特許第6773385号(P6773385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6773385-組付け構造体 図000002
  • 特許6773385-組付け構造体 図000003
  • 特許6773385-組付け構造体 図000004
  • 特許6773385-組付け構造体 図000005
  • 特許6773385-組付け構造体 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773385
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】組付け構造体
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/16 20060101AFI20201012BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20201012BHJP
   F02M 61/14 20060101ALI20201012BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   F02M61/16 Q
   F02M61/16 K
   F02M51/06 T
   F02M61/14 310Z
   F02M61/14 320Z
   F02M61/14 320A
   F02F1/24 J
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-19943(P2017-19943)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-127911(P2018-127911A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】中井 絢也
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲池 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 連栄
【審査官】 菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0150939(US,A1)
【文献】 特開平11−241649(JP,A)
【文献】 特開2009−167870(JP,A)
【文献】 特開平07−285056(JP,A)
【文献】 実開平03−079264(JP,U)
【文献】 特開2005−324303(JP,A)
【文献】 特開昭60−228075(JP,A)
【文献】 米国特許第04813600(US,A)
【文献】 特開2000−170627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/00
B24D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にOリングを嵌め込んだ挿入体と、前記挿入体のうちの前記Oリングが嵌め込まれた部分が挿入される組付孔を有する組付対象と、を備える組付け構造体であって、
前記組付孔は、その内周面にクロスハッチング状のブラシ加工痕を有し、
前記Oリングは、前記組付孔の内周面と前記挿入体の外周面とで圧縮されている組付け構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組付け構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
外周にOリングを嵌め込んだ挿入体を組付対象の組付孔に組付けた組付け構造体として、例えばインジェクタをシリンダヘッドやインテークマニホールドの組付孔に組付けた内燃機関を挙げることができる。近年、内燃機関の組立時には、燃料供給管に複数のインジェクタを取り付けたインジェクタアセンブリを内燃機関に組付けることが行なわれている。この場合、インジェクタの数が多くなると、インジェクタアセンブリを組付ける際に非常に大きな押込み荷重が必要となるため、インジェクタアセンブリの組付け作業性が悪いと言う問題がある。
【0003】
上記問題を解決する技術として、例えば特許文献1には、隣接するインジェクタのOリングの取付位置を変えるなどして、隣接するインジェクタの挿入のタイミングをずらす技術が開示されている。このような構成とすることで、インジェクタアセンブリを組付ける際の押込み荷重を約半分にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−191636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、隣接するインジェクタの挿入のタイミングをずらすことでインジェクタアセンブリの組付け時の押込み荷重を低減しているため、押し込みを行う時間が長くなってしまう。特許文献1の技術では、個々の組付孔に対するインジェクタの挿入性が向上するわけではないため、組付けのために必要となるトータルの仕事量を大きく低減できず、組付け構造体の組付け作業性を改善できているとは言い難い。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、組付孔への挿入体の挿入性を向上できる組付け構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る組付け構造体は、
外周にOリングを嵌め込んだ挿入体と、前記挿入体のうちの前記Oリングが嵌め込まれた部分が挿入される組付孔を有する組付対象と、を備える組付け構造体であって、
前記組付孔は、その内周面にブラシ加工痕を有し、
前記Oリングは、前記組付孔の内周面と前記挿入体の外周面とで圧縮されている。
【発明の効果】
【0008】
上記組付け構造体は、作業性良く組付けることができる。組付孔の内周面にブラシ加工痕があることで、Oリングが嵌め込まれた挿入体を組付孔に押し込むための押込み荷重が低減されるからである。押込み荷重が低減するのは、組付孔の内周面にブラシ加工痕のような非常に細かい凹凸があることで、当該内周面に対するOリングの滑りが良くなるからであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に示す内燃機関へのインジェクタアセンブリの組付け手順の概略説明図である。
図2】実施形態1に示すインジェクタの組付け構造体の概略部分断面図である。
図3】実施形態1に示す組付孔の形成方法の一例を示す概略説明図である。
図4】(A)は周回状のブラシ加工痕を有する組付孔の概略図、(B)はクロスハッチ状のブラシ加工痕を有する組付孔の概略図である。
図5】ブラシ加工痕の有無と、インジェクタの押込み荷重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る組付け構造体を図面に基づいて説明する。
【0011】
<実施形態1>
本実施形態では、組付け構造体として内燃機関1を例にして説明する。内燃機関1では、インテークマニホールド2を組付対象とし、インテークマニホールド2に設けられる複数の組付孔5にインジェクタ3(挿入体)を挿入することで、インジェクタ3をインテークマニホールド2に組付ける。本例の内燃機関1では一気筒につき二本のインジェクタ3を組付けるデュアルインジェクタ方式を採用している。なお、組付対象は、シリンダヘッドであっても構わない。
【0012】
≪インジェクタ≫
本例では、図1に示すように、三気筒に対応する六本のインジェクタ3を燃料供給管40に取り付けたインジェクタアセンブリ4の状態でインテークマニホールド2に組付ける(図1は組付け前の状態)。各インジェクタ3の外周には、周方向に延びる周回溝3g(図2参照)が形成されており、その周回溝3gにOリング3rが嵌め込まれている。インジェクタ3自体の構成は特に限定されず、例えばソレノイドインジェクタでも良いし、ピエゾインジェクタでも良い。
【0013】
≪組付孔≫
インテークマニホールド2には、各インジェクタ3に対応する六つの組付孔5が形成されている。組付孔5は、図2に示すように、インジェクタ3のうちのOリング3rが嵌め込まれた部分が挿入される孔であって、本例では、その開口側から順に、逃がし部50、太径部51、テーパー部52、および細径部53を備える。逃がし部50は、インジェクタ3を挿入し易いように開口に向って径が拡がっている部分である。太径部51は、Oリング3rが接触する部分であって、組付孔5にインジェクタ3を挿入したとき、太径部51の内周面とインジェクタ3の外周面との間でOリング3rが圧縮される。細径部53は、インジェクタ3の先端が嵌め込まれる部分であって、その内径は太径部51の内径よりも小さい。テーパー部52は、組付孔5の奥側に行くほど内径が小さくなる部分であって、インジェクタ3の先端を細径部53に案内する役目を持つ。
【0014】
上記組付孔5の内周面、特にOリング3rが接触する太径部51の内周面には、ブラシ加工痕6が形成されている。もちろん、組付孔5の太径部51以外の部分にもブラシ加工痕6があっても構わない。当該内周面にブラシ加工痕6があることで、組付孔5へのインジェクタ3の挿入性を向上できる、即ちインジェクタアセンブリ4の挿入時の押込み荷重を低減できる。
【0015】
≪組付孔の形成方法≫
上述したブラシ加工痕6を有する組付孔5の形成方法は、次のように行うことができる。
外周にOリングを嵌め込んだ挿入体を挿入する組付孔の形成方法であって、
鋳造によって形成された組付対象に設けられる前記組付孔を設計寸法に加工する孔仕上げ工程と、
前記孔仕上げ工程の後に、前記組付孔に回転ブラシを挿入し、前記組付孔の内径寸法を変化させることなく、組付孔の内周面にブラシ加工痕を形成するブラシ加工工程と、を備える組付孔の形成方法。
【0016】
具体的な組付孔5の形成方法を図3,4に基づいて説明する。まず、鋳造によって、組付対象であるインテークマニホールド2(図1参照)を作製する。鋳造時の組付孔5にはバリが多く、またその組付孔5の寸法は、設計寸法よりも若干小さくなっている。そこで、孔仕上げ工程として、組付孔5を設計寸法に加工する。加工にはリーマを利用することができる。加工面である組付孔5の内周面には、リーマによる加工痕が散見される程度で、鏡面状に仕上がっている。
【0017】
次に、図3に示すように、仕上げ加工後の組付孔5にブラシ7を挿入して、組付孔5の内周面を磨く。ブラシ7は、例えば砥粒入りナイロンなどを利用することができる。また、ブラシ7の外径は、ブラシ加工痕6を形成したい部分の内径よりも1mm〜4mm大きくすることが好ましい。
【0018】
ブラシ加工の方法としては、例えば、回転するブラシ7を組付孔5に挿入し、所定時間の間、ブラシ7を軸方向に動かすことなくブラシ7で組付孔5の内周面を磨き、図4(A)に示すような周方向に延びるブラシ加工痕6を組付孔5の内周面に形成することが挙げられる。ブラシ7の回転数は200〜400rpm、ブラシ7の保持時間(組付孔5を磨く時間)は3〜10秒とすることが挙げられる。
【0019】
別のブラシ加工の方法として、回転するブラシ7を組付孔5に挿入し、ブラシ7を軸方向に往復させながら、ブラシ7で組付孔5の内周面を磨き、図4(B)に示すようなクロスハッチ状のブラシ加工痕6を組付孔5の内周面に形成することが挙げられる。ブラシ7の回転数は200〜400rpm、ブラシ7の軸方向の移動速度は、3500〜4000mm/分、ブラシ7の往復回数は10〜20回とすることが挙げられる。
【0020】
ブラシ加工痕6は、目視で確認できる細かい傷跡であって、リーマによる孔仕上げ加工とは明らかに異なる見た目を有する。ここで、図4(B)に示すクロスハッチ状のブラシ加工痕6では、右上がりの擦過痕と右下がりの擦過痕とのなす角のうち、周方向側のなす角は、25°〜40°とすることが好ましい。
【0021】
≪効果≫
ブラシ加工痕6を有する組付孔5とすることで、各組付孔5に対するインジェクタ3の挿入性を向上させることができる。そのため、図1に示すように、インテークマニホールド2の各組付孔5にインジェクタアセンブリ4の各インジェクタ3を位置合わせして、インジェクタ3を押し込む際の押込み荷重を大幅に低減することができる。その結果、インジェクタアセンブリ4の組付け作業性が大幅に改善される。
【0022】
また、ブラシ加工痕6を有する組付孔5へのインジェクタ3の挿入には、オイルなどの潤滑剤を使用する必要がない。そのため、内燃機関1の組立において、潤滑剤の塗布工程を一つ省略できる。また、インジェクタ3の挿入に潤滑剤を使用しないことで、環境負荷要因を一つ減らすことができる。
【0023】
<試験例1>
ブラシ加工の有無によって、各組付孔5へのインジェクタ3の挿入性の変化を調べた。
【0024】
≪試料No.1≫
リーマによる仕上げ加工を施した六つの組付孔5を備えるインテークマニホールド2を用意し(図1参照)、ブラシ加工を施すことなく、各組付孔5に個別にインジェクタ3を押し込むことで、各組付孔5へのインジェクタ3の押込み荷重を調べた。組付孔5の太径部51(図2)の内径は14.00mm、組付けの際には潤滑剤を使用しなかった。押込み荷重の測定結果を図5に示す。図5の横軸は試料番号、縦軸は押込み荷重であって、図中の丸印は6つの押込み荷重の平均値、縦棒はバラツキの範囲を示している。
【0025】
≪試料No.2≫
仕上げ加工後の組付孔5にブラシ加工を施して、図4(A)に示すようなブラシ加工痕6を形成した上で、試料No.1と同様に、潤滑剤未使用での各組付孔5へのインジェクタ3の押込み荷重を調べた。組付孔5の数は6つ、組付孔5の太径部51(図2)の内径は14.00mmであった。また、ブラシ7(図3)の外径は16.00mmであり、ブラシ7の回転数は300rpm、ブラシ加工の時間は5秒とした。押込み荷重の測定結果を図5に示す。
【0026】
≪試料No.3≫
仕上げ加工後の組付孔5にブラシ加工を施して、図4(B)に示すようなクロスハッチ状のブラシ加工痕6を形成した上で、試料No.1と同様に、潤滑剤未使用での各組付孔5へのインジェクタ3の押込み荷重を調べた。組付孔5の数は6つ、組付孔5の太径部51(図2)の内径は14.00mmであった。ブラシ7(図3)の外径は16.00mmであり、ブラシ7の回転数は300rpm、ブラシ7の往復動の速度は3548mm/分、往復回数は20回とした。図4(B)の右上がりの擦過痕と右下がりの擦過痕とのなす角のうち、周方向側のなす角は30°であった。押込み荷重の測定結果を図5に示す。
【0027】
≪試験結果≫
図5に示す試料No.1と試料No.2,3との比較により、仕上げ加工後に組付孔5にブラシ加工を施すことで、インジェクタ3の押込み荷重を約3割程度低減できることが分かった。また、試料No.2と試料No.3との比較により、組付孔5にクロスハッチ状のブラシ加工痕6を形成する方が、インジェクタ3の押込み荷重を低減できることが分かった。
【0028】
<付記>
本発明の組付け構造体は、以下に示すように、複数の挿入体を備える挿入体アセンブリを前提とする組付け構造体であっても良い。
外周にOリングを嵌め込んだ挿入体を複数備える挿入体アセンブリと、各前記挿入体の前記Oリングが嵌め込まれた部分が挿入される組付孔を複数備える組付対象と、を備える組付け構造体であって、
各前記組付孔は、その内周面にブラシ加工痕を有し、
各前記挿入体の前記Oリングは、前記組付孔の内周面と前記挿入体の外周面とで圧縮されている組付け構造体。
ここで、『挿入体』を『インジェクタ』、『挿入体アセンブリ』を『インジェクタアセンブリ』、『組付対象』を『インテークマニホールドまたはシリンダヘッド』、『組付け構造体』を『内燃機関』と読み替えても構わない。
【符号の説明】
【0029】
1 内燃機関(組付け構造体)
2 インテークマニホールド(組付対象)
3 インジェクタ(挿入体) 3g 周回溝 3r Oリング
4 インジェクタアセンブリ 40 燃料供給管
5 組付孔 50 逃がし部 51 太径部 52 テーパー部 53 細径部
6 ブラシ加工痕
7 ブラシ
図1
図2
図3
図4
図5