【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0014】
図1は、本発明が適用された車両10の駆動系統の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。車両10は、エンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた車両用動力伝達装置16(以下、動力伝達装置16という)とを備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18(
図2参照)内に配設されたトルクコンバータ20および自動変速機22と、自動変速機22の出力回転部材である変速機出力ギヤ24にリングギヤ26aが噛み合わされた差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)26と、差動歯車装置26に連結された一対の車軸28等とを備えている。動力伝達装置16において、エンジン12から出力された動力は、トルクコンバータ20、自動変速機22、差動歯車装置26、及び車軸28等を順次介して駆動輪14へ伝達される。エンジン12は、車両10の動力源すなわち原動機で、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、トルクコンバータ20は流体式伝動装置である。
【0015】
図2は、トルクコンバータ20および自動変速機22の一例を説明する骨子図で、
図3はトルクコンバータ20の断面図である。トルクコンバータ20および自動変速機22は、自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸30の軸心RCに対して略対称的に構成されており、
図2ではその軸心RCの下半分が省略されている。また、
図3では、変速機入力軸30よりも下側部分が省略されている。トルクコンバータ20は、相互に溶接されたフロントカバー34およびリヤカバー35と、リヤカバー35の内側に固定された複数のポンプ羽根20fとを有し、エンジン12のクランク軸12aと動力伝達可能に連結されて軸心RC回りに回転するように配設されたポンプ翼車20pと、リヤカバー35の内側にリヤカバー35に対向するように配設され、変速機入力軸(タービン軸)30に動力伝達可能に連結されたタービン翼車20tとを備えている。トルクコンバータ20は、制御油室20d内にロックアップ制御圧Pslu(
図5参照)が供給されることにより、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの間を直結することができるロックアップクラッチ32を備えている。すなわち、トルクコンバータ20は、エンジン12と自動変速機22との間の動力伝達経路に設けられた、ロックアップクラッチ付車両用流体式伝動装置として機能している。また、動力伝達装置16には、ポンプ翼車20pに動力伝達可能に連結された機械式のオイルポンプ33が備えられている。オイルポンプ33は、エンジン12によって回転駆動されることにより、自動変速機22を変速制御したり、ロックアップクラッチ32を係合したり、動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の油圧を発生する(吐出する)。
【0016】
ロックアップクラッチ32は、油圧式多板摩擦クラッチ(湿式多板クラッチ)であり、そのロックアップクラッチ32には、
図3に示すように、ポンプ翼車20pと一体的に連結されたフロントカバー34に溶接によって固定された第1環状部材36と、第1環状部材36の外周に形成された外周スプライン歯36aに軸心RC回りに相対回転不能且つ軸心RC方向の移動可能に係合させられた複数枚(
図3では3枚)の環状の第1摩擦板(摩擦材)38と、が備えられている。ロックアップクラッチ32にはまた、トルクコンバータ20内に設けられたダンパ装置40を介して変速機入力軸30およびタービン翼車20tに動力伝達可能に連結された第2環状部材42と、第2環状部材42の内周に形成された内周スプライン歯42aに軸心RC回りに相対回転不能且つ軸心RC方向の移動可能に係合させられ且つ複数の第1摩擦板38との間に配設された複数枚(
図3では2枚)の環状の第2摩擦板(摩擦材)44と、が備えられている。ロックアップクラッチ32には更に、フロントカバー34の内周部34aに固定され変速機入力軸30のフロントカバー34側の端部を軸心RC回りに回転可能に支持するハブ部材46に、軸心RC方向の移動可能に支持され、フロントカバー34に対向する環状の押圧部材(ピストン)48と、ハブ部材46に位置固定に支持され、押圧部材48のフロントカバー34側とは反対側に押圧部材48に対向するように配設された環状の固定部材50と、押圧部材48を軸心RC方向において固定部材50側に付勢する、すなわち押圧部材48を軸心RC方向において第1摩擦板38および第2摩擦板44から離間させる方向に付勢するリターンスプリング52と、が備えられている。
【0017】
トルクコンバータ20には、
図3に示すように、フロントカバー34およびリヤカバー35内に主油室(トルクコンバータ油室)20cが設けられている。主油室20cには、オイルポンプ33から出力された作動油が作動油供給ポート20aから供給されるとともに、主油室20c内の作動油は作動油流出ポート20bから流出させられるようになっている(
図5の太線の破線矢印参照)。トルクコンバータ20の主油室20c内には、ロックアップクラッチ32と、ロックアップクラッチ32を係合させるための、すなわちロックアップクラッチ32の第1摩擦材38および第2摩擦材44を押圧する押圧部材48をフロントカバー34側へ付勢するためのロックアップ制御圧Psluが供給される制御油室20dと、ロックアップクラッチ32を解放させるための、すなわち押圧部材48をフロントカバー34側とは反対側へ付勢するための第2ライン油圧PL2(
図5参照)が供給されるフロント側油室20eと、フロント側油室20eと連通しフロント側油室20eからの作動油で満たされてその作動油を作動油流出ポート20bから流出させるリヤ側油室20gとが設けられている。なお、上記制御油室20dは押圧部材48と固定部材50との間に形成された油密な空間であり、上記フロント側油室20eは押圧部材48とフロントカバー34との間に形成された空間であり、上記リヤ側油室20gは主油室20cにおいて制御油室20dおよびフロント側油室20eを除く空間である。
【0018】
トルクコンバータ20は、
図3に示すように、例えば、制御油室20dに供給される作動油の油圧すなわちロックアップオン圧Pluponが比較的大きく(フロント側油室20eの油圧すなわちトルクコンバータイン圧Ptcinが比較的小さく)なることにより押圧部材48が付勢されて一点鎖線で示すようにフロントカバー34側に移動させられると、押圧部材48によって第1摩擦板38および第2摩擦板44が押圧されて摩擦係合させられ、第1環状部材36に連結されたポンプ翼車20pと第2環状部材42に連結されたタービン翼車20tとが一体回転させられるようになる。すなわち、トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ32が係合させられると、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとが直結される。また、例えば、制御油室20dのロックアップオン圧Pluponが比較的小さく(フロント側油室20eのトルクコンバータイン圧Ptcinが比較的大きく)なることにより押圧部材48が実線で示すように第1摩擦板38から離間した位置に移動させられると、第1環状部材36に連結されたポンプ翼車20pと第2環状部材42に連結されたタービン翼車20tとの相対回転が許容される。すなわち、トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ32が解放されると、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの直結状態が解除されて相対回転が許容される。
【0019】
ロックアップクラッチ32は、例えば次式(1) で表されるロックアップ差圧ΔPlupに基づいて伝達トルクが制御される。このロックアップ差圧ΔPlupは、制御油室20d内のロックアップオン圧Pluponと、フロント側油室20e内のトルクコンバータイン圧Ptcinおよび作動油流出ポート20bから流出する作動油の油圧であるトルクコンバータアウト圧Ptcoutの平均値〔(Ptcin+Ptcout)/2〕であるロックアップオフ圧との差圧である。(1) 式は、予め実験等によって決定された実験式で、トルクコンバータ20の構造等に応じて適宜定められる。また、(1) 式において、トルクコンバータイン圧Ptcinとトルクコンバータアウト圧Ptcoutは、エンジン回転数Ne、タービン回転数(変速機入力軸30の回転数)Nt、それらの差回転ΔN(=Ne−Nt)、第2ライン油圧PL2、ATF油温(作動油温度)Toil、エンジントルクTe等により変化する。なお、上記トルクコンバータアウト圧Ptcoutは、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、ATF油温Toil等が変化してトルクコンバータ20のリヤ側油室20g内の遠心油圧が変化することによっても変化する。上記ロックアップ差圧ΔPlupは、伝達トルクに対応するロックアップ係合圧に相当する。
ΔPlup=Plupon−(Ptcin+Ptcout)/2・・・(1)
【0020】
ロックアップクラッチ32は、電子制御装置56によって油圧制御回路54を介してロックアップ差圧ΔPlupが制御されることで、例えば、ロックアップ差圧ΔPlupが負とされてロックアップクラッチ32が解放される所謂ロックアップ解放状態(ロックアップオフ)と、ロックアップ差圧ΔPlupが零以上とされてロックアップクラッチ32が滑りを伴って半係合させられる所謂ロックアップスリップ状態(スリップ状態)と、ロックアップ差圧ΔPlupが最大値とされてロックアップクラッチ32が完全係合させられる所謂ロックアップ状態(ロックアップオン)とのうちの何れかの作動状態に切り替えられる。すなわち、Ptcin>Ptcout>Pluponの関係の場合にはロックアップ解放状態となり、Plupon>Ptcin>Ptcoutの関係になると、ロックアップ差圧ΔPlupに応じてロックアップ状態またはロックアップスリップ状態になる。なお、トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ32がロックアップ状態、ロックアップスリップ状態、ロックアップ解放状態であっても、フロント側油室20eとリヤ側油室20gとが同室すなわちフロント側油室20eとリヤ側油室20gとが常時相互に連通しており、作動油供給ポート20aからリヤ側油室20gへ向かう作動油によってロックアップクラッチ32が常時冷却される。
【0021】
図2に示される自動変速機22は、エンジン12から駆動輪14までの動力伝達経路の一部を構成し、油圧式摩擦係合装置である複数の第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合は単に油圧式摩擦係合装置CBという)およびワンウェイクラッチF1が選択的に係合又は解放されることにより変速比γが異なる複数のギヤ段(変速段)が形成される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、車両によく用いられる所謂クラッチツークラッチ変速を行う有段変速機である。自動変速機22は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置58と、ラビニヨ型に構成されているシングルピニオン型の第2遊星歯車装置60およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置62とを同軸線上(軸心RC上)に有し、入力回転部材である変速機入力軸30の回転を変速して変速機出力ギヤ24から出力する。
【0022】
第1遊星歯車装置58は、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1と同心円上に配置される第1リングギヤR1と、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1と噛み合う、一対の歯車対からなる第1ピニオンギヤP1と、その第1ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持する第1キャリアCA1とを有している。第2遊星歯車装置60は、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2と同心円上に配置される第2リングギヤR2と、第2サンギヤS2および第2リングギヤR2と噛み合う第2ピニオンギヤP2と、その第2ピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持する第2キャリアCA2とを有している。第3遊星歯車装置62は、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3と同心円上に配置される第3リングギヤR3と、その第3サンギヤS3および第3リングギヤR3と噛み合う、一対の歯車対からなる第3ピニオンギヤP3と、その第3ピニオンギヤP3を自転および公転可能に支持する第3キャリアCA3とを有している。
【0023】
前記油圧式摩擦係合装置CBの各油圧アクチュエータに対応してリニアソレノイドバルブSL1〜SL6(
図1参照)が配設されており、電子制御装置56から出力される変速制御信号Satに従ってリニアソレノイドバルブSL1〜SL6が制御され、油圧式摩擦係合装置CBが個別に係合解放制御されることにより、
図4の係合作動表に示すように、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて前進8速、後進1速の各ギヤ段が形成される。
図4の「1st」〜「8th」は前進ギヤ段としての第1速ギヤ段〜第8速ギヤ段を意味し、「Rev」は後進ギヤ段を意味している。前進ギヤ段では、その変速比γ(=変速機入力軸回転数Nin/変速機出力ギヤ回転数Nout)が、低速側の第1速ギヤ段「1st」から高速側の第8速ギヤ段「8th」へ向かうに従って段階的に小さくなる。
【0024】
図5は、ロックアップクラッチ制御に関する油圧制御回路54の一例を説明する油圧回路図である。油圧制御回路54は、ロックアップコントロールバルブ64と、オイルポンプ33から発生する油圧を元圧としてリリーフ形の第1ライン圧調圧弁67により調圧された第1ライン油圧PL1を、ロックアップ制御圧Psluに調圧するリニアソレノイドバルブSLUと、第1ライン油圧PL1を元圧として一定のモジュレータ油圧Pmodに調圧するモジュレータバルブ66とを備えている。油圧制御回路54には、前記リニアソレノイドバルブSL1〜SL6に対して第1ライン油圧PL1を供給する油路が備えられている。なお、
図5では、上記リニアソレノイドバルブSLUの元圧として第1ライン油圧PL1が用いられているが、第1ライン油圧PL1に替えてモジュレータ油圧Pmodが用いられても良い。
【0025】
ロックアップコントロールバルブ64は、オンオフソレノイドバルブSLからON油圧が供給されるとOFF位置からON位置へ切り替えられる2位置切換弁である。ロックアップコントロールバルブ64がON位置へ切り替えられると、
図5に実線で示すように、第1油路L1を閉路し、第2油路L2を第3油路L3に接続し、第1油路L1を排出油路EXに接続し、第4油路L4をオイルクーラ68に接続し、且つ第5油路L5を第6油路L6に接続する。上記第1油路L1は、トルクコンバータ20の作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧Ptcoutの作動油が導かれる油路である。上記第2油路L2は、リニアソレノイドバルブSLUによって調圧されたロックアップ制御圧Psluの作動油が導かれる油路である。上記第3油路L3は、トルクコンバータ20の制御油室20dに供給されるロックアップオン圧Pluponの作動油が導かれる油路である。上記第4油路L4は、第1ライン圧調圧弁67からリリーフされた油圧を元圧として第2ライン圧調圧弁69により調圧された第2ライン油圧PL2の作動油が導かれる油路である。上記第5油路L5は、モジュレータバルブ66によって一定値に調圧されたモジュレータ油圧Pmodの作動油が導かれる油路である。上記第6油路L6は、トルクコンバータ20のフロント側油室20eに供給されるトルクコンバータイン圧Ptcinの作動油が導かれる油路である。
【0026】
また、ロックアップコントロールバルブ64がOFF位置へ切り替えられると、
図5に破線で示すように、第1油路L1を第3油路L3に接続し、第2油路L2を閉路し、第1油路L1をオイルクーラ68へ接続し、第4油路L4を第6油路L6に接続し、且つ第5油路L5を閉路する。ロックアップコントロールバルブ64は、スプール弁子をOFF位置側へ付勢するスプリング64aと、スプール弁子をON位置側へ切り替えるためにオンオフソレノイドバルブSLから出力されるON油圧を受け入れるON切替油室64bとを備えている。ロックアップコントロールバルブ64は、オンオフソレノイドバルブSLからON切替油室64bに対するON油圧の供給が停止されると、スプリング64aの付勢力に従ってスプール弁子がOFF位置に保持され、オンオフソレノイドバルブSLからON切替油室64bにON油圧が供給されると、スプリング64aの付勢力に抗してスプール弁子がON位置に保持される。
【0027】
上記のように構成された油圧制御回路54により、ロックアップコントロールバルブ64からトルクコンバータ20における制御油室20dおよびフロント側油室20eへ供給される作動油が切り替えられることで、ロックアップクラッチ32の作動状態が切り替えられる。先ず、ロックアップクラッチ32がロックアップ状態乃至はロックアップスリップ状態とされる場合を説明する。電子制御装置56から出力されるロックアップ制御信号Sluに従ってオンオフソレノイドバルブSLからON油圧が出力され、ON切替油室64bに供給されると、ロックアップコントロールバルブ64がON位置に切り替えられる。これにより、ロックアップ制御圧Psluに調圧された作動油が油路L3からロックアップオン圧Pluponの作動油としてトルクコンバータ20の制御油室20dへ供給されるとともに、モジュレータ油圧Pmodに調圧された作動油が油路L6からトルクコンバータイン圧Ptcinの作動油としてトルクコンバータ20のフロント側油室20eへ供給され、ロックアップアウト圧Ptcoutの作動油が油路L1から排出油路EXへ排出される。この場合、ロックアップオン圧Pluponと、トルクコンバータイン圧Ptcinと、トルクコンバータアウト圧Ptcoutとの大きさの関係は、Plupon>Ptcin>Ptcoutとなる。したがって、トルクコンバータ20の制御油室20dのロックアップオン圧Pluponすなわちロックアップ制御圧Psluが、ロックアップ制御信号Sluに従ってリニアソレノイドバルブSLUにより調圧されると、ロックアップ係合圧に対応するロックアップ差圧ΔPlupが調圧されて、ロックアップクラッチ32の作動状態がロックアップスリップ状態乃至はロックアップ状態(完全係合状態)の範囲で制御される。ロックアップスリップ状態では、ロックアップ制御圧Psluを制御することにより、ロックアップ差圧ΔPlup、更にはロックアップクラッチ32のスリップ量ΔNを連続的に調整できる。ロックアップスリップ状態では、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転ΔNがスリップ量に相当する。
【0028】
次に、ロックアップクラッチ32がロックアップ解放状態とされた場合を説明する。ロックアップ制御信号Sluに従ってオンオフソレノイドバルブSLからのON油圧の出力が停止させられ、ON切替油室64bに対するON油圧の供給が停止すると、スプリング64aの付勢力に従ってスプール弁子が移動させられ、ロックアップコントロールバルブ64がOFF位置に切り替えられる。これにより、トルクコンバータ20の作動油流出ポート20bから流出したトルクコンバータアウト圧Ptcoutの作動油が油路L1およびL3を経てロックアップオン圧Pluponの作動油としてトルクコンバータ20の制御油室20dへ供給されるとともに、第2ライン油圧PL2が油路L6からトルクコンバータイン圧Ptcinの作動油としてトルクコンバータ20のフロント側油室20eへ供給される。また、作動油流出ポート20bから流出したトルクコンバータアウト圧Ptcoutの作動油の一部は、油路L1からオイルクーラ68へ供給される。この場合、ロックアップオン圧Pluponと、トルクコンバータイン圧Ptcinと、トルクコンバータアウト圧Ptcoutとの大きさの関係は、Ptcin>Ptcout>Pluponとなる。これにより、ロックアップクラッチ32の作動状態がロックアップ解放状態に切り替えられる。
【0029】
図1に戻り、車両10は、例えばロックアップクラッチ32のロックアップ制御圧Psluすなわちロックアップ差圧ΔPlupを制御するロックアップクラッチ制御や、自動変速機22の変速時の油圧式摩擦係合装置CBの係合圧を制御する変速制御等を油圧制御回路54を介して実行するコントローラとして電子制御装置56を備えている。電子制御装置56は、エンジン12の出力(トルク)を制御するコントローラを兼ねている。
図1は、電子制御装置56の入出力系統を示す図であり、電子制御装置56による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置56は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種の制御を実行する。エンジン制御用、変速制御用等に分けて電子制御装置が設けられても良い。
【0030】
電子制御装置56には、車両10が備える各種センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、スロットル弁開度センサ70により検出されるスロットル弁開度θthを表す信号、車速センサ72により検出される車速Vを表す信号、アクセル操作量センサ74により検出されるアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量θaccを表す信号、油温センサ76により検出されるATF油温Toilを表す信号、エンジン回転センサ78により検出されるエンジン12の回転数(エンジン回転数)Neを表す信号、タービン回転センサ80により検出されるトルクコンバータ20のタービン翼車20tの回転数(タービン回転数)Ntを表す信号、スポーツモード選択スイッチ82により走行性能優先のスポーツモードが選択されたか否かを表す信号、エコモード選択スイッチ84により燃費優先のエコモードが選択されたか否かを表す信号等が、電子制御装置56に入力される。車速センサ72は、例えば変速機出力ギヤ24の回転速度である変速機出力ギヤ回転数Noutを検出するように配設され、その変速機出力ギヤ回転数Noutから車速Vを算出できる。また、タービン回転数Ntは、変速機入力軸30の回転速度である変速機入力軸回転数Ninと同じである。
【0031】
一方、電子制御装置56からは、エンジン12の作動を制御するためのエンジン制御信号Seや、自動変速機22の変速に関する油圧制御のための変速制御信号Sat、ロックアップクラッチ32の作動状態の切替制御のためのロックアップ制御信号Slu等が出力される。エンジン制御信号Seは、例えば電子スロットル弁の開閉制御や燃料噴射装置による燃料噴射量の制御、点火時期制御などを行なう制御信号で、エンジン12のトルクを制御する。変速制御信号Satは、油圧式摩擦係合装置CBを係合解放制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL6を駆動するための制御信号である。また、ロックアップ制御信号Sluは、ロックアップ制御圧Psluを調圧するリニアソレノイドバルブSLUを駆動するための制御信号や、ON油圧を出力するオンオフソレノイドバルブSLを駆動するための制御信号である。
【0032】
電子制御装置56は、機能的にエンジン制御部100、変速制御部102、ロックアップクラッチ制御部110を備えている。エンジン制御部100は、基本的にはアクセル操作量θaccおよび車速V等に基づいてエンジン12の出力制御を行なう。また、変速制御部102からの要求に応じて変速時にエンジン12のトルクダウン制御等を実行する。
【0033】
変速制御部102は、例えば車速Vとアクセル操作量θacc等の出力要求量とをパラメータとして予め定められた変速マップ(変速条件)に従って変速判断を行い、必要に応じて自動変速機22のギヤ段を自動的に切り換えるとともに、シフトレバー等による運転者の変速指示に従って自動変速機22のギヤ段を切り換えるマニュアル変速を行なう。この変速制御は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6を介して油圧式摩擦係合装置CBを係合解放制御することによって行われ、解放側摩擦係合装置の油圧が予め定められた変化パターンで減圧されるとともに、係合側摩擦係合装置の油圧が予め定められた変化パターンで増圧される。必要に応じてエンジン12のトルクダウン指令等をエンジン制御部100に出力する。
【0034】
変速制御部102は目標時間設定部104を機能的に備えている。目標時間設定部104は、例えば変速制御開始から変速終了までの目標変速時間や、変速制御開始からイナーシャ相開始までの目標滑り出し時間、イナーシャ相開始から変速終了(イナーシャ相終了)までの目標イナーシャ時間等の目標時間を、車両情報に基づいて設定する。車両情報は、例えば変速の種類(アップシフト、ダウンシフト、どのギヤ段からどのギヤ段への変速)やパワーON(駆動状態)、パワーOFF(被駆動状態)、走行モード(スポーツモード、通常モード、エコモード等)、ATF油温Toil、変速機入力トルクTin、車速V、アクセル操作量θacc等であり、変速ショックや加速応答性等のドラビリ、或いは燃費性能等を考慮して、それ等の車両情報の1または複数の情報をパラメータ(変数)とするマップ等により目標時間が定められている。したがって、実際の車両情報に基づいてマップ等から目標時間が算出される。変速制御部102は、その目標時間に応じて解放側摩擦係合装置および/または係合側摩擦係合装置の油圧変化パターンを設定する。例えば、油圧変化パターンが、所定の定圧待機後に油圧を変化させる場合、定圧待機圧を増減したり、定圧待機時間を増減したり、定圧待機後の油圧変化の変化率を増減したりする。また、イナーシャ相においてタービン回転数Nt(=変速機入力軸回転数Nin)が所定の変化率で変化するように油圧を制御する場合には、例えばタービン回転数Ntの目標変化率を目標イナーシャ時間等に応じて設定する。これにより、車両状態に応じてドラビリや燃費性能が優れた変速制御を行うことができる。
【0035】
ロックアップクラッチ制御部110は、ロックアップクラッチ32の作動状態を切替制御するもので、完全ロックアップ制御部112、フレックスロックアップ制御部114、変速時フレックスロックアップ制御部116を機能的に備えている。ロックアップクラッチ制御部110は、ロックアップクラッチ32のロックアップ差圧ΔPlupすなわちロックアップ制御圧Psluを制御するロックアップ制御を実行する。ロックアップクラッチ制御部110は、例えば車速Vおよびスロットル弁開度θthをパラメータとして、ロックアップオフ領域、スリップ作動領域、ロックアップオン領域を有する予め定められた関係(ロックアップ領域線図)を用いて実際の車速Vおよびスロットル弁開度θthに基づいて、ロックアップオフ領域、スリップ作動領域、ロックアップオン領域の何れの領域であるかを判断し、その判断した領域に対応する作動状態にロックアップクラッチ32がなるように、ロックアップ制御信号Sluを制御する。このロックアップ制御信号Sluに従って、油圧制御回路54に設けられたリニアソレノイドバルブSLUおよびオンオフソレノイドバルブSLが駆動(作動)されることにより、判断した領域に対応する作動状態にロックアップクラッチ32の作動状態が制御される。
【0036】
完全ロックアップ制御部112は、ロックアップクラッチ制御部110での前記ロックアップ領域線図で前記ロックアップオン領域であると判断された場合に、ロックアップクラッチ32を完全係合させるように、オンオフソレノイドバルブSLからON油圧が出力されてロックアップコントロールバルブ64がON位置に保持されるとともに、リニアソレノイドバルブSLUによって調圧されるロックアップ制御圧Psluを最大圧とする、ロックアップ制御信号Sluを出力するロックアップ制御を実施する。これにより、ロックアップクラッチ32が、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとを直結するロックアップ状態(ロックアップオン)となる。
【0037】
フレックスロックアップ制御部114は、ロックアップクラッチ制御部110での前記ロックアップ領域線図で前記スリップ作動領域であると判断された場合に、ロックアップクラッチ32を完全係合させずにポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの差回転(スリップ量)ΔNが予め設定された目標差回転ΔN*となるように、リニアソレノイドバルブSLUによって調圧されるロックアップ制御圧Pslu(ロックアップオン圧Plupon)を制御するロックアップ制御信号Sluを出力するフレックスロックアップ制御を実施する。目標差回転ΔN*は、例えば予め一定値が設定されるが、車両情報に基づいて可変設定されるようにすることもできる。この時も、ロックアップ制御信号SluによりオンオフソレノイドバルブSLからON油圧が出力され、ロックアップコントロールバルブ64がON位置に保持される。これにより、ロックアップクラッチ32は、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの差回転ΔNが目標差回転ΔN*となるロックアップスリップ状態になる。
【0038】
なお、ロックアップクラッチ制御部110での前記ロックアップ領域線図で前記ロックアップオフ領域であると判断された場合には、ロックアップクラッチ32を解放するようにオンオフソレノイドバルブSLからのON油圧の出力を停止させるロックアップ制御信号Sluを出力するロックアップクラッチ解放制御が行われる。これにより、ロックアップコントロールバルブ64がOFF位置に保持され、ロックアップクラッチ32が解放されるロックアップ解放状態(ロックアップオフ)になる。
【0039】
変速時フレックスロックアップ制御部116は、ロックアップクラッチ32がロックアップ状態またはロックアップスリップ状態である時に自動変速機22の変速が行われる場合に、ロックアップクラッチ32が変速時ロックアップスリップ状態となるように、リニアソレノイドバルブSLUによって調圧されるロックアップ制御圧Psluを制御するロックアップ制御信号Sluを出力する変速時フレックスロックアップ制御を実施する。具体的には、例えばロックアップ制御圧Psluが予め定められた変速時目標制御圧Pslu*になるようにリニアソレノイドバルブSLUを制御する。変速時目標制御圧Pslu*は、例えば変速制御開始時のロックアップクラッチ32がロックアップ状態かロックアップスリップ状態か、および各種の車両情報に基づいて設定される。車両情報は、例えば変速の種類(アップシフト、ダウンシフト、どのギヤ段からどのギヤ段への変速)やパワーON(駆動状態)、パワーOFF(被駆動状態)、走行モード(スポーツモード、通常モード、エコモード等)、ATF油温Toil、エンジントルクTe、車速V、エンジン回転数Ne等で、変速ショックや加速応答性等のドラビリ、或いは燃費性能等を考慮して、それ等の車両情報の1または複数の情報をパラメータとするマップ等により変速時目標制御圧Pslu*が定められる。したがって、実際の車両情報に基づいてマップ等から変速時目標制御圧Pslu*が算出される。この変速時目標制御圧Pslu*は変速制御の期間中一定値であっても良いが、徐々に変化させることもできる。また、必ずしも変速制御期間の全域で変速時フレックスロックアップ制御を行う必要はなく
、変速制御期間の一部で変速時フレックスロックアップ制御を行うだけでも良い。
図8は、変速時フレックスロックアップ制御の一例を説明するタイムチャートで、時間t1〜t4の変速制御期間の全域で変速時フレックスロックアップ制御が行われるとともに、この例では変速時目標制御圧Pslu*が連続的に変化させられている。この変速時フレックスロックアップ制御部116を機能的に備えている電子制御装置56は、車両用動力伝達装置の制御装置に相当
し、変速時目標制御圧Pslu*はロックアップ係合圧に対応する。
【0040】
上記変速時フレックスロックアップ制御部116は、ダウンシフトの変速制御の初期段階で変速時目標制御圧Pslu*を減圧(ドレン補正)するダウンシフト初期減圧部118を機能的に備えている。すなわち、ダウンシフトの場合、アップシフト時よりも速やかにイナーシャ相を開始させるために、
図8に示すように変速時目標制御圧Pslu*が変速前後のフレックスロックアップ制御時よりも低下させられるが、作動油の粘性による流通抵抗等により押圧部材48の移動が阻害されるなどしてロックアップ差圧ΔPlupの低下が遅れるため、ダウンシフト初期減圧部118によって変速時目標制御圧Pslu*を更に低下させるドレン補正を実施する。その際に、本実施例では変速制御における目標時間を考慮してドレン補正量αを設定するようになっている。すなわち、本実施例ではダウンシフト初期減圧部118が変速協調部として機能している。
ドレン補正量αは、変速時フレックスロックアップ制御時におけるロックアップ係合圧の減圧幅に相当する。
【0041】
図6のステップS1〜S8(以下、単にS1〜S8という)は、変速時フレックスロックアップ制御部116による変速時フレックスロックアップ制御を具体的に説明するフローチャートで、S7がダウンシフト初期減圧部118に相当する。S1では、前記完全ロックアップ制御部112によるロックアップ制御の実施中か否かを判断し、ロックアップ制御実施中の場合には、S2で変速制御部102による変速制御が開始されたか否か、すなわち変速のための油圧制御が開始されたか否かを判断する。変速制御が開始されなければそのまま終了するが、変速制御が開始された場合はS3でダウンシフトか否かを判断し、ダウンシフトでない場合すなわちアップシフトの場合には、直ちにS8の変速時フレックスロックアップ制御を実行する一方、ダウンシフトの場合はS7を実行してダウンシフト初期減圧部118によるドレン補正を行なった後にS8を実行する。
【0042】
S1の判断がNO(否定)の場合、すなわち完全ロックアップ制御部112によるロックアップ制御を実施中でない場合は、S4を実行し、フレックスロックアップ制御部114によるフレックスロックアップ制御を実施中か否かを判断する。フレックスロックアップ制御を実施中でない場合はそのまま終了するが、フレックスロックアップ制御を実施中の場合には、S5を実行し、前記S2と同様に変速制御部102による変速制御が開始されたか否かを判断する。変速制御が開始されなければそのまま終了するが、変速制御が開始された場合はS6でダウンシフトか否かを判断し、ダウンシフトでない場合すなわちアップシフトの場合には、直ちにS8の変速時フレックスロックアップ制御を実行する一方、ダウンシフトの場合はS7を実行してダウンシフト初期減圧部118によるドレン補正を行なった後にS8を実行する。
【0043】
S7のドレン補正は、変速制御開始前にロックアップ制御中かフレックスロックアップ制御中か、および前記目標時間設定部104によって設定される変速制御の目標時間に応じて、イナーシャ相開始が適切なタイミングで行われるようにするためのドレン補正量αを算出する。ドレン補正量αは、例えば
図7に示すように目標時間である目標滑り出し時間と、変速後同期回転数とタービン回転数Ntとの差(変速時回転差)をパラメータとして予め定められた補正量マップから算出される。この補正量マップは、例えば目標滑り出し時間が短い場合は長い場合に比較してドレン補正量αが大きくされるとともに、変速時回転差が大きい場合は小さい場合に比較してドレン補正量αが大きくされるように定められている。また、ロックアップ制御中の場合とフレックスロックアップ制御中の場合とで補正量マップが別々に定められている。
【0044】
図8は、パワーONのダウンシフト時に
図6のフローチャートに従って変速時フレックスロックアップ制御が行われた場合のタイムチャートの一例で、ダウンシフトの変速初期に変速時目標制御圧Pslu*がドレン補正量αだけ低下させられることにより、作動油の流通抵抗等に拘らず押圧部材48を移動させつつロックアップ差圧ΔPlupが速やかに低下させられる。これにより、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転(スリップ量)ΔNが速やかに増加させられ、イナーシャ相の開始が早くなる。これに対し、
図8のタイムチャートの破線は、ドレン補正を行なわなかった場合で、作動油の粘性による流通抵抗等により押圧部材48の移動が阻害されるなどしてロックアップ差圧ΔPlupの変化が遅れ、差回転(スリップ量)ΔNの増加(エンジン回転数Neの上昇)が遅くなって、変速の進行が遅くなる可能性がある。なお、
図8の「SLU指示圧」は、ロックアップ制御圧Psluの指令値であり、実際のロックアップ制御圧Psluやロックアップ差圧ΔPlupはSLU指示圧よりも遅れて変化する。
【0045】
また、ドレン補正量αが目標滑り出し時間に応じて設定されることにより、目標滑り出し時間の相違に拘らず変速時目標制御圧Pslu*が適切に補正される。これにより、その変速時目標制御圧Pslu*によって変速時フレックスロックアップ制御が適切に行なわれ、目標滑り出し時間に基づいてダウンシフトが適切に進行させられてドラビリが向上するとともに、差回転ΔNの過剰な増加による燃費の悪化等が抑制される。このドレン補正は、目標滑り出し時間から予測できる滑り出し前(時間t2)、すなわちイナーシャ相が開始する前に、終了させられる。
図8の時間t1は変速制御の開始時間で、変速時フレックスロックアップ制御の開始時間でもある。時間t3は、タービン回転数Ntが変速後同期回転数となる変速終了判断時間で、時間t4は、変速時フレックスロックアップ制御の終了時間である。
【0046】
このように本実施例の車両用動力伝達装置16の電子制御装置56によれば、変速制御の際に用いられる目標時間(実施例では目標滑り出し時間)に応じて、変速時フレックスロックアップ制御時のスリップ状態、すなわちロックアップ係合圧に対応する変速時目標制御圧Pslu*のドレン補正量αが調整されるため、変速の種類や走行モード等によって変速制御の内容、具体的には上記目標時間が相違しても、その目標時間に応じて変速時フレックスロックアップ制御が適切に行われるようになり、ドラビリや燃費を向上させることができる。
【0047】
また、本実施例ではダウンシフトの変速制御の初期段階で変速時目標制御圧Pslu*を更に低減するドレン補正が行なわれるため、作動油の流通抵抗等に拘らず押圧部材48を移動させつつロックアップ差圧ΔPlupが速やかに低下させられるようになる。これにより、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転(スリップ量)ΔNが速やかに増加させられてイナーシャ相の開始が早くなり、ダウンシフトが速やかに実行されて加速性能等のドラビリが向上する。
【0048】
なお、上記実施例ではダウンシフトの変速制御の初期段階で変速時目標制御圧Pslu*を更に低減するドレン補
正について説明したが
、例えば、アップシフト時の変速時フレックスロックアップ制御にも
同様の制御を適用できる。また、
図9、
図10に示すように、タービン回転数Ntが変化するイナーシャ相で変速時フレックスロックアップ制御を実行する場合にも適用され得る。具体的には、例えば次式(2) に示すように、イナーシャ相におけるタービン回転数Ntの目標変化率ΔNt*にゲインAを掛け算するとともに、静的目標差回転ΔNに関する補正項B、入力トルクTinに関する補正項C、および変速制御における目標時間である目標イナーシャ時間に関する補正項Dを加算して、変速時目標制御圧Pslu*を算出し、その変速時目標制御圧Pslu*となるようにリニアソレノイドバルブSLUを介してロックアップ制御圧Psluを制御する。ゲインAは、例えば変速の種類(アップシフト、ダウンシフト、どのギヤ段からどのギヤ段への変速)やパワーON(駆動状態)、パワーOFF(被駆動状態)、走行モード(スポーツモード、通常モード、エコモード等)、ATF油温Toil、エンジントルクTe、車速V、エンジン回転数Ne等の車両情報に基づいて、変速ショックや加速応答性等のドラビリ、或いは燃費性能等を考慮して予め定められたマップ等から求められる。例えば、
図9のアップシフトでは、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転(スリップ量)ΔNの増加による燃費の悪化等を抑制するために、変速前後のフレックスロックアップ制御部114による通常のフレックスロックアップ制御時よりも変速時目標制御圧Pslu*が高くされる。また、
図10のダウンシフトでは、変速終了時の変速ショックを抑制するために、変速前後のフレックスロックアップ制御部114による通常のフレックスロックアップ制御時よりも変速時目標制御圧Pslu*が低くされる。
図9および
図10における時間t1は、変速制御の開始時間で、時間t2はイナーシャ相の開始時間で、時間t3は変速終了時間(イナーシャ相の終了時間)であり、変速時目標制御圧Pslu*の前後のSLU指示圧は、フレックスロックアップ制御部114による通常のフレックスロックアップ制御時の値である。
Pslu*=ΔNt*×A+B+C+D ・・・(2)
【0049】
ここで、アップシフトに関する
図9のSLU指示圧の欄の実線は、目標イナーシャ時間が短い場合で、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転(スリップ量)ΔNが過大にならないように、目標イナーシャ時間が長い場合よりも変速時目標制御圧Pslu*が高くされる。また、ダウンシフトに関する
図10のSLU指示圧の欄の実線は、目標イナーシャ時間が短い場合で、変速ショックを抑制するために、目標イナーシャ時間が長い場合よりも変速時目標制御圧Pslu*が低くされる。このように変速制御の目標イナーシャ時間に応じて変速時目標制御圧Pslu*が調整されることにより、変速の種類や走行モード等によって目標イナーシャ時間が相違しても、その目標イナーシャ時間に応じて変速時フレックスロックアップ制御が適切に行われるようになり、ドラビリや燃費を向上させることができる。
【0050】
なお、
図9および
図10におけるSLU指示圧の欄の一点鎖線は、目標イナーシャ時間等の目標時間、或いはその他の車両情報に基づいて、変速時フレックスロックアップ制御の開始時間および終了時間を変更したり、変速時フレックスロックアップ制御の開始時および終了時にSLU指示圧を徐変させたりした場合である。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0052】
例えば、前述の実施例のトルクコンバータ20は、作動油供給ポート20aと、作動油流出ポート20bと、制御油室20dにロックアップ制御圧Psluを供給するポートとを有し、押圧部材48を移動させて多板式のロックアップクラッチ32を係合解放する3ポート構造であったが、2ポート構造のトルクコンバータ等にも本発明は適用され得る。また、多板式のロックアップクラッチ32の替わりに単板式のロックアップクラッチを採用することもできる。
【0053】
また、前記実施例ではロックアップ係合圧であるロックアップ差圧ΔPlupをロックアップ制御圧Pslu(ロックアップオン圧Plupon)によって制御しているが、ロックアップ係合圧をリニアソレノイドバルブ等によって直接制御できるロックアップクラッチやトルクコンバータを採用することもできる。
【0054】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。