【課題を解決するための手段】
【0031】
第1の態様において、本発明は、三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントであって、前記三次元スキャフォールド構造体が、空隙を含んでなり、前記空隙が、前記三次元スキャフォールド構造体に除去可能に取り付けられた空間占拠構造体であって、前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成された前記空間占拠構造体で充填されている、前記インプラントに関する。
【0032】
前記三次元スキャフォールド構造体は、生分解性材料からなることが好ましい。
【0033】
「インプラント」は失われている生体構造を置換するため、損傷を受けた生体構造を支持するため、および/または、既存の生体構造を向上させるために製造される医療器具である。特に、本発明のインプラントは、身体組織の再建および/または組織もしくは器官の機能の回復のためのインプラントであり、好ましくは、組織エンジニアリングによるインプラントである。インプラントの例は、例えば、乳房全摘出術後の乳房再建のための、または、豊胸のための乳房インプラント、唾液腺機能の再建のための唾液腺インプラント、または、膵島機能(すなわち、インスリンおよび/またはグルカゴンの分泌)の回復のための膵臓インプラントである。
【0034】
本出願が「三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラント」に言及する場合、これは、前記インプラントがそのインプラントを構成する構成成分のうちの1つとして三次元スキャフォールド構造体を含むことを指定しているという意味である。そのインプラントは、前記三次元スキャフォールド構造体以外に他の成分を含んでも、含まなくてもよい。
【0035】
前記三次元スキャフォールド構造体の調製にとって適切な生分解性材料は、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート)、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(エステルアミド)、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(セバシン酸グリセロール)、ポリ(1,8−オクタンジオール−コ−クエン酸)、ポリ(1,10−デカンジオール−コ−D,L−乳酸)、ポリ(ジオールシトレート)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート−コ−ラクチド)、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート−コ−カプロラクトン)またはこれらの材料のうちの少なくとも2つからなる共重合体である。前記生分解性材料は、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ(1,3−トリメチレンカーボネート)またはこれらの材料のうちの少なくとも2つからなる共重合体であることが好ましい。前記生分解性材料は、ポリカプロラクトンであるか、またはポリカプロラクトンとポリ−トリメチレンカーボネートまたはポリラクチドの一方との共重合体である(これらの基礎的要素から形成される共重合体の機械的特性が自然の乳房組織の機械的特性に類似していることに基づく)ことがより好ましい。一実施形態において、前記生分解性材料はポリカプロラクトン、ポリラクチドおよびポリグリコリドから作られる共重合体である。
【0036】
前記三次元スキャフォールド構造体の調製にとって適切な非生分解性材料は、例えば、シリコーン重合体、非分解性ポリウレタン、およびポリ(エチレンテレフタレート)である。
【0037】
前記インプラントが含んでなる三次元スキャフォールド構造体は、例えば、棒と支柱からなる構造を有してよい。そのような三次元スキャフォールド構造体は適切な材料、例えばポリカプロラクトンを使用して例えば熱溶解積層法(FDM、フィラメント溶解製法(FFF)の同義語)、レーザー焼結法、または光造形法によって形成され得る。例えば注文仕立ての乳房インプラントにとって望ましい、カスタマイズされた三次元スキャフォールド構造体を開発するためには、医用画像工学をコンピューター支援設計およびコンピューター支援製造(CAD/CAM)と関連付ける統合的アプローチを用いることができる。当業者が理解するように、その三次元スキャフォールド構造体内には穴および/または細孔があり、移植されると結合組織細胞などの細胞および/または血管がそこに入植し得る。また、前記三次元スキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合、移植されるとそのスキャフォールド構造体は徐々に分解され、そうして結合組織および/または血管が侵入し得る追加の空間を作る。
【0038】
前記の穴および/または細孔に加え、本発明に記載される三次元スキャフォールド構造体は、例えば調製過程の間に領域を空白にしておく(すなわち、前記三次元スキャフォールド構造体の製造時にこれらの領域にあえてスキャフォールドを作製しない)ことにより、または前記三次元スキャフォールド構造体の調製後に例えば切除によりその三次元スキャフォールド構造体の一部を除去することにより形成され得る空隙(すなわち、スキャフォールドが存在しない前記三次元スキャフォールド構造体内の領域)を含有する。そのような空隙は多種多様な形状(例えば、真っ直ぐ、または曲がった管状の形状、様々な直径と長さのトンネル、丸い、長方形の、または正方形の断面、等)のうちのいずれかを有してよく、且つ、数、サイズ、および前記三次元スキャフォールド構造体内での配向について様々であってよいことが当業者によって理解される。
【0039】
前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するため、前記空間占拠構造体は例えば(前記空間占拠構造体内に組織および/または細胞が侵入し得る空間が無いように)多孔性が低い材料から全体が形成されてよく、(細胞および/または組織が通過することが妨げられるように)高密度の表面カバーを有してよく、および/または生物学的機構を介して組織および/または細胞の侵入を拒絶する表面被覆(細胞増殖を局所的に妨害する薬品であるタクロリムス、エベロリムスまたはマイトマイシンCなどによる被覆など)を有してよい。
【0040】
当業者が理解するように、前記空間占拠構造体が患者の身体の中にある時間枠(典型的には、患者の身体への前記インプラントの移植から前記空間占拠構造体の除去までの期間は6〜8週間の範囲になる)の中では前記空間占拠構造体は実質的に生分解性である必要がない。
【0041】
インプラントの移植時に空間占拠構造体を所定の位置に保持するが、そのインプラントの移植後(好ましくはそのインプラントの移植から6〜8週間後)にそのインプラントの残留部分を移植部位に残したままその空間占拠構造体をそのインプラントの残留部分およびその移植部位から除去することができるようにその空間占拠構造体が前記三次元スキャフォールド構造体内に存在する場合、その空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体に「除去可能であるように取り付けられている」。これを実現するため、前記三次元スキャフォールド構造体へ前記空間占拠構造体を物理的に取り付ける結合は、例えば、前記空間占拠構造体の外科的除去時に適切な工具によって容易に切断され得る材料から形成されてよく(例えば、その結合は適切な外科用のブレードで容易に切断され得るポリカプロラクトンから形成されてよい)、前記三次元スキャフォールド構造体へ前記空間占拠構造体を物理的に取り付ける結合は、ミシン目の付いた紙と同様に前記空間占拠構造体の外科的除去時にそれらの結合が機械的力によって容易に断たれ得るように少数の結合、および/またはわずかな機械的強度の結合であってよく、または前記空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体に物理的結合によっては全く結合していなくてよい(その代り、前記空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体による完全またはほぼ完全な入れ子によって所定の位置に保持されてよい)。また、前記空間占拠構造体は細胞増殖を阻害し、そうしてスキャフォールド構造体への細胞の侵入(または生分解性スキャフォールド構造体との置換)を遅らせる薬品(例えばタクロリムス、エベロリムスまたはマイトマイシンC)から調製された表面被覆を有してよく、前記空間占拠構造体への結合を形成しないか、または弱い結合しか形成しない。
【0042】
当業者が理解するように、前記インプラントには患者の体内での使用が考えられているので、そのインプラントの全ての要素は生体適合性材料からできている必要がある。
【0043】
本発明の第1の態様に従うインプラントは再建部位へ外科的に移植され得る。身体への外科的移植時に結合組織および/または血管系はそのインプラントのスキャフォールド構造体内に進入する。また、そのスキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合、そのスキャフォールド構造体は徐々に分解され、その生分解性インプラントが既に分解されている空間にも結合組織および/または血管系が進入する。そのインプラント内に含まれる空隙は前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている空間占拠構造体で充填されているので、それらの空隙の空間に侵入する結合組織および/または細胞は無い。前記インプラントの外科的移植の時点より数週間から数か月にわたる期間の後、好ましくは前記インプラントの外科的移植から6〜8週間の後、外科医が例えば適切な外科用機器を使用して空間占拠構造体を切り取り、取り外された空間占拠構造体を適切な外科用トングによってそのインプラント/再建部位から取り除くことによってそれらの空間占拠構造体を除去し、そうして以前には前記空間占拠構造体によって占められていたインプラント/再建部位内の領域に空所を残す。その後、それらの空所を所望の機能性細胞(「移植細胞」であり、例えば乳房再建の場合では脂肪組織であり得、膵島インプラントの場合では適切な腺上皮細胞であり得、心筋再生用のインプラントでは心臓細胞であり得、または軟骨再建用のインプラントでは間充織幹細胞であり得る)で、例えばその機能性/移植細胞の注射または点滴により充填する。したがって、予備形成された結合組織血管床のために移植細胞は移植部位内に安定して留まることができ、一方では最小限の組織壊死および再吸収が起こるだけである。また、結合組織血管床を前もって形成することなく再建部位に移植細胞(乳房再建の場合では、すなわち、脂肪組織)を移植する方法と比較して、それにより生じる構造体はインビボ状況(乳房再建の場合では、すなわち、乳房の内部構造)をずっと好適に模倣している。空間占拠構造体を有しないインプラントと比較すると、本発明によるインプラントは、他のインプラントではインプラント内に存在する空間、または生分解性スキャフォールドの漸進的な分解に起因して生じる空間の大部分が結合組織によって完全に占拠されることになるが、本発明では移植細胞を導入し得る結合組織およびスキャフォールド内の空所が前記空間占拠構造体の除去時に作製されるという利点を有している。
【0044】
それらの空隙は、患者の体内にインプラントを移植し、空間占拠構造体を除去した後に前記空隙に移植細胞を導入することが可能であるように構成される必要があることが当業者によって理解される。
【0045】
幾つかの実施形態において、それらの空隙は管状の形状である。したがって、そのような実施形態において、それらの空隙の長さはそれらの空隙の直径に比して大きい。これは、インプラントとそのインプラントに侵入した結合組織の中に容易に移植細胞を深く導入することができ(または生分解性インプラントの分解時にそのインプラントと置き換えることができ)、一方で同時にインプラント構造/結合組織の安定性が過剰に大きな空隙によってあまり損なわれることがないという利点を有している。
【0046】
好ましくはそれらの空隙の直径は少なくとも3mmであり、より好ましくは少なくとも5mmである。好ましくはそれらの空隙の長さは少なくとも0.5cmであり、より好ましくは少なくとも1cmである。好ましくはそれらの空隙の直径は10cm以下であり、より好ましくは8cm以下である。好ましくはそれらの空隙の長さは12cm以下であり、より好ましくは10cm以下である。
【0047】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は、除去可能であるように前記三次元スキャフォールド構造体に取り付けられており、且つ、組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている空間占拠構造体で全て充填されている少なくとも3か所、より好ましくは少なくとも5か所、より好ましくは少なくとも8か所の空隙、より好ましくは少なくとも12か所の空隙を含んでなる。本出願の開示から当業者が理解するように、異なる角度および/または配向を有する幾つかの空隙が相互接続されてよい。例えば、
図1Aに示されている乳房インプラントはそのインプラントの頂部に短い垂直方向の空隙を含んでなり、且つ、前記の短い垂直方向の空隙に接続されている8か所の放射状に配置された管状の空隙を含んでなる。したがって、
図1Aに示されている乳房インプラントは9か所の空隙を含んでなる。
【0048】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は滑らかな表面を有する。当業者が理解するように、ねじ山を有する表面は滑らかな表面ではない。
【0049】
幾つかの実施形態において、前記インプラントはねじを含まない。幾つかの実施形態において、前記インプラントはリベットを含まない。
【0050】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は前記三次元スキャフォールド構造体とは異なる材料からできている。前記空間占拠構造体は幾何的に所定の配向でインプラント内に局在することが好ましい。
【0051】
幾つかの実施形態において、前記空隙は(および好ましくは前記空間占拠構造体も)相互接続されており、且つ、1つの起点から放射状に伸びる収束的幾何的配向で配置されている。それらの空隙の放射状の配置は一か所のアクセス部位を介したそれらの空隙からの空間占拠構造体の除去を可能にすることができ、その配置はその放射状構造が始まる部位への移植細胞の一回の注入による簡単な手技を介して単一のアクセストンネルから全ての空隙を充填することができるという利点を有している。その配置はそれらの全ての空隙へのアクセスを得るためにただ1か所の組織損傷部位を必要とするので、その配置は全ての空隙に移植細胞を充填するために必要とされる組織損傷も減少させる。これは最小限の侵襲的手技によって空間占拠構造体の除去と移植細胞の導入を実施するつもりである場合に特に有利である。
【0052】
「最小限の侵襲的手技」は、皮膚を介して、または体腔もしくは解剖学的開口部を介して体に入れることで行われるが、これらの構造体にとって可能な最小限の損傷によって行われる外科的手技である。したがって、最小限の侵襲的手技では付随的な組織損傷が最小になる。その結果、治癒に必要な時間が減少し、且つ、瘢痕の減少に起因して美容成果が改善される。
【0053】
幾つかの実施形態において、前記空隙(および前記空間占拠構造体)は相互接続されておらず、且つ、非収束的幾何的配向で配置されている。幾つかの実施形態において、前記空隙(および前記空間占拠構造体)は相互接続されておらず、且つ、好ましくは平行に配置されている。この配置は移植細胞の導入のために複数のアクセストンネルを必要とする一方で、その配置は収束的な配置と比較してこの配置では空間占拠構造体の除去が技術的により簡単であるという利点を有している。外側に向く空隙のそのような配置も外科手術時の細胞、組織および/または吸引脂肪組織の注入を容易にすることができる。
【0054】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は押し潰し可能(collapsible)である。そのような押し潰し可能な空間占拠構造体は例えば生理食塩水で充填された生体適合性高分子材料からできているチューブであり得る。前記インプラントは押し潰し可能な空間占拠構造体と共に製造されてよく、所望の再建部位に移植される。6〜8週間後、最小限の侵襲的手技、例えば注射器を使用する吸引によって前記空間占拠構造体内の液体(生体適合性高分子材料からできているチューブ内に含まれる生理食塩水など)が除去される。これによって前記空間占拠構造体が潰れる。その後、それらの空間占拠構造体を容易に除去することができ、移植細胞を導入することができる空所がスキャフォールド構造体内に残される。
【0055】
したがって、押し潰し可能ではない空間占拠構造体と比較して、押し潰し可能な空間占拠構造体の使用は、組織損傷の減少およびそれに伴う全ての利点(例えば術後痛の減少、より短い治癒時間、瘢痕に起因する美容問題の減少等)と共に、例えば最小限の侵襲的手技によってそれらの空間占拠構造体をより簡単に除去することができるという利点を有している。
【0056】
押し潰し可能な空間占拠構造体を含むインプラントを調製するため、拡張させた空間占拠構造体と共にそのインプラントが通常は移植前に組み立てられることになる。最初に前記空間占拠構造体向けの空き空間(空隙)を含むインプラントだけを作製する。第2ステップにおいて、最初はしぼんでいる構造体(すなわち、前記空間占拠構造体のまだ充填されていないシース)を所定の空き空間に挿入する。それらのしぼんだ空間占拠構造体に注射針で穴を開け、シースを充填し、その後で今では充填された構造体のシースを熱密封することでそれらの構造体を充填し、拡張させることができる。完成した組立品を最終的にガンマ線照射またはエチレンオキシドにより滅菌することができ、その後で患者に移植することができる。当業者が理解するように、収束的なデザインの場合では、相互接続されている空間占拠構造体のただ一か所(典型的には最も表層の部分)にアクセスすることにより外科医が全ての構造体に液体を充填し、全ての構造体から液体を抽出することができるようにそれらの空間占拠構造体を接続することができる。
【0057】
前記空間占拠構造体はある液体に対して不浸透性のシースに入れられた前記液体を含んでなる、またはその液体からなることが好ましい。前記液体は等張性生理食塩水溶液であることが好ましい。前記シースは好ましくは生体適合性重合体、より好ましくは医療グレードのポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド、またはシリコーンからできている。
【0058】
前記空間占拠構造体の収束的なデザインと組み合わせてシースに入れられた液体(またはヒドロゲル)を空間占拠構造体として使用することにより、その生理食塩水溶液(またはヒドロゲル)がただ1か所のアクセスポイントから吸引され得ることを実現することができ、最小限の侵襲的方法で前記押し潰された空間占拠構造体を抽出するためにもその同じアクセスポイントを使用することができる。シースに入れられたヒドロゲルと比較して、シースに入れられた液体の使用は、少しも残余物を残さずに完全にそのシース内の充填溶液を除去することがより簡単であるという利点を有している。また、シースに入れられた液体の場合では外科医が収縮時期を自由に選択することができ(ヒドロゲルの場合では分解時間によってそれが決定される)、したがって移植細胞として使用される特殊な種類の間質細胞に最適である、インプラントの移植と空間占拠構造体の除去との間の時間間隔を選択することがより簡単になる。液体としての生理食塩水溶液の使用は、生理食塩水溶液が低価格であるだけでなく、例えば前記空間占拠構造体を押し潰すためにその液体の吸引中に幾らかの液体が身体に漏出した場合に健康上のリスクを全く与えないという利点を有している。
【0059】
前記空間占拠構造体はある生理的に不活性のヒドロゲルに対して不浸透性のシースに入れられた前記ヒドロゲルを含んでなる、またはそのヒドロゲルからなることが好ましい。前記ヒドロゲルはポリエチレングリコールまたはポリビニルアルコールを含んでなる、またはポリエチレングリコールもしくはポリビニルアルコールからなることが好ましい。前記ヒドロゲルはそのヒドロゲルに混合された強磁性粒子を含んでなることが好ましい。前記シースは好ましくは生体適合性重合体、より好ましくは医療グレードのポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド、またはシリコーンからできている。
【0060】
空間占拠構造体としてのシースに入れられたヒドロゲルの使用はシースに入れられた液体と同じ利点を提供する。しかしながら、シースに入れられた液体と比較して、シースに入れられたヒドロゲルは生理的ストレスに対する高い耐性を提供し、且つ、生理食塩水と比較して高いそれらの粘性に起因して周囲の組織に漏出しにくい。
【0061】
前記空間占拠構造体は流動的に相互に接続されていることが好ましい。空間占拠構造体Aと空間占拠構造体Bが「流動的に接続」されていることが本出願によって示されている場合、これは外部環境へ液体/ヒドロゲルを失わずに空間占拠構造体Aの内腔の液体またはヒドロゲルが空間占拠構造体Bの内腔へ移動すること、およびその反対を可能にする前記空間占拠構造体AとBとの間の接続が存在することを意味する。
【0062】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は固い。固い空間占拠構造体は簡単に変形せず、且つ、高い機械的ストレス下でも元の形状を維持するという利点を有している。
【0063】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は専ら固形物からできている(すなわち、液体またはゲルを含まない、または液体もしくはゲルからならない)。専ら固形物からできている空間占拠構造体の使用は、周囲の組織への液体またはゲルの漏出が起こり得ず、且つ、前記空間占拠構造体がより高い耐圧性と形状安定性を持つという利点を有している。
【0064】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は金属、好ましくは鋼鉄またはチタンからできている。金属からできている空間占拠構造体を使用することにより、周囲の組織への液体またはゲルの漏出が起こり得ず、且つ、前記空間占拠構造体が非常に高い耐圧性と形状安定性を持つことが実現され得る。また、鋼鉄が使用される場合、前記空間占拠構造体は電磁石式除去装置の使用によって1回の動作で容易に除去され得る。
【0065】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は超常磁性または強磁性の材料を含んでなる、またはそのような材料からなる。前記空間占拠構造体は生体適合性高分子材料と生体適合性強磁性材料からなる複合材料、好ましくはポリカプロラクトンと酸化鉄からなる複合材料を含んでなる、またはそのような複合材料からなることが好ましい。
【0066】
超常磁性または強磁性の材料を含んでなる、またはそのような材料からなる空間占拠構造体は、例えば上を覆う皮膚および組織に小さな切開を入れ、強力な(電)磁石を使用してそれらの空間占拠構造体を除去することにより非常に効率的な除去を可能にする。これは、組織に除去ツールを挿入する必要なしにそれらの空間占拠構造体を除去することができ、したがって創傷部の汚染リスクが減少するというさらなる利点を提供する。
【0067】
幾つかの実施形態において、前記空間占拠構造体は組織の付着を防止する被覆材で被覆されている。前記被覆材は好ましくは細胞増殖阻害/低下薬(抗増殖薬)を含んでなる被覆材であり、より好ましくは薬品タクロリムス、エベロリムスおよびマイトマイシンCのうちの1つ以上を含んでなる被覆材である。さらに、その薬品(例えばタクロリムス)はそれらの空間占拠構造体に被覆される前にヒドロゲルに懸濁され得る。そのようなヒドロゲル被覆材は長期間にわたってその薬品が分解または希釈されることを防止することになる。
【0068】
タクロリムス(FK−506)は、細胞増殖を制御し、したがって宿主組織の急速な内殖を防止するFDA(米国食品医薬品局)により認可された薬品である。したがって、タクロリムスを含む被覆材は前記空間占拠構造体への宿主組織の付着および接着を減少させる。次にこれにより前記空間占拠構造体の除去が促進され、組織損傷または血管の破裂によって引き起こされる出血のような除去手技中の合併症が減少し、そして最小限の侵襲的手技の使用にとって改善された状況が提供される。
【0069】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは組織エンジニアリング用のインプラントである。幾つかの実施形態において、前記インプラントは組織再建用のインプラントである。
【0070】
「組織再建」は身体内の組織の一部または組織全体の修復または置換、または器官の一部もしくは器官全体の修復もしくは置換を指す。組織再建用のインプラントは組織再建の過程を支援するように設計されているインプラントである。そのインプラントは、例えば、器官または身体の一部の中の支持結合組織の役割を引き受けることができる。生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントの場合では、そのインプラントは支持結合組織の役割を一時的に引き受けることができる。そのインプラントが身体に移植されると、身体組織、特に結合組織および血管系がそのスキャフォールド構造体内の細孔に侵入し、そのインプラントが生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなる場合ではそのスキャフォールド構造体が既に分解された領域にも侵入する。したがって、組織エンジニアリング用のインプラントは結合組織および血管系が成長するときの方向性を与えるスキャフォールド構造体を提供してよく、そのインプラントの三次元スキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合では身体自体の構造体によって徐々に置き換わるスキャフォールド構造体を提供してよい。その後、この予備形成された血管網形成した結合組織床に移植細胞を導入してよい。
【0071】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは、細胞/組織移植、好ましくは遊離脂肪移植片移植の被移植部位として予備的に血管網を形成させた結合組織を生成するためのインプラントである。移植のための所望の被移植部位での適切なインプラントの身体への移植時に組織、特に結合組織と血管系がスキャフォールド構造体内の細孔に侵入する。(そのインプラントが生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントである場合、移植されるとそのスキャフォールドは徐々に分解され、そのインプラントが既に分解されている領域にも組織、特に結合組織と血管系が侵入する。)したがって、そのインプラントは結合組織および血管系が成長するときの方向性を与える構造を提供するスキャフォールド構造体を提供する。その後、所望の細胞/組織(遊離脂肪移植片など)が被移植部位において結合組織血管床に移植され得る。
【0072】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは皮下インプラント、骨インプラント、軟骨インプラント、または対応する結合組織インプラントである。
【0073】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは乳房インプラント、唾液腺インプラント、膵臓インプラント、骨インプラント、前十字靭帯断裂部を再建するためのインプラント、頭蓋顔面再建用インプラント、顎顔面再建用インプラント、複雑な下顎矯正手術用のインプラント、腫瘍摘出部再建用インプラント、黒色腫の除去後の組織再建用インプラント、頭頚部癌の除去後の組織再建用インプラント、耳インプラント、鼻インプラント、胸壁再建用インプラント、整形外科術用インプラント、軟骨再建用インプラントおよび火傷跡再建用インプラントからなる群より選択される。前記インプラントは乳房インプラントであることが好ましい。
【0074】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは乳房再建および/または豊胸のための乳房インプラントである。
【0075】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は複数の相互接続層からなる積層体を含んでなり、各層が複数の棒から構成されており、
a)前記棒がジグザグ構造または波形構造を有し、または
b)前記積層体内のn番目毎の層の棒がジグザグ構造または波形構造を有し、一方で好ましくは他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であり、
その場合にnは2から5までの範囲内の整数であり、好ましくは2または3であり、より好ましくは2であり、または
c)各層がジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなり、その場合に好ましくは各層の棒の少なくとも1/10、より好ましくは少なくとも1/5、より好ましくは少なくとも1/3、より好ましくは少なくとも1/2がジグザグ構造または波形構造を有し、一方で好ましくは前記層の他の全ての棒が真っ直ぐな棒であり、または
d)前記積層体内のn番目毎の層がジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなり、その場合に好ましくは前記n番目の層の棒の少なくとも1/10、より好ましくは少なくとも1/5、より好ましくは少なくとも1/3、より好ましくは少なくとも1/2がジグザグ構造または波形構造を有し、一方で好ましくは前記積層体内の前記n番目毎の層の他の全ての棒と他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であり、
その場合にnは2から5までの範囲内の整数であり、好ましくは2または3であり、より好ましくは2であり、または
e)前記積層体内の層の1/10、好ましくは1/5、より好ましくは1/3、より好ましくは1/2がジグザグ構造または波形構造を有する棒を含んでなる層であり、一方で好ましくは他の層が真っ直ぐな棒だけを含んでなる層である。
【0076】
本出願が複数の層からなる「積層体」に言及する場合、これは面がx軸とy軸に沿って広がる複数の層が垂直方向のz軸に沿って相互に積み重ねられている配置を指す。本出願が「複数の相互接続層からなる積層体」に言及する場合、これはその積層体を形成するために積み重ねられた個々の層が物理的に相互に連結されていることを意味する。
【0077】
本出願が「ジグザグ構造」を有する棒について言及する場合、これはその棒が短く急な折り返しまたは角度によるその進行方向の一連の変化を有しており、その進行方向のこれらの変化が生じている部位が角形状であることを表す。進行方向におけるそのような変化は規則的なパターンを採ることが好ましい。進行方向におけるそのような変化は90°の角度であることが好ましい。ジグザグ構造を有する棒の例が
図8に示されている。
【0078】
本出願が「波形構造」を有する棒について言及する場合、これはその棒が短く急な折り返しまたは角度によるその進行方向の一連の変化を有しており、その進行方向のこれらの変化が生じている部位が丸い形状を有していることを表す。進行方向におけるそのような変化は規則的なパターンを採ることが好ましい。波形構造を有する棒の例が
図8に示されている。
【0079】
前記複数の相互接続層の各々が複数の平行の棒から構成されていることが好ましい。
【0080】
ある特定の層Xの平行の棒とその後続の層X+1の平行の棒が少なくとも30°の角度、好ましくは少なくとも45°の角度、より好ましくは少なくとも60°の角度、より好ましくは90°の角度を形成するように前記積層体内の層が配置されていることが好ましい。
【0081】
当業者が理解するように、平行ではない2本の線(および同様に、平行ではない2組の平行の棒)が交差するとき、2つの角度が形成される(それらは合計で180°になる)。ある特定の層の平行の棒とその後続の層の平行の棒がある特定の角度を形成すると本出願によって述べられるとき、表示されている角度は形成される2つの角度のうちの小さい方を指す。ジグザグ構造または波形構造を有する一本/複数本の棒の場合、その角度はその棒の中心軸に関して測定される(その中心軸は基本的にその棒のジグザグ進路または波形進路の線形「最適」曲線である。
図8を参照されたい)。同様に、ジグザグ構造または波形構造を有する棒に関してそのような棒が「平行」であると本出願によって示されている場合、これはジグザグ構造または波形構造を有するこれらの棒の中心軸が相互に平行であることを意味している。
【0082】
前記棒の中心軸から最も離れている前記棒内の各折り返しの点(すなわち、各折り返し点の最も外側の点)が前記棒の中心軸から最も近い平行の棒の中心軸までの距離の少なくとも1/20の距離、より好ましくは少なくとも1/10の距離、より好ましくは少なくとも1/5の距離を前記棒の中心軸から有するようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。前記棒の中心軸から最も離れている前記棒内の各折り返しの点が前記棒の直径の少なくとも5倍の距離、より好ましくは少なくとも10倍の距離、より好ましくは少なくとも20倍の距離を前記棒の中心軸から有するようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。
【0083】
前記棒の各折り返し点の最も外側の点と前記棒の中心軸との間の距離が前記棒の直径の少なくとも2倍に等しいようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。ジグザグ/波形構造を有する各棒の体積の少なくとも半分が同じ直径の実質的な真っ直ぐの棒の外側に位置するようにジグザグ構造を有する前記棒および/または波形構造を有する前記棒が形成されることが好ましい。前記棒の角度および波形はそれぞれの構成によって構成されることが好ましい。
【0084】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは本出願の
図9B、
図9C、または
図9Dに示されているような層構造を有するスキャフォールド構造体を有する。
【0085】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は複数の相互接続層からなる積層体を含んでなり、各層が複数の平行の棒から構成されており、前記積層体内の任意の層Xの棒がその後続の層X+1の棒に対して直交する配置を有し、前記積層体内の任意の層Xの棒と前記層Xの後続の層の次の層(すなわち、層X+2)の棒が再度相互に平行になるように前記積層体内の層が配置されており、且つ、任意の層Yの後続の層の次の層(すなわち、層Y+2)の棒が前記層Yの平行の棒と棒の間の距離の1/m倍の距離だけ前記層Yの棒に対してずらされており、その場合にmは2から5までの範囲の整数、好ましくは2または3、より好ましくは2である。
【0086】
当業者が理解するように、前段落において規定されている三次元スキャフォールド構造体では層Yに対して(2×m)番目後の層の棒が再度層Yの棒と「一致」する(当然、その層内の個々の棒と棒の間の距離が層Y、層Y+2、層Y+4等について同じであることを条件とする)。
【0087】
幾つかの例において、層Aの棒がある特定の距離だけ別の層Bの「棒に対してずらされて」いることが本出願によって示されている。これは、複数の層が垂直方向のz軸に沿って積層されており、且つ、層Aの棒が層Bの棒と平行である状況下において、層Aの棒が前記層Bの棒の上に直接的に配置されているのではなく、表示されている距離だけ層Aの平面内で平行移動させられている状況を指している(すなわち、幾何的には層Aの棒をz軸に沿った移動により層Bの棒と一致させることはできないが、層Aの棒を層Bの棒と一致させるためにはz軸に沿った移動に加えてx軸および/またはy軸に沿った移動がある特定の距離だけ必要になる)。
【0088】
ある特定の層Aの棒が別の層Bの棒と「一致」すると本出願によって示されている場合、これは、複数の層が垂直方向のz軸に沿って積層されており、且つ、層Aの棒が層Bの棒と平行である状況下において、幾何的に層Aの棒をz軸に沿った移動により層Bの棒と一致させることができることを意味する。
【0089】
前記積層体内の層の棒は真っ直ぐな棒であることが好ましい。あるいは、前記積層体内の層の棒または前記積層体内のn番目毎の層の棒は上記の実施形態において記載されているようにジグザグ構造または波形構造を有してよく、一方で他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であることが好ましい。
【0090】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は複数の相互接続層からなる積層体を含んでなり、各層が複数の平行の棒から構成されており、前記積層体内の任意の層Xの平行の棒と前記層Xの後続の層(すなわち、層X+1)の平行の棒が(180/n)°の角度を形成するように前記積層体内の層が配置されており、その場合にnは2から10までの範囲の整数、好ましくは2であり、前記積層体内のある層Yに対してn番目後の層(すなわち、層Y+n)の棒が前記層Yの平行の棒と棒の間の距離の1/m倍の距離だけ前記層Yの棒に対してずらされており、その場合にmは2から5までの範囲の整数、好ましくは2または3、より好ましくは2である。
【0091】
当業者が理解するように、前段落において規定されている三次元スキャフォールド構造体では前記層Xの棒と前記層Xのn番目後の層(すなわち、層X+n)の棒が再度相互に対して平行になる(そこで、当然、前記層の平行の棒が配向する方向と直交する方向の層の平面内にずれが存在することになる)。また、前段落において規定されている三次元スキャフォールド構造体では層Yに対して(n×m)番目後の層の棒が再度層Yの棒と「一致」することになる(すなわち、層Yの棒と層Y+(n×m)の棒が一致することになる。当然、その層内の個々の棒と棒の間の距離が層Y、層Y+n、層Y+2n、層Y+3n等について同じであることを条件とする)。
【0092】
nは2から6までの範囲の整数であることが好ましく、より好ましくは2または3、より好ましくは2である。
【0093】
前記積層体内の層の棒は真っ直ぐな棒であることが好ましい。あるいは、前記積層体内の層の棒または前記積層体内のn番目毎の層の棒は上記の実施形態において記載されているようにジグザグ構造または波形構造を有し、一方で他の全ての層の棒が真っ直ぐな棒であることが好ましい。
【0094】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは下の
図10Bに示されているようなスキャフォールド構造体を有する。
【0095】
従来の設置パターンのFDM製造三次元組織エンジニアリングスキャフォールドを有するインプラントは連続的な棒と支柱を使用している。そのような設置パターンは側面方向の圧縮性を限定する。上記の実施形態において規定される設置パターン(すなわち、ジグザグ構造または波形構造を有する棒を有する層、および/または相互にずれが有る棒を有する層を持つ三次元スキャフォールド構造体)を使用することにより、スキャフォールドの機械的特性、特に、弾性、剛性、柔軟性および圧縮性に対する非常に改善された制御が実現される。
【0096】
従来の三次元スキャフォールド構造体ではそのような特性はスキャフォールド材料としてのエラストマーの使用によってのみ制御され得るが、本発明による三次元スキャフォールド構造体は、スキャフォールドを構築するための材料として剛性または半剛性の材料(ポリカプロラクトンなど)が使用される場合であってもその機械的特性に関して調整可能である。したがって、堅い骨から弾力性のある軟骨、圧縮可能な結合組織まで、あらゆる特定の組織の要求にポリカプロラクトンスキャフォールドを合せることができる。下の
図11に示されているデータから明らかであるように、そのような改変型スキャフォールドは同じパラメーターを用いて作製された従来の設置パターンを有する対照スキャフォールドと比較してより柔軟であり、それらの対照スキャフォールドが耐えるのと同じストレスを耐えることができ、より広範囲の弾性変形を示す。
【0097】
また、三次元スキャフォールド構造体向けに単に弾性材料を使用する従来のアプローチと対照的に、上記のアプローチはインプラントの特定の部分、または特定の角度の機械的ひずみに関してスキャフォールド構造体の機械的特性を精密に調整することを可能にする。例えば、ある特定の方向の棒についてジグザグ構造または波形構造を有する棒を選択することにより、三次元スキャフォールド構造体の機械的特性(柔軟性およびストレス抵抗性など)を特定の角度について特異的に設計することができ、一方で他の角度ではそのスキャフォールド構造体は異なる機械的特性を有することになる。これは三次元スキャフォールド構造体内の空隙の存在が原因である潜在的な構造的弱点および不均衡の補償のために特に重要であり、移動環境内でのインプラント自体に対する損傷リスクも低下させる。また、そのことが腱または関節のような半剛性構造体の置換物として使用され得るインプラントを可能にする。
【0098】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は半剛性生体材料から、好ましくはポリカプロラクトンから形成される。幾つかの実施形態において、前記インプラントの前記三次元スキャフォールド構造体は弾性生体材料から形成されない。
【0099】
幾つかの実施形態において、前記三次元スキャフォールド構造体は形状記憶ポリマー(SMP)から形成される。前記形状記憶ポリマーはその温度が体温に達するか、または体温を超した場合にその恒久的形状に戻ることが好ましい。体温は37℃である。あるいは、前記形状記憶ポリマーはその温度が36℃に達するか、または36℃を超した場合にその恒久的形状に戻る。前記恒久的形状は、移植後にインプラントが採ることを望まれている形状であることが好ましい。
【0100】
本明細書において使用される場合、「形状記憶ポリマー」は、変形可能であるが、ある特定の温度(「トリガー温度」)に達するか、またはその温度を超すとその変形した状態(一時的形状)からその元の形状(恒久的形状)に戻る高分子材料である。本発明において使用される形状記憶ポリマーは、室温で変形可能であるが、トリガー温度(すなわち、37℃の体温、あるいは36℃)に達するか、またはその温度を超すとそれらの形状を所望の形状に変更する材料である。
【0101】
ポリカプロラクトンのような柔軟ではない材料から作製されたインプラントは、そのようなインプラントの挿入に大きな切開部が必要であるため、外科的移植において使用しづらい場合があり得る。体温(37℃のトリガー温度)に達すると元の恒久的形状に戻り、且つ、インプラントが移植後に採ることが望まれている完全に形成された形状に対応する元の恒久的形状を有するSMPスキャフォールド構造体を使用することにより、より小さな切開部を用いる移植が可能になる。そのインプラントのSMPスキャフォールド構造体は単により小さな切開部を必要とする形状に室温で変形され(乳房インプラントの場合では、例えば、ディスク状の形状)、患者の身体に移植される。身体に移植されるとそのSMPスキャフォールド構造体の温度が体温に達するまで上昇する。そのSMP材料のトリガー温度である体温に達すると、そのSMPスキャフォールドはそのインプラントが移植後に有することが実際に望まれている形状であるその元の恒久的形状に戻る(乳房インプラントの場合では、この細長い形状で移植された場合にずっと大きな切開部が必要になっただろう完全に形成された乳房インプラントの折れ曲がった形状)。したがって、SMPスキャフォールド構造体を含むインプラントにより、外科医は移植時の組織損傷の量を減少させることができ、したがって最小限の侵襲的手技の使用を可能にする。
【0102】
第2の態様において本発明は、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントの製造方法であって、
a)空隙を含んでなる三次元スキャフォールド構造体であって、好ましくは生分解性材料からできている前記三次元スキャフォールド構造体を提供するステップ、
b)空間占拠構造体によって占められている空間への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている前記空間占拠構造体を提供するステップ、
c)前記空間占拠構造体が前記空隙を充填するように前記空隙に前記空間占拠構造体を挿入し、除去可能であるように前記空間占拠構造体を前記三次元スキャフォールド構造体に取り付けるステップ
を含んでなり、そうしてインプラントを提供する前記方法に関する。
【0103】
前記インプラント、前記三次元スキャフォールド構造体、前記生分解性材料、前記空隙、前記空間占拠構造体および前記除去可能な取り付けは上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている通りであることが好ましい。
【0104】
前記三次元スキャフォールド構造体は熱溶解積層法(フィラメント溶解製法)、レーザー焼結法または光造形法によって形成されることが好ましい。空隙を含んでなる前記三次元スキャフォールド構造体は、空隙を含まない三次元スキャフォールド構造体を作製し、その後で前記三次元スキャフォールド構造体に空隙を形成することで製造されることが好ましい。あるいは、空隙を含んでなる前記三次元スキャフォールド構造体は、構築過程の完了時に空隙を含んでなる三次元スキャフォールド構造体が得られるような、その三次元スキャフォールド構造体の構築時にそのスキャフォールド構造体内の特定の領域にスキャフォールド構造が作製されない手法によって製造される。
【0105】
第3の態様において本発明は、本発明によるインプラントからの前記空間占拠構造体の除去のための除去ツールであって、除去される前記空間占拠構造体の横断面と同じ形とサイズを有する生検パンチブレードとしてブレードが成形される空間占拠構造体切除用の前記ブレードを備える前記除去ツールであり、切除された前記空間占拠構造体を把持することを可能にする器具をさらに備える前記除去ツールに関する。
【0106】
空間占拠構造体の横断面と同じ形とサイズを有する前記生検パンチブレードは、単に前記空間占拠構造体をしっかりと型抜きすることにより、それらの空間占拠構造体とインプラントのスキャフォールド構造体との間、および/または身体組織との間のあらゆる接続/結合を簡単および正確に切断することを可能にする。切除された空間占拠構造体の把持を可能にする前記器具は、例えば、メカニカルクランプであってよい。あるいは、生検パンチブレードとして成形された前記ブレードは先細り形状を有する空洞の中を進んでよい。空間占拠構造体を型抜くと、その組織からの前記除去ツールの回収時に空間占拠構造体が除去されるように、その空間占拠構造体がその空洞内に入り、そして詰まる。
【0107】
第4の態様において本発明は、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントと上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている除去ツールを含んでなるキットに関する。
【0108】
第5の態様において本発明は、本発明によるインプラントからの強磁性または超常磁性の空間占拠構造体の除去のための除去装置であって、少なくとも1つの磁石、好ましくは少なくとも1つの電磁石を備える前記除去装置に関する。
【0109】
そのような装置は超常磁性または強磁性の空間占拠構造体の次の手順に従う除去のために使用され得る。まず、超常磁性または強磁性の空間占拠構造体を含んでなる本発明によるインプラントを患者の身体の所望の部位に移植する。移植細胞の導入のための空所を作るためにそれらの空間占拠構造体が再度取り除かれなければならなくなると、それらの空間占拠構造体が存在する特定の位置において、上を覆う皮膚、身体組織、およびまだ存在するのならば(生分解性)スキャフォールド構造体に小さな切開を入れ、そうしてそれらの空間占拠構造体を除去するための経路を作る。その後、その領域の上に適切な配向で前記除去装置を下し、少なくとも1つの(電)磁石をそれらの空間占拠構造体の極近くに、好ましくはそれらの空間占拠構造体と直接接触する所へ持っていく。その少なくとも1つの磁石が電磁石である場合、この時点でその電磁石のスイッチを入れる。その少なくとも1つの(電)磁石にそれらの超常磁性または強磁性の空間占拠構造体が付着する程のその少なくとも1つの(電)磁石により発揮される強力な磁力によってそれらの超常磁性または強磁性の空間占拠構造体を引き付ける。患者の身体からの前記除去装置の撤去時にそれらの空間占拠構造体がその除去装置と共に移動し、それらの元の場所から引き出され、患者の身体から除去される。
【0110】
当業者が理解するように、最適性能のためには前記除去装置内の少なくとも1つの(電)磁石の位置と前記インプラント内の空間占拠構造体の位置は一致すべきであり、そうしてその少なくとも1つの(電)磁石がそれらの空間占拠構造体に対して磁力を発揮するために理想的な位置にあることが確実になる。
【0111】
前記除去装置は乳房インプラントからの超常磁性または強磁性の空間占拠構造体の除去のための除去装置であることが好ましい。
【0112】
前記除去装置は前記インプラントの外形に適合するように成形されることが好ましい。例えば、そのインプラントが乳房インプラントである場合、その除去装置は乳房インプラントの半球状の形状を有することになる。これはその除去装置のそのインプラントへの良好な適合を確実にし、そうして発揮される磁力を最大のものにするためにその除去装置の少なくとも1つの(電)磁石とそのインプラント内の超常磁性または強磁性の空間占拠構造体との間の距離が最小になること、好ましくはその除去装置の少なくとも1つの(電)磁石とそのインプラント内の超常磁性または強磁性の空間占拠構造体との間の直接的接触が実現されることを確実にする。
【0113】
第6の態様において本発明は、上記の実施形態のうちのいずれかによるインプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所に移植細胞を導入する手技の間に外科医にフィードバックを返すためのガイド装置であって、前記インプラントの外形に適合する前記ガイド装置であり、前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所と空間的および角度的に合うマーキングおよび/またはガイドホールを備える前記ガイド装置に関する。
【0114】
幾つかの実施形態において、それらのマーキングまたはガイドホールの各々のすぐ隣にある前記ガイド装置の領域には、移植細胞および/または組織を前記インプラント内で可能な限り深く配置することを確実にしながらも注射器があまりに深く入ることを防ぐ下にある空隙のおおよその深度についての詳しい情報が刻印または型押しされている。
【0115】
ガイド装置のガイドホールが空間占拠構造体の除去時に生じた空所と「空間的および角度的に合う」と本出願によって述べられる場合、これは、そのガイド装置が移植部位上で適切な位置および配向になった場合にそのガイドホールが前記空所の延長部を空間的に形成するように前記空所と一列に並ぶ(すなわち、そのガイドホールとその空所が連続するトンネルを形成する)ような位置と配向をそのガイドホールがそのガイド装置内に有していることを意味する。そのガイドホールのこのような構成は、そのガイドホールを介して挿入される中空針が前記空所に到達し得ることを確実にする。
【0116】
前記ガイド装置はそのガイド装置の適切な位置取りのための器具(すなわち、そのガイド装置内のガイドホールとそのインプラント内の空所が一列に並ぶように移植部位におけるそのガイド装置の位置取りを可能にする要素)を含んでなることが好ましい。前記要素は、例えば、そのインプラント内の対応するくぼみに適合する1つ以上の三次元延長部を含んでなり得、またはそのような三次元延長部からなり得、そうして移植部位における前記ガイド装置の明確で適切な配置および配向を確保するための誘導を提供する。
【0117】
前記ガイドホールは前記ガイド装置を完全に貫通していることが好ましい。
【0118】
幾つかの実施形態において、前記ガイド装置は円錐形である。前記ガイドホールは円錐の先端から基部まで前記円錐形のガイド装置を貫いて伸長することが好ましい。前記ガイドホールは、各ガイドホールが空所の延長部を空間的に形成するように(そのガイドホールとその空所が連続するトンネルを形成するように)前記ガイド装置の適切な位置取りによって前記ガイドホールが前記インプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所と一列に並ぶような位置と配向を前記ガイド装置内に有することが好ましい。そのガイド装置およびそれらのガイドホールのこのような構成は、その円錐形のガイド装置の先端部にある開口部を介して挿入される中空針がそのインプラント内の各空所に到達し得ることを確実にする。それらのガイドホールは真っ直ぐでも曲がっていてもよい。曲がったガイドホールを介した移植細胞の注入には柔軟なプラスチック製のカニューレが使用され得る。
【0119】
前記ガイド装置は空所の方向および/または深度、および/または必要な注入(または脂肪配置)の数についてのフィードバックを返すことが好ましい。
【0120】
インプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に生じた空所に移植細胞を導入する手技の間に前記ガイド装置を使用するため、そのインプラントからの前記空間占拠構造体の除去時に、そのインプラントが移植された部位の上に(すなわち、空所を含むそのインプラントの上を覆う皮膚の上に)そのガイド装置が配置される。そのガイド装置は円錐形であり得、その円錐形のガイド装置の先端から基部までそのガイド装置を貫いて伸長するガイドホールであって、そのガイド装置の適切な位置取りによって各々そのインプラント内で空所の延長部を空間的に形成するように角度が調整された前記ガイドホールを有する。そのガイド装置の適切な位置取りは差し込み機構によって確実にされ得る。すなわち、そのガイド装置は、例えば、その円錐形のガイド装置の基部から伸長する1つ以上の延長部を含んでなることができ、そのインプラントは対応する空洞を有し、そしてそのガイド装置の適切で明確な配置および配向をそれらの空洞へのそれらの延長部の挿入によって可能にすることがそれらの延長部/空洞の形状(例えば不等辺三角形の形状)、または異なる延長部/空洞の相互に対する配向のどちらかによって確実になる。それらの移植細胞は、例えば、先端で中空針に接続された注射器、または柔軟なプラスチック製のカニューレによって前記インプラント内の空所に導入され得る。その中空針はその円錐形のガイド装置の先端部にある開口部を介して挿入される。その中空針自体は前記ガイドホールに入るほど充分に細いが、その注射器は太すぎ、したがってその注射器がそれらのガイドホールの中に入ることが妨げられている。それらのガイドホールの特定の角度の配向のため、前記空所に中空針を挿入するための最適な角度が外科医に知られていることがそれらのガイドホールによって確実になる。また、それぞれのガイドホールの長さとそのガイドホールと一列に並ぶ空所の長さを併せた長さの少し下の長さを有する中空針を使用することにより、そのガイドホールを介したその空所へのその中空針の挿入時にその中空針がその空所の底に触れずにその空所の底の近くにまで達することが確実になり得る。そうしてそのガイド装置は、空所への移植細胞の導入のためにどの配向でどれ位深く中空針を挿入するべきかについて外科医にフィードバックを返す。
【0121】
第7の態様において本発明は、患者の身体における組織再建のための方法であって、次のステップ、すなわち、
a)生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントを計画された組織再建の部位において前記患者の前記身体に移植するステップ、
b)結合組織および/または宿主血管系が前記三次元スキャフォールド構造体に進入すること、および/または移植時に前記三次元スキャフォールド構造体によって占拠されていた空間に侵入することを可能にするために充分な期間の後、好ましくは6〜8週間後に移植細胞を計画された組織再建の部位に導入するステップ
を順番に含んでなる前記方法に関する。
【0122】
ステップa)において移植される前記インプラントの前記三次元スキャフォールド構造体は空隙を含んでいないことが好ましい。
【0123】
前記患者、前記インプラント、前記スキャフォールド構造体、前記生分解性材料、前記移植細胞および前記空隙は上記または下記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている通りであることが好ましい。
【0124】
第8の態様において本発明は、患者の身体における組織再建のための方法であって、次のステップ、すなわち、
a)三次元スキャフォールド構造体、好ましくは生分解性材料からできている三次元スキャフォールド構造体を含んでなるインプラントであって、前記三次元スキャフォールド構造体が空隙を含んでなり、そして除去可能であるように前記三次元スキャフォールド構造体に取り付けられており、且つ、前記空隙内への組織の侵入および/または個々の細胞の侵入を防止するように構成されている空間占拠構造体で前記空隙が充填されている前記インプラントを計画された組織再建の部位において前記患者の前記身体に移植するステップ、
b)結合組織および/または宿主血管系が前記スキャフォールド構造体に進入すること、および/または前記三次元スキャフォールド構造体が生分解性材料からできている場合では移植時に前記生分解性スキャフォールド構造体によって占拠されていた空間に侵入することを可能にするために充分な期間の後に前記(生分解性)スキャフォールド構造体内の前記空隙から(または培養期間の間に前記生分解性スキャフォールド構造体に置き換わった組織から)前記空間占拠構造体を除去し、そうして空間占拠構造体で充填されていない空所を形成するステップ、
c)ステップb)において形成された空間占拠構造体で充填されていない前記空所に移植細胞を導入するステップ
を順番に含んでなる前記方法に関する。
【0125】
前記インプラント、前記三次元スキャフォールド構造体、前記生分解性材料、前記空隙、前記空間占拠構造体および前記除去可能な取り付けは上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている通りであることが好ましい。
【0126】
前記培養期間は4〜12週間の範囲内であることが好ましく、より好ましくは6〜8週間の範囲内である。
【0127】
前記患者は組織再建を必要とする患者であることが好ましい。
【0128】
幾つかの実施形態において、前記患者は哺乳類動物、好ましくはヒトである。
【0129】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞である。当業者が理解するように、注入した細胞に対する免疫反応を回避するためにそれらの注入細胞は好ましくは患者と同じ種の細胞であるべきであり、患者の免疫系による(強い)拒絶反応を回避するために好ましくはその患者の細胞と遺伝的に充分に近い細胞であるべきである。
【0130】
本明細書において使用される場合、「移植細胞」という用語は組織再建が望まれる部位での組織再建のために導入される所望の細胞型の細胞(または幾つかの異なる所望の細胞型の細胞の組合せ)を指す。上で記載されたように、本発明の背景において移植細胞は空間占拠構造体の除去時に生じた空所にそれらの移植細胞を導入することにより組織再建部位に送達されることが典型的である。移植細胞は幹細胞(多能性または単能性)、始原細胞(前駆細胞とも呼ばれる)または(完全)分化細胞であり得る。その用語には個々の細胞(すなわち、物理的に相互結合していない細胞)および物理的に相互結合している細胞群(組織内に配置されている細胞など)が含まれる。幾つかの実施形態において、その用語は個々の細胞を指すだけであり、物理的に相互結合している細胞群を指さない。幾つかの実施形態において、その用語は物理的に相互結合している細胞群を指すだけであり、個々の細胞を指さない。移植細胞は同じ個体の身体内の異なる部位から移植される細胞か、または患者とは異なる個体の身体から移植される細胞のどちらかであり得、または移植細胞は生物の外側で作製された細胞、例えば細胞/組織培養系において作製された細胞であり得る。
【0131】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は分化細胞である。本明細書において使用される場合、「分化細胞」という用語は特殊な機能および形態を有する細胞(例えば、脂肪細胞、筋肉細胞等)を指す。分化細胞は幹細胞能を有さず、したがって自己新生とさらなる分化の能力を欠いている。分化細胞の例には表皮細胞、膵臓実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、スキャフォールド筋細胞、骨細胞、筋細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞等が含まれる。
【0132】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は心筋細胞、膵臓由来の細胞、または軟骨細胞である。
【0133】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は脂肪吸引によって得られた細胞の混合物である。脂肪吸引によって得られた細胞の混合物は次のように調製され、再建部位に導入され得る。まず、脂肪を得る予定の部位に非常に小さな切開を入れ、複数の穿孔を有する先の鈍い針と特別な吸引器を使用して脂肪を吸引する。この脂肪を濾過して脂肪細胞から血液、油および局所麻酔薬を分離する。それらの細胞が導入される部位に最少量の局所麻酔薬を注入し、その後で非常に細いカニューレを使用して脂肪細胞を注入する。非常に少量の脂肪だけがそのカニューレを通過するごとに注入される。この様に、移植された脂肪は周囲の組織と接し、したがって栄養血管まで最小の距離にある。この様にして脂肪移植物の生存が最大化される。
【0134】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前駆細胞である。本明細書において使用される場合、「前駆細胞」はある特定の細胞型にさらに分化する能力を有する、または特定の機能を実行する性質を獲得する能力を有する未分化細胞または部分的分化細胞を指す。したがって、その用語は特定の細胞系譜の前駆体である単能性の未分化細胞または部分的分化細胞を指す。前駆細胞の例は胸腺細胞、巨核芽球、前巨核球、リンパ芽球、骨髄前駆細胞、正常赤芽球、血管芽細胞(内皮前駆細胞)、骨芽細胞、スキャフォールド筋芽細胞、骨髄系前駆細胞、筋肉に見られる衛星細胞、および神経前駆TA細胞(transit amplifying neural progenitor)である。
【0135】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は脂肪組織由来前駆細胞(APC)、骨髄由来前駆細胞、骨膜由来始原細胞および臍帯由来前駆細胞である。
【0136】
幾つかの実施形態において、前記インプラントは組織再建用のインプラントであり、前記移植細胞は再建される組織の細胞、または再建される組織の細胞の前駆細胞である。
【0137】
本発明において使用される移植細胞は前記患者に関して自家起源(自己起源)の細胞でも前記患者に関して異種起源(非自己起源)の細胞でもよい。免疫拒絶反応の可能性を考慮すると自家起源の細胞が好ましい。拒絶反応が問題を引き起こさない場合、異種起源の細胞を用いてもよい。
【0138】
前記移植細胞は同一遺伝子型(遺伝的に同一)でも異質遺伝子型(遺伝的に異なっている)でもよい。免疫拒絶反応を考慮すると同一遺伝子型細胞が好ましい。拒絶反応が問題を引き起こさない場合、異質遺伝子型細胞、好ましくは移植を可能にするほど遺伝的にまだ充分に同一であり、免疫学的に適合性がある(すなわち、強い免疫学的拒絶反応が起こらない)異質遺伝子型細胞を用いてよい。
【0139】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者の免疫系によって拒絶されないように選択される。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関しての自家細胞である。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者の細胞または前記患者に由来する細胞である。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関して同一遺伝子型である。
【0140】
幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関しての異種細胞である。幾つかの実施形態において、前記移植細胞は前記患者に関して異質遺伝子型である。
【0141】
第9の態様において本発明は、患者の身体から空間占拠構造体を除去する方法であって、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントの一部である空間占拠構造体として前記空間占拠構造体が前記患者の身体に導入された前記方法であり、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている除去ツールを使用する前記空間占拠構造体の除去を伴う前記方法に関する。
【0142】
第10の態様において本発明は、患者の身体から強磁性または超常磁性の空間占拠構造体を除去する方法であって、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されているインプラントの一部である空間占拠構造体として前記強磁性または超常磁性の空間占拠構造体が前記患者の身体に導入された前記方法であり、上記の実施形態のうちのいずれかにおいて規定されている除去装置を使用する前記空間占拠構造体の除去を伴う前記方法に関する。
【0143】
次に添付図面を参照して本発明を説明する。