(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の人工石の製造方法の各工程においては、混合材料の型枠内への打設・整形、破砕を誘導するための目地入れ、一定期間の型枠内での養生、養生後の破砕が必要であるため、作業工程が煩雑となり製造効率が低下するとともに、製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
また、従来までは、浚渫土と製鋼スラグ・高炉スラグ微粉末等の混合物について、型枠内への打設時の施工性を確保するために、JIS A 1101に基づいて測定されるスランプが5cm以上となるように加水している(非特許文献1参照)。浚渫土を用いる人工石の目標圧縮強度は、一般に材令28日で9.8N/mm
2以上(準硬石相当)と設定することが多いが、施工性確保のために加水してスランプを大きくすると強度低下の要因となり、目標圧縮強度を達成できなくなる。なお、土木用のコンクリートは、スランプ8〜12cmが一般的である。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、作業工程を簡略化して製造効率を向上させ、また、所定の圧縮強度を得ることのできる浚渫土等の泥土を用いた人工石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための人工石の製造方法は、泥土に少なくとも製鋼スラグと結合材とを混合する工程と、前記混合後の混合材料の型枠内への打設を省略し、前記混合材料を重機のバケットで掬い取る工程と、前記掬い取られた混合材料を所定期間養生する工程と、を含み、1回の前記掬い取りにより1個の人工石を得るようにして前記掬い取り工程を繰り返すことで多数の前記人工石を製造する。
【0010】
この人工石の製造方法によれば、泥土に少なくとも製鋼スラグと結合材とを混合した混合材料を、型枠内に打設せずに、直接バケットで掬い取ることで人工石を得るので、作業工程を簡略化して製造効率を向上させることができる。
【0011】
上記人工石の製造方法において、前記混合材料のスランプが所定値を超えた場合、前記スランプが小さくなるように所定時間静置し、次に、前記掬い取りを行うことが好ましい。これにより、スランプが大きいため人工石の形状を維持できない場合でも、人工石の形状を維持できるようになる。このスランプの所定値は、5cmとすることが好ましい。なお、静置する所定時間は、最長で4時間が好ましい。なお、スランプは、JIS A 1101 2005に基づいて測定される値である。
【0012】
また、前記混合工程の後に前記混合材料をさらに攪拌し、次に、前記掬い取りを行うことで、得られる人工石の強度増加を図ることができ、所定の圧縮強度を得ることができる。
【0013】
また、前記バケットのサイズを変更することで、前記人工石の1個あたりのサイズを変更することができる。これにより、用途に応じたサイズの人工石を容易に提供できる。
【0014】
また、前記泥土の含水比を測定し、前記混合工程の前に前記泥土の含水比を調整することが好ましい。
【0015】
また、前記結合材として高炉スラグ微粉末、高炉セメントおよびフライアッシュのうちの少なくとも1つを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作業工程を簡略化して製造効率を向上させ、また、所定の圧縮強度を得ることのできる浚渫土等の泥土を用いた人工石の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態による浚渫土を用いた人工石の製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
図2は、
図1の人工石の製造方法の工程S05,S06におけるバックホウによる混合材料の掬い取りおよび配置を概略的に示す図(a)(b)である。
【0019】
図1を参照すると、まず、必要に応じて浚渫土の含水比を調整する(S01)。すなわち、浚渫土の含水比を測定し、含水比を大きくする場合には加水処理をし、また、小さくする場合には放置し上水撤去処理等を行う。浚渫土の含水比は、事前に実施した配合試験の結果から、製鋼スラグや高炉スラグ微粉末等の材料の混合量と合せて人工石の目標圧縮強度が得られように決定することが好ましい。浚渫土の含水比は150%〜230%の範囲内が好ましいが、この範囲内であっても目標圧縮強度が得られるように含水比を調整することがある。
【0020】
上述の浚渫土と製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを混合し、たとえば、攪拌回転羽根を有するミキサ等の攪拌装置により攪拌して均一に混合する(S02)。この混合後の材料(混合材料)Mを
図2(a)(b)の仮置場Tに運搬し(S03)、仮置する(S04)。
【0021】
次に、
図2(a)のように、バックホウBHのバケットBKを操作することで仮置場Tから混合材料MをバケットBKで掬い取り、この掬いとった混合材料Mを、
図2(b)のように1個の人工石10として、鉄板STが敷設された平坦な場所にお互いが接しないように並べて配置する(S05)。このバケットBKによる混合材料Mの1回の掬い取りで1個の人工石10を形成し、同様の掬い取り・配置工程を繰り返すことで多数の人工石10,10,・・・を得る。
【0022】
次に、人工石10を、養生ヤードで所定期間養生する(S06)。次に、人工石10を運搬し、所定の海域に漁礁や藻礁等の形成のために投入する(S07)。なお、養生後の人工石は、圧縮強度が9.8N/mm
2以上であり、JIS A 5003-1995に規定する準硬石に相当する。
【0023】
図1の浚渫土を用いた人工石の製造方法によれば、混合材料MをバケットBKで掬い取ることで直接1個ずつ人工石を得ることができるので、
図9の従来の製造方法で必要であった混合材料の型枠内への打設S54、目地入れS55、型枠内での養生S56、破砕S57の各工程を省略することができる。このように、作業工程を簡略化でき製造効率を向上できるので、効率的な人工石の製造が可能となる。
【0024】
また、混合材料の型枠内への打設や人工石の破砕が不要となるため、製造費のコストダウンを達成できる。また、破砕を行わないため、破砕時の屑が発生せず、その回収・活用(通常は再度、型枠内に投入)の作業工程を省略することができる。
【0025】
また、混合材料の型枠内への打設が不要であるため、ミキサ等による混合材料の混合・攪拌が可能であれば、スランプが0cmを超え、5cm以下の混合材料の施工が可能である。このため、特許文献1のような高含水比180〜250%の従来例に比べて低含水比の浚渫土(含水比180%未満)を用いた場合でも人工石を作製することができる。
【0026】
次に、別の実施形態による浚渫土を用いた人工石の製造方法について説明する。
図3は別の実施形態による浚渫土を用いた人工石の製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【0027】
図3の人工石の製造方法は、
図1の各工程と比べて、浚渫土の含水比調整工程S11、混合工程S12、運搬工程S13、掬い取り・配置工程S15、養生工程S16、運搬・投入工程S17が
図1の各工程S01〜S03、S05〜S07と同一であるが、運搬工程S13と掬い取り・配置工程S15との間の仮置・静置工程S14において混合材料Mを
図2(a)(b)の仮置場T等で所定期間静置する点が相違する。
【0028】
図3では、仮置・静置工程S14において、混合材料Mのスランプが所定値以上、たとえば、5cmを超えた場合、最長で4時間静置することで、混合材料Mのスランプを小さくしている。これにより、スランプが大きいため人工石の形状を維持できない場合でも、人工石の形状を維持可能となる。なお、スランプは、JIS A 1101 2005に基づいて測定される。
【0029】
次に、さらに別の実施形態による浚渫土を用いた人工石の製造方法について説明する。
図4はさらに別の実施形態による浚渫土を用いた人工石の製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【0030】
図4の人工石の製造方法は、
図1の各工程と比べて、浚渫土の含水比調整工程S21、混合工程S22、運搬工程S23、掬い取り・配置工程S26、養生工程S27、運搬・投入工程S28が
図1の各工程S01〜S03、S05〜S07と同一であるが、運搬工程S23と掬い取り・配置工程S26との間の仮置・静置工程S24において、混合材料Mを
図2(a)(b)の仮置場Tで所定期間静置し、次に2次攪拌工程S25において混合材料Mをミキサやバックホウ等でさらに攪拌する点が相違する。
【0031】
図4では、仮置・静置工程S24において、混合材料Mのスランプが所定値以上、たとえば、5cmを超えた場合、最長で4時間静置することで、混合材料Mのスランプを小さくし、2次攪拌工程S25で混合材料Mをさらに攪拌することで、得られる人工石の圧縮強度を増加させることができる。
【0032】
図4のように、混合材料を一定時間静置した後に再攪拌した場合、圧縮強度の増加を期待することができ、より短期間で目標圧縮強度(材令28日で9.8N/mm
2)に到達するため、早期に海域に投入して使用することが可能となる。
【0033】
なお、
図4の2次攪拌工程S25を実行する場合、固化が進み過ぎないように混合工程S22の後1〜4時間の静置(S24)を目処にミキシングバケットを取り付けたバックホウ等を使用して攪拌することが好ましい。また、
図4の2次攪拌工程S25は、
図1においてスランプが5cm以下の混合材料に適用してもよく、人工石の圧縮強度を増加させることができる。
【0034】
次に、
図1,
図3,
図4の製造方法における混合材料のスランプについて
図5を参照して説明する。
図5は、混合材料M1,M2,M3のスランプが大、中、小の場合の混合材料の状態を概略的に示す図(a)(b)(c)である。
【0035】
図5(a)〜(c)のように、混合材料M1〜M3は、スランプの大小に応じて、流動性、高さが変化し、材料M1のようにスランプが大きいと、流動性が大きく、その高さが低く、バケットの掬い取りによる人工石の製造が困難になる。このように、スランプが大きい場合には、
図3のように、一定時間静置することによりスランプを小さくしてから、バックホウのバケットで掬い取ったものを1個の人工石として形成する。
【0036】
また、材料M3のように、スランプが小さい場合、流動性が小さく、その高さHが高く、バケットの形状に近い人工石を作製できる。このように、バケットで掬い取って人工石を形成するため、スランプが小さい程、高さHが大きい人工石を作製することができる。
【0037】
混合材料のスランプや目標圧縮強度を考慮すると、
図1の製造方法は、混合材料のスランプが0を越え、5cm以下の場合に適用して好ましく、
図3の製造方法は、混合材料のスランプが5cmを超えた場合に適用して好ましく、
図4の製造方法は、人工石の圧縮強度の増加を図る場合に適用して好ましい。このため、
図1,
図3,
図4の混合工程S02,S12,S22における材料混合後に混合材料のスランプをJIS A 1101 2005に基づいて測定することが好ましい。
【0038】
従来までは混合材料の型枠内への打設時の施工性確保のためスランプを5cm以上とするように混合材料に加水していたが、本実施形態によれば型枠内への打設を省略できるので、かかる加水処理は不要である。さらに、加水してスランプを大きくすると人工石の圧縮強度低下につながるが、かかる圧縮強度低下の問題も生じない。
【0039】
また、
図2(a)(b)のバックホウBHのバケットBKは、オペレータにより操作されることで、地盤等を掘削し土や砂等の掘削物を掬い取って移動させる等に使用されるものである。バケットBKにより混合材料Mを1回で掬い取る体積は、バケットBKの容量に依存し、ほぼ一定である。このため、得られる人工石10の体積はほぼ一定である。バックホウBHのバケットBKの容量として、0.066m
3、0.14m
3、0.28m
3、0.5m
3程度のものを使用することができる。得られる人工石の比重を2.0とすると、1個の重量は、それぞれ132kg、280kg、560kg、1tonとなる。このように、混合材料を掬い取る際のバケットの容量を変更することにより人工石のサイズを変更できるので、用途に応じたサイズを有する人工石を製造することができる。
【0040】
また、
図3,
図4の仮置・静置工程S14,S24において、混合材料の静置時間は、事前に実施した配合試験により、スランプ・圧縮強度を確認して決定するが、混合後の仮置・静置時間が長いと、その分
図2(a)(b)の仮置場Tのようなストックヤードが必要となること、および、混合材料の固化によりバックホウで掬うこと自体が難しくなる可能性があることから、静置時間は最長で4時間とすることが好ましい。
【0041】
また、
図1,
図3,
図4の養生工程S06,S16,S27において、人工石を一定期間養生し、目標強度の達成を確認したもの、あるいは事前の配合試験結果から短期強度から長期強度を予測したものについて、通常の浚渫土を用いた人工石と同様に、海中に投入して漁礁や藻礁石、裏込石等として利用する。また、通常、混合後28日程度の養生期間を設けるが、より短い期間で上記目標圧縮強度に到達する場合には、養生期間を短く設定することができる。
【0042】
なお、
図1の混合工程S02、
図3の混合工程S12、
図4の混合工程S22における浚渫土に混合する材料として、高炉スラグ微粉末の代わりに、または、高炉スラグ微粉末に追加して、高炉セメントおよび/またはフライアッシュを使用することができる。
【0043】
また、製鋼スラグとしては、溶銑予備処理、転炉吹錬、鋳造などの工程で発生する製鋼系スラグ等を用いることができる。また、高炉スラグ微粉末としては、高炉水砕スラグを粉砕したものまたはこれに石膏を添加したもの等を用いることができる。
【0044】
次に、本実施形態の製造工程により人工石を作製した実験例について説明する。
表1の配合例の実験例1のように含水比を150%に調整した浚渫土(液性限界84.3%)と製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを混合し攪拌することで混合材料を作製し、また、実験例2のように含水比を175%に調整した浚渫土(液性限界84.3%)と製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを混合し攪拌することで混合材料を作製した。さらに、実験例3,4のように、含水比を200%、230%に調整した浚渫土(液性限界85.6%)と製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを混合し攪拌することで混合材料を作製した。
【0046】
実験例1,2の混合材料について、混合後の経過時間と測定したスランプとの関係を
図6に示す。
図6からわかるように、実験例1,2の混合材料のいずれも混合終了後から時間の経過とともにスランプが低下(流動性が低下)したが、含水比の小さい実験例1の方が、0〜6時間の経過時間の間ずっと、含水比の大きい実験例2よりもスランプが小さい状態を維持した。所定のサイズのバケットで掬い取って、バケットの形に近い形状の人工石を得ることができたが、スランプが大きい場合は、
図5(a)のように、バケットの形状よりも平べったい形状となった。バケットによる掬い取り開始の時期を、スランプ5cm以下を目安とすると、実験例1の含水比150%の場合は静置なしまたは最長で1時間の静置が適していることがわかり、
図1、
図3または
図4(圧縮強度を増加させる場合)による製造方法が適している。また、実験例2の含水比175%の場合は2〜3時間の静置が適していることがわかり、
図3または
図4(圧縮強度を増加させる場合)による製造方法が適している。
【0047】
次に、実験例1,2の混合材料について混合後一定時間(1時間、2時間、3時間、4時間)静置した後に再攪拌した場合、および、混合後再攪拌しない場合の材令28日の各圧縮強度を
図7に示す。また、実験例3,4の混合材料について混合後一定時間(2時間、4時間)静置した後に再攪拌した場合、および、混合後再攪拌しない場合の材令28日の各圧縮強度を
図8に示す。
【0048】
図7からわかるように、実験例1の含水比150%の場合、静置時間を1〜2時間として再攪拌すると圧縮強度が増加するが、3時間以降では圧縮強度が低下する。このため、圧縮強度の増加を目指す場合、再攪拌までの静置時間を1〜2時間とすることが好ましい。実験例2の含水比175%の場合は、再攪拌前の静置時間が長くなるほど(4時間まで)圧縮強度が増加するが、静置時間の長さは施工上の制約となるため、
図4の仮置・静置工程S24における静置時間を4時間とすることが好ましい。また、
図8からわかるように、実験例3,4の含水比が200%、230%の場合、再攪拌前の静置時間が2時間で圧縮強度が増加し最大またはほぼ一定になるので、
図4の仮置・静置工程S24における静置時間を2時間とすることが好ましい。なお、静置時間が24時間を超えると、固化のため再攪拌不可となる。
【0049】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では、泥土として浚渫土を用いたが、本発明はこれに限定されず、たとえば、建設汚泥を用いてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、バックホウのバケットにより混合材料の掬い取りを行ったが、本発明はこれに限定されず、他の重機を用いてバケットを操作するようにしてもよい。