特許第6773685号(P6773685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773685
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】衛星軌道離脱システム
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/34 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   B64G1/34
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-558787(P2017-558787)
(86)(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公表番号】特表2018-504326(P2018-504326A)
(43)【公表日】2018年2月15日
(86)【国際出願番号】EP2016052177
(87)【国際公開番号】WO2016124593
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2019年1月9日
(31)【優先権主張番号】1550828
(32)【優先日】2015年2月3日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517271142
【氏名又は名称】アリアネグループ・エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ラッス,バンジャマン
(72)【発明者】
【氏名】ダミアーノ,パトリス
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0218448(US,A1)
【文献】 特開昭58−112899(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02897842(FR,A1)
【文献】 特表2013−512819(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0190160(US,A1)
【文献】 特開平05−024596(JP,A)
【文献】 米国特許第05669586(US,A)
【文献】 米国特許第03635425(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第02122965(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星(100)を安定化及び軌道離脱させるための装置であって、
前記衛星は、空力制動セイルを形成する少なくとも1つの薄膜を各々が保持する2つのマスト(10、11)を有し、前記2つのマストは、同一面に配置されかつ非平行軸に沿って前記衛星に固定され、前記2つのマストの間の角度は固定され、前記2つのマストは、前記衛星に固定される端部の反対側の端部に重力傾斜をもたらす主要部(m)を各々備え、この重力傾斜から生じる重力傾斜トルクによって前記2つのマストの間の角度の二等分線(12)が、何れの高度においても、衛星速度ベクトルと同一直線上にあるに構成されることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記2つのマストの各々は、パネル(13、13’、14、14’)状の2つの薄膜を保持し、前記2つのマストの各々が保持する前記2つの薄膜は、前記空力制動セイルを形成するためにV字の形に配置されている、請求項1に記載の衛星安定化及び軌道離脱装置。
【請求項3】
前記パネル(13、13’、14、14’)は、矩形であり、その長辺の1つは、前記マストに固定される、請求項2に記載の衛星安定化及び軌道離脱装置。
【請求項4】
同一マスト上の前記パネルは、その間に、70〜110°の角度を有する、請求項2または3に記載の衛星安定化及び軌道離脱装置。
【請求項5】
前記2つのマストの各々に形成された字状の前記空力制動セイルは、開口する側がいずれも前記二等分線に向くように形成されている、請求項2〜4の内、何れか一項に記載の衛星安定化及び軌道離脱装置。
【請求項6】
セイルを保持する2つのマスト間の二等分線は、前記衛星の慣性マトリクスの軸の第1システムの軸であり、かつ、前記二等分線に沿った慣性Iは、前記軸の第1システムの他の2つの軸上の慣性値の間にある、請求項1〜5の内、何れか一項に記載の安定化装置を有する衛星。
【請求項7】
マストをサイジングすると共に、請求項6に記載の衛星の主要部m及び角度αを決定する方法であって:
軌道計算ツールを用いて、選択された時間内での前記衛星の軌道離脱を可能とするのに必要かつ十分な最小有効空力制動セイル領域を決定すること;
前記領域を、角度2αをその間に有する長さLの同一面に配置される2つのマストを横切る様に決定される領域に分割すること;
各マストの端部に、主要部mを配置すること;
一組のマストを、前記衛星上の任意の位置に位置決めすること;
軸の衛星システムを、そのZ軸が、2つのマスト間の角度の二等分線となる様に、選択すること;
そのマトリックスの対角化に従った前記衛星の慣性マトリクスを計算すること;
a 軸の衛星第1システムのZ軸もまた、前記マストの二等分線であり;
b 前記軸の衛星第1システムのZ軸上の慣性Iは、前記軸の衛星第1システムの他の2つの軸上の値Iminimum及び値Imaximum間の中間値IIntermediateを有する;
様に、前記マストを設置するための位置、前記マストの長さ、主要部m、及び角度αを変更する逐次反復法により、前記手法を再生すること:
前記解決手段の安定性を確保しつつ、すなわち、採用された値周辺におけるパラメータの僅かな変動が、セイルを有する衛星の姿勢を変更させることなく、前記セイルの全質量を最小化可能とする、主要部m、前記マストの長さ、及び角度αの値を選択すること
のステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、軌道離脱(デオービット)衛星のための空力制動構造の分野に属し、その目的のためのシステムを提供する。
【0002】
衛星の分野においては、衛星の運用年数の終了や、計画的または予期しない運用の終了後に、軌道からの衛星の除去をオペレータ(操作者)に要求する際の適正実施の規則または基準がますます増えつつある。
【0003】
本願発明は、より具体的には、衛星の運用終了後に、2000km以上のいわゆる“墓地”軌道内に軌道離脱または送信されなければならない、2000km以下のいわゆる低地球軌道にある衛星に関する。更に、本運用は、25年未満で達成されなければならない。
【背景技術】
【0004】
現在、軌道離脱位置に衛星を移動させるために、高質量の専用軌道離脱システムを搭載することなく、あるいは、搭載されたヒドラジンの大部分(約30%)を使用することなく、上記要件を満たすことのできる衛星は存在しない。
【0005】
軌道離脱運用の可能な様々な解決手段の中には、空力制動セイル(帆)、すなわち、低地球軌道内に存在する残留大気を、対象物を制動及び減速させるための空力減速装置として使用し、その結果として、その軌道の高度を低下させる表面もあった。
【0006】
上記種類の解決手段は、衛星を軌道離脱させる運用に特化したものである。
【0007】
これらの表面は、航空宇宙産業において周知である超軽量構造、クモの巣構造、または、“極薄”構造を利用する。
【0008】
空力制動の原理は、例えば、空力制動構造を用いた軌道離脱の原理に関し、かつ、空力制動セイルを形成する一組のパネルを各々が保持する2つのマストを有する衛星を記載するフランス特許出願公開第2897842A1号明細書、及び、上記の様なセイルを製造するための技術的解決手段を記載するフランス特許出願公開第2897843A1号明細書等に開示されている。上記2つの文献は、空力制動構造の有効性及び衛星の安定性の間における関連性を強調すると共に、衛星の安定性を保ちつつ効果的な空力制動を維持するための解決手段を提案するものである。このことは、時折、空力制動構造を過大評価してしまう原因となるが故に、衛星の質量平衡を圧迫する。
【0009】
かかる問題は、軌道離脱セイルの展開後は、衛星の軌道離脱の期間を通じて衛星を能動状態に維持することは、経済的な理由(最大25年もの期間その機能を実行することのない衛星を制御することは採算が合わない)及び技術的な理由(運用の終了時には、もはや稼働可能な如何なる推進力または制御エネルギーも存在しない)の双方から、もはや可能でないために生じる。
【0010】
上記とは反対に、その使命を果たした衛星を“不動態化”すること、すなわち、突然反応し得る如何なるエネルギー源も除去し、その結果として、特に、バッテリが空にされ、推進剤タンクが空にされ、慣性車輪が停止されることは規則である;これは、爆発が生じた際に軌道内に破片が生成される危険性を抑制するためである。
【0011】
最終的に、衛星の姿勢は、その姿勢及び軌道制御システム(AOCS)によっては、制御不能となり、かつ、衛星がそれ自体を中心に回転することを防止する手段は無くなる。
【0012】
しかしながら、軌道離脱段階における衛星の姿勢は、空力制動領域を調整するために重要である。
【0013】
このとき、軌道離脱セイルの分野においては、2つの手法が考えられる:
【0014】
1つは、等方性手法である。展開された表面は、衛星の姿勢が如何なる場合でも、厳密に同一の空力領域を有し、上記展開は、例えば:図1に示す様な球体1の展開、または、衛星の姿勢のモンテカルロ分析に従った平均空力領域の考慮である。
【0015】
1つは、不動態手段により、すなわち、空気力、重力、または他の方法により安定化される好適な姿勢を考慮する手法である。例えば、衛星は、円盤状セイル2が展開された図2における衛星101に関し、不動態手段により、すなわち、重心の相対位置、及び、制動力付与の中心(速度ベクトルと一直線上の重心及び制動中心)により、安定化可能である。
【0016】
1つ目の手法を用いると、展開領域に対する有効空力領域の比率は、最適化されない。なぜなら、十分な制動領域を得るためには、より大きな領域、多くの場合3倍の大きさの領域、(これ故に、より複雑な)例えば、フランス特許出願公開第2897842A1号明細書に示される様な、球体または複雑な形状を展開する必要があるからである。
【0017】
2つ目の手法を用いると、高高度における最適な位置は、空力の焦点を、重心の後部に向かって速度ベクトルと一直線上になる様に、単に位置決めするのみで、安定化することは困難である。実際には、残留圧力は、地球からの距離が増加するに連れて、極めて低くなり、また、空気力は、摂動力(重力傾斜、太陽圧、磁気トルク、セイルの変形、衛星のスピン)と比較して小さくなる。
【0018】
従って、高高度においては、衛星の姿勢は、かなり変動する可能性があり、空力制動によっては安定化することはできない;空力制動セイルはもはや、空力制動セイルの有効性を有意に減少させる、他の装置を制動及び欠如するための最適な位置に保持することはできない。
【0019】
大気密度は、モデリングされており、例えば、米海軍研究試験所製のNRLMSISE−00モデル、COSPAR(宇宙研究委員会)製のCIRAモデルまたはJacchiaモデル(L.G.Jacchia、スミソニアン天体物理観測所の特別報告N°375、1977)等の、(高層及び低層の)大気の算定基準または経験的モデルに使用可能なものが存在する。
【0020】
上述のモデルを用いると、例えば、CNES製のステラツール等の適切なツールを使用することにより、衛星の初期高度、並びに、より一般的には衛星の初期軌道パラメータ、衛星の質量、及び、衛星の(寄与する)有効面積の作用として、衛星の軌道離脱を算出及び予測することが可能である。
【0021】
図3は、700kmをわずかに上回る高度における準円軌道からの、5m2の一定の平均面積を有する285kgの衛星に関する軌道離脱曲線の一例を示す。
【0022】
軌道離脱は、太陽活動のピーク時に加速する高度の低下により、約30年以内に生じる。
【0023】
しかしながら、図3は、不動態軌道離脱の最長期間が、その高度より上では残留大気が実際に極めて希薄であるという事実を反映する、約600kmよりも高い高度において生じることも示す。
【0024】
実際には、上記高度よりも上での軌道離脱セイルの質量有効性を最大化すると共に、この様な目的を達成するために、上記の安定性に関して空力制動の有効性を欠くにも拘らず、セイルの表面が可能な限り、軌道の接線に対して常に垂直であることを可能とする、衛星の安定した姿勢を保証することが、極めて重要である。
【0025】
セイルの有効性に関する上記の要件が全ての高度において適用され、これにより、低い高度においても、空気力に依存して衛星の安定的かつ最適化された姿勢を保証することが可能であることに留意すべきである:実際には、衛星の軌道離脱に関しての衛星の最適な姿勢は、セイルを、“風”ひいては軌道の接線に対して可能な限り垂直に維持するという問題であるため、全ての高度において同一である。
【0026】
更に、重力傾斜により衛星を安定させることが知られている。かかる周知の技術は、月が、地球に対して常に同一の面を向けている理由を説明する物理現象に基づくものである。
【0027】
この様な安定性は、地球周回軌道にある対象物が均質な密度を有さない場合に、その最も高密度な部分が最も地球に近接する様に対象物を適応させる傾向にある重力場の変動のために、対象物が復元トルクを受け易いという事実に起因する。
【0028】
上述の効果は、例えば、衛星に対し、その主要部が配置される端部にビームを付与することにより、衛星をその軌道内に安定させるために使用されている。システムが良好に設計されている場合には、衛星Sは、地球の中心を通過する方向に位置するビームPにより、衛星S自体を平衡に保ち易い。該衛星は、図4に示す様に、地球、及び、その反対側の質量Mに最も接近する。
【0029】
当然のことながら、実際の状況はもう少し複雑であり、安定性の問題も存在する。衛星の質量及び軌道に応じた、特に、ビーム長の適切な選択、及び、端部に配置された主要部により、上述の問題点を抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】フランス特許出願公開第2897842A1号明細書
【特許文献2】フランス特許出願公開第2897843A1号明細書
【発明の概要】
【0031】
本願発明の目的は、空力制動セイルを形成するパネルを保持する2つのマストを有する衛星の不動態安定化であり、特に、高度650kmより上だけでなく下においても、展開領域に対する有効空力領域の比率を最適化し、これにより、エネルギーを消費することなく衛星の高度を有意に低下可能な様に、何れの高度においても空力制動を最大化可能とする好適な姿勢におけるこの種の空力制動セイルの展開後に、不動態安定化することである。これに関連し、本願発明は、高高度での重力傾斜安定化、及び、低高度での空力安定化を組み合わせることにあり、これら2つの方法が、衛星が何れの高度にある場合でも、該衛星を同一の姿勢に維持することを可能とする。
【0032】
この様な目的を達成するために、本願発明は、空力制動セイルを形成する少なくとも1つの薄膜を各々が保持する一組の共平面マストを有する衛星を安定化及び軌道離脱させるための装置を提案する。上記マストは、非平行軸に沿って衛星に固定され、各マストは、マスト間の二等分線により、重力傾斜を生成すると共に上記マストが形成する主要部を有して、衛星に固定されたその端部に向かって、その反対側の端部上に設けられる。固定角は、何れの高度においても、上記二等分線を衛星速度ベクトルと同一直線上にする様に、構成される。
【0033】
各マストは、好適には、空力制動セイルを形成するためにV内に配置されたパネル状の2つの薄膜を保持する。
【0034】
各マストは、好適には、空力制動セイルを形成するためにV字状に配置されたパネル状の2つの薄膜を保持する。
【0035】
1つの特定の実施形態によれば、同一マスト上の上記パネルは、その間に、70〜110°の角度を有する。
【0036】
上記Vは、好都合には、2つのマストについて同一方向を有する。
【0037】
上記2つのマストの各々に形成された字状の前記空力制動セイルは、好都合には、開口する側がいずれも前記二等分線に向くように形成されている
【0038】
本願発明は更に、マストをサイジング(定寸)すると共に、マスト端部の主要部、マスト間の角度、及び、衛星のマストの二等分線を決定する方法であって:
軌道計算ツールを用いて、選択された時間内での衛星の軌道離脱を可能とするのに必要かつ十分な最小有効空力制動セイル領域を決定すること;
上記領域を、角度2αをその間に有する長さLの2つの共平面マストを横切る様に決定される領域に分割すること;
各マストの端部に、主要部mを配置すること;
一組のマストを、上記衛星上の任意の位置に位置決めすること;
軸の衛星システムを、そのZ軸が、2つのマスト間の角度の二等分線となる様に、選択すること;
そのマトリックス(行列)の対角化に従った上記衛星の慣性マトリクスを計算すること;
a 上記軸の衛星第1システムのZ軸もまた、上記マストの二等分線であり;
b 上記軸の衛星第1システムのZ軸上の慣性Izは、上記軸の衛星第1システムの他の2つの軸上の値Iminimum及び値Imaximum間の中間値IIntermediateを有する;
様に、上記マストを設置するための位置、上記マストの長さ、主要部m、及び角度αを変更する逐次反復法により、上記手法を再生すること:
上記解決手段の安定性(ロバスト性)を確保しつつ、すなわち、採用された値周辺におけるパラメータの僅かな変動が、セイルを有する衛星の姿勢を変更させることなく、上記セイルの全質量を最小化可能とする、主要部、上記マストの長さ、及び角度αの値を選択すること
のステップを含む方法を提案する。
【0039】
本願発明の他の特徴及び効果は、図面を参照して示される、本願発明の限定されない1つの実施形態についての以下の記載を読むことにより、明らかとなるであろう:
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は:従来技術に係る球状の空力制動構造の第1の例を示す図である;
図2図2は:従来技術に係る空力制動構造の第2の例を示す図である;
図3図3は:代表的な軌道離脱曲線を示す図である;
図4図4は:衛星に適用された重力傾斜原理を示す図である;
図5図5は:本願発明に係る衛星を示す図である;
図6図6A〜6Cは:高高度における角度の3つの範囲に応じた重力傾斜安定位置にある衛星の図である;図6D〜6Fは:低高度における図6A図6Cに示す角度の3つの範囲に応じた空力制動安定位置にある衛星の図である;
図7図7は:進行方向にある衛星の背面図である;
図8図8は:本願発明において使用可能なマストの一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本願発明が解決を提案する課題は、衛星が、衛星の軌道の軸に垂直な平面内の空力制動領域を高高度において最大化可能とする安定姿勢をとる必要があることである。
【0042】
本願発明に係る装置の動作原理は、その端部に主要部mを有し、かつ、地心から距離DTにある軌道O内のマストを備える衛星Sに関して図4に図示した様な重力傾斜に基づく。
【0043】
本願発明の様々な実施形態を理解するためには、3つの軸のシステムを規定することが適切である
“軸の局所軌道システム”と呼ばれる、衛星の重心における、衛星の軌道に関連した軸のシステム;
“軸の衛星システム”と呼ばれる、衛星の重心における、衛星の形状及びその特性を記述するために用いられる、衛星に関連した軸の第1システム;
“軸の衛星第1システム”と呼ばれる、再び衛星の重心における、衛星に関連した軸の第2システム。
【0044】
図4は、軸の局所軌道システムを示し:
上記軸は、地心を衛星の重心に接続する軸L(衛星のヨーは、該軸に関連する)を含む。
【0045】
上記軸は、衛星の軌道に接線方向である軸R(衛星のロールは、該軸に関連する)を含む。
【0046】
上記軸は、他の2つの軸に垂直である軸T(衛星のピッチは、該軸に関連する)を含む。
【0047】
空力制動セイルが、可能な限り効果的であるためには、軸が許容可能な回転中にも、軸Rに対して垂直な平面内に十分に存在しなければならない。
【0048】
上記軸の衛星システムは、その中心が、衛星の重心に配置され、かつ、簡易な方法により衛星の形状を描写するために使用される、任意の軸のシステムである。図5において、例えば、立法形状の衛星に関し、軸の衛星システムは、各軸が、衛星の表面の1つに対して垂直となる様に、選択されている;ここで、上記軸のシステムは、2つのセイル10、11の二等分線が、上記軸のシステムのZ軸となる様にも、選択されている。
【0049】
このとき、上記軸のシステムにおいては、衛星の質量分布の作用として、衛星の慣性マトリクスを計算することが可能である。
【0050】
(xi,yi,zi)が、衛星の主要部miの点の座標である場合、上記軸の衛星システムにおいては、慣性マトリクスは、通常、以下の様に記述される:
【0051】
【数1】
【0052】
座標(X,Y,Z)を有する点を含む上記軸の衛星第1システムは、衛星の慣性マトリクスの第1方向を求めることにより、得られる。上記軸の衛星システムから回転により推定される、上記軸のシステムにおいて、衛星の重心における慣性マトリクスは、以下の種類の対角行列である:
【0053】
【数2】
【0054】
慣性値IX、IY、IZは、一般的に異なるため、次の値Iminimum<IIntermediate<Imaximumに従って、分類されるものとしてもよい。
【0055】
上述した、上記軸の衛星第1システム内の衛星の対角慣性マトリクスIdを考慮すると、衛星の姿勢の重力傾斜安定化のための周知の条件は、以下の事実に反映される:
上記慣性値がIIntermediateである軸の慣性第1システムの軸は、上記軸の局所軌道システムの軸Rと一直線上にある;
上記慣性値がImaximumである軸の上記慣性第1システムの軸は、上記軸の局所軌道システムの軸Tと一直線上にある;
上記慣性値がIminimumである軸の上記慣性第1システムの軸は、上記軸の局所軌道システムの軸Lと一直線上にある。
【0056】
換言すれば、重力傾斜の効果のために、衛星は、上述した安定姿勢に到達するまで、傾斜している。
【0057】
これにより、重力傾斜は、安定した姿勢を有する衛星の位置に向けて、復元トルクを生成する。平衡位置からの振動は、タンク及び空気抵抗内の残留流体を動く(スロッシングする)柔軟付属物(マスト、セイル)により、自然に減衰して消失する。
【0058】
図5に示す様に、衛星100は、衛星上においてマストの配置された平面Pに垂直な直線部分12に対して角度αを有する、2つの共平面マスト10、11を有する;直線部分12は、2つのマスト10、11間の角度の二等分線である。
【0059】
本願発明は、重力傾斜安定姿勢及び空力安定姿勢を一致させることにより、高度に依存する衛星の姿勢の変化及び安定性の欠如に関連する有効性の損失を回避する。
【0060】
マスト10、11を調整可能なパラメータは、角度αである:衛星上においてマストの配置された平面に垂直なマストの展開角、マストの長さL、マスト端部にある主要部mは、重力傾斜を生成する。
【0061】
衛星の所与の慣性値を用いて、角度α、マストの長さ、及びマスト端部の主要部の作用として、衛星の3つの安定構成を得ることが可能である。図6A図6Cを参照すると、マストの展開角度の3つの範囲は、高高度における3つの重力傾斜安定位置に対応する:
図6Aの位置は、マストが、地心の方向DTとは反対方向に上向きである第1角度範囲α1であり;
図6Bの位置は、マストが、衛星の進行方向Vとは反対方向に向けられた第2角度範囲α2であり、上記マストを含む平面が、地球の方向DTに向けられ;
図6Cの位置は、衛星の進行方向Vに対して傾斜し、かつ、地心の方向DTに対して傾斜した平面内のマストに関する第3角度範囲α3である。
【0062】
図6D図6Fを参照すると、低高度においては、空力制動のために、3つの新たな安定姿勢が得られる。図6D図6Fにおいて、マストは、衛星の進行方向から衛星の後方へ向けられている。
【0063】
図6Bの第2範囲のみが、図6Eの空力位置と同一である、高高度での安定姿勢を保証することができ、他の2つの範囲は、それぞれ、図6A図6Cの重力安定化形態、及び、図6D図6Fの空力安定化形態間におけるティッピングを引き起こすことが認められる。
【0064】
所与のマスト長及び所与の衛星慣性に関し、適切な選択が為されると、これにより、角度αは、空力及び重力の傾斜形態の一致を実現することが可能となる。
【0065】
マストの長さLは、展開された空力領域、及び重力傾斜トルクを固定可能とする。
【0066】
マスト端部にある主要部mは、衛星の姿勢を安定化させる重力傾斜トルクを調整可能とする。
【0067】
図5Aに図示されたミリアドクラスの代表的な衛星100a、並びに、0.6m×1mかつ質量183kgの2つの小さなソーラーパネルp1、p2を有するが空力制動セイルを有さない、1m×1m×0.6mの平行6面体状の本体を構成する、衛星100aの大きさ及び質量を考慮しつつ、第1慣性軸X、Y、Zは、ソーラーパネルの方向にX軸を有し、上記パネルを含む平面に垂直な方向にZ軸を有し、他の2つに垂直な方向にY軸を有する様に、凡そ図示されている。
【0068】
上記軸のシステムにおいて、このとき、衛星の第1慣性マトリクスは、以下の通りである:
【0069】
【数3】
【0070】
この場合、重力傾斜の効果のために、衛星の安定姿勢は、軸Rと一直線上のZ軸ではなく、軸Rと一直線上のY軸に関し、かつ、2つのソーラーパネルは、空力制動効果を有さない。
【0071】
ここで、本願発明に係る衛星100は、4.90mの長さを有すると共に、各々がその自由端に1.8kgの主要部mを保持し、かつ、各々が長さ4.9m、幅0.6mの600gのセイルを保持する、図5Bに示す様な2つのマスト10、11を有するものとする。
【0072】
上記軸の局所軌道システム内の異なる平衡位置は、Z軸に沿ったマスト間の二等分線12に対するマストの展開角度αの変化により、区別される。
【0073】
【表1】
【0074】
上記表は、上記軸の衛星第1システム内の角度αの異なる値についての衛星軸に関する代表的な慣性を示す。上記軸の第1システムは、空力制動セイルのために、図5Aに示す軸の幾何学システムに対する、Z軸を軸とする回転を受ける。衛星の軌道に対するロール方向の上記回転は、衛星の制動に関する問題を有さないため、計算に際して無視される。
【0075】
上記表は、高高度において、3つの起こり得る状況が存在することを示す:
低角度αは、軌道上の衛星の速度軸に平行な衛星のX軸であり、図4における軸Rに相当する;
中間角度は、軸Rに平行なZ軸である;
高角度は、軸Rに平行なY軸である。
【0076】
より網羅的な計算は、高高度において、展開角度αに応じて、3種類の衛星姿勢を識別可能であることを示す。これらの姿勢は、一定のマスト長、マスト端部及びセイル領域における質量値に関し、図6A図6Cに示される。
【0077】
上述した様に、図6D図6Fは、上記部分に関し、同一条件下において、空力抵抗効果に起因する低高度での衛星の姿勢を示す。
【0078】
従って、2つの角度の値α1及びα2が、セイルを有する衛星の3つの異なる挙動をもたらす範囲を規定することが、計算により明らかとなる:
α<α1について:図6A及び図6Dに示す様に、空力形態に移行する際に、衛星のティッピングが存在する;
α1≦α<α2について:図6B及び図6Eに示す様に、衛星は、高高度及び低高度において、同一の安定姿勢を維持するであろう;
α2≦αについて:図6C及び図6Fに示す様に、衛星は、ヨー軸に対する新たな方向を設定されるであろう。
【0079】
上記衛星データに関し、α1=33°、α2=62°が成立する。
【0080】
従って、上記二等分線に対するマストの傾き角度は、α1及びα2の間(本実施例に係る衛星については33°及び62°)から選択される。これにより、上記角度が大きくなる程、大きな空力領域が存在することとなるため、上記角度を最適化することにより、高高度における重力傾斜位置を、低高度における空力位置に一致させることが可能となる。
【0081】
最終的に、選択された実施例に係る衛星の場合、47.5°のマスト展開角が採用されており、このことが、不確実な慣性に対して、安定性の裕度を保証することを可能とする。
【0082】
このとき、平衡位置にある有効空力領域は、6.94m2である。同一の“ミリアド”ファミリー衛星、同一の付加質量、並びに、同一のマスト及び薄膜において、比較対象の従来技術に係る解決手段では、姿勢は安定せず、また、平均空力領域は5.1m2に過ぎない。本願発明は、搭載質量を増加させることなく、衛星の空力領域を36%増加可能とする。
【0083】
図7は、マスト10、11、及び展開されたパネル13、13’、14、14’を有する安定した衛星100を示す。パネルは、周知の方法により薄膜により設けられ、空力制動セイルを形成する。図7において、衛星は、その軌道に対して後方から見られる。展開マスト及び空力制動薄膜は、可膨張性マスト、例えば、図8に示す様な圧力上昇により硬化されるポリイミドアルミニウム積層板マスト120に基づいて、製造される。空力制動システムの構造は、2つのマスト10、11、及び、4つの空力制動薄膜13、13’、14、14’から成る:各セイルは、Z軸に対する衛星の如何なる振動も考慮する様に、最適化される。
【0084】
この様な種類の軌道離脱システムは、850km未満の軌道に有る何れの低軌道衛星上においても、軌道離脱の目的で、設置されるものとしてもよい。なぜなら、上記高度の大気は、非常に希薄であるため、衛星を十分に減速させることができず、空間要求に適合する時間内に衛星を停止させるための能動装置を必要とするからである。
【0085】
また、衛星毎に、角度α1及びα2、マストの長さ、マスト端部の質量、セイルの面積が、例えば、上述した様な計算により、適合されなければならないことは明らかである。
【0086】
本願発明に係るマストの大きさ、主要部m、及び、角度αを決定するための方法は、以下の通りである:
周知の軌道計算ツールは、例えば、限定されない一例としてのCNES(フランス国立宇宙研究センター)製のステラツールにより、セイル、すなわち、選択された時間内での衛星の軌道離脱を可能とするのに必要かつ十分な空力制動セイルの軌道に垂直な突起の最小有効面積を、決定するために使用される;上記時間は、当該技術分野における適正実施の法律及び規約によれば、最大25年である;
上記面積が決定されると、該面積は、その間に角度2αを有する、長さLの2つの共平面マストの間で分割される;
主要部mは、各マストの端部に配置される;
一組のマストは、衛星上の任意の位置に配置される;
上記軸の衛星システムは、そのZ軸が、2つのマスト間の角度の二等分線となる様に、選択される;
衛星の慣性マトリクスは計算され、その後、対角化される;
上記手法は、上記マストを設置するための位置、上記マストの長さ、主要部m、及び角度αを変更する逐次反復法により、以下の様に再生される:
a 上記軸の衛星第1システムのZ軸もまた、上記マストの二等分線であり;
b 上記軸のシステム内の慣性Izは、中間値IIntermediateを有する;
上記解決手段の所定の安定性を確保しつつ、すなわち、採用された値周辺におけるパラメータの僅かな変動が、セイルを有する衛星の姿勢を変更させることなく、上記セイルの全質量を最小化可能とする、主要部m、上記マストの長さ、及び角度αの値が、選択される。
【0087】
これらの条件下において、本願発明に係る方法によれば、Z軸は、重力傾斜の作用による高高度、及び、セイルに付与される空気力の作用による低高度において、衛星の速度ベクトルと一直線上にある。
【0088】
本願発明に係る方法は、一例として示した計算及び衛星の特徴に限定されず、特に、地球低軌道(LEO)にある500kg以下の衛星に適用されるものとしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8