特許第6773731号(P6773731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773731
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】三相交流モータのための制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20201012BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20201012BHJP
   H02P 3/20 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   H02P25/22
   H02P27/08
   H02P3/20 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-135774(P2018-135774)
(22)【出願日】2018年7月19日
(65)【公開番号】特開2019-37122(P2019-37122A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2018年7月20日
(31)【優先権主張番号】10 2017 118 342.6
(32)【優先日】2017年8月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100098914
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】トマス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】デレク ヘルケ
【審査官】 大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−201199(JP,A)
【文献】 特開2007−160218(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0009101(US,A1)
【文献】 国際公開第2017/187536(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
H02P 3/20
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の三相交流モータを制御するための方法(1)であって、前記三相交流モータは、回転可能に取り付けられた回転子と、コイルの第1のグループ(6)およびコイルの第2のグループ(7)を含む固定子とを有し、前記コイル(5)のそれぞれは、交流を用いる作動時に振動磁場を生成する、方法(1)において、
前記交流の位相は、前記コイルの第1のグループ(6)の前記磁場の重ね合わせが、回転方向(8)に回転する回転磁場を生成し、および前記コイルの第2のグループ(7)の前記磁場の重ね合わせが、前記回転方向(8)と逆に回転する回転磁場を生成するように選択されて、前記車両用の他の加熱機構の無い状態で、前記交流から、熱と前記モータの回転運動用の運動エネルギーとの両方を生成し、
生成された熱は前記車両の加熱/冷却システムに供給され
前記コイルの第1のグループ(6)を作動させるための前記交流は、一定の第1の振幅を有し、前記コイルの第2のグループ(7)を作動させるための前記交流は、一定の第2の振幅を有し、および前記第1の振幅と前記第2の振幅との比は、少なくとも2つの異なる値に設定され得ることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法(1)を実施するための三相交流モータおよびインバータからなるシステムであって、前記三相交流モータは、回転可能に取り付けられた回転子と、コイルの第1のグループ(6)およびコイルの第2のグループ(7)を含む固定子とを有し、前記コイル(5)のそれぞれは、前記インバータによって生成される交流を用いる作動時に振動磁場を生成し、前記交流の位相は、前記コイルの第1のグループ(6)の前記磁場の重ね合わせが、回転方向(8)に回転する回転磁場を生成し、および前記コイルの第2のグループ(7)の前記磁場の重ね合わせが、前記回転方向(8)と逆に回転する回転磁場を生成するように選択され、前記システムは、前記コイル(5)が、請求項1に記載の方法に従って意図された通りに作動され得るように設計される、システム。
【請求項3】
前記インバータは、パルス幅変調により、印加された直流電圧から前記交流を生成する、請求項に記載のシステム。
【請求項4】
前記三相交流モータは、前記回転子の回転運動を阻止するために使用され得る装置を有する、請求項またはに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流モータを制御するための方法であって、三相交流モータが、回転可能に取り付けられた回転子と、コイルの第1のグループおよびコイルの第2のグループを含む固定子とを有し、コイルのそれぞれが、交流を用いる作動時に振動磁場を生成する、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三相交流モータは、従来技術から様々な実施形態で知られている。それらの全てに共通しているのは、前記三相交流モータにおいてコイルが固定子内に配置されることである。前記コイルは、各コイルの周りに振動磁場が生成されるように位相オフセット交流を用いて動作される。ここで、コイルの幾何学的配置構造および関連する位相は、全てのコイルの磁場が重ね合わされて、回転子にトルクを及ぼす回転磁場を生成するように選択される。
【0003】
上記の場合、一般的な設計は、3つの相を有する三相交流モータである。三相交流モータでは、コイルは、コイルによって生成される磁場が互いに120°の角度で配置され、および関連する位相が互いに120°ずらされるように固定子に配置される。ここで、個々の振動磁場が重ね合わされて回転磁場を生成する。この回転磁場では、磁場の振幅は、一定のままであり、かつ印加された三相交流の周波数で回転する。コイルおよび関連する位相の一般的な幾何学的配置構造から、結果として生じる回転磁場を決定するために使用され得る計算方法は、文献(例えば、(非特許文献1))から当業者に周知である。
【0004】
多くの場合、主電圧源によって直流電圧が供給される。この直流電圧は、最初に、インバータによって必要な交流電圧に変換されなければならない。そのような状況は、特に、例えば電気自動車の場合のようにバッテリによって給電される電気モータで生じる。この変換の一般的な設計には、所望の交流電圧がパルス幅変調によって生成されることが含まれる。電圧プロファイルの形状ならびにその位相および周波数は、適宜に変調器を制御することによって広範囲で制御して設定され得る。
【0005】
さらなるモデルは、6つの位相を有する三相交流モータである。このために、文献(特許文献1)、(特許文献2)、および(特許文献3)では、回転磁場を生成するための2組の三相巻線およびインバータを有する設計を開示している。文献(特許文献4)では、モータで生成されたトルクを制御するためにインバータによって6つの位相が生成される電気モータを開示している。文献(特許文献5)では、6つの位相で動作され得る2組の三相巻線を有する電気モータを扱っている。
【0006】
これらの実施形態は、できるだけ効率良く電気エネルギーを運動エネルギーに変換するように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007120520号明細書
【特許文献2】国際公開第2014132385号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2014207858号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第20090033251号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第20160365821号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Rolf Fischer,“Elektrische Maschinen”[Electric Machines],Section4.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、電力が意図されたように完全にまたは部分的に熱に変換される制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、三相交流モータを制御するための方法であって、三相交流モータは、回転可能に取り付けられた回転子と、コイルの第1のグループおよびコイルの第2のグループを含む固定子とを有し、コイルのそれぞれは、交流を用いる作動時に振動磁場を生成し、交流の位相は、コイルの第1のグループの磁場の重ね合わせが、回転方向に回転する回転磁場を生成し、およびコイルの第2のグループの磁場の重ね合わせが、その回転方向と逆に回転する回転磁場を生成するように選択される、方法によって実現される。
【0011】
この方法により、電気エネルギーが熱に変換される割合およびモータの回転運動を駆動する割合が制御して設定され得るように、モータコイルの作動を構成することが可能になる。結果的に、有利には、別個の加熱機構を必要とすることなく熱を発生させることが可能である。車両では、発生した熱は、次いで、例えば加熱/冷却システムに供給され得る。
【0012】
コイルの空間的配置構造およびコイルに関連する交流の時間的応答を分かりやすく述べるために、以下の本文では次のように仮定する。すなわち、コイルの配置構造に関して進行方向が規定され、それにより、この進行方向において、コイルによって生成された磁場の向きで所定の角度シーケンスが形成され、およびコイルに関連する交流の位相で同様に所定の位相角シーケンスが形成されると仮定する。位相角が進行方向において互いに正にずらされるとき、すなわち各位相がその前の位相よりも時間的に先行するとき、進行方向と逆に回転する回転磁場が生成される。対照的に、位相角が進行方向において互いに負にずらされるとき、進行方向に回転する回転磁場が生成される。この場合、前記進行方向の規定は任意であり、記述を分かりやすくするために基準系を提供するためのものにすぎない。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、従来技術から知られている六相モータを動作させるための方法が使用される。この方法では、6つの交流は、それぞれ互いに60°ずらされ、かつそれぞれの場合に互いに60°の角度ステップで配置された6つのコイルを動作させる。本発明による作動を実現するために、6つのコイルが2つのグループに分けられる。それにより、各グループ内のコイルは、それぞれ互いに120°回転されて配置される。ここで、本発明による制御システムに関して、第1のグループの作動を変えず、第2のグループの位相シーケンスを逆にすれば十分である。結果的に、第2のグループにより、第1のグループの回転磁場に対して逆方向に回転する回転磁場が生成される。全ての交流の振幅が等しい場合、2つの回転磁場によって逆のトルクが回転子に及ぼされる。前記2つの回転磁場は互いに打ち消し合う。したがって、電力は運動に変換されず、代わりに熱に変換される。
【0014】
本発明のさらなる実施形態は、上記の六相システムの一般化によって得られる。この場合、2n個のコイルが互いに180°/nの等しい角度ステップで配置され、かつそれぞれの場合にn個のコイルの2つのグループに分けられる。それにより、各グループのコイルは、互いに360°/nの角度ステップで配置される。第1のグループのコイルは、互いに正に位相シフトされる交流を用いて動作される。一方、第2のグループのコイルは、互いに負に位相シフトされる交流を用いて動作される。さらに上で述べた六相モータの動作は、この場合、n=3の特殊な場合に対応する。
【0015】
さらに、複数のコイルが同じラインに属し、かつそれに従って同じ交流を用いて作動される本発明の実施形態も可能である。これにより、n個のコイルの幾何学的配置構造およびm(≦n)個の関連する位相角が得られる。n個のコイルは、やはり2つのグループに分けられる。これらのグループは、必ずしも同じ数のコイルを備えていない。2つのグループの結果として生じる磁場が逆方向に回転するように交流をコイルに割り当てる可能性は、体系的に説明するのは困難であるが、冒頭で挙げた計算方法により、当業者によって容易に決定され得る。
【0016】
本発明のさらなる実施形態によれば、2つのグループは、第1のグループ内では互いに正に位相シフトされ、かつ第2のグループ内では互いに負に位相シフトされる交流を用いて作動される。この場合、交流の振幅は、それぞれ1つのグループ内では同一であるが、2つのグループ間では異なる。結果的に、逆方向に回転する2つの回転磁場が生成される。第1および第2の磁場の強度は、それぞれの場合に経時的に一定であり、向きが周期的に変化する。しかし、この場合、第1の回転磁場は、第2の回転磁場よりも高いまたは低い磁場強度を有する。重ね合わせ中、2つの回転磁場のトルクは互いに打ち消し合わず、代わりにその差の残留トルクを生成する。一方、電力の一部は熱に変換される。2つの回転磁場のそのような重ね合わせの場合、一般にいわゆる楕円回転磁場が生成される。この楕円回転磁場は、一定の速度で回転し、かつ結果的に残留トルクを発生させる。しかし、この回転磁場の磁場振幅は時間と共に変化し、それにより、残留トルクのパルスプロファイルが生じる。
【0017】
本発明のさらなる実施形態は、コイルの一般的な数nが、それぞれm個の振幅を有するm(≦n)個の交流を用いて動作される一般化から得られる。この場合も、2つのグループにより、逆回転する磁場を生成するように電流およびコイルを互いに割り当てる可能性は、簡潔に述べることはできないが、冒頭で挙げた計算方法により、当業者によって決定され得る。
【0018】
本発明のさらなる主題は、請求項1に記載の制御方法を実施するための三相交流モータおよびインバータからなるシステムである。本制御方法の全ての実施形態は、本発明によるシステムを用いて実施され得る。結果的に、このシステムも、対応する箇所で述べたそれぞれの実施形態の利点を有する。
【0019】
本発明による三相交流モータおよびインバータからなるシステムの好ましい実施形態によれば、インバータは、直流電圧を供給され、かつ直流電圧から、パルス幅変調により、互いに位相オフセットされた複数の交流電圧を生成するように設計される。次いで、本発明によれば、前記交流電圧がコイルに印加される。それにより、コイルの第1のグループのそのようにして生成された磁場が重ね合わされて、第2のグループの回転磁場と逆方向に回転する回転磁場を生成する。
【0020】
さらに好ましい実施形態によれば、インバータは、生成された交流電圧の振幅および位相が可変に設定され得るように設計される。結果的に、誘導された磁場が重ね合わされて所望の総磁場を生成するように、意図された通りに互いに調整される電圧プロファイルによってコイルが作動される一般的な制御方法が実現され得る。
【0021】
本発明による三相交流モータおよびインバータからなるシステムのさらに好ましい実施形態によれば、三相交流モータは、回転子の回転運動を阻止するために使用され得る装置を有する。この装置の可能な形態は、例えば、ブレーキまたはロックブレーキである。結果として、有利には、回転運動を機械的に防止することが可能である。それにより、制御方法によって正確にトルクのバランスが取られない場合にも、電力が熱にのみ変換され、追加の運動が発生しない。
【0022】
本発明のさらなる詳細、特徴、および利点は、図面および図面に基づく好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。この場合、図面は、本発明の例示的な実施形態を示すものにすぎず、本発明の概念を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来技術による一実施形態による、6つの位相を有する三相交流モータの制御システムを概略的に示す。
図2】本発明の一実施形態による、6つの位相を有する三相交流モータの制御システムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、従来技術による三相交流モータの制御システム1を示す。この場合、この概略図は、六相交流の個々の位相を用いて6つのコイル5が作動される態様を示すにすぎない。この図からでは、コイル5の幾何学的配置構造は明らかでない。図中、第1のグループ6および第2のグループ7のそれぞれ3つのコイル5は、デルタ接続によって直列に接続されている。この場合、6つのコイル5は、空間的配置構造(図示せず)を一緒に形成する。この空間的配置構造では、第1のグループ6および第2のグループ7のコイル5が交互に続き、かつ交流を用いる動作中、それぞれ60°ずらされた6つの振動磁場を生成する。それぞれの場合に60°ずらされた2つの磁場について、磁場振動の時間プロファイルは、ここでは60°位相シフトされる。第1のグループ6の磁場が重ね合わされて、それにより総磁場を生成する。総磁場の方向は、図示される第1の回転方向8に回転する。磁場強度は経時的に一定である。第2のグループ7の磁場が重ね合わされて総磁場を生成する。この総磁場も同様に第1の回転方向8に回転する。結果的に、2つのグループ6、7の回転磁場は、やはり第1の回転方向8に回転する総回転磁場が形成されるように重ね合わされる。総回転磁場により、回転子(図示せず)の巻線に電流が誘導される。前記電流の磁場により、外側の総回転磁場が打ち消される。これにより、回転子と、回転子を回転させるコイル5との間にトルクが発生する。この配置構造における全てのコイル5の磁場によって総回転磁場が増幅されるため、最大トルクが生成される。それに関連して運動への電力の最大変換がなされる。
【0025】
図2に、本発明による三相交流モータの制御システム1を示す。図1に示したのと同様に、ここで、この概略図でもコイル5への位相の割当てを示す。この図面からでは、コイル5の空間的配置構造は明らかでない。6つのコイル5により、それぞれの場合に互いに60°ずらされた一連の磁場が生成される。これらの6つのコイルのうち、第1のグループ6は、関連する磁場を有する3つのコイル5を備える。それらの磁場は、互いに120°ずらされて配置されている。それらの磁場の時間プロファイルは、互いに正に120°位相シフトされている。第2のグループ7は、残りの3つのコイル5を備える。それらの磁場は、同様に互いに120°ずらされて配置されている。それらの磁場の時間プロファイルは、互いに負に120°位相シフトされている。結果的に、第1のグループ6の磁場は、図示の第1の回転方向8に回転する回転磁場が生成されるように重ね合わされる。対照的に、第2のグループ7の磁場は、結果として生じる回転磁場が図示の第2の回転方向9に回転するように重ね合わされる。第1の回転方向8に回転する回転磁場と、第2の回転方向9に回転する回転磁場とが重ね合わされて、総回転磁場を形成する。この磁場は、回転せず、代わりに所定の方向に向けられる。磁場強度は時間と共に振動する。これらの振動により、回転子の巻線に電流が誘導される。しかし、前記電流により、回転磁場のように回転子は回転されず、代わりに電力がオーミック熱に変換されるのみである。換言すれば、逆方向に回転する回転磁場により、2つの逆のトルクが回転子に及ぼされる。これらのトルクは互いに打ち消し合い、それにより、消費された電力は熱に変換され、回転子は回転されない。
【符号の説明】
【0026】
1 方法
5 コイル
6 コイルの第1のグループ
7 コイルの第2のグループ
8 回転方向
図1
図2