特許第6773646号(P6773646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773646
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】医療用/外科用インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/12 20060101AFI20201012BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20201012BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20201012BHJP
   A61F 2/18 20060101ALI20201012BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   A61F2/12
   A61F2/02
   A61F2/08
   A61F2/18
   A61F2/28
   A61L27/18
   A61L27/04
   A61L27/54
   A61L27/58
   A61L27/52
   A61L27/40
【請求項の数】18
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2017-513197(P2017-513197)
(86)(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公表番号】特表2017-528225(P2017-528225A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2015070599
(87)【国際公開番号】WO2016038083
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年8月1日
(31)【優先権主張番号】14184126.2
(32)【優先日】2014年9月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513302064
【氏名又は名称】クリニクム レヒツ デア イザール デア テクニシェン ウニフェルジテート ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー、ベルナー、フートマッハー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン−トルシュテン、シャンツ
(72)【発明者】
【氏名】ポール、セバリン、ビッゲンハオザー
(72)【発明者】
【氏名】モヒト、パラシャント、チャーヤ
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−510736(JP,A)
【文献】 特表2010−540000(JP,A)
【文献】 特表2008−505093(JP,A)
【文献】 特開平07−148243(JP,A)
【文献】 米国特許第05258026(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0198333(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02− 2/28
A61L 27/00−27/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントであって、
前記三次元スキャフォールド構造体が、移植されると細胞がそこに入植し得る穴および/または細孔と、さらに空隙とを含んでなり、
前記空隙が、前記三次元スキャフォールド構造体に除去可能に取り付けられた空間占拠構造体であって、前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成された前記空間占拠構造体で充填されており、
前記空間占拠構造体が、6〜8週間の時間枠の中生分解性でなく、6〜8週間の後に前記三次元スキャフォールド構造体から外科的に除去可能である、前記インプラント。
【請求項2】
前記三次元スキャフォールド構造体が、生分解性材料からなる、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記生分解性材料が、ポリカプロラクトン、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート)、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(エステルアミド)、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(セバシン酸グリセロール)、ポリ(1,8−オクタンジオール−コ−クエン酸)、ポリ(1,10−デカンジオール−コ−D,L−乳酸)、ポリ(ジオールシトレート)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート−コ−ラクチド)、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート−コ−カプロラクトン)およびこれらの材料のうちの少なくとも2つからなる共重合体からなる群より選択される、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記空隙が相互接続されており、且つ、1つの起点から放射状に伸びる収束的幾何的配向で配置されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項5】
前記空間占拠構造体が、押し潰し可能であり、
前記空間占拠構造体が、液体であって、前記液体に対して不浸透性のシースに入れられた前記液体、または、ヒドロゲルであって、前記ヒドロゲルに対して不浸透性のシースに入れられた前記ヒドロゲルを含んでなる、または、前記液体もしくは前記ヒドロゲルからなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項6】
前記空間占拠構造体が、強磁性または超常磁性の材料を含んでなるか、または前記材料からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項7】
前記空間占拠構造体が、組織の付着を防止する被覆材で被覆されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項8】
前記被覆材が、細胞増殖阻害薬を含んでなる被覆材である、請求項7に記載のインプラント。
【請求項9】
前記インプラントが、乳房インプラント、唾液腺インプラント、膵臓インプラント、骨インプラント、前十字靭帯断裂部を再建するためのインプラント、頭蓋顔面再建用インプラント、顎顔面再建用インプラント、複雑な下顎矯正手術用のインプラント、腫瘍摘出部再建用インプラント、黒色腫の除去後の組織再建用インプラント、頭頚部癌の除去後の組織再建用インプラント、耳インプラント、鼻インプラント、胸壁再建用インプラント、整形外科術用インプラント、軟骨再建用インプラントおよび火傷跡再建用インプラントからなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項10】
前記三次元スキャフォールド構造体が、複数の相互接続層からなる積層体であって、各層が複数の棒から構成される前記積層体を含んでなり、
a)前記棒が、ジグザグ構造または波形構造を有し、または
b)前記積層体内のn番目毎の層の棒が、ジグザグ構造または波形構造を有し、一方で他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であり、ここで、nは2から5までの範囲内の整数であり、または
c)各層が、ジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなり、各層の棒の少なくとも1/10が、ジグザグ構造または波形構造を有し、または
d)前記積層体内のn番目毎の層が、ジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなり、前記n番目毎の層の棒の少なくとも1/10が、ジグザグ構造または波形構造を有し、ここで、nは2から5までの範囲内の整数であり、または
e)前記積層体内の層の1/10が、ジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなる層である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項11】
前記三次元スキャフォールド構造体が、複数の相互接続層からなる積層体であって、各層が複数の平行の棒から構成される前記積層体を含んでなり、
前記積層体内の任意の層Xの平行の棒と前記層Xの後続の層(すなわち、層X+1)の平行の棒が、(180/n)°の角度を形成するように前記積層体内の層が配置されており、ここで、nは2から10までの範囲の整数であり、
前記積層体内のある層Yに対してn番目後の層(すなわち、層Y+n)の棒が、前記層Yの平行の棒と棒の間の距離の1/m倍の距離だけ前記層Yの棒に対してずらされており、ここで、mは2から5までの範囲の整数である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項12】
前記積層体内の層の棒が真っ直ぐな棒であり、または前記積層体内の層の棒もしくは前記積層体内のn番目毎の層の棒がジグザグ構造または波形構造を有しており、一方で他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒である、請求項11に記載のインプラント。
【請求項13】
前記三次元スキャフォールド構造体が形状記憶ポリマー(SMP)から形成される、請求項1〜12のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のインプラントの製造方法であって、
a)三次元スキャフォールド構造体であって、移植されると細胞がそこに入植し得る穴および/または細孔と、さらに空隙とを含んでなる前記三次元スキャフォールド構造体を準備するステップ、
b)空間占拠構造体であって、前記空間占拠構造体によって占められている空間への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成され、6〜8週間の時間枠の中生分解性でなく、6〜8週間の後に前記三次元スキャフォールド構造体から外科的に除去可能である、前記空間占拠構造体を準備するステップ、
c)前記空間占拠構造体が前記空隙を充填するように、前記空隙に前記空間占拠構造体を挿入し、前記空間占拠構造体を前記三次元スキャフォールド構造体に除去可能に取り付けるステップ
を含んでなり、これにより、インプラントを提供する前記方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のインプラントからの前記空間占拠構造体の除去のための除去ツールであって、
前記除去ツールが、空間占拠構造体切除用のブレードを備え、
前記ブレードが、除去される前記空間占拠構造体の横断面と同じ形およびサイズを有する生検パンチブレードとして成形されており、
前記除去ツールが、切除された前記空間占拠構造体を把持することを可能にする器具をさらに備える、前記除去ツール。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のインプラントおよび請求項15に記載の除去ツールを備える、キット。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のインプラントからの強磁性または超常磁性の空間占拠構造体の除去のための除去装置であって、少なくとも1つの磁石を備える、前記除去装置。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のインプラントからの空間占拠構造体の除去時に生じた空所に移植細胞を導入する処置の間に外科医にフィードバックを提供するためのガイド装置であって、
前記ガイド装置が、前記インプラントの外形に適合し、
前記ガイド装置が、前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所と空間的および角度的に合うマーキングおよび/またはガイドホールを備える、前記ガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインプラントの分野に関する。具体的には、本発明は予備的に血管網を形成させた結合組織の生成のための空隙系を細胞移植または組織移植のための空所と共に含むスキャフォールド構造体を含んでなる組織再建用インプラントに関する。また、本発明はそのようなインプラントの製造方法、そのようなインプラントの内部構造、そのようなインプラントからの空間占拠構造体の機械的除去のための除去ツール、そのようなインプラントとそのような除去ツールを備えるキット、そのようなインプラントからの超常磁性または強磁性の空間占拠構造体の除去のための除去装置、ならびにそのようなインプラントからの空間占拠構造体の除去時に生じた空所に移植細胞を導入する手技の間に外科医にフィードバックを返すためのガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外科学、材料科学、および生物工学の分野における革新的進展に大きく起因して、失われた身体組織の置換および/または再建に関する医療技術の著しい進歩があった。
【0003】
失われた身体組織の置換または再建が重要な治療選択肢になる様々な医学的状態が存在する。そのような医学的状態には外傷、腫瘍除去、多様な慢性疾患およびある特定の先天性異常が含まれる。
【0004】
組織置換/再建が行われることが多い医学的状態の典型例は乳癌である。乳癌は女性の主要な病因であり、2000年では世界中で約375000件の死亡例の原因となっている。その腫瘍を除去するための最も一般的な外科的手技は乳腺腫瘤摘出術、すなわち、乳房組織の部分摘出と乳房全摘出術、すなわち、乳房の全摘出である。そのような手技は患者の健康状態に対して負の心理学的効果を有する。例えば、乳房全摘出術は「不安感、不眠症、うつ的言動、時々生じる自殺の考え、および恥や無価値といった感覚」(Renneker and Cutler)を特徴とする心理学的症候群に直接的に関連することが示されている。乳癌発生数が多いため、乳房再建はますます一般的になりつつある。2011年では米国だけで300000件を超える乳房再建術が実施された。
【0005】
乳房は胸部の前方側面部に位置し、それらの主要な役割は幼児の栄養のために乳汁を供給することである。解剖学的には乳房は内側部分と外側部分から構成される。外側部分は乳首、乳輪、および円形小突起を含む。内側部分は主要な分泌器官でもあり、線維脂肪組織の中に埋まっている15〜25葉の複合性乳汁分泌腺から形成される。構造的にはその脂肪組織はこれらの腺と結合組織との間に散在する。その腺組織と脂肪組織の生存には高密度の血管網形成が重要である。
【0006】
乳房再建を目的とする現行のアプローチについて、乳腺腫瘤摘出術または乳房全摘出術の後の再建外科術には現在のところ3つの主な戦略、すなわち、補綴インプラントベースの再建、自家組織による再建、およびデノボ組織エンジニアリングが存在する。
【0007】
1)補綴インプラントによる再建
補綴インプラントベースの再建は補綴器具の移植に基づく比較的に単刀直入な外科的アプローチである。そのような器具を使用する利点は、多種多様なサイズ、外形、輪郭、および質感でそれらの器具を製造することができることである。
【0008】
2つの主要な種類の補綴インプラント、すなわち、体積固定インプラントと組織エクスパンダーが存在する。
【0009】
a)体積固定インプラント
体積固定乳房インプラントは、移植外科手術中に体積が固定された生理食塩水溶液で充填されるシリコーンエラストマー製のシングルルーメンインプラントである。手術後に生理食塩水の体積を調節することはできない。その生理食塩水溶液はシリコーンで置き換えられてもよい。
【0010】
しかしながら、シリコーンベースのインプラントと多数の健康問題、例えば、そのインプラントを囲む固い線維組織の形成、被膜拘縮を介した著しい軟組織刺激の発生、および美容的観点からの乳房への望ましくない外観の付与などとの関連については未だに議論が存在する。また、シロキサン類およびプラチナがそのようなインプラントから漏出する可能性があり、そのような漏出性インプラントを有する女性の脂肪組織ではそれらのレベルが上昇していたことがわかっている(Flassbeck et al.)。
【0011】
b)組織エクスパンダー
組織エクスパンダーは拡張性乳房インプラントに類似している。組織エクスパンダーは外科的手技中にその押し潰された形態で留置され、そして数週間から数か月の期間の間に生理食塩水の注入によって徐々に拡張される。その拡張が完了すると、その組織エクスパンダーは恒久的な生理食塩水ベースまたはシリコーンベースのインプラントと置き換えられるか、または体内に残される。
【0012】
おそらく、補綴インプラントの使用に関する最大の短所は被膜拘縮という短所である。複数の研究から、そのようなインプラントの挿入によってそのインプラントの周囲で線維組織のカプセルを形成することになる異物反応が引き起こされることが示されている。この反応は最終的には不自然な半球状の乳房の外観と限定的な肩または腕の動きにつながる。被膜拘縮の発生頻度は研究と調査された患者コホートに応じて2〜70%の範囲内にあることが分かっている。平均的な報告された被膜拘縮のリスクは約10%である。
【0013】
被膜拘縮のこのリスクは移植後に乳房が放射線照射される場合にも著しく上昇する。
【0014】
加えて、両方のタイプのインプラントは破裂、転置、変形、慢性漿液腫、血腫、および乳首の感覚の喪失を起こしやすいこともある。そのような理由のため、インプラントを使用する乳房再建は完全に持続可能な解決法ではない。
【0015】
2)脂肪組織の移植
乳房再建のこのアプローチは補綴インプラントではなく自家脂肪組織の移植による。病院で用いられているこの戦略の2つの変法、すなわち、自家脂肪移植と遊離組織皮弁移植が存在する。
【0016】
a)自家脂肪移植
この方法は脂肪吸引を用いて患者の身体内のドナー部位から乳房領域へ脂肪を数百の微小な液滴(吸引脂肪組織と呼ばれる)として移植することを含む。その後、脂肪移植活動を反復して乳房全体を再建することができる。
【0017】
しかしながら、構造支持体を使用しないと新たに注入された脂肪は2〜3か月後には身体によって急速に再構成され、したがって組織が安定化する前にさらに3〜4回の脂肪移植活動が必要になる。さらに、大量の脂肪組織の脂肪移植には不充分な血管網形成に原因があり、最終的には油性嚢胞の形成を引き起こす脂肪組織壊死のリスクがある。
【0018】
したがって、自家脂肪移植は貧弱な結果をもたらし、組織再吸収と壊死が原因で移植物体積の40〜60%を減少させる。不充分な血管網形成が脂肪体積のそのような減少を引き起こす原因の1つであると考えられている。
【0019】
b)遊離組織皮弁移植
この方法は、遊離組織皮弁移植では組織がその血管と共に移植されるという点で自家脂肪移植と異なる。その弁内の血管はその後で被移植部位の血管と接続される。
【0020】
弁組織の起源として使用され得る幾つかの異なるドナー部位が存在する。これらのうちの最も好ましいものは現在のところ横軸型腹直筋皮(TRAM)弁および深下腹壁動脈穿通枝皮(DIEP)弁である。
【0021】
遊離組織皮弁移植に関して生じる主要な合併症は、その弁から血液を排出する静脈またはその弁に血液を供給する動脈の中で凝血が形成されることがあることである。両方の事例がその弁組織の壊死を引き起こし得る。他の固有リスクには弁の全体的/部分的喪失および腹部の隆起またはヘルニアが含まれる。乳房領域におけるTRAM弁再建後の合併症の発生率は調査された患者コホートに応じて1〜82パーセントの範囲である。DIEP弁も6〜62.5パーセントまでの範囲の脂肪壊死をはじめとする乳房関連罹患問題を抱えている。
【0022】
3)デノボ脂肪組織エンジニアリング
デノボ脂肪組織エンジニアリングは組織エンジニアリングの分野における最近の進歩に基づくアプローチである。成熟型脂肪細胞に分化する線維芽細胞様幹細胞であるヒト脂肪組織由来幹細胞(hASC)が生分解性スキャフォールドに播種され、そこでそれらの幹細胞が脂肪組織の形成を促進する。このアプローチは臨床現場ではまだ用いられていないが、脂肪組織エンジニアリングを臨床に持ち込むために多数のインビボ概念実証試験が実施されている。
【0023】
デノボ組織エンジニアリングの主な利点はそれらのスキャフォールドがインビボで分解し、そうして外来性材料を長期にわたって存在させることなく組織の再構成を可能にすることである。さらに、この方法は移植物体積の縮小に悩まされず、補綴インプラントと同じほど重篤な合併症に悩むこともない。hASCは前駆脂肪細胞または脂肪組織由来前駆細胞としても知られており、標準的技術を用いて容易に培養可能であり、実際に多くのグループがヒト、ラット、およびブタの前駆脂肪細胞の単離と培養の成功を実証している。
【0024】
デノボ脂肪組織エンジニアリングは組織再生材料の助けを得て着手されることが一般的であり、その組織再生材料は3つの主要な構成成分、すなわち、細胞、生分解性スキャフォールド、および細胞の増殖と分化にとって適切な微小環境から構成される。これらの材料は検査対象に移植されるとデノボ組織の形成を開始し、その形成を指揮する。時間経過によってそのスキャフォールドが分解し、その新たに形成された組織がそのスキャフォールドの場所を受け継ぐ。
【0025】
しかしながら、幹細胞ベースのアプローチも組織培養の大規模化に関する問題から組織培養用の複雑なGMP適合実験室の必要性までにわたるそれらのアプローチの臨床応用を妨げる幾つかの短所を有する。さらに、前駆細胞誘導技術を用いて大規模な臨床的に適切な乳房スキャフォールドに効率的に血管網を形成させることは困難なことである。
【0026】
乳房再建の全体的目標は患者の乳房塊を脂肪組織によって再建し、一方で触感を維持することである。
【0027】
それぞれ個々の患者の乳房の形とサイズは異なっており、したがって脂肪組織エンジニアリングに使用される組織材料は高度にカスタマイズされている必要がある。また、乳房の構造は脂肪組織の体積および皮膚の弾力性と厚みに関して経時的に変化することが研究から示されている。その組織材料はそのような変化に順応すべきである。また、その組織材料において使用されるスキャフォールドは好ましくは生分解性であるべきであり、外科的除去を必要とするべきではない。そのスキャフォールドは強い炎症性反応または長期の線維被膜形成も引き起こすべきではない。
【0028】
乳房インプラントの例について上で議論したものと類似の選択肢および問題が、組織置換/再建が医学的な治療選択肢である他の様々な医学的状態、例えば前十字靭帯断裂後の靭帯再建、頭蓋顔面再建のための骨再建、顎顔面再建または複雑な下顎矯正手術、黒色腫または頭頚部癌の除去後の組織再建、胸壁再建、火傷跡再建等についても存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
したがって、失われた組織の再建および/または組織/器官機能の回復のための改善された方法、特に上記の問題の克服に関して改善された方法の必要性が当技術分野に存在する。また、具体的には乳房再建の改善された方法、特に上記の問題の克服に関して改善された方法の必要性が存在する。さらに、移植された細胞または組織の結合組織および血管系とのより良好な結合を可能にし、且つ/または移植された細胞または組織の壊死および再吸収を減少させることになる組織再建および/または組織/器官機能回復のための方法の必要性が当技術分野に存在する。さらに、結果生じた構造体がインビボ状況をより好適に模倣する組織再建および/または組織/器官機能回復のための方法の必要性が当技術分野に存在する。さらに、予備的に調製された結合組織床へのより大量の移植細胞または組織の移植、または血管網形成を可能にする組織再建および/または組織/器官機能回復のための方法の必要性が当技術分野に存在する。さらに、術後治癒時間を短縮し、且つ/または瘢痕形成に起因する審美的問題を減少させる組織再建および/または組織/器官機能回復のための方法の必要性が当技術分野に存在する。さらに、侵襲性が最小限の手技として実施されるためにより好適である組織再建および/または組織/器官機能回復のための方法の必要性が当技術分野に存在する。
【0030】
これらの課題は本発明の下記の態様および記載される好ましい実施形態によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0031】
第1の態様において、本発明は、三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントであって、前記三次元スキャフォールド構造体が、空隙を含んでなり、前記空隙が、前記三次元スキャフォールド構造体に除去可能に取り付けられた空間占拠構造体であって、前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成された前記空間占拠構造体で充填されている、前記インプラントに関する。
【0032】
前記三次元スキャフォールド構造体は、生分解性材料からなることが好ましい。
【0033】
「インプラント」は失われている生体構造を置換するため、損傷を受けた生体構造を支持するため、および/または、既存の生体構造を向上させるために製造される医療器具である。特に、本発明のインプラントは、身体組織の再建および/または組織もしくは器官の機能の回復のためのインプラントであり、好ましくは、組織エンジニアリングによるインプラントである。インプラントの例は、例えば、乳房全摘出術後の乳房再建のための、または、豊胸のための乳房インプラント、唾液腺機能の再建のための唾液腺インプラント、または、膵島機能(すなわち、インスリンおよび/またはグルカゴンの分泌)の回復のための膵臓インプラントである。
【0034】
本出願が「三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラント」に言及する場合、これは、前記インプラントがそのインプラントを構成する構成成分のうちの1つとして三次元スキャフォールド構造体を含むことを指定しているという意味である。そのインプラントは、前記三次元スキャフォールド構造体以外に他の成分を含んでも、含まなくてもよい。
【0035】
前記三次元スキャフォールド構造体の調製にとって適切な生分解性材料は、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート)、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(エステルアミド)、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(セバシン酸グリセロール)、ポリ(1,8−オクタンジオール−コ−クエン酸)、ポリ(1,10−デカンジオール−コ−D,L−乳酸)、ポリ(ジオールシトレート)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート−コ−ラクチド)、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート−コ−カプロラクトン)またはこれらの材料のうちの少なくとも2つからなる共重合体である。前記生分解性材料は、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート)またはこれらの材料のうちの少なくとも2つからなる共重合体であることが好ましい。前記生分解性材料は、ポリカプロラクトンであるか、またはポリカプロラクトンとポリ−トリメチレンカーボネートまたはポリラクチドの一方との共重合体である(これらの基礎的要素から形成される共重合体の機械的特性が自然の乳房組織の機械的特性に類似していることに基づく)ことがより好ましい。一実施形態において、前記生分解性材料はポリカプロラクトン、ポリラクチドおよびポリグリコリドから作られる共重合体である。
【0036】
前記三次元スキャフォールド構造体の調製にとって適切な非生分解性材料は、例えば、シリコーン重合体、非分解性ポリウレタン、およびポリ(エチレンテレフタレート)である。
【0037】
前記インプラントが含んでなる三次元スキャフォールド構造体は、例えば、棒と支柱からなる構造を有してよい。そのような三次元スキャフォールド構造体は適切な材料、例えばポリカプロラクトンを使用して例えば熱溶解積層法(FDM、フィラメント溶解製法(FFF)の同義語)、レーザー焼結法、または光造形法によって形成され得る。例えば注文仕立ての乳房インプラントにとって望ましい、カスタマイズされた三次元スキャフォールド構造体を開発するためには、医用画像工学をコンピューター支援設計およびコンピューター支援製造(CAD/CAM)と関連付ける統合的アプローチを用いることができる。当業者が理解するように、その三次元スキャフォールド構造体内には穴および/または細孔があり、移植されると結合組織細胞などの細胞および/または血管がそこに入植し得る。また、前記三次元スキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合、移植されるとそのスキャフォールド構造体は徐々に分解され、そうして結合組織および/または血管が侵入し得る追加の空間を作る。
【0038】
前記の穴および/または細孔に加え、本発明に記載される三次元スキャフォールド構造体は、例えば調製過程の間に領域を空白にしておく(すなわち、前記三次元スキャフォールド構造体の製造時にこれらの領域にあえてスキャフォールドを作製しない)ことにより、または前記三次元スキャフォールド構造体の調製後に例えば切除によりその三次元スキャフォールド構造体の一部を除去することにより形成され得る空隙(すなわち、スキャフォールドが存在しない前記三次元スキャフォールド構造体内の領域)を含有する。そのような空隙は多種多様な形状(例えば、真っ直ぐ、または曲がった管状の形状、様々な直径と長さのトンネル、丸い、長方形の、または正方形の断面、等)のうちのいずれかを有してよく、且つ、数、サイズ、および前記三次元スキャフォールド構造体内での配向について様々であってよいことが当業者によって理解される。
【0039】
前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するため、前記空間占拠構造体は例えば(前記空間占拠構造体内に組織および/または細胞が侵入し得る空間が無いように)多孔性が低い材料から全体が形成されてよく、(細胞および/または組織が通過することが妨げられるように)高密度の表面カバーを有してよく、および/または生物学的機構を介して組織および/または細胞の侵入を拒絶する表面被覆(細胞増殖を局所的に妨害する薬品であるタクロリムス、エベロリムスまたはマイトマイシンCなどによる被覆など)を有してよい。
【0040】
当業者が理解するように、前記空間占拠構造体が患者の身体の中にある時間枠(典型的には、患者の身体への前記インプラントの移植から前記空間占拠構造体の除去までの期間は6〜8週間の範囲になる)の中では前記空間占拠構造体は実質的に生分解性である必要がない。
【0041】
インプラントの移植時に空間占拠構造体を所定の位置に保持するが、そのインプラントの移植後(好ましくはそのインプラントの移植から6〜8週間後)にそのインプラントの残留部分を移植部位に残したままその空間占拠構造体をそのインプラントの残留部分およびその移植部位から除去することができるようにその空間占拠構造体が前記三次元スキャフォールド構造体内に存在する場合、その空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体に「除去可能であるように取り付けられている」。これを実現するため、前記三次元スキャフォールド構造体へ前記空間占拠構造体を物理的に取り付ける結合は、例えば、前記空間占拠構造体の外科的除去時に適切な工具によって容易に切断され得る材料から形成されてよく(例えば、その結合は適切な外科用のブレードで容易に切断され得るポリカプロラクトンから形成されてよい)、前記三次元スキャフォールド構造体へ前記空間占拠構造体を物理的に取り付ける結合は、ミシン目の付いた紙と同様に前記空間占拠構造体の外科的除去時にそれらの結合が機械的力によって容易に断たれ得るように少数の結合、および/またはわずかな機械的強度の結合であってよく、または前記空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体に物理的結合によっては全く結合していなくてよい(その代り、前記空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体による完全またはほぼ完全な入れ子によって所定の位置に保持されてよい)。また、前記空間占拠構造体は細胞増殖を阻害し、そうしてスキャフォールド構造体への細胞の侵入(または生分解性スキャフォールド構造体との置換)を遅らせる薬品(例えばタクロリムス、エベロリムスまたはマイトマイシンC)から調製された表面被覆を有してよく、前記空間占拠構造体への結合を形成しないか、または弱い結合しか形成しない。
【0042】
当業者が理解するように、前記インプラントには患者の体内での使用が考えられているので、そのインプラントの全ての要素は生体適合性材料からできている必要がある。
【0043】
本発明の第1の態様に従うインプラントは再建部位へ外科的に移植され得る。身体への外科的移植時に結合組織および/または血管系はそのインプラントのスキャフォールド構造体内に進入する。また、そのスキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合、そのスキャフォールド構造体は徐々に分解され、その生分解性インプラントが既に分解されている空間にも結合組織および/または血管系が進入する。そのインプラント内に含まれる空隙は前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている空間占拠構造体で充填されているので、それらの空隙の空間に侵入する結合組織および/または細胞は無い。前記インプラントの外科的移植の時点より数週間から数か月にわたる期間の後、好ましくは前記インプラントの外科的移植から6〜8週間の後、外科医が例えば適切な外科用機器を使用して空間占拠構造体を切り取り、取り外された空間占拠構造体を適切な外科用トングによってそのインプラント/再建部位から取り除くことによってそれらの空間占拠構造体を除去し、そうして以前には前記空間占拠構造体によって占められていたインプラント/再建部位内の領域に空所を残す。その後、それらの空所を所望の機能性細胞(「移植細胞」であり、例えば乳房再建の場合では脂肪組織であり得、膵島インプラントの場合では適切な腺上皮細胞であり得、心筋再生用のインプラントでは心臓細胞であり得、または軟骨再建用のインプラントでは間充織幹細胞であり得る)で、例えばその機能性/移植細胞の注射または点滴により充填する。したがって、予備形成された結合組織血管床のために移植細胞は移植部位内に安定して留まることができ、一方では最小限の組織壊死および再吸収が起こるだけである。また、結合組織血管床を前もって形成することなく再建部位に移植細胞(乳房再建の場合では、すなわち、脂肪組織)を移植する方法と比較して、それにより生じる構造体はインビボ状況(乳房再建の場合では、すなわち、乳房の内部構造)をずっと好適に模倣している。空間占拠構造体を有しないインプラントと比較すると、本発明によるインプラントは、他のインプラントではインプラント内に存在する空間、または生分解性スキャフォールドの漸進的な分解に起因して生じる空間の大部分が結合組織によって完全に占拠されることになるが、本発明では移植細胞を導入し得る結合組織およびスキャフォールド内の空所が前記空間占拠構造体の除去時に作製されるという利点を有している。
【0044】
それらの空隙は、患者の体内にインプラントを移植し、空間占拠構造体を除去した後に前記空隙に移植細胞を導入することが可能であるように構成される必要があることが当業者によって理解される。
【0045】
幾つかの実施形態において、それらの空隙は管状の形状である。したがって、そのような実施形態において、それらの空隙の長さはそれらの空隙の直径に比して大きい。これは、インプラントとそのインプラントに侵入した結合組織の中に容易に移植細胞を深く導入することができ(または生分解性インプラントの分解時にそのインプラントと置き換えることができ)、一方で同時にインプラント構造/結合組織の安定性が過剰に大きな空隙によってあまり損なわれることがないという利点を有している。
【0046】
好ましくはそれらの空隙の直径は少なくとも3mmであり、より好ましくは少なくとも5mmである。好ましくはそれらの空隙の長さは少なくとも0.5cmであり、より好ましくは少なくとも1cmである。好ましくはそれらの空隙の直径は10cm以下であり、より好ましくは8cm以下である。好ましくはそれらの空隙の長さは12cm以下であり、より好ましくは10cm以下である。
【0047】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は、除去可能であるように前記三次元スキャフォールド構造体に取り付けられており、且つ、組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている空間占拠構造体で全て充填されている少なくとも3か所、より好ましくは少なくとも5か所、より好ましくは少なくとも8か所の空隙、より好ましくは少なくとも12か所の空隙を含んでなる。本出願の開示から当業者が理解するように、異なる角度および/または配向を有する幾つかの空隙が相互接続されてよい。例えば、図1Aに示されている乳房インプラントはそのインプラントの頂部に短い垂直方向の空隙を含んでなり、且つ、前記の短い垂直方向の空隙に接続されている8か所の放射状に配置された管状の空隙を含んでなる。したがって、図1Aに示されている乳房インプラントは9か所の空隙を含んでなる。
【0048】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は滑らかな表面を有する。当業者が理解するように、ねじ山を有する表面は滑らかな表面ではない。
【0049】
幾つかの実施形態において、前記インプラントはねじを含まない。幾つかの実施形態において、前記インプラントはリベットを含まない。
【0050】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体とは異なる材料からできている。前記空間占拠構造体は幾何的に所定の配向でインプラント内に局在することが好ましい。
【0051】
幾つかの実施形態において、前記空隙は(および好ましくは前記空間占拠構造体も)相互接続されており、且つ、1つの起点から放射状に伸びる収束的幾何的配向で配置されている。それらの空隙の放射状の配置は一か所のアクセス部位を介したそれらの空隙からの空間占拠構造体の除去を可能にすることができ、その配置はその放射状構造が始まる部位への移植細胞の一回の注入による簡単な手技を介して単一のアクセストンネルから全ての空隙を充填することができるという利点を有している。その配置はそれらの全ての空隙へのアクセスを得るためにただ1か所の組織損傷部位を必要とするので、その配置は全ての空隙に移植細胞を充填するために必要とされる組織損傷も減少させる。これは最小限の侵襲的手技によって空間占拠構造体の除去と移植細胞の導入を実施するつもりである場合に特に有利である。
【0052】
「最小限の侵襲的手技」は、皮膚を介して、または体腔もしくは解剖学的開口部を介して体に入れることで行われるが、これらの構造体にとって可能な最小限の損傷によって行われる外科的手技である。したがって、最小限の侵襲的手技では付随的な組織損傷が最小になる。その結果、治癒に必要な時間が減少し、且つ、瘢痕の減少に起因して美容成果が改善される。
【0053】
幾つかの実施形態において、前記空隙(および前記空間占拠構造体)は相互接続されておらず、且つ、非収束的幾何的配向で配置されている。幾つかの実施形態において、前記空隙(および前記空間占拠構造体)は相互接続されておらず、且つ、好ましくは平行に配置されている。この配置は移植細胞の導入のために複数のアクセストンネルを必要とする一方で、その配置は収束的な配置と比較してこの配置では空間占拠構造体の除去が技術的により簡単であるという利点を有している。外側に向く空隙のそのような配置も外科手術時の細胞、組織および/または吸引脂肪組織の注入を容易にすることができる。
【0054】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は押し潰し可能(collapsible)である。そのような押し潰し可能な空間占拠構造体は例えば生理食塩水で充填された生体適合性高分子材料からできているチューブであり得る。前記インプラントは押し潰し可能な空間占拠構造体と共に製造されてよく、所望の再建部位に移植される。6〜8週間後、最小限の侵襲的手技、例えば注射器を使用する吸引によって前記空間占拠構造体内の液体(生体適合性高分子材料からできているチューブ内に含まれる生理食塩水など)が除去される。これによって前記空間占拠構造体が潰れる。その後、それらの空間占拠構造体を容易に除去することができ、移植細胞を導入することができる空所がスキャフォールド構造体内に残される。
【0055】
したがって、押し潰し可能ではない空間占拠構造体と比較して、押し潰し可能な空間占拠構造体の使用は、組織損傷の減少およびそれに伴う全ての利点(例えば術後痛の減少、より短い治癒時間、瘢痕に起因する美容問題の減少等)と共に、例えば最小限の侵襲的手技によってそれらの空間占拠構造体をより簡単に除去することができるという利点を有している。
【0056】
押し潰し可能な空間占拠構造体を含むインプラントを調製するため、拡張させた空間占拠構造体と共にそのインプラントが通常は移植前に組み立てられることになる。最初に前記空間占拠構造体向けの空き空間(空隙)を含むインプラントだけを作製する。第2ステップにおいて、最初はしぼんでいる構造体(すなわち、前記空間占拠構造体のまだ充填されていないシース)を所定の空き空間に挿入する。それらのしぼんだ空間占拠構造体に注射針で穴を開け、シースを充填し、その後で今では充填された構造体のシースを熱密封することでそれらの構造体を充填し、拡張させることができる。完成した組立品を最終的にガンマ線照射またはエチレンオキシドにより滅菌することができ、その後で患者に移植することができる。当業者が理解するように、収束的なデザインの場合では、相互接続されている空間占拠構造体のただ一か所(典型的には最も表層の部分)にアクセスすることにより外科医が全ての構造体に液体を充填し、全ての構造体から液体を抽出することができるようにそれらの空間占拠構造体を接続することができる。
【0057】
前記空間占拠構造体はある液体に対して不浸透性のシースに入れられた前記液体を含んでなる、またはその液体からなることが好ましい。前記液体は等張性生理食塩水溶液であることが好ましい。前記シースは好ましくは生体適合性重合体、より好ましくは医療グレードのポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド、またはシリコーンからできている。
【0058】
前記空間占拠構造体の収束的なデザインと組み合わせてシースに入れられた液体(またはヒドロゲル)を空間占拠構造体として使用することにより、その生理食塩水溶液(またはヒドロゲル)がただ1か所のアクセスポイントから吸引され得ることを実現することができ、最小限の侵襲的方法で前記押し潰された空間占拠構造体を抽出するためにもその同じアクセスポイントを使用することができる。シースに入れられたヒドロゲルと比較して、シースに入れられた液体の使用は、少しも残余物を残さずに完全にそのシース内の充填溶液を除去することがより簡単であるという利点を有している。また、シースに入れられた液体の場合では外科医が収縮時期を自由に選択することができ(ヒドロゲルの場合では分解時間によってそれが決定される)、したがって移植細胞として使用される特殊な種類の間質細胞に最適である、インプラントの移植と空間占拠構造体の除去との間の時間間隔を選択することがより簡単になる。液体としての生理食塩水溶液の使用は、生理食塩水溶液が低価格であるだけでなく、例えば前記空間占拠構造体を押し潰すためにその液体の吸引中に幾らかの液体が身体に漏出した場合に健康上のリスクを全く与えないという利点を有している。
【0059】
前記空間占拠構造体はある生理的に不活性のヒドロゲルに対して不浸透性のシースに入れられた前記ヒドロゲルを含んでなる、またはそのヒドロゲルからなることが好ましい。前記ヒドロゲルはポリエチレングリコールまたはポリビニルアルコールを含んでなる、またはポリエチレングリコールもしくはポリビニルアルコールからなることが好ましい。前記ヒドロゲルはそのヒドロゲルに混合された強磁性粒子を含んでなることが好ましい。前記シースは好ましくは生体適合性重合体、より好ましくは医療グレードのポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド、またはシリコーンからできている。
【0060】
空間占拠構造体としてのシースに入れられたヒドロゲルの使用はシースに入れられた液体と同じ利点を提供する。しかしながら、シースに入れられた液体と比較して、シースに入れられたヒドロゲルは生理的ストレスに対する高い耐性を提供し、且つ、生理食塩水と比較して高いそれらの粘性に起因して周囲の組織に漏出しにくい。
【0061】
前記空間占拠構造体は流動的に相互に接続されていることが好ましい。空間占拠構造体Aと空間占拠構造体Bが「流動的に接続」されていることが本出願によって示されている場合、これは外部環境へ液体/ヒドロゲルを失わずに空間占拠構造体Aの内腔の液体またはヒドロゲルが空間占拠構造体Bの内腔へ移動すること、およびその反対を可能にする前記空間占拠構造体AとBとの間の接続が存在することを意味する。
【0062】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は固い。固い空間占拠構造体は簡単に変形せず、且つ、高い機械的ストレス下でも元の形状を維持するという利点を有している。
【0063】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は専ら固形物からできている(すなわち、液体またはゲルを含まない、または液体もしくはゲルからならない)。専ら固形物からできている空間占拠構造体の使用は、周囲の組織への液体またはゲルの漏出が起こり得ず、且つ、前記空間占拠構造体がより高い耐圧性と形状安定性を持つという利点を有している。
【0064】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は金属、好ましくは鋼鉄またはチタンからできている。金属からできている空間占拠構造体を使用することにより、周囲の組織への液体またはゲルの漏出が起こり得ず、且つ、前記空間占拠構造体が非常に高い耐圧性と形状安定性を持つことが実現され得る。また、鋼鉄が使用される場合、前記空間占拠構造体は電磁石式除去装置の使用によって1回の動作で容易に除去され得る。
【0065】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は超常磁性または強磁性の材料を含んでなる、またはそのような材料からなる。前記空間占拠構造体は生体適合性高分子材料と生体適合性強磁性材料からなる複合材料、好ましくはポリカプロラクトンと酸化鉄からなる複合材料を含んでなる、またはそのような複合材料からなることが好ましい。
【0066】
超常磁性または強磁性の材料を含んでなる、またはそのような材料からなる空間占拠構造体は、例えば上を覆う皮膚および組織に小さな切開を入れ、強力な(電)磁石を使用してそれらの空間占拠構造体を除去することにより非常に効率的な除去を可能にする。これは、組織に除去ツールを挿入する必要なしにそれらの空間占拠構造体を除去することができ、したがって創傷部の汚染リスクが減少するというさらなる利点を提供する。
【0067】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は組織の付着を防止する被覆材で被覆されている。前記被覆材は好ましくは細胞増殖阻害/低下薬(抗増殖薬)を含んでなる被覆材であり、より好ましくは薬品タクロリムス、エベロリムスおよびマイトマイシンCのうちの1つ以上を含んでなる被覆材である。さらに、その薬品(例えばタクロリムス)はそれらの空間占拠構造体に被覆される前にヒドロゲルに懸濁され得る。そのようなヒドロゲル被覆材は長期間にわたってその薬品が分解または希釈されることを防止することになる。
【0068】
タクロリムス(FK−506)は、細胞増殖を制御し、したがって宿主組織の急速な内殖を防止するFDA(米国食品医薬品局)により認可された薬品である。したがって、タクロリムスを含む被覆材は前記空間占拠構造体への宿主組織の付着および接着を減少させる。次にこれにより前記空間占拠構造体の除去が促進され、組織損傷または血管の破裂によって引き起こされる出血のような除去手技中の合併症が減少し、そして最小限の侵襲的手技の使用にとって改善された状況が提供される。
【0069】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは組織エンジニアリング用のインプラントである。幾つかの実施形態において、前記インプラントは組織再建用のインプラントである。
【0070】
「組織再建」は身体内の組織の一部または組織全体の修復または置換、または器官の一部もしくは器官全体の修復もしくは置換を指す。組織再建用のインプラントは組織再建の過程を支援するように設計されているインプラントである。そのインプラントは、例えば、器官または身体の一部の中の支持結合組織の役割を引き受けることができる。生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントの場合では、そのインプラントは支持結合組織の役割を一時的に引き受けることができる。そのインプラントが身体に移植されると、身体組織、特に結合組織および血管系がそのスキャフォールド構造体内の細孔に侵入し、そのインプラントが生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなる場合ではそのスキャフォールド構造体が既に分解された領域にも侵入する。したがって、組織エンジニアリング用のインプラントは結合組織および血管系が成長するときの方向性を与えるスキャフォールド構造体を提供してよく、そのインプラントの三次元スキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合では身体自体の構造体によって徐々に置き換わるスキャフォールド構造体を提供してよい。その後、この予備形成された血管網形成した結合組織床に移植細胞を導入してよい。
【0071】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは、細胞/組織移植、好ましくは遊離脂肪移植片移植の被移植部位として予備的に血管網を形成させた結合組織を生成するためのインプラントである。移植のための所望の被移植部位での適切なインプラントの身体への移植時に組織、特に結合組織と血管系がスキャフォールド構造体内の細孔に侵入する。(そのインプラントが生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントである場合、移植されるとそのスキャフォールドは徐々に分解され、そのインプラントが既に分解されている領域にも組織、特に結合組織と血管系が侵入する。)したがって、そのインプラントは結合組織および血管系が成長するときの方向性を与える構造を提供するスキャフォールド構造体を提供する。その後、所望の細胞/組織(遊離脂肪移植片など)が被移植部位において結合組織血管床に移植され得る。
【0072】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは皮下インプラント、骨インプラント、軟骨インプラント、または対応する結合組織インプラントである。
【0073】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは乳房インプラント、唾液腺インプラント、膵臓インプラント、骨インプラント、前十字靭帯断裂部を再建するためのインプラント、頭蓋顔面再建用インプラント、顎顔面再建用インプラント、複雑な下顎矯正手術用のインプラント、腫瘍摘出部再建用インプラント、黒色腫の除去後の組織再建用インプラント、頭頚部癌の除去後の組織再建用インプラント、耳インプラント、鼻インプラント、胸壁再建用インプラント、整形外科術用インプラント、軟骨再建用インプラントおよび火傷跡再建用インプラントからなる群より選択される。前記インプラントは乳房インプラントであることが好ましい。
【0074】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは乳房再建および/または豊胸のための乳房インプラントである。
【0075】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は複数の相互接続層からなる積層体を含んでなり、各層が複数の棒から構成されており、
a)前記棒がジグザグ構造または波形構造を有し、または
b)前記積層体内のn番目毎の層の棒がジグザグ構造または波形構造を有し、一方で好ましくは他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であり、
その場合にnは2から5までの範囲内の整数であり、好ましくは2または3であり、より好ましくは2であり、または
c)各層がジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなり、その場合に好ましくは各層の棒の少なくとも1/10、より好ましくは少なくとも1/5、より好ましくは少なくとも1/3、より好ましくは少なくとも1/2がジグザグ構造または波形構造を有し、一方で好ましくは前記層の他の全ての棒が真っ直ぐな棒であり、または
d)前記積層体内のn番目毎の層がジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなり、その場合に好ましくは前記n番目の層の棒の少なくとも1/10、より好ましくは少なくとも1/5、より好ましくは少なくとも1/3、より好ましくは少なくとも1/2がジグザグ構造または波形構造を有し、一方で好ましくは前記積層体内の前記n番目毎の層の他の全ての棒と他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であり、
その場合にnは2から5までの範囲内の整数であり、好ましくは2または3であり、より好ましくは2であり、または
e)前記積層体内の層の1/10、好ましくは1/5、より好ましくは1/3、より好ましくは1/2がジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなる層であり、一方で好ましくは他の層が真っ直ぐな棒だけを含んでなる層である。
【0076】
本出願が複数の層からなる「積層体」に言及する場合、これは面がx軸とy軸に沿って広がる複数の層が垂直方向のz軸に沿って相互に積み重ねられている配置を指す。本出願が「複数の相互接続層からなる積層体」に言及する場合、これはその積層体を形成するために積み重ねられた個々の層が物理的に相互に連結されていることを意味する。
【0077】
本出願が「ジグザグ構造」を有する棒について言及する場合、これはその棒が短く急な折り返しまたは角度によるその進行方向の一連の変化を有しており、その進行方向のこれらの変化が生じている部位が角形状であることを表す。進行方向におけるそのような変化は規則的なパターンを採ることが好ましい。進行方向におけるそのような変化は90°の角度であることが好ましい。ジグザグ構造を有する棒の例が図8に示されている。
【0078】
本出願が「波形構造」を有する棒について言及する場合、これはその棒が短く急な折り返しまたは角度によるその進行方向の一連の変化を有しており、その進行方向のこれらの変化が生じている部位が丸い形状を有していることを表す。進行方向におけるそのような変化は規則的なパターンを採ることが好ましい。波形構造を有する棒の例が図8に示されている。
【0079】
前記複数の相互接続層の各々が複数の平行の棒から構成されていることが好ましい。
【0080】
ある特定の層Xの平行の棒とその後続の層X+1の平行の棒が少なくとも30°の角度、好ましくは少なくとも45°の角度、より好ましくは少なくとも60°の角度、より好ましくは90°の角度を形成するように前記積層体内の層が配置されていることが好ましい。
【0081】
当業者が理解するように、平行ではない2本の線(および同様に、平行ではない2組の平行の棒)が交差するとき、2つの角度が形成される(それらは合計で180°になる)。ある特定の層の平行の棒とその後続の層の平行の棒がある特定の角度を形成すると本出願によって述べられるとき、表示されている角度は形成される2つの角度のうちの小さい方を指す。ジグザグ構造または波形構造を有する一本/複数本の棒の場合、その角度はその棒の中心軸に関して測定される(その中心軸は基本的にその棒のジグザグ進路または波形進路の線形「最適」曲線である。図8を参照されたい)。同様に、ジグザグ構造または波形構造を有する棒に関してそのような棒が「平行」であると本出願によって示されている場合、これはジグザグ構造または波形構造を有するこれらの棒の中心軸が相互に平行であることを意味している。
【0082】
前記棒の中心軸から最も離れている前記棒内の各折り返しの点(すなわち、各折り返し点の最も外側の点)が前記棒の中心軸から最も近い平行の棒の中心軸までの距離の少なくとも1/20の距離、より好ましくは少なくとも1/10の距離、より好ましくは少なくとも1/5の距離を前記棒の中心軸から有するようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。前記棒の中心軸から最も離れている前記棒内の各折り返しの点が前記棒の直径の少なくとも5倍の距離、より好ましくは少なくとも10倍の距離、より好ましくは少なくとも20倍の距離を前記棒の中心軸から有するようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。
【0083】
前記棒の各折り返し点の最も外側の点と前記棒の中心軸との間の距離が前記棒の直径の少なくとも2倍に等しいようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。ジグザグ/波形構造を有する各棒の体積の少なくとも半分が同じ直径の実質的な真っ直ぐの棒の外側に位置するようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。前記棒の角度および波形はそれぞれの構成によって構成されることが好ましい。
【0084】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは本出願の図9B図9C、または図9Dに示されているような層構造を有するスキャフォールド構造体を有する。
【0085】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は複数の相互接続層からなる積層体を含んでなり、各層が複数の平行の棒から構成されており、前記積層体内の任意の層Xの棒がその後続の層X+1の棒に対して直交する配置を有し、前記積層体内の任意の層Xの棒と前記層Xの後続の層の次の層(すなわち、層X+2)の棒が再度相互に平行になるように前記積層体内の層が配置されており、且つ、任意の層Yの後続の層の次の層(すなわち、層Y+2)の棒が前記層Yの平行の棒と棒の間の距離の1/m倍の距離だけ前記層Yの棒に対してずらされており、その場合にmは2から5までの範囲の整数、好ましくは2または3、より好ましくは2である。
【0086】
当業者が理解するように、前段落において規定されている三次元スキャフォールド構造体では層Yに対して(2×m)番目後の層の棒が再度層Yの棒と「一致」する(当然、その層内の個々の棒と棒の間の距離が層Y、層Y+2、層Y+4等について同じであることを条件とする)。
【0087】
幾つかの例において、層Aの棒がある特定の距離だけ別の層Bの「棒に対してずらされて」いることが本出願によって示されている。これは、複数の層が垂直方向のz軸に沿って積層されており、且つ、層Aの棒が層Bの棒と平行である状況下において、層Aの棒が前記層Bの棒の上に直接的に配置されているのではなく、表示されている距離だけ層Aの平面内で平行移動させられている状況を指している(すなわち、幾何的には層Aの棒をz軸に沿った移動により層Bの棒と一致させることはできないが、層Aの棒を層Bの棒と一致させるためにはz軸に沿った移動に加えてx軸および/またはy軸に沿った移動がある特定の距離だけ必要になる)。
【0088】
ある特定の層Aの棒が別の層Bの棒と「一致」すると本出願によって示されている場合、これは、複数の層が垂直方向のz軸に沿って積層されており、且つ、層Aの棒が層Bの棒と平行である状況下において、幾何的に層Aの棒をz軸に沿った移動により層Bの棒と一致させることができることを意味する。
【0089】
前記積層体内の層の棒は真っ直ぐな棒であることが好ましい。あるいは、前記積層体内の層の棒または前記積層体内のn番目毎の層の棒は上記の実施形態において記載されているようにジグザグ構造または波形構造を有してよく、一方で他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であることが好ましい。
【0090】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は複数の相互接続層からなる積層体を含んでなり、各層が複数の平行の棒から構成されており、前記積層体内の任意の層Xの平行の棒と前記層Xの後続の層(すなわち、層X+1)の平行の棒が(180/n)°の角度を形成するように前記積層体内の層が配置されており、その場合にnは2から10までの範囲の整数、好ましくは2であり、前記積層体内のある層Yに対してn番目後の層(すなわち、層Y+n)の棒が前記層Yの平行の棒と棒の間の距離の1/m倍の距離だけ前記層Yの棒に対してずらされており、その場合にmは2から5までの範囲の整数、好ましくは2または3、より好ましくは2である。
【0091】
当業者が理解するように、前段落において規定されている三次元スキャフォールド構造体では前記層Xの棒と前記層Xのn番目後の層(すなわち、層X+n)の棒が再度相互に対して平行になる(そこで、当然、前記層の平行の棒が配向する方向と直交する方向の層の平面内にずれが存在することになる)。また、前段落において規定されている三次元スキャフォールド構造体では層Yに対して(n×m)番目後の層の棒が再度層Yの棒と「一致」することになる(すなわち、層Yの棒と層Y+(n×m)の棒が一致することになる。当然、その層内の個々の棒と棒の間の距離が層Y、層Y+n、層Y+2n、層Y+3n等について同じであることを条件とする)。
【0092】
nは2から6までの範囲の整数であることが好ましく、より好ましくは2または3、より好ましくは2である。
【0093】
前記積層体内の層の棒は真っ直ぐな棒であることが好ましい。あるいは、前記積層体内の層の棒または前記積層体内のn番目毎の層の棒は上記の実施形態において記載されているようにジグザグ構造または波形構造を有し、一方で他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であることが好ましい。
【0094】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは下の図10Bに示されているようなスキャフォールド構造体を有する。
【0095】
従来の設置パターンのFDM製造三次元組織エンジニアリングスキャフォールドを有するインプラントは連続的な棒と支柱を使用している。そのような設置パターンは側面方向の圧縮性を限定する。上記の実施形態において規定される設置パターン(すなわち、ジグザグ構造または波形構造を有する棒を有する層、および/または相互にずれが有る棒を有する層を持つ三次元スキャフォールド構造体)を使用することにより、スキャフォールドの機械的特性、特に、弾性、剛性、柔軟性および圧縮性に対する非常に改善された制御が実現される。
【0096】
従来の三次元スキャフォールド構造体ではそのような特性はスキャフォールド材料としてのエラストマーの使用によってのみ制御され得るが、本発明による三次元スキャフォールド構造体は、スキャフォールドを構築するための材料として剛性または半剛性の材料(ポリカプロラクトンなど)が使用される場合であってもその機械的特性に関して調整可能である。したがって、堅い骨から弾力性のある軟骨、圧縮可能な結合組織まで、あらゆる特定の組織の要求にポリカプロラクトンスキャフォールドを合せることができる。下の図11に示されているデータから明らかであるように、そのような改変型スキャフォールドは同じパラメーターを用いて作製された従来の設置パターンを有する対照スキャフォールドと比較してより柔軟であり、それらの対照スキャフォールドが耐えるのと同じストレスを耐えることができ、より広範囲の弾性変形を示す。
【0097】
また、三次元スキャフォールド構造体向けに単に弾性材料を使用する従来のアプローチと対照的に、上記のアプローチはインプラントの特定の部分、または特定の角度の機械的ひずみに関してスキャフォールド構造体の機械的特性を精密に調整することを可能にする。例えば、ある特定の方向の棒についてジグザグ構造または波形構造を有する棒を選択することにより、三次元スキャフォールド構造体の機械的特性(柔軟性およびストレス抵抗性など)を特定の角度について特異的に設計することができ、一方で他の角度ではそのスキャフォールド構造体は異なる機械的特性を有することになる。これは三次元スキャフォールド構造体内の空隙の存在が原因である潜在的な構造的弱点および不均衡の補償のために特に重要であり、移動環境内でのインプラント自体に対する損傷リスクも低下させる。また、そのことが腱または関節のような半剛性構造体の置換物として使用され得るインプラントを可能にする。
【0098】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は半剛性生体材料から、好ましくはポリカプロラクトンから形成される。幾つかの実施形態において、前記インプラントの前記三次元スキャフォールド構造体は弾性生体材料から形成されない。
【0099】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は形状記憶ポリマー(SMP)から形成される。前記形状記憶ポリマーはその温度が体温に達するか、または体温を超した場合にその恒久的形状に戻ることが好ましい。体温は37℃である。あるいは、前記形状記憶ポリマーはその温度が36℃に達するか、または36℃を超した場合にその恒久的形状に戻る。前記恒久的形状は、移植後にインプラントが採ることを望まれている形状であることが好ましい。
【0100】
本明細書において使用される場合、「形状記憶ポリマー」は、変形可能であるが、ある特定の温度(「トリガー温度」)に達するか、またはその温度を超すとその変形した状態(一時的形状)からその元の形状(恒久的形状)に戻る高分子材料である。本発明において使用される形状記憶ポリマーは、室温で変形可能であるが、トリガー温度(すなわち、37℃の体温、あるいは36℃)に達するか、またはその温度を超すとそれらの形状を所望の形状に変更する材料である。
【0101】
ポリカプロラクトンのような柔軟ではない材料から作製されたインプラントは、そのようなインプラントの挿入に大きな切開部が必要であるため、外科的移植において使用しづらい場合があり得る。体温(37℃のトリガー温度)に達すると元の恒久的形状に戻り、且つ、インプラントが移植後に採ることが望まれている完全に形成された形状に対応する元の恒久的形状を有するSMPスキャフォールド構造体を使用することにより、より小さな切開部を用いる移植が可能になる。そのインプラントのSMPスキャフォールド構造体は単により小さな切開部を必要とする形状に室温で変形され(乳房インプラントの場合では、例えば、ディスク状の形状)、患者の身体に移植される。身体に移植されるとそのSMPスキャフォールド構造体の温度が体温に達するまで上昇する。そのSMP材料のトリガー温度である体温に達すると、そのSMPスキャフォールドはそのインプラントが移植後に有することが実際に望まれている形状であるその元の恒久的形状に戻る(乳房インプラントの場合では、この細長い形状で移植された場合にずっと大きな切開部が必要になっただろう完全に形成された乳房インプラントの折れ曲がった形状)。したがって、SMPスキャフォールド構造体を含むインプラントにより、外科医は移植時の組織損傷の量を減少させることができ、したがって最小限の侵襲的手技の使用を可能にする。
【0102】
第2の態様において本発明は、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントの製造方法であって、
a)空隙を含んでなる三次元スキャフォールド構造体であって、好ましくは生分解性材料からできている前記三次元スキャフォールド構造体を提供するステップ、
b)空間占拠構造体によって占められている空間への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている前記空間占拠構造体を提供するステップ、
c)前記空間占拠構造体が前記空隙を充填するように前記空隙に前記空間占拠構造体を挿入し、除去可能であるように前記空間占拠構造体を前記三次元スキャフォールド構造体に取り付けるステップ
を含んでなり、そうしてインプラントを提供する前記方法に関する。
【0103】
前記インプラント、前記三次元スキャフォールド構造体、前記生分解性材料、前記空隙、前記空間占拠構造体および前記除去可能な取り付けは上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている通りであることが好ましい。
【0104】
前記三次元スキャフォールド構造体は熱溶解積層法(フィラメント溶解製法)、レーザー焼結法または光造形法によって形成されることが好ましい。空隙を含んでなる前記三次元スキャフォールド構造体は、空隙を含まない三次元スキャフォールド構造体を作製し、その後で前記三次元スキャフォールド構造体に空隙を形成することで製造されることが好ましい。あるいは、空隙を含んでなる前記三次元スキャフォールド構造体は、構築過程の完了時に空隙を含んでなる三次元スキャフォールド構造体が得られるような、その三次元スキャフォールド構造体の構築時にそのスキャフォールド構造体内の特定の領域にスキャフォールド構造が作製されない手法によって製造される。
【0105】
第3の態様において本発明は、本発明によるインプラントからの前記空間占拠構造体の除去のための除去ツールであって、除去される前記空間占拠構造体の横断面と同じ形とサイズを有する生検パンチブレードとしてブレードが成形される空間占拠構造体切除用の前記ブレードを備える前記除去ツールであり、切除された前記空間占拠構造体を把持することを可能にする器具をさらに備える前記除去ツールに関する。
【0106】
空間占拠構造体の横断面と同じ形とサイズを有する前記生検パンチブレードは、単に前記空間占拠構造体をしっかりと型抜きすることにより、それらの空間占拠構造体とインプラントのスキャフォールド構造体との間、および/または身体組織との間のあらゆる接続/結合を簡単および正確に切断することを可能にする。切除された空間占拠構造体の把持を可能にする前記器具は、例えば、メカニカルクランプであってよい。あるいは、生検パンチブレードとして成形された前記ブレードは先細り形状を有する空洞の中を進んでよい。空間占拠構造体を型抜くと、その組織からの前記除去ツールの回収時に空間占拠構造体が除去されるように、その空間占拠構造体がその空洞内に入り、そして詰まる。
【0107】
第4の態様において本発明は、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントと上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている除去ツールを含んでなるキットに関する。
【0108】
第5の態様において本発明は、本発明によるインプラントからの強磁性または超常磁性の空間占拠構造体の除去のための除去装置であって、少なくとも1つの磁石、好ましくは少なくとも1つの電磁石を備える前記除去装置に関する。
【0109】
そのような装置は超常磁性または強磁性の空間占拠構造体の次の手順に従う除去のために使用され得る。まず、超常磁性または強磁性の空間占拠構造体を含んでなる本発明によるインプラントを患者の身体の所望の部位に移植する。移植細胞の導入のための空所を作るためにそれらの空間占拠構造体が再度取り除かれなければならなくなると、それらの空間占拠構造体が存在する特定の位置において、上を覆う皮膚、身体組織、およびまだ存在するのならば(生分解性)スキャフォールド構造体に小さな切開を入れ、そうしてそれらの空間占拠構造体を除去するための経路を作る。その後、その領域の上に適切な配向で前記除去装置を下し、少なくとも1つの(電)磁石をそれらの空間占拠構造体の極近くに、好ましくはそれらの空間占拠構造体と直接接触する所へ持っていく。その少なくとも1つの磁石が電磁石である場合、この時点でその電磁石のスイッチを入れる。その少なくとも1つの(電)磁石にそれらの超常磁性または強磁性の空間占拠構造体が付着する程のその少なくとも1つの(電)磁石により発揮される強力な磁力によってそれらの超常磁性または強磁性の空間占拠構造体を引き付ける。患者の身体からの前記除去装置の撤去時にそれらの空間占拠構造体がその除去装置と共に移動し、それらの元の場所から引き出され、患者の身体から除去される。
【0110】
当業者が理解するように、最適性能のためには前記除去装置内の少なくとも1つの(電)磁石の位置と前記インプラント内の空間占拠構造体の位置は一致すべきであり、そうしてその少なくとも1つの(電)磁石がそれらの空間占拠構造体に対して磁力を発揮するために理想的な位置にあることが確実になる。
【0111】
前記除去装置は乳房インプラントからの超常磁性または強磁性の空間占拠構造体の除去のための除去装置であることが好ましい。
【0112】
前記除去装置は前記インプラントの外形に適合するように成形されることが好ましい。例えば、そのインプラントが乳房インプラントである場合、その除去装置は乳房インプラントの半球状の形状を有することになる。これはその除去装置のそのインプラントへの良好な適合を確実にし、そうして発揮される磁力を最大のものにするためにその除去装置の少なくとも1つの(電)磁石とそのインプラント内の超常磁性または強磁性の空間占拠構造体との間の距離が最小になること、好ましくはその除去装置の少なくとも1つの(電)磁石とそのインプラント内の超常磁性または強磁性の空間占拠構造体との間の直接的接触が実現されることを確実にする。
【0113】
第6の態様において本発明は、上記の実施形態のうちのいずれかによるインプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所に移植細胞を導入する手技の間に外科医にフィードバックを返すためのガイド装置であって、前記インプラントの外形に適合する前記ガイド装置であり、前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所と空間的および角度的に合うマーキングおよび/またはガイドホールを備える前記ガイド装置に関する。
【0114】
幾つかの実施形態において、それらのマーキングまたはガイドホールの各々のすぐ隣にある前記ガイド装置の領域には、移植細胞および/または組織を前記インプラント内で可能な限り深く配置することを確実にしながらも注射器があまりに深く入ることを防ぐ下にある空隙のおおよその深度についての詳しい情報が刻印または型押しされている。
【0115】
ガイド装置のガイドホールが空間占拠構造体の除去時に生じた空所と「空間的および角度的に合う」と本出願によって述べられる場合、これは、そのガイド装置が移植部位上で適切な位置および配向になった場合にそのガイドホールが前記空所の延長部を空間的に形成するように前記空所と一列に並ぶ(すなわち、そのガイドホールとその空所が連続するトンネルを形成する)ような位置と配向をそのガイドホールがそのガイド装置内に有していることを意味する。そのガイドホールのこのような構成は、そのガイドホールを介して挿入される中空針が前記空所に到達し得ることを確実にする。
【0116】
前記ガイド装置はそのガイド装置の適切な位置取りのための器具(すなわち、そのガイド装置内のガイドホールとそのインプラント内の空所が一列に並ぶように移植部位におけるそのガイド装置の位置取りを可能にする要素)を含んでなることが好ましい。前記要素は、例えば、そのインプラント内の対応するくぼみに適合する1つ以上の三次元延長部を含んでなり得、またはそのような三次元延長部からなり得、そうして移植部位における前記ガイド装置の明確で適切な配置および配向を確保するための誘導を提供する。
【0117】
前記ガイドホールは前記ガイド装置を完全に貫通していることが好ましい。
【0118】
幾つかの実施形態において、前記ガイド装置は円錐形である。前記ガイドホールは円錐の先端から基部まで前記円錐形のガイド装置を貫いて伸長することが好ましい。前記ガイドホールは、各ガイドホールが空所の延長部を空間的に形成するように(そのガイドホールとその空所が連続するトンネルを形成するように)前記ガイド装置の適切な位置取りによって前記ガイドホールが前記インプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所と一列に並ぶような位置と配向を前記ガイド装置内に有することが好ましい。そのガイド装置およびそれらのガイドホールのこのような構成は、その円錐形のガイド装置の先端部にある開口部を介して挿入される中空針がそのインプラント内の各空所に到達し得ることを確実にする。それらのガイドホールは真っ直ぐでも曲がっていてもよい。曲がったガイドホールを介した移植細胞の注入には柔軟なプラスチック製のカニューレが使用され得る。
【0119】
前記ガイド装置は空所の方向および/または深度、および/または必要な注入(または脂肪配置)の数についてのフィードバックを返すことが好ましい。
【0120】
インプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所に移植細胞を導入する手技の間に前記ガイド装置を使用するため、そのインプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に、そのインプラントが移植された部位の上に(すなわち、空所を含むそのインプラントの上を覆う皮膚の上に)そのガイド装置が配置される。そのガイド装置は円錐形であり得、その円錐形のガイド装置の先端から基部までそのガイド装置を貫いて伸長するガイドホールであって、そのガイド装置の適切な位置取りによって各々そのインプラント内で空所の延長部を空間的に形成するように角度が調整された前記ガイドホールを有する。そのガイド装置の適切な位置取りは差し込み機構によって確実にされ得る。すなわち、そのガイド装置は、例えば、その円錐形のガイド装置の基部から伸長する1つ以上の延長部を含んでなることができ、そのインプラントは対応する空洞を有し、そしてそのガイド装置の適切で明確な配置および配向をそれらの空洞へのそれらの延長部の挿入によって可能にすることがそれらの延長部/空洞の形状(例えば不等辺三角形の形状)、または異なる延長部/空洞の相互に対する配向のどちらかによって確実になる。それらの移植細胞は、例えば、先端で中空針に接続された注射器、または柔軟なプラスチック製のカニューレによって前記インプラント内の空所に導入され得る。その中空針はその円錐形のガイド装置の先端部にある開口部を介して挿入される。その中空針自体は前記ガイドホールに入るほど充分に細いが、その注射器は太すぎ、したがってその注射器がそれらのガイドホールの中に入ることが妨げられている。それらのガイドホールの特定の角度の配向のため、前記空所に中空針を挿入するための最適な角度が外科医に知られていることがそれらのガイドホールによって確実になる。また、それぞれのガイドホールの長さとそのガイドホールと一列に並ぶ空所の長さを併せた長さの少し下の長さを有する中空針を使用することにより、そのガイドホールを介したその空所へのその中空針の挿入時にその中空針がその空所の底に触れずにその空所の底の近くにまで達することが確実になり得る。そうしてそのガイド装置は、空所への移植細胞の導入のためにどの配向でどれ位深く中空針を挿入するべきかについて外科医にフィードバックを返す。
【0121】
第7の態様において本発明は、患者の身体における組織再建のための方法であって、次のステップ、すなわち、
a)生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントを計画された組織再建の部位において前記患者の前記身体に移植するステップ、
b)結合組織および/または宿主血管系が前記三次元スキャフォールド構造体に進入すること、および/または移植時に前記三次元スキャフォールド構造体によって占拠されていた空間に侵入することを可能にするために充分な期間の後、好ましくは6〜8週間後に移植細胞を計画された組織再建の部位に導入するステップ
を順番に含んでなる前記方法に関する。
【0122】
ステップa)において移植される前記インプラントの前記三次元スキャフォールド構造体は空隙を含んでいないことが好ましい。
【0123】
前記患者、前記インプラント、前記スキャフォールド構造体、前記生分解性材料、前記移植細胞および前記空隙は上記または下記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている通りであることが好ましい。
【0124】
第8の態様において本発明は、患者の身体における組織再建のための方法であって、次のステップ、すなわち、
a)三次元スキャフォールド構造体、好ましくは生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントであって、前記三次元スキャフォールド構造体が空隙を含んでなり、そして除去可能であるように前記三次元スキャフォールド構造体に取り付けられており、且つ、前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている空間占拠構造体で前記空隙が充填されている前記インプラントを計画された組織再建の部位において前記患者の前記身体に移植するステップ、
b)結合組織および/または宿主血管系が前記スキャフォールド構造体に進入すること、および/または前記三次元スキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合では移植時に前記生分解性スキャフォールド構造体によって占拠されていた空間に侵入することを可能にするために充分な期間の後に前記(生分解性)スキャフォールド構造体内の前記空隙から(または培養期間の間に前記生分解性スキャフォールド構造体に置き換わった組織から)前記空間占拠構造体を除去し、そうして空間占拠構造体で充填されていない空所を形成するステップ、
c)ステップb)において形成された空間占拠構造体で充填されていない前記空所に移植細胞を導入するステップ
を順番に含んでなる前記方法に関する。
【0125】
前記インプラント、前記三次元スキャフォールド構造体、前記生分解性材料、前記空隙、前記空間占拠構造体および前記除去可能な取り付けは上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている通りであることが好ましい。
【0126】
前記培養期間は4〜12週間の範囲内であることが好ましく、より好ましくは6〜8週間の範囲内である。
【0127】
前記患者は組織再建を必要とする患者であることが好ましい。
【0128】
幾つかの実施形態において、前記患者は哺乳類動物、好ましくはヒトである。
【0129】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞である。当業者が理解するように、注入した細胞に対する免疫反応を回避するためにそれらの注入細胞は好ましくは患者と同じ種の細胞であるべきであり、患者の免疫系による(強い)拒絶反応を回避するために好ましくはその患者の細胞と遺伝的に充分に近い細胞であるべきである。
【0130】
本明細書において使用される場合、「移植細胞」という用語は組織再建が望まれる部位での組織再建のために導入される所望の細胞型の細胞(または幾つかの異なる所望の細胞型の細胞の組合せ)を指す。上で記載されたように、本発明の背景において移植細胞は空間占拠構造体の除去時に生じた空所にそれらの移植細胞を導入することにより組織再建部位に送達されることが典型的である。移植細胞は幹細胞(多能性または単能性)、始原細胞(前駆細胞とも呼ばれる)または(完全)分化細胞であり得る。その用語には個々の細胞(すなわち、物理的に相互結合していない細胞)および物理的に相互結合している細胞群(組織内に配置されている細胞など)が含まれる。幾つかの実施形態において、その用語は個々の細胞を指すだけであり、物理的に相互結合している細胞群を指さない。幾つかの実施形態において、その用語は物理的に相互結合している細胞群を指すだけであり、個々の細胞を指さない。移植細胞は同じ個体の身体内の異なる部位から移植される細胞か、または患者とは異なる個体の身体から移植される細胞のどちらかであり得、または移植細胞は生物の外側で作製された細胞、例えば細胞/組織培養系において作製された細胞であり得る。
【0131】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は分化細胞である。本明細書において使用される場合、「分化細胞」という用語は特殊な機能および形態を有する細胞(例えば、脂肪細胞、筋肉細胞等)を指す。分化細胞は幹細胞能を有さず、したがって自己新生とさらなる分化の能力を欠いている。分化細胞の例には表皮細胞、膵臓実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、スキャフォールド筋細胞、骨細胞、筋細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞等が含まれる。
【0132】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は心筋細胞、膵臓由来の細胞、または軟骨細胞である。
【0133】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は脂肪吸引によって得られた細胞の混合物である。脂肪吸引によって得られた細胞の混合物は次のように調製され、再建部位に導入され得る。まず、脂肪を得る予定の部位に非常に小さな切開を入れ、複数の穿孔を有する先の鈍い針と特別な吸引器を使用して脂肪を吸引する。この脂肪を濾過して脂肪細胞から血液、油および局所麻酔薬を分離する。それらの細胞が導入される部位に最少量の局所麻酔薬を注入し、その後で非常に細いカニューレを使用して脂肪細胞を注入する。非常に少量の脂肪だけがそのカニューレを通過するごとに注入される。この様に、移植された脂肪は周囲の組織と接し、したがって栄養血管まで最小の距離にある。この様にして脂肪移植物の生存が最大化される。
【0134】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前駆細胞である。本明細書において使用される場合、「前駆細胞」はある特定の細胞型にさらに分化する能力を有する、または特定の機能を実行する性質を獲得する能力を有する未分化細胞または部分的分化細胞を指す。したがって、その用語は特定の細胞系譜の前駆体である単能性の未分化細胞または部分的分化細胞を指す。前駆細胞の例は胸腺細胞、巨核芽球、前巨核球、リンパ芽球、骨髄前駆細胞、正常赤芽球、血管芽細胞(内皮前駆細胞)、骨芽細胞、スキャフォールド筋芽細胞、骨髄系前駆細胞、筋肉に見られる衛星細胞、および神経前駆TA細胞(transit amplifying neural progenitor)である。
【0135】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は脂肪組織由来前駆細胞(APC)、骨髄由来前駆細胞、骨膜由来始原細胞および臍帯由来前駆細胞である。
【0136】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは組織再建用のインプラントであり、前記移植細胞は再建される組織の細胞、または再建される組織の細胞の前駆細胞である。
【0137】
本発明において使用される移植細胞は前記患者に関して自家起源(自己起源)の細胞でも前記患者に関して異種起源(非自己起源)の細胞でもよい。免疫拒絶反応の可能性を考慮すると自家起源の細胞が好ましい。拒絶反応が問題を引き起こさない場合、異種起源の細胞を用いてもよい。
【0138】
前記移植細胞は同一遺伝子型(遺伝的に同一)でも異質遺伝子型(遺伝的に異なっている)でもよい。免疫拒絶反応を考慮すると同一遺伝子型細胞が好ましい。拒絶反応が問題を引き起こさない場合、異質遺伝子型細胞、好ましくは移植を可能にするほど遺伝的にまだ充分に同一であり、免疫学的に適合性がある(すなわち、強い免疫学的拒絶反応が起こらない)異質遺伝子型細胞を用いてよい。
【0139】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者の免疫系によって拒絶されないように選択される。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関しての自家細胞である。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者の細胞または前記患者に由来する細胞である。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関して同一遺伝子型である。
【0140】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関しての異種細胞である。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関して異質遺伝子型である。
【0141】
第9の態様において本発明は、患者の身体から空間占拠構造体を除去する方法であって、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントの一部である空間占拠構造体として前記空間占拠構造体が前記患者の身体に導入された前記方法であり、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている除去ツールを使用する前記空間占拠構造体の除去を伴う前記方法に関する。
【0142】
第10の態様において本発明は、患者の身体から強磁性または超常磁性の空間占拠構造体を除去する方法であって、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントの一部である空間占拠構造体として前記強磁性または超常磁性の空間占拠構造体が前記患者の身体に導入された前記方法であり、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている除去装置を使用する前記空間占拠構造体の除去を伴う前記方法に関する。
【0143】
次に添付図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0144】
図1】本発明によるインプラントが乳房インプラントである本発明の2つの例となる実施形態を示す図である。(A)空隙が相互接続されており、且つ、1つの起点から放射状に伸びる収束的幾何的配向で配置されている本発明による乳房インプラントの例。(B)空隙が相互接続されておらず、且つ、非収束的幾何的配向で(この事例では平行的幾何的配向で)配置されている本発明による乳房インプラントの例。
図2】前記インプラントが乳房インプラントである本発明の実施形態、ならびにそのようなインプラントの使用中のステップの図解を示す図である。(A)空隙が相互接続されておらず、且つ、平行に(すなわち、非収束的幾何的配向で)配置されている本発明による乳房インプラントの斜視図(左)および側面図(右)。(B)この事例では特殊な除去ツールを使用したインプラントからの空間占拠構造体の型抜き(左)とその後の撤去(右)による、前記インプラントからの前記空間占拠構造体の除去。(C)この事例では注射器を使用する注入による脂肪充填(すなわち、脂肪組織の導入)による、空間占拠構造体で充填されていない生じた空所への移植細胞の導入。左:注射器を注入部位と接触させているところ。右:空隙に脂肪組織を充填したところ。
図3A】この事例では収束的配置で相互接続されている空隙を有し、押し潰し可能な空間占拠構造体で充填されている乳房インプラントである本発明によるインプラントの調製とその使用の例となる図である。(A、B)空間占拠構造体が液体またはヒドロゲルで充填される(A:初期状態;B:最終状態)。
図3B】この事例では収束的配置で相互接続されている空隙を有し、押し潰し可能な空間占拠構造体で充填されている乳房インプラントである本発明によるインプラントの調製とその使用の例となる図である。(A、B)空間占拠構造体が液体またはヒドロゲルで充填される(A:初期状態;B:最終状態)。
図3C】この事例では収束的配置で相互接続されている空隙を有し、押し潰し可能な空間占拠構造体で充填されている乳房インプラントである本発明によるインプラントの調製とその使用の例となる図である。(C)前記インプラントが所望の乳房再建部位において患者の身体に移植されたところ。
図3D】この事例では収束的配置で相互接続されている空隙を有し、押し潰し可能な空間占拠構造体で充填されている乳房インプラントである本発明によるインプラントの調製とその使用の例となる図である。(D、E)注射器を使用する吸引による押し潰し可能な空間占拠構造体からの液体またはヒドロゲルの除去(D:初期状態;E:最終状態)であり、それによって前記空間占拠構造体が潰れることになり、その後の前記空間占拠構造体の除去が促進される。
図3E】この事例では収束的配置で相互接続されている空隙を有し、押し潰し可能な空間占拠構造体で充填されている乳房インプラントである本発明によるインプラントの調製とその使用の例となる図である。(D、E)注射器を使用する吸引による押し潰し可能な空間占拠構造体からの液体またはヒドロゲルの除去(D:初期状態;E:最終状態)であり、それによって前記空間占拠構造体が潰れることになり、その後の前記空間占拠構造体の除去が促進される。
図3F】この事例では収束的配置で相互接続されている空隙を有し、押し潰し可能な空間占拠構造体で充填されている乳房インプラントである本発明によるインプラントの調製とその使用の例となる図である。(F、G)空間占拠構造体で充填されていない空所への移植細胞(この事例では患者内のドナー部位から単離された脂肪)の注入(F:初期状態;G:最終状態)。
図3G】この事例では収束的配置で相互接続されている空隙を有し、押し潰し可能な空間占拠構造体で充填されている乳房インプラントである本発明によるインプラントの調製とその使用の例となる図である。(F、G)空間占拠構造体で充填されていない空所への移植細胞(この事例では患者内のドナー部位から単離された脂肪)の注入(F:初期状態;G:最終状態)。
図4】乳房インプラントのスキャフォールドの例としての形状記憶ポリマーからできているインプラントの仕組みを示す図である。(A)形状記憶ポリマーからできている完全に形成された乳房インプラントスキャフォールド(その完全に形成された形状は、前記インプラントが37℃の「トリガー温度」に達したときに戻ることになる元の恒久的形状である)。(B)室温におけるSMP材料からできている乳房インプラントスキャフォールドの変形したディスク様形状の側面図。
図5】形状記憶ポリマーからできている乳房インプラントスキャフォールドの移植時の様々なステージの図解を示す図である。(A)再建部位において移植前(左)および移植時(右)に前記スキャフォールドは室温で採ることができる変形したディスク様形状で存在する。(B)体温(37℃)に達すると前記スキャフォールドはその元の恒久的形状、すなわち、乳房インプラントの完全に形成された形状に戻る。
図6】本発明によるインプラントからの強磁性または超常磁性の空間占拠構造体の除去のための除去装置の実施形態を斜視側面図(A)および斜視底面図(B)において示す図である。
図7】インプラントのスキャフォールドにおいて一般的に使用されている従来の設置パターンの構成原理を示す図である。
図8】本発明に従って三次元インプラントスキャフォールドの形成に使用され得る様々なタイプの棒の例を示す図である。(A)真っ直ぐな棒。(B、C)規則的なジグザグ構造を有する棒の例。(D、E)波形構造を有する棒の例。
図9A】本発明によるインプラントの三次元スキャフォールド向けの様々な設置パターンを示す図である。
図9B】本発明によるインプラントの三次元スキャフォールド向けの様々な設置パターンを示す図である。
図9C】本発明によるインプラントの三次元スキャフォールド向けの様々な設置パターンを示す図である。
図9D】本発明によるインプラントの三次元スキャフォールド向けの様々な設置パターンを示す図である。
図10】ずれが無い従来の設置パターンを有する三次元スキャフォールド(A)および一つ置きに層がある特定の距離だけずれている本発明による例となる設置パターンを有する三次元スキャフォールド(B)の側面図を示す図である。
図11】(A)真っ直ぐな棒を有する従来の三次元スキャフォールド、(B)波形構造を有する棒を有する本発明による三次元スキャフォールド、(C)ずれが無い従来の三次元スキャフォールド、および(D)ずれが有る本発明による三次元スキャフォールドの応力ひずみ曲線を示す図である。
図12】本発明の第7の態様による患者の身体における組織再建のための方法の原理を示し、予備血管網形成と時間遅延脂肪注入の全体的な考えを表す図である。どんな細胞または成長因子も添加せずに中身のないスキャフォールドを最初に乳房領域に移植する。例えば次の2〜3週間にわたってそのスキャフォールド体積の内部に結合組織および血管系が侵入し、それらの細孔の中で毛細管床を形成する。その後、そのスキャフォールドの細孔に脂肪を注入する。予備形成された血管床の存在のため、その脂肪は移植部位で安定なままでいられることになる。
図13】(A)支柱、細孔および細孔連結部を示す実施例1において使用されるスキャフォールドの走査電子顕微鏡写真を示す図である。(B〜F)実施例1に記載されるスキャフォールドの移植過程。(B)腹部正中線切開部近傍での脂肪吸引術。(C、D)吸引脂肪組織のみの群において配置されたスキャフォールドの細孔への脂肪の注入過程。(C)は中身のないスキャフォールドを示しており、一方で(D)は完全に充填されたスキャフォールドを示している。(E)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群のスキャフォールドへの脂肪の注入過程を示している。それらのスキャフォールドを空のまま移植部位に配置し、2週間後にスキャフォールドを移植したままスキャフォールド細孔に脂肪を注入する。(F)前記スキャフォールドの最終形態は自然の乳房の形状によく一致する。使用されたスキャフォールドの物理的および機械的特性が下の表1に示されている。
図14】TEC(組織再生材料)の宿主組織との統合を示している下に記載される実施例1から撮られた説明的画像を示す図である。パネルA中の矢印はそのTECに血液を供給する大血管を指し示している。(D、G)は中身のないスキャフォールドのみの群を示しており、(E、H)は吸引脂肪組織のみの群を示しており、(F、I)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示している。全てのスキャフォールドが宿主組織との良好な統合を示しており、大きな脂肪領域(+で印されている)と大きな血管網形成領域(¶で印されている)が全てのスキャフォールドにおいて定性観察された。
図15】(左)実施例1の中身のないスキャフォールドの群(表層)から外植された組織のHE染色を示す代表的画像を示している。その組織の大部分がほんの僅かな脂肪組織を含む結合組織およびコラーゲンであると特定され得る。(右)実施例1の中身のないスキャフォールドの群(深層)から外植された組織のHE染色を示す代表的画像を示している。脂肪組織はその構成体の周縁に見られるだけであり、そのスキャフォールドの中央領域では見られない。リンパ構造体(右のパネル、矢印で印されている)も全ての群において主にスキャフォールドストランド近傍に位置することが観察された。
図16】(左)実施例1の吸引脂肪組織のみの群(表層)のHE染色切片を示している。全体として、中身のないスキャフォールドの群と比較してより高い組織領域全体に対する脂肪組織のパーセンテージがこの群において観察された。(右)実施例1の吸引脂肪組織のみの群(深層)のHE染色切片を示している。前記スキャフォールドの層が深くなるほどより少ない相対的脂肪組織面積とより低い程度の血管網形成を示した。
図17】(左)実施例1の予備血管網形成+吸引脂肪組織の群(表層)のHE染色切片を示している。この群は結合組織間に散在する脂肪組織の最高度の蓄積度を示した。組織形態も自然の組織との類似性を示した。(右)実施例1の予備血管網形成+吸引脂肪組織の群(深層)のHE染色切片を示している。脂肪組織面積は他の全ての群の間で最高であった。脂肪組織領域はより好適に相互接続されているように見え、相互接続構造体を形成した。
図18】非特異的な副次的肉芽腫性反応を示すスキャフォールドストランドの周りの領域の代表的なHE染色顕微鏡写真を示す図である。(A)は中身のないスキャフォールドのみの群を示しており、(B)は吸引脂肪組織のみの群を示しており、(C)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示している。矢頭はマクロファージを指し示している。
図19A】実施例1から得られたマッソントリクローム染色組織切片の代表的画像を示す図である。マッソントリクローム染色では緑色がコラーゲン線維を示し、赤色が筋線維を示し、濃褐色が細胞核を示す。(A、D)は中身のないスキャフォールドの群を示しており、(B、E)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示しており、(C、F)は吸引脂肪組織のみの群を示している。そのインプラントの細孔を充填する組織の大部分が脂肪組織の他には結合組織から構成された。平滑筋組織もそのスキャフォールドのストランドを裏打ちしていることが検出された。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合ではこれらの平滑筋層は最高の厚みを有した。
図19B】実施例1から得られたマッソントリクローム染色組織切片の代表的画像を示す図である。マッソントリクローム染色では緑色がコラーゲン線維を示し、赤色が筋線維を示し、濃褐色が細胞核を示す。(A、D)は中身のないスキャフォールドの群を示しており、(B、E)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示しており、(C、F)は吸引脂肪組織のみの群を示している。そのインプラントの細孔を充填する組織の大部分が脂肪組織の他には結合組織から構成された。平滑筋組織もそのスキャフォールドのストランドを裏打ちしていることが検出された。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合ではこれらの平滑筋層は最高の厚みを有した。
図19C】実施例1から得られたマッソントリクローム染色組織切片の代表的画像を示す図である。マッソントリクローム染色では緑色がコラーゲン線維を示し、赤色が筋線維を示し、濃褐色が細胞核を示す。(A、D)は中身のないスキャフォールドの群を示しており、(B、E)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示しており、(C、F)は吸引脂肪組織のみの群を示している。そのインプラントの細孔を充填する組織の大部分が脂肪組織の他には結合組織から構成された。平滑筋組織もそのスキャフォールドのストランドを裏打ちしていることが検出された。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合ではこれらの平滑筋層は最高の厚みを有した。
図19D】実施例1から得られたマッソントリクローム染色組織切片の代表的画像を示す図である。マッソントリクローム染色では緑色がコラーゲン線維を示し、赤色が筋線維を示し、濃褐色が細胞核を示す。(A、D)は中身のないスキャフォールドの群を示しており、(B、E)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示しており、(C、F)は吸引脂肪組織のみの群を示している。そのインプラントの細孔を充填する組織の大部分が脂肪組織の他には結合組織から構成された。平滑筋組織もそのスキャフォールドのストランドを裏打ちしていることが検出された。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合ではこれらの平滑筋層は最高の厚みを有した。
図19E】実施例1から得られたマッソントリクローム染色組織切片の代表的画像を示す図である。マッソントリクローム染色では緑色がコラーゲン線維を示し、赤色が筋線維を示し、濃褐色が細胞核を示す。(A、D)は中身のないスキャフォールドの群を示しており、(B、E)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示しており、(C、F)は吸引脂肪組織のみの群を示している。そのインプラントの細孔を充填する組織の大部分が脂肪組織の他には結合組織から構成された。平滑筋組織もそのスキャフォールドのストランドを裏打ちしていることが検出された。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合ではこれらの平滑筋層は最高の厚みを有した。
図19F】実施例1から得られたマッソントリクローム染色組織切片の代表的画像を示す図である。マッソントリクローム染色では緑色がコラーゲン線維を示し、赤色が筋線維を示し、濃褐色が細胞核を示す。(A、D)は中身のないスキャフォールドの群を示しており、(B、E)は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群を示しており、(C、F)は吸引脂肪組織のみの群を示している。そのインプラントの細孔を充填する組織の大部分が脂肪組織の他には結合組織から構成された。平滑筋組織もそのスキャフォールドのストランドを裏打ちしていることが検出された。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合ではこれらの平滑筋層は最高の厚みを有した。
図19G】(G)総組織面積と比較した脂肪組織面積を24週間にわたって示す棒グラフ。陰性対照であるスキャフォールドのみの群は最も少ない相対的脂肪組織面積(8.31%±8.94)を有し、それは吸引脂肪組織のみの群(39.67%±2.04)と予備血管網形成+吸引脂肪組織の群(47.32%±4.12)の両方よりも有意に少なく、自然の乳房組織(44.97%±14.12)と比較しても有意に少なかった(それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.01)。自然の乳房組織、吸引脂肪組織のみの群、および予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の間では相対的脂肪組織面積に統計学的有意差が観察されなかった。
図19H】(H)様々な群の組織切片における血管密度を示すグラフ。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群において最高の血管密度(38.01/mm±2.02)が観察された。しかしながら、その密度はスキャフォールドのみの群(33.13/mm±12.03)、吸引脂肪組織のみの群(26.67/mm±1.6)、または対照乳房組織(35.45/mm±1.93)よりも統計学的に有意に高くなかった。
図19I】(I)細胞表面積に応じた脂肪細胞の分布を示すヒストグラム。全ての群においてヒストグラムは右に向かって傾斜しており、脂肪細胞表面積の大部分が100〜700μmの範囲内にあることを示唆した。対照乳房組織における細胞サイズの分布は他の群と比較してかなり異なっており、最も高いパーセンテージの細胞は100〜200、300〜400、および500〜600μmの範囲内であった。中身のないスキャフォールドの群および吸引脂肪組織のみの群では800μmよりも大きな表面積を有する脂肪細胞の数が少なく、しかしながら予備血管網形成+吸引脂肪組織の群では1000μmよりも大きな表面積を有するかなり大きな数の細胞のより均一な分布が観察された。
図19J】(J)様々な群における24週目での組織組成を示す積み上げ棒グラフ。中身のないスキャフォールドの群のTECは推定4.99cm(±2.71)の脂肪組織を含み、吸引脂肪組織のみの群のTECは推定23.85cm(±1.22)の脂肪組織を含み、一方で予備血管網形成+吸引脂肪組織の群のTECは推定28.391cm(±2.48)の脂肪組織を含んだ。
図19K】(K)吸引脂肪組織のみの群および予備血管網形成+吸引脂肪組織の群における初期注入吸引脂肪組織体積(4cm)と比較した脂肪組織体積の推定増加倍率を示す棒グラフ。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群は吸引脂肪組織のみの群(4.95±0.31)と比較して高い脂肪組織体積の増加倍率(6.1±0.62)を有したが、しかしながらその差は統計学的に有意ではなかった(p=0.143)。
図20】非処置対照乳房組織(健康な乳房組織、スキャフォールド移植または吸引脂肪組織負荷が行われていない)のHE染色切片を示す図である。
図21】空隙と空間占拠構造体を含む乳房型のスキャフォールド製品、およびそれらの空間占拠構造体の除去を示す図である。(A)黒色の染料と共にポリ乳酸からできている多孔性が低い固い領域(すなわち空間占拠構造体、図21Aにおいて黒色の点として見られる)を含む生分解性ポリ乳酸(図21中の白色の材料)からできている乳房型のスキャフォールド製品。それらの空間占拠構造体は基本的に0%の多孔性を有し、且つ、スキャフォールドの本体と緩く結合した(本体と空間占拠構造体との間のギャップが0.4mm)。(B)多孔性が低く、且つ、機械的に完全な領域を型抜くために(すなわち、スキャフォールドから空間占拠構造体を除去するために)切断ツールを使用する。例示目的のために図21Bは患者の身体の外でのスキャフォールドの除去手技を示しており、空間占拠構造体を型抜きする同じ手技が身体に移植されたスキャフォールドに対しても用いられる。(C)低多孔性領域(円によって強調されている)の除去によって残された空所を脂肪充填に使用することができる。
図22】(上)空所(移植無し)を含むスキャフォールド(左)と空所に注入された脂肪組織を含むスキャフォールド(右)の写真画像を示している。(下)ミニブタへの移植から6か月後に外植されたスキャフォールドのヘマトキシリンおよびエオシン染色された切片。上部左側の挿入図は脂肪組織(脂肪組織が円で囲まれている)で充填された無作為に選択された空隙の周りの領域の切取り部分を示している。その組織学切片の対応する領域も円で囲まれており、注入部位においてよく血管網形成された、壊死の兆候の無い健康な脂肪組織を示している。
【発明を実施するための形態】
【0145】
本発明の原理の理解の促進を目的として、次に好ましい実施形態を参照し、且つ、具体的な言葉を使用してそれらの実施形態を説明する。しかし、それによって本発明の範囲が限定されることはなく、本発明が関連する分野の当業者なら現時点または将来において通常思いつくように、そこで例示された装置および方法の変更およびさらなる修正、ならびにそこで例示された本発明の原理のさらなる応用が企図されていることが理解される。
【0146】
また、本発明の1つの態様に関して記載された特徴および利点は本発明の他の態様にも含まれる場合があり得ることが理解されるものとする。
【0147】
図1は本発明によるインプラントの2つの例となる実施形態を示している。表示されている両方の実施形態が、生分解性材料または非生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体より全体の形が形成されている乳房インプラントである。図1に見られるように、両方の実施形態において前記三次元スキャフォールド構造体は空間占拠構造体で充填されている空隙を含んでなる。
【0148】
図1Aの実施形態において、空隙は相互接続されており、且つ、1つの起点から放射状に伸びる収束的幾何的配向で配置されている。空隙構造の起点を介した(図示されているようにそのインプラントの先端からの)入場により、例えば空間占拠構造体の除去後に移植細胞を導入するためにその空隙構造の全ての空隙へのアクセスが可能になる。また、この配置は押し潰し可能な空間占拠構造体を含むインプラントの調製時に一か所のアクセスポイントを介して押し潰し可能な空間占拠構造体に液体またはヒドロゲルを充填すること、一か所のアクセスポイントを介して押し潰し可能な空間占拠構造体からその液体またはヒドロゲルを吸引すること、またはその起点における単一の切開傷を介してそれらの空間占拠構造体を除去することも可能にし得る。したがって、幾つかの態様ではこの配置はそのインプラントの使用のために実施されるステップを簡単にすること、および外科的手技の間に患者に課される創傷部を最小限にすることを可能にする。
【0149】
図1Aの特定の実施形態は、外科医が液体またはヒドロゲルを吸引し、空間占拠構造体が潰れた後で全空間占拠構造集合体を取り除くために外科医が使用し得る「ハンドル」(インプラントの先端部に示されている)をさらに含んでいる。そのハンドルは外科医がスキャフォールドおよび患者の身体からその押し潰された集合体を持ち上げるのに役立つ。図1Aに示されている概念化形状以外のハンドルの形状も企図されている。
【0150】
図1Bの実施形態において、インプラント内の空隙は相互接続されておらず、スキャフォールドの1本の軸に沿って平行に配置されている(すなわち、非収束的幾何的配向で配置されている)。そのような配置は空間占拠構造体の除去または移植細胞の導入のために複数のアクセストンネルを必要としながらも、各空間占拠構造体に直接的にアクセスすることができ、且つ、各空間占拠構造体が皮膚表面の直下にあるので、そのような配置は空間占拠構造体の除去を技術的に簡単にする。
【0151】
図1に示される実施形態において示されている空隙の配置は単に例示であり、空隙の多様な他の配置(収束的な配置、非収束的な配置、またはそれらの組合せ)も本発明の範囲内にあることが理解されるものとする。また、当業者が理解するように、図1(および他の図の幾つか)に示されている乳房インプラントは例でしかなく、本発明は身体の他の部分または組織の再建、例えば前十字靭帯断裂後の再建、頭蓋顔面再建、顎顔面再建、複雑な下顎矯正手術、黒色腫または頭頚部癌の除去後の組織再建、胸壁再建、火傷跡再建等のためのインプラントにも関する。当然、そのようなインプラントは示されている乳房インプラントとそれらの構造、形状、および特性について異なっており、それでも本発明の原理に従って構築および使用されるが、必要とされる目的に特異的に適合することになる。
【0152】
図2は、生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなる乳房インプラントの例について示されている、本発明によるインプラントの使用時に実施される個々のステップを示している。その使用されるインプラントの例となる実施形態において、空隙は相互接続されておらず、且つ、平行に配置されている、すなわち、非収束的幾何的配向で配置されている(図2A)。図2において示されている例では固形空間占拠構造体が使用されているが、上記発明の実施形態において規定されているように他の種類の空間占拠構造体も同様に可能である。
【0153】
乳房再建または豊胸のために前記インプラントは所望の部位に外科的に移植される。数週間の培養(6〜8週間など)の後に生分解性スキャフォールド材料が部分的に分解され、結合組織および宿主血管系がそのスキャフォールド構造体、およびスキャフォールド構造体の分解のために現れた空間の中に進入することになる。この時点でそれらの固形空間占拠構造体が外科的に除去される。図2Bに示されているように、これは本発明による特殊な除去ツールによって実現され得る。
【0154】
図2Bに示されている実施形態によると、その除去ツールはその遠位末端にブレードを取り付けるためのグリップを有する。そのブレードは円形の形状を有する生検パンチブレードとしてデザインされている。その生検パンチブレードを介した瘢痕形成を減少させるために空間占拠構造体の上を覆う皮膚および組織に小さな直線状の切開を入れ、それを介して前記除去ツールのブレードを挿入する。その円形のブレードの形とサイズはそれらの空間占拠構造体の横断面の丸い形と直径を反映している。したがって、正確に位置取りしてその除去ツールを適用することによって空間占拠構造体を正確に切除することが可能になる(図2B、左;図2の描写は取り出されたインプラントでの図示的ステップを示す模式図であることに留意されたい。実際にはインプラントは図2Bの除去ステップと図2Cの移植細胞導入ステップの時には当然患者の体内に位置する)。前記除去ツールは切除された空間占拠構造体の把持を可能にする器具(図2Bの描写では見えない)をさらに含む。切除された空間占拠構造体を把持するとその除去ツールは撤去され、そうして切除された空間占拠構造体が除去され、以前には空間占拠構造体で充填されていた空所であって(図2B、右)、その空間占拠構造体が以前に占拠していたために侵入した結合組織および血管系が無い空所が後に残る。その後、それらの空間占拠構造体は前記インプラントのその他の空隙からも除去される。
【0155】
後続のステップとして、移植細胞、すなわち、組織再建のために移植される予定の所望の細胞型の細胞(分化細胞または前駆細胞)がこの空所に移植される。図2に示されているような乳房インプラントの場合では、それらの移植細胞は、注射器を使用してその空所に注入を受ける同じ患者のドナー部位から得られた脂肪組織であり得る。図2の例ではそれらの空隙は平行配置で配置されており、且つ、相互接続されていないので、空所毎に別々に個別の注入を実施しなくてはならない。
【0156】
本発明によるインプラントおよび上で例示されたそれらのインプラントの使用により、移植細胞が導入される予備形成された結合組織血管床が作製される。そうしてそれらの導入された細胞の移植部位との安定した結合、それらの移植された細胞への酸素と代謝物の最適な供給、および最小限の壊死と再吸収が実現される。同時に、前記インプラントの中に空隙と空間占拠構造体を含むことにより、それらの空間占拠構造体が除去されたときに適切な量の移植細胞を予備形成された血管網形成した結合組織床に導入するために充分な空間が存在することが確実になる。
【0157】
図3は本発明によるインプラントの調製とその使用の別の例を提供している。図2に記載されている実施形態と対照的に、図3は収束的配置で相互接続されている空隙を有する乳房インプラントの使用を示している(図3A、B)。また、図2が固形空間占拠構造体を含むインプラントを示している一方で、図3のインプラントの空間占拠構造体は液体またはヒドロゲルで充填されたシースからなり、したがって押し潰し可能である。そのシースはその液体またはヒドロゲルに対して不浸透性である生体適合性高分子材料から構成されている。
【0158】
前記インプラントはチューブ形状のシースを含む空隙を含んで作製され、そのシースは後に液体またはヒドロゲルで充填される(図3A、B)。図3の実施形態において、それらの空隙は(および空間占拠構造体も)相互接続されているので、一か所のアクセスポイントを介して全ての空間占拠構造体を液体またはヒドロゲルで充填することができ、その後でそれらを密封する。
【0159】
その後、前記インプラントは計画された組織再建の部位に移植され、図3の実施形態において、乳房再建/豊胸が望まれる患者の乳房の領域に移植される(図3C)。移植されるとその移植部位は数週間にわたって治癒される。この間に結合組織および血管がそのインプラントに侵入し、そのインプラントが生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなる場合ではそのインプラントは同時に徐々に分解される。
【0160】
6〜8週間後に空間占拠構造体内の液体が除去され、図3の例となる手順では空間占拠構造体に穴を開け、注射器を使用してその液体を吸引することによってその液体が除去される(図3D、E)。それらの空隙および空間占拠構造体は相互接続されているので、収束的な空隙系の起点にある一か所のアクセスポイントを介してそれらの空間占拠構造体から液体またはヒドロゲルの全量を除去することができる。その液体またはヒドロゲルの除去時にその空間占拠構造体は潰れて高分子材料の空のシースになる。
【0161】
図2Bに示されている特殊な除去ツールは特に固形空間占拠構造体の除去に有用である一方で、図3に示されている実施形態の押し潰し可能な空間占拠構造体は、液体/ヒドロゲルの吸引後に単に相互接続されている空間占拠構造体を収束的な空隙系の起点において外科用ピンセットで把持し、それらの空間占拠構造体を移植部位から撤去することによって除去され得る。使用される空間占拠構造体が薬品タクロリムスを含む被覆材(図3の実施形態では示されていない)などの組織および細胞の侵入を拒絶する表面被覆を有する場合、空間占拠構造体の除去はさらに簡略化され、除去時の付随的な組織損傷が減少する。
【0162】
空間占拠構造体が除去されると移植細胞(図3に示される乳房再建の場合では患者の身体の異なる部位から単離された脂肪組織)が導入される空所が後に残される(図3F、G)。
【0163】
それらの空隙および空間占拠構造体の収束的な配置のため、図3に示されているインプラントの実施形態において、それらの空間占拠構造体からの液体/ヒドロゲルの吸引、押し潰された空間占拠構造体の除去、および脂肪組織の注入は全て最小限の侵襲的手技によって収束的な配置の起点における単一の小さな切開部を介して実施され得る。
【0164】
本発明によるインプラントの三次元スキャフォールドの構築のために(生分解性)形状記憶ポリマー(SMP)材料を使用することは、特にそのインプラントの外科的挿入のために必要である組織および皮膚の損傷を最小限にすることに関して非常に有利である。図4はSMPインプラントの仕組みを例示するための形状記憶ポリマーからできている乳房インプラントのスキャフォールド構造体の例を示している。そのスキャフォールドの元の恒久的形状は、図4Aに示されているように完全に形成された乳房インプラントの拡張形状に対応する。ある特定の「トリガー温度」より下ではそのスキャフォールドは図4Bに示されているより小型のディスク様形状のような他の形状に変形され得る。しかしながら、そのスキャフォールドの温度が上昇し、そのトリガー温度に達するか、またはそのトリガー温度を超えるとそのスキャフォールドはその元の恒久的形状に戻り、その恒久的形状が図4Aの乳房インプラントの拡張形状である。当業者が理解するように、本発明の背景におけるトリガー温度は移植を受ける患者の体温の少し下であるべきである。
【0165】
SMPスキャフォールドを含んでなる本発明によるインプラントの実際的な適用が図5に例示されている(描写を単純化するために乳房インプラントのスキャフォールド要素のみが示されている)。図4に記載される特徴(すなわち、そのスキャフォールドの元の恒久的形状が完全に形成された乳房インプラントの拡張形状に対応し、そのSMP材料のトリガー温度が体温と同一である)を有する乳房インプラントスキャフォールドが室温で小型のディスク様形状に変形される(図5A、左)。その小型構造のため、拡張したスキャフォールド構造体を含むインプラントを移植するときよりも簡単に、且つ、より小さな切開部を介して外科医がその変形されたスキャフォールドを移植することができ、所望の移植部位に配置することができる(図5A、右)。そのインプラントが患者の身体の内部に入るとすぐにそのSMPインプラントは室温から患者の体温に変化する。そのインプラントが体温に達するとそのSMP材料は完全に形成された乳房インプラントの拡張形状であるその元の恒久的形状に戻る(図5B)。その後、外科医はその小さな切開部を安全に閉じることができる。
【0166】
前記空間占拠構造体の除去は上の図2Bにおいて示された手順において記載されている特殊な除去ツールを用いて、または上の図3との関係で記載されている押し潰し可能な空間占拠構造体の撤去によって起こり得るが、本発明は本発明によるインプラントからの強磁性または超常磁性の空間占拠構造体の除去のための特殊な除去装置も提供する。
【0167】
乳房インプラントから強磁性または超常磁性の空間占拠構造体を除去するための除去装置の例となる実施形態が図6に示されている。その除去装置は12個の棒型の電磁石が横切っている扁平な缶の形状を有する。その容器の底面はベル型のくぼみを有しており、そうして乳房との良好な適合をもたらす。
【0168】
移植部位においてインプラントから強磁性または超常磁性の空間占拠構造体を除去するため、それらの空間占拠構造体が存在する位置において上を覆う組織を介して小さな切開を入れ、そうしてそれらの空間占拠構造体を除去し得るその組織を通る経路を作製する。その後、その除去装置のくぼんだ面を移植部位と接触させる。除去される空間占拠構造体とその除去装置の電磁石が相互作用するために完全に配向が一致するように、除去される空間占拠構造体はその除去装置上の電磁石と同じ空間的分布を有する。また、乳房と接触するその除去装置の面は乳房型のくぼみを有しているので、その除去装置の面の乳房へのぴったりとした適合が確実になり、そうして除去される空間占拠構造体とそれらの電磁石が直接的に接触する。
【0169】
この時点においてその除去装置の電磁石のスイッチを入れる。それらの電磁石にそれらの強磁性または超常磁性の空間占拠構造体が付着する程のそれらの強力な電磁石により発揮される強力な磁力によってそれらの強磁性または超常磁性の空間占拠構造体を引き付け、そしてその除去装置を患者の身体から撤去する。それらの空間占拠構造体はその除去装置と共に移動し、そうして患者の身体から除去される。
【0170】
本発明は、空隙および空間占拠構造体を含むインプラントの特定の要求に前記インプラントの三次元スキャフォールドを合せることを可能にするインプラントスキャフォールド向けの特殊な設置パターンも提供する。
【0171】
図7はインプラントスキャフォールド向けの従来の設置パターンの原理を示している。そのような従来の設置パターンの構成原理を例示する2層(y軸に沿う向きの等距離で配置された平行の棒からなる下層およびx軸に沿う向きの等距離で配置された平行の棒からなる上層)が図示されている。個々の棒が他の棒との接触点において物理的に接続されている。それらの2層のパターンがz方向(すなわち、紙面からの方向)において繰り返されており、それにより図9Aに示されているような三次元スキャフォールド構造体が生じる(以下参照)。
【0172】
図8は本発明によるインプラントの三次元スキャフォールド構造体の形成に使用され得る様々なタイプの棒の例を示す。この例には従来の設置パターンにも使用されているような真っ直ぐな棒(図8A)、規則的なジグザグ構造を有する棒(図8B)、規則的なジグザグ構造を有し、そのジグザグ構造が「階段形状」を有する棒(図8C)、規則的な波形構造を有する棒(図8D)、および不規則的な波形構造を有する棒(図8E)が含まれる。当業者が理解するように、図8に示される棒は単に例となる性質のものであり、様々な他の規則的または不規則的なジグザグ構造、波形構造、またはそれらの組合せを有する棒も本発明によって企図されている。
【0173】
図8B〜Eに示されている棒の中心軸が破線として示されている。ジグザグ構造または波形構造を有する棒の平行配置ではそれらの棒の中心軸が平行になるようにそれらの棒の向きが整えられる。
【0174】
図9は、各層が複数の平行の棒から構成されている複数の相互接続層からなる積層体から形成されるインプラントの三次元スキャフォールド構造体向けの様々な設置パターンを示している。図9Aは、図7の構成原理に従う場合に得られるような従来の設置パターンを有する三次元スキャフォールド構造体の図である。対照的に図9Bは、一つ置きの層の平行の棒が規則的な階段型のジグザグ構造を有しており、且つ、真っ直ぐな棒を含む後続の層の棒が相互にずれている本発明の実施形態による三次元スキャフォールド構造体を示している。図9Cは、一つ置きの層の平行の棒が波形構造を有している本発明による三次元スキャフォールド構造体の代替的実施形態の描写である。図9Dの三次元スキャフォールド構造体において、全ての棒が波形構造を有している本発明によるスキャフォールドが表されている。
【0175】
図9B〜Dに示されているスキャフォールド構造体は単なる例であり、様々な他のスキャフォールド構造体も本発明の範囲内にある。したがって、例えば様々な他の形状の棒、およびジグザグ構造を有する棒と波形構造を有する棒の組合せも企図されている。また、図9B〜Dの積層体内の層は全て、任意の層の棒がその後続の層の棒に対して直交する配置を有するように配置されている。しかしながら本発明の他の(示されていない)実施形態によると、後続の層が他の角度だけ回転していてもよく、例えば、任意の層Xから3番目後の層(すなわち、層X+3)が、前記層Xの棒に対して平行である配向の棒を再度有するように、後続の層が60°の角度だけ回転していてもよい。
【0176】
図10では様々な三次元スキャフォールド構造体の図解が側面図表示で提供されている。図10Aはずれが無い従来の設置パターンを有するスキャフォールドである。このスキャフォールド構造体は図9Aに示されているものと同一である。対照的に図10Bは、y軸(すなわち、紙面からの方向)に沿う向きの棒を有する層の本発明による例となる設置パターンであって、各層が前記層の棒と棒の間の距離の1/2倍の距離だけ前の層に対してずれている(すなわち、前記層の棒はその層の平面内で平行移動させられており、この描写ではそれはx軸に沿って移動させられることを意味する)前記設置パターンを示している。これは、y軸に沿う向きの棒を有する一つ置きの層が垂直方向で再度「一致」すること、すなわち、そのような層の棒が単純なz軸に沿った移動によって幾何的に一致し得ることを意味する。
【0177】
図10Bに示されている実施形態は同じ棒配向の2番目毎の層(すなわち、全ての層を数える場合、それらの層の棒の配向と無関係に図10Bの4番目毎の層)の後に繰返しが有るスキャフォールド構造を有しているが、本発明は他の繰返しパターンを有する実施形態も包含する。例えば、同じ配向の棒を有する層がそれらの棒と棒の間の距離の1/3倍の距離だけ移動させられている場合、3番目毎の層の後に繰返しが実現され、同じ配向の棒を有する層がそれらの棒と棒の間の距離の1/m倍の距離だけ移動させられている場合、同じ配向のm番目毎の層の後に繰返しが実現される。
【0178】
図11は、図10Aに示されているような従来の設置構造を有するスキャフォールド(図11Aにおけるデータ)および図10Bに示されているようなずれを有する本発明による設置パターンを有するスキャフォールド(図11Dにおけるデータ)に対して実施された圧縮検査より得られた実験データを示している。これらの実験では3組の20枚の同じサイズの正方形の多孔性スキャフォールドをポリカプロラクトンから作製した。多孔性、支柱/棒のサイズおよび支柱間隔を全ての群にわたって一定にした。しかしながら1つの群(A群)は図10Aに示されているような従来の設置構造によって形成され、別の群(B群)は図10Bに示されているようなずれを有する本発明による設置パターンによって形成され、第3の群(C群)は図9Cに示されているような本発明による波形設置パターンによって形成された。500Nロードセルが取り付けられたInstron 5848マイクロテスターを使用して、外植されたスキャフォールドに対して圧縮検査が実施された。B群の全てのスキャフォールドがZ方向で圧縮され(軸方向圧縮)、C群の全てのスキャフォールドがX方向で圧縮され(横方向圧縮)、一方でA群スキャフォールドの50%がZ方向で圧縮され、残りがX方向で圧縮された。その検査プロトコルは0.6mm/分の速度でのそれらのスキャフォールドの2mmの圧縮から構成された。
【0179】
そのマイクロテスターから得られたデータを使用して、当業者が理解するようにその構成体の剛性に対応する応力ひずみ曲線がプロットされた。図11Aおよび図11BはそれぞれA群スキャフォールドとC群スキャフォールドの応力ひずみプロットを示しており、一方で図11Cおよび図11DはそれぞれA群スキャフォールドとB群スキャフォールドの応力ひずみプロットを示している。
【0180】
これらのデータより、ジグザグ設置パターンを有する本発明によるスキャフォールド構造体が同じパラメーターを用いて作製された従来の設置パターンを有する対照スキャフォールドと比較してXY方向においてより柔軟であり、その対照スキャフォールドが耐えるのと同じストレスを耐えることができ、より広範囲の弾性変形を示すと結論することができる。同様に、Z方向にずれが有る本発明によるスキャフォールド構造体はそれらのZ軸方向においてより柔軟である。
【0181】
図12は、乳房再建の例について示された、本発明の第7の態様による患者の身体における組織再建のための方法の様々なステップの例となる描写である。生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなる乳房インプラントが所望の乳房再建部位に移植される(a)。そのスキャフォールド構造体を6〜8週間の期間にわたってその移植部位に留め、その間に結合組織と特に宿主血管系がそのスキャフォールド構造体内に進入する(b)。この期間の後に患者の身体内のドナー部位から脂肪が単離され、そのスキャフォールド構造体に注入される(c)。予備形成された結合組織血管床の存在によってその脂肪はその移植部位内に安定して留まることができ、組織壊死および再吸収は最小限である(d)。また、そのような構造体は乳房の内部構造をより好適に模倣することにもなる。
【0182】
図12に示されている方法の1つの利点は、侵入した結合組織が生分解性スキャフォールド構造体によって最初に占拠されていた体積の大部分を引き受けることができるので、ステップ(c)の間に注入される脂肪組織(または注入される他の移植細胞)の二次的注入の余地が残っていないことがあり得ることである。当業者が理解するように、結合組織または血管系が侵入することができず、且つ、空間占拠構造体が除去されると脂肪組織または他の移植細胞の導入に利用可能になる空所がそれらの空間占拠構造体によって守られることになるので、(上で記載されたような空隙および除去可能な空間占拠構造体を含む三次元スキャフォールド構造体を含んでなる)本発明によるインプラントの使用、および、したがって、(上の本発明の第8の態様に規定されている)そのようなインプラントを使用する組織再建のための方法によってそのような問題が克服される。
【実施例】
【0183】
〔実施例1〕
この実施例は時間遅延脂肪注入を無細胞性生分解性スキャフォールドと組み合わせている。この移植方法では脂肪組織を使用せずにそのスキャフォールドを最初に移植部位に移植する。そのスキャフォールドの移植直後に外科的手技によって生じた血腫からフィブリンクロットが形成される(Henkel et al., 2013; Salgado et al., 2004)。そのクロットはフィブロネクチン、ビトロネクチンおよびトロンボスポンジンからなる高増殖因子カクテルと共に架橋線維のメッシュ内に埋め込まれた血小板から構成される。そのフィブリンクロットおよび付随する増殖因子カクテルは、強力な血管網形成応答を刺激し、高度に組織化された結合組織のスキャフォールド内への進入を誘導することがあり得る。一定期間の後に患者の身体内のドナー部位から脂肪が単離され、そのスキャフォールド内に注入される(この考えを画像化したものについて図12を参照されたい)。ドナー部位の罹病に直面することなく患者から収集され得る脂肪の量は、その患者の身体組成に依存し、それによるとより高い身体脂肪パーセンテージを有する患者からより大量の脂肪を抽出することができる。本研究では我々の外科チームの見解と文献検索に基づいて、4cmの脂肪組織がドナー部位合併症に直面することなく非常に低い身体脂肪パーセンテージを有する患者から収集され得る最大の量であると考えられた。したがって、それらのスキャフォールドの全体積の5.23%に当たるそのドナーから単離された4cmの脂肪と共にそれらのスキャフォールドを播種した。
【0184】
実施例1の研究は、大型動物モデル(ブタ)に移植され、時間遅延脂肪注入を受けた大型の75cmの無細胞性ポリカプロラクトンベーススキャフォールドにおける24週間の期間にわたる脂肪組織保持の特徴を分析した。
【0185】
研究デザインおよび試料サイズの理論的根拠
ランダム化盲検動物試験を実施し、乳腺下ブタ動物モデルを使用して24週間にわたって大型の75cmの生分解性スキャフォールドの脂肪組織再生能を評価した。
【0186】
本研究には3実験群、すなわち、
1)中身のないスキャフォールド(陰性対照)の群、
2)4cmの吸引脂肪組織を含むスキャフォールドの群、
3)中身のないスキャフォールド+2週間の予備血管網形成期間の群。2週間の予備血管網形成の後に4cmの吸引脂肪組織をスキャフォールドに注入した。
が含まれた。
【0187】
評価された主要エンドポイントは全組織面積と比較した脂肪組織面積のパーセンテージ(AA/TA)であった。最適な事例では実験群(予備血管網形成+吸引脂肪組織の群と吸引脂肪組織のみの群)と健常乳房組織群との間で平均AA/TAに統計学的に有意な差(平均で10%未満の差)が検出されず、一方で同時に陰性対照(中身のないスキャフォールド)群のAA/TAと健常乳房組織群のAA/TAとの間の統計学的に有意な差が検出されることになった。5という期待標準偏差(5ポイントスケール)に対し、本研究で使用された12という試料サイズは85.7%の検定力を与える。統計力の計算はResearcher’s Toolkit Statistical Power Calculator(DSS Research社、フォートワース、米国)を使用して実施された。
【0188】
データ収集停止の規則
2つの次の条件、すなわち、
1)感染症の検出、
2)長期にわたる血腫または漿液腫の兆候
のうちの1つが満たされた場合(経験がある形成外科医および獣外科医によって全ての兆候が検証された)にデータ収集を停止し、それらのスキャフォールドをその後の分析から除外した。
【0189】
エンドポイントの選択
脂肪組織は創傷治癒過程の間に複数回にわたって再構成を受けるので、本研究では24週間の主要エンドポイントを組織永続性機構への対処の観点から適切であるものとして選択した。
【0190】
ランダム化および盲検化
2つの研究パラメーター、すなわち、
1)実験群に対するスキャフォールドの割り当て、
2)乳腺下ポケットに対するスキャフォールドの割り当て
をランダム化した。
【0191】
両方のパラメーターについてExcel 2010(Microsoft社、レドモンド、米国)を使用してランダム化の順序を作製し、独立した研究者が2および4のランダムブロックサイズを使用して1:1に割り当てた。動物に手術を行う形成外科医を除いて全ての研究者が実験群に対するスキャフォールドおよび乳腺下ポケットの割り当てに対して盲目の状態にされた。執刀医と組織学的分析および定性的分析を実施する研究者との間での最小限の接触が地理的隔離によって確保された。説明時には執刀医はID(JT−n;n=1〜12である)を用いて各スキャフォールドを暗号化し、下流分析を実施する研究者から暗号の鍵を隠しておいた。暗号の鍵はデータ分析の完了時にのみ研究者に明らかにされた。まとめると、全ての研究結果を盲検的に評価した。
【0192】
スキャフォールドの設計と作製
Osteopore International社(シンガポール)が急速造形半球状ポリカプロラクトンベーススキャフォールドを設計および製造した。ISO規格11137(殺菌)、13485(品質システム)、11607(包装)、および14644−1(クリーンルーム)に忠実である医療グレードのポリカプロラクトンを使用して全てのスキャフォールドを作製した。
【0193】
ミニブタへのインビボ移植
シンガポールのPWG Laboratories社において、後にNIHの実験動物の管理と使用に関するガイドラインに準拠して維持されるPWG Laboratories社の倫理審査の承認を得てGMP条件下で動物実験を実施した。2匹のメス成体の免疫応答性ミニブタを本研究に使用した。豊胸術の無菌性要件に合う標準的プロトコルに従って一般的麻酔下で手術を実施した。注意深い恒常性もその外科的手技を通して維持された。長手方向の切開を介して乳房部の各側に3か所の分離した乳腺下ポケットを作製した。各動物に6個のインプラントを無作為に配置した。移植の前に外科医が手術台において外縁部から1mmだけ全てのスキャフォールドを切り取って移植過程を簡単にし、それらのスキャフォールドの外殻を取り除くことによりそれらの内孔へのアクセスを得た。
【0194】
第2群および第3群において正中線切開を入れ、Tulipシステム(Tulip Medical Products社、サンディエゴ、米国)を介して脂肪組織を得た。10cmのTulip細胞フレンドリー注入器を使用してそれらのスキャフォールドの相互接続されている細孔構造に吸引脂肪組織を直接的に注入した。
【0195】
インプラントを配置した後にそれらのインプラントがしっかりと固定され、且つ、相互に接触しないように吸収性バイクリル縫合糸で各ポケットを閉じた。最後に2.0エチロン縫合糸で皮膚を結節縫合した。
【0196】
組織学的分析および組織形態計量的分析
ヘマトキシリン・エオシン(HE)
24週間後にインプラントをミニブタから回収し、4%PFA(パラホルムアルデヒド)で固定し、10mm×10mmのキューブ切片に切断し、脱水し、そして組織処理機(Excelsior ES、Thermo Scientific社、ウォルサム、米国)を使用してパラフィン中に包埋した。構成体を水平方向に5μmにスライスし、キシレンで脱パラフィン化し、濃度低下するエタノールシリーズで再水和し、そしてHE染色した(ヘマトキシリンおよびエオシン染色)。染色されたスライドをBIOREVO BZ−9000顕微鏡(Keyence社、アイタスカ、米国)によって5倍の倍率で走査した。
【0197】
マッソントリクローム染色
スライドをキシレンで脱パラフィン化し、濃度低下するエタノールシリーズで再水和し、そしてブアン液中において室温で一晩にわたって再固定した。水道水中で10分間にわたって洗浄した後にそれらのスライドをワイゲルト鉄ヘマトキシリン中で10分間にわたって染色し、温い流水の水道水中で洗浄し、ビーブリッヒスカーレット酸フクシン溶液中で10分間にわたって染色し、そしてすぐにアニリンブルー溶液中に移し、10分間にわたって染色した。それらのスライドを蒸留水中で簡単に洗浄し、1%酢酸溶液に入れて5分間にわたって分別を行った。
【0198】
組織形態計量
Osteomeasure組織形態計量分析システム(Osteometries社、ディケーター、ジョージア州、米国)を用いて組織形態計量分析を行った。各群の各スキャフォールドに由来する8例の無作為に選択された切片(表層領域からの4例と深層領域からの4例)に対して盲検で全ての測定を実施した。平均脂肪組織面積を決定するために最初に脂肪組織の総面積(A)を算出した。次にスキャフォールド支柱によって占拠されている総面積(S)を測定した。最後に組織切片の統合面積(C)を測定した。次の式(Chhaya et al., 2015)、すなわち、
R=A/(C−S)×100%
を使用して総組織面積に対する脂肪組織面積の比率(R)を計算した。
【0199】
細胞サイズ分布を含む全ての自動計算にMontpellier RIO Imaging社(モンペリエ、フランス)によって開発されたAdipocyte Toolsプラグインと併せてImageJ(国立衛生研究所、マサチューセッツ州、米国)を使用した。各組織学切片の視野(FOV)を一定に保った。閾値処理方法を用いてAdipocyte Toolsプラグイン内の事前処理マクロによって各組織学切片からバックグランドを最初に取り除いた。各細胞の最小サイズが80μmであるように選択し、最大サイズを800μmに選択し、そして拡張物の数を10に設定した。全ての試料および群にわたってこれらの閾値を一定に保った。脂肪細胞の周りの注目画像領域(ROI)を自動的に設定するためにも同じ閾値を選択した。その自動化方法は少数のROIアーティファクトを生じた。目視で検出することができるアーティファクトを手作業で取り除いた。残りのアーティファクトを取り除くために最小のROIの10%と最大のROIの10%を以後の分析から除外した。
【0200】
血管密度を算出するために内腔内に赤血球を示す全ての血管を計数した。血管の数を総組織面積で除算してその密度を得た。実験条件当たり4例の各スキャフォールド由来の合成顕微鏡写真に基づく値。
【0201】
TEC(組織再生材料)中の脂肪体積の推定
スキャフォールドの全体積が宿主組織で充填されたので、移植期間の最後に各スキャフォールドが60cmの総組織体積を保持したと考えることは合理的である(75cmの総体積×80%多孔性=組織成長に利用可能な60cmの体積;計算を簡単にするためにスキャフォールドの分解を考慮していない)。
【0202】
図19Gに示されている相対的脂肪組織分率値はそれぞれ40mm×25mmの寸法の8例の無作為に選択された組織切片から算出された。各群における脂肪組織の推定体積分率をこれらの脂肪組織面積分率値から推定した。
【0203】
統計分析
全てのデータを平均値±SDとして表し、一元配置分散分析(一元配置ANOVA)とテューキーのポストホック検定(Prism6、GraphPad社、サンディエゴ、米国)の対象とする。有意性レベルをp<0.05に設定した。全てのエラーバーは標準偏差を表す。
【0204】
臨床観察
全ての動物が外科出術およびインプラント配置をよく忍容し、移植期間を通して明らかな感染症の臨床徴候が観察されなかった。本研究の開始から12週間後、外科的に形成されたポケットの中に漿液腫の蓄積があることが1つのスキャフォールドについて観察され、したがってそのスキャフォールドをその後の分析から除外した。
【0205】
スキャフォールドの特徴分析
スキャフォールドの全体的な形状は豊胸に使用されるシリコーンインプラントの形状と類似していた(図13)。(製造業者から得られた)それらのスキャフォールドの高い多孔性値は、より多くの体積が組織内殖に利用可能であることを意味している。
【0206】
スキャフォールドの外植および分解
上で指摘したように、本研究では3つの試験研究群を評価した。移植6か月後に組織学的分析のために組織再生材料(TEC)を回収した。それらのスキャフォールドは周囲の組織とよく統合しており、それらの構成体への宿主血管系の広範囲の侵入があった(図14C)。移植期間にわたってそれらのスキャフォールドの全体的形状は大幅には変化していないことが目視検査により明らかになった。全てのスキャフォールドが宿主組織との良好な統合を示しており、大きな脂肪領域と血管網形成領域が全てのスキャフォールドについて定性的に観察された。定性的には、予備血管網形成+吸引脂肪組織の群(図14F、I)が最も高い程度の血管網形成および脂肪組織の付着物を有し、吸引脂肪組織のみの群(図14E、H)がそれに続くことも明らかであった。中身のないスキャフォールドのみの群も脂肪組織の付着物(図14D、G)を示したが、それらの付着物は他の群におけるものほど広範囲ではなかった。
【0207】
血管網形成した脂肪組織の形成
図15〜17はインビボで24週間後の全てのスキャフォールド群の代表的なHE染色画像を示している。全ての切片が脂肪組織の典型的な環状形態を示した。全体として、よく血管網形成した脂肪組織からなる複数の領域が全ての群において見つかった。
【0208】
新たに浸潤した組織には血管が多いが、典型的な環状形態と細胞の中央にある空の液胞によって顕微鏡写真中に特定されるほんの僅かな脂肪組織を含む結合組織およびコラーゲンがその組織の大部分である(図15)ことが中身のないスキャフォールドの群から外植された組織のHE染色によって示された。中身のないスキャフォールドのより深い層も同様の結果を示した。
【0209】
図16は吸引脂肪組織のみの群のHE染色切片を示している。全体として、全組織面積と比較した脂肪組織のより高いパーセンテージ(本明細書において相対的組織面積と呼ぶ)がこの群において観察された。そのスキャフォールドの表層は、自然の乳房組織の相対的組織面積に厳密に適合する相対的組織面積を有する脂肪組織の広範囲の分布を特に示した。しかしながら、そのスキャフォールドのより深い層はより少ない相対的脂肪組織面積とより低い程度の血管網形成を示した。
【0210】
図17は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群のHE染色切片を示している。この群は他の全ての群と比較して最も多い量の脂肪組織を示した。結合組織間に散在する非常によく血管網形成した大きな脂肪組織領域が存在した。この組織形態は自然の乳房組織の組織形態に非常に近いものであった(図20を参照されたい)。さらに、この群のより深い層でも他の全ての群と比較して相対的脂肪組織面積がかなり大きかった。これらの脂肪組織領域はより好適に相互接続されているように見え、相互接続構造体を形成した。
【0211】
慢性炎症の主要な兆候が組織切片に、または構成体の全体形態に観察されることはなかったが、非特異的な低級の局所的肉芽腫性反応が局所的スキャフォールドストランドの近傍に観察された(図18)。リンパ構造体(図15、右のパネル)および白血球も主にスキャフォールドストランドの近くに局在して全ての群において観察された。
【0212】
結合組織の性質と組成を特定するため、マッソントリクローム染色を実施した(図19A〜F)。この染色では緑色がコラーゲン線維を示し、赤色が筋線維を示し、濃褐色が細胞核を示す。顕微鏡写真から見ることができるように、インプラントの細孔を充填する組織の大部分が脂肪組織の他にはコラーゲン線維から構成された。
【0213】
平滑筋組織の薄層も観察された。しかしながらそれはスキャフォールドストランドの境界を裏打ちしているだけであった。これらの平滑筋層は予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合では最大の厚みを有した(図19C)。
【0214】
脂肪組織再生を定量するため、総組織面積と比べた脂肪組織の総面積を全てのスライドに対して計量した(図19G)。陰性対照である中身のないスキャフォールドの群は最も少ない相対的脂肪組織面積(8.31%±8.94)を有し、それは吸引脂肪組織のみの群(39.67%±2.04)と予備血管網形成+吸引脂肪組織の群(47.32%±4.12)の両方よりも有意に少なく、自然の乳房組織(44.97%±14.12)と比較しても有意に少なかった(それぞれp<0.05、p<0.01およびp<0.01)。しかしながら、自然の乳房組織、吸引脂肪組織のみの群および予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の間では相対的脂肪組織面積に統計学的有意差がなかった。
【0215】
血管網新生を定量するため、血管を全てのスライドに対して計数した(図19H)。これらの血管は環/管状構造体によって特定され、赤血球で裏打ちされた血管だけが機能的血管として数のうちに含められた。概して、中身のないスキャフォールドのみの群を含み、全ての構成体が新生血管網のかなりの移入を示した。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群において最高の血管密度(38.01/mm±2.02)が観察された。しかしながら、その密度はスキャフォールドのみの群(33.13/mm±12.03)、吸引脂肪組織のみの群(26.67/mm±1.6)、または対照乳房組織(35.45/mm±1.93)よりも統計学的に有意に高くなかった。構成体の表面上にあり、構成体の表面と平行に走る血管がそれらの構成体のHE切片によっても示された。これはスキャフォールド内に進入したこれらのより大きな血管から新しい毛細管が出現した可能性があることを示唆している。
【0216】
脂肪細胞面積の定量により様々なサイズの細胞の分布のヒストグラムとしての視覚化が可能になった(図19I)。全ての群においてヒストグラムは右に向かって傾斜しており、脂肪細胞表面積の大部分が100〜700μmの範囲内にあることを示唆した。対照乳房組織における細胞サイズの分布は他の群と比較してかなり異なっており、最も高いパーセンテージの細胞は100〜200、300〜400、および500〜600μmの範囲内であった。中身のないスキャフォールドの群および吸引脂肪組織のみの群では800μmよりも大きな表面積を有する脂肪細胞の数が少なく、一方で予備血管網形成+吸引脂肪組織の群では800μmよりも大きな表面積を有するかなり大きな数の細胞が観察された。
【0217】
総組織面積と比べた脂肪組織面積のパーセンテージを示すデータから脂肪組織体積の増加倍率を計算した(図19J、K)。予備血管網形成+吸引脂肪組織の群は吸引脂肪組織のみの群(4.95±0.31)と比較して高い脂肪組織体積の増加倍率(6.1±0.62)を示したが、しかしながらその差は統計学的に有意ではなかった(p=0.143)。中身のないスキャフォールドの群のデータは、吸引脂肪組織がこれらのスキャフォールドに注入されなかったので含まれていない。
【0218】
細胞を播種した解剖学的形状のスキャフォールドは複雑な生体組織の再生に有望であるが、それらのスキャフォールドは組織培養の大規模化から組織培養用の複雑なGMP承認実験室の必要性までにわたる問題を含む幾つかの短所の原因にもなる。実施例1において記載されるアプローチは、無細胞性スキャフォールドを移植し、そして患者の身体をバイオリアクターとして使用することにより再生される脂肪組織の体積を拡大しながらもそのような問題を回避する。しかしながら、強い脂肪生成性刺激が存在しない場合、そのスキャフォールドは大部分が非特異的な線維血管組織で充填される。
【0219】
ここで我々は、追加の増殖因子、細胞移植または結紮血管柄を用いずに少量の吸引脂肪組織を注入し、そして患者自身の身体をバイオリアクターおよび血管供給源として使用する完全に新しい予備血管網形成技術を導入することにより脂肪生成性刺激の欠如を克服した。外科医の見解および文献(Venkataram, 2008;Hanke et al., 1995;Gilliland and Coates, 1997;Housman et al., 2002)に基づき、4cmの脂肪組織が低体脂肪の患者から安全に収集することができる脂肪の最大の量に近いと決定した。パーセンテージ換算ではそれは移植時のスキャフォールドの総体積の5.3%に当たる。
【0220】
時間遅延脂肪注入技術によりそのスキャフォールド体積内での結合組織血管床の形成が可能になった。充分な間充織幹細胞または脂肪前駆細胞が移植部位に動員されていることを条件として、そのような血管および結合組織は早期の脂肪生成を支援する。その結果、実施例1の研究では既に予備的に血管網を形成させたスキャフォールドに脂肪組織が注入されると、その脂肪組織はそれらの移植部位内に安定して留まり、組織の壊死および再吸収が無かった。24週間の期間にわたって脂肪組織体積の増加倍率は吸引脂肪組織のみの群の場合では4.95±0.31であり、予備血管網形成+吸引脂肪組織の群の場合では6.1±0.62であることが分かった。
【0221】
審美的豊胸について、乳房の自然な触感を維持するためには再生された組織が主に脂肪組織からなり、組織化された結合組織の量がより少ない場合が有利であり得る。乳房全摘出術後の乳房再建の場合、スキャフォールド内に浸潤する脂肪前駆細胞がHGF/c−Metシグナル伝達を介して乳癌の再発を刺激すると疑われる場合では、再生された組織が主によく組織化された結合組織から構成される場合が有利であり得る。本研究の結果は再生された組織の形態が初期のスキャフォールド処置戦略(中身のないスキャフォールド対予備血管網形成+吸引脂肪組織)に応じて再現性良く制御され得ることを示しており、その戦略によって中身のないスキャフォールドはよく組織化された結合組織を生じ、一方で吸引脂肪組織を含有するスキャフォールドは脂肪組織に富む組織を生じる。このようにスキャフォールドは審美的豊胸術または総合再建術のどちらかに向けて正確に調整され得る。
【0222】
骨および筋肉などの組織が機械的力に応答して成長する筋スキャフォールド系と対照的に、脂肪生成は機械的力によって阻害されるようである。本研究において使用されたスキャフォールドは自然の乳房組織よりも3桁高い剛性値を有した。機械的に堅固なスキャフォールドを使用することにより、新たに形成された脂肪組織に対して遮蔽効果を発揮することができ、その脂肪組織に対して作用する圧縮力、引張力、およびせん断力の効果を低下させることができる。この機械的刺激の減少によってそれらの細胞に丸い形態を維持させることができ、それが今度はそれらの脂肪前駆細胞の脂肪生成をさらに促進する(Nava et al., 2012)。
【0223】
当業者が理解するように、スキャフォールドの剛性をスキャフォールドの配置に応じて選択してもよい。インプラントが乳腺下ポケット中に配置される大半の美容豊胸の場合では、患者に不快感を引き起こさないようにスキャフォールドに弾性と柔軟性が残っている場合が有利である。一方でインプラントが胸筋下ポケット中に配置され、他の支持組織が残らない大半の乳房全摘出術後乳房再建術の場合では、全乳房領域の再生を適切に支援するために比較的に剛性のインプラントを使用する場合が有利である(Vazquez et al., 1987)。
【0224】
非特異的な低級の局所的肉芽腫性反応が局所的スキャフォールドストランドの近傍に観察された。肉芽種はマクロファージの組織化収集体である(Mukhopadhyay et al., 2012)。血管形成におけるマクロファージの役割は未だに完全には理解されていないが、マクロファージは血管形成に寄与する能力を有することを様々な研究グループが示している。より具体的には、血管形成過程を開始するVEGFがM1マクロファージによって分泌され、血管形成の後期ステージに関与することが知られているPDGF−BBがM2aマクロファージによって分泌され、一方で血管系の再構成に役割を有することが知られている高レベルのMMP−9がM2cマクロファージによって分泌される。マクロファージはα平滑筋アクチンを分泌することができ、且つ、平滑筋細胞に分化することができることも文献中に報告されている。調査された全ての処置群がスキャフォールドストランドの周りに平滑筋組織の蓄積を示した(図19A〜C)。その平滑筋組織の蓄積は、マクロファージがこの群において血管形成、および結果としてより高い脂肪生成に関与した可能性があることを示している。前記構成体は外植後に長期間にわたってPFA中に入れられたので、それらの試料中のタンパク質は変性されており、したがってこの効果の直接的証拠を提供するために免疫組織学に着手することができなかった。
【0225】
慢性炎症の主要な兆候が臨床的に、または構成体の全体形態に観察されることはなかったが、全ての処置群の組織学においてリンパ構造体および白血球が検出された。本研究は免疫応答性動物モデルを使用したので、そのことは予期されるはずである。ポリカプロラクトンはFDAの認可を受けており、細胞親和性であることが複数の独立した研究において示されている。スキャフォールドに注入されると自己の破壊を目的とする宿主由来の自己免疫反応を引き起こし、最終的にはリンパ管の移入を引き起こす生育不能の凝集体が脂肪吸引過程の間に脂肪細胞によって注射器の中で形成された可能性があるという事実により、この白血球の増加を説明することができる。
【0226】
実施例1は何よりも、長期にわたる大量の脂肪組織の効率的な再生のために予備血管網形成および時間遅延脂肪注入技術を用いることができることを示している。したがって、時間遅延脂肪注入を生分解性スキャフォールドと組み合わせたそのアプローチは臨床的に適切な体積の脂肪組織の長期にわたる再生に使用され得る。
【0227】
〔実施例2〕
基本的に図21に示されているようにポリ(D,L)−ラクチド重合体からできており、且つ、空隙および空間占拠構造体を含む125cmのスキャフォールド体積まで拡大された乳房型のスキャフォールドを調製した。2台の押し出し機(スキャフォールド構造体のためにポリ(D,L)−ラクチド重合体をプリントするための1台と空間占拠構造体のために黒色の染料を含むポリ乳酸をプリントするための1台)を取り付けられた3Dプリンターを使用してそれらのスキャフォールドを作製した。そのような二重3Dプリント戦略は所望により複雑なチャネルデザイン(例えば放射状の収束的なデザイン)の調製も可能にする。それらの空間占拠構造体は固形材料からできているので、それらの空間占拠構造体はスキャフォールドほど急速に分解されず、したがってこの例ではやや短い予備血管網形成期間内で組織/細胞侵入を防止することができる。非分解性材料からできている空間占拠構造体を用いると、組織/細胞侵入の防止がさらに良好である。
【0228】
そのようなスキャフォールドを用いてn=6のスキャフォールド(体積=125cmずつ)を免疫応答性ミニブタに移植するパイロット試験に着手した。
【0229】
2週間の予備血管網形成の後に外科医が一般的に使用されている生検パンチ(図21B)を使用して空間占拠構造体を除去した。生じた空所に脂肪組織を注入した。
【0230】
外植(移植から24週間後)すると、スキャフォールドが周囲の組織とよく統合しており、且つ、それらの構成体への宿主血管系の広範囲の侵入があることが観察された。移植期間にわたってそれらのスキャフォールドの全体的形状は大幅には変化していないことが目視検査により明らかになった。空所に脂肪組織を注入した部位およびそれらの部位の周りの大きな脂肪領域と血管網形成領域が組織学的評価によって全てのスキャフォールドについて示された(図22を参照されたい)。
【0231】
【表1】
【0232】
参照文献
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3(A-C)】
図3(D-G)】
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19(A-F)】
図19G
図19H
図19I
図19J
図19K
図20
図21A
図21B
図21C
図22