【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アノード側の水の蓄積は、パージ前後の差圧信号の変化から検出することができる。しかしながら、差圧を使用できるのは、アノードガスの流量が一定に保たれ、かつ圧力差が十分大きい場合のみである。燃料電池が低出力で動作する場合や、あるいはアノードの圧力降下が非常に小さい場合(10ミリバール未満)は、これに充たらない。
【0006】
例えば最適なパージ方針を立てるために、PFECスタックのアノード内に蓄積した水を測定する方法が必要とされている。
【0007】
ある流量とガス組成を伴う圧力降下に基づいてアノード側の水の蓄積を調べる、というのが現在のところの主な診断方法である。再循環流量は、電流(水素消費)から容易に算出することができる。再循環率が小さい場合(噴射器に代えてポンプが用いられる)、圧力降下は小さいため、圧力信号の使用はより難しくなる。さらに、膜タイプのポンプを用いた場合、パルス状の流れにより、圧力信号を用いた計測はより難しくなる。
【0008】
流量が少ない場合、カソードの湿度は最も高くなり、またアノードにおける流速は最も遅くなるため、水の蓄積が最も深刻になる。始動時と停止時も流量が減少する。特にセル内部が湿潤状態にあると顕著である。したがって、流量が少ない場合には、流路中の水の蓄積を検出するための別の方法が必要となる。
【0009】
低負荷レベルにおいて水の蓄積を測定する必要がある。これを従来の測定方法(入口から出口の間でおこる圧力降下dP)で行うのは難しい。
【0010】
PEFC系統におけるさらなる課題は、水素燃料電池系統で消費される水素が、二酸化炭素も含む不活性ガスをある程度必ず含むことである。これらのガスは、再循環およびパージを伴うデッドエンド方式を採用する水素燃料電池系統が動作するにつれ、燃料電池系統内で濃縮されていく。
【0011】
また、デッドエンド方式で動作する燃料電池において、実際の燃料利用率を稼働時または12ヶ月点検時に計測することは非常に難しい。しかしながら、燃料利用率は、系統の効率および経年劣化を計測する際には鍵となるパラメータである。燃料利用率は、スタック部品(膜、ガス拡散層、バイポーラプレート)の性状の変化に伴い、スタック/系統の耐用期間にわたって変遷する。
【0012】
長期間にわたる計測では、ガスタンクの圧力および温度を燃料利用率の算出に用いることができる。これを行うには、ガスタンクの圧力と温度を両方とも高精度で計測する必要がある。一方、動作のある一点における瞬時の燃料利用率を知るには、水素パージ時の水素流れを高精度に計測する必要がある。パージ時におけるガス流量は実験室の実験では計測可能だが(Nikiforow氏ら(2012年)参照)、商用の燃料電池系統で行うには、必要な計器類があまりにも高価である。
【0013】
既存の燃料電池系統では、稼働状態で計測される燃料効率は精度を欠くものである。この理由から、例えばPEFC系統の経年劣化を測定するのは困難である。
【0014】
したがって、合理的な計器類およびコストで、燃料利用率を高精度に計測可能な方法が必要である。
【0015】
本発明の目的は、上述した課題を解決することである。
【0016】
(アノードガス流路内の水の蓄積を検出するための複数回パージ方法)
特定の目的としては、燃料電池内の水の蓄積を確実に測定できる方法を提供することである。具体的な目的の1つは、燃料電池が低負荷レベルにあるときに用いると適している方法を提供することである。
【0017】
対応する燃料電池系統を提供することも目的の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様によれば、高分子燃料電池のアノード側の流路に水が蓄積しているかどうかは、パージを2回行う方法(「2回パージ方法」)またはパージを複数回行う方法(「複数回パージ方法」)を用いて検出される。すなわち、2回以上の短い水素パージを短時間内で行って水の蓄積を測定する。「パージ」とは、セルの閉鎖弁を短時間開放状態に保ち、セルからガス(および水)を除去することを意味する。すなわち、「ガスを除去するパルス」を意味する。
【0019】
第1の態様の一実施形態によれば、水素燃料電池内における水の蓄積および/または除去を測定する方法が提供される。この方法は、
燃料電池プロセスにおいて電気エネルギーを生成するために、燃料電池のアノード側で水素を循環させることと、
水素循環から少なくとも2回パージ・パルスを供給することと、
上記少なくとも2回のガス・パージ・パルスのパージされたガスの組成および/または容積を分析して、燃料電池内の水の蓄積量および/または除去量を測定することと、を含む。
【0020】
一実施形態によれば、本発明は、水素濃度の計測値を利用して、同じ長さの時間行われると好ましい2回以上の水素パージによりセルから除去されたガスの各量の比率を比較することにより、燃料電池のアノード側に蓄積した水の量およびその除去量を計測管理することを含む。
【0021】
好適な実施形態では、H
2の濃度計測値は、少なくとも2回の水素パージの供給を含む、あるパージ弁開放手順とともに用いられる。
【0022】
本発明には著しい利点がある。
【0023】
第1に、本発明は、流量が少ないときでも、すなわち、セルの出入力間の圧力差(dP)が小さいときでも良好に機能する。第2に、本発明は、商用のPEFC系統に予め備わっている計器類を別の目的に利用することで行うことができる。本方法は、実験的に検証済みである。
【0024】
本方法によれば、低出力でも動作可能なことに加え、燃料電池の停止手順時にも特別な利益が得られる。
【0025】
新技術によれば、全く変更を加えることなく既存の器機(湿度センサ、水素濃度センサ、系統の各部品、データ獲得)を用いることができる。特に、自動車の燃料電池系統では、追加の計器類は不要である。これらの系統は、通常、湿度センサおよび水素濃度センサを装備しているからである。したがって、制御系統で必要とされるプログラミング作業が少なくてすむ。したがって、この新技術を用いれば、システム開発者たちは余計なコストをかけずに利益だけを享受することができる。
【0026】
第1の態様の一実施形態によれば、本方法は、上記少なくとも2回の水素パージの供給時にセルから除去されたガスの各量の比率を算出することにより、蓄積した水および/または除去された水の量を測定することを含む。
【0027】
パージされたガスから計測されると好ましいものとして、上記ガス・パージ・パルスに含まれる水素濃度が挙げられる。水素濃度を用いて、蓄積した水および/または除去された水の量を測定することができる。
【0028】
本発明の第1の態様の別の実施形態によれば、本方法は、パージ弁の開放手順にしたがって、パージ弁を介して少なくとも2回ガス・パージ・パルスを供給することを含む。上記手順において供給されるパージ・パルスは、例えば、
既定のパージ弁誘発機構、
経過時間を定期的に利用すること、
燃料電池によって生成された電流量、および/または
アノード側における圧力降下の既定の増加、により誘発される。
【0029】
典型的な系統では、上記少なくとも2回のガス・パージは、水の蓄積に要する時間と比較して短い時間内で供給される。典型的には5秒以内であり、各パージ・パルスの継続時間は、1秒の何分の1かである。パージを供給する時間の長さは、その間に、アノードのガス流路内で新たな水の蓄積が実質的に生じない程度の長さだと好ましい。
【0030】
また、本発明は、燃料電池の構成がいわゆる「デッドエンド方式」だと最も有利である。特に、本発明は、デッドエンド方式のPEFC系統において有利である。本方法は、圧力降下が小さい燃料電池で用いられるとさらに特に適している。系統が低部分負荷で動作する場合、圧力降下は典型的に小さくなる。
【0031】
また、この複数回パージ方法は、系統の性能または経年劣化を示すパラメータを導き出すためにも用いることができる。
【0032】
第1の態様の一実施形態によれば、本方法は、上記パージ・パルスの供給時にパージされたガスの容積を計測することと、少なくとも部分的に上記ガスの容積に基づいて、上記水の蓄積量および/または除去量を測定することとを含む。
【0033】
本方法は、乗用車などの自動車の燃料電池系統または定置式の燃料電池系統で行うことができる。
【0034】
(トレーサガスおよびトレーサガスセンサを用いて燃料電池系統の性能を分析する方法)
さらなる目的は、燃料消費などの燃料電池性能を測定するための改良された方法を提供することである。
【0035】
対応する燃料電池系統を提供することも目的の1つである。
【0036】
第2の態様の一実施形態によれば、燃料電池系統の性能を分析するための方法が提供される。この方法は、
燃料電池のアノードガス循環にトレーサガスを供給することであって、そのアノードガス循環は、アノードセルを通過することを含む、供給することと、
好ましくはアノードセルより下流で、アノードガス循環からガスをパージすることと、
トレーサガスセンサを用いて、パージされたガスに含まれるトレーサガスの濃度を計測することと、
上記トレーサガスの濃度を利用して、系統の性能パラメータを導き出すことと、を含む。
【0037】
第2の態様の一実施形態によれば、上記性能パラメータとしての水素燃料利用率が、水素センサまたは二酸化炭素センサを用いて計測管理される。特に、ガスセンサおよびトレーサガスを用いて、水素燃料電池系統内のパージされたガスの容積および組成を測定するための方法が提供される。この方法では、一定の組成を有するパージされたガスとともに、例えば、CO
2濃度およびH
2濃度の計測値を利用してもよい。
【0038】
この態様には著しい利点がある。この態様は、安価なセンサで機能し、またPEFC系統の既存の計器類を利用する。本方法は、実験的に検証済みである。
【0039】
トレーサガスは、水素、またはより好ましくは二酸化炭素を含んでいてもよい。燃料電池の動作時だけでなく点検時にも動作可能なように、トレーサガスは、適切な供給弁を介して、アノードガス源とは別のトレーサガス源からアノードガス循環に供給される。これは、二酸化炭素を用いる場合には特に好ましい。あるいは、トレーサガスは、燃料と混合されて燃料源からアノードガス循環に供給される。
【0040】
パージガスに含まれるトレーサガスの濃度を用いて、パージされたガスの容積を測定することができる。また、該濃度を用いて、性能パラメータとして燃料電池系統の効率を測定することができる。特に、燃料電池系統の定常状態での使用時においても、過渡状態での使用時においても、燃料電池系統の燃料効率を測定することができる。
【0041】
第2の態様の一実施形態によれば、本方法は、アノード循環におけるトレーサガスの全蓄積量を計測することと、パージされたガスの計測値に加えて上記全蓄積量の計測値を利用して上記系統の性能パラメータを導き出すこととを含む。トレーサガスの蓄積は、アノードセルにおけるトレーサガスの濃度、および/またはアノードセルの上流および/または下流におけるトレーサガスの濃度を、アノードガス循環から直接計測することにより計測できる。一方、パージガスの計測は、アノードセルと循環ポンプおよび/または噴射器との間の容積(パイプ)に基づいて行う。
【0042】
一実施形態によれば、本方法は、上記追加の計測により得たトレーサガスの濃度と、パージガスに含まれるトレーサガスの濃度とを比較することを含む。また、上記追加の濃度計測値を用いて、上記系統の性能パラメータを導き出すことができる。追加の計測は、アノードセルの上流と下流の両方、およびアノードセル膜において行ってもよい。これらの計測に基づいてアノードセル膜の透過率を測定することもできる。
【0043】
一実施形態によれば、アノードガス循環における未使用の入力時アノードガスに含まれるトレーサガスの濃度は、少なくとも2ppmである。
【0044】
本方法は、パージガスに含まれるトレーサガスの濃度に基づいて、ガス・パージの継続時間を調整することも含みうる。
【0045】
本発明の態様のより具体的な特徴は、独立請求項に記載されたとおりである。従属項には、上述した態様から選択した実施形態が記載されている。
【0046】
以下で、添付図面を参照しつつ、本発明の各実施形態、利点、およびさらなる利用をより詳細に述べる。