【0016】
本発明の塩素化反応において、塩素化度(基質であるp−キシレン1モルに置換した塩素のモル数)は、2.0〜2.8とする。この塩素化度は好ましくは2.1〜2.7、より好ましくは2.2〜2.6である。
また、この塩素化度は、25DCPXを純度99.9%以上に高純度化するための分離処理方法に応じて上記範囲内で適宜に調節することができる。例えば、蒸留処理のみにより純度99.9%以上の25DCPXを得たい場合には、塩素化度を2.4〜2.8(好ましくは2.4〜2.7、より好ましくは2.4〜2.6)にすることが好ましい。こうすることで、塩素化反応により得られるクロロ化−p−キシレン混合物中の25DCPXの含有量(すなわち全クロロ化−p−キシレン中に占める25DCPXの割合)を40%以上(好ましくは45%以上、さらに好ましくは48%以上)とし、且つ、23DCPXの含有量については0.3%以下(好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下)にまで高度に低減することができる。それ故、蒸留処理のみで、純度99.9%以上の25DCPXを優れた収率で得ることが可能になる。
また、蒸留処理と再結晶処理とを組み合わせて25DCPXを分離する場合には、塩素化度を2.0〜2.3とすることが好ましい。この塩素化度の範囲内で塩素化反応することにより、得られるクロロ化−p−キシレン混合物中の25DCPXの含有量を65%以上(好ましくは70%以上)にまで高め、且つ、23DCPXの含有量は10%以下(好ましくは8.5%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下)にまで低減することができる。結果、蒸留処理と再結晶処理とを組み合わせた分離処理により、純度99.9%以上の25DCPXを高い収率で得ることが可能になる。上記の蒸留処理と再結晶処理とを組み合わせた25DCPXの分離処理は、下記工程(a)及び(b)からなることが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明について実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
なお、測定は、以下に示す方法に従って行った。
− 純度及び粗生成物の組成比の測定 −
下記の測定装置及び測定条件により、純度及び組成比を測定した。
・測定装置:ガスクロマトグラフィー(検出器:FID)
・純度(%):(25DCPXのピーク面積/全ピークの総面積)×100
・組成比(%):(各クロロ化−p−キシレンのピーク面積/全ピークの総面積)×100
【0022】
実施例1
5000mlの丸底フラスコ中のp−キシレン3900g(36.7モル)に、撹拌下で、塩化第二鉄5.96g(0.036モル)及びジフェニルスルフィド6.84g(0.036モル)を加えた。ついで、撹拌している混合物の温度を30℃に上げ、同温度で、気体状の塩素6772gを35時間かけて吹き込んだ。反応混合物の凝固温度を基準に徐々に温度を約60℃まで上昇させた。その間の塩素化度と25DCPXと23DCPXの比率を測定した値は以下の表1の通りである。反応終了後の反応混合物(以下、粗生成物と称す。)をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(粗生成物の組成比)
塩素化度(p−キシレン 1モルに置換した塩素のモル数) 2.58
25DCPX 50.0 %
23DCPX 0.02%
トリクロロ−p−キシレン 42.7 %
テトラクロロ−p−キシレン 7.4 %
この粗生成物に窒素パージを行い塩化水素、残留塩素を除去し、次いで蒸留処理した。蒸留処理は20段の精留塔を用いて行い、減圧下、塔頂より25DCPXを留出させた。留出液を塔頂温度で管理し、純度99.97%の25DCPXを2611g(p−キシレンに対する収率40.6%)得た。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例2
500mlの丸底フラスコ中のp−キシレン330g(3.1モル)に、撹拌下で、塩化第二鉄0.50g(0.003モル)及びジフェニルスルフィド0.58g(0.003モル)を加えた。ついで、撹拌している混合物の温度を30℃に上げ、同温度で、気体状の塩素521gを8時間かけて吹き込んだ。反応混合物の凝固温度を基準に徐々に温度を約60℃まで上昇させた。塩素化反応のあと、粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(粗生成物の組成比)
塩素化度(p−キシレン 1モルに置換した塩素のモル数) 2.21
25DCPX 74.5 %
23DCPX 5.1 %
トリクロロ−p−キシレン 19.9 %
テトラクロロ−p−キシレン 0.5 %
この粗生成物に対し、実施例1と同様に窒素パージと蒸留処理を行い、純度93.9%の粗25DCPX255.6gを得た。これにイソプロピルアルコール281.8gを加え60℃に加熱し結晶を溶解させた後、19℃まで冷却して結晶化させることで、純度99.9%の25DCPXを187g(収率53.4%)得た。
【0025】
実施例3
100mlの丸底フラスコ中のp−キシレン40g(0.38モル)に、撹拌下で、三塩化アンチモン0.09g(0.0004モル)及びジフェニルスルフィド0.07g(0.0004モル)を加えた。ついで、撹拌している混合物の温度を30℃に上げ、同温度で、気体状の塩素を7時間かけて吹き込んだ。反応混合物の凝固温度を基準に徐々に温度を約60℃まで上昇させた。塩素化反応のあと、粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(粗生成物の組成比)
塩素化度(p−キシレン 1モルに置換した塩素のモル数) 2.48
25DCPX 54.0 %
23DCPX 0.01%
トリクロロ−p−キシレン 39.2 %
テトラクロロ−p−キシレン 6.8 %
【0026】
比較例1
実施例3において、三塩化アンチモンの代わりに塩化第二鉄0.065g(0.0004モル)、ジフェニルスルフィドに代わりにジオクチルスルフィド0.10g(0.0004モル)を使用し、塩素の吹き込み時間を7時間から5時間に変更した以外は実施例3と同様にして反応させた。塩素化度は2.06であり、25DCPXと23DCPXの比率は25DCPX:23DCPX=79.8:20.4であった。さらに同様の方法で2時間塩素を吹き込み、塩素化度2.75とした時の粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(塩素化度2.75とした粗生成物の組成比)
25DCPX 31.71%
23DCPX 1.83%
トリクロロ−p−キシレン 56.50%
テトラクロロ−p−キシレン 9.70%
粗生成物中には、23DCPXが1.83%も残っていた。これでは蒸留によって純度99.9%以上の25DCPXを得ることはできない。しかも目的の25DCPXの含有量が実施例1及び2に比較して非常に少ない。再結晶を行うと純度は高められるが、収率が非常に低くなることは明白であり、これ以上の分離は行わなかった。
【0027】
比較例2
実施例3において、三塩化アンチモン及びジフェニルスルフィドの代わりに塩化第二鉄と硫黄粉末をそれぞれ0.0004モル使用した以外は実施例3と同様にして塩素化を行った。2時間で塩素化度は1.28であり、25DCPXと23DCPXの比率は25DCPX:23DCPX=84.0:16.0であった。さらに同様の方法で6時間塩素を吹き込み、塩素化度2.82とした時の粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(塩素化度2.82とした粗生成物の組成比)
25DCPX 28.30%
23DCPX 0.05%
トリクロロ−p−キシレン 56.27%
テトラクロロ−p−キシレン 14.12%
この粗生成物を蒸留により純度99.9%以上の25DCPXにすることはできる。しかし収率が非常に低くなることは明白であり、これ以上の分離は行わなかった。
【0028】
上記のように、助触媒としてジオクチルスルフィドを用いた比較例1では、塩素化度を2.75にまで高めても23DCPXが粗生成物中に1.83%も含有され、蒸留により純度99.9%以上の25DCPXを得ることができない。また25DCPXの生成量も少ないため、再結晶を行って25DCPXの純度を高めた場合、25DCPXの収率が低く製造効率に劣るものとなる。
また、助触媒として硫黄粉末を用いた比較例2では、蒸留により純度99.9%以上の25DCPXを得ることは可能である。しかしこの場合も、収率が低く製造効率に劣るものとなる。
これに対し実施例1は、本発明で規定する触媒及び助触媒の存在下、塩素化度2.58の塩素化条件でp−キシレンの塩素化反応を行い、次いで25DCPXを分離したものである。表1に示すように、塩素化度が2以上となると急激に、異性体である23DCPXが消失し、25DCPXの選択率が向上することがわかった。また、塩素化度2.58では25DCPXと23DCPXの粗生成物中での組成が50.0%と0.02%になり、単純な蒸留処理のみにより純度99.97%の25DCPXを高い収率で得ることができた。
また実施例2は、本発明で規定する触媒と助触媒の存在下、塩素化度2.21の塩素化条件でp−キシレンの塩素化反応を行い、次いで25DCPXを分離したものである。この場合、粗生成物中の25DCPXの生成量が高い状態(74.5%)で、23DCPXの生成量については5.1%にまで低減でき、蒸留処理によりトリクロロ体及びテトラクロロ体を取り除いた後、再結晶処理に付すことで、純度99.9%の25DCPXを高い収率で得ることができた。
実施例3は、本発明で規定する触媒と助触媒の存在下、塩素化度2.48の塩素化条件でp−キシレンの塩素化反応を行い、25DCPXを合成したものである。得られた粗生成物中の23DCPXの含有量を0.01%、25DCPXの含有量を54.0%とすることができた。そのため、実施例1同様、単純な蒸留処理のみにより、純度99.9%以上の25DCPXを高い収率で得ることができる。
【0029】
参考例1及び比較例3〜5
その他のルイス酸(触媒)、助触媒の有効性を確かめた結果を下記表2にまとめて示す。ここで、参考例1は実施例1の途中分析結果である。
【0030】
【表2】
【0031】
触媒として三塩化アルミニウムを用いた比較例3は、塩素化反応によって25DCPXと23DCPXの選択率が参考例1の塩化鉄を触媒に用いた時より悪く、25DCPXの絶対得量が劣ることは明白である。
また、触媒として塩化第一銅、塩化亜鉛を用いた比較例4及び5は、p−キシレンの塩素化反応によるジクロロ化が非常に遅く、製造効率に劣るものであった。
以上の通り、本発明で規定する特定の触媒及び助触媒を組み合わせて用いて、本発明で規定する範囲の塩素化度でp−キシレンを塩素化することにより、純度99.9%以上の25DCPXを収率よく得ることが可能となる。