特許第6773555号(P6773555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773555
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】燃料電池の計測管理に関する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20201012BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20201012BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/10
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-514451(P2016-514451)
(86)(22)【出願日】2014年5月13日
(65)【公表番号】特表2016-518692(P2016-518692A)
(43)【公表日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】FI2014050358
(87)【国際公開番号】WO2014188061
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2016年1月22日
【審判番号】不服2018-13259(P2018-13259/J1)
【審判請求日】2018年10月4日
(31)【優先権主張番号】61/826,513
(32)【優先日】2013年5月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512068592
【氏名又は名称】テクノロギアン トゥトキムスケスクス ヴェーテーテー オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】ヤリ イホーネン
(72)【発明者】
【氏名】カイ ニキフォロフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリ カリマキ
(72)【発明者】
【氏名】ティモ ケラーネン
【合議体】
【審判長】 佐々木 芳枝
【審判官】 窪田 治彦
【審判官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−164562(JP,A)
【文献】 特開2008−41611(JP,A)
【文献】 特開2010−108756(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0164050(US,A1)
【文献】 特開2013−57511(JP,A)
【文献】 特開2007−5176(JP,A)
【文献】 特開2009−146619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池内の液体の水の蓄積および/または除去を測定する方法であって、
燃料電池プロセスにおいて電気エネルギーを生成するために、燃料電池のアノード側で燃料ガスを循環させることと、
前記燃料循環から5秒以内に少なくとも2回ガス・パージ・パルスを供給することと、
前記少なくとも2回のガス・パージ・パルスのパージされたガスの容積を分析することと、
前記少なくとも2回のガス・パージ・パルスの供給時に前記燃料電池から除去されたガスの容積の比率を算出することにより、蓄積した液体の水の量および/または除去された液体の水の量を測定することを含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ガス・パージ・パルスに含まれる燃料ガスの濃度を計測することを含み、前記ガスの容積の比率は計測された燃料ガスの濃度によって算出される、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、パージ弁の開放手順にしたがって、パージ弁を介して前記少なくとも2回のガス・パージ・パルスを供給することを含み、前記手順において供給されるガス・パージ・パルスは、
既定のパージ弁誘発機構、
経過時間を定期的に利用すること、
前記燃料電池によって生成された電流量、および/または
アノード側における圧力降下の既定の増加、によって誘発される、方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、前記各ガス・パージ・パルスの継続時間は、1秒の何分の1かである、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法であって、前記燃料電池の構成はデッドエンド方式である、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法であって、前記分析を用いて、系統の性能または経年劣化を表すパラメータを導き出すことを含む方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法であって、前記ガス・パージ・パルスの供給時にパージされたガスの容積を計測することと、少なくとも部分的に前記ガスの容積に基づいて前記液体の水の蓄積量および/または除去量を測定することとを含む方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって、自動車の燃料電池系統において行われる方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって、定置型の燃料電池系統で行われる方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法であって、前記燃料ガスは水素である、方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法であって、前記燃料電池は、固体高分子形燃料電池(PEFC:polymer electrolyte fuel cell)である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。特に、本発明は、固体高分子形燃料電池(PEFC:polymer electrolyte fuel cell)のアノード側における水の蓄積の測定および燃料電池系統の性能の測定に関する。本発明は、対応する燃料電池にも関する。
【背景技術】
【0002】
デッドエンド方式で動作する燃料電池では、セルのアノード側に不活性ガスと水の両方が蓄積する。流路に蓄積された水は、アノード側の出口弁を短時間開放して行う、いわゆる「水素パージ」により定期的に除去される。
【0003】
水素パージには2つの機能がある。水素パージにより、蓄積した不活性ガスと水の両方がアノードの流路から除去される。不活性ガスの除去は、水素濃度センサを用いて直接計測することができる。しかしながら、水の除去に関しては、特にアノードにおける圧力降下が小さい場合には、実用的かつ高精度な計測方法がない。圧力降下が大きく、かつ再循環するアノードガスの流量がわかっていれば、圧力降下の変化に基づいて水が除去されたかを検出することができる。
【0004】
パージの継続時間と頻度を最適化することで、燃料効率をわずかだが増加させることができる(1%〜3%まで)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アノード側の水の蓄積は、パージ前後の差圧信号の変化から検出することができる。しかしながら、差圧を使用できるのは、アノードガスの流量が一定に保たれ、かつ圧力差が十分大きい場合のみである。燃料電池が低出力で動作する場合や、あるいはアノードの圧力降下が非常に小さい場合(10ミリバール未満)は、これに充たらない。
【0006】
例えば最適なパージ方針を立てるために、PFECスタックのアノード内に蓄積した水を測定する方法が必要とされている。
【0007】
ある流量とガス組成を伴う圧力降下に基づいてアノード側の水の蓄積を調べる、というのが現在のところの主な診断方法である。再循環流量は、電流(水素消費)から容易に算出することができる。再循環率が小さい場合(噴射器に代えてポンプが用いられる)、圧力降下は小さいため、圧力信号の使用はより難しくなる。さらに、膜タイプのポンプを用いた場合、パルス状の流れにより、圧力信号を用いた計測はより難しくなる。
【0008】
流量が少ない場合、カソードの湿度は最も高くなり、またアノードにおける流速は最も遅くなるため、水の蓄積が最も深刻になる。始動時と停止時も流量が減少する。特にセル内部が湿潤状態にあると顕著である。したがって、流量が少ない場合には、流路中の水の蓄積を検出するための別の方法が必要となる。
【0009】
低負荷レベルにおいて水の蓄積を測定する必要がある。これを従来の測定方法(入口から出口の間でおこる圧力降下dP)で行うのは難しい。
【0010】
PEFC系統におけるさらなる課題は、水素燃料電池系統で消費される水素が、二酸化炭素も含む不活性ガスをある程度必ず含むことである。これらのガスは、再循環およびパージを伴うデッドエンド方式を採用する水素燃料電池系統が動作するにつれ、燃料電池系統内で濃縮されていく。
【0011】
また、デッドエンド方式で動作する燃料電池において、実際の燃料利用率を稼働時または12ヶ月点検時に計測することは非常に難しい。しかしながら、燃料利用率は、系統の効率および経年劣化を計測する際には鍵となるパラメータである。燃料利用率は、スタック部品(膜、ガス拡散層、バイポーラプレート)の性状の変化に伴い、スタック/系統の耐用期間にわたって変遷する。
【0012】
長期間にわたる計測では、ガスタンクの圧力および温度を燃料利用率の算出に用いることができる。これを行うには、ガスタンクの圧力と温度を両方とも高精度で計測する必要がある。一方、動作のある一点における瞬時の燃料利用率を知るには、水素パージ時の水素流れを高精度に計測する必要がある。パージ時におけるガス流量は実験室の実験では計測可能だが(Nikiforow氏ら(2012年)参照)、商用の燃料電池系統で行うには、必要な計器類があまりにも高価である。
【0013】
既存の燃料電池系統では、稼働状態で計測される燃料効率は精度を欠くものである。この理由から、例えばPEFC系統の経年劣化を測定するのは困難である。
【0014】
したがって、合理的な計器類およびコストで、燃料利用率を高精度に計測可能な方法が必要である。
【0015】
本発明の目的は、上述した課題を解決することである。
【0016】
(アノードガス流路内の水の蓄積を検出するための複数回パージ方法)
特定の目的としては、燃料電池内の水の蓄積を確実に測定できる方法を提供することである。具体的な目的の1つは、燃料電池が低負荷レベルにあるときに用いると適している方法を提供することである。
【0017】
対応する燃料電池系統を提供することも目的の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様によれば、高分子燃料電池のアノード側の流路に水が蓄積しているかどうかは、パージを2回行う方法(「2回パージ方法」)またはパージを複数回行う方法(「複数回パージ方法」)を用いて検出される。すなわち、2回以上の短い水素パージを短時間内で行って水の蓄積を測定する。「パージ」とは、セルの閉鎖弁を短時間開放状態に保ち、セルからガス(および水)を除去することを意味する。すなわち、「ガスを除去するパルス」を意味する。
【0019】
第1の態様の一実施形態によれば、水素燃料電池内における水の蓄積および/または除去を測定する方法が提供される。この方法は、
燃料電池プロセスにおいて電気エネルギーを生成するために、燃料電池のアノード側で水素を循環させることと、
水素循環から少なくとも2回パージ・パルスを供給することと、
上記少なくとも2回のガス・パージ・パルスのパージされたガスの組成および/または容積を分析して、燃料電池内の水の蓄積量および/または除去量を測定することと、を含む。
【0020】
一実施形態によれば、本発明は、水素濃度の計測値を利用して、同じ長さの時間行われると好ましい2回以上の水素パージによりセルから除去されたガスの各量の比率を比較することにより、燃料電池のアノード側に蓄積した水の量およびその除去量を計測管理することを含む。
【0021】
好適な実施形態では、Hの濃度計測値は、少なくとも2回の水素パージの供給を含む、あるパージ弁開放手順とともに用いられる。
【0022】
本発明には著しい利点がある。
【0023】
第1に、本発明は、流量が少ないときでも、すなわち、セルの出入力間の圧力差(dP)が小さいときでも良好に機能する。第2に、本発明は、商用のPEFC系統に予め備わっている計器類を別の目的に利用することで行うことができる。本方法は、実験的に検証済みである。
【0024】
本方法によれば、低出力でも動作可能なことに加え、燃料電池の停止手順時にも特別な利益が得られる。
【0025】
新技術によれば、全く変更を加えることなく既存の器機(湿度センサ、水素濃度センサ、系統の各部品、データ獲得)を用いることができる。特に、自動車の燃料電池系統では、追加の計器類は不要である。これらの系統は、通常、湿度センサおよび水素濃度センサを装備しているからである。したがって、制御系統で必要とされるプログラミング作業が少なくてすむ。したがって、この新技術を用いれば、システム開発者たちは余計なコストをかけずに利益だけを享受することができる。
【0026】
第1の態様の一実施形態によれば、本方法は、上記少なくとも2回の水素パージの供給時にセルから除去されたガスの各量の比率を算出することにより、蓄積した水および/または除去された水の量を測定することを含む。
【0027】
パージされたガスから計測されると好ましいものとして、上記ガス・パージ・パルスに含まれる水素濃度が挙げられる。水素濃度を用いて、蓄積した水および/または除去された水の量を測定することができる。
【0028】
本発明の第1の態様の別の実施形態によれば、本方法は、パージ弁の開放手順にしたがって、パージ弁を介して少なくとも2回ガス・パージ・パルスを供給することを含む。上記手順において供給されるパージ・パルスは、例えば、
既定のパージ弁誘発機構、
経過時間を定期的に利用すること、
燃料電池によって生成された電流量、および/または
アノード側における圧力降下の既定の増加、により誘発される。
【0029】
典型的な系統では、上記少なくとも2回のガス・パージは、水の蓄積に要する時間と比較して短い時間内で供給される。典型的には5秒以内であり、各パージ・パルスの継続時間は、1秒の何分の1かである。パージを供給する時間の長さは、その間に、アノードのガス流路内で新たな水の蓄積が実質的に生じない程度の長さだと好ましい。
【0030】
また、本発明は、燃料電池の構成がいわゆる「デッドエンド方式」だと最も有利である。特に、本発明は、デッドエンド方式のPEFC系統において有利である。本方法は、圧力降下が小さい燃料電池で用いられるとさらに特に適している。系統が低部分負荷で動作する場合、圧力降下は典型的に小さくなる。
【0031】
また、この複数回パージ方法は、系統の性能または経年劣化を示すパラメータを導き出すためにも用いることができる。
【0032】
第1の態様の一実施形態によれば、本方法は、上記パージ・パルスの供給時にパージされたガスの容積を計測することと、少なくとも部分的に上記ガスの容積に基づいて、上記水の蓄積量および/または除去量を測定することとを含む。
【0033】
本方法は、乗用車などの自動車の燃料電池系統または定置式の燃料電池系統で行うことができる。
【0034】
(トレーサガスおよびトレーサガスセンサを用いて燃料電池系統の性能を分析する方法)
さらなる目的は、燃料消費などの燃料電池性能を測定するための改良された方法を提供することである。
【0035】
対応する燃料電池系統を提供することも目的の1つである。
【0036】
第2の態様の一実施形態によれば、燃料電池系統の性能を分析するための方法が提供される。この方法は、
燃料電池のアノードガス循環にトレーサガスを供給することであって、そのアノードガス循環は、アノードセルを通過することを含む、供給することと、
好ましくはアノードセルより下流で、アノードガス循環からガスをパージすることと、
トレーサガスセンサを用いて、パージされたガスに含まれるトレーサガスの濃度を計測することと、
上記トレーサガスの濃度を利用して、系統の性能パラメータを導き出すことと、を含む。
【0037】
第2の態様の一実施形態によれば、上記性能パラメータとしての水素燃料利用率が、水素センサまたは二酸化炭素センサを用いて計測管理される。特に、ガスセンサおよびトレーサガスを用いて、水素燃料電池系統内のパージされたガスの容積および組成を測定するための方法が提供される。この方法では、一定の組成を有するパージされたガスとともに、例えば、CO濃度およびH濃度の計測値を利用してもよい。
【0038】
この態様には著しい利点がある。この態様は、安価なセンサで機能し、またPEFC系統の既存の計器類を利用する。本方法は、実験的に検証済みである。
【0039】
トレーサガスは、水素、またはより好ましくは二酸化炭素を含んでいてもよい。燃料電池の動作時だけでなく点検時にも動作可能なように、トレーサガスは、適切な供給弁を介して、アノードガス源とは別のトレーサガス源からアノードガス循環に供給される。これは、二酸化炭素を用いる場合には特に好ましい。あるいは、トレーサガスは、燃料と混合されて燃料源からアノードガス循環に供給される。
【0040】
パージガスに含まれるトレーサガスの濃度を用いて、パージされたガスの容積を測定することができる。また、該濃度を用いて、性能パラメータとして燃料電池系統の効率を測定することができる。特に、燃料電池系統の定常状態での使用時においても、過渡状態での使用時においても、燃料電池系統の燃料効率を測定することができる。
【0041】
第2の態様の一実施形態によれば、本方法は、アノード循環におけるトレーサガスの全蓄積量を計測することと、パージされたガスの計測値に加えて上記全蓄積量の計測値を利用して上記系統の性能パラメータを導き出すこととを含む。トレーサガスの蓄積は、アノードセルにおけるトレーサガスの濃度、および/またはアノードセルの上流および/または下流におけるトレーサガスの濃度を、アノードガス循環から直接計測することにより計測できる。一方、パージガスの計測は、アノードセルと循環ポンプおよび/または噴射器との間の容積(パイプ)に基づいて行う。
【0042】
一実施形態によれば、本方法は、上記追加の計測により得たトレーサガスの濃度と、パージガスに含まれるトレーサガスの濃度とを比較することを含む。また、上記追加の濃度計測値を用いて、上記系統の性能パラメータを導き出すことができる。追加の計測は、アノードセルの上流と下流の両方、およびアノードセル膜において行ってもよい。これらの計測に基づいてアノードセル膜の透過率を測定することもできる。
【0043】
一実施形態によれば、アノードガス循環における未使用の入力時アノードガスに含まれるトレーサガスの濃度は、少なくとも2ppmである。
【0044】
本方法は、パージガスに含まれるトレーサガスの濃度に基づいて、ガス・パージの継続時間を調整することも含みうる。
【0045】
本発明の態様のより具体的な特徴は、独立請求項に記載されたとおりである。従属項には、上述した態様から選択した実施形態が記載されている。
【0046】
以下で、添付図面を参照しつつ、本発明の各実施形態、利点、およびさらなる利用をより詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】アノードガスの再循環を示すとともに、デッドエンド方式を採用する水素燃料電池系統のアノード側の主たる動作を示す図である。
図2】異なる条件下(d2003−58=湿潤状態、d2003−52=乾燥状態)でパージを2回行った際の水素流れおよび濃度の計測値を示すグラフである。
図3】アノードガスの再循環およびガス容積の説明を示すとともに、デッドエンド方式を採用する水素燃料電池系統のアノード側の主たる動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(アノードガス流路内の水の蓄積を検出するための複数回パージ方法)
通常動作時におけるパージの継続時間および頻度を最適化するには、アノード流路内の水の蓄積を計測することが重要である。また、同じ動作条件下における水の蓄積の変化(増加)を診断材料として用いることで、バイポーラプレートおよびGDLの経年劣化を推測することができる。これら部品の経年劣化に伴い、水の蓄積は増加するからである。
【0049】
本新技術における方法の実用性および高精度は、スタックのアノード側の圧力降下が十分大きいという仮定の下で行う、圧力降下差を利用した方法に対して評価することができる。
【0050】
この新技術は、燃料電池がアノードとカソードとが交換可能なように構成される場合、カソード側のバイポーラプレートおよびGDLの経年劣化の検出にも用いることができる。
【0051】
しかしながら、カソード側部品の経年劣化は、圧力降下データから容易に見てとれる。カソード側の圧力降下は非常に大きく、またガス組成もより安定している。
【0052】
新技術は、すべての燃料電池自動車で用いることができるし、いくつかの定置型システムでも用いることができる。
【0053】
自動車やその他の用途において、水素燃料電池系統は、デッドエンド方式を採用して、水素ガスを再循環させて動作することが期待されている。図1にそのような系統を示す。
【0054】
水素パージ時、パージ弁は典型的には1秒の何分の1かの間だけ開かれる。
【0055】
一実施形態によれば、水素パージは、アノード側の不活性ガス濃度または水が、スタックの性能を低下させ、よってその性能を保持する必要があるようなレベルまで蓄積したときに実行される。
【0056】
一実施形態によれば、パージは、電圧信号により誘発されるか、算出された時間および/または生成された電流量から定期的に誘発されるか、またはアノード側からの圧力降下の増加により誘発されうる。
【0057】
パージプロセスにより、系統の動作または系統の経年劣化予想について有益な情報が得られる場合、診断目的でパージを行ってもよい。
【0058】
PEFCにおける課題の一つは、アノードとカソードの両方でガス流路内に水が蓄積することである。
【0059】
各セル内の流れ抵抗が同じである場合、パージ時の流れ抵抗によってパージされるガスの容積が決まるため、パージされるガスの容積は事実上一定となる。流路に水が存在する場合、流れ抵抗は大きくなり、パージされるガスの容積は小さくなる。水は水素パージにより流路から除去される。したがって、1回目の水素パージの後に2回目の水素パージを行うと、2回目の方がパージされるガスの容積が大きくなるはずである。除去されて流路内に水がない場合、流れ抵抗は同じであるため、パージされるガスの容積は等しいはずである。したがって、パージされる容積の増加は、流路内に液体の水が存在するかどうかを診断する信号として用いることができる。
【0060】
複数回パージ方法は、実験的に検証済みである。図2に実験検証結果を示す。水素流量信号に見られるように、スタックがアノードガス流路に最小限の量の水を備えつつ乾燥状態(d2003−52=乾燥)で動作するときは、流量(およびパージされるガス容積)は事実上一定である。湿潤状態(d2003−58=湿潤)では、2回目のガス・パージのピーク流量およびパージされるガスの容積は、1回目のパージの流量および容積の2倍以上であることも見てとれる。
【0061】
ガス流量の計測は、実際の燃料電池系統では実用的でない場合もある。パージされた容積を計測するには、高サンプリング・レートおよび高価な水素流量計が必要だからである。したがって、通常の系統では該計測を行うことができない。
【0062】
一実施形態によれば、パージされたガスの濃度が一定である場合、パージされた容積は、水素濃度の変化(増加)から計測することができる。
【0063】
図2を参照すると、湿潤状態対乾燥状態における濃度の変化の違いがはっきりと見てとれる。湿潤状態では2回目のパージにおける上昇が大きい。一方、乾燥状態では2回目のパージにおける上昇は小さい。
【0064】
水素濃度センサはどの自動車燃料電池系統にも備わっている。したがって、パージを2回/複数回行うことで、上記方法により、アノードガス流路内に液体の水が存在するかどうかを検出可能となる。
【0065】
アノード側の容積が判明している場合、パージされた容積の絶対量も濃度変化から計測することができる。パージされた容積が十分小さい場合、出口付近の濃度を有するガス(図1参照)のみがパージされ、ガスの組成は一定である。
【0066】
(トレーサガスおよびトレーサガスセンサを用いて燃料電池系統の性能を分析する方法)
以下、燃料電池系統の使用時および/または点検時に、好ましくは二酸化炭素であるトレーサガスとトレーサガスセンサとを用いて、系統の性能(パージされるガスの容積、燃料効率、系統の効率、または他の各種性能パラメータ)を計測する方法について説明する。
【0067】
一実施形態では、不活性ガスの蓄積速度を用いて、パージされたガスの容積の計測を行う(燃料効率についての説明)。
【0068】
一実施形態によれば、二酸化炭素濃度を用いて、パージされたガスの容積が計測される(燃料効率)。これは、定常状態で使用される燃料電池系統で行ってもよいし、過渡状態で使用される燃料電池系統で行ってもよい。
【0069】
一実施形態によれば、パージされたガスの組成を計測するために、二酸化炭素濃度または水素濃度が測定される。ガス組成データを用いて、パージ時間(弁開放)を調整することができるため、水素消費を最小限に抑えつつ、パージされたガスの容積を高精度で計測することができる。
【0070】
本発明で提案する各方法では、ガスセンサ(二酸化炭素用または水素用)を用いることにより、燃料利用率を稼働状態で計測することができる。通常動作時における各方法の適用性は、用いる水素の質に依存する。
【0071】
各方法は、通常動作時または点検時に稼働状態で用いることができる。点検時は、二酸化炭素含有率の高い水素燃料を用いると、より良好な計測精度を達成することができる。特に、点検時のオプションとして、燃料経路とは別に、燃料電池系統に二酸化炭素を加えることもできる。
【0072】
排出されたアノードガスからも二酸化炭素または水素が計測される場合、パージされたガスは、スタックの出口とパージ弁との間に存在するガスのみを含んでいることが確認できる。
【0073】
提案した方法の第1の実施形態では(水素センサを備える)、水素燃料利用率は、全不活性ガスの蓄積率を計測し、組成が一定のガスをパージした非常に少量のパージされたガスを用いて水素パージを行うことにより計測管理することができる。
【0074】
この方法では、用いた水素に含まれる全不活性ガスの含有量と膜のガス透過率の両方を計測しなくてはならない。この方法の実施は、Karimaki氏ら(2011年)によって示されるように可能ではある。しかしながら、この方法は、商用用途では実用的ではない場合もある。膜を通過した不活性ガスもアノード側に蓄積され、また膜のガス透過率は動作状態に依存するからである。水素燃料に含まれる不活性ガス含有量も、各注入毎に異なる可能性がある。
【0075】
提案する方法の別の実施形態では(二酸化炭素センサを備える)、水素濃度に代えて、二酸化炭素センサを用いて二酸化炭素含有量が計測管理される。用いた水素が十分な量の二酸化炭素を含む場合(2ppm)、蓄積する二酸化炭素は水素から生じたものであり、カソードで生じて膜を通過してきた水素は無視できるほど少量である。すべての蓄積二酸化炭素が水素から生じたものと仮定することができるため、水素に含まれる二酸化炭素および水素利用率の計測は、水素センサを用いた場合と比較して非常に単純に行うことができる。
【0076】
数十ppmの二酸化炭素を含む水素燃料を用いるか、または別の供給経路を用いて二酸化炭素を加えることにより、二酸化炭素を追加で系統に加えることもできる。
【0077】
この新技術を水素センサとともに用いた場合、自動車に計器類を追加する必要がない。自動車における燃料電池系統は、湿度センサおよび水素濃度センサを装備しているからである。しかしながら、精度は限定的であり、かつ長時間にわたる計測が必要とされる。
【0078】
二酸化炭素センサを用いた場合、燃料利用率のより高精度な計測が達成できる。水素燃料に含まれる二酸化炭素の量が十分でない場合、トレーサガスとして二酸化炭素を加え、自動車点検時に燃料利用率の計測を行うことができる。
【0079】
図3を参照すると、系統には、3種類の二酸化炭素(および不活性ガス)濃度を有する水素ガスが存在する。未使用水素(c)、再循環水素/パージされた水素(c)、および入口水素(c)である。原則的には、セル内においてcからcへの漸進的移行があるが、これは段階的移行であると仮定できる。
【0080】
[定常状態レベルの利用]
(定常状態における情報を用いた、パージされた水素の計測)
パージされたガスの容積が小さい場合、該容積に含まれるガスは濃度cを有するものだけである。これは、COが定常状態に達したとき、容積Vおよび容積Vに存在するCOのモル量は、ガス容積Vと共存していたときに供給されたものと同じでなくてはならないことを意味する。
【0081】
アノードガスがパージされるとき、CO濃度cを有するパージされたガス容積(V)は、同量の、CO濃度cを有するガス容積と置換される。
【0082】
その場合、系統のモルバランスは、以下の式で表わされる。
*V+c*V=c*V
は、以下の式から容易に算出可能である。
=c*V/(c−c
【0083】
定常状態に基づくやり方において鍵となる事項は、cの確実な計測および定常状態の測定である。
【0084】
[蓄積率/消耗率の利用]
およびVのガス容積が判明している場合、二酸化炭素の蓄積率を用いることができる。
【0085】
その場合、系統のモルバランスは、以下の式で表わされる。
*V+c*V=c*V+(Δc*V+Δc*V
式中、(Δc*V+Δc*V)は、系統のアノード側における二酸化炭素の蓄積/消耗を示す。
【0086】
も、以下の式から簡単に算出できる。
=(c*V−(Δc*V+Δc*V))/(c−c
【0087】
系統が、最初からある濃度の二酸化炭素によって占められ、かつ純粋な水素が用いられた場合、Vの算出はより簡単になり、以下の式により得られる。
=(Δc*V+Δc*V)/c
【0088】
[1回のパージ容積の計測]
蓄積率/消耗率は、1回のパージを計測する場合にも用いることができる。
【0089】
1回のパージのガス容積は、1回のパージの前後で計測される二酸化炭素濃度を用いて算出することもできる。全不活性ガス量を使用する場合と比較して、本方法ははるかに高精度であり、また二酸化炭素をトレーサガスとして加え、以下の式を用いることにより、さまざまな条件下で繰り返し行うことができる。
=(Δc*V+Δc*V)/c
【0090】
[パージされたガスの組成の計測]
パージを行う前にアノードガス容積に含まれる二酸化炭素濃度または水素濃度を計測し、それをパージされたガスの組成(排気水素から計測)と比較することにより、パージされたガスの組成が一定を保ったかどうかを確認することができる。
図1
図2
図3