(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置されて地震の揺れによる加速度を計測する第1の住宅地震履歴計で得られた、時刻暦に沿ったX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の第1の加速度データと、木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置されて地震の揺れによる加速度を計測する第2の住宅地震履歴計で得られた、時刻暦に沿ったX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の第2の加速度データとを用いて、あらかじめ定められた解析処理プログラムにより前記木造建物が揺れた時の少なくとも層間変位量を算出するに際し、前記第1の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第1の加速度データと前記第2の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第2の加速度データについて相関係数を算出し、その算出結果に基づいて前記第1の加速度データと前記第2の加速度データの間の時刻暦のずれを補正したうえで、前記層間変位量の算出を行うことを特徴とする解析方法。
木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第1の住宅地震履歴計で計測された計測信号と、前記木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第2の住宅地震履歴計で計測された計測信号とを用いて、前記木造建物が揺れた時の少なくとも層間変位量を算出する解析方法であって、
前記第1の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Ax(t)を示す第1の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度Ay(t)を示す第2の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Az(t)を示す第3の計測信号を生成するものであり、
前記第2の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Bx(t+C)(但し、Cは前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対するずれ)を示す第4の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度By(t+C)を示す第5の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Bz(t+C)を示す第6の計測信号を生成するものであり、
前記第3の計測信号の波形と前記第6の計測信号の波形について相関係数の算出を行うと共に、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形を所定時間分ずつずらしながら繰り返して相関係数を算出し、算出された複数の相関係数の最大値から、前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対する前記第2の住宅地震履歴計の計時時刻のずれに起因する、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形のずれを補正するための補正値を算出する処理と、
前記第1、第2、第4、第5の計測信号のそれぞれに対してフィルタ処理及びフーリエ変換処理を行って、処理された信号SAx(f)、SAy(f)、SBx(f)、SBy(f)を生成する処理と、
生成された信号SAx(f)、SAy(f)、SBx(f)、SBy(f)のそれぞれに対して周波数分析を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量SDAx(f)及びY軸方向の変位量SDAy(f)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量SDBx(f)及びY軸方向の変位量SDBy(f)を算出する処理と、
算出された変位量SDAx(f)、SDAy(f)、SDBx(f)、SDBy(f)のそれぞれに対して逆フーリエ変換を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量DAx(t)及びY軸方向の変位量DAy(t)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量DBx(t)及びY軸方向の変位量DBy(t)を生成する処理と、
生成された変位量DAx(t)、DAy(t)、DBx(t)、DBy(t)のそれぞれに対して前記補正値による時刻歴合わせの補正を行ったうえで、X軸方向の層間変位量DX(t)とY軸方向の層間変位量DY(t)を算出する処理と、
を含むことを特徴とする解析方法。
前記補正値を算出する処理を、前記第3の計測信号の波形から所定のサンプリング周波数によりサンプリングされた第1の所定数の加速度データと、前記第6の計測信号の波形から前記所定のサンプリング周波数によりサンプリングされた第2の所定数の加速度データについて、前記第1の所定数の加速度データに対する前記第2の所定数の加速度データの相対位置をずらしながら行って、前記補正値として加速度データ数Cを算出し、前記層間変位量DX(t)と前記層間変位量DY(t)をそれぞれ、
DX(t)=DAx(t)−DBx(t+C)
DY(t)=DAy(t)−DBy(t+C)
という算出式に基づいて算出することを特徴とする請求項2に記載の解析方法。
木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第1の住宅地震履歴計で計測された計測信号と、前記木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第2の住宅地震履歴計で計測された計測信号とを用いて、前記木造建物が揺れた時の少なくとも層間変位量を算出する解析装置であって、
前記第1の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Ax(t)を示す第1の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度Ay(t)を示す第2の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Az(t)を示す第3の計測信号を生成するものであり、
前記第2の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Bx(t+C)(但し、Cは前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対するずれ)を示す第4の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度By(t+C)を示す第5の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Bz(t+C)を示す第6の計測信号を生成するものであり、
該解析装置は、あらかじめ定められた解析プログラムを記憶したメモリと、
前記メモリから前記解析プログラムを読み出して該解析プログラムによる処理を実行し、前記層間変位量を算出する解析部と、を含み、
前記解析部は、
前記第3の計測信号の波形と前記第6の計測信号の波形について相関係数の算出を行うと共に、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形を所定時間分ずつずらしながら繰り返して相関係数を算出し、算出された複数の相関係数の最大値から、前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対する前記第2の住宅地震履歴計の計時時刻のずれに起因する、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形のずれを補正するための補正値を算出する処理と、
前記第1、第2、第4、第5の計測信号のそれぞれに対してフィルタ処理及びフーリエ変換処理を行って、処理された信号SAx(f)、SAy(f)、SBx(f)、SBy(f)を生成する処理と、
生成された信号SAx(f)、SAy(f)、SBx(f)、SBy(f)のそれぞれに対して周波数分析を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量SDAx(f)及びY軸方向の変位量SDAy(f)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量SDBx(f)及びY軸方向の変位量SDBy(f)を算出する処理と、
算出された変位量SDAx(f)、SDAy(f)、SDBx(f)、SDBy(f)のそれぞれに対して逆フーリエ変換を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量DAx(t)及びY軸方向の変位量DAy(t)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量DBx(t)及びY軸方向の変位量DBy(t)を生成する処理と、
生成された変位量DAx(t)、DAy(t)、DBx(t)、DBy(t)のそれぞれに対して前記補正値による時刻歴合わせの補正を行ったうえで、X軸方向の層間変位量DX(t)とY軸方向の層間変位量DY(t)を算出する処理と、
を実行することを特徴とする解析装置。
【背景技術】
【0002】
地震の際に建物、特に木造建物(以下、建物と略称する)におよぶ地震力は、建物の重量に依存する。また、地震の際に建物が倒壊するか否かは、建物の強さと粘りによって決定される。
【0003】
建築基準法において、建物の強さ、粘りは保有耐力と称されており、建物の壁の種類及び量から計算される。
【0004】
地震力の大きさと保有耐力の大きさの拮抗により、建物の変位量が決まる。建物の変位量が大きければ建物は倒壊し、変位量が小さければ軽微な被害で済む。言い換えれば、変位量を増すごとに建物の随所が損傷し、最終的には自重を支えることができなくなる。
【0005】
地震の際の建物の変位量は最大層間変位量(あるいは最大層間変形角)という数値で定義することができる。すなわち、地震時の最大層間変形量(あるいは最大層間変形角)は、建物の劣化(建物の損傷状況)に関連し、建物の被災度判定の基準の一つとなっている。
【0006】
非特許文献1では、地震時に建物に生じた一番大きな変形を「経験最大変形角」という角度で表現している。非特許文献1の中ではまた、経験最大変形角は、地震後の建物の残留変位や、壁などの破損状況から推定する値とされている。
【0007】
地震の際の建物の変位量は、通常、以下のようにして求められている。計測手段として、計時機能と、水平なX軸方向、X軸方向に直角の水平なY軸方向、X軸方向及びY軸方向に直角のZ軸方向の加速度を検出する機能を持つ3軸加速度センサと、この3軸加速度センサで計測したデータを記憶するメモリとを備える地震計測器を用いる。この種の地震計測器は、メモリに記憶されたデータを、直接、あるいはUSBメモリ等の可搬型のメモリを介して取り出すことができ、住宅地震履歴計という名称で提供されている。
【0008】
第1の住宅地震履歴計を建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置し、第2の住宅地震履歴計を建物の1階天井付近又は2階床付近に設置する。第1、第2の住宅地震履歴計はそれぞれ、地震に伴う横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測し、計測加速度が所定値に達したことを検出すると、検出タイミング前後の一定時間、計測加速度を加速度データとして記憶する。加速度データは、横軸が時間、縦軸が計測加速度となるような形式で記憶される。
【0009】
地震が収束した後、第1、第2の住宅地震履歴計のメモリから記憶されている加速度データを取り出し、専用の解析プログラムを格納している解析装置に入力して解析処理を行う。解析処理においては、建物における第1、第2の住宅地震履歴計の設置箇所の変位量を算出すると共に第1の住宅地震履歴計の設置箇所に対する第2の住宅地震履歴計の設置箇所の変位量を層間変位量として算出し、算出した層間変位量に基づいて層間変形角を算出する。解析プログラムによる層間変位量の詳しい算出方法については後で説明する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、第1、第2の住宅地震履歴計の計時機能における時刻暦は一致しているとは限らず、経年変化により時刻暦にずれが生じてしまう場合もある。第1、第2の住宅地震履歴計の計時機能における時刻暦にずれが生じていると、解析装置によって算出される建物の変位量に誤差が生じてしまう。
【0012】
本発明の課題は、2つの地震計測器(住宅地震履歴計)からの加速度データを用いて建物の、少なくとも層間変位量を算出する解析処理に際し、2つの地震計測器(住宅地震履歴計)の計時時刻にずれが生じていたとしても、このずれを補正して正確な層間変位量を算出することのできる解析方法及び解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様によれば、木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置されて地震の揺れによる加速度を計測する第1の住宅地震履歴計で得られた、時刻暦に沿ったX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の第1の加速度データと、木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置されて地震の揺れによる加速度を計測する第2の住宅地震履歴計で得られた、時刻暦に沿ったX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の第2の加速度データとを用いて、あらかじめ定められた解析処理プログラムにより前記木造建物が揺れた時の少なくとも層間変位量を算出するに際し、前記第1の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第1の加速度データと前記第2の住宅地震履歴計からのZ軸方向の第2の加速度データについて相関係数を算出し、その算出結果に基づいて前記第1の加速度データと前記第2の加速度データの間の時刻暦のずれを補正したうえで、前記層間変位量の算出を行うことを特徴とする解析方法が提供される。
【0014】
本発明の別の態様によれば、木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第1の住宅地震履歴計で計測された計測信号と、前記木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第2の住宅地震履歴計で計測された計測信号とを用いて、前記木造建物が揺れた時の少なくとも層間変位量を算出する解析方法であって、
前記第1の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Ax(t)を示す第1の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度Ay(t)を示す第2の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Az(t)を示す第3の計測信号を生成するものであり、
前記第2の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Bx(t+C)(但し、Cは前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対するずれ)を示す第4の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度By(t+C)を示す第5の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Bz(t+C)を示す第6の計測信号を生成するものであり、
前記第3の計測信号の波形と前記第6の計測信号の波形について相関係数の算出を行うと共に、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形を所定時間分ずつずらしながら繰り返して相関係数を算出し、算出された複数の相関係数の最大値から、前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対する前記第2の住宅地震履歴計の計時時刻のずれに起因する、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形のずれを補正するための補正値を算出する処理と、
前記第1、第2、第4、第5の計測信号のそれぞれに対してフィルタ処理及びフーリエ変換処理を行って、処理された信号S
Ax(f)、S
Ay(f)、S
Bx(f)、S
By(f)を生成する処理と、
生成された信号S
Ax(f)、S
Ay(f)、S
Bx(f)、S
By(f)のそれぞれに対して周波数分析を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量S
DAx(f)及びY軸方向の変位量S
DAy(f)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量S
DBx(f)及びY軸方向の変位量S
DBy(f)を算出する処理と、
算出された変位量S
DAx(f)、S
DAy(f)、S
DBx(f)、S
DBy(f)のそれぞれに対して逆フーリエ変換を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量D
Ax(t)及びY軸方向の変位量D
Ay(t)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量D
Bx(t)及びY軸方向の変位量D
By(t)を生成する処理と、
生成された変位量D
Ax(t)、D
Ay(t)、D
Bx(t)、D
By(t)のそれぞれに対して前記補正値による時刻歴合わせの補正を行ったうえで、X軸方向の層間変位量D
X(t)とY軸方向の層間変位量D
Y(t)を算出する処理と、
を含むことを特徴とする解析方法が提供される。
【0015】
本発明の更に別の態様によれば、木造建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第1の住宅地震履歴計で計測された計測信号と、前記木造建物の1階天井付近又は2階床付近に設置されて横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測する第2の住宅地震履歴計で計測された計測信号とを用いて、前記木造建物が揺れた時の少なくとも層間変位量を算出する解析装置であって、
前記第1の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Ax(t)を示す第1の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度Ay(t)を示す第2の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Az(t)を示す第3の計測信号を生成するものであり、
前記第2の住宅地震履歴計は計時機能を有し、前記計測信号として、水平なX軸方向の加速度Bx(t+C)(但し、Cは前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対するずれ)を示す第4の計測信号、前記X軸に直角の水平なY軸方向の加速度By(t+C)を示す第5の計測信号、及び前記X軸と前記Y軸に直角のZ軸方向の加速度Bz(t+C)を示す第6の計測信号を生成するものであり、
該解析装置は、あらかじめ定められた解析プログラムを記憶したメモリと、
前記メモリから前記解析プログラムを読み出して該解析プログラムによる処理を実行し、前記層間変位量を算出する解析部と、を含み、
前記解析部は、
前記第3の計測信号の波形と前記第6の計測信号の波形について相関係数の算出を行うと共に、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形を所定時間分ずつずらしながら繰り返して相関係数を算出し、算出された複数の相関係数の最大値から、前記第1の住宅地震履歴計の計時時刻に対する前記第2の住宅地震履歴計の計時時刻のずれに起因する、前記第3の計測信号の波形に対する前記第6の計測信号の波形のずれを補正するための補正値を算出する処理と、
前記第1、第2、第4、第5の計測信号のそれぞれに対してフィルタ処理及びフーリエ変換処理を行って、処理された信号S
Ax(f)、S
Ay(f)、S
Bx(f)、S
By(f)を生成する処理と、
生成された信号S
Ax(f)、S
Ay(f)、S
Bx(f)、S
By(f)のそれぞれに対して周波数分析を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量S
DAx(f)及びY軸方向の変位量S
DAy(f)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量S
DBx(f)及びY軸方向の変位量S
DBy(f)を算出する処理と、
算出された変位量S
DAx(f)、S
DAy(f)、S
DBx(f)、S
DBy(f)のそれぞれに対して逆フーリエ変換を行って前記第1の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量D
Ax(t)及びY軸方向の変位量D
Ay(t)と、前記第2の住宅地震履歴計のX軸方向の変位量D
Bx(t)及びY軸方向の変位量D
By(t)を生成する処理と、
生成された変位量D
Ax(t)、D
Ay(t)、D
Bx(t)、D
By(t)のそれぞれに対して前記補正値による時刻歴合わせの補正を行ったうえで、X軸方向の層間変位量D
X(t)とY軸方向の層間変位量D
Y(t)を算出する処理と、
を実行することを特徴とする解析装置が提供される。
【0016】
なお、前記補正値を算出する処理は、前記第3の計測信号の波形から所定のサンプリング周波数によりサンプリングされた第1の所定数の加速度データと、前記第6の計測信号の波形から前記所定のサンプリング周波数によりサンプリングされた第2の所定数の加速度データについて、前記第1の所定数の加速度データに対する前記第2の所定数の加速度データの相対位置をずらしながら行って、前記補正値として加速度データ数Cを算出し、前記層間変位量D
X(t)と前記層間変位量D
Y(t)をそれぞれ、
D
X(t)=D
Ax(t)−D
Bx(t+C)
D
Y(t)=D
Ay(t)−D
By(t+C)
という算出式に基づいて算出する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、2つの地震計測器(住宅地震履歴計)からの加速度データを用いて建物の、少なくとも層間変位量を算出する解析処理に際し、2つの地震計測器(住宅地震履歴計)の計時時刻にずれが生じていたとしても、このずれを補正して正確な層間変位量を算出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による解析方法及び解析装置の実施形態について説明する前に、本発明に適用される地震計測器の一例である住宅地震履歴計について説明する。以下では、地震計測器として住宅地震履歴計を例示して説明を進めるが、本発明に適用される住宅地震履歴計は、計時機能と、水平なX軸方向、X軸方向に直角の水平なY軸方向、X軸方向及びY軸方向に直角のZ軸方向の加速度を検出する機能を持つ3軸加速度センサと、この3軸加速度センサで計測したデータを記憶するメモリとを備える地震計測器全般を含むものとする。また、以下では住宅地震履歴計による計測対象建物として2階建ての木造建物を想定して説明するが、1階建ての木造建物でも適用可能であり、これらをまとめて建物と呼ぶこととする。
【0020】
図1を参照して、建物10の通し柱のような地震時の縦揺れによる加速度の差が小さい構成部材の1階床付近又は床下基礎部分と、1階天井付近又は2階床付近にそれぞれ少なくとも1個ずつ第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bが設置される。第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの設置位置は、上下方向(以下ではZ軸方向と呼ぶ)において異なり、東西方向(以下ではX軸方向と呼ぶ)及び南北方向(以下ではY軸方向と呼ぶ)では同じ位置、つまり平面視で同じとなる様な位置が望ましい。
【0021】
第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bは、3軸加速度センサにより建物10の横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測し記録する計測手段である。第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bはそれぞれ、地震に伴う横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測し、計測加速度が所定値に達したことを検出すると、検出タイミング前後の一定時間、計測加速度を加速度データとしてメモリに記憶する。これは、住宅地震履歴計として動作している間は計測加速度の記憶動作(一時保存)を常時実行し、計測加速度が所定値に達したことを検出すると、その検出タイミングから所定時間さかのぼった範囲の計測加速度と検出タイミングから別の所定時間を経過するまでの計測加速度を固定保存すべき計測加速度として記憶することで実現される。第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bはまた、1回限りの地震の加速度データだけでなく、発生時期の異なる地震の加速度データについても計測を行い、ファイル形式で発生年月、発生時刻、ファイル番号と共に複数ファイル分の記録を行うことができる。
【0022】
第1の住宅地震履歴計11Aは計時機能を有し、計測信号として、水平なX軸方向の加速度Ax(t)を示す第1の計測信号、X軸に直角の水平なY軸方向の加速度Ay(t)を示す第2の計測信号、及びX軸とY軸に直角のZ軸方向の加速度Az(t)を示す第3の計測信号を生成する。同様に、第2の住宅地震履歴計11Bも計時機能を有し、計測信号として、水平なX軸方向の加速度Bx(t)を示す第4の計測信号、X軸に直角の水平なY軸方向の加速度By(t)を示す第5の計測信号、及びX軸とY軸に直角のZ軸方向の加速度Bz(t)を示す第6の計測信号を生成する。
【0023】
第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bはまったく同じ構成であるので、
図2、
図3を参照して第1の住宅地震履歴計11Aについて説明する。
図2において、第1の住宅地震履歴計11Aは、主な構成要素として、地震によるX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度を計測する3軸加速度センサ11−1と、計測された加速度データを記録するメモリ回路11−2と、記録された加速度データを、USBケーブルを介して後述する解析装置に転送可能とするためのI/F(Interface)回路11−3と、時刻や記録された加速度データの表示指示やその他の指示の操作を行うスイッチ回路11−4と、を備える。スイッチ回路11−4による指示の例としては、電源のオン、オフ、表示のオン、オフ、時刻の表示、ファイル番号とその時の地震発生年月、時刻の表示指示等がある。メモリ回路11−2に記録される加速度の記録形式は、例えば横軸を時間、縦軸を加速度とすることができる。
【0024】
第1の住宅地震履歴計11Aはまた、スイッチ回路11−4によって指示された表示を行うLCD(Liquid Crystal Display)11−5と、上記各回路を制御するCPU(Central Processing Unit)11−6と、上記各回路及びCPU11−6を動作させるための電力供給源として、充電可能な蓄電池及び充電制御回路を含む電源回路11−7と、を備える。
【0025】
第1の住宅地震履歴計11Aは更に、3軸加速度センサ11−1からの計測信号を増幅する増幅器や、増幅器からの信号に対してフィルタ処理を行う信号処理回路11−8と、CPU11−6の制御動作を実行するための制御プログラムを格納したEEP−ROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)11−9と、を備える。3軸加速度センサ11−1からの計測信号はアナログ電圧信号であるが、CPU11−6は信号処理回路11−8から加速度電圧を示すディジタル信号を受け取り、加速度データとしてメモリ回路11−2に記憶させる。なお、計時機能を実現するために水晶発振器または水晶振動子等のクロック発生源(図示省略)を備え、CPU11−6はこのクロック発生源からのクロックを用いて計時を行う。
【0026】
I/F回路11−3は、USBメモリ等によりメモリ回路11−2から加速度データを取り出すことができるようにされていても良い。電源回路11−7は、外部のACアダプタ12を介して商用電源に接続可能である。
【0027】
図3を参照して、第1の住宅地震履歴計11Aは、縦、横共に十数cm、厚さ数cmのサイズの箱型の形態で提供され、箱の表面側にはLCD11−5のほか、複数の操作ボタンが設けられている。ここでは、操作ボタンとして、表示のオン、オフを指示するための「表示」ボタン、記録されたファイルの震度表示を行うための「ファイル」ボタン、時刻表示を指示するための「時計」ボタン、上記ファイルボタンによる震度表示を行うファイル番号の指定及び本体時刻の設定操作をするための「▲」、「▼」ボタン、電源オン、オフ用の「電源」ボタンを持つ。箱の側面側には、
図2で説明したI/F回路11−3を外部に接続するためのUSBコネクタ11−11、ACアダプタ12と接続するための入力端子11−12が設けられている。また、箱の上下にはそれぞれ、ネジ止め等により通し柱等の設置箇所への取付けを行うための取付け片11−13を有する。
【0028】
以上のように、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bは、地震時の横揺れ及び縦揺れによる加速度を計測して一定時間記録するのに適しており、計測された加速度データがメモリ回路11−2により時刻暦に沿って記録される。
【0029】
第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bからの加速度データ取出しは、通常、地震が収束してから十分な時間経過後に行われる。第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bから取り出した加速度データは、後述する解析装置において層間変位量の算出に用いられる。すなわち、解析装置は、内蔵のメモリにインストールされている解析処理プログラムに基づいて層間変位量(又は層間変形角)の算出を実行する。
【0030】
ここで、層間変位量(又は層間変形角)算出に際して生じる誤差の原因と、この誤差を低減するために必要な処理の概要について説明する。
【0031】
層間変位量の算出において使用する第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの加速度データは時刻暦が一致している必要がある。しかしながら、現在の仕様の住宅地震履歴計では、異なる住宅地震履歴計間での時刻暦の同期をとっていないために、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの時刻暦にずれが生じていることがある。この場合、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bにおける地震発生時の記録開始後の時刻暦にずれが生じているので、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bから得られた加速度データの時刻暦を合わせる必要がある。このような要求に対する本発明者らの着想について以下に説明する。
【0032】
前述したように、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bは3軸方向の加速度データを収集する。地震の横揺れに対してX軸方向、Y軸方向は、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの設置位置によって異なる挙動をするものと考えられる。それゆえ、X軸方向、Y軸方向の加速度データに基づいて時刻暦の一致を実現させることは難しいと考えられる。しかしながら、縦揺れ、すなわちZ軸方向の挙動に関しては第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの設置位置による影響が少なく、1階床付近又は床下基礎部分と1階天井付近又は2階床付近で同様の挙動をしていると考えることができる。このような観点から、本発明者らは、Z軸方向の加速度データを利用することにより、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの加速度データの時刻暦を一致させることができるとの結論に至った。以下に、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの加速度データの時刻暦を一致させるための手法の一例を説明する。
【0033】
加速度データを得るために、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bにおいては、Z軸方向の計測信号に対し、同一サンプリング周波数、例えば50Hzでサンプリングを行っているものとする。そして、第1の住宅地震履歴計11Aの計測信号から得られた加速度データを2データ以上のデータ数を持つ集合とする。ただし、その集合は第1の住宅地震履歴計11Aから得られた加速度データのトータル数よりも小さいものとし、ここでは集合のデータ数を1000とする。
【0034】
このような条件のもと、第1の住宅地震履歴計11Aの計測信号から得られた加速度データの集合(波形)と同じデータ数の範囲の第2の住宅地震履歴計11Bの計測信号から得られた加速度データの集合(波形)の間の相関係数を算出する。そして、第2の住宅地震履歴計11Bの加速度データ範囲を一つずつずらし、第2の住宅地震履歴計11Bの加速度データの上記範囲の終わりまで相関係数を算出する。
【0035】
そして、算出されたすべての相関係数の値の中で最も「1」に近い値(最大値)の時に、前述した理由により、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの加速度データの時刻暦が一致していると考えることができる。この時の第1の住宅地震履歴計11Aの加速度データに対する第2の住宅地震履歴計11Bの加速度データのずれ量(データ数)をCとする。このようにして得られた時刻暦のずれの値CよりX軸方向、Y軸方向のそれぞれの加速度データに対して時刻暦のずれ補正を行ったうえで層間変位量を算出する。
【0036】
次に、解析処理プログラムに基づく層間変位量、最大層間変形角の算出処理について説明する。
【0037】
図4を参照して、本発明の実施形態に係る解析装置30は、前述したI/F回路11−3からUSBケーブルを介して入力される加速度データ、又はUSBメモリを介して入力される加速度データを入力するための入力部31と、解析処理プログラムを格納しているEEP−ROM等による第1のメモリ32と、を備える。解析装置30はまた、第1のメモリ32から解析処理プログラムを読み出し、解析処理プログラムに基づいて解析処理動作(算出処理動作)を実行するためのCPU33を備える。解析装置30は更に、算出処理前の加速度データや、算出結果等の処理済データを一時記憶するための第2のメモリ34と、上記加速度データや処理済データ、評価判定メッセージ等の表示を行うための表示部としてLCD35と、を備えるほか、プリントアウト等の外部出力用のデータの出力ラインを備える。
【0038】
次に、
図5のフローチャートを参照して、第1のメモリ32に格納されている解析処理プログラムを読み出して実行される、解析装置30による解析処理動作(算出処理動作)の実施形態について順を追って説明する。
【0039】
[ステップS1:時刻暦のずれ算出]
前述したように、第1の住宅地震履歴計11Aからの加速度データの時刻暦に対して、第2の住宅地震履歴計11Bからの加速度データの時刻暦にずれ(遅れ)があり、第2の住宅地震履歴計11Bにおける地震発生時の記録開始時刻暦にずれが発生しているものとする。この場合、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bから取り出された加速度データは、時刻暦にずれのある状態で解析装置30に取り込まれ、第2のメモリ34に保存される。なお、このずれは、前述したサンプリング周波数によるサンプリングデータ数iで規定することができ、サンプリングデータ数iは時間(所定時間)で表すことができる。
【0040】
この場合、建物の1階床付近又は床下基礎部分に設置された第1の住宅地震履歴計11Aから得られた加速度データの時刻暦に沿って記録されたZ軸方向の加速度値をAz(t)で表し、建物の1階天井付近又は2階床付近に設置された第2の住宅地震履歴計11Bから得られた時刻暦に沿って記録されたZ軸方向の加速度値をBz(t+i)で表すことができる。
【0041】
解析装置30(CPU33)は、第2のメモリ34に一時保存されている、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bで得られた加速度データを読み出し、以下の式(1)〜(6)に基づいて第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bで記録された時刻暦の加速度データの時刻暦のずれを算出する。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0042】
上記式(1)〜(6)は一般的な2つの集合の相関係数を求める式である。また、Bz(t)のデータ範囲をi個移動させ、それぞれ移動させたデータ範囲において、Az(t)との相関係数を算出する。算出した複数の相関係数ρのうち最も大きい値をとる際にAz(t)、Bz(t+i)が相似となる。Az(t)、Bz(t+i)のデータ数の上限はないがデータ数はAz(t)、Bz(t+i)において同値とする。ここでは、式(1)〜(6)においては1000データとしている。また、nは1回の地震に際して住宅地震履歴計で記録される加速度データの総量からBz(t+i)のデータ数を差し引いた値とする。
【0043】
建物において地震におけるZ軸方向の振動は、1階部分や2階部分においてほとんど同一の挙動を示す。そのため、上記の式(1)〜(6)でそれぞれ算出した相関係数ρが最も大きい値をとる時、Az(t)、Bz(t+i)が時刻暦的に一致していると見なすことができる。解析装置30は、その際のデータを移動させた範囲iを時刻暦のずれたデータ数Cとする。
【0044】
図6は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたX軸方向の加速度値をAx(t)、第2の住宅地震履歴計11Bから得られた時刻暦に記録されたX軸方向の加速度値をBx(t)とした場合、時刻暦のずれ補正を行う前のAx(t)、Bx(t)の波形の一例を示す。
図6から、X軸方向についてはAx(t)とBx(t)の挙動の違いが理解できる。
【0045】
図7は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたY軸方向の加速度値をAy(t)、第2の住宅地震履歴計11Bから得られた時刻暦に記録されたY軸方向の加速度値をBy(t)とした場合、時刻暦のずれ補正を行う前のAy(t)、By(t)の波形の一例を示す。
図7から、Y軸方向についてもAy(t)とBy(t)の挙動の違いが理解できる。
【0046】
図8は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたZ軸方向の加速度値をAz(t)、第2の住宅地震履歴計11Bから得られた時刻暦に記録されたZ軸方向の加速度値をBz(t)とした場合、時刻暦のずれ補正を行う前のAz(t)、Bz(t)の波形の一例を示す。
図8によれば、Z軸方向についてはAz(t)とBz(t)の挙動には共通性のあることが理解できる。
【0047】
図9は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたZ軸方向の加速度値をAz(t)、第2の住宅地震履歴計11Bから得られた時刻暦に記録されたZ軸方向の加速度値をBz(t)とした場合、時刻暦のずれ補正を行った後のAz(t)、Bz(t+C)の波形の一例を示す。
図9から明らかなように、ずれ量Cが補正されて、Az(t)とBz(t+C)の時刻暦がほぼ一致している。
【0048】
図10は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたX軸方向の加速度値をAx(t)、第2の住宅地震履歴計11Bから得られた時刻暦に記録されたX軸方向の加速度値をBx(t)とした場合、時刻暦のずれ補正(時刻暦合わせの補正)を行った後のAx(t)、Bx(t+C)の波形の一例を示す。
図10から明らかなように、ずれ量Cが補正されて、Ax(t)とBx(t+C)の時刻暦がほぼ一致している。
【0049】
Y軸方向についてもX軸方向とほぼ同様であるので、図示説明は省略する。
【0050】
[ステップS2:フィルタ処理及びフーリエ変換処理]
解析装置30(CPU33)は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたX軸方向、Y軸方向の加速度値をそれぞれAx(t)、Ay(t)とすると共に、第2の住宅地震履歴計11Bから得られた時刻暦に記録されたX軸方向、Y軸方向の加速度値をBx(t)、By(t)とし、信号処理として以下の式(7)〜式(10)によるフィルタ処理及びフーリエ変換処理を行う。
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0051】
図11は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたX軸方向の加速度値Ax(t)の応答スペクトルの一例を示した図である。
【0052】
図12は、第1の住宅地震履歴計11Aから得られた時刻暦に記録されたX軸方向の加速度値Ax(t)に対してフィルタ処理を行った後の応答スペクトルの一例を示した図である。
【0053】
処理された信号S
Ax(f)、S
Ay(f)、S
Bx(f)、S
By(f)はそれぞれ、第1、第2、第4、第5の計測信号に対応する。
【0054】
[ステップS3:周波数分析処理]
次に、解析装置30(CPU33)は、解析処理として、上記の処理された信号S
Ax(f)、S
Ay(f)、S
Bx(f)、S
By(f)に対してそれぞれ周波数分析を行い、各加速度値を用いて周波数成分における変位量を以下の式(11)〜(14)に基づいて算出する。
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【0055】
算出された信号S
DAx(f)、S
DAy(f)、S
DBx(f)、S
DBy(f)はそれぞれ第1、第2、第4、第5の計測信号に対応する。
【0056】
[ステップS4:逆フーリエ変換処理]
解析装置30は、続く解析処理として、上記の処理された信号S
DAx(f)、S
DAy(f)、S
DBx(f)、S
DBy(f)に対してそれぞれ、以下の式(15)〜式(18)による逆フーリエ変換処理を行う。
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【0057】
逆フーリエ変換処理後の信号D
Ax(t)、D
Ay(t)、D
Bx(t)、D
By(t)はそれぞれ第1、第2、第4、第5の計測信号に対応する。
【0058】
[ステップS5:層間変位量算出]
建物の層間変位量は、通常、建物の1階床に対する2階床の移動量のことを指し、建物が地震によりどの程度損傷を受けたか判断するために用いる。
【0059】
解析装置30(CPU33)は、上記のD
Ax(t)、D
Ay(t)、D
Bx(t)、D
By(t)に対してそれぞれ、前記時刻暦のずれたデータ数Cを用いて、時刻暦のずれを補正した1階床に対する2階床の変位量を、層間変位量として以下の式(19)、(20)を用いて算出する。
X軸方向層間変位量D
X(t)=D
Ax(t)−D
Bx(t+C) (19)
Y軸方向層間変位量D
Y(t)=D
Ay(t)−D
By(t+C) (20)
【0060】
解析装置30(CPU33)は、引き続き、層間変位量D
X(t)、D
Y(t)において、それぞれ最大値をX軸方向最大層間変形量D
XMax、Y軸方向最大層間変形量D
YMaxとして検出する。
【0061】
[ステップS6:層間変形角算出]
解析装置30(CPU33)はまた、X軸方向及びY軸方向の最大層間変形角を、最大層間変形量と階高hの関係から以下の式(21)、(22)を用いて算出する。
X軸方向最大層間変形角=D
XMax×h (21)
Y軸方向最大層間変形角=D
YMax×h (22)
【0062】
なお、階高hは、第1、第2の住宅地震履歴計11A、11Bの設置高さの差、つまり建物の1階床又は床下基礎部分から1階天井又は2階床までの高さを指す。一般的に、階高は3mのため、本実施形態の解析処理ではh=3mを用いるが、建物に応じて任意に設定可能である。
【0063】
[ステップS7:最大層間変形角を用いた、地震による建物への影響判定]
解析装置30(CPU33)は、上記の最大層間変形角を、以下に説明する損傷限界{変形角1/120(rad)}と比較を行うことで、地震による建物への影響の判定を行う。
【0064】
現在の建築基準で建てられた建物(主に2階建て)は、地震等により1/30(rad)変形すると、倒壊する可能性が高くなるといわれている。これは、1階床に対して、2階の床が水平方向に100mm変形することを意味している。
【0065】
一方、建物は、1/120(rad)の変形で破損し始めると言われており、この時の変形量は25mmとなる。但し、上記のいずれの場合も、1階床から2階床までの高さが3mと仮定している。
【0066】
地震が発生すると、気象庁より地震速報として震源を中心とする周辺地域(例えば市、町、村)毎に震度が発表される。この発表では、ある広さの地域がすべて同じ震度であったと見なされ、大雑把であると言わざるを得ない。
【0067】
一方、震度そのものについても、例えば震度5の場合、震度5弱、震度5強というように分類されているものの、これを地震の加速度(gal)で表すと、震度5の場合、80(gal)〜250(gal)という広い範囲となる。そのため、地震速報によりある地域において、例えば震度5弱と発表された場合、ある地域内のある建物では実際にどの程度の震度であったのかを知ることができないし、実際にどの程度の加速度が作用したのかを知ることもできない。
【0068】
そこで、本実施形態に係る解析装置30は、解析処理プログラムに基づいて、上記の最大層間変形角を、損傷限界{変形角1/120(rad)}と比較することで、地震による建物への影響の判定を以下のようにして行うことができるようにしている。
【0069】
上記の最大層間変形角が損傷限界{変形角1/120(rad)}以上であった場合、地震による建物への影響があったものとし、専門家による詳細調査の実施を推奨する。
【0070】
上記の最大層間変形角が損傷限界{変形角1/120(rad)}未満である場合、地震による建物への影響はなかったものとする。
【0071】
解析装置30は、上記の解析処理を行うことにより、
図13に示すように、算出した層間変位量、最大層間変形角、最大速度値のほか、住宅地震履歴計に記録された情報から、記録開始時刻、最大加速度値を、地震情報としてLCD35に表示する。なお、記録開始時刻は、時刻暦合わせの補正に際して基準となった方の時刻暦が表示される。
【0072】
解析装置30はまた、
図14に示すように、地震情報を画像ファイルとしてメモリ34に記録し、必要に応じてプリントアウト等の外部出力を可能にしている。このように、一般的な画像ファイルの形式で地震情報を記録することで、多くの画像表示用アプリケーションによって表示、出力させることが可能である。なお、
図13と
図14は別の地震情報による数値を示している。
【0073】
次に、計測震度、震度階級の算出処理について説明する。これらの算出処理も解析装置30で行うことができる。
【0074】
計測震度は気象庁震度階級(平成八年二月十五日気象庁告示第四号)に定められている。
【0075】
計測震度の算出処理手順は以下の通りである。
【0076】
1.3軸加速度センサにより得られる加速度データの3軸成分(X軸、Y軸、Z軸)のそれぞれについてフーリエ変換を行う。
2.フーリエ変換後の3軸成分について地震波の周期による影響を補正するためのフィルタ処理を行う。
フィルタ特性は以下の式の式(23)、(24)、(25)で表される。
【数19】
【数20】
【数21】
3.フィルタ処理された3軸成分に対して逆フーリエ変換を行い、時刻暦の波形に戻す。
4.得られた処理済の3軸成分の波形をベクトル的に合成する。
5.ベクトル波形の絶対値がある値a以上となる時間の合計を計算したとき、これがちょうど0.3秒となるようなaを求める。
6.5.で求めたaを、I=2log a + 0.94 により計測震度Iを計算する。計算されたIの小数第3位を四捨五入し、小数第2位を切り捨てたものを計測震度とする。
7.上記6で得られた計測震度から、
図15に示す気象庁震度階級表(平成八年二月十五日気象庁告示第四号)により震度階級を求める。
【0077】
(実施形態の効果)
以上説明してきたように、本発明の実施形態によれば、第1、第2の住宅地震履歴計からの加速度データを用いて建物の、少なくとも層間変位量を算出する解析処理に際し、第1、第2の住宅地震履歴計の計時時刻にずれが生じていたとしても、このずれを補正して正確な層間変位量を算出することができる。