【実施例】
【0015】
次いで、上記実施形態に係る本発明の実施例や、本発明に属さない比較例を説明する。尚、上記実施形態に係る実施例は、以下のものに限定されない。又、本発明の捉え方によっては、本発明に属する実施例が本発明に属さない比較例となったり、比較例が実施例となったりすることがある。
【0016】
[実施例や比較例の作製等]
実施例1〜2の眼鏡レンズや比較例1〜3の眼鏡レンズは、次のように作製された。
これらの眼鏡レンズは、ハードコートや光学多層膜による反射防止コート等の表面処理を有さないポリウレタン樹脂製であり、顔料及び染料の少なくとも何れかの分散により、互いに異なるオレンジ色で着色されている。色の調整は、各種染料顔料の組み合せやその各成分の増減により行われる。
これらの眼鏡レンズの屈折率は1.60であり、アッベ数は41であり、厚みは2ミリメートルである。
これらの眼鏡レンズは、度の入っていないものであるが、度付きにすることも可能である。
【0017】
[実施例や比較例の特性等]
図1には、これらの眼鏡レンズの可視域及びその周辺(ここでは380nm以上780nm以下)における分光透過率分布が示される。又、
図2には、これらの眼鏡レンズが呈する色(D65光源2°視野)の(x,y)がそれぞれプロットされたCIE色度図が示される。更に、次の[表1]に、これらの眼鏡レンズが呈する、D65光源2°視野における(x,y)が示される。
これらの色のD65光源2°視野における(x,y)は、0.34≦x≦0.6,0.34≦y≦0.5の領域内に何れも入っており、それぞれオレンジ色を呈するものであるが、その領域内で互いに相違しており、それぞれ僅かに異なるオレンジ色となっている。
加えて、次の[表2]に、これらの眼鏡レンズの分光透過率による、視感度透過率Yと、400nm以上450nm以下の波長域における平均透過率(%)と、420nm以上450nm以下の波長域における平均透過率(%)と、600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率(%)が示される。
【0018】
【表1】
【表2】
【0019】
実施例1〜2では、分光透過率分布において、波長λ(nm)が420≦λ≦450の域で平均透過率Ta(%)がTa≧30となっている(順に46.5%、30.6%)。
加えて、実施例1〜2では、分光透過率分布において、600≦λ≦650の域でTa≧80となっている(順に88.8%、86.6%)。
更に、実施例1〜2では、D65光源2°視野における(x,y)において、何れもy≦0.42且つx≧0.3である(順に(x,y)=(0.37415,0.356508),(0.408627,0.370195))。
又、実施例1〜2では、分光透過率分布において、550nm以上600nm以下で極値が存在しない。
【0020】
他方、比較例1〜3では、分光透過率分布において、波長λ(nm)が420≦λ≦450の域でTa<30となっている(順に0%,7.1%、8.0%)。
又、比較例1〜3では、分光透過率分布において、600≦λ≦650の域でTa<80となっている(順に49.2%,76.3%、78.1%)。
更に、比較例1〜3では、D65光源2°視野における(x,y)において、何れもy>0.42である(順にy=0.432325,0.428722,0.433569)。
又、比較例3では、分光透過率分布において、550nm以上600nm以下で極値が存在しないが、比較例1〜2では、分光透過率分布において、550nm以上600nm以下で極小値が存在する。
【0021】
[実施例や比較例の評価等]
かような実施例1〜2,比較例1〜3の眼鏡レンズを2枚用いて眼鏡(サングラスやオーバーグラス)が形成され、それらの装用における影響について、次の2種類の試験が実施された。
【0022】
第1の試験は、実施例1〜2,比較例1〜3に係る眼鏡を15分間装用するそれぞれ14人の被験者に対して行われ、その眼鏡の装用前後におけるSDS(抑うつ性の自己評定尺度)を取得して、抑うつ性の変化を調べるものである。
SDS(Self-rating Depression Scale)は、アメリカDuke大学のZung W K(1965)によって作成された、抑うつ性を評価する自己評定尺度であり、20項目の質問を4段階に自己評価するもので、第1,第3項目は感情について、第2,第4〜第10項目は生理面、第11〜第20項目は心理面の症状についての質問である。SDSにおける項目は、全項目の半分の10項目を反転項目としており、被験者にパターンがわかりにくいように工夫されている。SDSにおける得点は、各項目ごとに、「ない」または「たまにある」=1点、「ときどき」=2点、「かなりの間」=3点、「ほとんどいつも」=4点を与え、総点を出すことにより取得され、SDSの得点の大きさにより、次の通り、うつの程度が表現される。即ち、SDS得点=20〜39で正常であり、40〜47で軽度であり、48〜55で中等度であり、56以上で重度である。
次の表3に、実施例1に係る第1の試験の結果が示され、
図3に、その結果をうつの程度においてまとめたグラフが示される。
【0023】
【表3】
【0024】
1名(L)のみSDS得点が実施例1の装用前後で同値となり、それ以外の13名において、実施例1の装用後にSDS得点が減少した。全14名の装用前のSDS得点の平均は約50.57であるのに対し、装用後のSDS得点の平均は約45.36となり、平均して5.2ポイント程度減少した。
うつの程度について、装用前の正常1名、軽度3名、中等度5名、重度5名に対し、装用後では正常3名、軽度5名、中等度4名、重度2名となった。
かように、実施例1の装用により、うつ状態の程度が改善した。
そして、実施例2でも同様に第1の試験が行われ、装用前後でSDS得点の平均が4ポイント程度減少するようにうつ状態の程度が改善した。
他方、比較例1〜3でも同様に第1の試験が行われ、装用前後でSDS得点の平均がそれぞれ1ポイント程度減少するようにうつ状態の程度が僅かに改善した。
【0025】
第2の試験は、実施例1〜2,比較例1〜3に係る眼鏡を第1の試験と同様に15分間装用したそれぞれ11人の被験者に対して行われ、その眼鏡の装用前後における唾液アミラーゼ値を調べるものである。唾液アミラーゼ活性は、血漿ノルエピネフリン濃度と相関が高いことが良く知られており、その活性の度合いを示す唾液アミラーゼ値は、ストレス評価における交感神経の指標として利用されている。唾液アミラーゼ値が高い程、血漿ノルエピネフリン濃度が高いことになり、交感神経が活発に働いていて、ストレス評価においてストレスがよりかかっていることに対応する。
次の表4に、実施例1に係る第2の試験の結果が示される。
【0026】
【表4】
【0027】
実施例1の眼鏡の装用により、11名中2名アミラーゼ値が増加し(T,X)、2名変化なく(P,Y)、7名減少した。
又、アミラーゼ値の平均は、装用前後で19から約12.45へ、約6.55ポイント減少した。
かように、実施例1の装用により、アミラーゼ値が減少し、ストレスが軽減された。
そして、実施例2でも同様に第2の試験が行われ、装用前後でアミラーゼ値の平均が6ポイント程度減少するようにストレスの程度が改善した。
又、比較例1〜3でも同様に第2の試験が行われ、装用前後でSDS得点の平均がそれぞれ1ポイント程度減少するようにストレスの程度が僅かに改善した。
【0028】
第1の試験ないし第2の試験の結果から、実施例1,2は、比較例1〜3に比べて、うつ状態やストレスの軽減の度合いが大きいことが分かった。又、実施例2に比べ、実施例1が更にうつ等の軽減度合いが大きいことが分かった。
尚、第1の試験と第2の試験の被験者の大部分が女性であり、特に女性に対する好ましい影響が確認された。他方、男性に対しても同様の試験が行われ、同様の好影響が及ぶ(但し好影響の度合いは女性より小さい)ことが分かっている。又、現状では、一般にオレンジ色の眼鏡の装用は、男性にとって見た目等の理由により抵抗感があり、女性にとっては比較的に抵抗感が小さい。従って、装用者は、女性が好適であるが、女性に限定されるものではない。
【0029】
[考察等]
実施例1〜2では、比較例1〜3と異なり、分光透過率分布において、波長(λ[nm])が420≦λ≦450となる域内で平均透過率(Ta[%])がTa≧30であり、600≦λ≦650となる域内でTa≧80である。よって、実施例1〜2では、赤色成分に加えて青色(短波長域)成分の透過率が比較的に大きい独特なオレンジ色が提供され、装用者に対して相当に良い影響が積極的に与えられる。
更に、実施例1〜2では、比較例1〜3と異なり、D65光源2°視野におけるxy表色系でのy≦0.42であり、又550nm≦λ≦600の域内で極値が存在しないから、やはり独特なオレンジ色が提供され、装用者に対して相当に良い影響が積極的に与えられる。
【0030】
[変更例等]
以上では、眼鏡レンズや眼鏡が説明されたが、上述の色を呈する光学フィルタが眼鏡レンズと同様に基材に着色することで形成可能であり、かような光学フィルタが各種の光源に対するように設けられても、上述した影響を及ぼすことができる。
例えば、この光学フィルタが照明装置に組み込まれれば(照明光源の周りに配置されれば)、上述の色の照明が付与される。又、この光学フィルタが窓に貼付されれば、上述の色の光が導入される。