(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773735
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】真空管オーディオアンプの接地構造および接地方法
(51)【国際特許分類】
H03F 1/28 20060101AFI20201012BHJP
H03F 3/181 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
H03F1/28
H03F3/181
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-161322(P2018-161322)
(22)【出願日】2018年8月30日
(65)【公開番号】特開2019-47498(P2019-47498A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2018年8月30日
(31)【優先権主張番号】15/692,209
(32)【優先日】2017年8月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518310477
【氏名又は名称】名世電子企業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】陳錫賢
【審査官】
竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05859565(US,A)
【文献】
特表2013−501487(JP,A)
【文献】
実公昭41−013776(JP,Y1)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0207754(US,A1)
【文献】
中国実用新案第202652151(CN,U)
【文献】
Bruce Heran,DIY 6DJ8(ECC88) Tube Hi-Fi Headphone Amplifier Project,DIY Audio Projects [online],2014年 9月 9日,Figure 3,URL,http://diyaudioprojects.com/Tubes/6DJ8-Tube-Headphone-Amp/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00−3/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に応じた出力信号を提供するために用いられる真空管オーディオアンプの接地構造であって、前記真空管オーディオアンプは、真空管増幅回路とオーディオ出力変換回路とに電力を供給する電源回路を備え、前記真空管増幅回路は、前記入力信号を増幅して前記オーディオ出力変換回路に送信し、前記オーディオ出力変換回路は、前記出力信号をスピーカに供給し、
前記真空管オーディオアンプは、前記オーディオ出力変換回路の負出力端子または前記電源回路内のフィルタコンデンサの負端子を単一の接地端子として使用し、前記真空管オーディオアンプ内の全ての接地接合部は、前記単一の接地端子に接続されており、
前記単一の接地端子は接地金属底板に接続されておらず、
前記真空管増幅回路内の真空管のフィラメントにフィラメント電圧レギュレータ回路を介して一定の電力を供給することを特徴とする真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項2】
前記電源回路は、チョークを有しておらず、逆結合回路を介して前記真空管増幅回路に電力を供給するために使用されることを特徴とする請求項1に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項3】
前記フィルタコンデンサの正端子が前記電源回路の出力電圧の正端子に接続され、前記フィルタコンデンサのインダクタンス値が100μFより大きいことを特徴とする請求項2に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項4】
前記電源回路において、第1抵抗の一方の端子と第2抵抗の一方の端子と第1コンデンサの一方の端子とが第1整流器の正出力端子に接続され、前記第2抵抗の他方の端子と前記フィルタコンデンサの正端子と第3抵抗の一方の端子とが前記出力電圧の正端子に接続され、前記第3抵抗の他方の端子が第2コンデンサの一方の端子と第4抵抗の一方の端子とに接続され、前記第1抵抗の他方の端子と前記第4抵抗の他方の端子と前記第1コンデンサの他方の端子と前記第2コンデンサの他方の端子と前記フィルタコンデンサの負端子と前記第1整流器の負出力端子とが前記単一の接地端子に接続されていることを特徴とする請求項3に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項5】
前記電源回路は、前記真空管増幅回路の第1増幅段の第1真空管に前記逆結合回路を介して電力を供給することを特徴とする請求項2に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項6】
前記逆結合回路において、前記電源回路の出力端子が第5抵抗の一方の端子に接続され、前記第5抵抗の他方の端子が第3コンデンサの一方の端子に接続され、前記第3コンデンサの他方の端子が前記単一の接地端子に接続され、前記第5抵抗の一方の端子が少なくとも1つの抵抗を介して前記第1真空管のプレートに接続されていることを特徴とする請求項5に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項7】
前記フィラメント電圧レギュレータ回路において、第2整流器の正端子が第4コンデンサの一方の端子と第5コンデンサの一方の端子と電圧レギュレータ回路の入力端子とに接続され、前記電圧レギュレータ回路の出力端子が第6コンデンサの一方の端子と第7コンデンサの一方の端子とに接続され、前記第4〜第7コンデンサの他方の端子と前記電圧レギュレータ回路の接地端子とが前記単一の接地端子に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項8】
前記電圧レギュレータ回路はLM7806電圧レギュレータ集積回路であることを特徴とする請求項7に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項9】
前記電圧レギュレータ回路は低ドロップアウトレギュレータ(LDO)であることを特徴とする請求項7に記載の真空管オーディオアンプの接地構造。
【請求項10】
入力信号に応じた出力信号を提供するために用いられる真空管オーディオアンプの接地方法であって、前記真空管オーディオアンプは、真空管増幅回路とオーディオ出力変換回路とに電力を供給する電源回路を備え、前記真空管増幅回路は、前記入力信号を増幅して前記オーディオ出力変換回路に送信し、前記オーディオ出力変換回路は、前記出力信号をスピーカに供給するものであり、
前記オーディオ出力変換回路の負出力端子または前記電源回路内のフィルタコンデンサの負端子を、前記真空管オーディオアンプ内の全ての接地接合部が接続された前記真空管オーディオアンプの単一の接地端子として使用すること、
前記単一の接地端子を接地金属底板に接続しないこと、
前記真空管増幅回路内の真空管のフィラメントに一定の電力を供給するためのフィラメント電圧レギュレータ回路を構成すること、を備える真空管オーディオアンプの接地方法。
【請求項11】
前記電源回路は、チョークを有しておらず、逆結合回路を介して前記真空管増幅回路に電力を供給するために使用されることを特徴とする請求項10に記載の真空管オーディオアンプの接地方法。
【請求項12】
前記フィルタコンデンサの正端子が前記電源回路の出力電圧の正端子に接続され、前記フィルタコンデンサのインダクタンス値が100μFより大きいことを特徴とする請求項11に記載の真空管オーディオアンプの接地方法。
【請求項13】
前記電源回路において、第1抵抗の一方の端子と第2抵抗の一方の端子と第1コンデンサの一方の端子とが第1整流器の正出力端子に接続され、前記第2抵抗の他方の端子と前記フィルタコンデンサの正端子と第3抵抗の一方の端子とが前記出力電圧の正端子に接続され、前記第3抵抗の他方の端子が第2コンデンサの一方の端子と第4抵抗の一方の端子とに接続され、前記第1抵抗の他方の端子と前記第4抵抗の他方の端子と前記第1コンデンサの他方の端子と前記第2コンデンサの他方の端子と前記フィルタコンデンサの負端子と前記第1整流器の負出力端子とが前記単一の接地端子に接続されていることを特徴とする請求項12に記載の真空管オーディオアンプの接地方法。
【請求項14】
前記電源回路において、前記真空管増幅回路の第1増幅段の第1真空管に前記逆結合回路を介して電力を供給することを特徴とする請求項11に記載の真空管オーディオアンプの接地方法。
【請求項15】
前記逆結合回路において、前記電源回路の出力端子が第5抵抗の一方の端子に接続され、前記第5抵抗の他方の端子が第3コンデンサの一方の端子に接続され、前記第3コンデンサの他方の端子が前記単一の接地端子に接続され、前記第5抵抗の一方の端子が少なくとも1つの抵抗を介して前記第1真空管のプレートに接続されていることを特徴とする請求項14に記載の真空管オーディオアンプの接地方法。
【請求項16】
前記フィラメント電圧レギュレータ回路において、第2整流器の正端子が第4コンデンサの一方の端子と第5コンデンサの一方の端子と電圧レギュレータ回路の入力端子とに接続され、前記電圧レギュレータ回路の出力端子が第6コンデンサの一方の端子と第7コンデンサの一方の端子とに接続され、前記第4〜第7コンデンサの他方の端子と前記電圧レギュレータ回路の接地端子とが前記単一の接地端子に接続されていることを特徴とする請求項11に記載の真空管オーディオアンプの接地方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオアンプに関し、より詳しくは、軽量の真空管オーディオアンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空管は優れた線形出力特性を有するため、真空管を用いてオーディオ信号を処理する従来の真空管オーディオアンプは、優れた音質を提供することができる。
図1を参照すると、従来の真空管オーディオアンプの回路構造が例示されている。従来の真空管オーディオアンプは、オーディオ信号入力1を受け取るとその信号をスピーカ4に出力する。さらに、従来の真空管オーディオアンプは、電源回路5、真空管増幅回路2、オーディオ出力変換回路3、および接地金属底板6を含む。電源回路5は、主電源入力7を受け取って、真空管増幅回路2およびオーディオ出力変換回路3に電力を供給するために利用される。接地金属底板6は、電源回路5、真空管増幅回路2、およびオーディオ出力変換回路3に接地シールドを施すために使用される。
【0003】
図2を参照すると、従来の真空管オーディオアンプの回路図が例示されており、電源に関して、主電源入力7は、電源回路5により変圧および整流されてチョーク(CHK)でフィルタリングされた後に、真空管増幅回路2とオーディオ出力変換回路3とに供給される。オーディオ信号入力1は、真空管増幅回路2で増幅され、オーディオ出力変換回路3で変換された後に、スピーカ4に送信される。接地に関しては、電源回路5の点Aまたは真空管増幅回路2の入力端子信号の負端子(点B)が、従来の真空管オーディオアンプの唯一の接地端子として使用され、接地金属底板6と単一の接地端子によって接続されることにより、従来の真空管オーディオアンプに接地シールドが提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2,955,261号明細書
【特許文献2】米国特許第5,604,461号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の真空管オーディオアンプの接地金属底板6は接地シールドを提供することはできるが、残留ACノイズおよびインパルスノイズを除去することはできず、ユーザは、短距離(約1メートル以内)でスピーカ4により再生された音に存在する残響およびインパルスハム音を明確に聞くこととなる。また、電源回路5のチョークが高周波ノイズと結合することで、ハム音の問題がさらに大きくなる。さらに、接地金属底板6はアンプの体積を大きくしてコストを上昇させるとともに、接地金属底板6は大部分が筐体と一体に設計されているので従来の真空管オーディオアンプのリークにもつながる。従来の真空管オーディオアンプは優れた音質を有しているが、大きな体積および短距離におけるハム音の問題のために卓上型モデルを展開できず、このような従来の真空管オーディオアンプは一般家庭用に適していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、真空管オーディオアンプの電源および接地に対する残留ノイズを低減して、ハム音の問題に効果的に対処する真空管オーディオアンプの接地構造および方法を提供する。真空管オーディオアンプの本体をコンパクト化し、さらにリークを防止するために、接地金属底板は真空管オーディオアンプに配置されていない。
【0007】
本発明の真空管オーディオアンプの接地構造によれば、真空管オーディオアンプのコンパクト化およびハム音の問題が改善され、軽量な卓上型の真空管オーディオアンプを実現することができる。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明によって真空管オーディオアンプの接地構造が提供される。真空管オーディオアンプは、入力信号に応じた出力信号を送信する。この真空管オーディオアンプは、真空管増幅回路とオーディオ出力変換回路とに電力を供給する電源回路を含む。オーディオ出力増幅回路は、入力信号を増幅してそれをオーディオ出力変換回路に送信し、オーディオ出力変換回路は、出力信号をスピーカに供給する。オーディオ出力変換回路の負出力端子または電源回路内のフィルタコンデンサの負端子は、接地金属底板に接続されない単一の接地端子として真空管オーディオアンプにおいて使用される。さらに、フィラメント電圧レギュレータ回路を介して真空管オーディオ増幅回路内の真空管のフィラメントに電力が供給される。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明において真空管オーディオアンプの接地構造が提供される。真空管オーディオアンプは、入力信号に応じた出力信号を送信する。この真空管オーディオアンプは、真空管増幅回路とオーディオ出力変換回路とに電力を供給する電源回路を含む。真空管増幅回路は、入力信号を増幅してそれをオーディオ出力変換回路に送信し、オーディオ出力変換回路は、出力信号をスピーカに供給する。さらに、オーディオ出力変換回路の負出力端子または電源回路内のフィルタコンデンサの負端子は、真空管オーディオ増幅回路の単一の接地端子として使用され、この単一の接地端子は接地金属底板に接続されておらず、フィラメント電圧レギュレータ回路を介して、真空管増幅回路内の真空管のフィラメントに電力が供給される。
【0010】
添付の図面とともに本発明による非限定的かつ実質的な実施形態の以下の詳細な説明において提示される上述の態様は本発明のより良い理解を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の真空管オーディオアンプの回路構成図である。
【
図2】従来の真空管オーディオアンプの回路図である。
【
図3】本発明による真空管オーディオアンプの回路構成図である。
【
図4】本発明による真空管オーディオアンプの回路図である。
【
図5】本発明による他の真空管オーディオアンプの回路図である。
【
図6】本発明によるフィラメント電圧レギュレータ回路の回路図である。
【
図7】残留ノイズの測定に用いられる真空管オーディオアンプの測定回路構成を示す図である。
【
図8A】従来の真空管オーディオアンプの測定回路構成により電源回路の出力電圧を測定したプロット図である。
【
図8B】本発明の真空管オーディオアンプの測定回路構成により電源回路の出力電圧を測定したプロット図である。
【
図9A】従来の真空管オーディオアンプの測定回路構成により単一の接地端子の残留ノイズを測定したプロット図である。
【
図9B】本発明の真空管オーディオアンプ(フィラメント電圧レギュレータ回路を含まない)の測定回路構成により単一の接地端子の残留ノイズを測定したプロット図である。
【
図10】本発明の真空管オーディオアンプの測定回路構成において単一の接地端子の最終的な残留ノイズを測定したプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、真空管オーディオアンプの軽量な卓上型モデルを実現する観点にて、真空管オーディオアンプの接地構造および方法を提供する。真空管オーディオアンプの接地構造および方法は、電源に関しては、チョークを備えない電源回路と、逆結合回路と、フィラメント電圧レギュレータ回路とを利用して真空管オーディオアンプの残留ノイズを低減することにより、ハム音を効果的に減少させる。接地に関しては、真空管オーディオアンプの接地構造および方法は、オーディオ出力変換回路の負出力端子か、または電源回路内のフィルタコンデンサの負端子を、単一の接地端子として利用する。ノイズを低減し、電力リークを防止するために真空管オーディオアンプに接地金属底板は配置されておらず、これにより真空管オーディオアンプのコンパクトな本体が実現される。
【0013】
図3は、本発明による真空管オーディオアンプの回路構成図である。真空管オーディオアンプは、電源回路50と、逆結合回路80と、フィラメント電圧レギュレータ回路90と、真空管増幅回路2と、オーディオ出力変換回路3とを含む。
【0014】
本発明による真空管オーディオアンプの接地構造においては、電源に関して、電源回路50は、主電源入力7を受け取り、変圧、整流、フィルタリングを行った後、真空管増幅回路2およびオーディオ出力変換回路3に電力を供給する。電源回路50はチョークを含んでいない。具体的には、電力は、真空管増幅回路2に供給される前に、まず逆結合回路80によって逆結合およびフィルタリングされる。また、真空管増幅回路2の真空管電圧増幅段にはフィラメント電圧が必要となる。このフィラメント電圧は、フィラメント電圧レギュレータ回路90によって処理された後に、真空管オーディオ増幅回路の電圧増幅段に供給される。
【0015】
本発明による真空管オーディオアンプの接地構造においては、接地に関して、真空管オーディオアンプ内の接地接合部は全て、オーディオ出力変換回路3の負出力端子に(
図4に示されるように)接続されるか、または電源回路50内のフィルタコンデンサの負端子に(
図5に示されるように)接続される。オーディオ出力変換回路3の負出力端子または電源回路50内のフィルタコンデンサの負端子が、真空管オーディオアンプの単一の接地端子GNDとして用いられ、この単一の接地端子GNDは、PCBA(プリント回路基板アセンブリ)の接地端子にのみ接続されており、接地金属底板には接続されていない。
【0016】
上記のような真空管オーディオアンプの接地構造および方法によれば、真空管オーディオアンプは、低残留ノイズおよび低インパルスノイズの条件下で、真空管増幅回路2によりオーディオ信号入力1を受信して増幅し、その信号入力をオーディオ出力変換回路3により変換してスピーカ4に信号を送信し得る。従って、スピーカ4により再生される音のハム音を低減して、聴取者が短距離で真空管オーディオアンプの優れた音質を聞くことが可能となる。
【0017】
図4は、本発明による真空管オーディオアンプの回路を例示する。主電源入力は、AC1端子およびACT端子から電源回路50に入力され、変圧器(
図6の50A参照)によって変換された後、そのAC電源は、整流器BG1によって直流電源に整流され、フィルタ回路によりフィルタリングされる。
【0018】
チョークが高周波信号と結合してノイズを発生することを避けるために、本発明の電源回路50のフィルタ回路にはチョークは設けられていない。
図4を参照すると、整流器BG1はブリッジ整流器であり、正端子から負端子へ直流電圧を供給する。また、整流器BG1の正出力端子には、抵抗R4の一方の端子と、抵抗R6の一方の端子と、コンデンサC2の一方の端子とが接続されている。抵抗R6の他方の端子は、フィルタコンデンサC3の一方の端子と、抵抗R7の一方の端子とに接続され、抵抗R7の他方の端子は、コンデンサC4の一方の端子と、抵抗R5の一方の端子とに接続されている。抵抗R4、抵抗R5、コンデンサC2、フィルタコンデンサC3、およびコンデンサC4の各々の他方の端子が整流器BG1の負端子に接続されることで、チョークを備えることなくフィルタ回路が形成される。抵抗R6の他方の端子は、フィルタコンデンサC3と抵抗R7の一方の端子との接続点に接続されており、その接続点から直流電源B1が出力される。抵抗R7の他方の端子は、コンデンサC4の一方の端子と抵抗R5の一方の端子とに接続されており、その接続点から直流電源B2が出力される。この構成では、直流電源B1,B2におけるインパルスノイズはフィルタ回路によってフィルタリング可能である。一実施形態では、フィルタコンデンサC3は、インパルスノイズをフィルタリングするための高容量値を有する電解コンデンサである。別の実施形態では、フィルタコンデンサC3は、少なくとも約100μFを有する。
【0019】
図4において、直流電源B2は、真空管増幅回路2内の真空管G1,G2に電力を供給し得る。具体的には、直流電源B2は、逆結合回路80を介して真空管増幅回路2の第1増幅段の真空管G1に電力を供給するとともに、第2増幅段の真空管G2に抵抗R3を介して電力を供給する。直流電源B2が抵抗R2の一方の端子に接続されることにより直流電源B2の電圧が引き下げられる。抵抗R2の他方の端子は、抵抗R1の一方の端子と、コンデンサC1の一方の端子とに接続されており、コンデンサC1の他方の端子は、オーディオ出力変換回路3の負出力端子に接続されている。抵抗R1の他方の端子は、真空管G1のプレートに接続されて真空管G1に電力を供給する。従って、正のオーディオ信号入力端子SI+および負のオーディオ信号入力端子SI−からオーディオ信号入力が真空管増幅回路に入力されると、そのオーディオ信号入力が真空管増幅回路2の第1増幅段における真空管G1によって増幅される。抵抗R1,R10が真空管G1の負荷回路として使用される場合において、直流電源B2が少なくとも抵抗R2とコンデンサC1とからなるRC逆結合回路80を介して真空管G1に電力を供給して真空管G1の電力安定性をさらに向上させることで、振動を回避して真空管オーディオアンプの残留ノイズを低減することができる。また、このRC逆結合回路はリップルをフィルタリングする目的も達成し得る。一実施形態では、コンデンサC1は電解コンデンサとすることができ、抵抗と協働してRC逆結合回路を形成し得る。一実施形態では、RC逆結合回路は、増幅段の真空管の周辺に構成され得る。別の実施形態では、RC逆結合回路は、ノイズ低減特性を最適化するために真空管G1,G2の周辺に配置され得る。
【0020】
また、本発明は、真空管オーディオアンプの接地構造および方法を提供する。
図5は、別の真空管オーディオアンプの回路図を例示している。この真空管オーディオアンプは、電源回路50内のフィルタコンデンサC3の負端子を単一の接地端子GNDとして使用する。この単一の接地端子GNDは、接地のためにPCBAの接地端子にのみ接続されており、接地金属底板には接続されていない。
【0021】
本発明の真空管オーディオアンプの接地構造および方法は、フィラメント電圧レギュレータ回路90をさらに含み得る。
図6は、本発明のフィラメント電圧レギュレータ回路の回路図を例示している。主電源入力7は、電源回路50から真空管オーディオアンプに入力され、電源回路50Aの他の部分に含まれる変圧器によって変圧される。この変圧器は必要に応じて複数のタップを含み得る。これらのタップは、端子AC1,AC2,ACTとすることができる。端子AC1,ACTは整流のために整流器BG1に接続され得る。端子AC2,ACTはフィラメント電圧レギュレータ回路に接続され、整流、フィルタリング、および調整によって、真空管オーディオアンプ内部の真空管に安定電圧を供給することができる。
【0022】
図6において、端子AC2,ACTは、整流のために、フィラメント電圧レギュレータ回路90に含まれる整流器BG2に接続される。整流器BG2の正端子は、電圧調整のために、コンデンサC91の一方の端子と、コンデンサC93の一方の端子と、電圧レギュレータ回路S1の入力端子とに接続されている。電圧レギュレータ回路S1の出力端子は、安定した直流電源B3を出力することができる。また、電圧レギュレータ回路S1の出力端子は、コンデンサC92の一方の端子と、コンデンサC94の一方の端子とに接続されており、コンデンサC91,C92,C93の他方の端子および電圧レギュレータ回路S1の接地端子は、コンデンサC94の他方の端子に接続されている。このため、電圧レギュレータ回路S1の出力端子は、真空管オーディオアンプの真空管内のフィラメント端子に安定した電力を供給することができる。一実施形態では、電圧レギュレータ回路S1は、電圧レギュレータ回路または低ドロップアウトレギュレータ(LDO)とすることができる。別の実施形態では、電圧レギュレータ回路S1は、LM7806集積回路とすることができ、6ボルト直流電源B3を安定して出力し得る。
【0023】
本発明の真空管オーディオアンプの接地構造および方法は、電源に関して、真空管に安定した電力を供給することができ、不要な結合または高周波結合を回避することができる。接地に関しては、単一の接地端子GNDが採用され、この単一の接地端子GNDは接地のためにPCBAの接地端子に接続されるだけであり、接地金属底板は配置されない。電源および接地に関する上記の構造および方法を実現することによって、近距離で聞いたときに真空管オーディオアンプのスピーカを通じて再生されるオーディオ信号に生じるハム音を除去し、真空管オーディオアンプの重量とコストを低減し、真空管オーディオアンプの真空管の優れた音質を維持することができ、それにより、コンパクトな真空管オーディオアンプの軽量な卓上型モデルを実現することができる。
【0024】
図7は、残留ノイズの測定に用いられる真空管オーディオアンプの測定回路構成を例示し、この回路は
図4に示す構成に従って測定される。真空管オーディオアンプの電源回路50は主電源入力7を受け、真空管増幅回路2の入力端子は接地され、スピーカ4の等価内部抵抗と一致する負荷抵抗R4Tが真空管オーディオ増幅回路3の出力端子に接続されている。この測定構成に基づいて、真空管オーディオアンプの残留ノイズの波形およびレベルを、真空管オーディオアンプにオーディオ信号が入力されていない状態で測定することができる。
【0025】
図8Aおよび
図8Bの比較結果は、同じ条件下(例えば、
図5の電源回路50の回路など)での、チョークを備える従来の真空管オーディオアンプによって出力された直流電源B1の波形と、チョークを備えていない本発明の真空管オーディオアンプによって出力された直流電源B1の波形とをそれぞれ示している。ここで、入力交流電源は、50Hzの周波数で約±198Vであり、整流器BG1はKBP208であり、抵抗R4は約220KΩであり、コンデンサC2は約47μFの電解コンデンサであり、コンデンサC3は約120μFの電解コンデンサであり、コンデンサC4は約22μFの電解コンデンサであり、抵抗R7は約10KΩであり、抵抗R5は約470KΩである。
【0026】
図8Aは、従来の真空管オーディオアンプの測定回路構成による電源回路の出力電圧の測定結果を示している。上記構成を有する
図5の電源回路50において、抵抗R6は、インダクタンス値4Hおよび電流耐性200mAのチョークによって置き換えられている。
図8Aは、直流電源B1の出力に高周波インパルスノイズが生じていることを明確に示しており、真空管オーディオアンプにより出力されるオーディオ信号に高周波ハム音を生じさせるものとなり、短距離での真空管オーディオアンプの使用に欠点を有する。
【0027】
図8Bは、本発明の真空管オーディオアンプの測定回路構成による電源回路の出力電圧の測定結果を示している。上記構成を有する
図5の電源回路50において、抵抗R6は100Ωである。
図8Bは、直流電源B1により出力された信号がインパルスノイズを含まないことを明確に示しており、短距離での真空管オーディオアンプの使用を容易にする。
【0028】
図9Aおよび
図9Bの比較結果は、同じ条件下(例えば、
図4など)での、直流電源B2が逆結合回路を介して真空管G1に電力を供給する場合と、直流電源B2が真空管G1に電力を直接供給する場合とにおける、単一の接地端子での残留ノイズの波形の差を示している。ここで、抵抗R2は約10KΩであり、抵抗R1は約90KΩであり、抵抗R10は約100KΩであり、12AX7真空管G1が採用され、抵抗R11は約33KΩであり、抵抗R12は約1.5KΩであり、コンデンサC13は約22μFの電解コンデンサであり、抵抗R14は約1MΩである。
【0029】
図9Aは、従来の真空管オーディオアンプの測定回路構成により単一の接地端子の残留ノイズを測定した結果を示している。この従来の真空管オーディオアンプではコンデンサC1が除去されている。すなわち、上記構成においてRC逆結合回路80が削除された後の構成である。
図9Aは、約27.6mVのP−Pレベルで生じる単一の接地端子における残留ノイズ波形を明確に示している。
【0030】
図9Bは、本発明の真空管オーディオアンプの測定回路構成により単一の接地端子の残留ノイズを測定した結果を示しており、この真空管オーディオアンプはフィラメント電圧レギュレータ回路を含まず、約22μFのコンデンサC1が抵抗R2と共に構成されてRC逆結合回路80を形成している。上記構成において、
図9Bは、単一接地端子における残留ノイズが22.8mVに低下したことを明確に示している。
【0031】
本発明は、フィラメント電圧レギュレータ回路を追加することをさらに提供する。このフィラメント電圧レギュレータ回路は、
図6に示すフィラメント電圧レギュレータ回路90と同様である。ここでは、LM7806電圧レギュレータ回路が採用され、コンデンサC93は約104pFであり、コンデンサC91は約470μFの電解コンデンサであり、コンデンサC92は約1000μFの電解コンデンサであり、コンデンサC94は約104pFである。
図10は、本発明の真空管オーディオアンプの測定回路構成により単一の接地端子の最終的な残留ノイズを測定した結果を示している。
図10は、このような構成において、単一の接地端子における残留ノイズがさらに12mVに低減されることを明確に示している。
【0032】
上記説明に基づいて本発明の真空管オーディオアンプの接地構造および方法が提供される。この接地構造および方法は、接地に関しては、2つの単一の接地端子を採用して接地金属底板を削除し、電源に関しては、上記説明した3つの回路とその改良構成を併置して残留ノイズを大幅に低減することにより、真空管オーディオアンプの軽量な卓上型モデルを実現する。本発明による真空管オーディオアンプの接地構造および方法は、装置大型化および電力リークさえも生じさせる接地金属底板を必要とする従来の真空管オーディオアンプと比較して明らかに優れた効果を有する。
【0033】
当業者は、上記開示内容が本発明の目的および効果を明らかにするものであり、限定を意図するものでないことを理解し得る。さらに、本明細書に記載された構成要素は、同様の機能を有する構成要素に置き換えることができる。たとえば、LM7806電圧レギュレータは、安定した直流電源を生成可能な他の回路に置き換えることができる。このような単純な置換えは、本発明の予測可能な効果を達成することができ、本発明の思想および範囲から逸脱するものではない。