特許第6773670号(P6773670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6773670鉄道車両用ブレーキライニングおよびそれを備えたディスクブレーキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773670
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】鉄道車両用ブレーキライニングおよびそれを備えたディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
   B61H 5/00 20060101AFI20201012BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20201012BHJP
   F16D 69/00 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B61H5/00
   F16D65/092 C
   F16D65/092 D
   F16D69/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-546561(P2017-546561)
(86)(22)【出願日】2016年10月19日
(86)【国際出願番号】JP2016080921
(87)【国際公開番号】WO2017069140
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-207153(P2015-207153)
(32)【優先日】2015年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】坂口 篤司
(72)【発明者】
【氏名】宮部 成央
(72)【発明者】
【氏名】大塚 智広
(72)【発明者】
【氏名】金森 成志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 純
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−129874(JP,A)
【文献】 特開2006−194429(JP,A)
【文献】 特開2000−145848(JP,A)
【文献】 特開昭59−200825(JP,A)
【文献】 特開2012−251597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
B61H 1/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に押し付けられるブレーキライニングであって、
表面が前記ブレーキディスクの前記摺動面と対向する複数の摩擦構造体と、
前記摩擦構造体のそれぞれの裏面に固着された裏板と、
前記摩擦構造体を支持する基板と、
前記摩擦構造体の裏面側で、前記基板と前記裏板のそれぞれとの間に介装された弾性部材と、を備え、
前記摩擦構造体のそれぞれは、前記表面に形成された溝を挟んで隣接する一対の摩擦部と、前記溝に対応して設けられ、前記摩擦部よりも厚さが薄い薄肉部と、を含み、
前記摩擦構造体のそれぞれは、二箇所で前記基板に支持されており、前記摩擦構造体の支持点は、前記一対の摩擦部の各々にあり、
平面視において、前記裏板の輪郭は、当該裏板に固着された前記摩擦構造体の輪郭と重なり、
前記摩擦部の幅方向に関する前記薄肉部の長さは、一定であり、且つ前記摩擦部の最大幅と同じであり、前記薄肉部の前記長さをDとし、前記一対の摩擦部の支持点間距離をLとしたとき、L/Dが1.1以上である、鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキライニングであって、
前記薄肉部の平面形状が矩形である、鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項3】
鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクの摺動面に押し付けられる、請求項1または2に記載のブレーキライニングと、を備えた、ディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の制動装置として用いられるディスクブレーキに関する。特に本発明は、車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に押し付けられるブレーキライニング、およびそれを備えた鉄道車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両、自動車、自動二輪車などの陸上輸送車両の高速化および大型化が進展している。これに伴い、車両の制動装置としてディスクブレーキが用いられることが多い。ディスクブレーキは、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摺動による摩擦により制動力を得る装置である。
【0003】
鉄道車両用のディスクブレーキの場合、ドーナツ形円板状のブレーキディスクが車輪または車軸に取り付けられて固定される。このブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによってブレーキライニングが押し付けられることにより、制動力が発生する。これにより、車輪または車軸の回転が制動され、動いている車両が減速する。
【0004】
ディスクブレーキによる制動時、「ブレーキ鳴き」と呼ばれる騒音が発生する。ブレーキ鳴きは次の原理によって発生すると考えられる。制動時にブレーキライニングがブレーキディスクに押し付けられたとき、ブレーキライニングとブレーキディスクとの摩擦により、ブレーキユニット全体が「自励振動」と呼ばれる不安定な振動を生じる。自励振動は振幅の増大した振動である。外部からの定常的なエネルギが系の内部で加振エネルギに変わり、この加振エネルギが自身を加振する。これにより、自励振動が発生する。ブレーキ鳴きを低減するには、制動時の摩擦により発生する自励振動を抑制する必要がある。
【0005】
特開2002−340056号公報(特許文献1)には、ピストンによってパッドをブレーキディスクに押し付けるように構成されたディスクブレーキが開示されている。このディスクブレーキでは、パッドがブレーキディスクに押圧されるときの摩擦抵抗により、ブレーキディスクの回転方向下流側であるトレーリング側(接触終了側)にパッドが移動する。これにより、ピストンのパッドへの接触面積が、ブレーキディスクの回転方向上流側であるリーディング側に比べて、ブレーキディスクの回転方向下流側であるトレーリング側で大きくなる。特許文献1には、このような構成により、自励振動を抑制してブレーキ鳴きを抑制できる、と記載されている。
【0006】
特開2011−214629号公報(特許文献2)には、基板と、複数の摩擦部材と、を備えたブレーキライニングが開示されている。各摩擦部材は、弾性部材を介して基板に取り付けられている。弾性部材の支持剛性は、基板上の摩擦部材の位置によって異なる。特許文献2では、このような構成により、ブレーキ鳴きを抑制できる、と記載されている。
【0007】
特開2012−251597号公報(特許文献3)には、基板と、複数の摩擦部材と、を備えたブレーキライニングが開示されている。図1は、特許文献3に開示されたブレーキライニングの構造を示す平面図である。このブレーキライニング32では、各摩擦部材33は、弾性部材を介して基板36に取り付けられている。各摩擦部材33は、その中心部を含む領域で基板36に支持されている。隣接する2つの摩擦部材33は、裏板34で連結されている。各摩擦部材33の平面形状は円形であり、複数の摩擦部材33の直径は互いにほぼ同じである。
【0008】
裏板34は、平面視で摩擦部材33とほぼ同じ大きさおよび形状を有する円板部と、これら2つの円板部を連結する連結部と、を有する。連結部の幅(裏板34の長手方向に直交する方向の長さ)は、円板部の幅より小さい。したがって、裏板34は、全体として、長手方向の中間部でくびれた形状を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−340056号公報
【特許文献2】特開2011−214629号公報
【特許文献3】特開2012−251597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された技術が、ディスクブレーキが備えられた既存の車両に適用される場合、ブレーキライニングだけでなく、ブレーキライニングに押付力を付与するブレーキキャリパを取り替える必要があり、ディスクブレーキ全体の設計に影響が及ぶ。このため、この技術を既存の車両へ適用することは、非常に困難である。
【0011】
また、特許文献2のブレーキライニングの構成では、弾性部材の支持剛性を、基板上の位置により変更する必要がある。このため、製造管理が煩雑となる。
【0012】
特許文献3のブレーキライニング32において、2つの摩擦部材33が裏板34により連結されているのは、各摩擦部材33の回転を抑えること、および個々の摩擦部材33の摩擦係数の変動を抑えることが目的である。特許文献3では、ブレーキ鳴きを低減するための検討はなされていない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、摩擦係数を安定化することができ、容易にブレーキ鳴きを低減することができる鉄道車両用ブレーキライニング、およびそれを備えたディスクブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態によるブレーキライニングは、鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に押し付けられるブレーキライニングである。ブレーキライニングは、表面がブレーキディスクの摺動面と対向する複数の摩擦構造体と、摩擦構造体のそれぞれの裏面に固着された裏板と、摩擦構造体を支持する基板と、摩擦構造体の裏面側で、基板と裏板のそれぞれとの間に介装された弾性部材と、を備える。摩擦構造体のそれぞれは、表面に形成された溝を挟んで隣接する一対の摩擦部と、溝に対応して設けられ、摩擦部よりも厚さが薄い薄肉部と、を含む。摩擦構造体のそれぞれは、二箇所で基板に支持されており、摩擦構造体のそれぞれの支持点は、一対の摩擦部の各々にある。平面視において、裏板の輪郭は、当該裏板に固着された摩擦構造体の輪郭と重なる。摩擦部の幅方向に関する薄肉部の長さは、一定であり、且つ摩擦部の最大幅と同じである。薄肉部の長さをDとし、一対の摩擦部の支持点間距離をLとしたとき、L/Dが1.1以上である。
【0015】
本発明の実施形態によるディスクブレーキは、鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクと、ブレーキディスクの摺動面に押し付けられる上記のブレーキライニングと、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によるブレーキライニング、およびこのブレーキライニングを備えたディスクブレーキは、摩擦係数を安定化することができ、ブレーキ鳴きを低減することができる。また、本発明の実施形態によるブレーキライニングを既存の車両に適用することは容易であり、そのブレーキライニングの製造管理は容易である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、従来のブレーキライニングの平面図である。
図2A図2Aは、本発明の一実施形態によるブレーキライニングの平面図である。
図2B図2Bは、図2Aに示すブレーキライニングに備えられた摩擦構造体の平面図である。
図2C図2Cは、図2AのIIC−IIC断面図である。
図3図3は、本発明例、ならびに比較例1および2の最大鳴き指標を示す図である。
図4図4は、比較例3および4の最大鳴き指標を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らの調査により、図1に示す構造を有する従来のブレーキライニング32では、大きなブレーキ鳴きが生じることが判明した。また、ブロック39全体の剛性を高くすることにより、摩擦特性を安定化でき、ブレーキ鳴きを低減できることが見出された。ブロック39は、1組の摩擦部材33と、当該1組の摩擦部材33の裏面に配置された裏板34と、からなる。ただし、ブロック39の剛性を高くすることによるブレーキ鳴き低減の効果は、摩擦部材33の最大幅(直径)に対する1組の摩擦部材33の支持点間距離の比が、ある程度大きい場合にのみ得られた。
【0019】
本実施形態によるブレーキライニングは、このような知見に基づいて完成したものである。つまり、ブレーキライニングは、表面がブレーキディスクの摺動面と対向する複数の摩擦構造体と、摩擦構造体のそれぞれの裏面に固着された裏板と、摩擦構造体を支持する基板と、摩擦構造体の裏面側で、基板と裏板のそれぞれとの間に介装された弾性部材と、を備える。摩擦構造体のそれぞれは、表面に形成された溝を挟んで隣接する一対の摩擦部と、溝に対応して設けられ、摩擦部よりも厚さが薄い薄肉部とを含む。摩擦構造体のそれぞれは、二箇所で基板に支持されており、摩擦構造体のそれぞれの支持点は、一対の摩擦部の各々にある。平面視において、裏板の輪郭は、当該裏板に固着された摩擦構造体の輪郭と重なる。摩擦部の幅方向に関する薄肉部の長さは、一定であり、且つ摩擦部の最大幅と同じである。薄肉部の前記長さをDとし、一対の摩擦部の支持点間距離をLとしたとき、L/Dが1.1以上である。
【0020】
本実施形態によるディスクブレーキは、鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクと、ブレーキディスクの摺動面に押し付けられる上記のブレーキライニングと、を備える。
【0021】
以下に、本発明の鉄道車両用ディスクブレーキについて、その実施の形態を詳述する。図2A図2Cは、本発明の一実施形態によるブレーキライニングを示す図である。図2Aは、ブレーキライニングの平面図を示す。図2Bは、このブレーキライニングに備えられた摩擦構造体の平面図を示す。図2Cは、図2AのIIC−IIC断面図を示す。図2Aは、ブレーキライニングを、表面側となるブレーキディスク側から見た状態を示している。
【0022】
本実施形態のディスクブレーキは、図2Cに示すように、ブレーキディスク1と、ブレーキライニング2と、を備える。ブレーキライニング2は、図示しないブレーキキャリパに取り付けられる。ブレーキディスク1は、平面視において、ドーナツ形円板状である。ブレーキディスク1は、図示しない車輪または車軸に、ボルトなどによって強固に固定される。
【0023】
ブレーキキャリパは、制動時に作動し、ブレーキライニング2をブレーキディスク1の摺動面1aに押し付ける。これにより、ブレーキディスク1とブレーキライニング2との間に摺動による摩擦が生じ、制動力が発生する。こうして、ディスクブレーキは、車輪または車軸の回転を制動し、動いている車両を減速する。
【0024】
ブレーキライニング2は、複数の摩擦構造体3と、摩擦構造体3のそれぞれに対応して設けられた裏板4および弾性部材5と、これらの全てを保持する基板6と、を含む。摩擦構造体3のそれぞれは板状である。複数の摩擦構造体3は、基板6の表面上に互いに隙間を隔てて配置される。摩擦構造体3のそれぞれの表面は、ブレーキディスク1の摺動面1aと対向する。摩擦構造体3は、たとえば、銅焼結材、樹脂系材料、鉄系焼結材などからなる。
【0025】
図2Bおよび図2Cに示すように、摩擦構造体3の表面には、その表面を横断するように溝3bが形成されている。摩擦構造体3は、一対の摩擦部3Mと、薄肉部3Cと、を含む。一対の摩擦部3Mは、溝3bを挟んで隣接する。薄肉部3Cは、一対の摩擦部3Mの間に、溝3bに対応して設けられる。薄肉部3Cの厚さは、摩擦部3Mの厚さよりも薄い。摩擦部3Mおよび薄肉部3Cは、たとえば、同じ材料からなる。摩擦構造体3は、摩擦部3Mおよび薄肉部3Cのいずれの部分でも、裏板4に固着されている。摩擦構造体3は、裏板4により、補強されている。
【0026】
平面視において、本実施形態の摩擦構造体3の輪郭形状は、2つの半円と、この2つの半円の端点で共通接線をなす2本の平行線と、で囲まれたオーバルトラック形状である。したがって、摩擦構造体3の側部は直線状である。そのため、摩擦構造体3において、薄肉部3Cの長さは、薄肉部3Cの領域内でほぼ一定であり、且つ摩擦部3Mの最大幅とほぼ同じである。また、摩擦部3Mにおいて薄肉部3Cに隣接する部分の幅は、ほぼ一定であり、且つ摩擦部3Mの最大幅とほぼ同じである。ここで、摩擦部3Mの幅とは、一対の摩擦部3Mの配列方向に直交する方向の長さを意味する。薄肉部3Cの長さとは、摩擦部3Mの幅方向に沿う長さ(すなわち、一対の摩擦部3Mの配列方向に直交する方向の長さ)を意味する。長さまたは幅が「一定」とは、当該長さまたは幅が一対の摩擦部3Mの配列方向の全域にわたり実質的に変化しないことをいう。
【0027】
摩擦部3Mのそれぞれの平面形状は、矩形と、この矩形の一辺の中点を中心とする半円とを組み合わせた形状である。薄肉部3Cの平面形状、すなわち溝3bの平面形状は、この実施形態では、横長の矩形である。溝3bは、摩擦構造体3の側部とほぼ垂直に交わる。
【0028】
摩擦部3Mのそれぞれの平面形状は、図2Aおよび図2Bに示すような上述の形状に限られず、たとえば、多角形でもよい。基板6上に設けられる摩擦構造体3の個数は、特に限定されない。
【0029】
図2Aおよび図2Cに示すように、各摩擦部3Mの中央部には、摩擦部3Mを、その厚さ方向に貫通する小孔3aが形成されている。裏板4には、小孔3aに対応する位置に貫通孔が形成されている。この小孔3aおよび貫通孔には、リベット7が挿入されている。このリベット7により、摩擦部3Mおよび裏板4は、基板6に取り付けられている。つまり、摩擦構造体3は、その2箇所(摩擦部3Mの中央部)で、基板6に支持されている。
【0030】
各摩擦部3Mの裏面側において、裏板4と基板6との間には、弾性部材5が介装されている。弾性部材5は、リベット7の周りに設けられている。これにより、各摩擦部3Mは、弾性的に支持された状態になっている。図2Cでは、弾性部材5として、皿ばねを例示している。弾性部材5として板ばねやコイルばねを採用してもよい。
【0031】
図2Bを参照して、1つの摩擦構造体3において、摩擦部3Mの最大幅をDとし、一対の摩擦部3Mの支持点間距離をLとした場合、L/Dは1.1以上である。ここで、「支持点」とは、摩擦部3Mを基板6上に支持する部材(この実施形態では、リベット7)の摩擦部3Mの表面上における中心点をいう。最大幅Dは、たとえば45mmであり、長さLは、たとえば50mmである。
【0032】
摩擦構造体3および裏板4は、外力が加えられたときに、変形可能である。裏板4が摩擦構造体3に固着されていることにより、摩擦構造体3と裏板4とからなるブロック9は、実質的に一体的に変形する。摩擦構造体3において、溝3bが形成されていることにより、薄肉部3Cは摩擦部3Mに比べて薄くなっている。そのため、摩擦構造体3は薄肉部3Cで屈曲して変形しやすい。これにより、制動時、ブレーキディスク1に対するブレーキライニング2(摩擦部3M)の接触面圧を均一化することができる。
【0033】
図1に示す従来のブレーキライニング32において、1組の摩擦部材33は、一体の部材としては形成されていない。これに対し、図2A図2Cに示す摩擦構造体3は、上述のように、2つの摩擦部3Mが、それらの間に位置する薄肉部によって一体に形成されたものである。また、平面視において、従来のブレーキライニング32では、裏板34は、長手方向の中間部でくびれを有する。これに対し、図2A図2Cに示すブレーキライニング2では、裏板4は、そのようなくびれを有していない。さらに、摩擦構造体3もくびれを有していない。つまり、摩擦構造体3の薄肉部3C付近の部分は、ほぼ一定の幅を有する。
【0034】
このような構成により、図2A図2Cに示すブロック9(摩擦構造体3および裏板4)の剛性は、従来のブレーキライニング32におけるブロック39の剛性に比べて高い。その結果、制動開始時点の走行速度によらず、ブレーキディスク1とブレーキライニング2との間の摩擦係数を安定化することができる。さらに、ブロック9の剛性が高いことにより、ブレーキ鳴きが低減する。ブロック9の剛性を高くすることによるブレーキ鳴き低減の効果は、L/Dが1.1以上であれば明確に得られる。
【0035】
ブレーキライニング2の接触面圧を均一化する効果を十分に得るためには、摩擦部3Mの厚さに対する溝3bの深さの比は、0.06以上であることが好ましく、0.33以上であることがより好ましい。ブロック9の剛性を高くしてブレーキ鳴きを低減する効果を十分に得るためには、摩擦部3Mの厚さに対する溝3bの深さの比は、0.90以下であることが好ましく、0.84以下であることがより好ましい。摩擦構造体3が使用により摩耗していない初期の状態において、摩擦部3Mの厚さは、たとえば5〜15mmであり、溝3bの深さは、たとえば1〜12mmである。
【0036】
ディスクブレーキの使用に伴い、摩擦部3Mは摩耗する。摩擦部3Mがブレーキディスク1の摺動面1aに擦りつけられるからである。摩擦部3Mが、その表面から所定の深さレベルまで(たとえば、リベット7の上面より1mm浅いレベルまで)摩耗すると、その摩擦部3Mを有する摩擦構造体3は取り替えられる。摩擦部3Mが上記所定の深さレベルまで摩耗した時点で、摩擦部3Mの厚さに対する溝3bの深さの比が上記の要件を満たすことが好ましい。
【0037】
摩擦構造体3は、2本のリベット7によって基板6に締結されている。そのため、制動中に摩擦構造体3が回転することはない。これにより、摩擦構造体3と基板6との締結部に緩みが生じることを抑制できる。仮に、それらの締結部に緩みが生じた場合であっても、2箇所の締結部が同時に破損しない限り、摩擦構造体3が落失することはない。したがって、ディスクブレーキの十分な耐久性および信頼性を確保することができる。
【0038】
また、各摩擦部3Mは、リベット7の位置を支点にして弾性支持されている。そのため、制動中に各摩擦部3Mがブレーキディスク1と接触し可動しても、基板6に対して大きく傾くことはない。したがって、ブレーキディスク1に対する摩擦部3Mの接触面は、全域にわたって均一に摩耗する。そのため、摩擦部3Mに偏摩耗が発生することはない。
【0039】
このブレーキライニング2が、ディスクブレーキが備えられた既存の車両に適用される場合、たとえば、摩擦構造体またはブロックを本実施形態の要件を満たすものに交換すれば足り、ブレーキキャリパ等を変更する必要はない。また、このブレーキライニング2では、弾性部材5の支持剛性は、基板6上の位置によって変更する必要はない。したがって、このブレーキライニング2を既存の車両に適用することは容易であり、ブレーキライニング2の製造管理は容易である。
【実施例】
【0040】
本実施形態による効果を確認するため、表1に示す複数の形態のブロック(裏板および摩擦構造体)をそれぞれ備えたブレーキライニングについて、鳴き指標を評価した。鳴き指標は、FEM(有限要素法)による解析結果から求めた。具体的には、まず、FEM複素固有値解析により、周波数毎に振動の減衰比を算出した。そのうち、負の値のもの、すなわち不安定なものを、1/3オクターブバンドの周波数幅毎に合計し、その絶対値を求めた。各バンドの値のうち、最大のものを抽出し、これを最大鳴き指標とした。最大鳴き指標の値が小さいほど、ブレーキ鳴きの音は小さい。
【0041】
【表1】
【0042】
本発明例および比較例のいずれについても、摩擦構造体は一体とした。摩擦構造体のうちで「くびれなし」としたものは、上記したように、平面視において、直線的な側部を有し、くびれを有さないものであった。摩擦構造体のうちで「くびれあり」としたものは、図1に示す裏板34の形状のように、幅が長手方向の中間部で最も小さくなるようにくびれたものであり、これ以外は、「くびれなし」とした摩擦構造体と、同じ形状および大きさを有するものであった。
【0043】
比較例2を除くいずれの裏板も、平面視において、摩擦構造体と輪郭が重なるものとした。裏板のうちで「くびれなし」としたものは、平面視において、「くびれなし」とした摩擦構造体と同じ形状および大きさを有するものであった。裏板のうちで「くびれあり」としたものは、平面視において、「くびれあり」とした摩擦構造体と同じ形状および大きさを有するものであった。比較例2の裏板は、平面視において、くびれ部を除き、摩擦構造体と輪郭が重なるものとした。
【0044】
いずれの摩擦構造体の溝も、図2Bに示すように、平面視において矩形であり、摩擦部材の両側部に垂直に形成されたものとした。
【0045】
図3に、本発明例(L/Dが1.11のもの)、ならびに比較例1および2の最大鳴き指標を示す。ただし、図3では、最大鳴き指標として、比較例1の最大鳴き指標の値を基準の1としたときの比を示している。
【0046】
比較例2の最大鳴き指標は、比較例1の最大鳴き指標に比べて低減された。これは、裏板のくびれをなくすことにより、最大鳴き指標が低減されたことを示している。本発明例の最大鳴き指標は、比較例2の最大鳴き指標に比べて低減された。これは、摩擦構造体のくびれをなくすことにより、最大鳴き指標が低減されたことを示している。
【0047】
以上の結果は、L/Dが1.11(1.1以上)である場合に、裏板および摩擦構造体からなるブロック全体の剛性を高くすることにより、最大鳴き指標が低減されることを示している。
【0048】
図4に、比較例3および4(L/Dが1.06のもの)の最大鳴き指標を示す。ただし、図4では、最大鳴き指標として、比較例3の最大鳴き指標の値を基準の1としたときの比を示している。図4に示すように、比較例4の最大鳴き指標は、比較例3の最大鳴き指標より大きかった。これは、裏板および摩擦構造体のくびれをなくしても、最大鳴き指標は低減されず、むしろ、大きくなることを示している。この結果は、L/Dが1.06(1.1未満)である場合に、裏板および摩擦構造体からなるブロック全体の剛性を高くしても、最大鳴き指標が低減されないことを示している。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の鉄道車両用ブレーキライニング、およびそれを備えたディスクブレーキは、あらゆる鉄道車両に有効に利用することができる。特に、そのブレーキライニングおよびディスクブレーキは、走行速度が低速から高速までの広範となる高速鉄道車両に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 ブレーキディスク
1a 摺動面
2 ブレーキライニング
3 摩擦構造体
3b 溝
3C 薄肉部
3M 摩擦部
4 裏板
5 弾性部材
6 基板
7 リベット
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4