特許第6773586号(P6773586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6773586合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法、炭化水素の製造方法、及び合成ガスから炭化水素を製造する触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773586
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法、炭化水素の製造方法、及び合成ガスから炭化水素を製造する触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20201012BHJP
   B01J 37/30 20060101ALI20201012BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20201012BHJP
   C10G 2/00 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B01J37/02 301Z
   B01J37/30
   B01J29/76 M
   C10G2/00
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-38214(P2017-38214)
(22)【出願日】2017年3月1日
(65)【公開番号】特開2018-143911(P2018-143911A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 典之
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
(72)【発明者】
【氏名】米山 嘉治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 讓
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−215433(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/142282(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102211034(CN,A)
【文献】 特開2007−197628(JP,A)
【文献】 特開2013−129590(JP,A)
【文献】 J. BAO et al.,A Core/Shell Catalyst Produces a Spatially Confined Effect and Shape Selectivity in a Consecutive Reaction,Angew. Chem. Int. Ed.,2008年,47,353-356.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C10G1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ担体および当該アルミナ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成された触媒を、アルカリ性の水溶液で処理することでメソ孔を形成するアルカリ処理を有する、合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項2】
硝酸カリウムの存在下において、水熱合成法により、フィッシャートロプシュ合成触媒外表面にベータゼオライト膜を形成させる水熱合成処理を有する、請求項1に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ処理後、前記フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成された触媒についてイオン交換を行うイオン交換処理を有する、請求項1又は2のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で製造した合成ガスから炭化水素を製造する触媒を用いて、反応器内で合成ガスから炭化水素を製造する、炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記反応器が多段階の層状構造を有するマイクロチャネル反応器であり、合成ガスを供給して炭化水素を製造するための層と、冷媒を供給して炭化水素製造で発生した熱を除熱するための層とが交互に配置され、これら層の流路が直交する方向に配列していることを特徴とする、請求項4に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項6】
アルミナ担体および当該アルミナ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成されており、
前記ベータゼオライトはメソ孔を有する、合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法、炭化水素の製造方法、及び合成ガスから炭化水素を製造する触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題が顕在化している。天然ガスは、他の炭化水素燃料、石炭等と比較して水素/炭素比(H/C)が高く、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素排出量を抑えることができ、埋蔵量も豊富である。近年、このような天然ガスの重要性が見直されてきており、今後ますますその重要性および需要は増加するものと予想されている。天然ガス開発の手段の一つとして、Gas To Liquids(GTL)技術の開発が各所で精力的に行われている。GTL技術においては、天然ガスを合成ガスに変換した後、下記反応式に示すように、合成ガスをフィッシャー−トロプシュ(Fischer−Tropsch)合成反応(以下、「F−T合成反応」とも言う)を用いて輸送性・ハンドリング性の優れた灯・軽油等の液体炭化水素燃料に転換する。
【0003】
【化1】
【0004】
Sasol社、Shell社は、数万BPD規模のF−T合成についての商業プラントを稼働させている。F−T合成反応における触媒としては多孔質担体にコバルトを担持したものが一般的に使用され、更に種々の助触媒を含有させた触媒が開発されている(非特許文献1参照)。
【0005】
このF−T合成反応は、触媒を用いて合成ガスを炭化水素に転換する発熱反応であるが、プラントの安定操業のためには反応熱を効果的に除去することが極めて重要である。現在までに実績のある反応形式としては、気相合成プロセス(固定床、噴流床、流動床)と、液相合成プロセス(スラリー床)が知られており、Sasol社の商業プラントではスラリー床、Shell社では固定床が採用されている。
【0006】
固定床では反応器内部に抜熱管が配置されており、当該抜熱管によりF−T合成反応で発生した熱が除去される。しかしながら、抜熱管の抜熱性能には限界があるため、固定床では生産性を制限した運転が行われざるを得ない。一方、スラリー床では、熱容量の大きい液体溶媒中で反応が進行するため、高い生産性での運転が可能である。
【0007】
ところで、上記商業プラントは、プラントコストが高く、小規模ガス田を対象とした場合に経済性が良好でない。このため、これら商業プラントによる開発では、現状、大規模天然ガス田のみが対象となっている。
【0008】
したがって、地球上に数多く存在する小規模ガス田については、これまでF−T合成プラントの開発は行われていなかった。しかしながら、近年、これら小規模ガス田や海洋掘削船上に設置可能な小規模プラントに関する技術開発が、各所で精力的に行われている。海洋掘削船における小規模プラントでは、現在ではフレアとして処理されている石油随伴ガスからの液体炭化水素燃料転換が目的とされる。また、CO削減の観点から再生可能エネルギーとしてのバイオマスの注目も高まっており、バイオマスを合成ガスに変換した後にF−T合成反応を行い、バイオジェット燃料等のクリーンエネルギーを創出する技術もある。バイオマスは輸送コストが必要であるため、大規模プラントにて広い範囲のバイオマスを集めるよりも、小規模プラントを活用する方が有利であるとされる。
【0009】
このような小規模プラントの一連の開発の中で、マイクロチャネル反応器を用いたF−T合成反応技術が開発されている。マイクロチャネル反応器は、内径が数mm以下の微細な流路を有し、高い物質移動、伝熱性能を有する。さらに、マイクロチャネル反応器がF−T合成反応を行う原料ガスの流路と除熱を行う冷媒の流路とが交互に層状に重ね合わされた構造を有し、F−T合成反応を行う原料ガス供給方向と除熱を行う冷媒供給方向とが直交し、かつ、反応器の材質として金属を使用することにより、反応過程で発生する熱を効率的に除去することができるほか、原料ガスと冷媒との混合を防止することもできる。
【0010】
前述のように大規模プラントにおける固定床のF−T合成反応では除熱性能に応じて発熱量を抑制する必要が生じ、生産量を抑えて運転する必要が多々生じている。一方で、上記のマイクロチャネル反応器を用いたF−T合成では、マイクロチャネル反応器の除熱性能が高く、生産性を高く設定することができるので、反応器容積当たりの炭化水素生産量が比較的高くなる。
【0011】
また、発熱反応を起こすF−T合成触媒の外表面に、ゼオライトが被覆されたカプセル触媒を、マイクロチャネル内に充填する方法が報告されている(特許文献1)。ゼオライトは、炭化水素を分解する吸熱反応によって炭化水素を軽質化する。一般にF−T合成触媒の生成物はn−パラフィンが主であるが、カプセル触媒ではオレフィン、イソパラフィンの収率が比較的高いという特徴がある。オレフィンは、化学原料としての利用が可能である。化学原料は燃料と比較して価格が高く、したがって得られるオレフィンは、付加価値の高い生成物である。このようなカプセル触媒は、他にも特許文献2、特許文献3において報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2014−198332号公報
【特許文献2】特開2007−196187号公報
【特許文献3】特開2007−197628号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】R.Oukaci et al.,Applied Catalysis A:General,186(1999)129-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、オレフィンの収率を向上させるためには、炭化水素を効率よく生成させる必要があり、フィッシャートロプシュ合成触媒のコバルト担持量を比較的多くする必要がある。発明者等の検討により、生産性を上げて副生水が多く発生しても性能の劣化の少ない、耐水性の高い担体であるアルミナ担体を採用し、特許文献1〜3や非特許文献1に記載されるような技術を採用し、アルミナ担体上にコバルト担持量を比較的多くした上でゼオライト、特にベータゼオライトを形成する技術を見出した。
【0015】
しかしながら、触媒に対して合成ガスの流量が大きい条件では、カプセル触媒外表面のゼオライト中での合成ガスの拡散性が十分ではない場合があり、反応効率が必ずしも良くないことが判ってきた。ゼオライトではカプセル触媒内部のコア触媒であるF−T合成触媒で生成した炭化水素、原料である合成ガスの両者がゼオライト中を拡散する。これらの拡散速度はゼオライトの細孔径に依存するが、従来の技術においては、細孔径はカプセル触媒の外表面に形成されるゼオライトの結晶構造によって決まっており、反応性能にも大きく影響していた。また、例えばH/CO=2(モル比)程度の合成ガスがゼオライト膜を拡散する際、水素と一酸化炭素では拡散速度が異なり、コア触媒に到達する際にはH/COが2よりも大きくなり、副生物であるメタンの選択率が大きくなっていた。
【0016】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、マイクロチャネル反応器等の様々な反応器で使用可能であり、化学原料として有用なオレフィンの収率が高い、合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法、炭化水素の製造方法、及び合成ガスから炭化水素を製造する触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、まず、アルミナ担体上にコバルト担持したフィッシャートロプシュ合成触媒上に形成されたベータゼオライト膜の細孔径を増大させてメソ孔を形成するためにアルカリ処理を行うと、活性が向上し、メタン選択率が低下し、一方でオレフィンの収率が向上する等良好な性能が得られることを見出した。本発明の要旨は、以下に記す通りである。
【0018】
(1) アルミナ担体および当該アルミナ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成された触媒を、アルカリ性の水溶液で処理することでメソ孔を形成するアルカリ処理を有する、合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(2) 硝酸カリウムの存在下において、水熱合成法により、フィッシャートロプシュ合成触媒外表面にベータゼオライト膜を形成させる水熱合成処理を有する、(1)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(3) 前記アルカリ処理後、前記フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成された触媒についてイオン交換を行うイオン交換処理を有する、(1)又は(2)のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(4) (1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法で製造した合成ガスから炭化水素を製造する触媒を用いて、反応器内で合成ガスから炭化水素を製造する、炭化水素の製造方法。
(5) 前記反応器が多段階の層状構造を有するマイクロチャネル反応器であり、合成ガスを供給して炭化水素を製造するための層と、冷媒を供給して炭化水素製造で発生した熱を除熱するための層とが交互に配置され、これら層の流路が直交する方向に配列していることを特徴とする、(4)に記載の炭化水素の製造方法。
(6) アルミナ担体および当該アルミナ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成されており、
前記ベータゼオライトはメソ孔を有する、合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固定床やマイクロチャネル反応器等の様々な反応器内で従来のカプセル触媒と比較して、ゼオライト中での合成ガスの拡散性が良いため反応効率が高く、オレフィン収率の高い合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法、炭化水素の製造方法、及び合成ガスから炭化水素を製造する触媒を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1において得られた生成物の炭素数分布を示す図である。
図2】実施例2において得られた生成物の炭素数分布を示す図である。
図3】実施例3において得られた生成物の炭素数分布を示す図である。
図4】比較例1において得られた生成物の炭素数分布を示す図である。
図5】比較例2において得られた生成物の炭素数分布を示す図である。
図6】実施例4において使用したマイクロチャネル反応器を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
本実施形態に係る触媒の製造方法は、アルミナ担体および当該アルミナ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に水熱合成法でベータゼオライトが形成された触媒を、アルカリ性の水溶液で処理する方法である。こうして得られる本実施形態に係る触媒においては、後述するようにベータゼオライトがメソ孔を有している。まず、本実施形態に係る触媒の製造方法に先立ち、本実施形態に係る触媒の一例について説明する。
【0023】
〔1.合成ガスから炭化水素を製造する触媒〕
本実施形態に係る触媒は、アルミナ担体および当該アルミナ担体に担持されたコバルトを有するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に水熱合成法でベータゼオライトが形成された触媒である。
【0024】
フィッシャートロプシュ合成触媒中のアルミナ担体は、コバルトを担持、分散するための担体である。アルミナ担体は、耐水性が高い。したがって、フィッシャートロプシュ合成反応における炭化水素の製造において生産性を高く設定した場合には副生水が比較的多く生じるが、アルミナ担体を有する本実施形態に係る触媒は、このような環境においても担体の性状変化による性能の劣化が抑制されている。したがって、本実施形態に係る触媒は、生産性を高く設定することが可能であり、かつ、このような場合においても比較的長期間反応活性を高く維持することができる。
従って、生産コストが安く、生成物の付加価値が高くなり、マイクロチャネル反応器を用いた開発が期待される小規模ガス田や石油随伴ガスからの炭化水素生産、バイオマスからの液体燃料製造も可能となる。
【0025】
担体を構成するアルミナは、特に限定されないが、触媒活性の観点からはコバルトの分散度を高く保ち、担持したコバルトの反応に寄与する効率を向上させるために、比較的大きな比表面積を有することが好ましい。アルミナ担体の比表面積は、特に限定されないが、例えば、80〜600m/g、好ましくは100〜550m/g、より好ましくは比表面積が150〜500m/gである。比表面積は、例えば、BET法により測定することができる。
【0026】
比表面積は、細孔径を小さくする、又は細孔容積を大きくすることにより大きくすることができる。すなわち、細孔径と細孔容積は、アルミナ担体の比表面積と関連している。一般的には比表面積は大きい方が好ましいが、細孔径、細孔容積を適正な範囲に維持しようとすると極端に大きい比表面積は得られない。従って、比表面積の上限値にも適正な範囲がある。
【0027】
細孔径が8nmを下回ると、細孔内のガス拡散速度が水素と一酸化炭素では異なり、細孔の奥へ行くほど水素分圧が高くなるという結果を招き、F−T合成反応では副生成物といえるメタン等の常温常圧で気体である炭化水素が、多量に生成することになるため、細孔径は、8nm以上であることが好ましい。逆に、細孔径が50nmを超えると比表面積を増大させることが困難となり、活性金属の分散度が低下してしまうため、細孔径は、50nm以下であることが好ましい。アルミナ担体の細孔径は、好ましくは8〜50nm、より好ましくは10〜40nm、さらに好ましくは12〜30nmである。
【0028】
また、細孔容積としては0.4cc/gを下回ると比表面積を増大させることが困難となるため、0.4cc/g以上とすることが好ましい。アルミナ担体の細孔容積は、好ましくは0.4〜4cc/g、より好ましくは0.6〜3.0cc/g、さらに好ましくは0.8〜2.0cc/gである。
なお、細孔容積は水銀圧入法や水滴定法により測定することができる。また、細孔径はガス吸着法や水銀ポロシメーターなどによる水銀圧入法により測定することが可能であるが、比表面積、細孔容積から計算で求めることもできる。
【0029】
アルミナ担体は、好ましくは、細孔径8〜50nm、比表面積80〜600m/gおよび細孔容積0.4〜4cc/gを同時に満足する。アルミナ担体は、より好ましくは、細孔径10〜40nm、比表面積100〜550m/gおよび細孔容積0.6〜3.0cc/gを同時に満足し、さらに好ましくは、細孔径12〜30nm、比表面積150〜500m/gおよび細孔容積0.8〜2.0cc/gを同時に満足する。
このようなアルミナ担体はバイヤー法やアルコキシド法等で製造することができるが、特に制限されない。アルコキシド法で製造するアルミナでは高純度が得られやすいため好ましい。
【0030】
また、上記特徴を有するアルミナ担体は、適正な市販のアルミナを購入することや、購入したアルミナを破砕するなどして適正化して、使用することもできる。
【0031】
コバルトは、アルミナ担体上に担持されている。アルミナ担体上に担持されたコバルトは、F−T合成反応ついて触媒活性を有する。フィッシャートロプシュ合成触媒中におけるコバルトの担持率(担持量)は、フィッシャートロプシュ合成触媒を母数とした場合に例えば5〜50質量%であり、好ましくは8〜40質量%、更に好ましくは10〜30質量%である。コバルトの担持率が上記下限値を下回ると反応条件によっては活性を十分発現することができず、また、上記上限値を上回るとコバルトの分散度が低下し、担持したコバルトの利用効率が低下することとなり、不経済となる。また、外表面に形成されるベータゼオライトはコバルト担持率が多すぎると、反応条件によっては水熱合成にて形成されにくく膜厚形成が困難となる場合がある。なお、ここでいう担持率とは、担持したコバルトが最終的に100%還元されるとは限らないが、100%還元されたと考えて、コバルトの質量がフィッシャートロプシュ合成触媒の質量全体に占める割合を指す。
【0032】
製造された触媒中のコバルト担持率は、酸分解やアルカリ溶融等の前処理後に高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)法により測定することができる。その際、フィッシャートロプシュ合成触媒の質量は、同様に酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP−AES法にてコバルト以外のアルミナ担体の成分を定量することで確認することができる。
【0033】
アルミナ担体の質量は、以下の方法により求められる。まず、ICP−AES法によりフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成される触媒のアルミナ(アルミナ担体+ベータゼオライト)とシリカを定量分析する。次いで、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDS)により、断面分析した際のベータゼオライト膜のシリカ/アルミナ比を得る。シリカ/アルミナ比が均一であれば測定箇所は数点で良いが、均一で無い場合には平均値を算出できる程度(例えば、観察視野の中で10箇所)の測定箇所を設定する必要がある。そして、ベータゼオライト膜のシリカ/アルミナ比を考慮して、ICP−AES法にて定量されたアルミナ全体をアルミナ担体分とベータゼオライト分に区別することにより、アルミナ担体の質量が算出される。
【0034】
上記フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面には、例えば、後述する水を含む原料混合物を加熱することにより目的材料を合成する手法である水熱合成法にてベータゼオライト膜が形成される。このように、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが膜として形成されることにより、本発明の触媒は、ベータゼオライトとフィッシャートロプシュ合成触媒とが一体化した、一体型の触媒粒子、より具体的にはカプセル型触媒粒子となる。
【0035】
上記ベータゼオライト膜中のベータゼオライトは、炭化水素を分解、異性化する機能を有する。そして、ベータゼオライトは、炭化水素を分解、異性化して、オレフィンやイソパラフィン等のより軽質化された炭化水素を生成することができる。さらに、炭化水素の分解反応は、吸熱反応である。したがって、ベータゼオライトが炭化水素を分解、異性化することにより、反応系内の除熱が可能となる。
【0036】
従来、フィッシャートロプシュ合成のマイクロチャネル反応器における生産性を高く設定した場合には、除熱用のマイクロチャネル内で当初は液体であった除熱のための流体の冷媒が熱容量の小さい蒸気となり、当該蒸気が流通するマイクロチャネルでの除熱効率が低下することがある。このような場合、このマイクロチャネルに隣接するマイクロチャネル(F−T合成反応を行う原料ガスの流路)で発生した熱の効果的な除熱ができなくなって、反応が暴走する恐れがある。反応が暴走した際にはマイクロチャネル反応器内の温度が過度に上昇し、F−T合成反応が阻害されるだけでなく、触媒が失活し、その再生も困難になる。
【0037】
しかしながら、本実施形態に係る触媒は、ベータゼオライトによる反応系内の除熱が可能であり、上述したような暴走を防止することができる。また、本実施形態に係る触媒により、マイクロチャネル反応器における生産性を比較的高く設定することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態に係るベータゼオライト膜中のベータゼオライトは、細孔としてメソ孔を有している。アルカリ処理をしない従来のベータゼオライトは、細孔径がサブnmと小さいマイクロ孔が形成されているが、本実施形態に係るベータゼオライトは、このような従来と比較して細孔径の大きいメソ孔を有することにより、合成ガス中におけるHおよびCOの拡散速度が向上し、フィッシャートロプシュ合成触媒の表面に到達するHおよびCOの比率を、オレフィンの生成に有利な比率とすることができる。具体的には、従来のメソ孔を有さないベータゼオライトでは、Hの拡散速度が相対的に速く、フィッシャートロプシュ合成触媒の表面に到達する際のH/CO比は高くなることがある。一方、メソ孔内ではHおよびCOの拡散速度の差は小さくなるため、オレフィン生成に有利になると推定される。特に、本実施形態に係る触媒は、ベータゼオライトがメソ孔を有することにより、合成ガスの流量が比較的大きい場合であっても、オレフィンの収率を高くすることができる。
【0039】
なお、ここで「メソ孔」とは、2nm以上50nm以下の細孔径を有する孔を意味する。これにより、合成ガス中におけるHおよびCOの拡散速度をより確実に調節することができ、オレフィンの収率をより一層高めることができる。なお、本実施形態に係る触媒について、ガス吸着法による細孔分布測定を行うとフィッシャートロプシュ合成触媒とベータゼオライトの細孔分布の合計が把握できる。したがって、ベータゼオライトの細孔径は、予めフィッシャートロプシュ合成触媒の細孔分布を測定しておき、得られたフィッシャートロプシュ合成触媒の細孔分布と本実施形態に係る触媒の細孔分布とを比較することにより、測定することができる。
【0040】
これに対し、触媒に用いられる一般的なベータゼオライトは、細孔径が0.6〜0.7nm程度であり、この場合、ベータゼオライト中におけるHの拡散速度がCOの拡散速度に比して大きくなる。この結果、到達するフィッシャートロプシュ合成触媒の表面において、Hの比率が大きくなり、メタンの生成量が増加する。
【0041】
なお、上述したようなメソ孔を有するベータゼオライトは、例えば、後述するアルカリ処理を行うことにより形成することができる。
【0042】
ベータゼオライト膜の膜厚は特に制限されないが、0.2〜10μmが好ましく、より好ましくは0.6〜5μm、更に好ましくは1〜3μmである。ベータゼオライト膜の膜厚が上記下限値より薄くなると、オレフィン等の軽質化された炭化水素の収率が低下する。また、反応系全体の発熱量を抑制する効果が十分でなくなる。また、ベータゼオライト膜の膜厚が厚くなると、発熱量抑制の観点からは好ましいものの、所望の膜厚を得るための水熱合成時間が増加して触媒製造コストが著しく高くなる。更に、F−T合成反応生成物、および合成ガスの拡散速度は、フィッシャートロプシュ合成触媒と比較して細孔径の小さいベータゼオライト内では小さく、反応効率の観点からは膜厚は極端に厚くならない方が好ましい。
【0043】
フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に形成されるベータゼオライト膜の膜厚は、触媒の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定することができる。触媒断面を観察するためのサンプル調製方法としては、触媒粒子を樹脂に埋め込んだ後、研磨する方法がある。なお、上記の膜厚は平均値であり、触媒断面のSEMによる観察にて測定する場合、膜厚が均一であれば測定箇所は数点で良いが、均一で無い場合には平均値を算出できる程度(例えば、周方向に略均等間隔となるように16箇所)の測定箇所を設定する必要がある。また、粒子毎に膜厚が異なる場合には、複数粒子(例えば、10粒子)を代表として観察し、平均化する必要がある。代表となる複数粒子の選択にあたっては、代表となる粒子よりも多くの粒子を観察した後、極端に膜厚の異なる粒子を除いた平均的な膜厚のものを選定する。異なる粒子径の触媒が混在する場合には、前記のように代表として観察する場合、平均粒子径程度の粒子径のものを選定する。平均粒子径の測定には、分散した触媒粒子にレーザー光を照射し、粒子からの散乱光強度の角度依存性を測定することにより粒子径分布を求めるレーザー回折式粒度分布測定装置を使用する。なお、一部にゼオライト膜が形成されない欠陥部が存在する場合もあるが、このような場合には欠陥部は測定箇所とせずに、ゼオライト膜が形成されている箇所の平均値とする。
【0044】
ベータゼオライト細孔内の陽イオンとしては、プロトン(H)、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が使用できる。
また、フィッシャートロプシュ合成触媒とベータゼオライトの混合比は、特に限定されず、フィッシャートロプシュ合成触媒の粒子径に応じて、適宜設定することができる。
【0045】
なお、フィッシャートロプシュ合成触媒は細孔を保有しているため、フィッシャートロプシュ合成の表面は、触媒粒子の外表面と、細孔内の表面とが挙げられる。なお、本実施形態においては、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライト膜が形成されていればよく、フィッシャートロプシュ合成触媒細孔内の表面にベータゼオライトが形成されていてもよい。また、フィッシャートロプシュ合成触媒上において、ベータゼオライトは、膜を形成していなくてもよい。すなわち、ベータゼオライトは膜を形成せず、フィッシャートロプシュ合成触媒の表面上に任意の形態で存在することができる。
【0046】
上述した本実施形態に係る触媒の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、5.0μm以上、10.0mm以下であることができる。特に、マイクロチャネル反応器内で本実施形態に係る触媒が使用される場合、当該触媒の平均粒子径は、マイクロチャネルの流路幅よりも小さい必要があり、2.0mm以下であることが好ましい。このような場合において、本実施形態に係る触媒の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、原料ガス供給による触媒層での圧力損失を考慮すると通常は5.0μm以上が好ましい。圧力損失と触媒充填率の双方を考慮した、操業安定性と反応性の観点からは20μm以上2.0mm以下の平均粒子径が好ましく、より好ましくは50μm以上1.8mm以下、更に好ましくは80μm以上1.5mm以下である。
【0047】
ここで言う本実施形態に係る触媒の平均粒子径とは、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に生成したベータゼオライトを形成させた一体型触媒の体積基準平均粒子径である。平均粒子径の測定にはレーザー回折法を適用するが、分散性が悪い等の理由でレーザー回折法による測定が困難な場合には、画像イメージング法等の手法を適用することができる。
【0048】
上述した本実施形態に係る触媒は固定床において使用することで、従来のF−T合成触媒と比較して高い生産性で、且つ高いオレフィン収率で炭化水素を生産することができる。また、通常の固定床と比較して、より抜熱性能の高いマイクロチャネル反応器で使用すると、炭化水素の生産性をより高くすることができる。
【0049】
〔2.触媒の製造方法〕
次に、本実施形態に係る合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法の一例を説明する。本実施形態に係る製造方法は、アルミナ担体にコバルトを担持するフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成された触媒を、アルカリ性の水溶液で処理する工程(アルカリ処理)を有する。
【0050】
まず、上記工程に先立ち、アルミナ担体にコバルトを担持させ、フィッシャートロプシュ合成触媒を得る。
【0051】
アルミナ担体へのコバルトの担持方法としては、特に限定されず、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等を用いることができる。担持において使用する原料(前駆体)であるコバルト化合物としては、例えば、コバルトの硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、アセチルアセトナートを用いることができる。これらのコバルト化合物は、上記の各方法において溶媒に対し可溶であり、かつ、担持後に乾燥処理し、その後、還元処理、または焼成処理及び還元処理によって、カウンターイオン(例えばコバルト硝酸塩であればCo(NO中のNO)が揮散することができる。
【0052】
上述した中でも、コバルト化合物としては、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。硝酸コバルトなどは焼成時に酸化コバルトに容易に変化し、その後のコバルト酸化物の還元処理も容易であるため好ましい。
【0053】
なお、コバルト化合物としては、溶媒に溶解可能であり、カウンターイオンが上記の各処理のいずれかにおいて揮散可能であれば、上に列挙された化合物に限らず任意の化合物を使用することができる。
【0054】
ついで、コバルトを担持したアルミナ担体を、必要に応じて乾燥させる。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50〜150℃とすることができる。
【0055】
次いで、乾燥したコバルトを担持したアルミナ担体について焼成処理を行う。これにより、フィッシャートロプシュ合成触媒を得ることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜15時間とすることができる。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、300〜600℃とすることができる。
【0056】
次いで、フィッシャートロプシュ合成触媒を、後述する水熱合成時に使用する反応液に対応する液に添加し、同液について還流処理を行うことが好ましい。これにより、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが付着しやすくなる。したがって、ベータゼオライト膜の形成、積層がより容易となる。
【0057】
このような液(還流液)としては、例えば、水熱合成時における反応液から反応基質成分が除去された液が挙げられる。なお、還流液は、水熱合成時における反応液から反応基質成分を除去した液と、その溶質の濃度が異なっていてもよい。また、水熱合成時における反応液から反応基質成分を除去した液から、一部の溶質が省略されていてもよい。さらに、ここでいう反応基質成分は、水熱合成時に実際に反応する基質のみならず、基質がイオンである場合には対となるイオンも含む。
【0058】
例えば、水熱合成時における反応液が、水酸化テトラエチルアンモニウムを含む水溶液である場合、反応液に対応する液としての還流液は、水酸化テトラエチルアンモニウムを含む水溶液とすることができる。
【0059】
還流時間は、特に限定されないが、例えば、1〜20時間とすることができる。還流温度は、特に限定されないが、例えば、60〜130℃とすることができる。
【0060】
次いで、水熱合成法によりフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライト膜を形成させたカプセル触媒を製造する(水熱合成処理)。ベータゼオライト膜の形成は、例えば、シリカ源およびアルミナ源を含む水溶液(前駆体溶液)中にフィッシャートロプシュ合成触媒を添加し、加熱することにより行われる。
【0061】
シリカ源としてはSiO(例えば、Aerosil200)、アルミナ源としてはアルミニウムイソプロポキシドを使用することができるがこれらに限定されない。
【0062】
本実施形態において、前駆体溶液は、硝酸カリウムを含むことが好ましいが、含まなくとも良い。硝酸カリウムの存在下でベータゼオライト膜の形成を行うことにより、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面上へのベータゼオライト膜が形成されやすい。硝酸カリウムの添加量はモル比でアルミナ源に対して、例えば、1/100〜1/2000である。
【0063】
水熱合成における温度は、特に限定されないが、例えば、120〜180℃、好ましくは、145〜170℃とすることができる。
【0064】
水熱合成の時間増加に伴い、フィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に形成されるベータゼオライトの厚さが増加する。水熱合成の時間は、例えば24時間以上120時間以下であり、好ましくは48時間以上96時間以下である。上記範囲の下限値を下回ると、反応条件によっては十分にゼオライト膜が形成されず、上記範囲の上限値を上回ると触媒製造コストが増加することとなる。
【0065】
なお、水熱合成においては、必要に応じ、反応液を撹拌してもよい。撹拌条件は、適宜設定可能である。
【0066】
水熱合成によりベータゼオライト膜が形成されたフィッシャートロプシュ合成触媒は、水熱合成終了後適宜、洗浄、乾燥に供される。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50〜150℃とすることができる。
【0067】
次いで、乾燥した触媒について焼成処理を行う。これにより、本実施形態に係る合成ガスから炭化水素を製造するための触媒を得ることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜15時間とすることができる。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、400〜600℃とすることができる。
【0068】
次いで、ベータゼオライト膜が形成されたフィッシャートロプシュ合成触媒についてアルカリ性の水溶液で処理する(アルカリ処理)。アルカリ処理によりフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に形成されたベータゼオライトの細孔径を増大させる。アルカリ処理は、例えば、アルカリ性の水溶液にフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面に水熱合成法でベータゼオライトが形成されたフィッシャートロプシュ合成触媒(以下、単に「カプセル触媒」ともいう)を添加し、加熱することにより行われる。
【0069】
アルカリ処理をすることで、例えば6.6Å×7.6Å程度の細孔径を有するベータゼオライトの結晶構造からシリコンが溶出し、ベータゼオライトの結晶構造が一部破壊され、細孔径2nm以上のメソ孔が形成される。カプセル触媒について、ガス吸着法による細孔分布測定を行うとフィッシャートロプシュ合成触媒とベータゼオライトの細孔分布の合計が把握できる。アルカリ処理前後での細孔分布測定を比較することで、ベータゼオライトのメソ孔形成を確認することができる。
【0070】
アルカリ性の水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液を使用することができるがこれに限定されない。
【0071】
また、水溶液のpHは、アルカリ性であれば特に限定されないが、例えば、12〜13.8、好ましくは13〜13.5である。このような範囲により、確実にベータゼオライトのメソ孔を形成することができる。
【0072】
アルカリ性の水溶液の濃度は特に限定されないが、0.01〜2mol/Lであることが好ましい。この範囲を下回ると、ベータゼオライトの結晶構造からシリコンの溶出が起こりにくく、極端に時間を要する。また、使用するアルカリ性の水溶液に依るが、アルカリ性の強い物質の場合、この範囲を上回ると結晶構造の破壊が一部に留まらず、ベータゼオライトの炭化水素を分解、異性化する機能が失われることがある。
【0073】
アルカリ性の水溶液にフィッシャートロプシュ合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成されたカプセル触媒を添加した後、例えば50〜90℃に加熱すると良いが特に限定されない。加熱する温度がこの範囲よりも低いとベータゼオライトの結晶構造からのシリコンの溶出が起こりにくく、この範囲よりも高いと水溶液が蒸発することで一定時間の撹拌保持ができなかったり、濃度を一定にした処理ができなくなったりすることがある。加熱温度は、好ましくは60〜80℃である。
【0074】
なお、アルカリ処理においては、必要に応じ、水溶液にカプセル触媒が分散したスラリーを撹拌しても良い。撹拌保持時間(アルカリ処理時間)は、適宜設定可能であるが、10〜120分が好ましい。
この範囲を下回ると、ベータゼオライトの結晶構造からのシリコンの溶出が不十分であることがあり、この範囲を上回ると結晶構造の破壊が一部に留まらず、ベータゼオライトの炭化水素を分解、異性化する機能が失われることがある。アルカリ処理時間は、好ましくは10〜60分、より好ましくは10〜30分である。
【0075】
アルカリ処理によりベータゼオライトにメソ孔が形成されたカプセル触媒は、アルカリ処理終了後適宜、洗浄、乾燥に供される。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50〜150℃とすることができる。
【0076】
アルカリ処理によってメソ孔が形成されたカプセル触媒は、アルカリ処理において使用するアルカリ性の水溶液によって、ベータゼオライトのカチオンがイオン交換される。例えば、水酸化ナトリウム水溶液を使用する場合、処理後はベータゼオライトのカチオンはナトリウムが主であり、ナトリウム型のベータゼオライトとなる。
【0077】
アルカリ処理後、必要に応じてカプセル触媒についてイオン交換を行うイオン交換処理を実施することが可能である。例えばプロトン型とする場合には、硝酸アンモニウム水溶液を用いて処理することができる。ゼオライトはカチオン種で特性が異なり、アルカリ処理によって形成されるナトリウム型、カリウム型等のゼオライト以外が反応効率や選択性において良好な特性を示す場合には、イオン交換処理することが好ましい。なお、アルカリ処理によって形成されるナトリウム型、カリウム型等のゼオライトを用いる場合、イオン交換処理は省略してもよい。
【0078】
硝酸アンモニウム水溶液を用いてイオン交換処理を行う場合、硝酸アンモニウム水溶液の濃度は特に限定されないが、0.1〜2mol/Lであることが好ましい。
【0079】
硝酸アンモニウム水溶液を用いた処理においてカプセル触媒を添加した後、例えば60〜90℃に加熱すると良いが特に限定されない。加熱する温度がこの範囲よりも低いとイオン交換が起こりにくく、この範囲よりも高いと水溶液が蒸発することで一定時間の撹拌保持ができなかったり、濃度を一定にした処理ができなくなったりすることがある。
【0080】
なお、硝酸アンモニウム水溶液を用いた処理では、必要に応じ、スラリーを撹拌しても良い。撹拌条件は、適宜設定可能であるが、12〜72時間が好ましい。
この範囲を下回ると、イオン交換が不十分であることがあり、この範囲を上回ると触媒製造に要する時間が長くなりコスト上で不利となる場合がある。
【0081】
イオン交換処理後のカプセル触媒は、適宜、洗浄、乾燥に供される。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜20時間とすることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、50〜150℃とすることができる。
【0082】
次いで、乾燥した触媒について焼成処理を行う。これによりイオン交換したベータゼオライトを外表面に形成するカプセル触媒(上述した本実施形態に係る触媒)を得ることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、0.5〜15時間とすることができる。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、400〜600℃とすることができる。
【0083】
以下に、本実施形態に係る合成ガスから炭化水素を製造するための触媒の製造方法のより具体的な一例を示す。なお、当然ながら、本実施形態に係る触媒の製造方法は、下記の具体的な例に限定されるものではない。
【0084】
まずコバルト前駆体の水溶液にアルミナ担体を含浸して担持後、必要に応じて乾燥(100℃、1時間)、焼成処理(450℃、10時間)を行い、フィッシャートロプシュ触媒を得る。
【0085】
次いで、調製したフィッシャートロプシュ合成触媒を反応液に対応する液として25質量%の水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)水溶液中で還流(115℃、4時間)する。
【0086】
次いで、シリカを25質量%のTEAOH水溶液に溶かし、1時間程度撹拌して均一なコロイド状にする。超音波を照射しながら、アルミニウムイソプロポキシドを25質量%の水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液に溶かし、上記のコロイド状溶液に15分程度かけて滴下する。その後、イオン交換水を加えて常温で2時間程度撹拌する。その後、硝酸カリウムを微量添加した後、F−T合成触媒を加え、水熱合成機にて155℃に加熱し、水熱合成を行う。水熱合成時の回転数は最初の30分は2rpmとして、その後は0rpmで20分、2rpmで2分を繰り返す(回転数、回転・停止のパターンは特に限定されない。)。
【0087】
水熱合成終了後、触媒を取り出し、洗浄後のイオン交換水が中性となるまでイオン交換水で洗浄し、120℃で12時間乾燥する。乾燥終了後は500℃、5時間焼成処理を行うことでカプセル触媒が得られる。
次いで、アルカリ処理として0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にカプセル触媒を加え、70℃で20分撹拌し、120℃で12時間乾燥する。その後、1mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液にアルカリ処理後のカプセル触媒を添加し、80℃で48時間撹拌した後、イオン交換水で洗浄し、120℃で12時間乾燥する。乾燥終了後は500℃、5時間焼成処理を行うことでメソ孔を有するプロトン型ベータゼオライトを外表面に形成するカプセル触媒が得られる。
【0088】
〔3.炭化水素の製造方法〕
次に、本実施形態に係る炭化水素の製造方法について説明する。
本実施形態に係る炭化水素の製造方法では、上述した方法で製造した合成ガスから炭化水素を製造する触媒を用いて、反応器内で合成ガスから炭化水素を製造する。
【0089】
炭化水素の製造は、合成ガスと本実施形態に係る触媒とを接触させることにより行うことができる。
【0090】
上記の炭化水素の製造に用いられる合成ガスとしては、水素と一酸化炭素の合計が全体の50体積%以上であるガスが、生産性の面から好ましい。特に、合成ガスは、水素と一酸化炭素のモル比(水素/一酸化炭素)が0.5〜4.0の範囲であることが望ましい。これは、水素と一酸化炭素のモル比が0.5未満の場合には、原料ガス中の水素の存在量が少な過ぎるため、一酸化炭素の水素化反応(F−T合成反応)が進みにくく、液状炭化水素の生産性が高くならないためであり、一方、水素と一酸化炭素のモル比が4.0を超える場合には、原料ガス中の一酸化炭素の存在量が少な過ぎるため、触媒活性に関わらず液状炭化水素の生産性が高くならないためである。
【0091】
なお、合成ガスは、いかなる原料から製造されたものであってもよい。合成ガスの原料としては、特に限定されないが、例えば、天然ガス、石炭、重質油、石油排ガス、オイルシェール等の化石資源や、バイオマス、炭化水素を含む廃棄物等が挙げられる。
【0092】
また、合成ガスと本実施形態に係る触媒との接触に用いられる反応器としては、特に限定されず、例えば、固定床、噴流床、流動床等の一般的な気相合成プロセス用反応器、スラリー床等の液相合成プロセス用反応器およびマイクロチャネル反応器等が挙げられる。本発明の触媒はF−T合成触媒の外表面にベータゼオライトが形成され、この構造が維持されることが望ましく、反応中に摩耗が起こりやすいスラリー床や流動床よりも固定床が好ましい。固定床のF−T合成反応では除熱能力を踏まえて生産性を調整するが、本発明の触媒では吸熱反応である炭化水素の分解、異性化も同時に起こるため、同一の転化率であっても発生する発熱量が抑制できる。また、触媒当たりの生産性を考慮すると、マイクロチャネル反応器が好ましい。
【0093】
マイクロチャネル反応器は、従来の固定床反応器のように内部に抜熱管を配置した容器ではなく、所定の幅の流路を備えた反応器である。同流路内において、触媒が充填されており、合成ガスが流路を通過する際に触媒と接触することにより、反応が生じ、炭化水素が生成する。また、マイクロチャネル反応器は、合成ガスが通過する流路に隣接した冷媒を通過させるための流路を備えている。合成ガスの反応による反応熱は、隣接する流路を通過する冷媒により除去される。
【0094】
このような流路の幅(流路幅)としては特に限定されないが、1cm以下であることができる。また、流路内の触媒上で発生する反応熱を隣接流路内の冷媒流通によって効率的に除去する観点から、すなわち、マイクロチャネル反応器の流路内温度制御の観点からは、流路幅は、4.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましい。一方で、流路内温度制御の観点からは流路幅は小さい方が好ましいが、流路が小さくなりすぎて流路を形成する基板厚さが大きくなりすぎると、単位体積当たりの生産性が小さくなるため、流路幅を決める際には生産性も考慮する必要がある。したがって、流路幅は、0.50mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。
【0095】
マイクロチャネル反応器の構造としては、特に限定されないが、例えば、多段階の層状構造であり、合成ガスを供給して炭化水素を製造するための層(反応層)と、冷媒を供給して炭化水素製造で発生した熱を除熱するための層(冷媒層)とが交互に配置されていることが好ましい。このような構造としては、より具体的には、複数の波板を介して基板が層状に重なった構造、基板にマイクロチャネルを形成させたものを層状に重ねた構造や、ハニカム構造等を採用することができる。このようなマイクロチャネル反応器の反応層の流路と冷媒層の流路とは、直交するように配列されることができる。すなわち、F−T合成反応を行う流路への原料ガス供給方向と、除熱を行う流路への冷媒供給方向とは直交とすることができる。
【0096】
反応器の材質としては、金属や無機化合物を使用することができ特に限定されないが、金属が好ましい。金属としては、ステンレス鋼などの鉄鋼材やアルミニウムなどが好適である。F−T合成反応は発熱反応であり、また、安定的に高い反応成績を維持するためには効率的な除熱が効果的であるので、流路が層状に構成される反応器で材質として金属を使用し、F−T合成反応を行う流路と、冷媒を流通させ除熱を行う流路とが交互に層状に重ね合わされたマイクロチャネル反応器を使用することにより良好な性能を得ることができる。
【0097】
なお、マイクロチャネル反応器の単位体積当たりの生産性には流路を形成する基板及び流路内の波板の厚さも寄与することになるため、安全にF−T合成反応および除熱を実施できる範囲で、これらの厚さは小さい方が好ましい。例えば、ステンレス鋼を使用したマイクロチャネル反応器では基板や波板の厚さは、30〜200μmであることができる。
【0098】
冷媒としては、熱を除去可能なものであれば良く特に限定されないが、水、特にボイラー給水(BFW)を使用するとF−T合成反応を行う流路内温度の制御性が良好であり好ましい。
【0099】
このようなマイクロチャネル反応器内への合成ガスから炭化水素を製造する触媒の固定方法としては、流路幅よりも小さい粒子径の触媒を充填する方法を採用することができる。
【0100】
炭化水素を製造する反応を行う際には、フィッシャートロプシュ合成触媒の中のコバルトが、還元された金属コバルトである必要がある。したがって、合成ガスを供給して炭化水素を製造する前に、水素ガス等の還元性ガスを流通させてフィッシャートロプシュ合成触媒の還元処理を行うことができる。このような還元処理は、特に限定されないが、例えば300〜500℃の温度で、2〜20時間行うことができる。例えば、還元処理の条件は、400℃で10時間とすることができる。
【0101】
なお、触媒は、反応器への充填後に還元されてもよいし、充填前に還元されてもよい。例えば、マイクロチャネル反応器内に触媒を仕込む前に還元処理を行い、その後に充填することも可能である。還元処理後の触媒は、大気に触れて酸化失活しないように取り扱う必要があるが、担体上のコバルト金属等の表面を大気から遮断するような安定化処理を行うと、大気中での取り扱いが可能となり好適である。この安定化処理には、低濃度の酸素を含有する窒素、二酸化炭素、不活性ガスを触媒に触れさせて、担体上のコバルト金属等の極表層のみを酸化するいわゆるパッシベーション(不動態化処理)を行うとよい。
【0102】
本実施形態に係る触媒中のコバルトが金属コバルトに十分に還元された状態で、反応器へ合成ガスを供給することにより、炭化水素を製造することができる。
【0103】
炭化水素の製造時における条件は、特に限定されず、反応器の種類に応じ、従来適用されてきた条件を設定することができる。
【0104】
特に、上記マイクロチャネル反応器における、炭化水素を製造する反応時における反応温度は、特に限定されないが、220〜300℃、好ましくは240〜280℃であることができる。また、反応時における系内の圧力は、特に限定されないが、例えば、0.8〜3.5MPa、好ましくは0.9〜2.5MPaであることができる。合成ガスのH/CO比(モル比)は特に限定されないが、好ましくは0.5〜3であり、より好ましくは1.0〜2.5である。
【0105】
このような条件で実施される反応では、炭化水素を選択的に製造可能となりフィッシャートロプシュ合成触媒単独の場合と比較して、同一の転化率条件でもマイクロチャネル反応器内の発熱量を低下させることが可能となる。そのため、マイクロチャネル反応器内の熱暴走の発生が防止される。また、フィッシャートロプシュ合成触媒を単独で使用する場合には、生成油のほとんどは直鎖パラフィンであるが、ベータゼオライトがフィッシャートロプシュ合成触媒とともに共存することにより、イソパラフィンやオレフィンも同時に製造することができる。また、ベータゼオライト膜の存在により、フィッシャートロプシュ合成触媒を単独で使用する場合と比較すると、より軽質分の炭化水素が比較的選択的に生成する。
【0106】
また、触媒質量/合成ガス流量(g・h/mol)は、特に限定されないが、例えば、1.0〜10(g・h/mol)、好ましくは、1.5〜5.0(g・h/mol)とすることができる。特に、上述した本実施形態に係る触媒は、合成ガス流量が比較的大きい場合、例えば3.0(g・h/mol)以下の場合であっても、ベータゼオライトがメソ孔を有していることにより、メタンの生成率を低減させ、この結果オレフィンの収率を向上させることができる。
【0107】
著しく転化率が高い、あるいは反応時間が長いなどの要因で、活性低下が生じた場合には、合成ガスの代わりに水素を含むガス(再生ガス)を供給することにより、触媒を再生することができる。再生ガスの水素含有量は、5%以上であることが好ましい。なお、再生ガス中の水素含有量は100%であってもよい。また、再生ガスは、水素に加え、窒素、アルゴン等の不活性ガスを含有してもよい。
【0108】
触媒の再生の条件としては、触媒再生が進行すれば、特に限定されない。水素を含む再生ガスと触媒を接触させることによる触媒再生機構としては、副生水により酸化したコバルト等の再還元と、水素による析出炭素の除去によるものと推察される。
【0109】
具体的には、再生時における温度は、例えば、100〜400℃であることができる。再生時における圧力は、例えば、常圧〜反応圧であることができる。特に、再生圧力を反応圧以下にすると、反応において反応圧に昇圧するためのコンプレッサーを利用することが可能となり、再生のために新たにコンプレッサーを設置する必要がなくなるため、設備コストの面から有利となる。また、再生時間は、例えば、1時間以上とすることができる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例に限定されない。
【0111】
〔実施例1〕
触媒学会参照触媒のアルミナ(JRC−ALO−6、粒子径0.85〜1.7mm、比表面積180m/g、細孔容積0.96cc/g、平均細孔径20nm)を担体として、フィッシャートロプシュ合成触媒を母数としてコバルト担持量が10質量%となるように硝酸コバルト六水和物水溶液を調製し、含浸担持した。(コバルト担持量(%)=(コバルト質量/(コバルト質量+アルミナ質量))×100)その後、120℃で12時間乾燥し、400℃で2時間焼成処理してCo/Al触媒を得た。調製したCo/Al触媒0.6gを25質量%の水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)水溶液5g中で114℃にて4時間還流した。その後、溶液をろ過してCo/Al触媒を回収した。
【0112】
4.2gのシリカ(Aerosil200)を10.3gの25質量%TEAOH水溶液に溶かし、1時間撹拌して、均一なコロイド状溶液を得た。超音波を照射しながらアルミニウムイソプロポキシド0.3gを4.1gの25質量%TEAOH水溶液に溶かし、上記のコロイド状溶液に15分かけて滴下した。その後、3.6gのイオン交換水を加えて、室温で2h撹拌した。前駆体溶液のモル比はシリカ:TEAOH:アルミナ:水=96.53:34.55:1.0:1130であった。前駆体溶液に硝酸カリウムを0.149g添加した後、還流処理したCo/Al触媒0.6gを加え、155℃、72時間の条件で水熱合成を行った。水熱合成時の回転プログラムは、最初の30分間は2rpm、その後は0rpmにて20分間、2rpmにて2分間の繰り返しとした。水熱合成終了後、触媒を取り出し、液性が中性となるまでイオン交換水で洗浄し、120℃で12時間乾燥した。乾燥終了後、500℃で5時間、焼成処理を行い、Co/Al触媒の外表面にベータゼオライト膜を形成させたベータゼオライト−Co/Al触媒を得た。
【0113】
アルカリ処理として0.2mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液100mlにβゼオライト−Co/Al触媒4.0gを加え、70℃で20分間撹拌し、120℃で12時間乾燥した。その後、1mol/Lの硝酸アンモニウム(NHNO)水溶液100mlにアルカリ処理後のβゼオライト−Co/Al触媒1gを加え、80℃で48時間撹拌後、イオン交換水にて洗浄し、120℃で12時間乾燥した。乾燥終了後、500℃で5時間、焼成処理を行い、Co/Al触媒の外表面にメソ孔を有するプロトン型ベータゼオライト膜を形成させたベータゼオライト(メソ孔)−Co/Al触媒を得た。
【0114】
上記で得られたベータゼオライト(メソ孔)−Co/Al触媒0.5gを8mmφの管型反応器に充填し、常圧で400℃にて10時間、還元処理を行い、窒素に置換して80℃まで降温した。次いで、管型反応器内に供給する気体H/CO=2の合成ガスに切り替えた。反応温度260℃、反応圧力2.0MPa、W(触媒質量)/F(合成ガス流量);(g・h/mol)=3に設定し、供給ガス及び管型反応器出口ガスの組成をガスクロマトグラフィーにより求め、CO転化率、CH選択率、C5+選択率、オレフィン選択率、イソパラフィン選択率をそれぞれ算出した。
【0115】
以下の実施例に記載したCO転化率、CH選択率、C5+選択率、オレフィン選択率、イソパラフィン選択率は、それぞれ次に示す式により算出した。ここで、C5+とは炭素数5以上の炭化水素を示す。
【0116】
【数1】
【0117】
上記で調製した触媒を用いて、反応を行ったところ、CO転化率27.6%、CH選択率34.1%、C5+選択率44.8%、オレフィン選択率20.7%、イソパラフィン選択率19.4%であった。また、図1に示す炭素数分布の生成物が得られた。後述する比較例1に示したアルカリ処理を実施しないベータゼオライト−Co/Al触媒と比較して、CO転化率、C5+選択率、オレフィン選択率、イソパラフィン選択率が向上していることを確認した。
【0118】
〔実施例2〕
コバルト担持量が20質量%となるようにCo/Al触媒を調製する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率49.2%、CH選択率22.8%、C5+選択率55.2%、オレフィン選択率18.8%、イソパラフィン選択率18.4%であった。また、図2に示す炭素数分布の生成物が得られた。
【0119】
〔実施例3〕
コバルト担持量が30質量%となるようにCo/Al触媒を調製する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率71.4%、CH選択率16.5%、C5+選択率59.1%、オレフィン選択率16.9%、イソパラフィン選択率16.1%であった。また、図3に示す炭素数分布の生成物が得られた。
【0120】
〔実施例4〕
図6に示す直交型マイクロチャネル反応器に触媒を充填し、ボイラ給水(BFW)で冷却しながら温度制御する他は、実施例3と同様にして、反応を行った。直交型マイクロチャネル反応器は、ステンレス(SUS)箔により形成された積層構造を有し、ステンレス箔間の隙間がボイラ給水または合成ガスの流路を形成している。また、ボイラ給水と合成ガスの流路は、ステンレス箔の積層構造において交互に配置されており、ボイラ給水と合成ガスの移動方向(流路の方向)は直交している。各流路には波板が配置され、各流路幅Wは、1.3mmである。得られた生成物を分析すると、CO転化率72.3%、CH選択率16.9%、C5+選択率57.8%、オレフィン選択率16.3%、イソパラフィン選択率16.5%であった。
【0121】
なお、上記直交型マイクロチャネル反応器における反応において、反応の暴走は生じなかった。ベータゼオライト膜における吸熱反応により、Co/Al触媒の反応において生じた熱が吸収され、直交型マイクロチャネル反応器内における過度の温度の上昇が抑制されたことが推察される。
【0122】
〔比較例1〕
アルカリ処理を実施しないベータゼオライト−Co/Al触媒を使用する他は、実施例1と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率18.9%、CH選択率57.2%、C5+選択率25.0%、オレフィン選択率5.8%、イソパラフィン選択率11.9%であった。また、図4に示す炭素数分布の生成物が得られた。
【0123】
〔比較例2〕
コバルト担持量が30質量%となるようにCo/Al触媒を調製する他は、比較例2と同様にして、反応を行ったところ、CO転化率62.4%、CH選択率19.8%、C5+選択率45.0%、オレフィン選択率10.9%、イソパラフィン選択率14.1%であった。また、図5に示す炭素数分布の生成物が得られた。
【0124】
以上の結果を表1に示す。
【0125】
【0126】
表1から明らかなように、ベータゼオライトがメソ孔を有する実施例1〜4に係る触媒においては、オレフィンの選択率が高かった。また、合成ガスの流量が比較的大きい、すなわちW(触媒質量)/F(合成ガス流量);(g・h/mol)が比較的大きな3という条件においても、実施例1〜4に係る触媒はオレフィンの選択率が高かった。さらに、実施例4において示されるように、ベータゼオライトがメソ孔を有する実施例4に係る触媒は、マイクロチャネル反応器におけるF−T合成反応に好適に利用可能であった。
【0127】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6