(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773237
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】イオンガイド装置及びイオンガイド方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20201012BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
H01J49/06 200
G01N27/62 E
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-557651(P2019-557651)
(86)(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公表番号】特表2020-518106(P2020-518106A)
(43)【公表日】2020年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2017019992
(87)【国際公開番号】WO2018198386
(87)【国際公開日】20181101
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】201710295140.X
(32)【優先日】2017年4月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン カカ
(72)【発明者】
【氏名】チャン シャオチィアン
(72)【発明者】
【氏名】スン ウェンジャン
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/308721(US,A1)
【文献】
米国特許第5120956(US,A)
【文献】
特表2015-521784(JP,A)
【文献】
特表2018-520481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置される同一サイズの複数のリング電極であって、前記複数のリング電極の中心を接続する接続線が軸線として画定され、前記複数のリング電極のいずれかが位置する平面の法線と該リング電極の中心における前記軸線の接線との狭角が(0〜90)度のいずれかであるリング電極と、
イオンが、通過中に前記リング電極の内側に閉じ込められるように、前記軸線に沿って隣り合うリング電極に逆位相の高周波電圧を印加する高周波電圧源と、
前記イオンの通過方向と前記軸線が(0〜90)度の範囲内の狭角を形成するように、前記軸線に沿って振幅が変化する直流電圧を前記リング電極に印加する直流電圧源と、
を備えることを特徴とするイオンガイド装置。
【請求項2】
前記リング電極が円形、楕円形又は多角形であることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド装置。
【請求項3】
前記軸線が直線、曲線又は折れ線であることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド装置。
【請求項4】
前記直流電圧の振幅が前記軸線に沿って非線形的に変化することを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド装置。
【請求項5】
イオンを前記イオンガイド装置に導入するイオン導入装置をさらに備え、イオン導入方向と前記法線方向とで形成される狭角が[0〜90]度のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド装置。
【請求項6】
集束したイオンを前記イオンガイド装置から排出するイオン排出装置をさらに備え、イオン排出方向と前記法線方向とで形成される狭角が[0〜90]度のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド装置。
【請求項7】
前記複数のリング電極の周りの中性成分を排出するエアポンプ装置をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド装置。
【請求項8】
前記複数のリング電極のイオン導入端に配置される複数の第2リング電極をさらに備え、前記複数の第2リング電極は前記複数のリング電極に対して平行に配置され、前記複数の第2リング電極が位置する平面の法線と前記リング電極の中心における前記軸線の接線とがなす狭角が0度であることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド装置。
【請求項9】
同一サイズの複数のリング電極を平行に配置するステップと、
前記複数のリング電極の中心を接続する接続線を軸線として画定し、前記複数のリング電極のいずれかが位置する平面の法線と該リング電極の中心における前記軸線の接線との狭角が(0〜90)度のいずれかであるように前記狭角を形成するステップと、
イオンが通過中、前記リング電極の内側に閉じ込められるように、前記軸線に沿って隣り合うリング電極に逆位相の高周波電圧を印加するステップと、
前記イオンの通過方向と前記軸線が(0〜90)度の範囲内の狭角を形成するように、前記軸線に沿って振幅が変化する直流電圧を前記リング電極に印加するステップと、
を含むことを特徴とする、イオンガイド方法。
【請求項10】
前記イオンを導入するステップをさらに含み、イオン導入方向と前記法線方向とで形成される狭角が[0〜90]度のいずれかであることを特徴とする、請求項9に記載のイオンガイド方法。
【請求項11】
前記集束したイオンを排出するステップをさらに含み、イオン排出方向と前記法線方向とで形成される狭角が[0〜90]度のいずれかであることを特徴とする、請求項9に記載のイオンガイド方法。
【請求項12】
前記複数のリング電極のイオン導入端に複数の第2リング電極を配置するステップをさらに含み、前記複数の第2リング電極は前記複数のリング電極に対して平行に配置され、前記複数の第2リング電極が位置する平面の法線と前記リング電極の中心における前記軸線の接線とがなす狭角が0度であることを特徴とする、請求項9に記載のイオンガイド方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンガイド装置及びイオンガイド方法、より詳細には高圧力又は低真空下でイオンを軸外通過させ、集束させ、且つ後段に入射させて質量分析されるようにイオンをガイドするための、イオンガイド装置及びイオンガイド方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ質量分析装置(LCMS)では一般的に、例えばエレクトロスプレーイオン源等の大気圧イオン源を採用している。イオン源によって発生するイオンを、大気領域から低圧(例えば、1Pa未満の圧力)のイオン分析装置領域へと通過させる必要がある。通過プロセス中は必須となる真空インターフェースに加えて、一般的にイオンガイド装置が必要となる。
【0003】
このイオンガイド装置は、高周波電圧が印加される一連の電極からなるのが一般的である。高周波電圧は、装置の中心軸線を中心にイオンを閉じ込めるための効果的な障壁を形成し、これによってイオン損失が防止され、また高い通過率が得られる。リング電極アレイ(積層リング)はイオンガイド装置の一形態である。この種の装置はある軸線に沿って配置される一連のリング電極からなり、同じ振幅で逆位相の高周波電圧を隣り合う電極間に印加して、イオンを半径方向に閉じ込める一方、直流電圧又は進行波電圧を軸線に沿って印加して、イオンを駆動している。この種の装置は、広い質量範囲、電極表面により近接してイオンを閉じ込める高強度高周波、及び高圧力への適応等の利点を有するために、商業機器において広く使用されている。初期の頃は、この種の装置は、直径が等しいリング電極を使用し、軸線に沿って等しい間隔で配置されていたため、細いイオンビームしか通過させられず、また受容面積も限定され、イオンビームを集束させることができなかった。
【0004】
特許文献1では、徐々に直径が減少するリング電極アレイを使用することにより、イオンを受容するための比較的大きな面積を得る一方で、イオンビームの効果的な集束を達成しているイオンファンネル技術が提供されている。現在、この装置は商業機器において成功を収めている。
【0005】
特許文献2では、同様の目的を達成するために別の技法を採用している。この技法では、直径が等しいリング電極を採用しており、電極間の間隔を徐々に拡大することで高周波障壁がリング電極の中心に向かって徐々に移動し、これによりイオンを集束させている。なお、この装置では高圧力(例えば、10torr以上)では通過率が低下するため、イオン閉じ込めを強化することが必要となる。これは、電極間の間隔が広いと、電極に近い方の高周波障壁を引き下げることを可能にするためである。さらにもう一つ、質量分離の問題がある。
【0006】
特許文献3及び関連特許では、互いに半径方向に結合される、直径が異なる二組のリング電極アレイを採用しており、直流電圧差により、大径のリング電極アレイから小径のリング電極アレイへと入射するようにイオンがガイドされ、これによってイオン集束が達成され、その結果高いイオン強度が得られ、且つ中性ノイズが低減されている。
【0007】
特許文献4では、各リング電極を二つの部分に分割するステップを含む別の方法が提供されており、長さ比が軸線に沿って徐々に変化し、当該部分間に印加される直流電圧差により、より大きな部分の電極からより小さな部分の電極表面へとイオンがガイドされ、これによってイオンを集束させることが可能となっている。
【0008】
ただし、これらの種々の従来技術では、直径、間隔、及び断面積比等のリング電極に関する特定のパラメータを変更することによってイオン集束を得ている。その上、電極パラメータを変更することによって、電極の加工又は組立時の複雑さが増すことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6107628号明細書
【特許文献2】米国特許第7781728号明細書
【特許文献3】米国特許第8581181号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第20150206731号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術のこうした欠点を考慮して、本発明は、同一サイズの複数のリング電極を平行且つ等間隔に配置することにより、高圧力又は低真空下でのイオン集束が効果的に達成され、また中性ノイズが効果的に低減される一方、加工、製造及び組立時の困難さを大幅に軽減するようなイオンガイド装置及びイオンガイド方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的及び他の関連目的を達成するために、本発明は、平行に配置される同一サイズの複数のリング電極であって、複数のリング電極の中心を接続する接続線が軸線として画定され、前記複数のリング電極のいずれかが位置する平面の法線と該リング電極の中心における前記軸線の接線との狭角が(0〜90)度のいずれかであるリング電極と、イオンが、通過中に前記リング電極の内側に閉じ込められるように、前記軸線に沿って隣り合うリング電極に逆位相の高周波電圧を印加する高周波電圧源と、イオンが前記軸線に沿って通過し、且つ法線方向に沿って前記リング電極の内面により近接した位置に集束するように、前記軸線に沿って振幅が変化する直流電圧を前記リング電極に印加する直流電圧源と、を備える、イオンガイド装置を提供する。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記リング電極は円形、楕円形又は多角形である。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記軸線は直線、曲線又は折れ線である。
【0014】
本発明の一実施形態では、前記直流電圧の振幅は前記軸線に沿って非線形的に変化する。
【0015】
本発明の一実施形態では、本装置は、イオンを本イオンガイド装置に導入するためのイオン導入装置をさらに備え、イオン導入方向と法線方向とで形成される狭角は[0〜90]度のいずれかである。
【0016】
本発明の一実施形態では、本装置は、集束したイオンを本イオンガイド装置から排出するためのイオン排出装置をさらに備え、イオン排出方向と法線方向とで形成される狭角は[0〜90]度のいずれかである。
【0017】
本発明の一実施形態では、本装置は、複数のリング電極の周りの中性成分を排出するためのエアポンプ装置をさらに備える。
【0018】
本発明の一実施形態では、本装置は、前記複数のリング電極のイオン導入端に配置される複数の第2リング電極をさらに備え、該複数の第2リング電極は前記複数のリング電極に対して平行に配置され、前記複数の第2リング電極が位置する平面の法線と前記リング電極の中心における前記軸線の接線とがなす狭角は0度である。
【0019】
また、本発明はイオンガイド方法をさらに提供し、前記方法は、
同一サイズの複数のリング電極を平行に配置するステップと、
前記複数のリング電極の中心を接続する接続線を軸線として画定し、前記複数のリング電極のいずれかが位置する平面の法線と該リング電極の中心における前記軸線の接線とが成す狭角が(0〜90)度のいずれかであるように前記狭角を形成するステップと、
イオンが通過中にリング電極の内側に閉じ込められるように、前記軸線に沿って隣り合うリング電極に逆位相の高周波電圧を印加するステップと、
イオンが前記軸線に沿って通過し、且つ法線方向に沿ってリング電極の内面により近接した位置に集束するように、前記軸線に沿って振幅が変化する直流電圧をリング電極に印加するステップと、を含む。
【0020】
本発明の一実施形態では、本方法は、イオンを本イオンガイド装置に導入するステップをさらに含み、イオン導入方向と法線方向とで形成される狭角は[0〜90]度のいずれかである。
【0021】
本発明の一実施形態では、本方法は、集束したイオンを本イオンガイド装置から排出するステップをさらに含み、イオン排出方向と法線方向とで形成される狭角は[0〜90]度のいずれかである。
【0022】
本発明の一実施形態では、本方法は、前記複数のリング電極のイオン導入端に複数の第2リング電極を配置するステップをさらに含み、該複数の第2リング電極は前記複数のリング電極に対して平行に配置され、該複数の第2リング電極が位置する平面の法線とリング電極の中心における前記軸線の接線とがなす狭角は0度である。
【発明の効果】
【0023】
上記で述べたように、本発明のイオンガイド装置及びイオンガイド方法には以下の有益な効果がある。
(1)同一サイズの複数のリング電極を平行に配置することにより、高圧力又は低真空下でのイオン集束が効果的に達成される。
(2)イオンの軸外通過により、中性ノイズが効果的に低減される。
(3)加工、製造及び組立時の複雑さが大幅に軽減され、確固たる有用性がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のイオンガイド装置の第1実施形態の構造概略図。
【
図2】本発明のイオンガイド装置の第1実施形態におけるリング電極の正面側の構造概略図。
【
図3(a)】本発明のイオンガイド装置の第1実施形態におけるxz断面の等電位線分布図。
【
図3(b)】本発明のイオンガイド装置の第1実施形態におけるxy断面の等電位線分布図。
【
図4(a)】本発明のイオンガイド装置の第1実施形態における、異なる直流バイアス電圧下でのイオン軌道のシミュレーション概略図。
【
図4(b)】本発明のイオンガイド装置の第1実施形態における、直流バイアス電圧と軸線方向位置との関係の概略図。
【
図5】本発明のイオンガイド装置の第2実施形態の構造概略図。
【
図6】本発明のイオンガイド装置の第3実施形態の構造概略図。
【
図7】本発明のイオンガイド装置の第4実施形態の構造概略図。
【
図8】本発明のイオンガイド装置における、z軸線に沿った狭角αの値の変化の概略図。
【
図9】本発明のイオンガイド装置の第5実施形態の構造概略図。
【
図10】本発明のイオンガイド装置の第6実施形態の構造概略図。
【
図11(a)】本発明のイオンガイド装置の第7実施形態の構造概略図。
【
図11(b)】本発明のイオンガイド装置の第7実施形態の構造概略図。
【
図11(c)】本発明のイオンガイド装置の第7実施形態の構造概略図。
【
図12】本発明のイオンガイド方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施モードについて、特定の詳細な実施形態を用いて説明する。当業者であれば、本明細書の開示内容による本発明の他の利点及び効果を容易に理解することができる。
【0026】
なお、本明細書の図面に描画されている構造、縮尺、サイズ等は全て、当業者によって理解され、且つ読解される本明細書の開示内容と連携させるためにのみ使用しており、本発明によって実施可能な条件の定義を限定することは意図しておらず、したがって技法において実質的な意味を有しない。こうした構造に対するあらゆる修正、縮尺関係の変更、又はサイズの調整は、本発明で創出できる効果及び達成できる目的に何ら影響を与えることなく、本発明で開示している技術内容によって網羅され得る範囲内に含まれるべきである。また、本明細書で使用している「上(upper)」、「下(lower)」、「左(left)」、「右(right)」、「中央(middle)」、及び「一つの(a)/(an)」等の用語は、本発明によって実施可能な範囲を限定するためではなく、説明を明確にするためにのみ使用している。それらの相対関係の変更又は調整も、その技術内容を実質的に変更することなく本発明によって実施可能な範囲として考慮されるべきである。
【0027】
本発明のイオンガイド装置及びイオンガイド方法は、平行且つ等間隔に配置される同一サイズの複数のリング電極であって、複数のリング電極の中心を接続する接続線が軸線として画定され、リング電極のいずれかが位置する平面の法線とリング電極の中心における軸線の接線との狭角が(0〜90)度のいずれかであるリング電極と、イオンが通過中にリング電極の内側に閉じ込められるように、軸線に沿って隣り合うリング電極に逆位相の高周波電圧を印加する高周波電圧源と、軸線に沿ってイオンが通過し、且つ法線方向に沿ってリング電極の内面により近接した位置に集束するように、軸線に沿って振幅が変化する直流電圧をリング電極に印加する直流電圧源と、を備える。本発明のイオンガイド装置及びイオンガイド方法は、一定の真空度でのイオン通過及び集束とイオンの軸外通過とを達成することにより、中性成分のノイズを低減する一方、加工、製造及び組立時の困難さを大幅に軽減することができる。
【0028】
本発明のイオンガイド装置について、以下の特定の詳細な実施形態を用いて説明する。
(第1実施形態)
【0029】
図1に示すように、本発明の第1実施形態において、本イオンガイド装置は、
【0030】
平行に配置される同一サイズの複数のリング電極(101、102…)を備え、複数のリング電極の中心を接続する接続線が軸線として画定され、次いで本実施形態におけるリング電極のいずれかが位置する平面の法線b1とリング電極の中心における軸線a1の接線との狭角αが(0〜90)度のいずれかであり、即ち狭角αは0度よりも大きく90度よりも小さい。好ましくは、狭角αは[5〜85]度のいずれかであり、即ち角度αは5度以上且つ85度以下である。
【0031】
隣り合うリング電極間の間隔は等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
イオンが通過中にリング電極の内側に閉じ込められるように、軸線a1に沿って隣り合うリング電極(例えば、リング電極101と102)に逆位相の高周波電圧を印加するために、高周波電圧源を使用している。
【0033】
印加される高周波電圧の振幅は等しくてもよいし、異なっていてもよい。印加される高周波電圧の振幅が異なる場合、イオン集束をより効果的に達成するために、該高周波電圧の振幅が同程度であることが好ましい。
【0034】
軸線a1に沿ってイオンが通過し、且つ法線b1の方向に沿ってリング電極の内面により近接した位置に集束するように、軸線a1に沿って振幅が変化する直流電圧をリング電極(例えば、リング電極101と102)に印加するために、直流電圧源を使用している。
【0035】
正イオンの場合、軸線a1に沿ってリング電極に印加される直流電圧は徐々に低下するが、負イオンの場合、軸線a1に沿ってリング電極に印加される直流電圧は徐々に上昇する。
【0036】
好ましくは、直流電圧の振幅は軸線に沿って非線形的に変化するか、又は線形的に変化する。
【0037】
図2は、本発明のイオンガイド装置を構成する典型的なリング電極を示している。このリング電極は、一定の厚みを有する環状の金属板であり、その形状は四角形である。環状構造を構成する限り、リング電極の形状は円形、楕円形、又は三角形、正方形、長方形、及び五角形等の多角形であることが好ましい。
図1に示す本イオンガイド装置は、
図2に示すいくつかのリング電極を平行に配置することにより構成されている。
【0038】
イオンを半径方向に閉じ込めるために、本発明のイオンガイド装置は、イオンファンネルと同様の積層リング電極を採用しており、またリング電極に高周波電圧を印加し、これにより電極表面の周りに半径方向障壁が形成されるようにしている。イオンは電極の周囲を移動するとき、高周波電圧の跳ね返り効果によって制限されることになる。本発明においてイオンを半径方向に、即ちz方向に駆動するために、リング電極に直流電圧を印加して軸線方向の直流電界を発生させている。従来技術と区別される本発明の重要な特徴として、リング電極のいずれかが位置する平面の法線とリング電極の中心における軸線の接線とが狭角を形成する。
【0039】
図1に示すように、リング電極が位置する平面の法線b1とリング電極の中心における軸線a1の接線の間には、狭角αが存在する。狭角αは(0〜90)度のいずれかである。一方、リング電極101と102の間、並びにリング電極101及び102の後方でz軸線の正方向に沿って連続して隣り合う二つのリング電極間ごとに逆位相の高周波電圧を印加し、これによってイオンを半径方向に閉じ込めている。また、隣り合う二つのリング電極間ごとに直流電圧を印加することにより、隣り合うリング電極間に直流バイアス差(典型値は、例えば4Vである)が生じている。軸線a1の接線と法線b1とで狭角αをなしているため、
図3(a)に示すxz断面の電位分布図において、cはリング電極201上に分布する等電位線を示しており、隣り合うリング電極間の直流バイアス差Eは、z軸線方向及びx軸線方向に直流電界成分Ez及びExを有し、z軸線方向の成分Ezによってイオンはz軸線に沿って前方に移動でき、またx軸線方向の成分Exによって、x軸線の負方向へと偏向されている方向にイオンは移動できるようになる。
図3(b)に示すxy断面の電位分布図では、xy断面は複数対の電極を有し、イオンはx軸線の負方向の電界成分Exによる影響下でx軸線の負方向に沿って移動し、また電極表面に近づくと、イオンは高周波場の跳ね返り効果の影響を受けることになる。このとき、x軸線の負方向の電界成分は、電極に平行な方向及び電極に垂直な方向に沿って電界成分E//とE⊥とを得ることになる。電極に垂直な成分E⊥は高周波場の跳ね返り効果との均衡をとり、また電極に平行な成分E//は、x軸線の負方向の電界成分Ex全てが高周波場の跳ね返り効果との均衡をとるまで、電極表面に近接することによってx軸線の負方向に沿ってイオンが移動できるようにする。イオンは最終的に直径が1〜2mmのビームスポット内へと押し込まれて、リング電極の表面に近接して通過することになる。
【0040】
本発明のイオンガイド装置では、従来技術と比較すると各リング電極の半径は同一であり、徐々に直径が減少していく構造にせずにイオンを集束させることができる。互いに結合された二組のリング電極を有する構造ではなく、一組のリング電極のみが軸外通過には必要とされる。したがって、本発明のイオンガイド装置は、米国特許第2011/0049357号のイオンファンネル型装置及びイオンガイド装置の機能を完全に実現することができ、また、同時に二つの機能(即ち、集束と軸外)を果たすことができないという、これら二つの装置が有する欠点を克服している。
【0041】
既存のイオンファンネルでは、直径が変化するリングを製造する必要があり、これは製造時に多大な努力を要するだけでなく、精度に対する要件も高度になる。その上、イオンファンネルの固定はより困難となる。例えば四軸を固定する等、単純な固定手段を採用する場合、直径が縮小された部品のプレート間における重なり面積が大きくなるために、コンデンサの消費電力が膨大になる恐れがある。したがって、実現可能性はない。また、前述の米国特許第2011/0049357号に開示されているイオンガイド装置では、異なる内径及びノッチを有する二組(又はそれ以上)のリング電極を製造する必要があるだけでなく、内径が異なるこれら二組のリングを正確に結合する必要も生じる。そのため、二組のリング電極のノッチと組立軸との角度を正確に位置決めする必要が生じ、これにより製造工程が極めて煩雑になり、また使用後の清掃も困難となる。比較すると、本発明のイオンガイド装置は製造時の困難さを大幅に軽減し、且つ製造工程を簡略化している。例えば、発明の名称を「電極アレイ及び製造方法」とする中国特許第201110425472.8号の一体型電極の製造方法を採用する場合、本発明のイオンガイド装置が有する直径が等しくなる構造により、円錐表面を加工することもなくなるので溝を機械加工する際の困難さを軽減でき、このために優れた有用性が得られることになる。
【0042】
加えて、本発明のイオンガイド装置は、イオンの軸方向通過及び軸外通過を同時に達成するにあたり、一連の直流バイアス電圧のみを必要としており、また電圧印加モードは単純且つ柔軟である。直流バイアス電圧を調整することにより、イオンの集束位置をさらに調整することができる。
図4(a)に示すように、異なる直流バイアス電圧構成下でのイオン軌道は、SIMIONイオン軌道シミュレーションソフトウェアを用いたシミュレーションにより得ることができる。異なる直流バイアス電圧は、イオンを集束させる機能において明白な差を有する。直流バイアス電圧が大きい場合、バイアス電圧がイオンに与える影響が強くなるため、z軸線方向におけるイオンの位置ずれが小さくなるのに対して、直流バイアス電圧が小さい場合、バイアス電圧がイオンに与える影響が弱くなるため、z軸線方向におけるイオンの位置ずれが大きくなる。直流バイアス電圧をx軸線、位置ずれをy軸線とすると、
図4(b)に示すような曲線グラフが得られる。軸線方向におけるイオンの位置ずれを調整することで、イオンガイド装置におけるイオン滞留時間を調整することができる。多重質量分析装置の分析応用では、正イオンと負イオンとを同時に検出する必要がある。正イオンと負イオンとを検出するとき、イオン源、イオンガイド装置、及び分析装置の電圧構成は逆になる。正イオンと負イオンとを迅速に検出するためには、イオン源、イオンガイド装置、及び分析装置の電圧切り替え速度を十分に速くすることが必要となる。同時に、内部でのイオン滞留時間を十分に短くすることも必要となる。したがって、直流バイアス電圧の分布又は直流バイアス電圧を調整することにより、イオンガイド装置において理想的なイオン滞留時間を得ることができ、この場合、典型的な滞留時間は400〜500マイクロ秒である。
(第2実施形態)
【0043】
図5は、本発明のイオンガイド装置の第2実施形態の構造概略図である。本実施形態では、第1実施形態における複数のリング電極のイオン導入端に複数のリング電極を平行に配置し、リング電極のいずれかが位置する平面の法線がリング電極の中心における軸線の接線に重なり、また配置されるリング電極は第1実施形態のリング電極と同一サイズである。したがって、第2実施形態では、リング電極が位置する平面の法線がz軸線と重なり、リング電極の中心を接続する接続線、即ち軸線は直線ではない。具体的には、軸線a5は、リング電極501とリング電極502の間にある電極の法線b5と重なるため、法線b5とリング電極の中心における軸線a5の接線とがなす狭角は0度になる。軸線dと、リング電極502とリング電極503の間にある電極の法線bとの間には、狭角αが存在する。本実施形態では、イオンはリング電極501とリング電極502の間で本イオンガイド装置に入射すると、電界の影響下で軸線に沿って移動し、リング電極502とリング電極503の間に入射した後に、電界の影響下で偏向される。
【0044】
概ねイオン導入装置の後端部に本イオンガイド装置を配置している。イオンは、大気からイオン導入装置を介して本イオンガイド装置へと入射し、次いでイオンを含む気流はイオン導入装置から排出され、その後真空断熱膨張の影響を受けることになり、その際の速度は音速の3〜6倍に達する場合がある。この速度では、電界による偏向力がイオンに作用する時間が短過ぎるため、イオンの偏向距離は短くなる。一部のイオンは、偏向距離が不十分であるために電極上で飛び散る可能性があり、これによってイオン通過率が低下してしまう。本実施形態におけるイオンガイド装置は、イオンが軸線に沿って移動するための領域を有し、この領域を通して気流の速度は亜音速にまで減速され、イオンに対する偏向電界の作用時間は比較的長くなり、またイオンの偏向距離が増大するので、これによってイオンが電極上で飛び散る可能性が低減する。
【0045】
好ましくは、該軸線は直線、曲線又は折れ線のうちのいずれかである。
(第3実施形態)
【0046】
図6に示すように、本実施形態では、リング電極を複数組に分割している。具体的には、リング電極601とリング電極602とが一つの組に含まれ、リング電極602とリング電極603とが別の組に含まれている。それぞれの組は少なくとも二つのリング電極を含み、またリング電極の各組における軸線と法線とがなす狭角αは変化している。同図に示すように、左側の組のリング電極において、軸線a6の接線と法線b6とがなす狭角はα
1であり、右側の組のリング電極において、軸線a6’の接線と法線b6とがなす狭角はα
2である。
(第4実施形態)
【0047】
図7に示すように、本実施形態ではリング電極を複数組に分割しており、それぞれの組は少なくとも二つのリング電極を含む。同図から分かるように、複数のリング電極の軸線は曲線になっており、リング電極の軸線の接線と法線とがなす狭角αは個々のリング電極とともに異なっている。
【0048】
なお、z軸線に沿った狭角αの値の変化は多様であってもよい。
図8に示すように、z軸線に沿った狭角αの値の変化は一定(a=b=0)であってもよいし、線形変化(a=0)であってもよいし、又は放物線変化(a≠0)であってもよい。本イオンガイド装置内のイオンに印加される偏向力は、狭角αに関連している。したがって、狭角αの構成を変更することにより、本イオンガイド装置においてイオンの位置ずれ及び程度を設定することができる。
(第5実施形態)
【0049】
図9に示すように、本実施形態では、上記の各実施形態における複数のリング電極からなるイオンガイド装置901に加えて、本装置はイオン導入装置902をさらに備える。このイオン導入装置902はイオンガイド装置901の前段部であり、これは例えば、イオン源から発生するイオンをイオンガイド装置901に導入するために大気と連通している、金属製キャピラリであってもよい。通常、イオンは基本的に経路cに従ってイオンガイド装置901を通って偏向且つ集束され、次いでイオン排出装置903を通過して次段部の分析装置904に入射する。中性気流は基本的に経路dに従って本装置を通過し、真空ポンプ905等の排気装置によって排出される。真空ポンプ905のポートをイオンガイド装置901の中心軸線方向に配置していることが好ましく、したがって気流中の中性成分は中心軸線方向に沿って排出され、これによってイオンの軸外通過が達成されることになる。
(第6実施形態)
【0050】
図10に示すように、本実施形態では、上記の各実施形態における複数のリング電極からなるイオンガイド装置1001に加えて、本装置はイオン排出装置1003をさらに備える。具体的には、イオンはイオン導入装置1002を介して電極の法線方向に沿ってイオンガイド装置1001に入射し、次いで圧縮且つ集束され、その後さらにイオン排出装置1003を介して、法線方向に沿って次段部の分析装置1004へと入射する。気流中の中性成分は真空ポンプ1005によって排出される。
(第7実施形態)
【0051】
異なるイオン導入方向に関しては、イオン導入装置及びイオン排出装置の位置を自由に設定することができる。
図11(a)、
図11(b)及び
図11(c)に示すように、イオンは、リング電極の中心を接続する接続線に沿って、リング電極の法線に沿って、及び、リング電極の中心を接続する接続線に垂直な方向に沿ってそれぞれ導入され、イオン導入装置の位置もそれに応じて変化している。
【0052】
図11(a)に示すように、イオンは電極の中心を接続する接続線の方向に沿って導入され、その後集束且つ偏向されて電極の中心を接続する接続線に垂直な方向から排出される。このモードでは、さらに中性成分の影響を除去して信号対雑音比を改善することができる。
【0053】
図11(b)及び
図11(c)に示すように、イオンはやはり電極の中心を接続する接続線に垂直な方向に沿って排出されるが、その導入方向は電極の法線方向に沿っているか、又は電極の中心を接続する接続線に垂直な方向に沿っている。このモードでは、一方でイオンガイド装置のイオン軸外通過特性に影響を及ぼすことなく、イオンの導入位置及び排出位置を自由に設定することができる。
【0054】
図12に示すように、本発明は以下のステップを含むイオンガイド方法をさらに提供する。
【0055】
ステップ1で、同一サイズの複数のリング電極を平行に配置し、複数のリング電極の中心を接続する接続線を軸線として画定し、複数のリング電極のいずれかが位置する平面の法線と該リング電極の中心における軸線の接線とが成す狭角が(0〜90)度のいずれかであるように狭角を形成する。
【0056】
ステップ2で、イオンが通過中にリング電極の内側に閉じ込められるように、軸線に沿って隣り合うリング電極に逆位相の高周波電圧を印加する。
【0057】
ステップ3で、イオンが軸線に沿って通過し、且つ法線方向に沿ってリング電極の内面により近接した位置に集束するように、軸線に沿って振幅が変化する直流電圧をリング電極に印加する。
【0058】
好ましくは、本方法は、イオンを本イオンガイド装置に導入するステップをさらに含み、イオン導入方向と法線方向とで形成される狭角は[0〜90]度のいずれかである。
【0059】
好ましくは、本方法は、集束したイオンを本イオンガイド装置から排出するステップをさらに含み、イオン排出方向と法線方向とで形成される狭角は[0〜90]度のいずれかである。
【0060】
好ましくは、本方法は、前記複数のリング電極のイオン導入端に複数の第2リング電極を配置するステップをさらに含み、該複数の第2リング電極は前記複数のリング電極に対して平行に配置され、また該複数の第2リング電極が位置する平面の法線とリング電極の中心における前記軸線の接線とがなす狭角は0度である。
【0061】
なお、本イオンガイド方法に関連した本イオンガイド装置の構造は上記と同様の特徴を有するので、簡略化のために構造の説明を省略している。
【0062】
以上のことから、本発明のイオンガイド装置及びイオンガイド方法は、同一サイズの複数のリング電極を平行且つ等間隔に配置することにより、高空気圧力又は低真空度でのイオン集束を効果的に達成しており、また本発明のイオンガイド装置及びイオンガイド方法は中性ノイズを効果的に除去し、加工、製造及び組立時の困難さを大幅に軽減し、ひいては確固たる有用性をもたらしている。したがって、本発明は、従来技術における種々の欠点を効果的に克服し、ひいてはその使用において高度な工業的価値を有している。
【0063】
上記の実施形態は本発明の主要事項及び効果を例示しているに過ぎず、本発明を限定するものとしてこれらを使用していない。当業者であれば、本発明の精神及び範囲を損なうことなく、上記の実施形態を修正又は変更することができる。したがって、本発明に開示している精神及び技術的思想を損なうことなく当業者によってなされる同等の修正又は変更は全て、本発明の特許請求の範囲になおも包含されるものである。
【符号の説明】
【0064】
101、102... リング電極
501、502、503 リング電極
601、602、603 リング電極
901、1001 イオンガイド装置
902、1002 イオン導入装置
903、1003 イオン排出装置
904、1004 分析装置
905、1005 真空ポンプ