【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは鋭意検討したところ、下記構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、昇温処理、浸炭処理、拡散処理、降温処理及び焼入処理により被処理体の表面硬化処理を行う浸炭システムであって、
浸炭炉と、
前記浸炭炉に接続されており、一酸化炭素を含む浸炭用ガスと不活性ガスとを前記浸炭炉に導入する1以上の導入路と、
前記浸炭用ガス及び前記不活性ガスの流量を制御する制御部と
を備える浸炭システムであって、
前記制御部は、
前記昇温処理、前記拡散処理、前記降温処理及び前記焼入処理を行う間は、前記浸炭用ガスと前記不活性ガスとを前記浸炭炉に導入し、
前記浸炭処理を行う間は前記浸炭用ガスを前記浸炭炉に導入し、かつ前記不活性ガスの前記浸炭炉への導入を停止するように前記浸炭用ガス及び前記不活性ガスの流量を制御する浸炭システムに関する。
【0009】
当該浸炭システムでは、浸炭処理を行う間は浸炭用ガスを浸炭炉に導入しつつも、不活性ガスの浸炭炉への導入は停止し、他の処理を行う間は浸炭用ガスとともに不活性ガスを浸炭炉に導入している。これにより、浸炭プロセスを通して、浸炭処理の間は一酸化炭素(CO)濃度が高く、それ以外の処理の間はCO濃度を低く抑えることができる。煤の発生量は、CO濃度が高いほど多い傾向にあるので、浸炭処理の間は煤の発生量が多いものの、他の処理の間は煤の発生を抑制することができ、浸炭プロセス全体でみた場合には、高濃度COを供給し続けた場合よりも煤の発生量を大幅に低減することができる。また、浸炭効率は、浸炭処理の間のCO濃度及び浸炭温度に大きく依存することから、浸炭処理以外の処理においてCO濃度を低下させたとしても、浸炭効率の低下はほとんど見られない。このように、浸炭処理を行う間ではCO濃度を高めて迅速かつ均一な浸炭が可能となるとともに、浸炭処理以外の処理を行う間は不活性ガスの導入によりCO濃度を低下させてプロセス全体での煤の発生量を抑制することができ、浸炭処理品の高品質化や歩留まり向上に寄与することができる。
【0010】
前記不活性ガスは窒素ガスであることが好ましい。窒素ガスは、無酸化性であり、取扱い性、入手容易性及びコスト面において優れているので、生産性をより向上させることができる。
【0011】
前記浸炭用ガスはさらに水素を含み、
前記一酸化炭素の体積及び前記水素の体積の合計に占める前記一酸化炭素の体積比率が40〜60体積%であることが好ましい。
【0012】
COと水素(H
2)との体積比率を上記範囲とすることで、浸炭効率が高まって浸炭プロセスの短時間化が可能となり、表面硬化鋼材の製造歩留まりのさらなる向上を図ることができる。
【0013】
前記不活性ガスの体積及び前記浸炭用ガスの体積の合計に占める前記不活性ガスの体積比率が40〜70体積%であることが好ましい。不活性ガスの体積比率を前記範囲とすることで、CO濃度の低下させることができ、煤の発生を効率的に抑制することができる。
【0014】
当該浸炭システムは、500℃以下の温度でメタノールを分解して一酸化炭素と水素とを含む混合ガスを生成する分解筒と、
前記混合ガスから水素の一部を分離除去して前記浸炭用ガスを生成する分離部と
を有する浸炭用ガス生成装置をさらに備えることが好ましい。
【0015】
従来の高温下における触媒反応や酸素バーナーによる燃焼反応を用いる高濃度CO含有浸炭用ガス発生装置では、生成した高温(触媒反応においては950〜1000℃、燃焼反応においては1000℃以上)の高濃度CO含有浸炭用ガスを低温(50℃以下)に冷却する工程が必要となる。しかしこの場合、COが反応して炭素(C)と二酸化炭素(CO
2)になる温度域(600℃〜上記浸炭用ガス生成温度)を通ることから、この冷却段階での炭素(すなわち、煤)が発生することになる。発生した煤は冷却器の熱交換器の能力を低下させるおそれがあるとともに、そのまま生成ガスを浸炭炉に導入すれば、浸炭炉内における煤に起因するトラブルを誘発してしまう。煤の発生は特に緩慢冷却時に顕著であるから、これを回避するためには急速冷却が可能な冷却器を別途設置すればよいものの、冷却器を設けるためのプロセス変更や設定条件の変更、さらなるコストが必要となり、歩留まりを押し下げる要因となる。
【0016】
これに対し、当該浸炭用ガス生成装置では、煤が発生する温度域より低い500℃以下という温度範囲でメタノールを分解してCOとH
2とを含む混合ガスを生成し、この混合ガスから水素の一部を分離除去してCO濃度を高めているので、特段の急速冷却器を用いずとも煤の発生を抑制しながらCO濃度を高めた浸炭用ガスを効率良く生成することができる。
【0017】
本発明はまた、表面硬化鋼材の製造方法であって、
浸炭炉に投入した鋼材を浸炭温度まで加熱する昇温工程、
前記鋼材の表面に炭素を侵入させる浸炭工程、
前記鋼材の表面に侵入させた炭素を前記鋼材の内部に拡散させる拡散工程、
前記鋼材の温度を焼入温度まで低下させる降温工程、及び
前記鋼材を焼入温度で保持する焼入工程
を含み、
前記昇温工程、前記拡散工程、前記降温工程及び前記焼入工程の間は、一酸化炭素を含む浸炭用ガスと不活性ガスとを前記浸炭炉に導入し、
前記浸炭工程の間は前記浸炭用ガスを前記浸炭炉に導入し、前記不活性ガスの前記浸炭炉への導入を停止する表面硬化鋼材の製造方法に関する。
【0018】
当該製造方法では、浸炭処理を行う間では不活性ガスの導入を停止してCO濃度が高めることにより迅速かつ均一な浸炭が可能となるとともに、浸炭処理以外の処理を行う間は不活性ガスの導入によりCO濃度を低下させてプロセス全体での煤の発生量を抑制することができ、高品質の表面硬化鋼材を歩留まり良く製造することができる。
【0019】
当該製造方法において、前記不活性ガスは窒素ガスであることが好ましい。窒素ガスは、無酸化性であり、取扱い性、入手容易性及びコスト面において優れているので、生産性をより向上させることができる。
【0020】
当該製造方法において、
前記浸炭用ガスはさらに水素を含み、
前記一酸化炭素の体積及び前記水素の体積の合計に占める前記一酸化炭素の体積比率が40〜60体積%であることが好ましい。
【0021】
COとH
2との体積比率を上記範囲とすることで、浸炭効率が高まって浸炭プロセスの短時間化が可能となり、表面硬化鋼材の製造歩留まりのさらなる向上を図ることができる。
【0022】
当該製造方法では、前記不活性ガスの体積及び前記浸炭用ガスの体積の合計に占める前記不活性ガスの体積比率が40〜70体積%であることが好ましい。不活性ガスの体積比率を前記範囲とすることで、浸炭処理以外の処理を行う際のCO濃度の低下させることができ、煤の発生を効率的に抑制することができる。
【0023】
当該製造方法に置いて、
前記浸炭用ガスは、
500℃以下の温度でメタノールを分解して一酸化炭素と水素とを含む混合ガスを生成する混合ガス生成工程と、
前記混合ガスから水素の一部を分離除去して前記浸炭用ガスを生成する分離工程と
を経て得られることが好ましい。
【0024】
メタノールの低温分解により、従来の高温の浸炭用ガスの冷却時における煤の発生を抑制することができ、その結果、高濃度COを含む浸炭用ガスを効率良く生成することができる。