(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記前段触媒の細孔容積が0.6〜1mL/gであり、前記中段触媒の細孔容積が0.55〜0.75mL/gである、請求項1に記載の重質炭化水素油の水素化処理方法。
前記前段触媒の平均細孔径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が15〜50%であり、前記中段触媒が細孔分布に関して以下の(1)〜(5)の条件を充足する、請求項1又は2に記載の重質炭化水素油の水素化処理方法。
(1)5〜10nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の30〜45%
(2)10〜15nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の50〜65%
(3)30nm以上の細孔径を有する細孔の全容積が、全細孔容積の3%以下
(4)10〜30nmの細孔径を有する細孔の平均細孔径が、10.5〜13nm
(5)前記平均細孔径±1nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の25%以上
前記中段触媒の前記多孔性アルミナ担体は、シリカを担体基準で0.1〜1.5質量%含有するシリカ含有多孔性アルミナ担体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の重質炭化水素油の水素化処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<水素化処理触媒>
本発明に係る水素化処理触媒は、アルミナを担体主成分とする。
アルミナとしては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、中でもγ−アルミナが適している。
また、担体主成分とするアルミナの純度は、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上のものが適している。
アルミナ中の不純物としては、SO
42−、Cl
−、Fe
2O
3、Na
2O等が挙げられるが、これらの不純物はできるだけ少ないことが好ましく、不純物全量で好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下であり、成分毎ではSO
42−が1.5質量%以下、C1
−、Fe
2O
3、Na
2Oが0.1質量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る水素化処理触媒に用いる担体は、アルミナ担体にリン及びシリカをさらに含有させた、リン・シリカ含有アルミナ担体である。
リン及びシリカは、活性金属量当たりの脱硫活性及び脱残炭活性を向上させるために活性点の質的向上を図る成分として加えられものであり、高活性なNiMoS相、NiWS相等の活性金属−硫黄相を精密に創製する役割をなす。
【0013】
本発明に係る水素化処理触媒のリン・シリカ含有多孔性アルミナ担体に含まれるシリカは、担体基準で、0.1〜1.5質量%であり、好ましくは0.1〜1.2質量%である。シリカ含有量が0.1質量%以上であれば第6族金属・第8〜10族金属による活性点が最適に形成され、シリカ含有量が1.5質量%以下であればシリカ添加自体で発現する酸点によっても分解反応が促進され難くなるためセジメントが生成し難い。
【0014】
本発明に係る水素化処理触媒の担体中のリンの含有量は、担体基準、酸化物換算で、0.1〜4質量%、好ましくは0.5〜2.5質量%である。担体中のリンの含有量が担体基準、酸化物換算で0.1質量%以上であれば、周期表第6族金属の硫化度が十分に高くなる。また、リンの含有量が4質量%以下であれば、細孔容積や比表面積の低下が起こり難く、周期表第6族金属の適度に分散されるため、リンの添加効果が十分に得られる。
また、本発明に係る水素化処理触媒としては、リンの含有量が、触媒基準、酸化物換算で好ましくは0.08〜3.6質量%である。
【0015】
本発明に係る水素化処理触媒の担体に含有させるリンの原料化合物としては、種々の化合物を使用することができる。リン化合物としては、例えばオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が挙げられ、中でもオルトリン酸が好ましい。
【0016】
なお、本発明において、リンの含有量に関して、「担体基準、酸化物換算で」とは、担体中に含まれる全ての元素の質量をそれぞれの酸化物として算出し、その合計質量に対するリンの酸化物質量の割合を意味する。リンの酸化物質量は五酸化二リンに換算して求める。
【0017】
アルミナ担体へのリン及びシリカの添加は、周期表第6族金属(以下、「第6族金属」ということがある。)や周期表第8〜10族金属(以下、「第8〜10族金属」ということがある。)と担体との相互作用を緩和させ、これにより第6族金属や第8〜10族金属の硫化がそれぞれ容易になると考えられる。しかし、一方で、第6族金属や第8〜10族金属と担体との相互作用が弱くなりすぎると、活性金属の凝集が起ってしまうため、リンやシリカの添加には精密な制御が必要である。
本発明に係る水素化処理触媒では、リンやシリカを精密に制御して添加することにより、NiMoS相、NiWS相等の活性金属−硫黄相が高分散である状態を保持しつつ、積層数などの構造形態も最適化されると考えられる。
なお、本発明において、「周期表第6族金属」とは、長周期型周期表における第6族金属を意味し、「周期表第8〜10族金属」とは、長周期型周期表における第8〜10族金属を意味する。
【0018】
本発明に係る水素化処理触媒に用いるリン・シリカ含有アルミナ担体を得るには、まず、常法によりアルミナゲルを調製する。
アルミナの原料は、アルミニウムを含む物質であればどのようなものでも使用できるが、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩が好ましい。これらのアルミナ原料は、通常は水溶液として供され、その濃度は特に制限されないが、好ましくは2〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%である。
【0019】
例えば、攪拌釜で硫酸水溶液、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウムを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーに対して回転円筒型連続真空濾過器による水分除去、純水洗浄を行い、アルミナゲルを得る。次いで、得られたアルミナゲルを、濾液中にSO
42−やNa
+が検出できなくなるまで洗浄した後、当該アルミナゲルを純水に混濁させて均一なスラリーとする。得られたアルミナゲルスラリーを、水分量が60〜90質量%となるまで脱水してケーキを得る。
【0020】
本発明に係る水素化処理触媒の製造方法では、このアルミナゲルスラリーの脱水を、圧搾濾過器によって行うことが好ましい。圧搾濾過器によって脱水することにより、アルミナ担体の表面状態を向上させることができ、後述する触媒活性金属(水素化活性金属)の硫化度のレベル向上に有益である。
なお、この圧搾濾過器による脱水工程は、アルミナゲルを調製する工程、及び後述するリン化合物及びシリカを混練する工程のうち少なくとも一方の工程の後に行うことが好ましく、いずれの工程の後に行ってもよい。より好ましくは、アルミナゲル調製後、リン化合物及びシリカの混練前に行う。
【0021】
ここで、圧搾濾過器とは、スラリーに圧縮空気又はポンプ圧を作用させ濾過するものであり、一般に圧濾器とも呼ばれる。
圧搾濾過器には板枠型と凹板型がある。板枠型圧濾器は、濾板と濾枠が交互に端板間に締め付けられており、濾枠の中へスラリーを圧入して濾過する。濾板は濾液流路となる溝を持ち、炉枠には炉布が張ってある。一方、凹板型圧濾器は、濾布と凹板型の濾板を交互に並べて端板との間で締め付け濾室を構成している(参考文献:化学工学便覧p715)。
【0022】
当該方法の他にも、アルミナゲルの調製方法としては、アルミナ原料を含む水溶液をアルミン酸ナトリウム、アルミン酸、アンモニア等の中和剤で中和する方法、ヘキサンメチレンテトラミン、炭酸カルシウム等の沈殿剤と混合する方法等が挙げられる。中和剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と中和剤の合計量に対して30〜70質量%が好ましい。沈殿剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と沈殿剤の合計量に対して30〜70質量%が好ましい。
【0023】
次に、得られたアルミナゲルに、リン化合物とシリカとを混練により添加する。具体的には、50〜90℃に加熱したアルミナゲルの水分調整物に、15〜90℃に加熱したリン化合物水溶液とシリカを添加し、加熱ニーダー等を用いて混練、攪拌することにより、リン・シリカ含有アルミナ担体の混練物を得る。なお、前述したように、圧搾濾過器による脱水を、アルミナゲルとリン化合物及びシリカとを混練、攪拌した後に行ってもよい。
【0024】
続いて、得られた混練物を成型し、これを乾燥、焼成して、リン・シリカ含有アルミナ担体を得る。
当該混練物の成型に当たっては、押出し成型、加圧成型等の種々の成型方法により行うことができる。
また、得られた成型物の乾燥に当たっては、乾燥温度は15〜150℃が好ましく、特に好ましくは80〜120℃であり、乾燥時間は30分間以上が好ましい。
得られた乾燥物の焼成において、焼成温度は必要に応じて適宜設定できるが、例えばγ−アルミナとするためには450℃以上で焼成することが好ましく、更に好ましくは480℃〜600℃である。焼成時間は2時間以上が好ましく、特に好ましくは3〜12時間である。
【0025】
本発明に係る水素化処理触媒のリン・シリカ含有アルミナ担体は、下記の物性値とすることが好ましい。
【0026】
リン・シリカ含有アルミナ担体の比表面積は、窒素吸着法(BET法)による測定値で、好ましくは200〜380m
2/g、より好ましくは220〜360m
2/gである。
比表面積が小さすぎると、水素化活性金属の分散性が悪くなり、脱硫活性が低下するおそれがある。比表面積が大きすぎると、細孔径が極端に小さくなるため、触媒の細孔径も小さくなって、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下するおそれがある。リン・シリカ含有アルミナ担体の比表面積を前記範囲内とすることにより、水素化活性金属の分散性が良好であり、かつ充分な大きさの細孔径を有する水素化処理触媒が得られる。
【0027】
リン・シリカ含有アルミナ担体の水銀圧入法で測定した細孔分布における平均細孔径は、好ましくは5〜12nm、より好ましくは6〜10nmである。
リン・シリカ含有アルミナ担体の平均細孔径を前記範囲内とすることにより、充分な細孔内表面積を有しつつ、反応物質の細孔内における拡散性も良好であり、脱硫反応が効率的に進行し脱硫活性がより向上する。
【0028】
リン・シリカ含有アルミナ担体の細孔容積は、水銀圧入法による測定値で、好ましくは0.4〜0.9mL/g、より好ましくは0.6〜0.8mL/gである。
細孔容積が小さすぎる場合には、通常の含浸法で触媒を調製する場合、細孔容積内に入り込む溶媒が少量となる。溶媒が少量であると、水素化活性金属化合物の溶解性が悪くなり、金属の分散性が低下し、低活性の触媒となるおそれがある。活性金属化合物の溶解性を上げるためには、硝酸等の酸を多量に加える方法があるが、加えすぎると担体の低表面積化が起こり、脱硫性能低下の主原因となる。一方で、細孔容積が大きすぎる場合には、比表面積が極端に小さくなって、活性金属の分散性が低下するおそれがある。
リン・シリカ含有アルミナ担体の細孔容積を前記範囲内とすることにより、充分な比表面積を有しつつ、細孔容積内に充分量の溶媒が入り込めるため、水素化活性金属化合物の溶解性と分散性が共に良好になり、脱硫活性がより向上する。
【0029】
リン・シリカ含有アルミナ担体に、第6族金属から選ばれる少なくとも1種を触媒基準、酸化物換算で8〜20質量%、および第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種を触媒基準、酸化物換算で2〜5質量%含有するように担持させることによって、本発明に係る水素化処理触媒が製造できる。
【0030】
ここで、第6族金属及び第8〜10族金属の含有量に関して、「触媒基準、酸化物換算で」とは、触媒中に含まれる全ての元素の質量をそれぞれの酸化物として算出し、その合計質量に対するそれぞれの金属の酸化物質量の割合を意味する。
第6族金属及び第8〜10族金属の酸化物質量は、第6族金属については6価の酸化物、第8〜10族金属については2価の酸化物に換算して求める。
【0031】
第6族金属としては、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)等が挙げられ、中でも単位質量当たりの活性が高いMoが好ましい。リン・シリカ含有アルミナ担体に担持させるMo化合物としては、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等が挙げられ、好ましくはモリブドリン酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムである。
【0032】
リン・シリカ含有アルミナ担体における第6族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、8〜20質量%、好ましくは10〜16質量%である。
第6族金属が8質量%以上であれは、第6族金属に起因する効果を発現させるに十分である。また20質量%以下であれば、第6族金属が効率的に分散する。また、触媒表面積が大幅に低下することなく、触媒活性の向上が図れる。
【0033】
第8〜10族金属としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等が挙げられ、中でも水素化能が高く、触媒調製コストが低いNiが好ましい。リン・シリカ含有アルミナ担体に担持させるNi化合物としては、Niの炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物が挙げられ、好ましくは炭酸塩、酢酸塩、より好ましくは炭酸塩である。
【0034】
リン・シリカ含有アルミナ担体における第8〜10族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、2〜6質量%、好ましくは2.5〜4.5質量%である。
第8〜10族金属が2質量%以上ならば、第8〜10族金属に帰属する活性点が十分に得られる。また、5質量%以下であれば、第8〜10族金属化合物の凝集し難く活性金属の分散性を低下させることない。例えばNiを用いた場合に、不活性な前駆体であるNiO種(触媒硫化後や水素化処理中はNiS種として存在する)や、担体の格子内に取り込まれたNiスピネル種が生成され難いため、触媒活性の向上がみられる。
【0035】
第6族金属および第8〜10族金属の各成分の前記の含有量において、水素化活性金属である第6族金属および第8〜10族金属の最適質量比は、〔第8〜10族金属酸化物質量〕/(〔第8〜10族金属酸化物質量〕+〔第6族金属酸化物質量〕)の値で、0.14〜0.3であることが好ましい。
第6族金属と第8〜10族金属との総量に対する第8〜10族金属の質量比が小さすぎる場合には、脱硫の活性点と考えられるNiMoS相、NiWS相等の活性金属−硫黄相が十分に生成できず、脱硫活性が向上しないおそれがある。また、当該質量比が大きすぎる場合には、活性に関与しない無駄な金属種(NiS種や、担体の格子内に取り込まれたNiスピネル種)が生成し、触媒活性が低下するおそれがある。前記質量比を前記範囲内とすることにより、活性金属−硫黄相が十分に生成され、かつ活性に関与しない無駄な金属種の生成が抑制され得る。
【0036】
リン・シリカ含有アルミナ担体に、第6族金属や第8〜10族金属を担持させる方法としては、含浸法、共沈法等の公知の方法でよい。例えば、リン・シリカ含有アルミナ担体をこれらの水素化活性金属成分を含有する溶液中に浸漬した状態で水素化活性金属成分を沈澱させる方法のように、リン・シリカ含有アルミナ担体に水素化活性金属成分を含有する溶液と接触させて、水素化活性金属をリン・シリカ含有アルミナ担体上に担持させる含浸法が採用できる。なお、リン・シリカ含有アルミナ担体に、第6族金属および第8〜10族金属成分を含浸させる方法としては、これら各成分を同時に含浸させる一段含浸法でもよく、個別に含浸させる二段含浸法でもよい。
【0037】
第6族金属および第8〜10族金属を、リン・シリカ含有アルミナ担体に担持させる具体的方法としては、以下の方法が挙げられる。
まず、第6族金属化合物、第8〜10族金属化合物、およびリン化合物を含む含浸用溶液を調製する。なお、金属化合物にリンが含まれている場合は、リン化合物を加えないか、適当量のリン化合物を添加する。調製時、これらの化合物の溶解を促進するために、加温(30〜100℃)や、酸(硝酸、リン酸、有機酸《クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸等》)の添加を行ってもよい。
【0038】
ここで、第6金属に対する担体に混練されているリンの酸化物換算における質量比は、0.25以下であることが好ましい。0.25以下であれば、触媒の表面積及び細孔容積が減少し難く、触媒活性の低下が抑制されるのみならず、酸量が増えることなく、炭素析出を防止でき、これにより活性劣化が抑制される。
【0039】
続いて、調製した含浸用溶液を、リン・シリカ含有アルミナ担体に、均一になるよう徐々に添加して含浸する。含浸時間は好ましくは1分間〜5時間、より好ましくは5分間〜3時間であり、温度は好ましくは5〜100℃、より好ましくは10〜80℃であり、雰囲気は特に限定しないが、大気中、窒素中、真空中が、それぞれ適している。
【0040】
第6族金属および第8〜10族金属成分を含浸担持後、一般に、窒素気流中、空気気流中、あるいは真空中、常温〜80℃で、水分をある程度(LOI《Loss on ignition》が50%以下となるように)除去し、乾燥炉にて、空気気流中、80〜150℃で、10分間〜10時間乾燥する。次いで、焼成炉にて、空気気流中、好ましくは300〜700℃で、より好ましくは500〜650℃で、好ましくは10分〜10時間、より好ましくは3時間以上焼成を行う。
【0041】
本発明に係る水素化処理触媒は、重質炭化水素油に対する水素化活性、脱硫活性を高めるために、その比表面積、細孔容積、平均細孔径、及び細孔分布を、以下の範囲内に調整することが好ましい。
【0042】
本発明に係る水素化処理触媒の比表面積は、BET法による測定値で、好ましくは180〜320m
2/g、より好ましくは200〜300m
2/gである。比表面積が小さすぎると、水素化活性金属の分散性が悪くなり、比表面積が大きすぎると、細孔径が極端に小さくなるため、触媒の細孔径も小さくなる。本発明に係る水素化処理触媒の比表面積を前記範囲内とすることにより、水素化活性金属の分散性と水素化処理の際の硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性の両方をより良好にすることができる。
【0043】
本発明に係る水素化処理触媒の細孔容積は、水銀圧入法による測定値で、好ましくは0.45〜0.8mL/g、より好ましくは0.5〜0.7mL/gである。細孔容積が小さすぎる場合には、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内での拡散が不十分となるおそれがあり、細孔容積が大きすぎる場合には、比表面積が極端に小さくなるおそれがある。本発明に係る水素化処理触媒の細孔容積を前記範囲内とすることにより、水素化活性金属の分散性と水素化処理の際の硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性の両方をより良好にすることができる。
【0044】
本発明に係る水素化処理触媒の水銀圧入法で測定した細孔分布での平均細孔径は、好ましくは7〜13nm、より好ましくは7〜12nmである。本発明に係る水素化処理触媒の平均細孔径を前記範囲内とすることにより、充分な細孔内表面積(すなわち、触媒の有効比表面積)を有しつつ、反応物質の細孔内における拡散性も良好であり、脱硫活性をより向上させることができる。
【0045】
また、上記の細孔条件を満たす細孔の有効数を多くするために、本発明に係る水素化処理触媒の細孔分布としては、平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が、45%以上であることが好ましく、55%以上がより好ましい。
【0046】
さらに、本発明に係る水素化処理触媒中の水素化活性金属の分布状態としては、触媒中で活性金属が均一に分布しているユニフォーム型が好ましい。
【0047】
本発明に係る水素化処理触媒を用いて、重質炭化水素油を水素化処理することにより、長期間にわたり重質炭化水素油中の硫黄化合物を低減させることが可能となる上、得られる水素化処理油の貯蔵安定性を向上させることが可能となる。
【0048】
本発明に係る水素化処理触媒は、一般的には、使用前に(すなわち、本発明に係る水素化処理方法を行うのに先立って)、反応装置中で硫化処理して活性化する。当該硫化処理は、一般に、200〜400℃、好ましくは250〜350℃、常圧あるいはそれ以上の水素分圧の水素雰囲気下で、硫黄化合物を含む石油蒸留物、当該石油蒸留物にジメチルジスルファイドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたもの、又は硫化水素を用いて行う。
【0049】
<水素化処理方法>
本発明に係る水素化処理方法では、重質炭化水素油を3種類の触媒(前段触媒、中段触媒、後段触媒)と接触させる水素化処理方法において、後段触媒として本発明に係る水素化処理触媒を用い、前段触媒として酸化亜鉛を含有する無機酸化物担体に水素化活性金属を担持した触媒を用い、中段触媒としてシリカ含有多孔性アルミナ担体に水素化活性成分が担持した触媒を用いる。
【0050】
本発明に係る水素化処理方法で用いられる3種類の触媒は、それぞれ主に要求される性能が異なる。前段触媒では、主に耐金属性能及び中段以降の触媒を保護するために脱金属活性が要求される。中段触媒では、耐金属性能及び脱金属活性、それと同時に脱硫性能をバランスよく有することが要求される。後段触媒では、主に脱硫性能が要求される。さらに、当該3種類の触媒に共通して、ある一定の触媒強度を有することが好ましい。以上の観点から、各触媒には、特定の物性が要求される。
【0051】
<前段触媒>
本発明に係る水素化処理方法において、前記前段触媒として用いられる触媒の無機酸化物担体には、酸化亜鉛を担体基準で1〜15質量%、好ましくは2〜12質量%含有させる。また、無機酸化物担体に含有させる酸化亜鉛の粒子の平均粒子径は、好ましくは2〜12μm、より好ましく4〜10μmであり、さらに好ましくは5〜9μmである。
なお、酸化亜鉛の粒子の粒径は、JIS R1629に準拠したレーザー回折散乱法により測定し、粒度分布の体積平均を平均粒子径とした。また、酸化亜鉛の純度としては99%以上であることが好ましい。
【0052】
前段触媒として用いられる触媒の無機酸化物担体は、酸化亜鉛以外の他の無機酸化物を含む。
当該他の無機酸化物担体としては、多孔質のものが好ましく、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、ボリア、マンガン、ジルコニア等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0053】
前段触媒については、無機酸化物担体中の酸化亜鉛の含有量が前記範囲内であれば、他の物性値とあいまって触媒強度を維持したまま、平均細孔径を大きくでき、耐金属性能、脱金属活性に優れた触媒が得られる。
酸化亜鉛の含有量が1質量%以上であれば、第6族金属の硫化度を向上させるために十分であり、また、酸化亜鉛の含有量が15質量%以下であれば、細孔容積や比表面積の低下が起こり難く、第6族金属を分散させることができ、更には第8〜10族金属の硫化度が低下し難い。
また、酸化亜鉛の粒子の平均粒子径が12μm以下であれば、アルミナと十分に相互作用し、水素化処理後の重質炭化水素油の貯蔵安定性を改善する効果が充分に発揮される。また、酸化亜鉛の粒子の平均粒子径が2μm以上であれば、製造時に酸化亜鉛とアルミナを混合させやすく、製造過程がより簡易になる。
【0054】
本発明に係る水素化処理方法において用いる前段触媒の触媒調製は、通常の方法を採用することができる。例えば、無機酸化物担体の主成分としてアルミナを用いる場合を例にとれば、アルミナは、種々の方法で製造することができる。
具体的には、水溶性のアルミニウム化合物、例えば、アルミニウムの硫酸塩、硝酸塩、若しくは塩化物をアンモニアのような塩基で中和するか、又はアルカリ金属アルミン酸塩を酸性アルミニウム塩若しくは酸で中和する等して、アルミニウムヒドロゲルを得る。通常のアルミナ担体は、アルミナゲルを熟成、洗浄、脱水乾燥、水分調整、成形、乾燥、焼成等の一般的な工程により製造することができる。
本発明に係る水素化処理方法において前段触媒として用いる触媒の酸化亜鉛含有アルミナ担体は、アルミナゲル中に酸化亜鉛を添加して水分調整し、混練工程を前記成形工程の前に付加して製造することが好ましい。得られた酸化亜鉛含有アルミナ担体への、水素化活性金属の担持方法としては、含浸法が好ましい。
【0055】
本発明に係る水素化処理方法において用いる前段触媒は、前記の通り調製された無機酸化物担体に、水素化活性成分、好ましくは第6族金属及び第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を、水素化活性成分として担持させたものである。
第6族金属としては、第6族に属する金属であればどのような金属でもよいが、Mo又はWがより好ましく、特にMoが好ましい。
第8〜10族金属についても、第8〜10族に属する金属であればどのようなものでもよいが、Co又はNiがより好ましく、特にNiが好ましい。
また、担持する金属は1種類の活性金属でもよく、2種類以上の活性金属を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
前記前段触媒では、第6族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、2〜15質量%、好ましくは5〜10質量%である。第8〜10族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、0.001〜5質量%、好ましくは1〜4質量%である。
【0057】
前記第6族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量が前記下限値以上であれば、水素化処理活性が向上しやすい。担持量が前記上限値以下であれば、耐金属性能が向上しやすい。
また、第8〜10族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量を前記下限値以上とすれば、第6族金属に起因する効果が低下し難い。担持量を前記上限値以下とすれば、耐金属性能が向上しやすい。
【0058】
前記前段触媒の比表面積は、70〜150m
2/gの範囲であり、好ましくは90〜140m
2/gの範囲である。比表面積を前記下限値以上とすれば、触媒活性が低下し難い。上記上限値以下とすれば、平均細孔径が大きくなる傾向になり、耐金属性能が低下せず、Ni、Vなどの金属化合物の細孔内拡散性を保つことができ、これにより脱金属活性が向上する。
【0059】
前記前段触媒の細孔容積は、0.6〜1mL/gの範囲であり、好ましくは0.65〜1mL/gの範囲である。細孔容積を前記下限値以上とすれば、耐金属性能が低下し難く、Ni、Vなどの金属化合物の細孔内拡散性が低下し難い。これにより脱金属活性を保つことができる。一方、上記上限値以下とすれば、表面積が小さくなり難く、高い触媒活性を保つことができる。
【0060】
前記前段触媒の平均細孔径は、15〜35nmの範囲であり、好ましくは18〜30nmの範囲である。平均細孔径を前記下限値以上とすれば、耐金属性能が低下し難く、Ni、Vなどの金属化合物の細孔内拡散性が低下し難い。このため、脱金属活性が低下し難い。一方、上記上限値以下とすれば、大きな表面積を保つことができ、高い触媒活性を保つことができる。
【0061】
前記前段触媒において、触媒の平均細孔径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合は、15〜50%の範囲であり、好ましくは20〜50%の範囲である。平均細孔径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合を前記下限値以上とすれば、Ni、Vなどの金属化合物の水素化反応に有用でない細孔が形成され難く、脱金属活性が向上しやすい。
【0062】
<中段触媒>
本発明に係る水素化処理方法において、前記中段触媒の担体として、シリカを担体基準で0.1〜1.5質量%含有するシリカ含有多孔性アルミナ担体を用いる。
シリカ含有多孔性アルミナ担体の調製方法は特に限定されず、一般的な方法により調製することができる。例えば、2種類の粒子径の異なるアルミナゲルをそれぞれ調製し、これらを混合、熟成する各工程において、シリカを添加することによっても調製でき、また、1種のアルミナゲルを調製後、溶液のpHを調製した後にシリカを添加することによっても調製することができる。前記アルミナゲルは、アルミニウムの水溶性化合物である硫酸アルミニウムや硝酸アルミニウムをアンモニアのような塩基で中和し、又は、アルミン酸ナトリウムのようなアルカリ金属アルミン酸塩を酸性アルミニウム塩若しくは酸で中和することにより、生成することができる。
【0063】
前記中段触媒のシリカ含有多孔性アルミナ担体に含まれるシリカは、担体基準で、0.1〜1.5質量%であり、好ましくは0.1〜1.2質量%である。シリカ含有量が0.1質量%以上であれば、第6族金属・第8〜10族金属による活性点が最適に形成される。またシリカ含有量が1.5質量%以下であれば、シリカ添加自体で発現する酸点が発現し難く、分解反応が起こり難いためセジメントが生成し難くなる。
【0064】
前記中段触媒の担体のように特定の細孔径や細孔容積を有する水素化触媒の原料となるアルミナは、例えば、沈殿剤や中和剤を添加してアルミナゲルを作る際のpH、これらの薬剤の濃度、時間、温度等を調整することにより調製することができる。一般的に、酸性側では、細孔径及び細孔容積は小さくなり、アルカリ側では、細孔径及び細孔容積は共に大きくなる。
また、熟成時間を短くすると細孔径を小さくすることができ、熟成時間を長くすると細孔分布をシャープにすることができる。
例えば、ゲル生成の際のpHを3〜7、温度を15〜90℃の範囲にすることにより、焼成後のアルミナ担体の平均細孔径が5〜10nmのアルミナゲルを得ることができる。また、ゲル生成の際のpHを7〜11、温度を30〜90℃の範囲にすることにより、焼成後のアルミナ担体の平均細孔径が10〜15nmであるアルミナゲルを得ることができる。
【0065】
粒子径の異なる2種のアルミナゲルを混合することによってアルミナ担体を得る場合には、前記の方法により、粒子径の異なる2種類のアルミナゲルをそれぞれ調製した後に、混合し、熟成、洗浄、水分調整を行う。この時、目的の触媒細孔分布に合わせて、それぞれのアルミナゲルを混合する。混合する割合は目標とする触媒細孔構造に合わせてそれぞれ調整する。
また、通常、ゲル化を、pH4〜9、温度40〜90℃で1〜10時間行うことにより、30nm以上の細孔径を有する細孔の全容積を全細孔容積の3%以下に抑制できる他、熟成後のアルミナゲル中に存在する不純物を除去し易くできる。一方、1種類のアルミナゲルから調製する場合には、例えば、以下のように調製することができる。
まず、前記方法により焼成後のアルミナ担体の平均細孔径が10〜15nmとなるアルミナゲル含有溶液を調製し、このアルミナゲル含有溶液に硝酸等の酸性溶液を添加する。このとき、当該アルミナゲル含有溶液のpH、温度、時間等を調整することにより目的の触媒細孔構造を得ることができる。通常、ゲル化を、pH3〜7、反応温度30〜90℃、反応時間0.1〜10時間で行う。この際、pHを酸性側とし、反応温度を高くし、反応時間を長くすることにより、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積に対する5〜10nmの細孔径を有する細孔の全容積の割合を増加させることができる。
【0066】
これらのアルミナゲルは、不純物を洗浄後、乾燥又は加水などにより水分調整を行う。水分調整を行うことにより、触媒の成型が容易となる。水分調整後の含水量は、60〜90質量%が好ましい。また、水分調整のための1次乾燥温度及び方法を変更することにより、アルミナ微細表面構造の制御も可能である。
本発明に係る水素化処理触媒の調製では、1次乾燥の温度を100℃未満にすることが好ましく、熱を極力与えず、約0.01〜2MPaでの自然濾過、吸引濾過、加圧濾過による方法がより好ましい。これにより、水素化処理触媒の脱硫性能を増加させることができる。
【0067】
水分調整後のアルミナゲルから担体の成形を行う。成形方法は、特に限定されず、押出し成形、打錠成形等の一般的な方法を用いることができる。なお、成形時の圧力や速度を調整することによっても、アルミナの細孔分布の制御が可能である。本発明に係る水素化処理触媒の触媒形状は、特に限定されるものではなく、通常の触媒形状に用いられる種々の形状にすることができる。本発明に係る水素化処理触媒の形状としては、三葉型や四葉型が好ましい。
【0068】
成形されたアルミナゲルを焼成することにより、シリカ含有多孔性アルミナ担体が得られる。成形後のアルミナゲルは、焼成前に、好ましくは15〜150℃、より好ましくは100〜120℃で、好ましくは5時間以上、より好ましくは12〜24時間保持される。また、焼成は、好ましくは350〜600℃、より好ましくは400〜550℃で、好ましくは3時間以上、より好ましくは5〜12時間保持することにより行う。
【0069】
前記中段触媒は、前記の通り調製されたシリカ含有多孔性アルミナ担体に、水素化活性成分を、好ましくは第6族金属及び第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を水素化活性成分として担持させたものである。
第6族金属としては、第6族に属する金属であればどのような金属でもよいが、Mo又はWが特に好ましい。
第8〜10族金属についても、第8〜10族に属する金属であればどのようなものでもよいが、Co又はNiが特に好ましい。
また、担持する金属は1種類の活性金属でもよく、2種類以上の活性金属を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
水素化活性金属の担持法は、特に制限はされず、通常の方法、例えば、含浸法、共沈法、混練法、沈着法、イオン交換法等の種々の方法が採用できる。
第6族金属と第8〜10族金属とを担持する場合、順序はどちらを先に担持してもよく、両者を同時に担持してもよい。
溶液として含浸法等に使用できる化合物も特に制限はなく、例えば、ニッケル化合物として、ニッケルの硝酸塩、硫酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられ、またモリブデン化合物としては、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸などが挙げられる。
【0071】
前記中段触媒は、含浸法、共沈法、混練法、沈着法、イオン交換法等の種々の方法で調製する場合であっても、シリカ含有多孔性アルミナ担体に、第6族金属及び第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物を担持した後、乾燥、焼成することにより製造することができる。
乾燥は、好ましくは15〜150℃、より好ましくは100〜120℃で、好ましくは5時間以上、より好ましくは12〜24時間保持することにより行われる。焼成は、好ましくは350〜600℃、より好ましくは400〜550℃で、好ましくは3時間以上、より好ましくは12〜24時間保持することにより行われる。
【0072】
これらの活性金属成分の担持量は、アルミナ担体の物理性状や担持する金属活性種の組み合わせ状態により、適宜選択することができる。
前記中段触媒としては、これらの活性金属成分の担持量は、触媒基準、酸化物換算で、第6族金属の場合、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜25質量%、さらに好ましくは8〜20質量%である。また、第8〜10族金属の場合、好ましくは0.5〜18質量%、より好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは2〜8質量%である。
第6族金属が3質量%以上であれば、所定の金属担持効果を充分に発揮することができ、30質量%以下であれば、活性金属の凝集が生じ難く、触媒の細孔容積が大幅に低下することを防止し得る。
第8〜10族金属が0.5質量%以上であれば、金属担持効果を充分に発揮することができ、18質量%以下であれば適度な担持効果が得られ、かつ経済性にも優れる。
【0073】
水素化活性金属成分を担持、乾燥、焼成することにより、
(1)5〜10nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の30〜45%であり、
(2)10〜15nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の50〜65%であり、そして
(3)30nm以上の細孔径を有する細孔の全容積が、全細孔容積の3%以下である、を充足する細孔分布を有する前記中段触媒を得ることができる。
5〜10nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の30%以上であれば、十分な脱硫活性が得られ、45%以下であれば、耐金属性能が低下し難く触媒寿命が長くなる。
また、10〜15nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の容積の50%以上であれば、耐金属性能が劣り難く触媒寿命が長くなる。一方、65%以下であれば脱硫活性が低下し難く、十分な触媒活性が得られる。
また、30nm以上の細孔径を有する細孔の全容積が、全細孔容積の3%以下であれば、脱硫活性が低下し難く、十分な脱硫活性が得られる。
【0074】
さらに、
(4)10〜30nmの細孔径を有する細孔の平均細孔径が、10.5〜13nmにあること、及び
(5)前記平均細孔径±1nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の25%以上であること、を充足する細孔分布を有する。
前記10〜30nmの細孔径を有する細孔の平均細孔径が10.5nm以上であれば、十分な耐金属性能が得られ触媒寿命が長くなる。一方で、当該平均細孔径が13nm以下であれば、脱硫活性が低下せず、十分な脱硫活性が得られる。
前記平均細孔径±1nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の25%以上であることが好ましく、30〜65%であることがより好ましく、35〜50%であることがさらに好ましい。前記平均細孔径±1nmの細孔径を有する細孔の全容積が、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の25%以上であれば、十分な脱硫活性が得られる。
【0075】
前記中段触媒において、10〜30nmの細孔径を有する細孔の平均細孔径を10.5〜13nmとし、かつ当該平均細孔径±1nmの細孔径を有する細孔の全容積を、3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積の25%以上とすることは、前記中段触媒のシリカ含有多孔性アルミナ担体を2種類のアルミナゲルから調製する場合には、目標とする触媒細孔構造に合わせてそれぞれのアルミナゲルを混合することにより可能である。
一方、前記中段触媒のシリカ含有多孔性アルミナ担体を1種類のアルミナゲルから調製する場合には、沈澱剤や中和剤を添加してアルミナゲルを作る際の熟成時間を調整することにより可能である。一般的に、熟成時間を短くすると細孔径を小さくすることができ、長くすると細孔分布をシャープにすることができる。
【0076】
前記中段触媒としては、耐金属性能の観点から、全細孔容積が0.55〜0.75mL/gであることが好ましく、より好ましくは0.60〜0.70mL/gである。全細孔容積が0.55mL/g以上であると、耐金属性能が低下し難く、触媒寿命が長くなる。また、0.75mL/g以下であれば、大きな表面積が得られ、脱硫性能が向上する。
全細孔容積を上記範囲とすることは、沈殿剤や中和剤を添加してアルミナゲルを作る際のpHを調整することにより可能である。一般的に、アルミナゲルを作る際のpHが酸性側では細孔容積は小さくなり、アルカリ側では細孔容積が大きくなる。
【0077】
本発明に係る水素化処理方法において、前段触媒の充填割合は、全触媒容積の10〜50%、好ましくは15〜40%、中段触媒の充填割合は、全触媒容積の10〜50%、好ましくは15〜40%、後段触媒の充填割合は、全触媒容積の20〜70%、好ましくは30〜65%である。この範囲が、触媒系全体の触媒寿命、脱硫活性や脱金属活性の維持に好適である。
【0078】
本発明に係る水素化処理方法における水素化処理条件は、温度は300〜420℃、好ましくは350〜410℃、液空間速度(LHSV)は0.1〜3h
−1、好ましくは0.15〜2h
−1、水素分圧は3〜20MPa、好ましくは8〜19MPa、水素/油比は400〜3000m
3/m
3(NL/L)、好ましくは500〜1800m
3/m
3である。
【0079】
本発明に係る水素化処理方法に供される重質炭化水素油としては、原油から蒸留により得られる常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、熱分解油であるビスブレーキング油、石油以外の重質炭化水素油であるタールサンド油、シェールオイル等、又はこれらの混合物等が挙げられ、好ましくは、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、又はこれらの混合油である。
常圧蒸留残渣油と減圧蒸留残渣油とを混合する場合は、その性状にもよるが、混合割合としては、減圧蒸留残渣油が1〜60容量%程度となるように混合することがよく用いられる。
【0080】
本発明に係る水素化処理方法に供される重質炭化水素油としては、密度が0.91〜1.10g/cm
3、特に0.95〜1.05g/cm
3、硫黄分が2〜6質量%、特に2〜5質量%、ニッケル、バナジウム等の金属分が1〜1500ppm、特に20〜400ppm、アスファルテン分が2〜15質量%、特に3〜10質量%の重質炭化水素油が好ましい。
【0081】
本発明に係る水素化処理方法では、前記水素化処理条件で、前記本発明に規定する特定の触媒と重質炭化水素油とを接触させて水素化処理を行い、当該原料中の硫黄分や重金属分を低減する。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の実施態様及びその効果を実施例等によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]水素化処理触媒Aの調製
先ず、リン・シリカ含有アルミナ担体の調製を行った。攪拌釜に張込んだ純水100Lに、12質量%の硫酸水溶液1.5Lを投入し、95℃に加熱した後、攪拌羽根で5分間激しく攪拌した。次いで、当該攪拌釜にアルミナ濃度70g/Lのアルミン酸ナトリウム3.9Lを投入して、水酸化アルミニウムを調製し、24時間攪拌羽根で攪拌した。得られたスラリーを濾過器に投入して濾過を行い、水分を除去してゲルを得た。その後、得られたゲルを、純水を用いて、濾液中にSO
42−、Na
+が検出できなくなるまで洗浄した。次いで、洗浄後のゲルを純水に混濁させて均一なスラリーとし、当該スラリーを圧搾型濾過器へ投入した。濾布を介して得られたスラリーを濾板ではさみ、濾板を圧搾することにより脱水を行った。得られたケーキ中の水分量が80%になった時点で濾過を中断した。このケーキを加温型ニーダー(設定温度80℃)に投入し、均一になるように十分に混練した後、リン酸及びシリカを投入し、均一になるように更に混練した。混練して得られたケーキを押し出し成形器に投入し、長径1.3mm、短径1.1mmの四つ葉型形状の押し出し成形物とした。この成形物を、乾燥し、次いで600℃で4時間焼成することにより、リン・シリカ含有アルミナ担体を得た。
得られたリン・シリカ含有アルミナ担体は、リンを担体基準、酸化物換算で1.2質量%含有し、シリカを担体基準で0.2質量%含有し、細孔容積が0.76mL/gであり、比表面積が320m
2/gであり、平均細孔径が7.5nmであった。
【0084】
ナス型フラスコ中に、前記リン・シリカ含有アルミナ担体(γ−Al
2O
3ベース、直径1.33mm×1.10mmの四つ葉型成形物)50.00gを投入した。イオン交換水37.6gにモリブデン酸アンモニウム8.76gを溶解させた溶液を、前記リン・シリカ含有アルミナ担体に滴下した後に静置し、乾燥させた後、500℃で4時間焼成することにより、モリブデン担持リン・シリカ含有アルミナ担体を得た。
次いで、前記モリブデン担持リン・シリカ含有アルミナ担体に、イオン交換水31.8gに硝酸ニッケル9.27gを溶解させた溶液を滴下した後に静置し、その後、乾燥させた後、650℃で4時間焼成することにより、触媒Aを得た。
【0085】
[実施例2](水素化処理触媒Bの調製)
シリカの添加量を0.2質量%から1.0質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、水素化処理触媒Bを調製した。
【0086】
[比較例1](水素化処理触媒aの調製)
シリカの添加量を0.2質量%から0.05質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、水素化処理触媒aを調製した。
【0087】
[比較例2](水素化処理触媒bの調製)
シリカの添加量を0.2質量%から3.0質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、水素化処理触媒bを調製した。
【0088】
<担体及び触媒の物理性状及び化学性状>
実施例1、2及び比較例1、2で調製した水素化処理触媒A、B、a、及びbの担体の性状[リンの含有量(担体基準、酸化物換算)、シリカの含有量(担体基準)、平均細孔径、比表面積、及び細孔容積]を表1に示す。
実施例1、2及び比較例1、2で調製した水素化処理触媒A、B、a、及びbの性状[Mo及びNiの担持量(触媒基準、酸化物換算)、リンの含有量(触媒基準、酸化物換算)、平均細孔径、比表面積、細孔容積、及び細孔分布]を表2に示す。
表2中、「活性金属_活性金属量(質量%)」欄中の「Ni/Mo(上段) 4/12(下段)」は、当該触媒が触媒基準、酸化物換算で、Niを4質量%、Moを12質量%含有していることを意味する。
また、表2中、「細孔分布」は、平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合を意味する。
なお、触媒の物理性状及び化学性状は、次の要領で測定した。
【0089】
〔1〕物理性状の分析(比表面積、細孔容積、平均細孔径、及び細孔分布)
a)測定方法及び使用機器:
・比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。窒素吸着装置は、日本ベル(株)製の表面積測定装置(ベルソープMini)を使用した。
・細孔容積、平均細孔径、及び細孔分布は、水銀圧入法により測定した。水銀圧入装置は、ポロシメーター(MICROMERITICS AUTO−PORE 9200:島津製作所製)を使用した。
【0090】
b)測定原理:
・水銀圧入法は、毛細管現象の法則に基づく。水銀と円筒細孔の場合には、この法則は次式で表される。式中、Dは細孔径、Pは掛けた圧力、γは表面張力、θは接触角である。掛けた圧力Pの関数としての細孔への進入水銀体積を測定する。なお、触媒の細孔水銀の表面張力は484dyne/cmとし、接触角は130度とした。
式: D=−(1/P)4γcosθ
【0091】
・細孔容積は、細孔へ進入した触媒グラム当たりの全水銀体積量である。平均細孔径は、Pの関数として算出されたDの平均値である。
・細孔分布は、Pを関数として算出されたDの分布である。
【0092】
c)測定手順:
1)真空加熱脱気装置の電源を入れ、温度400℃、真空度5×10
−2Torr以下になることを確認した。
2)サンプルビュレットを空のまま真空加熱脱気装置に掛けた。
3)真空度が5×10
−2Torr以下となったら、当該サンプルビュレットを、そのコックを閉じて真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定した。
4)当該サンプルビュレットに試料(担体又は触媒)を入れた。
5)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置に掛け、真空度が5×10
−2Torr以下になってから1時間以上保持した。
6)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定し、試料重量を求めた。
7)AUTO−PORE 9200用セルに試料を入れた。
8)AUTO−PORE 9200により測定した。
【0093】
〔2〕化学組成の分析
a)分析方法及び使用機器:
・担体及び触媒の金属分析は、誘導結合プラズマ発光分析(ICPS−2000:島津製作所製)を用いて行った。
・金属の定量は、絶対検量線法にて行った。
【0094】
b)測定手順:
1)ユニシールに、試料0.05g、塩酸(50質量%)1mL、フッ酸一滴、及び純水1mLを投入し、加熱して溶解させた。
2)溶解後、得られた溶液をポリプロピレン製メスフラスコ(50mL容)に移し換え、純水を加えて、50mLに秤量した。
3)当該溶液をICPS−2000により測定した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
<重質炭化水素油の水素化処理反応>
以下の要領にて、下記性状の常圧蒸留残渣油(AR)の水素化処理を行った。水素化処理触媒として、実施例1、2、比較例1、2で製造した触媒A、B、a、及びbをそれぞれ用いた。
【0098】
先ず、水素化処理触媒を高圧流通式反応装置に充填して固定床式触媒層を形成し、下記の条件で前処理した。次に、反応温度に加熱した原料油と水素含有ガスとの混合流体を、当該反応装置の上部より導入して、下記の条件で脱硫反応と分解反応の水素化反応を進行させ、生成油とガスの混合流体を、当該反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。
【0099】
測定方法は、密度は、JIS K 2249−1「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表(振動式密度試験方法)」、硫黄分は、JIS K 2541−4「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第4部:放射線式励起法」、潜在セジメント分は、JPI−5S−60−2000に準拠した。具体的には、潜在セジメント含量は、以下の方法で分析した。
【0100】
<潜在セジメント含量の測定手順>
1)60℃に加温した試料を三角フラスコに25g採取し、エアーコンデンサーを取り付けて100℃の油浴に挿入し、24時間保持した。
2)当該試料を充分に振とうした後、10.5gをガラスビーカーにサンプリングした。
3)試料の入ったガラスビーカーを、100℃で10分間加温した。
4)乾燥したガラス繊維濾紙(直径47mm、気孔径1.6μm)を3枚重ねでセットし、減圧ポンプで80kPaまで減圧した減圧濾過器に、前記試料を投入し、30秒後に40kPaまで減圧した。
5)濾過が完了し、濾紙表面が乾いた後に、さらに5分間減圧を続けた。
6)減圧ポンプ停止後、濾過器をアスピレータで引きながら25mLの洗浄溶剤(ヘプタン85mL+トルエン15mL)で漏斗とフィルター全域を洗浄した。
7)さらに20mLヘプタンで当該濾紙を洗浄した後、最上部の濾紙(上から1枚目)を取り外して、下部の濾紙を20mLヘプタンで洗浄した。
8)上から1枚目及び2枚目の濾紙を、110℃で20分乾燥後、30分放冷した。
9)濾過前に対する濾過後の1枚目及び2枚目濾紙の各重量増加分を測定し、1枚目濾紙の増加重量から2枚目濾紙の増加重量を差し引いた重量を、試料採取重量に対する百分率としたものを、潜在セジメント(質量%)とした。
なお、濾過が25分間で終了しない場合はサンプル量を5gあるいは2gとして再測定した。
【0101】
ニッケル及びバナジウムの含有量は、石油学会規格 JPI−5S−62−2000「石油製品金属分析試験法(ICP発光分析法)」に準拠した。
アスファルテン分は、試料にトルエンを加えた後、セルロースフィルターで濾過し、トルエン不溶解分を回収した。この不溶性分をアスファルテン分とした。
レジン分は、試料にトルエンを加えた後、セルロースフィルターで濾過し、濾液であるトルエン溶解分を濃縮した。この濃縮物にヘプタンを加えたヘプタン溶液を活性アルミナ充填カラムに流通させ、飽和、芳香族、レジン分に分離し、レジン分を回収した。
【0102】
(触媒の前処理条件)
触媒の予備硫化は、減圧軽油により、水素分圧10.3MPa、370℃において12時間行った。その後、活性評価用の原料油1に切り替えた。
【0103】
(反応条件)
反応温度:385℃
圧力(水素分圧):10.3MPa
液空間速度 :0.4h
−1
水素/油比 :1690m
3/m
3
【0104】
(原料油1の性状)
油種:中東系原油の常圧蒸留残渣油
密度(15℃):0.9731g/cm
3
硫黄成分:3.45質量%
バナジウム:55ppm
ニッケル:10ppm
アスファルテン分:2.7質量%
【0105】
触媒活性について、以下の方法で解析した。385℃で反応装置を運転し、運転開始25日後の生成油を採取し、その性状(脱硫率(HDS)(%)、脱硫反応速度定数(Ks)、脱硫比活性(%)、脱金属率(HDM))を分析した。結果を表3に示す。
〔1〕脱硫率(HDS)(%):原料油中の硫黄分を脱硫反応によって硫化水素に転換することにより、原料油から消失した硫黄分の割合を脱硫率と定義し、原料油及び生成油の硫黄分析値から以下の式(1)により算出した。
〔2〕脱硫反応速度定数(Ks):生成油の硫黄分(Sp)の減少量に対して、2次の反応次数を得る反応速度式の定数を脱硫反応速度定数(Ks)とする。以下の式(2)により算出した。なお、反応速度定数が高い程、触媒活性が優れていることを示している。
〔3〕脱硫比活性(%):触媒Aの脱硫反応速度定数を100としたときの相対値で示した。以下の式(3)により算出した。
〔4〕脱金属率(HDM)(%):原料油から消失した金属分(ニッケルとバナジウムの合計)の割合を脱金属率と定義し、原料油及び生成油の金属分析値から以下の式(4)により算出した。
【0106】
脱硫率(%)=〔(Sf−Sp)/Sf〕×100 ………(1)
脱硫反応速度定数=〔1/Sp−1/Sf〕×(LHSV) ………(2)
式中、Sf:原料油中の硫黄分(質量%)、
Sp:生成油中の硫黄分(質量%)、
LHSV:液空間速度(h
−1)。
脱硫比活性(%)=(各触媒の脱硫反応速度定数/触媒Aの脱硫反応速度定数)×100………(3)
脱金属率(%)=〔(Mf−Mp)/Mf〕×100 ………(4)
式中、Mf:原料油中のニッケルとバナジウムの合計(質量ppm)、
Mp:生成油中のニッケルとバナジウムの合計(質量ppm)。
【0107】
〔生成油の分析〕
前記の水素化処理反応で得た運転日数25日目の生成油から求めた脱硫比活性、脱金属率、レジン分、アスファルテン分、レジン分に対するアスファルテン分の含量比(質量比、[アスファルテン分(質量%)]/[レジン分(質量%)])、及び潜在セジメント含量の結果を表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
この結果、いずれの触媒も、脱硫比活性と脱金属率とはほぼ同程度であった。一方で、生成油中のレジン分と潜在セジメント量とについては、触媒A又は触媒Bを用いた場合のほうが、触媒a又は触媒bを用いた場合よりも、レジン分が多く、潜在セジメント量が明らかに少なかった。つまり、触媒A又は触媒Bを用いて得た生成油のほうが、触媒a又は触媒bを用いて得たものよりも、セジメントが発生し難く、貯蔵安定性に優れていた。これらの結果から、リン・シリカ含有アルミナ担体のシリカ含有量を特定の範囲内にした水素化処理触媒を用いることにより、水素化処理触媒の脱硫活性を低下させることなく、水素化処理した重質炭化水素油中の潜在セジメントの含有量を低くでき、貯蔵安定性を高められることが明らかである。
【0110】
[製造例1](触媒D(前段触媒)の調製)
アルミナゲルに、平均粒子径が7.1μmの酸化亜鉛を、担体基準で8質量%となるように(すなわち、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で8質量%となるように)添加して水分調整し、混練、成型した後、乾燥、焼成することで酸化亜鉛含有アルミナ担体を調製した。該酸化亜鉛含有アルミナ担体は、酸化亜鉛の含有量が担体基準で8.0質量%であった。
一方、三酸化モリブデンと炭酸ニッケルとを、モリブデン(Mo)含有量が触媒基準、酸化物換算で9質量%、ニッケル(Ni)含有量が触媒基準、酸化物換算で2質量%となるように、イオン交換水に添加し、更に添加した金属化合物が完全に溶解するまでクエン酸を添加して金属化合物の水溶液を調製した。この水溶液を前記酸化亜鉛含有アルミナ担体に滴下した後に静置し、その後、乾燥、焼成することにより、触媒Dを得た。
触媒Dは、Moを触媒基準、酸化物換算で9.1質量%含有し、Niを触媒基準、酸化物換算で2.0質量%含有し、細孔容積が0.72mL/gであり、比表面積が131m
2/gであり、平均細孔径が20.6nm、平均細孔径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が24%であった。
【0111】
[製造例2](触媒E(中段触媒)の調製)
5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液10kgを60℃に加熱し、温度を保持したまま25質量%の硫酸アルミニウム水溶液を滴下し、最終的な水溶液のpHを4に調整した。生成したアルミナスラリーを濾過し、濾別されたアルミナゲルを0.2質量%のアンモニア水溶液を加えてpH7に調整し、焼成後のアルミナ担体の平均細孔径が6nmとなるアルミナゲル(A)を得た。
これとは別に、5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液10kgを70℃に加熱し、温度を保持したまま、25質量%の硫酸アルミニウム水溶液を滴下し、最終的に溶液のpHを8に調整した。生成したアルミナスラリーを濾過し、濾別したアルミナゲルに硝酸水溶液を加えてpH7に調整し、焼成後の平均細孔径が12nmとなるアルミナゲル(B)を得た。
【0112】
このアルミナゲル(A)及び(B)を1:2の質量比になるように混合した混合物に、シリカを担体基準で0.2質量%になるように混合し、25℃で吸引濾過により脱水乾燥後の含水量が70質量%となるように水分調整した。水分調整後のシリカ含有アルミナゲルを、押出成形機により触媒直径1.3mmの四葉型に合うように押出し、120℃で20時間乾燥した後、550℃で3時間焼成し、シリカ含有多孔性アルミナ担体を得た。該シリカ含有多孔性アルミナ担体のシリカ含有量は、担体基準で0.2質量%であった。
【0113】
このシリカ含有多孔性アルミナ担体100gに、次のようにして活性金属成分を担持した。即ち、室温下、ナス型フラスコ中で79.6gのイオン交換水に26.0gのモリブデン酸アンモニウム、6.33gの炭酸ニッケル、及び4.9gのリン酸を溶解させた水溶液を含浸用水溶液とした。この含浸用水溶液の全量を、なす型フラスコ中でシリカ含有多孔性アルミナ担体に滴下した後、25℃で1時間静置した。その後、当該シリカ含有多孔性アルミナ担体を風乾し、マッフル炉により空気流通下、550℃で3時間焼成することにより水素化処理触媒Eを調製した。
水素化処理触媒Eの活性金属量は、触媒基準、酸化物換算としてMoが15質量%、Niが3質量%であり、リンの含有量は触媒基準、酸化物換算で2.8質量%であった。また、水素化処理触媒Eは、比表面積が244m
2/g、全細孔容積が0.65mL/g、5〜10nmの細孔径を有する細孔の全容積の3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積に対する割合が35%、10〜15nmの細孔径を有する細孔の全容積の3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積に対する割合が60%、30nm以上の細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が2.4%、10〜30nmの細孔径を有する細孔の平均細孔径が11.2nm、10〜30nmの細孔径を有する細孔の平均細孔径±1nmの細孔の全容積が3〜30nmの細孔径を有する細孔の全容積に占める割合が41%であった。
【0114】
触媒D及びEの物理性状及び化学性状は、触媒A等と同様にして測定した。
【0115】
[実施例4](触媒D、E、及びAを用いた重質炭化水素油の水素化処理反応)
前段触媒として触媒Dを、中段触媒として触媒Eを、後段触媒として触媒Aを用い、容積比触媒D:触媒E:触媒A=20:30:50で固定床流通式反応装置に充填し、下記性状の原料油2を用いて、下記反応条件で水素化処理を行い、生成油を得た。
【0116】
(反応条件2)
反応温度:390℃
水素分圧:10.3MPa
液空間速度:0.253h
−1
水素/油比:876.2m
3/m
3
【0117】
(原料油2の性状)
原料油:中東系原油の減圧蒸留残渣油、
密度(15℃):1.015g/cm
3
硫黄分:4.20質量%
ニッケル分:53ppm
バナジウム分:90ppm
アスファルテン分:7.8質量%
【0118】
[実施例5](触媒D、E、及びBを用いた重質炭化水素油の水素化処理反応)
後段触媒を触媒Aから触媒Bに変更した以外は、実施例4と同様にして水素化処理を行い、生成油を得た。
【0119】
[比較例4](触媒D、E、及びaを用いた重質炭化水素油の水素化処理反応)
後段触媒を触媒Aから触媒aに変更した以外は、実施例4と同様にして水素化処理を行い、生成油を得た。
【0120】
[比較例5](触媒D、E、及びbを用いた重質炭化水素油の水素化処理反応)
後段触媒を触媒Aから触媒bに変更した以外は、実施例4と同様にして水素化処理を行い、生成油を得た。
【0121】
〔生成油の分析〕
前記の水素化処理反応で得た運転日数25日目の生成油から求めた脱硫比活性、脱金属率、レジン分、アスファルテン分、レジン分に対するアスファルテン分の含量比(質量比、[アスファルテン分(質量%)]/[レジン分(質量%)])、及び潜在セジメント含量の結果を表4に示す。
脱金属率、レジン分、アスファルテン分、レジン分に対するアスファルテン分の含量比(質量比、[アスファルテン分(質量%)]/[レジン分(質量%)])、及び潜在セジメント含量は、前記と同様にして求めた。
脱硫比活性は、実施例4で得た生成油における脱硫反応速度定数を100としたときの相対値で示した。
【0122】
【表4】
【0123】
この結果、いずれの触媒の組み合わせであっても、脱硫比活性と脱金属率とはほぼ同程度であった。一方で、生成油中のレジン分と潜在セジメント量とについては、後段触媒として触媒A又はBを用いた実施例4及び5の場合のほうが、触媒a又はbを用いた比較例4及び5の場合よりも、レジン分が多く、潜在セジメント量が明らかに少なかった。つまり、後段触媒として触媒A又はBを用いて得た生成油のほうが、セジメントが発生し難く、貯蔵安定性に優れていた。