【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/光・量子情報通信用超伝導単一光子検出システムの小型化技術の研究開発 副題;小型2K冷凍システム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
図1は、実施の形態に係る極低温冷凍機100を示す模式図である。
図1では、第1輻射シールド62は断面で示されている。極低温冷凍機100は、ギフォード・マクマホン冷凍機(GM冷凍機)である。極低温冷凍機100は、二段式の極低温冷凍機であり、後述のように冷却部を直列に二段組み合わせてより低い温度を達成する。極低温冷凍機100は、圧縮機10と、配管12と、膨張機14と、輻射シールド16と、制御装置18と、を備える。
【0014】
圧縮機10は、膨張機14から戻ってくる低圧の冷媒ガスを圧縮し、圧縮された高圧の冷媒ガスを膨張機14に供給する。配管12は、圧縮機10と膨張機14とを接続する。配管12には高圧バルブ20および低圧バルブ22が並列に設けられている。高圧の作動ガスは、圧縮機10から高圧バルブ20および配管12を介して圧縮機10に供給される。低圧の作動ガスは、配管12および低圧バルブ22を介して圧縮機10に排気される。冷媒ガスとしては、例えばヘリウムガスを用いることができる。なお、冷媒ガスとして窒素ガスやその他のガスを用いてもよい。
【0015】
膨張機14は、圧縮機10から供給された高圧の冷媒ガスを膨張させて寒冷を発生させる。膨張機14は、一段冷却部24と、二段冷却部26と、駆動モータ28と、連結機構30と、温度センサ48と、を備える。一段冷却部24は、一段ステージ32と、一段シリンダ34と、一段ディスプレーサ36と、を備える。二段冷却部26は、二段ステージ38と、二段シリンダ40と、二段ディスプレーサ42と、を備える。一段冷却部24と二段冷却部26とは、直列に接続されている。
【0016】
以降、一段シリンダ34および二段シリンダ40が延在する方向を軸方向とし、軸方向において一段シリンダ34に対して二段シリンダ40が設けられる側を上側として説明する。なお、軸方向は、一段ディスプレーサ36および二段ディスプレーサ42が移動する方向とも一致する。また、軸方向に直交する方向を径方向とし、径方向において一段ディスプレーサ36および二段ディスプレーサ42から遠い側を外側近い側を内側として説明する。なお、これらの表記は、極低温冷凍機100が使用される姿勢を制限するものではなく、極低温冷凍機100は任意の姿勢で使用され得る。
【0017】
一段シリンダ34と二段シリンダ40は、同軸に直列に接続され、1つのシリンダ部材44を形成する。同様に、一段ディスプレーサ36と二段ディスプレーサ42は、同軸に直列に接続され、1つのディスプレーサ部材46を形成する。シリンダ部材44は、ディスプレーサ部材46を収容する中空の気密容器であり、軸方向にディスプレーサ部材46の往復移動を案内する。
【0018】
一段ステージ32は、環状の部材であり、一段シリンダ34の上端を環囲するように一段シリンダ34に固定される。二段ステージ38は、二段シリンダ40の上端を環囲するように二段シリンダ40の上端に固定される。二段ステージ38は、一段ステージ32よりも低温に冷却される。二段ステージ38は、例えば2K〜10K程度に冷却され、一段ステージ32は、例えば30K〜80K程度に冷却される。一段ステージ32と二段ステージ38は、アルミニウムや銅などの熱伝導率の高い材料により形成される。
【0019】
温度センサ48は、二段ステージ38の温度を測定するための温度センサであり、二段ステージ38に取り付けられている。温度センサ48は所定の周期で二段ステージ38の温度を検出し、検出値は出力ケーブル50を介して出力される。
図1の例では、温度センサ48は出力ケーブル50により制御装置18と接続され、検出値は制御装置18に出力される。
【0020】
駆動モータ28は、連結機構30を介してディスプレーサ部材46に連結されている。連結機構30は、例えばスコッチヨーク機構を含む。駆動モータ28および連結機構30により、ディスプレーサ部材46は軸方向に一体に往復運動する。また、連結機構30は、この往復運動に連動して高圧バルブ20の開弁と低圧バルブ22の開弁とを選択的に切り替えるように高圧バルブ20および低圧バルブ22に連結されている。つまり、ディスプレーサ部材46の往復運動に連動して作動ガスの給気と排気とが切り替えられるように構成されている。
【0021】
制御装置18は、圧縮機10および駆動モータ28を制御する。制御装置18は例えば、圧縮機10の高圧と低圧との圧力差を目標圧に制御する。
【0022】
輻射シールド16は、二段シリンダ40および二段ステージ38を収容し、周囲からの輻射熱が二段ステージ38に侵入するのを抑制する。輻射シールド16は、例えばアルミニウムや銅などの熱伝導率の高い材料により形成される。また輻射熱を反射するために、輻射シールド16の外表面に光沢メッキ加工を施してもよい。輻射シールド16は、第1輻射シールド62と、第2輻射シールド64と、を含む。
【0023】
第1輻射シールド62は、円板状の部材であり、一段ステージ32を環囲する。第1輻射シールド62は、一段ステージ32と一体に形成されても、一段ステージ32とは別体として形成された上で一段ステージ32に結合されてもよい。例えば、第1輻射シールド62は、一段ステージ32と一体に形成される一段ステージ32を冷却対象物に接続するためのフランジであってもよい。第2輻射シールド64は、円筒部52と底部54とが一体に形成された有底カップ形状を有する。第2輻射シールド64は、底部54を上にして、開口が第1輻射シールド62によって塞がれるように第1輻射シールド62に固定される。第1輻射シールド62および第2輻射シールド64は、一段ステージ32と熱的に接続されているため、一段ステージ32により冷却される。第2輻射シールド64には、温度センサ48の出力ケーブル50を第2輻射シールド64の外に引き出すためのケーブル挿通孔58が形成されている。
【0024】
図2(a)、(b)は、ケーブル挿通孔とその周辺を示す模式図である。
図2(a)は本実施の形態に係る極低温冷凍機100のケーブル挿通孔58とその周辺を示し、
図2(b)は比較例に係る極低温冷凍機100aのケーブル挿通孔58aとその周辺を示す。
図2(b)では、一段ステージ32および第1輻射シールド62の一部を断面で示している。
図2(a)、(b)では、出力ケーブル50の表示は省略している。
【0025】
図2(b)に示す比較例に係る極低温冷凍機100aでは、ケーブル挿通孔58aは第1輻射シールド62に形成されている。ここで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ケーブル挿通孔から輻射シールドの中に入り込む輻射熱が、特にケーブル挿通孔から輻射シールドの中に入り込み、二段シリンダ、輻射シールドの内壁、およびケーブル挿通孔の周面に反射することなく二段ステージに直射する輻射熱が、極低温冷凍機の冷却性能(到達温度)に比較的大きな影響を与えていることを認識した。比較例に係る極低温冷凍機100aでは、
図2(b)中に矢印で示すように、ケーブル挿通孔58aを通じて第2輻射シールド64の外から中に入り込む輻射熱が二段ステージ38に直射しうる。つまり、比較例に係る極低温冷凍機100aでは、ケーブル挿通孔58aは、ケーブル挿通孔58aを通じて第2輻射シールド64の外から中に入り込む輻射熱が二段ステージ38に直射可能な位置、大きさ、形状に形成されている。そのため、比較例に係る極低温冷凍機100aでは、冷却性能の低下を招きうる。
【0026】
図2(a)に示す本実施の形態に係る極低温冷凍機100では、ケーブル挿通孔58は、第2輻射シールド64の円筒部52に形成されている。ケーブル挿通孔58は、径方向に延在して第2輻射シールド64を貫通している。ケーブル挿通孔58は特に、ケーブル挿通孔58を通じて第2輻射シールド64の外から中に入り込む輻射熱が二段ステージ38に直射不可能な位置、大きさ、形状に形成される。別の言い方をすると、二段ステージ38が、ケーブル挿通孔58から入り込む輻射熱の直射を避けた位置に設けられている。
【0027】
具体的には、ケーブル挿通孔58は、二段ステージ38よりも下方すなわち二段ステージ38よりも二段シリンダ40側に設けられる場合、二段ステージ38のすべての位置において次式を満たすように形成される。
(式1)A/B<C/D
ここで、Aは円筒部52の外周面と二段ステージ38の内周面(すなわち二段シリンダ40の外周面)との径方向における距離、Bはケーブル挿通孔58の下端から二段ステージ38の下端までの軸方向における距離、Cは第2輻射シールド64の径方向における厚み、Dはケーブル挿通孔58の軸方向の幅である。
【0028】
この場合、ケーブル挿通孔58から輻射シールド16内に入り込もうとする輻射熱は、二段シリンダ40またはケーブル挿通孔58の周面に直射する。すなわち、輻射熱が、二段シリンダ40やケーブル挿通孔58の周面に反射することなく二段ステージ38に入射するすなわち二段ステージ38に直射することはない。
【0029】
以上のように構成された極低温冷凍機100の動作を説明する。
連結機構30は高圧バルブを開く。圧縮機10から配管12を通じて膨張機14に高圧の作動ガスが供給される。膨張機14の内部空間が高圧の作動ガスで満たされると、連結機構30は高圧バルブ20を閉じるとともに低圧バルブ22を開く。作動ガスは断熱膨張し、配管12を通じて圧縮機10へと排出される。こうした作動ガスの給排に同期して、ディスプレーサ部材46がシリンダ部材44の内部を往復動する。このような熱サイクルを繰り返すことで一段ステージ32および二段ステージ38が冷却される。
【0030】
この際、ケーブル挿通孔58を通じて第2輻射シールド64内に入り込む輻射熱は、二段シリンダ40やケーブル挿通孔58の周面には直射しうるものの、二段ステージ38には直射できない。これにより、極低温冷凍機100の冷却性能は、輻射熱が二段ステージ38に直射する場合に比べて高くなる。
【0031】
以上説明した本実施の形態に係る極低温冷凍機100によると、ケーブル挿通孔58を通じて第2輻射シールド64の外から中に入り込む輻射熱が二段ステージ38に直射するのが抑止される。これにより、極低温冷凍機100の冷却性能が向上する。
【0032】
以上、実施の形態に係る極低温冷凍機について説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下変形例を示す。
【0033】
(変形例1)
実施の形態では、ケーブル挿通孔58が第2輻射シールド64に形成される場合について説明したが、これに限られない。ケーブル挿通孔58は、第1輻射シールド62に形成されてもよい。
【0034】
図3は、変形例にかかる極低温冷凍機100のケーブル挿通孔とその周辺を示す模式図である。
図3は、
図2(a)に対応する。本変形例では、ケーブル挿通孔58は、第1輻射シールド62に形成されている。
【0035】
ケーブル挿通孔58は、軸方向に延在して第1輻射シールド62を貫通している。具体的には、ケーブル挿通孔58は、二段ステージ38のすべての位置において次式を満たすように形成される。
(式2)E/F<G/H
ここで、Eはケーブル挿通孔58の径方向の幅、Fは第1輻射シールド62の軸方向における厚み、Gはケーブル挿通孔58の外縁と二段ステージ38の外縁との径方向における距離、Hは第1輻射シールド62の下端から二段ステージ38の上端までの距離である。
【0036】
この場合、ケーブル挿通孔58から第2輻射シールド64内に入り込もうとする輻射熱は、第2輻射シールド64の内壁またはケーブル挿通孔58の周面に直射する。すなわち、輻射熱が二段ステージ38に直射することはない。
【0037】
(変形例2)
図4は、別の変形例に係る極低温冷凍機100のケーブル挿通孔58とその周辺を示す模式図である。
図4は、
図2(a)に対応する。なお、
図4では、複数のケーブル挿通孔58を表示しているが、いずれか1つのケーブル挿通孔58が形成されればよい。本変形例では、軸方向および径方向に交差する方向に延在するようケーブル挿通孔58を形成することにより、輻射熱が二段ステージ38に直射するのを避けている。ケーブル挿通孔58は、例えば、輻射シールド16の外から中に向かうにつれて、二段ステージ38から離れるように延在していてもよい。
【0038】
(変形例3)
実施の形態および上述の変形例では、ケーブル挿通孔58の位置、大きさ、形状を工夫することによって輻射熱が二段ステージ38に直射するのを抑制したが、これに限られず、二段ステージ38に向かう輻射熱の経路を遮蔽部材により遮蔽することによって輻射熱が二段ステージ38に直射するのを抑制してもよい。
【0039】
図5は、さらに別の変形例に係る極低温冷凍機100のケーブル挿通孔58とその周辺を示す模式図である。
図5は、
図2(a)に対応する。本変形例では、極低温冷凍機100は、遮蔽部材60をさらに備える。なお、
図4では、複数の遮蔽部材60を表示しているが、少なくとも1つの遮蔽部材60が設けられればよい。また、
図4では、ケーブル挿通孔58が第2輻射シールド64に形成されているが、ケーブル挿通孔58は第1輻射シールド62に形成されてもよい。
【0040】
遮蔽部材60は、例えば、アルミニウムや銅などの熱伝導率の高い材料により形成される。
【0041】
遮蔽部材60aは、第2輻射シールド64の内壁から二段シリンダ40に向けて突出する突出部である。遮蔽部材60aは、第2輻射シールド64と一体に形成されても、第2輻射シールド64とは別体として形成された上で第2輻射シールド64に支持されてもよい。
【0042】
遮蔽部材60bは、一段ステージ32の外周面から第2輻射シールド64の内壁に向けて突出する突出部である。遮蔽部材60bは、一段ステージ32と一体に形成されても、一段ステージ32とは別体として形成された上で一段ステージ32に支持されてもよい。
【0043】
遮蔽部材60cは、二段シリンダ40の外周面から第2輻射シールド64の内壁に向けて突出する突出部である。遮蔽部材60cは、二段シリンダ40と一体に形成されても、二段シリンダ40とは別体として形成された上で二段シリンダ40に支持されてもよい。
【0044】
つまり、遮蔽部材60a、遮蔽部材60b、遮蔽部材60cはいずれも、ケーブル挿通孔58と二段ステージ38との間に設けられる。遮蔽部材60a、遮蔽部材60b、遮蔽部材60cは特に、二段ステージ38に向かう輻射熱の経路を遮るように突出する。これにより、輻射熱が二段ステージ38に直射するのが抑制される。
【0045】
なお、遮蔽部材60a、遮蔽部材60b、遮蔽部材60cは、輻射熱を一段ステージ32や輻射シールド16外に向けて反射するために、輻射熱が直射される表面(すなわち二段ステージ38とは反対側の表面)が光沢面で形成されてもよい。その光沢面には、たとえばメッキ加工が施されていてもよい。
【0046】
遮蔽部材60dは、二段ステージ38に直射するべき輻射熱がケーブル挿通孔58を通じて第2輻射シールド64の中に入り込まないように、出力ケーブル50を引き出した後に、その一部がケーブル挿通孔58と対向するように第2輻射シールド64の外側に設けられるカバー部材である。遮蔽部材60dは、第1輻射シールド62に固定されている。遮蔽部材60dは、メンテナンス時に取り外せるように、取り外し可能に固定されてもよい。遮蔽部材60dは、例えばアルミニウム製のテープや表面に光沢メッキが施されたテープでもよい。
【0047】
本変形例によれば、挿通孔から輻射シールド16の中に入り込もうとする輻射熱が二段ステージ38に直射する位置にケーブル挿通孔58が形成される場合でも、上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。そのため、ケーブル挿通孔58を形成する位置および大きさの自由度が増す。
【0048】
(変形例4)
実施の形態では、極低温冷凍機100が二段式である場合について説明したが、これに限られず、極低温冷凍機100の段数は三段以上であってもよい。例えば極低温冷凍機100が三段式の極低温冷凍機の場合、請求項に記載の第1シリンダ、第1冷却ステージ、第2シリンダ、第2冷却ステージはそれぞれ、二段シリンダ、二段冷却ステージ、三段シリンダ、三段冷却ステージにより実現されてもよい。
【0049】
上述した前提技術と実施の形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。