【実施例】
【0014】
図6は本実施例の前提となる、空気圧システムの模式図である。
図6において、空気圧システムは、空気圧縮機1、制御器2、配管レイアウト3を備えている。なお、空気圧縮機1と制御器2は同一筐体に納められていても良い。
【0015】
空気圧縮機1は、大気から吸込んだ空気を圧縮し圧縮空気を吐出する。また、図示しない、吐出する圧縮機空気の吐出圧力を計測する圧縮機吐出圧力センサを有しており、圧縮機吐出圧力を制御装置2に出力する。
【0016】
制御装置2は、圧縮機吐出圧力センサの圧縮機吐出圧力値、および、負荷設備である末端機器8の末端機器圧力センサ4からの末端機器圧力計測値を入力として、末端機器への圧縮機空気の供給圧力が要求圧力P0以上となるように、空気圧縮機1を駆動する図示しない電動機を制御し、電動機に対する回転数指令値を計算、出力する。電動機の回転数を制御する具体的な演算方法については、例えば、特許文献1に記載された方法により実現可能である。また、制御装置2は、配管シミュレータ5を有しており、電動機の回転数を制御するための制御設定値D1の現在値を配管シミュレータに出力するとともに、配管シミュレータ5が出力する制御設定値更新指令値D2に基づき、制御設定値の現在値D1を更新する。
【0017】
配管レイアウト3は、空気層6、フィルタ7、末端機器圧力センサ4等の受動機器や、図示しない、ドライヤ、クーラ等の能動機器、及び、配管、エルボ、分岐、弁等の機器から構成され、空気圧縮機1から吐出した圧縮空気は配管レイアウト3を介して、末端機器8に供給される。
【0018】
末端機器8は、空気工具、空気プレス、空気ブレーキ、スプレーガン等、工場の製造工程で使用される機器であり、配管レイアウト3を介して供給される圧縮空気を動力源として駆動する。
【0019】
末端機器8の末端機器圧力センサ4は、末端機器8に供給される圧縮機空気の圧力を計測する。計測された圧力値は、制御器2及び配管シミュレータ5に出力される。
【0020】
配管シミュレータ5は、圧縮機吐出圧力センサの圧縮機吐出圧力計測値、末端機器8の末端機器圧力センサ4からの末端機器圧力計測値を入力として、制御設定値更新指令値D2を出力する。制御装置2は、制御設定値更新指令値D2を入力として、制御設定値を更新する。
【0021】
次に、
図7を用いて配管シミュレータ5の詳細について説明する。
図7は、空気圧システムのフィードバック制御ブロックの模式図である。
図7において、9は制御装置2内のPID制御部の模式図であり、PID制御の制御パラメータである比例ゲインKp、積分ゲインKi、微分ゲインKdを推定して、電動機の回転数を制御するための制御設定値D1を出力する。
【0022】
配管シミュレータ5は、PID制御の制御パラメータを推定するために、配管レイアウト内の圧縮空気の流れを計算するために必要となる配管レイアウトのデータを入力し、配管レイアウトモデルを構築する。配管レイアウトのデータとしては、配管種類、および継ぎ手(エルボ、ブランチ、等)、機器(圧縮機、弁、圧力センサ、フィルタ、空気槽、ドライヤ)の型式の指定、配管レイアウトを構成する機器間の接続関係を定義するデータ、機器の属性(例えば、配管に対しては配管長さ、配管口径等)を定義するデータ、および空気圧縮機1の吐出空気圧力を計算するためのデータである。そして、圧縮機吐出圧力計測値、末端機器圧力計測値、配管レイアウトモデルより、配管レイアウト内の空気の流れを計算し、末端機器に供給される圧縮空気流量である末端機器流量を出力する。そして、制御設定値D1、配管レイアウトモデル、末端機器流量より、末端機器への供給圧力の変動を抑制するように、制御設定値を計算し、制御設定値更新値を出力する。そして、制御設定値更新値を入力として、制御器2の制御設定値D1を更新するための制御設定値更新指令値D2を出力する。
【0023】
図8は、配管シミュレータの配管レイアウトモデルのネットワーク表現と接続行列を説明するための図である。
図8(A)は、空気圧縮機1と末端機器8との間の、配管10、エルボ11、Tブランチ12からなる配管レイアウトの例であり、
図8(B)は、ライン要素とノード要素からなるネットワーク表現へ変換しモデル化した例である。また、
図8(C)は、M個のライン要素とN個のノード要素から構成される配管レイアウトの接続関係をM×Nの行列である接続行列Bを用いて表現した例である。各行列要素は、
+1: ライン要素jの上方側にノード要素k(左端ノード)が接続されている場合
−1: ライン要素jの下方側にノード要素k(右端ノード)が接続されている場合
0: ライン要素jがノード要素kと接続されていない場合
として表現している。
【0024】
図9は、配管シミュレータの物理モデルにおける計算フローの例である。未知変数は流量、圧力、エンタルピーであり、ライン要素とノード要素の計算は独立ではなく、相互に依存するため、ニュートン・ラプソン法等の反復アルゴリズムで計算される。また、運動量保存式、エネルギー保存式の離散化は有限体積法等の数値演算で一般的な手法を適用する。(非特許文献1参照)
このように、配管シミュレータにより、配管レイアウトの設置状況に応じて、末端機器への供給圧力の変動を抑えながら、空気圧縮機の消費電力を削減しつつ、所望の圧力以上の圧縮空気を末端機器に供給できる。
【0025】
しかし、従来の配管シミュレータでは、配管レイアウト内のフィルタ目詰まりによる圧力変動などの経時変化に対応して配管ネットワークの条件変動が進み推定精度が劣化するという点について考慮されていなかった。
【0026】
そこで、本実施例は、経時変化に追従して最適なPIDパラメータを求めることができ、PID
制御による末端圧力変動を最小に抑えることができ、消費電力を最小化できる末端圧力制御装置および末端圧力制御方法を提供する。
【0027】
本実施例は、最適なPIDパラメータを推定したい配管ネットワーク内の圧損要素に差圧を計測する圧力センサを設け、差圧の計測値を用いて配管シミュレータのキャリブレーションを行いながら、現状の配管ネットワークの状態を反映したシミュレーションを行う。以下、本実施例の詳細について説明する。
【0028】
図1は、本実施例における空気圧システムの模式図である。
図1において、
図6と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図6と異なる点は、フィルタ7に差圧センサ20を設けており、その差圧センサ20で計測した差圧計測値を配管シミュレータ5に入力している点である。また、
図2は、本実施例における空気圧システムのフィードバック制御ブロックの模式図である。
図2において、
図7と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図7と異なる点は、同様に、差圧計測値を配管シミュレータ5に入力している点である。
【0029】
本実施例は、
図1、
図2に示すように、差圧センサ20でフィルタ7の差圧をモニタし、配管シミュレータ5にフィードバックすることで、配管シミュレータのパラメータを常に最新の状態に保つことが出来る。また、差圧センサ20で得たフィルタ7の差圧データと、配管シミュレータで求めた各フィルタの累積流量に基づき、他のフィルタの差圧を推定し、シミュレーションに反映することが出来る。
【0030】
図3は、本実施例における末端圧力制御方式の処理フローである。
図3において、まず、ステップS10、S11で、前処理として、配管シミュレータで入出力特性を計算し、最適なPIDパラメータを求める。そして、ステップS12で、配管レイアウト内の圧損要素の差圧の測定値を配管シミュレータに取り込む。ここで、圧損要素とは、空気層、フィルタ、圧力センサ等の受動機器や、ドライヤ、クーラ等の能動機器であって、例えばフィルタの目詰まりによる圧力変動など、経時変化に伴って入出力の圧力差が生じる可能性のあるものをいう。
【0031】
次に、ステップS13で、配管シミュレータにて、圧損要素の差圧の現在の設定値と最新の測定値との偏差dpを計算する。そして、ステップS14で、偏差dpは許容範囲内かを判断し、許容範囲内でない場合はステップS15へ、許容範囲内の場合はステップS18へ進む。
【0032】
ステップS15では、圧損要素の差圧の設定値を最新の測定値に更新して、以下ステップS16、S17で、配管シミュレータ動作として、入出力特性を計算し、最適なPIDパラメータを求める。
【0033】
ステップS18、S19は、従来のPID制御であり、ステップS18で、配管レイアウトの末端圧力が目標値に対して許容範囲内かを判断し、許容範囲内でない場合はステップS19へ、許容範囲内の場合はステップS20へ進む。ステップS19では、PID制御にて、配管レイアウトの入力端子圧力を最適値に調整する。ステップS20では、フィードバック制御を継続するかの判断をして、ステップS12に戻るか、終了とする。
【0034】
図4は、本実施例における配管シミュレータのユーザインターフェースである配管シミュレータ画面の表示例である。
図4において、配管シミュレータ画面は、主に、配管レイアウト入力・表示ウインドウ50と入出力パラメータ入力・表示ウインドウ60で構成されている。
【0035】
配管レイアウト入力・表示ウインドウ50は、配管レイアウト3の構成要素が模式的に表示されている。例えば、
図4においては、制御器2と、圧縮機吐出圧力センサ40と、空気圧縮機1と、バルブ30と、フィルタ7と、空気層6と、圧損要素であるフィルタ7に差圧センサ20が配置され、末端機器8に末端機器圧力センサ4が配置され、それらをつなぐ配管10が表示される。
【0036】
また、入出力パラメータ入力・表示ウインドウ60は、配管シミュレータに入力するパラメータの入力表示と出力するパラメータの表示を行う画面である。
図5に、本実施例における配管シミュレータの入出力パラメータの一覧表を示す。
図5において、入力パラメータとしては、配管レイアウトモデルを構築するための配管レイアウトの入力データがあり、また、従来ユーザが入力していた差圧データが、本実施例では、差圧センサを設けることで自動的に入力される。
【0037】
なお、圧損要素としてのフィルタが並列に接続している場合は、1つのフィルタのみに差圧センサを設け、他のフィルタの差圧をその1つで代用しても良い。
【0038】
以上のように、本実施例は、最適なPIDパラメータを推定したい配管ネットワーク内に少なくとも一つの差圧センサを持ち、差圧センサの出力値を用いて配管シミュレータのキャリブレーションを行いながら、現状の配管ネットワークの状態を反映したシミュレーションを行う。これにより、配管ネットワークの経時変化に追従して、末端機器への供給圧力の変動を抑えながら、空気圧縮機の消費電力を削減しつつ、所望の圧力を末端機器に供給でき、省エネルギー化を図った末端圧力制御装置および末端圧力制御方法を提供することが出来る。
【0039】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施例では、空気圧縮機について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、液体や窒素ガス等の流体を圧縮する圧縮機でも適用可能である。