特許第6773583号(P6773583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6773583導電性ペースト及び導電性ペーストの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773583
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】導電性ペースト及び導電性ペーストの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/20 20060101AFI20201012BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20201012BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20201012BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   H01B1/20 A
   H01B1/00 M
   H01B13/00 Z
   H01B1/00 E
   H05K1/09 D
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-26519(P2017-26519)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-133223(P2018-133223A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100115934
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 雅也
(72)【発明者】
【氏名】中谷 誠登
(72)【発明者】
【氏名】上田 雅行
(72)【発明者】
【氏名】彌永 美樹
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/146812(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/20
H01B 1/00
H01B 13/00
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高極性溶媒と、
前記高極性溶媒中に分散した、平均粒子径5〜100nmの銀ナノ粒子と、
前記銀ナノ粒子の表面に配位された、1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体と、
を含有する、導電性ペースト。
【請求項2】
さらに、前記銀ナノ粒子の表面に配位された、卑金属原子を含有する、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記卑金属原子は、マンガン、チタン、ビスマス及びスズから選択される1種以上である、請求項2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記ピリジン誘導体は、ピリジン環のオルト位に結合された、アミノメチル基及び/又はアミノエチル基を有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記ピリジン誘導体は、2−アミノメチルピリジンである、請求項4に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
さらに、3級アミノ基とヒドロキシル基との間に窒素原子又は酸素原子が結合された3級アミノアルコールを含有する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記3級アミノアルコールは、3級アミノ基を1位として、4位又は5位に窒素原子又は酸素原子が結合される、請求項6に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
さらに、樹脂を含有する、請求項1〜7のいずれか一つに記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記樹脂は、ポリビニル系樹脂である、請求項8に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
前記ポリビニル系樹脂は、ポリビニルピロリドン樹脂及び/又はポリビニルブチラール樹脂である、請求項9に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一つに記載の導電性ペーストの製造方法であって、
前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、前記ピリジン誘導体を配合する、ピリジン誘導体配合工程と、
前記銀ナノ粒子分散液の溶媒を、前記高極性溶媒に置換する、溶媒置換工程と、
を含む、導電性ペーストの製造方法。
【請求項12】
さらに、前記ピリジン誘導体配合工程の前に、前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、卑金属塩を配合する、卑金属配合工程を含む、請求項11に記載の導電性ペーストの製造方法。
【請求項13】
さらに、前記ピリジン誘導体配合工程の直前に、前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、3級アミノアルコールを配合する、3級アミノアルコール配合工程を含む
、請求項11又は12に記載の導電性ペーストの製造方法。
【請求項14】
さらに、前記ピリジン誘導体配合工程の直後に、前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、樹脂を配合する、樹脂配合工程を含む、請求項11〜13のいずれか一つに記載の導電性ペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト及び導電性ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路基板の金属配線パターンを形成する方法として、インクジェット印刷、スクリーン印刷等の印刷法を用いて、導電性ペーストを基板上に形成する方法がある。この導電性ペーストとして、近年、金属ナノ粒子を溶媒に分散させた分散液の有用性が高まっている。例えば、特許文献1及び2では、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストが開示されている。金属ナノ粒子は、量子サイズ効果に基づき、バルク状態における金属の融点よりも大幅に低い温度で焼結現象が起こる。一方で、金属ナノ粒子は、分散液及び導電性ペースト中で互いに接触して凝集しやすいという問題がある。そのため、前記導電性ペーストでは、金属ナノ粒子の表面に有機物からなる分散剤を配位させることにより、溶媒中に金属ナノ粒子を分散させている。
【0003】
回路基板の配線パターンは、基板上に、導電性ペーストをパターン状に塗布して塗膜を形成した後、該塗膜に熱処理を施すことにより、形成される。前記配線パターンの導電性を向上させるためには、前記導電性ペーストに含まれる溶媒、金属ナノ粒子を安定に分散させるための配位化合物(分散剤、保護剤又は被覆剤ともいう)、成膜安定化剤等を充分に除去できる温度で熱処理を施す必要がある。金属ナノ粒子を含む従来の導電性ペーストのほとんどは、200℃以上の高温で熱処理を施すことにより、溶媒、配位化合物、成膜安定化剤等を除去していた。
【0004】
近年、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)を透明電極として用いた基板が、タッチパネル、有機発光ダイオード等に用いられている。前記基板には、該基板と電子部品とを電気的に接続するため、導電性ペーストを用いた配線パターンが形成される。しかしながら、一般的に、ITO(Indium Tin Oxide)を透明電極として用いた基板は耐熱性が低い。特に、PETフィルムに代表される低耐熱基板を下地基板として適用する場合、導電性ペーストを基板上に形成する際に適用可能な温度が大きく制限される。よって、このような耐熱性が低い基板上に形成された配線パターンにおいても、該配線パターンの導電性を向上させるため、溶媒、配位化合物、成膜安定化剤等を低温で除去することが可能な導電性ペーストが求められている。
【0005】
一般的に、マイクロオーダーの金属粉を配合する導電性ペーストには、該導電性ペーストから形成される配線パターンの基板への密着性を向上させ、かつ、該導電性ペーストの汎用性(例えば、印刷適正等)を向上させる観点から、樹脂を含有させることが好ましい。その際、樹脂は、導電性ペースト中に均一に溶解させる必要がある。そのため、溶媒としては、溶解力及び極性が高い溶媒(以下、高極性溶媒という)が用いられる場合が多い。金属ナノ粒子を含む導電性ペーストにおいても同様に、用途に応じて、高極性溶媒を使用することが求められる。特に、高度な分散安定性が必要とされる金属ナノ粒子においては、その分散性は溶媒が持つ極性に大きく依存するため、適用する溶媒に応じて適切な配位化合物等の選定が求められる。そこで、近年、高極性溶媒を用いた、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストの開発が進められている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/013794号
【特許文献2】特開2016−164225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、金属ナノ粒子を含んだ導電性ペーストに対して、従来よりも低い温度で熱処理(以下、焼成ともいう)を施すことにより、電気抵抗が低い金属膜(例えば、配線パターン等)を作製する技術が報告されている。焼成温度を下げるためには、金属ナノ粒子を被覆する配位化合物として、低温下での分解性が高い化合物を選ぶことが好ましい。一方、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストは、保管時及び印刷プロセス中において、金属ナノ粒子の凝集、粘度の増減等が発生しないことが求められる。そのため、金属ナノ粒子を被覆する配位化合物として、安定性の高い化合物を選ぶことが好ましい。しかしながら、配位化合物の安定性を高めすぎると、低温下で分解させることが困難になるという課題があった。すなわち、配位化合物の安定性及び低温化での分解性は、二律背反の関係にある。このことは、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストの本質的な課題といえる。
【0008】
高極性溶媒を用いた、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストにおいても、前述の通り、従来よりも低い温度で熱処理を施すことにより、電気抵抗が低い金属膜を作製することが求められる。すなわち、配位化合物の安定性及び低温下での分解性を向上させる必要があった。しかしながら、特許文献1には、配位化合物の安定性及び低温下での分解性を向上させる手段が示されていない。
【0009】
本発明は、前記現状に鑑みてなされたものであり、高極性溶媒中における銀ナノ粒子の分散安定性に優れ、かつ、低温での熱処理によって導電性に優れた配線パターンを形成することが可能な導電性ペースト、及び、該導電性ペーストの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題について種々検討を行ったところ、銀ナノ粒子の表面に1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体を配位させることにより、高極性溶媒中における銀ナノ粒子が、分散安定性に優れることを見出した。さらに、本発明者らは、銀ナノ粒子に配位する化合物として、1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体を用いることにより、低温での熱処理によって該配位化合物を充分に除去することができることを見出した。
【0011】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、以下の通りである。
【0012】
(1)高極性溶媒と、前記高極性溶媒中に分散した、平均粒子径5〜100nmの銀ナノ粒子と、前記銀ナノ粒子の表面に配位された、1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体と、を含有する、導電性ペースト。
【0013】
(2)さらに、前記銀ナノ粒子の表面に配位された、卑金属原子を含有する、前記(1)に記載の導電性ペースト。
【0014】
(3)前記卑金属原子は、マンガン、チタン、ビスマス及びスズから選択される1種以上である、前記(2)に記載の導電性ペースト。
【0015】
(4)前記ピリジン誘導体は、ピリジン環のオルト位に結合された、アミノメチル基及び/又はアミノエチル基を有する、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の導電性ペースト。
【0016】
(5)前記ピリジン誘導体は、2−アミノメチルピリジンである、前記(4)に記載の導電性ペースト。
【0017】
(6)さらに、3級アミノ基とヒドロキシル基との間に窒素原子又は酸素原子が結合された3級アミノアルコールを含有する、前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の導電性ペースト。
【0018】
(7)前記3級アミノアルコールは、3級アミノ基を1位として、4位又は5位に窒素原子又は酸素原子が結合される、前記(6)に記載の導電性ペースト。
【0019】
(8)さらに、樹脂を含有する、前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の導電性ペースト。
【0020】
(9)前記樹脂は、ポリビニル系樹脂である、前記(8)に記載の導電性ペースト。
【0021】
(10)前記ポリビニル系樹脂は、ポリビニルピロリドン樹脂及び/又はポリビニルブチラール樹脂である、前記(9)に記載の導電性ペースト。
【0022】
(11)前記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の導電性ペーストの製造方法であって、前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、前記ピリジン誘導体を配合する、ピリジン誘導体配合工程と、前記銀ナノ粒子分散液の溶媒を、前記高極性溶媒に置換する、溶媒置換工程と、を含む、導電性ペーストの製造方法。
【0023】
(12)さらに、前記ピリジン誘導体配合工程の前に、前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、卑金属塩を配合する、卑金属配合工程を含む、前記(11)に記載の導電性ペーストの製造方法。
【0024】
(13)さらに、前記ピリジン誘導体配合工程の直前に、前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、前記3級アミノアルコールを配合する、3級アミノアルコール配合工程を含む、前記(11)又は(12)に記載の導電性ペーストの製造方法。
【0025】
(14)さらに、前記ピリジン誘導体配合工程の直後に、前記銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、樹脂を配合する、樹脂配合工程を含む、前記(11)〜(13)のいずれか一つに記載の導電性ペーストの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高極性溶媒中における銀ナノ粒子の分散安定性に優れ、かつ、低温での熱処理によって導電性に優れた配線パターンを形成することが可能な導電性ペースト、及び、該導電性ペーストの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態ともいう)について詳しく説明する。本発明は、以下の内容に限定されるものではない。
【0028】
1.導電性ペースト
(高極性溶媒)
本実施形態に係る導電性ペーストは、高極性溶媒を含有する。本明細書中において、高極性溶媒とは、オクタノール/水分配係数(Log Pow)の値が2未満である溶媒のことをいう。オクタノール/水分配係数(Log Pow)とは、化学物質をn−オクタノール相及び水相の2相に溶解して平衡状態になった時の、前記2相における前記化学物質の濃度比である。すなわち、オクタノール/水分配係数(Log Pow)は、下記(i)式で示される値である。
【0029】
【数1】
【0030】
前記高極性溶媒としては、例えば、ヒドロキシル基を1つ又は2つ有するアルコール類、グリコール類等が挙げられる。なお、前記グリコール類には、エチレングリコール又はプロピレングリコールの片末端又は両末端のOH基が置換されたグリコールエーテル類、グリコールエステル類等も含まれる。
【0031】
前記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本実施形態に係る導電性ペーストが高極性溶媒を含有すると、樹脂を分散させやすくなる。その結果、前記導電性ペーストから形成される配線パターンの基板への密着性を向上させ、かつ、前記導電性ペーストの汎用性を向上させることができる。
【0034】
前記高極性溶媒の含有量は、銀ナノ粒子100重量部に対して、10〜300重量部であることが好ましい。なお、高極性溶媒が2種以上含まれる場合、前記含有量は、各高極性溶媒の含有量の合計である。
【0035】
(銀ナノ粒子)
本実施形態に係る導電性ペーストは、上述の高極性溶媒中に分散した、平均粒子径5〜100nmの銀ナノ粒子を含有する。前記銀ナノ粒子の平均粒子径は、50nm以下であることが好ましい。なお、平均粒子径は、例えば、動的光散乱法を用いて測定することができる。
【0036】
(ピリジン誘導体)
本実施形態に係る導電性ペーストは、上述の銀ナノ粒子の表面に配位された、1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体を含有する。
【0037】
前記1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体としては、例えば、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2−アミノメチルピリジン、3−アミノメチルピリジン、4−アミノメチルピリジン、2−アミノエチルピリジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記ピリジン誘導体は、ピリジン環のオルト位に結合された、アミノメチル基及び/又はアミノエチル基を有することが好ましく、2−アミノメチルピリジン又は2−アミノエチルピリジンであることがより好ましい。
【0038】
本実施形態に係る導電性ペーストにおいて、前記銀ナノ粒子の表面に前記1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体を配位させることにより、前記高極性溶媒中において前記銀ナノ粒子は、非常に高い分散安定性を維持することができる。さらに、前記1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体は、低温での熱処理によって充分に除去することが可能である。その結果、前記1級アミンを含む置換基を有するピリジン誘導体を含む前記導電性ペーストは、前記導電性ペーストから形成された塗膜に、低温で熱処理を施すことにより、導電性に優れた配線パターンを形成することができる。
【0039】
前記ピリジン誘導体が、ピリジン環のオルト位に結合された、アミノメチル基及び/又はアミノエチル基を有すると、前記高極性溶媒中における前記銀ナノ粒子が、分散安定性により優れる。その理由は、前記銀ナノ粒子の分散安定性が、前記ピリジン誘導体が有する配位性能に起因するためだと考えられる。具体的には、前記銀ナノ粒子の表面に前記ピリジン誘導体に含まれる二つの窒素原子が配位した際、前記銀ナノ粒子と前記ピリジン誘導体とを含む5員環又は6員環が形成される。これにより、前記銀ナノ粒子と前記ピリジン誘導体とは、配位化学的な観点から安定な配位構造となるため、前記銀ナノ粒子の分散安定性が向上すると考えられる。
【0040】
(卑金属原子)
本実施形態に係る導電性ペーストは、上述の銀ナノ粒子の表面に配位された、卑金属原子を含有することが好ましい。
【0041】
前記卑金属原子としては、マンガン、チタン、ビスマス及びスズから選択される1種以上であることが好ましい。これらの中でも、マンガン及び/又はビスマスであることがより好ましい。
【0042】
後述する卑金属配合工程を経ることで、本実施形態に係る導電性ペーストが卑金属原子を含有することにより、該導電性ペーストから形成された塗膜に、より低温で熱処理を施したとしても、導電性に優れた配線パターンを形成することができる。その理由は、後述する卑金属配合工程において、銀ナノ粒子の表面に卑金属原子が配位されることにより、前記銀ナノ粒子の分散安定性を維持しつつ、前記銀ナノ粒子の表面に配位される有機化合物の量を減らすことができるためだと考えられる。
【0043】
また、本実施形態に係る導電性ペーストが卑金属原子を含有すると、該導電性ペーストから形成される配線パターンの基板への密着性を向上させることができる。特に、ガラス、ITO等の酸化物から構成される基板への密着性を向上させることができる。その理由は、導電性ペーストから形成された塗膜と基板との界面に存在する卑金属原子が、焼成工程時に前記基板に含まれる酸素原子を取り込むことにより酸化を受け、その結果、前記界面領域の結合が強化されるためだと考えられる。
【0044】
(3級アミノアルコール)
本実施形態に係る導電性ペーストは、さらに、3級アミノ基とヒドロキシル基との間に窒素原子又は酸素原子が結合された3級アミノアルコールを含有することが好ましい。
【0045】
前記3級アミノアルコールとしては、例えば、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、2−[[2−(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ]エタノール、2−[2−(ジエチルアミノ)エトキシ]エタノール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記3級アミノアルコールは、3級アミノ基を1位として、4位又は5位に窒素原子又は酸素原子が結合されることが好ましく、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、2−[[2−(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ]エタノール、又は、2−[2−(ジエチルアミノ)エトキシ]エタノールであることがより好ましい。
【0046】
前記3級アミノアルコールは、前記銀ナノ粒子への配位力が弱いため、低温で離脱しやすい。したがって、本実施形態に係る導電性ペーストが3級アミノアルコールを含有することにより、該導電性ペーストから形成された塗膜に、低温で熱処理を施した際、前記3級アミノアルコールを充分に除去することができる。その結果、導電性に優れた配線パターンを形成することができる。
【0047】
本実施形態に係る導電性ペーストが、3級アミノ基を1位として、4位又は5位に窒素原子又は酸素原子が結合される3級アミノアルコールを含有することにより、該導電性ペーストから形成された塗膜に、低温で熱処理を施した際、さらに導電性に優れた配線パターンを形成することができる。その理由は、以下のように考えられる。上述のように、前記3級アミノアルコールは、低温で離脱しやすい。また、前記銀ナノ粒子の表面に前記3級アミノアルコールが配位した際、前記銀ナノ粒子と前記3級アミノアルコールとが5員環又は6員環を形成することにより、配位力が若干高くなるため、前記銀ナノ粒子の分散安定性が向上する。その結果、前記3級アミノアルコールの低温における離脱性と分散安定性とのバランスが良好になるため、導電性に優れた配線パターンを形成することができると考えられる。
【0048】
(樹脂)
本実施形態に係る導電性ペーストは、さらに、樹脂を含有することが好ましい。
【0049】
前記樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニル系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
本実施形態に係る導電性ペーストが樹脂を含有することにより、該導電性ペーストから形成される配線パターンの基板への密着性を向上させ、かつ、該導電性ペーストの汎用性を向上させることができる。
【0051】
前記樹脂の含有量は、銀ナノ粒子100重量部に対して、0.5〜5重量部であることが好ましい。前記樹脂の含有量が0.5重量部未満であると、前記導電性ペーストから形成される配線パターンの基板への密着性が劣る場合がある。一方、前記樹脂の含有量が5重量部を超えると、導電性ペーストから形成される配線パターンの導電性が劣る場合がある。なお、樹脂が2種以上含まれる場合、前記含有量は、各樹脂の含有量の合計である。
【0052】
本実施形態に係る導電性ペーストは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、成膜安定剤、増粘剤等が挙げられる。
【0053】
2.導電性ペーストの製造方法
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法は、卑金属配合工程と、3級アミノアルコール配合工程と、ピリジン誘導体配合工程と、樹脂配合工程と、溶媒置換工程とを含む。なお、前記卑金属配合工程、前記3級アミノアルコール配合工程及び前記樹脂配合工程は、必要に応じて行えばよい。
【0054】
(卑金属配合工程)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法では、必要に応じて、銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、卑金属塩を配合する。
【0055】
前記銀ナノ粒子分散液としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等に銀ナノ粒子が分散された分散液を用いることができる。前記銀ナノ粒子分散液において、銀ナノ粒子の表面には、分子量が120〜300のアルキル基を側鎖に持つアミン又は脂肪酸が配位されていることが好ましい。前記アミンとしては、例えば、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。前記脂肪酸としては、例えば、ネオデカン酸、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0056】
前記卑金属塩は、脂肪酸の金属塩であることが好ましい。前記脂肪酸としては、例えば、酢酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
【0057】
前記卑金属配合工程では、前記卑金属塩を、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、1.5〜10重量部配合することが好ましい。なお、卑金属原子が2種以上配合される場合、前記配合量は、各卑金属原子の配合量の合計である。
【0058】
(3級アミノアルコール配合工程)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法では、必要に応じて、上述の銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、3級アミノアルコールを配合する。
【0059】
前記3級アミノアルコールとしては、本実施形態に係る導電性ペーストに含まれる3級アミノアルコールと同様の3級アミノアルコールを用いることができる。
【0060】
前記3級アミノアルコール配合工程では、前記3級アミノアルコールを、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、2〜10重量部配合することが好ましい。前記3級アミノアルコールの配合量が2重量部未満であると、前記効果を充分に得られない場合がある。一方、前記3級アミノアルコールの配合量が10重量部を超えると、前記銀ナノ粒子が分散安定性に劣る場合がある。なお、3級アミノアルコールが2種以上配合される場合、前記配合量は、各3級アミノアルコールの配合量の合計である。
【0061】
(ピリジン誘導体配合工程)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法では、上述の銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、ピリジン誘導体を配合する。
【0062】
前記ピリジン誘導体としては、本実施形態に係る導電性ペーストに含まれるピリジン誘導体と同様のピリジン誘導体を用いることができる。
【0063】
前記ピリジン誘導体配合工程では、前記ピリジン誘導体を、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、2〜15重量部配合することが好ましい。前記ピリジン誘導体の配合量が2重量部未満であると、前記銀ナノ粒子の前記高極性溶媒中への分散安定性が劣る場合がある。一方、前記ピリジン誘導体の配合量が15重量部を超えると、低温での熱処理によって前記ピリジン誘導体を充分に除去できない場合がある。なお、ピリジン誘導体が2種以上配合される場合、前記配合量は、各ピリジン誘導体の配合量の合計である。
【0064】
(樹脂配合工程)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法では、必要に応じて、上述の銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液に、樹脂を配合する。
【0065】
前記樹脂としては、本実施形態に係る導電性ペーストに含まれる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0066】
前記樹脂配合工程では、前記樹脂を、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、0.5〜5重量部配合することが好ましい。
【0067】
(溶媒置換工程)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法では、上述の銀ナノ粒子分散液の溶媒を、高極性溶媒に置換する。
【0068】
前記高極性溶媒としては、本実施形態に係る導電性ペーストに含まれる高極性溶媒と同様の高極性溶媒を用いることができる。
【0069】
前記溶媒置換工程では、前記高極性溶媒を、最終的に製造される導電性ペーストの重量に対して、理論金属含有量が20〜85%になるように加えることが好ましい。
【0070】
以上の工程により得られた導電性ペーストは、高極性溶媒中における銀ナノ粒子の分散安定性に優れ、かつ、低温での熱処理によって導電性に優れた配線パターンを形成することができる。
【0071】
以下、本実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
<導電性ペーストの作製>
[実施例1〜3]
(卑金属配合工程)
まず、メチルシクロヘキサンに銀ナノ粒子20gを分散させた銀ナノ粒子分散液100gを用意した。なお、前記銀ナノ粒子の表面には、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(分子量187.3)とネオデカン酸(分子量172.26)とが配位している。3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン及びネオデカン酸の合計含有量は、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、15.6重量部である。この銀ナノ粒子分散液に、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン0.1gと、マンガン濃度が8%の2−エチルヘキサン酸マンガン(和光純薬製)6.25g(マンガン量0.5g、前記銀ナノ粒子100重量部に対して2.5重量部)とを加えて、40℃の水浴中で2分間攪拌した。
【0073】
その後、メタノール80gを加え、40℃の水浴中で8分間攪拌し、余分な有機物成分をメタノール中に溶出させた。そして、メタノール層をデカンテーションにより除去した。メタノール60gを加えて室温下で3分攪拌することにより、再度余分な有機物成分の除去を行った。その後、メタノール層をデカンテーションにより除去した。これにより、卑金属が配合された銀ナノ粒子のメチルシクロヘキサン分散液を得た。
【0074】
(3級アミノアルコール配合工程)
前記卑金属配合工程で得られた銀ナノ粒子のメチルシクロヘキサン分散液を、エバポレーターで濃縮し、メチルシクロヘキサンを留去した。その後、メタノール40gと、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール1.4g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して7重量部)とを加えて、40℃の水浴中で5分間攪拌することにより、前記銀ナノ粒子に2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノールを作用させた。その後、メタノールをデカンテーションで除去した。これにより、3級アミノアルコールが配合された銀ナノ粒子を得た。
【0075】
(ピリジン誘導体配合工程)
前記3級アミノアルコール配合工程で得られた銀ナノ粒子に、メタノール60gと、2−アミノメチルピリジン0.8g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して4重量部)と、ヘプタン60gとを加えて、50℃の水浴中で5分間攪拌した。これにより、銀ナノ粒子の表面に配位された3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン及びネオデカン酸は、疎水性が強いため、一定量がヘプタン中に溶出する。よって、2−アミノメチルピリジンが表面に配位した銀ナノ粒子が、メタノール中に均一に分散される。
【0076】
攪拌終了後、一定時間静置させた後にヘプタンを除去した。続いて、メチルシクロヘキサン60gを加えて、室温で3分間攪拌した後、メチルシクロヘキサン層を除去した。さらに、もう一度メチルシクロヘキサン60gを加えて、室温で3分間攪拌した後、メチルシクロヘキサン層を除去した。これにより、2−アミノメチルピリジンが表面に配位された銀ナノ粒子のメタノール分散液を得た。
【0077】
前記ピリジン誘導体配合工程で得られた銀ナノ粒子のメタノール分散液において、銀ナノ粒子に対する配位化合物の被覆量は、以下のようにして測定した。まず、前記ピリジン誘導体配合工程で得られた銀ナノ粒子のメタノール分散液をガラス瓶に0.1g程度秤量し、ドライヤー(冷風)で溶媒分を乾燥させることにより、粉状にした。乾燥させた粉10mgを熱分析装置(商品名:TG/DTA6200、SIIナノテクノロジー(株)製)にて500℃まで昇温して重量減少率を測定することにより、配位化合物の被覆量を算出した。銀ナノ粒子に対する配位化合物の被覆量は、17.5%であった。
【0078】
(樹脂配合工程及び溶媒置換工程)
実施例1では、以下の手順に従い、導電性ペーストを作製した。まず、前記ピリジン誘導体配合工程で得られた銀ナノ粒子のメタノール分散液(銀当量5g)に、導電性ペーストの成膜安定性を向上させるため、成膜安定剤として[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸0.05gを加えた。その後、高極性溶媒としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトールともいう)を導電性ペースト中の理論金属含有量が35%になるように加えた。そして、エバポレーターを用いてメタノールを減圧下で除去することにより溶媒の置換を行い、実施例1の導電性ペーストを得た。実施例2では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例3では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.075g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して1.5重量部)を加えたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0079】
[実施例4〜6]
(卑金属配合工程)
まず、メチルシクロヘキサンに銀ナノ粒子20gを分散させた銀ナノ粒子分散液100gを用意した。なお、前記銀ナノ粒子の表面には、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(分子量187.3)とネオデカン酸(分子量172.26)とが配位している。3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン及びネオデカン酸の合計含有量は、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、14.9重量部である。この銀ナノ粒子分散液中のメチルシクロヘキサンをエバポレーターで濃縮した後、酢酸マンガン(キシダ化学製)2.23g(マンガン量0.5g、前記銀ナノ粒子100重量部に対して2.5重量部)とメタノール80gとを加えて、40℃の水浴中で5分間攪拌した。
【0080】
その後、メタノール層をデカンテーションにより除去した。メタノール60gを加えて室温下で3分攪拌することにより、再度余分な有機物成分の除去を行った。その後、メタノール層をデカンテーションにより除去した。これにより、卑金属が配合された銀ナノ粒子を得た。
【0081】
(3級アミノアルコール配合工程)
前記卑金属配合工程で得られた銀ナノ粒子分散液に、メタノール40gと、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール1.4g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して7重量部)とを加えて、40℃の水浴中で5分間攪拌することにより、前記銀ナノ粒子に2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノールを作用させた。その後、メタノールをデカンテーションで除去した。これにより、3級アミノアルコールが配合された銀ナノ粒子を得た。
【0082】
(ピリジン誘導体配合工程)
前記3級アミノアルコール配合工程で得られた銀ナノ粒子に、メタノール60gと、2−アミノメチルピリジン0.6g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して3重量部)と、ヘプタン60gとを加えて、50℃の水浴中で5分間攪拌した。これにより、銀ナノ粒子の表面に配位された3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン及びネオデカン酸は、疎水性が強いため、一定量がヘプタン中に溶出する。よって、2−アミノメチルピリジンが表面に配位した銀ナノ粒子が、メタノール中に均一に分散される。
【0083】
攪拌終了後、一定時間静置させた後にヘプタンを除去した。続いて、メチルシクロヘキサン60gを加えて、室温で3分間攪拌した後、メチルシクロヘキサン層を除去した。さらに、もう一度メチルシクロヘキサン60gを加えて、室温で3分間攪拌した後、メチルシクロヘキサン層を除去した。これにより、2−アミノメチルピリジンが表面に配位された銀ナノ粒子のメタノール分散液を得た。
【0084】
前記ピリジン誘導体配合工程で得られた銀ナノ粒子分散液において、銀ナノ粒子に対する配位化合物の被覆量は、実施例1〜3と同様に測定した。銀ナノ粒子に対する配位化合物の被覆量は、9.9%であった。
【0085】
(樹脂配合工程及び溶媒置換工程)
実施例4では、以下の手順に従い、導電性ペーストを作製した。まず、前記ピリジン誘導体配合工程で得られた銀ナノ粒子のメタノール分散液(銀当量5g)に、成膜安定性を向上させるため、成膜安定剤としてリシノール酸0.05gを加えた。その後、高極性溶媒としてジエチレングリコールモノブチルエーテルを導電性ペースト中の理論金属含有量が35%になるように加えた。そして、エバポレーターを用いてメタノールを減圧下で除去することにより溶媒の置換を行い、実施例4の導電性ペーストを得た。実施例5では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例4と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例6では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.075g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して1.5重量部)を加えたこと以外は、実施例4と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0086】
[実施例7及び8]
(卑金属配合工程)
まず、メチルシクロヘキサンに銀ナノ粒子12gを分散させた銀ナノ粒子分散液60gを用意した。なお、前記銀ナノ粒子の表面には、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(分子量187.3)とネオデカン酸(分子量172.26)とが配位している。3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン及びネオデカン酸の合計含有量は、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、15.8重量部である。この銀ナノ粒子分散液に、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン0.24gと、マンガン濃度8%の2−エチルヘキサン酸マンガン(和光純薬製)3.75g(マンガン量0.3g、前記銀ナノ粒子100重量部に対して2.5重量部)とを加えて、40℃の水浴中で2分間攪拌した。
【0087】
その後、メタノール60gを加え、40℃の水浴中で8分間攪拌し、余分な有機物成分をメタノール中に溶出させた。そして、メタノール層をデカンテーションにより除去した。メタノール48gを加えて室温下で3分攪拌することにより、再度余分な有機物成分の除去を行った。その後、メタノール層をデカンテーションにより除去した。これにより、卑金属が配合された銀ナノ粒子のメチルシクロヘキサン分散液を得た。
【0088】
(ピリジン誘導体配合工程)
前記卑金属配合工程で得られた銀ナノ粒子分散液に、メタノール42gと、2−アミノメチルピリジン0.6g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して5重量部)と、ヘプタン48gとを加えて、50℃の水浴中で5分間攪拌した。これにより、銀ナノ粒子の表面に配位された3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン及びネオデカン酸は、疎水性が強いため、一定量がヘプタン中に溶出する。よって、2−アミノメチルピリジンが表面に配位した銀ナノ粒子が、メタノール中に均一に分散される。
【0089】
攪拌終了後、一定時間静置させた後にメチルシクロヘキサン及びヘプタンを除去した。続いて、メチルシクロヘキサン36gを加えて、室温で3分間攪拌した後、メチルシクロヘキサン層を除去した。さらに、もう一度メチルシクロヘキサン36gを加えて、室温で3分間攪拌した後、メチルシクロヘキサン層を除去した。これにより、2−アミノメチルピリジンが表面に配位された銀ナノ粒子のメタノール分散液を得た。
【0090】
前記ピリジン誘導体配合工程で得られた銀ナノ粒子のメタノール分散液において、銀ナノ粒子に対する配位化合物の被覆量は、実施例1〜3と同様に測定した。銀ナノ粒子に対する配位化合物の被覆量は、16.8%であった。
【0091】
(樹脂配合工程及び溶媒置換工程)
実施例7では、以下の手順に従い、導電性ペーストを作製した。まず、前記ピリジン誘導体配合工程で得られた銀ナノ粒子のメタノール分散液(銀当量5g)に、成膜安定性を向上させるため、成膜安定剤として[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸0.05gを加えた。その後、高極性溶媒としてジエチレングリコールモノブチルエーテルを導電性ペースト中の理論金属含有量が35%になるように加えた。そして、エバポレーターを用いてメタノールを減圧下で除去することにより溶媒の置換を行い、実施例7の導電性ペーストを得た。実施例8では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例7と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0092】
[実施例9及び10]
実施例9では、前記3級アミノアルコール配合工程を行わず、2−アミノメチルピリジンの配合量を前記銀ナノ粒子100重量部に対して5重量部とし、高極性溶媒としてトリエチレングリコールモノメチルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例10では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例9と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0093】
[実施例11及び12]
実施例11では、高極性溶媒としてブチルカルビトールを用いたこと以外は、実施例9と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例12では、成膜安定剤と同時にポリビニルピロリドン樹脂K30(東京化成製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例11と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0094】
[実施例13〜15]
実施例13では、3級アミノアルコールとして2−[[2−(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ]エタノールを用いたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例14では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例13と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例15では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.075g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して1.5重量部)を加えたこと以外は、実施例13と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0095】
[実施例16〜18]
実施例16では、3級アミノアルコールとして2−[2−(ジエチルアミノ)エトキシ]エタノールを用いたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例17では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例16と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例18では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.075g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して1.5重量部)を加えたこと以外は、実施例16と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0096】
[実施例19及び20]
実施例19では、前記3級アミノアルコール配合工程を行わず、2−アミノメチルピリジンの配合量を前記銀ナノ粒子100重量部に対して5重量部とし、卑金属塩として2−エチルヘキサン酸ビスマスを用いたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例20では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例19と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0097】
[実施例21〜23]
実施例21では、卑金属塩として2−エチルヘキサン酸ビスマスを用いたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例22では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.025g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して0.5重量部)を加えたこと以外は、実施例21と同様の手法で導電性ペーストを作製した。実施例23では、成膜安定剤と同時にポリビニルブチラール樹脂BL−1(積水化学製)0.075g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して1.5重量部)を加えたこと以外は、実施例21と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0098】
[実施例24]
実施例24では、前記卑金属配合工程及び前記3級アミノアルコール配合工程を行わず、2−アミノメチルピリジンの配合量を前記銀ナノ粒子100重量部に対して7重量部としたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0099】
[実施例25]
実施例25では、3級アミノアルコールとして2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノールを、前記銀ナノ粒子100重量部に対して7重量部配合させたこと以外は、実施例1と同様の手法で導電性ペーストを作製した。
【0100】
実施例1〜25の導電性ペーストにおける各成分の配合量を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
[比較例1]
比較例1は、ピリジン誘導体として、2級アミンを含む置換基を有する2−[(メチルアミノ)メチル]ピリジンを用いたこと以外は、実施例1と同様の手法でメタノール分散液を得た。しかしながら、得られたメタノール分散液の分散性を観察すると、作製してから数時間後に、保管しているガラス瓶表面の鏡面化が確認された。さらに、作製してから24時間後に、大半の銀ナノ粒子が沈降していることが確認された。このことから、2−[(メチルアミノ)メチル]ピリジンは、銀ナノ粒子に対する配位性が充分ではなく、銀ナノ粒子に対する分散剤としての性能を有していないと言える。したがって、その後の溶媒置換工程は行うことができなかった。
【0103】
[比較例2]
(卑金属配合工程)
まず、メチルシクロヘキサンに銀ナノ粒子20gを分散させた銀ナノ粒子分散液100gを用意した。なお、前記銀ナノ粒子の表面には、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(分子量187.3)とネオデカン酸(分子量172.26)とが配位している。3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン及びネオデカン酸の合計含有量は、前記銀ナノ粒子100重量部に対して、16.1重量部である。この銀ナノ粒子分散液に、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン0.1gと、マンガン濃度が8%の2−エチルヘキサン酸マンガン(和光純薬製)6.25g(マンガン量0.5g、前記銀ナノ粒子100重量部に対して2.5重量部)とを加えて、40℃の水浴中で2分間攪拌した。
【0104】
その後、メタノール80gを加え、40℃の水浴中で8分間攪拌し、余分な有機物成分をメタノール中に溶出させた。そして、メタノール層をデカンテーションにより除去した。メタノール60gを加えて室温下で3分攪拌することにより、再度余分な有機物成分の除去を行った。その後、メタノール層をデカンテーションにより除去した。これにより、卑金属が配合された銀ナノ粒子のメチルシクロヘキサン分散液を得た。
【0105】
(3級アミノアルコール配合工程)
前記卑金属配合工程で得られた銀ナノ粒子のメチルシクロヘキサン分散液を、エバポレーターで濃縮し、メチルシクロヘキサンを留去した。その後、メタノール40gと、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール1.4g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して7質量部)とを加えて、40℃の水浴中で5分間攪拌することにより、前記銀ナノ粒子に2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノールを作用させた。その後、メタノールをデカンテーションで除去した。これにより、3級アミノアルコールが配合された銀ナノ粒子を得た。
【0106】
(ベンジルアミン配合工程)
前記3級アミノアルコール配合工程で得られた銀ナノ粒子分散液に、メタノール60gと、ベンジルアミン0.8g(前記銀ナノ粒子100重量部に対して4重量部)と、ヘプタン60gとを加えて、50℃の水浴中で5分間攪拌した。攪拌終了後の銀ナノ粒子の挙動を観察すると、メタノール層には殆ど分散せず、大半のナノ粒子がヘプタン層に分散していることが確認された。すなわち、ベンジルアミンは、メタノールのような高極性溶媒へ銀ナノ粒子を分散させる性質を有していないことが判明した。したがって、その後の溶媒置換工程は行うことができなかった。
【0107】
<銀ナノ粒子の平均粒子径の測定>
銀ナノ粒子分散液中の銀ナノ粒子の平均粒子径は、光散乱式粒度分布測定装置(ナノトラックUPA150、マイクロトラックベル(株)製)を用いて測定した。なお、導電性ペーストに含まれる銀ナノ粒子の平均粒子径は測定していないが、銀ナノ粒子分散液中の銀ナノ粒子の平均粒子径と同等であると考えられる。
【0108】
<分散安定性の評価>
分散安定性は、ピリジン誘導体配合工程後のメタノールに分散させた銀ナノ粒子分散液の状態を、主に目視で観察することにより評価した。分散液を作製後に室温で2週間静置し、保管瓶の表面に金属が析出して鏡面化が進行するか、及び、保管瓶の底部に沈降物が発生するかの二点を観察した。2週間静置後に、前記2点のいずれの事象も発生しない銀ナノ粒子分散液を、分散性が良好と判断した。評価結果を表1に示す。表1中に示す「○」は、銀ナノ粒子分散液の分散性が良好であったことを意味する。
【0109】
<抵抗値の評価>
各導電性ペーストをガラス基板上に塗布して塗膜を形成した後、120℃又は180℃で30minの熱処理を行うことにより、金属膜を得た。そして、前記金属膜の体積固有抵抗率を4端子法により測定した。なお、測定装置は、日置電機製の抵抗計(RM3545)を用いた。測定結果を表1に示す。
【0110】
<密着性の評価>
各導電性ペーストを、ITOをスパッタリングによりコートしたガラス基板上に塗布して塗膜を形成した後、180℃で30minの熱処理を行うことにより、金属膜を得た。得られた金属膜に対して、1mm間隔で9マス×9マスの計81マス目のクロスカットを形成した後、テープを用いて剥離試験を行った。81個のマスのうち、剥離しなかったマスの個数を表1に示す。
【0111】
表1の結果から分かるように、本発明の要件をすべて満たす実施例1〜25の導電性ペーストは、銀ナノ粒子の分散安定性に優れ、かつ、120℃の熱処理でも導電性に優れた金属膜を形成することができた。
【0112】
卑金属原子を含む実施例1〜23の導電性ペーストは、120℃の熱処理でもより導電性に優れた金属膜を形成することができた。
【0113】
3級アミノアルコールを含む実施例1〜6、13〜18、21〜23及び25の導電性ペーストは、120℃の熱処理でもより導電性に優れた金属膜を形成することができた。
【0114】
樹脂を含む実施例2、3、5、6、8、10、12、14、15、17、18、20、22及び23の導電性ペーストは、金属膜の基板への密着性を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の導電性ペーストは、ITO(Indium Tin Oxide)を透明電極として用いた基板のように、耐熱性が低い基板に対しても、導電性に優れた配線パターンを形成することができる。