【文献】
岡本麻鈴,他7名,インクジェット印刷による高分子ナノシート上への金属配線の形成,日本化学学会第95回春季年会講演予稿集,日本,2015年 3月,第95巻/第3号,p.638
【文献】
沼倉研史,よくわかるフレキシブル・エレクトロニクスのできるまで,日本,日刊工業新聞社,2010年,初版,p.33,78,120,144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高分子ナノシートが、ポリスチレンイソプレンスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコーン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、キトサン、アルギン酸、酢酸セルロース、ヒアルロン酸、ゼラチン、および、コラーゲンのうちのいずれか一つからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子デバイス。
前記第1高分子ナノシートを形成するステップにおいて、前記基板上に前記第1および第2高分子ナノシートを溶解しない溶剤で溶解可能な犠牲層を形成した後に、前記犠牲層上に前記第1高分子ナノシートを形成し、前記基板を分離するステップにおいて、前記犠牲層を前記溶剤で溶解して前記第1高分子ナノシートから前記基板を分離することを特徴とする請求項10に記載の電子デバイスの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の高分子ナノシートを用いた電子デバイスを、腕の内側に貼付けた使用例の一例を示す概念図である。
【
図2】本発明の実施の形態1の電子素子を有する電子デバイスを示す斜視図である。
【
図3】同上、電子素子および導電配線を有する電子デバイスを示す斜視図である。
【
図4】同上、電子素子、導電配線および電源を有する電子デバイスを示す斜視図である。
【
図5】同上、高分子ナノシート基体を形成する工程を示すものであり、
図5Aは、その上に高分子ナノシート等を製膜するための基板、
図5Bは、高分子ナノシートを製膜後に高分子ナノシートから基板を分離するために製膜された犠牲層、
図5Cは、犠牲層上に高分子ナノシートを製膜して形成された高分子ナノシート基体を示す図である。
【
図6】同上、高分子ナノシートへの導電配線の印刷から電子デバイスの完成までの工程を示す図であり、
図6Aはインクジェットにより導電材料を吐出する工程、
図6Bは導電配線が形成された高分子ナノシート基体を形成する工程、
図6Cは
図6Bの高分子ナノシート基体を水に浸漬させる工程、
図6Dは犠牲層を溶解して基板が高分子ナノシートから分離された電子デバイスを形成する工程を示す図である。
【
図7】同上、導電配線を印刷する前に、高分子ナノシート上に形成されたインク受容層を示す図である。
【
図8】同上、高分子ナノシート両側に紙を接着させ、高分子ナノシートをピンセットで伸長させた様子を示す写真である。
【
図9】同上、LEDと導電配線とを高分子ナノシート上で接続し、LEDを点灯した様子を示す写真である。
【
図10】同上、LEDを配置した側とは反対側からLEDと導電配線との接続の様子を示す写真である。
【
図11】本発明の実施の形態2の電子素子および導電配線を有する電子デバイスを示す斜視図である。
【
図12】同上、電子デバイスの製造工程を示すものであり、
図12Aはインクジェットにより導電材料を吐出する工程、
図12Bは第1高分子ナノシート上に導電配線を形成して高分子ナノシート基体を形成する工程、
図12Cは導電配線が印刷された第1高分子ナノシート上に電子素子を配置して第2高分子ナノシートで覆う工程、
図12Dは高分子ナノシート貼合基体を形成する工程、
図12Eは
図12Dの高分子ナノシート貼合基体を水に浸漬させる工程、
図12Fは犠牲層を溶解して基板が第1高分子ナノシートから分離した電子デバイスを形成する工程を示す図である。
【
図13】同上、銀ナノ粒子からなる導電配線を示す図である。
【
図14】同上、銀ナノ粒子からなる導電配線のSEM写真である。
【
図15】同上、導電配線を所定の温度で熱処理をしたときの、時間と抵抗値の減少率との間の関係を示すグラフである。
【
図16】同上、導電配線を所定の温度で25分間熱処理したときの、温度と抵抗値の減少率との間の関係を示すグラフである。
【
図17】同上、導電配線を伸長させた場合および戻した場合の歪みと抵抗値の変化との間の関係を示すグラフである。
【
図18】同上、導電配線を印刷した第1高分子ナノシート上にLEDを配置し、その表面を別の第2高分子ナノシートで被覆することで、LEDを物理的かつ電気的に固定した様子を示す写真である。
【
図19】同上、導電配線がLEDの電極部に柔軟に追従する様子を示す裏側からの写真である。
【
図20】同上、LEDが発光する様子を示す写真である。
【
図21】同上、発光したLEDと導電配線との接続の様子を示す裏側からの写真である。
【
図22】同上、LEDを取り付けた高分子ナノシートで形成した電子デバイスを皮膚表面へ貼付けた写真である。
【
図23】同上、導電配線が皮溝の内部まで追従している様子を示す写真である。
【
図24】本発明の実施の形態3のジャンパー配線の製造工程を示すものであり、
図24Aは非導電性の高分子ナノシートを水中に浸漬させた様子、
図24Bは導電糸の両端をピンセットで摘みながら水中の高分子ナノシートに近づけた様子、
図24Cは高分子ナノシートが導電糸の周囲に巻き付くようにして導電糸を被覆する様子、
図24Dは導電糸の周りに高分子ナノシートが被覆されたジャンパー配線を示す図である。
【
図25】同上、銀繊維からなる導電糸を示す写真である。
【
図26】同上、導電糸にポリ乳酸からなる高分子ナノシートを被覆したジャンパー配線を示す写真である。
【
図27】同上、ジャンパー配線により複数の電子デバイスを電気的に接続して形成した複合電子デバイスを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電子デバイスおよびその製造方法について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の後述する高分子ナノシートを用いた電子デバイス1を、貼付対象物2たる腕の内側に貼付けた、使用例の一例を示すものである。当該電子デバイス1は、皮膚等の貼付対象物2に貼付けることで、脈拍数やスキンコンダクタンスを測定したり、汗感知を行ったりすることができ、生体医療用の電子デバイスとして使用することができる。本発明に用いる高分子ナノシートは膜厚を1μm未満とすることで、電子デバイス1を非常に薄型化することができ、かつ、糊等を用いずに貼付可能であることから、不快な装着感を感じさせずに使用することができる。なお、貼付対象物2は、人の皮膚に限定されるものではなく、臓器や人以外の動物や昆虫、食品、エラストマー表面等であってもよい。
【0018】
次に、
図2から
図15を基に本発明の実施の形態1について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1の電子デバイス1を示す斜視図である。電子デバイス1は、電子素子4と、電子素子4に密着した高分子ナノシート3を含む。ここでは、高分子ナノシート3が電子素子4の1面全体を覆うように密着している。電子素子4は、1個であってもよいし、複数個設けられてもよい。
【0019】
電子素子4は、高分子ナノシート3上に分子間力によって接着される。また、高分子ナノシート3を用いているので、皮膚等の貼付対象物2に糊等を用いずに貼付可能である。また、高分子ナノシート3が電子素子4の一面全体を覆うように密着することで、高分子ナノシート3が電子素子4に追従し、これらの間の接着性を高めることができる。
【0020】
図3は、
図2の電子デバイス1に対して、高分子ナノシート3上に、電子素子4と電気的に接続された導電配線5がさらに形成されている電子デバイス1を示すものである。高分子ナノシート3が電子素子4に対して物理的に密着し、追従するので、電子素子4は高分子ナノシート3に分子間力で強く接着される。この際、高分子ナノシート3上の導電配線5上に電子素子4の電極8が配置されるようにすると、導電配線5と電極8が圧着されて、導電配線5と電極8との間の分子間力も強められる。これにより、導電配線5を電子素子4の電極8に強い接着力で接続することができ、ハンダ付け等を一切行わずに、導電配線5を電子素子4に電気的に接続することができる。
【0021】
電子素子4としては、例えば、発光ダイオード(LED)等の発光素子や、トランジスタ、ダイオード、IC等の能動部品、および、抵抗やインダクタ、コンデンサ等の受動部品を挙げることができる。また、歪センサ等の各種センサや、RFIDタグを高分子ナノシート3に密着させて電子デバイス1を作製することもできる。
【0022】
図4は、
図3の電子デバイス1に対して、高分子ナノシート3上に、電子素子4たる能動部品6に電力を供給する電源7がさらに配置されている電子デバイス1を示すものである。このようにして、能動部品6に対して電力を供給する電源7を一体に備えた電子デバイス1を提供することができる。電源7としては、太陽電池や大容量キャパシタを使用したキャパシタ電池等の電池を使用することができる。また、電源7は、非接触ICカードで用いられるような誘導用コイルで電子素子4に電力を供給するものであってもよい。
【0023】
本発明で用いる高分子ナノシート3としては、例えば、合成高分子や天然高分子、ゴム、エラストマー等の高分子を材料とすることができる。より具体的には、高分子ナノシート3が、ポリスチレンイソプレンスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコーン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、キトサン、アルギン酸、酢酸セルロース、ヒアルロン酸、ゼラチン、および、コラーゲンのうちのいずれか一つからなることが好ましい。こうした材料を用いることで、皮膚等の貼付対象物2への密着性や伸縮性の高い電子デバイス1を提供することができる。なお、高分子ナノシートについては、一例として以下の文献を参考に挙げることができる。
T. Fujie and S. Takeoka, in Nanobiotechnology, eds. D. A. Phoenix and A. Waqar, One Central Press, United Kingdom, 2014, pp. 68-94.
【0024】
図5および
図6を基に本実施の形態にかかる電子デバイスの製造工程について説明する。初めに、
図5Aで、その上に高分子ナノシート3等を製膜するための基板11を準備する。基板11は、電子デバイス1を皮膚等の貼付対象物2に貼り付ける際に高分子ナノシート3から分離される。基板11としては、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PP(ポリプロピレン)やPPE(ポリフェニレンエーテル)、COP(シクロオレフィン)、PI(ポリイミド)、アルミ箔、導電性高分子膜、紙、多糖膜、シリコーン樹脂、オブラート(ゼラチン)、シリコンウェハ、ガラス等を用いることができる。本実施の形態では、PETフィルム(Lumirror25T60,パナック社製)を使用した。
【0025】
図5Bで、犠牲層12を基板11上に製膜する。この犠牲層12は高分子ナノシート3を製膜後に高分子ナノシート3から基板11を分離するために用いられる。製膜方法は、グラビアコータ(図示せず)を用いたロールツーロール技術によるものであってもよいし、スピンコータ(図示せず)を用いるものであってもよい。ロールツーロール技術では、スピンコータを用いた場合より、大きな面積で製膜することができる。本実施の形態では、グラビアコータ(ML−120,廉井精機社製)を用いて製膜を行った。製膜条件の一例として、回転数は30rpm、線速は1.3m/min、乾燥温度は100℃とした。犠牲層12の材料としては、水溶性のポリビニルアルコール(PVA、関東化学社製、2wt% in water)を使用した。
【0026】
図5Cで、犠牲層12上に高分子ナノシート3を製膜して、基板11、犠牲層12および高分子ナノシート3からなる高分子ナノシート基体13を形成する。高分子ナノシート3の厚さは1μm未満であることが好ましい。高分子ナノシート3の厚さが1μm未満であると、皮膚等の貼付対象物2への追従性が高く、密着性を高めることができる。特に、膜厚が250nm以下であると追従性がより高く、密着性も高まる。膜厚が1μm以上であると電子素子4や貼付対象物2に対する追従性が劣る。高分子ナノシート3は、上述した犠牲層12と同様に、グラビアコータ(図示せず)を用いたロールツーロール技術やスピンコータ等の製膜方法を用いて製膜することができる。本実施の形態では、ポリスチレンブタジエンスチレン(SBS,Sigma Aldrich Japan社製,3 wt% in tetrahydrofuran)を使用した。製膜方法はグラビアコータを用いたロールツーロール技術を使用し、製膜条件として、回転数は30rpm、線速は1.3m/min、乾燥温度は100℃とした。
【0027】
続いて、
図6Aに示すように高分子ナノシート3上にインクジェットにより導電材料23を吐出し、
図6Bに示すように、高分子ナノシート3上に導電配線5を形成する。本実施の形態では、インクジェットプリンタ(DCP−J540N,ブラザー工業社製)(図示せず)を用いて、銀ナノ粒子21(Drycure Ag−J 4mPa・s,コロイダル・インク社製,粒径15nmφ)からなる配線パターンを、高分子ナノシート3の表面に描画した。
【0028】
なお、導電配線5を形成する材料としては、例えば、金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子、導電性高分子、および、ナノ炭素材料のうちの少なくとも一つを用いることができる。特に、銀、金、銅またはニッケル等の金属ナノ粒子を用いることで、比較的入手が容易で抵抗率の低い材料を用いることができるので好ましい。また、配線パターンの形成方法として、前述したインクジェット印刷の他、オフセット印刷、スクリーン印刷等の簡便な方法を用いて、高分子ナノシート3上に導電配線5を印刷して形成することができる。
【0029】
続いて、
図6Cに示すように、
図6Bの導電配線5を印刷した高分子ナノシート基体13の周囲に紙テープからなるフレーム22を設け、例えば水からなる剥離液16に浸漬させる。この工程により、犠牲層12が溶解して基板11が高分子ナノシート3から分離される。
【0030】
続いて、
図6Dに示すように電子素子4を高分子ナノシート3に密着させると共に導電配線5と電気的接続を行うことで、電子デバイス1を作製することができる。
【0031】
なお、
図7に示すように、導電配線5を印刷する前に、高分子ナノシート基体13上に、インク受容層14をさらに形成してもよい。インク受容層には、キトサン、ポリ酢酸ビニル、酢酸セルロース、ゼラチン、シリカ、および、カチオン性アクリル共重合体が望ましい。インク受容層14上に導電配線5を印刷することで、導電材料23を含むインクが弾かれることなく、微細な導電配線5をより精確に形成することができる。本実施の形態では、インク受容層14として、カチオン性アクリル共重合体(NS−600X,高松油脂社製)を使用した。製膜方法は、上述した犠牲層12および高分子ナノシート3と同様に、グラビアコータを用いたロールツーロール技術を使用し、製膜条件として、回転数は30rpm、線速は1.3m/min、乾燥温度は100℃とした。
【0032】
なお、犠牲層12は必ずしも形成する必要はない。例えば、基板11と高分子ナノシート3とを密着性がそれほどよくない組み合わせとし、高分子ナノシート基体13の周囲に形成した紙テープからなるフレームを使用するなどして、犠牲層12を設けることなく、高分子ナノシート3を基板11から分離することも可能である。
【0033】
図8に、上述した高分子ナノシート基体13を水16に浸漬させて犠牲層12たるPVA層を溶解し、基板11たるPETフィルムを分離することで形成した、自己支持性を有する高分子ナノシート3たるSBSナノシート15の写真を示す。同図は、SBSナノシート15両側に紙17を接着させ、SBSナノシート15をピンセットで伸長させた様子を示している。SBS溶液の濃度を変えてSBSナノシート15を作成し、剥離したSBSナノシート15を平滑なシリコン基板上に貼付けて原子間力顕微鏡(AFM)を用いて膜厚を測定したところ、SBSの濃度依存的に膜厚が増加することが確認された。調製したSBSナノシート15は、高い伸縮性を示し、SBSの構成ユニットの一つであるポリスチレンからなるナノシートと比べて約20倍低い弾性率(40MPa,膜厚212nm)を示した。
【0034】
図9および10は、導電配線5を印刷した高分子ナノシート3上に、電子素子4たる表面実装型LED26(1.5mm×3.0mm×0.6mm)を配置して、LED26を物理的かつ電気的に固定し、LED26が発光することを示した写真である。
図9はLED26が配置された側から観察した写真であり、
図10はその裏面側から観察した写真である。これらの写真から、導電配線5がLED26の電極部27に柔軟に追従する様子が確認された。
【0035】
なお、通常は、電子素子4を配置した側をおもて面として、高分子ナノシート3を貼付対象物2に貼付けるのに対し、電子素子4を配置した側を貼付対象物2側にして貼付けるようにしてもよい。このような構成にすることにより、電子素子4が高分子ナノシート3で覆われた面がおもて面になるので、電子素子4を外部から保護することができる。
【0036】
次に、
図11から23を基に、本発明の実施の形態2を説明する。なお、上記実施の形態1と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。
図11は本実施の形態の電子デバイス1の概略図であり、
図12は電子デバイス1の製造工程の一例を示す概略図、
図13〜17は本実施の形態で作製した銀ナノ粒子21からなる導電配線5を有する高分子ナノシート3の特性評価結果を示す図、
図18〜23は実際に製造した電子デバイス1を示す写真である。
【0037】
本実施の形態では、高分子ナノシート3に電子素子4や導電配線5、電源7を配置する基本構成は実施の形態1と同じである。ただし、実施の形態1とは、当該電子素子4等を第1高分子ナノシート31上に配置し、第1高分子ナノシート31と第2高分子ナノシート32とが密着して貼り合わされた構造からなり、電子素子4等が、第1高分子ナノシート31と第2高分子ナノシート32との間に挟み込まれている点で相違する。
【0038】
図11および12では、第1高分子ナノシート31上に電子素子4および導電配線5が配置されているが、実施の形態1と同様に、電子素子4のみ、または、電子素子4、導電配線5および電源7が配置されてもよい。このように電子素子4等を2枚の第1高分子ナノシート31および第2高分子ナノシート32で挟み込むことにより、高分子ナノシート(第1高分子ナノシート31および第2高分子ナノシート32)と電子素子4との間の密着性を高め、さらに電子素子4を外部から物理的に保護することができる。
【0039】
なお、第1高分子ナノシート31および第2高分子ナノシート32の厚さも、それぞれ1μm未満であることが好ましい。
【0040】
また、第1高分子ナノシート31および第2高分子ナノシート32の材料も、それぞれポリスチレンイソプレンスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコーン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、キトサン、アルギン酸、酢酸セルロース、ヒアルロン酸、ゼラチン、および、コラーゲンのうちのいずれか一つからなることが好ましい。
【0041】
次に、
図12を基に、本実施の形態にかかる電子デバイス1の製造工程について説明する。ここで示す製造工程において、
図12Aおよび
図12Bに示す工程は、実施の形態1の
図6Aおよび
図6Bに示す工程と同様であり、
図12Aはインクジェットにより導電材料23を吐出する様子を示し、
図12Bは高分子ナノシート基体13の第1高分子ナノシート31上に導電配線5が形成されたものである。
【0042】
図12Cで導電配線5が印刷された第1高分子ナノシート31上に電子素子4を配置し、電子素子4を第1高分子ナノシート31に密着させると共に導電配線5と電気的接続を行う。続いて第1高分子ナノシート31と貼り合わせるための第2高分子ナノシート32を準備する。このとき、第2高分子ナノシート32には周囲に紙テープからなるフレーム17を設けている。そして、
図12Dに示すように、第1高分子ナノシート31と第2高分子ナノシート32とを貼り合わせ、高分子ナノシート貼合基体33を作製する。
【0043】
図12Eおよび
図12Fに示す工程は、実施の形態1の
図6Cおよび
図6Dに示す工程と同様である。
図12Eで、
図12Dの高分子ナノシート貼合基体33を、例えば水からなる剥離液16に浸漬する。この工程により、犠牲層12が溶解して、基板11が第1高分子ナノシート31から分離され、
図12Fに示す電子デバイス1を作製することができる。
【0044】
なお、実施の形態1と同様に、犠牲層12を形成する工程を省略することができる。例えば、基板11と第1高分子ナノシート31とを密着性がそれほどよくない組み合わせとし、第2高分子ナノシート32の周囲に形成した紙テープからなるフレームを使用するなどして、犠牲層12を設けることなく、第1高分子ナノシート31を基板11から分離することも可能である。
【0045】
以上のように、本実施の形態の電子デバイス1は、電子素子4を第1高分子ナノシート31と第2高分子ナノシート32で挟む構造となっており、上述したような電子デバイス1の製造方法によれば、簡易な工程により高分子ナノシート3を用いた電子デバイス1を製造することができる。
【0046】
また、実施の形態1で述べたように、第1高分子ナノシート31および第2高分子ナノシート32の少なくとも一方の高分子ナノシート上にインク受容層14をさらに備え、導電配線5をインク受容層14上に印刷するようにしてもよい。
【0047】
次に、本実施の形態で作製した銀ナノ粒子21からなる導電配線5を有する高分子ナノシート3の特性評価の一例について説明する。まず、基板11たるPETフィルム上に製膜した第1高分子ナノシート31たるSBSナノシート15(膜厚:383±21nm)の表面に、カチオン性インク受容層14(膜厚:115±26nm)を製膜した。次に、
図13に示すように、インクジェット印刷を利用して、銀ナノ粒子21からなる導電配線5(厚さ159±55nm、線幅:>0.37mm)を形成した。走査型電子顕微鏡(SEM)により導電配線5を観察したところ、
図14に示すように、導電配線5は銀ナノ粒子21の集積体であることが認められた。
【0048】
また、導電配線5を形成したSBSナノシート15に熱処理を施したところ、
図15に示すように、抵抗値が3桁以上低下した。特に、80℃以下における熱処理と比較して、100℃以上の熱処理では、抵抗値の減少が顕著である。
図16に示すように、25分間以上の熱処理を施した場合に、シート抵抗が、熱処理前の1.22×10
4Ω/sqから10.5Ω/sqまで低下することが明らかになった。
【0049】
さらに、SBSナノシート15の伸縮性を利用して、SBSナノシート15を伸長させた場合および戻した場合の導電配線5の抵抗値変化を計測したところ、
図17に示すように、180%以上伸長させた場合でも、可逆的な抵抗値変化を示した。以上より、導電配線5を有するSBSナノシート15は、導電性と伸縮性に優れていることが確認された。こうした特性から、導電配線5を有するSBSナノシート15は、例えば回路基板や歪ゲージといった電子デバイス1としての応用が期待される。
【0050】
なお、上記した抵抗値測定は、本実施の形態に沿った形で、導電配線5を第1高分子ナノシート31と第2高分子ナノシート32(第1高分子ナノシート31と同様なSBSナノシート)で挟みこんだ試料を用いて行っている。しかし、前述した回路基板や歪ゲージなどとして用いる場合に、実施の形態1のように単層のナノシートを用いることも可能である。
【0051】
図18は、導電配線5を印刷したSBSからなる第1高分子ナノシート31上に、実施の形態1と同様の表面実装型LED26を配置し、その表面をSBSからなる別の第2高分子ナノシート32で被覆することで、LED26を物理的かつ電気的に固定したものである。これらの密着されたSBSからなる高分子ナノシート3の裏側から導電配線5およびLED26を観察したところ、
図19に示すように、導電配線5がLED26の電極部27に柔軟に追従する様子が確認された。第1高分子ナノシート31および第2高分子ナノシート32に挟まれたLED26は、
図20および21に示すように、ハンダ付け等の化学的接合がなくても発光した。
【0052】
さらに、LED26を取り付けた高分子ナノシート3で形成した電子デバイス1を用いて、貼付対象物2たる皮膚表面への貼付性、および、LED26の動作性について検証した。
図22に示すように、高分子ナノシート3の周囲に紙テープからなるフレーム22を設けることで、ひび割れを生じることなく電子デバイス1を皮膚表面に貼付けることができた。さらに、電子デバイス1から導電線37を引き出して、3Vの電池を接続したところ、2箇所のLED26が皮膚上で点灯することを確認できた。また、
図23に示すように、導電配線5は皮溝36の内部まで追従しており、SBSからなる高分子ナノシート3の高い追従性が示された。
【0053】
次に、
図24〜27を基に本発明の実施の形態3を説明する。なお、上記実施の形態1あるいは2と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。
図24は本実施の形態の高分子ナノシート41を用いたジャンパー配線47の製造工程を示す概略図であり、
図25〜27は実際に製造したジャンパー配線47および複合電子デバイス50等の写真である。
【0054】
始めに、
図24Aで、非導電性の高分子ナノシート41を水42の中に浸漬する。続いて、
図24Bに示すように、導電糸43の両端を例えばピンセット44で保持しながら水42の中の高分子ナノシート41に近づける。このことにより、高分子ナノシートを、
図24Cに示すように、導電糸43の周囲に巻き付くようにして導電糸43を被覆することができる。このようにして、
図24Dに示すように、導電糸43の両端部分の導電領域45と、導電糸43の周りに高分子ナノシート41が被覆された非導電領域46とに分けられたジャンパー配線47を作製することができる。
【0055】
本実施の形態では、導電糸43として、銀繊維からなる導電糸(AGPOSS撚糸,三ツ冨士繊維工業社製)を使用した。
図25は高分子ナノシートで被覆する前の導電糸43を、
図26は、当該導電糸43にポリ乳酸からなる高分子ナノシート3を被覆した非導電領域46を示すものである。
【0056】
このジャンパー配線47は、例えば実施の形態1および2の導電配線5を有する高分子ナノシート3上に接合することが可能である。
図27は、高分子ナノシート3にLED26を搭載した第1電子デバイス48と、高分子ナノシート3上に導電配線5を有する第2電子デバイス49とを、ジャンパー配線47により電気的に接続し、電圧を印加することで、LED26の点灯を確認し、導通することを実証したものである。これにより、物理的および電気的に分離して配置された複数の電子デバイス48,49を、高分子ナノシート41で被覆したジャンパー配線47で電気的に接続し、複合電子デバイス50を形成することができる。
【0057】
上記に説明したような実施の形態1の電子デバイス1およびその製造方法によれば、膜厚が1μm未満の高分子シート3上に電子素子4を分子間力によって接着した状態で、皮膚等の貼付対象物2に糊等を用いずに高い追従性で貼付可能な電子デバイス1を提供することができる。
【0058】
また、導電配線5および電源7を高分子ナノシート3上に形成することで、ハンダ付け等を一切用いることなく、能動部品6を搭載した電子デバイス1を実現することができる。
【0059】
さらに、導電配線5をインク受容層14上に印刷することで、導電材料23を含むインクが弾かれることなく、微細な導電配線5をより精確に形成することができる。
【0060】
また、実施の形態2の電子デバイス1およびその製造方法によれば、第1高分子ナノシート31と第2高分ナノシート32との間に電子素子4等を挟み込むことで、高分子ナノシート3と電子素子4との間の密着性を高め、さらに電子素子4を外部から物理的に保護することができる。
【0061】
また、実施の形態3のジャンパー配線47によれば、導電糸43を非導電性の高分子ナノシートで41被覆して、導電領域45と非導電領域46とを有するジャンパー配線47を形成し、物理的および電気的に分離して配置された複数の電子デバイス48,49を、当該ジャンパー配線47で電気的に接続することで、複数の電子デバイス48,49で形成された複合電子デバイス50を形成することができる。
【0062】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、高分子ナノシート3の材料は上記実施例で例示したものに限られず、分子間力で電子素子4等を接着可能な高分子ナノシート3であれば種々の材料が適用可能であり、導電配線5の材料も、導電性の材料であれば、種々の材料が適用可能である。また、導電配線5の形成方法も、印刷によるものに限定されるものではない。さらに、電源7は、高分子ナノシート3上または第1高分子ナノシート31と第2高分子ナノシート32との間に形成されるのが好ましいが、電子デバイス1の外部に設け、電子デバイス1内部の導電配線5と接続するようにしてもよい。