特許第6773640号(P6773640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773640
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】ロータおよびリラクタンス機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20201012BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   H02K1/22 Z
   H02K19/10 A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-505783(P2017-505783)
(86)(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公表番号】特表2017-527247(P2017-527247A)
(43)【公表日】2017年9月14日
(86)【国際出願番号】EP2015067904
(87)【国際公開番号】WO2016020359
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2018年2月22日
(31)【優先権主張番号】102014215303.4
(32)【優先日】2014年8月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591040649
【氏名又は名称】カーエスベー ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディート ゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】KSB SE & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ヤニッチ,ボリス
(72)【発明者】
【氏名】シャープ,ヨッヘン
【審査官】 服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−186735(JP,A)
【文献】 特開2003−009484(JP,A)
【文献】 米国特許第02975310(US,A)
【文献】 特開2000−197325(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0108888(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の軟磁性素子と、
充填材であって、導電性かつ非導磁性の充填材とを備え、
前記軟磁性素子が複数のフラックスバリアを、ロータの回転軸の周囲に沿って配置された切欠きの形態で備え、
前記ロータの周縁に始動用かごが形成されるように、少なくとも一の前記切欠きが前記充填材で充填され、
少なくとも1つのロータポールについて、非充填フラックスバリアの領域の面積に対するフラックスバリアの充填領域の面積の比率が少なくとも0.2であり、
前記複数のフラックスバリアのうち前記ロータの径方向最も内側にあるものの非充填領域の面積に対する当該フラックスバリアの充填領域の面積の比率が0.35〜0.6であり、
前記複数のフラックスバリアのうち少なくとも1つ以上が、1つ以上のウェブによって2つ以上に分割され、前記ウェブのうちの少なくともいくつかは、前記複数のフラックスバリアのうち前記少なくとも1つ以上の第1の部分に隣接する第1の円弧状に湾曲したエッジであって、前記ロータ周縁の径方向外側に伸びるエッジを備える
リラクタンス機用ロータ。
【請求項2】
前記第1の円弧状に湾曲したエッジが、前記フラックスバリアに沿って凸状であり、前記ロータの径方向外側に伸びる請求項に記載のロータ。
【請求項3】
前記ウェブのうちの少なくとも1つ以上が、前記フラックスバリアの第2の部分に隣接する第2の円弧状に湾曲したエッジであって、前記ロータ周縁の径方向外側から内側に向けて遠ざかる方向に伸びるエッジを備え、前記第2の円弧状に湾曲したエッジが、前記ロータの内側で、前記フラックスバリアの非充填領域に隣接する請求項に記載のロータ。
【請求項4】
少なくとも1つのロータポールについて、非充填フラックスバリアの領域の面積に対するフラックスバリアの充填領域の面積の前記比率が0.2〜3である請求項1に記載のロータ。
【請求項5】
少なくとも1つのロータポールについて、非充填フラックスバリアの領域の面積に対するフラックスバリアの充填領域の面積の前記比率が0.3〜3である請求項1に記載のロータ。
【請求項6】
少なくとも1つのロータポールについて、非充填フラックスバリアの領域の面積に対するフラックスバリアの充填領域の面積の前記比率が0.75〜1.5である請求項1に記載のロータ。
【請求項7】
上記比率を求めるに際して、充填材が入っているフラックスバリアの充填材含有フラックスバリアであって、前記複数のフラックスバリアのうち両端がロータ周縁に達しているフラックスバリアだけがフラックスバリアの充填領域の面積に含まれる請求項1に記載のロータ。
【請求項8】
充填されたすべての前記フラックスバリアの充填領域の面積が一致している請求項に記載のロータ。
【請求項9】
前記充填材がアルミニウムまたはアルミニウム合金である請求項に記載のロータ。
【請求項10】
前記複数のフラックスバリアのうち少なくとも一の充填領域の充填材の面積が、前記複数のフラックスバリアのうち前記少なくとも一の非充填領域における非充填領域の面積と等しい請求項1に記載のロータ。
【請求項11】
請求項1に記載のロータを少なくとも1つ備え、周波数変換器を有しない同期式リラクタンス機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状の軟磁性素子を含むリラクタンス機用ロータであって、ロータの始動用かごを形成するために、軟磁性素子がフラックスバリアを形成するための切欠きを備え、少なくともいくつかの切欠きに導電性で非導磁性の充填材が充填されるリラクタンス機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
同期式リラクタンス機のロータは、通常、ロータ軸と同軸に配置された円筒状の軟磁性素子を備えている。少なくとも1つのポール対またはギャップ対を形成するために、軟磁性素子は互いに透磁率の度合いが異なる磁束伝達部と磁束遮断部を有する。周知の通り、導磁率が高い部分はロータのd軸として識別され、導磁率が比較的低い部分はロータのq軸として識別される。リラクタンスモータの最適有効度、したがって、最適なトルク降伏は、d軸が最高可能導磁率を呈し、且つq軸が最低可能導磁率を呈するときにもたらされる。
【0003】
多くの場合、この前提条件は、空気が入った複数の切欠きをq軸に沿って軟磁性要素に形成することによって満足される。このような切欠きを形成することによって導磁性が減少し、その結果、q軸方向の磁束が妨げられる。このように構成された軟磁性要素は、次いで、ロータシャフトに取り付けられ、軸方向に固定され、接線方向にも固定される。
【0004】
安定のために、径方向に配向された内側ウェブによって、1つ以上のフラックスバリアが2分割される。このウェブ配置は積層コアの強度を高め、特に、動作時のロータ安定性を最適なものとする。q軸の透磁率を最低限に維持するためにウェブの幅は狭い。ロータ周縁と磁束バリアを区分するウェブは外側ロータ周縁にも延びている。
【0005】
同期式リラクタンスモータは、通常、周波数変換器を介して給電されるので、回転速度を0から動作速度まで上昇させることができ、動作中に回転速度を調整することもできる。特に、モータを始動させるための回転速度を段階的に上げることができる。これに対し、同期式リラクタンスモータをグリッド固定で作動させるの場合は、非同期的に始動できるようにするために始動用かごを使用する必要がある。ロータの回転速度が同期回転速度に近づくとすぐにリラクタンストルクが優勢となり、ロータは回転磁界と同期して回転する。しかし、導電棒と短絡環を備える従来の始動用かごの構造および製造は、今日に至るまで、かなり複雑で高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グリッド固定で直入れ同期式リラクタンス機内で使用できるようにリラクタンス機用のロータを進歩させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の構成にしたがうロータによって達成される。このロータの有利な限定が従属請求項の主題となっている。
【0008】
本発明によれば、少なくとも1つのロータポールについて、好ましくは全部のロータポールについて、フラックスバリアの充填領域の面積とフラックスバリアの非充填領域の比率が少なくとも0.2となるように汎用タイプのロータを進歩させる。
【0009】
フラックスバリアの充填領域面積とは、ロータの軸線方向の軸を横切るように切断することによって与えられる充填面積、すなわち、使用される非導磁性で導電性の充填材の横断面の面積のことである。詳細には、前記面積は、ロータの全フラックスバリアの充填材の面積の合計である。
【0010】
非充填フラックスバリアの面積は、同様に、別の充填材が充填されているか、または例えば空気が入っているなど、何も充填されいない領域によって与えられる。
【0011】
ロータそれ自体は、例えば、個々の積層断面が本発明による面積比によって特徴付けられた積層鉄心として設計できる。
【0012】
始動用かごを形成するために、径方向外側ロータ領域のフラックスバリアまたはフラックスバリア部分領域が、導電性の充填材で充填される。外側ロータ領域から区分される内側ロータ領域は、非充填フラックスバリアまたは他の充填材が設けられたフラックスバリアを備える。結果的に環状の外側ロータ領域が得られることが理想である。ロータの動作特性を決定する重要ファクタは、非充填フラックスバリア面積に対する充填フラックスバリア面積の比率である。比率0.2以上でロータをグリッド電圧の周波数と確実に同期させることができることが研究によって実証された。
【0013】
充填材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用することが好ましい。この種の材料は、カスティング法によって導入することもできるし、ダイカスティング法によって圧入することも可能である。これとは別にあるいはこれに追加して、ロータの幾何図形的配列の対応する切欠きに既に固体の形態である充填材を導入することも同様に考えられる。
【0014】
それ以外のフラックスバリア、すなわち、対応する充填材で充填されないフラックスバリアは、例えば別の充填材、例えば透磁率を減少させるための常磁性体、で充填することもできる。
【0015】
本発明の特に好適な限定では、この比率は0.2〜3、好ましくは0.3〜3、理想的には0.75〜1.5である。
【0016】
本発明による比率、すなわち有利な比率、を求めるに際しては、比率計算のために、対応する充填材が少なくとも部分的に充填されているフラックスバリアだけを考慮すればよい。また、比率を計算する際、端部がロータ周縁に達しているかまたは端部がロータ周縁近傍にあるフラックスバリアだけを含むようにすることも可能である。フラックスバリアのこの構成は、例えば、周知の「バガーティ(Vagati)デザイン」、特にその内容全体をここで参照したものとする米国特許第5,818,140号明細書、によって開示されている。この種のロータの幾何図形的配列では、フラックスバリア両端がロータ周縁に達している。すなわち、フラックスバリアがバナナ状のデザインであることを特徴としている。,これらのフラックスバリアは、ロータの動作中にリラクタンスの挙動に大きな影響を及ぼすため、特定環境下では、この比率の計算にはこの種のフラックスバリアだけを考慮することが有利である。
【0017】
本発明の特に好適な限定によれば、ロータの径方向内側にあるフラックスバリアの充填領域と非充填領域の間の比率が少なくとも0.2という値であるときに有利な場合がある。この比率は、少なくとも1つのロータポール、好ましくはすべてのフラックスバリア部、について適用可能である。別の有利な限定において、ロータの径方向内側にあるフラックスバリアの比率は0.2〜2、特に好ましくは0.35〜0.8、理想的には0.35〜0.6である。
【0018】
また、上述の比率仕様のためにもたらされる径方向内側にあるフラックスバリアの充填領域の面積を、更に外側にあるフラックスバリアの充填領域の面積の指標として使用することも考えられる。これは、少なくとも内側フラックスバリアではないロータポールのもう1つのフラックスバリアの充填領域の面積が、内側フラックスバリアの充填領域の面積と一致すること、すなわち、前記面積と実質的に同じであること、を意味する。特定環境下では、面積が最も小さいフラックスバリアはこの面積仕様のための十分な充填空間がないので、そのようなフラックスバリアでは、この前提条件は満たされない。この場合は、少なくとも、部分的に充填されたフラックスバリアについて、この面積仕様を適用する。
【0019】
本発明は、本発明による少なくとも1つのロータを備えるか、または本発明によるロータの有利な限定による少なくとも1つのロータを備えるリラクタンス機、特に同期式リラクタンスモータ、に関するものでもある。リラクタンス機の特性がロータの特性に対応していることは明らかであるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0020】
リラクタンス機はポンプの駆動に好んで使用される。したがって、本発明は、本発明によるリラクタンスモータまたは同期式リラクタンスモータを備えるポンプも含む。
【0021】
本発明よるロータの幾何図形的配列および個々のフラックスバリアの対応する充填比率のため、充填材の質量で最適な始動用かごを作製することができる。したがって、形成される始動用かごの質量は最小限に維持される。当該ロータによって直入れ同期式リラクタンスモータを形成できる。アルミニウムのケージ設計により、グリッド固定で問題なく直入れ同期式リラクタンスモータを作動させることができ、周波数変換器なしで前記直入れ同期式リラクタンスモータを始動させることもできる。また、前記直入れ同期式リラクタンスモータはグリッド電圧と完全に同期するまで回転する。
【0022】
図に示された例示実施形態に基づいて、本発明の他の利点および特性を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明によるロータの第1の例示実施形態を示す。
図2】本発明によるロータの第2の例示実施形態を示す。
図3】本発明によるロータの第3の例示実施形態を示す。
図4】ロータまたはリラクタンス機の面積比と動作挙動の関係を説明するためのグラフを示す。
図5】作製中の図3のロータ層板の相異なる図を示す。
図6図1、2、3の設計変更例にしたがう本発明によるロータの詳細を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜3は、本発明によるロータの相異なる設計変更例のロータ層板1の平面図を示す。本発明によるロータの構造では、この種の多数の層板1が軸方向に、すなわち回転軸6に沿って、重ね合わされる。代替例として、ロータをブロックとして設計することも可能であるが、その場合、ブロックの断面が図1〜3に図示のものと対応する。
【0025】
図を簡素にするために、ステータは示されていない。ロータ層板1は複数の切欠き2、3、4、5を備えている。これらの切欠きはフラックスバリアの機能を果たす。また、切欠きの配置によって4極ロータが形成され、前記ロータの磁束はフラックスバリア2、3、4、5を備えた領域で阻止される。導磁率が高い領域は一般にd軸と識別され、導磁率がより低い領域はq軸と識別される。組み立てられた積層コアは、図示されていないロータシャフトに取り付けられる。個々のフラックスバリア2、3、4、5の配置は、これについて明示的に引用されている米国特許第5,818,140号明細書の技術的教示事項に基づくものである。したがって、ロータ層板には4つのフラックスバリア部があり、これらの領域のフラックスバリアは互いに全く同じ構造のものである。フラックスバリアは、その両端がロータ周縁の方向に湾曲してロータ周縁に達するバナナ状と言える。
【0026】
しかし、示されているロータ構造は、個々のウェブ10の配置によってそれぞれのフラックスバリア2、3、4、5を複数部分に分割するものであるため、「バガーティ(Vagati)」による従来デザインとは異なる。図2および3の設計変更例の特徴的な構成の1つは、円のそれぞれの扇形の半径方向内側のフラックスバリア2,3,4が2つのウェブ10で3分割され、最も半径方向外側にあるフラックスバリア5が1つのウェブ10だけで2分割されていることである。これに対し、図1の例示実施形態では、2つの外側フラックスバリア2と3が1つのウェブ10で2分割され、内側のフラックスバリア4と5が2つのウェブ10で3分割されている。
【0027】
個々のウェブ10の配置は、ロータ動作中の優れた積層安定性を保証するだけでなく、更にまた、ロータ層板1を内側の部分領域20と外側の部分領域30に分割するものでもある。領域間の分割を図示するために、内側ロータ領域20と外側ロータ領域30の間の境界線を示す輪状の点線40が示されている。
【0028】
外側のフラックスバリア5と、領域30内にあるフラックスバリア2,3,4のこれらの部分領域とは、本発明にしたがって始動用かごを形成するために使用される。この目的のために、ロータの製造時に不図示の短絡環が端面に固定されるか、または、一緒に鋳造される。短絡環の形状は非同期機の始動用かごによって、例えば変化しない形態とすることができる。その結果、組み込まれることが多い金属ロッドなど、始動用かごのために作られる付属装備を省くことができる。
【0029】
外側ロータ領域30のフラックスバリアの領域には、導電性で非導磁性の材料、特にアルミニウムまたはアルミニウム合金から成る充填材、が充填される。図1図3の図では、これは灰色の充填材60として示されている。領域20にあるフラックスバリア2,3,4のフラックスバリア領域は、非導磁性材料を充填することもできるし、空気を含むだけとすることもできる。使用される充填材は、非導電性であるか、または導電性に乏しいものであることが好ましい。
【0030】
同期式リラクタンスモータにおいて、フラックスバリア2、3、4の非充填領域の面積に対するフラックスバリア2、3、4、5の充填領域の面積の比率は、ロータの始動挙動、すなわちロータの回転速度とグリッド周波数との同期、を開始するのに重要である。充填面積が小さすぎると、形成される始動用かごが小さすぎ、負荷をうけるロータは機械的支援なしでは始動不可能である。充填量の設定が大きすぎると、振動質量が不都合に増加し、同様にモータの動作挙動が損なわれる。したがって、特にポンプの駆動モータで使用するためにロータを適用する場合、最適な比率を見つける必要がある。
【0031】
定義のため、層断面に示されている、すべてのフラックスバリア2、3、4、5で使用される充填材の面積を合計し、フラックスバリア2、3、4の対応する非充填領域の面積に対する比率を求める。図1図3の図では、これは、フラックスバリア2、3、4内の灰色ではない背景エリアに対するフラックスバリア2、3、4、5内の灰色で示されている全エリア60の比率に相当する。
【0032】
非充填フラックスバリア2、3、4の領域の面積に対するフラックスバリア2、3、4、内の充填領域の面積の適切な比率は、少なくとも0.2という値であることが分かった。この比率は、好ましくは0.2と3の間の範囲であり、特に好ましくは0.3と3の間の範囲であり、理想的には0.75と1.5の間の範囲である。
【0033】
また、フラックスバリア2、3、4の充填領域の面積を互いに一致させる、すなわち、同一となるように設定する。ある環境では、最も外側のフラックスバリア5の面積が提供する充填空間が非常に小さいため、最も外側のフラックスバリア5がこの基準を遵守できない場合がある。
【0034】
別の基準は、ロータの径方向内側にあるフラックスバリア2の充填領域と非充填領域の比率を少なくとも0.2、好ましくは0.2〜2、特に好ましくは0.35〜0.8、理想的には0.35〜0.6とすることである。図1の例示実施形態において、この比率は0.5であるが、図3の例示実施形態で最も内側のフラックスバリア2は、例えば、約0.35という更に小さい比率が想定されている。図2の例示実施形態では、0.5の間の比率が設定される。
【0035】
やはり径方向外側にある部分的に充填されたフラックスバリア3、4の充填領域の面積は、内側フラックスバリア2の充填領域の面積と同じ大きさである。大きさが一致している、すなわち前記面積とほとんど同じである。図2の例示実施形態において、フラックスバリア4の充填面積は、最も内側のフラックスバリア2の充填面積と同じではない。
【0036】
同期式リラクタンスロータの同期引入れ境界特性曲線が図4に示されている。示されたグラフでは、軸70が、モータの振動質量に対する負荷の比率に対応しており、軸80が、定格トルクに対する負荷の比率に対応している。それぞれの曲線a,b,cの下の面積は、直入れ同期式リラクタンスモータが確実に始動する領域、すなわち直入れ同期式リラクタンスモータを同期させることができる領域、を定める。前記グラフにおいて、曲線aは、本発明に含まれないロータの動作挙動の特徴を示すものであり、そのフラックスバリアはいずれもアルミニウムまたはアルミニウム合金で完全に充填されている。
【0037】
曲線bは、最も内側のフラックスバリア2の面積比が0.3である本発明によるロータの動作挙動を示す。一番上の特性曲線cは、最も内側のフラックスバリアの面積比が0.5である図1の典型的な実施形態のロータと関連付けることができる。
【0038】
図4もまた、目標の方法で面積比を最適化することによって、モータが確実に同期される領域のサイズ、すなわち曲線bおよび曲線cの下の面積、を大きくすることにより、直入れリラクタンスモータトルクの始動性の著しい改善が達成されることを示す。
【0039】
別のロータ最適化ついて以下に記載するが、これは、選択自在の限定事項だけに関連する最適化である。外側ロータ部30のフラックスバリア領域は径方向に選択的に直にロータの外周縁に達することができるので、ロータ周縁は部分的に充填材で形成される。充填材はアルミニウムまたはアルミニウム合金を含む。これまでロータ周縁に設けられていたウェブがもはや存在せず、その結果、フラックスバリア部の磁気抵抗が増加し、q軸とd軸の比率が最適化される。ロータ周縁に隣接するフラックスバリアまたはフラックス領域を充填することによって、これまで設けられていたウェブを取り除くことができ、甘受せざるを得なかったロータコアの顕著な安定性損失を初めて無くすことができる。原則として、ロータ周縁の外側および隣接して位置するフラックスバリアまたはフラックス領域の全部を充填する必要はない。周縁領域の不都合なウェブを無くせるようにするには、原則として、周縁領域近傍の1つ以上のフラックスバリアを充填するだけでよい。これにより、d軸とq軸の磁気抵抗の比率が改善され、このことが、ロータを用いる同期式リラクタンスモータの、結果として生じるリラクタンスモータトルクの増加につながる。始動用かごを形成するのに適した充填材の使用およびウェブ10の上述のウェブ配置は、任意のものに過ぎない。
【0040】
いろいろな方法で充填材をフラックスバリア5とフラックスバリア2、3、4の外側領域とに導入できる。カスティングによる導入も可能である。もちろん、固体状の充填材を切欠き2、3、4、5に挿入することも可能である。
【0041】
図5aと図5bは、ロータ、好ましくは図1〜3の設計変更例のいずれかにしたがうロータ、を説明するために使用される。ロータの重ね合わせ式積層コアのロータ層板1は上述のフラックスバリア配置を備えて作製される。積層コアは1枚1枚の層板から作製される。内側ウェブ10、すなわち個々のフラックスバリアを細分する、ロータ周縁の領域にないウェブ、は、ロータを内側領域20と外側領域30に分割する先述の線40を形成する。しかし、ロータ層板1は、初めに図5aによる図に示されている外側ウェブ50を備えて作製される。
【0042】
次いで、外側ロータ領域30に位置するフラックスバリア部がアルミニウムまたはアルミニウム合金で充填される。ここでは、だいたいにおいて、アルミニウムダイカスティング法が使用される。アルミニウムダイカスティング法では、外側ロータ領域30のフラックスバリア部にアルミニウムまたはアルミニウム合金が圧入され、図5bの図によるロータ層板ができる。
【0043】
次の方法ステップで、ロータは過剰回転され、その結果、層板の直径が減少し、周縁が収縮する。外側ウェブ50を構成する材料層がなくなり、バナナ状のフラックスバリア2、3、4、5の2つの端部がロータ周縁に直に隣接し、すなわち、アルミニウムまたはアルミニウム合金がロータ周縁に広がってロータ周縁の一部を形成する。その結果は、図3による図に対応する。この領域の各ウェブ50がなくなったことにより、q軸に沿った導磁性が減少し、そのため、q軸に沿った磁気抵抗とd軸に沿った磁気抵抗の間の比率が最適化される。また、外側ロータ領域30の領域にアルミニウムのかごが存在するため、積層ロータコアのこれら外側ウェブ50がなくても機械的強度が達成される。この製造方法は、図1〜3による例示実施形態のいずれのロータを製造する場合にも制限なく使用できる。
【0044】
内側ウェブ10もまた、d軸の磁気抵抗とq軸の磁気抵抗の間の比率に不利な影響を及ぼす。そのため、その数量および材料厚を出来る限り小さくしておく必要がある。しかし、内側ウェブ10は、ロータの安定性を保証するために必要である。充填材、すなわちアルミニウムまたはアルミニウム合金、が外側ロータ領域30のフラックスバリア5またはフラックスバリア部2、3、4に導入または圧入されると、充填されるフラックスバリアのウェブ10に大きな力が作用し、その結果、内側ウェブ10が損傷する場合がある。
【0045】
内側ウェブ10は、ウェブ10の寸法を厚くするのではなく、図6の詳細な図から明らかように、ここでは円弧状に設計される。前記の図は、図1〜3のいずれかによるロータ層板の8分の1を示すものである。残りのロータ領域は、図6の図と対称である。
【0046】
円弧状のリブ10は、アルミニウムダイカスト作業中のロータを安定化する。外側領域30にあるフラックスバリア5およびフラックスバリア2、3、4のフラックスバリア領域に高圧下でアルミニウムが圧入されるが、内側は通常の大気圧にある。その結果、ロータを安定化させる圧縮応力が円弧状のリブに生じる。そのため、ロータのつぶれを効果的に防止できる。
【0047】
特に、円弧状のリブ構造は、充填されたフラックスバリア領域に入り込むように湾曲しているので、アルミニウムダイカストの圧力はこの円弧によって相殺される。そのため、内側リブ10の厚さをさらに薄くすることができ、その結果、内側リブ10は薄いにもかかわらずカスティング中のアルミニウムの高圧に耐えることができるのである。上述の円弧状のリブ構造は、図5aおよび図5bの製造方法と無関係に、図1〜3よる例示実施形態のいずれについても制限なく使用できる。
本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された請求項は、以下の通りであった。
請求項1:
円筒状の軟磁性素子を含むリラクタンス機用ロータであって、始動用かごを形成するために、前記軟磁性素子がフラックスバリアを形成するための切欠きを備え、少なくともいくつかの切欠きに導電性で非導磁性の充填材が充填されるロータにおいて、
少なくとも1つのロータポールについて、非充填フラックスバリアの領域の面積に対するのフラックスバリアの充填領域の面積の比率が少なくとも0.2である
ことを特徴とするロータ。
請求項2:
前記比率が0.2〜3であり、好ましくは0.3〜3であり、理想的には0.75〜1.5であることを特徴とする請求項1に記載のロータ。
請求項3:
上記比率を求めるに際して、充填材が入っている前記フラックスバリア、および/または、両端がロータ周縁に達しているおよび/またはバナナ状の形状を備える前記フラックスバリアだけが考慮されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータ。
請求項4:
部分的に充填されたすべての前記フラックスバリア、理想的には充填されたすべての前記フラックスバリア、の充填領域の面積はサイズが一致している、好ましくはほぼ同じであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のロータ。
請求項5:
前記ロータの径方向内側にある前記フラックスバリアの前記充填領域と非充填領域の比率が少なくとも0.2、好ましくは0.2〜2、特に好ましくは0.35〜0.8、理想的には0.35〜0.6であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のロータ。
請求項6:
更に径方向外側にある部分的に充填された前記フラックスバリア、理想的には外側にあるすべての充填された前記フラックスバリア、の前記充填領域の面積はサイズが一致しているか、または、前記内側フラックスバリアの前記充填領域の面積とほぼ同じである
ことを特徴とする請求項5に記載のロータ。
請求項7:
1つ以上の前記フラックスバリアが1つ以上のウェブによって2つ以上に分割され、前記ウェブのうちの少なくともいくつかは、前記フラックスバリアと隣接する湾曲したエッジ、特に円弧状のエッジ、を備えていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のロータ。
請求項8:
前記フラックスバリアの前記充填領域に隣接する少なくとも1つの前記湾曲したエッジは、前記フラックスバリアの前記充填領域の内側に向かって湾曲していることを特徴とする、ことを特徴とする請求項7に記載のロータ。
請求項9:
前記フラックスバリアの前記非充填領域に隣接する少なくとも1つの前記湾曲したエッジは、前記フラックスバリアの前記非充填領域の外側に向かって湾曲していることを特徴とすることを特徴とする請求項7または8に記載のロータ。
請求項10:
前記充填材がアルミニウムまたはアルミニウム合金を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のロータ。
請求項11:
請求項1〜10のいずれか1項に記載のロータを少なくとも1つ備え、駆動目的の周波数変換器を有しないことが好ましいことを特徴とする、リラクタンス機、特に同期式リラクタンス機。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6