特許第6773448号(P6773448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6773448高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773448
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/12 20060101AFI20201012BHJP
   C07C 25/125 20060101ALI20201012BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20201012BHJP
【FI】
   C07C17/12
   C07C25/125
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-81191(P2016-81191)
(22)【出願日】2016年4月14日
(65)【公開番号】特開2017-190306(P2017-190306A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】393021967
【氏名又は名称】イハラニッケイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】山岡 具倫
(72)【発明者】
【氏名】杉山 進
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−101927(JP,A)
【文献】 米国特許第03035103(US,A)
【文献】 国際公開第97/043041(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101628861(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/00
C07C 25/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンからなる触媒とジアリールスルフィドからなる助触媒の存在下、p−キシレンと塩素とを反応させ該p−キシレンを塩素化度2.2〜2.6に塩素化し、得られた反応生成物を、(I)蒸留処理、又は(II)蒸留処理と再結晶処理との組み合わせに付して、純度99.9%以上の2,5−ジクロロ−p−キシレンを得ることを特徴とする、高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
【請求項2】
前記ジアリールスルフィドがジフェニルスルフィドであることを特徴とする請求項1に記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
【請求項3】
前記塩素化度を2.4〜2.6とする塩素化によって得られた反応生成物を、前記(I)の蒸留処理に付すことを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
【請求項4】
前記塩素化度を2.2〜2.3とする塩素化によって得られた反応生成物を、下記工程(a)及び(b)に付すことを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
工程(a)
蒸留処理により、前記反応生成物から2,5−ジクロロ−p−キシレン及び2,3−ジクロロ−p−キシレンを含有するジクロロパラキシレン混合物を分離する工程、及び
工程(b)
再結晶処理により、前記ジクロロパラキシレン混合物から純度99.9%以上の2,5−ジクロロ−p−キシレンを得る工程。
【請求項5】
前記高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法において、純度99.9%以上の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの収率が、原料として用いたp−キシレンに対して30%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
【請求項6】
下記(i)又は(ii)のクロロ化−p−キシレン混合物の製造方法により得られたクロロ化−p−キシレン混合物から純度99.9%以上の2,5−ジクロロ−p−キシレンを得ることを特徴とする、高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
(i)
塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンからなる触媒とジアリールスルフィドからなる助触媒の存在下、p−キシレンと塩素とを反応させ該p−キシレンを塩素化度2.4〜2.6に塩素化し、ガスクロマトグラフのピーク面積比で、全クロロ化−p−キシレン中に占める2,5−ジクロロ−p−キシレンの割合が40%以上、2,3−ジクロロ−p−キシレンの割合が0.3%以下であるクロロ化−p−キシレン混合物を得ることを特徴とする、クロロ化−p−キシレン混合物の製造方法。
(ii)
塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンからなる触媒とジアリールスルフィドからなる助触媒の存在下、p−キシレンと塩素とを反応させ該p−キシレンを塩素化度2.2〜2.3に塩素化し、ガスクロマトグラフのピーク面積比で、全クロロ化−p−キシレン中に占める2,5−ジクロロ−p−キシレンの割合が65%以上、2,3−ジクロロ−p−キシレンの割合が10%以下のクロロ化−p−キシレン混合物を得ることを特徴とする、クロロ化−p−キシレン混合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,5−ジクロロ−p−キシレン(以下「25DCPX」とも称す。)は、高機能性樹脂のポリフェニレンサルファイドやポリフェニルスルホンの原料であるp−ジクロロベンゼンの代替としての利用が提案されている。25DCPXは、p−キシレンを触媒の存在下、塩素ガスと反応させて合成することができる。この合成方法では、副産物である、25DCPX以外のクロロ化−p−キシレンの生成が不可避であり、特に25DCPXの異性体である2,3−ジクロロ−p−キシレン(以下、23DCPXとも称す。)が多く生成する。
【0003】
上記の合成方法において目的化合物でない23DCPXの生成量を減らす方法が検討され、反応触媒の種類や、また助触媒を共に使用する方法も検討されている。例えば、特許文献1の実施例1には、硫化第一鉄を触媒として用いてp−キシレンを塩素化すると、25DCPXと23DCPXの生成割合が25DCPX:23DCPX=77.1:15.6の反応生成物が得られたこと、この反応生成物に約60℃のイソプロピルアルコールを加え混合し、次いで冷却して結晶化させることにより、純度93.5%の25DCPXを得たことが記載されている。
また特許文献2の実施例2には、三塩化アンチモンを触媒とし、ビス(p−クロロフェニル)スルフィドを助触媒として用いてp−キシレンを塩素化することによって、25DCPXと23DCPXの生成割合が25DCPX:23DCPX=80.9:13.8の反応生成物が得られたこと、この反応生成物をイソプロピルアルコールを用いて結晶化させると25DCPXが90%以上の純度で得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−53246号公報
【特許文献2】特公昭60−26773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、合成樹脂の機能を高め、より高性能の樹脂材料を得るために、原料とする25DCPXには99.9%以上の高い純度が求められるようになってきている。しかし、上記特許文献1及び2記載の技術を含む従来の方法では、得られる25DCPXの純度は95%程度に過ぎない。
【0006】
p−キシレンの塩素化は、塩素を順次導入する逐次反応であるため、上述の通り、目的物である25DCPXとその異性体(23DCPX)の他、25DCPXとは塩素の数が異なる複数種のクロロ化−p−キシレンとの混合物が生成される。それらのうち、モノクロロ−p−キシレン、トリクロロ−p−キシレン及びテトラクロロ−p−キシレンは、25DCPXとの沸点の差が大きく、蒸留処理で容易に25DCPXと分離できる。しかし、25DCPXの異性体である23DCPXは、25DCPXと沸点が近く、蒸留により23DCPXを分離除去するのは容易ではない。再結晶処理により25DCPXの純度を高めることは可能ではあるが、それでも目的の高純度化を達成するには再結晶処理を繰り返す必要がある。この場合、精製ロスが大きく収率が悪化する。
【0007】
そこで本発明は、純度99.9%以上の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンを高収率で得ることができる高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、2,5−ジクロロ−p−キシレンを製造するに当たり、p−キシレンの塩素化反応における塩素化度、触媒、助触媒の組み合わせについて検討を重ねた。その結果、塩素化反応に使用する触媒と助触媒に特定の組み合わせを採用し、さらに塩素化反応における塩素化度(p−キシレン1モルに置換した塩素のモル数)を特定の範囲にまで高めた場合に、生成する23DCPXを25DCPXよりも優先的にトリクロロ体へと変化させることができることを見い出した。すなわち本発明者らは、特定の触媒と助触媒の存在下、塩素化度を特定のレベルまで高めてp−キシレンの塩素化反応を行うことにより、生成するジクロロ−p−キシレン異性体において、23DCPXを優先的に塩素化してトリクロロ体とすることができ、結果、25DCPXの絶対量を十分に確保しながら、ジクロロ−p−キシレンの異性体比率における23DCPXの割合を効果的に低減できることを見い出した。トリクロロ−p−キシレンはジクロロ−p−キシレンと沸点の差が大きく、両者は蒸留によって容易に分離することができる。それ故、目的の高純度25DCPXを少ない分離処理工程で得ることが可能となり、高純度25DCPXの収率を大きく高めることができる。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
[1]
塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンからなる触媒とジアリールスルフィドからなる助触媒の存在下、p−キシレンと塩素とを反応させ該p−キシレンを塩素化度2.2〜2.6に塩素化し、得られた反応生成物を、(I)蒸留処理、又は(II)蒸留処理と再結晶処理との組み合わせに付して、純度99.9%以上の2,5−ジクロロ−p−キシレンを得ることを特徴とする、高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
[2]
前記ジアリールスルフィドがジフェニルスルフィドであることを特徴とする[1]に記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
[3]
前記塩素化度を2.4〜2.6とする塩素化によって得られた反応生成物を、前記(I)の蒸留処理に付すことを特徴とする[1]又は[2]に記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
[4]
前記塩素化度を2.2〜2.3とする塩素化によって得られた反応生成物を、下記工程(a)及び(b)に付すことを特徴とする[1]又は[2]に記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
工程(a)
蒸留処理により、前記反応生成物から2,5−ジクロロ−p−キシレン及び2,3−ジクロロ−p−キシレンを含有するジクロロパラキシレン混合物を分離する工程、及び
工程(b)
再結晶処理により、前記ジクロロパラキシレン混合物から純度99.9%以上の2,5−ジクロロ−p−キシレンを得る工程。
[5]
前記高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法において、純度99.9%以上の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの収率が、原料として用いたp−キシレンに対して30%以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
[6]
下記(i)又は(ii)のクロロ化−p−キシレン混合物の製造方法により得られたクロロ化−p−キシレン混合物から純度99.9%以上の2,5−ジクロロ−p−キシレンを得ることを特徴とする、高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法。
(i)
塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンからなる触媒とジアリールスルフィドからなる助触媒の存在下、p−キシレンと塩素とを反応させ該p−キシレンを塩素化度2.4〜2.6に塩素化し、ガスクロマトグラフのピーク面積比で、全クロロ化−p−キシレン中に占める2,5−ジクロロ−p−キシレンの割合が40%以上、2,3−ジクロロ−p−キシレンの割合が0.3%以下であるクロロ化−p−キシレン混合物を得ることを特徴とする、クロロ化−p−キシレン混合物の製造方法。
(ii)
塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンからなる触媒とジアリールスルフィドからなる助触媒の存在下、p−キシレンと塩素とを反応させ該p−キシレンを塩素化度2.2〜2.3に塩素化し、ガスクロマトグラフのピーク面積比で、全クロロ化−p−キシレン中に占める2,5−ジクロロ−p−キシレンの割合が65%以上、2,3−ジクロロ−p−キシレンの割合が10%以下のクロロ化−p−キシレン混合物を得ることを特徴とする、クロロ化−p−キシレン混合物の製造方法。
【0010】
本明細書において、組成、純度、使用量、収率を表す「%」、「部」は、特段の断りのない限りモル基準である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高純度25DCPXの製造方法によれば、純度99.9%以上の高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンを、好収率で、操作上効率良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施態様について以下に説明する。
<高純度2,5−ジクロロ−p−キシレンの製造方法>
上述のように、触媒(及び助触媒)の存在下、p−キシレンと塩素とを反応させるp−キシレンの塩素化反応により、目的物である25DCPXと、その異性体である23DCPXと、塩素の置換数が異なるクロロ化−p−キシレン(モノクロロ−p−キシレン、トリクロロ−p−キシレン及びテトラクロロ−p−キシレン)との混合物(以下、クロロ化−p−キシレン混合物と称す。)が生成される。
本発明の高純度25DCPXの製造方法では、触媒として塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンを用い、さらに助触媒としてジアリールスルフィドを用いる。これらの触媒及び助触媒の存在下、塩素化度2.0〜2.8の塩素化条件で、p−キシレンと塩素とを反応させることにより、25DCPXを十分量生成させることができ、同時に25DCPXの異性体である23DCPXを優先的にトリクロロ体へと変化させることができる。この結果、分離しやすい塩素化反応生成物(p−キシレンのジクロロ化物とトリクロロ化物の混合物)を蒸留処理するだけで、あるいは蒸留処理に加え再結晶処理を例えば1度実施するだけで、純度99.9%以上の25DCPXを得ることができる。すなわち、目的の極めて高純度の25DCPXを高い収率で得ることができる。
【0013】
−触媒−
本発明における塩素化反応では、触媒として塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンを用いる。すなわち、触媒として塩化第二鉄を用いてもよいし、三塩化アンチモンを用いてもよいし、塩化第二鉄と三塩化アンチモンを併用してもよい。
本発明において、基質であるp−キシレン100部に対する触媒の使用量は、0.01〜10.0部が好ましく、0.01〜1部がより好ましい。
本発明では、触媒である塩化第二鉄及び/又は三塩化アンチモンと、後述する、助触媒であるジアリールスルフィドとを組み合わせた触媒システムを採用する。
【0014】
−助触媒−
助触媒として用いるジアリールスルフィドにおけるアリール基は、フェニル基、置換フェニル基が好ましい。かかる置換フェニル基における置換基としてはハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)又は炭素数1〜4の低級アルキル基が好ましい。本発明では塩素化反応中に、助触媒自身も塩素化されるので、安価で入手容易なジフェニルスルフィドを用いることができる。なお、本明細書において単に「ジフェニルスルフィド」という場合、無置換のジフェニルスルフィドを意味する。
本発明における塩素化反応において、触媒の使用量と助触媒の使用量の比は、モル比で、触媒:助触媒=1:10〜10:1が好ましく、1:5〜5:1がより好ましく、1:2〜2:1がさらに好ましい。
【0015】
−反応条件−
p−キシレンを塩素と反応させる塩素化反応における反応温度は、通常15〜100℃であり、15〜60℃がより好ましい。塩素は気体状又は液体状の塩素を用いて行うことができる。
塩素化反応における反応時間は、反応スケールと塩素の吹き込み設備の能力により変化するが、通常は2〜40時間である。
本発明において、塩素化反応は溶媒の非存在下で行うことも、必要に応じて本発明の反応条件下で安定な溶媒を使用する事もできる。使用可能な溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロメチルベンゼン、p−クロロトリフルオロメチルベンゼン、o−クロロトリフルオロメチルベンゼン等のフッ素系芳香族炭化水素を挙げることができる。これらは1種を単独で用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。溶媒を使用する場合、p−キシレン1モル当たり使用する溶媒の使用量は、好ましくは100ml以上、より好ましくは200〜2000mlである。
【0016】
本発明の塩素化反応において、塩素化度(基質であるp−キシレン1モルに置換した塩素のモル数)は、2.0〜2.8とする。この塩素化度は好ましくは2.1〜2.7、より好ましくは2.2〜2.6である。
また、この塩素化度は、25DCPXを純度99.9%以上に高純度化するための分離処理方法に応じて上記範囲内で適宜に調節することができる。例えば、蒸留処理のみにより純度99.9%以上の25DCPXを得たい場合には、塩素化度を2.4〜2.8(好ましくは2.4〜2.7、より好ましくは2.4〜2.6)にすることが好ましい。こうすることで、塩素化反応により得られるクロロ化−p−キシレン混合物中の25DCPXの含有量(すなわち全クロロ化−p−キシレン中に占める25DCPXの割合)を40%以上(好ましくは45%以上、さらに好ましくは48%以上)とし、且つ、23DCPXの含有量については0.3%以下(好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下)にまで高度に低減することができる。それ故、蒸留処理のみで、純度99.9%以上の25DCPXを優れた収率で得ることが可能になる。
また、蒸留処理と再結晶処理とを組み合わせて25DCPXを分離する場合には、塩素化度を2.0〜2.3とすることが好ましい。この塩素化度の範囲内で塩素化反応することにより、得られるクロロ化−p−キシレン混合物中の25DCPXの含有量を65%以上(好ましくは70%以上)にまで高め、且つ、23DCPXの含有量は10%以下(好ましくは8.5%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下)にまで低減することができる。結果、蒸留処理と再結晶処理とを組み合わせた分離処理により、純度99.9%以上の25DCPXを高い収率で得ることが可能になる。上記の蒸留処理と再結晶処理とを組み合わせた25DCPXの分離処理は、下記工程(a)及び(b)からなることが好ましい。
【0017】
工程(a)
蒸留処理により、クロロ化−p−キシレン混合物から25DCPX及び23DCPXを含有するジクロロパラキシレン混合物を分離する工程、及び
工程(b)
再結晶処理により、前記ジクロロパラキシレン混合物から2,5−ジクロロ−p−キシレンを分離する工程。
【0018】
塩素化反応により得られる反応生成物(クロロ化−p−キシレン混合物)から25DCPXを分離する方法(蒸留処理、再結晶処理)について説明する。
(蒸留処理)
蒸留処理の方法に特に制限はなく、通常の方法を採用することができる。例えば、精留塔を備えた設備で減圧下蒸留を行い塔頂より留出させる。留出液は塔頂温度で管理を行いモノクロロ体と分離することにより25DCPXを分離することができる。
【0019】
(再結晶処理)
25DCPXを再結晶により分離する方法も特に制限はなく、通常の方法を採用することができる。再結晶溶剤は、例えばアルコールが好ましく、炭素数5以下の低級アルコールがより好ましく、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール及び各種異性体ブタノールから選択されるいずれかがさらに好ましく、2−プロパノールが特に好ましい。再結晶溶剤の量は25DCPXの粗体1g当たり0.25〜10.0gが好ましく、0.5〜5.0gがより好ましい。
【0020】
本発明の高純度25DCPXの製造方法により得られる、純度99.9%以上の25DCPXの収率は、原料として用いたp−キシレンに対して(p−キシレンのモル数を100%とした場合)30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。
上記収率は、下記式により算出される値である。
収率(%)=100×(純度99.9%の25DCPXのモル数)/(原料として用いたp−キシレンのモル数)
【実施例】
【0021】
以下に、本発明について実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
なお、測定は、以下に示す方法に従って行った。
− 純度及び粗生成物の組成比の測定 −
下記の測定装置及び測定条件により、純度及び組成比を測定した。
・測定装置:ガスクロマトグラフィー(検出器:FID)
・純度(%):(25DCPXのピーク面積/全ピークの総面積)×100
・組成比(%):(各クロロ化−p−キシレンのピーク面積/全ピークの総面積)×100
【0022】
実施例1
5000mlの丸底フラスコ中のp−キシレン3900g(36.7モル)に、撹拌下で、塩化第二鉄5.96g(0.036モル)及びジフェニルスルフィド6.84g(0.036モル)を加えた。ついで、撹拌している混合物の温度を30℃に上げ、同温度で、気体状の塩素6772gを35時間かけて吹き込んだ。反応混合物の凝固温度を基準に徐々に温度を約60℃まで上昇させた。その間の塩素化度と25DCPXと23DCPXの比率を測定した値は以下の表1の通りである。反応終了後の反応混合物(以下、粗生成物と称す。)をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(粗生成物の組成比)
塩素化度(p−キシレン 1モルに置換した塩素のモル数) 2.58
25DCPX 50.0 %
23DCPX 0.02%
トリクロロ−p−キシレン 42.7 %
テトラクロロ−p−キシレン 7.4 %
この粗生成物に窒素パージを行い塩化水素、残留塩素を除去し、次いで蒸留処理した。蒸留処理は20段の精留塔を用いて行い、減圧下、塔頂より25DCPXを留出させた。留出液を塔頂温度で管理し、純度99.97%の25DCPXを2611g(p−キシレンに対する収率40.6%)得た。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例2
500mlの丸底フラスコ中のp−キシレン330g(3.1モル)に、撹拌下で、塩化第二鉄0.50g(0.003モル)及びジフェニルスルフィド0.58g(0.003モル)を加えた。ついで、撹拌している混合物の温度を30℃に上げ、同温度で、気体状の塩素521gを8時間かけて吹き込んだ。反応混合物の凝固温度を基準に徐々に温度を約60℃まで上昇させた。塩素化反応のあと、粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(粗生成物の組成比)
塩素化度(p−キシレン 1モルに置換した塩素のモル数) 2.21
25DCPX 74.5 %
23DCPX 5.1 %
トリクロロ−p−キシレン 19.9 %
テトラクロロ−p−キシレン 0.5 %
この粗生成物に対し、実施例1と同様に窒素パージと蒸留処理を行い、純度93.9%の粗25DCPX255.6gを得た。これにイソプロピルアルコール281.8gを加え60℃に加熱し結晶を溶解させた後、19℃まで冷却して結晶化させることで、純度99.9%の25DCPXを187g(収率53.4%)得た。
【0025】
実施例3
100mlの丸底フラスコ中のp−キシレン40g(0.38モル)に、撹拌下で、三塩化アンチモン0.09g(0.0004モル)及びジフェニルスルフィド0.07g(0.0004モル)を加えた。ついで、撹拌している混合物の温度を30℃に上げ、同温度で、気体状の塩素を7時間かけて吹き込んだ。反応混合物の凝固温度を基準に徐々に温度を約60℃まで上昇させた。塩素化反応のあと、粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(粗生成物の組成比)
塩素化度(p−キシレン 1モルに置換した塩素のモル数) 2.48
25DCPX 54.0 %
23DCPX 0.01%
トリクロロ−p−キシレン 39.2 %
テトラクロロ−p−キシレン 6.8 %
【0026】
比較例1
実施例3において、三塩化アンチモンの代わりに塩化第二鉄0.065g(0.0004モル)、ジフェニルスルフィドに代わりにジオクチルスルフィド0.10g(0.0004モル)を使用し、塩素の吹き込み時間を7時間から5時間に変更した以外は実施例3と同様にして反応させた。塩素化度は2.06であり、25DCPXと23DCPXの比率は25DCPX:23DCPX=79.8:20.4であった。さらに同様の方法で2時間塩素を吹き込み、塩素化度2.75とした時の粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(塩素化度2.75とした粗生成物の組成比)
25DCPX 31.71%
23DCPX 1.83%
トリクロロ−p−キシレン 56.50%
テトラクロロ−p−キシレン 9.70%
粗生成物中には、23DCPXが1.83%も残っていた。これでは蒸留によって純度99.9%以上の25DCPXを得ることはできない。しかも目的の25DCPXの含有量が実施例1及び2に比較して非常に少ない。再結晶を行うと純度は高められるが、収率が非常に低くなることは明白であり、これ以上の分離は行わなかった。
【0027】
比較例2
実施例3において、三塩化アンチモン及びジフェニルスルフィドの代わりに塩化第二鉄と硫黄粉末をそれぞれ0.0004モル使用した以外は実施例3と同様にして塩素化を行った。2時間で塩素化度は1.28であり、25DCPXと23DCPXの比率は25DCPX:23DCPX=84.0:16.0であった。さらに同様の方法で6時間塩素を吹き込み、塩素化度2.82とした時の粗生成物をガスクロマトグラフ法で分析した結果、次の組成を有することがわかった。
(塩素化度2.82とした粗生成物の組成比)
25DCPX 28.30%
23DCPX 0.05%
トリクロロ−p−キシレン 56.27%
テトラクロロ−p−キシレン 14.12%
この粗生成物を蒸留により純度99.9%以上の25DCPXにすることはできる。しかし収率が非常に低くなることは明白であり、これ以上の分離は行わなかった。
【0028】
上記のように、助触媒としてジオクチルスルフィドを用いた比較例1では、塩素化度を2.75にまで高めても23DCPXが粗生成物中に1.83%も含有され、蒸留により純度99.9%以上の25DCPXを得ることができない。また25DCPXの生成量も少ないため、再結晶を行って25DCPXの純度を高めた場合、25DCPXの収率が低く製造効率に劣るものとなる。
また、助触媒として硫黄粉末を用いた比較例2では、蒸留により純度99.9%以上の25DCPXを得ることは可能である。しかしこの場合も、収率が低く製造効率に劣るものとなる。
これに対し実施例1は、本発明で規定する触媒及び助触媒の存在下、塩素化度2.58の塩素化条件でp−キシレンの塩素化反応を行い、次いで25DCPXを分離したものである。表1に示すように、塩素化度が2以上となると急激に、異性体である23DCPXが消失し、25DCPXの選択率が向上することがわかった。また、塩素化度2.58では25DCPXと23DCPXの粗生成物中での組成が50.0%と0.02%になり、単純な蒸留処理のみにより純度99.97%の25DCPXを高い収率で得ることができた。
また実施例2は、本発明で規定する触媒と助触媒の存在下、塩素化度2.21の塩素化条件でp−キシレンの塩素化反応を行い、次いで25DCPXを分離したものである。この場合、粗生成物中の25DCPXの生成量が高い状態(74.5%)で、23DCPXの生成量については5.1%にまで低減でき、蒸留処理によりトリクロロ体及びテトラクロロ体を取り除いた後、再結晶処理に付すことで、純度99.9%の25DCPXを高い収率で得ることができた。
実施例3は、本発明で規定する触媒と助触媒の存在下、塩素化度2.48の塩素化条件でp−キシレンの塩素化反応を行い、25DCPXを合成したものである。得られた粗生成物中の23DCPXの含有量を0.01%、25DCPXの含有量を54.0%とすることができた。そのため、実施例1同様、単純な蒸留処理のみにより、純度99.9%以上の25DCPXを高い収率で得ることができる。
【0029】
参考例1及び比較例3〜5
その他のルイス酸(触媒)、助触媒の有効性を確かめた結果を下記表2にまとめて示す。ここで、参考例1は実施例1の途中分析結果である。
【0030】
【表2】
【0031】
触媒として三塩化アルミニウムを用いた比較例3は、塩素化反応によって25DCPXと23DCPXの選択率が参考例1の塩化鉄を触媒に用いた時より悪く、25DCPXの絶対得量が劣ることは明白である。
また、触媒として塩化第一銅、塩化亜鉛を用いた比較例4及び5は、p−キシレンの塩素化反応によるジクロロ化が非常に遅く、製造効率に劣るものであった。
以上の通り、本発明で規定する特定の触媒及び助触媒を組み合わせて用いて、本発明で規定する範囲の塩素化度でp−キシレンを塩素化することにより、純度99.9%以上の25DCPXを収率よく得ることが可能となる。