃度=1000ng/mL
【0067】
(4)抗原の分析
(3)で用意したNo.1〜No.6の各抗原分析用試料について、35μLを正確に量り取り、これを上記(1)で作製した一次抗体付きセンサの作用電極の上に滴下した後、40分間インキュベートした(第1結合工程)。
【0068】
次に、一次抗体付きセンサの作用電極を、洗浄液を用いて洗浄して、抗原分析用試料を洗い流した(洗浄工程)。洗浄液には、PBSを用いた。
【0069】
次に、上記(2)で調製した二次抗体付きコバルトナノ粒子分散液を1μL正確に量り取り、これを、一次抗体付きセンサの作用電極の上に滴下した後、3時間インキュベートした(第2結合工程)。
【0070】
次に、一次抗体付きセンサのリード線をポテンシオスタットに接続し、一次抗体付きセンサを、プラスチック製角型容器に、その一次抗体付きセンサの背面(作用電極側とは反対側の面)がプラスチック製角型容器の底面に接触するように収容した。次いで、プラスチック製角型容器に、PBSに0.1モル/L塩化カリウムを溶解させた電解質溶液を注入し、一次抗体付きセンサを電解質溶液に浸漬させた。そして、ネオジム磁石を一次抗体付きセンサ基板の作用電極の表面に配置して、未接続の二次抗体付コバルトナノ粒子をネオジム磁石に付着させて除去した(未接続磁性金属ナノ粒子除去工程)。
【0071】
次に、プラスチック製角型容器の底部外側にネオジム磁石を密着配置して、一次抗体付きセンサの作用電極に、センサ背面側からコバルトナノ粒子を引き付ける方向に磁場を印加した(磁場印加工程)。
【0072】
次に、ポテンシオスタットを用いて、作用電極と対極との間に電圧を印加して、作用電極と対極との間に流れる電流量を計測した(電流量計測工程)。
【0073】
図8に、No.1〜No.6の各抗原分析用試料の抗原濃度と、作用電極と対極との間に流れた電流量(すなわちコバルトナノ粒子をイオン化させるために要した電流量)とをプロットしたグラフを示す。
図8のグラフから電流値と、抗原分析用試料の抗原濃度との間には相関関係があることが確認された。従って、既知量の抗原(被検物質)を含む試料を用いて検量線(電流値−抗原濃度曲線)を作成することによって、被検物質溶液に含まれる抗原(被検物質)を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0074】
[実施例3]
一次抗体付きセンサの作用電極をカーボン印刷電極としたこと以外は、実施例2と同様にして、各抗原分析用試料の抗原濃度と、抗原の標識であるコバルトナノ粒子をイオン化させるために要した電流量とをプロットしたグラフを作成した。その結果を、
図9に示す。
図9のグラフから電流値と、抗原分析用試料の抗原濃度との間には相関関係があることが確認された。従って、作用電極としてカーボン印刷電極を使用した場合でも、被検物質溶液(に含まれる抗原(被検物質)を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0075】
[実施例4]
一次抗体付きセンサの作用電極を、蒸着法により形成した金蒸着電極としたこと以外は、実施例2と同様にして、各抗原分析用試料の抗原濃度と、抗原の標識であるコバルトナノ粒子をイオン化させるために要した電流量とをプロットしたグラフを作成した。その結果を、
図10に示す。
図10のグラフから電流値と、抗原分析用試料の抗原濃度との間には相関関係があることが確認された。従って、作用電極として金蒸着電極を使用した場合でも、被検物質溶液に含まれる抗原(被検物質)を正確に定量することが可能となることが確認された。