【文献】
ERICKSON R,EFFECTS OF GLUTAMINE ON HEAD AND NECK SQUAMOUS CELL CARCINOMA,OTOLARYNGOLOGY AND HEAD AND NECK SURGERY,米国,1999年10月,VOL:121, NR:4,PAGE(S):348 - 354,URL,http://dx.doi.org/10.1016/S0194-5998(99)70219-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グルタミンが、前記活性薬剤の総重量に対して、50重量%から65重量%の間、好ましくは55重量%から60重量%の間の量で存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載のアミノ酸組成物。
前記アミノ酸組成物が、炭水化物、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つのビタミン、薬学的に許容可能な賦形剤、および香味料物質のうち少なくとも1つを更に備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のアミノ酸組成物。
前記少なくとも1つの増粘剤が、キサンタンガム、セルロースおよびその誘導体、コンニャクガム、コンニャクグルコマンナン、アラビアゴム、加工デンプンからなる群から選択される、請求項6に記載のアミノ酸組成物。
【背景技術】
【0002】
頭頸部の腫瘍(頭頸部がんとも称される)を患っている患者において、化学療法および放射線療法は、腫瘍の成長の良好な制御をもたらし、生存率を改善させている。しかし、そのような患者は、口腔、咽頭および喉頭の広い領域にわたって、重度の粘膜炎の発生にしばしばさらされ、それは、放射線療法的および/または化学療法的治療によってのみ誘起される。そのような粘膜炎のため、患者はしばしば経口薬物の摂取が不可能となり、そのことは、いくつかの事例において、明らかに患者に対して負の結果を伴う、化学療法の投薬の減少または放射線療法の中止の必要を引き起こす。
【0003】
抗腫瘍治療によって誘起されるそのような粘膜炎によって引き起こされる問題を克服するよう、その発生および/または重症度を制御し低減させる、様々な試みが実施されてきた。例えば、口腔ケアへの一層の注意、ならびに、局部麻酔薬および抗菌剤の使用などである。しかし、今まで、この種類の患者におけるそのような粘膜炎の発生および/または重症度を、緩和する、または少なくとも低減することを、完全に可能とする療法は、まだ特定されていない。
【0004】
グルタミンは、我々の体で最も豊富なアミノ酸である。それは、腸細胞、線維芽細胞、リンパ球およびマクロファージなどの急速に増殖する細胞におけるヌクレオチド生合成において、一次的な燃料であり、必須の前駆体であり、そのことにより、それは必須アミノ酸に相当する。更に、グルタミンは、グルタチオン合成の基質として働き、抗酸化特性を有する。
【0005】
重度なストレスにさらされると、体は十分な量のこのアミノ酸を合成することが不可能になり、結果としてグルタミンの血漿レベルが減少する。これらの状態において、粘膜免疫系は阻害され、筋肉組織によるグルタミンの放出は低減される。
【0006】
更に、進行した頭頸部がんを患っており、細胞傷害性療法を受けている患者には、グルタミン欠乏が生じることが、示されている(1)。最近の20年を通じて、グルタミンが、放射線療法および/または化学療法によって誘起される粘膜炎の発生および重症度を低減したかについて、いくつかの研究が行われてきた(2−7)。しかし、そのような粘膜炎の防止または治療において、グルタミンの実際の役割についての結論に達してはいない(4−6)。出版物Jebb 1994(6)において、著者は、実際、一日につき16グラムのグルタミンを投与することによって、粘膜炎の治療/防止の顕著な結果は観察されなかったと証明した。
【0007】
頭頸部がんを患っている患者へのグルタミンの投与の有効性についての、二重盲検法、無作為化、プラシーボ対照の臨床試験結果(8)が、最近公開され、グルタミンは、毎日30gの投与を前提とするとき、抗腫瘍治療によって誘起される粘膜炎の重症度を顕著に減少させる、という結論であった。この出版物において、また、10から26グラム/日の間の濃度のグルタミンは、粘膜炎の治療に有効ではないと述べられている。試験(8)の対象の患者の血液化学データは、しかし、対照群と比較して、いくつかのパラメータの悪化を立証している。特に、合計好中球数および合計白血球数、ヘモグロビン、クレアチンホスホキナーゼ、ならびに、鉄および亜鉛の値がより悪くなっている。そのことは、これらの患者において、局所的および全身的細菌感染、安静時の無力症、ならびに、運動活動の最中の疲労が、より大きな見かけで発生することをもたらし、心肺動作の増加、筋肉エネルギ生成能力の低減、広範囲抗酸化能力の減少を生じさせる結果となる。最後に、これらの状況は、特に高齢者において、認知機能の低下を引き起こす。概して、これらのパラメータの否定的な状態は、患者をはるかに、より「脆弱」にする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の明細書において、実施形態の完全な理解を提供するよう、多くの具体的な詳細が与えられる。実施形態は、1または複数の具体的な詳細を伴わず、または、他の方法、構成要素、材料などと共に、実装され得る。他の例において、実施形態の態様が不明瞭となることを避けるよう、よく知られた特徴、材料、または動作は図示されないか、詳細に記載されない。
【0015】
この明細書を通して、「一実施形態」または「実施形態」への参照は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、この明細書を通して様々な場所において出現する語句「一実施形態において」または「実施形態において」は、必ずしも全てが同一の実施形態に言及するとは限らない。更に、特定の特徴、構造、または特性は、1又は複数の実施形態において、任意の好適な態様で組み合わされ得る。本明細書で提供されている見出しは、便宜のためのみのものであり、実施形態の範囲または目的を解釈するものではない。
【0016】
本開示の一実施形態において、頭頸部の腫瘍を患っており、放射線療法および/または化学療法を受けている患者における、粘膜炎の治療における使用のためのアミノ酸組成物は、活性薬剤を含み、活性薬剤は、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、バリン、リシン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、およびシスチンであるアミノ酸を有し、グルタミン:ロイシンの重量比は、4.3から5.3の範囲、好ましくは4.5から5.0の範囲にあり、より好ましくは4.5である。
【0017】
しばしば、頭頸部の腫瘍を患っている患者には、放射線化学療法の開始から4−5週以内に、粘膜炎、皮膚炎、および軟部組織腫脹が生じる。これらの副作用は、その合成が転写因子、特に核因子−κB(NF−κB)の活性化によって刺激される、活性酸素種(ROS)および炎症性サイトカイン(IL−1、IL−6、TNF−α)の生成に起因する。
【0018】
臨床的に、患者は、深刻な嚥下障害をしばしば伴って、痛み、濃厚な粘液の生成、口の乾燥(口腔乾燥症)、組織腫脹を経験する。次に栄養失調症が生じ、または、それはさらに悪化することもある。これは事例のおよそ30−50%において、診断時に既に存在する。治療前の栄養失調症の原因の中には、嚥下痛、機械的閉塞、腫瘍侵入に起因する嚥下障害、および、最後に重要なことで、無食欲および「疲労」などの要因が認識され得、炎症性サイトカイン(IL−1、IL−6、TNF)の、直接または間接の腫瘍生成に続発する。
【0019】
加えて、栄養不良な患者を特徴づけるサルコペニアが、嚥下プロセスに関する筋肉にまた影響を与え、従って、嚥下障害の発病または(既存の場合は)悪化さえももたらし得ると仮定することは理に適う。それは、ゆえに、栄養失調症および嚥下障害の悪循環を生む。
【0020】
抗腫瘍治療の開始に続く3ヶ月以内の患者の大半において、深刻な影響は解消し、嚥下が改善し始める。
【0021】
しかし、何人かの患者において、深刻な炎症がたいへん長く続くか激しいことがあり得るため、抗腫瘍療法によって誘起される組織修復のプロセスの最中、線維性相は、再生相より優勢となる。それは、組織線維症、リンパ水腫、および、その結果としての晩期嚥下障害の、次に来る(たとえ数年後でも)。
【0022】
実験的で臨床的な研究により、グルタミンは、i)(グルタミン酸塩を介して)細胞内グルタチオン(GSH)(酸化的ストレスに対する細胞保護作用をもつトリペプチド)の合成に必須の前駆体である、および、ii)(熱ショックタンパク質の発現を通じて)炎症性サイトカインによって誘起されるダメージから細胞を、直接的および間接的に保護すること(抗炎症作用)が可能である、ことが示された。(9)
【0023】
頭頸部の腫瘍を患っており、放射線療法および/または化学療法を受けている患者に本開示の組成物を投与することによって行われる臨床研究は、i)抗腫瘍薬治療によって誘起される粘膜炎の、発生および/または重症度が低減されたこと、ii)未治療の患者と比較しての、免疫血液学のフレームワークにおける予期せぬ改善、および、iii)無食欲、「疲労」、および/またはサルコペニアの発病を緩和することを可能にする、組成物の抗炎症効果のおかげの、腫瘍それ自体または抗腫瘍薬治療によって引き起こされる嚥下障害の発生および/または重症度の低減、更に、iv)異化亢進状態有病率の抑制による、これらの患者における細胞代謝の改善、を究明することによって、組成物が、抗腫瘍薬治療患者の物理的状態を改善できることを示した。
【0024】
本明細書に記載の組成物で行われた臨床試験において得られた実験データは、免疫血液学フレームワークの血液アルブミンの生理的レベルおよびいくつかの顕著なパラメータの維持を究明することによって、頭頸部がんを患っており、抗腫瘍薬治療を受けている患者における、6週間にわたる組成物の投与(グルタミン21gおよび必須アミノ酸15g/日)が、先行技術(8)において投与が示したものより粘膜炎を低減し、同時に、酸化的ストレスと、抗腫瘍薬治療によって引き起こされる粘膜の免疫系の阻害とを、(組成物によって加えられた抗炎症作用のおかげで)緩和すること、および、(異化亢進の発病を防止することによって)細胞代謝を改善すること、を可能にすることを示す。
【0025】
対照群の患者において、実際、より頻繁な粘膜炎および安静時の無力症および運動活動の最中の疲労が、顕著に観察され、心肺動作の増加、筋肉エネルギ生成能力の低減、広範囲抗酸化能力の低減をもたらし、リンパ水腫および晩期の嚥下障害と共に、ならびに、低代償性血液学フレームワークと共に明らかにされている、慢性炎症状態の悪化をもたらす。
【0026】
実験データは、本明細書で開示されている組成物で治療を受けた患者において、アルブミンのレベルおよび筋力の維持、ならびに、粘膜炎および嚥下障害の頻度の低減、が得られたことを、示す。
【0027】
完全に予期せぬ方法で、本組成物の発明者は、15−20g/日の必須アミノ酸(すなわち、ロイシン、イソロイシン、バリン、リシン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、およびシスチン)を添加した20−25g/日のグルタミンの投与が、様々な体の領域において、特に免疫応答性細胞および組織において、外因性グルタミンによってのみ導き出され得るものより多いグルタミンの使用を可能にすることを、実際、立証した。加えて、組成物は、(例えば出版物(8)および(10)に示されたようなものとしての先行技術には示されていない)ヘモグロビン、アルブミン、合計好中球、および白血球の変更されないレベルを維持することを、可能とする。
【0028】
本開示の組成物は、実際、異化亢進の存在における全身性で局部的な炎症状態の存在における広範囲なタンパク質合成を増進させることを可能とする。異化亢進は、ひいては、細胞生理学的代謝状態と対照的であり、細胞生理学的代謝状態に戻される。異化亢進の緩和は、実際、主に口腔粘膜レベルにおける、組織の一体性の保存、修復プロセスの刺激、および、免疫系の正常な機能の保存を、可能とする。
【0029】
好適な実施形態において、本開示の組成物は、以下の表1に示される(単回投与、総アミノ酸の12mgの分包として表される)組成物を有する。
【表1】
【0030】
本組成物は、また、好適な実施形態において、非生理的代謝状態に起因する腫瘍それ自体またはそれの後期発症によって引き起こされる、嚥下障害を患う患者による、組成物の摂取を可能にする、ゲル形態の組成物を生じさせる、増粘剤を含み得る。
【0031】
増粘剤は、本明細書に記載のアミノ酸組成物に加えられ得、キサンタンガム、メチルヒドロキシプロピルセルロース、コンニャクガム、コンニャクグルコマンナン、アラビアゴム(アカシアガム)、加工デンプンからなる群から選択され得る。好ましくは、1または複数の増粘剤は、活性薬剤の重量に対して、2重量%から30重量%の間、好ましくは4重量%から15重量%の間の量で存在する。
【0032】
1または複数のそのような増粘剤の存在は、液体、好ましくは水を増粘させることを可能とし、組成物は、摂取前に分散し、嚥下障害を患う患者による摂取のために理想的な粘度で、組成物を生じさせる。
【0033】
嚥下障害を患っている人は、概して、気管を適切に閉じるための適切な筋肉の協調および制御に欠けるか、食塊および/または飲物全部を胃に適切に押し下げる能力を有しないことが、知られている。ゆえに、嚥下障害患者によって摂取される食品は、正しい粘度および粘稠性を有することが、極めて重要である。
【0034】
本明細書に記載の組成物に追加する液体の量は、例えば、得られるべき粘稠性に依存するであろう。このパラメータは、患者の嚥下障害の程度もまた考慮に入れて、当業者によって評価および決定されるであろう。
【0035】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、好ましくは、ビタミンB1、ビタミンB6およびビタミンCから選択されるビタミンを、更に含む。
【0036】
更なる実施形態において、組成物はまた、炭水化物、添加剤、および/または香味料を、含む。
【0037】
好ましい炭水化物は、様々なタイプのマルトデキストリンから選択され得る。添加剤は、無水クエン酸三ナトリウム、アスパルテーム粉末、アセスルファムカリウム、スクラロースから選択され得る。好ましい香味料は、バナナ香味料である。
【0038】
本開示のいくつかの実施形態によると、好ましいイソロイシン:ロイシンの重量比範囲は、0.20から0.70、好ましくは0.40から0.60であり、および/または、バリン:ロイシンの重量比範囲は、0.20から0.80、好ましくは0.40から0.70である。
【0039】
更なる実施形態において、スレオニン:ロイシンの重量比範囲は、0.15から0.50、好ましくは、0.20から0.45であり、および/または、リシン:ロイシンの重量比範囲は、0.15から0.60、好ましくは、0.30から0.55である。他の実施形態において、ロイシン:イソロイシン:バリンの重量比は、2:1:1と同等である。
【0040】
更なる実施形態において、ロイシン、イソロイシン、バリン、スレオニン、およびリシンの合計を1と仮定すると、更なる必須アミノ酸の全量の範囲は、更に、なおも重量比として意図され、0.02から0.25(すなわち1:0.02−0.25)、好ましくは0.05から0.15(すなわち1:0.05−0.15)であり得る。
【0041】
更なる実施形態において、シスチンは、メチオニンの150%から350%の間にある重量で存在する。
【0042】
いくつかの実施形態において、チロシンは、フェニルアラニンの重量の15%から50%の間、好ましくは、20%から35%の間にある量で、組成物に存在する。
【0043】
更なる実施形態において、活性薬剤は、アミノ酸、すなわち、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、バリン、リシン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、およびシスチンからなり、グルタミン:ロイシンの比は、4.3から5.3の間、好ましくは4.5から5.0の間にあり、より好ましくは4.5である。
【0044】
1又は複数の実施形態において、表1および以下の表2に示されるように、組成物に含まれるアミノ酸は、排他的に、活性薬剤のアミノ酸、すなわち、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、バリン、リシン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、およびシスチンからなり、組成物は、いかなる他の更に異なるアミノ酸も含まない。
【0045】
1又は複数の実施形態において、グルタミンは、活性薬剤の総重量に対して、50重量%から65重量%の間、好ましくは55重量%から60重量%の間の、量で存在する。
【0046】
更に、特に、本開示による組成物、具体的には活性薬剤を調製するとき、アミノ酸、すなわちセリン、プロリン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、とりわけ、アルギニンは、それらが逆効果であり得るか、上記調合物のある濃度または理論混合比では有害でさえあり得る場合には、避けられることが好ましい。
【0047】
上に言及されたアミノ酸は、それらのそれぞれの薬学的に受容可能な誘導体、すなわち塩に置き換えられ得る。
【0048】
好ましくは、組成物は乾燥粉末の形態をとり、患者に投与されるよう、液体、好ましくは水に分散する。
【0049】
更なる仕様が、本明細書で開示されている治療における使用のための組成物によって提供される様々なアミノ酸の間の、量および比の観点において、発明に関して本明細書で提供されている技術的教示の不可分な部分を形成する、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0050】
本明細書で提供されている結果は、本明細書で開示されている組成物のおかげで、以下のことを得ることができることを示す。
−グレード3粘膜炎の顕著な減少(25%、対、55%)(p<0.05)、
−グレード3粘膜炎の後期発症(23.3±3.6日、対、38.5±4.9日)(p<0.001)、
−より良好な血液フレームワーク、アルブミン、合計好中球数、合計白血球数、およびヘモグロビンのレベルが変更されずに維持される、
−治療の終了時の筋力の維持(ハンドグリップによる測定)(+0.4kg、対、−7kg)(p<0.05)。
この研究結果は、全身性サルコペニアの防止に対して顕著であり、筋力と嚥下との間の相関において、あり得る小規模な嚥下障害を、以下のように示唆する。
−FACT−HNSIスケールによって評価される、感知される疲労が、より小さくなる傾向(p 0.056)。
材料および方法
患者
【0051】
口腔咽頭腫瘍の患者、放射線療法(RT)または放射線化学療法(RCT)の対象者。排除基準:重度の体重減(1ヶ月に>5%、または6ヶ月に>10%)、不適切な栄養(所要量の<60%)、重度の嚥下障害、腎臓障害、肝臓障害、緩和放射線療法。
試験計画
【0052】
自動生成数列を用いた、2つの群、すなわち、試験群(G、20人の患者)および対照群(C、20人の患者)への無作為抽出による、盲検パイロット試験。試験群において、本明細書で開示された組成物は、ゲル形態、3分包/日の量で、治療開始(T−1)の7日前からその完了まで食事とは別(6週間)で、経口投与された。
【0053】
患者は、強度変調放射線療法(IMRT)の以下のレジメンを受けた:総放射線量66−70Gy(1日につき1セッションを、週につき5日)。関連する化学療法(試験群の15人の患者および対照群の15人の患者)は以下を含んでいた:シスプラチン静脈内投与40mg/m
2(毎週)または100mg/m
2(3週毎)。
【0054】
以下の主要エンドポイントが評価された:粘膜炎の発生、重症度、および発病タイミング。二次エンドポイントとして、以下が考慮された:粘膜炎関連症状、生活の質、栄養状態、筋力、経口統合/人工栄養(oral integration/artificial nutrition)の必要、治療の中断。
【0055】
両方の群において、それは、(必要に応じて)粘膜炎の防止/治療の同一プロトコルであるRTまたはRCTと組み合わせて、使用された。
【0056】
全患者はT−1において、および、それから毎週(T0−T6)、健康診断および栄養相談を受けた。面談ごとに、以下の評価が実行された。粘膜炎関連症状の存在(PROMSスケール)、生活の質(FACT/HNSI NCCNスケール)、栄養状態(体重、試験用血液サンプリング、過去3日の食事日記による経口摂取物)、ハンドグリップを用いた筋力(ジャマー握力計による3回の測定の平均)。
【0057】
エネルギ所要量は、30kcal/kg/日に設定され、タンパク質所要量は、1.5g/kg/日に設定された。
【0058】
摂取が不適切な患者には、経口補助食品(摂取物≧所要量の60%)またはNA(摂取物<所要量の60%)が使用された。
【0059】
重症度および粘膜炎の発病タイミングの評価は、WHOスケールを用いて、放射線治療士によって、週単位で実行された。
統計量解析
スチューデントt検定、カイ二乗、フィッシャー検定、カプランマイヤー曲線。
組成物
【0060】
試験群(群G)は、36g/日のアミノ酸(12gを1日に3回、グラス半分の水に希釈される、患者の退院まで)を提供する、本明細書で開示されている組成物を受容した。
【0061】
患者に投与された組成物の単回投与に含まれるそれぞれのアミノ酸の量は、表2に記載される。
【表2】
【0062】
*「Amino Acid,Nuclear Acids & Related Compounds − Specifications/General Tests」、8
th Edition、協和発酵工業株式会社による分子量
【0063】
表2に見られるように、グルタミン:ロイシンの重量比は、好ましくは4.5:1であり、ロイシン、イソロイシンおよびバリンの間の重量比は、好ましくは2:1:1と同等である。表1は、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニンおよびトリプトファンの個々の量が、好ましくは降順であり(すなわち、ヒスチジンの量はフェニルアラニンの量より大きく、フェニルアラニンの量はメチオニンの量より大きく、メチオニンの量はトリプトファンの量より大きい)、シスチンの量(グラムまたはモルでの重量)が、好ましくはチロシンの量より大きいことを、また示す。組成物は、グルタミン、ロイシン、イソロイシン、バリン、リシン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、およびシスチンに追加する、いかなる他のアミノ酸も含まない。
【0064】
アミノ酸組成物は好ましくは、炭水化物、ビタミン、香味料、および、他の薬学的に許容可能な賦形剤、ならびに、いくつかの事例では、嚥下障害患者への組成物の投与を可能にする増粘剤を、また含む。
【0065】
表3において、本開示の組成物の異なる変形例(A、BおよびC)が更に提供される。A、BおよびCで指定された組成物は、実際、表1に示されたアミノ酸に加え、炭水化物、ビタミン、香味剤および増粘剤などの、様々な定性的および定量的な組み合わせにおける、他の添加剤を含む。
【表3】
【0066】
まず、プレ混合物を得るよう、L−フェニルアラニンと、L−チロシンと、L−トリプトファンと、ビタミンB1と、L−リシンを含むビタミンB6とを、4ウェイミキサーに投入することによって、表3に示された組成物が調製される。プレ混合物の組成%は、以下の表4において示される。
【表4】
成分は、10分間混ぜられ、均質なプレ混合物を得る。
【0067】
表3に挙げられた成分の残りは、4ウェイミキサーに投入され、20分間混ぜられ、均一な最終組成物を得る。
【0068】
本開示の組成物は、液体、好ましくは水に加えられ、分散させられる。本明細書に記載の組成物に追加する液体の量は、例えば、得られるべき粘稠性に依存する。このパラメータは、患者の嚥下障害の程度もまた考慮に入れて、本分野の当業者によって評価および決定される。
結果
【0069】
試験群の患者への、本明細書に記載の組成物の投与は、表5に報告されたデータによって示されるように、グレード3粘膜炎の顕著な減少(25%、対、対照の55%)、およびグレード3粘膜炎の後期発症(23.3±3.6日、対、対照群の38.5±4.9日)を得ることを可能にした。
【表5】
【0070】
加えて、治療の終了時の筋力(ハンドグリップによって測定)の維持(+0.4kg、対、対照群の−7.0kg)が観察された。この研究結果は、全身性サルコペニアの防止に対して、および、筋力と嚥下能力との間の相関に対して顕著であり、試験群の患者の嚥下障害の低減という結果を残す。
【0071】
また、無力症に向かう傾向(FACT−HNSIスケールによって評価される。p=0.056)は、対照群の患者と比較して、試験群の患者で顕著に低減している。
【0072】
本開示の組成物は、実際、異化亢進の発生における全身性で局部的な炎症状態の存在における広範囲なタンパク質合成を増進させることを可能にし、試験群の患者が受ける、重度の放射線化学療法の介入を考慮すれば、その状態は、それから、緩和され、細胞生理学的代謝状態に戻される。組成物は、異化亢進の緩和が可能であり、それから、組織の一体性の維持、修復プロセスの刺激、および、免疫系の正常な機能の保存が、主に口腔粘膜レベルで可能である。
【0073】
下記の臨床データは、表6に示されるデータから明らかであるように、異化に関連する最も重要な血液パラメータの一般的な維持を示す。
【表6】
*p<0.05
【0074】
特に、合計好中球、合計白血球、ヘモグロビン、およびアルブミンは、Tsujimoto et al.(8)の、グルタミン単独の30グラムの投与により、生理的レベルがほぼ維持され、対照群の患者に観察されるような経時的減少がない、という報告に反する。
【0075】
特に、試験期間の最中、治療を受けた群がプラシーボと比較して悪い免疫血液学分析データを示した、(8)で提供されたデータと比較して、本組成物が、予期せぬ結果を得ることを可能にすることは、明らかである。(8)において、治療を受けた患者において、合計好中球数、合計白血球数、ヘモグロビンのレベルの低減があり、これに対して、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベルの増加があり、経時的に増加するCPKレベルは、細胞合成ダメージと、エネルギATPの使用の低減とに関連する。
【0076】
本明細書で提供される実験データは、本開示の組成物を受容する患者が、頻繁な局所的および全身的細菌感染にさらされないであろうこと、および、運動活動の最中に無力症および安静時疲労を示す回数を少なくするであろうことを立証する。試験群の患者は、実際、筋肉エネルギを生成する能力を維持する。
【0077】
概して、上記パラメータの生理的レベルの維持は、患者が、心肺動作の良好な管理、筋肉エネルギ生成能力の維持、および広範囲抗酸化能力と共に、より元気になり、運動活動の最中に疲労にさらされにくくなることを可能とする。最後に、特に、高齢者において、認知機能の障害が観察されなかった。
参照
【0078】
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2. Huang et al.:Oral glutamine to alleviate radiation induced oral mucostis:a pilot randomized trial Int J Radiant Oncol Biol Phys 46巻:535−539ページ、2000年
3. Skubitz KM and Anderson PM:Oral glutamine to prevent chemotherapy induced stomatitis:a pilot study J Lab Clin Med 127巻:223−228ページ、1996年
4. Jebb et al.:A pilot study of oral glutamine supplementation in patients receiving bone marrow transplants Clin Nutr 14巻:162−165ページ、1995年
5. van Zaanen et al.:Parenterl glutamine dipeptide supplementation does not ameliorate chemotherapy induced toxicity Cancer 74巻:2879−2884ページ、1994年
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