(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化還元酵素は、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ラクテートオキシダーゼ及びラクテートデヒドロゲナーゼからなる群から選択される、請求項1記載のバイオセンサ。
前記電気化学的測定は、前記試料中のグルコース又はラクテートと前記酸化還元酵素との反応を1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムエチルサルフェート及びルテニウム化合物を介して行うことを含む、請求項5記載の測定方法。
前記試料と酸化還元酵素との接触後に前記バイオセンサの電極系に電圧を印加すること、前記印加により放出される応答電流値を測定すること、及び、前記応答電流値に基づいて前記試料中のグルコース又はラクテートの濃度を算出することを含む、請求項7記載の測定方法。
絶縁性基板に配置された作用極及び対極を有する電極系上に、酸化還元酵素及び1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムエチルサルフェートを含む試薬層を形成することを含む、グルコース又はラクテートを測定するためのバイオセンサの製造方法。
前記試薬層の形成において、酸化還元酵素、1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムエチルサルフェート及びルテニウム化合物を含む試薬層を形成することを含む、請求項9記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、一態様において、メディエータとしてメチルフェナジニウムエチルサルフェート(PES)を使用してバイオセンサを作製することによって、メチルフェナジニウムメチルサルフェート(PMS)を使用したバイオセンサと比較して、グルコースセンサ及びラクテートセンサの耐湿度性を向上できるという知見に基づく。
本開示は、一態様において、メディエータとして1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムエチルサルフェート(1−m−PES)を使用することによって、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート(1−m−PMS)を使用したバイオセンサと比較して、耐湿度性が向上されたグルコースセンサ及びラクテートセンサが得られるという知見に基づく。
【0013】
本開示のバイオセンサによれば、高い耐湿度性を有することから、一又は複数の実施形態において、高温多湿の条件下で放置された場合でもセンサ性能が劣化し難く、また高温多湿な環境下でも安定な測定が可能になりうるという効果を奏しうる。
【0014】
[バイオセンサ]
本開示は、一態様において、絶縁性基板、前記基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系、及び、前記電極系上に配置された試薬層を備えるバイオセンサに関する。本開示のバイオセンサは、測定対象が、グルコース又はラクテートであり、グルコースセンサ又はラクテートセンサとして使用できる。
【0015】
試薬層は、酸化還元酵素(単に「酵素」という場合もある)及び1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムエチルサルフェートを含む。
【0016】
本開示のバイオセンサにおいて、酸化還元酵素は、一又は複数の実施形態において、グルコース又はラクテートと反応可能な酸化還元酵素が挙げられる。酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサに使用される酸化還元酵素が使用できる。酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、グルコースオキシダーゼ(GOD)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ラクテートオキシダーゼ(LOD)又はラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)が挙げられる。GDHの一例としては、PQQ(ピロロキノリンキノン)−GDH、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)−GDH、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)−GDH、NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン)−GDHなど様々な補酵素を含むGDHが使用可能である。
【0017】
バイオセンサ1枚当たりの酵素の含有量は、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサに配置される量であってよく、生産性(コスト)及び検出感度の維持の観点から、0.1〜10Uが好ましく、より好ましくは0.2〜6U、さらに好ましくは0.5〜4Uである。なお、本開示においてUは酵素単位であり、酵素が至適温度において、1分間で1μmolの基質と反応する酵素量である。酵素がFAD−GDHである場合、酵素単位1Uは、FAD−GDHが1μmolのグルコースを37℃1分で酸化する酵素量である。
【0018】
本開示において「バイオセンサ1枚あたりの含有量」とは、一又は複数の実施形態において、作用極及び対極を有する電極系1つあたりに使用される量をいい、さらなる一又は複数の実施形態において、1つの電極系上に配置される試薬層に含まれる量をいい、さらなる一又は複数の実施形態において、試料が添加された時(使用時)に反応系に含まれるように配置される量をいう。また、本開示において「バイオセンサ1枚あたりの含有量」と言う時のバイオセンサは、一又は複数の実施形態において、血液試料に対して使用される通常のサイズのものをいう。前記サイズは、一又は複数の実施形態において、添加される血液試料が例えば0.2〜1.0μL又は0.2〜0.4μLのもの、或いは、血液試料が試薬層と接触して形成する反応系の容量が例えば0.2〜1.0μLのものをいう。したがって、「グルコースセンサ1枚あたりの含有量」は、一又は複数の実施形態において、電極系の数、及び/又は、試料若しくは反応系の容量に応じ、本明細書に開示する範囲を適宜調節できる。
【0019】
酵素がGDHである場合、バイオセンサ1枚当たりの酵素の含有量は、生産性(コスト)及び検出感度の維持の観点から、0.2〜10Uが好ましく、より好ましくは0.3〜6U、さらに好ましくは0.3〜4Uである。
【0020】
試薬層は、1−m−PESを含む。バイオセンサ1枚あたりの1−m−PESの含有量は、生産性(コスト)及び検出感度の観点から、30〜1000pmolが好ましく、より好ましくは40〜800pmol、さらに好ましくは50〜500pmolである。
【0021】
バイオセンサがFAD−GDHを含むグルコースセンサである場合において、グルコースセンサ1枚あたりの1−m−PESの含有量が200pmolとした場合、FAD−GDHの含有量は、一又は複数の実施形態において、0.2〜10Uである。
【0022】
本開示は、本開示にかかる一又は複数の実施形態において、1−m−PESに替えて若しくは1−m−PESと共にPESを含む実施形態を含みうる。
【0023】
試薬層は、一又は複数の実施形態において、ルテニウム化合物をさらに含んでもよい。ルテニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサやバイオセンサにメディエータに使用されるルテニウム化合物を使用できる。ルテニウム化合物は、一又は複数の実施形態において、酸化型のルテニウム錯体として反応系に存在し得るものであることが好ましい。ルテニウム錯体としては、メディエータ(電子伝達体)として機能すればその配位子の種類はとくに限定されない。酸化型ルテニウム錯体としては、一又は複数の実施形態において、下記化学式で示されるものが好ましい。
[Ru(NH
3)
5X]
n+
前記化学式におけるXとしては、一又は複数の実施形態において、NH
3、ハロゲンイオン、CN、ピリジン、ニコチンアミド、又はH
2Oが挙げられ、NH
3又はハロゲンイオン(例えば、Cl
-、F
-、Br
-、I
-)が好ましい。化学式におけるn+は、Xの種類により決定される酸化型ルテニウム(III)錯体の価数を表す。
【0024】
ルテニウム化合物のバイオセンサ1枚あたりの含有量は、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサに配置される量であってよく、生産性(コスト)及び検出感度の観点から、5〜50μgが好ましく、より好ましくは10〜40μg、さらに好ましくは15〜25μgである。
【0025】
バイオセンサがFAD−GDHを含むグルコースセンサである場合において、グルコースセンサ1枚あたりの1−m−PESの含有量が200pmolとした場合、酵素含有量は、一又は複数の実施形態において、0.2〜10Uであり、ルテニウム化合物の含有量は、一又は複数の実施形態において、10〜40μgである。
【0026】
[試薬層に含まれるその他の成分]
試薬層は、一又は複数の実施形態において、測定感度向上の観点から、層状無機化合物、界面活性剤、又は緩衝剤などがさらに含有されてもよい。
【0027】
層状無機化合物としては、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサに使用されるものが使用でき、同様の観点から、イオン交換能を有する膨潤性粘土鉱物が好ましく、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、合成フッ素雲母などがより好ましく、合成ヘクトライトや合成サポナイト等の合成スメクタイト;合成フッ素雲母等の膨潤性合成雲母;Na型雲母等の合成雲母(天然の雲母は、通常、非膨潤性の粘土鉱物である)などがさらにより好ましい。これらの層状無機化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
界面活性剤としては、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサに使用されるものが使用でき、制限されない一又は複数の実施形態において、非イオン性、アニオン性、カチオン性、又は両性の界面活性剤を適宜使用し得る。これらの中でも、測定感度向上の観点からは、両性界面活性剤が好ましい。両性界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、カルボキシベタイン、スルホベタイン、又はホスホベタイン等が挙げられ、同様の観点からスルホベタインが好ましい。スルホベタインとしては、例えば、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル])ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート)、CHAPSO(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、又はアルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、同様の点からCHAPSが好ましい。
【0029】
緩衝剤としては、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサに使用されるものが使用でき、制限されない一又は複数の実施形態において、測定感度向上の観点から、アミン系緩衝剤及びカルボキシル基を有する緩衝剤が好ましい。アミン系緩衝剤としては、同様の観点から、Tris、ACES、CHES、CAPSO、TAPS、CAPS、Bis−Tris、TAPSO、TES、Tricine又はADA等が好ましく、より好ましくはACES又はTris、さらに好ましくはACESである。カルボキシル基を有する緩衝剤としては、同様の観点から、酢酸−酢酸Na緩衝剤、リンゴ酸−酢酸Na緩衝剤、マロン酸−酢酸Na緩衝剤、コハク酸−酢酸Na緩衝剤等が好ましく、コハク酸−酢酸Na緩衝剤がより好ましい。これらの緩衝剤は、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0030】
試薬層は、一又は複数の実施形態において、全ての試薬を含む単層構造であってもよく、1又は2以上の試薬が個別の層に配置された多層の積層構造であってもよい。多層の積層構造としては、一又は複数の実施形態において、層状無機化合物を含む無機ゲル層の上に、酵素を含む酵素層が形成された積層構成の試薬層が挙げられる。1−m−PESは、一又は複数の実施形態において、無機ゲル層及び酵素層の少なくとも一方に含有される。
1−m−PESのみを用いたシングルメディエータの場合、一又は複数の実施形態において、1−m−PESは、無機ゲル層及び酵素層の少なくとも一方に含有され、好ましくは酵素層に含有される。1−m−PESとルテニウム化合物とを用いたダブルメディエータの場合、一又は複数の実施形態において、ルテニウム化合物及び1−m−PESは、それぞれ独立して無機ゲル層及び酵素層の少なくとも一方に含有され、好ましくはルテニウム化合物は無機ゲル層に含有され、1−m−PESは酵素層に含有される。
【0031】
試薬層は、保存安定性の観点から、電極系上に乾燥状態で配置されることが好ましい。
【0032】
本開示のバイオセンサは、絶縁性基板、作用極及び対極を有する電極系、及び試薬層を備える。電極系は、一又は複数の実施形態において、参照極を有してもよい。電極系を構成する電極は、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサで使用されるものが使用できる。作用極及び対極としては、限定されない一又は複数の実施形態において、カーボン電極を用いてもよいし、白金、金、銀、ニッケル、パラジウムなどの金属電極を用いてもよい。参照極としては、特に限定されるものではなく、電気化学実験において一般的なもの及び今後開発されるものを適用することができる、一又は複数の実施形態において、飽和カロメル電極、銀−塩化銀などが挙げられる。
【0033】
電極系は絶縁性基板上に形成されている。絶縁性基板上に電極を形成する方法としては、一又は複数の実施形態において、フォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術等が挙げられる。
【0034】
絶縁性基板の素材としては、従来又は今後開発されるグルコースセンサ又はラクテートセンサで使用されるものが使用でき、限定されない一又は複数の実施形態において、シリコン、ガラス、ガラスエポキシ、セラミック、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、及びポリイミド等が挙げられる。
【0035】
本開示のバイオセンサの一実施形態について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
図1(A)〜(F)は、本実施形態のバイオセンサを製造する一連の工程を示した斜視図である。
図2は、
図1(F)に示すバイオセンサのI−I方向断面図である。
図1(A)〜(F)及び
図2において、同一箇所には同一符号を付している。
【0036】
図1(F)及び
図2に示すように、本実施形態のバイオセンサは、基板11、リード部12aを有する作用極12とリード部13aを有する対極13とから構成された電極系、絶縁層14、層状無機化合物を含む無機ゲル層16、酵素を含む酵素層17、開口部を有するスペーサー18、及び貫通孔20を有するカバー19を備えている。1−m−PESは、無機ゲル層16及び酵素層17の少なくとも一方に含有される。
【0037】
図1(B)に示すように、基板11の一方の端部(両図において右側)上には、検出部15が設けられており、検出部15には、作用極12と対極13とが、基板11の幅方向に並行して配置されている。作用極12と対極13の一端はそれぞれリード部12a,13a(両図において左側)となり、これらと検出部15における他端とが、垂直となるように配置されている(
図1(A))。また、作用極12と対極13との間は、絶縁部となっている。このような電極系を備えた基板11の上には、
図1(B)に示すように、リード部12a,13a及び検出部15を除いて、絶縁層14が積層されており、絶縁層14が積層されていない前記検出部15上には、無機ゲル層16及び酵素層17がこの順序で積層されている。そして、絶縁層14の上には、
図1(E)に示すように、検出部15に対応する箇所が開口部になったスペーサー18が配置されている。さらにスペーサー18の上には、前記開口部に対応する一部に貫通孔20を有するカバー19が配置されている(
図1(F))。前記開口部の空間部分において、酵素層17及び絶縁層14とカバー19とに挟まれた部分が、キャピラリー構造の試料供給部21となる。そして、貫通孔20が、試料を毛管現象により吸入するための空気孔となる。
【0038】
本実施形態のバイオセンサは、一又は複数の実施形態において、ある一定の時間で所定の電圧を加える手段、バイオセンサから伝達される電気信号を測定する手段、及び電気信号を測定対象物濃度に演算する演算手段等の種々の手段を備えた測定機器と組み合わせて使用できる。
【0039】
本実施形態のバイオセンサの使用の一例について説明する。
【0040】
まず、全血試料をバイオセンサの開口部(試料供給部21)の一端に接触させる。試料供給部21は、前述のようにキャピラリー構造となっており、その他端に対応するカバー19に空気孔20が設けられているため、毛管現象によって前記試料が試料供給部21の内部に吸引される。吸引された試料は、検出部15上に設けられた酵素層17に浸透し、酵素層17中の酵素を溶解して、さらに酵素層17の下層である無機ゲル層16表面に達する。そして、表面に達した試料中の測定対象物(グルコース又はラクテート)と、酵素と、1−m−PESとが反応する。
【0041】
バイオセンサがシングルメディエータ(1−m−PESのみ)の場合、測定対象物は酵素により酸化され、その酸化反応により移動した電子が1−m−pPESを介して無機ゲル層16の下に位置する電極に伝えられ、これによって測定対象物の濃度が測定されうる。
バイオセンサがダブルメディエータ(例えば、1−m−PESと酸化型ルテニウム化合物)の場合、測定対象物は酵素により酸化され、その酸化反応により移動した電子が1−m−pPESを介して酸化型ルテニウム化合物に伝えられ、還元型ルテニウム(II)錯体が形成される。そして、この還元型ルテニウム(II)錯体と、無機ゲル層16の下に位置する電極との間で、電子授受が行われ、これによって測定対象物の濃度が測定されうる。
【0042】
本実施形態では、試薬層が無機ゲル層16及び酵素層17の2層構造の形態を例にとり説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、例えば、1層構造の形態であってもよい。
【0043】
[試料]
本開示のバイオセンサにおける試料は、一又は複数の実施形態において、血液、体液、尿などの生体試料であってもよく、その他の液体試料であってもよい。
【0044】
[バイオセンサの製造方法]
本開示は、その他の態様において、絶縁性基板に配置された作用極及び対極を有する電極系上に、酸化還元酵素と、1−m−PESとを含む試薬層を形成することを含む、バイオセンサの製造方法(「本開示の製造方法」ともいう)に関する。本開示の製造方法により得られたバイオセンサは、グルコースセンサ又はラクテートセンサとして使用できる。本開示の製造方法において、絶縁性基板、電極系、及び試薬層の構成並びに含有量等は、上述の通りである。
【0045】
[グルコース又はラクテートの濃度測定方法]
本開示は、その他の態様において、試料と酸化還元酵素とを接触させること、及び、前記試料中のグルコース又はラクテートと前記酵素との反応を1−m−PESを介して電気化学的に測定することを含む、グルコース又はラクテートの濃度を測定する方法(「本開示の測定方法」ともいう)に関する。本開示の測定方法において、酸化還元酵素は上述の通りである。
【0046】
本開示において「電気化学的に測定する」とは、電気化学的な測定手法を適用する測定することをいい、一又は複数の実施形態において、電流測定法、電位差測定法、電量分析法等が挙げられる。電流測定法としては、一又は複数の実施形態において、還元された電子伝達物質を電圧の印加により酸化される際に生ずる電流値を測定する方法が挙げられる。
【0047】
本開示の測定方法の一実施形態として、試料、酵素、及び1−m−PESを含む反応系を直接、絶縁性基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系に配置することが挙げられる。その他の実施形態として、電極系の上に無機ゲル層を配置し、その上に試料及び酵素を含む反応系を配置してもよい。この態様の場合、1−m−PESは無機ゲル層及び反応系の少なくとも一方に存在させればよい。
1−m−PESとルテニウム化合物とを用いたダブルメディエータの場合、前者の実施形態では、ルテニウム化合物は、1−m−PESとともに電極系に配置すればよい。後者の実施形態では、ルテニウム化合物は1−m−PESと独立して無機ゲル層及び反応系の少なくとも一方に存在させればよく、好ましくは1−m−PESを反応系に存在させ、ルテニウム化合物を無機ゲル層に存在させる。
【0048】
本開示の測定方法の好ましい実施形態としては、本開示のバイオセンサを用いたグルコース又はラクテートの濃度を測定する方法が挙げられる。
【0049】
本開示の測定方法は、その他の実施形態において、試料と酵素との接触後にバイオセンサの電極系に電圧を印加すること、印加により放出される応答電流値を測定すること、及び、応答電流値に基づいて試料中のグルコース又はラクテートの濃度を算出することを含んでもよい。印加する電圧としては特に制限されるものではないが、一又は複数の実施形態において、10〜700mV、50〜500mV、又は50〜400mVである。
【0050】
本開示の測定方法は、その他の実施形態において、試料と酵素との接触後所定の時間非印加の状態で保持した後に電極系に電圧を印加してもよいし、接触と同時に電極系に電圧を印加してもよい。非印加の状態で保持する時間としては、一又は複数の実施形態において、0秒を超え30秒以下、又は0秒を超え10秒以下である。
【0051】
本開示のバイオセンサ及び本開示の測定方法における、電極系への電圧の印加、応答電流値の測定、及び、グルコース又はラクテートの濃度の算出は、従来又は今後開発されるグルコース又はラクテートの濃度測定装置等を用いて適宜行うことができる。
【0052】
[グルコース又はラクテートの濃度測定システム]
本開示は、その他の態様として、本開示のバイオセンサと、前記バイオセンサの電極系に電圧を印加する手段と、電極系における電流を測定するための手段とを含む、試料中のグルコース又はラクテートの濃度を測定するためのグルコース又はラクテートの濃度測定システムに関する。
【0053】
印加手段としては、バイオセンサの電極系と導通し、電圧を印加可能であれば特に制限されるものではなく、公知又は今後開発される印加手段が使用できる。印加手段としては、一又は複数の実施形態においてバイオセンサの電極系と接触可能な接触子、及び直流電源等の電源等を含みうる。
【0054】
測定手段は、電圧印加時に生じた電極系における電流を測定するためのものであって、一又は複数の実施形態においてバイオセンサの試薬層の1−m−PES、場合によってはルテニウム化合物から放出された電子の量に相関する応答電流値を測定可能なものであればよく、従来又は今後開発されるバイオセンサで使用されているものが使用できる。
【0055】
本開示のバイオセンサ、グルコース又はラクテートの濃度測定方法及びグルコース又はラクテートの濃度測定システムは、医療分野、及び/又は、医療を目的としない医学、生化学、生物学等の学術分野で有用である。
【0056】
本開示は、以下の一又は複数の実施形態に関しうる。
〔1〕 絶縁性基板、前記基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系、及び、前記電極系上に配置された試薬層を備え、
前記試薬層は、酸化還元酵素及び1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムエチルサルフェート(1−m−PES)を含み、
測定対象が、グルコース又はラクテートである、バイオセンサ。
〔2〕 前記酸化還元酵素は、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ及び乳酸デヒドロゲナーゼからなる群から選択される、〔1〕記載のバイオセンサ。
〔3〕 前記試薬層は、ルテニウム化合物をさらに含む、〔1〕又は〔2〕記載のバイオセンサ。
〔4〕 前記ルテニウム化合物は、下記式で表されるルテニウム化合物である、〔3〕記載のバイオセンサ。
[Ru(NH
3)
5X]
n+
前記式において、
Xは、NH
3、ハロゲンイオン、CN、ピリジン、ニコチンアミド、又はH
2Oであり、
n
+は、Xの種類により決定される酸化型ルテニウム(III)錯体の価数を表す。
〔5〕 試料中のグルコース又はラクテートの濃度を測定する方法であって、
前記試料と酸化還元酵素とを接触させること、及び、前記試料中のグルコース又はラクテートと前記酸化還元酵素との反応を1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムエチルサルフェートを介して電気化学的に測定することを含む、グルコース又はラクテートの濃度測定方法。
〔6〕 前記電気化学的測定は、前記試料中のグルコース又はラクテートと前記酸化還元酵素との反応を1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムエチルサルフェート及びルテニウム化合物を介して行うことを含む、〔5〕記載の測定方法。
〔7〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のバイオセンサを用いて行う、〔5〕又は〔6〕に記載の測定方法。
〔8〕 前記試料と酸化還元酵素との接触後に前記バイオセンサの電極系に電圧を印加すること、前記印加により放出される応答電流値を測定すること、及び、前記応答電流値に基づいて前記試料中のグルコース又はラクテートの濃度を算出することを含む、〔7〕記載の測定方法。
〔9〕 絶縁性基板に配置された作用極及び対極を有する電極系上に、酸化還元酵素及び1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムエチルサルフェートを含む試薬層を形成することを含む、
グルコース又はラクテートを測定するためのバイオセンサの製造方法。
〔10〕 前記試薬層の形成において、酵素、1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムエチルサルフェート及びルテニウム化合物を含む試薬層を形成することを含む、〔9〕記載の製造方法。
〔11〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のバイオセンサと、
前記バイオセンサの電極系に電圧を印加する手段と、
前記電極系における電流を測定するための手段とを含む、試料中のグルコース又はラクテートの濃度を測定するための濃度測定システム。
【0057】
以下に、実施例及び参考例を用いて本開示をさらに説明する。但し、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
以下のようにして、
図1(A)〜(F)及び
図2の模式図と同様の構造のグルコースセンサを作製した。
【0059】
まず、絶縁性基板11として、PET製基板(長さ50mm、幅6mm、厚み250μm)を準備し、その一方の表面にリード部をそれぞれ有する作用極12及び対極13からなるカーボン電極系をスクリーン印刷によって形成した。
【0060】
次に、絶縁層14を形成した。絶縁層14は、絶縁性樹脂ポリエステルを、濃度75重量%になるように溶媒カルビトールアセテートに溶解させて絶縁性ペーストを調製し、これを電極系を形成した絶縁性基板11上にスクリーン印刷し、90℃で60分間加熱処理することにより形成した。なお、作用極12及び対極13の一部及びリード部12a,13aにはスクリーン印刷を行わず絶縁層14を形成しなかった。絶縁層14を形成しなかった作用極12及び対極13を検出部15とした。
【0061】
続いて、検出部15に無機ゲル層16を形成した。合成スメクタイト(商品名「ルーセンタイトSWN」、コープケミカル社製)、酢酸ナトリウム、及びコハク酸を含む無機ゲル形成液(pH7.5)を調製した。この無機ゲル形成液を、検出部15に分注し、30℃で乾燥させることにより無機ゲル層16を形成した。
【0062】
さらに、無機ゲル層16上に酵素層17を形成した。GOD(商品名「Amano“GO”AM、[GO−AM])」、天野エンザイム社製)、1−m−PES、ACES緩衝液(pH7.5)を含む酵素液を調製した。この酵素液を、無機ゲル層16上に分注し、30℃で乾燥させて酵素層17を形成した。
【0063】
最後に、開口部を有するスペーサー18を絶縁層14上に配置し、その上に空気孔となる貫通孔を有するカバー19を配置することによってグルコースセンサを作製した。カバー19と絶縁層14とに挟まれたスペーサー18の開口部の空間がキャピラリー構造となるため、この部分を試料供給部21とした。
【0064】
実施例1のグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、GOD2U、1−m−PES80nmolであった。酵素単位1Uは、GODが1μmolのグルコースを37℃、1分で酸化する酵素量を意味する。
【0065】
[参考例1]
酵素層17の形成において、1−m−PESを含まない酵素液を使用し、無機ゲル層16の形成において、ルテニウム化合物([Ru(NH
3)
6]Cl
3)をさらに含む無機ゲル形成液を使用した以外は、実施例1と同様にしてグルコースセンサを作製した。
参考例1のグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、GOD2U、ルテニウム化合物30nmolであった。
【0066】
[参考例2]
ルテニウム化合物の含有量を、参考例1の2倍である60nmolとした以外は、参考例1と同様にしてグルコースセンサを作製した。
【0067】
[湿度暴露評価試験1]
実施例1並びに参考例1及び2のグルコースセンサを、水をはった密閉容器内に水と触れないように静置し、それを70℃のオーブンで4日間暴露した。
暴露したグルコースセンサを、ポテンショスタットを用い、5秒200mV連続印加で電圧を印加して電流値を測定した。検体試料としては、グルコース濃度を600又は800mg/dLに調整した静脈全血(Hct42%、pO
270mmgHg)を使用した。その結果を表1に示す。
上記の湿度暴露を行わない(未暴露の)実施例1並びに参考例1及び2のグルコースセンサについても、同様の測定を行った。
【0068】
【表1】
【0069】
表1は、暴露後のグルコースセンサの平均電流値(電圧印加0.4秒後、μA)を示す(n=5)。表1に示すように、実施例1のグルコースセンサは、参考例1及び2のグルコースセンサと比較して、4日暴露後の平均電流値(表1)が高かった。参考例1及び2では、グルコース濃度による電流値の差がないが、実施例1ではグルコース濃度によって異なる電流値を示した。また未暴露のグルコースセンサの平均電流値からの電流低下率が低かった。したがって、実施例1のグルコースセンサは、参考例1及び2のグルコースセンサと比較して耐湿度性が高いことが確認できた。
また、表1に示すように、実施例1のグルコースセンサは、4日暴露後であっても検体試料中のグルコース濃度に依存した電流値が測定できるといえる。
【0070】
[実施例2]
無機ゲル層16の形成において、ルテニウム化合物([Ru(NH
3)
6]Cl
3)をさらに含む無機ゲル形成液を使用し、酵素層17の形成において、GODに替えてFAD−GDH(商品名「Glucose dehydrogenase(FAD-dependent)(GLD-351)」、東洋紡社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてグルコースセンサを作製した。
実施例2のグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、FAD−GDH3U、1−m−PES80nmol、ルテニウム化合物60nmolであった。酵素単位1Uは、FAD−GDHが1μmolのグルコースを37℃、1分で酸化する酵素量を意味する。
【0071】
[参考例3]
1−m−PESに替えて1−m−PMSを使用した以外は、実施例2と同様にしてグルコースセンサを作製した。
参考例3のグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、FAD−GDH3U、1−m−PMS80nmol、ルテニウム化合物60nmolであった。
【0072】
[再現性確認実験]
実施例2及び参考例3のグルコースセンサを、ポテンショスタットを用い、5秒200mV連続印加で電圧を印加して電流値を測定した。検体試料としては、グルコース濃度を67、134、336、800又は1000mg/dLに調整した静脈全血(Hct42%、pO
270mmHg)を使用した。その結果を
図3A及びBに示す。
【0073】
[湿度暴露評価試験2]
実施例2及び参考例3のグルコースセンサを秤量皿の上に並べ、40℃80%RHの恒温工室槽内で、1、4、8又は24時間静置して暴露した。
暴露したグルコースセンサ及び未暴露のグルコースセンサを、ポテンショスタットを用い、5秒200mV連続印加で電圧を印加して電流値を測定した。検体試料としては、グルコース濃度を67、134又は336mg/dLに調整した静脈全血(Hct42%、pO
270mmHg)を使用した。その結果を
図4A〜Cに示す。
【0074】
図3Aは、実施例2及び参考例3のグルコースセンサで得られたグルコース濃度と、グルコース/ラクテート・アナライザー(商品名:YSI 2300、ワイエスアイジャパン株式会社製)で測定したグルコース濃度との相関関係を示すグラフ(n=10)の一例であり、
図3Bは、実施例2及び参考例3のグルコースセンサの再現性を示すグラフ(n=10)の一例である。
図4A〜Cは、未暴露のグルコースセンサの電流値とのバイアス(%)({(暴露したグルコースセンサの電流値)−(未暴露のグルコースセンサの電流値)}/(未暴露のグルコースセンサの電流値)*100)と、暴露時間との関係を示すグラフの一例である(n=10)。
図4A〜Cは、湿度暴露評価試験2の結果であり、それぞれ順にグルコース濃度が67、134又は336mg/dLの結果である。
図3Aに示すように、実施例2のグルコースセンサは、参考例3のグルコースセンサと同程度のレベルでグルコース濃度を測定できた。
図3Bに示すように、実施例2のグルコースセンサは、参考例3のグルコースセンサと同程度の再現性を示した。
図4A〜Cに示すように、実施例2のグルコースセンサは、参考例3のグルコースセンサと比較して、電流値からの低下を抑制できた。
図4Cに示すように、特に、グルコース濃度が高い検体試料の場合、その効果は顕著であった。上述の通り、実施例2には1−m−PESが添加され、参考例3に1−m−PMSが添加されている以外は、同じ処方である。
図4A〜Cに示した湿度暴露評価試験の結果から、1−m−PESは1−m−PMSと比較して、良好な耐湿度性を備えるといえる。また、ルテニウム化合物を添加したダブルメディエータ処方であっても、1−m−PESは、良好な耐湿度性を備えるといえる。
【0075】
[実施例3]
無機ゲル層16及び酵素層17を以下のようにして形成した以外は、実施例1と同様にしてラクテートセンサを作製した。
無機ゲル層16は、合成スメクタイト(商品名「ルーセンタイトSWN」、コープケミカル社製)、ルテニウム化合物([Ru(NH
3)
6]Cl
3)、酢酸ナトリウム、及びコハク酸を含む無機ゲル形成液(pH7.5)を調製し、この無機ゲル形成液を、検出部15に分注し、30℃で乾燥させることにより形成した。
酵素層17は、LOD(商品名「LOD−201」、東洋紡社製)、1−m−PES、ACES緩衝液(pH7.5)を含む酵素液を調製した。この酵素液を、無機ゲル層16上に分注し、30℃で乾燥させて形成した。
実施例3のラクテートセンサ1枚あたりの含有量は、LOD2U、1−m−PES80nmol、ルテニウム化合物60nmolであった。酵素単位1Uは、LODが1μmolのグルコースを37℃、1分で酸化する酵素量を意味する。
【0076】
[参考例4]
1−m−PESに替えて、1−m−PMSを使用した以外は、実施例3と同様にしてラクテートセンサを作製した。参考例4のラクテートセンサ1枚あたりの含有量は、LOD3U、1−m−PMS80nmol、ルテニウム化合物60nmolであった。
【0077】
実施例3のラクテートセンサは、参考例4のラクテートセンサと同程度のレベルでラクテート濃度の測定できることを確認した。また、実施例3のラクテートセンサは、参考例4のラクテートセンサと同程度の再現性を示した。
【0078】
[湿度暴露評価試験3]
実施例3及び参考例4のラクテートセンサを秤量皿の上に並べ、50℃80%RHの恒温工室槽内で、2又は3時間静置して暴露した。
暴露したラクテートセンサ及び未暴露のラクテートセンサを、ポテンショスタットを用い、7秒200mV連続印加で電圧を印加して電流値を測定した。検体試料としては、ラクテート濃度を10mmol/Lに調整した静脈全血(Hct42%、pO
270mmHg)を使用した。その結果を
図5に示す。
【0079】
図5は、未暴露のラクテートセンサの電流値とのバイアス(%)(={(暴露したラクテートセンサの電流値)−(未暴露のラクテートセンサの電流値)}/(ラクテートセンサの電流値)*100)と、暴露時間との関係を示すグラフの一例である(n=5)。
図5に示すように、実施例3のラクテートセンサは、参考例4のラクテートセンサと比較して、電流値からの低下を大幅に抑制できた。